盗賊と終わりの勇者 (141)



勇者とくれば

思い浮かべるのは魔王だろ?


数え切れない怪物を従えて

人の世を支配しようと目論む恐ろしき魔の王。


それに立ち向かうのは勇者、神に選ばれた人の子だ。

そこらの酒場でゴツい戦士と年寄り魔法使いを仲間にしたら、長い旅の始まりさ。


勇者は仲間と共に数々の困難を乗り越えて、絆を深めてゆく。




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まあ、話しによっちゃあ勇者が女だったり

戦士が女だったり…

無骨な騎士が鎧を脱げば、実は見目麗しい女性だったり。

魔法使いが素性を隠していたお姫様だったりもする。

勿論、全員可愛らしくて美しい。

でなけりゃ誰も見ねーからな。


勇者以外はみな女ってのも、今じゃ珍しくない。



ああ、そうそう

何と魔王が美女だったりもするんだぜ?

果ては勇者と恋するときたもんだ!



まったく、今時のは分からんね。

他には主人公が別の奴で

勇者が敵になったり、憎まれ役になるやつもあったっけな。

中には、実は勇者が魔王だった!なんてのもあるくらいだ。


ま、出尽くした今なら何でもありさ。




あぁ悪いな、話しが逸れた……


勇者は苦難の果てに魔王の城に辿り着き、死闘の末に魔王を打ち倒す。

人の身でありながら強大な魔を討ち、世界に安寧と平和が訪れる。

中には悲劇的な結末を迎えるやつもあるみてえだがな。


まあ、大体こんな感じか?


ただ、今回の勇者の物語はちょっとだけ違う。

いや、俺が知らねえだけで、こんな話しは既にあるのかもしれねえ。

何百年と繰り返されてる演目だけに、こんな物語があってもおかしくねえからな。



それはともかく

この劇場都市で、終わることのなかった勇者の物語は、遂に終わりを迎える。

勇者が勇者を終わらせる為、劇場都市に反発し、長い長い物語に終止符を打つ。

台本なんざ無視!勇者が脚本家に牙を・く!

劇の為に死んでいった役者の命を背負い、真の勇者が立ち上がるのさ!


勇者は脚本家を打ち倒し

人々は台本から解放され、初めての自由を得る。

斯くして、劇場都市は幕を閉じる……



とまあ、今回の劇はそんな『シナリオ』さ。



>>>>

盗賊「ふーん、じゃあ此処はずっと演劇を続けてきた都市なわけか…」

盗賊「で、酒場のマスター、あんたもこのデカイ舞台の役者なのかい?」

マスター「いやいや、俺はただの酒場のマスターだよ。正真正銘の一般人さ」

盗賊「……今のもセリフってことはねえよな?」

盗賊「この劇場都市丸ごと使って劇をする、なんて聞いた後じゃあ信用出来ねえぜ?」

マスター「ま、そりゃそうか…あっ、ところであんた」

盗賊「ん?」


マスター「何しに来たんだ?劇を見に来ただけってわけじゃあなさそうだ」



盗賊「見に来たって言えば見に来たんだけどさ……」

盗賊「まあ、他にも色々と目的があってね」

マスター「……何が狙いか分からんが、気を付けた方がいい」

マスター「この劇場都市でシナリオを乱す奴は、舞台から下ろされる」

盗賊「……なるほどね、憶えとくよ」

マスター「それともう一つ」

盗賊「?」




マスター「劇は、もう始まってる」



バンッ!

