京太郎「男子チャンピオン?」 (238)
ゆっくり更新
安価も少しあり
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京太郎「優勝…か」
いよいよ此処まで来てしまった、少なくともその二文字が見える場所に。
全国大会、決勝戦。思えば、咲を麻雀部に誘ってからまだ半年と経っていないのだ。短く感じるのも当然だろう。
だが、自分はこの半年で彼女に大きく水を開けられた様に感じてしまった。
遠い、遠い、何処かに彼女は行ってしまったのだ。
そう思うと少し、ため息が出てしまう。
京太郎「いよいよですね…優希、頑張って来いよ!」
優希「京太郎のタコスパワーがあれば無敵だじぇ!ボコボコにして来るじぇ!」
久「頼もしいわね」
和「あまり無理しないで下さいね…」
優希「大丈夫だじぇのどちゃん!東場で全部吹き飛ばしてやるじぇ!」
まこ「時間じゃな…」
咲「頑張ってね!」
安価
インターハイ決勝戦の顔ぶれ
清澄
白糸台
安価↓2
安価↓3
不安だった。
結成してまだ日のたたないうちの麻雀部が全国の大舞台でどこまでやれるのか。
相手に不足なし、と部長は笑い飛ばしていたが、実際心配しかない。
そもそも、得点計算もまだ完全には出来ない自分が心配することではないが。
だが咲のお姉さん程の打ち手だと流石の自分でもその異常性がひしひしと肌で感じられる様になるのだ。
牌に愛された人々。
簡単に説明するとこうなってしまうが、要は人外の集まりである。
神を降ろしてまで麻雀を打つ巨乳巫女の学校だったり、ここまで来るともういっそサイコロだけで勝負を決めてしまっても良いんじゃないか、と思ってしまう。
モニターを見ると、既に対局は始まっていた。
しかし、何も聞こえない。
他の皆は固唾をのんでひたすらモニターを見つめ続けている。
何も聞こえない、何も。
いつも自分をからかってくる小さな少女はこの見るもの全てを圧倒するインターハイ、全国大会決勝戦の張り詰めた空気は彼女の小さな身体を今にも押し潰さんとしている。
見ていられなくなって、ふらりと、外に出た。
広い館内をてくてく歩く。
クーラーがよく効いていて、涼しい。
寒いくらいだ。
リノリウムの床が、キュッ、キュッと音を立てて自分を追いかけて来る。
やがて、広間に出た。
そこは、会場の、別館の吹き抜けであった。
天井に張られたガラスからは、夏の強い日差しが床に注いでいる。
ジリジリと肌を焼かれる感覚が少し心地よかった。
そうして、ぼさっと突っ立っていると、微かに奥の体育館から音が聞こえて来た。
麻雀、か?
戸惑いながらも、音のした方へと進んで行くと、そこには二つの大きなモニターが設置されていた。
どちらも無音であったが、片方は女子、恐らく団体戦決勝を映しているのだろう、とよく観察していると、確かに優希が他の化け物と卓を囲んでいた。
既に咲の姉は連荘を決めている様だった。
優希の打ちのめされた様な、項垂れた表情を見ていられなくなり、思わず隣のモニターに目を移した。
しかし、もう一方は明らかに男子が卓を囲んでいた。
男子麻雀、地方大会一回戦負けの自分が見るのは少しこそばゆい感じもしたが、暫くそちらを眺めていることにした。
男子麻雀はプロ含め日本ではあまり盛んでは無いと聞いていたからこそ、応援をしたい気もした。
個人戦であると、色々と個性が出る、と部長に教わったので、期待した。
しかし単純に言うと…
つまらなかった。
展開の読み合い、素人が見ても分かり易い様な大きな役の応酬などは一切見られず、点の移動もしょっぱいものだった。
一万単位の点の移動すらなく、気が付くと、結局最初の2局に満貫を二連続でアガった、私服の高校生が優勝していた。
玄人ならば先行逃げ切りの堅実な打ち回し、と唸るところだが、ちょうど此処の広間の効き過ぎたクーラーの様に、世間は中々冷たいものである。
わかりにくい、のだ。
わかりにくい物は見たくないのが人情であろう。
何しろ、インターハイに男子麻雀があること自体、ちょっと前まで自分は知らなかったのだ。
細かいルールはあれどゴールにボールを入れたら勝ち、という競技を続けて来た側にしてみたら、教育テレビで昼頃に放映している囲碁将棋を眺めている方がまし、と判断を下してしまうのも仕方ないだろう。
そしてこの感覚は正しかった様で、テレビ放映やネットの生中継なんかもあくまで女子優先、男子はよくても録画か、大体はダイジェストである。
派手に、豪快に、力強いものでなければ人はあっという間に離れて行く。
確かに男子麻雀もニッチなファンが顔の良い選手を追っかけしているが、恐らくその人達は麻雀、という競技には見向きもしていないだろう。
後はわかりやすさ、である。
古代ローマの剣闘士なんかも有名だが、エンターテイメントとしての分かりやすさが男子麻雀には足らない。
男子個人戦の表彰式を見ながらちらりと女子団体戦を見ると、阿知賀の女の子がドラ8というあり得ない手でアガっていた。
この時点で、男子麻雀、女子麻雀には埋めようの無い差が生まれていたのが見えてしまうのである。
お袋も言っていたが、男子麻雀には華が無い。
これには同意せざるを得ない。
そんな事を考えながら、また二つのモニターを眺めた。
丁度後ろにソファーがあった。
座ってみると、ふわりと沈み込み、柔らかい下地が尻を包み込んだ。
前のテーブルを見やると、リモコンが置いてある。
眺めているモニターのリモコンであることは容易に想像出来た。
ミュートになっていた音を、男子個人戦表彰式の方だけ上げることにした。
聞こえて来たのは、老いた男子プロのフガフガ声であった。
男子プロからは、先生、と呼び讃えられているその老人は、何でも唯一女子プロと渡り合った、すごい人だったらしい。
ただ、男子プロと言ってもたかが知れている。
男子プロは麻雀だけではとても食っていけないのだろうか、ジャ○ーズ系の若いイケメン達が、モデル活動をしたりCDデビューしたりしながら大抵5、6年で引退して行く。
女子プロ、即ち日本の正規の麻雀リーグに挑戦する男子プロも一年に2人3人は出る様だが、大抵はそのあまりにも厚い壁に阻まれて、心をボロボロにしてすぐに逃げ去って行ってしまう。
それこそ男子麻雀はインターハイやインカレで輝かしい成績を収めたとしても、男子プロのある意味厳しい世界で生きて行くしか道が残されていないのだ。
実にやる気が削がれる様な話だ。
世界大会になると、いよいよ立場がなくなって来る。
海外の男子勢は女子プロに打ち克つ力を持つ雀士も一定数いる様ではあるが、日本の男子はそもそも世界大会に出る権利すら無いのだ。
それは日本での、麻雀の扱われ方にある。
いくら学生時代にがんばっても、潰しが効かない、受け入れ先が無い、と言われて絶望した雀士達はどんどんと裏社会に流れて行った。
どの男子プロでも、経歴をちょっと調べれば必ず何処かにヤの字が絡んでいる痕跡があるくらい、闇に浸透して行ったのである。
積み込み、イカサマ、賭け、代打ちなど麻雀の負のイメージはこうして付いて回っている。
表彰式が終わった。
記者会見が始まるが、記者の大半は顔の良い男子選手目当ての女性週刊誌であろう。
大方、インターハイで見つけた、イケメン十傑!みたいな煽りで、カラー特集として売り出されるのだろう。
嫌な話だ。
いくら地方大会止まりとはいえ、一雀士として憤りを感じる。
しかし、クーラーが効き過ぎている。
急速に冷やされた外気によって、尿意を催した。
トイレ、トイレ。
居心地の良いソファーを立つのはやや億劫だったが、漏らす訳にはいかない。
そう思ったその時…
パシャッ
記者「ふんふん、中々のイケメン君だね」
京太郎「え?」
記者「ちょっと話、いいかな?」
記者「写真、撮らせてもらったよ」
記者「ネ、ネ、ネ、どこの学校の子?とりあえず、制服から見るとインハイには出場していないみたいだけど…」
記者「お話、聞かせてくれるかな?」
京太郎「ちょ、やめてください!」
噂をしたら、というわけでは無いが、変なものに引っかかってしまった。トイレにも行きたいし、ひとまずこの場を離れることにした。
京太郎「お断りします。失礼します」
記者「えぇ~そんなこと言わずにネ、ネ?」
しかししつこくついてくる。
こうなったらトイレにに逃げ込むか、男子トイレはどこ~。
京太郎「トイレに行きたいので、失礼します」
記者「…」
記者「あれ~?良いのかな?お姉さん、キミの写真、もう撮っちゃったよ?」
京太郎「…?」
京太郎「それが…どうしましたか?」
んん?みてみると大人の魅力満載の巨乳お姉さん系記者じゃ無いか!?
