提督「艦娘とイチャつく」 (103)
提督「俺だって艦娘といちゃつきたい。オリョクルさせたい」
提督「なので>>2に>>3する。エログロは勘弁してくれ」
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大和
デート
提督「大和をデートに誘うぞ」
提督「適当に食事に誘えばホイホイついてくるよな。おい大和」
大和「はい。何ですか?」ボリボリ
提督「ええい。上司の前で弾薬を食い散らかすな。そんなことよりデートするぞ。食事もあるぞ。だから、食べるのをやめたまえ」
大和「あの急にそんなことを言われましても。まだ建造されたばかりでお互いのことも知らないですし」ゴクゴク
提督「俺も君が大食い以外のことは知らない。お互いを知るためにデートするぞ」
大和「はあ。分かりました。でも食事だけなのですか。他にはどこか行かないのですか?」
提督「存外乗り気だな。今日建造されたばかりなのに」
大和「余り外出が許されなかった身なので、外に出ることに喜びを感じるんです」
提督「ならば>>5にも行く」
遊園地
提督「ならば遊園地にも行く」
大和「遊園地、ですか。でも、それって駆逐艦娘が好きな所と聞きました。私よりも彼女達を連れて行ってあげたほうが良いでしょう」
提督「君は乗り気なのかそうでないのか分からないな。遊園地だからって子供だけの遊び場ってわけでもない。大人でも楽しめるものだ」
大和「しかし」
提督「埒があかない。実際に行ってみたら分かる。というわけで行くぞ」ウデヲガシッ
大和「あ、ちょっと提督?」
遊園地に到着
提督「よし着いたぞ。最近近くにできたばっかりで、場所によっては海を一望できることや潮風や波音を身近に感じ取れることがそれなりに好評らしい」
大和「海辺にこんな施設が……深海棲艦の脅威は大丈夫なのですか?」
提督「昔ならいざ知らず、今は君たち艦娘がいる。君たちの掃討努力によって近海の安全は確保されている。内陸に逃げ込むしかなかった人々の笑顔を再び海辺で見受けられるようになったのは君たち艦娘の功績だ。誇りに思いたまえ」
大和「そんな……私はまだ何もできていません……」
提督「そうか。……まあ、今は遊びに来ているわけだし難しい話はなしにしよう」
大和「はい」
提督「……あー、そうだな。せっかくの遊園地だ。何かに乗ろう。あれだあれ、あのジェットコースターだ。君たちは大波には慣れっこかもしれないが、空中の浮遊感はなかなか味わえないだろう。よし、まずあれに乗ろう!」
コンマ
直下 偶数なら提督は吐く、奇数なら大和が嘔吐
偶数:提督が吐く
提督「オエッ、オロrrrrrrrrr」ビシャビシャ
大和「提督!?大丈夫ですか!?」セナカサスサス
提督「すまない大和rr。俺は全然大丈夫だrrrrrr」ドバドバ
大和「全然大丈夫に見えません!」
提督「とりあえず場所を移すぞ。清掃員がとても嫌そうな顔をしている。どこか横になるところに行こう。オエッ」
休憩所
提督「出鼻をくじいたようで申し訳ない」ヨコニナルー
大和「いえ、私こそ提督に無茶を強いてしまったようです。すみません。もう落ち着きましたか?」
提督「ああ、大丈夫だ。それより大和が吐かなくて良かった」
大和「普通は吐きません」
提督「そうだな。前日にデートを楽しみにしすぎて眠れなかったのが悪いのかもしれない」
大和「遠足前の小学生ですか。それより、私は今日いきなり誘われて連れてこられたのですが」
提督「そりゃあ、大和型といえば艦娘達のなかでも特に華のあるものだし、お近づきになりたいけど近寄れない高嶺の花って印象があるから、誘いを後に後にずらし込んだ結果だ」
大和「それでよくここまで来れましたね」
提督「勢いって大事」
大和「あなたは提督ですよ。気後れしなくても」
提督「まあ、その提督が気後れするなら、艦娘なら尚更だ。大和はちょっと態度が堅い」
提督「他の娘から畏敬をもって距離を置かれ、また俺なら吐くようなその期待の重圧にも耐えることができるのかもしれない。でも、やっぱり大和にはみんなと仲良くしてもらいたいし、他の娘達にも大和をもっと知ってもらいたいと思う」
大和「……」
提督「今日のデートは大和の態度を柔和にする訓練も兼ねている。俺にはやましい気持ちはない。本当だぞ。君の今日の仕事はめいいっぱい楽しむことだ。よく笑えば、自ずと態度も柔らかくなる」
大和「つまり、提督はデートと言いつつも下心はなく、私のためにと?」
提督「そうだ」
大和「その割にはいきなり吐くのですね?」
提督「言うな」
大和「……ふふっ」
提督「大和?」
大和「提督、分かりました。大和は今日いっぱい楽しみます!」
大和「提督あれは何ですか?」
提督「ああ、コーヒーカップだよ」
大和「行きましょう!」ガシッ
提督「お、おい、大和!」
大和「提督大和型の力を感じてください!」カップグルグルー
提督「ちょ、ちょっと待て!これは戦艦用に作られたわけではッ、遠心力キッツ!大和待て遠心力が!てか、気持ち悪ッ!大和大和!オロrrrrrrrrrr」トシャブツスクリンプラー
大和「提督あれは?」
提督「……おばけ屋敷だ」
大和「行きましょう!」ガシッ
提督「少し落ち着こう、な?」
大和「暗いですけど足元は明るいですし、夜の海に比べたら大したことありませんね」
提督「そうか」
オバケガオー
大和「ぎゃあああああ!!」
提督「ぎゃあああああ!!大和!抱きつくな!流石に15万馬力はやばい!胃が圧迫されッ、おろrrrrrrr」ドシャドシャ
大和「提督すごい!お化けがみるみる撤退していきます!」
大和「提督これは?」
提督「観覧車」
大和「行きましょう!」ガシッ
提督「はい」
大和「提督高いですよ!海の向こう側まで見えます!」キャッキャピョンピョン
提督「や、大和少し落ち着いてくれ……ゴンドラを揺らすな。今ならこの程度の揺れでも俺はおろrrrrrrrrrr」キラキラ
大和「提督は高所恐怖症なのですか?」
提督「ちゃうねんrrrrrr」
大和「今日はたくさん遊んだのでお腹がすきました!」
提督「そうか。おれは食欲ないけどな」
大和「ダメですよ。よく吐いたらよく食べないと」バクバクキュイーン
提督「そんなこと言われても」
大和「もったいないので、私が提督の分も食べます!」サラゴトスイコミー
提督「今日だけでいろんなものがやせ細った気がする」
提督「気分が悪いからタクシーで帰るぞ」
大和「大丈夫ですか?」ヒザポンポン
提督「なんだそれは?」
大和「膝枕です!」
提督「……」アタマオキー
大和「……今日は楽しかったです」
提督「……そうか」
大和「ありがとうございます」
提督「……そうか」
提督(横になったほうが気持ち悪い。どうしよう)
後日
提督「あれから大和は少しずつ仲間と打ち解けていき、今では駆逐艦にも懐かれるお姉さんだ。そのためか長門とは関係が微妙になったらしいが瑣末なことだ」
提督「いいことなのだが、俺は結局被害を受けただけのような気がする」
提督「俺だって艦娘といちゃつきたい。オリョクルさせたい」
提督「なので>>17に>>18する」
瑞鶴
ひたすら抱きしめる
提督「今日の秘書艦は瑞鶴か。モーニングコールが過激なのはいいけど、爆撃だけはやめてほしい」
提督「アウトレンジとアウトレイジの区別をそろそろつけるべき」
提督「鎮守府で唯一の男だから警戒されているのだろう。なので、俺のインレンジにいても安全だということを行動で示せば、爆撃はしなくなるに違いない」
提督「接近して今日一日は瑞鶴を抱きしめ続ける!やるぞー!」オー
瑞鶴「提督さん。本日の秘書艦は私が務めるわ!とりあえず索敵する?」
提督「……ボソボソ」
瑞鶴「なにー?提督さん、聞こえなーい」
提督「……ズイズイ」
瑞鶴「?」
提督「ず~いず~いずっころばし」
瑞鶴「!?」
提督「ごまみそずい」ズイ
瑞鶴「な、なに提督さん、ご機嫌ね」
提督「茶つぼにおわれて とっぴんしゃん」ズイズイ
瑞鶴「なんで近づいてくるの?」
提督「ぬけたーらどんどこしょ」ズイズイズイ
瑞鶴「こないで!爆撃されたいの!?」
提督「」ピタッ
瑞鶴「ホッ」
提督「……たわらのねずみがこめくってチュウ」ズイズイズイズイ
瑞鶴「!?」
提督「チュウチュウチュウ」ズイズイズイズイズイズイ
ガバッダキッ
瑞鶴「ひっ!」
提督「おっとさんが呼んでも」ズイズイズイズイズイズイズイズイ
瑞鶴「ビクビク」
提督「おっかさんが呼んでも」ズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイ
瑞鶴「ッ!」
提督「いきっこな~あ~しーよ」ズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイ
瑞鶴「どいてよ!!」ドンッ
ドサッ
瑞鶴「あ……ごめん」
ムクリ
提督「………………」
瑞鶴「………………」
提督「…………ず~いず~いずっころばし」ズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイ
瑞鶴「っひいぃ!」ダッ
ドアガチャバタン
瑞鶴「な、なんなのよ、あれ!」
ズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイズイ
瑞鶴「!?とりあえず逃げなきゃ!」
ダッダッダッダッダトオザカッテイクー
提督「………逃げられた」
提督(翔鶴のいないこの鎮守府では、瑞鶴も寂しさゆえに奇矯な行動に走りがちなのだと思う)
<オウッオウッビタンビタン
提督(姉妹艦がいない艦娘のなかにはオットセイになってしまった者もいると報告にあった)
提督(だから、親近感を持たせるために諸手を挙げてのずいずいだったが失敗したようだ)
提督(とりあえず追いかけよう)
ズイズイズイ オウッオウッオウッ ズイズイズイ ビタンビタンビタン ズイズイズイ
瑞鶴「誰かいないの!おーい!」
シーン
瑞鶴「こういう時に大和さんがいればなんとかなるのに!何故か敵母港空襲作戦に抜擢されてしばらくは帰ってこないし!」
瑞鶴「ああ、もう!誰かいないの!?」
<オウッオウッビタンビタン
瑞鶴「あ、オットセイだ」
ビタンビタン
瑞鶴「何か食べる?」
オウッオウッ ムシャムシャ
瑞鶴「ちょ、や、やめて!私のツインテールを食べないで!これはイカの足じゃないから!二本足は人間の足だから食べちゃダメ!」グイッ
ビタンビタン オウッ
瑞鶴「えーと待ってね」ゴソゴソ
瑞鶴「あ、あった。ホタルイカ!」
瑞鶴「白くてわちゃわちゃしているところが翔鶴姉に似てるからお守りがわりにもっていたのよ」
オウッ?