盗賊「?!」

「悪名高き盗賊がいるのはこの酒場か!」



マスター「ほーら、おいでなさった」

盗賊「……ハァ、やっぱりあんたも役者かよ。いい演技だったぜ?」

マスター「そりゃどうも」ニコリ

盗賊「(つーか、劇は始まってるってことは、今は入ってきたのが勇者役の役者か?)」


盗賊「(おっ、照明が切り替わって夜になった。流石は劇場都市……)」




勇者「……!!」

盗賊「(こんな間近で主役の演技を見れるなんて、今日はツイてるな……?)」

勇者「………」ツカツカ

盗賊「?」

勇者「おい」

盗賊「えっ、オレ!?」

勇者「貴様が盗賊だな?」

盗賊「いやいやいや!!」



盗賊「確かにオレは盗賊だけど、あんたの捜してる盗賊じゃないぜ?」



勇者「嘘を吐くな!!」

盗賊「はぁ?」

勇者「金の為なら命をも奪う極悪人……私が成敗してやる!」チャキ

盗賊「ちょっ、ちょっと待てよ!あんたは勘違いして

勇者「問答無用!!」


ガキンッ…




ーーお見事!いやぁ、素晴らしいですなぁ

ーーこれぞ迫真の演技、来た甲斐がありましたよ



ーーパチパチパチ…


盗賊「ったく危ねえなぁ、少しは聞く耳持てよ…つーか何で拍手?」

勇者「……ちょっと」ボソッ

盗賊「ん?」

勇者「ん?じゃないわよ、次のセリフはあなたでしょ?」ボソッ

盗賊「いやいや、だからオレは盗賊役じゃなく…」



『シナリオを乱す奴は舞台から下ろされる』



盗賊「……次はどうすりゃいいんだ?」ボソッ

勇者「あなた、舞台に上がると頭が真っ白になるタイプね?」



ーーおぉ、緊迫したシーンですよ

ーー睨み合い一つでも迫力ありますねえ


盗賊「いいから、早く教えろって」

勇者「(はぁ、こんな駄目役者が私の相棒だなんて……)」

盗賊「は・や・く・し・ろ」

勇者「ちょっと抵抗してから私にやられるの」

勇者「それから悔い改めて、人々の為に尽くすことを誓う、分かった?」ボソッ




盗賊「……やられ役にして下僕か…散々だな」



勇者「分かった?それじゃあ、行くわよ?」グッ

盗賊「(まっ、なるようになるか)」


勇者「せいっ!!」

盗賊「(競り合いからの蹴り、これで吹っ飛べばいいのか?)」

ドガッ…ズダンッ…

盗賊「……っ」

勇者「貴様は、その短剣で幾つの命を奪ってきた……」ブンッ

盗賊「!!」


盗賊「(役者なのに動きは本物、何か妙な感じだ。動きが良すぎる)」



カキィン…カランッ…


勇者「(セ・リ・フ)」

盗賊「!!(あーもう、こうなりゃヤケだ。どうにかしてくれんだろ)」

盗賊「……確かにオレは許されない罪を犯した。しかし、全ては母の為だ」

勇者「(アドリブ!?こいつ…いいわ乗ってあげる)」

勇者「母の為に人を殺したと言うのか!!それが母の為になると!?」

盗賊「……重い病を患ってな、不治の病という奴さ……」



盗賊「女手一つ、苦労なんて一切見せずに育ててくれた。強く優しい母、だった…」



勇者「……だった?」

盗賊「悪事に手を染めた報いさ、母は……死んだよ…」



ーーむぅ、彼も中々良い味を出してますな

ーーどうなるんでしょう

ーーしっ…静かに…



勇者「………」

盗賊「少しでも楽にしてやりたい、だから金になることなら何でもやった!!」

盗賊「それが例え人殺しの依頼であっても!!オレは母を救いたかった!!」



ーー母への愛、か…

ーー恋人や娘ではないのか、少々以外だったな

ーーええ、あの若さで母への想いを表現出来るのは素晴らしいですよ



盗賊「(好評でなにより。つーか、母ちゃんかぁ……)」

勇者「(へえ、中々やるじゃない)」

盗賊「殺せ、オレにはもう何もない。母の下へ送ってくれ…」



勇者「……罪に塗れたその魂、母の下へ行けると思うのか?」



盗賊「……ならどうすればいい、教えてくれ(本当に分かんねえ)」

勇者「この劇場都市に、劇と称して数々の命を奪い続ける存在がいる」

盗賊「?」

勇者「悲劇を生むには仮初めではなく、本当の死でなければ意味がない」

勇者「命の終わりは、一際輝くなどと言ってな……」

盗賊「………(これ、演技だよな?)」

勇者「私は劇場都市を終わらせる。劇の度に起きる真実の悲劇を終わらせる為に…」



勇者「……母の下へ逝くのは、降り掛かる悲劇から人々を救ってからにしろ」



盗賊「どういう意味だ」

勇者「今のままでは確実に地獄行きだ、母に会いたければ共に来い」

勇者「貴様の犯した罪は消えないが、悔い改めることは出来る」

勇者「これからは奪うのではなく、救う為に生きろ」

盗賊「!!」

盗賊「……分かった。オレの命は人々を救う為にあると誓おう」




ーーおお、これは素晴らしい

ーーまったくです、これを間近で見られたのは幸運ですよ

ーー二人とも良い役者だ、暗がりながら表情が輝いて見える

ーー互いに決意した瞬間、というわけか



盗賊「(はぁ、やっと一段落か……)」

盗賊「(さっさと退場してえけどそうもいかねえしなぁ)」

勇者「……」ツカツカ

盗賊「?」

勇者「ここは二人とも無言で酒場を出るのよ、まだあがってるの?さ、立って」ボソッ

盗賊「あっ、ああ、わりぃな」スッ

勇者「(さっきのアドリブは大したものだけど、先が思いやられるわね)」ガシッ



ザッザッ…ギィィ…バタン



ーーパチパチパチ


>>>>

脚本家「……役者変更にアドリブか、好き勝手やってくれる」

脚本家「その分シナリオに沿っているとは言えるが、少々やり過ぎだな」

脚本家「このシナリオでなければ消えてもらう所だが、彼の観客受けは実に良い」

脚本家「しばらく好きに泳がせておいた方が此方も面白いというものだ……」

ペラッ…

脚本家「次は魔法使いとの出会いだが……ん?」

ヒラリ…ヒラリ…

脚本家「これは…ふっ、はははっ!」

脚本家「これはいい、ますます面白くなりそうじゃないか!」







ーーー終わりなき 勇者の物語り

ーーー神の脚本 その結末

ーーー舞台の上より 頂戴致します




また明日

>>5 牙をむく でした。

前に名前を盗む盗賊のお話書いてた人だよな?
前作は打ち切り最終回みたいな終わり方だったから、今回はじっくりお願いします!


