男「音楽の魔法」 (200)
「ねぇ、知ってる?」
「……?」
「音楽にはね、魔法があるんだよ」
「魔法?」
「教えてあげよっか?」
「教えて欲しい」
「どうしようかな~?」
「酷いと思う」
「あはは、ごめんごめん、教えてあげる」
「……音楽にはね」
「……」
「――人を笑顔にする魔法があるんだよ」
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「……う」
「……いちょう」
「会長!!」
生徒会長「っ!」ビクッ
「どうしたんですか、ぼーっとしちゃって」
会長「すまない、景色が綺麗だったから……」
「しっかりしてくださいね、これじゃあ新入生と先輩方に笑われますから」
会長「分かってる」
「それじゃあお願いしますね、新入生に挨拶」
会長「あぁ」
ガヤガヤ
会長「……」
――綺麗な空だ、桜もまだ咲いている。
入学式の中でも最高のシチュエーションだろう。
今年の新入生は恵まれているな。
『在校生代表、生徒会長の挨拶です』
会長「……」スタスタ
「うわ、めっちゃ綺麗だ……」
「可愛い……俺告白しようかな」
男「……」
会長「――おはようございます。在校生代表の生徒会長です」
今日、ただでさえも普通の学生から大きくズレている私の日常に更なる大きな変化が訪れる事に私は気付いていなかった。
会長「……」トントンッ
我ながら完璧なステージ……違う、完璧なスピーチだった。
さぁ、資料の整理も終わった事だ。
行かないと。
「会長、素晴らしい挨拶でした」
会長「ありがとう」スッ
「え、もう資料が完成したんですか?」
会長「そうだが?」
「い、いえ、なんでも……」
「すごい……」ボソッ
会長「今日はお疲れ様。また明日」スタスタ
「私も手伝うつもりだったのに……」
会長「……」スタスタ
「なぁなぁ、見たか?昨日の綺羅星ソニアちゃん」
「見た見た!めちゃくちゃ可愛いよな!!今、ノリに乗ってるアイドルだぜ!アイドル!」
男「……」
会長「さようなら」スッ
「あ、会長、さようなら」
「話しかければ良かった……」
「バカ、どう見ても急いでんだろ」
「男、聞いてるか?」
男「ごめんごめん、ちょっと考え事をしてたわ」
――私には夢がある
広大なステージに立って音楽を鳴らす事。
「準備OK?」
歌う事。
会長「はい」
埋め尽くされた観客の中で自分を出し尽くす事。
「よし、それじゃあ今日も頑張ってね」
「今日はとても凄いゲストが居るから……」
「最高のステージにしよう!」
中でも一番は。
会長「はい!」ダッ
音楽で人を笑顔にする事だ――
タッタッタッ
会長「みんな~!!こんにちは~~!!」ピ-スピ-ス
シ-ンッ
会長「園咲魅苑でーす♡」ニッコォ
――嗚呼、私の夢。
会長「みんな、私の事知ってるかナ?」ウインクッ☆
会長「今年からアイドルやってまーす!!」キュンキュンッ
会長「応援してねっ♡」ニッコォ
会長「それじゃあ、1曲目にいっちゃうよぉ~☆」フリフリ
……どうしてこんな事になってしまったのだろう。
会長「 light star!!」キャピッキャピッ
昨日は公民館。
今はデパートの屋上。
今日も私は誰も居ないステージの上で歌う。
スレを建ててから1日以上放置して大変申し訳ありません。
今日の分はここまでです。
全力の限りキラキラと輝き尽くす音楽青春劇です。どうか楽しんで頂けたら幸いです。
会長「わたしは~♪」フリフリ
会長「あなたと~♪」チラッ
遠目から見ている人が何人か居るな、技術や歌には自信があるけど……
不良「おいおい、なんかやってるぞwww」
不良2「マジうけるっしょ~!」
不良3「wwwwww」
会長「kiss kiss kiss♡」
一人はうちの生徒じゃないか……
どうしよう……バレる……
不良「こんなアイドル初めて見るわ」
会長「愛を~」
そんな訳無いか。
会長「みんな~今日はありがとう~!」タタンッ
不良「おいおい、誰も居ない癖に相槌求めてんぞwww」
不良2「キャハハ!ぶりっ子してんじゃねーぞ!」
会長「ありがとう~!」ニコッ
ムカッ
不良3「一生客なんかこねーよwww」
ムカッ
あぁ……涙が出て来そうだ。
ズルッ
会長「あっ……」ガクッ
しまった……ステップがズレた……!
不良「おいおい、つまんねーな」
会長「私はあなたと~♪」
不良「なんでそこまでするんだよ……」
不良2「おーい」
不良3「もう帰ろうぜ」
会長「kokoroの底から~」
ズルッ
会長「っ!」
しまった……また……
これではもう……私にアイドルは向いて……
ガシッ
再開します
「みんな元気かな?」
不良2「おい……どうしてこんな所に」
不良3「綺羅星ソニアが!?」
不良「」ポカ-ン
ソニア「今日は友達の園咲魅苑ちゃんを応援しに来ちゃいましたー!」
ソニア「立てる?」ボソッ
会長「!」コクコクッ
バレエのリフトと見違うかのように私は綺羅星ソニアに支えられていた。
私を軽々しく支える腕はとても力強かった。
『『『ソニアちゃーーん!!!』』』
ダダダダダダッッ
ワアアアアアァァァァァ
ドカドカッ
不良「うわっ!いてぇな!」
不良2「さっきまでガラガラだったのに……」
不良3「私……ファンなんだよな」
不良「嘘だろ!?」
ソニア「みんなーー!行くよー!」
ソニア「魅苑ちゃんも!!」
会長「……!」
こういう時は……『うんっ』だったな。
会長「うんっ!!」
ソニア・会長「「改めて歌います!!!」」
ソニア・会長「「light star!!」」
ワアアアアアアアァァァァァァァ
会長「私は~♪」
ソニア「あなたと~☆」
ワァァァァァ
凄い。
覚えて来たのかは分からないけど、振り付けも歌も完璧。
私が考えていたアドリブにも完璧に合わせてくる。
会長「light♪」
ソニア「star☆」
ワアアアアアアァァァァァァァ
ソニア「もっと上がってこおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
天才だ。
会長「皆も一緒にーーー!!」
ソニア「合いの手よろしくー!!」
パフォーマンス手法もバンドとかそういった物に影響を受けてはいそうだが、それも彼女の色だろう。
会長・ソニア「「KissKissKiss♡」」
『『『『キスキスキス!!!』』』』
会長・ソニア「「ライトスタ――……」」
会長・ソニア「「ありがとうございました~!!!」」
ワアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!
会長「……」
これが……私の夢?
これが私の目指していた物……?
私が笑顔じゃない……私が輝いていない……私は一体今まで何を……
会長「笑顔じゃない……」ボソッ
ソニア「今日は皆楽しかった~!?」
ワァ……
会長「違うっっっ!!!!」
キイイイイイィィィィィンッッッッ
ザワザワ
ソニア「?」
不良「?」
会長「っ!」
しまった……口に出て……
ソニア「勿論違うぞーー!!」
会長「!?」
ソニア「アンコール、待ってるんだよ?」キュンッ
『『『アンコール!!アンコール!!アンコール!!アンコール!!アンコール!!アンコール!!アンコール!!アンコール!!アンコール!!アンコール!!』』』
会長「……」ギュッ
また、助けられた。
アンコールも終えた私達は楽屋に下がった。
どうして私のような五流も良い所のアイドルのステージに綺羅星ソニアが……?
ソニア「……」ニコニコ
まぁ……それはそうと。
会長「……」ダラダラ
――ものっすごく気まずい!!!
ソニア「――の?」
会長「!」
会長「え?」
ソニア「――何が違うの?」
会長「そ、それは……私が笑顔じゃないから……」
ソニア「え?」
会長「成り行きでアイドルになった……私は音楽さえ出来たらそれで良かったから」
会長「楽器も演奏出来るし、ステージの上で私の力で人を笑顔にしたかった」
会長「でも、それは違う事だった」
あれ……どうして……自分の事を……
会長「芸能活動とかそういう土台に縛られずとも音楽は出来るって、人を笑顔に出来るって今日気付いたんだ」
ああ、抽象的かつ曖昧だ。 こんなのじゃあ綺羅星ソニアに伝わっているかも分からない……
会長「だから私はアイドルを無期限休養する!!!」
ソニア「そこはやめるじゃ……」
会長「い、一応今日の事で話題にはなったし……事務所の人も優しいから……いつやめても戻ってきても良いって……」
ソニア「意外と保身的だね」
会長「うぐっ……」
ソニア「でもね、それは私も一緒」
会長「え?」
ソニア「私も魅苑ちゃんと同じような理由でアイドルになったんだ」
ソニア「経緯は違えど……ね?」
会長「……」
ソニア「今でも活動は少ないけど、どんどん有名になって……今ではグループで歌ったり、ソロで歌ったり……知らない人は居ないくらいのトップアイドルだけど……」
ソニア「本当にやりたい事はもっと身近な所で実現できるんじゃないかなって」
ソニア「演技じゃない、ありのままで」
会長「……」
演技……?
ソニア「さっきのか……魅苑ちゃんの言葉で私も決心が着いたよ」
ソニア「この後、ステージがあるの」
ソニア「ファンの人はもう気付いてるだろうね、そのステージ以外にはもう仕事が無いから」
ソニア「――」スウゥッ
ソニア「――綺羅星ソニアも本日をもってアイドルを無期限休養します!!!」
ソニア「良いよね? プロデューサー」
「……えぇ勿論よ」
「今までありがとう……うっ……」ウルウル
ソニア「これから!これからステージがあるから!!まだ早いよ!!」アセアセ
会長「……」ポカ-ン
会長「もしかしてとんでもない事を聞いてしまった……」
ソニア「あっ!もう行かないと!!」
会長「あっ……ちょっと……!!」
ソニア「じゃっ!もう行くから!!」
会長「どっ……どうして私のステージに!?」
ソニア「……」
ソニア「初心に帰りたかったから、初めて立ったステージに立ちたかったから」
ソニア「だけど……魅苑ちゃんが先にステージ取ってたから参加しちゃった☆」
ソニア「何か、キッカケになれたかな?」ニコッ
ソニア「またね!」タッタッタ
会長「……」
五時間後、綺羅星ソニアはアイドル活動の無期限休養を発表した。
音楽の魔法の存在に。
男「あ~眠い!!」
男「昨日は大変だったな……」
男「学校ぐらいは休んでおくべきだったかな……?」
男「まぁいっか」
男「今日からは新たなステージの始まり……」
綺羅星ソニアではない、男として。
等身大の自分として。
男「……」チラッ
会長「……」スタスタッ
男「……」
昨日は柄にもなく話し込んでしまった……まぁ、元々女顔とは言え完璧な化粧。 そして俺の声は変幻自在かつ自由自在、女の声も女以上に自然に使いこなす、だからバレる筈が……
会長「……」ジ-ッ
男「……」ダラダラ
会長「君、どこかで見たような……」ジッ
男「サ、サァ?」ダラダラ
男「ナンノコトデショウ?」ダラダラダラダラ
草木桜舞う校門の前、春の風が彼女の髪とスカートを靡かす。
彼女はそれを意に介さない。
上品な仕草だった。右手で顔が見えるように髪を流し、左手でスカートを抑えながら俺に問いかけた。
会長「――綺羅星ソニア……ですよね?」
今日の分はここまでです。ありがとうございました
男「キラボシソニア……ッテアノアイドルノ?」ダラダラ
会長「汗が凄い、棒読みも凄いぞ」ジト-ッ
男「ムカシカラアセッカキデシテ……」
会長「棒読みはどうした」ジトツ
男「少し、緊張しただけですよ」キリッ
元綺羅星ソニアを舐めてもらっちゃ困るぜ、このぐらいの演技は御茶の子さいさいだ。
会長「……流石の演技力」ボソッ
男「……」ドヤッ
会長「……」ジ-ッ
会長(綺羅星ソニアではない時は隙だらけだな……)
会長「1-Aの男だな」
男「はい」
会長「また放課後で」スッ
会長「……」スタスタ
男「はぁ~っ」ガクッ
なんとか誤魔化せたかな?
