比叡「カレーができました!」橘さん「これ食ってもいいかな?」 (49)

初めに

このSSはアニメ版艦これ6話の(微妙な)補完SSです。
アニメがお好きな方にとっては不快な記述が含まれる可能性があるので、閲覧の際にはくれぐれもご注意ください。
書き溜めたものを投下していきます。

橘さん以外の剣のキャラも何人か出てきます。
筆者がアニメから入ったにわか者のため、艦娘の描写ミス等に関しては、何卒ご容赦いただければと思います。

前作

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祥鳳「私が轟沈・・・?」 剣崎「ウゾダドンドコドーン!!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1425207826/)

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弦太朗「俺は全ての艦娘と友達になる男、如月弦太朗だ!!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1425986661/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1427537012

あのカレー大会から数日後、うなされていた私達はようやく回復し、目を覚ました。

「本当に申し訳ありませんっ! お姉さまっ!」

あれ以来、私は罪悪感に駆られ、何度もお姉さまに謝り続けていた。

「もう気にしなくてイイデス、比叡・・・」と、金剛お姉様は優しく許してくださった。

「比叡お姉様。榛名、もう10回も聞きました・・・!」

「お姉様、誰にでも失敗はあります。そんなにご自分を責めないでください!」

お姉様だけでなく、みんなが私を慰めてくれた。でも、私はその言葉に甘えるわけにはいかない。

「いいえ、私はお姉様に恥をかかせてしまった自分を許せません! こうなったら・・・!」

「Hey! どこへ行くんですか!?」

「気合!入れて! 料理の修行に出ます!!」
と言って、私は艤装と料理道具片手に鎮守府を飛び出した。

「Wait!! 比叡、待つデース!」

ごめんなさいお姉さま。今回ばっかりはお姉様の言う事を聞くわけにはいかないんです・・・!

私は涙を零し、お姉様の制止を振り切って、水平線の彼方へ走り出していった。

・・・と、勢いよく走り出したは良かったけど。

「ここ、どこだろう・・・?」
道に迷ってしまった。

多分数百km以上海原を走っちゃったみたい。気が付けば何処かの浅海に立っていた。

「あっちゃぁ・・・」

私はいつもこうだ。

考えもなしに突っ走って、そして最悪の事態に陥る。

この間だってそうだ。よく考えずに変な材料を入れて、紫のカレーとも言えない何かを作ってしまった。

自己嫌悪に陥っていたその時、海原に一つの黒い影が浮き上がるのが見えた。

「深海棲艦・・・!」

それは小さな鯨のような駆逐艦だった。その行き先には小さな工場のある街の遠景が見て取れた。

しかも、既に砲塔を構え、狙いを定めていた。

(このままじゃ街が危ない・・・!)

猛進する駆逐艦を追い掛け、私も走り出す。

その時だった。

『Drop,Fire,BurningSmash!!』

「はぁぁッ!!」

突然空から現れた翼を持った仮面の戦士が、炎の踵落としを駆逐艦に喰らわせる。

駆逐艦の頭部はひしゃげ、やがて燃料に引火して頭から燃え上がり、大爆発してしまった。

「な・・・!?」

なにこの人・・・? 敵?それとも味方?

その戦士は砲塔を構えた私に向かって、銃を降ろしながらこう言ってきた。

「キミも艦娘か・・・。大丈夫、俺は敵じゃな・・・」

ところが、仮面の戦士は私の目の前でゆっくりと崩れ落ちて倒れてしまった。水晶のような畳のような不思議な物体を通りぬけると、その戦士は男の人の姿に変わった。

それにしても結構イケメン・・・

(・・・いけない! 私にはお姉様という心に決めた御方が!)

とりあえず、変な思いを振り払い、海中に沈みそうな男の人を抱き止めて、なんとか海岸までたどり着いた。

その後、男の人を砂浜まで連れてゆき、優しく降ろしてあげた。

それにしても、改めて見ると、やっぱり凄くイケメンさんだな。

(・・・違う!私にはお姉さまが・・・!)