>>>>

勇者「……」ツカツカ


酒場を出てから一言もなしだ、今んとこセリフは必要ねえってことか。

この後に何があるのか訊こうとしても、そこら中に観客の目があるからなぁ…

しかし流石は勇者サマ、歩く姿も堂々たるもんだ。


視線が自分に集中してるってのに、気にする素振りなんざ微塵も見せねえ。

あれが本物の役者ってやつか。

いや、まあ、そのくらいじゃねえと劇場都市の主役に選ばれねえか。



勇者「観客の目が邪魔だ。盗賊、裏道に入るぞ」

盗賊「ん?ああ、分かった(これもセリフか?)」


劇場都市のど真ん中、劇場大通り

そこからわき道へ抜け、どんどん人気のない道を進んでいく。

いつの間にやら、天井は星のきらめく夜空に変わってる。

ここじゃ朝も夜も取り替え放題、正に劇の為の都市ってわけだ。



ん?本当に人気がなくなってきたな……

後を付けてた観客の姿もねえ。

何だか解放された気分だ、妙に力が入っていたのか肩が凝る。

しかしなぁ、まさかこんな形で舞台に立つとは思わなかったぜ。



勇者「……」ピタッ

盗賊「?」

勇者「ふーっ、やっと撒いたわね。座りましょ?」

盗賊「えーっと、これは休憩?」

勇者「まあ、そんなところね……」

盗賊「あー、すっげえ疲れた」ストン

勇者「ねえ、一ついい?」

盗賊「どーぞ」


勇者「あなた、役者じゃないでしょ?」

盗賊「うん」


勇者「……随分あっさり認めるのね」



盗賊「演技は下手なんだ、幾ら取り繕ってもバレるに決まってる」

盗賊「それに、一流の役者に嘘は通じないだろ?」ニコッ

勇者「当たり前でしょ?」

勇者「あなた、顔はいいんだけど他はまるで駄目よ」

盗賊「は、はぁ…すいません」

勇者「酒場のアドリブは良かったけど、外に出た途端に気を抜いたでしょ?」

勇者「立ち姿もなってないし、歩き方もなってない」


勇者「素人ね、素人」



盗賊「オレなりには頑張ったんだけどな……」

勇者「はぁ…あなた、夜場面の照明に助けられたようなものよ?」

勇者「歩いてる時も、やたら観客の視線気にして落ち着かない顔してるし」

盗賊「それは本業が盗賊だからさ、クセみたいなもんだよ」

勇者「盗賊?本物の?」

盗賊「酒場でそう言ったろ?オレは盗賊だってさ」



勇者「……だから間違えたのね」



盗賊「ん?」

勇者「私、てっきり役に入りきってると勘違いしたのよ」

勇者「あなたが本物の盗賊だなんて知らずに、この人が『盗賊役』だってね」

勇者「本物がいたら勝てるわけないわ……盗賊役には申し訳ないことしたわね」

盗賊「まあまあ、過ぎたこと考えても仕方ねえよ」

勇者「……はぁ、このミスがどれだけのことか分かってる?」

盗賊「分かるさ、でもオレには力強い味方がいる」



勇者「味方?盗賊仲間ってことかしら?」



盗賊「違う違う、味方ってのはキミだよ」

勇者「私?」

盗賊「ああ、オレには主役の勇者サマがついてる」

盗賊「例えオレがド下手な演技をしようが、どんなヘマをしようが……」

盗賊「一流の役者が何とかしてくれる、だろ?」ニコッ

勇者「……あぁ…何だか頭が痛くなってきたわ」

盗賊「ははっ、オレは大船…いや、豪華客船に乗ってる気分だよ」



勇者「……私は泥船漕いでる気分よ」



盗賊「あのさ」

勇者「何?お金ならあげないわよ」

盗賊「そのつもりならもうとっくに盗んでる。そうじゃない」

勇者「………」

盗賊「この劇の結末は勇者役の勝利、脚本家役の敗北なんだろ?」

勇者「……ええそうよ、あくまで劇中での出来事だもの」

盗賊「オレはそれを本当にしたいんだけど、どうかな?」

勇者「!!」



盗賊「キミが酒場で叫んだセリフは演技じゃない。あれは本心だ」



勇者「何を根拠にそんなことを……」

盗賊「さっき言ってたろ?本物には勝てないってさ」

盗賊「あの時の表情は本物だと思った。どうかな?」

勇者「………」

盗賊「答えたくないなら別にいい、オレがそうしたいだけだから」

勇者「あなた、一体何が目的なの……」

盗賊「うーん、何だろうね?」ニコッ

勇者「真面目に答えて」

盗賊「物語に囚われ続ける終わりなき勇者……の、終わり」

勇者「……えっ?」




盗賊「いや、目の前の麗しき君の自由かな」




勇者「………」

盗賊「どうした?」


勇者「別に何でもないわ」

勇者「よくもまあ、そんなセリフを言えるものだと思っただけ」

勇者「まあ、今の演技はいい線いってるんじゃない?」

盗賊「演技?今のは本気だぜ?」

勇者「………」フイッ


盗賊「大体、女に戦わせるってのが気に入らねえんだよなぁ」ウン

盗賊「マスターの言う通りだぜ、最近の脚本家の考えることは分かんねえ」



盗賊「あ、ところで、これからどうするんだ?」

勇者「……(こんな素直な、正直な人が劇場都市いるなんて皮肉ね)」

勇者「(この人は演技が下手なんじゃない。演技が出来ない人……)」

盗賊「?」

勇者「(ねえ、この人になら、話してもいいの?)」

盗賊「大丈夫か?」

勇者「え、ええ、大丈夫よ。なにかしら?」

盗賊「だから、これからどうするんだ?」



勇者「劇場大通りへ戻って、魔法使いに会うの」



盗賊「いいのか?」

勇者「えっ?」

盗賊「オレも一緒に行っていいのか?本物の盗賊だぜ?」

盗賊「オレは目的を言ったけど、まだキミの気持ちは聞いてない」

勇者「……ごめんなさい。少し、考えさせて」

盗賊「そんな顔すんな、話したいときに話せばいいさ。いきなり話せって方が無理だ」

盗賊「ほら、誰にだって秘密はあるもんだろ?」

勇者「……あなたには、あなたには秘密はないの?」

盗賊「それは秘密」



勇者「(彼の、この笑顔は何だろう……)」

勇者「(自分が勇者であることを、役者であることを忘れてしまいそうになる)」



盗賊「うっし、休憩は終わりだな。行こうぜ」

勇者「待って、照明が夜から昼、朝へ変わる前に言っておくわ」

勇者「明るくなれば誤魔化せなくなる。良くも悪くもあなたは目を引くから」

盗賊「げっ…どうすりゃいい?」

勇者「何もしなくていい」

盗賊「は?」

勇者「あなたは自然体でいいの、下手に演じようとしない方がいいわ」

盗賊「え、何で?」

勇者「それはあなたが……」

盗賊「なんだ?」

勇者「何でもないわ……盗賊、行くぞ」



盗賊「はいはい分かりましたよ、勇者サマ」

また明日


※※※※

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ーー夢見る貴方の劇場都市より抜粋

>>>>

勇者「警戒を怠るな、脚本家は何処かで必ず見ているはずだ」

盗賊「ああ……(雰囲気も表情もさっきとはまるで違う)」

盗賊「(軽々しく話そうものなら何されるか分かんねえな)」



ーーおお、出てきたぞ!

ーーあれが勇者か…何とも美しく凛々しい

ーーわぁ、私もあんな格好いい女性になりたいなぁ

ーーきゃー、盗賊さーん!こっち見てー!