男「……」
「男ー!帰ろうぜー!」
男「今日はパス!」
「まじかよー付き合い悪いぜー」
男「今日は部活に入るからさ、悪いな!」
「はいよーまたなー」
男「よし……」
後はこれから軽音部に入って……
会長「……」ガララッ
会長「男、行くそ」グイッ
男「」
ズルッズルズルッ
今日の分はここまでです
会長「……」スタスタ
ズルズル
男「……」
はぁ……早くもやってしまった。
こんな事ならこの人のステージになんか行かなきゃ良かった……
これから俺はどうされるのか……晒し者にされるのか、酷い目にあわされるのか……
男「これからどこへ……?」
会長「……」ピタッ
会長「着いた」
男「……?」
学校の離れにある小屋のくたびれた看板には達者な字で『自由天文部』と書かれていた。
男「ど、どうしてここに?」
会長「私と君がこの部活に入るからだ」
男「そ、そんな!」
男「俺は軽音楽部に……」
会長「我が校に軽音楽部は無い」
男「え?」
会長「無い、学校のパンフレットはしっかり見た方が良い」
男「いや、普通はある学校の方が多いから……」ガクッ
やってしまった……やってしまった……
会長「しかし、自由天文部はある」
男「?」
会長「……」コンコンッ
シ-ンッ
男「……居ないですけど」
会長「春休みからこの部活はドアをノックしたとしても誰一人も出ない」
会長「入ろう」ガチャ
男「ちょっ!勝手に!」
ギュイイイィィィンッ
ジャカジャカ♪
男「!」ビクッ
「部員がこねーーー!!!!!」
「やはり部活紹介の時に演奏をさせてく貰えないのはおかしいです。ここは副会長である私を交えて断固抗議するべきかと!!」
「え、廃部?廃部なの!!?」
「あと1人でも居たらいいにょ?そんなの無理だにょー!!!」
会長「失礼」スタスタ
シイィィィンッ
「え……会長……?」
会長「副会長、君は自由天文部だったのか」
副会長「は、恥ずかしながら……///」プルプルッ
「おい、なんだその反応」
会長「さて……三年生が引退をしてからずっと部員が1人足りないそうだな、部長先輩」
部長「あぁ、そうだな」
会長「ならば――」
部長「廃部は勘弁してください!!」ガバッ
「部長が土下座してる……!!」ウルウルッ
副会長「ま、まだ時間をください!!お願いします」ウルウル
「あのプライドの高い部長が土下座なんて……涙が出てくるにょ……」ウルウル
男「……」アハハ
会長「私と彼が自由天文部に入部する」
男「……えっ」
とは言ったけど、俺が入りたいのは軽音楽部。実質ここは軽音楽部だ。
釈然とはしないけど断る理由は一切無い。
男「いや……はい。入りたいです」
部長「……よしっ」グッ
男「あはは……」
大声で慈悲を訴えた先程とは打って変わって静かにガッツポーズをする部長、一言で言えば掴み所がない。
巨漢であるこの男の堂々たる佇まいと冷静さは思慮深くもありそうだった。
黒髪で顔は整っているだろう……けど表情が読めないからかどう言っていいのか難しい。
副会長「それでは早速入部届けに署名を」スッ
会長「用意してある」キリッ
副会長「流石は会長」キリッ
「君名前は? 私は副部長!よろしくね」
男「男です!よろしくお願いします!」
運動を沢山こなしてきたであろう締まった身体と薄い小麦色の肌が健康的だ。
髪は茶色く、顔は正気に満ち溢れている。
胸は……主張が激しい。
副部長「元気がいいね? いい事だよ!」
>>29
訂正
髪は茶色く、顔は正気に満ち溢れている。
↓
髪は茶色く、顔は生気に満ち溢れている。
「ふーん、可愛い顔してるにょ」
男「それ、コンプレックスです」アハハ
如何にもな合法ロリ、少し犯罪的ではないか?
軽くカールのかかった長い金髪は広がりを見せている、綺麗にまとめている副部長とは対照的だ。
愛嬌のある可愛らしい顔が身長と相まってやっぱり犯罪的だ。
胸は慎ましい、うん、犯罪です。
「可愛いと思うけど、コンプレックスなら仕方ないにょ」
「私はロリ、よろしくにょ~」
男「はい!よろしくお願いします!」
ロリ「期待出来るにょ」
副会長「よろしくお願いします。私は副会長です」
今では特徴的な小さな眼鏡を小鼻の上にかけるのは会長にも負けず劣らず美人な人だった。
赤みがかかり綺麗に整ったショートヘアー、スレンダーな長身、胸は普通、好きな人はかなり多いと思う。
色々とズルイ、どこぞの誰かとは違ってアイドルに向いているから事務所に紹介したいくらいだ。
会長「……?」イラッ
副会長「ところで、楽器は何が得意ですか?」
男「……」
副会長「……?」
男「ピアノ……ヴァイオリン……チューバ……ハープ……ですね」
シ-ンッ
副会長「キーボードならあるいは……しかし……うちに居ても良い人材なのか……」ブツブツ
部長「う、うちでいいのか……?」
男「軽音楽で自由に使えるバンドをやりたいから大丈夫です!!」
部長「お……おう……」
副会長「ちなみに会長は?」
会長「男の楽器も問題なくこなせるが、フルート、オーボエ、ティンパニ、ホルン、ファゴット……」
副会長「わ、分かりました!!分かりましたから!!」
副会長「因みに、軽音楽やバンドでメジャーに使われるような楽器は……?」
会長「未経験だ」キッパリ
副会長「どうしてうちに……?」
会長「やりたいからだ」ドヤッ
部長「未経験OKOK!歓迎だろ?ロリと副会長だって入部当初は未経験だったんだ!やる気さえありゃモーマンタイ!!」
部長「よろしくな」ニッ
会長「はい」
男「はい……!」
土下座の時とは打って変わって、その顔はとても頼りになる部長の顔だった。
一旦ここまでです。ありがとうございます
部長「弾きたい楽器はあるか?」
男「弾きたい楽器……」
会長「ベースが良い」
部長「へぇ、決めてたのか」
会長「それが一番私の性に合うと思った」
副会長「確かに」
ロリ「君は決まってるのかにょ?」
男「うーん、歌って踊るのは得意だけど……」
会長「それは私も得意だ」
ロリ「にょ?」
男「すこし触って決めても良いですか?」
副部長「もちろん!」
男「じゃあまずはドラムから」
バンバンバンバンッ
バンバンバンバンバンバンバンッ!!!!!!
副会長「あ、ここはこ……」
バキィッッッ!!!
男「……」
副会長「……」
ロリ「つ、次!次だにょ!」
副部長「お、抑えて!」ガシッ
副会長「……」プルプルッ
男「す!すみません!すみません!!!」ペコッペコッ!!
部長「次だ!」
部長「まさかスティックをぶっ壊すなんてな」アハハ
会長「ふむ、壊してはいけない物ですか」
部長「ぜんぜん、あのスティックだって新品だし」
部長「それにあいつもよく壊すぜ」
会長「え゛ あの副会長が?」ビクッ
部長「買ったばっかのもん壊すのは見た事無いけどな」ハハハッ
ロリ「これがベースだにょ」スッ
男「な、長い」
ステッカーが沢山貼ってあるなこれ。
ロリ「懐かしいにょ~昔はこれで沢山練習したにょ~」
ベンベンベンッ
男「……?」
ロリ「ああ、アンプだにょ」ブスッ
キイィィィィンッ
男「おお」
静かに響く低い音はどこか安心感があった。
会長「ふむっ……」
ロリ「どう?」
男「う~ん……」
副部長(おっ……?)
部長「男、キーボードはどうだ?」
男「キーボード?」
副部長「ちょっと!」
副会長「ふぅ……すみません」
副会長「取り乱していました」
会長「折れたスティックが散乱しているぞ」
副会長「なんの事でしょう?」ニコッ
会長「え、いや」
副会長「 な ん の 事 で し ょ う ? 」ニッコリ
会長「……」
会長「すまない」
部長「これがキーボードだ。ピアノをやっていたならすぐに出来るようになるかもな」
男「へぇ……」カチャカチャ
♪~♪~♪~~~
ロリ「すごいにょ」ポカ-ン
部長「初めてにしては中々だな」
副部長「部長、キーボードの経験無いでしょ」モウッ
部長「と言ってもなぁ、今はキーボードが欲しいし」
部長「“アイツ”早く戻ってくりゃいいのにな」
ロリ「“アレ”は戻ってくるのかにょ~?」
副部長「“あの人”適当だからなぁ」
副会長「“彼女”とは今でも連絡が取れますから、安心してください」
ロリ先輩は怪訝な顔で部長を見つめる。“アイツ”とは元から居た部員の事だろうか?
会長「そう言えば他の4人の顔が見当たりませんね」
部長「最近忙しいんだとさ」
会長「名前だけ、と言う訳では無さそうですね」
部長「勘弁してくれよ、潰れちまう」
副部長「ねぇねぇ!ギター弾いてみようよ!!」
男「は、はい!」
男「これがギター」
ロリ先輩こベースとは打って変わって副部長のギターには何も装飾は施されていなかった。
綺麗な状態だった。
副部長「これが私のお古、良かったらあげるよ」
男「え、マジですか?」
ロリ「物に釣られちゃ駄目だにょ!!」
ロリ「それなら私もお古をあげるにょ!!!」
男「ちょ……えっと……」
副部長「一度弾いてみよう!うん!そうしよう!」
ロリ「ちっ……」
副部長「そう、ここを押さえて」
~♪
男「おお、おっ……」
ブスッ
副部長「えへへ、まだぎこちないね」
ロリ「ベースの方が似合ってたにょ!」
副部長「ううん、ギターの方が似合ってたよ!」
男「え、えぇ!?」
ロリ・副部長「「どうするの!?」にょ!?」
男「……」
男「俺は――」
今日の分はここまでです。
MerryX'mas!!ですね
男「ギターをやります」
副部長「やった♪」ピョン
ロリ「えーーーー!」ガクゥゥゥゥ
部長「この反応は対照的だな」
部長「おりゃ楽器弾かねーからその分楽だわ」
ロリ「ねぇ」ススッ
部長「どうした」ググッ
ロリ「……もう弾かないにょ?」ボソッ
ロリ先輩は静かに部長へと近づくと耳元で話しかけていた、部長も体の小さなロリ先輩の話を聞くために大きな体をを傾げた。何を話しているのか、右も左もわからない新入部員である分とても気になる。
部長「あってもなくてもかわらねーだろ」
ロリ「つまらないにょ」
部長「と・に・か・く」
部長「新入部員の二人はボーカルもけんに……」
男・会長「「します!!」」
副部長「わ、すごい発声」
ロリ「息ぴったりだにょ~」
部長「……」
男「……」
夕日が差し掛かる部室には少しずつ活気が溢れてきた。しかしそれは不自然だった、埃の被ったピアノで堂々と完璧な演奏をするような不自然。
もしかしたら元々この場所には活気なんて物が存在していないとすら思えた。
そう感じているのは俺だけなのか、それとも……
会長「……」
副会長「さあ、練習しましょう」ニコッ
会長「……」ジ-ッ
ロリ「どうしたにょ?」
会長「大変そうだと思ったので」
ロリ「弾くのはもちろん大変だにょ~」
会長「はい。ヘッドに届かなさそうで大変ですね」
ロリ「に゛ょ゛っ゛!」ガクッ
部長「あいつ俺以外の年上にはしっかりと敬語じゃね?」
副会長「会長の気持ちは分かります」
副部長「仕方ないと思うよ?」
会長「だ、大丈夫ですか?」オロオロ
ロリ「だ、大丈夫……」プルプル
男「はははっ……」
会長は崩れ落ちるロリ先輩を心配しながら困惑している。自分が原因だとは思っていないだろう。
この人、意外と天然だ。
ロリ「と、とりあえず……このベースをあげるにょ……」プルプル
会長「先輩の物より短い……な」
会長は渡されたベースとロリ先輩のベースを心底不思議そうに見比べていた。
部長「これ、大事な物じゃねーの?」
ロリ「良いにょ、他の人が使ってあげた方が喜ぶにょ」
部長「そっか……」
会長「どうして長さが?」
ロリ「長さが違うと演奏性が変わったり音が違ったりするにょ、ロングスケール、ミディアムスケール、ショートスケールとあって……」ペラペラ
会長「ふむふむ」キラキラ
副部長「私も負けてられない!」
副部長「頑張ろう!」グッ
副部長は俺の手を掴んで発奮する。ロリ先輩には負けていられないといった様子だ。
男「は、はい!」
男「……」
ジャンッジャ…
思うように音が出ない、ダンスや歌とは勝手が違う。
弦を押さえる手がもどかしい、弦をピックで弾こうとしたら手が当たってしまう。
傍から見たら自分はかなりの初心者だろう。
副部長「ここはもう少しね、しっかり押さえてあげて」
男「は、はい」グッ
副部長「違うよ、お母さんの手を握る感覚で」
男「お母さんの手……」
どんな感触だっけ?