と、自問していると、イケメンの人は目を覚ました。

「君がここまで連れてきてくれたのか、ありがとう・・・。最近実験がキツくてな・・・。情けないところを見せてしまった・・・」
と、男の人は言った。クールだけど優しそうな感じだ。

「俺は橘、ギャレンだ。未確認生物研究所の所長を勤めてる」と手を差し出し、自己紹介してくれた。

「私は金剛型2番艦、金剛お姉様の妹分・比叡です! よろしくお願いします!」
私もその手を握り、握手しながら自己紹介した。

「そうか、君も艦娘か・・・。ここへは何しに来たんだ?」

「料理の! 修行です!」

「・・・料理の修行?」と橘さん。

「はい! 料理上手になって、お姉様に食べていただきたいのです!!」

「そうか・・・。助けてもらったお礼に、俺も手伝おう。付いて来てくれ」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

橘さんは付近に止めていた赤いスポーツカーに私を乗せてくれた。

その後ろには不思議な形のバイクが牽引されていた。

ところどころダイヤモンドのマークが付いているけど、なんだろう? かっこいいとは思うけど。

よく見るとバイクにたくさんの細かい傷が付いていた。たぶんかなり長年使われてたんだろう。

この人、このバイクを大事にしてるんだな・・・


橘さんは私を山合の喫茶店へと連れて来てくれた。「ハカランダ」という名前のお店らしい。
クラシックな感じの、素敵なお店だった。今度お姉様を連れてきたいような風貌だった。

「いらっしゃいませ・・・、何だ橘か・・・」

「何だはないだろう・・・。いきなりですまんが、この子に料理を教えてくれ」

そのお店でコップを拭いていたエプロン姿の静かな男性は、相川始さんと名乗った。

この人もイケメンだけど、どこか、優しくて寂しそうな感じに見えた。

「・・・なぜ俺に頼む? 料理ぐらい白井や広瀬にでもできる。奴等に頼めばいいだろ」

「白井は牛乳王子の仕事で忙しい。広瀬は芸能人と結婚したからな。お前が適任だと思ってな」

「まぁいい・・・。二三日教えるくらいなら構わん。今は撮影に行く予定もないからな」

「相川さん、これからよろしくお願いします!」

「あっ、あぁ・・・」少し戸惑った様子を見せて、相川さんが返事した。

仕事が終わるのを待ち、とりあえず奢りで出してもらった紅茶と茶菓子を口にしながら店の中を眺める。

木製のテーブルがいくつも並んだ、シックな店内。

壁には母娘と相川さんらしき人が描かれた古ぼけた絵や、屋久島の杉やどこかの岸壁、山小屋を撮影した写真が飾られていた。

「あっ!? これもしかして、真崎剣一の写真じゃないですか!」

「・・・知ってるのかい?」と相川さん。

「はい! どれもすっごくいい写真ですよね!お姉様も私もお部屋に飾ってます!」

「そうか・・・、ありがとう」

「へ?」確か、この人の名前は相川始さんのはずだ。

「いや、何でもないよ・・・」と相川さん。

この人、真崎剣一さんの知り合いなんだろうか?


しばらく私が店で写真や本を眺めていると、

「橘さん!」

突如、若い男性がお店に入ってきて、不機嫌そうな表情で橘さんに話しかけてきた。

「睦月か・・・。よくここがわかったな」と、男性とは対照的に、穏やかな口調で橘さんが言った。

「研究所の人から聞きました。・・・もうあんな実験やめてください! アンデッドとの融合係数を無理やり上げる実験なんて!」

「睦月。アイツを人間に戻すには、人間がなぜアンデッドと融合するのか詳しく知る必要がある。やめるわけにはいかないんだ・・・」

「だからって・・・。これ以上は、橘さんの身体に何が起こるかわからないんですよ! 研究所の人から聞きましたよ! 

今だってもう身体がボロボロらしいじゃないですか・・・! テロメアとかいう遺伝子にも影響が出てるって・・・!!」

「いいんだ・・・。アイツがあれだけのものを背負ってるんだ。これぐらい、アイツを思えば何ともない」

「橘さん・・・!」

悲しげに睦月さんが項垂れ、それっきり何も話さなくなった。

なんとなくだけど、この人や橘さんは、きっとすごく重いものを背負ってるんだろう。

そんな気がした。



「そう言えば祥鳳くんは?」と橘さんが話題を変え、まだ仕事中の相川さんに聞いた。

祥鳳? アレ、どこかで聞き覚えのある名前なんだけど・・・。

「祥鳳ちゃんか・・・。あの子なら元気でやってるよ。いい看板娘として働いてくれてる」と始さん。

「そういえば天音ちゃんの近況を聞いてなかったな、最近どうだ?」

「天音ちゃんなら元気だ。今は一人暮らしをして、カレッジライフを楽しんでるよ。

一時期ゴスとかいう変なファッションと黒魔術にハマってたがな・・・。

たまに帰ってきて祥鳳ちゃんとも仲良く遊んでるよ。あの子、世間知らずなお嬢様みたいだから、色々教えてるらしい」



「なるほどそうかぁ・・・」とニヤニヤしながら睦月さん。

「なんのことだ」

「相川さん・・・。天音ちゃんがいなくなったから・・・」とからかうような口調で睦月さんが言った。

恐らく場を明るくしようと無理に話題を作ったんだろう。

如月ちゃんが轟沈したときも、お姉様はそうだった。

(たとえ誰かが私を悪く言おうと、この空気はCrashしなきゃイケマセン!)

