ワルプルギスを倒してから迎えた、初の登校日
舞い上がった私は、まどかに対し、自分と付き合って欲しいと告白してしまい
そしてあえなく撃沈
しかもその告白現場を同じクラスの生徒に見られていて
私がレズビアンだと、クラス中で噂になった…
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ほむら(あの日以来、完全にクラスから浮いてしまっているし)
ほむら(私に対するまどかの態度も明らかに冷たい…)
ほむら(もうだめ…死にたい)
学校
ほむら「昨日ロープと練炭と睡眠薬を買ってしまったわ…」
まどか「ふーん。そうなんだ」
ほむら「ええ…」
まどか「ところでさやかちゃん、昨日のドラマなんだけどさ」
さやか「ちょっとまどか、少しは転校生のこと気にしてやりなよ」ヒソヒソ
まどか「え~、でもさぁぶっちゃけ親不孝でコミ症なキモレズは死んじゃったほうが世のため人の為になるんじゃないのかなぁ?てぃひひ!」ヒソヒソ
さやか「まぁ確かにレズはないよね~レズは」ヒソヒソ
ほむら「……」
放課後、公園
ほむら「ここの公園なら、きっとよさそうな場所が…」
ほむら「あったわ、丈夫そうな木」
ほむら「太い枝に縄をくくりつけて…」
マミ「あら。暁美さんじゃない」
ほむら「巴マミ…」
マミ「暗くなる前に帰るのよ」スタスタスタ
ほむら「……」
ほむら「うっ、が、ぐぅ…」ジタバタ
ほむら「ぐ、ぐるじい…」ジタバタ
ほむら(どうして? 本だと、首を吊ればすぐに意識を失えるって…)
QB「その方法では楽には[ピーーー]ないよ、暁美ほむら」
ほむら(QB…?)
QB「君たち魔法少女は通常の人間とは大きく異なる存在だ」
QB「自分の身体に人の尺度を適用して考えるということに、疑問を持たなかったのかい?」
ほむら「ぐ、うぅぅー…、げっ…」ジタバタ
QB「まったく、少し考えれば分かりそうなものだけどね」
ほむら「ううぅ…」ジタバタ
QB「見ちゃいられないな。悪いが枝を折らせてもらうよ」
ほむら「あっ…」ドサッ
ほむら「ふっ、はあっ、はあぁ」ガクガクガク
QB「ふむ。激しい痙攣だ」
ほむら「ぐっ、ぐがぁ…、があぁ、ぐぅぅ」
QB「上辺だけは普通の人間のような反応だね」
ほむら「ふうっ、はあ、はあ…」
QB「そろそろ落ち着いてきたかい?」
ほむら「どう…、して」
QB「ん?」
ほむら「いえ…、なんでも、ない、わ…」
ほむら「……」トボトボ
QB「……」トコトコ
ほむら「どうして、ついてくるの…」
QB「興味深いからさ」
ほむら「……」
QB「魔法少女の仕組みを知って絶望し、自[ピーーー]る魔法少女は、今までごまんといた」
QB「自[ピーーー]る勇気や暇もなく、ただ魔女化する魔法少女も、数えきれないほど存在した」
QB「魔法少女システムとは全く関係ない事情で自殺した少女も、ある程度はいたかな」
QB「だけどね、暁美ほむら」
QB「君のように、死ぬつもりもないのに死にたがる魔法少女というのは、初めて見るケースなんだ」
ほむら「……」
ほむら「私は、本当に死ぬつもりよ…」
QB「ならどうしてソウルジェムを砕かない」
ほむら「……」
QB「ソウルジェムが自分の本体だということは知っているんだろう?」
ほむら「それは…」
QB「僕の見立てでは、君は結果としての死は求めていない」
QB「むしろ死に至る過程を模すことで、何かを得ようとしているように見える」
ほむら「……」
QB「ただ、それが何かが分からない」
QB「僕に感情があればそれが何かも見えてくるのかもしれないが」
QB「ここ数日君のことを観察していたが、本当に訳のわからない行動の連続だったよ」
ほむら「数日…、観察…?」
QB「ああ。君の求めているものが何かを知りたくてね」
ほむら「お前はこんな私のことを見てくれるの…?」
QB「今の君は興味深いからね」
ほむら「QB…」
QB「なんだい?」
ほむら「ありがとう」ギュッ
QB「は?」
ほむら「QB」ギュウッ
QB(一体なんだこの行動は?)