添えてもらう事は何度かあった。
でも、握ってもらったり、握る事は……
男「……」
副部長「手を出して」
男「はい……?」スッ
俺は言われるがままに手を出した。副部長の意図は分からない。
ギュッ
男「!」
副部長「これぐらいの強さだよ」ニコッ
男「――!」カアァ
顔が熱い、火照りが治まらない。
副部長の手は力強くて、暖かくて、優しい。
副部長「どう?」ニコッ
“男”として年齢が近い異性に手を握られるのは初めてだった。
各パート毎に位置が離れているとは言え、流石にこれは恥ずかしい。
男「ちょ、わ、分かりましたから」バッ
副部長の手を振りほどく、副部長は笑みを浮かべながら優しく俺を見つめていた。
副部長「さぁ、頑張れ!」オ-ッ!
拳が握られた右腕を突き上げる、彼女の心は情熱に満ち溢れている。
希望、期待、願望では無い。単純に勇気づけてくれているのだ。
俺もそれに応えなくてはならない。
ジャッジャッジャッジャ-ンッ
想像に近い音だった、まだまだ不格好だけど、確実に進歩したと言う手応えはついて来た。
男「どうですか?」
副部長「凄いよ!覚えが早いね!」
会長「副部長が居る方は賑やかですね」
ロリ「全くだにょ、あ、手が全く追いついてないにょ!」
会長「しまった……!」グッ
部長「ベースもギターも騒がしいな」
副会長「前はもっと騒がしかったですよ」
部長「あいつらが戻って来たらどうなるのか……」
副会長「そこまで特筆するような方々では無いと思いますが」
部長「ははっ! そのとーり!」ググッ
部長「筋トレが終わったら発声練習だな」
副会長「じゃあ、その前に私は叩かせもらいます」
部長「あぁ、お前の自己紹介だな。やれやれ、やっちまえ」
副会長「――はい」
チャンチャンチャンッ
部長「まて、1回離れるから……っておい!」ダッ
男「――?」
スティックを叩き合わせた小粋な音が部室に響き渡る。
副部長「あ、副会長のドラムだ」
副会長「とってもいい音なんだよ、副会長のドラム」
男「聞きたいです」キラキラ
副部長「うん、じゃあ聞こっか」ニコッ
ロリ「副会長はいっつも初めて会った人に自分の演奏を聞かせるにょ」
会長「私の知らない副会長……」
会長「気になりますね」キラキラ
ロリ「じゃあ聞くにょ」
ダンッダンッダダンッダンダンッダッダッン
パァ-ンッ
活動が終わる頃には辺りも暗くなっていた。
副部長「はい、これで家でも練習するようにしてね」ニコッ
男「はい」
副部長のお古のギター、これを使えるようになってから自分のギターを買う事にしよう。
ロリ「はい、あげるにょ」スッ
会長「ありがとうございます」ガシッ
ロリ「家でもしっかり練習するにょ」
会長「言われなくとも」
部長「準備出来たかー?」
副会長「行きますよ」
副部長「ちょ、ちょっと待って!」ガサゴソ
男「?」
なにやら大事な物を探しているのか、副部長は慌てた様子でスクールバッグを漁っていた。
副部長「うわっ!」ズルッ
ガシャ-ン
手を滑らせたのかスクールバッグが宙を舞い、中身が散乱する。
男「……!」
その中身は綺羅星ソニア綺羅星ソニア綺羅星ソニア綺羅星ソニア綺羅星ソニア綺羅星ソニア綺羅星ソニア綺羅星ソニア……
正直に言うと血の気が引いた。
副部長「あぁ……大事な物が……」ガサゴソ
副部長は慌てながら綺羅星ソニア、もとい俺のグッズをバッグへと詰め直す。
副部長「ソニアちゃんごめんね……私の愛が足りない余りに……」ブツブツ
副部長は這いつくばりながら俺のグッズを拾う。
会長「こ、これは……」
会長も多少は驚いているが冷静そのものだ、いや、装っているのかも知れない。
部長「見るな、触れるな、気にするな」
部長の言葉には強い説得力があった。かの有名な独裁者の言葉を換骨奪胎した物は少なくとも自分の胸には届いている。
ロリ「昨日、綺羅星ソニアが無期限休養を発表してからずっとこんな調子だにょ」
副会長「会長と男君が来てからは立ち直ったと思っていましたが、そんな簡単な問題では無いようです」
男「好きなんですね、綺羅星ソニア」スッ
このまま部長の言葉に従っても埒が明かない。
副部長の隣に座ってから床へと散らばった俺のグッズを拾い、彼女のスクールバッグに入れる。俺がこの作業を手伝う事も綺羅星ソニアとして義務だろう、ファンサービスだ。
しかし、こう見ると意外と完成度が高いので感心する。
このプロマイドはいつ撮ったのか、どれもこれも見覚えがない。
副部長「最近はTwitterとブログの更新も減っていたから何かあるのかと思ってたらね……」アハハ
広報のおじさん、最近は体調を崩しがちだったな。元気にしているだろうか。
副部長「大好きなソニアちゃんがアイドルやめるなんて……」
会長(隣に居るが)
ロリ「“そんなこと”よりも早く帰りたいにょ~」
副部長「“そんなこと”……?」
ただでさえ冷えていた空気がさらに冷えるのを肌で感じる、氷点下を突破したかのような凍てつきだった。
部長「おい!ばか!あほ!まぬけ!脳味噌小学生!」
ロリ「あ゛」
副部長は揺らめきながらもその場で立ち上がる。
俺は何も見ていない、何も触れていない、何も気にしていない。
ガシッ
それでも布が擦れる音は嫌でも聞こえたのだった。
副部長「……」ニコッ
副部長は緩やかに微笑み、ブレザーの後ろ襟を“片手”で掴むとロリ先輩ごと持ち上げたのだった。少なからずともロリ先輩の体重が38kg以上あるとして、それを片手だけで持ち上げたのだ、恐るべき程の馬鹿力である。
副部長「“そんなこと”ってどういう事なのかな?」
副部長の顔から笑顔が消え、彼女は自身が持ち上げたロリ先輩の耳元で囁く、清々しいほどの脅迫だった。
ロリ「そ、そんなつもりじゃ……」カタカタ
宙吊りになった小柄な身体が小刻みに震える。うん、こう見ると可愛げがある。
副部長「綺羅星ソニアは」
ロリ「?」
副部長「綺羅星ソニアは可愛い!!」クワッ
なんと言う事でしょう。彼女はただでさえ大きな目を見開くと『綺羅星ソニアは可愛い!!』を強制させたのです。
先程までの優しくて可愛らしい目はどこにやら、今となっては悪鬼羅刹の如し眼光をロリ先輩へと向けていた。
ロリ「綺羅星ソニアは可愛いにょ!!」
副部長「語尾いらない!!」
ロリ「綺羅星ソニアは可愛い!!」
刷り込ませだろうか。
ドキュメンタリー番組の中で教育係の軍人が新兵に母国への愛を何度も証明させ、心から国の為に戦う後進を育成する姿とそれは重なった。
副部長「綺羅星ソニアは宇宙一可愛いでしょ!!」
副会長「理不尽ですね」
会長「ひ……酷い」
ロリ「綺羅星ソニアは宇宙一可愛い!!」
副部長「本当に?」
ロリ「本当にだにょ!!綺羅星ソニアは宇宙一可愛いにょ!!」
副部長「……」
パッ
ドサッ
副部長が手を離すとロリ先輩はその場で崩れ落ちる。その姿は人の手から離れたマリオネットを連想させた。
ロリ「た……たすかっ……」
ロリ「にょ……」
副部長「……」ツ-ッ
彼女が目に溜め込んでいたであろう涙が遂に溢れ出してしまった。
自己紹介の時も俺にギターを教えている時も涙を我慢していたのだろう、ファンからここまで愛されているのならアイドル冥利に尽きる。
ロリ「腰が抜けて動けないにょ……誰か……」
会長「……」
副会長「……」
部長「……」
男「……」
気が付くと全員が部長の側に集まっていた。あの光景を見たら一つに集まりたくなるのも無理は無い。
俺自身は副部長の側に居た、しかし、気が付くとその場から離れていたのだ。その判断は現状を顧みるに正しいし、間違っていない、ロリ先輩ごめんなさい。
部長「女子部員はみんな仲いいだろ?頼むよ」グイグイッ
副会長「無理です」キッパリ
副会長「ここは生徒会長が場を宥めるべきかと」グイグイッ
会長「無茶を言わないでくれ、はっきり言って怖い。それと副会長、肘で突くな」
ツンツンッ
男「げっ」ビクッ
会長は俺の脇腹を人差し指で突いてから耳元で囁く。
会長「ここは綺羅星ソニアが宥めるべきだろう?」ボソボソッ
男「誰ですか?ソレ?」ボソボソッ
会長「君は可愛い奴だな」ボソボソッ
男「とにかく嫌です。死にたくない」
会長「大袈裟に言うな、男以外に誰が居る?」
男「ロリ先輩とか?」
会長「死体に鞭を打つな」
男「俺に死体になれと?」
会長「ソニアなら大丈夫」ヒソヒソッ
男「馴れ馴れしいな!」ヒソヒソッ
男「まままま、間違えた! そそそそ、ソニアちゃうし!」ヒソヒソッ
部長「あいつら何話してんの?」
副会長「分かりかねます」
とは言ったものの……
男「……」
会長「?」キョトン
あぁ!もう!
