武内P「秘密の」常務「朗読会」 (65)
武内Pも美城常務もポエマーだよねってことで
素人自作ポエム全開フルスロットルのため要注意
書き溜めありです
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1445853992
――某日、常務オフィス
常務『――しかし、時計の針は待ってはくれない』
武内P(……この人は)
常務『――見えなければただの闇。「無」だ』
武内P(この人も、きっと)
武内P「私です。少しだけよろしいでしょうか」コンコン
常務「開いている。入りたまえ」
武内P「……失礼します」ガチャ
常務「要件はなんだ? あまり君にばかり構っている時間もないのだが」
武内P「単刀直入に失礼いたします。常務は……「灰かぶりたちの密会」をご存知でしょうか」
常務「なんだ、そのいかがわしい響きは? また君の新しいプロジェクトだと言うつもりではないだろうな」
武内P「いいえ、違います。……まだ私の憶測に過ぎず、恐縮なのですが……きっと常務も興味を持たれるのではないかと思いまして」
常務「勿体ぶった言い方は嫌いだ。もっと率直に言ったらどうなんだ」
武内P「……それでは、失礼ですが……常務は……詩やポエムといったものがお好きなのではないでしょうか?」
常務「!」
武内P「言葉に表して認めていただかなくても構いません。……もしも常務が好きであるならば、このまま続けさせていただきます。ご気分を害したようでしたら……」
常務「……続け給え」
武内P(……やはり、この人も)
武内P「346プロに所属する有志によって、素性を明かさず匿名で、自作のポエムの発表を行う朗読会。それが「灰かぶりたちの密会」です」
武内P(この人も……私たちと同じタイプ)
常務「集まりの趣旨はわかった。だが、どうしてその集まりのことを私に尋ねた?」
武内P「……常務の言葉が……その……非常に詩的であったから、とでも申しましょうか……」
常務「……。ここまで話してしまったのだから、隠しても仕方がない。ああ、そうだ。君が察しの通り、詩に限らず文学や芸能全般には関心を持っている」
武内P「自作の経験もおありなのではないかと」
常務「……確かに、若気の至りで稚拙なものを乱造していた時期もあった。だがもう今は――」
武内P「一度、参加してみませんか?」
常務「何?」
武内P「貴方が目をかけた輝きを持つ者も、未だその輝きを見いだせていない者も……新たな一面を見ることが出来ると思います」
常務「しかし……私が行けば場の空気を壊すのではないか?」
武内P「言った通り、素性を明かさず、仮の名前で発表する集まりです。密会の間は立場も年齢も関係ありません。例え、誰の目から見て正体がわかったとしても、触れないのがマナーです」
常務「……いや、だが……」
武内P「行きましょう。常務……私は貴方の言葉の中に、確かに彼女たちと同じ輝きを感じました」
常務「……」
武内P「幸いにも今夜、密会が開催されます。もしもそこで常務が何も見出すことが出来なければ……金輪際この話をするつもりはありません」
常務「……やれやれ。君も頑固だな。いいだろう。一度だけ付き合うことにしよう」
武内P「ありがとうございます」
武内P「それでは参加する前に、こちらを」スッ
常務「ローブと仮面?」
武内P「ええ。着用が義務付けられておりますので。それともう一つ、仮の名前を用意してください」
常務「ああ、先ほどそんなことを言っていたな。しかし急に言われても思いつかないな……。君はどのような名前を使っている?」
武内P「私は……その、「ウィザード」と名乗っています」
常務「魔法使い……なるほど、シンデレラ・プロジェクトを導く立場の君らしいな」
武内P「……恐縮です」
常務「さて、名前か……そうだな……美城…………よし、私は「ドミナ」と名乗ることにしよう」
武内P「決まったようですので、早速行きましょう。こちらです」
――美城プロ某所
美城「……こんなところで、こんな集まりをしていたとはな」
