速水奏「私が本当に欲しいもの」 (18)

誕生日は、誰もが主役になれる日

だから、今日、七月一日は

私、速水奏の主役の日

でも、主役よりは、ヒロインの方がいいのかしら?

だって私、アイドルだもの



※書き溜めなしでゆっくりと書いていく予定

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事務所に入ると、事務所のみんなが誕生日を祝ってくれた

年少組からは元気いっぱいのお祝いの言葉をもらい

成人組からは今後のアドバイス、アイドルとしての活動についてから肌のケアの大切さまで、ありがたい言葉をいただいた

同年代のみんなからは今後も頑張っていこうと励ましの言葉をもらった

たいしたことないものだけど言われながら、プレゼントをいくつかもらったりもした

フレちゃんからは「すごいものだよー」と言いながら、包装されたかなり小さい箱をもらった



けれど、本当に祝って欲しい人には、まだ会えていない

「仕事だからね…。しょうがないな~」

もうひとりの主役、藤居朋さんも残念そうにしていた

Pさんは一日中仕事で外に出てて、終わる時間を考えると今日事務所に戻れる可能性は低い

みんなが帰り始めたころでも、私は事務所を出る気にはならなかった

親には『事務所のみんなと遅くまでいる』と嘘の連絡をしておいて、ずっと事務所のソファーに座っていた

ちひろさんには注意されたけれど

「まぁ、気持ちもわかりますから」

と言って、私に付き合って事務所に残ってくれた

とはいえ、もう11時半

学生である私は、明日も当然授業がある

そもそもこれ以上遅くなると帰る手段がなくなってしまう

11時40分

流石にこれ以上はまずいと帰り支度を済ませて、ちひろさんに声をかけようとしていたところだった

事務所の駐車場に車が入ってきた

急いでいたのか、荒々しい運転で、夜中に近所迷惑な騒音を立てていた

もしかして……

私の心も騒ぎはじめた

「奏!」

11時45分

待ち人は、私の名前を呼びながら駆けつけてくれた

愛をささやくような声ではなかったけれど

「Pさん…どうして?」

私のために?それとも…

「ちひろさんから奏がまだ事務所にいるって連絡があってな。ちひろさんは?」

「私はもう帰りますね。Pさんは戸締まりと奏ちゃんを送ってってあげてくださいね」

そう言うと、ちひろさんは事務所から出て行ってしまった

「…それで、奏はなんで帰らなかったんだ。明日は学校もあるだろう」

「…わかってるくせに」

「ああ。それでもだ。奏は学生でありアイドルだろう。プロならば…」

私はそっとPさんの口に人差し指を当てた

「それについては後で謝るわ。でも今私が聞きたいのはそういう言葉じゃないの」

私の主役は、あと十分で終わってしまうの

「はあ。まったく…」

Pさんは、やれやれといった感じだったけれども

「誕生日おめでとう。奏」

私の一番欲しかった言葉を言ってくれた

「ふふっ。ありがとうPさん」

「プレゼントは車でいいか?急いでいたからおいてきてしまった」

Pさんからのプレゼント。それも嬉しい

けれど…

「ねぇ…Pさん、今、プレゼントが欲しいの」

「いや、だから車にあるって」

「それじゃだめなの」

私が主役のうちにプレゼントが欲しいの

「いやでも今渡せるものなんて…」

「あるじゃない?いつも私がねだっているものよ」

「奏…それは…ダメだ」

「どうして?」

私はゆっくりとPさんに近づく

「いつも言っているだろ、アイドルとプロデューサーなんだぞ俺たちは」

「でもその前に、男と女でしょう?」

「シチュエーションとしては最高よ?」

壁に、追い詰めた

「ダメだ奏…」

私はPさんの顔に近づいていく

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