ちひろ「お金しかない」 (78)
ちひろ好きは胸糞注意
社長「おや、おはようモバPくん。やけに早い出勤じゃあないか」
モバP(以下P)「社長、おはようございます。なんだかよく眠れなくて早起きになってしまいまして…せっかくなので早めに来てしまいました」
社長「そうか…まあ千川くんが去ってしまって寂しいからだろう。私も君と全く同じで早起きしてしまったよ」
そう言って優しく僕に微笑む社長の頬は寂しそうに朝日に照らされていた。
社長「千川くんがいないだけでこうも事務所が寂しくなるとはねぇ…いやしかし、まさかあの346プロからお声がかかるとは驚きだよ。」
P「そう…ですね。まさかこんな事になるとは」
社長「全く思わなかったよ。ああ、そうだこれ」
P「これは…手紙ですか」
社長「千川くんのデスクを片している時に見つけたんだよ。君宛の手紙さ。千川くんが君にのこしたものだ」
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初投稿です
所々変な言葉とか文章になってたりしたら指摘してくれると嬉しいです
あと、ちひろさんが散々痛い目あうのでちひろさんが好きな方は胸糞注意です
P「ありがとうございます…」
社長は便箋を僕に渡すと、新しい事務員も探さないとね、と呟きながら重い足取りでこの場を去っていった。
P「まだこんな時間か…」
…相当早く出勤してしまったようで、まだ仕事まで時間もある。
仕事前に手紙を読んでしまおうか。
そうして僕は何の飾り気もない白い便箋を、何の飾り気もなく口を破り、手紙を取り出した。
モバPさんへ。
ちひろです。
あなたにはとてもお世話になったので私の気持ちを書くことにしました。
こういったものを書くのは初めてでして、何かおかしな点だとか変な文章になってたりしても目を瞑って頂けると助かります。
あなたとの初めての出会いはちょうど1年半前くらいのことでしょうか?
P「は、初めまして!僕はきょ、今日からこのxxxプロで働かせていただくモバPと申しま、す!」
プロデューサーとしても、社会人としても新人だったあの若々しい挨拶は今でも思い出すと少し笑ってしまいます。
それからあなたは暫くして、初めてアイドルを担当することになりましたね。
乃々さんとはまだ上手くやれてますか?
今思えば、その頃まではとても幸せでした。
そしてその頃はそれが幸せだということも自覚できていませんでした。
だから、あの件が起きた時にああ、なんで今までの幸せを堪能しとかなかったのかな、ってとても後悔しました。いや、今もしてます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ちひろ「あ、モバPさんおかえりなさい。どうでした?営業の方は」
P「いや…その…」
モバPさんの顔色がなんだかおかしいですね…
何か失敗でもしたのでしょうか?
ちひろ「…なにか営業先でありましたか?」
P「その…XXXレコードの重役の方に乃々を…枕として寄越すように言われて…」
枕…枕営業…
しかも相手のXXXレコードは超大企業ですね。
私達のプロダクションからも多数のアイドルがお世話になっている…
ちひろ「えっと…社長には相談されましたか?」
P「しました…ですが、社長は…僕達はあちらにはとてもお世話になっていて…これを断れば乃々以外のアイドルにも影響がでかねないと…」
ちひろ「で、では相手の方を訴えるというのは?乃々ちゃんはまだ14歳ですし…」
P「それをしたとして、今後向こうの会社からの贔屓が無くなればウチの事務所にも影響がでます…それに乃々は…」
ああ、そうか。
P「乃々は親戚の誘いでアイドルをやっているんです。こんなこと受けてしまったらより芸能界に嫌気が刺して辞めてしまうかもしれない…」
いいえモバPさん。
私はわかってます。
最近の乃々ちゃんはむりむり言いながら結構あなたとのアイドル活動を楽しんでますよ。
そして、あなたが乃々ちゃんを気にするのは、乃々ちゃんのアイドル活動を続けさせたいだけ…じゃないってことも。
ああ、どうかそんな悲しい顔を見せないでください。
私にいつもの笑顔を見せてください。
そのためなら私は…
ちひろ「私に一つ考えがあります」
この時の私はあなたに惚れていたのかもしれませんね。
結構2人で長い時間過ごしたし、おかしくないことですよね。
だから私はあんな提案をしてしまったのでしょう。
あの時の私は、本当に馬鹿で愚かで、どうしようもない人だと思っています。
~~~~~~~~~~~~~~~~
P「ちひろさんが乃々の代わりになる…?それってつまり」
ちひろ「私がその重役さんに抱かれればいいんです。乃々さんを要求されたみたいですが、ようは満足させてしまえばいいんでしょう?」
そういって千川さんは微笑んで見せた。
強がりだ。
この笑顔は作り物だ、仮面だ。
僕は自分が鈍感なやつだとは思っているが流石にわかる程の仮面だ。
それほど歪で、無理くりはめたような、上下逆さまに装着したかのような、そんな強烈な違和感を放つ、異彩な仮面だ。
P「しかしそんなことしたらちひろさんは…!」
ちひろ「いいんです!私だってもう大人です…初めてって訳でもないですし、事務所のためですから文字通り一肌脱げますよ!」
あえて気丈に振舞っているに違いない。
止めなくては。
しかし、止めてどうなる?
