蛇足
鬱あり
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前話
山城「しれぇー!ご奉仕するのぉー///」提督「」
山城「しれぇー!ご奉仕するのぉー///」提督「」 - SSまとめ速報
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山城(幼い頃、私は幸福な家庭の生まれだった)
山城(父は貿易商社の社長、母は専業主婦。私は姉様と共に何不自由ない暮らしをしていた)
山城(そんな私の日常を奪ったのが、深海棲艦だった)
山城(父の会社は倒産。父と母は私達姉妹と共に無理心中を図り——
結果、まだ幼かった私と姉様だけがこの世に残された)
山城(当時はまだ世界情勢も荒れている時期で、日本においても大量の孤児が発生していたため、
私達姉妹は政府の恩恵に預かる事が出来ず、自分たちの力で生きる事を余儀なくされた)
山城(私はまだ働けるほど歳を重ねていなかったため、
当然、姉様に負担が大きくのしかかる結果となる)
山城(姉様は毎日朝は早くから働きに出て、
夜も大分更けた頃にようやく帰ってくるような生活が続いた)
山城(そんな生活の中で私は少しでも姉様の力になろうと家事に専念し、
子供でも出来る仕事を必死になって探して頑張った)
山城(そんなある日の事だ。姉様が頬に青あざを作って帰ってきたのは)
山城(私は問いつめた。最悪のケース——性的な暴行は加えられていないようで、
一旦は胸を撫で下ろしたが、問題はそこだけではない。
姉様は働いていると言ってもまだ私と3つ4つしか変わらない子供だったからだ。
そんな子供に手を挙げる畜生がこの世に居る事自体が許せなかった)
山城(しかし姉様は次の日も次の日も仕事に向かった)
山城(……体中に青あざを増やしながら)
山城(そんな私達の生活とは別に、ある時、日本海軍において画期的な兵器が登場した)
山城(艦娘——かつての軍艦の魂をその身に宿し、人あらざる力で深海棲艦を屠る海の救世主)
山城(……そのなり手は、殆どが私達のような失うものの無い孤児の出だった)
山城(私はチャンスだと思った。
艦娘の適正検査に殺到する孤児達の中に、私達も加わろうと何度も姉様に具申した)
山城(しかし姉様は困ったように眉尻を下げて)
「あなたに危険な思いはさせたくないの。分かって頂戴……?
一人前になるまで、あなたの事はお姉ちゃんが守ってあげるから……」
山城(と、柔らかく微笑むだけだった)
山城(私は姉様の荷物になっている自分自身が一番許せなかった。
なんとしてでも今すぐに姉様の力になりたかった)
山城(だから私はトレーニングを始めた。無論、艦娘になるためのトレーニングだ。
走り込みからウェイトトレーニング、果ては泳ぎの練習までした)
山城(いざとなればこの身ひとつで適性検査を受けに行き、姉様から離れようと思ったのだ)
山城(しかしそんなある日、
姉様が勤務先で暴力を振るわれ入院をしたという報せが届いた)
山城(『全治三週間ほどの怪我だが、後遺症が残るかもしれない——』
医師からの言葉に姉様は泣いていた。情けないお姉ちゃんでごめんなさい、と。
もし私が働けなくなったら、このお金を使ってね、と通帳を渡された)
山城(私は通帳を姉様のベッドに投げつけ、走り出した)
山城(犯人は勤め先であった艦娘用艤装工廠の工廠長。
私はそこで生まれて初めて人を殴った。激情に任せての何の計画性もない襲撃。
案の定、私はあっさりと憲兵に捕まり、拘置所に送られた)
山城(ただ、工廠にて一人だけ私を庇ってくれた青年が居た。おそらくは士官学校の学生だろう、小綺麗な海軍服を着た彼は私を取り押さえる憲兵に対し、自分も子供のくせに)
「まだ子供だろう!それにいきなり殴り掛かってくるなんて、何か理由があるに違いない!」
山城(と、当てずっぽうのくせにやけに意思の強い目で止めにかかっていた)
山城(今時、珍しい人間だと思ったし、興味も出た。
けれど、今は感情に任せて姉様に迷惑をかけてしまった事が申し訳なくてしょうがなかった)
山城(2日間ほど拘置所に泊まった後、
娑婆に出てきた私を待っていたのは工場でのあの青年だった。彼は言った)
「僕はいずれとある鎮守府の提督を任される人間だ。