そう言って自らが率先して空気を壊そうとしたお姉様、カッコよかったな・・・。

「ふざけたことを言うな。あの子の面倒を見てるのは、アイツの知り合いだからだ」

「えっ・・・!?」

「突然転がり込んできたときには驚いたのよ」と、中年の綺麗な女性が言った。

「行き場もないと言っていたからな。ここでしばらく預かってる」

「そうだったんですか・・・。その・・・、すみません・・・」睦月さんは申し訳なさそうに小さくなった。

「ふふっ、でも良かったわ・・・」と隣にいた綺麗な中年の女性が言った。

「遥香さん?」

「彼、今もどこかで元気でやってるみたいじゃない。彼も隅に置けないわね、あんな可愛い子と知り合いだなんて・・・」

「そ、そうですね・・・」

始さんは寂しそうに返事した。


相川さんに案内されて部屋の奥の方に入ると、そこには髪の長い和服の綺麗な女性が掃除をしていた。

その人は私を見るなり驚いた顔をして、「あっ、貴方はっ!? 金剛型2番艦の比叡さん!」と尋ねてきた。

「あなたは・・・、誰?」と私が言うと、

「そっ、そうですよね・・・。私なんか、大した戦果も上げてないですし、大破炎上後に誰からも心配されてなかったみたいですし・・・」その人は落ち込みだした。

そうか、この娘が祥鳳さんか・・・。別鎮守府の人だから分からなかった。たぶん、何らかの事情で祥鳳さんはここに住み込みで働いていて、橘さんと知り合いになったんだろう。

「ちっ、違うの!そう言う意味じゃなくて、別の鎮守府所属の人だからわからなかっただけだよ! 