いけない、つい足が止まってしまう…
谷間が出来ている…
記者「だから~、もう私達の雑誌のカラー特集に載っちゃうよ~ってこと」
京太郎「そんな、盗撮じゃ無いですか!?訴えますよ!」
記者「まあまあそんなにお怒りにならずに」
ムニッ
む、胸を押し当てて来た…だと!?
いけない涎と鼻血が出てしまうやばいやばいおもちが腕に!
酉外れてましたすみません
京太郎「くそっ…」
記者「フフフッ」
ドカッ
京太郎「あべしっ」
記者「ぐばあ!?」
???「すみません!すみません!」
記者「ちょっと、危ないな!キミ!」
???「前をよく見ていなかったもので…」
記者「こんな広い場所でよく狙ってぶつかることができるね!?尊敬するよ!」
???「すみません…すみません」
京太郎「…?」
は、や、く、い、け?
早く行け?
お言葉に甘えて、ひとまずこの場所から離れることにした。
あと、早くトイレに行きたい…
なんとか無事用を足し、スッキリした気持ちで手を洗った。
本当に、尿意というものは空気を読まずに下腹部に襲来する。
排泄は人間の生理的欲求、というよりかは出さなくてはいけないものだが、たまにこの排泄の時間を無駄に感じてしまう。
だからこそ、トイレに本棚を置いたりする人がいたりするのだろう。
風水的には、あまりトイレに長時間いるのは好ましくないらしいが。
冷たい水が、掌を流れて行く。
そういえば、あの人。
自分を助けてくれた人にお礼をしなくてはいけない。
とりあえず、さっきの場所に戻ることにした。
モニターの前のソファーに、誰かが座っていた。
髪はそれなりに整えられていたが、背中からは何か疲れている様な、気怠い空気が流れていた。
恐らく、あの人が自分を助けてくれた人だろう。
最初こそ戸惑ったものの、勇気を持って話し掛けてみることにした。
それに、正直かなり危ない状況だったのだ、素直にお礼が言いたい。
よし、
京太郎「あの…」
???「んん?」
クルッ
京太郎「…!」
京太郎「あ…」
???「やあ、金髪にーちゃん、さっきは災難だったな」
???「ホントあーゆー雑誌の記者は節操が無くて困る」
???「報道の自由だかなんだか知らねえが、合法ギャングだぜ、ドレークだ」
京太郎「あなたは…男子の…」
???「おお、どうやらずっとここのモニターにいた様だな、にーちゃん」
???「じゃあ俺の対局を見ててくれたのか、ありがとな」
京太郎「男子のチャンピオンですか…」
???「そのとーり。男子個人戦チャンピオン様だよ」
???「しかし、チャンピオン様だぜ俺?全く取材も無いってどういうことよ?」
???「確かに、他の奴らとは違って髪が黒いから目立たないのは解るが…」
???「CDデビューしたかったな、ちくせう、ってのは冗談で、嫌になって来るぜ」
京太郎「それで、先程は、ありがとうございました!」
京太郎「どうなることかと思いました…でも写真を既に撮られてしまっていて…」
???「お?これのことか?」
彼の手には一つの小さなメモリーカードが握られていた。
???「念のため、と思って抜いといたが、やっぱ撮られてたか、全く」
ピシッ
彼は手に持っていた物を片手で真っ二つに割った。
映画のワンシーンにもありそうな、やけに鮮やかな手つきであった。
男チャ「おーおー、女子は怖いねえ、十万点もあるのにどうして五万点も減るんだよ、普通に個人で打ってたら飛んでるじゃねーか、怖い怖い」
京太郎「優希…」
男チャ「ん?知り合いなのか、あのロリ女子と。かわいそうだねえ…もうあの子、泣きそうだよ」
相変らず音の無い画面を見てみると、普段からふざけ合い、軽口をたたきあっていた、快活な女の子、東場で強い女の子が縮こまっていた。
ただでさえ小さな身体を丸め、全身が震えている。
明らかに、いつもの彼女とは、何かが違っていた。
男チャ「あんな卓ぜってー入りたくねーな、全く」
京太郎「…がんばれ」
男チャ「見たとこ、にーちゃんはインハイには出場していないみたいだし…」
男チャ「にーちゃんはあのロリ女子の学校のマネージャー、と言ったところか?」
矢継ぎ早に繰り出される彼の話は、全く耳に入らなかった。
序盤に強い筈の彼女が、序盤で圧倒されている。
その残酷な事実は、冷たく、静かに首筋に突き付けられたナイフの如く、押し迫って来る。
真の王者には、どんな小細工も通用しない。
タコスパワーなんてちゃちな物は、通じるわけが無いのだ。
想像し難い絶望は、やがて頭の中を駆け巡り、そして抜けて行った。
本当のもの、を見ると人間は寧ろ冷静になるらしい。
無音のモニター越しに見ても、こんな有様であるから、魔人と卓を囲む、彼女はどれだけのプレッシャーを受けているのか。
全く、見当もつかない。
男チャ「おーい、大丈夫か?にーちゃん」