止めてどうにかなる?
僕はどうすればいいんだ。
ちひろ「その重役さんの連絡先を教えてください。あとは私がやりますから…」
それから先の事はあまり覚えていない。
ちひろさんの提案を受け入れた自分の罪悪感、はたまた何もできない自分の情けなさ、もしくはその両方か。
それらに押し潰されない為に、僕は忘れたのだろう。
ああ、本当に思い出すだけでも嫌になります。
私はあなたに笑顔でいてほしかった、それに私はあなたに良い顔を見せていたかった。
そんな下らない事であんな提案をしてしまった。
それが嫌で嫌で嫌で嫌で嫌でたまらないんです
でも、それも、それすらもただのはじまりでしたね
これからかく事、わたしの気持ち
あなたは知らないかもしれないですね。
いやたぶん、知らないだろう。
~~~~~~~~~~~~~~~~
千川さんにあの話をしてから一週間がたった。
あれ以来千川さんは枕についての話題を一切出してこなかった。
きっと触れられたくない事なのだろうな。
それに悲しい顔をしたり、辛い表情を見せたりもしないから、そもそももう「行為」に至ったのかすらも分からないし、聞けない。
そんな事を考えているともう僕達の事務所の前まで来ていた。
ここ最近はこの扉と重く感じる。
中を覗けば千川さんが1人泣いているのではないか、そんな事を考えてしまうからだ。
しかし未だ彼女は泣くどころか、辛い顔一つ見せないでいた。
P「おはようございます」
ちひろ「あ、おはようございますモバPさん。今日のお仕事は~~~」
千川さんは今日もいつも通りだ。
もしかして、千川さんにとっては例の「行為」もそんなに気にする程の事じゃないんだろうか。
大人の女…というものだろうか。
と勝手に自分の中で結論づけてしまった。
(恐らく自分の罪悪感から逃れよう無意識にしたことだろうが)
私はモバPさんとあの話をした次の日曜日に「行為」に及びました。
それでも私は、あなたに迷惑をかけまい、あなたに辛い顔をさせまいと、そんな事を思いながらいつも通りの私を演じるようにしていました。
おかしいですよね
いつも通りを演じるなんて、それはもういつもどおりではないのでは
あなたは私とあうと、いつも拍子抜けた顔をしていましたよ
きつとわたしがなにも感じていないような態どを取るから、きっと私は何も問題ないときっとあなたは思ったんじゃないですか?
そんな訳ない。
私は辛かったんですよ。
知らないオトコに抱かれ、道具のようにあつかわれたのです。
しかも、あの人は私を求めていなかったから、乃々ちゃんを求めていたから、私で満足してもらうためには、色々な、ご奉仕しましたから。
私は自分で心配されないような態度を取っていた反面、あなたに心配されなくなっていったことが地獄のようでした。
しかしそれは自業自得ですよね。
自分で心配されないようにした癖にですから。
ほんとバカでしたね。
でもね、自業自得じゃないこともありました、
地獄は底を見せてはいなかったんです。
ちひろ「あ、モバPさんおつかれさまです。いつもの、スタドリです。」
P「あ、いつもありがとうございます。これ、お金です」
最近モバPさんは私がスタドリを渡すと、少し多めにお金を払ってきます。
私はそんなもの求めてないんです。
私はただあなたに…
あなたに…なんでしたっけ
なんで私はあなたにこんなことをしているんでしたっけ?
ちひろ「そんな…お金なんかいらないって、いつも言ってるじゃないですか。それにこんな高くないですよ」
P「いえいえ、なんていうかいつもお世話になってるから、そのお礼です。
では、スタドリも貰ったことですしこれで元気出して営業行ってきますね」
そういうと俺は逃げるようにこの場を後にした。
お金を無理に渡したのは、あの件の罪悪感からなんだろうか。
あの件を千川さんに任せてしまった事を後悔して、そしてそれを、自分の罪を償っているつもりでお金を渡しているのだろうか。
自分でもハッキリしない。
いや、考える事を放棄しているんだ。
考えれば考えるほど、弱い自分が、何もできなかった自分が嫌いになりそうで。
~~~~~~~~~~~~~~~
あなたはきっと善意から私にお金を渡していたんでしょう。
しかしそれはあなたの全く意図しない方向から私に攻撃を与えてきましたよ。
なんでもっとかんがえなかったんです?