ほ、ほら!祥鳳さんって、あの弓を構えるセクシーでかっこいい姿が有名じゃない! それでね・・・」
私は必死で言い訳した。だけど、

「そっ、そんなイメージが広まってたんですか・・・? ちゃんと普段は着てるのに・・・!」

ますます落ち込んでしまった祥鳳さんは、体育座りをしていじけ出す。

「ごっ、ごめん! ホントに私が悪かったから! そんなに落ち込まないでよぉ・・・!」

終いには涙目になって謝る始末になった。

「ひぇぇぇ・・・」

私って、ほんと馬鹿だなぁ・・・



なんとか祥鳳さんを宥めた後、お店がしまった後に私は試しにカレーを作ることになった。

今度は大丈夫。大丈夫なはず。見た目もカレーの色も普通だし。

「・・・なんだこれは」

「ボーキサイトをふんだんに使った、比叡スペシャルカレーですっ!」

「・・・いただきます」

「いただきます」

「いただきま~す」

「い、いただきます・・・」

緊張しながら、みんなの様子を見る。

「・・・!?」

「んっ・・・!?」

たちまち、みんなの顔が紫色に染まり、倒れてしまった。

祥鳳さんは泡を吹いて気絶し、相川さんはテーブルに突っ伏した。睦月さんは椅子からひっくり返って倒れてしまった。

「ひ、ひぇぇぇぇっっ!?」
だけど、

「どうしたみんな? 別にこれといって問題は見当たらないが・・・」橘さんだけは、美味しそうに食べていた。

「・・・冗談だろ?」と相川さん。

「俺は普通に美味かったと思うが?」

橘さんはお鍋をジッと見て、「これ食ってもいいかな?」と、お替わりを要求した。

「・・・好きにしろ」と相川さん。

私を含めた全員の意見が、一致した。



その後、重症だった睦月さんは家に帰って静養することになり、望美さんという恋人に連れられて帰ってしまった。

「ひぇぇ・・・。皆さんホントごめんなさい・・・!」

私は必死でみんなに頭を下げた。

「・・・想像以上にひどかった」

「始、言い過ぎだぞ・・・」

祥鳳ちゃんは何も言わず、酷く気まずそうに目を逸らしている。

「すみませんっ! 本当にっ! すみません!!」

「確かに、橘には任せておけないな」

「・・・うるさい。俺は味覚のストライクゾーンが広いだけだ」バツが悪そうに橘さんが言った。

相川さんは私が持ってきた材料を白い目で見ながら、

「そもそも材料にこんな変なものを混ぜる必要はない。食い物ですらない」
と、ボーキサイトを相川さんは庭に投げ捨ててしまった。

「・・・ですよね」
考えてみたら、そもそも人に食べさせるようなシロモノじゃないのに、何で私はこんなものを・・・。

「俺が今まで食べた料理の中で、一番美味いのを教える・・・。ちょっと待っててくれ・・・」

と、相川さんは厨房へと入っていった。


暫くすると、器にある食べ物が盛られていた。透明な液体の中に白く柔らかいお米と細かく刻まれたネギが浮かんでいる。

「これって・・・」

「おかゆだ。いいから黙って食べてくれ」

私は言われるがまま、相川さんに渡されたおかゆを口にする。

「おいしい・・・!」

「あぁ、俺も初めて食べたときそう思ったよ」

暖かく、旨みと塩味がちょうどいい塩梅になっている。

とても素朴で、温かい味だった。


「初めて食べたのはボロボロの山小屋だったな・・・。

ひどく不器用で粗末な料理だった。でも、今まで食べた中で・・・、一番美味かった・・・」

静かに、相川さんがポツリポツリと言い始めた。

「始、それはなぜだと思う?」と橘さん。

「それは・・・。アイツが・・・、俺のために・・・」

「そうだ。アイツがお前のために作ってくれた。臭いセリフだが、あのお粥にはアイツの優しさが篭められていたんだ。

そしてそれは、お前の中にも生き続けている・・・」

思いやりか・・・。

(そうか・・・!)

私は、ただイイものをつくろうと焦りすぎていた。作る人が本当に美味しいと思うものを考えてなかったんだ。

それを教えようとして相川さんはこのお粥を・・・。

「・・・まずは、これから始めてみろ。カレーは・・・、それからだ・・・」

相川さんの言葉が途切れ途切れになり、瞳が潤んだ。そして、涙が零れ落ちた。

きっと、大切な人が作ってくれた料理なんだろうな・・・。そんな料理をもらえたことが何故か嬉しかった。


その後、私はたいやき名人養成ギブスをつけながら相川さんの元で数日の間修行と特訓を重ね、お粥を作れるようになり、最終的には何とか美味しいカレーを作れるようになった。

(でも、たいやき名人養成ギブスは何の意味があったんだろう?)

今日の分も終わったので、祥鳳さんと皿を片付ける。

片付けながら、祥鳳さんが話しかけてきた。

「比叡さんは、お姉さんや妹さんがいらっしゃるんですよね・・・」

「そうだよ! 金剛お姉様は強くて格好良いですし、榛名や霧島も可愛くて頼りになる妹だよ!」
いつものように姉妹について話してみた。

「いいですね・・・。一応私にも、瑞鳳って妹がいるんです・・・」

「そうなの? 今度、私にも紹介してね!」

だけど、妹の話をした祥鳳さんは曇った顔をしていた。

「それは、できないです・・・」

「え?」

「艦娘としての力を失った私なんかが、瑞鳳に、妹に、今更会いに行っても迷惑ですよ・・・。
もう艦娘でない私が会っても、混乱させちゃうだけです・・・」

「そんなことないよ!」

私は思わず叫んでしまった。

「絶対会いたがってるよ、瑞鳳さん! きっとあなたに会いたくて寂しがってるよ!」

私が同じ立場なら、きっとそう思うはず。

お姉さまにもう二度と会えないなんて、絶対嫌だ。

「でも、今の私は戦えない、役立たずですから・・・。今更会ったって邪魔になるだけなんじゃ・・・」

「そんなこと関係ない! 今の貴方がどうだろうと、貴方は妹さんにとって、たったひとりのお姉さんなんだよ! 姉妹の絆は絶対に切れたりなんかしないんだよ!」

「そう、なんですか・・・?」

少なくとも私や金剛お姉さま、榛名や霧島はそうだから。だからこそ言える。姉妹はいつまでも姉妹だって。祥鳳さん達もそうだって。

「うん、絶対そうだよ!! だから祥鳳さんも信じよう。妹さんを!ねっ!?」

無意識のうちに、私は祥鳳さんの手を握っていた。

「はい・・・。ありがとうございます、比叡さん・・・」

祥鳳さんの目は潤んでいた。それを見て、ちょっと焦ってしまう。

「ひぇっ!? ごめん、また私傷つけるようなこと言っちゃった・・・!?」

「ううん、嬉しかったです・・・。比叡さん・・・」

なんで泣いてるのかよくわからないけど、良かったのかな・・・?




