【ミリマス×ジョジョ】横山奈緒と徳川まつり【2スレ目】 (268)

これはアイドルマスターミリオンライブとジョジョの奇妙な冒険の二次創作です

アイドルがスタンドでなんやかんやします

好きなアイドルの傷付く描写何かが無理な人はブラウザバックオススメ

小鳥さんが好きな人もバックオススメ

(o・∇・o)


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次は1~2週間後
(o・∇・o)

少なめだけど投下だヨー!(o・∇・o)

友達の友達が行けなくなったらしく、10thに無事行けることになりました
初ライブなのでコールとか覚えなきゃですよね
タノシミ-

通学時間が減ったので、考える時間激減なのです
これからは分量が減っとくと思います。すみません



エレナ「戦うしか無いんだネ…」


千鶴「まぁ、私としては負けてもらった方がやり易くってよ」


風花「…………」


ドドド


エレナ(ワタシは今、部屋の入り口にいる…ベッドは一つ、パパンとママンはそこで寝てるヨ…)


エレナ(ワタシとベッドまでは…三メートル位カナ? それで、ベッドの前にはチヅルとフウカが居る…)


エレナ(ベッドの横のテーブルと、その上にあるランプ…ナニカ使える物は…)


エレナ「フゥ~~…」トットッ


エレナは息を吐きながら、小さなジャンプを繰り返して構える。


千鶴「…私は、エレナのスタンドを知っていますわ」


エレナ「!」トットッ


千鶴「しかし、私のスタンドをエレナは知りません…これは少し、フェアではありませんね?」


風花「そうね、教えてあげてもいいかな?」


エレナ(ウー…相手のペースに乗せられたら駄目だヨ…でも、これはチャンス!)


エレナ「なら…」トットッ


千鶴「ただし! 質問は一つ…私か、風花か、どちらかを選んで下さいまし」




ドドド


エレナ「っ…」


風花「エレナちゃん、気楽に選びましょう? 負けちゃっても、死ぬ訳じゃあないわ」


エレナ「…………質問は、一つ…だったネ」


千鶴「あら、もう決まりましたの?」


エレナ「ウン、ワタシはね…『ワタシに勝てると思った理由』を知りたいヨ」


風花「!」


ゴゴゴ


千鶴「…私の能力なら、エレナに傷を付けられることはありませんわ」


風花「そして、エレナちゃんを私のスタンドで『縛れ』ば、もう身動きはとれない…」


エレナ「フンフン…そうだったんだネ!」


エレナ(チョット曖昧だったけど、何とかなるカナ?)


千鶴「…なかなか、頭が回りますわね」


風花「一本取られちゃったわね」


エレナ「そろそろいいカナ? ワタシの準備はもうトックニ終わってるヨ!」トットッ


ゲシィ!


千鶴「!?」ガク


風花「きゃッ!?」ガク


突然、千鶴と風花は膝裏に蹴りを入れられ、転倒する。




千鶴「まだ、新手が…………ッ!」


エレナ「パパンに協力してもらったんだヨ♪」


風花「スタンド能力で操ったの!?」


縛られていた筈のエレナの父親が、並んで立っていた二人の膝裏に蹴りを入れたのだ。


かといって、エレナの父親の意識が戻ったわけでは無い。


エレナ「ワタシの『伝える』能力なら、寝ているパパンを操る位カンタンだヨ!」


ドシュゥ~


風花「!」


千鶴「今度は跳びましたわッ! 風花!」


寝た状態から飛び上がったパパンが、風花の上に覆い被さるようにのし掛かる。


風花「きゃあ!」


風花が両手を上にかざすと、両手がヒモのようになって『解け』た。


風花の両手が『解け』ると、風花に重なるようにして現れたスタンドから白い包帯が飛び出して、パパンに絡み付き静止する。


風花「あ、危なかった~」


風花がパパンに気を取られ、千鶴が立ち上がろうとする間に、エレナはベッド横の小さなテーブルに素早く駆け寄る。




エレナ「まずはイッポン!」


エレナはテーブル上のスタンド型ライトを掴みながら空中で一回転、ベッドの上に着地するとライトのコードを千切って本体を千鶴に投げつける。


エレナ「とりゃ!」


千鶴「わざわざ避けるまでもありませんわ」


千鶴の腹部に衝突したライトは豆腐のように簡単に崩れ、服を裂くこともなく破片を散らす。


風花「大丈夫ですか?」


千鶴「ええ、問題なくってよ風花」


エレナ「ッ…」


千鶴「さて、振り出しに戻ったみたいですが…」


エレナ「振り出し? それは違うヨ」


エレナは千切れたコードを手に持っていた。


バチッバチバチ


エレナ「ワタシとチヅルの間には、フウカが居るヨ」


千鶴「はっ!」


千鶴の足元には、ライトに付いていたコードの一部が転がっていた。


千鶴「電気を『伝える』気ですわッ!風花!」


風花「大丈夫ですよ、『アンダーオレンジ』は既に発現していますからッ!」




エレナ「!?」


風花から伸びたスタンドの包帯は、エレナの持つコードを切断して更に縛っていた。


ドドド


風花「エレナちゃん、そんなに危険な物を人に向けたら駄目でしょ?」


エレナ「ッ!」ゾゾゾ


千鶴「さて、では私達の反撃といかせて貰いますわよ」


千鶴「『ラブマスカレード』」ドン


千鶴が見せたスタンドは、煌びやかな宝石や高価そうぬ貴金属を全身に埋め込んだ姿をしていた。


エレナ「これが…『ラブマスカレード』…!」


千鶴「おーっほっほっほ!私のスタンドを恐れて逃げ出さない事ですわ!」


エレナ「そうカナ? 逃げなきゃいけないのはチヅル達だと思うヨ」


風花「!!」


エレナのスタンドは、ベッド脇のコンセントに手を伸ばしていた。


エレナ「『ハートカルナバル』」


エレナ「電気を『伝える』ヨ」


シィーン


風花「…………」


千鶴「…………」


エレナ「…………?」


千鶴「…能力は発動しなかったみたいですわ」


エレナ「な、なんでッ!?」


風花「そんなに『危ない』ものは、私が縛っちゃいました」


エレナ「!?」


スタンドの包帯は既に、コンセントの中にある電線を引きちぎって、縛り上げていた。


風花「繋がらなかったら電気は流れない…」




ドドドド


エレナ「う、あ…」


千鶴「さて、お逃げなさい」


エレナ「うわぁぁぁぁああああ!」


千鶴「私が追いかけますわよッ」


ブォッ!


千鶴のスタンドがエレナの眼前に迫る。


エレナ「は、はやい!」


千鶴『はっ!』


エレナ「えいッ!!」


エレナは咄嗟にベッドシートを引っ張りあげ、自分の姿を隠す。


千鶴「無駄ですわ、部屋の光であなたの影が出来てますのよ!」


ドゴォ!!


エレナ「イタイッ!」


千鶴のパンチはエレナの左腕に当たり、エレナは入り口とは反対方向に飛んでいって壁にぶつかる。


エレナ「う、うぅ…」


風花「エレナちゃん、もう諦めて――?」


エレナは吹き飛ばされたが、笑っていた。


エレナ「ワタシに、攻撃したネ?」ニヤリ




ドドドド


千鶴「まだ何かありますの?無駄な悪あがきを…」


エレナ「…もう、遅いヨ」


千鶴「さっさと止めを…」グッ


風花「ま、待って、千鶴ちゃん! 様子がおかしいわ!」


エレナ「確かに、『伝えた』ヨ」


ビキィ!


千鶴「う、ぐ…あ…ああ!」


風花「な、なんで…左腕が、痛いッ…」


千鶴と風花が、エレナと同じく左腕を抱える。


ドドドド


エレナ「『痛み』を伝えたヨ…ワタシに攻撃したらそっちもダメージを食らったみたいになっちゃうヨ」


エレナ「二人はもう『ハートカルナバル』と痛みを共有してるんだヨ」




本当は一回の投稿で終わらせる予定だったんです
多分一番頭を使って書きました

おしり(o・∇・o)





エレナ「『ハートカルナバル』で、痛みを共有したヨッ!」


千鶴「く、こうなったら…一撃で…!」


身を乗り出す千鶴を風花が宥める。


風花「ま、待って下さい…私達はエレナちゃんの能力を詳しく知りません…」ヒソヒソ


風花「迂闊に手を出すと私達が『負け』てしまいます…!」ヒソヒソ


千鶴「…私達の目的は『マスターピース』の移植、エレナの精神に『敗北』を味わわせなければなりませんわ」ヒソヒソ


千鶴「確かに、慎重にいった方がいいですわね」ヒソヒソ


ゴゴゴ


エレナ「どうしたノ? 早く掛かって来なヨー」


千鶴(もしも『気絶』を伝える、なんて事をされてはたまりませんわ。エレナの射程外からエレナを倒す方法を…)


シュルシュル…


千鶴「!」


風花のスタンドから包帯が伸び、ベッド下からエレナに接近する。




千鶴「何をやっていますの!?」ヒソヒソ


風花「と、止められないんです!『アンダーオレンジ』の『危険を縛る』能力は発動したら自動なんです!」ヒソヒソ


『アンダーオレンジ』の縛っているものはパパンと電線位だが、エレナの『痛み』を伝える能力を『危険』だと判断した風花のスタンドはその触肢を伸ばす。


千鶴「ど、どうしてもっと早くそれを言わないんですの!?」ヒソヒソ


風花「だ、だってぇ~!」ヒソヒソ


そんなことを話している間にも、エレナに向かって『アンダーオレンジ』の包帯は迫っている。


エレナ「ッ!」


エレナはベッド下から迫ってきていた『アンダーオレンジ』に気が付いて避けようとするも、敢え無く捕まってしまう。


エレナ「うっ、ぐぐ…」


風花「あれ? 普通に縛れ…」


千鶴「そんな訳ありませんわよ! 既に私達も『縛られ』ていますわッ!」グググ


風花「え? え? なんで私がぁ~!」グググ


『アンダーオレンジ』で縛られたエレナ同様、千鶴と風花の体が『自分から』締め上げられる。


風花「か、体が勝手に…『凹んで』いるッ…!? しかも、『アンダーオレンジ』の巻き付いている場所が!」


千鶴「一体、何を『伝え』ればこんな事がッ…!」


エレナ(アレ? 二人とも、ワタシの能力を知ってるんじゃなかったのカナ…? それならそれで、やり易いケド)


三人の体勢は全く同じになり、動けなくなる。




千鶴「ふ、風花! 早く能力を解除して下さいまし!」


風花「は、はい!わかりま――


――『伝え』る能力は電気的なものダケ、明かりから攻撃を――


――え?」


風花(明かり…? 明かりは私達の真上にある、そこからエレナちゃんが? だとしたら、あぶな――)


シュルシュルシュル!!


千鶴「な、何をしていますの!?」


風花「え、い、今…エレナちゃんの声が!」


エレナ「フフン♪」


『アンダーオレンジ』から伸びた何本もの包帯が明かりに近付き、電線ごと天井から引き剥がしてまとめあげる。


千鶴「声? 私には何も…はっ!」


千鶴(エレナは『伝え』る能力で明かりを壊させた…? さっきはコードから電気を…もしかしたら、『電気』がエレナを倒す鍵だった…?)


『アンダーオレンジ』がコードを引きちぎった為、部屋の明かりは消えて、廊下から差し込む光を除くと真っ暗になる。


エレナ(来たヨ! 絶好のチャンス到来~♪)


風花「あえ!? きゅ、急に真っ暗になりましたよ!?」


千鶴「うろえるんじゃあありませんッ! セレブはうろえない!」


風花達の後ろには光がある、しかし、その光は部屋の奥を照らす事は無く、エレナの姿は闇に潜んだままだ。




千鶴(エレナは、私達があくまでもエレナを『敗北』させる為に戦っていることを分かっているのでは…?)


千鶴(エレナと同時に気絶させられてしまっては、私達の目的は果たされない…エレナは試合に負けても、勝負に勝ってしまいますわ)


千鶴(エレナは自分の不利を逆手にとって有利に事を進めている…)


ドドドド


千鶴「…………」


風花「ど、どうするんですかー!」


風花は動けないのは不味いと判断して能力を解除し、追撃を恐れ、光のある廊下に出ようとする。


千鶴「…問題なくってよ」


千鶴「『セレブ』の戦いは、打ち負かすのではなく魅せるものよ」


風花「え、『セレブ』…ですか?」


千鶴「おーっほっほっほっゲホッゲホッ…」


エレナ「…………」


千鶴「コホン、気を取り直して…」


千鶴「心を砕きますわよ、風花!」


風花「そんなに簡単に言わないで下さいよ~!」


ドドドド


エレナ(…拘束が解けた今、行くしか無いよネ?)


エレナ(チヅル達はワタシにガンガン攻撃しようとは思ってないのカナ?『ラブマスカレード』なら能力が無くても、ワタシの『ハートカルナバル』くらい押し切れるノニ…)


エレナ(考えられるのは、ワタシを傷つけずに操る…トカ? それなら、シズカとロコも誰かに操られて…)


千鶴「エレナ!」


エレナ「!」


千鶴「私から、あなたの姿は見えませんわ」


風花「…………」


千鶴はエレナを探して、部屋の暗闇に潜る。


千鶴「さあ、攻撃してご覧なさい。私はあなたの様に逃げませんわ」




ドドドド


エレナ(誘ってるネ…迂闊に突っ込めばやられちゃうヨ)


エレナ(『迂闊に』突っ込めば…ネ)


ダッ


千鶴(む、ベッド奥の床を踏む音…次の足音が無いならッ)


千鶴「ベッドを飛び越えるッ!」


エレナ「ヤァァァァアアアアッ!!」


千鶴「捉えましたわ!」


エレナ「ワタシは『上』カナ?『下』カナ?」


千鶴「くっ…これは!?」


エレナ「ワタシの『視界』を伝えたヨ、見えるものが二倍になった気分はドウ?」


千鶴の脳は二つの視界を映し、千鶴は目を回して平衡感覚を失い転倒する。


千鶴「よくもこんな手を思い付きますわね!」


エレナ「どりゃあッ!」


『ハートカルナバル』の拳が転倒した千鶴を捉える。


ガキン!!


エレナ「!!」


千鶴「もっとも、小手先の技術で私は倒せませんが」


攻撃は服に皺を作ることもなく止まった。


エレナ「ウ、か…硬い!」


千鶴「おーっほっほっほッ! エレナでは私には勝てませんわ…よッ!」バッ


エレナ「ッ」


千鶴はエレナをはね除けて立ち上がる。


はね除けられたエレナは再び部屋の奥に潜み、姿を隠す。




千鶴「あら、隠れても無駄ですわ」


千鶴「私はただ歩くだけ、無敵の装甲で身を包む私を倒すには『電気』や『水』の様な形の無いものでなくてはなりませんわ」


エレナ(ウッ…一応、ワタシに効くかもしれない『電気』を潰したケド…逆にそれがワタシを追い詰めたなんて…)


エレナ(お水は廊下の先の台所だし…ってアレ? 風花がいない…?)


千鶴(エレナは勝てないと言ったものの、私も勝つのは難しい…『気絶』させる前にエレナに『敗北』を味わわせる…)


千鶴(私達は『勝ち』か『負け』、エレナには『引き分け』という名の勝ち逃げの方法がある…)


千鶴(はぁ、まったく…厄介ですわね)


トットットッ


風花「千鶴ちゃん、ライト持ってきたよ」


千鶴「あら、ありがとう。ついでに奥を照らしてもらえます?」


エレナ(…居場所がバレても、千鶴には何も出来ないヨ…でも、ワタシに出来ることも何も無い…ここは一か八かやってみるヨ!)


ピカッ!


エレナ「眩しいッ!」


エレナの目が一時的に見えなくなると、二人の視界も闇に包まれる。


風花「あうっ…さっきのエレナちゃんの発言から考えると…やっぱり…」


千鶴「め、目が! 風花!知ってることがあればいってくださいまし!」


エレナ(ッ…一時しのぎでも、ホントウの事を言うのは軽率だったネ…)


風花「私達の目が見えないなら、エレナちゃんの目も見えないはずです!」


風花「エレナちゃんの能力は


――サンバを踊って――


サンバを踊って…え?」


千鶴「ふ、風花!? サンバとエレナの能力に一体どんな関係が!?」




風花「ち、違うんです!エレナちゃんの


――サンバ楽しい――


サンバ楽し…ええっ!?なんで~!」


エレナ(フフフ、上手くいったみたいダネ~♪ フウカはコロッといって、操りやすいナ~)


千鶴「これは…エレナの仕業ですわね!」


エレナ「エヘン、もう目も見えるようになったし、フウカにはこれ以上喋らせないヨ!」


千鶴「くっ…迂闊な攻撃では『負け』てしまいますわ…」


風花「八方塞がりですね…」


エレナ(ンン? もしかしてワタシの方が優性? それなら、二人ともやっぱり何か『目的』があるみたい…見えないアドバンテージがあったんだネ)


エレナ(覚悟を決めて、ガンガン行くヨッ!)


ビビビッ!


千鶴「これは…視界の転送ッ!来ますわよ!」


風花「こ、こんな狂った視界じゃあ動けませんよォ~!」


風花はその場に座り込み、千鶴はエレナを目で捉える。


エレナ「ウー!」


千鶴「来てみなさいッ!」


千鶴(自分の視界よりエレナの視界に集中して、『防御』に徹するッ!)


エレナの『ハートカルナバル』が千鶴の肩にパンチを叩き込もうとするが、千鶴は何もせずに棒立ちのままでいる。


千鶴(『防御』し続ければ、エレナは「勝てない」と思うッ…そこが勝機!私達の勝利条件!)


千鶴「無駄ですわよォォォォ!!」


エレナ「それが、違うんだネ」ニヤリ


『ハートカルナバル』の拳は千鶴の目の前を空振り、回し蹴りが横っ面を捉える。


千鶴「ゲブゥ――!」


風花「千鶴ちゃん!」


エレナ「やっぱり、チヅルの能力は『物』しか硬くしたり脆くしたり出来ないんだネ」




ドシャア


風花「だ、大丈夫!?」


風花が地面に倒れた千鶴の側に駆け寄り、その身を案じる。


千鶴「ぐ…それを、見抜いて何になるというのですかッ…スタンドの性能は圧倒的に…」


エレナ「『ソコ』じゃないよネ? チヅルとフウカが気にしていることハ」


千鶴「…………」


風花「…………」


ドドドド


エレナ「タブン、二人はワタシを精神的に負かしたいんだよネ。でも、それは出来ない…」


エレナ(どうして出来ないかは知らないケド)


エレナ「ワタシは及び腰の二人に負けても、チットモ悔しくないヨー!ベー!」


風花「…………」


千鶴「…………はぁ」


エレナ「分かるよネ?」


千鶴「私は、エレナが余計に傷付くからやりたくなかったのですが…」


風花「…本気ですか?」


ゴゴゴ


千鶴「風花、一応離れてくださいまし。『及び腰』でないなら、心を折れると自分で宣言しましたもの…ネェ?」


エレナ「!!」ビク


エレナ(変わったッ…普段大人しい人が急に『プッツン』したみたいに…!)


千鶴「風花は防御のスタンド。攻撃は私に任せて、後処理の準備をお願いしますわ」


風花「じゃ、じゃあ…怪我だけはしないようにね?」


風花は千鶴の側から離れ、電話を掛けながら外に出る。




ゴゴゴゴ


エレナ「…攻められるノ? さっきまでずっと何かを気にかけてたノニ?」


千鶴「勘違いしないで下さいます? 私がエレナを攻撃したくなかったのは、こちら側に傷を癒すスタンド使いがいなかったからですわ」


千鶴「…いえ、今考えてみればわざわざ傷を治す必要なんてありませんわね」


エレナ「…?」


ドドドド


千鶴「今のエレナには関係の無いことですわ」


エレナ「…………」


エレナ(チヅルは絶対に容赦しないヨ…あの目は絶対に『やる』っていう目だネ)


エレナ(チヅル達の中にあった『精神』のスイッチが完全に切り替わったッ…)


千鶴「ああ、それと…何となくですが、エレナの能力が分かってきましたわ」


エレナ「ッ…」ゴクリ


エレナ(マズイネ…能力のタネがばれちゃったら、今までみたいに簡単に攻撃できないヨ…少なくとも、チヅルの射程距離の外に行かないとネ…)


エレナはジリジリと後退しながら、千鶴の言葉に耳を傾ける。


千鶴「風花にだけ伝わる『テレパシー』、痛みの共有、電気の放出…これだけのヒントが揃えば十分ですわね」


千鶴「エレナの能力は…『電気』、またはそれに準ずるものしか『伝え』られない…」


千鶴「当たってますね?」ニコ


エレナ「ッ!」バッ


ガン


エレナは動揺して後ろに飛び退こうとするが、真後ろにあるベッドに当たってしまう。


エレナ「う、ウソ!?」


千鶴「どこへ行くつもりですの?」


千鶴「近距離型のスタンドの『目の前』から、そう易々と逃げ仰せる事が出来ると?」


ガシ!!


『ラブマスカレード』がエレナの足首を掴む。




ドンッ!


エレナ「がはッ…うえ゙っぐ…」


ビビビッ!


叩き付けられた『痛み』を千鶴に送る。


千鶴「…思ってたよりも、痛くは無いわね」


エレナ「そ…んな、なんで…っ…」


千鶴「叩きつける…その行為は頭への衝撃と、酸素の強制的な排出が脅威ですわ」


千鶴「頭の感覚がマヒしたエレナの『痛み』は大したことありませんわ。私も少し気持ち悪いですが、あなた程ではありませんの」


千鶴「まぁもっとも、別のものを送ればその限りではありませんが」


エレナ「はぁはぁっ…はぁはぁ…はぁーっ…」


千鶴「エレナ、あなたは私を見くびりすぎた。そして何よりも、『中途半端』ですわ」


エレナ「はぁはぁ…チュート…ハンパ?」


千鶴「『黒幕』に勝てないからプロデューサーに頼り、『黒幕』が恐ろしいから逃げ回り、結局何がしたいんですの?」


エレナ「ッ!」


千鶴「殴り合いが得意ではないと、薄々気付いていましたが…」


千鶴「それなのに前に出て攻撃をする。どうしてですの? 私にはまるで『自分は戦える』と自分に言い聞かせるようにしか…」


エレナ「ち、チガウ! そんなことナイ!」


千鶴「あら? あらあらあらあらァ~~エレナ、嘘はよくありませんわ」


千鶴「プロデューサーだって、あなた達の介入がもう少し早ければ助かりましたのよ?」


千鶴「端でボーッと突っ立ってたあなた達が、後悔するのも無理はありませんわ」


エレナ「だ、だって、だって…」


千鶴「だから弱いんですの、だから勝てないの。分かります?」


エレナ「わ、ワタシ…は…」


千鶴「いい加減…」


千鶴はエレナを掴む手を高くあげ、再び降り下ろした。




千鶴「認めなさいッ!」ブン!


エレナ「へぐッ!」


千鶴「エレナは弱いッ!  だから、今、私にッ、手も足も出ない!」


千鶴はエレナの上にまたがり、顔を避け、手加減しながら殴り続ける。


ブン! ブンッ!


エレナ「ひぅ!い゙たい!」


千鶴「弱いとッ、言いなさい!」


ドン! ボフッ!


エレナ「やめ、やめテッ…チヅル!」


千鶴「わたしはッ! 弱いと!」


ドゴッ!