大人のおとこが、おとなの女にお金を渡す。
しかも札を。
それを見たアイドルは誤解し、誤解を噂で広め、そしてそれはやがてアイドル達の中では誤解ではなくなってしまうんですよ。
***「ねえ、知ってる?あの話」
○○○「あの話って?」
***「ちひろさんの話だよ~なんだかプロデューサーにお金貰ってたんだって~」
○○○「へー。で、それがどうしたの?」
***「週1くらいでお金貰ってるらしいんだ!これってアレじゃない?」
○○○「アレって…アレ?」
***「うん!プロデューサー、お金渡すときなんだか切なそうな顔してたらしいしーやっぱちひろさんが身体売ってんじゃないのーーって!」
○○○「え、それやばくない?そんなんヤリマンじゃん」
誤解も誤解である事に気づかなかったら、誰も間違いを指摘しなかったら、それは彼女達の中では真実になってしまうんです。
そしていつしか私は事務所内ではアイドルの冷ややかな視線を受け続けるようになりました。
最初は下らないと思ってましたが、これまた長く続くと精神的に来る物がありましたね。
みんな私を遠巻きに見るのです。
まるで動物園の猿を見るように。
とはいえ、私は事実、よごれているのでしょうね。
重役さんに抱かれたのも一度ではありませんし。
しらなかったでしょう?
彼が乃々ちゃんではなく、私で我慢するのには条件があったのです。
1つ、毎週日曜日は身体を重ねること
2つ、「行為」の最中は私は絶対に言うことを聞くこと
3つ、避妊具はせず、「行為」の後にピルを飲むこと
4つ、私は誰とも付き合わず、重役さんとだけ身体の関係を続けること
5つ、重役さんの私生活には一切干渉しないこと
そう、彼からしたら私はただの都合の良い道具です。
身体の欲求を満たすためだけの人形です。
こんな汚らしい女ですもの。
アイドルの方々に冷ややかな視線も向けられても仕方ないですかね。
なんて自虐的な事を書いてみてもただただ虚しいだけですが。
思ったより長くなってしまいましたね。
読むの大変でしたらすみません。
最後に、私がこんなことを書くキッカケとなったこと。
それを今から書こうと思います。
あれはつい昨日の事、とはいえこの手紙をいつあなたが見たかによって変わってしまいますが。
そうですね、私の噂が広まってから一ヶ月後くらいでしょうか。
私は見てしまったんです。
あなたと乃々ちゃんの幸せを。
ちひろ「おつかれさまです」
P「あ、千川さん、おつかれさまです」
乃々「おつかれさまです…」
乃々ちゃんはモバPさんが仕事終わるまで待ってるのかしら。
もうすっかり懐いちゃいましたね
乃々がモバPさんを眺める横顔がとても幸せそうです
なぜそんなに幸せでありえるのでしょう。
乃々ちゃん、あなたは何故何もなしにその幸せを堪能できる?
わたしはこんなに傷つき、苦しみ、壊れてきたのにまだ幸せをえられていない。
なのにあなたは携帯電話が電波を受信し続ける様に、まるで幸せが当然であるかのように、平然と幸せを受け取れるの?
