魔法少女「我ら!リリカル戦隊マジカルンジャー!!!」 (26)

公園

「今日、俺の家でゲームしようぜー」

「やるやるー」

女幹部「クックックック……。見てみな。あの平和ボケしくさったガキどもの顔を」

部下「ええ。楽しい未来を見据えて、両目を輝かせていますね。ああいう目を見ると濁してやりたくなります」

手下「平和という生ぬるい風呂の中にいる腐った魚の目をしていますね」

女幹部「ああいう純粋無垢なガキがあたしはだいっきらいだよ。自分のことをかわいいと思いやがって。あたしの結婚願望が更に膨れ上がるってもんだ」

部下「姉御、どうするんです? 姉御の色香でメロメロにさせちゃうんですか?」

手下「ウヒョー!!! それなら俺から!! 俺から悪の恐怖を味合わせてくだせぇ!!」

女幹部「これ以上、あたしの結婚願望が肥大化しないよう、あのガキどもを攫って、あたしらの組織で将来幹部になれるよう大事に大事に育てるんだよ」

部下・手下「「御意!!」」

「待ちなさい!!!」

女幹部「誰だい!?」

魔法少女「――真っ赤に燃える熱き炎をこの胸に!!! マジカルレッド!!!」

魔法少女「我ら!! リリカル戦隊マジカルンジャー!!!」バーンッ!!!

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女幹部「……」

魔法少女「さぁ、こい!! 悪いヤツラめ!! マジカルンジャーが相手だ!!」

部下「姉御、なんか痛いガキがいますぜ」

手下「ぷふー。リリカル戦隊って言ってるのに、1人しかいないんですけどー。うけるー」

魔法少女「黙れ!! まだ私しかいないけれど、私の燃え盛る魂には五人分ぐらいの力が宿っている!!」

部下「なにそれ、怖い」

手下「子どもはさっさと帰りな。あまり大人の世界に首をつっこむと、火傷じゃ済まないぜ」

魔法少女「火傷するのは貴方たちのほうだ!! 私が得意とするのは火の魔法だからね」

部下「面白い!! 俺様からキャンキャンいわせてやるぜー!!」

魔法少女「来たな!! 私の魔法をくらえ!!」ゴォォォ

部下「こけおどしの魔法なんて俺様にきくかよぉー!!」

魔法少女「燃えろ鉄拳!! ファイヤーパーンチ!!!」ドゴォ!!!

部下「ぶげぇ!!」

手下「ひぇぇぇ……!! ほ、本物の魔法使いかよぉ……!!」

女幹部「まさか、このガキ、あたしらと同じ世界の住人か……」

「すげー。なんか始まったぞ」

「テレビの撮影かなぁ?」

「あの赤い女の子可愛いなぁ」

部下「ちょっとはやるみたいだな。油断したぜ」

魔法少女「諦めなさい。この真っ赤に燃える拳で灰と化してもいいの?」ドヤッ

手下「姉さん!! あのガキ、ちょー可愛いんですけど!! どうします!?」

女幹部「見た目に騙されるな。あいつはあたしらと同じ世界からやってきている」

部下「そんなバカな!!」

女幹部「そうとしか考えられないだろう。こちらの世界の人間に魔法なんて使えるわけないでしょう」

部下「そ、そうですけど……」

手下「まさか、俺たちを追ってきて……」

女幹部「それはない。あたしらのことを知ってるやつなんて、いないだろ」

部下「まだ結成して一週間ぐらいですもんね」

手下「宣伝もあまりできてないですしね」

魔法少女「そろそろトドメだ!!! みんな!! 力を合わせるんだ!!!」

部下「やべぇ!! あのガキの中でトドメのタイミングにはいったみたいですぜ!!」

女幹部「なんて勝手なやつだい」

手下「姉さん、ここは逃げましょう!!」

女幹部「そうだね。ちょいと癪だけど、ここは退くよ」

魔法少女「炎よ!! 水よ!! 雷よ!! 大地よ!! 風よ!! 光よ!!」

魔法少女「五人の力が今、一つになる!!! リリカル・マジカルバスター!!!」

ドォォォォン!!!