エレナは細い腕で頭を抱え、背中を丸めて小動物のように震える。


エレナ「イたいヨっ…コトハ…メグミっ…!」


千鶴「言えぇぇぇええええ!!」


風花「千鶴ちゃん!」


ピタ


入り口の前に立つ風花が、千鶴を制止する。


千鶴「風花」


エレナ「たすけて…フウカっ…」


エレナは風花に手を伸ばし、母を求める子のようにもがく。





風花「千鶴ちゃん…」


風花がエレナの側に寄り、顔に手を当てる。


エレナ「ワタシっ…モウ、たたかいたくないヨ…」


風花「うん」


エレナ「イタイのも、コワイのもイヤだヨ…」


風花「…そうね」


千鶴「…………」


風花「千鶴ちゃん…」


風花「これくらいでいいわね」


エレナ「…え?」


千鶴「そのようですわ」


風花「ちょうどいい感じかな?」


エレナ「あ…う、あ…」


風花「これが一番早い方法ね」


千鶴「順番に取り返せばいいだけですわ、そのうち莉緒も『戻り』ますし」


エレナ「二人、とも…なんで、こんなに変わっちゃったノ…?」


千鶴「変わってなどいませんわ」


風花「心の底から沸き上がる『闘志』に従ってるだけなの」


エレナ「ウソだよ…フウカはそんなこといわないッ!シズカも、ロコも、みんなおかしいヨ!」


風花「まだ、最後の一押しが必要ね」


千鶴「…エレナ、琴葉も恵美も『こちら』に居ますのよ? 何を今さら」


エレナ「ウソ…ウソウソウソウソ! そんなはずないっ! だって…コトハもメグミも!」


千鶴「では、スタンド能力を教えましょう。直接本人にでも聞けばいいのでは?」




スタンド能力は人にむやみやたらと見せびらかすものではない、ならばそのスタンド能力を知っているということは並々ならぬ関係であることの証明となり得るのだ。


風花「…琴葉ちゃんも恵美ちゃんも、もう『こっち』じゃありませんよ」ヒソヒソ


千鶴「どうせ、エレナは知りませんわ」ヒソヒソ


エレナ「はぁっ…はぁっ…」フルフル


エレナは傷付いた手で携帯を持ち、恵美に電話を掛けた。


千鶴「…恵美の能力は『擬態する』能力よ」


エレナ「…大丈夫…恵美は…オカシクなんてないヨ……あり得ないヨ…」


数コールもしない内に、恵美が電話に出る。


『エレナ~、こんな夜遅くに電話なんて――』


エレナ「メグミの、スタンド能力は…」


『え? ちょっとナニナニ!? 突然どうしたの!?』


エレナ「『擬態』する能力ナノ…?」


『…………』


エレナ「答えて…お願いッ…」


『…あのさ、友達なんだし相談くらい乗るよ?』


エレナ「いいから答えてッ!!」


携帯を持つ手が震え、背筋を脂汗と冷や汗が流れ落ちる。


『そうだよ、『擬態する』能力だよ』


エレナ「うあ…」


エレナの手から携帯がこぼれ落ちる。


ゴトリ


『エレナ…? 大丈夫!? エレナ! エレ――』


千鶴は携帯を拾うと、すぐに通話を止めた。


エレナ「――――」


風花「あ、気絶してる…」




千鶴「これで、『勝ち』ですわね。早く『マスターピース』を埋めて洗脳しましょう」


千鶴がエレナに顔を近付けると、千鶴の『精神』から二体の『マスターピース』が顔を出す。


MS『ココマデヤレバ、入リヤスイナ』


千鶴「つべこべ言わず、入ってくださる?」


MS『ウルセー』


二体の内の一体が千鶴の『精神』から飛び出し、エレナに取り憑く。


千鶴は他人を洗脳する『マスターピース』が自分の精神の中から飛び出してこようが、気にしない。


例え事実を知っていても、気にかけることは出来ないのだ。


千鶴が自らの矛盾に気づくこともなく、『マスターピース』の侵入は完了した。


敗北し、最後の砦を突き崩されたエレナの精神には『マスターピース』の根が深くまで伸び、意思を、感情を、記憶を捻じ曲げてしまう。


風花「あ、家の修理はやってくれるみたいだから、エレナちゃんは連れていって途中で起こしましょ」


千鶴「はぁ…やってくれませんの?」


風花「はいはい、車の運転位ならしますよ」


千鶴「肩が凝って凝って…こんな時は熱いお風呂に肩まで…………いえいえ! 私専属のマッサージ師に肩叩きを頼もうかしら、おーっほっほっげぼっごほ…」


風花「ああああ! 大丈夫ですか?」


・・
・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・






恵美「~♪」


恵美がスマホで友達との会話をしていると、急に電話が掛かってくる。


恵美「…エレナじゃん。こんな夜遅くに…って、アタシも人の事言えないか」


ピッ


恵美「エレナ~、こんな夜遅くに電話なんて――」


どうしたの、と言いかけて固まる。


『メグミの、スタンド能力は…』


恵美「え!?」


恵美は困惑した。


突然スタンドの話をフラれたこともあるが、それよりも断然驚く話を聞かされたからだ。


――助けて――


――チヅルとフウカに襲われてるノ!――


恵美「ちょっとナニナニ!? 突然どうしたの!?」


恵美(襲われてる…? でも、なんでわざわざ『テレパシー』と電話を同時にかけるのさ…)


『『擬態』する能力ナノ…?』


恵美(…ほんっと、意味わかんない)


恵美はそのまま黙ってしまう。


エレナのことがよく分からないのだ。


聞きたいことを口で言って、言いたいことを一方的にテレパシーのようなもので伝えるエレナの状況が。


『答えて…お願いッ…』


すがるようなエレナの声と、頭によぎった違和感が恵美の不安を掻き立てる。


エレナも自分と同じように『マスターピース』に取り憑かれてしまったのではないか、昴やこのみの様に脅されてるのではないか、恵美は気になって仕方がない。


恵美「…あのさ、友達なんだし相談くらい乗るよ?」


エレナ『いいから答えてッ!!』


恵美「ッ…」


エレナがこんなに取り乱すのは珍しい、というよりも有り得ない。


友達思いの人間が、相手の意思を無視して意見を通すなどおかしいのだ。


恵美(…襲われてる、って事は会話を聞かれてる可能性があるね。エレナが私の能力を知りたがってるなら、教えた方が…いいかもね)



恵美「そうだよ、『擬態』する能力だよ」


『うあ…』


エレナの小さな呻きの後、ガチャンという大きな落下音がする。


恵美「エレナ…?」


恵美の体は自然と震えていた、言い知れぬ不安が付き纏い呼吸が乱れる。


恵美「大丈夫!? エレナ! エレナァ!」


恵美がどれ程エレナを思おうと、通話は途切れる。


ツー、ツーという機械音だけが耳に残っていた。


恵美「はぁ…はぁっ…エレナが、危ないッ…!」


恵美は急いで琴葉に電話を掛ける。


プルルル


プルルル…


恵美「早くッ…早く出てよ…!」


差し迫ったエレナの危機に自分がしてやれることは無いに等しい、戦える琴葉がいなければならない、恵美は強く唇を噛む。


ガチャ


恵美「!」


『…何?』


恵美「エレナが!」


『ん?』


恵美「エレナが危ない!」





・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・・
・・



翌日


奈緒の家


朝6:00






チュンチュン


まつり「…………」ムクリ


まつりは眠りからさめ、隣にいる奈緒を起こさないようにベッドを降りた。


顔を洗い、髪を整え、目をしっかりと覚ますと、寝室からベランダに出て朝日を浴びる。


まつり(奈緒ちゃんが来て二週間と一日目…)


まつり(まつり知らないところで、事態は急変しているのですね)




眩しい日差しを浴び続け、まつりはほんのりと汗ばむ。


まつり(何もかもが変わり始めているのです)


まつり(『スタンド使いは引かれ合う』と、誰かが言いました…まつりもそう思います)


まつり(このまま、何事もなければ…いいのですが…)


奈緒「んっ、んん~…?」


まつり「…………」


奈緒が起きた。


太陽光が奈緒に当たっていたらしく、眩しそうに眉間にシワを寄せ、暑そうにして布団を蹴飛ばす。


まつり「…奈緒ちゃん、起きてください」


奈緒「んー、起きてるー」


まつり「寝てます」


まつりに起こされると奈緒は寝足りないらしく、蹴飛ばした布団を手繰り寄せて包まってしまう。


まつり「ほ? 起きないなら、残りのたこ焼きはまつりが食べてしまうのですよー」


奈緒「…太るで」


まつり「…『フェスタ・イルミネーション』」


ドンッ!


奈緒「うわぁぁぁ――――――ッ!!」


奈緒は横になったまま垂直に飛び上がり、そのまま落下するとまつりにお姫様だっこされる。


スポッ


まつり「もう一度、言ってみやがれなのです」


奈緒「めー覚めたから許して!」


まつり「…暖めている間に顔を洗ってくるのです」


奈緒「どうもどうも」


奈緒はまつりの手から降りると、洗面所に向かう。




まつりは台所に立ち、冷蔵庫からたこ焼きの乗った皿を取りだして電子レンジに入れる。


加熱している間にミキサーを取り出して、リンゴやバナナ等の果物、そして牛乳とヨーグルトを取り出す。


まつり「奈緒ちゃーん、ここにある果物使いますよー!」


奈緒「ほーい」


奈緒が顔を洗っている間に、まつりは手早く材料をミキサーに放り込んでジュースを作る。


ガゴゴゴゴ


まつり「♪」


完成したジュースを二つのコップに注ぎ、奈緒が来るのを待つ。


カポ


コポポポポ…


奈緒「ふぃー…スッキリしたー」


まつり「はい、ジュースですよ」


奈緒「何これ? ドロッとしてるけど…」


まつり「ミックスジュースなのです」


奈緒「…………」スンスン


奈緒「…………」チビチビ


奈緒「…おいしいやん」


まつり「当たり前なのです」


顔を見合わせると、二人は一気にミックスジュースを飲み干す。


グググー


ダン


奈緒「たこ焼きは?」


まつり「まだです」


「良い匂いがしたが、まだなのか」


奈緒「!?」


まつり「誰ですッ!!」




ドドド


突如現れた男に、二人は意識を傾ける。


「この『匂い』はたこ焼きの『味』がする…」


奈緒「ッ…」ゴクリ


「そう、『匂い』には『味』がある…そう思わないか?」


奈緒「誰やッ!」


まつり「…………」


ドドドド


「会話を楽しめよ、がっかりだ。でも俺は楽しむから答えよう」


「見たら分かる、そういう格好だ」


奈緒「見たら…分かるゥ~?何処を見たら…!!」


まつり「SPW財団…」


「そう、世界に誇るSPWさ」


奈緒「何の用や、女の子の部屋に侵入するような変態は、警察につき出すで」


財団職員「はぁ…やれやれ面倒だ」


まつり「…………」


ゴゴゴ


財団職員「こっちは仕事で来てるんだ。しびれを切らした奴がどうやってでも、って言うからね」




奈緒「はぁ!? もしかして『黒幕』の仲間か!」


財団職員「くろまく? くろまくってあの黒幕? そんな名前の奴はいないよ」


奈緒「だったら…」


財団職員「徳川まつりさん」


まつり「…………」


まつりは眼だけを動かして自称財団職員を見る。


「『渡し』てもらうよ」


まつり「いやです」


奈緒「…何の話や」


まつり「関係無いのです」


奈緒「あるやろ! 人の家入って来とんのやぞ!」


まつり「無いのです」


奈緒「ある」


まつり「ない」


奈緒「絶対ある」


まつり「絶対ないのです」


奈緒「あるあるあるあるあるあるあるある」


まつり「ないないないないないないないない」


財団職員「うるせェェェ――――ッ!」


奈緒「は?」
まつり「ほ?」


財団職員「こっちは何やっても良いって言われてんだヨォ~…そっちのガキが死んでも良いってんなら別だけどなァー!」


奈緒「は?舐めとんのか?」


まつり「下がって下さい、相手はプロフェッショナルなのです」


財団職員「『スタンド菌』の居場所は吐いてもらう、テメーらはぶっ殺した後でぶち犯す。俺って欲張りなのよォォォォ――――――オオオ!!」バッ


奈緒「『H・L・ジェットマシーン』!!」


まつり「『フェスタ・イルミネーション』!!」


財団職員「俺のス」



ポト


奈緒「消えた!?」


まつり「ッ!?」


財団職員は跡形もなく消える。


奈緒「何処や、何処に消えた!?」バッ


まつり「あっ…あ、ああああ!」


まつりは『跡』を指差す。


奈緒が指先を目で追うと、そこには一本の腕が落ちていた。


ドドドド


奈緒「な、なんや…何で、腕が…」


まつり「『削っ』たのですか!?」


奈緒「ち、違う! さすがに殺したりはせぇへん! もっと、こう…パッと消えた…まるでどこかの世界に引きずり込まれたような――」


バタン!


まつり「!!」


奈緒「扉の閉まる音や!」


二人は台所を飛び出し、玄関に向かう。


ドタドタドタ


バッ


奈緒「し、『閉まった』…ドアが『開いた』音なんてしなかったのに…」


まつり「誰が開けたのです…? あのスタンド使い以外の誰がッ…!」


「ほぎゃああああああああ!!!」


平和な朝を引き裂くような悲鳴が外から響く。


声は先程の男の者だ。


まつり「悲鳴…さっきの!」


奈緒「行くで!」


バン!


二人が外に出ると、生々しい血の跡が廊下の奥まで続き、曲がり角には財団職員がいた。




財団職員「たっ…助けてくれぇぇ…もう悪さはしねぇよ… ざっ、ざい団の事は何でもしゃべるしなんでもするからっ…だずげでぐれ!」


奈緒「なっ…あ、あれは!?」


まつり「無いッ…『腕』も、『足』も!」


ドドドドド


四肢の無くなった達磨は、そのまま角に引きずり込まれる。


「いやだぁっ…だずげ」


…………………………。





音が無くなる。


奈緒「はっ…はっ…はあッ…!」


まつり「…行くのですよ、『そこ』に居るのです」


奈緒「おかしい…常軌を逸してるッ!」


まつり「…何がですか」


奈緒「平然としてるまつりもおかしい…襲ってきたアイツもおかしいっ…でも、それ以上に、『そこ』にいる奴はもっとおかしいッ!!」


奈緒「『スタンド菌』ってなんや!? なんでそんなもん持ってんねん! アイツはなんや!なんでSPW財団が来るんやッ!何が起こった!一体これから何をするんやッ!!」


まつり「…………」


奈緒「はぁっ…はぁ…はあーっ…」


ゴゴゴ


まつり「…奈緒さんには、話していないことが沢山あるのです」


奈緒「…………」


まつり「後で、ね」


スタスタ


まつりは『曲がり角』の向こうに向かって歩き始める。


奈緒「待ちッ…死ぬ気か!」


奈緒には止められなかった。


友達を助けるために命を賭ける覚悟はした、しかし、これは別の恐怖。


奈緒は足が竦んだ。


まつり「…………」


スタスタ


奈緒「止まりぃや…姿も見えなかった相手をどうすんねんッ…!」


まつり「…………」


スタスタ


奈緒「待ちッ…待って…いかんといて!」


まつり「…………」


奈緒「私を置いてかないでェェェ!」


バッ


まつり「…………!」


まつりは『曲がり角』の向こうに辿り着いた。


そして、直立不動のままじっと何かを見つめている。


奈緒「はぁっ…はぁっ…はぁーっ…」


ドドドド


まつり「…無いのです」


奈緒「はぁ…はぁ…はぁ…?」


まつり「何も、無いのです」


まつり「死体も、血も、誰も」



To be continued…

終わりー(o・∇・o)

一日を終わらせるのに半年かかりましたねーナガカッタ…

終わるまであと何年掛かるのやら


モブは死ぬ、慈悲はない

(o・∇・o)




山間の別荘地帯




Da「ヒィィィッ…あヒッ…」ガタガタ


豪華な装飾の施された部屋の椅子の上、『Da』は悲鳴を漏らしながら怯えていた。


Da「わ、私のッ…スタンドの『秘密』をォォォォ…やつは、奴は知ってしまったァァァァ!」


ブラック・ファルシオン三世「…………」


Da「ああァァァァ…うげっ、こげげげげぇーあ!」


白目を剥きながら叫ぶ白髪の爺を、真っ黒な犬はずっと見ていた。


Da「生かしては…おけないィィ…」ボリボリ


Da「『秘密』を、しった…プロデューサーを! ぶっ殺してこいィィィィ!!」ボリバリバリ


BF三世「…………」ニヤリ


Da「行けッ!いけぇぇぇぇえ!」


BF三世「バウッ!」


主人の許しを得たBF三世は、勢いよく『飛び』出ていった。


Da「殺せ!殺せ殺せころせェェェ――――ッ!どんな手を使ってもだ!」


Da「私の『秘密』をっ、しった奴はァァァァ!ぜッたイィィィィい!」










山間の別荘地帯




Da「ヒィィィッ…あヒッ…」ガタガタ


豪華な装飾の施された部屋の椅子の上、『Da』は悲鳴を漏らしながら怯えていた。


Da「わ、私のッ…スタンドの『秘密』をォォォォ…やつは、奴は知ってしまったァァァァ!」


ブラック・ファルシオン三世「…………」


Da「ああァァァァ…うげっ、こげげげげぇーあ!」


白目を剥きながら叫ぶ白髪の爺を、真っ黒な犬はずっと見ていた。


Da「生かしては…おけないィィ…」ボリボリ


Da「『秘密』を、しった…プロデューサーを! ぶっ殺してこいィィィィ!!」ボリバリバリ


BF三世「…………」ニヤリ


Da「行けッ!いけぇぇぇぇえ!」


BF三世「バウッ!」


主人の許しを得たBF三世は、勢いよく『飛び』出ていった。


Da「殺せ!殺せ殺せころせェェェ――――ッ!どんな手を使ってもだ!」


Da「私の『秘密』をっ、しった奴はァァァァ!ぜッたイィィィィい!」














奈緒「…説明してくれるんやな?」


まつり「…………少しなら」


二人は血の跡が残る廊下から抜け出し、リビングに避難する。


奈緒「…腕が無くなっとる」


最初にSPW財団の男が消えた場所、そこに落ちていた腕は無くなっていた。


まつり「…………」


奈緒「…………」


二人の間に気まずい沈黙が訪れる。


まつりは話を切り出しづらかった。


まつりは言いたくない、言ってはいけない『秘密』を抱えている。


奈緒は知りたい、しかし踏み込んでいいのか分からなかった。


けれども、背中を預ける人間に後ろ暗い印象を持ちたくなかった。




沈黙の末、切り出したのはまつりだ。


まつり「…奈緒さんには、黙っていたことがあります」


奈緒「…………うん」


まつりは目で促し、朝食を食べるはずだった席に着く。


奈緒はレンジからたこ焼きを取り出して、もう一度加熱した。


奈緒「『スタンド菌』…やったっけ? あはは…変な名前やな…」


まつり「…予想はつくと、思います。感染すれば…人はスタンド使いになれます」


奈緒「…まー、何かあって『それ』をまつりが持ってるんやな」


まつり「…そうなのです」


まつりは、口の中の唾を飲み込む。


奈緒は先程のミックスジュースが余っているのを見て、二つのコップに注いだ。


まつりはミックスジュースを飲むと、続ける。


まつり「『スタンド菌』の感染力は凄まじいのです、体の中に入ってしまえば…『必ず』繁殖します」


奈緒「…それを、流出させないために見張ってんの?」


まつり「…多くの人がスタンドを発現すれば、多くの人が混乱するのです」


まつり「でも、スタンドを全員が発現できる訳では無いのです」




奈緒「…『ここ』には、あんなにおるやん」


まつり「…『スタンド使いは引かれ合う』という言葉があるのです。まつりはスタンドそのものが『引力』や『運命』を持っていると思うのです」


奈緒「『引力』に…『運命』?」


まつり「スタンドを発現出来なかった人は、そもそも『引かれ』ないということなのです」


奈緒「待ち、感染すれば『必ず』って言ったやろ」


まつり「はい。感染すれば、死ぬか…スタンド能力を得るか、どちらかです」


奈緒「なッ…!」


ゴゴゴ


まつり「奈緒さんは生まれついてのスタンド使いだったようなのですが、ほ――」


奈緒「待ちッ…『死ぬ』って事は、メチャクチャ危険ってことやん!」


まつり「…………」


奈緒「そんなもん、はよ捨てたらええやんか!」


まつり「まつりも、最初はそう思いました」


まつり「さっきも言いましたが、スタンドには『引力』があるのです。まつりは、まつりの直感は、壊そうとすれば別の人間の所へ行ってしまうと思っているのです」


奈緒「…んなアホな」


まつり「まつりは『運命』を信じます。765プロに来てから一層、思うようになりました」


奈緒「それなら、それでもええわ。包丁とか銃が危険やないように、持つ人次第や」


奈緒は怒っていた、声も震えていた。


それをまつりは分かっていた。


まつり「…………」


奈緒「何で、いや、こんなこと言うのはまつりを気遣ってへんかもしれん。でも、言うわ」


奈緒「一緒に守ろうとは、思わかったんか?」


まつり「ッ…!」




奈緒「いや、まつりがSPW財団なんてとこから追われてんのは今分かった。怖いのも分かる。だから、だからこそ、言って欲しかった」


まつりは逃げ出したかった。


知らぬ存ぜぬを通し、奈緒の質問をのらりくらりとかわせば、そんな思いはしなかったはずだ。


まつり(…違うのです。まつりは、『逃げ』るために765プロに入ったのです。だから、ここではもう逃げられない…向かい合わないといけないッ!『思い』にッ!)




奈緒「…………」


まつり「まつりは――」


奈緒「いや、ええよ」


まつり「!!」


奈緒「まつりを責めても、意味ない」


まつり(そんな! まつりの『思い』を、聞いてくださいッ!)


奈緒「それより――」


まつり「まつりは!」


奈緒「ええって!!」ドン!


まつり「ッ!」


奈緒は机を叩いて声を張り上げた。


奈緒「そんな、無理強いしてへん!わざわざ、いちいち言わんくてええ!」


逃げたのは奈緒だ。


まつりの『思い』を支えられるのか、人の命を握る『兵器』のようなものを抱えられるのか、聞いてから思ったのだ。


奈緒にはわからなかった。


自分で聞いたくせに、まつりの側に立っていられるのか分からなかった。


まつり「聞いたのは…そっちなのですよ…?」


奈緒「『分かって』る。だから、聞きたくない…ごめん…」


まつり「…まつりは」


奈緒「…………」


まつりは何かを言おうとした。


けれど、まつりは迷いはじめてきた。


自分の言おうとしている事が、果たして奈緒の為になるのかを。


まつり「いえ、何でもないのです…」


まつりは目を背けた。


自分から離れていく奈緒を、見たくなかったから。




おしり(o・∇・o)

来週の日曜どころか今週の日曜でしたね
チョコは意外と指が疲れるので、それなりに書く時間はありました

ジョジョのOPすごかったですね

(o・∇・o)マタネー

最近は戦闘&戦闘でアイドルらしからぬシーン満載だったので今回はボロリがあるよ!


(o・∇・o)







765プロ





律子「…………」


事務員「…………」カタカタカタ


律子「はぁ~~~~ッ…」


美希「あふぅ」ゴロリ


律子「…………」


律子「何で劇場が壊れてんのッッッ!!!!」


美希「…………ん~、うるさいの…」モゾモゾ


ガチャ


千鶴「おはようございま…律子…?」


律子「あ、千鶴さん…隣の、見ましたよね?」


千鶴「…ええ、壊れていましたわ」


律子「…何か知ってますか?」


千鶴「…? 765プロではよくある事…」


律子「んな訳あるかッ!!」


千鶴「じょ、冗談ですわ…おほほほ…」




律子「肝心な時にプロデューサーはいないし…まったく、どこほっつき歩いてるんだか」


美希「…プロデューサーが自分勝手なのは、昔からなの。いっつも、何処かにいっちゃう」


律子「美希…」


美希「…なんでもないの、あふぅ」ゴロリ


千鶴「…何かありましたの?」


律子「え、と…まぁ、少し…」


千鶴「ふーん…」


ガチャ


桃子「おはようございまーす」


千鶴「あら、おはよう」


律子「早いわね桃子、仕事までまだ時間はあるわよ?」


桃子「集合時間より早く来るのって、当たり前じゃないんですかー?」


律子「そうだけど…」


桃子「それじゃあ、桃子はお仕事の確認してまーす」


スタスタ


千鶴「仕事熱心ですわね」


律子「無理しなきゃいいけど…」


美希「zzz…」


律子もいつまでも嘆いている訳ではなく、腕時計で時間を確認すると美希を起こしにかかる。


律子「ほら美希、桃子を見習いなさい! そろそろ行くわよ」


美希「むにゃ…ミキは桃子じゃないの…」


律子「ほら、さっさと起きて」


美希「んー…」


律子は寝ている美希を引きずって連れていった。


ズルズル




千鶴「…………」


千鶴(さて、洗脳『出来なかった』桃子はスルーして…)


千鶴(仲間を増やしましょう、『マスターピース』はまだまだありますわ)


桃子はテレビの前のソファに座って台本を読みながら、千鶴の動向を探っていた。


桃子「…………」ペラ


千鶴「…もしもし? 私ですわ。今――」


桃子(千鶴さん、もう『襲い掛かって』こないみたいだね。電話してるし)


桃子(ま、桃子だけの兵隊…『スタンド』が守ってくれるから、絶対に負けないけど)


桃子(でも、お仕事の邪魔はされたくないからなー)


千鶴「――では、また」ピッ


桃子「…ねぇ、桃子の事『また』襲わないの?」


千鶴「…あら、もしかして私に言ってますの?」


携帯をしまい、千鶴は話し掛けられた事に驚く。


桃子「それ以外にいないと思うけど」


ゴゴゴゴ


千鶴「…別に、もう桃子には用はありませんもの」


桃子「…………」


千鶴「私のスタンドでは相性が悪いですし、こりごりですわ」


桃子「…気に入らない」ボソ


千鶴「何か?」


桃子「何でもないですよー」


ドドド


桃子「桃子にもうちょっかい出さないで下さいね」


千鶴「…………申し訳ありませんが」


千鶴「『とばっちり』を喰らっても知りませんわよ?」




桃子「はぁ?」


バリィィィィン!


突如、腕をクロスさせた琴葉が事務所の窓を突き破って飛来し、デスクの前に立っていた千鶴に向かって飛び掛かる。


琴葉『はぁぁぁぁあッッ!!』


千鶴「奇襲は失敗ですわね」


桃子「!?」


ドンッッッ!!


千鶴に向かって飛んできた莫大な運動エネルギーは、『ラブマスカレード』の両手でしっかりと受け止められた。


琴葉『ッ…!』


ズザザザッ


千鶴「ふぅ…」


受け止めた反動で千鶴が後ろにスライド移動するが、怪我はない。


千鶴のスタンドは琴葉の最も苦手とする近距離パワー型、しかもそのパワーは一級品だ。


琴葉『くっ…う、うおぉぉおおおおッ!!』


千鶴に受け止められた琴葉は腕を掴まれたまま地面に足を付け、今度は脚部のピストンをフル稼働させて押し込もうとする。


ドンッ…ドン!


ピシッ


千鶴「…………」


琴葉『よくもッ…よくもエレナを!』


千鶴「…はぁ、やっと話したと思ったらそれですの? いつもみたいに冷静になったらどうです?」


琴葉『うるさいッ! 『洗脳』されてる千鶴さんに話すことなんて無いわ!』


グググ


琴葉はより一層力を込めて押すが、『ラブマスカレード』はびくともしない。



千鶴「今日は琴葉一人で?…ま、そんなわけは無いとおもいますが」


琴葉『ふ、くっ…はぁ!』


ギチギチギチ…


千鶴「少し頭を捻れば、私を倒す事くらい――」


ブン


ガッキィィイン!


千鶴「…なるほど、奇襲は二段構えでしたのね」


志保「くっ…硬い!」


後ろから千鶴に攻撃を仕掛けたのは志保だった。


『ライアールージュ』の手刀は千鶴の首もとに命中したが、千鶴の服の『襟』に阻まれて衝撃も何も通じなかった。


琴葉『なっ…!』


千鶴「硬いのはあなただけではありませんわ」


千鶴が琴葉を掴む手に力を込めると、『イーストレッドクレッシェンド』の鎧はいとも容易く『砕け』た。


グッ


ピシピシッ!


ブシュッ


琴葉『あ、あり得ないッ…』


志保「そんなッ!」


千鶴「あなたはいつまで後ろに居ますの!」


志保「ッ」


ゲシィ!


『ラブマスカレード』の放った後ろ蹴りを、『ライアールージュ』は何とかガードする。


ズザザ…


志保「ッ…強い…!」


琴葉『志保ちゃんッ! この能力、得体が知れないわ!』


千鶴「何をいまさら」


ピシビキッ


琴葉『あぐっ…ああああ!』


千鶴が力を込めると、琴葉の鎧は次々と砕け散って行き、肘から先の装甲は完全に無くなってしまった。



琴葉(まずいッ…このままだと腕をへし折られるわ!予備の服は着てるけど、いたずらに鎧を出すのは駄目よッ…)


千鶴「相性は絶望的ですのよ? このまま琴葉を『再起不能』させてもらいますわッ!」


志保「琴葉さんッ!」バッ


攻撃の予兆を察知した志保は、琴葉から注意を反らすために飛び出した。


琴葉『今のうちにッ――』


千鶴「沈めッ!」


ドンッ!