男「顔が近いです」
会長「あの時は助けてくれたじゃないか」
男「……」
転びそうになった会長を抱えた時か……
男「園咲魅苑を支えた時とは違いますよ」ボソッ
会長「違わないさ、副部長を慰めるのは私を助けた時よりも簡単。それと次、園咲魅苑と言ったら綺羅星ソニアである事を言いふらすぞ」コショコショ
この女はかなりの理不尽を吹っ掛けて来やがりました。もう先輩だからと言って羨む必要は無いだろう、俺は我慢しましたよ。
男「言いふらしたらやり返します」
会長「それでもダメージは明らかに私の方が少ないな」
男「ぐっ……」
部長「あの二人近くね?」
副会長「仲睦まじいですね」
男「……」
けど……会長の言う通り、副部長を慰めるのは簡単だろうな。
最後のライブで伝えきったと思ったんだけどなぁ……
男「副部長」
副部長「……」
男「その、ですね……」
俺もアイドルとして幸せだが、副部長もファンとして幸せだ。
これはファンサービスだ。
男「……」
副部長「ごめんね、もう大丈夫だから」クシクシ
隈が出来た瞼を拭きながら謝られてもな。
それに、こんな顔をして大丈夫って事はないだろ。
男「はぁ……」
我ながら本当に副部長は幸せ者だと思う。
こんなにも綺羅星ソニアと言葉を交わせるファンは中々居ない。
男「副部長、綺羅星ソニアはどうしてアイドルをやめたんですか?」
副部長「……」
副部長「本当にやりたい事を見つけたから……」
そう、それは正しい。
でもそれは手段でしかない。
正体を知らしめなければ“あいつら”が俺に気付く事は無い。
アイドルは正直遠回りだったとも思う。
男「やりたい事は音楽ですよ」
断言する。何を知った口で、と思われるかも知れない。それでも俺は綺羅星ソニアの言葉を代弁できるこの世でたった1人の存在だ。
副部長「……」
男「綺羅星ソニアは音楽をしたいからアイドルをやってる」
男「ですよね?」
副部長「詳しいね、もしかしてファン?」
ソニアです。
男「引退ライブをたまたまニュースで見ました」
男「凄かったですね、沢山のファンに囲まれて」
副部長「うん。凄かったよ、ほんと
に凄かった……」
副部長「ソニアちゃんは正体が不明のアイドルだから……きっとそのまま居なくなって」
部長達は黙って見守っている。一方、ロリ先輩はひっそりと四つん這い歩きをしてその場から離れようとしていた。
副部長「ソニアちゃんを見れる事はもう無い、そう思ってる……ショックだよ」
なんだ、信じて貰えなかったのか。
男「違うと思います」
副部長「……何が分かるの?」
副部長の眉がひくつく、俺に対しての苛立ちを隠せずに明らかな敵意を見せてきた、無理もない。
男「覚えてますか?」
男「綺羅星ソニア、最後の歌を」
気が付くと俺は副部長の側に立っていた。
副部長「“さよならの前に”は伝説だよね、うん。一生語り継がれるとおもうよ」
少しは興味を持ってくれたのだろうか、声が少し柔らかくなった気がする。
男「本当にやりたい事を見つけたからアイドルを無期限休養する」
副部長「男君はソニアちゃんのやりたい事が音楽だって言ったね、アイドルでも音楽には関われるのに」
そう、最後のライブではやめる理由も詳しくは言っていない。
男「アイドルでもアーティストでもバンドでもミュージシャンでもプレイヤーでも……活動を休止するのってやむを得ない理由以外の場合は大抵が自分を見つめ直す為ってご存知ですか?」
副部長「……知らない」
説得力を持たせるためにとってつけて言ってやったが、恐らくはそうだろう。
男「アイドル以外の形で音楽に触れて、糧にしたい。それが表現者綺羅星ソニアとしての思いだと思います」
男「無期限休養は事実上の引退宣言かも知れない」
今の所は戻るつもりも無い。
男「でも、いつか」
いつの日かは。
男「名前も変わっているかも知れない、姿形も違うかも知れない、誰にも気付かれない」
男「それでも」
それでも、終わったら。
男「帰ってきますよ」
男「最後の歌詞で歌ってたじゃないですか?」
男「I'll be back in a twinkling」
ソニアの声が少し出てしまったが仕方ない。
副部長「!」
男「意味は……『瞬きする間に帰ってくるよ』ですね」
男「あんな大勢のファンに嘘をつくなんて俺には無理ですよ」
ガシッ
副部長は両手で俺の手を握ると満面の笑みでこう言った。
副部長「ありがとう!!」
さっきまで涙を拭っていた両手は湿っていたけど、それ以上に暖かかった。
男「元気を出してくれて良かったです」
副部長「へへ、えへへ」ジロジロ
副部長は俺の事を余す事無く見回すと、上半身を少し屈ませて俺の胸元の前で顔を見上げてくる、笑みを含んだしたり顔を抑えきれない様子だ。
副部長「男君も言ってくれたら良いのに~」ニコニコ
男「……え?」
副部長「男君の正体、分かっちゃった♪」
男「!」
俺が綺羅星ソニアだって気づいてしまったのか!?
ま、不味い。どうしよう……
男「……」チラッ
会長「……」サッ
会長は俺から目を逸らした、助けを求める視線を無視したのだ。元はと言えば全てこの女の責任だ。
会長(ヒントを出し過ぎてしまったな、お人好しめ)
副部長「へへっ、もうバレバレだよ!」
男「」
終わった――
副部長「男君もソニアちゃんのファンだよね!もう!言ってくれたら良いのに!」
会長(そう来たか)
部長「お前、綺羅星ソニアのファンだったのか~」
副会長「それなら綺羅星ソニアに対しての理解も納得です」
ロリ「熱狂的なファンだにょ~」
男「はっ、はい!もう、活動休止を知った時は枕を濡らしちゃいましたよ~!」
副部長「言ってくれたら良いのにー!」ナデナデ
男「あはは……あはは……」
た……助かった。
部長「行くぞ~」
楽器を持った俺達は戸締まりを確認してから部室を出た。
男「そう言えばここ、どうして自由天文部って名前なんですか?」
部室の前から去る前に確認をしたかった。
男「軽音楽部でも良いような……」
部長「それはだな……」
ロリ「私が説明するにょ~」
ロリ「むかしむかし、このがくえ」会長「自由天文部は軽音楽部として認められていないからだ」
ロリ「空気嫁にょー!!」
部長「こいつ絶対友達居ないぜ」ヒソヒソ
ロリ「しっ!人には触れちゃいけない事が……」ヒソヒソ
会長「」
副会長「わ、私がいるので……」アワアワ
会長「ち、因みに言うと天文部としての活動は認められている……」
男「へー」
凄いメンタルの強さだが、友達が居ない話が頭から離れないから天文部はどうでもいい。
部長「今年こそは成果を挙げて……」
男「成果?」チラッ
「!」ビクッ
会長「あっ……」
会長(彼女はライブの時に居た……)
「ひっひっ……化け物……!」
男「……」
誰だ?一切見覚えが無い。
派手な不良の外貌をした女は腰を抜かして、尻餅まで着いている。
不良「く、来るな化け物!!」
男「化け物って事は……」
副部長「部長は確かに怖いよね~」アハハ
ロリ「……」
会長「……」
部長「……」
副会長「……」
男「……」
副部長「え?どうして皆で一斉に私を見るの?え?なんで????」キョトン
それは今から遡ること50分ほど前の話だった。
不良は教室の中、一人で座りながらうつ伏せで寝ていた。
そろそろ夜に差し掛かる頃だ、誰かが起こしてあげれば良かっただろう。
しかし、彼女の風貌が周りに隔意を抱かせ、とても話しかけられる雰囲気では無かったのだ。
真面目な人間が多いこの学園では、ぐっすりと寝ている彼女を起こしたらどのような仕打ちが待っているのかと恐れてしまい、二の足を踏む人間ばかりだった。
prrrr
スマートフォンの大きな着信音が彼女だけの教室で響く。
着信音は彼女が好きなバンドの曲だった。
不良「あっ……んっ……ぅぅ」
音量の大きさで目が覚めたのか、ブレザーの右ポケットへと我武者羅に手を差し入れて、スマートフォンを取り出した。
不良「……」
画面に表示される発信元は不良2。
不良「もしもし……どうしたの?」
『あっ……あのさ……私達さ』
不良2の声は震えていた、それによって不良の胸は嫌な予感で埋め尽くされる。
自分でも音が聞こえるくらいに心臓が早鐘を打っていた。
ドキドキドキドキドキ
『あの話、無かった事にしたいんだ』
嫌な予感と言う物は本当に当たりやすい。
不良「ど、どうして!?」
不良、不良2、不良3は中学生時代から続く友人関係である。
周りの人間からは『ヤンキー』と揶揄されるが、彼女たちは喧嘩や悪事には一度たりとも手を染めた事がない只のパンクロックが好きな『派手好き』だった。
パンクロックをこよなく愛す三人の集まりは、休む事を許さない学業や不満しか感じない世間のルール、理不尽な親からの抑圧に心底嫌気が差し、内心は緊張しながらも髪染めやピアスに手を出した。すると、受験シーズンの高偏差値私学である事も相まって、口を出す人間はすぐに居なくなってしまった、正確には相手にもされなくなったのである。彼女たちは中学三年生にして周囲の人間から孤立してしまう。しかし、それらの世間が起こす大きな逆風は三人の闘志に火をつける結果となった。
元々成績が良い三人は周りを見返す為、同じ高校へと進学する為に猛勉強を始めると凄まじい勢いで学力が上がっていった。
しかし、彼女たちの親は三人を同じ学校に進学する事を許さなかった。
『もっと沢山楽器に触れたいからだよ』
不良「っ……!」
『ソニアちゃんを見たら本気で頑張りたくなったんだ!!!』
電話の相手が不良2から不良3に変わる。不良は仲間の中で自分だけが離れていると考えると大きな疎外感を覚えた。
ひとつ長い文を入れてみました、読み辛ければ言ってください。すぐに改行して訂正いたします。
自分の文は読み辛いのではないかと少し心配しています。指摘をくだされば嬉しいです。
今日の分はここまで。
不良「結局、親のなすがままじゃねぇか……」
『私達だって約束通り三人で一緒にバンドをやりたいよ……』
『でもさぁ……それだと遠回りじゃん』
不良「……」
『高校行ったらバンド組むって約束したけど……』
『今から沢山練習してさ……卒業してからバンドを組んだ方が良いよ!!』
不良「っ!」
不良「わかった……沢山練習しろよ……」
『!』
不良「ライジングロックで会おうぜ!」
『うん!』
プツッ ツ-ツ-
ビジートーンが耳の中で木霊する、その音により彼女はさらに孤独を自覚する。
不良「あっ……そっけねぇな……」
不良「ははっ……」
不良「嘘なんかつきやがって……」
不良は親友の嘘に気付いていた、声のトーンや震え、そして彼女が持つ直感のような物で。
不良(でも、『ライジングロック』に来るってのは、信じても良いよな……?)