ああ、もう見たくない。
わたしはもう一刻も早く事務所から帰りたくて仕方がありませんでした。
ここにいても乃々ちゃんとモバPさんの幸せ空間を永遠とみせられるだけだ。
そんなのこの上ない拷問だ。
三日三晩飲まず食わずの状態で縛られ目の前でステーキをしゃぶられるようなものだ。
私は足早に事務所を去っていった。
ちひろ「あれ…ない…」
どうやら私はスマートフォンを会社におき忘れたようだ。
無かったら少し面倒なのでわざわざ取りに行くことになった。
本当に良いことないな。
こんな小さな事でも死にたくなるほど嫌気がさした。
ましてやモバPさんと乃々ちゃんの二人の世界を覗くことになる、そう考えるだけで気が狂いそうだった。
P「乃々…おいで」
事務所に戻り、私たちの部屋の前にくるとそんな声が聞こえた
乃々「そ、そんな…膝の上は恥ずかしくて…むーりぃ…///」
きくなきくなきくな
P「ほら、そんなこと言ってないで…な?」
そういうとモバPさんは乃々ちゃんを抱え自らの膝の上へ乗せました。
乃々ちゃんは恥ずかしがっているようですが、口角があがっており、彼女の喜びが垣間見えました。
これ以上見たくない。
もうスマートフォンなんて置き去りに消えたい。
そう思う一方でなぜか私の足は石像のように硬く、動きませんでした。
どうしてか、二人の行く末を見つめようとしているのです。
自ら拷問を受けようとしているのです。
P「乃々…好きだ」
乃々「も、もりくぼもです…けど…///」
そうして二人は唇を深く、熱く、長く、重ねました。
私が重役さんとするのとは違う。
愛に、幸せに満ちた
そんな素敵なキスでした。
かつて私が身を削ってまで救おうとした乃々ちゃんとモバPさん。
その2人が今幸せを堪能している。
苦労した甲斐があったんだ。
苦しんで、狂い死んだ甲斐があったんだ。
なんて到底思えなかった。
私は自分を犠牲にしてまで救いたがった癖に、いざ救った後、その2人が幸せそうにしているのを許せないでいたのだ。
気づけばいつの間にか家に帰っていて、ベッドにも入らず床でそのまま寝ていました。
これが私がこの手紙を書くことを決めさせた最大の要因です。
私にはもう希望が無いんです。
あるのはお金だけ。
事務員として一生懸命働いてきて得たお金だけ。
あなたが私に寄越した薄汚いお金だけ。
お金しかないんです。
これだけ苦しんだのに、それなのに私は幸せになれないのです。
その反面、なにも苦しんで無いあいつらが、私の犠牲で得た幸せをあたかも当然のように味わっているんです。
私がモバPさんの笑顔を守ろう、乃々ちゃんを救おう、だなんて馬鹿みたいなこと考えたからそうなったんですかね。
だったらもうどうしようもないですよね。
過去は取り返すことはできないからです。
やり直すことができないのなら全て終わらせるしかないのです。
私は生きてても苦痛を味わい続けるだけなら、これから先もあの人に抱かれ続けるなら、ずっとあなた達の幸せを呆然と眺め続けるくらいなら。
私は逃げます。
幸せという地獄から逃げます。
でも、ただ逃げるためだけに死ぬわけではありません。
あなたに理解してほしいのです。
私が不幸なのはあなたのせいでもあるということを。
あなたがもし私を止めていたらこうはならなかった。
あなたがもし乃々ちゃんを差し出せばこうはならなかった。
あなたがそうしてれば私はしあわせに、生きてこれた、。
どうか苦しんでください。
私のために悩んでください。
私を死なせた罪。
これがあなたの得た幸せの代償です。
幸せが無条件で得られるものだなんて間違っている
それを理解してください。
私はどうせこれ以上生きてても幸せにはなれません。
ならばあなたに幸せの代償を分からせてやるためにこの命を使おうと思います。
この世に未練も何もありません。
これから訪れるあの世という世界を楽しみにしています。
さようなら。
千川さんの遺書を読み終えた僕は、ただ呆然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。
涙も、謝罪の言葉も、怒りも、何も湧き上がるものはなかった。
代わりに一つだけ、僕の心をいっぱいに満たした感情があった。
僕はどうしようもなく馬鹿だったんだ。
千川さんは僕の前では常に笑顔を崩さなかった。
それが何故無理して作っているものと認識できなかった?
一度は気づけたじゃないか。
あの時、枕営業の話をした時は気づけたじゃないか。
それなのになんでそれからはずっと偽物の笑顔を気づけなかった?