ほむ邸
QB「まったく、君は本当にイレギュラーな存在だ」
ほむら「……」
QB「かつては僕の身体を何度も殺すほど、僕を憎んでいたというのに」
QB「打って変わって今度は僕を抱擁し、あげく自分の家に招待するだなんて…」
QB「どうしてここまで行動のパターンが変化したのやら」
QB「僕達インキュベーターの理解の範疇を超えているよ」
ほむら「QB」
QB「ん?」
ほむら「濃い味付けと薄い味付け、どちらがいい…?」
QB「どちらでもいいよ」
ほむら「……」
ほむら「はい。もやしとベーコンの炒め物よ」
QB「別に僕はこのような形で栄養を摂取しなくても問題はないんだが」
ほむら「いらないの?」
QB「いるともいらないとも言っていない」
QB「僕はただ、金銭的余裕が無いというのに他者に食料を振る舞う君の行為が、理解できずに――」
ほむら「私のお財布のことを気遣ってくれたのね…」
QB「いや、別にそういうつもりでは」
ほむら「大丈夫よ。もやしは1袋10円、ベーコンは4枚で68円だったから」
QB「……」
QB(まあ、あえて拒む必要もないか)
ほむら「……」モグモグ
QB「……」
ほむら「ねえ、QB」
QB「何か質問かい?」
ほむら「ええ。お前は自分の存在価値について考えたことはある?」
QB「何かと思えばそんなことか。くだらないな」
QB「存在するから存在する。それ以上でも以下でもないだろう」
QB「何にでも意味を求めたがるのは君たち地球人の悪い癖だ」
ほむら「……」
QB「どうしたんだい?」
ほむら「私は…、地球人だから…」
ほむら「どうしても意味を求めたくなってしまうわ…」
ほむら「QBから見て私って、どうかしら…?」
QB「質問が曖昧すぎてなんとも返しがたいな」
ほむら「だから、つまりその…」
ほむら「…私に生きている価値はあるのかなって」
QB「あるんじゃないかな」
ほむら「本当…?」
QB「ああ。少なくとも僕の主観では、君は非常に興味深い存在だ」
ほむら「……」
ほむら「インキュベーター…」ギュッ
QB「だからどうして君は僕のことを腕で抱くんだい」
ほむら「こうしたいと思ったからよ」
QB「……」
QB(なるほどね。少しずつ見えてきたような気がするよ)
ほむら「インキュベーター…、キュウべえ…」ナデナデ
QB(暁美ほむらは今、自身の存在価値に対して疑問を抱いている)
QB(地球人の一部、あるいは全部かもしれないが…)
QB(とにかく、地球人の中には、自身の存在意義を定義できなくては不安になる人種がいるようだね)
QB(少なくとも一定数は。うん)
QB(そこまでは理解できたのだが…)
QB(それがどうして自殺という行為に結びついたのか)
QB(うーん…)
QB(死のうとするよりは、ただ座って思考でもしていた方が、まだ考え事は捗りそうなものだが)
QB(やはりまだ暁美ほむらの行動はよく理解出来ないや)
QB(幸いにして、彼女は僕のことを拒む様子がない)
QB(もうしばらくは観察を続けようかな)
ほむら「そうだQB。今から一緒にお風呂に入りましょう」
QB「お風呂に?」
ほむら「同時に済ませたほうがガス代が浮くもの」
QB「風呂なんて、僕には必要は…」
ほむら「いいから。一緒に入りましょう?」
QB「きゅっぷい」
ほむら「……」ゴシゴシ
QB「胸に大きな傷跡があるんだね」
ほむら「ああ、これ?」
ほむら「病気の手術跡よ…」
QB「ふーん。君は大きな病気を患っていたんだね」
ほむら「ええ…」
QB「でもそんな傷、修復してしまえばいいじゃないか」
ほむら「実際にこの傷を魔法で消したことはあったわ」
ほむら「これを消してしまうことは、今までの自分の人生への否定に繋がるような気がして…」
QB「よく意味が分からないな」
ほむら「そうね…。私自身よく分からないわ…」
QB(傷跡さえ消せば、どこから見ても均整のとれた体になりそうなのに)
QB(僕が彼女のような立場なら、傷を残しておくなんてこと、勿体無くてできそうにないや)
ほむら「さ、次はお前を洗う番よ」
QB「せいぜい身体を傷つけないようにしてくれよ」
ほむら「心配しないで。慎重に洗うわ」
QB「そうしてくれるとありがたいよ」
ほむら「……」ゴシゴシゴシ
QB「……」
ほむら「ところでQB」
QB「ああ」
ほむら「前々から気になってたのだけれど…」
ほむら「あなたはどうして宇宙のエネルギー秩序を保ちたいの?」
QB「えっ?」
QB「どうしてって、それは当たり前のことじゃないか」
ほむら「そうかしら…?」
QB「ああ。なにせ…」
QB(あれ?)