ーー顔でしか判断出来んのか、これだから女の観客は……



ーーおや、盗賊の彼、観客である我々にも警戒しているようですね

ーーええ、あの目が素敵ね、彼の演技は新鮮だわ



盗賊「(なるほどね、自然体でいいってのはこういうことか)」

勇者「盗賊、あれを見ろ」

盗賊「?」

勇者「この延々と続く劇場大通りの先、塔があるのが分かるか?」

盗賊「……ああ、ぼんやり見えるな」



勇者「あれは神の塔と呼ばれている」

盗賊「神の塔、ね……」

勇者「この劇場都市では、脚本家が神と言っても過言ではない」

勇者「紡がれる物語の創造主にして、この都市の破壊者だ」

盗賊「……破壊者」

勇者「そうだ、劇の為なら命を奪い、都市すら破壊する」



勇者「それが私の、勇者の打ち倒すべき敵……」



盗賊「……それは本気なのか」

勇者「……ああ、私は奴を討つ」

勇者「奴がいる限り、勇者の物語は終わらない」

勇者「今まで劇中で失われた数多の命、奴の演出する悲劇……」

勇者「それら全てを、私が終わらせる!」



ーーうーむ、長年見てきたが、今までの勇者役とは格が違う

ーーこれは歴史に残るシーンかもしれん

ーーいやはや、声が出ませんでしたよ

ーー異色作って言うから悩んでたんだが、見に来て正解だったな



盗賊「(今のセリフが答えってことでいいのか?それとも……ん?)」

盗賊「なあ、あいつは誰だ?こっちに来るぜ?」ボソッ

勇者「きっと魔法使いよ、痺れを切らして来ちゃったみたいね」ボソッ


魔法使い「やあ、遅いから迎えに来たよ。おや、彼は?」


勇者「彼は盗賊、きっと頼りになるだろう」

魔法使い「へえ、盗賊……盗賊だって!?」

魔法使い「金の為なら命を奪う人殺し!大悪党じゃないか!」



盗賊「(ひでえ言われようだな……まっ、ここは勇者サマに任せるか)」



勇者「彼はこの都市の人々を救うと誓った。問題はない」

魔法使い「そんな安い誓いがあるものか!信用出来るはずがない!」

魔法使い「勇者、考え直すんだ、いつ背中を刺されるか分かったもんじゃない」



ーーなにアイツ、盗賊様に向かって…

ーーまあ、当然の流れだな

ーー盗賊か、オレはあんまり好きじゃないな

ーー男の嫉妬は醜いわよ

ーーけっ、顔がいいだけじゃねえか



勇者「ならどうする?」

魔法使い「簡単なことだよ」ガチャ

盗賊「勇者、下がれ!!」グイッ

勇者「!?」

ゴウッ…ボォォォッ…

盗賊「……てめえ、何しやがる」

魔法使い「あらら、避けられちゃったか」



魔法使い「今の魔法で二人とも燃やすつもりだったんだけど……」



盗賊「何が魔法だ、火炎放射器じゃねえか」

魔法使い「この劇場都市で、そんな夢のないこと言わないでくれるかな」

勇者「魔法使い、まさか貴様!!」

魔法使い「脚本家がもっと盛り上げたいらしくてね、シナリオ変更だよ」

魔法使い「私としても、こんな見せ場を貰えたのはラッキーだ」

盗賊「……なあ、これもシナリオの内か?」ボソッ

勇者「いえ、こんなの知らないわ」ボソッ

魔法使い「さて、観客も沢山いることだ。始めよう」ガチャ



魔法使い「裏切り者は悲劇は起こす。例え、やられ役だとしても……」

勇者「……………」



勇者「魔法使い、止めろ。今なら間に合う」

魔法使い「これは私の見せ場だ、邪魔しないでくれないか?」

盗賊「っ、何見てんだ!さっさと逃げろ!」


ーーこれも演出でしょ?

ーー少し離れれば大丈夫だろ

ーーおぉ、熱気がここまで伝わってくる

ーー凄い迫力だな、持つのも大変そうだ…



魔法使い「…哀れな観客だ……燃えろ」

勇者「よせっ、止めるんだ!!」



ーーお、おい、こっちに向けてるぞ?

ーーまさか本当に…


トントン…

魔法使い「!!」クルッ

盗賊「役者が観客を殺すなんてちっとも笑えねえな」

魔法使い「(こいつ、いつの間に……)」

盗賊「それにオレは、悲劇を止めると誓ったんでね」ニコッ

勇者「……盗賊…」

魔法使い「っ、燃えろ!!」


ゴウッッ…ボォォォッ…



勇者「盗賊っ!!」

魔法使い「はははっ、燃えろ燃えろ!骨まで燃えろ!」

勇者「……魔法使い、貴様っ!」ダッ

魔法使い「おっと、それ以上近付くな」ガチャ

ゴウッ…

勇者「くっ…」

魔法使い「剣で魔法に勝てるとも思っているのか?愚かな奴だな……」

盗賊「そんな魔法じゃ、オレはちっとも燃えないけどな」

勇者「!!」



ーーきゃー、盗賊さまー!

ーーふぅ、本当に燃えちゃったのかと思ったよ

ーー彼はスタントも出来るのか、凄いな……



魔法使い「ど、どこだ…」

盗賊「ここだよ、放火魔法使い」


ーーおいっ、あそこだ、パン屋の屋根の上!

ーーあの一瞬でどうやって……

ーー私決めた、彼のファンになる

ーーあんな役者は見たことがないな…


魔法使い「私は放火魔じゃない、魔法使いだ!」

盗賊「ははっ、そんな炎じゃパンも焼けねえよ。ほら、これ使いな」ポイッ

魔法使い「……箒?」



盗賊「ほら来いよ、魔法使いなら箒で空飛べんだろ?」



魔法使い「馬鹿にするな!!」ベキッ

盗賊「どうした、顔が真っ赤だぜ?顔から火を噴くつもりか?」

魔法使い「っ!!」


ーーはははっ、これはいい

ーーあっという間に盗賊のペースだな

ーーさっきまでの雰囲気が嘘みたい……



魔法使い「なら、最大火力で燃やしてや

勇者「いつまで下らない会話を続けるつもりだ?」



魔法使い「!?」

勇者「まさか主役を忘れたわけではないだろうな?」

ザンッ!

魔法使い「がはっ…」ガクン

勇者「舞台から下りろ、然もなくば……殺す」

魔法使い「舞台を下りるくらいなら、死を…選ぶ……」カチッ

勇者「っ、自爆!?」


ズダンッ!