男チャ「にーちゃん、気持ちは分かるが、今はやめよう」
京太郎「…」
男チャ「なあ、まあ、とりあえず座ろう」
男チャ「ありゃ規格外だ、見ちゃいけねえよ、刺激が強過ぎる」
京太郎「大丈夫です…」
男チャ「大丈夫な訳あるかい、顔が真っ青だぞ?」
男チャ「素人なら、ほーん、強いな、で終わるところをにーちゃんは知ってるんだろ」
男チャ「女子の無茶苦茶麻雀を身近で暫く見てるとそうなるんだ」
男チャ「しかもマネージャー、やってるんだろ?」
京太郎「はい…」
男チャ「だったら尚更だ。あり得ない異能麻雀を見てるんだものな、力の差がわかっちまう」
男チャ「悪いことは言わねえ、とりあえず見るのをやめよう」
そう言うと、彼は自分の手を取って建物の外に連れ出した。
京太郎「でも俺は…」
男チャ「うるせえ、携帯貸せ」
京太郎「はい?」
男チャ「携帯を貸せ。それでお前んとこの部長に繋いでくれ」
戸惑ったが、彼の剣幕に押されて携帯を取り出し、部長を呼び出して渡した。
男チャ「おう、すまんな」
暫くして、部長が電話に出た。
男チャ「あー、すいません!部長さんですか!?はいはい、とりあえず要件を簡単に伝えさせて下さい」
男チャ「何でも、その須賀君、ですか?が廊下で倒れてたんですよ、はい、そんで自分が見つけて、ええ、そうです」
男チャ「とりあえず、意識はあるんで、電話を繋いでもらって、はい、ええ、今は寝かせていて、回復したら医務室に連れて行きますんで、はい、よろしくお願いします、はい」
男チャ「いえいえ、いや、まだ口はきけないみたいでして、はい」
男チャ「いえ、決勝戦、頑張って下さい、はい、はい、失礼します」
ガチャッ
男チャ「ほい、携帯返すぞ」
京太郎「何を話してたんですか?」
男チャ「須賀クン、出掛けるぞ」
京太郎「ええ?」
京太郎「でも、まだ決勝戦が…」
男チャ「夜までに戻ればいいだろ、行くぞ」
そう言うと彼は歩きだした。
先程の電話から察するに、今控え室に戻ったところで、逆に変に思われてしまうだろう。
携帯を渡してしまったことを、後悔した。
男チャ「おっしゃ、地下鉄乗るぞ、スイカ持ってるか?」
スイカ…は…あるぞ!
田舎、田舎と舐めないで頂きたい。ついに長野県でもスイカが使える様になったのだ。
そもそも、新宿から2時間の特急列車があるのだ、そこまで田舎では無いだろう。
男チャ「有楽町駅から乗るぞ」
男チャ「しっかし、地下鉄はいつになっても分かり辛いなあ」
???「来たぜぬるりと・・・っ」
?「御無礼」
?「アンタ背中が煤けてるぜ」
京太郎「ここは…」
ワイワイガヤガヤ
男チャ「ご存知、オタクの聖地、秋葉原でございます」
スピーカーからは甘ったるい声の歌が爆音で流れ、でかでかと卑猥な絵が飾られている。音に聞くオタクの聖地、秋葉原とはやはり一致したものの、やはり実際に見るのとでは全然スケールが違った。
ただ、道行く人の服装はイメージとは違い、わり合い普通な人が殆どだった。
隣にいた彼もジーンズにシンプルなTシャツをうまく着こなしていた。
ふと、自分を見てみる。
制服、白いワイシャツの夏服である。
こんな場所に、制服で来て大丈夫なのか?と思ってしまう。
しかし、問題は隣だ。
ついさっきまで、皆制服を着ていた、インハイの会場で、彼一人私服で闊歩していたのである。
決勝戦の時も、表彰式の時も、服はそのまま、Tシャツにジーンズ。
疑問には思った。
京太郎「服は…どうしましょうかね?」
男チャ「ああ、別に夏休みだしいいんじゃねえかな?制服も服だろ?裸で歩くより全然いいだろ」
京太郎「では…なぜ制服を着て…」
男チャ「ああ、ウチ、私服の学校だからね」
男チャ「だから一回は制服を着てみたいと言うかなんというか」
男チャ「服選びがいちいち面倒なんですわ、毎朝。なんでもいいとは思うけど、毎日同じ服着てると不潔でしょ?」
成る程、私服には私服の悩みがあるのか。
ちょっと感心してしまった。
男チャ「あまり気にしない方がいいぜ、よし、行こうか」
京太郎「はい」
ごちゃごちゃ考えるのも面倒なので、ついていくことにした。
男チャ「何とも言えんが、よい、須賀クン、麻雀を打つぞ」
麻雀?雀荘なんてそもそもこんな場所にあるのだろうか…
いや、それ以前に雀荘なぞ点の計算も出来ない初心者が行っても良い場所なのだろうか。
不安になって来た。
京太郎「でも俺、雀荘なんて」
男チャ「おいおい、俺は一回も雀荘に行くなんて言ってないぞ、いいから安心して来いや」
京太郎「はい…」
男チャ「ここだな」
ベタベタとアニメのポスターが貼られた雑居ビルの前で、彼は立ち止まった。
男チャ「ここ来るのも久々なんだが…」
男チャ「おっ、やってるやってる」
雑居ビルの階段を登り、丁度五階辺りであろうか、彼はそこの扉を開けた。
いらっしゃいませ!ご主人様!
メイドカフェ?