QB(言われてみれば、どうして僕は宇宙をかけずり回ってまで、エネルギー問題を解決しようと…)
ほむら「ちなみにその問題が自分の身に形となって降りかかるまでには、どれぐらいかかるの?」
QB「さあ。正確な試算はできていないから、あまり具体的なことは」
QB「いつか確実に破綻が来るということは、現時点でもわかっているけれど…」
ほむら「……」ゴシゴシ
QB「おそらくあと何億年かは、問題を放置しておいても平気なんじゃないかな」
ほむら「…ずいぶん、先のことなのね」
QB「そうだね。問題が表面化する頃には僕も消滅しているだろう」
ほむら「お前は不思議ね…」ゴシゴシ
QB「何が不思議なんだい?」
QB「これほど分かりやすい生物はいないと思うけどな」
QB「僕達インキュベーターに特徴的な、徹底した合理的思考は、おそらく他者からしても――」
ほむら「直接自分の利益にならなさそうなことのために、何千年単位で努力できる」
ほむら「この時点で合理的思考からは外れた部分があると思うのだけれど…」
QB「……」
ほむら「ひょっとしたらお前にも、私と似たところがあるのかもね」
QB「僕と君が似ている…?」
QB「…まさか」
QB「そんな筈ないさ」
ほむら「そう、かしら…」
ほむら「いいお湯だったわね…」
QB(僕が宇宙の秩序を保とうとする理由、か)
ほむら「身体を拭いてあげるわ。じっとしていてね…」
QB(自身の子孫の繁栄を望むのは、生物として当たり前の衝動)
ほむら「……」フキフキ
QB(つまり、僕はその本能に従って、宇宙という生活の場を子孫のために残そうと?)
QB(…それじゃあまるで、知性のない生物と、行動の根元が変わらないじゃないか)
QB(それに、子孫のために何かをしようという気持ちは僕の中には全く見当たらないな)
QB(動機が子孫のためという説はハズレ、と)
ほむら(乾かしたてだと毛がもふもふして気持ちいいわね…)
QB(だとしたら僕は何故エントロピーを…)
ほむら「……」ポンポン
QB「……」
ほむら「……」ポンポン
QB「あの」
ほむら「ええ」
QB「全身をぽんぽん叩くのは止めてくれないかな」
ほむら「不快だったかしら…?」
QB「そうではない。ただ、毛が傷むんだ」
ほむら「QBもそんなことを気にするのね」
QB「容姿が変わると魔法少女候補を勧誘する時の成功率に影響が出るからね」
ほむら「なんだ。そんなつまらない理由…」ポンポン
QB「だから止めてくれと言っているだろう」
ほむら「だって気持ちいいんだもの…」
QB「まったく…、何がそういいんだか」
ほむら「ふあぁー…」
ほむら(もう10時半…、そろそろ寝ようかしら…)
ほむら「キュウべえ、こっちへおいで」
QB「今度は何の用だい?」
ほむら「だっこしてあげるから一緒に寝ましょう」
QB「僕はできれば夜間の勧誘に行きたいんだが」
ほむら「そんなのいいじゃない…、ふわぁー…」
ほむら「あったかい…」ギュッ
QB「……」
ほむら「……」スリスリ
QB「頬ずりなんかされると毛並みが乱れる。止めてくれないか」
ほむら「いいでしょ、朝になったら櫛を通してあげるから…」
QB「それなら、まあ…」
ほむら「……」スリスリ
QB(なんなんだろうな、この感覚は)
QB(不思議な安心感が…)
QB(安心感? そんな馬鹿な)
QB(そのような感情、僕は持ち合わせていないはず)
QB(その筈なんだ…)
翌朝
ほむら「ううん…」