盗賊「あんまりシナリオ乱すと、舞台からおろされるぜ?」ガシッ



魔法使い「!?」

盗賊「すぐ戻る」バシュッ

ガギッ……

勇者「ちょっと待って、何を

盗賊「大丈夫さ、悲劇は起こらない」

勇者「えっ…」


ギュララララ…


魔法使い「……どうするつもりだ」

盗賊「劇の度に生まれる悲劇はもう沢山なんだとさ」


魔法使い「……私は役者だ、舞台の上で死ねるなら本望だ。離してくれ」



盗賊「嫌だね」

魔法使い「このままではお前も死ぬぞ」

盗賊「あんたは生きたくないのか?」

盗賊「こんな劇が最後の舞台でいいのか?それがあんたの本望だってのか?」

魔法使い「………」

盗賊「舞台なんて世界中にあるんだ、あんたは自分で舞台を狭くしてるだけさ」

盗賊「今の魔法使いより素敵な魔法使いに、あんたならきっとなれるよ」

魔法使い「!!」

盗賊「さあどうする?」



盗賊「背中の燃料と腕の噴射機、あんたが外せば生きられるぜ?」



ドガンッ!


ーーな、何だ?爆発!?

ーーあいつ、本当に自爆するつもりだったのか?

ーーまさか、これも演出でしょ

ーーいや、こんな危険な演出、あるはずがない

ーーじ、じゃあさっきのは全部本当だったってこと?

ーーいや、でも無事だったわけだし大丈夫だろ

ーーあの盗賊は、我々を死んだのか?


ズダンッ!

盗賊「皆様方、花火はお気に召しましたか?」ニコッ


ーーキャーッ!!

ーーワアアアア!



勇者「まったく、シナリオなんてとっくにめちゃくちゃじゃない……」



ドガンッ!


ーーな、何だ?爆発!?

ーーあいつ、本当に自爆するつもりだったのか?

ーーまさか、これも演出でしょ

ーーいや、こんな危険な演出、あるはずがない

ーーじ、じゃあさっきのは全部本当だったってこと?

ーーいや、でも無事だったわけだし大丈夫だろ

ーーあの盗賊は、我々を救う為に死んだというのか?

ーー『…………………』



ズダンッ!

盗賊「皆様方、花火はお気に召しましたか?」ニコッ


ーー『キャーッ!!』

ーー『ワアアアア!いいぞー!!』



勇者「まったく、シナリオなんてとっくにめちゃくちゃじゃない……」

また後で
>>57は×
>>58が○

セリフがクサいのは勘弁して下さい
苦手な方、すいません


>>>>

脚本家「魔法使い……彼を相手によくやった方だが、やり過ぎだ」

脚本家「……一度崩れた物語は修復出来ない、この先は全てがアドリブになってしまう」

脚本家「少しでも修正しなければならないな。多少、強引であっても……」

脚本家「……しかし、彼があそこまで影響を及ぼすとは……」

脚本家「今や盗賊役ではなく、彼自身が観客に受け入れ始めている」

脚本家「……面白い存在だが、少々目障りなのも事実……」

脚本家「まるで彼を中心に世界が……」

脚本家「いや、いるわけがない!彼女以外にそんな存在はいない!」

脚本家「……これまで創作した何よりも、彼女は輝かしく自由だった」



脚本家「彼女の物語は、決して終わらせない……」


>>>>

ーーパチパチパチ!!!


盗賊「ふーっ、何とかなったな!!」

勇者「そうね、もう誰が主役か分かったもんじゃないわ」

盗賊「怒ってる?」

勇者「怒ってなんかないわ、ただ悔しいだけよ」

盗賊「悔しい?何で?」

勇者「この都市に響き渡る拍手を一身に受けるあなたが羨ましいの!」


盗賊「ははっ、今なら大声で話してもバレねえし、良かったろ?」



勇者「まあ、そうね……」

勇者「私、舞台でこんな風に話したのは初めて……」

勇者「もしかしたら、観客がこんなに喜んでるのも初めてかもしれない」

盗賊「そりゃあ流石に言い過ぎだろ」

勇者「本当よ?きっと、これが見たかったのよ……」

盗賊「?」



勇者「演劇ではなく、人間が生み出す本物の感動や驚きを……」



盗賊「演劇に飽きてるってことか?」

勇者「皆は気付いてないでしょうけどね……」


ーーパチパチパチ!!!

ーー『ワアアアアッ!!』


勇者「この拍手と熱狂を見れば一目瞭然よ」

盗賊「へえ、オレには楽しんでるようにしか見えないけどな」

勇者「はぁ…今更だけど言っておくわ」

盗賊「なに?」

勇者「素人のくせに目立ち過ぎ、あなたの所為でシナリオはめちゃくちゃ」



盗賊「うーん、もういいんじゃねえかな?」



勇者「えっ?」

盗賊「だって勇者の、いや、キミの物語はそういうシナリオだろ?」

勇者「だからってここまで……まあいいわ…」

勇者「それより魔法使いはどうしたの?彼は無事なのよね?」

盗賊「勿論、今頃劇場都市を出て新しい舞台を捜してるはずさ」

勇者「……そう、じゃあ私達も行きましょ?今なら姿を隠せる」

勇者「あなたに話したいこともあるから……」



盗賊「……そっか、じゃあ行こうぜ」



ーー飲め飲め!

ーー踊れ踊れ!