ねえ、君、うちに来ないかい——?」
山城(聞けば姉様は病院で、意に問わず艦娘適性検査を行われ、
もう既に、戦艦『扶桑』になってしまったのだという)
山城(けれどそのお陰で懸念次項だった後遺症の心配も無くなり、
今ではかつてより健康体であると)
山城(ただ、姉様から大本営に願ったただ一つの条件が、
妹の……私の生活を保障する事)
山城(それを果たすため、彼——提督は私を待っていたのだ)
山城(しかし私は彼の提案する姉様の軍役報酬で生きる道を拒み、自らが艦娘になる道を選んだ)
山城(姉様には最初、泣かれてしまったが、最後には折れて)
扶桑「くれぐれも無理だけはしないでね」
山城(と、私の決断を受け入れてくれた)
山城(提督……あの時、庇ってくれた青年だけが最後まで悲しそうな顔をしていた)
——埠頭——
時雨「山城にとって幸せって何だい?」
山城「どうしたのよ、急に」
時雨「いや、なんとなく……さ。聞いてみたくなったんだ」
山城「?」
時雨「不幸が口癖だった君が、今や幸せの絶頂にいる……。
それをひとりの友人として喜んでいるからこそ、
ちょっぴり山城の幸福論が聞きたくなったんだ」
山城「幸福論……って大げさね」
時雨「頼めるかな?」
山城「……要は何を一番大切にしているかってことかしら?」
時雨「うーん……厳密に言えば少し違うね。
何を一番大切にできているか、と何を一番大切に思っているかには、
人によって大きな違いがあるから」
山城「家族が大切って思っておきながら、実際にはお金を大切にしていたり?」
時雨「うん。例としてはそれが一番分かりやすいかな。
でも、大切なものを大切に出来ていたからといって幸福とは限らない」
山城「家族を大切にしているサラリーマンがあまり家族に構ってもらえなかったり?」
時雨「ん……そうだね。幸せというより……報われる、なのかな?」
山城「……言ってる事が難しいのだけど」
時雨「うん、だよね。
やっぱり、山城ににとって幸せって何?としか言葉が見つからないな……」
山城「……即答は難しいわ」
時雨「だよね。……ただ、答えが見つかったらボクにも教えて欲しいんだ」
山城「……わかったわ」
——提督の私室——
山城「って話なんだけど、どう思う?」
提督「うーん、相変わらずの時雨節だな……」
やましろ「パパー!どしたの?」
提督「ん?何でも無いよ、やましろ。それより、そろそろ寝る時間だぞ」
やましろ「うんー、わかったー」
トテトテトテ
山城「すっかりあなたの方になついちゃって……」
提督「ん、焼きもちか?嬉しいな」
山城「焼きもちよ。やましろにも、あなたにも……私も混ぜなさいっての」
提督「ははは」
山城「…………」
提督「さっきの話だけどさ、俺は俺の事を幸福な人間だと思ってるよ」
山城「当たり前でしょ、やましろがいて……艦隊の皆が居て…………私が居るんだから」
提督「うん、それを日々噛み締めて生きてる」
提督「これはどんなときも絶対に忘れちゃ駄目なんだと、自分に言い聞かせながら生きてるよ」
山城「……そこまでしなくてもいいんじゃ」
提督「いや、しなくちゃいけないんだ。そうでないと俺は別の人間になってしまう気がする」
山城「そんな大げさな事?」
提督「素直に自分の幸せを認められないと他人の幸せを認められないからな。
……他人の幸せを許容できない奴に、人を幸せにする事なんて出来やしない」
提督「自分が幸せだからこそ、他人の幸せを奪う事に罪悪感えるようになる。
もし罪悪感を覚えなくなってしまったら……それこそ人間ではなくなってしまう」
山城「……ふうん」トン
山城(彼の肩に寄りかかる……もう馴れた感触、安心感)
山城「なんか、あなた時雨に似てきたわ……」
提督「そりゃあ……まあ、長い付き合いだからな」
山城「私に似てきてもいいんじゃないの?」
提督「何言ってんだ」
もう、すっかり似ちまってるよ——
山城(と、言って彼は私の唇に触れるようなキスをした)
——退役式——
扶桑「提督、皆さん、今までお世話になりました」
扶桑「西川艦隊のみんなも、また会えて良かったわ」
山城(深海棲艦との戦いも一段落付き、
あとは残党を処理するだけという所でついに姉様は提督に退役申請をした)
山城(もう既に退役の許可は下りていた姉様の申請はスムーズに通り、今回の式が執り行われた)