とにかく、壁はピンク、天井もピンク、床もピンク。
何より、店内に置かれた、幾つかの自動卓までピンクである。
卓は緑のイメージが強かったが…非常に目がチカチカする。
京太郎「なんですか?ここ」
男チャ「見ての通り、メイド喫茶よ」
男チャ「まあ、場末だがな」
???「ちょっと、場末とは失礼ね」
男チャ「ん、こんにちは、店長」
???「相変わらず口が悪いわね…」
???「色々聞きたいことはあるけど、ひとまず優勝おめでとう」
男チャ「はいはい、ありがとうごぜえます」
京太郎「メイドカフェにしては…色々」
男チャ「ああ、いや、麻雀も打てる喫茶店ってあるじゃない?アレだよアレ」
メイド服を着て接客なんて、染谷先輩のお店みたいだが…やはり本場は違うようだ。
何から何まで色々な意味で本格的である。
男チャ「うっし、打つぞ~」
男チャ「あっ、俺の隣の金髪君はまだ初心者らしいから、そこのとこ、宜しく」
店長「ちょっと、うちは麻雀教室じゃないから…」
男チャ「いいだろ?どうせ今日はインターハイ、それも華の団体戦決勝戦だぜ?」
男チャ「ここに来る様な客は今頃…」
彼はそう言って窓の外を顎で指し示した。
店長「んもー…しょうがないわね…じゃあ、お願い」
男チャ「ありがとざーす」
メイド1・メイド2「宜しくお願いします!ご主人様!」
京太郎「よ、よろしく…」
メイド服を着たかわいい女の子はあざとく微笑んだ。
所作の一つ一つにも品が漂っていて、まるで本物のメイドの様だった。
無理かも知れないが、来てしまったからには、ここで勝たなくては。
少し、気合いを入れた。
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男チャ「んー…アレだな」
メイド2「ここがこうなって…そうです!」
メイド1「ダメですよ~それじゃあチョンボになってしまいます~」
結論から言うと、まともに打てなかった。
そもそも、最初から、咲や部長に教えてもらいながら打っている様な状況だったのだ。
練習するタイミングも、快進撃を続ける麻雀部に於いては、なかなか無かった。
一応大会には出たものの、反則をしない様にするのが精一杯、東場だけであっという間にすっからかんである。
この一時間で、もう三回くらい飛んでしまった。
特典計算もダメダメ、自分の支払う点棒すらわからない有様であった。
これはひどい。
今はメイドさんの麻雀レクチャーを絶賛聴講中である。
しかし、恐ろしいものだ。
成る程、成る程、水がスポンジを吸う様にルールが分かって行く。
メイドさんパワー、ここにあり、といった所か。
うちの麻雀部はどちらかと言うと、見て盗め、が基本のスタイルだった様に思う。
だがその、見て盗め、のスタンスは時として悪く働くことがある。
何を盗めばいいのか、初心者にはまるでわからないのだ。
麻雀の定石、というものを結局半年もの間、覚えられなかった。
全く、ダメダメだった。
今では、このメイドさん達が一から全部教えてくれている。
しかし、この麻雀の定石というものを覚えれば覚えるほど、いかに女子の皆さんが異常な麻雀を打っていたか、より痛いほど感じてしまうのだ。
清澄の麻雀部の麻雀をずっと間近で見ていて、素人ながら決勝戦の他校の打ち筋に戦慄したのもそうだ。
しかし、やはり一度ルールを覚えると、また違う恐ろしさ、異常さに気がつく。
男チャ「驚いたろ、なあ」
男チャ「これが”普通”の麻雀なんだよな」
男チャ「おいおい、また顔が青くなってるぞ」
男チャ「メンタル弱いな…もう
男チャ「須賀クンの麻雀の捉え方は、ズレにズレまくってるな」
男チャ「どうして、一向聴から手を崩して、待ちの形を狭めてしまう?」
男チャ「どうして、必ず嶺上牌で開花できると思ってしまう?」
男チャ「いや、マジでそれ前提で手を進めてるからびっくりしたよ」
それは簡単だ、打ち方がこれしかわからないのだ。
自分なりに少しずつやり方を盗んで麻雀は覚えているつもりだった。
ところが、自分が必死で覚えたやり方が、根本からズレていたことに改めて気付かされた。
男チャ「とりあえず、デジタル雀士はどの学校一人くらいいそうなもんだけどな」
男チャ「ん…須賀クンは確か長野県代表の清澄高校だったよな?」
男チャ「ちょっと麻雀年鑑見てみろよ」
メイド1「ええ!清澄高校ってあの原村さんがいる高校じゃないですか!」
メイド2「一年にして、早くも高校麻雀におけるデジタル雀士界隈では一、二の実力を争うとも言われてる人ですよね…」
メイド1「驚きましたよ!須賀さん?でしたっけ、今度またお店に来る機会があったらサイン貰って来て下さいよ!」
メイド2「ちょっと、お客様に失礼よ」
メイド1「あっ、…すみません。つい」
男チャ「驚いたよなあ、全く」
男チャ「いやあ、デジタル雀士の権化みたいな人が同じ学校にいるじゃないか須賀クン」
男チャ「変なオカルトじゃなくて、まずはその原村さんに教わったら良かったのに」
男チャ「ひとまず、基本を突き詰めたのがデジタル雀士だからな、基本を学ぶのならデジタル雀士に学んだ方がいいぞ」
男チャ「いや、俺みたいなのが変なお節介を働く必要は無かったな、すまんすまん」
男チャ「悪かったな、無理に連れ出して」
京太郎「いえ、ありがとうございます。俺を連れ出してくれて」
男チャ「いや、普通にめちゃめちゃいい環境じゃねーか」
京太郎「でも、今のままでは俺は多分一生このままでした」
京太郎「なんというか、ドツボにはまっていたんです」
京太郎「無意識に、力も無いくせにオカルト麻雀をいつの間にか志向していたと言うかなんというか」
京太郎「身の丈に合った麻雀と言うものが出来てませんでした」
京太郎「やっと、スタートラインに立てたんです」
男チャ「いや、だから原村さん…」
京太郎「彼女とはとても麻雀を教えて貰える様な仲ではありません」
京太郎「非常に険悪です。主に俺の所為ですが」
京太郎「だから、オカルトに縋るしか無かった、という感じですかね」
男チャ「ううむ…確かに原村さん、ナイスバディだもんな」
男チャ「その辺は聞かねえよ、長くなりそうな予感するし」
男チャ「しかし本当でけえな、それに引き換え…」
店長「うるせえな!こっち見んな!」
男チャ「あれ~、俺お客様なんだけどなあ~、いけないな~」
メイド1「スケベですね」
メイド2「最低です」
男チャ「ちょ、メイド2ちゃんはフォローしてくれないの?」
メイド2「デリケートな問題です。セクハラで出入り禁止にも出来ますよ?」
男チャ「あい、すみません」
店長「よろしい」
男チャ「うぐっ、はいはいすみませんすみません」
店長「はいは一回だ!ボケナス!」
男チャ「ひでえな、こりゃ」
京太郎「今日はありがとうございました。皆さん本当に麻雀が上手くて驚きました」
メイド1「いえ、ありがとうございました、ご主人様!」
男チャ「そりゃあ上手いよ、現役女子高校生雀士なんだから」
メイド1「むむっ、それは言わない約束ですよ?」
メイド2「他にお客がいないからいいものの…そういう割り切りが出来ない人もいらっしゃるので余りそういうことは」
京太郎「へえ~、やっぱり東京都大会に出場していたりするんですか?」
メイド2「はい、私達は西東京ブロックですかね」
メイド1「部品が少ないからバイトしてるんだよ私達は~」
京太郎「っとと、安心してください、俺は大丈夫ですよ」
メイド2「なら良かったです…」
メイド1「なんかこないだも大変だったですからね~」
京太郎「しかし西東京ってあの…」
メイド2「そうですね…」
メイド1「毎度毎度ひどいですね、あれは」
京太郎「大正義ですもんね」
メイド2「私達の学校もそれなりに強かったんですけどね…」
メイド1「今では部員がバイトしなくちゃ成り立たない有様ですよ~」
メイド1「うちの学校、バイト禁止なんですけどね」
京太郎「黙認…ってことですか」
メイド2「学校としても、伝統ある麻雀部が無くなるのはまずいみたいですしね」
メイド1「でも、お金がなくちゃ、やってけないです」
メイド2「だからバイトしてるんですよ?」
京太郎「大変ですね…」
男チャ「おいおい、須賀クン。一つ言っておくけどあの二人も無茶苦茶強いからね?」
男チャ「今は接待モードだけど普通にやれば普通に負けちまうんだよ、不思議なことに」
男チャ「やんなっちゃうぜ」
京太郎「やっぱり、そうですか」
京太郎「あいつら、大丈夫かな…」
メイド2「決勝戦出場、おめでとうございます」
京太郎「いえ、ありがとうございます」
メイド1「長野も、あの天江衣ちゃんに勝ったんだから、やれるはずだよ」
京太郎「応援、ありがとうございます」
店長「いや、無理かな…」
男チャ「おい、空気読めよ店長」
店長「でも…これ見てよ」
そう言うと、店長は小型テレビを俺たちの方に向け、音量を上げた
福与アナ「圧倒的ぃーーー!!!王者白糸台、四位に七万点もの差をつけたーーーー!!!!」
福与アナ「これが、これが、宮永照の力なのかーーーーー!!!??」
小鍛治プロ「いや、正直これは引きますよ…」
福与アナ「人間50年…下天のうちも、とは言いますが経験豊富な小鍛治プロもやっぱり見たことが無いですか?!」
小鍛治プロ「アラサーだよ!?」
店長「相変わらず漫才やってるね…」
嘘だ。あの優希が。
前半戦だけであの点差とは…
ぐぐぐぐっと現実に引き戻された。
ふざけるな、化け物め。
男チャ「んん~…やっぱすげえわあのロリっ娘」
店長「確かに…どうなってんの?」
凄い?
