渋谷凛「信頼関係の形成」 (156)


●注意
キャラ設定やや改竄
Pが人間的に幼稚、マイナスな部分アリ


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1434363098


登場キャラ

渋谷凛
http://i.imgur.com/vCIotYG.jpg

桐生つかさ
http://i.imgur.com/nUwN20b.jpg




渋谷凛、というアイドルがいる。


以前、ちょっとした縁で、彼女と関わった時期があった。


しかしその一時期だけで、彼女との仲が険悪になった事がある。


大抵そう言うのは、関わり始めの時だが、例に漏れず自分達もそうだった。


…自分の仕事意欲の欠如と、上手な距離を測れなかったのが原因だ。


俺が自己中心で、偏屈で、我儘で、どうしようもなく世間知らずの子供だったからだ。


=====
【事務所】



P「俺が…アイドルのプロデュース、ですか…!?」

「うん。今人手が足りないんだ。『新人』の子で良いから、やってみない? 君より年下だし」

P「ええと…」

P「でも、俺、女の子の扱いとか上手じゃないし、迷惑掛けるかもしれません。向いてないと思いますよ?」

「大丈夫だよ。簡単なスケジュール調整とか送迎とか、モチベーション維持とか、簡単なことだから」

「仕事は慣れた人で取ってくるし、随所でフォローするからさ」


「まあ相手は『新人』だし、レッスンが中心になるだろうから……」

「あんまり深いとこまで関わる事は無い。誰でも出来るよ」

「なにより…」

P「?」

「新しいスタッフが入るまででいいからさ、それまで頑張って貰えない?」

P「………」

P「(人員補充までの繋ぎか…)」

P「そういう事なら……。わかりました」


======



P「(とある芸能プロダクションに入社してまだ1年とほんの少し)」

P「(書類修正、外注商品の管理など、簡単な事務仕事だけをこなし安穏と過ごしていた俺は…)」

P「(その依頼を、深くは考えず、二つ返事でOKした)」

P「(自分でそういう人付き合いはあまり向かない、コミュニケーションは達者では無いと自覚している…)」

P「(…特に女なんてのは……)」

P「(…面倒臭くて、扱いづらい生き物だ)」

P「(自分から進んで関わるなんて、本来なら願い下げなのに…)」


P「(大学時代、サークルの運営で一人の女性とちょっとした口論になり、その女性を激しく叱責してしまった事がある)」

P「(もともと俺は器用な性格では無いし、少しガサツな面もある)」

P「(当然謝罪もしたし、今となっては少しマズかったと感じているが、心の片隅で……きっと自分が正しいと譲らない思いがある)」

P「(その後、女性は攻撃的な本性を露わにし、その女性の息がかかった多くの集団から疎外され、排他的に、俺は居場所を奪われた)」

P「(『俺がその女性に手を上げた』『ギャンブルに明け暮れ、多重債務をしている』、『援助交際をしている』、趣味や行動、過去の捏造など…)」

P「(人間性を疑うような勝手な噂を流され、貶められた)」

P「(軽い人間不信、女性恐怖症に陥りながら、俺は『女性は面倒臭い』と思うようになり)」

P「(それ以来は女性と関わりを断ってきた)」

P「(今回は…)」

P「(ただ単に、安易な……本当に安易な興味本位だった)」

P「(年下のガキなら、何とかコントロールくらいは出来るだろう)」

P「(どうせ短い付き合いなのだ、特に気にすることは無い)」


======
【会議室】



P「えー…オハヨウ」

P「お前が…渋谷凛?」

凛「………」カチカチ

P「(なんだ…この無愛想な子……)」

P「(携帯くらいしまえよ……クソっ)」

凛「……」

P「(いきなり舐められてるなぁ…)」

凛「……」スッ

凛「そうだよ、初めまして」

凛「アンタが、私の新しいプロデューサーね…」

P「!」

P「ああ。ヨロシク…」

P「(…アンタだと?)」

P「(俺は年上だぞ…?)」

P「(敬語じゃないのは少し腹が立つけど……まあいいか)」

P「(下手に出て、機嫌を損ねないようにしないとな。この年頃の女子は一番面倒だ)」


凛「…受け持ちの人が変わったけど、理由聞いていい?」

P「ああ、それは人手不足かな」

P「これから俺が予定管理と報告とか行うから、何かあったら言ってくれ」

凛「…理由って、本当にそれだけ?」

P「? あ、ああ…」

P「……?」

凛「…そう」

P「…はいコレ、俺の連絡先」

凛「ん……どうも」スッ

凛「…」

凛「アンタ…犬、好きなの?」

P「ハ?」

凛「アドレス。犬種捩ってるよね、コレ」

凛「コーギー?」

P「そうだけど……詳しいのか?」

凛「……ええと」

凛「別に…よく知らない…」

凛「……」カチカチカチ

P「……」

P「(何だ、コイツは……)」


・・・・・
・・・



・・・
・・・・・
=====
【後日 夜】



P「はー…」

P「兼務しても仕事は減らして貰えないか…流石にそうだよなぁ…」グチグチ

P「休みも返上で働かないといけないし…自由な時間が減るな」グチグチ

P「違う世代の子との会話は骨が折れるし…」グチグチ

P「給料も大した変りは無いしな…」グチグチ

P「……」

P「まあいいか! どうせ短期間だけだ!」

P「さあて、今日は珍しく定時だし、帰ってビール飲みながら、ゆっくり野球観戦でも…!」



ドカッ!