魔法少女「これが!! マジカルパワーだ!!!」バーンッ!!!!

「特撮モノかな」

「この新番組、朝やるのかな」

「深夜のローカル番組じゃないの?」

魔法少女「決まった。これで地球の平和は守られた」キリッ

部下「力は相当だけど、違う意味でヤバいな」

手下「黙ってアイドルでもしてればいいのに」

女幹部「マジカルレッドか。あいつとはもう出会いたくないね」

マジカルンジャー基地

魔法少女「ただいまー」

妹「お姉ちゃん、おかえりー!」

魔法少女「お母さんは?」

妹「いるよー。ごはんもできてるって」

魔法少女「そっか。食べるの待っててくれたの?」

妹「うんっ!」

魔法少女「そう。ありがとう」

妹「えへへ」

魔法少女「……お母さん」

母「おかえり。先ほど、貴女の魔力を感じたわ。魔法、使ったの?」

魔法少女「悪の臭いがしたからね」

母「……」

魔法少女「心配しないで。私の心にはいつも五人分ぐらいの魂が宿っているから」

母「ごめんなさい。私に治癒魔法が使えれば、貴女の苦しみも少しは和らげることができるのにね……うぅ……」

魔法少女「だけど、最近は悪の力が増幅しつつある気がするの。このままではこの緑の地球が穢されてしまう」

魔法少女「もっと力が……。力が欲しい……」

母「貴女、わかっている?」

魔法少女「なにが?」

母「私たちがこちらの世界にやってきた理由よ」

魔法少女「お父さんが浮気をしたからお母さんが……」

母「違うわ。魔法の世界で生きるのが嫌になったからよ。魔法による紛争が絶え間なく続く、あの暗黒世界に」

魔法少女「そうだったっけ」

母「そしてこの平和な世界へとやってきた。そうでしょう」

魔法少女「そうだったかな……」

母「なのにどうして、貴女は戦おうとするの?」

魔法少女「だって、平和な世界にも悪い人はいるもの」

母「どうして、五人だって言い張るの?」

魔法少女「この世界には必ず、悪と戦う3人~5人組の戦隊がいるから」

妹「お姉ちゃん、あの朝の番組好きだよね」

母「この世界には警察という組織がきちんといるのよ。貴女の出る幕はないわ」

魔法少女「あんな鉄砲持って、偉そうにしているだけの人たちに地球は守れないよ」

母「守るのは人命だけで十分なの」

魔法少女「だから、私は戦うの。五人の力で!!」

母「……」

妹「お姉ちゃん、かっこいい」

魔法少女「でしょ」

母「そもそもこの世界に魔法で解決しなきゃいけないことなんてないでしょう?」

魔法少女「そんなことないよ。今日だって悪の組織が――」

母「分かった。分かりました。では、こうします」

魔法少女「なに?」

母「貴女の魂に宿る五人を、ここに連れてきなさい」

魔法少女「連れてくるもなにも、私がいるだけで五人だよ」

母「貴女以外の仲間を連れてこない限り、魔法を使うことは禁じます」

魔法少女「そんな!! 無理だよ!! 私以外の四人は魂だけなのに!!」

母「いいから、連れてきなさい。それまでは絶対に魔法は使わせないから」

魔法少女「お母さん、酷い!! どうして地球を守らせてくれないの!? みんなの青い地球を闇に染めてもいいってこと!?」

母「この世界がそうなることはありません。仮にそうなるとしたら、自然と貴女の周りに頼もしい仲間がそろうと思うわ」

魔法少女「だから!! 仲間の魂は私に宿っているんだって!!」

母「いいえ。宿ってません」

魔法少女「どうしてそんな意地悪をするの!? 私はただ、この青い地球を守りたいだけなのに……!!」

母「貴女と共に戦ってくれるお友達を見つけなさい」

魔法少女「私の熱く燃える魂が、叫んでいる。四人が泣いていると。我々の力を信じてほしいと」

母「いいから、お友達を作りなさい。こちらに越してきて1年も経つのに貴女、友達を家に連れてきたことがないでしょう」

魔法少女「私が魔法使いだってバレると、この平和な世界は大混乱になるからね」

母「それどころか友達の話すら貴女の口から聞いたこともないわね。お母さんは心配なのよ」