全然凄く無いだろう、負けに負けているじゃないか。
凄いのは宮永照だろう。
引くとかいくらなんでも学生大会の解説の発言としてどうなんですかね…
思わず、口に出した。
京太郎「凄い?」
京太郎「優希は…」
男チャ「いや、凄いよ」
男チャ「そのロリっ娘、優希ちゃんか、は普通にもっと点差がつくか、飛んでると思ってたんだ」
男チャ「トバない、ってアビリティも無いみたいだし、どうやったらあそこまで踏みとどまれるんだよ」
店長「あの女の子は典型的な攻撃タイプ…それも速攻の」
店長「速く、鋭く突き出される矛はそれだけ軽く、脆いもんでしょ?」
店長「矛が折れた時点で負けは確定しているのよ」
男チャ「店長も、矛が折れちゃったタイプだよな」
店長「ナチュラルにトラウマを抉りやがって…」
店長「とにかく、通用しなかった時点でもう積んでるのよ」
男チャ「じゃあ、トバないにはどうすればいいか…」
店長「簡単よ、折れた矛で殴り続ければいいのよ」
店長「私は、それが出来なかったけど」
>>74
すみません、まだ解説は続いてる、ということにしてください
あと誤字訂正
積んでる→詰んでる
男チャ「まあ、重い話はここまでにして、もう一局、打ってみるか?東だけ」
京太郎「はい!」
男チャ「(あ、接待モードでよろしく)」
京太郎「必要ないです、接待モードは」
男チャ「聞こえるのねえ…」
京太郎「よろしくお願いします!」
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結論から言おう。
また、ボロ負けである。
打ち方を知らなかったさっきより、負けるとはこれいかに。
手応えはあった様に思う。
例えば、目隠しされて殴られるのと、正面から堂々と殴られるのでは、色々感じ方も違うだろう。
とにかく、彼女達は強かった。
越えられない、大きな壁に阻まれたかの様だった。
自分と彼女達の違いは何だ。
配牌、ツモ運、どうしようもない所で水を開けられている。
分からなかった。
男チャ「いや~負けちゃったよ、強いなあ二人とも」
メイド1「まあ、こんなもんでしょね~」
メイド2「しかし良かったのでしょうか?」
男チャ「いいのいいの、ちゃんと理解した上で飛ぶのが一番肝心だから」
店長「本当にコロっと負けるわね、お前は」
男チャ「ええ?麻雀なんてそんなもんでしょう?野球と同じで3割取れれば一流なんだから」
店長「確かに普通に楽しむ上ではそうだがな…」
男チャ「高校時代のイチローみたいな奴らがゴロゴロいるから感覚が狂っちゃうんだよ、須賀クンみたいにね」
男チャ「でも、今は違うよな?須賀クン」
男チャ「んじゃ、そろそろ失礼しますね」
店長「今度はいつ来るのよ」
男チャ「おおっ、店長寂しい?寂しいの?」
店長「アホ、さっさと行け」
男チャ「須賀クン、行こうか」
心の中で、何かが少し、噛み合いながら回り始めたような感じがした。
ここに来たばかりの時より、明らかに何かが違って、スッキリした。
京太郎「はい、ありがとうございました」
店長「また東京に来る機会があったら打ちに来なよ、いつでも歓迎するわよ」
店長「”来年”も来なさいよね」
京太郎「…はい」
メイド1・メイド2「行ってらっしゃいませ、ご主人様!」
男チャ「じゃあな~」
京太郎「さっきの人は…」
結局聞く機会が無かったので、質問してみた。
男チャ「ああ、俺の師匠その1」
男チャ「一応、その3まであるからな~」
男チャ「なんなら、次は2人目の師匠んとこに連れてくよ」
男チャ「あ、もう会場にかえる?」
まだまだ、聞きたいことは沢山ある。彼の話も、彼の師匠の話も。
京太郎「いえ、会わせて下さい、2人目に」
男チャ「了解、そんじゃいくぞ」
~とある雀荘~
???「やあ、しばらく」
雀荘主「ああ!先生!お久しぶりです!」
雀荘主「いや~、相変わらず冴えてましたねえ~、解説が」
???「やや、こんなフガフガ声じゃあ、いけないでしょう?」
???「ん~、今日は本当に良かった良かった」
???「いつもの頼んだ」
雀荘主「いいんですか?医者に飲酒は控えるようにって、言われてたような…」
???「なに、二ヶ月ぶりだよ」
???「今日はお祝いだ、少し飲ませてくれ」
雀荘主「確かに今日は…そうですね、確かに…」
雀荘主「はい、お待たせしました、ハイボールです。缶ですが」
???「やや、ありがとう」
京太郎「次は、どこへ行くんですか?」
男チャ「んん、次は普通の雀荘に行くよ」
男チャ「大分、慣れただろ?東風戦1回だけやるつもりが、3回もやったからな」
男チャ「あれじゃあ、半荘やった方が良かったな」
京太郎「すみません…」
勝っても負けても悔しい、とか嬉しい、と言った感情が起こらなかった頃と比べると、とても楽しい麻雀で、ついついやり過ぎてしまった。
ボロ負けを喫しても、どうして負けたのか、原因を考えることが出来る様になった。
結局は、なんかよく分からない力が働いて負けた、という結論にはなったが。
男チャ「すまん、ちょっと電話かけるな」
京太郎「ええ、どうぞ」
プルルル
男チャ「おおっ、先生?お久しぶりです!」
男チャ「んむむ、すみません、なかなか連絡出来なくて…」
男チャ「体の方は大丈夫ですか?」
男チャ「あっ、また飲んでますね、ダメって言われてたじゃないですか…」
男チャ「お祝いだって…いや、正直勝っても余り…ねえ」
男チャ「立場上祝わなくちゃいけない?」
男チャ「それ、ただ飲みたいだけじゃないですか」
男チャ「分かりましたよ、どうせいつもの雀荘にいますよね?」
男チャ「あれ、そっちですか?はい、分かりました。あと30分でそちらに着くのでよろしくお願いします」
男チャ「何しろ半年ぶりですからね、いえ、楽しみにしています」
ガチャッ
男チャ「須賀クン、逆だ、逆」
男チャ「こっちの電車に乗るぞ」
京太郎「は、はい」
男チャ「ややこしいなあ、全く」
京太郎「さっき話してた、先生って…」
男チャ「ああ、須賀クンも多分知ってる人だよ」
男チャ「麻雀日本男子プロ連盟、元会長の大嶋プロ」
男チャ「常に潰れかけの、日本の男子プロをたった一人で40年間守って来た、偉人、と言ってもいい人かな」
男チャ「若い頃は、色々やってたみたいだけどね…」