盗賊「ははっ、まるで祭りだな」

勇者「私達なんて要らないみたいね、あれだけ騒いでるんだもの」

盗賊「何言ってんだ、主役だろ?」

勇者「ふふっ、そうね。そうだったわね……」

勇者「ねえ……」

盗賊「ん?」

勇者「……花火、綺麗だった」

盗賊「また見せてやるよ、もっと綺麗なやつ」



勇者「……楽しみにしてる」

また後で


>>>>

街灯もない裏道の裏道

劇場大通りの熱気と歓声も、此処にはほんの少ししか届いてこない。


劇場都市の映し出す星空だけが、この舞台唯一の照明。

星明かりは勇者の髪を照らし、盗賊の存在を浮き彫りにした。

揺れる金色の髪はきらきらと輝いて、作られた星空は悔しそうにしている。

やがて星空は涙した。


この悔し涙は

観客の熱気を冷ます為に流されたのかもしれない。



冷えた雨粒に濡れながら、二人は歩く。

勇者も盗賊も、あれから無言のままだ。


雨音は激しさを増し、劇場都市を包み込む。

遂には熱気も歓声も、裏道に響く靴音さえも掻き消された。

星空は姿を消して、暗闇が現れる。


変幻自在の劇場都市が作り出す、偽りの暗闇。


ふと勇者は立ち止まり、古ぼけた家を指さした。

どうやら此処が目的地だったらしい。



当然明かりはなく、家の中は真っ暗闇。

盗賊の眼が暗闇に慣れた時には、既に勇者が暖炉に火を灯していた。


古くからこの場所を知っているのだろう。

何処に何があるのか分からなければ出来ない所作だった。

外観こそ古いものの、中は比較的新しく、埃もない。


勇者は盗賊を気にする素振りも見せず服を脱ぎ、着替え始めた。

盗賊も大して驚くこともなく、渡されたタオルで髪を乾かす。



二人は暖炉の前に座り、しばしの無言ののち、勇者は語り始めた。




>>>>

パチッ…パチパチッ…

勇者「今は裏道だけど、この辺りにも人が住んでたの……」


勇者「けど、劇の為に燃やされた。随分昔のことだけど今でも憶えてる」

勇者「あの時の勇者は助けに来なかったわ。ただ、焼けた家を見つめてた」

勇者「悲しそうに、済まない、なんて呟きながらね……」

勇者「勿論演劇よ?私達は知らなかった。知らされてもなかった」

勇者「当然よね?知らされてたら逃げるもの……」



勇者「勇者の悲しみを演出する為だけに、私は家を、家族を失った」



勇者「きっと私の他にも沢山いるわ。でもね?」

勇者「誰も劇場都市から出ようとしない、夢から醒めようとしないの」


勇者「皆、夢を見てるのよ……起きている事は全て現実なのに……」

勇者「自由を望んでいる人なんて、実は少ないのかもしれないわね……」

勇者「そもそも疑問に思ってる人がいるかどうかも分からない」



勇者「寝心地の良い、夢見る都で、私だけがおかしいのかも……」



勇者「……ごめんなさい、回りくどいわね」

勇者「何をどう言おうと、私のしようとしてることは復讐」

勇者「その為に生きてきた、だから演技も剣術も頑張れた……」

勇者「それを分かった上で、脚本家は私を選んだのよ……」

勇者「私が演じた方がリアリティがあるから、ね?」



盗賊「こんな時まで無理して笑うなよ」



勇者「えっ?」

盗賊「泣きたきゃ泣いてもいいんだ」

盗賊「此処にはオレしかいないし、泣き声は雨が消してくれる」

盗賊「でもさ、復讐の為だけに生きてきたなんて寂しいこと言うなよ」

盗賊「勇者の終わりが、キミの始まりなんだから」

勇者「!!」

勇者「ふふっ、あなたって…本…当に…グスッ…」

ギュッ…

勇者「あっ…」

盗賊「泣き顔は、誰にも見られたくないだろ?」

勇者「……バカ」


パチッ…パチパチッ…


盗賊「雨が止んだら塔に行こう。何か仕掛けてくる前に」

勇者「……そうね…きっと、私達を捜してる……」

ここまでかもしれない


>>>>

勇者の衣装と盗賊の服が乾いた頃

あれだけ激しく降っていた勇者の涙も、作られた星の涙も止んでいた。


劇場都市の熱気はすっかり冷めて、本物の静けさが訪れる。

しかしこの都市でただ一人

勇者の熱だけは冷めることがなかった。


暖炉の前で二人は寄り添い、寝転んだまま。

盗賊は勇者を優しく抱き締めながら、眠ってしまったようだ。

その腕の中で勇者は顔を赤らめて、時折上目で盗賊を見つめている。



まるで子供のように無邪気で

吹き抜ける風のように、自由で掴み所のない彼。

演技の何たるかも知らないのに、観客の心を一瞬で鷲掴みにした素人。


じっと見つめる内に彼女の方が耐えきれなくなったのか、再び彼の胸に顔を埋める。

胸の内は穏やかなのに、心音は高鳴るばかりで落ち着きがない。

けれど彼女には、それが嬉しかった。


それが何なのか分かったことに身体が驚いただけで、心は喜んでそれを受け入れた。

勇者である内は決して芽生えることはないと、そう考えていたのに。



予想予測は彼に通用しないのだろう。

だからこそ、それは一夜にして芽吹き、大輪を咲かせた。


しかし喜びと同様に寂しさもあった。

彼の寝顔も、私を抱き締めて離さない腕も、いつかは離れてしまうだろう。

この劇が終えた時、彼はきっと、遠い遠い場所へと飛び立ってしまう。

自由な翼で何処までも何処までも、気の向くままに羽ばたいていくのだろう。


そう考えると、胸が酷く痛み出した。

彼と共にいられるのは今この時だけだと、彼女は理解しているからだ。



すると突然

彼女の身体が、心の命ずるままに動き出した。


今までに経験したことのない、彼女の人生初めてのシーン。

それはぎこちなくて初々しくて、愛らしさに溢れていた。

彼女は彼の寝顔に優しく微笑んで、頬と唇に、そっとくちづけた。


すると彼の瞼がぴくりと動いた。

どうやら彼女のくちづけで彼は目覚めたようだ。

彼女は悟られぬよう素早く動き、顔を伏せた。

幸い気付かれてはいないようで、彼女は胸を撫で下ろし、平静を装う。


いつの間にか夜は退場していて

窓から差し込む眩い朝日が、二人を照らしていた。


>>>>

盗賊「……寝てた?」

勇者「ええ、気持ち良さそうに寝てたわ」

盗賊「んーっ、いい朝だ。雨、止んだみたいだな」

勇者「……バカ言ってないで起きなさい」

勇者「面倒なことになる前に、塔へ行くんでしょ?」

盗賊「あ、そうだったな。んっ…」ノビー


盗賊「うっしゃ、で?また大通りへ戻ってから塔へ行くのか?」