いや…そうか。
見ようとしなかったんだ。
僕は彼女の笑顔を正面から見るのを恐れたんだ。
彼女が僕のせいで闇を抱えている事に気づくのが恐怖だったんだ。
僕が乃々を差し出さなかったことで、千川さんを止めなかったことで刻まれた千川さんの傷。
この責任がのしかかるのを恐れ、僕は彼女の笑顔を見て見ぬフリをし続けたんだ。
僕はこの誤魔化しに対してどこか罪悪感を感じていたんだろう。
枕営業の事よりも、自分の目を誤魔化していることの方に。
それを償いたくて、とった手段がお金だった。
スタドリを渡される事に目をつけ、そこでお金を払った。
そうする事で僕は自分の重荷を軽くしようとしていたんだ。
それがどれだけ千川さんには苦痛だったか。
結局僕の肩から外れた重荷はそのまま千川さんの体へのしかかっていっただけだった。
所属アイドル達の噂という形で。
これについては僕は噂自体に全く気付いていなかった。
というのもアイドル達の僕に対する態度は一切変わらなかったし、僕に冷ややかな眼差しを向けることもなかったからだ。
なぜ僕は標的にならず、千川さんが標的にされてしまったのだろう…
事務員なのに持つ、美貌や、顔立ちに嫉妬でもしたのだろうか…
それはいくら考えても仕方のないことなのだろうとは思うが。
これも、僕が幸せだから、とでも言うのだろうか。
もしも乃々を差し出していたらこうはならなかったたのだろうか。
とも考えたが、しかしそんなことできるわけがなかったんだ、という結論が直ぐに出てきた。
何故なら、僕はあの時すでに乃々に惚れていたからだ。
僕は自分の、個人的な感情で乃々を差し出すのを渋ったのだ。
乃々は親戚に誘われてアイドルを始めたからこんなことで芸能界の闇を知り、アイドルをやめるなんてことになってしまったら困る。
そんな建前の下に隠した感情。
惚れた少女の身体を綺麗なままで残したい。
守りたい。
そんな勝手な理由で、僕はちひろさんを汚させたのだ。
思考を巡らせれば巡らせるほどに、マグマのような湧き上がる嫌悪感、自己嫌悪の感情に僕の胸は満たされていった。
そんな風に未だ呆然と立ち尽くし動けない僕にの時間は唐突に動き始めた。
事務所のドアの磨りガラスに、見慣れた巻き髪のシルエットが映し出されている。
乃々がもう入ってこようとしている。
乃々に千川さんの遺書を見られるのはマズイ。
乃々に枕営業の事を知られるのは困る。
何より、僕がちひろさんにしてきたことを知られ、軽蔑されるのが怖かった。
そんな考えが僕を襲うと、僕は無意識的に、なんの躊躇いも、戸惑いもなくその遺書をクシャクシャに丸め自分のポケットに入れ、罪悪感を、嫌悪感を押しつぶすかのようにキツく拳を握りしめたのであった。
先程まで湧き上がっていた千川さんに対する罪悪感や自分への嫌悪感は僕の幸せへの欲望にあっけなく敗北したのだ。
人1人死なせておきながら、それでも僕は今の幸せを失いたくは無かった。
こうして僕は以前よりまして愚かで、どうしようもないクズ人間として加速して行くのだった。
これから先も、僕のクズな人間性はまるで観覧車のように、止まることなく、終わることなく進み続けるのだろうか。
そして自分がクズとして歩みを進めれば進めるほど、幸せの代償が重さを増して行くのだろう。
自分の愚かさを知り、醜さを知り、自分を嫌い続ける。
肥え太っていく自己嫌悪を背負いながら、僕は生き続けるに違いない。
一応ここで終わりというか区切りです
色々設定が甘くてちひろさんが死んだ理由がフワフワしちゃってるような気もしますね
とりあえずこれから後日談というかちょっとした話を書いて本当の終わりにしようと思います
346プロ
モバP「乃々、今日の予定はー………」
あの遺書を読んだ日から、だいたい2年が経った。
僕と乃々は346プロに引き抜かれ、ここでアイドル活動を続けていたのだ。
引き抜きの話は千川さんが亡くなるすこし前には来ていたのだ。
どうやら僕の淡々と仕事をこなす姿勢、仕事に対する意識、手際の良さが評価され、もっと広い世界に出ればより力をつけ、大きくプロデュース力をあげられるだろう、とのことだったらしい。
だが、この頃まだ乃々と僕は大した結果を残しておらず、乃々はまだ有名アイドルとは到底呼べないようなレベルであった。
そんな僕らに対しこんな良い話…何か裏があるのでは、と内心疑っていたので最初は「考えさせてください」として決断を保留していた。
しかしやがて、僕はその引き抜きを承諾したのだ。
理由としてはやはり、千川さんの存在も小さくはなかった。
あの件の事を思うとどうしても彼女の顔を正面から見れず、全然平気そうにしているにも関わらずなんらかの申し訳なさ、彼女を見て見ぬふりをする罪悪感から、彼女の側から去りたい。
そんな考えも無くはなかったといえよう。
そして前事務所で色々と準備を始めようとしたあたりで彼女は命を絶った。
そして僕らは引き抜かれた後、順調に力を伸ばし、今や準レギュラー出演の番組を得られるほどには成果がでていた。
後日談の冒頭です
とりあえず今日はここまでにしておきます