京太郎「いや…分かりませんでした」
男チャ「あれ、それなりに知名度はあると思ったんだけどな、麻雀以外でもギャンブル界隈じゃ有名だし」
京太郎「すみません」
男チャ「謝る必要はないさ、うん」
京太郎「でも…どれだけ凄いんですか?」
男チャ「ん~、そりゃあすごいよ」
男チャ「だって、女子プロに参戦した、男子プロの中で、唯一2シーズン以上通用した人だからね」
男チャ「最終的には、派手に負けて撤退したけど、全盛期の10年はすごかったんだぜ?」
男チャ「女子プロ相手に、役満をアガったりしてたし」
男チャ「もう、俺が生まれる前の話だけど、何度その時のビデオみても飽きないよ」
男チャ「擦り切れる程見たなあ…」
今度の人は、彼の憧れの人なのか。
おまけに男子プロ界のレジェンドと来た。
なんだか、緊張して来る。
男チャ「ああ、あまり緊張しなくてもいいぜ」
男チャ「色々と修羅場くぐってるらしいけど、基本は優しい人だからね」
安心出来るわけがないだろう。
何だ、その修羅場とは。
男チャ「さて、ここか」
電車を乗り継ぎ、雑然とした駅前通りの裏路地に、彼は入って行った。
怪しい、これは怪しい。
男チャ「別に誰も襲って来たりしないから、安心しろって」
自分の挙動不審な行動を怪しんだのか、すぐに彼はフォローを入れた。
汚い裏路地をまた暫く進むと、煤けた扉があった。
隣には、インターフォンがあり、彼は迷わずそこを押した。
男チャ「こんにちは!先生いますか!?」
男チャ「はい、ありがとうございます!入ります」
そう彼がインターフォンに告げた瞬間、扉の方から、かちゃり、と金属音がした。
男チャ「よし、入れるぞ」
鍵を付けているのは、何か中でいかがわしいことが行われているのだろうか…
前に漫画で見た、血液を賭けた麻雀を思い出し、寒気がした。
京太郎「あのう…大丈夫なんでしょうか?鍵、付いてましたよ…」
男チャ「おいおい、今日はこの雀荘、休みってだけだよ」
男チャ「変なことを想像してもらっちゃ困る」
中に入ると、2人の老人が、自動卓に座っていた。
薄暗い、ひんやりとした空間に、仄かにウイスキーの香りが漂っている。
大嶋プロ「やや、友達を連れて来るなんて聞いて無かったぞ。お前にもようやくそういう仲の人間が出来たか…よかったよかった」
男チャ「いやいや友達は他にもちゃんといますよ…」
男チャ「先生、紹介しますよ、俺の隣にいるのは、須賀クン。女子団体戦で絶賛闘牌中の、長野県代表、清澄高校のマネージャーです」
大嶋プロ「ああ、あの快進撃を見せている清澄高校の…またすごい人と友達になったな」
京太郎「よろしくお願いします!」
大嶋プロ「元気いっぱいじゃないか、いいことだ」
その老人はくるりとこちらを向くと、微笑んだ。
何処かで見たことがある。顔に見覚えがあった。
大嶋プロ「ついさっきまで、男子個人戦の解説をやっていたからな、疲れた疲れた」
やはり、あのモニターで見たフガフガ声の解説の人だったか、実際に見てみると、老人ながら鋭い眼光を放ち、背筋もピンと伸びた偉丈夫だった。
雀荘主「インターハイの女子団体戦か、丁度、時間的に次鋒戦が終わった所だな…」
そう言ったもう一人の老人は、部屋の隅にあった古ぼけたテレビをつけた。
雀荘主「むむ…これは…」
決勝戦の次鋒戦までの順位
トビは無し
一位:安価↓2
二位:安価↓3
三位:安価↓4
四位:安価↓5
決勝戦は、清澄、白糸台、臨海、阿知賀の四校で戦っています。
一位:阿知賀
二位:臨海
三位:白糸台
四位:清澄
ですね
今日はここまでです
プルルル
男チャ「あっ、すみません」
男チャ「はい。あっ、それマジ?あっ、うん、うん、分かった」
男チャ「こりゃあ、失敬、急いで向かいます」
ガチャ
京太郎「どうしたんですか?」
男チャ「急用が出来た。すぐ戻るから、ちょっと先生と三麻してて」
大嶋プロ「おいおい、何処行くんだ?」
男チャ「ちょっと言えないとこ」
男チャ「失礼!」
京太郎「行っちゃった…」
雀荘主「いきなりいなくなるとはひどいな」
京太郎「はい…」
大嶋プロ「まあ、とりあえず打ってみようか、三麻用の卓もあったな?確か」
雀荘主「はい、確かこの辺に…あったあった」
雀荘主「買ったのはいいんですが、東京じゃ三麻の営業が出来ないんですよね」
雀荘主「それぞれの卓でやってもらうのもいいんですが、わざわざ雀荘に三麻を打ちにくる人もそうそうおらんでしょう?」
大嶋プロ「確かにな…だが三麻は麻雀の勉強には最適だ」
大嶋プロ「関西の方に行けば、三麻専門の雀荘まであるくらいだ」
なるほど、それは初耳だった。
プロ、それもレジェンド相手に打つのは緊張したが、思ったよりもフレンドリーに接してくれるのはありがたかった。
大嶋プロ「それじゃあ、リャンシバナシナシでいいかな?」
京太郎「はい、お願いします。確か三麻はチーは無しですよね」
大嶋プロ「ああ、間違えない様にな」
京太郎「でも、一翻ではなく、二翻ないとダメなんですね…」
大嶋プロ「幺九牌の比率が高いからな、一翻だと寝ててもアガれてしまう」
京太郎「成る程…つまりそれだけ一回ごとの点数移動が多くなるんですね」
大嶋プロ「その通り、では始めるか」
京太郎「よろしくお願いします!」
雀荘主「宜しくな」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
負けました。
流石レジェンド、アガれないアガれない。
ちょっと気を抜いたらすぐに振り込んでしまう。
手牌や安牌もめまぐるしく変わり、何が何だかわかりゃしない。
頭の中がぐちゃぐちゃである。
せっかく覚えた、麻雀のイロハをまるで生かせなかった。
大嶋プロ「ははは、やはり最初は難しいな」
京太郎「全く、手も足も出ませんでした」
雀荘主「筋はいいんだけどねえ…ちゃんと毎日麻雀見てるでしょう」
大嶋プロ「やはり、な」
京太郎「…?」
大嶋プロ「まず聞くが、最終的に君はどのくらいまで強くなりたい?」
大嶋プロ「いや、なんでもない、すまなかったな」
大嶋プロ「もう一回打とうか」
どのくらい強くなるか。
点数計算の間違いやチョンボをしないようになる?不用意に振り込まないようになる?それとも男子のインターハイで優勝する?
