きんいろモザイクのSSです。
注意!
・R-18になるかならないか、皆さんの反応で決断
・更新遅い
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『こんにちは。松原穂乃花です。
二年生になってから少し季節は過ぎていき――変化にもようやく慣れた、って思えるようになってきたかな。
新しい友達もできて高校生活、エンジョイ中。毎日楽しくて幸せだよ』
穂乃花「うーん……」
はたと止まるペン。
私は小さく唸る。
穂乃花「日記ってこんな感じでいいのかなー」
高校生活もそろそろ折り返し。
何も形が残せないのは嫌だと、私は日記を書こうと思い立ったんだけど――なんか違うような気がした。
これってどちらかと言えば手紙だよね? いや、でもこれも日記と言えなくは、
穂乃花「分からなくなってきちゃった……」
頭を抱える。
これでは後に読み返して恥ずかしくなるだけだ。どうしよう。
穂乃花「……気分転換しよう!」
ちょっと考えて思い立つ。
今は書ける気がしない。悩んで休み時間が終わるのは勿体無い。それなら何かするべき。
それに行動すればもしかしたら、日記を書くネタができるかもしれない。
穂乃花「そうと決まればカレンちゃんに!」
鞄からお菓子を取り出す。
カレンちゃんの金髪を見て、心を落ち着かせよう。
席から離れ、私は教室を見回す。けどどこにもカレンちゃんはいなかった。
通りで静かなわけだ。納得。
でもどこに行ったんだろう?
穂乃花「あ。綾ちゃん」
席で本を呼んでいた綾ちゃんを見つけ、私は近づく。
穂乃花「カレンちゃん見なかったー?」
綾「見てないわね。隣の教室にいるんじゃない?」
穂乃花「あ、隣。そういえばそうだね」
思いつかなかった。隣にはアリスちゃんや陽子ちゃんがいるんだよね。
穂乃花「ありがとう、綾ちゃん」
綾「ええ。どういたしまして」
にこっと笑い、本へ視線を戻す綾ちゃん。
私はグッと両手を握りしめ、意気込んだ。
穂乃花「よーし、カレンちゃんに会ってリラックスしなくちゃ」
綾(逆にリラックスできないんじゃ……)
私は意気揚々と教室を出た。
隣の教室へ。
お昼休みということもあって、やっぱり教室内は賑やかだ。
お菓子を抱え、私は教室内へ足を踏み入れ、中の様子を眺める。
いつもの場所。みんなが集まっているところには忍ちゃん、陽子ちゃん、アリスちゃんが。
でもカレンちゃんの姿はなかった。
穂乃花(カレンちゃんいないなぁ……)
残念に思う。けどここまで来たのだ。みんなとお話しようかな。
穂乃花「みんな、こんにちはー」
陽子「お、穂乃花。こんちはー」
忍「こんにちはです。教室でも会いましたけど」
アリス「こんにちは、ホノカ」
みんなにっこりと笑って挨拶を返してくれる。
当たり前のことだけど、ちょっと嬉しい。
陽子「そのお菓子……カレン探してるの?」
穂乃花「え――陽子ちゃんエスパー!?」
忍「すごいです陽子ちゃん!」
アリス「見れば分かると思うよ」
陽子「はは。カレンなら飲み物買いに行ったよ。そろそろ帰ってくるんじゃないかな」
穂乃花「そうなの? よかった。お菓子無駄にならなくて」
アリス「ホノカは本当にカレンと仲良しだね」
穂乃花「そ、そうかなー?」テレテレ
忍「金髪愛ですね」
陽子「違う――いや、ちょっと違うと思う」
アリス(完全に否定はしないんだね)
アリス「でもカレンにあんまりお菓子あげすぎると……ハッ」
にこやかに私へと視線を向け、不意に固まるアリスちゃん。
彼女の視線は私が抱えているお菓子へ。
忍「アリス? どうしました?」
アリス「抹茶チョコレートのラスク……」
穂乃花「これ?」
カレンちゃんにあげようと今日持ってきたお菓子。
アリスちゃんはそれに興味を示しているみたいだった。目がキラキラと輝いている。
陽子「アリスも人のこと言えないなー」
忍「ふふっ、アリスもお菓子好きですからね」
アリス「うっ、ちょ、ちょっと気になっただけだから!」
穂乃花「……」
顔を赤くさせて恥ずかしそうに言うアリスちゃん。
私はお菓子を手に、考える。
いつもカレンちゃんにあげてるし――アリスちゃんにあげてもいいんじゃないかな。
アリスちゃんも金髪。ふわふわした柔らかそうなツインテールに、何度心を癒やされていることか。
そのささやかなお礼ということで。
穂乃花「アリスちゃん、よかったらこれどーぞ」
アリス「えっ? いいの?」パアアァ
穂乃花「うん。いつもカレンちゃんにあげてるし、今日はアリスちゃんにプレゼント」
アリス「ホノカ……でも、悪いよ」
陽子「いいんじゃない? カレンよりアリスの方が(そのお菓子)好きそうだし」
穂乃花「うん。私もそう思うから」
アリス「あ、ありがとう、ホノカ。今度お礼するね」
忍「良かったですね、アリス」
アリス「うん! 幸せだよ!」
穂乃花「あはは、そこまで喜んでくれると私も嬉しいな」
嬉しそうな笑顔を見ていると、私まで幸せな気分になってしまう。
みんなと、いつものようにあたたかくやわらかい楽しい雰囲気の中でお話。
――だから、ここに来る目的を忘れてしまって。
カレン「……」ジーッ
――だから、この時遠くから見ていたカレンちゃんに気づかなくて。
私は、暢気に笑っていたのだ。
さて。問題は放課後に起こった。
部活が休みで、たまたまカレンちゃん達と一緒に帰ることになったその日。
穂乃花「あ、あの、カレンちゃん」
カレン「……なんデスか?」
一同『……』
一行の雰囲気は、ちょっと普段と違った。
原因は私のすぐ隣。
穂乃花「そんなにくっつかれると恥ずかしいよー」
むっつりとした表情で私の腕に抱きつくカレンちゃんである。
それまでは普通だったのに放課後一緒に帰ることが決まった途端に何故か私へとべったり。
みんなの視線に耐えつつ歩いてきたけど、これで街中を歩くのは恥ずかしい。
忍「穂乃花ちゃん、羨ましいです」
アリス「わ、私もシノにできるよ!」
陽子「カレンは甘えん坊だなぁ」アハハ
綾(今の台詞、録音――ってなに考えてるの!)
カレン「ホノカは嫌デスか?」
穂乃花「いや、全然そんなことないよ!」
首を横に振り全力否定。
腕にくる感触に、香り、間近でさらさら流れる金髪。嗚呼、幸せとはここにあったんだね。といった気持ち。
むしろ私はこのまま帰りたい。けど、世間体というか、そういうのも気にしないといけないと思う。
カレン「なら、このままデス! 離しまセン」ギュウウウ
穂乃花「えへへへへ、困ったなぁ、うぇへへ」デレデレ
世間体、さよなら!