レスしてくれた人ありがとうございます
地の文がP視点の一人称なのに「~なのであった」とか三人称表現ごっちゃになってるからちょくちょく凄い異物感を覚える
>>43
指摘ありがとうございます
指摘を受けてから気をつけて書いたので次に投稿する文は大丈夫だと思います
とういうことでラストまで投下しむす
乃々「あの…モバP…いま…もりくぼ以外だれもいませんけど…」
今日1日の仕事の説明を聞き終えた乃々はそういうと僕の目をじっと見つめる。
それから何かを合図するかのようにゆっくりと瞳を閉じ、僕はそれを見て、乃々の小柄な身体を守るように抱きしめ、唇を重ねた。
僕たちはあれからまだ関係を保ち続けていた。
あんな残酷な結末を迎え、自分に対する嫌悪感を抱えながらも、幸せはまだ続いていた。
あの遺書はあれから僕たちの家にずっと置かれている。
僕の部屋のクローゼットに隠されている、と言った方が正確か。
まだ乃々はその存在を知らないままだし、これからも知られないようにするつもりだ。
きっと、アレを見られたら僕はここには居られなくなる。
たとえ自分がどんなに重罪人だったとしても、僕は乃々を、幸せを失いたくはない。
乃々にひた隠しにし続ける自分の汚さには本当に嫌気がさした。
自分を護るためだけに、今の幸せを手放したくないためだけに、僕は乃々に真実を話さないでいた。
そして自分のそんな小ささを再認識してまた嫌悪する。
そんな風に永遠に嫌悪のループに巻き込まれていた。
だがしかし、どんなに嫌悪感を抱こうが、辛い思いをしようが、幸せだけは揺るぎなく僕の周りに存在していた。
勿論ちょっとした喧嘩で距離を置いたりとかはあったが、乃々と別れるなんてことは一度も無い。
引き抜きのことにしろ、乃々とのことにしろ、僕は幸せを引き寄せているんじゃないかと錯覚してしまうほどだ。
あんなことがあったにも関わらず、僕の人生は何の滞りもなく円滑に時を進めていた。
千川さんはあれだけ苦しんで幸せを手にできなかったのに、僕はそれを容易に手にしている。
確かに罪悪感だとか嫌悪感だとかで苦しんではいるが、幸せの代償にしては少し軽いのではないか。
それ以外には悪い事は何もおきてないんだぞ。
仕事も、恋愛も概ね順調で、職場の環境も素晴らしい。
交友関係も問題などないし、事故にあったこともない。
外面的にはまったく幸せの代償を払ってないように見えるんじゃあないか?
これでいいのだろうか。
このまま幸せを受け取り続けているといつか払い忘れたツケが一挙に降りかぶさってくるのではないか。
そんな風にまた、自分の身を案じている僕がいた。
モバP「そういえば今日は久々に前の事務所の社長と飲むんだったな…ごめん乃々、今日は仕事終わっても一緒に帰れないや」
僕が346プロにくる以前は割と社長には飲みに誘っていただいたものだ。
基本的に僕以外の同僚数人も連れてだったが。
しかし346プロに来て以来その回数はめっきり減ってしまった。
乃々「え…うわきですか…?」
モバP「いや浮気じゃないから。男2人で飲みに行くだけだよ」
乃々「そうじゃなくて…もりくぼと抱き合っているのに他の事考えちゃダメです…うわきです…」
なんて言うと乃々はいたずらっぽく僕に笑って見せた。
かわいらしい事を言うじゃないかこの子は。
モバP「はは、悪かったよ。今は乃々だけを見なきゃね」
そう言って乃々の目をじっと見つめると彼女は恥ずかしそうにモゾモゾと身体を動かしながら目を逸らそうとした。
僕は彼女の頬に手を当て、無理やりこっちを見させた。
みるみる赤面していく様子がとても面白く、2年以上付き合っていてもこんな初々しく可愛らしい仕草を見せてくれる。
愛しくてたまらなくなった。
モバP「っと、乃々。もうすぐレッスンの時間だよ。いっておいで」
名残惜しそうにちまちまと動きはじめる乃々を見て、僕は仕事を再開した。
その日の夜
すっかりもう日が短くなったな…
僕は居酒屋前で社長(といっても前の事務所のだが)を待ちながら、昼間とは様相を変えた街を眺める。
あっという間に秋も終わってしまいそうだな。
前事務所の社長(以下社長)「おお!モバPくん!久しぶりじゃないかい!」
モバP「お疲れ様です。お久しぶりです、社長。しかし今日は2人で飲もうだなんて珍しいですね。」
社長「まあまあ取り敢えず中に入ろうじゃないか。寒くて指先が取れそうだよ」
なんて言うと社長はいたずらっぽく笑って見せた。
乃々のようなかわいらしさは勿論感じられないのだが。
飲み始めてから2時間くらいたったかな。
社長は少し酔ってしまっているようだ。
社長「まったく…きみといい千川くんといい良い人材が次々といなくなったおかげでぇすごい私は苦労をしてだなぁ!」
…この話は今までに何度も聞いていますよ、社長…
心の中で僕はそう呟いた。
モバP「本当にご迷惑をおかけしました」
社長「しかしぃ…千川くんと言えばモバPくんよ。まだあの手紙については教えてくれないのかい?」
いきなりの右ストレートだ。
以前も何度か飲みに行った時に聞かれた事はあったがこんな唐突なのは初めてだな…。
2人きりだからか?