席から立つと唯一の希望を『ライジングロック』に抱く。
『ライジングロック』とは八月に東京で開催される高校生バンドの祭典だ。
不良「でもなぁ……」
一目で分かる程、肩の力が抜けた。彼女の落胆を表しているかのようだった。
不良「軽音部、無いんだよ……不良2、不良3」ズ-ンッ
この時の不良はまだ自由天文部の存在を知らない。
不良は部室棟の周りをゆっくりと一週する。
鋭い眼光を放つ様は飢えた獣さながらの迫力がある。
不良「こうなったら……部活に入ろうと思ったけどやっぱりやめた人間を捕まえて……軽音部を……」
ジャジャンジャンジャンジャ---ン
不良「!」
飽きるほどに聞き慣れた音、ギター、ベース、ドラム。希望に胸が膨らむ、気が付けば音の方へと駆け出していた。
不良「ふーん」ヒョコ
自由天文部の部室に付いている小窓から中の様子を見る。
不良(てんで駄目な奴が二人居るな、始めたばっかだなこりゃ)
衝撃の光景まであと20分。
不良「へー」
不良「出来る奴は中々やるじゃん」
10
不良「ボーカルもうめーし」
9
不良「ヘタクソふたりはまーなんとかなるだろ」
5
4
3
不良「たくっ……軽音部があるならさぁ……教えろよ……」
2
1
不良「あれ……?」
不良「様子が……?」
0
不良「か、かかかかか、かたっか、片手で人を持ち上げた!!!????」ビックゥ
あまりの衝撃に不良は腰を抜かしてしまい、男達が出て来るまで身動きが取れなくなってしまった。
―――――――――
――――――
―――
――
―
副部長「私は怖くないよ、大丈夫!」
男「……」
あれを見たら怖いと思うに決まっている。
不良「お、おらぁ……」
派手な格好をした女子生徒は立ち上がると同時にファイティングポーズをとった。
不良「こ、こ、こいやぁ!おおおお、お、お、お、おりゃ!」ガクガク
威勢は良いのだが、震えの止まらない顎、噛み尽くした台詞、今にも崩れ落ちてしまいそうな程に笑っている膝、哀れみを感じてしまうくらい弱そうである。そしてその姿はハムスターとかの小動物を連想させた、否、副部長の前では生きとし生けるもの全てが小動物同然であるのだ。
会長(そう言えば私のステージを邪魔していたな……)
会長(少し仕返しをしてもバチは当たらないだろう)
会長「そう言えば、副部長は格闘技を嗜んでいるとか」
男「……」
不良「な、なにぃ!?」ビクビクッ
あの馬鹿力は嗜んでいるどうこうの話では無いだろ。
男「あっ」チラッ
部室の壁の上部には窓、そして地面には壁と寄り添うように瓶ケースがある。なるほど、あの窓から恐怖の光景を見たのか。
それでも間近で見た俺と被害者のロリ先輩の方が怖い思いをしているけどな。
ロリ「退屈だにょ~」
この人凄い、神経図太い。
会長「たしかソバット、空手、柔道、ムエタイ、システマ等を嗜まれているとか」
男「こらこら、そんな冗談は……」
どうして軍用格闘技ばかりなんだよ。
副部長「え!?どうして知ってるの!?」
男・副部長「「嘘!!??」」
>>96
訂正です
会長「そう言えば、副部長は格闘技を嗜んでいるらしい」
副部長「え、知ってたの?」
男「……」
不良「な、なにぃ!?」ビクビクッ
あの馬鹿力は嗜んでいるどうこうの話では無いだろ。
男「あっ」チラッ
部室の壁の上部には窓、そして地面には壁と寄り添うように瓶ケースがある。なるほど、あの窓から恐怖の光景を見たのか。
それでも間近で見た俺と被害者のロリ先輩の方が怖い思いをしているけどな。
ロリ「退屈だにょ~」
この人凄い、神経図太い。
会長「たしかソバット、空手、柔道、ムエタイ、システマ等を嗜んでいるとか」
男「こらこら、そんな冗談は……」
どうして軍用格闘技ばかりなんだよ。
副部長「え!?どうして知ってるの!?」
男・会長「「え」」
副部長「あとはサイレントキリングも習ったよ~」
男「普通の人は習わないですよねそれ」
副部長「お父さんが格闘技オタクだからしょっちゅう、やらされちゃって……」アハハ
背筋に悪寒が走る。彼女の持つただならぬ気配は、俺がアイドル時代に世話となったボディーガードやセキュリティのそれをはるかに越えていた。
会長「冗談のつもりだったが……恐ろしい」
不良「わ、わた、わた、私だって空手十段だおらぁ!!!」
男・会長((嘘だな))
やっていたとしてと通信空手止まりだろう、頭頂から爪先までの全てが小動物だ。
部長・ロリ「「で、何しに来たの?」にょ?」
この言葉だ、そうだ、俺はこの言葉をずっと待っていた。
不良「ちっ……」
副部長「わ、私は無害だからね?」ウルウル
副部長の目は無実を訴えるかのように涙を溜めていた。無害と言う訳では無いのだが……
不良(とんでもねぇ奴かと思ったら……訳わかんねぇ……)
不良「この部活に入る」キッパリ
男「……」ジ-ッ
澄ました態度で入部を宣言したが、足は未だに尋常ではない程震えていた。
部長「マジで?」
部長は口を大きく開けて驚いている。今日だけで新入部員が三人も入ったのだ、自由天文部の廃部は有り得ないだろう。
不良「おう」
ロリ「これであいつらが」
訂正
部長「マジで?」
部長は口を大きく開けて驚いている。今日だけで新入部員が三人も入ったのだ、これで自由天文部の廃部は有り得ないだろう
不良「おう」
副部長「わーい!!」ギュッ
不良「触れんな!」ビクッ
ロリ「これであいつらの内何人かが戻って来なくとも大丈夫……?」
会長「戻って来ない?」
副部長「た、例えばの話だよ~!」
不良「離れろ馬鹿!」
副会長「籍さえあれば構いません、問題無しです」
男「ははっ……」
部長「これは来週ライブだな」
男・会長「「え?」」
不良「待ってました!!」
副会長「校庭ですか?」
ロリ「体育館かにょ?」
副部長「屋上かな?」
男・会長「「?????」」
部長「『ライジングロック』せめてここで何かしらの賞は取りたいな」
不良「へぇ、目指してんのか」
部長「自由天文部創設からの夢なんだ」
ロリ「この部は音楽が好きな人間の集まりが作ったんだにょ~」
ロリ「私は星も好きだにょ、星が無ければこの部はそもそも無かったから」
ロリ先輩は遠い目で星空を見上げる。何かに思いを馳せている様子だ。
不良「へぇ」
ロリ「同好会から始まって天文部としては奨励賞を取れたけど、軽音楽部としては全然駄目だにょ」
ロリ「そして、今では音楽をやりたい奴しか集まらないにょ」
副部長「初めて聞くね」
部長「俺も初めて聞いたわ」
ロリ「それに、星が好きって言うのは音楽をやる為の建前だにょ、この学校の生徒は頭が良いから文化系の賞も取りやすいにょ」
ロリ「でも、音楽ばかりはそうも行かなかったにょ……」
ロリ先輩だけ、時間が止まっているような、そんな気がした。
訂正
部長「『ライジングロック』せめてここで何かしらの賞は取りたいな」
不良「へぇ、目指してんのか」
部長「自由天文部創設からの夢なんだ」
ロリ「この部は音楽が好きな人間の集まりが作ったんだにょ~」
ロリ先輩は遠い目で星空を見上げる。何かに思いを馳せている様子だ。
不良「へぇ」
ロリ「同好会から始まって天文部としては奨励賞を取れたけど、軽音楽部としては全然駄目だにょ」
ロリ「そして、今では音楽をやりたい奴しか集まらないにょ」
副部長「初めて聞くね」
部長「俺も初めて聞いたわ」
ロリ「それに、星が好きって言うのは音楽をやる為の建前だにょ、この学校の生徒は頭が良いから文化系の賞も取りやすいにょ」
ロリ「でも、音楽ばかりはそうも行かなかったにょ……」
ロリ先輩だけ、時間が止まっているような、そんな気がした。
ロリ「私は星も好きだにょ……星が無ければこの部はそもそも存在しなかったから……」
騒がしい事もあったが更に部員も増え、自由天文部の滑り出しも上々、部長も上機嫌なまま俺達は解散した。
そして帰り道、俺と会長は二人で歩いて帰っていた。途切れ途切れの電灯に照らされながら歩く、解散してから今まで会話が無い。
男「どうして」
会長「どうして?」
結局自分から切り出してしまう。
男「どうして俺が軽音部をやりたいって分かったのか……ですね」
会長は俺が軽音部に入りたいと確実に分かっていたと思う。
会長「そうだな……」
会長「控え室、綺羅星ソニアと話した時から……」
男「おふっ……」
>>107
訂正
会長「控え室、綺羅星ソニアと話した時から……」
↓
会長「楽屋で綺羅星ソニアと話した時から……」
男「やっぱり分かっちゃいますか?」
会長「あれでシラを切り通せるとでも?」
男「おふっ……」
会長「……」
顔が近い、目と鼻の先には綺麗な輪郭が見え隠れしている。目を逸らそうにも見えてしまう。
会長「私と似た理由と言ったからだ、だからきっとバンドでもやりたいんじゃないかって思った」
全てお見通しらしい、あの時は呆気に取られていたのにアイドルと言う殻を脱ぐと1人の強い人間だった。
違う“強過ぎる”
会長「男、私は1年間自分の行く道を模索していた」
男「……」
会長「悩んでいたって時間は止まってくれない、遅れるのは自分自身だ。これからは進み続けたい、人に遅れる暇なんて無かったんだ」
この人は本当に悩んだ事が無いんだろうな、理解出来ない。悩みながらも“純粋に”進んで来たんだろう、理解出来ない。
男「悩んだら止まってたって良いと思いますよ、人それぞれですから」
会長「男、人が止まる事は有り得ないよ」
男「そう、ですか」
俺はこの時会長の言葉を理解していなかった。
それでも思った事はあった。この人は俺を強い人間と勘違いしている、そう思った。
男「ただいま」
玄関のドアから乾いた音が廊下に木霊する。灯りがひとつも無い事から祖父と祖母は出かけている事が分かった。
男「お父さん、お母さん、今帰ったよ」
リビングで座る両親に話しかける。いつも通り、今日あった事を報告する。
男「“僕”さ、軽音楽部に入ったんだよ。すぐに上達してさ、これからも部屋で練習しないと」
男「あとね、会長って綺麗な人に正体がバレたんだ。うん、人生が終わったと思ったけど、良い人だったから事なきを得てるよ」
男「学校?楽しいよ、とってもとってと楽しい」
男「そんな褒めないでって、恥ずかしいよ」
男「あ、おじいちゃんとおばあちゃんが帰って来るよ。うん、出迎えるよ」
pipipipi
清々しい朝、窓から日差しがこれでもかと差し込んでいる。
男「あーそっか、今日は休みか」
スマートフォンを見ると最近流行りのメッセージアプリを通して、副部長からメッセージが届いていた。
『男君おはよう』
『昨日はごめんね、それと今の部活の現状を教えておくね』
しかし、それ以降メッセージが無い。
と思っていたら、自由天文部のメッセージルームに招待されていた。なるほど、そこに新入部員も集めて一気に現状説明と言う訳か。
まぁ、普通に考えてそっちの方が効率が良いに決まっている。
善は急げだ、俺はなんの迷いも無く自由天文部のメッセージルームに参加した。
男「はぁ……」
思わず溜息が出る。
どうして溜息が出るのかと言えば、それは勿論メッセージアプリに書き込まれた自由天文部の現状が原因である。
副部長がメッセージグループに書き込んだ自由天文部の現状は俺の想像以上に芳しく無いのだった、まさかここまでとは思いもしなかった。
問題の内容はこうだ。
1.自由天文部が軽音楽と天文学の両方で現三年生の卒業までに、何かしらの成果を上げられなかった場合、即刻廃部。その場合は新たに天文部が創部されるが、勿論軽音楽活動は禁止。
2.自由天文部が失敗に終われば軽音楽部が今後創部される事は一生無い。学外でバンドを組むのは自由だが、学校内でのバンド活動は禁止。
3.自由天文部が存在する間はいつでも部室の使用を許可、顧問の先生と鍵のやり取りをする事。先生が居ない時は別の場所で練習。
4.自由天文部のレベルで三年生の卒業までに成果を上げられそうな催し物は『ライジングロック』のみ、それでもかなり厳しい。
と、まぁ、無理難題が転がっている。
正直、世の中は諦めが肝心であると俺は思う。
事実、メッセージグループは副部長の発言に全員の既読が付いているだけで、後は誰も発言していない。
それだけ絶望的なのだ。皆も察しているだろう。
男「だけど、やるしか無い」
そう、やるしか無い。確実に目的を達成させる為には静かに感情を昂ぶらせよう、どうなってもしがみついてやる。
そうとなれば練習あるのみだ。
幸い、綺羅星ソニアをやめてからは祖父と祖母から露骨に心配される事も無くなった。祖父母としては部屋で楽器を弄ったとしても、綺羅星ソニアだった時と比べたら屁でも無いだろう。
ギターをアンプに繋ぎ、昨日教わった所の復習をする。何事も反復が大事だ。
ギュイーン
覚えたての音は気恥ずかしくも、心地良かった。
「うるさい!!!」
男「……」
する事も無くなったからベッドの上で両足を抱えて座り込む事にした。
決して拗ねている訳ではない、どうしたら大音量を流しても許してもらえるのかと前向きに考えている最中なのだ。
綺羅星ソニアの時にそれはもう死ぬ程稼いだんだ。しっかりと事情を説明したらきっと、祖母も許してくれる。
男「あ、そっか」
綺羅星ソニア時代に稼いだお金で作った自主練習用の完全防音レコーディングルームがあったのを忘れていた。そりゃあ、おばあちゃんも怒るよな、あははっ。
心の中で乾いた笑いを浮かべても仕方が無いので、演奏器具をレコーディングルームに運ぶ事にした。
男「アホらし……」
ベッドの上に座り込んでから5分も経過している。
とてつもない時間を無駄にした気分になり、行き場も無い怒りが込み上げる。
俺の完璧主義はこういう時に損だ、出来ることならばこんな性格は直したい。このままではストレスで何かしらの疾患を抱えてもおかしくは無い。あぁ、運ばなきゃ運ばなきゃ。
器具を運び終えた頃には昼前の11時だった。
空腹に耐えかねた頃だったので丁度いい、ご飯にしよう。
男「おばあちゃ――」
pipipi
こんな時に限って電話がかかってくるのはやはり鬱陶しい。食事を優先して無視してしまおうか……
pipipi
男「はぁ……」
目先の事を終わらせる事にした。
ご飯を食べている間にも鳴かれては困る。
男「もしもし」
「私だ」
男「お前だったのか」
「――?」
男「冗談ですよ、会長」
口調からは想像出来ない程に透き通った声の主は、会長だった。
しかしまぁ、恵まれた声をしている。どのような音楽シーンにおいても恵まれた声だろう。
「目上の人間に対してお前はどうかと思うが……」
男「あ~後で説明します」
「部内では私が一番君と仲が良いらしい」
“らしい”って……随分と他人事のように話すなこの人は。それに加えて声が聞き取り辛い、勿体無い。
「ヘタクソカ!」
疑問に感じ、少し耳を澄ましてみると、遠くから話し声のような音が聞こえる。
聞き取り辛いのはそのせいか。
男「部内では一番最初に会ってますからね」
「そこで、だ」
遠まわしに話して……ああ、まどろっこしい!