瑞鶴「いいの、いいの。このままだと腐っちゃうもんね。誰かの役に立つなら、そっちの方が翔鶴姉も喜ぶはずだし、遠慮なく食べちゃって」
オウッバリバリグチャグチャ
瑞鶴「あんた毛並みはいいわね。オットセイじゃなくて、まるで艦娘みたい」ナデナデ
………ズイズイ………
瑞鶴「!……私そろそろいかなくちゃ。あんたも元気でね」
オウッビタンビタン
瑞鶴「そっちは執務室の方よ!今は危ないから戻ってきなさい!」
オウッオウッビタンビタン
瑞鶴「……行っちゃった」
<オウッオウッ ズイズイ オウゥゥゥ……
瑞鶴「……くっ!私は逃げなきゃ!」ダッダッダ
瑞鶴「はあっ、はあっ……桟橋にまできちゃった」
瑞鶴「今のところは大丈夫ね」
瑞鶴「………」
瑞鶴「ああー!!もうめんどくさーい!!!」
瑞鶴「なんで私がこんな目にあってんのよー!!」
瑞鶴「………翔鶴姉は元気かな……って今はそんなこと考えても仕方ないか」
瑞鶴「あら誰かいるわね。んー、ん?もしかして翔鶴姉!?あの白髪頭とカチューシャは翔鶴姉だわ!おーい!翔鶴姉ー!」
空母水鬼「……?」
瑞鶴「いつの間に着任したの!?来てくれたら良かったのに!」ピョンピョン
空母水鬼「……チガウ」
瑞鶴「お話したいことがいっぱいあるんだけど、その前に着任報告しないとね!あ、でも今提督さんの様子はおかしいし」
空母水鬼「ムゴンノハラパン」ドゴォ
瑞鶴「ぐええ!」ミユキ
クゾオレドサア
瑞鶴「翔鶴姉……?」
空母水鬼「ジンギナキビンタ」バッチコーン
瑞鶴「アブクマア」
瑞鶴「……痛いよ、翔鶴姉…何か悪いことした?」
空母水鬼「……」
瑞鶴「ねえ、何か言ってよお、翔鶴姉ぇ……謝るからあ……」
空母水鬼「ウデヲフリアゲー」コレハサツイノハドウヲカンジル
瑞鶴「ひぅ!」
提督「そこまでだ!!」ズイ
バコン
瑞鶴「提督さん!?」
提督「大丈夫かずいか、おろrrrrrrrrrrr」ドッシャア
瑞鶴「提督さん!!」
提督「安心しろ!瑞鶴!これがプリエーゼ式の最新鋭の防御隔壁だ!衝撃をゲロに変換することによって損害を最小限に抑えた!」
提督「いまだ島風!翔鶴に気付けの魚雷をお見舞いしてやれ!」
オッオッオッオオオオオオ ピカードカーン
空母水鬼「……モウ…メンドクサイ……カエル」マワレミギー
瑞鶴「あ!翔鶴姉!」
提督「待て。瑞鶴」
瑞鶴「でも!」
提督「翔鶴にもなんらかの事情があるのだろう。姉を信じろ。いつかきっと分かるときがくる。今はその時でないだけだ」
瑞鶴「でも、せっかく会えたのに……」
提督「そうだな。でも、今は生き残ることを考えよう。生き残っていれば、いつか翔鶴とまた会うときがくる」
瑞鶴「ぐすん」
提督「寂しいのならば俺が近くにいる。今ならオットセイのペットつきだ」カタヲダキー
瑞鶴「うぅ、怖かったよー」セナカツカミー
提督「すまない。でももう俺がいるかぎり、瑞鶴に寂しい思いや怖い思いをさせない」ギュー
瑞鶴「うぅ、ばか、あとゲロ臭い……」ヒキハナシー
提督「我慢しろ」ヒキモドシー
後日
提督「それからしばらく抱き合っていたのだが、時間を経て落ち着いてくると近くにずっといた島風の視線に気づいたのか、瑞鶴は赤面してにわかに立ち上がり帰っていった」
提督「執務中もなんだか気まずそうにしていたので、晩御飯にターキーをご馳走すると、変な奇声を上げて怒ったので宥めた。翌日帰ってきた大和に私も食べたかったですと文句を言われたが瑣末なことだ」
提督「信頼できる真の仲間となったわけだから、それで朝の爆撃癖が治るかと思いきや、予想に反して治らなかった」
提督「むしろ、ずいずいと近づくだけで爆撃されるようになって悪化した気がする」
提督「イチャイチャなんてもってのほかだ。結局損したようだ」
提督「俺だって艦娘とイチャイチャしたい!オリョクルさせたい!」
提督「なので、直下に下二する」
提督「秋月を外食に誘おう」
提督「秋月は大和を小さくしたようなお嬢様然とした感じがするのに、貧乏らしいからな」
提督「いつも昼食におにぎりとたくあんしか食べていないのは料理ベタが原因かと思っていたぞ」
提督「食糧事情に関して比叡とは別の意味で泣けてくるので、料理をたらふく食べさせたいのだが、今言ったように彼女はお嬢様っぽい貧乏なのが問題だ」
提督「要は清貧ってことなのだが、それゆえにただ誘うだけでは遠慮される可能性が高い。下手に料亭になんかに連れて行くと恐縮して箸に手をつけなくなるだろう」
提督「無償の施しを嫌うタイプだ。何か正当な理由がないと食事に誘うことは困難だろう。確かこんな理由があったな」
安価を増やしてみる
理由安価 下二
提督「悩みを聞くついでに、腹いっぱい食ってもらおう。彼女は他の駆逐艦に比べて変わった出自だし、裏でストレスを抱え込んでいるかもしれないしな」
提督「どこぞの実験では他のことをしながら食事をすると、ただ食べることだけに集中する時と比べて食べる量が120%に増えたという結果もある」
提督「これならば下手に罪悪感を持たせずにお腹いっぱいにすることができるだろう」
秋月「司令。秋月をお呼びですか」
提督「わざわざ出向いてもらって、すまないな」
秋月「いえ。それよりも出撃ですか?遠征ですか?」
提督「今回君を呼び出したのは任務の件ではない。楽にしてくれたまえ」
秋月「はい。わかりました」
提督「用件を言う。夕餉を俺と同伴してほしい」
秋月「同伴ですか?護衛ということですか?」
提督「だから任務の話ではない。同伴というのは一緒に御飯を食べようということだ。それに艦娘に陸上護衛を頼むほど俺もヤワじゃないよ」
秋月「しかし、上官と同じ食卓を囲むのは」
提督「そういうのは気にしなくていい。艦娘と提督の関係は他の軍組織とは異なる。さもないと瑞鶴なんか今頃ヤマタノオロチも真っ青になるほどの縛り首を経験しているはずだ」
秋月「私よりもその食事の席にふさわしい功績をあげた人がいます」
提督「確かに戦闘MVPは大和や瑞鶴がとっているが、瑞鶴も秋月の対空能力に助けられたとよく言っている。勝利には君の能力が前提とされていたのだ」
秋月「……」
提督「まだ渋い顔だな。なんだか俺との食事がそんなに嫌なのかと思えてきて落ち込んできたぞ」
秋月「い、いえ!決してそういうわけでは!」
提督「……まあ、なんだ。別にただ娯楽ってだけの食事でもない」
秋月「目的があるのですか?」
提督「今しがた鎮守府は他の軍組織と違うと言ったばかりだが、やはりここにも命令と服従はある。提督と艦娘が互いに不信感を持っていたら、戦闘の際に何かしらの不都合が生じるかもしれない」
秋月「秋月は司令のご命令に背くことはありません」
提督「それでも互いを知ることに意味はある。この人はこんな感じに考えるんだなーと覚えておけば、意図不明の拒絶反応を示す命令にもいくらか冷静さをもって対処できるかもしれない」
秋月「はあ」
提督「ピンとこないようだな。難しく考えることはなく、換言すれば、美味いものを一緒に食べて共感して親交を深めようということだ。席の資格なんかない。むしろ、これからの任務にも必要なものとでも考えてくれ」
食事処
提督(連れてくる場所を探すのに苦労した。高級料亭だと遠慮するだろうし、ファストフードだと話すのに不適切だ)
提督(結局ちょうどいいぐらいのは恋人達が集まる薄暗く静かな所となった)
提督(まるで俺が秋月を口説きに来たみたいだ。そんなやましい気持ちはない。俺はただ艦娘とイチャつきたいだけだ)
秋月「あの立ち止まってどうしました?進みましょう」
提督「お、おう。秋月はあんまり気にしないのな」
秋月「何を気にするのですか?食事と絆を深めに来たのですよね?」
秋月「ここは静かな雰囲気ですし、周りも相手のことに注意が向いているので、改まって談話をするのに最適な空間だと思います。司令は流石に慣れておられるだけあって、適切な場所をよくご存知ですね」
提督(秋月は意図していないようだが、それだと捉えようによっては俺が女たらしと皮肉られているみたいだ)
提督「まあ、適当に好きな料理を注文してくれ」
秋月「いえ、そんな。司令からお好きなものを」
提督「ああ、いいよ。俺はここの料理を食べ慣れているから何でもいいんだ。どの料理もうまいぞ。なんたって世界水準軽く超えてるらしいからな」
提督(初めて来たんだけどな!緊張でガチガチの舌に味なんて分からんから、何でもいいだけだから!)