社長「私は彼女が命を絶った理由が未だよくわかれてないんだよ。別の遺書にはこの世に希望を見出せないなどと書いてあったが何故そんな結論に至ったのかが理解できないんだよ」
社長はあの事について知らないのか…?
千川さんが自分から話すような内容でもないし当然といえば当然か…。
僕は今までにあの遺書の事を他人に話したことはないし、これからも話すことはないと思っていた。
だが、この日の僕はなぜか口が軽かった。
昼間に遺書の事を思い出して、その時の罪悪感を誰かに話す事で楽になろうとしたのか。
わからないがなぜだか話してしまった。
もしかしたら社長なら慰めてくれるかも、なんて考えたのかもしれないな、このクズは。
結構な詳細まで話した。
社長は僕が話している時はどこか遠くを見つめ続けているような様子で僕に合わせて頷くだけだった。
途中で怒り出すこともなく。
乃々と隠れて付き合ってたことも何一つ嫌な顔せず、心に染み込ませるように話を聞いてくれているように見えた。
社長「そうか…そんな事が…」
モバP「…僕のせいです。僕が個人的な感情で乃々を差し出さなかったから代わりに千川さんは…僕がどうしようもないクズだからこうなったんです…」
そうだ。その通りだ。お前が悪い。責任を取れ。罪を償え。
そう言われると思って僕は身体を強張らせながら社長の返事を待った。
だが、社長から発せられた言葉はそのどれでもなかった。
社長「本当にそう思っているのかね?」
モバP「え?」
社長「いやね…君は本当に自分が全て悪いと思っているのか…と聞いているんだが」
モバP「当然です。僕が千川さんを止めなかったし、その後も千川さんにひどい事をし続けたわけですし…」
社長「そもそもの原因は君ではなくxxxレコードの彼だろう?彼が枕の要求などしなければ始まりはしなかったことだ。それに僕の会社がもっと大きくて、力のあるものだったら断っても問題はなかったはずだ。要は僕にも責任はある。つまりだね、君が全てにおいて悪いのではなく、悪い状況の組み合わせ、それが結果を招いたんだと僕は思うよ。」
僕は驚きを隠すことができなかった。
開いた口が塞がらないとはこのことだ。
僕だけ時間が停止したかのように張り付いてしまった。
しかしそんな中でも頭は働いていて、社長の意見を否定しようとフル作動していた。
そんな事を言わないでくれ。
頼む僕を肯定しないでくれ。
僕は、このクズは迷わず餌に飛びつくぞ。
肯定されたのをいい事に罪悪感などすぐに放り投げるぞ。
だから頼む、僕を否定してくれ。
社長「勿論、君にも悪い点はあった。だが、それは君以外にも大いに言える事だからね。こんなこと言いたくは無いが千川くんもその選択をしなければ始まらなかった…という見方もできる」
モバP「でも僕は、千川さんの前で乃々とキスをしたりとか、変な噂の原因を作ったんですよ!それは紛れもなく僕の…」
社長「その二つも君が意図してやったことではないはずだ。人は皆恋人を作りたがり、恋人ができたらそういう行為をするのは当然だろう。それを偶々千川さんが目撃した。それだけだろう。噂の方は確かにお金というやり方はまずかったとは思うが、それを湾曲した捉え方をし、根拠のない噂をばらまいた他のアイドル達が悪いだろう。」
モバP「しかし…そうだ、僕達は事務所でキスをしたんです、千川さんの事を考えて事務所そういう事をするべきではなかったんだ!」
社長「いや、君にその選択はできるはずがなかったろう。何故なら千川くんが傷を隠し続けたからだ。君は千川さんの言動を見聞きしたまま受け取り、千川くんは大丈夫だと判断したのだろう。だから千川くんに気を遣う事はできるはずがない。まあ職場でそんな事をするのは確かに問題だろうがね。それはまた別の話さ」
モバP「でも…嘘に気づけなかったんですよ僕は…それは罪です」
社長「それも千川くんに原因があるとは思うがね」
社長の言ってる事は果たして正しいのだろうか…
わからない。
全然わからない。
でも…わかる事は一つ…
モバP「でも千川さんは僕が苦しむ事を望んでいた…なら僕は苦しみます。それが幸せを味わうための代償だと思うので」
社長「幸せを無条件で与えられ続ける事は悪い事じゃないと思うがね。千川さんはただ、悔しかったから、どうしようもなく辛かったから君に八つ当たりした。僕はそう思ってしまったよ。亡くなってしまった人をこんな風を言うのは気が引けるし失礼な事だとは思うが、かといって僕の意見を塞ぎ込んだ所で何も変わらない訳だし言わせてもらったよ…」
僕は…千川さんの望みを叶えなくて良いのだろうか…
わからない
何が正しいんだ?