勇者「ええ、敢えてシナリオ通りにね」

盗賊「なるほどね、でも大丈夫なのか?」

勇者「何が起きるか分からないのは何処を通っても同じ」

勇者「迂回して行くことも考えてみたけど、大通りの方が安全だと思うわ」

盗賊「観客がいるからか?」

勇者「ええ、絶対安全、なんてことは言えないけど……」

盗賊「……観客にまで危険が及ぶ可能性があるな」


勇者「……そうなってもおかしくないわ、シナリオ変更なんて初めてだもの」



盗賊「まっ、なるようになるさ」

盗賊「何が出て来ても皆を守って勇者は進む、そうだろ?」

勇者「ふふっ、そうね」

盗賊「………」

勇者「な、なによ、じっと見て…」

盗賊「いや?そっち方がいいと思ってさ」

勇者「?」

盗賊「昨日の寂しい笑顔より、今の方がずっといい」

盗賊「演技も凄えけどさ、普通に笑った方がいいんじゃねえか?」



勇者「……もう目は覚めたでしょ、行くわよ」



盗賊「着替えねえの?」

勇者「今から着替えるわ」

盗賊「じゃあ着替えろよ」

勇者「……私は、今から、着替えるの」

盗賊「それは分かってるから早くし

勇者「っ、外で待っててってこと!分かった!?」ブンッ

盗賊「わ、分かった、分かったから!物投げんな!」

ガチャ…バタンッ…

勇者「はぁ…鈍いのか鋭いのか、わざとなのか素なのか分からないわね……」



勇者「本当に、不思議な人……」

また後で


>>>>

ーー…ナ…

ーー…サ…ナ…聞…えるか?

勇者「……誰?」

勇者「(声はあのスピーカーから?あれは壊れてたはず…)」

ーースサナ、其処は危険だ

勇者「スサナ?」



ーー……勇者、今から言うことを聞いてくれ

勇者「(敵意はない。けど、味方かどうかも分からないわね)」



ーー脚本家は君を殺そうとしている

ーー奴に物語を終わらせるつもりなどないのだ

ーー現に、私の描いた結末を覆そうとしている

ーー今の私なら、君を救える


勇者「……話が見えな

ズドンッ!

勇者「!?」



ーーキメラ……劇の為に造られた怪物…

ーーどうやら奴も本気のようだ

ーー私も急がなければならないな


勇者「盗賊!!」ダッ


ーー悪いが、行かせるわけにはいかない

ーー君には勇者として、やるべきことがある

ーー舞台裏へ、来てもらう



勇者「えっ?きゃっ…!」



>>>>

勇者「……此処は…」


ーー気が付いたか

ーー手荒な真似をして済まなかった

ーーああするしか方法はなかった


勇者「落とし穴なんていつの…間に…?」

勇者「!?(あれは、人間の…脳?)」


ーーあぁ驚かせて済まないな、私は見ての通りだ



ーー膨大な機械に繋がれて生きている

ーーいや生きていると言えるのかは疑問だが


勇者「……あなたは、なんなの?」


ーー私は遙か昔に劇場都市を作り出した者にして

ーー劇場都市そのものであり……

ーー全ての勇者の創造主、脚本家だ



勇者「脚…本家?」

勇者「脚本家は何代も続いている一族、この都市の主でしょ?」



ーー合っているが、違う

ーー何代も続くこの都市の主、それは私が与えた役だ

勇者「…なら、あなたはいつから……」


ーーこの姿になってからは数えていない

ーー少なくとも数百年は生きているだろう

ーー言っただろう?私が劇場都市を作ったと



勇者「……何が起きているか分からないわ」

勇者「状況が理解出来ない、これは現実?」



勇者「それとも、これもシナリオの内なの?」

ーー君は何も理解する必要はない

ーーシナリオに沿って、私を殺せばいい

ーー君の復讐も遂げられる

勇者「!!」

ーー何も考える必要はない

ーー悩む必要も、これ以上の会話も必要ない

ーー私を壊せば、全てが終わる




脚本家「それは止めてくれ、終わってしまっては私が困る」



ーー!!

ーー貴様……どうやってこの場所を…


勇者「(これは何なの?一体何が起きてるの?これは劇?それとも現実?)」



脚本家「とうの昔に知っていたよ。だから気付かれずに入ってこれた」

脚本家「まさかこんな薄暗いモニタールームに住んでいたとは……」

脚本家「なるほど、此処から劇場都市の全てを見ていたわけか」



ーーっ、どうするつもりだ


脚本家「君には今まで通り、此処で生き続けてもらう」

脚本家「そして私の為に、永遠に脚本を書き続けて欲しい」


ーーふざけるな!私の物語はこれで終わりだ!

ーー誰が貴様の為に……

ーー貴様の為になどスサナを書いてたまるか!



脚本家「機械になってまで数百年も生き続け……」

脚本家「数百年もの間一人の女を愛し、描き続けた狂人が何を言う」

脚本家「そこの娘が、そんなに似ているのか?始まりの脚本の彼女に…」


ーー!!


脚本家「私にとっては邪魔な存在だ、君には再び脚本に専念してもらう」チャキ

脚本家「君は夢を描き続ける存在、現実など必要ないだろう?」

勇者「!!」



ーー止せ!彼女に手を出すな!!



脚本家「ははっ、身体を捨てたのは最大の失敗だったな」

脚本家「愛する女を身を挺して守ることすら出来ないのだから!!」

バンッ!

勇者「ぐっ…うっ…」


ーースサナ!しっかりしろ!

ーースサ…ナ…?スサナァァァ!!

ーー…る…さん…

脚本家「ん?何かな?」

ーー許さん!貴様だけは決して許さん!!



脚本家「吼えるな、脳から妄想を垂れ流すしか能がない化け物め」



勇者「…うっ…はぁ…はぁ…?」

勇者「(今、モニターに何か映っ……!?)」

ーー!!?


『神の塔にて、お待ちします』


勇者「はぁっ、はぁっ…」

脚本家「……ん?まだ生きていたのか」

勇者「ふっ…はははっ!!」

脚本家「……何が可笑しい」



勇者「貴様のような小物が、私の復讐すべき相手だったとはな!!」



勇者「これが笑わずにいられるか!?」

勇者「しかも数百年続いたこの劇場都市は、ただの張りぼて……」

勇者「この私が、勇者が幕を引くまでもない!!」

脚本家「……言いたいことはそれだけか?」

ガコンッ!ゴゴゴ…

脚本家「なっ、何だ!?」



ーーこの場所も、いよいよ隠す必要はなくなった

ーーこの場所も、いよいよ舞台になる時が来た


脚本家「貴様、何を…」


ーー地の底より、神の塔へと昇る時が来た!