P「ッ…!?」ヨロッ

P「痛…っ」

「よっす」

P「お前……!」

「んな所で独り言喋ってたら、通報されっぞ。お前」

P「つ……つかさ、か!?」


桐生つかさが、少し年の離れた幼馴染という設定です。
キャラ改変申し訳ない。
現役JK社長の設定は原作基準。


つかさ「んだよ、気付くのオセーって。少し前から、後ろを付けてたんだぞ?」

つかさ「…久し振り」

P「そうか…お前の通う高校、この近くだったか」

つかさ「マジ驚いた。こんな所で会うなんて…」

P「就職でな。去年からここら辺で働いてる」

つかさ「へー…聞いてねェな、んな話」

P「忙しかったからな」

つかさ「ストップ。立ち話もダルいし、どっかで腰落ち着けるか」


======
~~20分後~~
【バー】



P「女子高生の癖に、随分洒落た店知ってるな…」

つかさ「つーか何年ぶり? 2年ぶりくらいか?」

P「お前とは…前に故郷に帰った時に、少し話した程度だから、まあそうなるな」

つかさ「今何やってんの? メーカー勤務?」カラン

P「グイグイくるな、相変わらず……」

P「というか……お前、さっき何頼んでた?」

P「お前まだ高3……未成年だろ?」

つかさ「あ?コレ?」

つかさ「アルコールじゃねえって、安心しろよ」カラン

P「……本当に昔から変わらないな、お前は」

つかさ「幼馴染同士、久し振りに会ったんだし、積もる話もあんだろ」

つかさ「アタシも色々話したいことあるし、乾杯だ、ホラ」カキン

P「乾杯」カキン


~~30分後~~



P「18歳で起業か。俺よりも年下で……!」

P「故郷から離れた高校で、一人で生活して、肩書きは社長か!」

P「脱帽した…」

つかさ「お前もな。アイドルのプロデューサーとか、んなタマじゃないだろ?」

P「まあ…俺は人見知りだからな」

つかさ「その言葉使っていいの高校生までだぞ?」

つかさ「人との関わりから逃げるのに、そんな耳当たりのイイ言葉に縋るなっつーの」

P「あー…でも、ひょっとしたら俺に合う仕事かもしれないだろ?」

つかさ「ハッ、んな軽いテンションで務まる仕事じゃねえよ、お前ソレ」

P「まあなー…俺そういうの苦手だし…」

P「しかも、受け持ちが面倒臭そうな子なんだよなあー…」


つかさ「…」ピクッ

つかさ「……面倒臭そう?」

P「な、何だよ……」

つかさ「別に」

つかさ「お前さ、自分でも向かないと思うなら、やめた方がいいぞ。マジで」

つかさ「幼馴染として忠告してやるけど、お前に務まる仕事じゃねえ」

P「何だよ、エラそうにしやがって」

P「俺だってな、やる時はやるんだよ!」グビッ

つかさ「お前のためにも言ってるけど、その凛って子のためにも言ってんの」

P「……?」


つかさ「お前の性格はさ、ぶっちゃけ、他人の事をどうでもいいと思ってるクチだろ」

P「ど、どうでもいいなんて…!」

つかさ「内心周囲を見下して、グチグチ不満垂らして、その癖変にプライドが高い」

つかさ「自分さえ良ければ他人なんて知らん顔…だろ?」

P「そんな……こと……」

つかさ「あと……」

つかさ「まだお前、『あの事』、引き摺ってるだろ?」

P「あの事?」

つかさ「女性に関して苦手意識を持ってるってヤツ?」

P「…そうか、お前に言ってたっけ。大学時代の事…」

つかさ「前に帰った時にアタシにも話してくれただろ?」

つかさ「当時は『んな話、JKに聞かせんなよ』とか思ったわ、マジウケた」

P「…」


つかさ「実際、そんな奴が、プロデューサーなんて仕事に向いてねえって」

つかさ「お前のコトを一番知ってるアタシが言うんだ。コレ正論な」

P「ぐっ……お前なぁッ…!」

P「歯に衣着せないその不遜な言い方、本当に昔から変わらないなッ!」

つかさ「自分の意見を包み隠さず伝える。これアタシのポリシー」

つかさ「じゃなきゃ、社長なんて務まんねーっつーの」グビッ


つかさ「……」

つかさ「……ていうのは、少し嘘」

P「ん?」

つかさ「アタシでも前に、自分の会社のために、たまに自分を偽った時があるんだわ」

P「へえ……?」

つかさ「起業した時さ、アタシも必死でな?」

つかさ「大手のオッサン相手に頭下げたりする時もあるし、媚び諂う時もあった」

つかさ「でも、そんなのアタシの柄じゃねーわ…ってカンジ?」

つかさ「だからさ、自分を貫いて、自分を認めてくれる奴と仕事をしようって決めた」

つかさ「そのほうが、お互い気兼ねなく意見が言えるし、スムーズに仕事も回んだろ?」

つかさ「もしそれでダメなら、アタシの器が足りなかったって事だ」

P「なんだ、結局お前は変わらないってことか」

つかさ「んな簡単に纏めんなよ」

つかさ「お前はどうなんだよ、器用に仕事出来る性格か? 自分を押し殺して仕事を出来んのか?」

P「……」

P「難しい事はわからんけど…」

P「とにかく、色々なことを試してみようと思ったんだよ、俺は」


つかさ「ふーん…」

P「悪いかよ…」

つかさ「いや。まあ悪くないんじゃねぇか?」

つかさ「派手な事でも地味な事でも、色々取り組むのは悪くねーよ」

つかさ「一番大事なのは、お前がどうしたいかじゃねぇ?」

P「……」

P「確かに、俺は自分本位な所があるけど、まあ何とかなるだろ」

つかさ「ハァ…」

つかさ「甘ェな…。まあお前も社会人だし、自分の仕事に責任は持て」

P「…分かってるよ。年下に言われんでも」

つかさ「じゃあ一つ、社長として、人付き合いのアドバイスをしてやるよ」

P「…?」

つかさ「他人を否定するのは幼稚園児でも出来るけど、他人の良い部分をしっかり見つけて褒めるのは、なかなか難しいんだ」

つかさ「…しっかりやれよ?」

P「ああ。また連絡するよ」


・・・・・
・・・


・・・
・・・・・
=====
【翌日 事務所】


P「(昨日はつかさにボロクソ言われたな…)」

P「(確かに俺はそんなガサツで人付き合いに向かん性格かもしれんけどさ…)」

P「(所詮は子供の御守だ、仕事内容も難しい事じゃ無い!)」

P「仕事は仕事だ! そこは割り切って…!」



ガチャ

凛「おはよう」

P「おう、オハヨウ」

P「(相変わらず表情が硬いな…コイツ)」


P「今日と明日はボーカルレッスンだな。すぐ行けよ」

凛「あのさ…明日だけど、少し学校の用事で遅くなるから、送迎とかお願いできる?」

P「明日な…。よし、わかった」

凛「……」

凛「…じゃあ」


バタン

P「……」

P「そっけな…嫌われてるのか? 俺」

P「そして相変わらずタメ口……」

P「育ちがなっていないのか?」


~~~~~~
つかさ『他人を否定するのは幼稚園児でも出来るけど、他人の良い部分をしっかり見つけて褒めるのは、なかなか難しいんだ』
~~~~~~


P「……」

P「よし、逆に捉えよう!」

P「タメ口なのは、今時の子供らしい! タメ口なのは、俺に親近感を持ってくれている…!」

P「親近感を……親近感…」

P「……」

P「お、思えねェ…」


======
【翌日 凛の学校付近】


P「ここがアイツの学校か…」

P「みんな若いなあ。俺も昔はあんなのだったか…」


コンコン

カチャ

P「お疲れ」

凛「おまたせ」

P「ああ。じゃあ行くか」



~~10分後~~
【車中】


凛「……」カチカチ

P「……」

P「(携帯ばっか弄ってんな…)」

P「(というか…)」

~♪~♪~♪

P「(急に…音量を上げたか?)」

P「(何でだ…?)」

凛「……」カチカチ

~♪~♪~♪

P「(うるさいな…)」

凛「……」


凛「……」カチカチ

P「(まあでも、話題作りになるか…?)」

P「…お前、それ何やってるんだ?」

凛「!!」

凛「え、な、なにっ…?」

P「え…何やってるのかなって…」

凛「あ、ええと…ツムツム…」

P「(つ、つむつむ…?)」

P「(スマホのゲームか? 何だソレ…、よく知らん…)」

P「そ、そうか…」

P「(う、うーん…)」

P「…」

P「ちょっと音下げてくれ」

凛「あっ」

凛「うん…ごめん」

P「……」

凛「………」


・・・・・
・・・


・・・
・・・・・
======
【後日 喫茶店】



P「…ということが…」

つかさ「……」

つかさ「……お前さ」

つかさ「…クソだな」

P「な、何ッ!」

つかさ「話題作りに、JKに人気のアプリとかトレンドとか調べるのは基本っしょ」

つかさ「まあアタシは仕事柄そういうのは詳しいし、アドバイスしてやってもいいけど…」

つかさ「そういうのは自分自身でやるもんだろ。世代が少しズレてるから、そこんとこ努力しねーと」

P「ぐっ…!」

つかさ「パンケーキ頼んでいいか?」

つかさ「最近のJKは、パンケーキさえ食わしとけば猿の様に喜ぶぞ」

つかさ「あと写真をデコるアプリとかも人気な。自分を可愛くアピールしようとしてるから」

P「…俺には無縁だよ」


つかさ「あとさ…」

つかさ「渋谷凛だっけか? 不信感持ってんぞ、お前に」

P「不信感…?」

P「警戒されてるってことか?」

つかさ「まあ語弊があるな。まだ距離を測りかねてるカンジ?」

つかさ「向こうからアプローチは無いんだろ?」

P「……」

P「知らん…」

つかさ「ハァ…」

つかさ「アレだ、お前の方が年上なんだし、積極的にリードしてやれよ」

つかさ「お前がヘタレじゃ、向こうは一生心開かねーぞ?」


つかさ「相手が会話をすぐ切り上げちまうのは…」

つかさ「お前の事をよく理解してないから。だから、お前とどう向き合ってイイか分からない」

つかさ「つまりそう言う事。そこから距離が生まれんの。OK?」

つかさ「お前の事だから、どうせ『そっけな…嫌われてるのか? 俺』とか思ったろ?」

P「(その通りだ…)」

つかさ「ネガティブになんなよ。一番ダメだぞ、ソレ」

P「あああ! もう分からねえよ!」

P「お前がやってくれよ! プロデュースを!」

つかさ「ハ? お前のために言ってやってるんだろ。自分で何とかしやがれ」

P「くっそぉ…!!」


つかさ「…」

つかさ「ちょっと話は変わるが、社会福祉業界には対人の最初のアプローチについて『ラポールの形成』ってのがある」

P「ラポール?」

つかさ「そ。『良好な対人関係を築く事』。そして仕事のためには、この形成が不可欠」

つかさ「要するに、一番最初が肝心ってことだ」

P「けど、もう時すでに遅しな感じなんだが…」

つかさ「泣きごと言うんじゃねえよ」


つかさ「良く聞けよ? 『信頼関係の形成』には、相手を知る事。相手を理解する姿勢」

つかさ「相手の気持ちになって、寄り添う奉仕の精神が必要になる」

P「相手を理解する……寄り添う…」

つかさ「そうして『信頼』を最初に築いた上なら、どんどんスムーズに仕事の話が成り立っていくって寸法だ」

つかさ「相手に見合う意志疎通、情報提供も的確に行える。相手もそれに応えてくれる」

つかさ「ソーシャルワークの基本だぞ?」

P「なるほどな…」

P「確かに基本的なことだが、仕事としては重要な要素だ」

つかさ「…」

つかさ「自分中心で、相手をすぐ否定しがちなお前には、何もかも足りねえんだっつーの」

P「……」

つかさ「アタシ最初に言ったよな? お前には合ってねえからやめろって」

つかさ「ただでさえ、お前はあの事件で、女性に関しては不信感や抵抗感があるのに…」

P「…ああ」

つかさ「現に、お前はこの最初の段階で終わっちまってんの。OK?」


P「…」

つかさ「自分に向いていない仕事に齧りつく必要なんてねーだろ、不効率で精神的にも不衛生だ」

つかさ「今なら、まだ断れるんじゃねーか?」

つかさ「どうせ、軽い気持ちで始めたんだろ?」

つかさ「最初に『面倒臭い子』とも言ったよな? お前。そんな風にイキナリ見られて…」

つかさ「そんなんじゃ、渋谷凛って子が可哀想だと思わねーか…?」

P「……っ」

つかさ「アタシはお前のためも思って…」

P「あーあー、よーく分かったよ…!」

P「信頼だろ、つまりは…!」ガタッ

P「そーしたら仕事が上手く回るんだろ…ッ!?」

つかさ「なんだ、吹っ切れたか?」


P「楽勝だろ、こんな簡単な仕事で音をあげてどうするんだっ!」

P「ああいいだろう、やってやるよ!」

つかさ「へー」

P「どうせ次のスタッフが見つかるまでの短期間だ!」

P「最近は休みも返上で働いてるんだ! 期間が終わったら有給でも取って遊んでやる!!」

つかさ「まあいいんじゃね? そういう目標を立ててヤル気出すってのは」

P「年下のお前にここまで言われて、黙ってられるか!! 見返してやるぞ!!」

つかさ「おー、そりゃ楽しみだね」

P「担当も年下だ、俺がグチグチ言っててダサ過ぎるだろ!!」

つかさ「年下年下って見下すのはNGな」

つかさ「あと、その子に対して『お前』呼びも禁止。冷たい印象を感じさせるのも絶対NG」

P「ああ! わかりましたよッ!!」クワッ!

つかさ「折角だからアタシもアドバイスしてやるよ」

つかさ「お前の話を、色々とサンプルにさせて貰いたいしな」

P「クソ、上から見やがって…!」



・・・・・
・・・


・・・
・・・・・
======

~~~~~~~
つかさ『理解するにはまずは観察だ。目ん玉ひん剥いて、ストーカーの如くデータ纏めろ』
~~~~~~~

【事務所】



P「……」ジー

凛「な、なに……アンタ…」

P「凛、髪切ったか!」

凛「切ってないけど」

P「なら染めた!」

凛「染めてないけど」

P「ピアスしてたんだ!」

凛「えっと……」

凛「………何?」

P「(何? と来たか…まあそうだわな)」

P「初めて気付いた」

凛「……………で?」

P「いや……別に」

凛「仕事進んでないよ」

P「はい」カタカタ


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~~~~~~
つかさ『少しずつでいいから距離を縮めてけ。自分がどう見られてるかも知っておいて損はねーな』
~~~~~~

【翌日 事務所】


P「……」

P「トレーナーさんの報告によると、レッスンの出来はまあまあ。ただ体力が少し不安と」

P「…今度筋トレのメニューでも考えてやるか」

P「そういえば学校での素性を知らないな」

P「今度聞いてみるか」

P「…」



ガチャ

凛「おはよう」

P「ああ、おはよう」


P「おま…」

P「(『お前』呼びは禁止だったか)」

P「…凛、スポーツの経験とか無いのか?」

凛「…」

凛「…全然?」

P「トレーナーさんから体力についての指摘があったんだけど…」

凛「………ごめん」

P「えっ!?」

P「いや! 謝らなくても良いから!」

凛「アンタさ…トーンが低いから怒られるかと思った」

P「……」

P「凛は一生懸命やってるんだから、叱るハズないだろ?」


凛「……」

P「女子が体力無いのは、別におかしい事じゃあない」

P「今度簡単な筋トレのメニュー作るから、家でやってみ?」

P「テレビ見ながらでも体幹鍛えられるヤツとか知ってるから」

凛「…分かった」

P「あと、俺、怖い口調してるかもしれないけど」

P「別に怒ってないからな」

凛「分かったよ。じゃあレッスン行くね」

P「俺も気を付ける」

P「(そうか、俺の口調って荒いのか……?)」

P「(大学時代の時から、自然にそうなってたのかもな…)」

P「(けど、謝る程、怖かったのか…?)」


======