俺はお腹が空いているんだよ!どうして進まない話の相手をしなければいけない。
「アアモウ!カワルニョ!!」
うん?このアニメ声はロリ先輩?どうして、会長と……?
男「!」
あ、そういう事か……親交を深めようと言う訳だな。
「これから皆で……!」男「分かりました」
「にょっ!?」
返事が早すぎたからか、ロリ先輩は呆気に取られてしまった。
>>137 訂正
「まぁ良い」
後で説明しても分からないだろうな、これは。
「ちなみに、用事がある」
無きゃ怒るぞ。
「更に言うと部内では私が一番君と仲が良いらしい。仲が良いからこその用事らしい」
“らしい”って……随分と他人事のように話すなこの人は。それに加えて声が聞き取り辛い、勿体無い。
「ヘタクソカ!」
疑問に感じ、少し耳を澄ましてみると、遠くから話し声のような音が聞こえる。
聞き取り辛いのはそのせいか。
男「部内では一番最初に会ってますからね」
「そこで、だ」
遠まわしに話して……ああ、まどろっこしい!
俺はお腹が空いているんだよ!どうして進まない話の相手をしなければいけない。
「アアモウ!カワルニョ!!」
うん?このアニメ声はロリ先輩?どうして、会長と……?
男「!」
あ、そういう事か……親交を深めようと言う訳だな。
「これから皆で……!」男「分かりました」
「にょっ!?」
返事が早すぎたからか、ロリ先輩は呆気に取られてしまった。
ファミレスのボックス席、俺を含めると7人分の席になる。
部長「おうおう、座ってくれ」
不良「……」
金髪に銀のメッシュを入れた派手な女は、俺が座るであろうスペースにまで腕を伸ばしては、憎たらしい程にくつろいでいる。
更には目つきまで鋭い、ずっと俺を睨んでいる。
唯一の同い歳なんだ、仲良くしようぜ。
副会長「不良さん、男君が座り辛そうですよ」
不良「あ、悪い悪い」ハハッ
悪気無しかい。
会長「さて、全員が揃ったな」
そう、厳密に言うとこのボックス席は6名席である。
しかし、誕生席を含めて7名席。
誕生席に座るのは我等が生徒会長。
入部してから1日しか経っていないのにも関わらず、堂々たる振る舞いだ。
部長はそれで良いのか?威厳無しだろ。
部長「ざっと今の状況を整理すると……」
部長は神妙な顔持ちで俯いている。その顔ははっきり言ってかなり厳つい、後ろにでも立ったら殴り倒されそうだ。
部長「自由天文部は廃部だな~」アハハ
バシ-ン
部長「ゲノム!!」
キツイのが一発入りました。
ロリ「目を覚ますにょ~!」ゲシゲシ
部長「先輩ごめん!!!」
ロリ「先代達の意思を無駄にするつもりかにょ~?」ゲシゲシ
部長「しかしだな……」
随分と困窮しているな、それも仕方ない。
会長「だらだらと話し込んでも仕方が無い。これから自由天文部はどうするか決めましょう」
ロリ・部長「「はい」」ピタッ
男「……」
凄いリーダーシップだ。
不良「~♪」ゴソゴソ
男「……」ジト-ッ
派手な女……名前なんだっけ?
隣の派手女は退屈なのか、ナプキンで折り紙を始めている。
折り紙の丁寧な造形には目を見張る者があった。その証拠に、副会長と副部長はナプキンで作られた熊さんと猫に心を奪われている。
副部長「すごい……!」キラキラ
副会長「ナプキンに命が宿ってます」キラキラ
副部長は恍惚の表情を隠す素振りも見せずに、派手女の手元を凝視している。
一方の副会長は平静を装ってはいるものの、肝心の意識は忘我の境地にあるように見えた。
会長「ロリ先輩、『ライジングロック』に今迄出場した事は?」
ロリ「あるにょ~」
部長「全部予選敗退だったな」
会長「ふむ……」
『ライジングロック』も相当難しいのだろう。ロリ先輩と部長からは一種の悲壮感が漂っている。二人共、会長と目を合わせようともしない。
会長「それを今更言っても仕方が無い、か」
部長「目に見える成果で言えば、上位30組のバンドが入賞扱いだ」
会長「参加数は?」
ロリ「全国からあつまるにょ~」
部長「応募総数はざっと700組以上」
部長「バンドで録音した曲を大会の運営に送って、審査してもらう」
ロリ「700組の中から審査で選ばれた300組が地区ごとに予選を争うにょ」
ロリ「ひどい時には予選を開催しない地区もあるにょ」
会長「どうして?」
ロリ「予選の開催に見合うバンド無し、そんな事は滅多に起きないにょ」
会長「一定以上の実力をシビアに求めているという事ですね」
なるほど、一筋縄ではいかないな。
「……」チラチラッ
先程からずっとファミレスの店員が会長をちらちらと見ている。まさか、惚れたとか?
――まさかな。
会長「ふむ、700組の中の30組とあらば学園側も文句が無いでしょう」
男「あっ……」
会長「どうした?」
男「そういえばですけど、成果を挙げられなかった場合の廃部っていつ決まったんですか?」
部長「昨日」
不良「馬鹿だろ」
会長「そう言わないでやれ、勧告自体は前からあった。自由天文部だって成果を挙げられるように頑張っていた」
会長「因みに、『ライジングロック』の開催期間は?」
不良「私知ってるぜ、8月からだろ?」
部長「……」
ロリ「にょ、にょ、にょ~」
副部長「くまさん可愛い~!」
副会長「会長、喉は乾いてませんか?ドリンクバーでも……」
会長「副会長、怒るぞ?」
副会長「は、はい……」シュンッ
ロリ先輩、部長、副部長、副会長の四人はバツが悪そうにしている。
何やら都合の悪い事でもあるのか?
副会長「……がつ」ボソッ
会長「え?」
不良「い、今なんて……」
副会長「――運営の都合により、『ライジングロック』の開催は6月になりました……」
不良「初心者二人……経験者一人……」ブツブツ
男「はぁ……」
新入部員のフェス参加は無理そうだな、そこは割り切るしかない。
不良「ちっ……」
派手女は明らかに憤りを見せていた。
無理もない、俺だって憤っているからこそ派手女の気持ちが分かる。
会長「仕方ない、練習は『ライジングロック』に挑むバンドを中心にしよう」
部長「俺、ロリ、副部長、副会長、あとは……あいつのバンドだな」
ロリ「1人は幽霊部員だけど、実力は折り紙つきにょ」
不良「私は出れねーの?」
副部長はわかりやすく慌てている。性格が良いんだろうなぁ、普通は面倒臭いから無視する。
会長「――難しいだろうな、未経験ですまない」
不良「ちっ……」
派手な女は遺憾の意を表明していらっしゃる。
斯く言う俺も、この理不尽に対しては我慢できそうにない。表情に出てしまっているだろうか?うん、多分出てる。
ロリ「皆が話の分かる人で助かったにょ」
部長「練習に専念できる。悪いな皆、入賞できるように頑張るぜ」
男「うん……?」
少しばかりはっきりさせないといけない所が出てきたな、まさか……なぁなぁで終わらせるつもりか?
新入部員にとっては大事な……
会長「待て」
この人が黙っている筈がないか。
会長「認識のズレがあるな。まさかだが……」
会長「――新入部員には部室を一切使わせないつもりか?」
ロリ「……許して欲しいにょ」
部長「……」
部長とロリ先輩、二人の三年生は項垂れるように頭を下げた。
本当に申し訳が無いのだろう、この選択は間違っていない。
はたして、周りを犠牲にしても良いのか?
男「……」
音楽ってのはもっと、こう、楽しくやるべきだと思う。
会長「新入部員はどこか練習をできる場所を探すしかないな」
不良「ざけんなよ……あいつらにどんな顔して……」
派手女も理解はしていると思う。
しかし、納得はできないのだろう。
男「ひとつ良いですか」
部長「……ん?」
ロリ「にょ?」
あっけらかんとしている。この二人は会長の機嫌さえ、伺えば良いと思っていらっしゃいます。
男「――こんな部活潰れてしまえば良い」
男「だいたいさ、先輩方は誰と話してますか?」
ロリ「それは……みん」
男「会長ですよね」
部長「ちがうって、だからこそ皆を……」
男「だったら少しは俺とこいつを見て話してくれませんかね」
人差し指を指して、派手女を強調してやった。少しくらいは言わせてもらう。
不良「……」
このまま蚊帳の外にされるくらいなら、反抗したって良いだろう。
会長「男」
止められても関係ない、まだ言いたい事はある。
男「部活なんだから、もっと気楽に伸び伸びと楽しくやったって良いと思いますよ」
ロリ「今はそれどころじゃ……」
男「それどころか、手遅れですよね」
部長「それでも協力してくれ」
ロリ「分かって欲しいにょ……」
部長とロリ先輩は苦虫を噛み潰したよう顔をしているのにも関わらず、これ以上は言い返して来なかった。
会長「男、少し黙れ」
男「……」
俺を制した会長と言われるがままの二人は、再び三人だけの世界に入ってしまった。こうなると取り付く島も無い。
副会長「……」ズズッ
副部長「――コーラ、メロンソーダ、ジンジャエール、スプライ〇、オレンジジュース、ウーロン茶、紅茶、お水、あ……野菜ジュースもあるなぁ」ブツブツ
副会長が静かにコーンポタージュを啜っているのとは対照的に、副部長はドリンクバーで皆のジュースを一心不乱、ただただ注いでいる。
副部長が取り乱しているのを見ている以上、副会長が俺に対して無反応なのも腹立たしい。
少し言ってやる。
周りに聞こえないくらい小さな声で、顔を近づけてから。
男「……」ズイッ
男「会長以外に言われるのはどうでも良いですか?」ボソッ
副会長「違います。むしろ驚きました、感心しています」ボソッ
男「え……?」ボソッ
副会長「ここまで自我が強い人は初めてですから」ボソッ
男「俺の自我が?」ボソッ
どうやら、副会長は感心しているらしい。普通の事を言ったに過ぎないと思っていたけど……自我ってなんだよ。
副会長「はい、ここまで自分の考えを単刀直入に伝える人なんて、私の知る限りはこの部活に居なかったので」ボソッ
男「生意気に見えたりしましたか?」ボソッ
副会長「いえ、思った事はこれからもビシバシ、言っても良いと思います」ボソッ
不良「あのさぁ……私の後ろで話してるけどさ、全部聞こえてるからな」
不良「コソコソ話はもっと皆に聞こえない所でやれよ」
副会長「そうですね、では男君、外に出ましょう」
男「え、まだ話す事ありましたっけ?」
わざわざ外に出てまでする事じゃないだろう。
不良「バカか!私をどかせば良いだろ!」
副会長「それもそうですね、てっきり動かないかと」
不良「頼めばどくよ!私をなんだと思ってる!?」
男「意外とまともだ……」
不良「お前らがおかしーんだろ!!」
どうやら、この派手な女はまともな感性を持ち合わせているらしい。
仲間だ、仲間。
男「そう言えば、君の名前はなんて言うの?」
副会長「……先程私が彼女の名前を言ったような」
そうだったっけ?全く覚えていない。
不良「めんどくさ……不良だよ」
不良「あ、お前の名前はいいよ、皆言ってるから」
男「そういえば事あるごとに名前を呼ばれてたような……」
不良「って訳だから名前は知ってる」
男「そっかそっか……よろしくな不良」
不良「ん……こちらこそよろしくな」
不良「男……」ボソッ
男「ん?」
最後なんて言った?