陽子「穂乃花。顔、顔」
アリス「全然困ってなさそうだよ」
綾(ホントしのにそっくりよね)
忍「カレンがこうなったらテコでも動きませんね」ウフフ
陽子「なら私達が二人を囲んで歩くか! ボディーガードふうに」
綾「逆に目立つわよ」
結局そのまま歩くことに。
カレンちゃんは未だムッとしていたけど、雰囲気はちょっと軽くなってきた。
何かあったのかと思っちゃった。でも心配なさそうだね。
――なんて、安心している時、
アリス「そういえばホノカ」
笑顔を浮かべるアリスちゃんが私へと声をかけた。
その瞬間、カレンちゃんの手に力がかかる。
穂乃花「……?」
アリス「お昼休みのお菓子、ありがとう。美味しかったよ」
穂乃花「ふふ、良かった。あれ私のおすすめなんだー。今度一緒に食べようね」
アリス「うん!」
あぁ、アリスちゃんも可愛い。思わず撫でてあげたくなる。
自然と手をのばそうとする私。
カレン「ホ、ホノカッ。私もホノカのおすすめ食べたいデス!」
けど横から慌てた様子でカレンちゃんに言われ、手は止まる。
よかった。
あのままだとアリスちゃんを子供扱いしてしまうところだった。
穂乃花「うん。カレンちゃんの好きなお菓子、今度持ってくるよ」
カレン「そうじゃないデス! 私もカレンのおすすめがいいんデス!」ブンブンブンブン
穂乃花「カレンちゃん、私の腕がとれちゃう」
どうしたんだろう? 様子がおかしいけど。
忍「カレン、どうしたんですか? いつもと反応が違うような気がします」
陽子「いつもなら好きなお菓子ー、なんて言われたら喜ぶのにな」
アリス「これはまさか……」
綾「そう、嫉妬――」
忍「カレンも抹茶好き!?」
綾ちゃんの言葉が途中で遮られた。
抹茶好き……確かに、あり得る。
穂乃花「カレンちゃん、抹茶好きなの?」
カレン「ええ……」
笑顔で問いかけると、すごく引かれた。
なんだろう。この間違ってる感。
綾(分かる。分かるわよ、カレン)ウンウン
対して台詞を遮られた綾ちゃんは同情した目で頷いてるし。
アリス「そうなの? カレン」
カレン「そ、そうデス! 私は抹茶好きで、全世界から抹茶女王とも呼ばれていマス!」
陽子「つっこんでいいの? これ」
アリス「なら、今度私がもらったお菓子をカレンにあげるよ」エヘヘ
きっとアリスちゃんは一切の悪気無く言ったんだと思う。
笑顔で、わがままを言う子供にちょっとお姉さんぶったような言い方で、アリスちゃんは優しく提案する。
でもそれがカレンちゃんの地雷を踏み抜いたみたい。
カレン「なんでアリスを経由するんデスか」
今度は明確に、はっきり雰囲気が重苦しくなる。
俯いたカレンから発せられる重い空気。怒りを孕んだ声。みんなの時間がその瞬間、止まった。
綾「か、カレン。アリスはカレンが喜んでくれると思ったのよ」
陽子「そうそう!」
忍「カレン、お、怒ってます?」
アリス「ごごごめんね、カレン。カレンが全部食べていいから!」アワワワ
綾ちゃんを皮切りに若干混乱気味に宥めようとするみんな。
あの明るいカレンちゃんが怒っているから、困惑しているようだ。
きっと怒っている理由がわからないのも、混乱の理由だろう。
なんて語っている私も、これ以上ないくらい慌てている。
カレン「違いマス……そういうのじゃありまセン」
穂乃花「あ、あわわ……。えっと、カレンちゃん?」
多分、原因は私。
私がお菓子をアリスちゃんにあげたから――なんだろうけど、なんでカレンちゃんが怒っているか分からない。
……よし。ここは、勇気を出して。
綾(穂乃花、頑張るのよ。カレンの気持ちを察し――)
穂乃花「今度はお菓子二つ持ってくるから! だから許して! お願いっ!」
カレンちゃんからちょっと離れて、私は顔の前で手を合わせ謝罪のポーズ。
誠心誠意こめて対応する。
綾「えええええぇっ!」
陽子「あ、綾っ? いきなりどうしたの?」
すると何故か綾ちゃんが叫んだ。
カレン「――っ。分かってないみたいデスネ。いいデス。分からせてあげマス」ゴゴゴゴゴ
穂乃花「あ、あれっ? カレンちゃんもっと怒ってる?」
忍「穂乃花ちゃん! 抹茶を追加しないと!」
穂乃花「あ、そっか!」ポン
アリス「大して変わってないよ!」
カレン「ホノカ!」
わいわいと騒いでいる最中。
カレンちゃんが今までで一番の大きな声を出した。
びっくりしてみんなが、歩いている人達が注目する中、カレンちゃんはキッと真剣な顔をして私へ一歩近づいた。
そして、私の手を取る。
てっきり怒られると思った私は、カレンちゃんの目を恐る恐る見た。
カレンちゃんは――笑った。
それまでの流れなんて忘れて、ドキッとしてしまうくらい素敵な笑顔で。
それから、言った。
カレン「ホノカ。私と付き合ってくだサイ」
恥ずかしげもなくはっきりと。
『ラブ』ではなく『ライク』、なんて典型的な勘違いもできない雰囲気で。
穂乃花「そ、それって――」
カレン「ハイ。好きデス、ホノカ。私のものになってくだサイ!」
一同『……』
男らしいストレートな告白。
なにが起こっているのか、さっぱり分からなかった。
それはみんな同じなんだろう。
場が沈黙で支配され、静寂に包まれる。
長い時間をかけて、ようやく私が理解したことは、一つ。
穂乃花「カレンちゃんに告白されちゃった……」
分かりきった事実だった。
【今回の更新はここで終わります】
翌朝。
綾「……カレンが怒ったときはどうなることか、不安だったけど」
教室。
綾「なんとかなって安心して。で、それと同時に驚いて――」
カレンちゃん以外の全員が集結した一角。
綾「――今もどうなるかまた不安になったわ」
綾ちゃんは揃ったみんなの顔を見て、大きくため息を吐いた。
カレンちゃんの告白。
突拍子がなく衝撃的すぎる出来事から一夜を経ても、そのショックが治まる目処は全く立たなかった。
なぜ私に? 忍ちゃんじゃなく? なんで?
考えても結論は出ず、付き合うか否かの答えなんてものも出ない。
穂乃花「……」ポケー
アリス「……」ホポケー
結果が放心というわけで。
忍「そうですね……穂乃花ちゃん、すごくぽかんとしてます」
陽子「だなぁ。でも穂乃花は分かるんだけど、なんでアリスまで放心してんの?」
忍「幼なじみのいきなりな告白に心を揺さぶられたらしいです」
綾「なんとなく気持ちは分かるわ」
陽子「まぁ、女の子同士だしね」
綾「そ、そうね」ツーン
陽子「……? アリスはともかく、穂乃花の力になってあげたいな」
忍「はい。カレンのためにも、穂乃花ちゃんのためにも。なんとかしてあげたいです」
綾「そうとなれば――松原さん」
穂乃花「……」
陽子「駄目だな」
忍「私に任せてください」コホン
忍「――ああっ! カレンの金髪がー!」
穂乃花「ええ!? カレンちゃんの金髪がど、どうしたの!?」
突然聞こえてきた声に私は反応を示す。
慌てて周りをきょろきょろと見るのだけど――周囲にカレンちゃんはいない。
あるのは、みんなの異様に冷めた目だけで。
綾「松原さん……」
陽子「穂乃花……」
忍ちゃん、アリスちゃん以外の二人の視線が呆れ返っているような。
穂乃花「ご、ごめんね。私のことについて話してくれてるのは、なんとなく聞こえてたけど」
陽子「いいっていいって。ぼんやりするのも仕方ないから」
陽子「その状況で金髪に釣られるとは思ってなかったけど」
忍「金髪同盟として当然です」
綾「同盟はともかく、あんな素敵な告白――あ、いや、壮大な告白だったものね。ぼんやりするのも仕方ないわ」ウットリ
穂乃花「あはは……」
素敵、壮大な告白。今でも思い出すと顔が熱くなるのを感じる。
陽子「それでさ、なんとか穂乃花の力になりたいって言ってたんだけど……穂乃花、これからどうしようと思ってる?」
穂乃花「『どうしようと』?」
言葉の意図が分からず、私は首を傾げた。
綾「その……告白を受けるのか、断るのか、ってことよ」
穂乃花「あ……そうだよね。言わないと」
当然のことだ。告白には返事をしないといけないよね。
昨日は――確か、あれ?