~~~~~~
つかさ『相手が微妙に冷たい反応でも、ヘタレんじゃねーぞ』
~~~~~~

【後日 車中】



P「凛」

凛「うん?」

P「凛のそのカバンについてるマスコット…なんだっけ、ぴにゃ太郎?」

凛「違うよ、ぴにゃこら太」

P「そのデカイのってどこに売ってるんだ?」

凛「………」

凛「………何?」

P「(また『何?』 と来たか…)」

P「(コイツの『何』って言い方、冷たいんだよな…)」

P「(拒否反応か…それとも…)」

P「……」

P「(いいや、構うな。もっと積極的に!)」


P「…そのデカイのなら、事務所の枕に丁度いい形だなぁ、と思った」

凛「…首おかしくするよ? 固いし」

P「そ、それ固いのか!?」

凛「結構ね」

凛「ゲーセンとかなら置いてあるかも…」

P「へえ…」

P「なら今度行ってみるかな…」

凛「?」

P「100円で取れるなら安いもんだ」

凛「…普通の枕の方がゼッタイ良いって」

凛「しかも100円って…」

凛「アンタさ、知らないの?」

凛「最近のクレーンゲームって難しいんだよ?」

凛「その50倍位は、最低掛かる気構えで行った方が良いよ」

P「ほ、本当か…?」

P「じゃあ普通に買うかな」

P「ぬいぐるみショップとかに売ってるのかな…」

凛「あくまでコレに拘るんだ…」


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~~~~~~
つかさ『相手が消極的ならコッチから攻めるのも良いけど…』

つかさ『出来れば向こうから興味や会話を引き出せ。無視されたらドンマイ、諦めろ』
~~~~~~

【後日 車中】


P「フンフンフフーン…」

凛「……」

凛「(す、すごい香水臭い……)」

凛「…ねえ、アンタ…」

P「ん?」

凛「今日何かあるの?」

P「おお。凛を送った後、次のイベントの関係者の挨拶回りを頼まれたんだよ」

凛「すっごい香水の匂いするよ?」

P「相手はやり手の女社長らしい。少し気合入れようと思ってな…」

P「その社長が使ってるブランドの香水を俺も使ってみた」

P「取り敢えずスーツに10回ほど振りかけたんだが…」

凛「じ、10回は多いよ! ファブリーズじゃないんだし…」

P「え?」


凛「しかも普通は肌に付けるもんだよ。1回で十分」

凛「でも、その香水、確か友達も使ってたな……結構高い奴」

P「イイ香りするだろ?」

凛「うん、まあね…。でもやり過ぎて逆にクサイ」

P「試供品で貰ったんだ。普段は使わんし、凛にやろうか?」

凛「…いいの?」

P「おう。明日持ってくる」

凛「うん」

P「……」

P「(話題は引けたか? 少しこの香水はワザとらしかったが…)」

P「(古いスーツだからな。後で新品に着替えよう)」


======
【2日後 車中】


P「昨日やった香水、どうだった?」

凛「…まあまあ」

P「……」

P「(相変わらずそっけない返事だな…このガキは…)」

P「……」

P「(距離が縮まる気がしねー…)」

P「……」



~~~~~~
つかさ『相手が微妙に冷たい反応でも…』
~~~~~~


P「(クソッ! 分かってるよ!)」

P「(話題…話題…)」

P「……」

凛「……」


P「…でも女子高生が香水か…凛もピアスあけてるし…」

P「凛の学校は校則とか緩いのか?」

凛「緩いというか…今はこれが普通じゃないの?」

P「マジでか?」

P「俺の時は厳しかったぞ? 染髪NG、スカートは膝が隠れるようにとか、ピアスなんて停学ものだよ」

P「ソレ、自分であけたのか? ピアス」

凛「うん。まあね」

P「凄いな! 俺なんてあんなの怖くて出来なかったぞ!?」

P「あける場所を間違えたら失明するとか言われてたし…」

凛「そんなのデマだよ。ちゃんとした物を買ってあければ全然大丈夫」

凛「アンタって、結構デマとかに流されるタイプ?」

凛「案外おっちょこちょいとか」

P「…言わんでくれ」

凛「ふふ、ちょっと意外。結構目付き悪いのに」

P「……(言うなあ…)」

P「(凛は意志が強いな…)」


======

~~~~~~
つかさ『相手の好みとか把握しておけよ。同調を得られた時程、嬉しい事はないからな』
~~~~~~

【後日 会議室】



P「上司から衣装案を渡れたんだけど、どっちの写真が良い?」

P「方向性はある程度自由を利かせてくれるそうだ。凛と相談しろと言われてな」

凛「衣装か…そうだね…」

P「凛は左の暖色より、右の寒色のイメージだな。お前、青とか好きだろ」

P「身につけている物、殆ど青だからな」

凛「!」

凛「うん、私も右の写真の方が良いかな」

凛「蒼色は好きだし…」

凛「…でも、これ何の衣装?」

P「デビューライブのだよ。あくまで参考程度で、まだ先の話だ」

凛「で、デビュー出来るの?」

P「最近は実力も申し分ない。あとは…知名度だ」

P「上からの判断だ。自信ないか?」

凛「いや…別に」


P「……」

P「凛、そう言えば…」

凛「?」

P「髪切ったか?」

凛「うん、少しだけ…」

凛「アンタよく気付いたね。友達にも言われなかったのに」

P「まあ最近一緒にいるからな。たまたまだ」

凛「そう。たまたま…か」

・・・・・
・・・


・・・
・・・・・
======
【一ヶ月後 バッティングセンター】


カキーン!


P「はあ…」ドサッ

つかさ「お、交代?」

P「最近は趣味の野球観戦も、なにも自分の事をやれてない」

つかさ「だから今日発散しに来たんっしょ?」カキーン!

P「そうだけど…」


P「最近は家に帰ったら資料眺めて、余った仕事片付けて、寝るだけだ…」グチグチ

P「無機質な生活になって行くのがハッキリ分かる…」グチグチ

P「やっぱり慣れねえよ…。そろそろ疲れて来た…」グチグチ

P「相手の好きな音楽とか話合わせて、相手に媚び諂って、相手の事ばかり見て…」

つかさ「いや、実際進歩してるよ、お前は。マジで」カキーン!

つかさ「グチグチウルセーのはまだ直ってねーけど」

つかさ「でも人間不信で女性恐怖症だったお前からしたら、大進歩じゃん」

つかさ「コミュニケーションはまあまあ上手くいってんっしょ?」

P「まあな。あれから結構努力したし」

P「でも疲れた。早く代わりのスタッフ入れて貰って、自分の元の仕事に戻りたいわ」

つかさ「ああ、んな話だっけ?」カキーン!

P「そろそろ二ヶ月近く経つけど、一向に人員補充される気配が無いぞ?」

つかさ「(……)」


つかさ「お前と久々に会った日と、2回目にあった時の話だけど…」

P「んあ?」

つかさ「少し、言い過ぎたと思ったんだわ」カキーン!

P「ああ…確かにボロクソに言われたな」

つかさ「お前が大学時代に色々あったって事、ちょっと忘れてた」

P「けど、だからこそ奮起出来たよ。ここまではな」

つかさ「ああ。コミュ障のお前にしては、スゲーよ」

つかさ「アタシが褒めることなんて、滅多にねーから」

P「こ、コミュ障じゃねーよ!」

つかさ「ハア?」

P「女ってのはな、メンドクサイんだよ、実際」

P「独自の謎理論を持ってるし、少し意見を言ったら、集団で排他的になりやがる」

P「一回信頼を崩したら、もう再構築は無理な生き物だと思ってるよ」

つかさ「それ偏見な」カキーン!

つかさ「大学時代の話だろ? 社会に出たら勝手がちげーよ」

P「少なくとも俺はそう思ってる」

つかさ「視野せめーな、オイ」


P「つかさは…想像出来んかもしれんけど」

つかさ「何だよ?」

P「俺だって大学時代に色々やってたんだぞ? サークル運営とか」

つかさ「うん、だから大分前に一回聞いたって。しつけーよ」カキーン!

P「そこで同じ運営の女子と揉めたことがあって、まあ表面上は解決したんだけど」

P「『女って面倒臭い』と思い始めたのはそこからだよ」

P「女子って集団でつるむから、一回排他的になったら、もう終わり」

P「勝手な噂は広まるし、謎の理論は理解に苦しむ」

P「男とつるんでた方が100倍楽だ。世代が違う女子なんて以ての外だ」


つかさ「『サル化する社会と人間』の最悪的な結果だな」

つかさ「居心地の良い集団を求めるのはまだいいけど、そこから他の集団を攻撃し始めたら最悪だ」

つかさ「特に女子はその傾向が顕著だしな」

P「だろ?」

つかさ「まあ、お前のクソみたいな偏見は置いておいてだな」カキーン!

P「クソとか言うな!」

つかさ「気持ちは分からなくねーよ」

P「…!」

P「お前でも、そう言う時があるのか?」


つかさ「人間関係において『終わり』なんてもんを考えたら、それこそ本当に終わりだけど…」

つかさ「キツイって時は知ってる」

P「……」

つかさ「『居ない様に扱われる事』だ。つまりシカトだな」

つかさ「ゴミを見るかの様に蔑む視線とか、好奇の目線で見られるとか、比べ物にならねー程、それはキツイ」

つかさ「自分の存在が否定されてると同義だからな」

つかさ「アタシもこんなナリで社長だろ?

つかさ「学校とか大人とか、他からの目線ってのは」

つかさ「気になるんだわ。割とマジで」

P「でも、お前はその年で本当に凄いと思うぞ?」

つかさ「当然っしょ」カキーン!