秋月「そんな所なんですか?どうりでお品書きに値段が書いていないのですね」
提督「え?書いてないの?」
秋月「?はい。……あ……えっと、あの、選び直しますね」
提督「あ、あー。うん。別にここは高級料亭じゃないぞ。世界水準ってのはただの宣伝文句だから。庶民派料亭だから。変える必要はないぞ。何でも好きなだけ頼んで」
秋月「しかし」
提督「量は少し必要かなー。ほら、俺は男だし、よく食べるから。あんまり遠慮されると、俺がちょっと困るかなーって」
提督「注文内容を君に委ねるって言った手前、口出しするのは恥ずかしい。だから、俺の顔を立てると思って、好きなものを多く注文してくれないかな」
秋月「……分かりました。では、これとこれとあとこっちとそれと(略)」
提督(ま、まあ大和より悲惨なことにはならないだろうし、大丈夫だろう)
食事中
秋月「………それで報告にあったパラオ諸島沖の哨戒任務の結果ですが、翔鶴さんは発見できませんでした。正式な報告は後日なされます」
提督「そうか。まあ、その件は焦ることもない。少し前だと瑞鶴がホタルイカのせいでイカ臭かったから早く翔鶴を迎えたかったが、最近はそんなこともないしなー」グビグビ
秋月「しかし、提督と瑞鶴さんが見たという翔鶴さんは本当に翔鶴さんだったのでしょうか。どの港からもそのような船影の補給記録はありませんし、それは流石に」
提督「俺たちが幽霊船でも見たってな」グビグビ
秋月「いえ、提督達の報告を疑っているわけではありません」
提督「まあ、不思議な雰囲気を持ってたしな。幽霊っていわれても仕方ねー。案外グアムあたりで常夏のバカンスを楽しんでいるかもしれないな」
秋月「翔鶴さんはそんな無断で余暇を楽しむ人ではありません」
提督「他には何か鎮守府内で変わったことはないか?」グビグビ
秋月「えーと。島風に自我が芽生える兆しがあります。跳ねるだけから四肢を使用しようとしています」
提督「ああ知っている。あと少し人語を話すようになったとも聞いた。他には?」
秋月「ええと、駆逐艦の訓練ですが、神通さんの教育が厳しいと」
提督「ああ、よく知っている。吐いてからが本番という訓練らしいな。俺も嘔吐に関しては一家言を持っているからよく耳をそばだてているよ」
提督「神通の反航戦は反航戦じゃないと阿武隈がよくいっている。ぶつかりそうで怖いらしいな」
秋月「はい。その反航戦に関してですが、電と深雪は別の部隊での訓練にしてください」
提督「一緒に訓練することにトラウマでもあるのか。既に分けていたと思うが」グビグビ
秋月「反対です。電が大層ご機嫌にショルダータックルをしようとするので、止めるのが大変です。もっと完全に引き離してください」
提督「電が?……ああ、わかった。他は?」
秋月「……あの、もう結構色々と話して、話題が辛いのですが」
提督「いやいや、まだ重要なことが聞けてなーい」
秋月「?」
提督「秋月、君のことだよ。どうも君は何かを思いつめているように見える。今日はそれを聞くまで引かねーぞ、おら」
秋月「いえ、秋月に悩みはありません」
提督「いーや、絶対あーるーのー!」グビグビ
秋月「提督、ちょっと酔ってませんか?これ以上の飲酒は明日の執務にも支障が」
提督「俺の明日を心配するなら、はやくゲロっちまいな、ゆー」
秋月「………」
提督「………」
秋月「……はあ。実は」
安価だけとる
悩み安価 下二
秋月「実は司令のことが好きなのに勇気を出して告白できないことが目下の悩みです」
提督「ブッフォオ」
提督「ゴホッゴホッ!」
提督(急になんだ!これ!そんな素振り全くなかったじゃないか!)
提督(真面目な秋月が冗談で言うとは思えない。というか、悩みなのに今解決したよ!それ!)
秋月「提督、大丈夫ですか?」ナプキンワタシー
提督「……ああ、ありがとう」ナプキンモライー
提督「……えーと。秋月、その悩みは今解決したように思えるのだが」
秋月「いいえ」
提督「ん?じゃあ、司令って俺のことじゃないのか?俺とは別の司令にってことなのか?」
秋月「いいえ。司令は司令です」
提督「……ああ、告白の答えってことか?しかし、いかんせん急な話だから」
秋月「いいえ」
提督「……答えでもないとなると、何が問題なんだ?」
秋月「勇気を出して告白できないってところです」
提督「?好意の対象は俺なんだろ?今の言葉は既に告白したも同然だぞ」
秋月「申し訳ありません。言葉足らずでした。恐らく、提督と秋月の『勇気』という語に与える意味合いが異なっているのだと思います」
提督「告白の勇気ってのは、ためらわせる羞恥の壁を飛び越えるってことじゃないのか?今まで気恥ずかしさゆえに告白できないことが悩みだったのではないのか?」
秋月「確かにそれもあるのですが、もしそれが全てなら秋月は提督にこの悩みを言えなかったはずです」
秋月「司令はこの艦娘の感情を知っておくべきだと考えたので、義務的に表明できたに過ぎません」
提督「何か伝えたいことがあるんだな?では、聞こう。君の意図した勇気とはなんだったんだ?」
秋月「その前にまず、艦娘の特殊な出自について考えてください」
提督「工廠の妖精に資材を与えると君たちができるということしか知らない」
秋月「生産過程についてはその程度の認識でいいです。詳しい構造的なことは私にも分かりませんから、それは後続の研究課題でしょう」
秋月「問題は艦娘達が実際にあった船とリンクしていることです。私達の存在は肉体の方が先んじているのです」
提督「そうなのか?艦時代の精神が入り込んでいるんじゃないのか?」
秋月「いえ、兵器時代当時にそんな精神なんてものはありません。艦娘になってから遡及して兵器時代にも精神を持っていたと感じるだけです」
秋月「それにもし精神があって、拵えられた肉体に入るという順序で考えるならば、まるで誰かの精神を圧殺して私達が生まれたみたいで余り気分もよくないですし」
秋月「平易に言ってしまえば、人間とは違い艦娘は明らかに肉体が先行しているということです。この点だけを鑑みれば、深海棲艦の方がもしかしたら人間らしいのかもしれません」
提督「しかし、肉体が先行していることの何が問題なんだ?俺は君たちを普通の人間と変わらないと考えている。前後関係が異なるだけで今は肉体も精神もあるのだから、問題ないと思うぞ」
秋月「いいえ。人間というのは精神に重きを置くものでしょう」
秋月「ギリシアの著作にこういった口説き文句がありました。ハサミで紙を切る人がいる。この時ハサミと切る人は別の存在です。道具とそれを使う人は別物です。ところで君は体を使う。使われるものと使うものは別物だ。肉体を使うものは魂だ。だから君は魂なのだ。って感じです」
提督「気にすることはない。ただの詭弁だ」
秋月「ええ。しかし、やっぱり人間は自分は肉体とは違うって考えている節は確かにあります」
秋月「しかし、艦娘の本体はもともと肉体の方にあるのです。そこに精神なんてものが入り込んできたら、肉体も精神もどちらもが自分だと主張して相反することになります」
秋月「感覚的には私も人間らしく精神が自分だと考えているのですが、それで肉体を下にすると途端に不安に襲われるのです。私は秋月型の一番艦秋月なのに、私はそれを使用するものになってしまう!すると、私はまるで秋月型一番艦ではないような気がしてきて!」
提督「秋月!落ち着いて深呼吸しろ」ガシッ
秋月「……すぅ、はぁ…」
提督「……落ち着いたか。……肉体やら精神なんて難しいことはわからんが、人間はどちらもなくては生きていけない。ならば、どっちが本物だとか決める必要はないんだ。肉体も精神もどちらも秋月だ」サスサス
秋月「……司令は、ずるいです」
提督「ずるい?」
秋月「男なのがずるい」
提督「?」
秋月「……ナルキッソスっているじゃないですか」
提督「水面に映った自分の姿に見とれてそのまま餓死した奴だよな。ナルシストの語源だ」
秋月「ナルキッソスは男です」
秋月「自分の身体に誇りを持てるのは男性だけなんですよ」
提督「そんなことはないだろ。女のほうが化粧したり着飾ったりで、男より気にかけているように思うぞ」
秋月「そうですね。女性の方が気にかける。でも、真にナルシストになれるのは男性だけです」
秋月「例えば、胸板の厚さを褒められれば男性は誇りに思います。でも、女性は胸の大きさを褒められても誇りに思うことはありません」
秋月「男性の方が思弁的といわれることもありますが、精神と肉体を別々に捉える力は女性の方が強いのです」
提督「………」
秋月「艦娘が男性でしたら、こんな無駄な気苦労はなかったのかもしれません」
秋月「何で艦娘って女なのでしょうね?」
提督(女じゃなかったら艦娘じゃないしな)
提督「……つまり、秋月の言う告白の勇気ってのは、自分を無くしてしまうような感覚に飛び込む勇気ってことか?」
秋月「そうですね。振られるとかの恐ろしさよりも、この告白が正しいのかみたいな感じで常に後ろ髪を引かれているのです」
秋月「自分の意志を自覚しだした艦娘の多くは、非常に不安定な存在となるようです。艦名というのは一種の奇跡であり呪いですから」
提督「……そうか。教えてくれてありがとう」
秋月「……はい。あの提督」
提督「なんだ?」
秋月「……いつか自分の言葉で、義務とか任務とか関係なく、提督に好意を伝えられるようになります」
秋月「そのために、秋月は今よりもっともっと強くなります!その時になったら教えてくださいね!答え!」
提督「……ああ。君ならば自分自身と折り合いをつけることができる。それでもって能力の限界を超えた艦娘に贈られる名誉ある指輪をその指に付けるのは時間の問題だろう」
秋月「……提督!」ダキッギュー
提督「ぐえっ!ま、待て何で君たちはそう圧迫を、おろrrrrrrrrrr」ピシャピシャ
秋月「えー!?なんで戻すんですか!?」ギュッギュッ
提督「食いすぎた……りょ、量を頼めって言ったが、戦艦クラスは食えない」ウップ
秋月「全然食べてないじゃないですか!まだいっぱい残っていますよ!?」
提督「駆逐艦を基準に考えないでくれ。もったいないからあとは秋月が食べて。まだ入るだろ?」
秋月「はい!じゃあ、秋月張り切って食べます!なんだか長話で疲れましたから大和さん並に食べられそうです!」
提督「そうか。心強い」
秋月「あ、追加注文いいですか!?」
提督「」
後日
提督「それから秋月は本当に大和かってぐあいに大食いした。燃料や弾薬などの資材じゃない普通の食事はどうやらその艦娘の精神状態に依存するらしい。だから、普通の食事に関しては大和だって少量に抑えようと思えばできるらしい。それなのに大和の奴は遠慮なしに食糧を食い漁りやがって、まじゆるせねー。まあ、秋月が満足そうだったので良しとしよう」
提督「秋月の昼食にはおにぎりとたくあんだけだったところに牛缶が付け加わった。秋月曰く非常に贅沢しているらしい。試しに缶切りを隠してみると、半べそで鎮守府内をウロウロする秋月が見れたのだが瑣末なことだ」
提督「それと微妙に食事を欲張るようになった。燃料と弾薬の消費が2と3上がった」
提督「でも、結局満足するまでイチャイチャできなかった気がする」
提督「俺だって艦娘とイチャつきたい。オリョクルさせたい」
提督「なので、直下に下二する」
鎮守府近海
ザバーン プカプカ
提督「なー、利根」グター
利根「なんじゃー?提督」グデー
提督「俺らはなんでこんなとこにいるんだー?そしてどこへ行くんだー?」ゴロン
利根「なんじゃー、ゴーギャンみたいな問いかけをしおってー?随分と退屈そうじゃなーお主ー」グデー
提督「はあー空はあんなに青いのになー」ポケー
利根「不吉なことを言うもんでない。不幸が伝染る。そんなことを言うからカタパルトが不調なのじゃ」ボー
提督「好調のときをみたことないんだがなー」
利根「だから、いつもこうやって整備しておるのじゃ」カチカチ
提督「利根は構いすぎなんだよ。だからサボテンに水をやりすぎて枯らすはめになるんだよ」
利根「お主も植木が枯れています取り替えてはいかがと言うのか?」
提督「いや、植木を取り替えるんじゃなくて世話係を取り替えることを進言したいなー」ヒラヒラ
利根「なんじゃとー!好き勝手言いおってー!」
提督「可愛い嫌味だろー。それぐらい許せ。艤装を忘れてカタパルトだけしか持ってこなかっただけならいいが、更に櫂までうっかりで落とされたら嫌味の一つ言いたくなるぞー」
利根「うぅ……それはすまなかった……しかし、急にお主が吾輩の航行を見学したいと言い出したのが悪いんじゃぞー!驚いてうっかりしてしまったぞ!」
提督「まあ、大人しく横になっていろ。じきに救援がくる」
利根「そうじゃな。筑摩は吾輩の妹だけあって、索敵能力に優れておるからな」
提督「索敵って比喩じゃなく本当に言葉通りになりそうで怖いんだが。俺筑摩に殺されないかなー」
利根「安心せい。口添えしてやる」
<ミユキ シスベシ ジヒハナイノデス! イヤーッ! グワーッ!