轟音が鳴り響き、地を震わせる。

主役を乗せた新たな舞台は、凄まじい速度で天へ昇ろうとしていた。

神の塔の最上を目指し、彼は止まることなく昇り続ける。

永遠の脚本家は、終わりを目指して登り続ける。


愛した女性と瓜二つ

最後の勇者を背に乗せて、彼は遂に飛んだのだ。

暗がりから飛び出して、日の当たる場所へと羽ばたいたのだ。



傷を負い血を流す勇者を救う為

ありし日の彼女を救うべく、彼は決断した。



強い意思を持って決断した。

自分も舞台へ立つことを!前へ進むことを!


突如、朝日は夕陽へと切り替わる。

それは彼が決めた景色、彼の想う景色。

遠い遠いあの日、彼女と共に見た夕陽。


全てが作り物、偽物

勇者が叫んだ通り、全ては張りぼて……

しかし、今やそれは本物になりつつあった。



勇者が、彼女が今、最も求めている存在。

彼女と彼の再会シーンは、紛れもない本物なのだから。

もうすぐで終わるかもしれないけど
今日中には終わらないかもしれない


ゴオオオオッ!

脚本家「ぐっ…」

勇者「うっ、重…い…」

ガゴンッ…

勇者「……止まっ…た?」

シュゥゥ…ガチャッ

盗賊「…ったく、いきなり消えるから焦ったぜ」

勇者「盗賊!!痛っ…」

ガシッ…


盗賊「無理すんな、撃たれてんだろ?これで縛っとけ」

勇者「…ええ、ありがとう……」



盗賊「迫真の演技だったな……」

盗賊「映像はないけど、声は確かに聞こえたぜ?劇場都市中にな」チラッ


ーー……………


盗賊「それに、助けたのはオレじゃない。助けたのは彼だよ」

勇者「……でも、何で場所が?」

盗賊「最初から知ってたんだ」

盗賊「彼が劇場都市の地下、その何処かにいるってことだけはね……」



盗賊「やはり彼は……いや、偉大なる脚本家・パストルは生きていた」



脚本家「………っ」チャキ


ーースサナ!!


勇者「?」

脚本家「死ね、終わりの勇者」ニヤ

盗賊「!!」ガバッ

バンッ!

勇者「……えっ…」

盗賊「っ…大丈夫…かっ…」ガクン



勇者「…盗…賊?そんなっ…うああぁぁぁっ!!!」ダッ



ーー止せっ、無茶だ!!


脚本家「馬鹿が…」チャキ

勇者「お前は、お前だけは!!!」


ーーダメだ、あれでは届かない、無理だ……

ーー私は、また繰り返すのか

ーーあの悲しみを繰り返すのか

ーー私は、また動けないまま……

ーー!!


ーー盗賊、私を引け!!!早くするんだ!!


盗賊「………っ!!」バシュ



ガギィッ…ググッ…

脚本家「なん…ッ!!?」

ドズンッ…グシャッ…


ーースサナ、良かった……

ーー私はまた君を失うところだった


勇者「私はスサナじゃ…


ーースサナ、大丈夫かい?怪我はないかい?

ーースサナ、大丈夫かい?怪我はないかい?


勇者「!!」

勇者「……ええ、私は平気よ。ありがとう、パストル」ニコッ


ーーそうか、良かった…本…当に、良か…た……

ーーあぁ…こ…れで、やっと君…の傍に…逝…ける…

無理そうだから、また明日書きます
次で多分終わります


>>>>

勇者「…………」

盗賊「んっ…」

勇者「!!」

盗賊「いってえ…あ、おはよう」

勇者「ふふっ、おはよう。大丈夫?」

盗賊「……ああ」ムクッ

勇者「まだ寝てて良かったのに」

盗賊「そうしたいけど、脚が痺れるだろ?」



勇者「そうね、凄く痺れてるわ……」



盗賊「?」

勇者「……ねえ」

盗賊「ん?」

勇者「私、あれで良かったのかしら?」

盗賊「ああ、あれで良かったのさ」

勇者「……そう」

盗賊「……………」


勇者「夕陽、とても綺麗ね」

盗賊「そうだな……」



ーーあっ、二人共いたぞ!

ーー素敵なシーンね……

ーー勇者さーん、インタビューさせて下さい!


勇者「これは劇だったのかしら?」

盗賊「いーや、全部本物さ。あの夕陽も全部」

勇者「そうね……」

盗賊「……記者が待ってるぜ?行って来いよ」

勇者「ええ、そうするわ。ちょっと待ってて?」

盗賊「ああ、待ってる」




勇者「……まったく、本当に演技は駄目ね……」ボソッ



記者の質問と観客の賞賛を浴びながら

ふと座っていた場所に振り向くと、彼の姿は忽然と消えていた。


分かっていたのに、覚悟していたのに、涙が溢れ出す。

彼がいた場所に何かが置かれているのが見える。

視界は涙でぐちゃぐちゃなのに、妙にはっきりと見えた。


私は記者も観客も置き去りにして走り出した。


置いてあったのは手紙

手紙というより、手帳の切れ端ようなものかしら。

書いてあったのは一言だけ……















ーー星のきらめく夜に、また会いましょう


おしまい

読んでくれて、本当にありがとうございました

今更ですが
>>23 そうです、盗賊と不思議宝石というやつを書きました
レスしてくれた方、ありがとうございます。寝ます。



劇場都市を変えた伝説の男……

彼が劇場都市に帰ってくる!

観客は勿論、勇者のハートさえ盗み出した盗賊が帰ってくる!



きっと貴女も、そして貴男も、彼の虜になるでしょう。

迫力のアクションシーンは勿論

勇者が淡い恋心を抱くシーンは正に必見!

今宵、二人は星空の下で遂に結ばれる………

あの日の物語を証言を基に完全再現。



ーー終わりの勇者 大絶賛公開中!



皆様、生まれ変わった劇場都市を是非ご覧下さい。


依頼も出してるので終わります。
新しく何か思い付いたら、また書きます。

分かりにくい上に想像しにくかった方、本当にすいません。
脳内の絵を文章にするのはやっぱり難しいです。


ありがとうございました。

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