琴葉『がはッ…!』


『ラブマスカレード』の蹴りが腹部の鎧をぶち抜くと、そのまま足を振り子のようにして、志保に後ろ蹴りを見舞う。


千鶴(『イーストレッドクレッシェンド』は私の『能力』で豆腐のようにボロリと砕けましたわ…さらに、スタンドの蹴りをまともに喰らってはお仕舞いですわね)


千鶴「志保ッ、あなたも終わりですわ!」


志保「くっ…」グッ


千鶴の蹴りが志保の目の前にまで迫り、『ライアールージュ』は再び防御せざるを得なかった。


グォォオ


琴葉『させない!』


千鶴「!?」


ドゴォッ!


千鶴「がッ!」


琴葉『ッ…』


脚部ピストンによって爆発的な勢いで繰り出された左足のつま先が千鶴の脇腹に刺さる。


琴葉の足先の鎧は千鶴に当たった瞬間にボロリと崩れ落ちたが、千鶴は防御も出来ずにまともに攻撃を喰らって吹っ飛ぶ。


ドバァー!


ドガン!


千鶴「ごふっ…」


千鶴はホワイトボードにぶつかって、地面に叩き付けられた。


琴葉『はぁ…はぁ…やっと、一発…』




志保「大丈夫ですか!?」


志保が琴葉に駆け寄る。


琴葉『はぁ…はぁ…鎧をぶち抜かれたわ…でも、ダメージはほとんど無かった!』


志保「…?」


志保「真っ正面からあなたの突進を受け止めたんですよ!?まともに蹴りを喰らって無傷だなんて…」


琴葉『これは事実よ…ありのままを認めて』


スッ


琴葉『!』


千鶴「よくも、よくもやってくれましたわね…!」ワナワナ


志保「まだっ…」


千鶴が立ち上がり、二人を睨み付ける。


ドドドド


千鶴「…………」


千鶴「…ですか、私こう見えても忙しくて」


琴葉『逃げるつもりですか?』


志保「そう易々とは逃げられませんよ」


千鶴にジリジリと近づく二人。


千鶴「私よりも…後ろに注意を向けてはどう?」


バッ


志保「!!」


琴葉『っ桃子ちゃん!』


桃子「…?」


桃子(なんでこっち見てるんだろう?)


桃子(二人と桃子は全然関係ないのに)


桃子はまだソファの上で暇を潰していた。




志保「千鶴さんに集中しすぎて気付かなかったわ…」


琴葉『まさか…二人いたなんて…』


桃子「何…なんなの…?」


千鶴「おーっほっほっほっほ!『後は任せましたわ』」


桃子「はぁ?」


二人の注意が反れた一瞬の隙に、千鶴は水の中に沈むように『何もせず』、『落下』していった。


ニュポルン


音も無く下の階に降りた千鶴に、琴葉と志保は数瞬の後に気付く。


志保「はっ、しまった!」


琴葉『逃げられた!』


千鶴の『沈んだ』床は、千鶴の幅だけ穴が空いていた。


志保「追い掛けますよ、まだ追い付けるはずです!」


琴葉『待って! 今、背を向けて逃げるのはまずいと思うの』


ゴゴゴゴ


志保「…桃子!」


桃子「…何?」


琴葉『やるしか…』


志保「くっ…」




桃子「…言っておきますけど。桃子に手を出すのは、やめた方がいいと思いますよ?」


ドドドド


琴葉『…姿を見せてるなら、近距離型でほぼ間違いないわ』


志保「千鶴さんのような『イーストレッドクレッシェンド』を打ち破れるスタンドかもしれません」


琴葉『どうする?』


志保「戦闘中に仕掛けてこなかった、つまり、あまり速いスタンドではないのかも」


琴葉『なら挟撃ね、油断は禁物よ』


ドドドド


志保と琴葉は、桃子の横に回り込むようにして近寄る。


桃子「……………………」


桃子「あーあ、もう桃子しーらないっ」


桃子は台本を取り出して、ソファの上で読み始める。


桃子「あと30分だけ付き合ってあげます。桃子、これから仕事なので」


琴葉『…………』


志保(一体、どういう…)


ピカッ――――!!


ギィィィィイイン!!


琴葉『あ゙あ゙ッ!?』


志保「ああああッ!」


突如、目映い閃光と耳を引き裂くような爆音が鳴り響く。



琴葉『目がッ…耳も、聞こえないッ!』


志保「今ッ、何が!? これは何なの!?」


『作戦成功!』


『良し! 次の作戦に移行しろッ!』


『『『了解!!』』』


桃子「…………」


桃子(あーあ、とうとう、桃子の『スタンド』が…『無敵の軍隊』が動き出しちゃった…)


To be continued…

全然健全

おしり(o・∇・o)

『ボロリ』じゃ物足りないみたいですね

『ぶっかけ』なんてどうでしょう


(o・∇・o)トウカ

『ボロリ』じゃ物足りないみたいですね

『ぶっかけ』なんてどうでしょう


(o・∇・o)トウカ





桃子が『スタンド』という物を認識し始めたのは、プロデューサーに『スカウト』された頃と大体同じだった。


当時、時の人となっていた765プロのアイドル達と同じ事務所というのは大きな後ろ楯にもなり得るし、自分の置かれている状況に嫌気が差していた桃子にとって、『スカウト』というのはまさに『恵みの雨』であった。


『スカウト』を受けてからはウキウキ気分でいたが、その反動なのか急に高熱を出して倒れてしまう。


普通なら介抱をしてくれる両親がいるが、桃子はそういうものに縁が無い。


学校の友達ともあまり話したことはないし、話して仲良くしようとも思わない。


皆最後には裏切り、自分の欲望のために他人を利用する事なんてとっくに分かっていたし、わざわざそんな奴らと仲良しごっこなんてしたくなかった。


絶対に信用出来る人なんていないし、きっと765プロでも同じだろう…でも唯一信用出来るものはある。


自分には『スタンド』がいる。


熱を出しても、車に引かれそうになっても、『スタンド使い』に襲われても、絶対に守ってくれる。


絶対に桃子の事を裏切らないし、桃子の言うことはほとんど聞いてくれる。












「周防桃子は『一人』じゃない」














ドドドド


琴葉『志保ちゃん! いるの!? いるのなら…キャッ!』


琴葉は平衡感覚を完全に失って倒れ、防御の為に壊れた鎧の部分を再構築した。


志保「はぁ…はぁッ…まずい…この機会を、相手は逃さないッ!」


志保は視覚と聴覚がほぼ完全に潰された中、ぶつかる事も考慮せずにその場から飛び退いた。


『戦車を出せ!ヘリもだ!』


『将軍! 指示を!』


将軍『足だ!足を狙え!紅い奴には戦車砲を喰らわせてやれ!生身の奴は目と関節だッ!』


『突撃ィィィ――ッ!』


二人の周りには小さな、五センチ程の軍服を着た人形が多数存在し、その数はゆうに100を越えていた。


何処から現れたのか、戦車やヘリコプター、機関銃に戦闘機もある。


志保は危険を感じて攻撃を回避出来たが、琴葉はとびきり激しい砲撃を浴びてしまう。




ダダダダン!


琴葉『何かから攻撃されているッ…! これは、『小さい』わ…虫の針とか…でも、少し大きめの…これは…』


『駄目です!効きません!』


志保(一体どういう攻撃なの…? 何処から来るの?…琴葉さんには悪いけど、逃げさせてもらうわ…いくらなんでも分が悪すぎるッ!)


志保「『ライアールージュ』!」スッ


目も耳も機能不全に陥っている今、志保は『ライアールージュ』で気配を消して逃れる事しか出来ない。


『生身の奴が消えました!』


将軍『何!? いや、逃げたか…ならば紅い奴に全戦力を投入しろ! 周囲の床を切断して奴を下に落とせ! 落ちた所には爆弾と戦車を待機させろッ!』


『了解!!』


今の志保と琴葉に対する攻撃は、一般人が喰らったのなら、皮膚が全て吹き飛ぶような弾幕だ。


桃子に敵意を向ける二人に、桃子の『スタンド』は鹿を狩るのに戦車を持ち出す位の過剰な戦力で応えたのだ。


『千鶴との戦い』において、そのような攻撃は無かったのだ。


桃子「なに…今の『砲撃』は何なのッ!?」


将軍『お呼びですか? 桃子様』


桃子の問い掛けに、『スタンド』の中の『将軍』が答える。


桃子「「お呼びですか?」じゃないでしょ! あんな『砲撃』したら死んじゃうかもしれないじゃん!」




将軍『…お言葉ですが、桃子様に敵意を向ける奴は徹底的に打ちのめすか、ぶっ殺すしかありません』


桃子「なにそれ…聞いてない…!」


将軍『少々残酷かと』


桃子「今すぐ攻撃を止めて! 桃子の言うことが聞けないの!?」


将軍『…おい、今のは聞こえたか? ご乱心だ、縛っておけ』


桃子「桃子に逆らうの…? 桃子の『スタンド』の癖に!」


怒った桃子は『司令官』をつまみ上げようとするが、その時には既に、桃子はソファに
紐でくくりつけられていた。


桃子「何これッ…動けない! はなして! はなしてよ!」


将軍『丁重に扱え、ジュースを持っていって差し上げろ』


『はっ!』


桃子「離して!桃子が欲しいのはジュースじゃない!」


『将軍! 床の切断完了まであと三分です!』


将軍『下の階の準備が出来るまで切断を完了させるな!』


『将軍! あの鎧の解析結果が出ました!』


将軍『何!?聞かせろ!』


桃子「!!」




琴葉(…志保ちゃんは給湯室の方から、私は仕事机の方から回り込んだわ…もしも、私が桃子ちゃんに突っ込んだとしても、志保ちゃんには当たらない…)


桃子「止めて!殺さないで!」


将軍『ご安心を、目の前では殺しません』


桃子「誰か!誰かいないの!」


『――今すぐ『避難』を!ピストンの稼働をかく』


ドンッ!


琴葉は丸まったままの体勢で、砲弾のように桃子に向かって飛ぶ。


桃子「!」


将軍『…やれ』


『はっ!』


琴葉が一抹の望みを掛けて打った手は、あっさりと破られる。


放たれた炎によって。


ゴァォォオオ!


琴葉『がッ…あっ、ああああ!!』


桃子「琴葉さん!」


将軍『表面を削って成分を解析した。田中琴葉、貴様の鎧は「布」で出来ているな』


琴葉は飛んでいる途中で火炎放射機の炎によって焼かれ、火だるまになったまま壁に突っ込み、少し跳ね返って『流し』に飛び込んだ。


ビシャァァアン!


琴葉『ぐ、ふ…』


流し台に貯まっていた水のお陰で鎮火出来たが、琴葉の心中は穏やかではなかった。


琴葉『だ、ダメよ…『勝て』ない…目も耳も使えないのに…』


桃子「も、もういいでしょ! 琴葉さんだって、これ以上は…!」


『将軍、指示を』


将軍『やれ、念には念を入れろ』


『はっ!』




桃子「そんな…」


『無敵の軍隊』達は流し台の前に集結し、無数の火炎放射機を構える。


琴葉『これ以上は…ヤバイ…逃げないと…』


将軍『やれ』


『焼けェェェエエエエ!!』


『ヒャッフゥゥゥウウウウ!』


桃子「あ、ああ…ああああ!」


炎が流し台だけでなく給湯室の壁一面を覆う。


ゴァォォォオ!


『やったな』


桃子「…………」


『将軍!将軍ッ!』


将軍『なんだ』


『居ません!田中琴葉、見失いました!』


将軍『なんだと!?』


桃子(…よかった)


流し台の壁には穴が空いている。


将軍『まあいい、撃退は出来た。奴らも二度は襲って来んだろう。敵意を感じん』


桃子「…桃子の、『スタンド』…?」


『どうかしましたか?』


桃子「…………」







周防桃子は『一人』じゃない。








・・・

・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・







琴葉と志保が千鶴に奇襲を仕掛ける少し前の事。


765プロが借りている雑居ビルの前で、『千鶴』が周りを見張っていた。


千鶴?(…………今は誰も来ないね)


千鶴?(今日は千鶴を『奇襲』する日…悪いとは思うけど、エレナがやられた以上なりふり構ってらんないよ)


千鶴?(あたしの役目は『監視』! 敵スタンド使いの介入を防ぐのが役割!)


千鶴?「そう、この擬態出来る『アフタースクールパーリータイム』にピッタリの役割ッ!」ビシ


恵美「絶対に誰も入れないよ!」


ドン




カンカンカン…


恵美(ん? 誰か降りてくる…一先ず隠れないと…)


律子「ほら、美希、歩いて!」


美希(律子の腕力がミキのお陰で鍛えられちゃってるの…少しカワイソウだから歩いてあげよっかな?)


恵美「…………」


恵美(なぁ~んだ…律子と美希じゃん)ホッ


そのまま律子と美希が離れ、恵美は元の位置に戻る。


???「あの…」


チョンチョン


恵美「あひゃッ!?」


後ろから肩をつつかれて飛び上がり、後ろを向く。


???「ひうっ…し、失礼しました…こんなに驚かれるとは…」


そこにいたのは、申し訳なさそうに頭を下げるのはエミリーだった。


恵美「あれ、エミリーじゃ…ではありませんか。私に何の用でして?」


恵美(ち、千鶴の話し方ってこんなんで良かったっけ…?)




エミリー「いえ…千鶴様が何をしているのか気になりまして…」


恵美「え、えっと…それは…」


恵美(確か、奈緒いわく『『Da』からの仕事が多いアイドルは味方に引き込める』…だったっけ? じゃあ話しても安心だね)


恵美「…いや、アタシ所恵美」


エミリー「え、あ、あの…千鶴様?」


恵美「所恵美が化けてるのっ、ね?エミリー」


エミリー「は、はぁ…それでは、恵美さんは一体何を…?」


恵美「いまから、琴葉と志保が千鶴を奇襲するから、他のスタンド使いを入れないために監視してんの」


エミリー「千鶴さまを…?どうしてですか?」


恵美「いやね、何か『マスターピース』っていうスタンドに取り憑かれているみたいでさ、だから気絶させてそれを取らなきゃいけないの」


エミリー「なるほど…深い事情があったのですね」


恵美「そういうこと。エミリーもさ、今からでもアタシ達の方に…」


エミリー「…これで遠慮なく」


恵美「えっ」ゾクッ


この時、恵美は寒気のようなものを感じた。


エミリーの心臓を射抜かんとするような瞳が『違う』のだ。


肌で感じ取った氷点下の冷たさは大脳を経由せずに全身に指令を与える。


エミリー「攻撃できますッ!!」


恵美「ヤバイッ!」バッ


恵美が左右の確認もせずに車道に飛び出すのと、エミリーが攻撃するのはほぼ同時だった!


ブシャァァァアアアン!




恵美「冷たっ…これは…『水』ッ!」


先程まで恵美が居た場所には直径三メートル程の水の塊が鎮座しており、その巨体を見て恵美は思わずたじろぐ。


恵美(『水』…アタシのスタンド能力は『水』で簡単に解除される…でもッ、これは単純な話じゃない…この大きさの水の塊なら2~300キロ…)


恵美(油断すれば叩き潰されるッ!)


ドドドド


エミリー「…よく避けられましたね、流石です」


恵美「……ははは、お見通しだって」


エミリー「…『幽波紋』は特殊な能力を持ちます…」


恵美「っ…」


恵美(考えろッ…考えるんだ…『水』じゃあ殴れない、だから本体への攻撃をッ!)


エミリー「わたしの『微笑み日和』は『水』!日本ではよく『柔能く剛を制し』ますが、激流は全てを飲み込みますッ!」


シュル!


巨大な水塊から蛇の頭のような物が飛び出し、恵美に向かって真っ直ぐ突っ込んでくる。


恵美(出てきた…!)




ビュルルル!!


飛び出した部分に連れられ、水全体が一本の生き物のようになって恵美に襲いかかる。


恵美「ははっ、速度はたいした事無いんだね!」


飛び出してきた水をサッと身体を左に動かして躱し、歩道でのんきしてるエミリーに向かって走る。


恵美「エミリー! ここぞというところでチャンスを逃したね!」


エミリー「果たして…」


恵美「!」ゾワリ


エミリー「そうでしょうかッ!」


ドァォォオオオ!


恵美「なにィ!」


恵美が振り返ると、水の蛇はすぐ後ろから迫っていた。


恵美(見た目の割りに小回りがきくッ…厄介な!)


エミリー「ふふっ、後ろばかり見ていると足元をすくわれますよ!」


ビュッ!


恵美「は――」


ビシャア!


恵美の全身は前方から飛んできた水に覆われる。


恵美「ガポ…ゴポポ…!」(そんな…前からも!)


水に囚われた恵美は追い付いてきた水にも包まれ、大きな水槽に閉じ込められた金魚のように口をパクパクさせる。




恵美(深いッ…溺れる前に移動しないと!)


先程よりも肥大化した水塊は恵美を中心に半球を描き、足は地面に着くものの移動はほぼ出来ない状態を作り出す。


エミリー『ふふふ…『長さ』が一丈ならたいした事はありません…ですが『深さ』ならどうでしょう』


エミリー『素人が潜水すればたかが一丈でも、十分に窒息させる事は出来るんです』


ドドドド


恵美(スタンドとアタシで地面を蹴れば…まだ間に合うかもしれない!)


ドン!


恵美(うぉぉぉおおおお!)


恵美はスタンドと共に地面を蹴り、少しでも水の中から脱け出そうと必死に泳ぐ。


エミリー「…………」


恵美(行けるッ…だいぶ距離を稼いだ! あと、少しッ! 手を伸ばせば!)グググ


スッ


恵美(出たッ…手が出た! あと数センチ!)




エミリー「…ふふっ」ニヤリ


ズプッ


恵美が外に出した手は再び水の中に入る。


恵美(なッ…)


エミリー『やっと呼吸が出来ると思ったら、また水の中に入れられる気分はどうでしょうか…ふふふ…』


恵美(か、感じる…また半球の『中心』に戻されてる…耳が水圧で押されるのが分かるッ…)


恵美が移動した分だけエミリーのスタンドの『水塊』は移動し、少しでも酸素を確保するのを許さない。


エミリー『わたしが直接手を下す必要も無いですね』


恵美『ま…ずい…酸素が…息がくる、し…い…』


ゴゴゴゴ


エミリー『完全勝利です。恵美さん』


エミリー『もう一度言います…勝ちです!わたしの、勝ちです!』


恵美「ゴポッ…」








To be continued…

あしたは10thですね、皆さん熱中症には気を付けましょう

今度は名刺でも作りたいですねー(o・∇・o)






恵美『おぼっ…れる! なんとか反撃しないと!』


エミリー『たっぷり!』


ババン!


エミリーが勝ち誇り、恵美は状況の打開のためにキョロキョロと辺りを見回す。


恵美『早く脱出しないと…どうする…どうすれば脱出ッ…………あ!』


恵美(何でアタシが脱出するのさ!『微笑み日和』を引き剥がせばいいッ!)


恵美は水の中から目を凝らし、エミリーとの『距離』を測る。


恵美(水の半球は大体半径二メートル…エミリーまでは…六メートル位かな?)


恵美(『アフタースクールパーリータイム』の射程なら十メートルどころか二十はいける! エミリーのスタンドが『水』なら、スタンドで攻撃しに行けば防御のために離れる!)


恵美(『水』に攻撃出来ないなら『水』からも攻撃出来ないって事! つまり、スタンドのパワーが低くてもエミリーは倒せるッ!)


ドドドド


エミリー(…………と、考えているのでしょう)


エミリー(『知って』いるんです…わざわざそう思うように導いたんですから)


エミリー(だから『勝ち誇っ』たんです。相手の『幽波紋』を知ることは一歩先を行くこと…)


エミリー(行動を起こされる前に倒すッ!先手必勝です!)


恵美『エミリー! かく…ッ!?』


ドン!


エミリーに攻撃しようとスタンドを出した恵美はゴポォ、と息を吐き出してしまう。




恵美(い、ま…確実に鳩尾を殴られたッ…『水』なら攻撃出来ないはず…なんで…)


ゴポポッ


恵美(ぐふっ…酸素が…ヤバイ…! 攻撃が来てる、のに…)


エミリー『…………』


恵美(どうしよう…エミリーに攻撃するか、防御するか…)


エミリーに攻撃した場合、無防備になった恵美に今のような攻撃が来ることは簡単に予測でき、酸素不足で溺死するまでにエミリーを倒すことが出来なければ負けである。


逆に、水中からの攻撃を防ぐためにスタンドを側に置いたとしても、そもそも攻撃手段の特定が出来ていないから防御しようがないのである。


恵美(…迷ってる暇無いよね)


スッ


恵美(本体を叩くッ!)


エミリー『…ふふっ』


『アフタースクールパーリータイム』が恵美から離れてエミリーの元に向かおうとした時、『何か』がスタンドの喉に痛烈な一撃を見舞う。


恵美『がはッ…こ、きゅうが…』


恵美(ああ…なんだか『遠く』なってきた…)


水の中で意識を手放しそうになると、目の前に誰かが立っているのに気付く。


『…………』


恵美(お迎え…? アタシってもう死んでるの?)


恵美(いや…死んでない。水は冷たいし、スタンドの指だって動かせる。なら目の前に立つのは…)


たまたま気付いた。


うっすらと『水』のように透き通っていて、戦っている最中なら絶対に気付かなかったでだろう『輪郭』!


ドドドド


恵美(これはエミリーの『スタンド』!『透明』だったんだ…だから水の中じゃ気付けなかった!)


エミリー『ふふっ…そろそろ止めをさしてあげますよ』


目の前の人の『輪郭』を持った物が動く。


恵美(エミリーはこっちが気付いてないと思ってるッ!だからそこを突く!)




エミリー『エイヤッ!』ブン


恵美(今だッ!)


恵美『そりゃぁぁぁああああ!』


ほぼ透明の『微笑み日和』のパンチを横にいなし、手刀を喉と鳩尾に真っ直ぐ突き刺す。


ドスドス


エミリー「かひゅ…う、うえぇ…!」ドサ


エミリー(攻撃されてるッ…まさか…そんな!)


予想外の攻撃にたじろぎ、急所を的確に狙われたことでエミリーは膝を付く。


恵美『『アフタァースクールパァァリィィタァァァイム』ッ!!』


ドッ


エミリーのスタンドを攻撃して怯ませると、すかさず『アフタースクールパーリータイム』で本体を狙う。


エミリー「!」


ズオッ


エミリー「そ、そうです…防御、防御しないとッ!」


エミリーが『微笑み日和』を急いで自分の元に引き寄せると、それに合わせて恵美の周りの水が移動する。


恵美「ほっ…やっと息が出来る…」


エミリー「速くっ…ああ…追い付かないっ…!」


『微笑み日和』が『アフタースクールパーリータイム』を追えども、二体の距離は依然として縮まない。


ついに、『アフタースクールパーリータイム』がエミリーの目の前に辿り着くと、エミリーに右ストレートをお見舞いする。


恵美『そりゃぁあ!』ブン


ボグォ!


エミリー「ぶふっ!」


エミリー(に、逃げないと…射程距離から出て反撃しないと!)


エミリーは次の攻撃が来る前にUターンして歩道を駆けて行こうとする。


クルッ


ビタン!


エミリー「にゃ…にゃんで!」ヒリヒリ




エミリーがよく前を見ると、765プロのビルが歩道の真ん中に、自分が激突した『歩道』がビルとビルの間に位置していた。


恵美「なんでって言われても…攻撃を避けるときにチョイ…ってね、『擬態』させといたんだよ」


エミリー「そんな…!」


恵美「ここまで追い詰めたんだッ…間髪いれずに仕留める!」


恵美『そりゃりゃりゃりゃりゃ!』


エミリー「ひっ…」


ドゴドコドガドガ


エミリー「ごふっ、おふ…ひぃやぁぁああああ!」


恵美「ここは絶対に通さないよッ!」


『アフタースクールパーリータイム』が大きく腕を後ろに引き、エミリーに向かって握り拳を突き出す。


ブン!


エミリー(こ、こんな所で…負けるなんて…)


エミリー「負けるなんてェェェェエエエエ!」


最後の足掻きに『微笑み日和』が恵美に向かって突っ込んで来る。


恵美「遅いよ」


ドゴッ


エミリー「がふぅッ!」


パンチがエミリーに思いっきり当たると、『微笑み日和』の周囲の水は崩れて流れ出しスタンドは消える。


恵美「気絶…したかな?」


千鶴「あら、最後の一瞬で油断しましたわね」


恵美「ハッ!」


ゴゴゴゴ




千鶴はビルの壁に寄りかかり、恵美の方を見て笑う。


恵美「ち、千鶴…まさか、琴葉と志保は…」


千鶴「ですから…」


千鶴「『最後の一瞬』を油断していますわね」


千鶴「一体『どこ』に立ってますの?」


水からの脱出とエミリーへの反撃に気をとられて、恵美は自分が『道路』に飛び出したことをすっかり忘れていた。


既に『トラック』は目の前に現れていたのだ。


運転手「危ねぇぇええええ!」


キィィィィイイイイ!


恵美(しま)


ドンッッ!


恵美「ぐぁ――」


ゴロゴロゴロ


恵美「ぅ…や、あ…ぁ…………」


千鶴「…呆気ない」


運転手「お、おい!そこの君!今見てただろ!?」


トラックの運転手が慌てた様子で窓から話し掛けて来る。


千鶴「…………」


運転手「き、気付いたらこの道路にいたんだ…それに、道路に立ってた方が悪いだろ!? な?」


千鶴「『エミリー』」


ムクッ


千鶴の合図で『微笑み日和』が水を身に纏って運転席に突っ込む。


運転手「な、なんだこぐえっ!」


水の勢いで扉に叩き付けられた運転手は気絶する。


千鶴「さて、私はもう行きますわ」


MP(inエミリー)『ヘッ…アトハ、オレガ始末スルゼ』




恵美「…………ッ…ぁて……!」


千鶴「あら、話す元気がまだありまして?」


恵美は道路の脇でうつ伏せになりながら千鶴を呼び止める。


千鶴「トラックに『轢かれ』ずに『撥ね』飛ばされただけで幸運だというのに…あまり動くと死にますわよ?」


恵美「ぃか…せ…………い…」


千鶴「それに残念ですわね、『マスターピース』が本体の気絶後に活動することを忘れてまして?」


恵美「ぁた…………ま…まけて…………い…」


千鶴「では、失礼しますわ。私の相手は地に伏すスタンド使いではありませんの」


恵美「…っぐ…………ま…て…………ッ」


スタスタ


千鶴は恵美の横を通り道路を横断して、そのまま何処かに消えてしまった。


MP『サテェ…』


恵美「…………!」


MP『『微笑み日和』デ相手ヲシテヤルヨ』


恵美(ふ、ふざけるな…! こんな、こんな状態で!)