どれも自分の目標ではあるが、いまいちだ。
願いは単純。
この半年で開いた、咲達の差を少しでも埋めたい、彼女達の練習相手になるくらい、せめてそれくらいは強くなりたい。
結局、自分には麻雀しかないのだ。
中学時代から積み立てて来たものを捨てた、自分にはそれしか残されていない。
先に挙げた願いは、全て彼女達の差を埋める努力の過程で生み出されるべきものである。
また暫く打った。
四局くらい打って、やっと、自分に正直になれた。
大嶋プロは、強い。
努力、努力をすれば大嶋プロの様に女子にも通用するんじゃないか。
話を聞いてみたくなった。
京太郎「強くなりたいです」
京太郎「女子にも勝てるように、強くなるには、どうすればいいんですか?」
京太郎「大嶋プロは…どのようにして、女子プロと…」
大嶋プロ「…」
大嶋プロ「私から一回もアガれない様じゃ、女子には勝てないな」
大嶋プロ「まずは私相手に、アガってみたまえ。そうしたら、ヒントを教えないでもない」
正論だ。
彼女達は、普通に麻雀を打っても強いのだ。
自分の力量は、その普通にも達していない。
当たって砕けろ、まずは一回。
あれ?
これは…え?
待て待て、まだ自分は一回もツモっていないし、鳴いてもいない。
地和?
今手に持っている牌はアガリ牌である。
京太郎「地和…です」
雀荘主「ほほう…」
大嶋プロ「すごいな…」
雀荘主「いやいや、久しぶりに見たよ、三麻だが」
京太郎「それで…どうして大嶋プロは…」
大嶋プロ「うん、ズバリ、運だ」
京太郎「はい?」
大嶋プロ「運だよ。今君が地和をアガったのと同じ様に、私も運で勝ち上がったのだ」
大嶋プロ「私よりも打ち回しのうまい奴なんていくらでもいたさ。だが私だけ勝った」
おいおい。
いくらなんでもあんまりだろう。
運?そんなことは知っている。
その運をこちらに引き寄せる為にはどうすればいいのか、それが聞きたかったのだ。
京太郎「ですが…俺は大嶋プロから一度もアガれませんでした」
大嶋プロ「人事を尽くして天命を待つ、という言葉を知ってるかね?」
京太郎「はい…」
自分は、ずっとスポーツをやって来たから、その言葉の意味をきちんと理解しているつもりだ。
確かに運が勝負を分けることがあっても、不断の努力がなければ、運すらつかめない。
つかむ資格は無い、という言葉だ。
努力し、信ずれば必ず報われる。
そう認識している。
大嶋プロ「恐らく、勝負事には運が絡むことがあっても、研鑽を積まねば運すら掴めない、と考えているだろう」
大嶋プロ「いつか報われる、とも思っている」
大嶋プロ「しかしだな、須賀君」
大嶋プロ「彼女達は、その天命すら簡単に捻じ曲げて自分のものとしてしまうのだよ」
京太郎「…」
大嶋プロ「まるで努力する我々を嘲笑うかの様にな」
大嶋プロ「残酷かもしれないが、私は本当に幸せ者なんだよ」
大嶋プロ「そんな世界で私は麻雀を打つことが出来た」
幸せ者?
満足しているのか?彼は、過去に、現状に。
だとしたら失望した。彼に。
大嶋プロ「だが、一つ忘れちゃいけないことがある」
大嶋プロ「君は天命云々のレベルにはまだ全然達していないということだ
京太郎「…はい」
大嶋プロ「さて、打つぞ。とりあえず私が、君に雀荘の常連クラスまで打てるように指導しよう」
大嶋プロ「付き合ってくれるかな?」
雀荘主「しかたないですねえ…やっぱり先生にはかないませんよ」
しれっと二回アガってるじゃないか、雀荘主さん。
京太郎「はい…お願いします」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
実況「決まったーーーーーー!!!!!」
実況「優勝は、>>127高校ーーーー!!!!」
雀荘主「…ん?」
京太郎「どうしました?耳…補聴器?」
雀荘主「いや、ネットラジオを聞いていてね」
大嶋プロ「私が誕生日に贈った奴だよ。Bluetooth内蔵の優れ物だ」
京太郎「詳しいんですね…」
大嶋プロ「私はスマホもPCも使えるぞ。なんなら今度私のブログでも覗いてみるんだな」
雀荘主「決まった…みたいですね先生」
大嶋プロ「ほう」
京太郎「えっ…」
気が付いたら、周りは薄暗くなっていた。
信じられない様だが、もう半日もそこにいたのだ。
麻雀で時間を忘れたのは、後にも先にも今が初めてだった。
大嶋プロ「やはり…>>127高校だったか」
安価です
清澄
白糸台
阿知賀
臨海
のどれかを安価でお願いします
清澄
京太郎「それは…本当ですか?」
雀荘主「ああ、なんならテレビをつけてみるか」
ポチッ
本当だった。
彼女達は、自らの手で、女子麻雀日本一の座を勝ち取っていたのである。
歓喜の輪が広がり、アナウンサーの白熱した声が聞こえてくる。
あの場に自分がいなくてもいいのだろうか、戻らなくては、とは思ったが…
京太郎「打ちましょう、もう一局」
大嶋プロ「いいのかね?タクシーで会場まで送らせるが…」
京太郎「あと一局、お願いします」
雀荘主「じゃあ、とりあえず呼んでおくよ、タクシー」
雀荘主「もしもし…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
京太郎「ところで…あの人は…」
大嶋プロ「あいつか?いつもあんな調子だからなあ…」
大嶋プロ「でも、寂しいな、何故か」
京太郎「…?」
大嶋プロ「いや、あいつも、やめるつもりみたいだしな」
京太郎「そんな!どうして…?」
大嶋プロ「運が無いから、だそうだ」
京太郎「ですが…」
大嶋プロ「そっちの方がいい。普通に、勉強して真っ当な大人になった方がずっといい」
大嶋プロ「だが、君を連れて来たことが、せめてもの罪滅ぼしだったのかもしれないな」
大嶋プロ「思えば、もう10年か…長かったな」
京太郎「そんな頃から…」
大嶋プロ「まあ、麻雀なんていつでも打てるからあまり気にはしていないよ」
大嶋プロ「年寄りの楽しみが、一つ増えたと思えばいいさ」
大嶋プロ「ほら、ロンだ」
京太郎「あっ…」
雀荘主「終わりにしますか…」
雀荘主「そろそろ迎えが来たようですし」
大嶋プロ「そうだな…それと最後に」
大嶋プロ「これを…」
麻雀牌?
いや、牌だけ…?