武内P「無断で使用してしまい、申し訳ありません」
美城「まあいい。この先どうするかは、この後を見てから決めることにする」
武内P「はい。では、ローブと仮面の着用をお願いします」バサッ
美城「わかった」バサッ
武内P「ここからは本名ではなく、先ほどからの仮の名前で呼び合ってください。マナーです。……行きましょうか、ドミナさん」
美城「……努力しよう、ウィザード」
武内P「では、入りましょう。……失礼します。ウィザードです」コンコン
??「どうぞ入ってください。もうみんな集まってますよ。……あれ、そちらの方は?」ガチャ
武内P「こちら、今回見学のドミナさんです。ドミナさん、こちらは進行役を務めてくださるキミドリさんです」
キミドリ「初めまして。「灰かぶりたちの密会」へようこそドミナさん」
??「遅かったね、ウィザードさん。……って、え、その人……」
??「もしや、我らが城の……」
ザワザワ
武内P「みなさん、こちらは今回見学にいらしたドミナさんです。さあ、自己紹介をお願いします」
常務「……初めまして。……今はプライベートで来ている。ここで見聞きしたことを他言するつもりはない。よろしく」
武内P「と、いうことですので。みなさんはいつも通りの活動をお願いします」
??「ぷ……ウィザードさんがそう言うなら、そうするけど」
??「い、いつも以上に緊張するんですけど……」
??「へぇ……そういう趣味があったなんてね……」
常務「やはり私を連れて来るべきではなかったんじゃないか?」
武内P「いいえ。最初こそ動揺はあるかもしれませんが、すぐに受け入れてくれると思います。さあ、始まりますよ」
キミドリ「それではメンバーも集まったことですし、始めさせていただきます」
パチパチパチパチ
キミドリ「今回の課題は「短くまとめる」。まず最初の発表は、蒼月姫さんからお願いします」
パチパチパチパチ
蒼月姫「蒼月姫です。短くまとめる、ということだったので、いつもよりも簡潔にまとめてみました。では聞いてください」
常務(あれは渋谷凛……?)
蒼月姫「「うそつきな四月」
その光が太陽だと信じていた
だから私は向日葵のように手を伸ばした
掌に触れたのは頼りない月の影
降るはずのない雨に濡れて
花がまた咲く日を夢見る」
パチパチパチパチ
蒼月姫「ありがとうございます。……この詩は、私の大切な友達のことを思いながら書いたものです」
蒼月姫「気づいてあげることも……力になることも出来なかった。でも、あの子なら必ず……また帰ってくる日を待っている。そんな気持ちを詩に込めました」
常務「プロ……いや、ウィザード。彼女が言っている友達というのは、島村卯月のことか?」
武内P「……ここでそのような話をするのはマナー違反です。ご自身でもおっしゃったように、ここはプライベートの場です。それに私は彼女の素顔も本名も知りません。そういう場所です」
常務「……すまない。失言だった。何分まだこの状況に不慣れなものでな」
武内P「いえ。ご理解いただけたのなら問題ありません」
キミドリ「では講評に入りましょう」
??「全体的にまとまりがある――」
??「後半の花という表現をもっと――」
常務「なるほど。意外と本格的に行っているのだな」
武内P「ええ。ただ単純に作って発表して終わるわけではありません」
キミドリ「それでは次に参りましょう。二番、モノクローム・フリューゲルさん、お願いします」
モノクロ「ククク……魂を同じくする盟友たちよ! 我が紡ぎし新たなる詩編、その耳朶でしかと受け止めよ!(お集まりのみなさん! 新しく作った私の詩、聞いてください!)」
モノクロ「「過ギ去リシ刻ノ断章<花嫁の月・友との晩餐>」
黒衣の魔王が灰被りの姫へと変わりし刻! それは友と交わした約束を果たす時!
世界が黄昏の業火に染まる頃、魔王は黄衣を纏う! 全ては胸中に秘められた想いを解き放つため!
ああ、我は苦難の荊の道を往かん! 震える手に剣を握りしめ、虎の如き爪を構え、キメラをクラーケンへと変えん!