MP『手元ノ小石モ握レネーテメーヲブッ飛バセルナンテ、快感ダゼェェェェエエエエッ!!』


恵美「クソッ…タレ…!」グググ


MP『ンン~? マサカ『立ツ』ツモリカァァ~~~~ンゥゥゥゥンン?』ズルズル


『微笑み日和』に入った『マスターピース』がエミリーを引きずりながら恵美に近寄り、『水』を少し引き寄せては落とし、引き寄せては落とし、足元に水溜まりを形成する。


恵美(次溺れたらッ…もう勝ち目は無い…!)


恵美(でもどうすればッ…どうすればいいの!?)


MP『デハァ~~ン…記念スベキ、一人目ノ犠牲者ヲ…』


ギギ…




765プロに向かって左側の路地、つまりビルの入り口とは反対の路地から鉄を引きずるような音が響く。


MP『!』クル


恵美「あ、れは…!」


琴葉『めぐ…み…いるの…?』


このピンチに現れた琴葉は地面に這いつくばり、鎧が所々焼け落ちて息も絶え絶え、まさに恵美と同じような状態であった。


二人からは千鶴に完全な敗北を味わわされたようにしか見えない。


志保はこの場に居ないが、誰がどう見ても満身創痍の死にかけ、琴葉はこの場で唯一の武闘派スタンド使いであるが援護は期待できないだろう。


MP『フン、手負イカ…』


琴葉『目と、耳が…あまり使えないの。うっすらとしか、見えたり聞こえたりしないから…いるなら…』


MP『イイコトヲ思イ付イタ』


恵美「まさかッ…」


MP『先ニ田中琴葉ヲ始末シテヤロウ』


恵美「くっ…そぉぉぉぉ…!」


MP『最早打ツ手ハ無イ』


スーッ


『微笑み日和』に向かって集まった水は直径五メートル程の巨体を造り、絞首台に向かう死刑囚のようにゆっくりと琴葉に近寄る。


恵美(伝えないとッ…琴葉に危機を…!)





MP『デハ…苦シメル為ニ…』


琴葉『水…? めぐみ、一体…』


水球の表面が倒れる琴葉の右の指先に触れ、徐々に徐々に呑み込もうとしていた。


恵美「こ、と…」


動くことも、話すこともままならぬ肉体だが、スタンドならば出来るかもしれない。


恵美「は…」


動こうと力をいれる度に抜けていく血と意識だが、友達の為ならば出来るかもしれない。


恵美「と、どいて…」


『アフタースクールパーリータイム』が恵美の体から少しずつ離れて行き、琴葉に近寄ろうともがく。


MP『窒息ノ刑ニ…』


しかしその隔たりは果てしなく遠く、近寄れども縮めることは出来ず、無情にも水球は琴葉の顔を呑み込む。


MP『処スゥゥゥゥウウウウ!』








瞬間。


琴葉『そこだァァああああ!』


MP『何ィィイイイイ!』


右手を『微笑み日和』に取り憑く『マスターピース』に向け、アンカーを射出した!


バシュウッ!


恵美(琴葉…!)


琴葉『私の『演技』はどうだった? 恵美をいたぶった罪は重いわよッ!』


MP『コイツッ…初メカラ!』




琴葉『段々見えるようになって、半分くらいは分かってたわよ…『マスターピース』!』


MP『クソッタレガァァァァアアアアッッ!』


水の中から発射されたアンカーは狙いをずらすこと無く、憎き『マスターピース』の頭を撃ち抜く。


琴葉『ッ…これでエミリーちゃんは助けられた…』


MP『トデモ思ッタカッ!!』


ザポォッ!!


琴葉「ゴポ…ゴフッ!?」


恵美「!!」


MP『『川底』ミテーニ距離ヲ誤魔化シテルンダヨ…演技ニハスッカリ騙サレタガ、問題ハ無カッタナ…』


琴葉『馬鹿ね…問題を一問解いて得意気になってる…』


MP『ナニィ?』


恵美(あれは…!)


志保「負けてもタダじゃ引き下がらないわよ!」


バッ


志保が屋上から水球の中に直接飛び込む。


MP(モウ一人カ…ダガ『微笑み日和』ノ姿ヲ完全ニ捉エラレタ訳デハナイ…)


MP(『微笑み日和』ノ中ニ潜リ、姿ヲ擬似的ニ隠蔽スル!)


スッ


志保「…消えた!」


ザプン!


志保が水球に飛び込むと、二人はスタンドで会話を試みる。


志保『琴葉さん! 見ましたか!?』


琴葉『いいえ、どれだけ辺りを見回しても分からないの!』


志保『消えた…? 能力は一人一つのはず…』


恵美(そうかッ…『微笑み日和』の特性に気付いてないんだ…!)




MP(フン、馬鹿ナ奴等ダ…コノママ一人ズツ、ジワジワ追イ詰メテヤル!)


水球を時計のように捉えると、『微笑み日和』は中心、琴葉は7時の場所に位置し、志保は12時の場所にいた。


しかし二人は特に何かをするわけでもなく、水球の表面に留まっていた。


MP(コイツラ…マサカ…何モ考エズニ突ッ込ンデ来タノカ…? 二段構エデ攻撃シテキタ割ニハ、ナントモ間抜ケダ…ダガソコがオカシイ…)


ドドドド


MP(試シニ動クカ…イヤ、呼吸ガ続カナクナルマデ待ツ…マダ様子見デイイ)


恵美(二人とも何で動かないんだろう…)


志保「…………」


琴葉『…………』


ドドドド


MP(オカシイゼ…コイツラ何モシテコネー…タカガ『直径五メートル』ト、タカヲククッテル訳デモ無イ…)


MP(…コイツラ『誘ッ』テヤガルッ!『ヤレルモンナラヤッテミロ!』ッテナ! 倒サレタバカリダトイウノニ、血気盛ンナ奴ラダ)


MP(イイダロウ…ノッテヤル!)


MP『タダシッ!』


『微笑み日和』は水球を体ごと移動させる。


志保「ッ…」


水がなくなったことで志保はそのまま落下し、着地した。


恵美(何を…?)


琴葉『何処へ行くつもり!?』


MP『テメーラハ見エテネェ…状況ガナ!』


そして水は再び『蛇』のようになって空中を移動し、先ほどのトラックの上で球になる。




志保「まとまった…? 一体何が来るのッ…」


琴葉『あれを見て!『布』よ!』


恵美(『布』…?アタシからは見えないけど、何か起きてるッ)


大きな『布』が意思を持っているかのようにヒラリと、真っ直ぐ水球に向かって舞い、中を隠すようにピッタリと表面に張り付く。


MP『『原因』ニハ『結果』ガアル…コノ『トラック』ハ『誰ガ』運ンダノカナ?』


バサッ


布が水の表面から剥がれてトラックに垂れ下がる。


瑞希「じゃじゃーん、とうっじょう…です」


白いマジシャンハットを被って、真壁瑞希が現れる。


志保「ま…真壁さん!」


琴葉『そんな…瑞希ちゃんまで!』


瑞希「早速ですが、プレゼントです」


現れたのは瑞希だけではない。


トラックの上には軽自動車が乗っていた。


瑞希「そうです。これを『直接』、プレゼントします」


琴葉(…! 水の質量は馬鹿にならないわッ…それをこっちに!?)


琴葉『志保ちゃん!逃げ』


MP『バァァァァァァァカ!! 狙イハ『動ケナイ』テメーダヨ!』


志保「しまった!」




『微笑み日和』のまとう水は観覧車のようにその場を回り、勢いをつけて軽自動車をぶっ飛ばした。


ドガァン!


MP『テメーノ『演技』ニハ騙サレタゼ…ツイ『動ける』ト思ッタガ、実ハ『動けない』ンダナ』


琴葉『ッ…』


志保「琴葉さん!」


琴葉に向けて飛ばされた軽自動車の前に志保が割り込む。


志保『無駄ァ!』


ガン!


志保『無駄無駄無…ッ!』


グググ


志保「お、押されてるッ! パワーが足りない!」


MP『マトメテブッ潰レロォォォォオオオオ!』


志保「させるかァァァアアア!」




志保は蹴りで琴葉をどかし、自分の体を飛んできた自動車の下に潜り込ませる。


ゲシッ


琴葉『!』


ガガッ


ゴバン!


志保(やったッ…避けた!)


琴葉『まだよ!!』


志保「ッ!?」


瑞希「お代わりは『志保』うだいです」


ドォッ!


志保「なァッ…!?」


琴葉『…命運尽きたわね』


ドドドド


何台もの車が宙を舞い、二人に降り注ぐ。


ドァォォオオオン!!


………………………………


MP『匕…』


MP『ヒャッハァァァアアアアッ!勝ッタ!遂二勝ッタゾォォオオオオ!』


瑞希(あ、これは…逃げよう)バサッ


MP『憎キ奴ラヲ…コノ手デ…!』




「んなわけあるか!」


MP『ナニ…?』


ドドドド


奈緒「横山奈緒、ただいま参上!」


琴葉『はぁ…』


志保「死ぬかと思いました…遅いですよ」


奈緒「うっさい、いろいろあってん」


奈緒が二人を抱え、トラックの近くに現れる。


MP『ナ、ナ…』ビキビキ


MP『ナニィィィイイイイ!?』


恵美(よかった…!)


琴葉『恵美…心配かけたわね』


恵美「ぅ…」


志保「喋らないで下さい、傷に障りますよ」


奈緒「まつ…麗花呼んどいて、大急ぎでな」


志保「分かりました」


MP『コッ…コノ野郎ッ!』


奈緒「この『野郎』やてェェ~? 私ら女の子やッ!」


MP『クソ〇〇〇ガ!』


奈緒「あァん?」ビキィ


ゴゴゴゴ




奈緒は『微笑み日和』を捉えられないが、水の塊を睨んでスタンドを構える。


MP『オマエラ相手ニッ…負ケルカァアアアア!』


1tを遥かに超える水が宙に高く浮かび、奈緒達を押し潰すように突撃する。


琴葉『奈緒ちゃん!』


奈緒「分かってへんなぁ…」


ガオン ガオン ガオン ガオン ガオン


MP『!?』


水があっと言う間に削れ、半透明な『微笑み日和』が露になる。


奈緒「あんたや私に勝たれへん」


奈緒『オラァ!』


ボゴン!


MP『ゴフッ…シマッタ!』


殴られた衝撃で『微笑み日和』から『マスターピース』が飛び出し、すかさず奈緒が殴り掛かる。


奈緒『オラオラオラッオラァ――――――――ッ!』


MP『ギャァァァアアアアアアア!』


サァァァ…


奈緒のラッシュを浴びた『マスターピース』は灰のようになって消え去る。




奈緒「弱っ!」


恵美(瀕死なんですけど…)


志保「あ、麗花さんに連絡つきましたよ」


琴葉『そ、そうなの…いつ来るって?』


志保「あと5分だそうです」


奈緒(寝てるんとちゃうか…?)








奈緒――朝の運動でスッキリ

エミリー――起き土下座を習得した

麗花――治療すると朝ごはんを食べに行った



To be continued…

おちまい

敵も味方も増えすぎると面倒ですね、なんかだれてる気がしますわ

最近ファンタジー書きたくなってます

(o・∇・o)


すっかり忘れてた




本体・人間・最上静香
スタンド『プレシャスグレイン』

近距離型・人型

破壊力B  スピードC  射程距離D(5m)

精密動作性A  持続性B  成長性E

能力射程D(5m)


能力「触った物体を砂にする能力」



触れた物体を砂に変えることが出来る能力。

『砂』は射程距離内であれば任意で元に戻すことができ、『砂』は『砂』にされた場所で元の物体に戻り、そこにあるものを問答無用で『押し退け』る。

『砂』になった物体が静香の射程距離外に出ると、『砂』になった場所に元の物体となって一瞬で戻る。

砂にできるのは物体だけで、スタンドや生き物、液体を砂にすることはできない。






本体・人間・エミリー・スチュアート
スタンド『微笑み日和』

近距離型・亜人型

破壊力D  スピードC  射程距離D(10メートル)

精密動作性C  持続性B  成長性D

能力射程D


能力『水を引っ張る能力』


周囲の水を引っ張って、スタンドの周囲に集める能力。

スタンド像が半透明であり、水中では一点をジッと集中して見なければ気付けないほど『薄い』。

水を引っ張る力は操作することができ、射程内の水ならある程度自由に引き寄せることが出来る。

水を引き寄せすぎると本体であるエミリー自身も溺れてしまうため、水の量には注意が必要。

主な攻撃方法は水を纏っての突進。水ならば『スタンド』でも容易には止められないが、突進するためには『微笑み日和』を本体から離さないといけないため防御が疎かになったりカウンターを食らったりする。



アイマスは最高だってはっきりわかんだね


時は遡る








奈緒「待ちッ…待って…いかんといて!」


まつりの耳に奈緒が必死に絞り出した声が聞こえてくるが、まつりは『曲がり角』を目指して歩く。


まつり「…………」スタスタ


まつり(ついに、まつりの恐れていた事が起きました…『SPW財団』と『まつり』以外の『第三者』が『スタンド菌』を狙ってるッ…)


まつり(臆する暇は無いのです)


まつりの歩みは一層力強くなり、『曲がり角』に近付くにつれ握った拳が震え出す。


まつり(まつりは、まつりは勝たなければならないッ!)


奈緒「私を置いてかないでェェェ!」


奈緒の心の叫びを振り切り、まつりは『曲がり角』を曲がる。


バッ


まつり「…………!」


そこにあると思っていたものは無い。


『第三者』と『SPW財団職員』は跡形もなく消え去っており、まつりは頭の中で誰一人として自分の横を通っていないことを確認、さらに視界に入る『行き止まり』を確認した。




まつり(な、何がッ…!?)


ドドドド


まつり(跡形もなく消えるなんてッ…いえ、驚くのはそこじゃあないのです)


まつり(今、まつりの手に『紙切れ』があるッ! さっきまで持ってなかったものが、角を曲がった瞬間現れた…!)


まつりは自分の身に起こった事に着いていけず、思わず棒立ちになってしまう。


奈緒「はぁっ…はぁっ…はぁーっ…」


奈緒は息を荒くしながらまつりを見つめて、『何か』が起きるのを待っていた。


ドドドド


まつり「…無いのです」


奈緒「はぁ…はぁ…はぁ…?」


奈緒はバラバラに飛び散るまつりやスタンド使いの出現を想像していたが、思っていたような事態にはならない。


そして少し冷静さを取り戻し、まつりの言葉の意味に疑問をもつ。


まつり「何も、無いのです」


まつり「死体も、血も、誰も」








その後、食卓でまつりは自分の抱えているものを打ち明け、奈緒はそれを拒絶してしまった。


物理的な距離は机一つ分、しかし精神的な距離は遥か彼方。


奈緒「…………」


まつり「…………」


気まずい空気の中、まつりは自分の手に握らされていた『紙切れ』を、奈緒からは見えないように机の下に隠してさりげなく見る。


まつり「…!」




『紙切れ』は正確には斜めに切断された名刺だった。


姓しかない名前、『SPW貝』と書かれた部分、そして『電話番号』、名刺にとって必要であろう情報が書いてある。


しかし、まつりはそんなものでは全く驚かない。注目すべきは『電話番号』、キチンと書かれた文字列には赤い丸で印が付けられていた。


まつり(…この電話番号から、『SPW財団』の支部がある場所が分かるのです…が、これは…この印は…)


まつりは椅子からスッと立ち上がると、奈緒に背を向けて玄関へ向かう。


奈緒「…どこ行くんや」


まつり「ちょっと、そこまでなのです」


まつりは呼び止めて欲しかったが奈緒は特にそれ以上は話さず、まつりも奈緒が何もしないなら何かを言おうとも思わなかった。


スタスタ


バタム


玄関から外へ出て、携帯で名刺に書かれた『電話番号』に連絡をする。


まつり(…………)


何回かコール音が鳴った後に、留守番電話サービスに繋がる。


まつり(…まだ朝早いのです、電話での受付はやってないに決まってます)


まつり(となると、あの印は『ここに来い』という意味。行かない方が賢明ですが…)


まつり(行かなかったときに何が起こるか予想できないのです。行けば精々待ち伏せ、行かなければ…闇討ち? 人質をとられるかもしれませんし、家を焼かれたりするかもしれないのです)


まつり(行かなければならない…『スタンド菌』を守らないといけないッ!)





・・・

・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・


朝8:00


SPW財団東京支部正面玄関前


都心にある、十五階程の大きなビルの前。


まつりは既に不気味な気配を感じ取っていた。


ゴゴゴゴ


まつり「とても…静かなのです…」


都心の真ん中にあるビルには人の気配はせず、また人が寄り付く気配もなかった。


背筋にヒヤリとくる空気がまつりの中の動物的な感覚に警鐘を鳴らす。


まつり「行くしか…ない」ゴクッ




意を決して自動ドアの前に立つと、まつりは中が布のようなもので隠されて見えないことに気付く。


まつり「…中では、もう戦いが始まっているのかもしれない…」


仮に『第三者』のスタンド使いが『SPW財団』に乗り込んだのなら、戦闘が始まる。


しかし、『第三者』が実は『SPW財団』のスタンド使いならば話は別だ。そうであれば壮大な罠を仕掛けてまつりを追い詰めているので、このビルの前に立っているだけで追い詰められている状態である。


まつり(この張り詰めた空気は…違う)


まつり(明らかに誰かが戦っている、いや、戦ってい『た』! どちらかの勢力が『制圧』されている!)


まつり(間違いなく、強力なスタンド使いがいるのです…)


まつりは唾を飲み込んで覚悟を決め、自動ドアの前に立つ。


センサーがまつりを認識して扉を開けると、そこには既に戦闘の跡があった。


まつり「うっ…これは酷いのです!」


受付や椅子の上で眠っているように顔を伏せる人、地面に体を投げ出して倒れている人、まつりの想像以上に『静か』な戦いの跡があった。


しかし中には首の無い人や大きな穴の空いた人もおり、生き残っているものが一人として存在しない事を示していた。


まつり「あったのは戦いじゃない…虐殺! 恐ろしいことをするッ…!」プルプル


まつりはつま先立ちで壁を背に歩く。




まつり「一体何を狙ってこんなことを…」


『ほほう…』


まつり「!」


ゴゴゴゴ


まつり「誰ですかッ!出てきなさい!」


『死体を見慣れている…というよりも、修羅場に慣れているといった方がいいな』


静かな空間に響くスタンドの声。


ただならぬ気配の圧力を受け、まつりの額には脂汗が浮かぶ。


まつり「一体何のためにこんなことをッ!」


ゴゴゴゴ


『そう声を荒げるんじゃあない…順を追って話そう…』


『上の階に来てくれ』


まつり「…ッ!」タラー


まつり(どうするッ…目的は『スタンド菌』! 記憶を操るようなスタンド使いが居るかもしれないですし、安易な行動は――)


『ほほう、もう二階に来たのか』


まつり「――は」


ドドドドドド


まつりの目に映る景色は既に変わっており、二階の階段前に立っていた。




まつり「ひ――」


まつり(駄目です! ここで悲鳴をあげたら駄目です、立てなくなってしまうのです…!)


まつり「…はぁ…はぁッ…!」


ガチ…ガチ…


プルプル


まつり「はぁ…はァ――ッ…」ダラダラ


『どうした…汗がひどいぞ?』


まつりの身体中から滝のように汗が噴き出し、床にポタポタと滴が落ちる。


まつり「だ…っ、くっ…!!」


まつり(こ、声が出ないッ…『勇気』を…『恐怖』を跳ね返すのですッ!)


まつり「だまっ…れェ…!」フルフル


『フフフ、空気の抜けた風船みたいに声が震えているぞ…』


ドドドドドド


まつり「こんなにッ…関係の無い人まで襲うなんて残酷!無慈悲! あなたにだけは屈しないッ!」


『関係の無い…?いや、いや、いや…関係オオアリだ』


『私にとって邪魔だ、見られると困るのだ』


まつり「この外道がァ!」


『外道もまた道よ』


まつり「このッ…」プルプル


『路傍の石に気を払うものか』


まつり「………ッ!」ギギギギ


『怒るか、いいだろう向かってこい。私は最上階にいるぞ』


まつり「うオォォォォ――――――!!」


まつりは『フェスタ・イルミネーション』で宙に浮かび、窓から飛び出して最上階まで飛ぶ。




ギュオン!


パリーン!


ガラスを蹴破って最上階に入ると、そこには全身を黒い衣服で包んだ人間が椅子に座っていた。


まつり(顔が見えない…いえ、見ようと思えば見れますが、あまり不用意に近寄りたくはないのです)


パチ…パチ…パチ


『よく来た…その『精神』に敬意を払おう…』


まつり(スタンドで話して、自分の特定をさせない…)


まつり(だから不気味ッ…もしかしたら近くにいる人間なのかもしれないと疑ってしまう!)


『恐怖に抗う『勇気』に信念を貫く『覚悟』、どれをとっても一級品だ…』


ドドドド


『だがへし折ってやる』


まつり「!!」


『その『精神』をズタズタにして、逃がす』


『おれに怯えながら生きてゆけ』


ズォォオ!


まつり「ほッ!」


ドドドドドド


目の前の人間のスタンドが、その姿を見せる。


金色の人型スタンド。


その圧迫感は無限にも及ぶほどで、まつりは膝をつきそうになる。


まつり(な…なんという圧力!)


『…………』


まつり「ですが…」


グッ


『…ほほう』


まつり「押し返すッ!」




バッ


『フェスタ・イルミネーション』は飛び出し、目の前の『スタンド』に殴りかかる。

           
『知るがよい、これが』トトトン


ドォォォ――――――――z________ンン


『『世界』だと』


ドグシャア!!


まつり「がッ!?」


『フェスタ・イルミネーション』は飛び掛かった瞬間には、既に地面に叩き付けられていた。


まつり「なに…が…」


ゴゴゴゴ


まつり「いま何が起こった…!?」


『…どのようなものにも『絶対』の壁がある』トトン


左右の足で二回地面を叩き、満足げに話す。


『スタンドならば、このおれの『スタンド』こそがその『絶対』なのだろう』


まつり(正体不明の攻撃…ですが、まつりもそれならできます)


まつり(『離す』能力なら…『空気』から『本体』を離せば…)


『諦めろ…無様ににげるがいい』


まつり(一矢報いる事が出来る!)


まつり「『フェスタ――」


『違う、そこじゃない』


まつり「――」


『能力の発動場所を間違えたようだな』


『本体』はまつりの能力発動寸前に、まつりの『横』で椅子に座ったまま話し掛けてくる。


まつり「あ…う…」





まつり(どう、やって…知った? 能力の発動タイミングを完璧に読まれてた…おかしい…あり得ない…)


ゴゴゴゴゴ


まつり(人間、努力すれば何とかなることはあるのです…でも、これはそういう次元じゃあないッ…)


まつり(『絶対』とか『無敵』とか、そういった類いの…)


『ちょっとでも敵うと思ったのか』


まつり(こんな…こんなスタンド…)


まつり(『勝てるわけが…)


まつり「ああああああああ!」


ドビュン


まつりはすぐに窓から飛び出して、逃走を開始する。


まつり(これは『逃げ』じゃない! 『生存行動』! あんなのと一対一なんて愚策の極みなのです!)


・・・・


『逃げたか…』


「だがそれでいい」


ゴゴゴゴ


P「おれを疑ってもらわなくちゃ困る…」


P「『押し上げる』のは他でもない、お前たちだ…」


P「『時を止める』程度で満足はしない! まだ上がある…『無限』のパワーがあるはずだ!」











意識不明の『プロデューサー』を守るため、病院に立て籠ることにした二人だったが…。





In病室



茜「…莉緒ちん」


莉緒「なぁに、茜ちゃん?」


茜「エレナちゃんが帰ってきたよ…ただ…」


莉緒「ただ?」


茜「ちずるんが後を付けてる」


莉緒「!」


茜「これは…もう…」


莉緒「…エレナちゃんは『敵』という前提で動きましょう」


茜「…仕方ないね」


莉緒(もう『味方』は減っていってる…私達だって危うい精神の状態…)


莉緒(どっちに転んだっておかしくないわ)


ゴゴゴ


茜「莉緒ちん、プロちゃんのベッド動かすよ」


莉緒「…点滴も持っていくから手伝って頂戴」


茜「もっちろん」


茜が病室の扉を開け、莉緒がスタンド能力を発動してベッドを押して動かす。


莉緒「うぅー…」


たちまち莉緒の肌は土気色になり、まるで『ゾンビ』のようによちよちと歩き出す。




茜「こっちこっち」


茜の誘導で莉緒はベッドを運びだし、別の病室に入れる。


ガラララ


茜(お邪魔しまーす)


別の病室には別の患者がいるが、その者は茜達には気付けない。


莉緒「う…うー…」


茜(り、りおちん静かに!)


爺「おや…誰か…いるのかい?」


茜(ドキッ!)


茜は自分の『スタンド能力』で莉緒に能力を解除するよう指示を出す。


莉緒「…………」


莉緒(はぁ…このついつい出ちゃう声は好きになれないわ…)


茜「…………」


クイックイッ


莉緒「…………」コク


二人は病室から脱出し、元の部屋に戻る。




茜「迎え撃つよ」


莉緒「賛成っ!」


プルルルル…


茜「電話…?」


莉緒「あ、私よ」


茜「病院で携帯って大丈夫なの?」


莉緒「最近は平気みたいよ」


プルルルル


ピッ


莉緒「…もしもし?」


エレナ『やっと出た! ワタシだヨ! エレナだヨ~!』


ドドド


茜「ッ…」


莉緒「…どうしたの?」


エレナ『えーっとネ…』


エレナ『ワタシ、今病室の近くにいるノ』


莉緒「!!」


茜「!!」


エレナ『だから、隠してるドアを『見せ』てネ』




To be continued…


遅くなってすみません

いろいろ落ちた気がしますが、私は元気です!