利根「……おー。駆逐艦どもの威勢のいい声がここまで届いておるぞ」ボケー
提督「助けてくれないかなー。今度から救助訓練も組み込んでみよう」ボケー
利根「おお、入道雲がよく見えるぞい!それにあれは鶴か?まさに雲中白鶴の趣じゃなー!吾輩の座右の銘じゃ」
提督「随分と時期外れの鶴だな。深海棲艦による生態系への影響のせいでずれ込んだのか。残念だが、目的地に着く前に力尽きるだろうよ」
利根「…………お主、オナゴから嫌われておろう」
提督「そうでもない。今朝も瑞鳳から卵焼きをもらったばかりだ。磯風が作ったものが残ったから、是非どうぞってさ」
利根「………で、どうじゃった?」
提督「うーん。そこらへんの記憶がないんだよなー。残念だ」
利根「まあ、覚えていない方がいいこともある。気にするでない」
提督「でも、雲中白鶴って無駄だよなー」
利根「何故じゃ?」
提督「いやだってさ、雲の中に鶴がいたら分からないだろ。それで品性の優れた高尚な人物を表すってなー。能ある鷹は爪を隠すってことか」
利根「真の高潔さは場に馴染むってことじゃろ。仏教にも悟りの段階を示す十牛図があるが、一般に悟りと思われている無の境地なんかは八番目に置かれて、最後はおじさんとなって最初の絵に戻っておる」
利根「精神的な高尚さなんてものは外面からはわからんものじゃ。少なくとも外に出している者は未だ発展段階に位置しておるんじゃ」
利根「戦艦や空母など華のあるのもよいが、吾輩は索敵などで華を目立たせる役割が好きじゃ」
提督「……その割にカタパルトが不調なんだな」
利根「いちいち水を差すでない。お主じゃぞ?水のやりすぎを戒めたのは」
夜
提督「流石に遅すぎないか?」
利根「そうじゃな。海域の安全が確保されているのも考えようじゃな。見回りがおらんな」
提督「暖かくなってきたとはいえ、夜の海はまだ冷えるぞ。利根、お前はそんな薄着で大丈夫なのか?」
利根「お主に心配されるとは吾輩も情けないのー。艦娘は冬のスコールの中でも任務を遂行するから、身体は頑丈であるぞ。お主が凍えてしまわないかのほうが心配じゃ」
提督「そうか」ゴローン
利根「……静かじゃなー」
提督「川内がいないからなー」
利根「今日はずっと空を見上げておった。……星が綺麗じゃなー」
提督「天測とかできるんなら、星座とかにも詳しいのか?」
利根「いや、星座には詳しくないのー。実用的なものとしてしか見てこなかったからなー」
利根「夜の空を見て思い出したが、吾輩の私室の窓にはコウモリが逆立ちして寝ていたことがあってな」
利根「最初は物珍しさからずっと観察してたんじゃが、いかんせんピクリとも動かんので、すぐに飽きた」
利根「しばらくその存在を忘れておったのじゃが、ふと窓に目をやると夜だというのにまだ眠っておったのじゃ」
利根「コウモリといえども規則正しい生活をさせてやらねばと、窓を開けてつついてみたんじゃ。どうなったと思う?」
提督「……さあな」
利根「やる気のない答えじゃなー。…………どうにもならんかった。そやつの身体はカラカラに干からびてミイラ化しておった」
利根「一体いつからそこにいたのか、仲間はどうしたのか、忘却されて朽ち果てていくのはどんな気分だったか色々聞きたいものじゃ。コウモリの気持ちなんてわかるはずもないのじゃが」
提督「……一時期「コウモリであるとはどういうことか」という論文が巷を賑わせたことがあったなー」
利根「ほう。そこにはなんて書いてあったのじゃ?」
提督「さあな。反響定位とか出てきたけど、論旨は擬人化の限界を示唆するものだったからなー」
利根「なんじゃ。つまらん話じゃな」
提督「そう文句を言うな。つまる話しかなかったら、それはそれで面倒だぞ?適当につまらないことで場を流していかないとな」
利根「……のう、提督。お主はかの蝙蝠が幸せな死を迎えたと思うか?」
提督「さあな。幸せな死なんてものは分からないが、そいつの生は楽しかったんじゃないのか。逆立ちして死ぬぐらいの酔狂だ。よっぽどこの世の娯楽に飽いていたんだろうよ」
提督「少なくとも、飛んでいる最中に力尽きて死ぬよりかはよっぽど楽しい死に方だ」
提督「死ぬときがくるならば、高貴な鶴として戦って力尽きるよりも、怠惰なコウモリとして静かに死んでいきたいと俺は思う」
利根「………吾輩はそんなのに付き合うのは嫌じゃぞ。お主が吾輩についてきてもらおう。長生きできるぞ?」
提督「これから俺らが死ぬみたいな話だな。流石にひなたぼっこが長じて死ぬのは情けないから、この話題はやめよう」
利根「なにを言っておるのじゃ。死因がひなたぼっこだとは最も酔狂な死に様じゃぞ。お主は喜ぶべきじゃろ」
利根「それに青空の雲に隠れる鶴や夜空の星影を縫う蝙蝠を見て過ごすお主との時間は心地よかったぞ。百万年程度なら耐えられるぞ」
提督「………短いなー。利根はこらえ性ないからなー」
利根「お主の人生何回分じゃと思っておるのじゃ!」
<マチニマッタヤセンダー! ドコニイクキデスカ? ゴメンナサイ
提督「夜だから川内が騒いでるな」
利根「毎晩うるさくてかなわんわい」
提督「というか、いくらうるさいからって声がここまで届くものなのか?」
ブーン
利根「何か飛んでくるな。あれは夜禎か!」
ブーン
利根「無事発見されたようじゃな。良かったな提督、ってなぜ吐いておるのじゃ!?」
提督「船酔いだ。おろrrrrrrrr」ドボドボ
利根「なぜ今更なのじゃ!?」
提督「ずっと寝転がった姿勢から急に上体を起こしたら気分が悪くなった」
提督「それにこの嘔吐は損ではない。戦術的価値がある」
利根「お主は何を言っておるんじゃ」
提督「暗がりで見えないかもしれないが、見たまえ。筑摩が激おこだ」
利根「そうか。いつもと変わらん気がするがの」ンー
提督「あれはお面だ。筑摩お面なんだ。取り外し可能なんだ。だから、今吐いておくことによって、あいつに吐かされることはないという防御手段なんだこの嘔吐は」
利根「何とも後ろ向きな戦術もあったもんじゃな。指揮官がこんなんだと心配になってくるぞ」
提督「生存にはお前が頼りだ」
利根「どうしようかのー。口が悪いし頼りない指揮官ならば、その首をすげ替えた方が良いかもしれんなー」
提督「へっへっへ。冗談がすぎるぜ。利根の姐さん。将来を約束した仲じゃないですかい」
後日
提督「あの後、筑摩に利根を危険な目に合わせたという罪状のもとしばかれた。女子高特有の理不尽さの片鱗を味わったぜ。見かねた利根さんが止めてくれなければ胃袋ごと吐くまで絞り上げられていただろう。川内がその間に探照灯で遊んでいたので、通りがかりの潜水艦から雷撃を受けて中破したが瑣末なことだ」
提督「比較的平和だったが、イチャつきとは何か違う気がする。それに最後に被害を受けたから、総体的にはマイナスだろう」
提督「俺だって艦娘とイチャつきたい。オリョクルさせたい」
提督「なので、直下に下二する」
提督「………なあ、秋雲。お前を三人集めると春雨と交換キャンペーンとかないのか?」
秋雲「急になに~?大丈夫?疲れていない?」カキカキ
提督「戦果を結構上げたと思うのに、春雨が全然着任しないんだが。おかしいよなー」
秋雲「そりゃあ、目の前に吊り下げられた餌なんじゃないの~。易々と着任させたら、出撃回数減るからねー」カキカキ
秋雲「でも、春雨って大人しい感じだけど、公式悪堕ち要員のビッチだよ」
秋雲「そもそも、他には大鯨しか持ってこない毘式40mm連装機銃を持ってくるだけでお察しだよね~。英国ビッチーズ社からの持参金持ちとかねぇ?」
提督「ヴィッカース社に関わるとビッチみたいな風評被害やめい」
秋雲「いやいやー、金剛とか完全に新参ホイホイだし、ビッチ勢筆頭じゃん~?」ケシケシ
提督「金剛は時と場所をわきまえているだろ!いいかげんにしろ!」
秋雲「本国じゃあきっとシーイズトゥイージーって言われてるよねー」カキカキ
提督「金剛は造船技術に多大な影響を与えているから、一応お前らの母親みたいなもんになるんだが」
秋雲「起源にまで遡るなら、人類は初めからビッチだよねー。イブがサセ子ちゃんじゃなかったら人類は生まれなかったはずだしぃ。始めにビッチありきってね~」ンー
秋雲「まあ、そのことは置いとくにしてもー、春雨を改造すると次はドラム缶を持参ってのが、もうあざとさの極致だよねー」
提督「なんでや!ドラム缶可愛いやろ!」
秋雲「輸送任務はお任せ下さい!って何を輸送するのかな?ん?性病かな?ん?って感じ」カキカキ
提督「お前春雨になんか恨みでもあんのか」
秋雲「いやいやないでずぜーそんなの。むしろ春雨も大鯨も金剛も好きよー?」カキカキ
提督「その割に随分と口が悪いな」
秋雲「春雨大鯨金剛って表紙にするだけで売上が変わるからねー?イチャラブセックスからレイプ、逆レ、エステに触手洗脳寝取り寝取られスカトロホモ。ソフトなものからハードなものまで、クラシックもサイコもこなす万能タイプ。重宝します」
秋雲「そんな彼女達を断腸の思いで貶し続けていると、徐々に興が乗ってきて、妄想のなかであんなことやそんなことをする境地が拓けてくるんですよ~。グヘヘ」カキカキカキ
提督「………七人と交換でもいいから、春雨着任しないかなー」
秋雲「提督ー。秋雲ちゃんおなかすいたー。何かないー?」