友の顔が愉悦に染まることを夢見て、魔王は刃を振り下ろす! かくして饗宴の幕は開かれるのだ!」
モノクロ「……今宵の詩は、我が記憶の玉座に収まりし晩餐の夜を紡いだもの!(今回の詩は私にとって大切な、お食事会の日をテーマにしてみました!)」
常務「……むぅ」
武内P「どうかされましたか?」
常務「……私がバラエティ路線のアイドルを集め、アーティスト路線への切り替えを指示した話は知っているだろう」
武内P「ええ、存じております。それが一体……」
常務「神崎蘭子。彼女をどうして呼び出さなかったと思う?」
武内P「……先ほども申し上げたように、そうした話は」
常務「いや、壇上の彼女とは関係ない、ということにしておいてくれ。個人的な話だ。今を逃したら二度と告白する機会を失いそうなのでな」
武内P「私は……彼女は既に成果を上げており、その特色もバラエティ的な……いわゆる笑いを誘うようなものではなく、あくまでも純粋に自分の内面的な世界を独自の言葉で表現している、アーティストとしての要件を満たしているから、だと考えました」
常務「理由付けとしてはもっともらしく聞こえるな。私も君に何か尋ねられたら、それと似たようなことを答えていただろう」
武内P「……と、おっしゃられているということは、違った理由があるのですか?」
常務「ここに来る前に君に言っただろう。「若気の至り」……彼女とは少し毛色は異なるが、私もああいう装飾的で、耽美や退廃的な方面に傾倒していた頃があった。それ故に、彼女を見ていると、な。つい強く出にくくなってしまう」
武内P「……なるほど」
キミドリ「……他にご意見のある方はいらっしゃいますか? はい、どうぞー」
??「表現は君らしくゴティックでいい。ただテーマに反しいささか冗長で、詩というよりも物語に――」
常務「もう次が始まる頃か。……まさか君にこんなことを話すとはな。私自身驚いている」
武内P「……恐縮です」
キミドリ「時間も限られていますので、次の方の発表へ移りましょう。三番、シトラスさん、どうぞー」
シトラス「みなさん、こんにちは。シトラスです。早速、今回の詩を発表させていただきます」
シトラス「「背伸び」
背伸びをしていることを自分が一番知っている
知っているからこそ背伸びをしている
周りの人たちは大人ばかりだから
小さくて埋もれてしまわないように
馬鹿げたことだと知っていても
時計の針を進めてしまいたい
待っていてくれると言ってくれたから
せめて親子に見えなくなるまで」
シトラス「……え、えっと。これは、どこにでもいるような女の子の気持ちを想像して作ったものです。特に参考にしたモデルがいるわけではありません」
キミドリ「ふふっ。ありがとうございました。それではみなさん講評をお願いします」
蒼月姫「素直な感情が出ていていいね。だけど少し硬いかな」
常務「聞いていてこちらが気恥ずかしくなるくらいにピュアな詩だな」
武内P「まだ純真さがあるからこそ、そうした詩が書けるというものです。未熟で不完全であるからこそ、聞いた者の心を打つ……私はそう思います」
常務「それは私へのあてつけか?」
武内P「……決してそのようなわけでは」
常務「……まあいい。ところで」
武内P「はい?」
常務「彼女が言っているのは、まさか君ではないだろうな?」
武内P「わ、私は担当ではありませんので、違うでしょう」
常務「まあ間違いなどあるはずはないと思うが……君も重々注意しておきなさい」
武内P「は、はい」
キミドリ「シトラスさん、ありがとうございました。それでは次、四番、素敵なステッキさん、壇上へどうぞ」
ステッキ「うふふ、みなさんこんばんは。素敵なステッキです」
常務(あれは……高垣楓!?)