穂乃花「あの、みんな。私って、あれからどうしてたかな?」
一同『……』シーン
穂乃花「みんな!?」
すごく不安になる。
忍「穂乃花ちゃん、なんて言えばいいんでしょう……壊れた機械みたいに、カクカクと動いていました」
綾「とりあえず意識はなさそうだったわね」
陽子「簡単に言えば、今のアリスみたいに……」
穂乃花「今のアリスちゃん……」
ぼーっとしているアリスちゃん。
見ていて不安を煽られるほど危うく、そのうち床に卒倒でもしかねない様子だ。
私もあんな感じで帰っていたんだ……ちょっとしたホラーだよね。お母さん怯えなかったかな。
穂乃花「……とりあえず、カレンちゃんから話を聞きたいな」
考えて、私は口にする。
告白を受ける断るはまだ答えが出せない。
正確に判断するためにも、カレンちゃんの気持ちが知りたかった。
忍「カレンのですか?」
穂乃花「うん。なんで私に告白したのか、分からないから」
陽子「なるほどなぁ。確かに急な話だったからね」
綾「――いや、松原さん」
みんな納得してくれたかのように思えた。
けど、綾ちゃん一人だけは違ったようだ。静かに彼女は立ち上がり、大げさな身振り手振りで言う。
綾「恋に理由は要らないのよ!」キラキラ
陽子「変なスイッチ入った!」
綾「好きか嫌いか、ただそれだけ。松原さんはカレンのこと嫌いなの?」
穂乃花「へえっ? 好きだけど……」
綾「なら、今すぐカレンに思いを告げるべきよ! あの告白をしてくれたカレンのように堂々と!」
陽子「はいはい、綾。ちょっと落ち着こうなー」
立ち上がった綾ちゃんの肩に手を回し、落ち着かせようとする陽子ちゃん。
綾ちゃんの顔がすぐさま赤く染まった。
綾「ななななにすんのよ!」バキッ
陽子「なんで!?」
そして綾ちゃんが軽めに陽子ちゃんの頬を殴る。
綾「ごめんなさい、松原さん。ちょっと取り乱したわ」ガタ
陽子「私に謝罪はないのな」チャクセキ
忍「……穂乃花ちゃんは、カレンちゃんの気持ちを知りたい。そういうことですね?」
穂乃花「う、うん。なんで私に告白したのか、分からないから」
私に告白する理由なんてないような気がする。
だって、ただの友達だから。
綾(どう考えても、アリスへの嫉妬で穂乃花への愛を認識したパターンだけど……本人が気づくべきなのかしら)
忍「それなら、私にいい考えがあります! 任せてください」
穂乃花「本当!? 忍ちゃん、ありがとうー!」
陽子「それどう考えても失敗フラグにしか聞こえな――」
カレン「オハヨウゴジャイマース!」ビシッ
教室に響く元気な声。
会議をしていたアリスちゃんを除く面々は、不自然に背筋をぴんと正した。勿論、私も。
カレン「あれー? みんな揃ってどうしたんデスカ?」
陽子「な、なんでもないぞー。ただ話をしていただけだから」
綾「そうよ。気にしなくて大丈夫」
カレン「そうデスか? ――あ、ホノカ!」
カレンちゃんが私を見つけて目を輝かせる。
鞄を机に置いて、小走りで私の近くへ来ると――
カレン「んっ」
一同『!?』
頬にくちづけをした。
ふわっと香るカレンちゃんの香りに、頬に伝わる幸せな感触。
カレン「――オハヨウゴザイマス」クスッ
穂乃花「え――ふえええ!?」
綾「なにしてんのカレン!」
カレン「エヘヘ、おはようのキスデス!」ニッコリ
陽子「カレン……!」
忍「恐るべし……!」
カレンの入室直後の行為に、教室は一気にざわめきはじめた。
私はといえば、嬉しいやら、やっぱり混乱してしまうやら……。
穂乃花「……」
アリス「……」
また、放心仲間へと戻ってしまうのだった。
【今日の更新を終了します】
【綾ちゃんの松原さん呼び訂正しますー】
カレン「ホノカ? どうしマシタ?」
穂乃花「――ハッ!? な、なんでもないよー。おはよう、カレンちゃん」
隣から聞こえる声に、びくんと身体を跳ねさせ帰還。
私はなんとか平静を装い、笑顔を浮かべた。
忍「あ、帰ってきました」
アリス「カレン! なにしてるの!?」
陽子「アリスも帰ってきた!」
綾「流石カレンね。――って何が流石なのよ」
陽子「混乱してるな、綾」
教室入ってきていきなりキスだからね……混乱するのも当然だよ。
私も思わず意識がどっかにいっちゃったし。
……でも、すごく柔らかかったなー。カレンちゃんの顔がすぐ近くにあって、金髪がさらって――
って、いけない。顔がゆるみそうになるのを感じ、私は頭をぶんぶんと振る。
あんまり注目されるのも困っちゃうし、ここはちょっとカレンちゃんに注意しないと。
穂乃花「カレンちゃん、あんまり教室でそういうことされると――」
カレン「なら外でデス! ホノカも好きデスネー」
穂乃花「ええっ!? そういう意味じゃないよー!」
カレン「じゃあ今デスか! ホノカ、シマス?」
穂乃花「そ、そうでもなくてー!」
私の隣に座っているカレンちゃんが、身体を寄せてくる。
無邪気にじゃれつくみたいに、カレンちゃんは私の身体に抱きついてきて上機嫌に笑った。
アリス「翻弄されてるね、ホノカ」
忍「ですねー」ウフフ
綾「でも穂乃花がその気じゃなくてよかったわ」
陽子「だなー。えらいことになるからな」
みんなは止める気ゼロ。微笑まそうに私たちのことを見てきて、教室のみんなも大体そんな感じの視線を送ってくる。
その間も私は自分と戦っているのに。
カレンちゃんフェチの私がこんなおいしい展開になっても暴走しなくて済んでるのは、必死に我慢しているだけで……。
嗚呼、間近にカレンちゃんの金髪が。カレンちゃんの身体が。においが。唇が。
――うう、駄目。返事もしない内に変なことをしたりしたら。
グッと手を私の体の横に。精一杯自分を抑え、私は口を開く。
穂乃花「そ、それって……ディープな方?」ハァハァ
陽子「穂乃花ー!」
煩悩だだ漏れだった。
それからも色々あった。
カレン『ホノカ、お昼ごはん一緒に食べまショー!』
カレンちゃんがお昼ごはんに誘ってきたり。
カレン『はい、アーンです』
穂乃花『あ、あー……あつい!』
芸人さんばりにあつあつのハンバーグを口の横に当てられたり。
カレン『ホノカ……もう逃がしまセン』カベドン
穂乃花『に、逃げられない……!』ドキドキ
陽子『普通に下からくぐれるよ』
綾(早く付き合ったほうがいいんじゃないかしら)
それはもう、色々と。
そして放課後。
部活は友達に休むことを伝えて、忍ちゃんが思いついた作戦を実行することになったんだけど……。
忍「――という作戦です」
忍ちゃんの説明を聞いた私たちは驚いた。いい意味で。
綾「私たちが呼び出した体で」
陽子「穂乃花が掃除用具入れに待機」
アリス「それからカレンの気持ちを聞き出す――」
一同(まともだ……)
流石は金髪が絡んだ忍ちゃん。
忍「昨日テレビでやっていた海外のドッキリを参考にしました」
……らしい理由だ。
陽子「いいと思うよ。カレンの気持ち、私たちも知りたいし」
綾「そうね。ちょっと騙すみたいで罪悪感あるけど」
アリス「でも、カレンがホノカと顔を合わせて言うとも思えないし……」
穂乃花「しょうがない、のかな?」
忍「大丈夫ですよ。きっとうまくいきます」
穂乃花「う、うん。それなら……みんな、お願いできるかな」
陽子(提案のときから今までで、悪いフラグしか建ってない)
悪い気はする。でも、カレンちゃんの素直な気持ちを知りたいのは確かで。
ちくちくする胸の痛みは我慢し、私は作戦を実行することに。
忍「では、綾ちゃん」
綾「メールね。今送るわ」
妙にやる気があるふうな綾ちゃんが携帯電話を操作。
ちょっとして、携帯電話をしまった。
綾「終わったわ」
アリス「次はホノカがあそこに入って――」
陽子「ちょっと待った! 足音が!」
足音? と首をかしげるみんな。
その直後、この空き教室に近づいてくる元気な足音が聞こえてきた。
この足音には聞き覚えがある。カレンちゃんだ。
忍「ほほ穂乃花ちゃん! 急いで!」
綾「ここは私たちに任せて! さぁ!」
穂乃花「う、うん! みんな無事でね!」
陽子「最終決戦だな!」
アリス(なんだろう、これ)
急いで掃除用具入れに。空き教室だからかそれほど物は入っていなくて、すんなりと侵入することができた。
妙に快適である。
カレン「みんな、ここにいたんデスネ!」
バンッと勢いよく開くドア。
やっぱりカレンちゃんだったみたいで、元気な声が聞こえてきた。
カレン「帰っちゃったのかと思いマシタ」
忍「勝手に帰りませんよ」
アリス「そうだよ、カレン。友達なんだから」
陽子「そうそう」
綾「気にし過ぎはよくないわよ」
声的にはみんな、普通に話せている。
慌てた様子なんてないし、大丈夫そう。
いくつかの椅子の脚が床を擦る音。みんな座ったみたい。
カレン「それで、お話ってなんデスカ?」
穂乃花(さっそくきた……!)
忍「カレンに、穂乃花ちゃんのことについて聞きたくて」
カレン「ホノカのことデスカ?」
陽子「そうそう。いきなりでびっくりしてさー」
綾「友達のことだから力になりたいし……いいかしら?」
カレン「いいデス。私も、言いたいことがありマシタ」
アリス「言いたいこと?」
カレン「アリス。昨日はすみませんデシタ。あんな理不尽な怒り方をしてシマッテ」
アリス「気にしなくていいよ。好きな人のことだから、気持ちはよく分かるし」
陽子(しののことだな)
綾(しのね)
穂乃花(忍ちゃんだろうなぁ)
忍(頭を下げた時にカレンの金髪がサラッと)
カレンちゃんはやっぱりいい子だなぁ。
しっかり謝るには勇気が要るのに。
カレン「アリス……ありがとうゴザイマス」
カレン「エット――私に訊きたいことってなんデス?」
忍「ええと……そのですね」
忍「――うーん」
アリス(シノ、考えてなかったんだね……)トオイメ
綾「穂乃花のどこが好きなの?」
陽子(ナイスだ綾!)
穂乃花(私のどこが……!? 恥ずかしいけど、気になる)ドキドキ
カレン「沢山ありマス!」
綾「よし、全部いきましょう!」グッ
陽子(なにやってんの綾!)