提督「お前まだ昼前だぞ?それに絵を描いていただけじゃないか」
秋雲「いやー、芸術ってのはつらいねー。精神も体力も削られるのに、ただ遊んでいるだけって思われちゃうもんなー」
提督「一緒にされて世の芸術家は嘆くだろうよ」
秋雲「え~?ピカソなんかよりグッとこない?」
提督「下半身にはな」
秋雲「あ、牛缶はっけ~ん!開けちゃお開けちゃお!」キリキリ
提督「待て!それはさっき秋月が置いてったものだ!演習終えたらご褒美に食べようとか言ってたもんだぞ!」
秋雲「もう食っちった」テヘペロ
提督「おいぃ!お前秋月が泣くぞ!」
秋雲「泣き顔可愛いよね」
提督「それは認めるが、問題は瑞鶴だ」
秋雲「なんでさ?」
提督「仲良しだからだよ。秋月から姉のように慕われて、瑞鶴も満更でもなかったんだろう。お姉ちゃんぶってるから、秋月を泣かせたら爆撃される」
秋雲「でも、瑞鶴さんの兵装は早朝の爆撃を避けるために変えたって」
提督「ああ彩雲84機のフルスロットガン積みだ。だが、それは普段の話だ。今は演習だから、彗星やら爆戦やらも積んでいるんだよ」
ブーン
提督「げえ彩雲!?とりあえず逃げるぞ!爆撃はまずい」ダッ
秋雲「あっはっは!提督はピカソなんか見る必要ないよねー!ゲルニカの世界に生きているんだからさ!薄い本いる?春雨本だよ~!」ダッ
提督「洒落にならんことを!………あと、それはもらおう!」ダッダ
鎮守府桟橋
秋雲「ねー、提督。牛缶なんてそんな高価なもんでもないし買い直せばいいんじゃな~い?」
提督「馬鹿野郎。それで秋月を泣かしたという事実が消えるわけでもない。ほとぼりがさめるまで時間を置くぞ」
秋雲「でも、あっちは彩雲があるんでしょ?どうすんの?」
提督「この前パラオ諸島沖の哨戒任務があったことを知ってるな」
秋雲「翔鶴の影を追ってーみたいな?あー空母を描きたいな~。今度はそっちで………ブツブツ」
提督「………その際の補給はパラオ泊地で行っていたが、他の任務の関係でレイテ島を経由してタウイタウイ泊地まで航路を進めたんだ」
提督「その途上では掃討作戦も行われた。オルモックの地は観光名所だし、またオリョールの海は資源が豊富だ。深海棲艦に狙われると厄介だから、ちょこちょこと掃除が行われているんだ」
提督「安全の確保には常に注意が払われているところだし、今はその安全のメンテナンスが終わったばかりということだ」
秋雲「なんだかいや~な感じが」
提督「高飛びするぞ!秋雲!」
秋雲「えー?牛缶一つで高飛びなんて馬鹿らしすぎじゃない?」
提督「すでにボートは用意した!」
秋雲「しかもボート………あの櫂がないんですがー?」
提督「落とした」
秋雲「じゃあ、どうやって?」
提督「何のための艦娘だ!?何のための艤装だ!?今使わなくていつ使う!?」
秋雲「少なくともここではないと言いたい」
提督「そもそも秋雲が牛缶を食ったのが原因だ。つべこべ言わず舟を引けえ!拿捕曳航はお手の物だろ!?」
秋雲「えー?………もう、はいはい、わかりましたよーだ」
提督「いいからオリョクルだ!オリョクル!」キャッキャ
オリョール海
秋雲「無事に提督をここまでひっぱてきたのはいいけれど」マワリミル
秋雲「なんだかカップルさんが多いよね」
提督「ここは艦娘達にとっては婚前旅行の名所でもあるからな」
秋雲「私達も結婚しちゃう~?今なら秋雲本もついてきて、お得でしょ?」
提督「スーパーのもやしより安っぽいプロポーズだな。そもそも君は練度が足りない」
秋雲「へー、提督って相手の数値を見て結婚を選ぶタイプなんだ~?意外ー。それよりも、さっきから艦娘と同じように海上航行している提督がちらほらいるんだけどー?」
提督「よく訓練された提督は艦娘と肩を並べて戦えるようになるらしいぞ」
秋雲「海の上に立てるんなら、私が引っ張ってくる必要なかったじゃーん!」
提督「だからよく訓練されたって言っただろ?司令部レベルが低いと海上航行はできん」
秋雲「さっき偉そうに秋雲ちゃんの練度がーって言ってたのに、提督の練度も足りてないじゃん!自分のこと棚にあげて恥ずかしくないの?」
提督「自分の薄い本を贈ろうとするよりマシだ。………まあ実際この状態は目立って恥ずかしいな。もっと見栄張ってクルーザーとかに乗ってこれば良かった」
秋雲「そんなの持ち出してきてたら、私だけで逃げていましたよ」
<デチ…デチ…デチ…デチ…デチ…
秋雲「なんか変な鳴き声が聞こえてきーたー」
提督「オリョール名物の死んだ目をした百万匹のでち公だ」
秋雲「なにそれ」
提督「ここは無尽蔵かってぐらいに燃料があるから各地の鎮守府からおこぼれをもらいに部隊が編成されるんだ。燃料が目的だから、消費の少ない艦がいい。そこで白羽の矢が立ったのが潜水艦だ」
提督「みんな考えることは同じだから、結果としてでち公がここに集結することになる。この潜水艦の大群の景色は壮観で、その異口同音に発せられる鳴き声は黄金だ。これを観光しにきた旅行客も多く、オルモックの経済を潤わせている」
<デチ…デチ…デチ…デチ…デチ…
秋雲「……壮観っていうより悲壮感が漂ってないかなー」
夜
ピカピカ
秋雲「おお!夜景!他は暗いのにオルモックの街並だけ輝いてて、真夜中に朝日を体験してるみた~い!」
提督「流石にほとぼりはさめたはずだよな。おい、秋雲帰るぞ!」
秋雲「あー待って。この景色を描いちゃうから」カキカキ
提督「写真を撮って、後から描けばいいんじゃないか?」
秋雲「んー、提督。美術の成績最低だったでしょ?流石に秋雲ちゃんも引いちゃうかなー」カキカキ
秋雲「絵ってね、別に正確さを求めているわけでもないの。確かにシャフ度モナリザで有名なフェルメールが使用したとされるカメラ・オブスキュラなんてものは人力カメラみたいで、現代の撮影技術の劣化版みたいに見えるかもね」カキカキ
秋雲「でもね、その意図は写真とは違うの。当時は芸術に光学の影響があったの。というのも、少し前に世界観の大転換、天動説から地動説へ、いわゆるコペルニクス的転回があったから」カキカキ
秋雲「なぜ光学が関係あるって?それは望遠鏡の関係よ。地動説の疑いがでたのは望遠鏡の発明により意外と夜空が遠いという事実の発見に基づくからで、従来のように天使が星を動かしていたと考えたら、天使はめちゃくちゃ速く動き回らなければならないことになって、それはおかしいという疑惑が地動説への門」カキカキ
秋雲「要はより本当らしい世界観に光学が寄与したってわけだから、絵画分野でも新しい世界を求めてそれを取り入れようしたわけ」カキカキ
秋雲「絵画っていうのはいつも隠れた真実を暴こうとする努力なわけ。『絵画を軽蔑するものは哲学をも、また自然をも愛していない』ってね~」カキカキ
秋雲「ピカソだってそうよ。キュビズムは多角面から見たものを一面に集めて一挙に見る努力だから。クザーヌスは神をあらゆる〈視〉と特徴づけていて、それに基づけばピカソは神の視野に近づこうとしたように思う。そう考えると、ゲルニカは神から見た人間の醜さを描いたともみえるよねー」カキカキ
秋雲「まあ絵画以外、特に現代芸術は秋雲ちゃんにはよくわからないんだけどー。アニッシュ・カプーアの『虚ろなる母』はただの青いボールにしか見えないし、シュトックハウゼンの『ヘリコプター弦楽四重奏曲』はヘリコプターに乗ったおっさん達が奇声を上げながらバイオリンを弾いてるだけだしー」カキカキ
提督「……いつにもまして饒舌だな」
秋雲「言葉を重ねてないと、提督は帰るぞーって騒ぎ出しそうだから」
提督「わかったわかった。俺だって絵を描いている人の後ろで騒ぐことなんてしないから、集中してくれ」
秋雲「助かるなー」カキカキ
提督「………」
秋雲「………」
秋雲「………提督」
提督「なんだ」
秋雲「………画家っていうのはね、自分の作品が時を過ごすことを前提にして描くの。色落ちとかも想定してたりするんだよ。それなのに、美術館とか多くの人は作られた当初を再現し続けるために復元しようとする」カキカキ
提督「そりゃあ、一番きれいな時を保存したいもんだろ。そういやモネの絵にパンチして6年の実刑判決を受けたって話もあったなー」
秋雲「極端に言ってしまえば、絵って砂浜に描かれているものでね。いつか変化して消え去っていくことも重要なところなの。過ぎることを拒否することに意味はないの。例えば過ぎ去ることを拒絶して、時計に釘を刺して針を固定したら、もうそれに意味がないのと同様にね」カキカキ
提督「乙女っぽいセンチメンタルだなー。いつものアホ元気はどうした?」
秋雲「ねえねえ、知ってる?秋雲ちゃんも乙女でーす!あと、アホって言うな!」
秋雲「………まあ、なんての。艦娘と結婚する人ってどんな感じなのかなーって思っただけよ」カキカキ パタン
秋雲「ほい!完成っと!どうよ!」テワタシー
提督「………おい。絵は真実を描くとか偉そうに言ってたのは誰だ。俺は海上航行できないし、秋雲とも手を繋いでないし、てか秋雲から頬にキスを受けた覚えもないのだが」
秋雲「だーかーらー、本当に芸術の素養が低いなー提督は~!」
秋雲「隠れた真実は写真に映る現実とは違うんだーい!」ベー
後日