投下するよー(o・∇・o)





ドドド


エレナ『ドアを、『見せ』てネ?』


莉緒「…………」チラ


茜「…………」フルフル


茜(エレナちゃんをまず倒す…莉緒ちんが上手くやれば時間は掛からない…)


茜(問題はちずるん、勝つ自信があって来てるって事は『近距離型』で間違いないね)


茜(茜ちゃん達はプロちゃんを守れば勝ち。茜ちゃん達のガードを突き崩すなら、電撃的な攻撃の出来るスタンド使いじゃないといけない)


茜(でも分かってないね、『雷』は『光』よりも遅い)


茜「電話を切って」ヒソヒソ


莉緒「…分かった、考えがあるのね?」ヒソヒソ


エレナ「…切ったネ、ワタシ…怒るヨ?」


茜『…入ってもいいよー!』


莉緒「!?」


茜はスタンドを『隣の病室』で叫ばせる。




莉緒(何をやってるの!? エレナちゃんはこの病室の前に居るって…)


茜(チッチッチ、りおちん、茜ちゃんの『光を操る』能力なら気付かれる前に誤魔化すこと位出来るんだよ。エレナちんはいま『隣の病室』の前にいる)


茜(それよりも今は攻撃。りおちんの『ゾンビにする』能力で、まずドアを『腐らせ』て)


莉緒(オッケーよ、そしたらどうするの?)


茜(取りあえず気絶させておくよ…準備いい?)


莉緒が病室の扉に触れると、触れたそばから穴が開き人一人が通れる大きさの穴が出来る。


莉緒「…………」クイックイッ


茜「…………」コクリ


二人が廊下に出ると、茜の言う通りエレナは隣の病室の前にいた。


エレナから二人の姿は見えない。茜の『ハート・デイズ・ナイト』で完全に隠蔽されているからだ。


エレナ(…なんで『二人のどっちか』は入ってもいいって言ったんだろう…罠? ワタシがとっくに敵の側にいることは分かってるはずだヨ?)


ドドドド


茜(うーん…エレナちんをそのまま後ろから倒したいけど…)


茜(ちづるん速すぎない?)


茜の『ハート・デイズ・ナイト』はほとんど光速と変わらない移動が出来るため、相手にバレずにスタンドで策敵するくらいはわけない。


ただ全くもって抵抗力というか、物理的なパワーが無い。どれだけ本体に近くとも光が物を押す程度の力しか発揮できない。


その『ハート・デイズ・ナイト』は千鶴が病院の壁を登って、エレナの真後ろの病室に入ったことを知っている。


しかし今ここでそれを伝えれば最後、話し声で位置がバレて千鶴にやられてしまうのだ。


茜(どうしたもんかね~)


莉緒(ちょっとちょっと茜ちゃん!司令塔のあなたの指示がないと私何やったらいいか分からないわよ~ッ!)


カツン


エレナ「!?」クルッ


莉緒「!?」


茜「…………」


三人が今いる廊下の奥から、靴で地面を鳴らす音が響く。




コツコツコツ…


エレナ(近付いてくる…あの足音は…誰?)


コツコツコツ…


エレナ「そんな!?」


莉緒(あれは…!)


茜?「………………」コツコツコツ


エレナ「アカネ!」


茜「」ニヤリ


廊下の奥から歩いてきたのは『茜の姿』。


エレナ(これは…このアカネは本物ッ…? リオがアカネの姿になってるかもしれないヨ…もしもこれが『仕組まれ』たのナラ…!)


茜(今だよ!ゴー!)


クイックイッ


莉緒(了解ッ!)ピッ


エレナに向かって莉緒が抜き足差し足で忍び寄る。


ピト


莉緒(後ろ、とったわ)


莉緒が『ゾンビにする』能力でエレナを気絶させるため、エレナに触れようと手を伸ばす。


エレナ「こうすれば――」


茜?「私は勅使河原花子、28歳の看護師で――」


莉緒「私は百瀬莉緒、アイド――」


エレナ「そこだネ」


エレナはスタンドを天井に取り付けられたライトに差し向け、ライトを取り外して『伝える』能力を発動する。


ビリリッ!


落下したライトと電源の間に電気が流れ、その中間にいた莉緒を通過していく。


莉緒「あがッ、が、ッが、あ…」

ドサ…



ピクビクン!


茜(な――)


茜「」パクパク


茜(だ、駄目だッ…『自己紹介』したくなるッ…)


ドドドド


エレナ「王手だヨ」


茜「の、のはら…」


茜(と、止まってェ~ッ!)


ボロ…ボロボロ


千鶴「私、二階堂千鶴ですわ」


千鶴が紙のように壁を壊し、自己紹介しながら現れる。


茜「あかね…アイドルやって…」


千鶴「そこですか」


ダッ


茜「ます!」


ダッ


千鶴に接近される前に、茜はさっさと自己紹介を終わらせて廊下の端にある階段目掛けて走り出す。


エレナ「ウー、逃がさないヨ~!」


ダッ


茜(ヤバイヤバイヤバイヤバイ! 何がヤバイかって、『廊下の端』に階段があるってことは、『直線』で走ってるって事!学校の廊下みたいに!)


ダダダダ


千鶴「茜、姿が見えなくても、足音が丸聞こえですわよ?」


ダムッ


茜(近いッ…!)カツン!!


スタンドで地面を強く蹴った千鶴は既に茜を射程距離内に収め、足音のする方向に殴りかかろうと腕を後ろに引いていた。



千鶴「残念ですわ」


ブンッ!


茜(…残念でした!)


スカー


千鶴「な!?」


茜(靴を脱いで叩きつけた、これで一瞬誤魔化して…その一瞬で――)


千鶴「足音が…消えたッ!」


茜(――階段までたどり着くッ!)


トッ


茜(プロちゃんを守りきれば勝ち、鬼ごっこで茜ちゃんには勝てないよッ!)









ドドドド


エレナ「ん~…逃げられちゃったネ」


千鶴「何を言ってますの?」


エレナ「え?」


千鶴「茜は今、自分で自分の首を絞めてましてよ。逃げた先は袋小路、常に攻めている私たちですわ」


エレナ「???」


千鶴「…先程の名乗らせるやり方で、プロデューサーを名乗らせてしまえばいいのですわ」


エレナ「お~、流石千鶴だネ!」


千鶴「探すなら…まずは最初の部屋の前の部屋でしょうか」


千鶴「ベッドのような物を隠すには同じ病室、しかし看護師の目も誤魔化さなければならない…つまり、この階にプロデューサーがいるのは確実」


エレナ「りょ~かいッ! みんなジャンジャン自己紹介して…」


ジリリリリリリリリ!!


千鶴「!!」


「火事です。火事です。火災が発生しました」




エレナ「エ~…火事なノ?」


千鶴(とうとうやってくれましたわね)


千鶴「エレナ、まだ慌てる時間ではありませんわ」


エレナ「でも、火事…」


千鶴「火事は陽動ですわ。混乱に乗じてプロデューサーを救出するという魂胆でしょう」


千鶴(今やるということは…私がプロデューサーに迫っているということ。ピンチを乗り切るつもりで情報を与えていますわ)


看護師が廊下を走りながら、部屋の前で屯する二人に声をかける。


ドタドタドタ


看護師「はやく避難してください! 火元はまだ特定出来ていませんが、煙がたっています!」


ドタドタドタ


エレナ「煙も『光を操る』能力で出したんだネ」


千鶴「そう、そして本人は足音を消して近寄ってくる」


ゴゴゴゴ


千鶴「そこを即座に叩けばいいだけですわ」


エレナ「おお~、流石チヅルだヨ」


「でもちょっと甘いんじゃないかな~?」


千鶴「ッ…茜! ノコノコとやって来ましたわね!」


光を操って姿を消しているので音しか聞こえないが、茜は二人の前に現れる。


「ちづるんは茜ちゃんの『覚悟』が分かってないよ。エレナちん連れてきて攻撃してきても…」


パチ…パチパチ…


千鶴「こ、この音ッ!まさかッ!」


茜「負ける事は絶対に無いよ!」




千鶴「病院に火を放ったッ…正気ですか!?」


エレナ「なんだか焦げ臭いヨ! はやく逃げよう!」


茜「あれれ~? 誰か一人、姿が見えないんじゃないかな?」


千鶴(――莉緒!)


エレナ「アカネもリオも、大声を出してもらうよ。『ハートカルナバル』!」


莉緒「ウリィィィィイイイイヤアアアア!!」


エレナ「ッ後ろ!」


千鶴「そこかッ!」


ドンッ!


姿の見えない莉緒の急襲に、千鶴は即座に対応して拳を命中させる。





千鶴「手応えが…無い!」


ズォオオ!


千鶴「エレナ!防ぎなさい!」


エレナ「え…」


ドガァ!


エレナ「きゃぁぁああああ!」


エレナは後ろからの衝撃にぶっ飛び、壁に激突する。




千鶴「姿が見えないのは厄介!ならば…」


千鶴はボールペンを懐から取り出して、スプリンクラー目掛けてぶん投げる。


バシュ


バコン!


千鶴「水で姿を…」


茜「知らない? スプリンクラーはぶっ壊しただけじゃ水は出ないんだよ? それに、水程度で茜ちゃん達の位置を割れるとでも?」


千鶴「くっ…」


莉緒「ウシャァァァァアアアア!!」


千鶴「向かって来るか!」


叫びながら突っ込んでくるため莉緒に気付き、千鶴は声のする方向にラッシュをかます。


千鶴「いい加減にっ、しなさい!」


ドンドンドンッ!


莉緒「効かないよォォォォオオオオ!!」


千鶴「おおおお!」


攻撃をものともせずに突っ込んでくる莉緒に対処出来ず、千鶴は頭部に痛烈な打撃を食らってしまう。


ドガッ!


エレナ「チヅルゥゥウウウウ!」


千鶴「私はっ…大丈夫よ!」


茜「なら、大丈夫じゃなくしてあげるね」




ピカッ!


千鶴「!?」


茜「目が覚めるまで、日差しをたっぷり浴びなッ!」


ジュワァァアア


千鶴「あっ、熱い! このままではっ…本当に焼ける!」


エレナ「チヅル! このままじゃまずいヨ!」


千鶴「撤退しますわ! 機会はいくらでもッ…」


茜「逃がすと思ってるのッ!」


逃げようとした二人に、莉緒が追撃を掛けようと飛びかかる。


莉緒「ドォォォォオオオオオアッ!!」


エレナ「伝えるヨ!『退却』だッ!」


莉緒「おっ…!?」


グルン


ビタン!


莉緒は空中で体を反転させ、地面に落下する。


エレナ「時間は稼いだヨ!」


千鶴「私に掴まりなさい!」


エレナと千鶴は手を繋ぎ、千鶴がスタンドで飛び上がる。


茜「…これ以上は無理だね」


砂を掘るように易々と病院の壁を砕きながら脱出する。


千鶴「覚えておきなさいッ! 次はありませんわよ!」


茜「…………」


莉緒「…ふぅ」


茜「なんとか、撃退できたね」


莉緒「次はいつかしら…?」


茜「さあ?」


茜「ただ…なおちんが倒してくれる事を祈ろっか」


To be continued…



765プロ・事務所




志保と琴葉と恵美の三人は麗花が来て治療を済ますと、仕事だといってすぐに出ていってしまった。


事務所にいた桃子は仕事で出ていったが、入れ替わるように美奈子がやって来た。


奈緒「んー…千鶴が色々やっとるみたいやなぁ」


美奈子「はい、奈緒ちゃんおやつ」


ドン


今日のおやつ(11時)はゴマ団子。


油の香りが食欲をそそるが、量はやはり多い。


奈緒「あ、いただきまーす」ヒョイ


麗花「美奈子ちゃん、いただきます♪」ヒョイ


美奈子「お昼までそれで我慢してね」


奈緒「ほー…」モニュモニュ


麗花「奈緒ちゃん? なんだか上の空だよ」


美奈子「美味しくなかった…?」ウルッ


奈緒「ちゃうで…そうやなくてな…」


麗花「『スタンド』のこと?」


奈緒(…たまに核心ついてくんな)ドキッ


美奈子「今敵なのは…茜ちゃんと莉緒さん、歩ちゃんに瑞希ちゃん、エレナちゃんだね」


奈緒「そういえばエミリーは?」


麗花「仮眠室に寝かしてるよ」




美奈子「他の子達は『マスターピース』にとりつかれてて、エミリーちゃんもとりつかれてたんだよね?」


奈緒「そうやで」


奈緒(悩んでるのはそっちの事ちゃうけど、誤魔化しとこ)


麗花「みんなで戦いあって、終わるのはいつかな…?」


奈緒「…終わりは近いはずや。ここ最近連続して戦いがおきとる」


美奈子「じゃあ私たちも、ここで戦う事になるのかな?」


奈緒「まー、奇襲を受ける事くらいは考えとかなあかんな」


麗花「うーん…うー、う~~~~ん…」


奈緒「?」


麗花「…やっぱり、面白いことを考えよっ! そっちの方が絶対に楽しいよ!」


奈緒「それもそうやな!」


美奈子「そうだね! じゃあお昼御飯作ってくる!」


奈緒「今日はなんにすんの?」


美奈子「何にしよっかな…?」


美奈子は給湯室の方に向かい、奈緒たちからは見えなくなる。




麗花「あっ、そう言えば」


奈緒「?」


麗花「今度ドライブで美也ちゃんと琴葉ちゃんと山に行くことにしたんだ!」


奈緒「へー、どんな山なん?」


麗花「そんなに高くないかな? 装備もそこまで必要ないから、奈緒ちゃんでも登れるよ♪」


奈緒「ひ、日にち次第やな…」


麗花「一応お泊まりも考えてるから、お仕事と相談だね」


奈緒「泊まるんか…すごいなぁ…」


麗花「あっ!そういえば!」


奈緒「?」


麗花「この前録画した番組を見ないと!」


奈緒「なんの番組?」


麗花「育のお料理チャレンジっていう番組だよ」


奈緒「あ~! あれか!」


麗花「そうそう、育ちゃんがレシピを見ないでお題の料理を完成させるの」


奈緒「レシピ見たらあかんから、お店の人とかに聞くんやけど、育がお題の料理をおぼえてへんねん!あはははは!」


美奈子「キャァァアアアア!」


奈緒「はは…?」


麗花「…早速だね」




奈緒「美奈子!」


ダッ


麗花「待って!今は危ないよ!」


思わず走り出した奈緒は、給湯室で赤色にまみれた美奈子を発見する。


奈緒「美奈子!美奈子ォ!」ユサユサ


美奈子「…………」


麗花「奈緒ちゃん、揺らしたらダメ。それに、ここはもう敵地のド真ん中ッ!油断してると――」


ビシャシャ!


ポタ…


麗花「あ、れ…? 赤い…これは…」


奈緒「麗花!」


麗花の背中とその後ろは赤く染め上げられ、さらに奈緒の方にも『赤い液体』が飛ぶ。


ブシュ


奈緒「『H・L・ジェットマシーン』」


ガオン


奈緒「ッ…出てこい! 誰や!」


ズブズブ


麗花「奈緒ちゃん、これ…ペンキよ」


奈緒「そのペンキからなんか出てきとるで」


床に散らばった赤いペンキの中から、ピンクの髪が顔をだす。




歩「やっぱ、奈緒のその能力は卑怯だよ」


奈緒「何言うとんねん、奇襲の方が卑怯や」


歩「待って待って! 3対1をやる方の身にもなってよォ~!」


麗花「歩ちゃん! 一応聞くけど、なんでこんなことをしたの?」


歩「え? え~と…何て言うかさ、心の奥底で「やらなくちゃあならない」って感じがしてさ」


歩「だから倒す。徹底的にね」


奈緒「英語で言ってみ」


歩「え!?」


奈緒「隙あり!」ダッ


歩「わー!マイガー!」


奈緒の口撃に驚くと、歩はペンキの中に『潜っ』た。





奈緒「…ッ!」


麗花「ペンキの中から来る! タンドを…ッ!?」


奈緒「どうしたん?」


麗花「す、スタンドが…出てこない!」


奈緒「!?」


麗花「事故で腕を失った人みたい…動かそうとする感覚はあっても全く動かない…」


奈緒「んなアホな!」


麗花「この『ペンキ』は浴びたらだめよ! 任せたわ…奈緒ちゃん!」


歩「」ニュ


奈緒「後ろ――」


背中から生えるようにして現れた歩は、奈緒の警告より早く麗花を絞め落とす。


キュッ


麗花「キュー…」


歩「これで二人目」


奈緒「麗花ァ!」


ドドドド


歩「次は奈緒の番だよ。ジワジワと肉を削ぎとって骨抜きにしてやる」


歩は再びペンキの中に『潜っ』て、気配を消す。





奈緒「ッ…この部屋はもう『ペンキ』だらけ…場所を変えるが吉!」


ダッ


『どこに行くのさ』


奈緒「塗られてないところや!」


『そんなところもう無いんだけどなぁ』


奈緒「!」


給湯室のみらなず、事務所の中は『ペンキ』で赤一色。


逃げ場はない。


ゴゴゴゴ


奈緒「ヤバイッ…」


歩「」ヌッ


奈緒の真上、天井に塗られたペンキから歩が顔を見せる。


奈緒「防御…ペンキを防ぐ防御手段を!」


歩(終わりだ!)


ダバァ――――!




奈緒「全方位を覆えッ!『H・L・ジェットマシーン』!」


ガオン!


歩「!」


奈緒の姿は真っ黒な人形となり、地面も、それに付着するペンキも、空気も、丸ごと飲み込んで下に落下する。


歩「……逃げたね」ブシュ


空間を飲み込んで階下に逃れた奈緒は歩の視界から即座に外れる。


歩「間違っちゃいないよなァ…相手の領域から逃れるってのは」ポリポリ


歩は自身のスタンドを纏う。


背中に2本のボンベ、救命胴着のような『浮き』を着け、両肩からはホースが伸び、全身を水着のような装甲で被う。


歩「でも間違いだ。知ってるのと知らないのとじゃ『認識』が違う」


全身をペンキの海に沈め、そして『ペンキ』を撒き散らしながら『陸を泳ぐ』!


歩の周囲から離れたペンキ、麗花と美奈子についたペンキは『射程外』となり消えるが、自身の前に撒いたペンキを泳いで奈緒を追跡する。


サァァァァ!!


歩「見えた!」


奈緒「はやっ…走るだけじゃアカン、手を打たな!」


歩「逃げ切る前に追いつけるんだよッ!」


奈緒「んぬぁ~!」


ガオン!


歩「上!」


奈緒「ここまで来てみ!」


奈緒は手近な建物の上に飛び移る。




歩「あのさぁ~……『ゲットマイシャイニン』は『ペンキ』を泳いでるんだから……」


ブシュゥゥウウウウ


奈緒「ゲッ、まさか……」


歩「壁だって『泳げ』るよ!」


ザッパァァァァ!!


奈緒「ああああ! もう!」


歩「中途半端で勝てるか!」


奈緒は建物の上を飛びながら逃走し、歩はペンキをとばしながら追跡する。


奈緒(……『ペンキ』は五メートル位しか飛ばせない。それと、塗ったペンキ自体は十メートルが『射程』!)


奈緒(五メートルならちょっと距離を『削れ』ば叩けるけど、『装着型』やからなぁ……しかもまだ確認せなあかんことがある)


奈緒「勝負はまだや。チャンスは一度……絶対に逃されへん!」


歩「ほらほらほらほら! 反撃してみなよ! 逃げてばっかじゃ勝てないよ!」


奈緒(焦るな……建物の上は上下がバラバラ。本来ならとっくに追い付かれてるはずが、まだ追い付かれてへん)


奈緒(まずは視界から外れる。空間を削りまくって空を飛ぶか、マンホールに潜って姿を眩ますか……必要な『もの』を揃えへんと! 迂闊に近づいたらパーやからな)


歩「煽ってるんだから待ってよー!」


奈緒「ノリで待つかー!」


バッ


奈緒「第一、もう追い付かれへんで」


歩「えっ!」


奈緒の跳んだ先は隣接するビルの屋上ではなく、大通りを挟んだ場所にある建物。


道路は四車線にもおよび、歩の五メートルしか飛ばないペンキでは到底奈緒と同じような移動は不可能。


歩がペンキを塗って移動するならば距離と時間が足りず、奈緒が十分逃げられるだけの差が生まれる。


そして奈緒と今の歩との距離は五メートル以上。


歩は完全に奈緒を取り逃がした。




歩「ああ、なんだその程度か」


ザパァ!


奈緒「跳んだッ!?」


歩「もしかして、ペンキの上でしか追えないと思ってたのか? ならそれは間違いだよ」


ペンキの海からイルカのようにジャンプし、恐るべき速度のまま奈緒に肉薄する。


ドドドド


歩「これで『五メートル』」


奈緒「ッ……」


歩「くらえッ! アタシのペンキで溺れしね!」


ブシャァァァアアア!


奈緒「おおおお!」サッ


奈緒は放たれたペンキに手を向け、体に当たる量を少しでも減らそうとする。


歩「防御が間に合うかァァァァ!」


ビチャビチャビチャ!!


歩「命中ぅ! このままジワジワと追い詰める!」



これで終わり(o・∇・o)
更新が遅いのはアイデアが中々出てこないからです。
お許しください!

ジョジョクロスが増えてうれぴー
投下(o・∇・o)




奈緒「そうはいかんで!」


歩「あれ……? ああああ~~~~ッ!」


奈緒の手にはハンカチが掛かっており、ペンキを完全に防いでいた。


奈緒「そのペンキはちゃァ~んと『付け』なアカンからなぁ? 『物体を透過』出来ない!」


歩「ぐっ……ならまた当てればいいだけ!」


ブシュゥゥウ!!


ガオン!


歩「防いだ……いや、移動した!」


奈緒「上やッ――オラァ!」


バギィ


歩「うっ」フラ


奈緒『オラオラ、オラァッ!』


奈緒は歩を地面に向かって叩き落とし、歩は地面と接触する前にペンキを蒔いて『潜る』。




奈緒「アカン……硬いわアレ」


奈緒(ハンカチで防げるんなら、もっと別なもんでも防げるな……)


奈緒は歩の潜ったペンキから10m以上離れたビルの上にたつ。


奈緒「…………」


奈緒の手にあるペンキが付着したハンカチは、まるで液体窒素に凍らされたかのように動かない。


風になびくこともなく、『固定』されていた。


奈緒「乾いたら剥がれませんって事か? 試しに……」


ガオン!


奈緒「ペンキだけ削った……これなら大丈夫やろ」


奈緒はその場を離れ、コンビニの前に降り立つ。





ウィーン


「いらっしゃっせせー」


奈緒「傘と……サイダー買っとこ」




奈緒が買い物を済ませ、外でサイダーをグイッとあおる。


奈緒「ぷはーっ……疲れた。どうやって歩を倒したらええんか……」


ピチャ…


奈緒「射程はともかく、纏ったスタンドをどうにかしてひっぺがさな……」


ピチャ…


奈緒「どうしようも……って、うるさ――」


ビチャビチャビチャ!!


奈緒「はい……?」


奈緒の服の裾から『ペンキ』が溢れだし、右足をあっという間に塗り尽くしてしまう。


奈緒「なっ!?」


ドドドド


奈緒「い、いつの間に……」


奈緒(足がびくともせえへん……! スタンドは……右足以外は動く! でも射程がほとんど『ゼロ』に……!)


歩『奈緒はさぁ……』


奈緒「! どこや!?」


歩『『ペンキ』の何処に潜るスペースがあるのかか……考えなかった?』




ズブズプ


奈緒「!」


右足の『ペンキ』から『ペンキ』が吹き出して地面に溜まると、そこから歩が現れる。


そして『右足』と『地面』はペンキによって完全にくっついてしまう。


歩『アタシの『ペンキ』は離れていても『一つ』……大樹から生える木の枝の様なもの』


歩『奈緒に繋がる『ペンキ』から離れなければ、射程距離は無いも同然。何か買ってたみたいだけど……それも無駄無駄』


奈緒「へぇ……それにしては、近寄りすぎなんちゃうか!」


ブン!


歩『…………』


ピトォ!


奈緒「うぐっ……」グググ


『H・L・ジェットマシーン』の拳は歩の顔の前で止まる。


歩『もう奈緒はそこから動けない。恐るるに足らずッ!横山奈緒――――!』




奈緒「『H・L・ジェットマシーン』!」


ガオン!


歩『ッ……距離を詰め……て、無い?』バッ


奈緒「それはこれからや!」


フッ


歩『動いた!? いや……』


歩(ペンキを削って、くっついた地面と足を剥がしただけ……倒れるような迫り方……冷静に対処すれば……)


歩はバックステップで後ろに下がり、奈緒がその場にこけて拳を空振るのを観察する。


歩(怪しいことは無し……なら、安全な距離からペンキを)


ビシャビシャ!!


歩「冷たァ!? な、何だ!? このベトベトしたのは……痛ッ!! 目がぁ~~!!」

          スタンド


          スタンド
奈緒「ああ……歩の『装着型』は……顔面が弱点!」


歩『な、なめるなぁ!』


ビシュッ!


ガオン!


奈緒「動けなくてもなぁ……空間を『削れ』ば関係ないッ!」


歩『目が染みる程度ッ!』


奈緒「射たれる前にッ!」


ガッ


歩『ハッ、ホースの口を掴もうとしたって無駄! 体を通過してスタンドに直接ペンキをぶちこんで……』


ドドドドドド


奈緒「足のペンキは『削っ』てあるで……血が止まらへんけどな……」ドクドク


歩『ウゲッ!』


『H・L・ジェットマシーン』は歩の肩よりも上に、つまり、顔の前に――!


奈緒『オラァッ!』


歩『打て打て打てェェェェ――――――――!!』


ブシャァァァ!!


ボゴォ!


歩『ぶべらッ!』


奈緒「うおっ……!」


奈緒の両腕はペンキでキョンシーの様に突き出されたまま固定される。




歩『うっ……意識が、もうろうと……』フラ…


奈緒「こっちのスタンドは自由に動けるで。さっさと顔だして降参し」


歩『負ける……もんか!『ゲットマイシャイニン』!!』


ドプン…


奈緒(潜った……! このペンキ溜まりから逃れるのは逆に危険か……腕のペンキを皮膚ごと削れば、今度こそ『後』がなくなる! 出てくる位置をある程度予測できるここの方が、まだマシかもしれへん)


ゴゴゴゴ


奈緒「さあ……来いや……!」


ザパア!


ブシュゥゥウウウウ!!


一本のペンキの柱が奈緒に向かって飛んでくる。


奈緒「はっ! 正面から堂々となんて、通じへんで!」


ガオン!


奈緒「ここからペンキを削って、動ける領域を――」


パシャン!


ボト…ボト…


奈緒「コー……ラ?」


歩『メントスとコーラだよ。やり返してやったのさ!』




ブシャァァァ!!