カレン「可愛い。優しい。綺麗。笑顔がステキ。ドジっ娘。控え目でオクユカシイ。私のワガママ、いつも笑って許してくれマス。あと、いざという時は勇気があって――私のことをよく見てくれていて――」ペラペラ
穂乃花(あわわわわわ)ガタガタガタ
恥ずかしい。聞いているだけで顔が真っ赤になっていくのが分かった。
私はいますぐ飛び出して疾走したい気持ちを、なんとか抑える。カレンちゃんが私のことをそんなふうに思っていたなんて。ああぁ……!
一同(すごい揺れてる!)
アリス「カ、カレン。じゃあ、なんで昨日告白しようと思ったの?」
陽子「きっかけがあったり?」
カレン「きっかけ、デスカ?」
うーん、と唸る声。カレンちゃんがなにか考えているみたいだ。
カレン「ずばり、独占欲デスネ! ホノカを独占したくなりマシタ!」ドーン
綾「す、素敵だわ」ボソッ
堂々としてるなぁ……なんて、私は思わず他人事ふうに思うのだった。自己逃避。
【今日の更新終わりです】
これ、私がいても言うと思うけどなぁ。
かなり堂々とカミングアウトしてるし……。
私は用具入れの横面へ背を預け、考える。
――けれど一人、追求する声があがった。
アリス「カレン。そうじゃないよ。その独占欲のきっかけは何なの?」
カレン「うぐっ」
――そういえば、そうだよね。
きっかけが独占欲であると濁しただけだ。
アリス「ひょっとして、私が原因だったり」
忍「アリスですか?」
陽子「なんでアリスが出てくるの?」
綾「とことん鈍いわね……」
カレン「……そうデス。アリスにお菓子をあげてるホノカを見て、私、焦りマシタ」
声がしぼむカレンちゃん。
真剣なトーンに、思わず固唾をのんでしまう。
カレン「私は特別だと思ってマシタ。でも、違いマス。ホノカは誰にでも優しくて、多分お腹が減って倒れそうな人がいたら、きっと即座に助けようとシマス」
全員(誰だってそうするよ……!)
というツッコミはみんな空気を読んで抑えたらしい。
カレン「そう思ったら、ホノカが離れるような気がして――いてもたってもいられなくなりマシタ」
綾「なくなりそうになって初めて分かる大切さ……というわけね」
忍「ロマンチックです!」
カレン「ホノカは私に最初からずっと、変わらず接してくれマシタ。ホノカがいなくなったら、私とても寂しいデス」
アリス「……」
陽子「よく分からないけど、応援するよ。――アリス? どうした?」
アリス「あ、なんでもないよ。カレンはホノカが好きなんだね」
カレン「ハイ! 大好きデス!」
大好き。その言葉はとっても嬉しい。
でも私は、なんでだろう。あんまり喜べなかった。
アリス「うん。なら私たちは応援するよ、カレン。頑張って!」
カレン「みんな……ありがとうゴザイマス!」
アリス「えっと、それじゃあ帰ろっか」
忍「そうですね。お話も終わりましたし」
陽子「だね」
綾「いい話を聞いたわ……」
ぞろぞろと、みんな揃って部屋を出て行く音。
カレンちゃんに私がいることを気づかれるわけにはいかない。自然な会話の流れで、みんなは教室から出て行った。
――しばらくして、私は教室へと出る。
誰もいない教室、の筈だった。
アリス「……ホノカ」
穂乃花「アリスちゃん?」
けどそこにはアリスちゃんがいて、出てきた私のことをじっと真剣に見ていた。
――どうしたのかな。
穂乃花「アリスちゃん、どうしたの?」
アリス「カレンの告白……どうするの?」
穂乃花「えっ。それは……まだ」
アリス「――ホノカ。カレンの言っていたこと……本当のこともあったけど、誤魔化してたところもあったと思う」
アリス「まだホノカがピンとこないのも、多分そのせいなんじゃないかな」
穂乃花「ピンときてないなんて、そんな――」
――ことはない。
言おうとするけど、私は言葉に詰まった。
アリス「ふふ。大丈夫だよ」
アリス「カレンも、多分今のホノカと一緒なのかも」
穂乃花「私と?」
アリス「うん。自分の気持ちに戸惑って、なにをしたらいいか分からなくなるような」
穂乃花「……そうだね」
カレンちゃんも私と同じ。
私もカレンちゃんは好き。でも、どうしたらいいか分からない。
――カレンちゃんも、私と同じ気持だったら……。
アリス「だからホノカ。カレンのこと、よく考えてほしいな」
穂乃花「……うん。分かったよ」
私は頷いた。
私もカレンちゃんも自分の気持ちをよく把握できていないのかもしれない。
――なら、分かり合えるように努力するべきだよね。
アリス「カレンの好きな人がホノカで良かったよ。安心した――」
穂乃花「決めた!」
穂乃花「私、カレンちゃんとデートするよ」
アリス「よ――なんで!?」
アリス(思考が読めない!)
すごくアリスちゃんに驚かれたけど、カレンちゃんのことを知るならデートが一番だろう。
休みも近いし……。
穂乃花「頑張るよー!」オー
アリス「シノに似てるって言われるのがよく分かるよ……」
その週の土曜日。
精一杯のおしゃれをして、私は駅前に。
ワンピースにカーディガン。靴とバッグも合わせてコーディネート。ちょっと地味目に見えるけど、これでも頑張ったほうだ。
穂乃花「カレンちゃんまだかなぁ」
呟く。
あれから何日か経ったわけだけど、それほど日常に変化はなかった。
あるとすればカレンちゃんのスキンシップが激しさを増したくらいで、あとは……。
穂乃花(……視線を感じる)
私とカレンちゃんが注目を集めてしまっている、ということくらい。
私とカレンちゃんが注目を集めてしまっている、ということくらい。
デートスポットを必死に検索しているときに見つけてしまったけど、カレンちゃんの告白はこの街のちょっとしたニュースになってしまっていた。
外人の少女と清楚な美少女が――なんて、検索に引っかかった時はびっくりした。
学校でも注目されているような気がしたのは、これが原因なのかと納得したものだ。
――でも、注目されるのも仕方ないような気がする。
美少女はともかくとして、今どきあんな告白、自力では海外でも珍しいと思うし。
穂乃花「はぁ……カレンちゃん」
――結局、自分のことで精一杯で、結論らしい結論は出せていない。
でも、分かっているのだ。私がなんで曖昧な態度をとり続けているのか。我慢しているのか。
分かっている上で、私は
カレン「ホノカー!」ギュッ
穂乃花「ひうっ!」
体に軽く衝撃が。突然のことに驚いて声を上げてしまう。
横を見れば、カレンちゃんが私に抱きついていた。
カレン「今日はお誘いありがとうゴジャイマス!」ニコニコ
ショートパンツにシャツ、パーカー。
快活なカレンちゃんによく似合っている格好で、いつも制服姿を見ているからすごく新鮮な感じ。
カレンちゃんは満面の笑みを浮かべ、一度私のことを強く抱きしめると離す。
顔が赤くなるのを感じつつ、私は頷いた。
穂乃花「うん。どういたしましてー」
穂乃花「……」
じーっと、カレンちゃんを観察。
あぁ……この胸の高鳴り。やっぱり私はカレンちゃんフェチだよね。
私服姿も可愛いなぁ。髪撫でて、一緒にお菓子でも食べたり……。
穂乃花「えへへ……」
カレン「ホノカ?」
穂乃花「――あ。あははっ、なんでもないよー。行こっか、カレンちゃん」
だ、誰か連れてくればよかった……。
後ろから様子見をしてもらうんだった。
今の状態でカレンちゃんと二人きりになって我慢できるか分からないよぉ、色々と。
忍「……うん。最初は問題なしですね!」フタリノ
綾「そうね。いい感じだわ」ハイゴカラ
陽子「……いいのかなぁ。こんなことして」コッソリ
アリス「なんでカレンの……幼馴染のデートを見ないといけないんだろう」ビコウ
忍「何言ってるんですか。これは二人の大切なイベント。私たちも力を合わせて成功させないといけません」
陽子「けどなぁ……」
綾「大丈夫よ。それとなくメールをしてアドバイスするだけだから」
陽子「それが大丈夫じゃないんだよ!」
アリス「ねえ、シノ。そういえばシノは、二人が両想いでショックとかじゃないの?」
忍「え? なんでですか?」キョトン
陽子「二人が付き合ってカレンの金髪独占、なんてことになったら――」
忍「お祝いします」キッパリ
陽子「うおっ、意外すぎる……」
綾「思いもしない言葉にちょっと冷静になってしまったわ」
忍「私はみんなを愛していますから。二人が幸せなら、それで言うことなしです」
アリス「シノ……! うん! そうだよね!」
アリス「私も幼馴染とか、複雑だとか、そんなの抜きにして、二人の幸せを祈るべきだよね!」
陽子「……だな」シンミリ
綾「そうね」シンミリ-
忍「あと、二人の絡みは大変萌えますので」ホッコリ
陽子「台無しだよ」
【今日の更新は終わりです】
カレンちゃんと二人で遊園地へ移動。
電車に乗っている時も視線を感じたけど、それほど気にはならなかった。
なぜなら、どんどん変わっていく景色に、
カレン「ホノカ、楽しみデスネ!」
穂乃花「うん、私もすごく楽しみだよー」
隣にはカレンちゃん。
にこにこといつも以上に明るい彼女を見ていると、周りのことなんてどうでもよくなってしまう。
穂乃花「今日はお弁当作ってきたから、一緒に食べようね」
カレン「オー、お弁当! ホノカの手作り、楽しみデス!」
穂乃花「ふふふ」
ぴょこぴょこと体を揺らすカレンちゃん。
子供っぽい動きに私の頬がゆるむ。
カレンちゃんとこうして話しているだけでもすごく楽しい。移動の時間も忘れてしまいそうだ。
二人で笑い合い、ちょっとの間ができる。
でもその間ですら、心地よく感じた。
何を話そうか私が考えると、カレンちゃんが私の手を握る。
暖かい。すべすべとした、触り心地のいい手でしっかりと私の手を握り、カレンちゃんは言う。
カレン「好きな人と遊園地。初めてデス」
上目遣いに、恥じらった表情。
破壊力抜群の光景に、胸は高鳴り――私はカレンちゃんから目を背けた。
穂乃花「う、うん……」
こんな答え方をしてたら、カレンちゃんを傷つけるだけ。
分かっているのに私は目を逸らしたままで、小さく頷く。ただそれだけで、口を結ぶ。
穂乃花「……」
カレンちゃんはどんな顔をしているんだろう。
そんなことを考えると、息苦しくなってきてしまった。私はそのまま視線をカレンちゃんのいる反対側へ。
忍『!』
陽子『!』
綾『!』
アリス『!』
――で、目が合った。
隣の車両から私たちの様子を窺っていた見知った顔と。
穂乃花(なにやってるのみんなー!?)