提督「そのあとは牛缶を買って帰ったのだが、秋月と大和が涙ながらに出迎えてくれた。どうやら行方不明扱いされていて非常に心配をかけたとのことだ。結局、それで瑞鶴に爆撃を受ける羽目になったが瑣末なことだ。ところで牛缶の件に関しては、俺から言い出すまで捜索に必死だった秋月は気づかなかったらしい。それでまた泣き出したので、再び瑞鶴の爆撃を受けることになった。秋月は狡猾にも「提督は心配の涙を流してくれた娘達と一緒にいてあげてください」とさも空気をよんだかのように逃げやがった」
提督「あの時描いた絵をどうしたのかは知らない。でも、あれから秋月の描く薄い本のストーリーは純愛ものが増えた気がする。彼女にも心境の変化があったことは喜ばしいが、俺が特に原因でもないのに二度も爆撃を受けた。理不尽」
提督「俺だって艦娘とイチャつきたい。もうしちゃったけどオリョクルさせたい」
提督「なので、直下に下二する」
提督「リットリオに土下座する!」
提督「でも、なんで土下座するんだ?」
複雑になりそうだったから安価に任す
土下座への理由安価 下二
大和「戦艦大和、ただいま帰投しました!」ピシッ
提督「ご苦労だった。特殊海域の攻略作戦は順調だな」
大和「はい。主要な敵艦隊は撃退完了しました」
提督「ところでイタリアからの艦娘が着任していたが、彼女の調子はどうだ?」
大和「まだ低練度のV・ヴェネト級のリットリオですが、火力は高練度の金剛型に迫り射程も長いので先制で敵艦を撃破し戦果を多くあげてます」
提督「イタリアは「先制するものは二度殴る」って言葉をそのまま兵装に詰め込むからなー」
大和「金剛型が文句を言ってましたよ。火力と射程に装甲もあるのに、同じ高速戦艦はずるいとのことです。あと「艤装の上で焼いてるソーセージ美味しそうデース」とも。活躍の場が減ってふてくされているので、ケアをお願いします」
提督「あいつらにはまだまだ活躍してもらわなければならないしな。あと、ソーセージじゃなくゴムボートな」
提督「戦果報告はいつも聞いているからもう結構だ。彼女はこの鎮守府に馴染めているか?なにか不便があるんじゃないか?」
大和「ええと、彼女のことを「チルコロリットリオ」と称す娘もいまして」
提督「チルコロリットリオ?」
大和「そう身構えないでください。悪意のあるあだ名ではありません。提督も感じたと思いますが、彼女の性格と言葉遣いは角がないので、円いという言葉が頭についたようです」
提督「なんだ。じゃあ馴染めているってことだな?」
大和「ええ、そうなるとは思いますが………」
提督「何かを含んだ歯切れの悪さだな。何か問題があるのか?」
大和「ただ優しいだけではあだ名まではいかないってことです」
提督「どういう意味だ?悪意はないんだろ?」
大和「ウロボロスという自分の尾っぽを咬んでいる蛇の象徴がありますが、チルコロリットリオにはそのウロボロスの影が入り込みます」
提督「?自傷癖でもあるのか?」
大和「物理的なものではありませんが、そう言ってもいいかもしれません」
提督「詳しくせよ」
大和「今述べたように通常時は鎮守府にリットリオはとけ込めています。ただし善悪の判断が絡むと途端に他の娘達と齟齬をきたします」
大和「善悪判断の基準は一般的には加害/被害の区別にありますが、リットリオにとってその基準は自/他の区分のようです。状況にかかわらず、機械的に自分が悪で相手を善とみなします。彼女には自罰しかなく、他罰という発想が見受けられません」
提督「そんなことがありうるのか?」
大和「事実そうとしか思えない言動が目立ちます。チルコロリットリオとはそんな彼女の態度に対する艦娘の困惑からも生まれた名前です」
リットリオ私室
提督「すみまっせんでしたぁぁああ!!」ブラーボ ドゲザ!
リットリオ「」
提督「リットリオのタンスを漁っていると!赤い下着がでてきまして!ウヒョォォォォォ!大人しいなりして夜は武田軍かよお!風林火山の夜伽テクニックかよお!と思いまして極度の興奮状態に陥った僕はリットリオの下着を盗みましたああああ!」
提督「すいやっせんでしたああああ!!!」コンプレテッツァ ドゲザ!
リットリオ「」
リットリオ「……ああ!これが日本挨拶ですね!ボンジョールノ、提督」ドゲザ メレンソ
提督「……」イナップンターブレ ドゲザー
リットリオ「……あ、あの提督、頭を上げてください…頭に被っているものを元のところに戻してください」
リットリオ「リットリオの目はハムに覆われていますし、耳もハムに覆われていますから」
提督「それは足が痛いから無理だ」
リットリオ「足が痛いんですか?それは大変です。その姿勢だと悪化するので、早く横になってください!」
提督「足が痛いから無理」
リットリオ「じゃあ、私が手伝いますね」
提督「俺に触るんじゃあない!」ペシッ
リットリオ「っすいません。提督。リットリオじゃダメですよね……ええと、じゃあ誰か」ダッ
提督「待て!リットリオ!これを見ろお!」ブラジャーピローン
リットリオ「私のレッジペット……?」
提督「これをこうする!レロレロレロレロッ!パクっ!モグモグ、もっちゃもっちゃ。ジュルジュル」
リットリオ「」
リットリオ「……提督が必要ならば、どうぞ持って帰ってください。その下着はリットリオに合わないので捨てようと思っていたんです」
提督「確かに君には少し小さいように思える。しかし、捨てようとしたことは嘘だ」モグモグ
リットリオ「……合わない下着を捨てることは当たり前のことですよ」
提督「タンスを漁った時、赤い下着は複数着あった。その中には明らかに小さすぎるものもあった。龍驤の下着が紛れ込んでいるのかって思ったぐらいだ」ペロペロ
提督「ここ最近で買ったのではないものだ。そんなものをわざわざイタリアから日本に持ち込んだってことは大事なものなんだろ?聞くところによると、イタリアでは赤い下着は縁起物でプレゼントにも使われるらしいな?」チュルチュル
リットリオ「……」
提督「……」チュパチュパ
リットリオ「……提督、実は地中海では男性の欲望を女性が善意でなだめるという文化がありまして」
提督「そんなエロゲーみたいな文化なんてきいたことがないぞ」アムアム
リットリオ「ごめんなさい。嘘ついちゃいました。純粋な善意ではなく、ちゃんと目的がありました。地中海は男性のそれが強いので、仕事に支障をきたす場合があったんです」
リットリオ「特に戦争では侵略した地の男を皆殺し女を奴隷にすることが多々あって、その様を嘆いた女性たちがこのままだと男たちは地獄に落ちるからって協力しだしたのが発端です。宗教的な動機もあったのですが、実際は後に禍根を残すことになるのを避けようとしたための処置だったとも言われます」
リットリオ「肉体まで許すことは少なかったようですが、ある程度の効果を発揮し、仕事の能率もあがったようです」
リットリオ「間接的にとはいえ社会に貢献しているので、その女性は名誉ある立場になります。勿論そこには男に好かれることへの自負と高慢があったと思いますが」
リットリオ「だから提督がリットリオの下着を選んでくれて嬉しく思います!」
提督「だからといってそれで俺のしたことが免責されることはないだろう」カミカミ
提督「例えば、誰かが銃を持って道行くある人を殺そうとする。しかし、彼の銃の腕前は残念だったので、見当はずれの虚空に弾は吸い込まれた。イノシシを驚かせて走らせただけだ」
提督「ある人はそのイノシシに驚いて足を止める。すると彼の目の前を猛スピードでトラックが通り過ぎた。信号無視だ。もし立ち止まらなければひき殺されていただろう。その時、銃を撃った人間は彼を助けた英雄たりうるだろうか?」
リットリオ「ギュゲスの指輪の逸話によれば、善悪は評判によって決まるのだから見えない悪は悪ではないらしいです。ここには私達二人しかいません」
提督「しかし、俺は隠蔽のためのギュゲスの指輪もない現行犯だ。そして行為だけでなく意志に関しても目に見えている罪だ」モキュモキュ
リットリオ「‥‥‥‥‥‥」シュル
提督「なぜ脱ぐ?」
リットリオ「……今までリットリオのくだらない話に付き合わせてすいません。私は自分の気持ちに素直になります」シュルシュル
リットリオ「リットリオは提督をお慕いしています」
提督「馬鹿な」
リットリオ「こっちではどうかわかりませんが、恋に過ごした時間は関係ないというのが地中海風です」グイッ
提督「……ここは日本だ」アトズサリー
リットリオ「リットリオはあなたを一目見た瞬間に熟したナシのようにどすんと落ちる感覚に貫かれました」ガシッ
リットリオ「他にもあなたを好いている娘達がいたので、余り強くでれなかったのです。それに、強烈にアプローチをかけてパセリのようにでしゃばった結果、邪魔者扱いされると目も当てられませんから」ダキッ
提督「お前のそれは諦めの果てにある甘いレモンだ。決して恋の甘味ではない」
提督「キューブラーロスは人間の死に対する態度を否認・怒り・取引・抑うつ・受容の五段階に分けた。お前には現実を変えようとするその怒りの段階が欠落している。お前は何もかもを逃れられない運命として諦め挫折している。何度の死を迎える気だ?」
リットリオ「その最後の受容っていうのは悟りの境地ってことですよね?段階を飛ばせるのだから良いことじゃありませんか」