つかさ「でも、最初は躓いたけど、お前なりに上手くやってるわ。マジ奇跡」

P「まあな。短期間だから集中して頑張れるって気持ちもあるし」

つかさ「あとお前に足りねーのは…魅力と気持ちだな」

P「はあ?」

つかさ「自己中でガサツなお前にしては、本当に上手くやってるよ、最近はな」

P「それ、褒められてる気がしないんだが」

つかさ「…」

つかさ「相手を調べて、相手の気持ちを理解して、相手に合わせる」

つかさ「それは『ラポールの形成』の姿勢としては、まだ不十分」

つかさ「媚び諂うのは、ビジネスにおいて80%だ。信頼やコミュニケーションの完成度としてもな」

P「80%か…上出来だろ」

つかさ「そこから真に相手との信頼を築くのは何か分かるか?」

P「……さあ」

つかさ「簡単だよ。好意だ、コウイ」

つかさ「ラブじゃねーぞ。どっちかと言うとライクだな」


つかさ「自分から相手に向けるとは違う。相手から自分に向けられることだ」

つかさ「相手に好かれて、相手に興味を持って貰って、相手に思われて…」

つかさ「心を通わせ、相手を受け入れる」

P「相手から思われる…か」

つかさ「『コイツなら信用出来る、コイツとなら上手くやれる、コイツと仕事がしたい』」

つかさ「……そうまで思われたなら、もう言う事ないっしょ」

つかさ「それが『信頼』ってもんだ」

P「うーん…」

つかさ「どうだ?」

P「正直、まだ俺だけが向けてる段階だな」

P「向こうから自発的に話しかけてくる事は……あまりないな」

P「強いて言えば、挨拶とか連絡程度だしなあ…」

つかさ「…あんま悪く言いたくねーけど」

つかさ「その凛って子も、結構難しいな」

P「俺は向こうの警戒心は解いてる……方だと思うぞ?」

つかさ「もっと頼られる位に、ガッツだせよ」カキーン!


P「まあ、しかしだ…」

P「相手のことを理解して、相手に寄り添う…」

P「結構出来てるだろ、『信頼関係の形成』。データの収集もばっちりだし、気遣いも出来てる」

つかさ「……」

つかさ「まあ…それはホントの意味じゃないけどな」

P「え? じゃあどういう意味だよ?」

つかさ「そのまま上手くやってけば、いつかお前も気付くかもな」

つかさ「でも着実に進歩してると思うぞ、マジで。自信持てよ」カキーン!