魔法少女「心配なんてしないで。五人分ぐらいの力が合わされば、越えられない壁はないんだから」バーンッ

妹「おー」パチパチパチ

母「……魔法を封印します」

魔法少女「え……」

翌日

母「はい、いってらっしゃい」

少女「お母さん、今すぐに封印を解かないと、世界が滅亡してしまうかもしれないよ」

母「そう思うなら、封印を解く鍵となる五人の魂を連れてきなさい」

少女「くっ……!! なんたる仕打ち……!!」

妹「お姉ちゃん、がんばってねー」

少女「そうだ!! 私の妹こそ、水の使い、マジカルブルーよ!!」

妹「わーい」

母「違います」

少女「……」

母「遅刻するわよ。早く行きなさい」

少女「絶対に後悔することになるよ!!!」

母「あなたも遅刻しないようにね」

妹「はぁーい」

少女「こんな……!! こんな惨めな想いをすることになるなんて……!!」

学校

「おはよー」

「おっはよー。ねえねえ、昨日このあたりで特撮ドラマの撮影があったんだって」

「知ってる。あの3丁目の公園だよね」

「そうそう。結構派手なアクションとか爆発もあったんだってー」

少女「……」

少女(ふっ。暢気なものね。あれは本物の戦闘だったことにすら、みんなは気づいていない)

少女(地球滅亡の危機はすぐ傍まで迫っているというのに……)

「ねえねえ、またなんかブツブツいってない?」

「いつもああだよね」

「なんか、怖いよね」

少女(こうしている間にも悪の魔の手は着実に伸びてきている。こんなところで椅子に座って外を眺めることしかできない自分が憎い……そして、お母さんも憎い……)

少女(これから、私はどうしたら……)

「話しかけてみたら?」

「むりむり。というか、無視されるし」

委員長「ちょっといいかな?」

少女「……」

委員長「これ、書いてくれる? 出席番号順で書いていくことになっているから」

少女「え……?」

委員長「席替えの希望よ。前がいいのか、後ろがいいのか。具体的に前から何列目とか書いてくれてもいいけど、同じ席はダメだよ」

少女「……」

委員長「あと希望が重なったらくじ引きになるから」

少女「……どこでも、いいです」

委員長「そう。なら、私が勝手に書いちゃうけど、いい?」

少女「はい……」

委員長「わかった。それじゃ」

少女「……」

少女(魔法使いだと気づかれないようにするのも、一苦労ね)

少女(いや、今はただの人間なんだっけ。早く、鍵を見つけないと)

少女「鍵は……鍵はどこに……」

昼休み 図書室

少女「……」

少女(今日はどの書物を読もうかな)

少女(私たちの世界に似ているケルト神話を――)

図書委員「あ……」

少女「……」

図書委員「あ、あの、その本、貸し出しはできないんですけども」

少女「こ、ここで、読むだけですから……」

図書委員「あ、あ、そうですか。すみません」

少女「……」

図書委員「すみません」

少女「いえ」

図書委員「うぅ……」

少女「……」

少女(毎日のように顔を見るあの子にだって私が魔法使いであることはバレていない。完璧だ)

放課後

少女(今日も無事に乗り切った。魔法使いであることを誰にも悟られることはなかった)

少女(けど、今の私はただの人間。皮肉ね。こんな形で心配の種が一つ消えてしまうなんて)

少女(私の1年間はなんだったんだろう)

少女「……かえろ」

委員長「ちょっと、ちょっと」

少女「……」

委員長「ええと、席替えの件なんだけど」

少女「……」

委員長「貴女は私の隣になったから。これから1ヶ月ぐらい、よろしくね」

少女「……あ、はい」

委員長「バイバイっ」

少女「さよなら」

少女「……」

少女(何故、私に接近してきたの……。まさか、私の正体に……。いや、まさか……。でも彼女は教室の長……。注意しておかないと……)

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