提督「ふざけるな!君は足掻く事なく死ぬっていってるようなもんだぞ」
リットリオ「私の正義のファスケスには、もはや髪も、名誉も、名前もなく、毎日殴られ、日毎に汚らしくなり、刃先には反逆心も、平安も、信仰の光もないんです」
リットリオ「これから何を失っても、これ以上の喪失はありません」
リットリオ「必要がなくなれば、搾り取られたレモンのように捨てられる運命なのです」
提督「その言葉は無視できない。それは他の全ての艦娘を侮辱する」
リットリオ「そんなつもりはありませんよ。リットリオは他の艦娘とは違うので」
リットリオ「他の娘達は深海棲艦を撃沈するとき最低限の敬意をもっています。私達と姿が似ているのもいますし、もしかしたら相手の前世は私達かもしれないっていう印象を受けて、どこかで仲間意識を持っているからです」
リットリオ「私にはその海の深淵を介する共同体意識がないんです。その意識は相手の裏側から感情移入する一種の愛であり、艦娘同士でもそれが重要なものです」
提督「お前は感情移入ができないってことか?」
リットリオ「できない方が良かったかもしれませんね。……日本には三本の矢という話がありますよね?」
提督「ああ、一本ではたやすく折れる矢も三本束ねれば折れないって話だ」
リットリオ「その話ですと束ねられた矢の方を評価していますよね。イタリアにも団結は力なりって言葉もありますから、それは普通はいい事と考えられているのかもしれません」
リットリオ「しかし、三本の矢は一本の矢の上位互換ではないんです。三本の矢は一本矢とは異なり折れないという能力を手にしてますが、それは同時に折れることができるという能力を手放しているんです」
リットリオ「私のファスケスは折れてくれないんです。一度、相手を悪と決めたら殺しきるまで止まることをしない。リットリオの中には戦争が渦巻いているんです。戦果をあげているのは、他の娘達が僅かに逡巡している間に私は躊躇なく敵を殺せるからです。射程の長さの秘密です」
提督「……お前の過剰な自罰行為は仲間を傷つけないためか?」
リットリオ「皮肉なものです。深海棲艦に何の仲間意識を持たない一人の艦娘が結局は一番深海棲艦に近いのですから」
提督「……そうか。君のことを教えてくれたことに礼を言う」
リットリオ「……助けてくれないんですか?」
提督「悪いね。うちのモットーはレッセフェールなんだ。明日のことは今日やるな。ケセラセラ」
リットリオ「……他の娘達が言った通りですね」
提督「格好良い!濡れる!ってか」
リットリオ「確かに女性の下着をビショビショにしましたね。いえ、話を聞くだけ聞いてってあとは放置。問題解決する気がないっていう話です」
提督「悪いね。無能提督で。まあ、話を聞いたし帰るよ」
リットリオ「……そうですか。ベッドは空いてますよ?」
提督「寝ないぞ。……最後に取っ手を付けるが、君は誇りも名誉もなくしたといったが、仲間を傷つけることを避けて自身を犠牲にしたことは褒められたことではないが誇り高い行為だ。とりあえず、その極端性を緩和することが課題だが、それは他の艦娘達に任せる」
後日
提督「あの後「アリーヴェデルチ!」颯爽と退室した俺だが、遭遇した秋月に叫ばれることになる。頭の上にリットリオの下着を履いたままだったのだ。そして何を勘違いしたのか「提督!返してください!」と赤面しながら飛び跳ねて俺の頭から奪取しようとしてきたので、適当に躱しながら小さくも揺れる胸を眺めていた」
提督「そういや秋月も夜の武田軍勢だったなーと思っていると、そのうち泣き出してどこかに行った。そして瑞鶴に爆撃される羽目になった」
提督「騒ぎを聞きつけたリットリオは「キラファ・ラスペッチィ!キラファ・ラスペッチィ!インガオーホー!」と全ての風に言いふらすかの如く騒ぎ立てていた。二重に騒がしくなって、俺の被害も余計に増えた」
提督「いちゃつこうとすると、いつも生傷が増える気がする」
提督「俺だって艦娘とイチャつきたい。オリョクルさせたい」
提督「なので、直下に下二する」
次回の更新は遅れる
1日1ずつレベルアップする五十鈴bot (ボソッ
執務室
提督「今日の秘書艦は五十鈴か」
五十鈴「……ええ……よろしくね」ウツラウツラ
提督「って、どうした随分と疲労しているようだが」
五十鈴「……川内よ。夜ごとに宿舎で騒ぐんだから、全く眠れないんだから」
提督「確かに騒いでる声はここまで聞こえているが夜通し大声をあげているわけではないだろ?あいつだって他人の休眠を邪魔することはしないはずだ」
五十鈴「そうね。でも軽巡の付き合いで夜通し川内とお遊びしてあげたの」
提督「そうか。すまないな。面倒を押し付けたみたいで。厳重な注意をしておく」
五十鈴「いいわよ、別に。私も楽しかったしね。ここ数日間ずっと付き合っていたから彼女達のこともよく知れていい機会だったわ」
提督「川内が夜騒いで昼にぶっ倒れている姿は時折見たが、最近その頻度が増えたのはお前のせいか。あと那珂も倒れていたのだが」
五十鈴「一緒にカラオケで歌合戦をしたのよ。歌うのにも体力は使うからね」
提督「それもお前のせいか。神通も入渠中だし、川内型が全滅しているわけなのだが」
五十鈴「心配しないで。神通の代りはこの五十鈴が務めるわ。二水戦の旗艦も五十鈴にお任せよ!」フラフラ
提督「顔も赤いし汗もすごいぞ。秘書艦は別に頼むから、今日はもういい休み給え」
五十鈴「あら、五十鈴は大丈夫よ?遊び呆けて仕事をおろそかにする五十鈴じゃないわ」フラッ ガン
提督「……どう見ても体に限界が来ているぞ。昨夜だけじゃないんだろ。かなりの期間その無茶を通してきたように見えるぞ」
五十鈴「大丈夫よ。ほら襟の「弍」って文字が見える?改二になって五十鈴の弱点だった耐久も頑丈になったんだから」
提督「……わかった。今日の執務は楽な部類だけど、しっかりこなすように」ゴソゴソ
五十鈴「なんで執務室に布団があるのかしら?」
提督「提督の仕事は多岐に渡るってことだ。他にも露天風呂やバーカウンターもあるぞ?」フトンシキー
提督「五十鈴、秘書艦の仕事の本懐を理解しているか?」
五十鈴「名前の通り提督の仕事の手伝いでしょ?」
提督「正確には仕事の補佐ではなく、秘書艦は提督の疲労の軽減を目的としている」ゴロン
提督「というわけだから、俺の体力を確保してもらおう。五十鈴、横に来い」ウデヒロゲー
五十鈴「じゃあ、失礼するわ」モゾモゾ
提督「お前はそんな素直に入ってくるタイプだったか?」
五十鈴「……疲れているのよ」
提督「随分お疲れのようだな。まあ少し眠ろうか」
夜
提督「……寝すぎた」
五十鈴「そうね」
提督「体調はもう良いのか?」
五十鈴「疲れている時って、一定の時刻眠るとさっぱりと覚醒してしまうものだわ」
提督「じゃあ、今日の仕事は終わりだ。何もしてないなー。こりゃまた怒られるな」ゴソゴソ オキアガリ
五十鈴「待って!」フク ギュッ
提督「どうした?」
五十鈴「………」
提督「………」
五十鈴「もう少し五十鈴が添い寝してあげるわ」
提督「………わかった」フタタビゴロン
提督「珍しいこともあったもんだ」
五十鈴「………腕」
提督「は?」
五十鈴「腕を出してって言ってるの。枕を高くして眠りたい気分なのよ」
提督「………分かったから、つねるな。貴族がわがままなのは知っているしな」ウデシキー
五十鈴「大丈夫?圧迫しすぎてない?」
提督「問題ない」
五十鈴「そう」
提督「………で、どうして自分の部屋に戻らないんだ?………枕を重ねたいってことか?」ワキワキ
五十鈴「その手はなに?何がしたいの?」
提督「ピロートークとは思えない冷たい語調だな」
五十鈴「………提督。今あなたが腕に抱いているのは誰?」ジッ
提督「何を言っているんだ。五十鈴だろ?軽巡洋艦の長良型二番艦である五十鈴だ」
五十鈴「あなたが見ている五十鈴は誰かしら?」
提督「五十鈴は五十鈴だろ」
五十鈴「不十分だわ」
提督「何がだ?お前はお前だろ」
五十鈴「そうね。私は私よ。でもね、五十鈴は私ではないのよ」
提督「さっき自分のことを五十鈴って呼んでたじゃないか」
五十鈴「確かに私は五十鈴よ?」
提督「禅問答をしている気分だ。いつから仏教徒になったんだ?利根か?ツインテールは仏教徒になんの?ツインテールは連理の枝なんですー惹かれあうんですーって。今度瑞鶴もいれてやれよ。悟ったら爆撃癖も治るかもしれん」
五十鈴「ちょっと不機嫌にならないでよ。別に伝道者になりたいわけじゃないわよ」
五十鈴「そうね。わかりづらかったわね。反省するわ。言葉を変えれば「犬は動物である」とは言えるけど「動物は犬である」とは言えないってことよ。文法的には主語は述語より範囲、外延が大きかったらダメってこと。提喩など例外はあるにしろ基本的にダメってこと」
提督「それは一般名詞の話だろ?五十鈴は君の名前だ」
五十鈴「「五十鈴は五十鈴だ」ということを不十分って言ったのは、偽である場合があるからよ。この言葉の意味が「この五十鈴は五十鈴だ」だったら真だけど「全ての五十鈴はこの五十鈴だ」っていうのは偽よ」
提督「神経質すぎると思うが」