僕はもう罪悪感なんて捨てて、無条件の幸せを味わっていいのか?
社長「今回の件がここまで大事になったのは、千川くんと君が一緒に働いていたっていうのが一番大きな原因ではないかと僕は思うんだ。」
モバP「…どういうことでしょうか」
社長「極端に幸福な者と極端に不幸な者が長い時間過ごすとね、不幸な者は自分と相手の差を大きく感じてしまうんじゃないかな、と。それ故に彼女は無条件に幸せを手に入れる君を憎み、妬み、不幸が降りかかり続ける自分と比較して…この世を去った。つまりね、状況が極端に悪すぎたんだ、僕はそう思う。」
それからしばらく飲みながら話を続けたが、社長は最後まで僕を否定しなかった。
僕はこの話を聞いてしまった時点で終わりだろう。
自分が大好きで、幸せが大好きで、今が大好きな僕は無意識に社長の意見を受け入れるだろう。
例えどんなに自分で「そんなの間違えってる!千川さんのために罪悪感と共に生きるぞ!」と誓ったとしても、社長の言葉が胸に残り続け、心の隅では「自分がこんなに悩む必要もない、悪いのは状況だったんだ」という感情がシミのように広がり始め、やがてそんな薄っぺらい誓いは剥がれ落ちていく。
僕はそんな人間だから。
モバP「社長、今日はありがとうございました」
社長「いやいや、というより久しぶりにあったというのにすまないね…辛気臭い話をしてしまってね。…それで、これから君はどう生きていくんだい?」
モバP「…どうあがいても、僕はクズですから。これからはそんな自分を受け入れるしかないかなって思います」
社長「クズか…ただただ人間らしいだけだと思うがね。人なんてものは皆自分が一番可愛いもんだろう?それに2年以上も悩んだんだ、人にしては上出来さ」
モバP「そういうもんですかね…」
社長「そういうもんさ。最初は君みたいに悩み続けるだろうがね、長く生きれば生きるほど悩まない手段がわかってきてしまう。わかってしまったらもうその手段を取らずに居られる訳がない。そうして人は汚く逞しく成長して行くものだと僕は考えているよ」
モバP「…そう、ですか」
社長「まあ元気を出したまえ。君が何時迄も暗い顔をしてるかららしくもなく持論をベラベラと展開してやったんだぞ。元気出してくれないとただの自分の考えを自慢気に教えたがる子供のようじゃあないかい」
社長はまたもいじらしく笑って見せた。
社長「じゃあ今日はこれにて。またいつか飲もうじゃないか。なんなら森久保君も連れてきたまえ」
モバP「まだ未成年ですから…本当にありがとうございました」
こうして僕は帰り道へ向かう。
長々と悩んでた割に、相当呆気なく、簡単に2年越しの決着を出してしまった。
しかも自分で悩んだ末に結論を出した、だとかではなく社長の意見に納得し、自分の考えを変える、などというなんともなさけないかたちで。
まさに僕らしい決着とも言えよう。
もしも、この事を、僕の行ったことと僕の人間性知った人がいたら、どう見るのだろう。
社長のように人らしい人、なんて思うのだろうか。
それともただの下衆野郎に見られるのだろうか。
乃々は…どっちなんだろう。
いくら割り切ったとは言え、これからも乃々に言うことはないのだろう。
隠し事をしていることは申し訳なく思う。
だが、それでも僕は、どうしようもなく僕は、幸せが大好きだから。
ああ、早く乃々に会いたいな。
そんな事を頭で考えながら帰っているとあっという間にウチの玄関だ。
さて、乃々はまだ起きているかな。
これからも、幸せを2人で分け合えるといいな。
そんな呑気な事を考えながら、このどうしようもない人間は扉を開け、幸せの集合体のようなこの場所へ帰ってきた。
「ただいま、乃々」
これからも僕は、幸せであり続ける。
これで終わりです
デレステでSSRとクラリスが出ないもんだからムシャクシャして書きました
でもちひろさんが嫌いというわけではないです
むしろとてつもなく好きです
ちひろさんをセンターにしてデレステをプレイしたいレベルです
無駄に長くなってしまいましたが、読んでくれてありがとうございました
このSSまとめへのコメント
胸糞死ね