今度は、歩はペンキを発射し、一筋のペンキが奈緒を追いかける。


奈緒「ッ……ベトベトやんか!」バッ


歩『おおっと、そんなに激しく動くと……』


ガチッ


奈緒「!!」


奈緒の体はピタリと止まり、その場から動けなくなる。


歩『滴るコーラをペンキで『塗装』した……そして『腕』から垂れるコーラは『地面』と繋がる』


奈緒「そんな無意味なことをッ!」


ガオン!


奈緒「削ったら終わりやで!」


歩『いや~終わってないんだな。これが』


ブシュゥゥウウウウ!!


奈緒「なっ!? ペンキからペンキが!?」


奈緒の腕を覆うペンキからペンキが吹き出し、全身を塗りたくっていく。


歩『顔を殴られて……頭が冴えてきたよ……』


奈緒「うおおおおおおお!」


歩『『スピニングマゼンダ』……もう片方のホースで奈緒を狙撃した』


奈緒「アカンアカンアカンアカンアカン――――!」


奈緒は腕を体の下の方に位置させ、顔を思いっきり上に反らす。




歩『無駄無駄……スタンドは上手く逃したみたいだけど、本体が埋まったら終わりだよ』


モワァ~~ン


歩『……? 何だかいい匂いが……嗅いだことのあるような……!!!!』


歩『まさかッ!!』


ドンドンドンッ!


歩『『スマイルファースト』……美奈子のスタンドだ――!』


奈緒「美奈子……? そうか、美奈子は料理をしてたんやった! 料理の『匂い』があるところで奇襲なんてしたら……」


レバニラ炒め『――――』ヒュン!


歩『や、やば、あい、相性が悪いなんてもんじゃない! あそこにあった食材は何だ!? 奈緒を先に……いや、その隙に料理が……うおおお!』


歩『迷ってられない! 倒せるチャンスを逃すのは愚行!』


奈緒(美奈子……! アカン……もうどうしようも無いんか……!)


歩『トドメだ、完全な止めを刺してやる!』





ダッ


歩『今度こそ止められないぞ!』


奈緒「!」


歩は唯一ペンキの塗られていない顔を狙い、ホースからペンキを発射する。


奈緒は動くことのできる『H・L・ジェットマシーン』で、飛んでくるペンキを大きく口を開けて迎え入れようとする。


歩『それはいつまでも持たない! 勝った! 今度こそ!』


ビュン!


歩『……ん?』


奈緒「な!」


歩の横を通り抜けた『料理』が、ペンキも『H・L・ジェットマシーン』の防御も掻い潜り、奈緒の顔にへばりつく。


奈緒(美奈子のレバニラ……私に……)モグモグ


歩『クソッ! まただよ!』


飛んできたレバニラの皿がペンキを完全にはじき、顔を覆う。


奈緒は『H・L・ジェットマシーン』を後ろに下がらせ、『スマイルファースト』の皿で前を防御する。


奈緒『よっしゃ! これから美奈子の『スマイルファースト』が飛んでくるで!』


歩『あ、ぐ……』


奈緒『はよ逃げたらどうや!』


奈緒(とりあえず煽って、射程距離から逃れな)


歩『……………………いや、これで打ち止めだ』


奈緒「え?」


歩『台所にあった食材と、今飛んできたレバニラの量は同じ!』


ドドドドドド


歩『二度目は無い!』




奈緒『『H・L・ジェットマシーン』!地面を削って離脱や!』


歩『逃すか!』


ガオン!


奈緒は地面を削り、歩は『射程距離』から逃さないように接近する。


歩『『ゲットマイシャイニン』!!』


奈緒『…………かかったな』


歩『その手は喰わな……!!』


歩(地面を削って逃れようとしたんじゃない……『下』に行こうとしたんだ!)


二人は『H・L・ジェットマシーン』が作る縦穴をまっ逆さまに落ちていく。


歩『ははっ、何処を掘ってるんだ? ペンキは上から下に落ちるんだぞ!』


奈緒『今に分かる。歩を追い込んだのは歩自身やってな!』


ガオン!


奈緒『着いたでッ』


プゥーン


歩『ほぎゃ! く、クサい……まさか下水道!?』


奈緒『大正解!』


歩『うわぁぁぁぁああああ!!』


バッシャーン!!


歩は水の中にダイブし、奈緒は空間を削って上手く足場に着地する。


奈緒『アンタがコーラを『塗っ』た時思ったんや。それを水の中でやったらどうなるんかってな』


ゴポポ



奈緒『……まだ水の中からペンキを撃たへんってことは、成功ってことやな』


ドドドドドド


奈緒『あとは一発勝負や。本体に一撃を入れた方の勝ち。さぁ、掛かって――』


ザパア!


歩『――――』


奈緒『出たッ! 『ハッピー……』


歩「おぼっ、おぼれるぅうう!! こうさ、んするから助けで! ゴボボ……」バシャ


奈緒「泳がれへんのかい!」


水面に顔を出した歩はスタンドを解除しており、奈緒の体に塗られたペンキも消えていた。


歩「ごぶっ、たのむよ~! およ、およげないがら!」バシャバシャ


奈緒「はぁ……どうしたろか……」


歩「は、はやくしてェ~!」ゴポ


奈緒はわざとらしく、歩をチラチラと何回も見ると『H・L・ジェットマシーン』を構えた。


奈緒『しゃーない、助けたろ』


ドン!


歩「ね、ねぇ! 後ろのスタンドは何……? ペンキはもう無いはずなんだけど!?」


奈緒『歩なぁ……ケジメはしっかりと、な?』


歩「そんな! マイガー!」


奈緒『オラオラオラオラオラオラオラオラ!!』


ドゴドコドコドコ


奈緒『オラァッ――!』


ドバァー!


歩「んぎゃぁぁああああ!」


ドカン!


歩「」ピクピク


奈緒「ふぅー……本番はこっからやな」


歩「」ムクリ


ドドドドドド


『ソノ通リダ』


奈緒『また会ったな、『マスターピース』!』


MP『第二ラウンドダッ』


歩が再びスタンドを纏うと、スタンドの表面に『マスターピース』か半身を出す。


奈緒『残機アリとか反則やろ全く……』


MP『ハハハハ! コノ閉鎖空間ナラ、ペンキカラハ逃レラレンゾ!』


奈緒『いや、私が戦う必要はもうないんやけど』


MP『ナニ?』


ゴォォォォオオオオ


奈緒『この迫るスタンドパワー、やっぱり忘れられへんわな』


MP『何ガ……何ヲシタ!』


『『スマイルファースト』』


MP『コ、コノ声ハ!』


奈緒『携帯は体を削らんでも取り出せるからな。さっき出しといた……今通話状態やねん』


『奈緒ちゃん、食べ物は無駄にしないでね』


奈緒『当たり前や』


MP『ナニヲシテルゥゥウウウウ――――――!!』


ビュン!!


ドスンッ!


恐るべきスピードで飛来した『料理』の『皿』が、スタンドから出した『マスターピース』の半身を叩き潰す!


MP『アギャッ!』グチャ


『マスターピース』が潰れると歩は倒れ、『スマイルファースト』は標的を奈緒に変える。


奈緒『何を作ったのかと思えば、おやつのゴマ団子や!』


ゴマ団子「」


デェ――――――――z________ン!!


奈緒「……流石に下水道で食べたくないなぁ」



To be continued…

最近ミリオンから離れていたのであんまし書いてませんでした

申し訳ないです


今回、ウミガメのスープを土台にしていますが、実際のウミガメのスープとは異なる点がめちゃくちゃあります。

なんじゃそら?って人は「はい、か、いいえで答えられる質問をして問題の謎を解く遊び」程度の認識でおけ

投下





――路地裏




まつり(あれが……スタンド……)フラフラ


まつりは強大なスタンドに気圧され、半ば放心状態で歩く。


まつり(『スタンド菌』を隠さなくては……)フラフラ


朋花「まつりさ~ん? 一体何処へ行くんですか」


まつりの後ろから、朋花が声を掛けてくる。


人二人が通れるだけの幅しかない道。


まつりは急いで後ろを振り向く。


ドドドド


まつり「朋花ちゃん、なのです?」


朋花「……いけませんね~、そんな顔では私と戦うには相応しくない……」


まつり「ほ、何なのです? 用事があるなら、早く言ってほしいのです」


ドドドド


朋花「うふふ、随分と余裕が無いみたいですね~♪」


まつり「ッ……」


朋花「まあ、『だから』来たんですけれど」


まつり「!」




スタスタスタ


まつり「なるほど……挟み撃ちなのですね」


ひなた「ありがとねぇ、わたしなんかのために」


ドドドド


まつり「……何をお膳立てしているのです?」


ひなた「えっとねぇ、まつりさん。『うみがめのスープ』って知ってるかい?」


ゴゴゴ


朋花「…………」


まつり(ッ……『うみがめのスープ』で戦えるように、わざわざ沈黙の実力行使に出たわけなのですね……! 殴り合いで不利にならないように)


まつり「知ってるのですよ」


ひなた「わたしのスタンド能力はねぇ、『禁止する能力』なんだぁ。決まった場所でないと出来ないんだけど……」


まつり「何が言いたいのです? まつりには全く分からないのです」


ひなた「『今、わたしが何を禁止してるか』を当ててみないかい?」




ドドドド


まつり(断れば、朋花ちゃんに、恐らく……)


まつり「…………いいのですよ。でも、何かしらの『条件』があるのですね?」


ひなた「話が早くて助かるわぁ。
条件はねぇ、質問は『五回』まで、解答は『一回』だけ。それだけだよぉ」


まつり「!!」


ひなた「一応言っておくけど、これは『対等』なんだよ? まつりさんなら、『五回』で答えにたどり着ける、十分にねぇ」


ドドドドドドドド


ひなた「やるかい?」


まつり「ッ……」


まつり(や、やらざるを得ない……スタンドが、精神が揺さぶられている状態なのです、相手の土俵で相撲をとるしかないッ)


朋花「…………」


まつり(この状況ではッ!)


ゴゴゴゴ


朋花「うふふ、頑張ってくださいね~♪ まつりさんが負けたら、『スタンド菌』の在りかを教えていただきますから~」


まつり「はっ!」


まつり(な、ぜそれを……ッ!!)


ドドドド


朋花「固まってしまいましたか?」


まつり「ほ、何を、言ってるのです?」タラー




ひなた「朋花さん、いいかい?」


朋花「はい~、私は大丈夫ですよ」ニコニコ


ドドドド


ひなた「それじゃあ、『うみがめのスープ』を始めよっか」


ひなた「『第一の質問』を」


ひなた「言ってもらえるかい?」


ドン!


まつり(……………………………………)


まつり(まず、確認しないといけないッ……『答え』を『言うことが出来るか』!)


ひなた「…………」


まつり(禁止する能力で『答えを言えなく』すれば、事実上の勝利)


まつり(例え「そう」でなくても、『確認』しなければ「そう」であったときに「何故質問しなかったか?」という筋が通ってしまう……!)


まつり(『第一の質問』は決まりなのです!)


朋花「…………一分経過」ボソッ


まつり「……『第一の質問』なのです」


ひなた「うん、言っていいよぉ」


まつり「『まつりは答えを口にすることができるか?』なのです」


ひなた「…………」


ドドドド


まつり(これを聞かなければ、始まらないのですッ……)


ひなた「……………………」




朋花「はぁ~……」


ひなた「答えは『はい』。何だけど……そんなつまらない質問で、当てられるんかねぇ?」ギロリ


まつり「ッ……」


ドドドド


ひなた「五回の内の一回を、こんな質問に使うなんて……ねぇ。まぁ、続けてよ」


まつり「……」


まつり(揺さぶられているのです。惑わされないで、残りの四回を考えるのです)タラー


ゴゴゴゴ


まつり(……残りの四回の内、二回で『範囲』を特定するのですッ!)


ひなた「あっ、そうそう。またつまらない質問をされる前に言っておくけど、『禁止』できるのは一つだけだよぉ」


まつり(……聞くなら『行動』か『思考』のどちらを縛っているか。無限に広がる『可能性の海』、行く先を示す『灯台』を探すのです!)


ひなた「…………」


まつり「『第二の質問』なのです!」


ひなた「へぇ……早いねぇ。じっくり考えなくていいのかい?」


まつり「心配無用ッ! 質問は、『特定の行動を禁止するものか』です」


ひなた「ふぅ~ん…………『はい』、だよぉ」


まつり「ふぅ……」


朋花「……残りは三問ですね。頑張ってください~」


まつり「…………」チラ




ドドドド


ひなた「あたしの能力はねぇ、『禁止』するって言ってもできなくなる訳じゃないんだぁ」


ひなた「『校則』みたいに、破ってはいけないだけ。破ったらペナルティーがあるけど、『理不尽』な『禁止』は出来ないんだべ……」


まつり「……まつりは、二回の質問を考えて行いました。前提条件があるなら、最初からにしてもらいたいのですよ?」


ドドドド


ひなた「それじゃあ質問は『七回』になるし、インチキはいけないよ?」


まつり「『対等』な条件と自分で言ったのです。言葉を覆すなら――」


ひなた「何か、勘違いしてるのかい?」


まつり「――――」ゾゾッ


ひなた「『質問』なんて、本当は必要ないんだよぉ? 考えればわかるんだもの」


まつり「は、なっ、そんな!」


朋花「おや? まつりさんの取り乱す姿は、貴重ですね~」


まつり「ッ!」


ドドドドドドドド


まつり(ッ……『波紋』、『スタンド』、選択肢は試そうと思えば)


――『「校則」みたいに、破ったらペナルティー』


まつり(あ……)パクパク


ひなた「気付いたかい?」


ゴゴゴゴ


まつり(一歩も、もう、動けないッ……)




ひなた「ねぇ、あたしはもう言うこと無いよぉ」


ひなた「だから」


ひなた「『第三の質問』を」


まつり「――――――――」


ひなた「言ってもらおうかねぇ?」


バン!


まつり(嵌まった……完全に、呑まれてるッ!)


まつり(ですがここは落ち着いて、整理をするのです)


まつり(生命維持は問題ないのです。行動を縛るなら、普通はやらないことを、うっかりやってしまわないことを縛るのです)


まつり「はぁ、はぁー、はぁ……」


朋花「うふふ、そんなに息を吐いて。そろそろ五分が過ぎますよ?」


まつり(時間制限? あ、りえる……)ゴクッ


ひなた「まつりさん、空を見たり、地面を見てくつろいでもいいんだよぉ?」


まつり(いえ、いえ、焦ってはいけない! 惑わされてはいけない!)


まつり「だっ、『第三の質問』はッ! はぁッ、はッ!」


ひなた「…………」


まつり「『禁止しているのは、何気ない行動であるかッ』」


ひなた「うーん…………この状況に限ってなら『はい』だよぉ」


まつり「はぁ、はぁっ、はぁー……」




ドドドド


朋花「お疲れのようですね。喉が乾きませんか?」


ひなた「あと『二回』もあるからねぇ、ゆっくりやればいいよぉ」


朋花「ちなみに、七分が経過しました」


まつり(呑まれるな呑まれるな呑まれるな……隙を見せればヤられるのですッ)


まつり(考えれば答えは出るッ、そう、考えるのです)


まつり(整理しましょう)



Q『何を禁止してるか?』

『答えを答えられるか?』――Yes
『特定の行動を禁止しているか?』――Yes
『何気ない行動を禁止しているか?』――Yes



まつり(の、こり、二回ッ……答えられるのですか……! 余りにも『足りない』!)


ゴゴゴゴ


まつり(『会話』は出来るっ、しかし、それ以外は『誰も何も』やってない! 一歩たりとも、動いていない!)


ひなた「…………はやく答えた方がいいんじゃないかい?」


まつり「ッ、ッ~!」


朋花「焦らずいきましょう~」


まつり(全てが、疑わしく見えてくるッ……!)


To be continued…

次は今年中に

遅れた理由は色々あります
すみません
投下


ドドドド


ひなた「困ってるみたいだねぇ?」


まつり「……!」


ひなた「折角だし、助け舟を出すよぉ……このスタンド能力で禁止に出来るのは「理不尽でない」こと、ルールは平等だからねぇ……」


まつり(突然……何を……)


ひなた「それで、『第四の質問』はまだかい……?」


まつり(やるなら……範囲を絞るか、直球勝負か……『スタンド菌』の秘密が関わってくる以上、賭けに出るのは……)


朋花「……考えなくても正解するかもしれない問題で、何を悩む必要があるのですか~?」


まつり(……………………)


まつり(でるべき、なのです? 残り二回の質問で答えを炙り出せるなら……弱気になっているくらいなら……!)


まつり(まず「理不尽でない」……「普通」の価値観で考えれば、幾つもありますが)


まつり(……やってやるのです。残り『三回』で答えを当てるッ!)


ひなた「……もういいかい?」


まつり「……いいのですよッ!」



ゴゴゴゴ


ひなた「なら、言ってもらおうかねぇ……『第四の質問』を」


まつり「それはッ…………『スタンド能力を禁止している』か!」


ドドドドド


まつり「ッ……」ゴクッ


朋花(…………)


ひなた「…………答えは、『いいえ』だよ」


まつり「そう、なのですか」


ひなた「ねぇ、まつりさん。その質問は矛盾してると思うべさ。あたしの能力に例外はないんだよぉ?」


ひなた「少し考えなさすぎじゃないかい?」


まつり「うぐ……」


まつり(思いついた時は良い質問だと思ったのですが……)


ひなた(そもそも、この問答は『強制』じゃないんだよね。それに『クイズ』でもない……こたえは『やられたくないこと』の何かに決まってるべさ)


ひなた(……余計なことを考えてるからいけないんだよ)


まつり「……ッ」


ひなた(余計なことを考えさせているのは自覚してるけどね)


まつり「はぁ……はァ……」


ポタボタ


まつり「ぁ……」


まつり(『負け』る……このままだと、『負け』てしまうッ! 『スタンド菌』の秘密はバラしてはいけないモノ、ここで発覚するわけには……)


まつり(ですがッ、不明瞭過ぎる……広大過ぎる、謎すぎる!)


まつり(………………………………)


朋花「…………」



ドドドド


まつり(攻撃は出来ないッ……今勝負から逃げ出せばこの厄介なスタンド使い達とまた対峙した時に不利に働くのです……さらに言えば、『スタンド菌』を狙うスタンド使いに隙を見せることに……)


まつり「――――!」


ひなた「ん?」


まつり(『降りて』きたッ……一瞬の閃き!)


まつり(『逃走』と『攻撃』ッ! どちらもこの状況なら普通、そして「もしも能力で禁止にするなら」この二つッ!)


まつり(破れば罰なのです、朋花ちゃんは抑止力!『逃走』と『攻撃』を無意識的に抑止するための人員にすぎないッ!)


まつり(正解のネタは掴んだッ! 勝利は目の前……!)


ひなた「何か、思いついたのかい?」


朋花「…………」


ドドドド


まつり「…………」


まつり「『攻撃』と『逃走』……」ボソリ


ひなた「!!」ギン!


朋花「……!」ピクリ


まつり(今のは質問ではないのです……そして、反応した!)


まつり(答えは『攻撃』!『攻撃』の単語で大きく動揺したッ!!)


ゴゴゴゴ


ひなた「な、なんだい……いまのは?」


まつり「……いえ、何でも無いのですよ」


ひなた(まさか……)


まつり「では……『第五の質問』なのです」


ドドドド


ひなた「ッ」ゴクリ


ゴゴゴゴ


まつり「……」


ひなた「はぁ……はぁ……」


まつり(まだ余裕があるみたいなのです……単なる『攻撃』ではないのです……)


まつり(まだ『質問』の段階……答えは二つに一つ、広い範囲から詰めていくのです。それで十分、それで正解……もっと早くに気付くべきでした)


ひなた「ほ、ほらぁ……早く、質問しなよぉ!」


まつり「……『攻撃を禁止している』のですか?」


ひなた「!」


ドドドド


朋花「…………」チラリ


ひなた「…………『いいえ』だよ」ダラダラ


まつり「なるほど……つまり、攻撃の部分を少し変えればいい、ということなのですね」


ひなた「何を……何を言ってるんだい!? 『質問』は五回まで!『ルール』は守らないと――」


まつり「なら、答えなければいいのです。まつりはただ呟いているだけなのです」


ドドドド


ひなた(いけない……ぼろが……出るかも……)


まつり「『攻撃』……ふむむ。『スタンド攻撃』なら……、ひなたちゃんはまだ『攻撃』はしていないのです……発動しているだけ」


ひなた「早く……早くッ!『答え』を言うべさ!」ジワリ


まつり「……焦っているのです?」


ひなた「いいからっ、早く!」ジワジワ


まつり「…………ほ?」


ひなた「はァー……はッ……!」ダラダラ


ドドドドド


まつり「……お望みなら、『答え』るのです」


ひなた「はぁっ……さぁ、さぁ!」


まつり「『答え』……それは」


まつり「『スタンドでの攻撃』……違いますか?」


ひなた「――――――――」


まつり「『理不尽』ではなく、今の状況なら普通で、スタンド能力そのものを禁止しているわけでもない……当てはまると思うのです」


ひなた「あ、あぁ…………」


まつり「ほ、ほ、ほ……さぁ、言うのです!正解か、不正解か!」


ひなた「…………」


朋花「…………」


ドドドドド


ひなた「そ、の『答え』は……」


まつり(…………これで『スタンド菌』の秘密は守られたのです)


ひなた「『答え』は……あはははは」


まつり「!?」


ひなた「……ははははは……あははははは!ひ――っひひひひひ!!」


ひなた「可笑しいねぇ! 可笑しいよぉ! まつりさァん!」


まつり「な、何が……」


ひなた「その『答え』は不正解! ハズレ! バツ! あうと! 間違っているゥゥゥ――――ッ!」


ドドドドド


まつり「え、あ、え……」




ひなた「『焦った』ねぁ……? 自分の答えが当たっていると思って、焦ったのはまつりさんだべ!」


まつり「ま、まさか……嘘、ウソ……」


ひなた「ウソじゃないべ!」


まつり「ウソウソうそうそ――――ッ!!」


ひなた「さぁさぁさぁ! 話してもらわないとねぇ!」


まつり「そんなはずはないのですッ!」


まつり(『攻撃』じゃない!? なら、多少スタンドパワーが落ちても! 強固突破しなくては!)


朋花「…………」


まつり(先手を打たれる前に!)


ひなた「早く話して……ン?」


まつり「『フェスタ・イルミネーション』ッ!」


ひなた「うぇ!? な、何するつもり……」


まつり「……思えばこの勝負、乗る必要は無いのです!」


まつりは朋花に何かされる前に、目の前のひなたに向かって飛び込む。


まつり「――――!」


朋花「…………」ピシッ


まつり(朋花ちゃんはまだ動いてないのです……今しかない!)


まつりはスタンドの腕を振り上げ、わたわたと慌てているひなたに手刀を見舞う。


まつり『ナノォッ!』


ひなた「あぐっ!」


ひなたはそのまま吹き飛び、まつりはその上を飛び越えて走り出した。




まつり(……この勝負から逃げるのは卑怯なのです……しかし、強制力が無いのもまた事実ッ! 無理やり魂を引き剥がされるようならまだしも、ひなたちゃんのスタンドは「そう」ではないのです!)


まつり(今は逃げさせて――)


ガシィッ!


まつり「なっ……掴まれた!?」


まつりの足は地面から生えた無数の手がしっかりと固定しており、動かすことは叶わない。


ひなた「…………わかってたんだよぉ」


まつり「!!」


ひなた「逃げるにしろ、攻撃するにしろ、まつりさんは『やらなくちゃあ』いけないことがある……ッ!」


まつり「何が、何を、何でッ!」


ひなた「まつりさんがあたしの『やられたくないこと』を連想した時はビックリしたよぉ……でもねぇ、もっと先を見据えないと」


まつり「『攻撃』はルール違反ではないのですッ! まつりはルールを破ってない!」


ひなた「いやぁ……破ったんだよぉ…あたしはねぇ、『先制攻撃』を禁止したんだよぉ……」


まつり「あ……」


ひなた「邪魔なあたしらを退かしたいなら、攻撃しないといけない……単純なことだよ」


まつり「だ、駄目なのです……『スタンド菌』の秘密を漏らしてはいけないッ! 流出させてはいけないッ!」


ひなた「いいかい? まつりさんはねぇ、あたしに会った時から負けてたんだよぉ」


ベタベタベタ!


地面から伸びた手が、まつりの全身を押さえつけて締め上げる!


朋花「安心してください~。秘密が漏れるときには、奈緒さんも仲間ですから」


ひなた「先に奈緒さんを倒してきてもらうよぉ……」


まつり「――――!」


まつり(ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!)



ギチ…


まつりの精神がひび割れ、根の張る音が鳴る。


それはまつりの弱った精神を侵食しながら成長し、現れた。


MP『来タゼ……ヌルリト……』


まつりの精神から現れたのは『マスターピース』。人にとりつき、時間とともに精神を乗っ取っていくスタンド!


朋花「では、おねがいしますね~」


まつりにもう自我はなかった!


しかし、肉体とスタンドは意志をハッキリと示していた!