その時だった。山奥から突如轟音が鳴り響いた。

「まさか・・・!?」

電探にも深海棲艦の反応が出ている。

「こんな陸地にまで・・・!?」

信じられない。普通は海域のみに出現するはずなのに・・・。

「祥鳳ちゃん、遥香さんとお客さんたちを頼む」

「・・・はい!」

お店にいた人達を引き連れ、祥鳳さんはお店の裏へと避難した。その一方で、相川さんと橘さんは爆音の方向へと走り出す。

「行くぞ始!」
「言われるまでもない・・・!」

橘さんはベルトを取り出し腰に装着させる。拳を前にやり構えた。一方で相川さんはカードを懐から取り出し、二人同時に「変身!」と叫んだ。

『TurnUp』
クワガタの紋章が飛び出て橘さんがそれをくぐり抜けると、彼を仮面の戦士に変え、

『Change』
相川さんの姿が弾き飛ぶ水のように吹き飛び、黒いカマキリのような戦士になった。

「あの二人が・・・!」

お姉さまから聞いたことがある。

嘗てアンデッドという怪物が現れた時、人々を守るため戦った都市伝説のヒーロー、『仮面ライダー』。

謎の怪物・アンデッドと戦った伝説の四人の戦士、ブレイド・ギャレン・レンゲル・カリス。

まさか、あの二人が仮面ライダーだったなんて!?