P「はあ…でも慣れない事は疲れるよ」

P「はやく会社も、人雇ってくれねーかな…」

つかさ「(……)」

・・・・・
・・・


・・・
・・・・・
======
【後日 事務所】


「おいP、まだ仕事残ってるのか? この後メシ行かんか?」

P「あ、そうすね…」

P「スミマセン、この今日中に書類整理したいので…また今度」

「最近頑張ってるな。奢るぞ?」

P「本当ですか!? で、でも…スミマセン」

「分かった。じゃあ頑張れよ」

P「はい……」



~~10分後~

P「はあ…」

P「デビューライブまであと3週間か…」

P「仕事が一気に増えたな…クソ…」

P「同僚とも仕事が微妙に違うせいで、最近関われん…」

P「くっそ…」

P「ああ、腹減ったな…」グウゥ



ガチャ

凛「おつかれさま」

P「!」

P「凛か? お前、今日のレッスンは18時までじゃなかったか?」

凛「デビューライブも近いし、ちょっと長く見て貰ったんだ」

P「そうか。頑張ってるな」

凛「ア……プロデューサーも、ね」

P「19時か…」

凛「まだ仕事?」

P「ああ。凛は早めに帰れよ。遅くなったら危ないからな」

凛「分かった。今帰るよ」

P「帰ったらしっかり食って、俺の教えた筋トレもして、しっかり休めよ」

凛「言われなくたってやってるよ、もう」

P「ははは…」グゥゥ

P「ああ…腹減った」

凛「………お腹空いてるの?」

P「ん? ああ。最近はこの時間までずっと残ってるからな」

P「いつもこの時間になると腹が減るのは仕方ない」


凛「ねえ、プロデューサー?」

凛「良かったら、私のお弁当食べない?」

P「弁当?」

凛「今日学校でかなり残しちゃったんだけど…いらない?」

P「…体調不良か?」

凛「あ、そう言う訳じゃないよ。心配しないで」

P「……」

P「(い、今19時だぞ。痛んでないか、ソレ…)」

P「じゃあ折角だ、貰っとくか」

凛「本当? じゃあ…」



~~5分後~~


凛「はい、コレ」

P「おお…何だか懐かしい感覚だ」

P「学生時代に戻ったようだ…!」

凛「大袈裟だよ」

P「いただきます!」カチャ

P「あぐ、んむんむ…」モグモグ

凛「ペース早いね、喉詰まらせるよ?」


~~3分後~~


P「はー! 久々に手作りの飯を食った…!」

凛「ホント…早食いだね」

P「美味かった! ごちそうさん!」

凛「た、ただの冷食の詰め合わせだよ、こんなの…」

P「いやあ、それでも美味いものは美味い!」

凛「そ、そう…?」

P「助かった。母親にごちそうさまと伝えておいてくれ」

凛「…!」

凛「うん、また余ったらあげるよ」

P「本当か? それは助かる!」

P「…けど、あんまり残すのも駄目だぞ? 母親が作ってくれてるものだし、なにより体力が付かん」

凛「(これ、本当は私が朝に作ってるんだけど…)」

凛「…」

凛「頑張って食べるよ。でもまた無理だったらプロデューサーにお願いするね」


======
【後日 休日 公園】


P「ハアア……」

P「もう休日出勤はホント慣れたけど…それでもシンドイ…」

P「13時か。早めに終わったのは良いけど、中途半端だな」

P「…大人しく帰って寝るか」




「ワンワンッ!」

P「…?」

凛「ぷ、プロデューサー!」

P「あ! 凛!」

P「奇遇だな! まさかこんな所で会うとは」

P「…犬の散歩中?」

凛「うん…」

P「今日は挨拶回りで少し離れた所まで来たけど…凛の家近いのか?」

凛「まあ、近いと言えば近い…かな?」

P「というか、凛、犬飼ってたんだな」

P「(ん…犬…?)」

P「(何か…違和感が…)」


P「そうだ…!」

P「確か。凛と最初に会った時、犬の事聞いたけど、大した詳しくないって言ってなかったか?」

凛「あ、ああ、アレ?」

凛「あれは…まあ…」

凛「な、何でも無いよっ」

P「そうかー…犬飼ってたのか。俺も昔コーギーを実家で飼ってたな」

凛「名刺のアドレスにも書いてあったね」

P「良いよなぁ~…撫でてもイイ?」

凛「いいよ。ほら、ハナコ?」


ワシャワシャ

P「大人しいなぁ、可愛いなぁ…!」ワシャワシャ

凛「犬、好きなんだね?」

P「ああ。アパートで飼えたら是非そうしたい位だ!」

凛「ふーん…」

凛「(こんなにハシャいでるプロデューサー見るの、意外だ…)」

凛「(なんだろ…)」

凛「(普段は近寄り難いオーラ出してるけど…)」

凛「(ホントはこういう優しい人なのかな…)」


P「…そうだ。もしお前がデビューした後…」

凛「?」

P「動物の番組で、犬とかと触れあう企画があったら、取ってこようか?」

P「今の所、上司や他の人にそういうのは任せっきりだけど、俺が何とかして見るぞ?」

凛「え…いいの?」

P「お前も出たい番組とか企画の希望を言っていいからな?」

凛「…じゃあ、そうだなぁ…」

凛「そういうのやったこと無いから、是非お願いしたいな」

P「よしよし、これからはどんどん意見していいからな」


凛「……」

凛「じゃあさ…あと…」

P「うん?」

凛「デビューしたら、どっか食べに行こうよ」

凛「何処か高い店で奢って欲しいな…なんて」

P「(な…!)」

P「ま、まあいいだろう。デビュー記念だな」

凛「ホント!?」

P「あ、ああ…」

P「(自分の事以外に金使うのは嫌だけど…仕方ないか)」

凛「楽しみにしてるよ、ふふっ…♪」

P「…!」


P「…怒らないで聞いてくれるか?」

凛「えっ?」

P「凛に『目付きが悪い』と言われた俺が言うのも何だが…」

P「凛は普段から、少し表情が硬いと思うんだ」

凛「…」

P「今みたいに少し笑うと、アイドルとしてもっと人気が出ると思うんだ、俺は」

凛「私、今笑ってた?」

P「おお。良い顔だった」

凛「…難しいかも」

P「少しだけでいいんだ。何か嬉しいこととかを思い出して、笑ってみ?」

凛「うん……」

凛「(嬉しかったことか…)」

凛「こ、こうかな」グギッ

P「うわ、面白い顔!!」

凛「な、なにさ…!!」

P「ゴメンゴメン。まだ少し硬いから、徐々に努力してこう」

凛「…うん。分かったよ」


======
【後日 レッスンルーム】



凛「あれ?」

凛「今日はプロデューサーも観てるの?」

P「まあ…な」

P「素人目からの評価も必要だって言われてな」

トレーナー「はい。よろしくお願いしますね」

凛「なんか…恥ずかしいな…」

P「大丈夫だって。本番はもっと恥ずかしいぞ?」

凛「…分かった」

レッスン「じゃあ一度、通してやってみます」



~~10分後~~


P「一回観たことがあるけど…」

トレーナー「大分纏まってきたと思いませんか?」

P「うん。すごいアイドルっぽいな」

凛「あ、アイドルだから!」


トレーナー「体力も筋力も付いてきましたし」

凛「プロデューサーが考えてくれたヤツね」

P「ああ、あれか…」

トレーナー「体を痛めない程度で、簡単で効果的。感心しましたよ!」

P「そ、そうですか? 部活で使ってた物ですけど…」

凛「うん。あれのお陰でもあるかな」

凛「ありがとう…」

P「…!」

P「凛から感謝をされたのは初めてだ…」

トレーナー「そうなんですか?」

凛「そ、そんなこと…!」

凛「…ある、かも」

P「まあ何にせよ、凛の力になれて良かった」

P「その調子で頑張れよ」ポンポン

凛「わっ! う、うん…」

P「じゃあ仕事戻るわ。しっかりな」

凛「うん。そっちもね」

凛「……♪」


======
【後日 事務所】


凛「プロデューサーってさ」

P「ん?」

凛「趣味とかあるの?」

P「家で野球観戦かな」

凛「いつも観てるの?」

P「いや…ここ最近は全然だな」

凛「忙しそうだもんね。一人暮らしだっけ?」

P「ああ。気楽なもんだぞ。お前も将来はしてみるといい。楽しいぞ」

凛「じゃあ普段、何食べてるの?」

P「何って…そりゃあ……なあ?」

凛「……」

P「朝は何も。昼は社割で食堂のかけうどん。夜はコンビニかな」

凛「…カラダ壊すよ?」

P「男は皆こんなもんだ」

凛「ソレ、全然威張る事じゃないよ」

P「まあ…だからこそ、この前の凛の弁当はウマかった」

凛「うん、ありがと」


======
【後日 事務所】


凛「あとデビューライブまで一週間だね」

P「不安か?」

凛「ちょっとね」

凛「でも、そこからまた新しことが始まると考えると、少しワクワクするかな?」

P「良い捉え方だ。そのモチベーションのまま頑張ってくれ」

P「でも、詰め込み過ぎて怪我しないようにな」

P「土日は休日だしレッスンも無いから、休んでも良いんだぞ?」

凛「分かった。じゃあゆっくり休養するかな」

P「おお。休むのも大切な事だからな」

凛「じゃあ帰るね。仕事頑張って」

P「おー、またな」

凛「うん、バイバイ」


バタン


P「……」


P「最近は、向こうから話しかけてくる事も増えて来たな」

P「つかさの言う所の『信頼』かはよく分からんが…」

P「まあ、良い傾向か?」

P「あー…」

P「早く帰りてェ」バキッ

P「そして早く休みてェな」バキバキッ

P「ふー…」

P「明日も明後日も仕事だよ、ホント…」

P「いつになったら俺は元の生活に戻れるんだ…」


・・・・・
・・・


・・・
・・・・・
======
【つかさの高校】



つかさ「(……)」

つかさ「(そろそろアイツと再会して3カ月…)」

つかさ「(アイツ、あれから上手くやれてんのか…?)」

つかさ「(小まめに連絡寄越せよ、社会人の癖に…)」

つかさ「(…)」

つかさ「(アイツの女性不信…なんとかなんねーかな…)」

つかさ「(ダセーよホント…)」

つかさ「(アイツみたいに頭が硬い奴の固定概念や偏見を払拭するには)」

つかさ「(かなりの時間がかかる)」

つかさ「(……)」

つかさ「(アイツは……)」

つかさ「(アタシの事、頼りにしてくれてんのかな…)」

つかさ「(……)」

つかさ「(アー…)」

つかさ「(アタシもダセーな、マジで)」


「桐生さん、じゃあここのまとめの問題。第3積分の問題解いてみて?」

つかさ「…In+2=((n+1)/(n+2))In」

「正解だけど、それ、次の問題ね」

つかさ「…」

つかさ「…limk→0S(k)/k=1/3」

「正解。けどそれも違う問題だね」

つかさ「充分っしょ」

「………ハイ」

つかさ「(……)」

つかさ「(人間関係も、これくらい簡単ならいいのに)」

・・・・・
・・・


・・・
・・・・
======
【土曜 事務所】


P「……」カタカタ



「P君、ちょっといいかな?」

P「あ、お疲れ様です」

「頑張ってるねぇ。最近」

「でさ、君の仕事の件で、話がしたいんだけど」

P「仕事…ですか?」

「うん。別に変な話じゃないよ。向こうの、更衣室の所で話そうか」

P「はい、わかりました」

P「……」

P「(仕事の話…?)」

P「!」

P「(もしかして、遂にか!?)」ガタッ


【更衣室前】


「最近本当に頑張ってるね」

P「ハイ、ありがとうございます」

「でさ、前々から言ってた人員補充の件なんだけど…」

P「や、やっと見つかったんですね!?」

「うん。君にはここ4カ月弱、本当に苦労を掛けたね」

P「いえ、ちゃんと給料も貰ってましたし…!」

P「(僅かだけどな)」

「そりゃあ休日も働いてくれてたし、あたりまえだよ」

「お疲れ様」

P「やったッ…!」

P「これで俺、元の仕事一本に戻れるんですよね!」

「あー、うん。で、その件なんだけどさ…」

P「……?」


「雇ったのは派遣で、事務管理なんだよね」

P「はい……?」

「だからさ、どうかな?」

「君、このまま今の仕事に移る気はないかい?」

P「そ、それ……どういう…」

P「こと…」

「いやあ、こういうのも何だけどさ、派遣の方が使い勝手が良いし、色々融通が利くんだよね」

P「………はあ…」

「別に以前の君の仕事ぶりをダメとか言う訳じゃないよ? ただ派遣の方が動かしやすいってだけで…」

P「……」

「最近君も上手くやれてるようだしさ、どうかな…と思って」

「それとも、以前の仕事、戻りたい?」

P「そ、れは……」

「こっちとしては、もう人手が足りてるし、君も慣れたようだから、そっちの芸能プロデューサーとしてで大丈夫だと思うんだけど」

「でもたまに忙しい時は、手を借りる事は当然あると思うけど…」

P「………」

P「…………」

======
【事務所】



ガチャ

凛「おはよう…」

凛「プロデューサー、いないの?」

「ああ凛ちゃん、お疲れ様です」

凛「あ、千川さん。どうも」

「今日は休みのハズじゃなかったでしたっけ」

凛「うん、チョット…ね」


「……そのぬいぐるみ、どうしたんですか?」

凛「あ、こ、これは……さっきゲームセンターで、たまたま獲って…」

凛「私は別にいらないから、どうしようか悩んでたんだけど…」

凛「前にプロデューサーが興味を持ってたの思いだしてさ。あげようかなって」

「へえ…そんなこと言ってましたか…」

凛「休日も来てるとか言ってたから、居ると思ったけど…」

「はい、Pさんは今日も来ていますよ」

「そうですねぇ…」

「さっき、上司の人と、更衣室の方で話をするとか言って、連れていかれましたけど」

凛「更衣室ね。分かった、どうもありがとう」

「私が渡しておきましょうか?」

凛「ううん、直接渡すよ。アリガトね」


======
【更衣室】


P「……」

P「……」


ガンッ!

P「……」

P「意味わかんねーよ…クソっ」

P「『新しいスタッフが入るまででいい』…だと…?」

P「最初から…移す気満々だったんじゃねーか…!」

P「くそ…くそ…ッ」

P「ふざけんな…! あんな露骨に…言いやがって…!」

P「俺の選択肢を奪いやがって…!」

P「甘かった…」

P「…………」

P「(あーあーあーあ…!)」

P「あーあーあーあああっ!!!」

P「やってられるかッ、こんな仕事!!!」ガン!


ガンッ!


P「あんな年下のッ…、ガキに、タメ口で話されて…!」ガン!

P「機嫌伺って、おべっか使って、媚び諂って…!」

P「ガキなんて、楽に懐柔できると思ったら…!」

P「なんだ…アイツは! 無口で生意気で…!」ガン!

P「信頼の形成だ…? スムーズな仕事だ…?」

P「知らねえ、よ! 俺は一人でデスクワークしてる方がよっぽど楽なんだ!」ガン!

P「自分の時間も碌に作れねえ! 同僚とも疎遠になる…!」

P「挨拶回りでも、偉い人の顔色窺ってヘコヘコ頭下げなきゃならんし…!」

P「良いことなんて、一つもねえじゃねえか…!」

P「くそ……」ガクッ

P「……」


P「……」

P「何をやってるんだ、俺は……」

P「お、落ち着け…物に当たるのはヨクナイ…」

P「少なくとも兼務では無くなるんだ、そう考えれば…」

P「……」

P「いや…でも…未だに慣れる気がしないよ、この仕事は…」

P「他人を管理して、特徴を見てあげることが、こんなに大変だとは…」

P「短期間で、すぐ元の仕事に戻れるから、それまでは真面目にやろうと頑張ってきたが…」

P「もうモチベーションが……厳しいな」

P「(長距離マラソンで、ようやくゴールかと思って全力疾走したら、まだ全然距離があったような感覚だ…)」

P「……」

P「ハア……」

P「最初に断れば…いや…」

P「途中でもいつでも、断る事は出来たのに……」

P「本当に…」

P「…意志が弱いな、俺は。ははは…」

P「つかさの言う通り、全然ダメだ…」


【事務所】

P「…戻りましたー…」

「あ、Pさん。おかえりなさい」

P「すみません。遅くなりました」

「いいえ。あ、そうだ」

P「?」

「凛ちゃんに会いましたか?」

P「はい? いえ…会って無いですよ」

P「何かありました? 今日は確か、彼女は休みのハズですけど」


「……??」

「あれ…? さっきPさんに会いに来てたんですよ? 緑の大きなぬいぐるみ持って」

P「…ハ? ぬいぐるみ?」

「ゲームセンターで獲ったんですって。それを渡しに来たとか…」

P「……」

「更衣室に居るって教えてあげてすぐに向かったから、途中で会ったかと思ったんですけど」

P「……更衣室…」

P「……」

P「………」

P「まさか…な……」

P「聞かれてない…よな……?」

「??」

P「…………」


======
【月曜日 事務所】


P「(どうなんだろう…本当に聞かれてたとか…)」



ガチャ

凛「……」

P「!!」

凛「おはよう」

P「お、おは…」


スッ

凛「千川さん。今日ってレッスンだけだよね?」


「…? はい、そうですね…掲示板にそう書いてますけど…」

凛「分かった、3番ルームね。じゃあすぐ行くよ」

「はい。ライブも近いですし、頑張って下さいね」

凛「うん。じゃあ」

P「……!」


バタン


P「……」

P「(最近は真っ先に話しかけてくるのに…)」

P「(挨拶はされたけど、視線を合わせられなかった…)」


======
【翌日 レッスンルーム前】


P「なあ、凛。ライブまで一週間切ったけど…」

凛「……」

P「調整はどうだ?」

P「何か確認したいことあるか?」

凛「……」

凛「……」


ピッ

ガコン!