まつり「…………」


ドドドド


まつり「奈緒さんを……倒せばいいのですね?」



To be continued…

次は冨樫先生より早く投下出来るよう頑張ります

投下するよ(o・∇・o)



奈緒、美奈子、エミリー、歩、恵美、琴葉の六人は765プロ本社の中で、散らばったガラスや粉々に砕けた急騰室の壁の残骸を掃除していた。


律子からの説教は回避できないと皆分かっているため、その顔はやや落ち込み気味であった。


奈緒「何で私らが掃除せなあかんねん」ブツブツ


恵美「物を『直す』スタンドがあったらいいのにね」


奈緒「『壊す』のは楽なのになぁ……」


他人のせいで起こった戦いの痕を、何故被害者の自分達が片付けなければならないのか。


軽く怒りを覚えていたがまぁそこは飲み込む。


この戦いの終わりは近い。いつスタンド使いに襲われるかわからないのに、無駄に怒ってエネルギーを使うのは少々避けたいところだ。


そんな会話を聞いてか、歩とエミリーは申し訳なさそうにする。


歩「ゴメン、奈緒。いつ操られたのか分からなかったんだよ」ショボーン


エミリー「申し訳ありません……」シュン


奈緒「い、いやいや! 二人に怒ってるわけちゃうから! 悪いのは全部黒幕やろ?」アタフタ


琴葉「あんまり気にしない方がいいわよ。……私が言うのもちょっとヘンだけど」




そうこうしていると、扉がガチャリと開いた。


春香「ただいま帰りましたーっ!」


奈緒「!」


琴葉「!」


恵美「ど、どうするのさ……コレ」


美奈子「どうするって……隠すしかないのかな?」


恵美「なら……『アフタースクールパーリータイム』!」


恵美のスタンドが形を変え、部屋の内装と成って目を欺く。


恵美「ふぅ、春香ならこれで誤魔化せるでしょ」


歩(『なら』って……)


春香「あれ?誰もいないのかな……」ストスト


エミリー「こっちに来てます!」


奈緒「……」ドキドキ


春香「あっ、みんなここにいたんだ。あれ?そこの子は……」


奈緒「は、初めまして、横山奈緒です!」


春香「ああ!プロデューサーさんが言ってた新人アイドルさん!天海春香ですっ♪よろしくね」


奈緒「うわー、ほんまもんの春香ちゃんやぁ……」


春香「ところで、みんな一体何をしてたの?」


琴葉「それは、その……」


恵美「駄弁ってた、かな?」


春香「うん、うん、じゃあ時間があるって事だよね?」ゴソゴソ


エミリー「一体、その本は……」


春香「TRPG、って知ってるかな?」ドン


バァァァ~~ンン




美奈子「RPGなら知ってるけど、T?」


エミリー「卓上遊戯のことですね」


春香「そう!よく知ってるねエミリーちゃん」


奈緒(何か始まった……)


ヴヴヴヴ


奈緒(メール……?誰やろ)パカッ



差出人:徳川まつり
件名:お話があるのです

奈緒さん、今日の夜9時に765プロの屋上で待っているのです。話したいことがあるのです



奈緒(まつり……何やろうか、話すことって……)


春香「奈緒は、何かやりたいこととかある?」


奈緒「あっ、私銃とか撃ってみたいです!」


春香「だったら………………」










20:55


765プロの屋上に奈緒は立っていた。


奈緒(……多分、 まつりの話は重たい、暗い話や……海に沈むような内用や)


『そんな、無理強いしてへん!わざわざ、いちいち言わんくてええ!』


奈緒(今日の朝、私は拒絶した……してしまったんや。それでも、話したい事がある……なら、聞いたらなアカン)


まつりが来るまでの五分はとても待ち遠しく、悩ましく、あっという間に過ぎ去ってしまった。


ギィ…


扉が開く。まつりはいつもと変わらぬ格好のままやって来た。


奈緒「まつり」


まつり「奈緒さん」


スタスタスタ


奈緒「話したいことが……あるって?」


ドドドド


まつり「……最初にここで会ったのを覚えているのです? 初対面のまつり達は、協力してスタンド使いを倒したのです」




奈緒「……? 覚えてるけど、それがどうしたん?」


まつり「『コンクリート』から『人間』を離す」


ドシュウ!!


奈緒「……は?」


まつりはスタンド能力で奈緒を真上に吹き飛ばした。


まつり「宣言するのです。奈緒さんはまつりには近付けないと!」


奈緒(何を……言ってるんや……理解が追い付かへん!)


奈緒「わ、訳がわからへんて!まつりィィィ!」


まつり「まつりの秘密を知るものは抹殺するのです。一片の容赦もなく!」


ゴゴゴゴ


奈緒「スタンド攻撃か……? 敵が居るんかッ!?」


まつり「現実を受け入れられないのなら、それはそれでいいのです」


空へ舞い上がった奈緒は空中で動きを静止し、もとの場所へ落下を始める。


奈緒「くうぅ……ッ仕方ない、『H・L・ジェット……」


まつり「『離す』のです」


グンッ!


奈緒「のわッ!?」


奈緒は落下中に風に吹かれる凧のように真横に吹き飛ばされる。


奈緒「まつりの『離す』能力か!? こんなん何も出来へんやんか!」


まつり「……」


ドドドド


奈緒「やるしかないんか……まつり!」



To be continued…

(o・∇・o)

まつりの能力でぶっ飛ばされた奈緒は勢いの減らぬままにビルへと接近する。


奈緒「やばいっ!」


ヒュゥルルルル


ドガン!


ボロボロ…


奈緒「げほっ、げほ……衝撃は殺せたけどなぁ……」


キョロキョロ


奈緒(ここは……誰かの家みたいやな。ソファにテーブル、大型テレビ……リビングか)


奈緒(壁に大穴開けられて可哀想に……早くここを出えへんと……!!)


奈緒は大穴から、何かが飛んできているのが見えた。


奈緒(まつりや……ここに向かってきとる!今ここを出たらさっきの繰り返しや……迎え撃たなアカン!)


ドドドド


奈緒(正直なところ、まつりのスタンドにどう対抗しようかなんて思い付かへんけど……ありきたりな策としては……)


ソファ「…………」


奈緒「隠れる、とか」


奈緒はソファの後ろに身を隠し、まつりが壁に開いた大穴から侵入してくるのを待った。


そして、来た。


ストッ


まつり「…………」キョロキョロ


ドドドド


奈緒(来た……! まつりがこっちきたら、空間を削って拳を叩き込むッ!)


ピトォ!


まつり「…………」


まつりは穴の前に立ったまま、しゃがみこんでテーブルの下を覗く。


まつり「いないのです……しかし、隠れられる場所は限られているのです」


ゴゴゴゴ


奈緒(ッ……流石に、バレるか……!?)ツー


まつり「ソファの後ろにいるのですね」

奈緒(出たらアカン……まだ分かってへん……)


ドッドッドッ


まつり「無駄な抵抗をやめて、出てくるのですよ……!」


スタスタ


奈緒(ど、どうする……どうせいっちゅうねん!)


「だっ、誰かいるのかァ~~?」


まつり「む」


奈緒「!」


奈緒(ここの住人ッ、音を聞いて起きてきたんや!)


ゴゴゴゴ


奈緒はコッソリとソファの陰から様子を探る。


「だ、誰だ君は!?」


ここの住人らしき男がリビングに繋がる廊下から出てくる。


まつり「……」コォォォ


「なん、なんとかいいい、いったらどうだ!?」


奈緒(このまま隙を突けるか……?)コソリ


まつり「た、助けてくださいィィィィ~!」


奈緒(……? 滅茶苦茶切羽詰まった……演技やな)


「え?あ、うん?よく分からないけどォ……(ウヒヒ、よくわかんねーけどラッキー!)」


心配して近寄った男の頭をまつりが素早く触れると、彼は「ウピゥ」と声を出して崩れ落ちる。


ドサリ


まつり「邪魔なのです」


奈緒「ッ!?」


奈緒(今……何をやったんや!? スタンド能力で酸素を『離し』たとか、そういうのじゃあらへん)


奈緒(もっと別の……得体の知れない何かを! まつりはやって見せた!)


奈緒(亜利沙のスタンドと戦ったとき、私を治療したヤツか……? 分からん……)


奈緒(いよいよもって、勝ち目が薄くなってきたで……)


ドドドド


まつりは倒れた住人には目もくれず、奈緒の捜索を始める。



コツコツ…


奈緒(こっちに……来る、一直線に)


まつり「奈緒さん……居るのは分かってるのですよォ~?」


まつりはソファの真ん前まで来ると、覗き込むようにソファを迂回し始めた。


コツ…


奈緒(猶予がないッ……まつりの目を欺くしかない!)


まつり「……」コツコツ


バッ!


奈緒「…………」


ゴゴゴゴ


まつり「いない……のです」


奈緒はソファの下の空間を削り、そこに身を潜めた。もしも大穴から差し込む月光が強ければ、もしも住人が明かりをつけていれば、ばれることは必至だっただろう。


奈緒(流石に夜目は効かんか……)


まつり「なら、テレビの裏……?」


ドドドド


まつりはソファの対面にある大型テレビに向かって歩き出した。


奈緒(今しかないッ! まつりが背を向けた今しか!)


奈緒は『H・L・ジェットマシーン』でソファを削ってまつりの背面に瞬間移動し、拳を振りかぶった。


奈緒『オラァァァッ!』


まつり「! ……『離す』」


奈緒「なッ!?」


グワワワァァァン!!


奈緒の拳が当たる寸前で体が吹き飛び、壁に叩き付けられる。


ビタン!


奈緒「かはっ……」


まつり「……無駄なのですよ、無駄無駄。策を労しても姫には指ひとつ触れられないのです」

まつりはピタリとも動かず、奈緒から仕掛けるのを待っていた。


奈緒(早いッ……空間を削って殴る時間があったら、まつりに好きなように行動を許してしまう……)


奈緒(『ぶん殴る』っちゅー行動だけで済ませるなら、まつりにはピッタリとくっつかなアカン……そんなんは『アフタースクールパーリータイム』でもないと出来へんし、恵美は今ここにはおらん)


奈緒(吹っ飛ばされて叩き付けられるだけでもダメージは蓄積するのに、更に隙がない……こんなん反則や!)


まつり「…………」


奈緒「…………」


ドドドド


奈緒(一旦引くッ……ここやったらどうしようもあらへん!)


奈緒「『H・L・ジェットマシーン』!」


ガオン!


奈緒は背後の壁を削り、夜の町へとダイブした。


奈緒「近くまで寄ってもバレない……そんな場所……あッ!」


奈緒(『人』を隠すなら、『人』の中!)ピコーン


奈緒「そうと決まれば早速……」


まつり「どこへ行こうというのですかッ!」


奈緒「!」


まつりは真上から奈緒を急襲する。


まつり『ナノォ!』


奈緒「ッオラ!」


ガーン!


ブシュッ


奈緒「あぐぅッ!?」


拳を突き合わせた『H・L・ジェットマシーン』と『フェスタ・イルミネーション』だったが、『H・L・ジェットマシーン』は力負けする。


まつり『ナノナノナノッ!』


奈緒「ごふ、おぶッ!」


ドスガス!



まつり「そして間髪いれずに『離す』!」


ヒュゥゥーーン…


ズガン!


奈緒「がっ……はぁ、はぁッ……強い……」


奈緒「生半可な近距離型は打ち負けて、そうでなくても近寄れないッ……不意を突こうとすれば逆に突いてくるような速さもある……」


奈緒「これは、ますます厄介や……」ズル…


壁際で奈緒は蠢き、背後の壁を削って強引に建物の中に入った。


そのビルの中の店は閉店した後で、中は暗く人は殆どいなかった。


奈緒「『人』……紛れなアカン……まつりの目を欺くためにッ!」


転がりながら奥に入った奈緒を、まつりはゆったりとした歩調で追う。


まつりは店内に入ると、奈緒の姿を探す。


まつり「広い……『服屋』に逃げたみたいなのです」


まつり「マネキンと暗闇に乗じてまつりに奇襲を仕掛けようという腹積もりなのですね?」



奈緒(……どこに隠れたかまでは分からんみたいやな)


ドドドド


奈緒はハンガーに吊るされた服に身を屈めて隠れ、まつりの様子を服の隙間から伺った。


まつり「ほ…………」コォォォ


奈緒「!!」


奈緒(あの奇妙な呼吸リズム! 忘れもしない、人をあっちゅう間に気絶させたときにやってたヤツや!)


まつりは服を着て立つマネキンに近付き、触れながらゆっくりと店内を廻る。


奈緒(……私がマネキンに化けとると思ってるんか?)


奈緒は試しに『H・L・ジェットマシーン』で離れた所にある服を、床に落としてわざと音を立てる。


パサ


まつり「……」ピタ


奈緒(止まった……)


まつりは今まで歩いていた方向を変え、奈緒が音を立てた場所に近づく。奈緒は機会を伺おうとその場を離れる。


奈緒(いまいち、まつりが何をしたいんか分からん……)



奈緒が見張り続けていると、まつりはマネキンの後ろ……奈緒からは見えない場所を通る。


二秒、三秒……何秒経ってもまつりは姿を見せなかった。


奈緒(何でや……何でマネキンの後ろに隠れて出てこな……ッ!!)


ドドドド


奈緒(まつりは私の位置を「知らない」筈なのにッ……どうして隠れることが出来た!? 簡単や、私の位置を見抜いたからッ!)


奈緒がその場を移動しようとすると、視界に大きな鏡が入る。


奈緒(鏡やッ……こんな暗い中でどうやって見たのかは知らんけど、こっちの位置をそれで見つけた!)


奈緒(鏡にも気を付けて……)


まつり「見つけたのですよ」スッ


奈緒「いッ……!?」


まつりは奈緒の目の前に現れる。


ドドドドドド


まつり「『H・L・ジェットマシーン』の射程は精々5メートル……音を立てずに動ける範囲も高が知れているのです」


まつり「居場所は考えればわかるのです……ね?」


まつり『ナノォ!』


奈緒「ッ……」


ガオン!


『フェスタ・イルミネーション』のパンチを、奈緒は後ろを『削っ』ての瞬間移動で避ける。


奈緒(まつりは強いッ! 想像以上に! どうやって戦えば……)


ピシャッ!


奈緒「冷たっ!」


攻撃を避けた直後の奈緒に、まつりはペットボトルから水を振り掛ける。



奈緒(水……? 一体何がしたいんや、まつりは)


まつり「…………」コォォォ


奈緒(この奇妙な呼吸リズム!まさか、『水』を伝ってッ!?)


奈緒は自分にかかった水がまつりの足下にまで繋がっているのを確認する。


まつり(波紋、疾走ッ!)


バチバチィ!


奈緒「うおおお!水を削れッ!『H・L・ジェットマシーン』!」


ガオン!


まつり「ほ?」


奈緒「そして逃げる!」


ダッ!


まつり「まつりの波紋を見破るとは……中々やるのです」


奈緒(ハモン……スタンド能力……頭の回転……何もかも私の上をいってるッ)


奈緒(どこにいったら勝てる? どうやったら欺ける?)


奈緒(今までは誰かと一緒に戦ってた……でも、今は一人……一人でやらなアカンッ!)


奈緒(まつり、待っとってな……正気に戻したるからな)






To be continued…



本体・人間・横山奈緒
スタンド・『H・L・ジェットマシーン』

近距離パワー型・亜人間型

破壊力C  スピードB  射程距離C(5m)

持続力B  精密動作性A  成長性C


能力『空間を削る』

能力射程 5~10

カエルとオタマジャクシの中間のような灰色のスタンド。パックリと開いた口は人と同じように働き、空間をあらゆる方法で削る
(例、口で「噛んだ」箇所は削れる
   水のように空間を「飲む」  )







人間・徳川まつり
スタンド・『フェスタ・イルミネーション』

近距離パワー型・人間型

破壊力 B  スピードB  射程距離D (3m)

持続力A  精密動作性A  成長性E

能力『触れた物体から別の物体を離す』

能力射程 A


触れた物体に接触している物体を離す事が出来る。

『空気』を『空気』と認識するか、『空気』を酸素や窒素の集まりと認識するかで応用の範囲などが異なる。

人間を人間と認識するか、タンパク質や脂質の集合体と認識するかなど、まつりの知識によっても応用が効く。



本体・人間・舞浜歩
スタンド『ゲットマイシャイニン』

装着型

破壊力E  スピードB  射程距離C

精密動作性D  持続性B  成長性D

能力射程C


能力『ペンキを移動する能力』

肩のポンプからペンキを発射し、ペンキの海を泳ぐことができる。また、ペンキに『潜』れば同じペンキが付着した場所に移動することができる。

水ではないので歩は溺れない。スタンドがビート板の役割を果たしている。

顔面はセーフではなくアウト、弱点である。





本体・人間・木下ひなた
スタンド『アイテルワッツユー』

憑依型

破壊力―  スピード―  射程距離A (数十キロ)

精密動作性D  持続性A  成長性C

能力射程A(数十キロ)


能力『行動を禁止する能力』


土地に憑依し、決められたルールに反した者を攻撃する。

ルールは理不尽でなく平等でなければならない。


奈緒(ちゃんとまつりの話を聞いとったら、こんなことにはならんかったんかな……?)


奈緒(一人で『スタンド菌』だなんて物を持って……思えば、美奈子も私が倒さなかったらずっと辛いままやったろうな)


奈緒(……まつりの心と、私の意気地無しに決着を着けなアカン。『Da』のみんなに力を合わせたら勝てるってことを教えたらなアカン)


奈緒(まつりと戦ったなんて知られた らいけないんや……)


奈緒(だから、私一人で決着をつける!)


奈緒「うっ!」


ダッ!


まつり「また逃げて、隠れるのですか!? まつりを倒すなら、向かってくるしかないのです」


奈緒「分かってる」


奈緒「だからこうしてるんや」


奈緒は再び服の山と暗闇の中に姿を隠した。


まつり「まつりに敗北は無いのです。例え奈緒さんが何を企んでいても、なのです」


まつり(まつりにはどうあっても近寄ることは出来ないのです。釣り出して倒す、簡単なことなのです)


まつりは奈緒を探すべく歩き出した。


ガコン!


まつり「!? 落とし穴なのです……」


まつりは自分の足下にあった、浅く広い穴に躓く。


そこからは点々と、片足が嵌まってしまう程度の穴が道のように連なっていた。


まつり「この穴は『H・L・ジェットマシーン』で空けたもの、つまりこの奥に居るのですね」


まつり「何処に隠れたのかは知らないですが……穴に躓くような姫ではないのです」


まつりは足下とサイドの服の影に注意を払いながら跡を追う。

まつり「奈緒さんの出来ることは『削る』事だけ、精々が暗闇に隠れて近付く位なのです」


まつり「マネキンに紛れても」


マネキン「……」


まつり「天井に潜んでも、穴や影に隠れても、まつりの『離す』能力には近寄れないのです……ね?」


ドドドド


まつり(いない……目ぼしいところに隠れていないのです? 真正面からは絶対に来ないですし……)


まつり「何処に行ったのです……」


ゴゴゴゴ


まつり「いないッ……そんなことはあり得ないのです!」


バッ!


まつり「まつりの目に、奈緒さんの姿が映らないなんて!」


キョロキョロ


まつり「一体、何処へ……」


スゥ…


奈緒「…………」


ドドドドドド


まつり(いるッ……まつりの真横に、前触れもなくパッと出てきたッ!)


奈緒「『H・L・ジェットマシーン』はなぁ、光も食べて消し飛ばすスタンドや」


奈緒「私に当たる光を『削っ』たで……光が無いなら姿は見えへん。昼ならまだしもこの暗さや」


ドドドド


奈緒「あとは1動作、殴るだけや!」


まつり「ッ! 『離す…」


奈緒「オラァァァッ!」


バァキィィィイ!


まつり「ぐふゥッ!」


奈緒はまつりの横っ面に一撃を叩き込んだ。


奈緒「折角掴んだチャンス、『離さ』れようが何されようがやらせてもらうでッ!」


ドバァァァ!!


まつりと奈緒は互いに逆方向へ吹き飛ぶ。


ガッ


まつり「ぐッ、ハァ……ハァ……」


奈緒「まだッ、足りない!」


ドドドド


まつり「ハァ……まつりに近付けた事は褒めてあげるのです」


まつり「しかし、姫に二度も同じ策は通じないのです。次は無いのですよッ!」


奈緒「ッ……やってもうた」


まつり「はいほォォォ――――!」


ドッ!


まつりは一気に奈緒との距離を縮める。



奈緒「ちぃ!」


まつり「『離す』!」


ドバァァァ!!


まつりは奈緒を『離し』てガラス張りの入り口に吹き飛ばす。


奈緒「なっ!」


ガオン!


奈緒「ガラスは『削っ』た……でも」


まつり「姫からは逃がれられないのですッ!」


ギュォォォォ!


奈緒「自分を『離し』て突っ込んでくる――!」


まつりは奈緒が削った穴を通って、奈緒に肉薄する。


まつり「ぱわほォォォオオオ!」


ビュン!


奈緒「飛び上がった……? どこに行ったんや!?」


まつりは奈緒を通過して飛び去った。


ネオンが照らす街で、奈緒は一人取り残される。


奈緒「ッ……」


…ゥゥルルル


奈緒「何の音や?」


「キャァァアア!」
「ゲェーッ!」
「危ないぞー!」


悲鳴が上がり、遠巻きに奈緒を見ていた人が指をさす。

ポツリと奈緒の頬に水滴が落ちる。


奈緒「上か!」


ヒュゥルルルルル!!


奈緒「貯水槽ッ! また水かいッ!」


まつり「ブッ潰れるのですッ!」


ガオン!


ドッシャァァアアアン!!


まつり「そして水を伝う波紋ッ! 360°を水に囲まれれば脱出は不可能ッ!」


まつり「トドメのラッシュなのです――――ッ!! ナノナノナノナノナノッ!」


ドンドンドガッ!


まつり「HAAAAYYYYYHUOOOOOOO!!」


ドコドガボガッ


まつり「……ここまでやれば、いい加減倒れるのです」


奈緒「――そうでもないで」


ドドドド


まつり「……穴を掘って逃げたのですね」


奈緒「また近づいたぞッ!」


まつりの攻撃を逃れた奈緒は、まつりの後ろに現れた。


まつり「しかし、『コレ』は予測済みなのです……ね?」


奈緒「オラァァァ!」


まつり「『離す』ッ!」



『H・L・ジェットマシーン』の攻撃は、まつりが奈緒を『離し』た事で命中しなかった。


スカッ


奈緒「なにッ!?」


まつり「もう『一手』は詰められないのですッ……何故なら……」


ゴォォオオッ!


奈緒「うおっ……飛んでる……遠くまでッ!」


『離さ』れた奈緒はどんどん飛んでいく。


奈緒「どこまで飛ばすんや……!?」


空を舞う奈緒は、自分が水のある場所に飛ばされていることに気付いた。


奈緒「川ッ……私を川で始末する気か!」


ザッッパァァァアアアンン!!


奈緒「くそっ、ビショビショや!」


腰まで水に浸かってしまう。


真っ暗な水面から見上げる空に、星とは異なる点が浮かぶ。


奈緒「来るッ……まつりや!」


まつり「HHUUUUUUOOOOOOOOOOッ!!」


まつりが空から流星のように降ってくる。


奈緒「着地点で叩くッ! 水に触れられる前に攻撃を叩き込む!」


ガオンガオン


奈緒は空間を『削っ』た瞬間移動で回り込んだ。


そして二人の距離が数メートルにまで近付く。


奈緒「オラァッ!」


まつり「ニヤリ」


奈緒「!!」

ゴゴゴゴ


奈緒(笑った……私を見下した笑みッ! おまえの足掻きは無駄だと馬鹿にしている!)


まつり「そう来ると思ったのです……波紋を流されまいと接近してくるのを!」


奈緒「なんやて!?」


まつり「パワーはまつりの方が上ッ! ぱわほーな一撃をお見舞するのです!」


二人のヴィジョンが有らん限りの力を込める。


奈緒「パワーはまつりのが上やッ、でも!」


まつり「無駄無駄無駄なのですゥゥゥ!」


ドドドド


まつり「ナノナノナノナノナノォォォオオオゥッ!」


グイッ


スカーッ


まつり「……ほ?」


まつりのラッシュは外れる。


奈緒「そら真正面からやったら、打ち負けるなぁ」


まつり「い、いま……まつりを引っ張ったのは!?」


奈緒「『空気』だけを吸わせて貰ったで……『真空』がまつりを引き寄せた!」


奈緒「伸びきった腕にパワーは無いで」


まつり「う……」


ドドドドドド


奈緒『オラオラオラオラオラ! オラァァァ!』


まつり「うわぁぁぁああああ!!」


ボグシャァ!


まつりはコンクリートで固められた堤防に落ちる。


まつり「…………」


シーン


奈緒「はぁ……はぁ……勝てた、まつりに……」


奈緒「まつりは『離し』てやなくて、スタンドで『直接』攻撃をしようとしてた……だから勝てた……」


奈緒「まつりがこのまま気絶したなら、話し合って理由を聞かなアカン」


奈緒「だけど、もしも……もしも操られてたなら……」


ゴゴゴゴ


まつり「…………」フラッ


まつりが声もなく立ち上がる。


奈緒「安心し、次も勝つッ!」


MP『コノ俺ニ、勝ツダトォォォ!?』


まつりから出た『フェスタ・イルミネーション』の額に『マスターピース』が顔が現れる。


ドォォォォ――――ン!


奈緒「せや、アンタに勝つ」


奈緒(よかった……この戦いはまつりの意思ちゃうんや)


MP『コノ女ニアル『波紋』トカイウ能力ナラ……『川』ノ中デ敵ナシ!』


MP『負ケル要素もネェェェ――――――ッ!』


奈緒「違うで、『マスターピース』! アンタが誰にとりついても、永遠に勝つことはないッ!」


奈緒「隠れてコソコソしてる様な奴に! 私が負けるはずないやろォォォォ――――ッ!」


MP『『波紋』ダッ! アノ奇妙ナ呼吸ヲ……コ、ココ……コ……』


まつり「…………」スゥー


スタンドからまつりの肉体を操るが、呼吸は普通のものである。


MP『何故ダ……体ガ、イウコトヲキカネェ!?』


この時、奈緒には不思議な確信があった。


奈緒(まつりが抵抗してる! 『マスターピース』の支配にッ! 私は、最初から一人やなかったんやな……ッ!)


奈緒(今しかないッ! 『二人』で戦ってる今しか!)


MP『出来ネェナラ……『離ス』ゼ!』


MP(ケケケ……近ヅケサセズニ、ジワジワトナブリ殺シニシテクレルッ!)


グン!


奈緒「!」


ザバザバ!


空気から離された奈緒は数メートル後退するが、それだけであった。


奈緒「……こんなもんか」


MP『アリエネェ……コノ体ヲ支配シタノハ俺ダッ! ナンデ制御デキネェェェェエエエエ!?』


ガオンガオン


奈緒が『マスターピース』の出た『フェスタ・イルミネーション』の前に立つ。


奈緒「それがあんたの限界や」


MP『ダ、黙レェェエエエエ! パワーハ、コッチノ方ガ!』


ブン!


奈緒「オラオラオラッ!」


ガンガン!


ブシュッ!


MP『グガァァ! 打チ負ケタ……ダトォ!?』


奈緒「理解できへんか? 『マスターピース』」


奈緒「私らの『絆』は『支配』の鎖を打ち砕くッ!」


奈緒「みんなで戦う私らと、たった一人の違いッ!」


『H・L・ジェットマシーン』が口を開ける。


MP『ヤ、ヤメ』


ガオン!