サッと引っ込む頭を見送り、心の中で絶叫。
え? 視線の出処って、みんなだったの? 今までのも見られてたってことなのかな?
す、すごく恥ずかしい! 顔ゆるみっぱなしだったよね。そしてちょっとでも自分が可愛いのかなと思っていたことが恥ずかしい!
穂乃花「――あれ?」
みんなが顔を出していた窓を見つめていると、ポケットに入れていた携帯が震える。
みんなからかな。すぐに携帯電話を取り出し、私はそのメールを見た。
差出人はアリスちゃん。
内容は……心配でついてきちゃった、という感じの謝罪文。
デートの日付や行き先は、カレンちゃんがみんなに自慢していたらしい。
ついてきてくれるのは、正直有り難い。でも言ってくれないと……。恥ずかしいし。
あ、でもどっちみちカレンちゃんには内緒になっちゃうから悪いことだよね。
穂乃花「ええと」
来てしまったのだから、仕方ない。
色々つっこみたいところはあったけどそう自分に言い聞かせ、私はメールを打った。
事情を把握したということ、カレンちゃんに気づかれないように頑張って、ということ。簡潔に、素早く文字を打って送信。携帯電話をしまう。
穂乃花「……ふぅ」
ホッと一安心。カレンちゃんの方を向く私。
カレン「……」
すると、カレンちゃんの元気が目に見えてなくなっていた。
――ハッ!? 私まずいことしちゃった!? って、考えるまでもないよね。
デートしている時に、相手を放って携帯電話でメールを送る。
誰でもしちゃいけないと分かることだ。
穂乃花「カレンちゃんごめんねー。ちょっと家族から連絡が」
カレン「……。ハイ。気にしてないデス」
少し間を空け答えると、カレンちゃんは笑う。
嘘を言ってしまった。カレンちゃんが笑ってくれたことに安心はするけど、罪悪感が私の胸を締め付ける。
本当のことを言えない以上、嘘は仕方ないんだけど、もっと他に言い方があったんじゃないか。
あれこれと難しく考えていると、電車のアナウンスが響いた。
次の駅が目的地らしい。
穂乃花「……あ。着いたよ」
カレン「エッ? あ、そうデスネ! 遊園地ー!」
立ち上がり、扉の前に立つカレンちゃん。
元気をすっかり取り戻したみたい。けど、なんでだろう。なんとなく無理しているような気もする。
……そういえば、デート相手がメールをしているということで元気を失くすなんて、普段のカレンちゃんから考えると珍しい。
いつもならぶーぶー言いながら文句を口にするのに。
穂乃花(原因は他にも……?)
考えてみるけど、分からない。
――やっぱり私はカレンちゃんのことを何も知らないんだ。
今まで遠くから見てきたのが大半だから、当然といえば当然のこと。
けど、こうも力になれないことを痛感すると、後悔の念しかわかない。
穂乃花「……はぁ」
小さくため息。
ふと、携帯電話が揺れていることに気づく。取り出して受信していたメールを見れば、『笑顔で』とアドバイスらしいものが。
横を見ると窓から顔を出す四人が。みんな笑顔で、純粋に善意からここへ来てくれたんだと思えた。
穂乃花「――うん!」
私も笑顔で返す。
カレンちゃんのことを知らない。だからデートへ来たんだ。くよくよ悩んでる場合じゃないよね。
楽しんで、カレンちゃんのことをよく知っておかないと。
穂乃花「カレンちゃん、まずはどこに行く?」
カレン「ジェットコースターデス! 絶叫しまショウ!」
電車から降りて、カレンちゃんへ声をかける。
はしゃぐカレンちゃんの後ろ。こそこそとみんながホーム方向へと小走りで向かっていた。
穂乃花(みんなの協力もあるし……頑張るよー!)
やる気は再び出てきた。
カレンちゃんともっと親密になるために……! デート……!
カレン「うう……」グッタリ
一時間くらい経ったかな。
ジェットコースターに乗って、後は絶叫アトラクションをハシゴ。
わーきゃー騒いで、ストレスがかなり発散できたような気がする。
とても楽しいのだけど……カレンちゃんはついにダウンしてしまった。
騒がしい園内の中。ぽつんと置かれているベンチに座り、休憩する。
穂乃花「はい、カレンちゃん。どうぞー」
カレン「ありがとうゴジャイマス……」
水筒を手渡すと、カレンちゃんは口をつけゆっくりと飲み始めた。
唇、動く喉、ちょっと弱った表情、妙に色気があるように見えてドキドキしてしまう。
カレン「ふー。落ち着いてきマシタ。アハハ。楽しすぎてついはしゃいでしまいマシタ」
水筒を返してくれるカレンちゃん。私はそれをバッグにしまい、微笑んだ。
穂乃花「ふふ、カレンちゃんが楽しんでくれてるなら嬉しいかな」
カレン「ホノカはすごいデス。全然酔ってマセンネ」
穂乃花「結構得意みたい。特技の影響かなー。玉乗りとか、ジャグリングとか」
カレン「ホノカなら宇宙飛行士にもなれそうデス」
穂乃花「宇宙で玉乗り……ちょっと楽しそう」
ふわふわして気持ち良さそう。
カレン「ホノカ。ちょっといいデスカ?」
無重力空間での玉乗り、ジャグリングを想像していると、カレンちゃんが徐に言い、動き出す。
そして私がリアクションする間もなく、
カレン「ふあー……夢心地デス」
私の膝の上にカレンちゃんが頭を乗せて、ベンチに寝転がった。
穂乃花「え、カレンちゃん!?」
カレン「ダメデスカ?」
穂乃花「……駄目じゃないけど、恥ずかしいなぁーって」
カレン「ならちょっと我慢してくだサイ。私これで絶対に元気になりますカラ!」
穂乃花「うう、しょうがないなぁ……」
これも見られたりしてるのかなぁ。
でもカレンちゃん可愛いし……断ることなんかできないよ。
カレン「ホノカ、いい匂いがシマス。それに柔らかいデス」クンクン
穂乃花「カ、カレンちゃん、恥ずかしいよぉ」
カレン「よいではないかーよいではないかー」スーハー
穂乃花「や、やめてよカレンちゃんー」ドキドキ
人前で、こんなことを。
やめてと言いながらドキドキを止めることができない。
キスはされたし、これからもっとすごいことをされちゃったり――
カレン「……」ピタ
穂乃花「――あ、あれ? カレンちゃん?」
――期待、してなかったけど、カレンちゃんの動きが急に止まり戸惑う。
カレン「お腹がすきマシタ」
穂乃花「そういえば、お昼だね。でもカレンちゃん大丈夫? 気持ち悪くないの? もっと膝枕しても」
カレン「ホノカのぬくもりで復活シマシタ!」
穂乃花「そ、そっか。なら食べよう」
ちょっと残念。
カレンちゃんが体を起こしてから、お弁当箱をバッグから取り出す。
二人分の大きめの弁当箱。それと、おにぎり。
カレン「オウ、おにぎりデス! それとおかずは――」
カレンちゃんと私の間に、包みを広げてその上に弁当箱を置く。
弁当箱の蓋を開くと、カレンちゃんは感嘆のような声をもらした。
カレン「ワー。ハンバーグにサラダと、玉子焼き、タコさんウインナー。美味しそうデス!」
穂乃花「簡単なものばっかりだけど、今日のは上手にできたと思うんだー」
ハンバーグはお店のものを教えてもらって、真似て作った自信作。
焼き加減は大丈夫だし、ソースはケチャップだ。失敗する要素は排除されているはず。
カレン「じゃあ、じゃあ……私はハンバーグが食べたいデス!」
穂乃花「うん。お箸はどこにいれたかなぁ。あった。はい、どうぞー」
おにぎりを一つカレンちゃんに手渡し、続いて箸も渡す。
けどカレンちゃんは箸を入れ物ごとベンチのランチョンマットの上に置いて、わくわくとした目を私に向けてくる。
――こ、これはまさか!