まぁ、唯一の一年生同士だ、仲良くしないとな。
問いただす事によって癇に障ると面倒だ、気にしないでおこう。
副会長「副部長!入れすぎです!」
男「!」ギョッ
副部長「みんな~ジュースだよ~」アハハ
副部長の運ぶトレーには、ドリンクバーから注いできたジュースがこれでもかと言う程、載せられていた。
グラスを限界まで載せている為か、ガラス同士の軋む音がささやかに響いていた。
ロリ「どうしてこんなに入れて来たにょ!」
副部長「け、険悪なムードだったから……ここはひとつジュースでも飲んでもらって……」
部長「変な事やってんな」
会長「こぼしてしまうな」
部長と会長は、まるで他人事のように興味が無かった。少しは周りに気を配ってください。
不良「ばっ、ばかー!グラスが落ちるだろー!」
副部長「あっ」
不良の言う通り、一つのグラスがトレーから落下してしまった。ましてや俺の足元に――
ピタッ
落ちる筈だった。
副部長「危なかった~」アセアセ
副部長は右足の爪先、しかもヒールでグラスの落下を止め、支えている。どこかの雑伎団ですか貴女は。
不良「あっ……あ……あ」
不良は仰天しているだけだった。本当にそれだけ、俺はもっと驚いてるけどね、最初は副部長の蹴りかと思ったもん、本当に怖かった。
パンツが見えそうなので俯くしかない、変態扱いされた上に軽蔑対象になるのは嫌だからな。
副部長「あ、男君、取ってくれると助かるな」
男「……はい」
できるだけ副部長からは目を背けてグラスを取る。緊張のせいで汗が止まらない。
男「んっ……」ゴクゴク
手に取ったグラスの中身はコーラだった。
――副部長の下着と同じだ。
不良「汗すげーけど、どうした?」
男「俺は神経質なんだ……」
見てしまったのだが。
不良「???」キョトン
副部長「よいしょ」トンッ
副部長はトレーをテーブルの空いたスペースへと置いて、席に戻った。
ロリ「沢山持って来たにょねにょ~」
男「あれ?」
ロリ「はっ!」ビクッ
部長「どうした?男」
男「今、ロリ先輩の語尾がおかしかったような……」
部長「あ~そんなの若づく……」
ロリ「にょ!!」
ゴキィ!!!!
ロリ先輩の肘打ちが部長の顎にクリーンヒットした。
一体どういう事だろうか。
そして解散となり、部長、副部長、副会長は学園の部室へと練習をしに行った。
ロリ「君達だけの練習場所なんてあるのかにょ?」
会長「近くに丁度良いコンサートホールがある」
そう言えば昔は何度も何度も嫌になるほど、そこのホールに行ってたな……
子供の時の記憶ながら、賑わっていた気がする。
男「……坂の上ですよね、俺の家の近くだ」
ロリ「凄い偶然だにょ」
会長「そう、毎日のようにオーケストラが来る人気コンサートホールだ」
男「そんな人気コンサートホールで練習なんて、どうやって?」
会長「昔は使われていたが、今は使われていない防音室がある。なんでも、その部屋自体を過去にとある人間へと売った事によって、体裁上は他人に貸せないらしい」
男「……」
どくんっどくんっ
不良「お、おい、大丈夫か?」
胸の音が聞こえてくる。
周りの風景が普通よりもゆっくり動き、冷たくて嫌な汗が全身にじんわりと溢れてくる。どうしてだろう、こんな感覚、覚醒状態はここ最近では滅多に無かったのに。
男「あっ、そう言えば!半年前に建てられたばかりのレコーディングルームがありますよ!」
!?
男「機材も全部最新かつ完全防音です」
考えるよりも早く、言葉に出てしまった。
そうか、まだ怖いのか、俺は。
会長「設備が整っているに越したことはないが……私達はあくまで学生であるから金は――」
男「かかりません」
会長「なっ……」
男「俺の家ですから」
ロリ「君の家は金持ちかにょ?」
男「普通っす」
不良「普通の家がこんな部屋持ってるかよ……ドラムも電子ドラムもあるじゃん……」
会長「凄い……」
会長は素直に驚き、目を輝かせながらレコーディングルームを見回していた。
不良「とりあえず、会長と私と男の3人でバンドを組むのが決まったな」
ロリ「私は初心者二人の先生役だにょ」
男「……」
この人に教わるのは少々癪だが――あれ?
男「ロリ先輩って、ベースですよね?」
ロリ「私は副部長よりもギターが上手で、副会長よりもドラムが上手だにょ」
男「す、すごい……」
ロリ「ドラムは副会長に抜かされそうだけど、ギターとベースに関しては心配しなくても良いにょ」
不良「へ~」
不良は余裕綽々と言った様子で、笑みまで浮かべている。
あの様子では、相当自分の腕に自信があるのか。
不良「じゃあ、私がドラム、男がギター、会長がベースで良いか?」
男「そうだね」
不良「ボーカルはギターの男か?」
男「会長もボーカルをやりたいらしい」
会長「それについてだが、私は降りようと思う」
男「え?」
会長「ベースを弾きながら歌うのはできるようになると思うが、人前で歌うのは恥ずかしい」
男「……」
元アイドルがそれを言うか……
不良「ふーん、どんな歌声か知らないけど本人がそういうのなら、それで良いんじゃね?」
あれ?こいつ……そういえば俺と会長のライブに居たよな?
ほぼ別人の俺に気付かないのは当然として……会長にすら気付いていないのか。
ロリ「とりあえず、君がどんな声か、どれだけ歌えるかを知る必要があるにょ」
男「分かりました」
――あれ?
男「あれ?」
――オレノコエッテナンダ?
男「すこし、皆には出てもらっていいかな」
会長「?」
不良「お前も恥ずかしいのか?」
ロリ「……私だけは残っても良いかにょ?」
男「……まぁ、はい」
不良と会長の二人は戸惑いつつも、レコーディングルームのドアの向こう側で待っている。
今、この部屋は、俺とロリ先輩だけだ。
ロリ「声が震えてるにょ」
男「俺の声……」
俺の声で今流行りの歌を歌う。
ロリ「……」
一番の途中で歌うのをやめてしまった。
男「俺、ボーカル降ります」
綺羅星ソニアの声なら素晴らしい歌を歌えるかも知れない、でも、男の俺の声はどうしようもなかった。
カラオケの採点では点数を取れるかもしれないが、歌に感情や魅力が一欠片も存在していない。
俺は、俺の声が分からなくなっていた。にわかに様々な声を使い分けられるからか、本当の自分の声を失ってしまった。
きっとあの時から俺の声は――
ロリ「上手だけど普通だった、何か縛られたような、そんな声だね」
ロリ「時間がなんとかしてくれると……思う」ナデナデ
男「……」
頭を撫でられてしまった。
そんな必死に手を伸ばしてまで頭を撫でなくたって良いだろう。
男「あれ?」
そういえば、先輩の口調がおかしかったような……
男「ロリ先輩、変な口調になってませんでしたか?」
ロリ「気のせいだにょ」
男「そんな筈は……」
ロリ「キノセイダニョ」
男「えっ……」
ロリ「きのせいだにょ」
男「は、はい」
もうこの人の深い部分に触れるのはやめよう、これ以上触れたら被害を被る羽目になりそうだ。
ロリ「じゃあ、会長の声を聞いてみるかにょ」
男「良い声してますよ」
そう、あの人ならいい歌を……
ガチャッ
ロリ先輩が扉を開けるやいなや、不良と会長は二人同時にこの部屋へと踏み込んだ。
会長「綺麗な声でしょう!?」
不良「凄かったのか!?」
不良と会長の二人は、ロリ先輩に対して掴みかかるように迫った。
ロリ「????」
呆然としている。
それはそうだろう、俺が発する実際の声に反して期待値が高過ぎる。
男「……」
会長は綺羅星ソニアの声を想像し、不良は会長の誇大表現に騙されたのだろう。
ロリ「あ~、普通に上手な声だったにょ」
ロリ「今の所、男は第一候補だけど……会長の声も確かめたいにょ」
庇って貰った……
最初は不快でしかなかった人に庇ってもらうのはどうにもこそばゆい、この人は俺の想像以上に大人びている。
ロリ「会長も歌うにょ」ゴゴゴゴ
会長「え゛」
明らかな拒絶反応、会長はロリ先輩の異様な雰囲気と提案にたじろいだ。
会長「うっ……ぐ……」
会長「同じボーカル志望の後輩に歌わせるだけ歌わせて、学園の代表たる生徒会長が歌わないのは有り得ないにょ~」
そういえばこの人は綺麗な声をしているのに、人前に立つとぎこちない笑顔とぎこちない歌だったな……会長がアイドルの時は全てが台無しだったのを覚えている。
メイクも含めて……
会長「人前で歌うのは嫌だ……」
男「……」
あんなヘンテコなメイクをして人前で歌っておいて……?