五十鈴「そうね。普通ならこんな自分の名前に関して神経質になる必要はないわ。なぜなら、「全てのAはこのAだ」というのは固有名の場合正しくなるもの。唯一の名前ならば、この一人にしか妥当しないのは当然でしょ?」
提督「じゃあ」
五十鈴「でもね。提督。五十鈴は固有名じゃないの。提督は提督って呼ばれているけど、本名があるでしょ?他の鎮守府に行った際はその固有名で提督も区別されることができるの。同じ「teitoku」という音の呼称でも、それがあるから区別されるはずよ」
提督「待て待て。「提督」というのは役職だからこの名で呼ばれる人は多いが、五十鈴は、少なくとも艦娘の五十鈴は、一人の固有名だ」
五十鈴「違うわ」
提督「違うってどういうことだ。俺は五十鈴を君一人しか知らないぞ?」
五十鈴「そうね。私も事実的に五十鈴を他に見たことはないわ。でも、わかるの。兵装庫には使われなくなった21号対空電探が余っているわよね?」
提督「ああ。使い道がないから、廃棄して資源として使用されているな」
五十鈴「その電探に二つ名を与えて区別しているかしら?」
提督「なんでそんな面倒を。電探は電探だ。どれも同じだ」
五十鈴「そうね。私も区別しないわ。でもね、五十鈴もその電探と同様に五十鈴は五十鈴なのよ」
提督「電探は廃棄しても、お前を解体する気はないぞ。お前しかいないからな」
五十鈴「あら嬉しいこと言ってくれるじゃない。でもね、それは私一人だからであって、いつの間にか別の五十鈴に入れ替わっているかもしれないわよ?同じ五十鈴ならまだマシだけど、スワンプ五十鈴かもしれないわよ?」
提督「………例えば君が軍艦だった頃を考えよう。ハードウェアは艦の五十鈴で、ソフトウェアはその艦長だ。ソフトウェアは何回か変更されたが、海軍の殿堂と呼ばれたぐらいに優秀なものばかりであったから、艦の五十鈴はどんな時でも活躍できた。どのソフトウェアの時も同じ戦果をあげた」
提督「外からみると、どの五十鈴も同じだ。でも、「山口多聞の五十鈴」が良いとか「山本五十六の五十鈴」が好きだって区別することはできるだろう」
提督「使用するものとされるものは区別しうる。だから、俺も同様に今腕に抱いている五十鈴が好きだと言うことはできるはずだ」
五十鈴「ダメね。口説き文句としては三流よ」
提督「ダメかー。秋月から学んだ論法だったんだがなー」
五十鈴「………やっぱり五流に格下げね。私と今こうしているのに、他の娘の名前を出すなんて」
提督「今ってそんな感じの関係だったのか」
五十鈴「…こほん。まあ、私にはプラトニック・ラブで一体世の恋人達が何を言おうとしているのかわからないだけよ」
提督「肉体的な愛ではなくて、精神的な愛ってことらしいぞ」
五十鈴「定義が分からないわけじゃないわ。意図がわからないのよ」
五十鈴「結婚式でも永遠の愛を誓い合うけど、「永遠の愛」って何よ?」
提督「体に飽きたからって相手を捨てないとか経済的に裕福さがなくなったからって相手を捨てないことなんじゃないか」
五十鈴「そうね。偶然的で可変的なものを愛することではないことよね。だったら逆に何を愛しているならば「永遠の愛」ってことになるのかしら?」
提督「………性格とか?でも性格も変わるしなー。というか相手を好きになるのにそんな原因の探求が必要とも思わないぞ」
五十鈴「別に私も答えを求めて真剣に聞いたわけじゃないわ」
五十鈴「でも、恋人達が「君が君だから好きだ」と言う時には、物理的な推移も心理的な推移も超えたものを想定していると思うわ。「デカルト的コギト」って言えばお洒落かしら?」
提督「全ての経験的なものを削ぎとっても残るものか」
五十鈴「永遠の愛について否定的にしか述べられないのは、きっとコギト自体が懐疑を通して獲得されるものだからよ。それが唯一確実なのはいいけれど、疑いの果て、そこには何もないわ」
五十鈴「表面がツルツルののっぺらぼうだから、結局恋人達の永遠の愛は相手を区別できていないように思うわ。そんなもの考える必要がないわ」
五十鈴「物理的継続や心理的継続の背後にそんな分離した自己同一性を置く必要はなく、ただ物理・心理の継続だけを考えればいいのに」
提督「しかし、その経験の継続ってコギト、自己同一性を前提にしている必要があるんじゃないか。諸経験をコギトが持つことによって継続は成り立つ。コギトは経験を束ねるためのフックなんじゃないのか?」
五十鈴「同一性を前提にしなくても経験の継続は可能のはずよ。例えば、五十鈴がある箱に入っていて、その箱は実はワープ装置だったとしましょう。3次元空間から11次元空間へ一度ベクトル変換演算を行ってベクトル移動、そして対象を再び3次元空間に出現させることによりテレポートを可能にした飛びっきりの先進装置よ。まず転送元の装置でその対象の分子構造を解析し、そのコピーを転送先の装置に作成する。そして、転送元の装置にいる対象を殺害するから転送されたら箱の中の五十鈴はいなくなるわ」
五十鈴「その転送一歩手前に五十鈴は窓の外を見て「外では雨が降っている」と考えて、その後転送先の複製が「だから、今日は傘を持っていかなくちゃ」と考えたとき、自己同一性が前提されなくても継続が可能になっているわ」
五十鈴「死んじゃった五十鈴と複製の五十鈴を同じ人格と考えることはないもの」
提督「同じじゃないのか?」
五十鈴「もし、転送装置が箱の中の五十鈴を殺さなければ、五十鈴は二人になるわ。その場合、箱の中の五十鈴と複製の五十鈴は別人格として扱われるはずよ」
提督「その場合は箱の中の五十鈴が本物か?」
五十鈴「本物とか偽物とか関係ないんじゃない?転送装置がやっぱり箱の中の五十鈴を殺して、別の場所に五十鈴の複製を今度は二体作る。どっちが本物とか意味はない事態ね」
提督「でも、箱の中の五十鈴はやっぱり物質的な連続性があるじゃないか。複製は途端に出来上がるわけだから」
提督「それに五十鈴が三人並んだとしても、そこから各々別の記憶が始まるんだから、名前を変えればいい」
五十鈴「五十鈴から五十鈴を奪うわけ?やめといたほうがいいわ。艦娘の名前は人間の名前とは違うのよ?」
提督「こちらで勝手に呼ぶのならいいだろ」
五十鈴「それって、結局あなたの恣意によって区別されるってことじゃない。別の五十鈴に入れ替わったら、気づかずに私と思われ続けるってことね。忘却されたことじたい忘れ去られた五十鈴はこうして歴史に名を残すのね」
提督「そういじけるな。というか、君はコギトを否定した割に<私>という君自身に囚われているな」
五十鈴「勘違いしないで、別に否定したわけじゃないわ。考える必要がないってだけよ。私だってその分離した永遠の愛の対象たる<私>を持っているわ」
五十鈴「もし、経験の継続しかなかったならば、五十鈴の中の五十鈴たる私はとても惨めな思いをするわ」
五十鈴「問題はそのコギトを考えなくても生活できるってこと。私を見つけることができるのは私だけよ」
五十鈴「それなのに、私は私として他人に扱われないと<私>を見つけることができないのよ。周りと常に関わっていないと死んじゃう気がするの。一人でベッドに入っていると暗闇の中に五十鈴がうごめいているような気がして、眠れない」
五十鈴「川内たちは気を使ってくれたのよ。最初は確かに川内のうるささに付き合っていただけだったけど、そのうち私の方がそれを必要としていることに気づいたわ。いつの間にか私が率先していたのよ。神通の怪我だって、私が夜に無理させたのが原因だわ。有名な神通のスパルタ訓練をこなすには休息が必要だったことぐらい明らかなのにね」
五十鈴「でも、それを止めることはできなかった。ダメだダメだと思ってもいざ不安の深淵を覗くと、彼女達に頼ってしまったわ」
提督「眠るのが怖かったという割にえらく簡単に今日の仕事をしてくれたな」
五十鈴「そうね。川内型の全員がダウンした事実は、寝不足で判断力の低くなった五十鈴にも衝撃を与えたんじゃない?流石に提督には五十鈴のことを話しておかないといけないと思ったのよ」
提督「少し遅すぎたな」
五十鈴「そうね。悪かったわ」
提督「でも、困ったな。君の悩みは世界の五分前創造仮説に似ていて、実践的には放棄できるものだが、論証によって解消できるものではないぞ」
五十鈴「だから、提督以外にこの話はしてないわ。言っても仕方ないもの。今日はもう消えちゃってもいいかなって思って眠ったもの」
提督「馬鹿げた不安ほどよくつきまとうものだ。で、どうだ?変わらなかっただろ」
五十鈴「そんな気はするわ」
後日
提督「あの後、五十鈴はそそくさと帰っていった。添い寝するんだからもっと期待していたのだが、五十鈴が許してくれなかった。それと五十鈴は川内たちに謝りにいったらしい。仲良く昼食をともにしている姿から、関係には問題ないらしい」
提督「一日中寝ていたので、仕事がまるごと後日送りになり、そのさい秘書艦を務めた瑞鶴に非常に文句を言われたが瑣末なことだ」
提督「平和な添い寝だった。しかし、言葉上はいちゃついているようだが、実際には寝てばかりだった気がする」
提督「俺だって艦娘とイチャつきたい。オリョクルさせたい」
提督「なので、直下に下二する」
雑さが目立ってきたから、数日は更新しないと思う
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