スゥ…


『フェスタ・イルミネーション』が消え、まつりの支配が解ける。




奈緒「終わった……いや、これからやな」


ムクリ


まつり「! ここは……」


奈緒「気が付いたみたいやな」


まつり「奈緒さん……! 一体何が起きたのですか?」


奈緒「説明したいけど……クシュン! まず家に来てくれへん? 寒くて寒くてかなわんわ」


まつり「……ほ?」




To be continued…

つづく




奈緒(まつりとの戦いの後、私の家に帰って一緒にお風呂に入った。銭湯に行ってもよかったけど開いてへんかった)


奈緒(この前はまつりから逃げてしまった……せやから、今度こそ向かい合わんといかん)


奈緒(二人でなら、どんなスタンド使いにも立ち向かえる気がした……まつりがいると安心する……前に進む勇気が湧いてくるんや)


奈緒「まつり……一緒に戦おう」


まつり「…………」


奈緒「思い返せば、私は一人で戦ったことなんて無かった……必ず誰かと一緒にいたんや」


奈緒「海美と戦ったとき、まつりは気絶している間にいたし、美奈子も駆け付けてくれた」


奈緒「まつりが居ない間に戦った歩とエミリー、倒した時には誰かが側にいた」


まつり「そうなのですか」


奈緒「……まつりと戦ったとき、今度こそ一人で戦うんやと思った……」


奈緒「でも、まつりは『マスターピース』に抵抗してた、それがなかったら私は勝てなかった筈や。……結局、私は誰かに助けられてたんや」


奈緒「みんなに勇気を貰って、戦ってたんや!」


まつり「ほ……」


奈緒「だからまつりが一人なら、もしも誰とも戦わないつもりなら……絶対にそんなことはさせへん!」


奈緒「私が助けられたように、私もまつりを助けたい!」


奈緒「なぁ……駄目か?」


まつり「そんなことを言われたら……」


まつり「断るわけにはいかないのです」


奈緒「!」



まつり「すぴぃーでぃーにみんなを仲間にして、黒幕を倒すのです!」


奈緒「…………」


まつり「そうしたら、トップアイドルを目指して精進あるのみ、なのです……ほ?」


奈緒「……」


まつり「奈緒さん?」


奈緒「いや……なんだか安心して、眠たくなってきたわ……」


まつり「……」


奈緒「……」


まつり「夜更かしはお肌の敵なのです、早く寝ましょう」


奈緒「せやな」











次の日


奈緒「遅刻やッ!」


まつり「寝坊なのです!」



奈緒「またレッスンに遅れてもうた! ……兎に角急ぐで!」


まつり「今日はどこの部屋なのです?」


奈緒「三階のあそこや! 未来と杏奈が待っとる!」


二人はドタドタと階段を駆け上がって、レッスン場の扉の前に辿り着く。


奈緒「あ~、二人とも怒ってるやろな~」


まつり「早く行くのです」


ガチャ


まつり「遅れて……ほ?」


奈緒「なんや? どうしたって……あれ?」


まつり「誰もいないのです」


シィィィ――――――z______ンンン


まつり「部屋を間違えたわけではないのです……二人のタオルとペットボトルがありますし」


壁の一面に貼られた鏡の反対側、タオルが二枚とスポーツドリンクが二本置いてあり、見覚えのある鞄も無造作に置いてあった。


まつり「休憩でもなさそうなのです……戻ってくるまでストレッチでもしてるのです」


ゴゴゴゴ


まつり「奈緒さん、すぐに着替えましょう」


クルッ


まつり「……奈緒さん?」


振り返ったまつりの視界に奈緒は映らない。


そこにいた筈なのに誰も居ない。


まつり「ほ?」


ドドドド



まつり「奈緒さん! いないのですか!」


??「もう横山さんは消えました……」


まつり「後ろッ!」


バッ


瑞希「パッと……小さくなって消えたのです」


赤色の布の様なものが、まつりを包もうと襲い掛かる。


まつり「音の位置はマントの真後ろからしたのです、マント越しにラッシュを叩き込むッ!」


まつり『ナノナノナノナノッ!』


バキバキバキッ!


まつり「これは……機械音! まつりが攻撃していたのは瑞希ちゃんではない!?」


瑞希「それはレコーダーです……そして『マント』、私の『ポーカー・ポーカー』はまつりさんを包む……」


まつり「ぐッ!」


ファサッ


赤色のマント『ポーカー・ポーカー』はまつりを包んだあと、すぐに取り去られた。


まつり「瑞希ちゃんは、それに奈緒さんは?」


キョロキョロ


まつり「はっ!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴ



瑞希「…………」


まつり「で、デカイッ! 超弩級なのです!」


まつりは遥か頭上に聳え立つ瑞希に気付いた。


まつり「このスタンド、一筋縄ではいかないッ!」


巨人となった瑞希の足元で、まつりは呆然としていた。


ドドドド


まつり「この大きさの差では、すぐにやられてしまうのですッ……」


瑞希「…………」キョロキョロ


まつり「……いえ、何かを探してる……? そういえば、未来ちゃんと杏奈ちゃんが先に来ていたはず……」


まつり「この大きさだから見逃してしまったのです? それで困るとしたら……もしかしたら射程距離から逃れると元の大きさに戻れるのかもしれないのです」


マツリー


まつり「今のうちに逃れるッ!」


マツリー!!


まつり「…………何なのですか?」


クルッ


まつり「あっ!」


豆粒のように小さく見えるが、遥か向こうに奈緒の姿が見える。


まつり「奈緒さんもでしたか……」


まつり「……これは少々、骨がおれるのです」





To be continued…

終わり(o・∇・o)

奈緒「瑞希のスタンドで小さくなってしまった!」ガーン


奈緒「こんな大きさやったら攻撃もろくに通じへん! 私達より先に来てるはずの未来と杏奈も、今いないって事は小さくなってる筈や」


奈緒「目指すのはあの子らの持ってきた荷物の中! 体を隠せるし、ここで瑞希と絶望的な戦いをするよりはましや」


ドドドド


瑞希(見失ってしまいました……。機会を伺いすぎたせいでしょうか)


奈緒「まつりとも合流したいし……」


まつり「奈緒さん〜!」


やや遠くから、まつりが奈緒を呼ぶ。


奈緒「おった!」


まつり「向こうへ行くのです!!」


まつりが指すのは、図らずとも同じ場所。遠方に鎮座する学生鞄だ。


奈緒「分かった!! 今そっちに……」


ドドドド


瑞希「…………」


ゴゴゴゴ


奈緒「見付かった! 大声を出しすぎたか……」


瑞希「……何処かへ行かれない内に、捕まえてしまいましょう」


まつり「走るのですゥゥゥゥウウウウウ!!」


奈緒「うわぁぁぁあああ!」


奈緒は有らん限りの力で走ったが、如何せん歩幅が違う。あっという間に瑞希に追い付かれ、むんずと捕まれそうになる。


奈緒「速いッ……」


瑞希「蟻と人間、月と太陽、大きさの違いは絶対に覆せません」


グッ


奈緒「うおおおおお!」


瑞希が人差し指と親指で奈緒をつまみ上げた。


奈緒「グエーッ!」ヒョイ


まつり「奈緒さん――――!」

奈緒「大丈夫や! 何とか出来る!」


瑞希「何とか……ですか。捕まっているのに?」


奈緒「当然! 『H・L・ジェットマシーン』がどういうスタンドか、知らんわけないよなぁ!?」スゥゥ


瑞希「!」


奈緒「指の一本二本は……ギャッ!?」


グィィーーッ!


瑞希は指を削られる前に、奈緒を勢いよく上空へ放り投げた。


少しの浮遊感も束の間、奈緒は落下し始める。


奈緒「うあああああ!」


瑞希「…………」


ドドドド


瑞希「実は、近くに来てもらえればよかったんです」


奈緒「なにぃ〜!?」


瑞希「そうすれば……じゃじゃーん」


スッ


まつり「は、ハエ叩きッ!?」


瑞希「これで一方的に攻撃できるからです。……『三回』、落ちる横山さんに『三回』だけなら叩き込めます……よし」


瑞希「再起不能してください」


奈緒「このォ〜〜! 仮にもアイドルを鬱陶しい小バエみたく叩き潰す気か!」


瑞希「……それは私もです、それ」


ヒュゥン!



右から左へ凪ぎ払うように振るわれたハエ叩きが、奈緒を『面』で捉える。


奈緒「速いけどなぁ……見切れん訳やない!」


ガオン!


奈緒「どうや!」


奈緒は網を削り、火の輪潜りのライオンのように掻い潜って見せた。


瑞希「…………」


瑞希は無表情のままもう一度ハエ叩きを振る。


奈緒「はんッ! 同じ手を食らうか!」


瑞希「ニヤリ」


奈緒「っ!?」


ヒュゥン!


奈緒「『面』じゃない、『ふち』や! チーズをスライスするみたく『斬っ』てくるぞォォォォォ!」


瑞希「『H・L・ジェットマシーン』が一度に削れるのは精々が胴回り程度……『面』を横にすれは、避けきることは出来ません」


ドドドド


瑞希「まずは一人」


奈緒「『H・L・ジェットマシィィィィン』!!」


ガオン!


ヒュッ!

瑞希「む、外れましたか……」


奈緒「横がダメなら下に逃げればええ、変にヌケてて助かったわ……」ドキドキ


ドドドド


瑞希「『三回目』……」


瑞希はバトンを回すようにハエ叩きをクルクルと回転させて、持ち直す。


まつり「あれはッ!」


瑞希は『面』の根本を持ち、持ち手部分で攻撃する構えを見せた。


瑞希「四番、真壁瑞希」


奈緒「ばっ、ハエ叩きをバット持ちするやつがあるかいな!!」


瑞希「打ちます」


ビュッ!


今までとは桁違いの速度で振られたハエ叩きは、奈緒の目の前を通過しただけだった。


奈緒「はん? なんや、空振ってしまったんかいな」


まつり「防御するのですッ! 奈緒さ――ん!」


瑞希「このハエ叩き、ハエを摘まむ為のものが付いてるんです」


ドドドド


瑞希「持ち手の根本にはめ込むように、付いていたんです」


瑞希「それを今、飛ばしました」


ギュゥゥゥン!


奈緒「!?」


バグォオ!


奈緒「おげっ!?」

ピンセットのようなものが奈緒の腹に命中すると、奈緒はそのまままつりの方へと飛んでいく。


奈緒「げふっ……ダメージはあったけど、叩かれるよりはマシや……このまままつりと合流してしまえば……」


ギューン!


まつり「奈緒さんッ! 早く『H・L・ジェットマシーン』を出すんです!!」


奈緒「なに? ハエ叩きは乗りきったはずや……」


瑞希「既に、次の手は打ちました」バンッ!


奈緒「んなアホなッ!」


落下する奈緒の目が捉えたのは、瑞希の持つビー玉の入った網。彼女は玉を袋から出さずに、袋ごと投げた。


まつり「今すぐ避けるのです――――ッ! まだまつりのスタンドの射程ではないのです!」


奈緒「う、うおおおおお!」


瑞希「ビー玉の『大砲』……避けられないぞ」


ゴォォォォオオオオオオ!


小さくなった奈緒を四人並べても足りない大きさの『大砲』が、奈緒目掛けて飛んでくる。


奈緒「横の空間を削って回避や! 『瞬間移動』しろ――――ッ!!」


ガオン!


まつり「やったのです!」


瑞希「…………」


ドドドド


瑞希「得意のポーカーフェイスで……」


ブチブチ…


ビー玉を入れる網が千切れる。空中でバラバラになった網は、中身をばらまく様に分解してしまった。


瑞希「気づかせないままでずっと! ……ニヤリ」


奈緒が回避したはずのビー玉は、袋から飛び出ることで奈緒に食らい付いた!


ドバーーッ!


まつり「な、奈緒さァァァ――――ン!」


奈緒「な……防御! 間に合わ……」


バゴズドン!


奈緒「ぎゃふッ、がは……」


鳩尾と左肩に一発命中し、さらにもう一発が頭を掠めた。骨と肉が痛む聞くに耐えない音が鳴り、頭部から出血し始めた。


奈緒「ぐぇっ……」


ブシュゥゥゥウウウウウ!


血を噴き出した奈緒はようやく床に落下し、地に足を付けた。


奈緒「ハァ、ハァ、ハァ」


フラッ


瑞希「もう息も絶え絶え……」


瑞希「既に、第二射の準備は完了しています」


奈緒「ハァ、ハァ」


ゴゴゴゴ


瑞希「手品師を翻弄することは出来ません。この部屋にいる皆さんは、もう私から主導権を奪うことは出来ないのです」


奈緒「…………」


瑞希は、今度は二袋のビー玉を取り出した。


瑞希「……いくぞ、瑞希」


袋に入ったビー玉が、奈緒の元へ殺到する!


奈緒「ハァーッ」


奈緒はその場を動かなかった。




To be continued…


奈緒「……喜ぶのには、まだ早いで」


まつり「その通りなのです」


瑞希「!!」


奈緒へ向けて飛び、拡散したビー玉は奈緒の前でピタリと動きを止めた。


まつり「これでまつりの射程圏内なのです……ね?」


瑞希「!」


ビー玉は直ちに反転、今度は瑞希に向かって飛んで行く!


まつり「ビー玉を『離す』ッ!」


瑞希「しまっ……」


ヒュン!ヒュヒュン!


ドドドドドン!


瑞希「ぐフッ……!」


瑞希の方へ飛んでいったビー玉はそのまま顔に命中し、ドシンと尻餅をつかせる。


奈緒「小さいからって舐めてると、噛みつかれるで!」ガルルル


まつり「早くこっちに!」


奈緒「わ、分かってる……イタタ……」


奈緒は左肩を押さえながら、まつりの方へ走っていった。



瑞希「…………」


ドドドド


瑞希「やられてしまいました……一本」


瑞希「これは、少々不利なのでは……?」


何処かへ隠れた未来と杏奈。二人が息を潜めているであろう鞄に、奈緒とまつりは後十数秒もしたら到着するだろう。


瑞希「負ける気はしませんが……四体一。数的不利です」


瑞希「どうしたら……」


???『ミズキ! あなたが落ち込んでどうするの!』


ドドドド


瑞希の胸ポケットから、活発そうな女の子の声が聞こえる。


瑞希「……リトルミズキ」


顔を覗かせた瑞希に似た人形。奈緒達からでも分かるほど、それは異質だった。


奈緒「なんや、アレ?」


まつり「人形と会話してるのです……」


ドドドドドド


リトルミズキ『いい? 相手の狙いは合流することよ! 体格が百倍違うんだから、走って鞄を蹴飛ばしてやりなさい!』


瑞希「……なるほど」


リトルミズキ『ミズキの術中に落ちた相手なんて、相手にならないわ! 押して押して押しまくるの。反撃の隙なんて与えてはいけないわ!』




ズン…


奈緒「不味いッ! 追い抜かされてしまう!」


ドドドド


瑞希「それっ」


瑞希はダッシュしていとも簡単に二人を抜かすと、鞄を思いっきり蹴飛ばした。


ゲシィ!


まつり「……わんだほー!なのです」


瑞希「っ!」


バサバサッ!


鞄が紙束を投げ捨てるように『散っ』た。


奈緒「これは、一体どういうことや!?」


ハラハラと桜吹雪のように舞う薄っぺらな「鞄」。その「一枚」に小さくなった未来と杏奈がくっついていた。


二人が乗った一枚の鞄は、そのままスーッと奈緒の前に着陸した。


奈緒「未来!」


まつり「杏奈ちゃんも味方なのです?」


杏奈「そうだよ!」


未来「この前志保達が正気に戻したんだって」


杏奈「そういうわけだから、これからよろしくね! 杏奈、バリバリ活躍しちゃうから」


瑞希「望月さんの『付箋にする能力』……鞄を蹴飛ばすことが逆に視界を塞ぐことになるとは」


リトルミズキ『感心してる場合じゃないでしょ!!』



ゴゴゴゴ


未来「……これからどうするんだっけ?」


杏奈「……考えてなかったね」


まつり「何としても、射程距離から離れるのです」


奈緒「元の大きさに戻らんことには始まらんからな」


フォ…


未来「風……? 涼しィ~~」


奈緒「アホ! こんな室内で風が吹くわけないやろ!」


杏奈(アッ……鞄が射程外に出て元に戻っちゃった)


未来「分かりました! 窓が開いてから風が……」


まつり「レッスン場は密室なのです。出入り口は扉だけ、小さくなったまつりでも通れない隙間しか無いのです……風が吹くはずが……!」


ゴォォォ…


瑞希「風が強くなっている……そうです、種も仕掛けもありません」


バァーン!


リトルミズキ『吹き飛ばすのよ、ミズキ!』


瑞希を中心に突風が吹き荒び、四人の身体を地面に押し付ける。



杏奈「強くなってる……このままじゃ、飛ばされちゃう……」


奈緒「お"お"お"お"お"……立"っ"て"ら"れ"へ"ん"!」


まつり「手をつなぐのです!」


まつりと未来のスタンドが奈緒と杏奈を抱え、ガッチリと腕を組んだ。


奈緒「こんな風の中やったら動かれへん!」


未来「うわぁぁぁあああああ! 瑞希ちゃんが来るよぉォォ!」


杏奈「!?」


ドシン…ドシン…


瑞希「……………………」


頭上に聳え立つ巨人。大きな影が素早く動くのを、まつりはいち早く察知した。


まつり「ッ『離す』!」


ッダン!!


『離し』て飛び去ると、四人の居た場所を猛烈な勢いで脚が叩き潰した。


奈緒「ッ……」


杏奈「あ……危なかった、ね」


『フェスタ・イルミネーション』で『離し』た勢いを利用して、そのまま瑞希から距離を取る。しかしそれは微々たる距離。精々1,2メートルだ。


シィィ…


風が止んだ。


リトルミズキ『ミズキ! 四人とも扉に近付いてるわ、気を付けて!』


瑞希「ナイスアシスト……流石だぞ、リトルミズキ」


ゴゴゴゴゴゴ


奈緒(と、とんでもない相手や……抜けてると思ったらリトルミズキっちゅーのが上手いことフォローしとる……)


未来(誰と話してるんだろう?)

続きは明日(o・∇・o)

杏奈「ん……『ビビットイマジネーション』!」


バッ


杏奈が「付箋」になって、バラバラと分裂する。


杏奈「杏奈なら時間稼ぎが出来るから、みんなは扉に向かって!」


未来「そんな! 置いていけないよ!」


まつり「それなら、二手に分かれるのです。奈緒さんと未来ちゃんは扉へ向かうのです!」


瑞希「させませんっ!」


ダッ!


奈緒「分かった! 行くで、未来!」


未来「う、うん!」


走りだした二人。瑞希は杏奈とまつりを走り幅跳びの要領で飛び越えようとする。


瑞希「おおッ……!?」


しかし足が動かず、顔から地面に突っ込んでしまう。


杏奈「『ビビットイマジネーション』! 杏奈が縄になった!」


紙ほどの薄さの杏奈が山ほど絡みつき、縄のように一本になって両足を結ぶ。


まつり「わんだほー!なのです。 このままここに釘付けにします!」


奈緒「ナイスや杏奈!」


未来「今のうちに行こう!」


ダダダ


瑞希「…………」


ゴゴゴゴゴゴ


瑞希「……痛いです」


まつり(瑞希ちゃんの能力は恐らく「小さくする能力」……脱出するには自分を小さくするしかないのです……)


杏奈「……待って、まつりさん! 杏奈の拘束が効いてない!!」


まつり「……ほ?」


瑞希「これだけはやりたくなかったのですが……どどどど」


グググ…


杏奈「ダメェ! 杏奈がちぎれちゃう!」


ブチ…ブチブチ


まつり「あ……ああ! そんな! 『大きく』なるのです!?」


瑞希「私のスタンド『ポーカー・ポーカー』に包まれたものは、大きくすることも小さくすることも出来ます……勿論、私も大きくなります」


瑞希の影が更に大きく、巨大になっていく。大きさは三倍ほどになっている。


寝転がったままの瑞希の手は前へと伸び、走る二人の背へ差し出された。


奈緒「ゲッ!」


ズゥォオオオオ


奈緒「こっちにく来てるぅぅぅう!」


未来「任せてっ! 『ワンダフルミラクル』!」


未来『ほらほらほらほらほら!』


スパパパパパ


未来のスタンドが剣で瑞希の指先を傷つける。


リトルミズキ『そんな攻撃痛くも痒くもないわよ! やっちゃいなさいミズキ!』


未来「そ、そんな!」


グィーッ


瑞希「むぎゅ」


大きな手が未来を包み込む。『ワンダフルミラクル』で押し返そうとするが……


未来『うぐぐ、ぐ……』


力負けしてしまう。


未来「ぎゃ!」


リトルミズキ『握りつぶせェェェェエエエエエ!!』


瑞希「……」



未来「……?」


未来(緩んでる……よく分かんないけど抜け出すチャンス!)


瑞希「ち、力が……入りません……これは一体?」


ゴゴゴゴ


杏奈「二人には「杏奈」を潜ませておいたよ……『ビビットイマジネーション』! 掌を付箋にした!」


未来の体に張り付いた一枚の杏奈が、掌を付箋にする。ペラペラになった紙の手は自分の重さでどんどん剥がれていく。


ペラン…


瑞希「うっ……」


ペラペラペラ


瑞希「うああああ!」


ポト


未来「た、助かった……」


奈緒「今のうちや! 扉に穴を開けるで。『H・L・ジェットマシーン』!」


未来「は、はい!」


瑞希「困りました……このままだと射程外に出られてしまいます」


リトルミズキ『なにノンキしてんのよ! 這いずってでも進みなさい! 掴まなくたって乗っかれば再起不能よ!』


杏奈「どうしよう……このままじゃ潰されちゃう!」


ゴゴゴゴ


瑞希「逃しません……!」


ズンズンズン


未来「うわぁぁぁぁ! 早く扉を『削っ』てよォォォォ!」


奈緒「分かってる! 意外と分厚いんや!」ガオンガオン


巨大な瑞希の腕が、ドアの前にたむろする二人を薙ぎ払わんとする。



杏奈「あ、杏奈にはどうすることも出来ないィィィィ! 避けて!」


瑞希「ふんぬ」


バァァァァァ!!


杏奈「そ、そんなぁぁ! 未来も奈緒さんも潰れちゃったよぉぉ……」


瑞希「? 手応えがありません……おや?」


奈緒(あ、危なかったあああああ! 穴を掘るのが間に合わんかったら、今頃ペシャンコやった……)


杏奈「アッ! 扉に体が入るだけの窪みが出来てる! これなら瑞希さんの攻撃は大きすぎて届かない!」


分厚い扉には半球状のスペースが作られ、そこに未来と奈緒は収まっていた。


瑞希「……」


奈緒「はぁ、はぁ……」


未来「も、もうだめだぁ……ドアの向こう側に行ってもすぐに追いつかれちゃう……こんなの、勝てるわけがない……」


ゴゴゴゴ


奈緒「……未来、『H・L・ジェットマシーン』が取っ手を作る」


未来「……?」


奈緒「ええか? そこに掴まって、絶対に手を離すんやない」



瑞希「……………………」


ガシッ


瑞希がドアノブに手をかけた。


奈緒「この分厚いドアの中から出なかったら、絶対に負けへん」


未来「『負け』ない? それって『勝て』ないってことだよ!」


奈緒「負けないから勝てないんやない、負けないから勝つことが出来る。気持ちを強く持ち!」


未来「気休めを言うんじゃあないッ! 『私たち』は絶対に勝てない!」


奈緒「仲間を信じろォォ――――! 『H・L・ジェットマシーン』!!」


瑞希「えいっ」


ゴッ――!


ドアが勢い良く動いた。ぶ厚い扉はその重さに反して、団扇を仰ぐようにグワングワンと開閉される。


奈緒「お"お"お"お"お"お"お"!!」


未来「ギャァァァアアアアア!」


奈緒「絶対に手を離すんやない! この穴から放り出されたら潰されたガムみたくペシャンコや!」


激しく揺れるが、未来のスタンドと奈緒のスタンドは手を引き剥がされない。



グワングワングワン!!


リトルミズキ『引きずり出されないじゃないの! ミズキ、何か案はない?』


瑞希「……ピコーン、そうだ」


ピトッ!


未来「と、止まった……?」


奈緒「はぁ、はぁ、はぁ……これは、単純な問題や。そう、確率の問題……」


瑞希「鳴かぬなら、鳴かせてしまえ、ホトトギス……『ポーカー・ポーカー』!」


バァサ!


瑞希のマントのスタンドが翻る。黒赤のマントの赤い面に、開け放たれた扉が包まれる。


瑞希「扉を小さくすれば、隠れる穴は無くなります」


ググ…


グググググ


未来「小さくなってるッ……逃げ込んだ穴が私たちを押し潰すよッ! 早く脱出しないと!」


奈緒「まだや……まだ、扉自体に隠れられる「厚さ」がなくなったわけやない!」


ガオン!


扉が削れ、スペースに余裕ができる。


未来「まだ? まだって何さ! もう限界だァ――――!」


バッ


ガシッ


飛び出そうとした未来を奈緒が押しとどめる。


グググググ


奈緒「外に出るんじゃあない! 瑞希の思う壺やぞッ!」


未来「ここに居たらペシャンコだよッ!」


奈緒「違う、天と地の差や……私は気付いた。だから、きっと気付くはずなんや」


奈緒(『ポーカー・ポーカー』……大きさのスタンド! その攻略法が!)





To be continued…

リトルミズキって何なんでしょうね……頭の中のお友達説、超能力説、妖精説、ロボット説、平行世界マカベ説、765プロ集団催眠説といろいろありますよね



本体・人間・望月杏奈
スタンド『ビビットイマジネーション』

近距離パワー型


破壊力B~E  スピードB~E  射程距離E~A
精密動作性C~E  持続性D  成長性D
能力射程:一つの対象のみ

能力『付箋にする能力』

文字通り付箋にするスタンド。
『付箋』にされたものは紙のような薄さ、そしてほぼ同一の性質を持ち、張り付く事が出来る。
スタンド使いを『付箋』にすると、パワーは落ちるがスタンドも『増える』
この能力は杏奈一人につき、一つのものに作用する。
付箋には核となる一体が存在し、それを破壊されると他のも機能を停止したり壊れたりする。




本体・人間・真壁瑞希
スタンド『ポーカー・ポーカー』

遠距離型


破壊力D  スピードD  射程距離B (30m)
精密動作性C  持続性A  成長性B
能力射程B(30m)

能力『大きく、又は小さくする能力』

マントを持ったマジシャン風のスタンド。
マントは表側が黒、裏側が赤色であり、マントで包むことによって能力が発動する。
裏で包まれた物を小さく、表で包まれた物を大きくする。
変える大きさはそれなりに自由だが、射程距離から逃れられると元に戻ってしまう。

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