あーん、という流れ!
穂乃花(いや、でもまさか……だよね)
私は箸を出し、ハンバーグを一口大に。
そしてそれを持ち上げ――
カレン「あーん」
自分の口に運んでみようとするところで、カレンちゃんが口を開いた。
目を閉じて、口を控え目に開くカレンちゃん。
穂乃花(ひえええっ!)
思わず心の中で絶叫。
付き合ってもないのに、この甘いやり取り。幸せでもあり、恥ずかしくもある。
嗚呼、顔から火が出るほどはずかしい。
でもあーんを期待するカレンちゃんは悶そうになるほど可愛い。
ここで私が応えれば、カレンちゃんはもっと可愛い反応を見せてくれるだろう。
穂乃花(勇気を出して……いざ!)
穂乃花「あーん……」
カレンちゃんの口にハンバーグを運ぶ。
目を閉じ、口を開いたカレンちゃんの舌の上に、ハンバーグを乗せる。
その作業は健全なはずなのに、何故かいかがわしく見えた。
カレン「――ん、う」
食べたときの吐息もなんか、色っぽい。
穂乃花「……どう、かな?」
カレン「美味しいデス!」
穂乃花「良かったぁ……。色々あるから、遠慮しないで食べてね」
カレン「ハイ! 次はホノカデスね!」
穂乃花「私?」キョトン
何を言っているのか分からず、首をかしげる私。
カレンちゃんは置いてあった箸を取り出すと、玉子焼きを私へと差し出した。
カレン「ホノカ、あーん!」
にこにこと満面の笑みで、あーん。
――幸せすぎて死んじゃいそう。
穂乃花「あーん……」ドキドキ
私もさっきのカレンちゃんと同じく体をちょっと前に。目を閉じ、口を開く。
穂乃花「――あれ? カレンちゃん? まだー?」カタメヒラキ
カレン(ちょっと……えろ――ゲフン。なんてことは言えないデス)
カレン「ちょっとぼんやりしてマシタ。ホノカ、どうぞー!」
穂乃花「うんっ。……カレンちゃんに食べさせてもらうと美味しいね」
玉子焼きを食べ、おにぎりを一口。
醤油とお出汁の玉子焼きはごはんにちょうどよくマッチしていて、美味しい。
そこにカレンちゃんのあーんも加わるのだから、最強と言っても過言ではない。
カレン「それはそれはー。次は私デス!」
穂乃花「うん。なにが食べたい?」
交互に食べさせ合い、お弁当箱が空になるまでそれを続ける。
何気なく見せるカレンちゃんの仕草や言葉に私はときめいて――とっても幸せな気分だ。
ただのご飯でここまで楽しくなるなんて、思いもしなかった。
【今日の更新は終了です】
陽子「うわー、すごいな二人とも」
忍「恋人にしか見えませんね!」
綾「そ、そうね。見てるこっちもドキドキしてくるわ」
アリス「……うーん」
忍「アリス?」
陽子「覗き見てるのが嫌だったら、私と遊ぶ? 二人のことはしのと綾にまかせてさ」
綾「ちょっ!」
アリス「あっ、違うの。ただ、カレンは無理してるんじゃないかなぁと思って」
忍「無理、ですか? そんなふうには見えませんが」
アリス「……そうなのかな。私、ずっと気になっちゃって」
綾「大丈夫よ。二人ともほぼ相思相愛みたいなものだし」
陽子「けど、そう言われてみれば電車の中で重い空気になった時があったよなー」
忍「穂乃花ちゃんがメールをした後ですよね」
綾「……カレンって意外と嫉妬深いのかしら」
アリス「メールはあんまりしないほうがいいかもしれないね」
陽子「うん、そうだな」
アリス(嫉妬深いというよりは……寂しがり屋なんだけど、どうしたんだろう? カレン)
二人で色々回り、時間も夕方。
楽しい時間というのはあっという間にすぎるものだ。
……そろそろ帰らないとまずいよね。カレンちゃん、お嬢様だしみんな心配するだろうし。
お化け屋敷に入り、みっともない姿を晒したちょっと後。
園内の道で空を見上げた私は、名残惜しさを感じつつ思う。
穂乃花「カレンちゃん、そろそろ帰る?」
鼻歌をうたい、上機嫌にしていたカレンちゃんへ声をかける。
カレン「――ハイ。でもその前に、ちょっとこっちに来てくだサイ」
穂乃花「うん、どうしたの?」
そういえばおみやげとかまだ買ってないような。それかな?
いつもよりちょっと真面目な雰囲気のカレンちゃんに手を引かれ、私は歩いていく。
カレン「ホノカを連れて行きたいところがあって」
穂乃花「そうなの? 楽しみだなぁー」
あれ? でもカレンちゃんもここに来るのは初めて……なんだよね。
遊んでた時に見つけたとか?
首を捻り、思う私。
そのまま歩いていくこと数分。
園内でもちょっと高い場所にある、丘のようなところに私たちはやって来た。
穂乃花「わぁー……綺麗だねー」
暗くなってきた園内。それを照らす明かり。
こうして上から眺めると、とても神秘的に見えた。それにとってもロマンチックだ。
他に誰もいない、静かな中。
カレンちゃんは私の手を離すと、景色を見つめてから――私を見た。
カレン「ホノカ。今日は楽しかったデス」
穂乃花「うん。私も楽しかったよ」
カレン「それで……ソノ」モジモジ
穂乃花「?」
真面目な雰囲気から一変し、顔を赤らめてもじもじするカレンちゃん。
彼女はなにも言わず私のことを見て、まるでなにか待っているように見えた。
一瞬なにを期待しているのか理解できなかったけど、流石に分かってしまった。
待っているんだ。私の返事を。
穂乃花「……えっと、ね。カレンちゃん」
どうする。
ずっと考えて出なかった結論。その問の答えを出すタイムリミットがやってきたのだ。
答えないと。でも、なにを答えれば?