いや、ヘンテコなメイクだからこそ人前で歌えるのか……会長ではないから……別人だから。
男「会長、歌ってみましょう」
会長「っ……!」
不良「私はドラムだからパース」
男「そういえば不良はドラムって言ってたね」
不良「おう、副会長?よりは叩けるぜ」
会長が控え室でメイクを落とした時は驚いた。
それはもう、アイドルの時とは全くの別人だ。どうしてあの顔をあそこまで変に出来るのか、俺には理解できない。
ロリ「歌うのは恥ずかしい事じゃないにょ、バンドなら尚更……」
ロリ「皆が後ろから支えてくれるにょ」ニコッ
会長「――!」
アイドルの時とは違う、いつも聞こえる素の綺麗な声を……歌を……俺は聞きたい。
会長「良いだろう」
不良「……」ナデナデ
会長「歌ってみよう……」
ロリ「……」ナデナデ
会長「二人して撫でるな!!」
不良とロリ先輩の二人はそれでも会長を撫で続けた。
男「じゃあ、俺と不良は席を外しますかね」
不良「そうだな」
せめてロリ先輩と会長の二人きりにしよう。これで会長も少しは歌いやすくなる。
会長「いや、いい」
不良「……ふーん」
ロリ「まずは私の前だけでもいいにょ?」
会長「後ろから支えてくれる人に聞かせないのは失礼だ、歌う」
男「――!」
カッコイイなこの人、男前というか。
不良「ところで何を歌うんだ?」
会長「……」
不良「……」
ロリ「……」
男「……」ゴクッ
会長「無い……!」
男・不良「無いのかよ!!」
ロリ「分かった……!学生時代の合唱曲なら歌えるにょ!」
会長「それだ!」
ロリ「カタブツなら……この曲が……」ブツブツ
会長「いま何か言わなかったか?カタブツとか……」
カタブツが気に食わなかったのか、目が殺る気に満ち溢れている、早く気を逸らさなければ。
瞬時に空気を理解した俺と不良は会長の前に立ち、これから歌うのを促した。
男「そんな事よりもほら!曲が流れますよ!!!」
不良「ほらほら!」
ドゥ----ドゥ---ドゥ------ドゥ--ドゥ-----ドゥ----ドゥ---
会長「きー〇ーがーーあーーよーーぉーー〇ーー」
男「〇が代じゃねえか!!」
不良「合唱曲どころか国〇だろうが!!」
ロリ「二人共うるさいにょ~」
会長「ちー〇ーにーぃーーやーちーぃーー〇ぉーーにぃーーー」
ロリ「……」
不良「この歌はかなり難しいって知ってるか?」
男「え?そうなの?」
不良「プロでも完璧に歌える人は少ないんだよ」
テンポ、リズム、間は残念……だが、歌声は素晴らしい物だった。
会長の歌は透き通るように清らかではあるものの、クセや個性が率直に訴えかけ、奥行きのある……そんな言葉じゃ物足りないぐらいだった。
不良「キーは完璧、ちょっと綺麗すぎるけどな……何よりも」
不良「すげえ……」
不良は単純に感動しているかのようだった。目を瞑って聞き入っている。
ロリ「あの人以上……凄い事になるかも……ベースなんかをやらせても勿体無い……ギターで主軸に、伝説に……」ボソッ
ロリ先輩は何かを呟きながら聞いていた。
果たして先輩は何を考えているのか……
会長の歌は、力があってなおかつ綺麗で響いて……ああ、そんな説明じゃあ足りない。そうだ、この人の声には……
会長「こーーけーーのーーーー」
――魅力がある。
男「妬いちゃうなぁ……」ボソッ
会長はアイドルなんかじゃない、単純にボーカリストとして天才だった。
そして――
俺の欲しい物は全てこの人が持っていた。
>>6
訂正
会長「園咲魅苑でーす♡」ニッコォ
↓
会長「遥奏風でーす♡」ニッコォ
>>174
訂正
俺の欲しい物は全てこの人が持っていた。
↓
俺の欲しい物は全てこの人が持ち合わせていた。
今日の分はここまでです
>>172
訂正
会長「同じボーカル志望の後輩に歌わせるだけ歌わせて、学園の代表たる生徒会長が歌わないのは有り得ないにょ~」
↓
ロリ「同じボーカル志望の後輩に歌わせるだけ歌わせて、学園の代表たる生徒会長が歌わないのは有り得ないにょ~」
会長「――」
会長「どうだ?」カアァァ
ロリ「顔が赤いにょ~」
会長「からかわないでください」
男「これからどうなるかな」
不良「さーな、まだ人が足りない」
男「だね」
ロリ「君達は部長のバンドを越えるバンドになれるにょ」
ロリ「まずはそれを目標に……」男「ぷっ!」
不良「ははっ!」
俺と不良は心の底から吹き出してしまった。
たかだか同じ学生のバンドを越える事が目標?それだけじゃ甘い。
男「目指すはもっと上ですよ」
不良「だな」
会長「だ、そうだ」
ロリ「その為にはパート変更だにょ」
不良「だな」
男・会長「え?」
会長「パート変更とはどういう事ですか?」
不良「会長さんはいずれとは言ってたけど、今、歌いながらベース弾けんの?」
先程まではだなだな言っていた不良が一転、真剣に切り出した。
会長「……無理だ」
会長は真剣に考え込んでから答えた。
俺もやっとこさ不良の言葉の意味を理解する。
男「あ~そういう事か」
そうだ、不良の言う通り、ギター、もしくはベースを弾きながら歌うのは難しそうだ。
不良「慣れたらいけっけどよ、今は到底無理。特にベースを弾きながら歌うのはギターを弾きながら歌うよりも難しい」
会長「そうなのか……」
男「となると、会長はボーカルだ」
会長「? ボーカルは私で確定なのか?」
不良「ベースが空いちゃった」
会長「待ってくれ、答えて欲しい」
男「人が足りない……」
会長「ボーカルは恥ずかし……」
ロリ「仕方ないにょ~!」
ロリ「私がベースをやってやるにょ!!」
>>165
訂正
あれ?こいつ……そういえば俺と会長のライブに居たよな?
ほぼ別人の俺に気付かないのは当然として……会長にすら気付いていないのか。
↓
あれ?こいつ……そういえば俺と会長のライブに居たよな?
ほぼ別人の俺に気付かないのは当然として……会長にすら気付いていないのか?
いや、気づく訳がなかった。俺は隣で踊っていた会長のメイクの事をすっかり忘れていたのだった。
>>53
訂正
副会長「とってもいい音なんだよ、副会長のドラム」
↓
副部長「とってもいい音なんだよ、副会長のドラム」
男「え?本当に?」
会長「だから……」
不良「あんた3年じゃん」
ロリ「安心して欲しいにょ、メンバーが見つかるまでの間だにょ」
会長「私の意見も……!」
不良「そっか、ならいっか」
男「ですね、最悪、卒業まで居てもらうかもですけど」
ロリ(……)
ロリ(廃部を考えていない、ううん、させるつもりが無いんだね)
ロリ(でも、現状だとそれは難しいかな)
ロリ(とても強い子だ)
男「じゃあ早速ですけど、ギターを教えてもらっても良いですか?」
ロリ「分かったにょ~」
会長「私はベースを……」
ロリ「私はボーカルもある程度は出来るから安心するにょ」ニッコリ
会長「うぅ……」
不良「とりあえず私と男と会長でなんか演奏してみるか?」
男「名案!」ビッ
これでもかと両手の人差し指を向けてやった。不良はやはりノリも良い。
ロリ「ま、まぁ、とりあえずやってみる、にょ」
会長「君が〇でいいか?」
男「良いんじゃない?」
歌うのかよ。
不良「それ以外歌えないの?」
会長「交響曲も歌えるな」
不良「あ~童謡は?」
不良は会長が歌える曲の種類が分かったようだ、そう、主に音楽の授業等で習うお高い音楽だ。
会長「なんでも大丈夫だ」
不良「とは言うものの、かごめの奴しか知らねーな」
かごめの奴ってなんだ、かご〇かごめだろう。
不良「よしっ!」
ダダダダッ
小気味の良い音をしたドラムがこの一瞬で流れる。え、こんなにも早く叩けるのか?
俺は直様、かごめかごめのコード譜をスマートフォンで閲覧。うん、全く分からない。
不良「いくぞー」ダダッ
男「えっ、ちょ!」
少しは待ってくれ!
ロリ「ふーん、まぁ、こんな感じにょ」
ロリ先輩が俺の後ろから手を持ってリードしてくれるおかげで少しは弾けるようになった、正直言うとありがたい。
これなら……!
会長「かーごめーかーごーめーーかーごのなーかの――」
上手く行く筈がなかった。
ロリ「あ、ここもうすこししっかりと」
男「えっ?」
会長「いーつーいーつ~♪」
不良「……」
歌とドラムはとても立派だが、俺自身のギターが補佐付きにも関わらず下手糞な為、不協和音と化してしまった。
会長の綺麗な声がどうしてか恐怖を煽る。
そういえば都市伝説にもなっているよな、この童謡。
不良の顔も青ざめていた。
会長「――うしろのしょうめんだぁれ?」
ただただ不協和音。
あえて細く小さくしたであろう、会長の声が恐怖を頂点に誘った。
不良「こえーよ!!!」
曲が終ってからすぐに、顔面蒼白の不良が吼えた。
俺だって怖かった、途中で手が震えてしまったよ。
不良「ギター!なんで音が震えるんだよ!わざと?わざとだろ!?」
男「俺もロリ先輩も怖くて震えてたんだよ」
ロリ「ほんとに怖かったにょ、誰かお手洗いに付き合って欲しいにょ」
子供か。
会長「ふむ、私が言うのもなんだが、支離滅裂だった」
不良「最後、声小さくしたのはどうして?」
会長「雰囲気に合うと……」
この人はノリノリだった。
男「それでも、わかった事がある」
不良「え?」
男「俺は足でまといって事」
不良「そんな事は…」
こいつはやっぱり優しい。しかし、俺にそんな気遣いは不要。
ロリ「私がずっとつきっきりで教えてあげるから安心するにょ」
不良「そりゃ安心だな」
会長「そろそろ解散しよう」
男「もうこんな時間か……」
不良「バンド名考えこいよ~」
ロリ「荷物取ってくるにょ」
会長「お邪魔しました」
ガチャ
三人は一緒に帰っていった。
祖母「……」
男「……」
おばあちゃんが立っていた。いつの間にと言いたい所だが、黙っておこう。
祖母「あなた……一人にしなさいよ」
男「んなアホな」
ピンポ-ン
男「ん?」
あれから数時間後、家族で夕食を取っていると、突然のチャイムが鳴り響いた。
祖母「はーい」ドタバタ
男「こんな時間に誰が……」チラッ
ピンポンが鳴ったにも関わらず、インターホンのカメラには誰も写っていない。
祖父「また女か?」
男「やめてよおじいちゃん」
冗談でもそう言われるのは不快だった。同じバンドのメンバー、とにかく心外だ。
ダダッダッダッ
ガチャ
リビングのドアが勢い良く開くと、ロリ先輩が落ち着かない様子で辺りを見回しながら入って来た。
ロリ「ご飯食べたらギター弾くにょ~」
男「はああああぁ!!??」
祖母「わざわざ男にギター?を教えてくれるのよ、感謝しなさい」
男「わざわざこんな時間に!?危ないから帰ってくださいよ!」
祖母「お隣さんに失礼ね」
ロリ「あ、言うの忘れてたにょ」
男「」
心底驚いた、そういうのは先に言ってくださいよ先輩。
祖母「ロリちゃんも食べる~?」
ロリ「それじゃあ少しだけ頂きますにょ」
図々しいなこの人。
不良「という訳で」
男「れんしゅうだー!ろっくんろーる!」オ-ッ
男「じゃねーよ!」ビシッ
ロリ「流れるようなノリツッコミだにょ」
不良「怒ると言葉遣いが荒くなるんだな」
男「そりゃ悪くなるだろうが!」ガ-ッ
俺の怒号がレコーディングルームに響き渡っても、誰も気にする素振りすら見せない。
少しはこっちを見ろ。
ロリ「全員が近所に住んでいるのは嬉しい誤算だにょ」
会長「私は坂を下るだけ」
不良「私はすぐそこ」
ロリ「私なんか隣だにょ~☆」
会長・不良「「それはすごい」」
男「今すぐ全員引っ越してください、4駅程離れた所に」
ロリ「じゃあ夜の練習始めるにょ~」
男「俺のレコーディングルームを部活で使うな~~~っ!!!」
虚しい叫びは誰にも届かない。
これから受難の日々が待ち受けているのは間違い無かった。
to be continued…
一旦ここまでです。
第一章 音楽の魔法(仮)
でした
第二章はかなり先の更新になります。できるだけこのスレで続きを投下したいのですが、状況次第ではこのスレを落としてから新スレを建てる可能性もございます。
勿論、その時は誘導致します。
これまでの支援ありがとうございます。
第二章のタイトルは“笑顔の魔法(仮)”です。もしこのSSを見てくださった方が居たら、今暫くお待ちください。
質問等があったら出来る範囲でお答えします。
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