ステッキ「それでは一句。
「お仕事で 入るON泉 たまりません だけど普段は OFF呂に入ろ」
……字余りです。ふふっ」
ステッキ「温泉に入って一杯やりたいな、という気持ちを精一杯詠んでみました」
キミドリ「ふふふ、相変わらずですね。さあ、講評に参りましょう」
??「何気に韻を踏んでる――」
??「……ある意味では一番テーマに即している――」
常務「待て……ちょっと待て。ぷろ……ウィザード。あれは本当にたかっ……いや、彼女なのか?」
武内P「……どなたについて申しているのかはわかりかねますが。素敵なステッキさんのことなら、いつもあの調子です」
常務「ダジャレにおやじ趣味だと……。……イメージが……」
武内P「……やはりドミナさんは、もっとみなさんの普段の顔を知っておいた方が良いのではないでしょうか」
常務「そんな必要はない。……と思っていたが、考えを改めるべきかもしれん。だが、それにしても……」
武内P(ここまでショックを受けるとは……)
常務「……まさかとは思うが、クローネのメンバーも……いや、だが渋谷凛に橘ありすは少なくとも……」ブツブツ
武内P「ご、ご気分が優れないようでしたら退室した方がよろしいかと」
常務「……すまない。私としたことが取り乱した。退室はしない。……他のメンバーを見極めるためにもな」
キミドリ「では次は五番、オディ・エト・アモさん。どうぞー」
オディ「今晩は。心の器から溢れ出る感情を、素顔と虚飾を交えた泡沫の詩にして……貴方に捧げるわ」
オディ「「情景」
胸奥の水鏡に
的を描く魚の影
どうか一時の安らぎを
何れ射干玉の狩人来たりて
その矢がこの身貫けば
我が瞳は溜息を零し
秋の波紋がただただ靡く」
オディ「これは私の恋の詩……と言ったら、信じるかしら? でも心を乱されるのは私じゃない。実は私こそが狩人……ふふっ、なんてね。冗談よ」
キミドリ「いつもながら思わせぶりね。ではみなさん講評に移りましょう」
??「自らの心象風景を提示していると思わせて――」
モノクロ「うう……こ、恋とかは……恥ずかしぃ……」
常務「ふむ。中々どうして。いいじゃないか」
武内P「ええ。彼女はいつも高いレベルでまとまっています」
常務「私がプロジェクト・クローネに込めたイメージ。正にそれに相応しいな、彼女の詩は」
武内P「聞く限りではラブレーやラテン語の格言等にも造詣が深いようです」
常務「そうか。やはり彼女を選んで正解だったな。美城のアイドルはこうあるべきだ……そうだ、間違ってもあんなサ○リーマン川柳みたいな……」ブツブツ
武内P(まだ高垣さんのことを引き摺っている……)
常務「仕事において私情を挟むつもりはない。――が、彼女には文芸や作詞の仕事も相応しいだろう」
武内P「……仕事を持ちこむのも、ほどほどになさった方がよろしいかと」
キミドリ「はい、ありがとうございましたー。続いて六番、森乃こりすさん、どうぞー」
こりす「森乃こりすですけど……。うぅ……は、恥ずかしいですけど……でも勇気を出して発表します……」
こりす「「ある日、森で」
赤ずきんは一人で森へ
おばあさんのお見舞いに
赤い色見てトコトコ一匹
狼さんが尋ねます
「籠の中身はなんですか?」
「リンゴとワインよ。一口いかが?」
リンゴとワインをもらったら
広がる美味しさ薔薇の色
どんなお肉より美味しかったので
狼さんはお友達になりました」
こりす「お、狼さんも赤ずきんさんも、お友達ならいいなって思って……」
キミドリ「こりすさんらしい優しい詩でしたね。それでは講評に参りましょう」
ステッキ「桃太郎みたいね。ふふっ」
蒼月姫「後半の方はもっとまとめられる――」
常務「……お伽噺だな。絵本の読み聞かせでも聞いている気分だ」
武内P「私は、彼女の優しい思いが表れている素敵な詩だと思います」
常務「だが現実は優しさなど汲み取ってはくれん。……甘い幻想など、ガラス細工のように脆く壊れてしまう」
武内P「だからこそ美しい輝きを放ちます。シンデレラの靴のように」
常務「……全く、君とは本当に意見が合わないな」
武内P「…………」
キミドリ「……はい、ありがとうございましたー。では七番、形而上の仮面さん、前へどうぞー」
仮面「やあ。ボクは形而上の仮面<ネームレス・エイリアス>。こうしてまた同じ波長の同志たちと同席できる瞬間を光栄に思うよ」
常務「……うっ」
武内P「……?」
仮面「光陰矢の如し。全てのモノに、時間は平等に――無感情に流れる。それでは始めさせてもらうよ」
仮面「「海馬に寄す」
RC製の監獄に満ちる
無自覚者達のkakistocracy
自由の幻想を負わされた鳥のように
屋上で独り手を広げる僕は
無様なcaricatureに映るだろう?