ぐるぐると私の頭の中で、思考が繰り返される。
最後に頭へ浮かんだのは――
穂乃花「――ごめん」
カレン「……っ」
穂乃花「もう少し考え――」
カレン「分かり、マシタ」
先延ばし。もっと時間をかけて――と思ったけど、続きを言うのが遅かった。
カレンちゃんは俯き、肩を震わせる。
カレン「ゴメンナサイ。気持ち悪かったデスヨネ。女の子に、私に好かれて……」
穂乃花「そ、そんなっ」
カレン「いいデス。ホノカはとっても優しいデスから。だから今日だって……」
ぽた、と地面になにかが落ちる。
顔を上げたカレンちゃんの表情を見た時、私はハッとした。
カレン「今日はありがとうございマシタ」
カレン「――さよなら」
涙を流して、悲しそうな顔をしていたカレンちゃん。
私は呆然と、訂正することすら考えられず走り去っていく彼女のことを見送ってしまった。
穂乃花「――ハッ!?」
何分固まっていただろうか。
意識を戻した私は、辺りを見回す。でも周りにいるのは見覚えのないカップルと、怪しい服装をした人達だけで、カレンちゃんはいなかった。
穂乃花「どどどうしよう……!」
勇気を出してくれたカレンちゃんにあんなことを言って、言わせて……。
訂正しようにも言おうとしていたことは先延ばしだし……私って最低だ。
穂乃花「――でも、自分でも何を言ったらいいんだか……」
頭を抱え、膝をつく。途方に暮れる私。
???「穂乃花ちゃん」
そこへ、声をかけてくれる人がいた。
顔を上げる。私の前に立っていたのは、さっきちらりと見えた怪しい服装の人達。
見覚えがないけれど、よく見てみるとその人達は変装したらしい忍ちゃん達だった。
遊園地にありがちな頭のかぶりものや、メガネを付けていて、顔は隠せているけどすごく怪しい。
穂乃花「みんな……」
忍「穂乃花ちゃん、話は聞いていました」
陽子「カレンの早とちり……なんだけど、あれは間違えても仕方ないなぁ」
綾「そうね。あの場面でごめんなさいされたら、誰でも勘違いするわ」
アリス「そうだよね……」
メガネや飾りをとり、みんなは言う。
確かにあの場面であの台詞だと、告白を断られたと思うしかない。
穂乃花「私、カレンちゃんに謝らないと――」
忍「穂乃花ちゃん」
言葉の途中で真面目な忍ちゃんの声に遮られる。
忍「穂乃花ちゃんはカレンちゃんに追いついて、何を言うつもりなんですか?」
穂乃花「っ……」
私は小さく呻く。
そうだ。追いついて、何を言うのだ。謝って、先延ばしにしてくれとなんて言えば、結果としてカレンちゃんをもっと傷つけることになるかもしれない。
穂乃花「私、は……」
アリス「ホノカ、カレンのことは嫌い?」
穂乃花「好き。大好きだよ」
アリス「……なら、なんで?」
『曖昧にしているの?』と尋ねているのだろう。
私が認めようとしなかったこと。カレンちゃんのために、自分のために分かっていなかったフリをしていたこと。
何日も前から分かっていたそれを、私はぽつりぽつりともらした。
穂乃花「怖かったんだ……」
怖かった。ただ、それだけ。
穂乃花「カレンちゃんを好きになって、恋愛対象に見て、お付き合いして」
穂乃花「それで、みんなからおかしなふうに見られて……」
穂乃花「みんなから嫌われて、私自身もカレンちゃんのことを嫌いになっちゃうんじゃないか、カレンちゃんに嫌われるんじゃないか、って」
穂乃花「だから……」
居心地のいい場所。ずっといたいところ。友達。大切な人。
それがなくなるのが怖くて、私は前に進めなかった。
結局のところ、私は私が可愛かっただけなのかもしれない。変わらない、失わないものなんてないのに。
自分の想いを素直に口にしていく。弱々しく、情けない言葉の数々。
陽子「嫌いになんかならないよ」
その途中で、陽子ちゃんが口を開いた。
すっぱりと、いつもと変わらない笑顔を浮かべた陽子ちゃんは私の前にしゃがむ。
綾「そうよ。決めつけはよくないわ」
次に、綾ちゃん。
アリス「そうだよ。みんなホノカのこともカレンのことも大好きなんだから」
アリスちゃん。
忍「――立ってください、穂乃花ちゃん」
忍ちゃん。
笑顔のみんなは私の手を腕を、肩をとりちょっと強引に立たせる。身長が低いアリスちゃんはちょっと困った後に私の腰を掴んでいた。
忍「穂乃花ちゃんとカレンちゃんは私たちの友達です。嫌いになんかなりません」
忍「それに……穂乃花ちゃんは今、怖さを克服しました! だから大丈夫です!」
穂乃花「――え?」
困惑する私。にっこりと笑った忍ちゃんは、続ける。
忍「みんなに嫌われたくない。そう言っていたのに、私たちに説明してくれたじゃないですか」
忍「立派な克服した証です!」
陽子「言われてみれば、そうだね」
穂乃花「そ、そうかな? 泣き言みたいな――」
アリス「克服したんだよ! うん!」
綾「そうね! 今なら大丈夫よ!」
穂乃花「う、うん……ありがとう、みんな」
――そうだ。
怖がっているだけじゃ、なにも進まない。
それに事情を知っていても、こんなに私を応援してくれる友達もいる。なにも怖がる必要はないんだよね。
カレンちゃんはきっと勇気を出して私に告白してくれたんだ。
なら私も少しは勇気を持たないと。
穂乃花「カレンちゃんに自分の気持ちを伝えてくるよ」
アリス「うん。頑張って、ホノカ!」
陽子「ファイトだ穂乃花!」
綾「頑張って」
忍「みんな応援していますよ」
みんなの声援を受け、私は頷く。
体に力がみなぎるような感覚。なんでもできそうな気持ちで、私はみんなへと問いかけた。
穂乃花「カレンちゃんはどこにいるのかな?」
一同『……あ』
――みんな、見てなかったんだね。
【今日の更新は終了です】
格好がつかないけど、なんとなく私たちらしい気もする。
苦笑する私。
穂乃花「どうしよう……」
アリス「探せば見つかるよ! カレン、こういう時はどこかで待ってる場合が多いから」
流石アリスちゃん。カレンちゃんと小さい頃から仲良くしている彼女がとても頼もしい。
忍「では手分けして探しましょう」
綾「そうね。遊園地から出る前にみつけないと」
陽子「よーっし、任せといて!」ダダッ
綾「あ、ちょっ、陽子!」
陽子ちゃんと綾ちゃんの二人が走り去っていく。
私も早く行かないと行けないんだけど……どこに行くべきだろう?
穂乃花「早く見つけないと……」
アリス「大丈夫だよ、ホノカ」
アリス「ホノカはカレンが選んだヒーローだから。思うままに!」
穂乃花「――うん。ありがとう、アリスちゃん」
忍「さぁ、私たちも探しに行きましょう、アリス。穂乃花ちゃん。見つかったら連絡しますね」
笑顔で手を振り、忍ちゃんとアリスちゃんが去っていく。
穂乃花「……私も行かないと」
みんなだけに任せるわけにはいかない。
私もある程度の見当をつけると走り出した。
けどこれだけの敷地内でたった一人を探すことはほぼ不可能に近く……。
穂乃花「ぜ、全然見つからないよー……」
数十分経った今もカレンちゃんは見つからず、みんなからの報告もなし。
帰ってしまったのか、それとも相当うまく隠れているのか。
穂乃花「カレンちゃん……」
謝りたい。私の気持ちを正直に伝えたい。
ようやく勇気が出せたのに、その時にはすでに手遅れ。
半泣きの状態で私はきょろきょろと辺りを見回し、走る。
穂乃花「カレンちゃーん!」
必死にカレンちゃんを探し、私は名前を呼ぶ。
でもやっぱり返事はなくて。
穂乃花(諦めない……)
穂乃花「――あ」
諦めそうになる自分に言い聞かせたその時、ふとあるものが視線に留まる。
橋の下の道。何もない場所だったけど――橋を通る普通の道からは人目につかない。もしかして。
予感に胸がざわめく。私は橋の近くからその下、道を見下ろし――見つけた。
芝生の上に座り、泣いているカレンちゃんを。
穂乃花「か、カレンちゃ――」
やっと見つけた。喜びと安堵から、私はすぐさま下へ降りようとする。
けどそこで私のドジが発揮された。
ずるっと足が滑る。バランスを崩した私は前のめりに落下。芝生の上へうつ伏せに倒れた。それほど高くないのが助かった。
穂乃花「へぷっ!?」ズシャア
カレン「ひっ!? ――ホ、ホノカ?」
……かっこわるい。
穂乃花「み、見つかってよかった……カレンちゃん。あはは」
カレン「ホノカ! 怪我はないデスカ!?」
顔だけ起こして私が言うと、カレンちゃんは心配そうな顔をして私のすぐそばへやって来た。
穂乃花「大丈夫だよー。ちょっと痛いけど、これくらい」ネナガラガッツポーズ
カレン「痛いなら大丈夫じゃないデス! ホラ、ホノカ」
手を差し出され、私はそれを握ろうとして躊躇う。
汚れているかもしれないし、そのまま触るのは――なんて考えている間に、カレンちゃんから私の手を握り、体を起こすのを手伝ってくれた。
カレン「ホノカはドジなんデスから、気をつけてくだサイ」
穂乃花「う……ごめんなさい」
カレンちゃんに叱られ、反省しつつ芝生の上に座る。
走り回って自分でも知らない内に結構疲れたみたいで、座ってジッとしていると身体がずいぶん楽になった。
上がっていた息も整ってきた。
カレン「……」
カレン「服、汚れてしまいマシタね」