山城(艦隊の皆が別れを惜しむ中、私は今更ながら身の振り方を迷っていた)
山城(姉様には返しきれない恩義がある。それを差し置いて私だけが先に幸せになってしまった)
山城(提督と結婚し、妊娠を理由に軍の一線から離れてしまった)
山城(正直な所、負い目である。私だけがこんな恵まれていていいのか)
山城(今更ながら、私は真剣に悩んでいた)
扶桑「山城、ちゃんと楽しめている?何だか浮かない顔をしているけれど……」
山城「い、いえ、とんでもない!……楽しんでます」
山城(と言って酌をしようとした所を指先で止められる)
扶桑「いい、山城……お姉ちゃんから最後一つ忠告よ」
扶桑「あなたは幸せ。これから先もずーっと……。お姉ちゃんが保証するわ。
だから、あなたも」
——みんなを幸せにしてあげられる人になりなさい。
——埠頭——
時雨「ボクに話があるんだって?」
山城「ええ」
時雨「何かな?……ああ、あの話?」
山城「……ええ」
時雨「長くなるかな……ここでいいの?ボク釣りしてるよ?」
山城「いいのよ。こんなの、考えるまでもなかったわ」
山城「いつかダイエットの時、時雨は言ったわよね。
『人から認めてもらえないと頑張り続けるのは難しい』って」
時雨「そんなことも……あったね」
山城「頑張りも……幸せも、前向きな感情はみんなそうなんじゃないの?
人を認めたり、褒めたり、愛したりは……人から貰える事で、
ようやく返す事が出来る感情なんじゃないかって」
時雨「うん」
山城「そして……そういう心の豊かさを総称して幸福って呼ぶんじゃないかと思うわ」
山城「そして今……私はこれ以上無いほど、
人からの善意の感情で満たされてるって自信を持って言える」
山城「だから私は……今、幸せだし、きっとこれからも幸せよ」
時雨「…………そっか」
時雨「最高の解答が聞けて嬉しいよ。ありがとう、山城」
山城(そう言った時雨の目尻には小さな涙の粒が浮かんでいた。その理由は分からない)
山城(ただ、私は時雨を抱きしめた。時雨はそれを黙って受け止めていた)
山城(提督と私が退役してから数十年の時が流れた)
山城(相変わらず深海棲艦は少ないながらも発生し、海路を脅かしているらしい)
山城(私達はどこかの鎮守府で轟沈のニュースがあるたびに涙し、ただ海の平和を願った)
山城(そして私達もついに)
——提督の私室——
提督「なあ——山城、死ぬのは怖いか?」
山城(隣の布団で眠る彼が私に問いかける。布団は違っても、手を伸ばせば届く距離)
山城「いいえ、ちっとも」
山城(私は微笑み。自分の手のひらを見る。もうすっかりよぼよぼのおばあちゃんの手。
でも立派に命を繋ぎ、愛するものを守ってきた誇らしい手)
提督「看取られながらというのもいいが、最後は静かに逝きたいものなあ……」
山城(私も彼のその意見に賛成で、最後は長く住んだこの部屋で終えると決めていた。
子供達には反対もされたが最後に目蓋に映る光景が、
悲しみに暮れる子供達だなんてまっぴらご免だった。それに最後ぐらい……イチャイチャしたい)
提督「まだ……起きてる?」
山城「起きてますよ」
山城(そう言って伸ばされた彼の手をぎゅっと握る。傷だらけの骨張った手。
自分の半身と言えるほど、ずうっと一緒に居た手)
提督「俺は……そろそろ…眠いかな」
山城「どうぞ、お先に。あなたの寝顔は私の楽しみなの」
提督「そっかあ……そりゃあ、軍役中は悪い事をしたな」
山城「何を今更……いいんですよ、そんなこと」
提督「なあ、山城……」
山城「何ですか?」
提督「俺は、幸せだった……愛してるよ」
山城(彼の手から力が抜ける。涙がこみ上げてきそうになるが、堪えて——微笑む)
山城「はい、あなたは幸せでした。だから……もう、おやすみなさい」
山城(そう言って私も目を閉じる。はあ……最後に見たのが暗闇でも悲しみでもなく)
——愛する人の笑顔で、良かった。
おわりです。
×西川艦隊
○西村艦隊
誤字りました。
乙よ
このシリーズも終わりなのかな?
>>15
とりあえず終わりにします。
でも時雨でいろいろ考えてるので、また艦これで書くかもしれません。
そのときはまたよろしくお願いします。
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