moratoriumの鎖で飛べないから
せめて、
君にしか聞こえない口笛を吹こう」
モノクロ「絢爛なる詩編よ!(カッコイイ詩ですね!)」
蒼月姫「学校のことを表現した――」
常務「…………」
武内P「先ほどからどうかされましたか?」
常務「彼女を見ていると、こう、すわりが悪くなるな」
武内P「……おっしゃりたいことは、お察しします」
常務「ああいう思春期の頃は……斜に構えるというのかな。いや、もう少し違う気がする……」
武内P「あの時期特有の、心の熱病のようなものがあるのでしょうね。大人になるにつれて、不思議と忘れてしまう感覚ですが」
常務「そうだな。……彼女が昔の私に似ている、とは思わない。だがしかし、自分が宝石だと勘違いし、嬉々として拾ったガラス玉を捨てた場所で、同じ勘違いをした人間を見せつけられた気分と言うのかな」
武内P「転んでケガをせずに痛みを覚えることはできません。痛みを知っているからこそ、転ばぬよう気を付け、ケガをした人を思いやることが出来るようになるものです」
常務「……そうかもしれないな。今となっては全て恥ずかしい失敗の傷跡でも、若い頃だったから重傷にならずに済んだ。大人になってからではそうはいかない」
武内P「成功を喜び、失敗から学び、何に憧れ、何を恥ずべきかを見極めるための、大きな岐路なのでしょう。いま立っている道が正しいと信じることが出来たなら、それも強みになるのだと思います」
常務「君お得意の個性を尊重する方針か」
武内P「…………」
キミドリ「……ありがとうございました。いよいよ最後となりました。八番、ウィザードさん、どうぞー」
常務「君もやるのか……いや、愚問だったな。ここに誘ったのだから当然だ」
武内P「それでは、失礼いたします……」スッ
武内P「みなさん、今晩は。八番、ウィザードです。……時間も限られておりますので、発表に移らせていただきます」
武内P「「いろは詩」
一輪の花を見つけたのです
路傍に、雑踏に、公園に、
花を見つけたのです
日輪のような紅色が翳ろうとも
星降る穏やかな夜と
碧空の涼やかな空の下で
取り戻すでしょう
近づく聖なる夜の中
六花を融かす陽の色を」
蒼月姫(プロデューサー……。プロデューサーも、卯月のこと……)
常務「…………」
武内P「……御清聴ありがとうございました」
キミドリ「あら、それだけですか? それでは講評の方に……」
常務「…………」スッ
武内P「……!」
キミドリ「……ドミナさん、どうぞ」
常務「いろは詩と言う題の通り、頭がそれぞれいろはに対応しているのはわかる。だが、どうしてキリのいい「と」で終わらなかった?」
武内P「……初めは私もそこで終わらせるような詩を考えていました。ですが、途中で考えを改め、構成を変えることにしました」
常務「その心境の変化、聞かせてもらおうか」
武内P「私がこの詩に込めた想い……それは「先へ進んでゆく」ということです。時計の針が止まらないように……十二時の鐘の先へと、自分の足で歩いて行ってほしい」
武内P「だからこそわかりやすいゴールで止まることなく、一歩、二歩先へと進んでほしい。そのような思いから、敢えてキリのいいところよりも先へ続けました」
常務「君は……本当に進めると思うのか? 花の命は短い。それも、枯れて萎れてしまうならまだ幸せな方だ。予期せぬ嵐で散らされ、心無いものに踏まれ、手折られることもある」
常務「君が見つけ出した一輪の花は、もう二度と咲き誇ることはない。……そう考えたことはないのか?」
武内P「……信じていますから。私が見つけたその花は、花壇でたった一輪、最後まで咲き続けていた花でした」