穂乃花「え? あ、うん。大丈夫だよ、これくらい」
カレン「そうデスカ? 綺麗な服だったのに」
穂乃花「カレンちゃんが見つかったから、全然平気」ニッコリ
カレン「……ぅ」メソラシ
顔を赤くさせるカレンちゃん。
ちょっと間を空けて、カレンちゃんはぽつりと言う。
カレン「――あんまり優しくしないでくだサイ。嬉しくなってしまいマス」
寂しげな声。
ぎゅっと自分の脚を抱くようにして小さくなるカレンちゃん。
私が怖がっていたから、カレンちゃんをこんなに不安にさせて傷つけてしまった。
遅いかもしれないけど――伝えるしかない。それが私にできること。
服の汚れを払う。ハンカチで手を拭くと、私はカレンちゃんに近寄り、抱き締めた。
穂乃花「……ごめんね。私、まだカレンちゃんに本当の気持ち、言ってないんだ」
もう、怖がらない。
【今日の更新はおしまいです】
カレン「あっ――ホノカ」
驚いたように目を見張るカレンちゃん。
けれど逃げる様子はなく、カレンちゃんは私に顔を向けた。
カレン「……本当の気持ち、デスか?」
穂乃花「うん。私、みんなに嫌われるのが怖くなって、つい答えを先延ばしにしちゃって……」
穂乃花「けど、もう怖がる必要ないって分かったから。だから、言うね」
目を閉じる。
大丈夫。怖くなんてない。私は自分に正直に。言うんだ。
深呼吸。目を開くと、私は微笑んだ。
穂乃花「――好きだよ、カレンちゃん」
穂乃花「私と付き合ってくれますか?」
言えた。
両想いだと、怖くないと分かっていても心臓がばくばくと大きく鳴る。
カレン「ホノカ……うぅっ」ジワッ
カレンちゃんは大きく開いた目を細め、安堵するような表情を浮かべる。
それから涙を流して、私の身体へとぎゅっと抱きつき顔を押し付けてきた。
腕の中にある体温。互いに感じているであろうそれが、心地よくて、けれどドキドキして。
穂乃花「遅くなってごめんね」
カレン「本当、デス。グスッ。私、ホノカに嫌われたと――ホノカが遠くに行っちゃうって……」
カレン「アリスの方が好きだって言うから! ワーン!」ビエエ
穂乃花「ええっ? そんなこと言って――」
否定しようとして、不意に脳裏に浮かぶ光景。
『陽子「いいんじゃないの? カレンよりアリスの方が(そのお菓子)好きそうだし」』
そう。それは以前、教室でアリスちゃんにお菓子をあげたときのこと。
……聞かれていたんだね、あの会話。勘違いされるタイミングで聞かれるとは不幸というか、なんというか。
カレン「それに、それに、みんな帰るときに空教室でこっそりアリスと話して」
カレン「今日のデートの時はアリスとメールしてマシタ!」
穂乃花「ご、ごめんなさい……みんなに相談してて、ちょっと」
思えば、アリスちゃんと怪しいことしすぎた。
それにしてもこれ、付き合ってすぐ浮気者扱いされてるみたいな……。ちょっと情けない気持ち。
カレン「……」
顔を少し離して、涙を手で拭うカレンちゃん。
私の服が汚れていることも気にしないで、カレンちゃんは再度私の身体に顔をくっつける。
カレン「アリスみたいに急にいなくなっちゃうって、怖くなりマシタ」
穂乃花「私はカレンちゃん一筋だよ。だから安心して。どこかに行ったりしないから」
カレン「――本当デスか?」
穂乃花「うん。ほんと――」
答えきる前に、私は自分の身体が傾いたのを感じた。
ドサッと仰向けに倒れる私。私の上ではカレンちゃんが覆い被さるように四つん這いに。
……押し倒されたみたい。軽い混乱を起こしかけた頭に、いやに冷静な分析の声が響く。
私の顔の左右にはカレンちゃんの手。すぐ目の前にはカレンちゃんの綺麗な顔。
金髪が私の首筋にかかり、ちょっとくすぐったい。
穂乃花「んっ。えっと……」
カレン「ホノカ……」
いつもとは違う、ぞくっとしてしまいそうな囁き。
穂乃花「か、カレンちゃん? ちょっと一回落ち着いて」
カレン「落ち着いてマス。ホノカ、私一筋だと証明してくだサイ」
穂乃花「うん。だから私からじゃないと証明にならないと思ったり――いったん、この体勢を」
カレン「嫌デス」
即答! まだ台詞を言い切ってもないのに。
カレン「大人しくしていてくだサイ。それが証明になりマスから」
穂乃花「で、でも外で、付き合って初めてで――んっ、う」
カレンちゃんが動くと髪がくすぐったくて、思わず声がもれてしまう。
なんとか抑えようとしているのだけど、喋ってる最中に首筋を髪で撫でられるとその努力も無意味だ。
カレン「ホラ、ホノカも誘ってマス」
穂乃花「そんな言葉どこで覚え――」
――たの。
そう言いかけ、私はフリーズ。
カレンちゃんの後ろ。空と、橋が見える視界にチラッと、私たちのいる道を覗きこむ『みんな』の顔が見えたのだ。
四人ともドキドキしてそうな赤い、しかしなにかを期待しているような顔をしていた。
穂乃花「カレンちゃん」
とりあえず教えないと。
そう思ったときは既に手遅れ。
視界に映るのはカレンちゃんのみ。顎を片手で軽く上げられ、唇には幸せな感触が。
キスをする前の恥ずかしさは、その瞬間どうでもよくなった。
私は精一杯理性を保とうと、目をきゅっと閉じて口づけの感触をあじわう。
付き合ってから初めてのキスは甘く、恥ずかしく、幸福で、そして――
忍「きゃーっ! カレンちゃんと穂乃花ちゃんが! キス!」
陽子「あ、こら! 落ちつけ、しの!」
アリス「カレン、良かったね……ぐす」
綾「本当、うまくいってよかったわ。ぐす」
カレン「――エ? な、なんでみんないるんデスカ!?」
陽子「ほらバレた!」
忍「カレンちゃん、謝罪と説明は後にしますので――さぁ! 続きを!」
陽子「できるか!」
カレン「なら遠慮無く再開を」スカートメクリ
穂乃花「きゃーっ!?////」
陽子「するなーっ!」
――いつも通り、いや、それ以上に騒がしかった。
【今日の更新はおしまいです】
夜。
ようやく気持ちも落ち着いてきた私は、改めて日記を書こうとした。
静かな自分の部屋。これまでの出来事を思い返しつつ、私はペンをとる。
穂乃花「……思い返してみると、本当色々あったなぁ」
ここ数日の密度って……。
思わず苦笑。人間、なにがあるか分からないものだ。
穂乃花「――さて、と」
多分、書ける。なんとなくそんな気がした。
私の太陽だったカレンちゃん。
眩しい彼女の日差しを受けて、目を細めるだけの私。
彼女に近づいたらどうなるか。それを怖がるばかりで、私は勇気を出せなかった。
けれど私にはみんながいた。
みんなの力を、応援をかりて私はようやくカレンちゃんに近づく勇気を持てたのだ。
太陽は強くみんなを照らすだけではなく、優しい暖かさもあった。
これからは遠くからではなく、近くから、眩しいほど明るいカレンちゃんのことを見ていたいと思う。
穂乃花「ポエム……」
ペンを置いて、私は頭を抱えた。
間違いなく、未来の私がこれを見たらこっ恥ずかしく思うだろう。
――でも、これでいいんだと思う。
私はここ数日恥ずかしいことをしてきた。
これから先、もしカレンちゃんと付き合い続けているなら――笑えるはずだよね。
恥ずかしいだろうけど。
穂乃花「――よし。寝よ」
カレンちゃんと恋人。
その実感は一日が終わろうとしている今もさっぱりで、きっと目覚めてもそうなのだろうと思う。
私はこれからゆっくりと、気持ちを整理して受け入れていくんだろう。
カレンちゃんと、友達のみんなと一緒に。
穂乃花「……みんな、ありがとう」
だから今日は安心して休もう。
明日もまた、賑やかになりそうだから。
穂乃花「――あれ?」
さぁ寝よう。
そんなエピローグ気分でベッドに入ろうとした時、ベッドの枕横に置いておいた携帯電話が震える。
画面にはカレンちゃんの名前が。どうやらメールらしい。
携帯を操作。メールを確認すると、
穂乃花「……えぁっ!?」
なんと、週末家族旅行についてこないかとのお誘いが。
温泉街にお出かけするらしい。
――流石は外国のお嬢様。付き合って初日の彼女を家族連れの旅行に誘うなんて。
穂乃花「――しばらく、日記には困らなそうだなぁ」
本当、はじまったばかりなんだと実感する。
返信を終え、私はベッドの上に。
好きな人と、友達と、楽しく賑やかに学園生活を。
きっかけはカレンちゃん。彼女がいたから、今の私がいる。
彼女のお陰で幸せを得た私が、カレンちゃんを幸せにすることができる。
私もカレンちゃんの太陽になれたら。
――今はそんなことも思えるんだ。
これで、一度完結です。
希望者があまりいなかったので、別スレ立ててそこでR-18ありの続編書きます。
次スレは
穂乃花「太陽みたいなあなたと」
という名前で建設予定。
良かったら読んでくださいー
続編スレたてました。
名前は予告どおりで
穂乃花「太陽みたいなあなたと」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1429985679/)
シノ「アリストテレス」
アリストテレス「なんであるか?無知のこけしよ」
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