凛「……」カシュ

P「…」

P「り、凛ってホントそのドリンク好きだよな…!」

P「俺も一度飲んだけど、確かにう…」

凛「……」スタスタ



P「……っ」

P「何だよ、無視かよ…」

P「小学生かって…本当にガキか…」

P「…」

P「……俺も、人の事は言えんわな…」


P「……」


~~~~~~
つかさ『居ない様に扱われる事だ。つまりシカトだな』

つかさ『ゴミを見るかの様に蔑む視線とか、好奇の目線で見られるとか、比べ物にならねー程、それはキツイ』

つかさ『自分の存在が否定されてると同義だからな』
~~~~~~


P「(やっぱり…俺の愚痴…聞かれてたのか…)」

P「(でも、こんなあからさまな態度取るか? 普通…)」

P「……」

P「(いや、凛はそういう子だ。意志が強いからな)」

P「(ああ、コレ、終わりだな…)」

P「(キっツイなあ…)」

P「………」


・・・・・
・・・



・・・
・・・・・

======
【夜 バー】


P「……っ」

P「ハァ……」カラン




つかさ「よう、急にまたどうし……」

つかさ「…!」

つかさ「酒クサっ! オイ、まだ火曜だけど?」

P「ああ、呼び出して…悪いな」

P「少し話を聞いて貰いたくなった」

つかさ「ハア? 他に誰かいねーのかよ」

P「会社の愚痴だ。同僚に話せない事なんだよ…」

つかさ「アタシならいいってか? 舐めんなよ」

つかさ「何だ? またミスか? 年下に慰めて貰って情けなくねーのか?」

P「うるせー…」グビッ

つかさ「…オイ」

つかさ「分かったから飲むんじゃねえっつの。冷静に話せないだろ?」


~~30分後~~


つかさ「人事か…」

P「ああ。元の仕事に戻るのはキツそうだ」

つかさ「…アタシも言えば良かったわ」

P「気付いてたのか?」

つかさ「怪しいとはな、若干」

つかさ「数ヶ月以上も人いれないとか異常っしょ。ありえねーって」

P「俺も甘かった。どうやら派遣の奴は、別の部署で既に2ヶ月程研修をしてたらしい」

つかさ「プロデュース業なんて激務、進んでやる奴はまずいねーしな」

P「そうだ。だから俺を唆して、そのまま居座らせようと…」

つかさ「そのほうが楽だしな。人事も」

つかさ「けどデメリットも考えずにそんな雑な人選するなんて、お前の会社も大したこと無いな」

P「…どうせ俺はデメリットだよ」

つかさ「おいおい、ジョークだって」

つかさ「会社に信頼されてたんだよ、お前は」

P「信頼してるのに、こんな仕打ちをするか?」

つかさ「『労働力』としての信頼な」

P「……ああ、納得した」


つかさ「で、後者の問題は?」

P「……」

P「正直険悪なんてモンじゃない。もう最悪だ、終わりに近い」

P「アイツに対しての愚痴を聞かれたんだぞ?」

P「昨日もそうだが、今日なんて目線どころか、一言も会話が成立しなかった」

P「徹底して無視されてる」

つかさ「ハァ…」

P「仕事はもうプロデューサーしか残ってないのに、そのアイドルとの仲も険悪だ」

P「八方塞がりだよ」ガクン

P「少し、キツイ……」

つかさ「……」

つかさ「………っ」



ポンポン…

P「! な、なんだよ…」ガバッ!