とにかく、深海棲艦なら私の出番だ。

「私も行きます!」

私は入口に泊めておいた艤装を呼び出し、装備した。


「ヒァァハハハハハ・・・!!」

不気味な笑い声をあげ、深海棲艦がそこいら中に砲撃を撒き散らす。

戦艦棲鬼だった。不気味な女の体に巨大な頭と不気味な腕が乗っかかっていた。

「始め、一気に決める。援護を頼む!」
「・・・分かった」

ギャレンは3枚のカードを引き抜き、銃のカードリーダー部分に読み込ませる。

カリスも同じように、持っていた弓のカードリーダーに一枚のカードを読み込ませた。蔦の生えた怪物のカードだった。

『Drop,Fire,Gemini, Burningdivide』

『Bio』

弓のような武器から生えてきた蔦が戦艦棲鬼を縛る。

その隙にギャレンが飛び上がり、二つに分身して炎に燃える足から踵落としを繰り出した。
爆風が巻き起こり、深海棲艦はその中に巻き込まれた。
「やった・・・!」

私は勝利を確信し、叫んだ。


だけど、
「何・・・!?」

「ウソ・・・!?」

戦艦棲鬼は倒れていなかった。

「ヒャハハハハ・・・!!」

それどころか不気味な笑い声をあげ、余裕綽々の様子だった。そして、

「うわぁぁぁ!!」

「くっ・・・!」

「きゃぁぁぁっ!?」

恐ろしいスピードで格闘戦に持ち込み、あっという間に私達を叩き潰してしまった。

「く、くぅ・・・」

私は艤装の調子を見た。

左の砲塔が大破していて、既に撃てる状態ではなくなっていた。

隣を見ると、ギャレンもカリスもボロボロだった。

カリスはあちこちから緑色の液が流れ落ち(恐らく何らかの燃料漏れなんだろう)、ギャレンは仮面が割れて中の素顔が見えていた。



「オレハサイキョウダァ・・・、オマエタチガガナウハバズモナイ・・・、アキラメロ・・・!!」

戦艦棲鬼が倒れた私達を見下し、せせら嗤う。

(まずい・・・!)
すごい危機感を感じた。怖かった。

だけど、黒い戦士と赤い戦士はそれでも立ち上がった。もうどう見てもボロボロなのに。

「・・・違うな」

「ナニ・・・?」

「こんなものは・・・、本当の強さなんかじゃない・・・!」カリスが、相川さんが静かに言った。

「ナニイテンダ・・フジャケルナ・・・」と戦艦棲鬼。

「俺は嘗て、血に飢えた怪物だった。だが、あの家族が、そしてアイツが、人の心を、心の強さを教えてくれた・・・!」

「そうだ。こんな俺を支えてくれた人達のためにも、そしてアイツのためにも、俺は負けられない・・・!」橘さんが言う。

「ケケケ・・・、オマエダチノカラダハモウボドボドナノニ・・・」

「人の心は、そんな力など凌駕する!」と橘さん。
すごい・・・。この人達はお姉様みたいに強くて、かっこいい人だった。

「・・・本当に強いのは!」相川さんが吠える。

「強いのは!」橘さんが叫ぶ。

「人の思いだぁぁぁ!!」ふたりが同時に叫んだ。




「ゴタグヲビウバ・・・、ドドメドゥア・・・!!」

砲撃音と共に、私達の前に巨大な弾が放たれた。

だけど、咄嗟にカリスがカードを引き抜き弓矢のカードリーダーに読み込ませ、、

『Reflect』

光の壁が黒い戦士達を包んだ。その壁に衝突した砲弾は弾き返され、海魔に降りかかり爆発した。

「ゾンナァ・・・ゾンナァ・・・ナズェダァ・・・! ナズェダァ・・・! ナズェダァ・・・!!!」

戦艦棲鬼の砲塔に被弾し、痛みに苦しみ出す。

「ハートのカテゴリー7は、あらゆる攻撃を弾き返すバリアを形成する。お前のその攻撃にはうってつけだったわけだ」

ついで黒い戦士は、ラクダの描かれたカードを取り出し、読み込ませる。

『Recover』

緑色の血が流れていた黒い戦士の傷が癒え、たちまち回復してゆく。

「橘、お前もこれを使え」
黒い戦士が橘さんにカードを投げ渡す。彼に倣って、橘さんもカードを読み込ませる。

その鎧の傷が一瞬で回復し、仮面ももとに戻った。

何これ、魔法みたい・・・!

「ナラオマエカラダ、センカンメ・・・!」

「比叡ちゃん!」

戦艦棲鬼が猛スピードで迫る。

海とは違って、艤装を装備していては陸上で素早く動けない。ダメージもあれば尚更だった。
まずい。流石に避けきれない。

「しまった・・・!」と橘さん。

私はあっという間に、棲鬼の持つ巨大な腕に捕縛されてしまった。

「くっ・・・!」
痛い。怪力で体を縛られ、骨にまで苦痛が届く。ギシギシ骨が軋む音が頭にまで届いてきた。

(ごめんなさい、お姉さま・・・。帰れないかも・・・)

そんなネガティブな想いが頭に浮かんだ瞬間だった。

「バーニング、ラァァァブ!!」

砲撃が放たれ、海魔の腕を大きく抉りとった。

「ウェァァァァ・・・・!! ンナズェダ・・・!!」


まさか・・・!


「Hey Sea Monster!これ以上、私のSisterに手は出させまセーン!」

力強い叫びとともにあの人が現れた。

「お姉さまっ!!」

金剛お姉様。

強くて優しくてカッコいい、私のお姉様。

「もうダイジョーブね、比叡!! 私が来たからにはBigshipにRideしたつもりでいてクダサイ!」

やっぱり、姉妹の絆は絶対だった。

お姉様はいつも私を助けてくれる。最高のお姉様だった。


「壊させはしない! アイツが護ってくれた、この世界を!」

カリスが朱色のハート模様が描かれたカマキリのカードを取り出す。

『EVOLUTION』

「守り続けてみせる・・・。アイツが守った、この世界を!」

ギャレンもまた、赤く光るクワガタのカードを左腕のカードリーダーに読み込ませた。

『ABSORB QUEEN』『EVOLUTION KING』

その瞬間、ギャレンの身体を黄金の鎧が覆い、その角は巨大なクワガタ、いや王冠のように大きく逞しくなった。

カリスもまた、黒かった鎧が水が撥ねるかのように脱皮し、真紅の鎧へと姿を変えた。
胸のハートは赤から緑色になっている。そして、その腕には美しい黄金の鎌が備わっていた。