常務「…………」
武内P「その花を見た時、私は目を奪われたのです。今でも私の思いは変わりません。どこにでもある花に見えても、どんな無数の花々の中に埋もれることのない色彩を放っていたのです」
蒼月姫「……プロデューサー……」
常務「……キミドリ君。急で悪いが、私も発表の時間を貰っていいだろうか?」
武内P「!」
キミドリ「……ええ、どうぞ」
オディ「あら、意外な展開……」
蒼月姫「…………」
武内P(一体、何を……)
常務「飛び入り参加の非礼を詫びよう。九番、ドミナだ。無論、今回の趣旨を元にした作品はない」
常務「だがどうしても、この場を借りたい」スッ
常務「「星の秘密」
天鵞絨(ビロード)のカーテンは沈黙を守る
努力の露は滲み込ませ
支配者の怒声を吸い込んで
葛藤の嘆きも覆い隠し
ただ、ただ、
万雷の期待に明け
喝采の余韻に暮れる
舞台は一途に星の輝きを湛える
私は知っている
だが――私の口にも天鵞絨のカーテンを誂えよう
雲の裏側の秘密を
星が輝きを放つに至る、苦難の秘密を……」
武内P「これは……」
常務「この未熟な詩は、私がまだ学生の頃に作ったものだ。今よりもまだ現実を知らず、その癖、現実を知った気でいた時分の、な」
常務「舞台に立つ役者たちは、決してその労苦を舞台上に持ち込むことはない。中途半端な未完成品が世に出回らないのと同じで、彼らもまた完成された姿を観客に披露する」
常務「だが私は、舞台の裏でどれほどの困難と努力があったのか知っている。しかし、そんなことは観客にとってどうでもいいことだ。観客から隔絶された世界だからこそ、スター足りえる」
常務「……そう。どうでもいい。完璧なものが、即ち美しい。観客と共に歩み成長する……そんな泥臭いものは在り得ない。そう思っていた」
常務「だが、ある男は。そしてある女も、私の考えを拒絶した。私が取るに足らないと思うことを、彼や彼女は大事そうに抱え込んでいた」
ステッキ「…………」
常務「今でも私の考えは変わらない。決して彼らと道が交わることはないだろう。私は私のやり方を進めて行くつもりだ」
常務「それでも……」チラッ
武内P「…………」
常務「……美しい星々を見つめたいと願う気持ちだけは、同じなのだと思う」
武内P「常務……」
常務「以上だ。邪魔をして済まなかったな」
蒼月姫「待って」
常務「……?」
蒼月姫「……もしも。もしもあなたが、私たちと肩を並べてくれたら……きっと同じ景色を見られるはずだよ」
常務「肩を並べる? ……私が、君たちとか」
オディ「そうね。又聞きの勝手なイメージと命令を押し付けられるよりは、直接話して詰めていける方が、もっと完璧に近づけると思うわ」
シトラス「わっ、私も……その、わからないことは質問して答えを貰える方が、円滑に仕事を行えると思います」
常務「君たちまで……」
ステッキ「ねえ、ドミナさん。一人ぼっちの星が寂しく光っているよりも、もっとたくさんの賑やかな星々を見てほしーと思いませんか?」
常務(ダジャレが言いたかっただけなのだろうか……)
武内P「私はあなたに感謝しています。私だけでは見ることが出来なかった、別の輝きを見ることができたのですから。だからこそ、あなたには見えなかった輝きを見てほしかった」
常務「それで私をこの場所に連れてきた、と?」
武内P「はい」
常務「ふっ。君にしてやられたようで、気に入らないな」
武内P「……申し訳ございません」
常務「だが、まあ……」
武内P「?」
常務「たまにであれば、顔を出してもいいかもしれないな」
蒼月姫「……素直じゃないんだ」クスッ