つかさ「え? 幼馴染の若い女のコに頭撫でられて、嬉しくねーの?」ナデナデ

P「や、やめろ、気持ち悪い…」

つかさ「はは、モチベーションの二要因理論ってヤツだ。知らねーか?」


つかさ「アメリカの臨床学者の提唱理論。職務環境における動機付け要因と衛生要因ってな」

つかさ「簡単に言えば、仕事に満足してる奴と、不満がある奴の明確な違いっつーの?」

つかさ「前者は超有能。生き甲斐が仕事自体で、ドンドン出世もするし成果も上げる」

つかさ「お前は後者だ。仕事に対して不満を持ってる奴には、仕事以外の…給料とか作業条件とか、エサっていう満足感の予防策が必要なワケ」

つかさ「給与は少し上がったみてーだけど、お前にはそれだけじゃ足りなかったみてーだな」

つかさ「もう…不満が爆発した後じゃ遅いけど…」

つかさ「一応、頭でも撫でてやろうと思ったワケ。嬉しいか? やる気でたか?」

P「ま、満足するワケないだろ…!」

つかさ「ハっ、照れんなって。ウケるわ」ポンポン

つかさ「……」


つかさ「どーよ、落ち着いたか?」

P「んなワケないだろ…」

つかさ「で、アタシもお前の愚痴に付き合うの、ウザいから」

P「ああ、そうかよ!」

つかさ「ぶっちゃけ聞くわ。どうすんの、この先」

つかさ「辞めんの? 続けんの?」

P「……」

つかさ「……」

P「少なくとも、こんなんじゃ続けられない」

P「嫌々続けても、意味が無い」

P「俺には、もっと別の仕事が向いてるよ」

P「妥協するよ。今気付いた」


つかさ「あっそ。勝手にすればいいんじゃね」

P「……冷たいな」

つかさ「へえ、じゃあやっぱり優しく慰められたいワケ?」

P「あのなあ…!」

つかさ「正直に言えよ。お前は優柔不断なダメ人間だから、誰かに道を示して貰いたいんだろ?」

P「違う!」

つかさ「ほら、変にプライドが高い所は変わってねえじゃん」

P「…っ!」

つかさ「アタシが一番知ってんだよ。お前の性格は」

つかさ「ガサツで、他人の事をどうでもいいと思って、内心周囲を見下して、グチグチ不満垂らして、その癖変にプライドが高い」

P「……」

P「ああ、そうだよ…!」

P「お前が最初に会った時に言ってた通り、プロデューサーなんて向かない人間だよ!」

P「ハッキリしただろ!?」

P「向いてなかったんだよ…俺は…!」


つかさ「ああ。向いてねーわ」

つかさ「アタシも思った。少なくとも、あの時はな」

P「ああ…?」

つかさ「お前は…最初は興味本位だったかもしれねーけど、色々試して変わろうとしたのは事実だろ?」

つかさ「お前、必死にプロデューサーやってたろ?」

つかさ「それは全部無駄だったのか?」

つかさ「一体何のためにその仕事やってんだ?」

P「それは…短期間だと思ってたから…」

P「お前を見返してやろうとも思ったし…」

つかさ「え、それギャグ? 全然見返せてねーよ」

P「なっ…!?」

つかさ「もっと頑張ってくれよ、ホント…」

つかさ「(アタシだって、お前のこんなトコ見たくねーよ…)」


つかさ「……」

つかさ「逃げんなよ」

つかさ「『もっと別の仕事が向いてる』だ? 舐めんなよ」

つかさ「上手くやる奴は、どんな環境でも上手くやる」

つかさ「クソな奴は、どんな環境でもクソだ」

つかさ「情けねーな。グチグチグチグチ…」

P「……!」

つかさ「お前が人付き合いが下手なのは知ってるよ」

つかさ「けど、社会で生きていくには、折り合いを付けて他人と向き合わなきゃダメなんだ。嫌でもな」

つかさ「妥協って言葉で逃げるんじゃねーよ。妥協は諦めるって意味じゃねえし」

P「…嫌でも、続けろってか…?」

P「自分に合って無い仕事でも…か?」

つかさ「お前さ……」

つかさ「…好きな事やって生きてる人間なんて、一握りだっつーの」

P「……」

P「そんな窮屈な生き方…」

つかさ「死ぬ気で生きりゃ、楽しい事だってあるんじゃね?」


P「……」

P「…つかさ、前言ってたよな。『渋谷凛が可哀想だ』『その子のために言ってる』って」

つかさ「…言ったな」

P「俺みたいな奴が嫌々彼女のプロデュースを続けて、彼女は報われるのか? 彼女は本当に幸せか?」

P「彼女のことを思えば…!」

つかさ「他人を逃げ道に使うのは最低だな。それこそ自己中だ」

P「……っ」


つかさ「まあ、自分の面倒も見れない奴が、他人の世話なんて到底出来るワケねーけど…」

つかさ「お前、必死にやってたよな」

つかさ「お前の行動で、お前が得た物は無かったか?」

つかさ「お前の行動で、相手が得た物は無かったか?」

つかさ「相手の行動で、お前が得た物は無かったか?」

P「得た物…?」

つかさ「そう」

つかさ「良い物でも、悪い物でも、なんでもだ」

つかさ「何か発見は無かったか?」

つかさ「自分で気付くのは難しいかもしれねーけど…」

つかさ「何かある筈だよ」

つかさ「まずはそれを探してみ?」

つかさ「辞めるにしても辞めないにしても、それは次への糧になっから」

つかさ「さっきの二要因理論の前者だ。仕事のやり甲斐を、仕事の中に見つけれると良いな」


P「……」

P「少し、考えてみる」

P「俺、そういうの鈍いから、気付けないかもしれないけど…」

P「…とりあえず、彼女のデビューまでは続けるよ。仕事」

P「それまでに…結論を出しておく」

つかさ「アタシを見返すんだろ? しっかりやれや」

つかさ「なんだったら…」

つかさ「……」

P「?」

つかさ「…アタシの秘書にでも雇ってやろーか?」

P「……迷惑だろ」

つかさ「…まーな。ごめん今のナシ」

つかさ「アタシも今のお前と仕事をしたいと思えねーわ」

P「………」


・・・・・
・・・



・・・
・・・・・
======
【翌日 事務所】


P「デビューライブまで、あと4日だぞ…」

P「どうすんだよ…こんな状態で…」

P「ハア……」

P「……」

P「俺がこの仕事で得た物…」

P「凛が得た物…ねぇ…」


~~~~~~
つかさ『一体何のためにその仕事やってんだ?』
~~~~~~

P「……」

P「…そんなの」

P「そんなの分かってないのは、俺だけじゃないだろ…世の中にはごまんといる筈だ」

P「いちいち意味なんて……」


カチャ

「お疲れ様です、Pさん」

P「ああ千川さん、どうも」

「あの…」

「一つお聞きしたい事があるんですけど…」

P「?」

「この音楽プレーヤー、誰のか分かります?」スッ

「プロダクション内で落ちてたのを、係員さんが見つけて…」

「多分、アイドルの誰かの物だとは思うんですけど……」

P「それは…!」

P「(あのアオ色のは…)」

P「……」

「心当たり、ありませんか?」

「無ければ、受付で預かって貰いますけど…」

P「………」



・・・・・
・・・


・・・
・・・・・
======
【渋谷生花店】


P「凛は今、学校だ」

P「後で直接渡せばいいのに……なんでこんな遠回しに…」

P「気マズイからか…」

P「ガキか! 俺はッ!!」

P「くっそ~…!」

P「自分の行動を恥じるなんて…!」



カランカラン♪

P「あの……御免下さい」

「はい、いらっしゃいませ」

P「渋谷凛さんの、お父さんですね?」

「はい?」

P「私、凛さんの芸能プロダクションで彼女のプロデューサーを担当している者です」

P「なかなか挨拶に伺えなくて申し訳ありませんでした」


「ああ、貴方が凛の新しい担当さんか!」

P「(…新しい?)」

P「(あ、そうか)」


~~~~~~
凛『…受け持ちの人が変わったけど、理由聞いていい?』
~~~~~~


P「…」

P「(そういえば俺って後任だったか)」

P「(プロフィールくらいしか引き継ぎしてねー…)」

P「(前任者は何やってたんだ?)」

「凛は今学校だが、今日はどうしました?」

P「はい、彼女が事務所に忘れ物をしまして…」

P「今日、たまたま自分も、この近くを通りかかったもので、挨拶のついでにと…」


「これはこれは…わざわざ有難う、ご苦労様です」

「あの子、不器用な性格で取っつき難いから、貴方も大変だろう?」

「面倒を掛けてすまないね」

P「いえいえ、そんな事はないですよ」

P「(嘘だけど)」

P「こちらも、まだ慣れないもので、彼女と手探りで仕事をしているようなもので…」

「と言う事は、貴方も新人なのか?」

P「まあ…プロデュース業は今年からです。色々事情がありまして…」

P「(君も?)」

「そうか、なら本当によくやってくれている」

P「……?」

「貴方の前任も確か新人だったが、2週間程で君と交替してしまったようでね…」

「やっぱり原因は、あの子の性格なんだろうか…」

P「性格…ですか」

「良ければ、少し、話を聞いて貰えないか?」

P「……」

P「……はい、ではお邪魔します」


P「凛さんの性格のことで、何か…?」

「…」

「凛は人見知りでね、初対面の人間や慣れない人に対しては、どうしても冷たくあたってしまうんだ」

「普段からよく言い聞かせてるんだが…」

「その性格で勘違いされてしまう事も、多々あるようだ」

「親の私が言うのも何だが、本来は真面目で根は優しい子なんだ」

P「成程…」

「けど、凛も努力はしているんだ。特に、すぐ担当が交代してしまって、少しショックを受けていたよ」

P「…!!」

「だから本人なりに、不器用ながらもコミュニケーションを取ろうとしているんだけど、私はそれが空回りになっていないか心配でね……」

P「…」

P「……」


P「(人手不足なのに…)」

P「(担当が変わったのは、凛は自分の冷たい性格と…勘違いして…)」


~~~~~~
凛『…受け持ちの人が変わったけど、理由聞いていい?』

P『ああ、それは人手不足かな』

凛『…理由って、本当にそれだけ?』

P『? あ、ああ…』

凛『……そ』
~~~~~~


P「(凛も不器用ながら、コミュニケーションを取ろうとしている…?)」


~~~~~~
凛『アンタ…犬、好きなの?』

凛『アドレス。犬種捩ってるよね、コレ』

P『そうだけど……詳しいのか?』

凛『……ええと』

凛『別に……よく知らない…』
~~~~~~


P「(そうか……)」


~~~~~~
P『(急に…音量を上げたか?)』

P『(何でだ…?)』

凛『……』カチカチ

P『(まあでも、話題作りになるか…?)』

P『…お前、それ何やってるんだ?』

凛『!!』

凛『え、な、なにっ…?』
~~~~~~


P「(あれはそういう事か…)」


~~~~~~
凛『………ごめん』

P『いや! 謝らなくても良いから!』

凛『アンタさ…トーンが低いから怒られるかと思った』

P『(そうか、俺の口調って荒いのか……?)』

P『(けど、謝る程、怖かったのか…?)』
~~~~~~


P「(不器用過ぎるだろが…気付かないよ、そんなの…)」


「でも最近、心なしか…」

「表情が明るくなったように感じる」

「前は事務所に向かう足取りも重かったんだが…今は打って変わって別人のようだ」

「笑った顔も、少しずつ増えて来た」

「何か、事務所で良い事でもあったのかね?」

P「………」

「アイドルとして、自信を持てて来たようで…」

「伝わってくるんだ。親としても、あんなに楽しそうに取り組む凛は初めて見た」

P「……そう、ですか…」

「まだまだ礼儀もなってないし、迷惑を掛けることもあるかもしれないが…」

P「…」

「どうぞ、これからも、凛の面倒をよろしくお願いします」

P「……」

P「………」


======
【公園】


P「…」

P「この3ヶ月以上…アイツと関わってきて…」

P「一番近くで見て来たのに…」

P「何も、彼女の事を分かって無かった…」

P「『信頼関係の形成』…」



~~~~~~
つかさ『良く聞けよ? 「信頼関係の形成」には、相手を知る事。相手を理解する姿勢』

つかさ『相手の気持ちになって、寄り添う奉仕の精神が必要になる』

P『相手を理解する……寄り添う…』
~~~~~~


P「何も分かって無かった…」

P「相手を物の様に観察して、相手からの気持ちを理解しないで…」

P「…なにが『結構出来てる』だ…」


~~~~~~
P『結構出来てるだろ、「信頼関係の形成」。データの収集もばっちりだし、気遣いも出来てる』

つかさ『……』

つかさ『まあ…それはホントの意味じゃないけどな』

P『え? じゃあどういう意味だよ?』

つかさ『そのまま上手くやってけば、いつかお前も気付くかもな』
~~~~~~



P「くそっ…」

P「彼女は…凛は、最初からずっと、不器用ながらも頑張ってたのに…っ」



~~~~~~

つかさ『自分から相手に向けるとは違う。相手から自分に向けられることだ』

つかさ『相手に好かれて、相手に興味を持って貰って、相手に思われて…』

つかさ『心を通わせ、相手を受け入れる』

つかさ『…どうだ?』

P『正直、まだ俺だけが向けてる段階だな』
~~~~~~



P「俺は……」

P「本当に、馬鹿だ…っ!」


・・・・・
・・・



・・・
・・・・・
~~~2週間前~~~
【18時 事務所】


凛『プロデューサー、お腹空いてない?』

P『…?』

P『何だ、飯でも食いに行くか?』

凛『ち、違うよ。あのさ…』

凛『今日も少しお弁当残しちゃったんだけど……良ければ食べない?』

P『ああ、また残したのか?』

P『(これで4度目だ…)』

P『まあ空いてるけど、折角母親が作ってくれた弁当だぞ?』

凛『い、いいから。お腹空いてるなら遠慮する必要無いでしょ?』

P『まあ…捨てるのも勿体無いし。それにこの前の美味しかったしな』

凛『だから、あれはただの冷食の詰め合わせだって…!』


凛『はい、どうぞ』

P『……』

凛『ど、どうかした?』

P『気のせいか…』

P『どんどん冷食の数が減ってるな。それに何か…』

凛『!』

P『何か…卵焼きとか、これ焼け過ぎじゃないか?』

P『色々なオカズあるけど、どれも……』

P『凛の母親……今日は急いで失敗したのか?』

P『それに、殆ど量が減ってない。凛、今日これ手を付けたか?』

凛『そ、それは…!!』

凛『た、たまにはお母さんも失敗する時はあるんだよ!』

凛『何? いらないの?』

P『いや、いただきます』

凛『ど……どう?』

P『……』モグモグ

P『…まあ、悪くないかな』

凛『ど、どっちなのソレ…!』