「イロガガワッダグライデナンドゥア・・・!」

戦艦棲鬼が叫ぶ。

だけど、赤いカリスは物凄い速さで動き、あっという間に鎌のような武器で戦艦棲鬼の腕を切り裂いた。

「ウェアァァァ・・・・!!!」

腕を切り裂かれ、戦艦棲鬼は悲鳴を上げた。



今だ。

この隙を逃さずに、私達も艤装を展開する。

私の艤装は右しか砲塔が機能してないけど、お姉様とならきっとなんとかなるはず。

「準備はいいデスカー、比叡!!」

「えぇ! お姉様となら、どこまででも!」

ギャレンは巨大な双砲を備えた銃に、5枚のカードを装填した。

カリスもまた、鎌を変形させて弓にして、その弓に一枚のカードを読み込ませる。

『Dia10,Jack,Queen,King,Ace...RoyalStragihtFlash』

『Wild』

カメレオン、孔雀、海蛇、そしてクワガタが2匹、全部で五枚のカードが海魔の前に並び立つ。そしてギャレンの構えた巨銃が黄金に輝く。

隣のカリスの背中に、丸い石のようなオーラが浮かび吸収される。そして、その弓に閃緑の光が灯り、エネルギーが蓄積されてゆく。

「はぁぁぁぁっっ!!」

5枚のカードめがけて、ギャレンの巨砲から二つの炎の渦が発射された。

「ふっ・・・!」

同時に、カリスの弓から閃緑の矢が発せられた。

「グウエァ・・・!!」

その猛攻で深海棲鬼の大きな頭が砕け散り、その動きが鈍った。体から炎を巻き上げ、既に大破していた。

私もお姉様と手を握り合い、重ね合わせた。

「準備はOK?」お姉様が言う。

私の答えは一つだった。

「えぇ、お姉様となら、どこまででも!!」

「せぇーのっ!!」


「「ダブル・バーニング・ラァァァァブゥゥゥッッッ!!!」」


私たちの全身全霊のダブル砲撃も放たれた。その砲撃は見事、棲鬼を貫いた。

「グワァァァ・・・、ンナズェダ・・・ンナズェダァァァァァ・・・!!」

断末魔の悲鳴を上げて、棲鬼は業火に包まれて爆散した。


「やったぁぁっ!!やりましたぁ!」近くで見ていた祥鳳さんが子供みたいにはしゃいで大喜びする様子が見えた。

「やったな・・・」ギャレンはカリスに手を差し伸べた。

「あぁ・・・」カリスも黙ってその手を握り返した。



戦いが終わった後、私は金剛お姉様と帰ることになった。

お姉さまいわく、私を探していたら、たまたま深海棲艦を発見したのだという。

戦いの後、「まったく...お姉ちゃんや妹に心配かけちゃNoデス!」と叱られてしまった。

「はい・・・、ごめんなさい・・・お姉さま・・・」

でも私が謝ったら、
「反省してるならOkayネ! さっ、榛名と霧島もWorryしてマース! 帰りまショウ!」

いつものように、優しく頭を撫でて許してくれた。


朝日が登りかけるなか、海岸まで橘さん達が見送ってくれた。

「はい・・・! 相川さん、橘さん、それから祥鳳さん・・・。

短いあいだですが、お世話になりました! 遥香さんにも、よろしく言っておいてください・・・!」

私がお世話になった皆様にお礼を言った。

「比叡さん。私、今度瑞鳳に会いに行こうと思います・・・。きっと、あの子も、待っていてくれるような気がしますから・・・」
祥鳳さんが言った。
「うん、頑張ってね・・・」
そっか・・・。妹さんに会うんだね・・・。

なぜか、そのことが自分のことのように嬉しかった。

私は励ますように、祥鳳さんの手を握った。

その時だった。

「Oh! Youも元艦娘ね!? だったら此処に行くといいヨ!」
と、お姉様は懐からチラシを取り出す。

そこには、「いろはにほへと組」と書かれていた。

「そこで、今まで倒れた艦娘達を預かってマース! 昔ウチの鎮守府にいた如月ちゃんも、そこでHappyに暮らしてるとInformationが入ってマース! 今度は鎮守府にも慰問に行くそうデース! そこなら妹さんに会えるでショウ!」

「三上了、面白いことをする男だ・・・」と相川さんが微笑んだ。

なぜか、どことなく嬉しそうだった。

「ありがとうございます、比叡さん・・・!私頑張ります!」と祥鳳さん。

「うん、妹さんと、幸せにね・・・」

「それじゃ、行きマース・・・、See you!again!!」

私達は海へと走り出し、トラック泊地へと向かった。

手を振る祥鳳さん達を背に、はるか水平線の彼方へと海上を走り出した。



その後、私は泊地でお姉さま達にカレーを振舞った。

うん。味も確認したし、ちゃんと食べられるモノで作った。

「それでは、比叡カレー! 気合!入れて!!作りました!!」

「こ、これは大丈夫なんですか・・・?」と霧島が心配そうに言った。

「大丈夫! 今度は料理のプロに味見してもらった、お墨付きです!」

「な、なら大丈夫ですよね・・・」と榛名。

「では、いただきマース!」とお姉さまがカレーを口にしたその時だった。

「こっ、これは・・・! かっ、辛過ぎですお姉様・・・!」

「榛名、水が欲しいです・・・!」

「比叡。味はGoodだけど、これはVery 辛すぎネ!」

口々にみんなが味について文句を言ってきた。

「ひえぇぇぇぇぇっ!?」


な、なんでぇぇぇっ!? 