キミドリ「それでは、本日の集まりはこれでおしまいにしましょうか。次回の課題は「季節」です。お疲れ様でしたー」
シトラス「あくまでもマイペースなんですね、キミドリさん……」
モノクロ「闇に飲まれよ!(お疲れ様でした!)」
仮面「非日常の仮面を外し、今一度ただのボクに戻る時が来てしまったようだね」
こりす「も、森乃は先に失礼します……」
常務「……ふうっ。中々趣のある集まりだったな」バサッ
武内P「そう言っていただけたなら、お声掛けした甲斐がありました」
凛「お疲れ様、プロデューサー。……美城常務もお疲れ様です」
常務「もう名前で呼んでもいいのだな」
武内P「ええ。その、できれば、会合の内容につきましては御内密にお願いします」
常務「安心したまえ。あまりプライベートなことを話すような趣味はない」
凛「……私は、プロデューサーのことも、常務のことも、もうちょっとは知りたいけど」
常務「ほう? 君は他人にあまり立ち入らないタイプかと思っていたんだがな」
凛「勉強不足……です。経歴だけ見て仕事しようとするから、楓さんにも逃げられるんですよ」
常務「……手厳しいな」
武内P「……ええ」
凛「そ、そんなにキツいこと言ったつもりないんだけど」
常務「やはり彼女は私の手には余るかもしれん。トライアドプリムスを解散し、シンデレラプロジェクトに送り返した方がいいかもしれんな」
凛「えっ……や、やだっ!」
武内P「……渋谷さん。冗談ですよ」
常務「ふふっ」
凛「え? ……あっ! ……わ、私、帰るから! お疲れ様でした!」ダダッ
武内P「お、お疲れ様です。お気をつけて。……常務。渋谷さんはああ見えてまだ15歳なんですよ。あまりいじめては……」
常務「ふふん、ちょっとした意趣返しだ」
武内P「あなたがおっしゃると冗談に聞こえないんですよ……」
今西部長「おや、君たちまだ残っていたのかい?」
武内P「部長。お疲れ様です」
常務「お疲れ様です」
今西部長「何やら二人して親密そうにしているじゃないか。……ははぁ、わかったぞ。それで渋谷君はやきもちを焼いて、走って行ったのか」
武内P「あ、あの、何やら誤解があるようですが……」
常務「全く。今時はそのような発言もセクシャルハラスメントになるんですから。くれぐれも言動には注意を払ってください」
今西部長「おっと、こりゃいかん。あ、そうだ。君に会ったら言おうと思っていたことだあったんだ。喫煙所の件についてなんだがね……」
常務「……やれやれ。折角の余韻が台無しね」
武内P「……同感です」
今西部長「聞いてるのかね? ほら、君からも言ってやってくれないか!」
――某日、小会議室
常務「……以上が、次回のCDの概要になる。詳細は今後詰めていくことになる。まずは率直な意見をまとめておいてくれ」
三人「はい」
常務「では失礼する」バタン
奈緒「……ふー。あの人居ると緊張するなぁ」
加蓮「でも最近はちょくちょく顔出してくれるし、前みたいに勝手な変更とかなくなったよね。こっちの提案も取り入れてくれるようになったし」
奈緒「そういやそうだな。言われてみると、ちょっとは態度が柔らかくなった……気がする、かも?」
加蓮「ね、それよりさ。新曲かなりかっこよくてよくない? 歌詞も深い感じだし」
奈緒「そうだな! なんていうのかさぁ、こう、高貴っていうのかな。でもこの作詞家の人、初めて見る名前だな」
凛「……あっ」
奈緒「どうした、凛?」
凛「ううん……なんでもない」
加蓮「Domina……ドミナ。ふーん。男か女かもわかんないや」
凛「女の人だよ……ドミナって、主を意味するドミヌスの女性形だから」