ほむら「よく寝た…」
ほむら「おはよう、キュウべえ」
ほむら「……?」
ほむら「キュウべえ?」キョロキョロ
ほむら(部屋のどこにも姿が見当たらない…)
ほむら(もしかして私、どうでもいいと見限られて…)
QB「やあ。起きていたのかい」スッ
ほむら「…よかったぁ」
QB「何がよかったんだい?」
ほむら「いえ、何でもないの…」
ほむら(外へ出ていただけだったのね…)
ほむら「それにしても、こんな時間からどこへ行っていたの?」
QB「少し空を見に行っていたんだよ」
ほむら「空を…?」
QB「ああ。この空は僕が地球に来たばかりの頃とちっとも変わらないなと、そう感じた」
ほむら「キュウべえにしてはずいぶん感傷的ね」
QB「そうだね。まったく、我ながらどうかしているよ」
ほむら「そういう変化ならいいんじゃないかしら」モグモグモグ
QB「朝食かい?」
ほむら「ええ、食パンの耳よ。キュウべえも食べる?」
QB「そうだな。試しにいただいてみようか」
ほむら「もぐもぐもぐ」
QB「食べながらでいいから聞いてくれないか」
ほむら「もぐもぐもぐ」コクン
QB「実は昨晩、夢を見たんだよ」
QB「夢の中の僕は…、地球人ほどではないけれど、多少は感情を持っていて」
ほむら「もぐもぐもぐ」
QB「宇宙を自分が守るんだという使命に燃えていた」
ほむら「…やっぱり、似ているんじゃないかしら」
QB「似ている?」
ほむら「ええ。私とあなた、どこか似ているような気がするの」
QB「僕にはとてもそうは思えないけどね」
QB「君は自分と僕のどういうところが似ていると思ったんだい?」
ほむら「ある大きな目的を果たすために、色々なことを犠牲にして」
ほむら「そうこうする内に、段々と大切なモノが磨耗していって…、そんな生き方が」
QB「するとなんだい」
QB「君は、僕が元々は感情を持ち合わせていたとでも?」
ほむら「そうだったらいいのにって、思っているわ…」
QB「……」
ほむら「一応論理的な裏付けもあるのよ?」
ほむら「もしも、いっさい感情というものを持ちあわせない生物がいたとして」
ほむら「果たしてそんな存在が、感情をエネルギー転用しようという発想に至ることがあるのか」
ほむら「ずっとそこにかすかなひっかかりを覚えていたのよ…」
QB「……」
ほむら「勿論これだけでは、あなたが以前は感情を持っていたということの証明には足りない」
ほむら「でも…、そういう可能性があるという考えの、支えぐらいには…」
QB「答えがどちらであるにせよ、そんなこと今ではどうでもいいよ」
QB「今の僕には感情がない。以前の姿がどうあれ、その事実は覆らない」
ほむら「……」
QB「さ。そろそろ学校だろう。支度をするといい」
ほむら「あ、そうね…。もうこんな時間…」
ほむら(また、まどか達と顔を合わせなくてはならないのね…。
…はぁ、学校へ行くのがこれほどまでに憂鬱だなんて…)
ほむら「…ねぇ、キュウべえも一緒に学校に行かない?」
QB(どうしようかな)
QB(この時間を勧誘に当ててもいいんだが、暁美ほむらの様子も観察したい)
ほむら「……」
QB「すまないが、日中は別行動をとらせてもらうよ」
ほむら「そう…」
QB(今日はほむらから離れた位置で、こっそり彼女の様子を観察するとしよう)
QB(その方が自然な状態が調べられそうだからね)
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