~~~~~~
・・・・・
・・・


・・・
・・・・・


P「(この時)」

P「(イイ年なのに、自分が本当に情けなく感じて…)」

P「(少し、泣きそうになった)」

P「(つかさが言っていた本当の意味での、信頼関係の形成は…)」

P「(媚び諂い、相手の機嫌を伺い、相手の事を調べて、コミュニケーションを取る…)」

P「(…そう言う意味では無い)」

P「(相手を理解し、相手に寄り添うとは、そういう意味では無かった)」

P「(……)」

P「(……そしてこの時…俺は初めて…)」

P「(相手の事を理解し、相手を思った)」

P「(自分の仕事のために、彼女の事を考えるのではなく)」

P「(彼女の仕事のために、彼女の事を考えた)」


P「(……)」

P「(人間関係において『終わり』なんてもんを考えたら、それこそ本当に終わり…)」

P「(一度崩れた人間関係は修復不可能…そう考えていたが…)」

P「(俺は今、初めて彼女と向き合うのだ)」

P「(少しでも、彼女のために、何か俺が出来ないか)」

P「(俺がこのプロデュースの中で得た物……)」

P「(それがようやく理解できた気がした)」


======
【翌日 凛の学校付近】



凛「……」

P「よう、この後レッスンだろ。乗って行くか?」

凛「………」

凛「………何?」

P「(今までで一番冷たい、『何?』だ…)」

P「いいから。3日間レッスン続きでキツイだろ」

P「ちょっとは楽しとけ」

凛「………」



カチャ

P「シートベルト締めろよ?」

凛「……」


======
【車中】


凛「……」カチカチ

P「……」

P「凛、お腹空いてないか?」

凛「……」カチカチ

P「お前、今日も弁当食べなかったんじゃないだろうな?」

凛「……」カチカチ

P「俺も最近ろくに飯食って無いから、腹が空いたよ」

P「最近、凛の作った弁当、食って無いしな…」

凛「……」

凛「………私は…作って、ないよ」

P「そうだったのか?」

凛「………」

P「まあ何にせよ、アレ、美味しかったよ」

P「ありがとう」

凛「……」


P「凛は…」

P「何でアイドルを目指そうと思ったんだ?」

P「テレビに出ているアイドルや芸能人に憧れたのか?」

凛「……」

凛「………」

P「……」

P「俺が凛のプロデューサーになったのは…」

P「何でだと思う?」

凛「…知らない」

P「…元々違う部署だったけど、短期間だけやってみないかと上司に誘われてさ」

P「軽い気持ちだった。ほんの興味本位で…」

P「元の仕事もやりつつ凛のプロデュースしてて…」

P「結構忙しかったよ」

凛「(……)」


P「最初は慣れなくて、大変だったし…」

P「早く新しい人が変わってくれないかとか、早く元の仕事だけに戻りたいとか…」

P「正直、ストレスも結構溜まってた」

凛「……」

P「もっと器用な人なら、お前と上手にコミュニケーション取れてたんだろうけど…」

P「俺って不器用で、あんまり人付き合い上手くなくてさ…」

P「幼馴染からは、コミュ障だのガサツだの、我儘だの自己中だの、よく言われる」

P「…俺も自覚してるよ」

P「……」

P「凛に負担ばっかり掛けて、悪かった」

P「ごめんな?」

凛「………」


P「…」

P「デビューライブまで、あと3日だな」

P「俺なんかの拙い指導で、凛も良く頑張ったな」

P「…何か、不満だった事とか無かったか?」

凛「……別に」

P「…そうか」

P「ありがとう」

P「短期間だけど、凛と関われて良かったよ。色々と勉強になった」

凛「……?」

P「俺ってさ、自分で言うのも恥ずかしいけど、人見知りで…」

P「自分のことしか考えてなくて、不満をグチグチ垂らして…」

P「けど、少しでも凛に感謝されてたなら…」

P「俺も報われた気分だ」

P「これからは、もう少し人付き合いに前向きになってみるよ」


凛「………何?」

P「えーと…」

P「月並みだけど、本当に感謝してる」

P「この仕事、楽しかったと思ったし…」

P「向いているか…と聞かれると、よく分からないが」

P「これからは人と関わる仕事を、違う形で、積極的に始めようと思うんだ」

P「…凛にも、迷惑掛けたしな」

凛「……」

凛「……辞めるんだ」

P「……」

P「これは、逃げになるのかもしれないけど」

P「今のお前には、もっと有能なプロデューサーが付いていた方が、お前のためになると思う」

P「デビューして名前が少しでも売れたら、これから忙しくなる。俺に対応出来るかは難しい」

P「凛は自分で気づいてないかもしれないけど、お前は逸材だよ」

P「仕事に真面目で、向上意欲もある。言い方は悪いけど、ビジュアルも周りからの評価も高い」

P「最近は実力もどんどん伸ばして…」

凛「……あのさ」


凛「私も同じだよ」

P「え?」

凛「この仕事を始めたの。深い思い入れは無いし」

凛「軽い気持ち。興味本位」

P「…!」

凛「目標も無いし、どうしていいのか最初は分からなかった」

凛「……」

凛「…でも」

凛「……」

凛「プロデューサーと一緒に仕事で来て、少し楽しいと思った」

凛「その気持ちは本当だよ」

P「…」

凛「私も、プロデューサーとどう関わっていいか分からなくてさ…」

凛「色々変なことしたり、戸惑わせたのかもしれない」

凛「迷惑掛けたかと思った」

凛「…ごめん」

P「お前が謝る必要なんてないよ」

P「俺も…」

P「結構楽しかったんだ。何だか新鮮な気分だった」

P「…正直に言えば、手が掛ったとか煩わしく感じた時もあるけど」

P「今思えば、充実した日々だったよ」

凛「…私もそう思う」

P「ははは…」


凛「でも、ちょっと傷ついたな」

凛「自分の性格をあんな風に言われると」

P「!」

凛「何か思ったことがあったら、直接言ってよ」

凛「更衣室。あんな大声で叫んでたら、誰かに聞こえるよ?」

P「あ、あれか……はは…」

P「悪かった」

凛「……ホントだよ」

凛「プロデューサー、もっとしっかりしてよ」

P「ああ。頑張るよ」

凛「……」

P「……」

凛「私達、全然駄目だね」

P「…ああ」

P「似た者同士だな」

凛「…そうかも」

凛「ふふっ……」


======
【プロダクション前】


P「さて、着いたぞ」

凛「…でさ、さっきの話」

P「ん?」

凛「本当に辞めるの?」

P「……」

P「…凛のお陰で、今の仕事も悪くないと思えたけど」

P「自分が実力不足の点は否めない」

P「けどな、最後にお前のためになる事をしたい」

凛「…?」


P「正直に言ってくれ。」

P「どうせ退職を考えてるんだ、俺に気を遣う必要なんてないからな?」

P「渋谷凛にとって、俺というプロデューサーは…いや、違う」

P「なにか、俺に出来る事は無いか?」

P「本当は、聞かずとも凛の要望に応えられたら一番良いんだが…」

P「…そうしたら、空回る気がするんだ」

P「何か一つ、最後に言ってくれ」

凛「……」


凛「…」

凛「…私さ」

凛「…」

凛「ちょっと…言いヅライんだけどさ…」

P「…何でもいい。言ってみ?」

凛「…ん」

凛「あのさ…」

凛「……」

P「うん」

凛「プロデューサー…」

P「……」

凛「一緒に…」

凛「…トレーナーさんに謝ってくれない?」

P「?」

凛「…レッスン」

凛「最近サボってたんだよね」

P「……」

P「……え?」


凛「だ、だって!」

凛「偶然だけど、あんなこと聞かされたから、ショックで…!」

P「ってことは、今週3日間、全部か!?」

凛「火曜だけは出たけど、全然身に入らなくて…」

凛「き、昨日も、一昨昨日も休んじゃったし…っ!」

P「…」

凛「ぷ、プロデューサーのせいだよッ!」

P「……!」

P「…はは、分かった」

P「一緒にトレーナーさんに謝りに行くか」

凛「…うん」

凛「…」

凛「だから…」

P「…?」


凛「こんな調子じゃ、多分、デビューライブは上手く成功出来るか分からない」

凛「ううん、多分ダメだと思う」

凛「だからさ…」

P「…」

凛「責任とってね」

凛「プロデューサーのせいなんだから…」

P「……」

凛「その次のライブは、きっと成功出来るように…」

凛「…」

凛「…それまで、プロデュース、よろしくお願いします」


P「…凛」

凛「…いま、すっごい恥ずかしいんだけど」

P「…俺はすごい嬉しい。嬉しくて泣きそうだ…」

凛「…ふふっ」

P「ああ、分かった!」

P「これからもよろしくな、凛」

凛「うん…!」

凛「忘れないでね、あの時の約束」

凛「その時成功したら、うんと高いお店で奢って貰うんだから」

凛「番組の出演も、たくさん取って来て貰うから…!」

P「…ああ。約束だ」

・・・・・
・・・



・・・
・・・・・
======
【一週間後 フレンチレストラン】


つかさ「はー、評判通り美味いな」

P「……」

P「あの…」

つかさ「ん?」

P「メニューに値段が書いてないんだけど…」

つかさ「当然だろ。高級店なんだから」

つかさ「ワリーね。感謝の印に奢ってくれるとか」

P「……」

つかさ「あ、水おかわり」

P「ちょ、ちょっと待てつかさッ!」ガタッ

P「水もタダじゃないかもしれんから、もっと慎重に…!」

つかさ「あ? 知ってるよ。一杯600円だぞ、ここ」

P「……!!」


つかさ「で?」

つかさ「結局辞めなかったんだ。まだプロデューサー続けるのか?」

P「『次のライブ』までな。とりあえず」

つかさ「今回ライブはどうなった?」

P「俺や周囲の評価は高いよ。完璧とまではいかないが、新人にしたら凄く良い出来だ」

P「けど…本人曰く『全然ダメ』だそうだ」

P「『次のライブも不安』って言ってた」

つかさ「へー…」

P「だからこそ、次のライブも、納得できるまで一緒に頑張るって決めたんだ」

P「…でも彼女、本番は良い顔で笑ってたよ。ちょっとドキっとした位だ」

つかさ「…」ピクッ

つかさ「やっぱ、水おかわりするわ」

P「な、何だよ!」


つかさ「兎に角、お前が元気そうで良かったよ」

つかさ「前なんて、死にそうな顔してたぞ」

P「ああ。つかさのアドバイスのお陰だよ」

P「ありがとう」

つかさ「当然っしょ」

つかさ「でも、お前から感謝されたのは初めてだな」

P「え、そんなこと…」

P「…あるかも」

つかさ「もっと感謝されても良い位だっつーの」

P「…」

P「(…あ、アレ?)」

P「(このやりとり、何処かで…)」

P「…???」

つかさ「(……)」

つかさ「(もうチョイか…な?)」


つかさ「でもホント、大進歩だな」

つかさ「コミュ障で、ガサツで、自己中心で、我儘で、変にプライドが高くて、愚痴しか言わなくて…」

P「ほ、本当につかさはグイグイ言うな」

つかさ「だから言ったろ? 包み隠さず伝えるのはアタシのポリシーだから」

つかさ「…その上、人間不信で女性恐怖症で、一度信頼関係を崩したらもう再構築不可能で終わりとまで考えてたお前が…」

P「…」

P「一度険悪になった人間と、またやり直そうとする姿勢を見せるなんて…か?」

つかさ「…!」

P「俺も成長してるってことだな。どうだ見返したか?」

つかさ「……」

つかさ「…水おかわり」

P「まだ飲み終わってないだろ!!」

P「……」

P「人と接する時、否定せず、その人が行動毎に何を感じ考えているかを考えるようにした」

P「それを心がけて対話を繰り返せば、あんな仰々しいデータの収集なんて不要だって気付いたよ」

つかさ「まあ、必要最低限は必要だけどな」

P「それでも、ようやく俺はスタートラインに立てた気がする」

P「まだまだ駄目な部分も多いけど、これから凛と2人で試行錯誤していくよ」

P「これからも…いや、これから信頼関係を形成し直すんだ」

P「たまに根を上げるかも知れんが、何とかなるだろ」

つかさ「まあ、人生死ぬ気で生きりゃ、万事何とかなるからな」


つかさ「…まあ」

つかさ「前はダメって言ったけど」

つかさ「…今のお前なら、一緒に仕事しても良いと思えるわ」

P「ハ、それ俺を見返したってことだな?」

つかさ「うるせーよ」

P「それはお前の言ってたところの信頼関係を形成する詰めの『好意』ってやつか?」

つかさ「!」

P「つかさが言ってたろ、『コイツなら信用出来る、コイツとなら上手くやれる、コイツと仕事がしたい』」

P「そうまで思わせたなら、もう信頼関係を築く上で何も言う事は無いって」

つかさ「は、ハア!? 馬鹿かお前? カッコ悪ィ、水掛けるぞッ!?」ガバッ

P「お、おい! そんな事したら、おかわりさせないからな!!」

つかさ「はあー、…勘違いも甚だしいわ、ウゼー…」

P「…そう言えば」

つかさ「?」

P「お前、何のサンプル取ってたんだ?」

P「市場調査でもして、雑誌にデータを掲載したり、なんか新商品開発でもするのか?」

つかさ「ああ、あれか?」


つかさ「…」

つかさ「アイドル」

P「アイドル?」

つかさ「そ」

つかさ「美人でギャルで社長で、更にアイドル…」

つかさ「話題性としちゃ、最強だろ?」

P「…ん?」

P「……」

P「………ハ?」

つかさ「お前みたいなデクでもプロデュース出来たんだ、案外アイドル業界でもイケるんじゃねーかって」

つかさ「それに、少し興味が湧いたしな」

P「……」

つかさ「で、だ」

つかさ「幼馴染のよしみで、一つ頼みごとがあるんだが…」

P「…嫌だ」

つかさ「信頼関係バッチリ、スムーズに仕事ができる。文句ないっしょ」

P「……」

つかさ「つーことで、これからもヨロシク。プロデューサー?」






終わり。

以上です。
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