奈緒「へぇー。凛ってさ、変なところで詳しかったりするよな」
凛「別に変じゃないし。たまたま知ってただけ」
加蓮「でもさー、こういう詩書く人って、一体どんな人なんだろうね」
奈緒「すっごく気難しい人なんじゃない?」
凛「ふふっ、かもね。……でも、結構いい人なんじゃないかなって思うよ」
加蓮「そう? どの辺が?」
凛「どの辺って言うか……全体的な印象っていうのかな」
凛「一見すると気難しいタイプだし、自分にも人にも厳しいけど。それはいいものを作りたいっていう気持ちの表れなんじゃないかな」
奈緒「見てきたみたいに言うんだな。ひょっとして凛が作ってるとか!」
凛「違うって。ふふっ」
凛(私が作詞か……そのうちやってみたい、かも)
――常務オフィス
武内P「……私です」コンコン
常務「開いている」
武内P「失礼します」ガチャ
常務「要件はなんだ?」
武内P「ニュージェネレーションズが出演する番組の件ですが……」
……
常務「……それで調整するように」
武内P「わかりました。……それと、もう一つ」
常務「なんだ?」
武内P「渋谷さんが「トライアドプリムスの新曲の歌詞が良かった」と、言伝を預かりました」
常務「……そうか。ではドミナ氏にはそのように伝えておこう」
武内P「よろしくお願いします。それでは」
常務「ああ、ちょっと待て」
武内P「はい?」
常務「B面に収録する曲の件だが……蒼月姫という作詞家に依頼しようかと考えている」
武内P「!」
常務「オファーは君の方で取り付けてくれ。回答が入り次第、私に報告するように。以上だ」
武内P「はい。必ずお伝えします」
常務「では、早速行ってきたまえ」
武内P「了解しました。失礼します」ガチャ
常務「……ふふっ」
今西部長「居るかい?」コンコン
常務「どうぞ」
今西部長「失礼するよ」ガチャ
今西部長「喫煙所設置希望者の署名を持ってきたんだが……おや、機嫌がよさそうだね」
常務「そうですか?」
今西部長「うむ、そう見える。そう言えば、最近は君が現場に顔を出すことが増えたと、社内でも噂になっているよ。何か心境の変化でもあったのかな?」
常務「どうでしょうね。……強いて言うなら、星がより美しく輝けるよう、磨き照らす楽しみと、その星を見上げる楽しみを覚えた、といったところでしょうか」
今西部長「んん? それは謎かけかな」
常務「ふふっ、そんなところです」
今西部長「……驚いた。君がそんな風に笑うとはね」
常務「失礼ですね。私だって笑うことくらいあります」
今西部長「変わったね。いずれにしてもいい傾向だ。これで喫煙所が設置されていればもっといい。ということで」
常務「社員の健康管理に勤めるのも企業としての役割です。何よりアイドルに煙草の匂いは似つかわしくありません」
今西部長「ぐう……君も強情だな。こうなったら前川くんたちよろしく喫茶店に籠城してデモを……!」
常務「紫煙の私怨……」ボソッ
今西部長「ん? 何か言ったかね?」
常務「……いいえ。それより下らない話に付き合っている暇はないのですが」
今西部長「決して下らなくなんかないぞ! これは会社全体の士気にも関わることだ! だからねえ……」
常務(……変わった、というより、毒されてきている……)
ステッキ「ちゃんちゃん♪」
完
終わり
常務好きだったからこういう風にアイドルと関わってくれたらいいなーって
誤字脱字等あったらごめんちゃい
このSSまとめへのコメント
黒井社長も出してくれよ、あの人ゲーム本編ではすごいセンス持っているから。黒井にとっては常務でさえ小娘呼ばわりしそう。 武内Pを一流プロデューサーと呼びそうだ。