「え? 橘さんと相川さんって、辛党だったんですか?」

「俺は辛味噌が好きだが・・・?睦月は甘党なのか?」

「俺もそうだ。甘ったるいカレーなど、食べてられるか」

「っていうことは、まさかあのカレー、辛すぎたんじゃ・・・?」


おしまい

以上、比叡と橘さんのSSでした。

コメントにあった「比叡のカレーを美味しそうに食べる橘さん」というのにインスピレーションを感じ、書いてみました。
金剛さんが井上ワープしてますが、特撮にはよくあることなので大目に見てやってくださいw

そう言えば史実だと、比叡は井上提督と関わりがあったそうですね。個人的にはあの脚本家を思い出しますw


ちなみに三作のSSにおける時系列と艦これ・剣・フォーゼをまとめると、こんな感じになってます。


剣本編

フォーゼ本編

艦これ3話

如月SS(+フォーゼ本編から3年後)

6話のカレーの話

7話

祥鳳SS(本編)

8話

このSS ←今ここ

如月SSの友だちのシルシ辺り

祥鳳SSのたい焼きの辺り

9話

(以下略)

フォーゼ5年後

乙ベント

乙!

よかった・・・
作ったカレーを加賀美の親父に豚の餌と言われる比叡はいなかったんだね

>>31
ありがとうございます。

>>32
ありがとうございます。
マジな話、井上つながりで「あの」大先生や天道と絡める案もありましたが、さすがにボツにしましたw

どこの琢磨君なんですかねえ・・・(困惑)

ギャレンキングフォームいいよね

辛いよ大泉くん

おつ
相変わらず深海勢がオンドゥってて草


響鬼と響のクロスが見たい

ライダーと艦娘名前かぶりすぎぃ!
響といえば関東まもってる鬼の中に吹雪鬼ってのもいたな名前だけのモブだけど

ちなみに>>1の(微妙な)とは、「6話の補完SSとしては微妙な感じですが」という意味です
決してアニメ本編が微妙だったとかいう意味ではございませんので、お間違えのないようお願い致します
個人的には、砲弾殴り飛ばす金剛さんに惚れました

>>34
最終回、ヤクザっぽい顔の人に工事現場でどやされる那珂ちゃんですね。わかります

>>35
いつか剣のVシネが出たら、本編で見たいですね、ギャレンのキングフォーム

>>36
(*0M0)<辛味噌!

>>37
アニメで深海棲艦達の台詞がなかったので、ちょっと遊ぼうかと思いましてw

>>38 >>39
成長して丸くなった桐矢との絡みとか面白そうですね。そしてデネブに悠斗と間違えられるという・・・w

おお!如月の人だったか!
次回作も期待してまっせ!

今度は黒井響一郎とかどうかなぁ…
デンライナーとか使って歴史から消えた3号の方の黒井をだな…

妖怪マヨネーズライオンくらいなら出せますかね?橘さんとの絡みも込みで

ちなみにわからない人のために解説しときます。フォーゼネタは恐らく皆さんお気づきかと思われますので、あえて申し上げることはしません

真崎剣一とは、ドラマCDで始がカメラマンの仕事に使ってる偽名です、剣崎には意図がバレバレでしたがw
詳しいことはドラマCDを聞いて確かめてみましょう(ステマ)
あと、剣14話を見返した上でもう一度このSSをご覧頂けると非常にありがたく思います(ステマ2)


>>41
ありがとうございます!
次回は、アニメ版最終話後の話になる予定です
睦月とあの七人(+α)達も出します

>>42
黒井は春映画見てないんでパスします、すんません・・・
妖怪マヨネーズライオンミナマデイウナキマイラモドキは世界観的に出せるので出します
橘さんとの絡みはありませんが・・・w

ヘルヘイムの果実を食べてもなんともないキマイラなら比叡カレーも大丈夫なはず

更新お疲れ様でした
次回は、艦これ最終回、後の話ですか…
てっきり、次回は艦これ11話の赤城さんのあのラストシーンで、仮面ライダーが助けに来る話を考えて、作ってくれるのかなて思っちゃいましたww

>>45
ベルトからど根性ガエルみたいにカレー食うんですかw

>>46
最終回後です
本編で出てきたツッコミ所や謎にも、二次創作なりの解釈を加えて書かせていただきます
ちなみにタイトルは、

睦月「私は最強だー!」 上城睦月「艦娘?」

となります。

やりました

睦月「私は最強だー!」 上城睦月「艦娘?」
睦月「私は最強だー!」 上城睦月「艦娘?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428572159/)

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