大嶋プロ「まずは牌の扱い方を練習したまえ、一々たどたどしくてかなわんからな」
大嶋プロ「これは私のメールアドレスだ。聞きたいことがあったらなんでも連絡するんだ」
京太郎「…ありがとうございます!練習…します」
京太郎「それで…あの、男チャさんにお礼を…」
大嶋プロ「ああ、しっかり伝えておこう」
京太郎「ありがとうございます…それではまた…」
大嶋プロ「達者でな」
雀荘主「また来てくれよ」
京太郎「はい!あ…タクシー代は…」
大嶋プロ「細かいことは気にするな、私が後で払っておく」
京太郎「すみません…」
雀荘主「楽しかったな。また来てくれな」
京太郎「はい!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
雀荘主「先生も人が悪いですなあ…何がメールアドレスですか」
雀荘主「牌も…あの子が使っていたやつじゃないですか」
大嶋プロ「欲、だろうな」
大嶋プロ「私の様な男子プロが少しでも出て来て欲しい、叶わぬ願いであってもな」
雀荘主「男チャ君は、どうなりましたかな?」
大嶋プロ「彼は麻雀以外にも自分の世界を持っているし、見つけられる筈だ」
大嶋プロ「人生を麻雀で棒に振る様なバカな真似はしないさ」
雀荘主「ひどいですなあ、私も先生も人生を棒に振った、ってことですか」
大嶋プロ「下手な鉄砲も数打てば当たる、人口は多い筈だから男子プロにも何人か…な」
雀荘主「まずは鉄砲を揃えるところから始めなきゃいけませんね」
大嶋プロ「まあ、ぼちぼちやろう。私も君ももう年だ」
雀荘主「そうですね…だから身体をいたわらなきゃいけないですよ先生、酒は控えて下さいよ」
大嶋プロ「やぶ蛇だったか、じゃあ、もう少し昔話をして行くとするか」
雀荘主「何しろ久しぶりにいらっしゃいましたしね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
早く帰らなくては。
このままでは、大事な決勝戦の日に1日体調を崩して寝込んでいる、無能マネージャーの出来上がりだ。
最も実際、寝込むどころが無断外出など、無能以前の問題だが。
今日1日、色々な出会いがあった。
自分はどうするべきか。
麻雀の世界は広がった。その広い世界でどう振る舞うか。
まずはそこからだ。
京太郎「あと、どれぐらいで到着しますかね?」
運転手「あと5分くらいかな~、兄ちゃん、インハイ関係者?」
京太郎「まあ、そんなところですかね」
運転手「今日の決勝戦はすごかったな~」
京太郎「男子ですか?」
運転手「いや女子女子、いや~、あの大将バケモンだろ、うん」
運転手「ラジオで聞いてたら、カン!リンシャンカイホー!って…爽快だったぜあれは」
京太郎「運転手さんは麻雀をやるんですか?」
運転手「全然!素人だよ!」
京太郎「そうでしたか…」
京太郎「ちょっと、電話いいですか?」
運転手「どうぞ」
プルルル
ガチャッ
京太郎「もしもし、部長ですか?」
京太郎「なんとか復活しました、はい」
京太郎「インタビューで忙しいから後で?」
京太郎「ついでに…はい、買い物ですね。はい、買うものは…はい、メールで」
京太郎「わかりま(ry
ブチッ
よし、一応部長には連絡は取れた。
後は買い出しをしなくては…
この辺に安い店ってあったっけ?
検索検索…
運転手「着きましたよ」
京太郎「あ、はい、ありがとうございます」
運転手「まいどあり」
ふう。
インターハイの会場は、昼とはまた違った表情を見せていた。
夏の強烈な日差しがギラギラの降り注ぎ、壁や天井にふんだんに貼られたガラスに跳ね返っていた昼と比べ、夜は幾らか落ち着いた様子である。
ビル街や車のヘッドライトの光が柔らかく辺りを照らしていた。
ひとまず、買い物である。
スマホを頼りに、近くの激安スーパーに出掛けた。
誤字
×ギラギラの降り注ぎ→○ギラギラと降り注ぎ
ティッシュ…歯ブラシ粉…このくらい買えばいいだろうか。
後はタコスの道具…さすがは花の都大東京のスーパーである。品揃えがいい。
京太郎「ふう、買い物終わり」
やはり、荷物の量が多くなった。
お金はギリギリ足りた。東京の物価は、確かに長野よりも格段に高く、財布に正確な右ストレートを食らわせた。
買い物を済ませ、一旦荷物を咲達のホテルに置いて会場に戻ることにした。
会場に着いた。
中に誰かいるかな?
誰もいない。
真っ暗である。
しかし、正面玄関には、『優勝セレモニー/地下ホール』の文字が掲げられていた。
とりあえず電話をかけて…
出ない。
しょうがないので、咲達に買った物をホテルに置いて来た旨を伝えるため、エレベーターに乗って地下へ行くことにした。
やはり、やっていた。
煌びやかな装飾が少し眩しい扉の中から、マイクで拡声された男のボソボソとした声が聞こえて来る。
しかし、その厚ぼったい両開きの扉は、来るもの全てを拒むかの様に固く閉じられていた。
扉の前には清潔感溢れる白いテーブルクロスがかけられた、受付卓が二つ置かれていた。
ご丁寧にも中央に置かれていた『受付』の案内表示には麻雀牌があしらわれている。
ふかふかの赤いカーペットを踏みしめて、受付に立つ、テーブルクロスにも負けないくらいのすっきりした背広を来た係員に近づいた。
係員「すみません、パスをお持ちでしょうか?」
ああ、パスか。
確か控え室から出る時に使って…
制服のポケットに入れっぱなしだったか。
折れていないか心配したが、大丈夫なようだった。
京太郎「これでいいでしょうか?」
係員「ああ…清澄高校の…優勝おめでとうございます」
京太郎「いえ、ありがとうございます」
何を言ってるんだ。
自分は大会で牌の一つも触っていないでは無いか。
東京に来てから、一番触ったものと言えば、精々タコス用のトルティーヤくらいである。
係員「会長の総評が終わるまで、暫くここで待って頂けないでしょうか?」
京太郎「あ、はい」
係員「終われば、立食パーティーが始まりますので…」
京太郎「分かりました」
係員「しかし、すごい逆転でしたね」
京太郎「はい?」
係員「決勝戦ですよ。あれだけの点差、5万点ですか?正直、驚きですよ。私なら…無理でしょうね」
京太郎「貴女も麻雀を?」
係員「女子高生雀士の端くれですよ。まあ、地方大会止りでしたが」
京太郎「なるほど…それで高麻連に?」
係員「はい、恥ずかしながら麻雀にもまだ未練がありましてね…」
京太郎「わかります…俺も」
係員「あっ」
京太郎「はい?」
係員「終わったみたいです。どうぞ」
京太郎「はあ…ありがとうございます」
ガチャリ
中はかなり広かった。
立食、とは聞いていたが、食欲をそそる匂いが辺りに漂っている。
連れ出されたきり、朝から何も食べていなかったので今すぐ目の前の料理にかぶり付きたい衝動に駆られたが、流石にそれは我慢して、清澄高校の面々を探すことにした。
食欲は、時として理性を何処かへ飛ばしてしまう。
現に今会場に運び込まれた骨付き肉など、肉汁がじゅわりと染み出ており、美味しそうである。
人間の三大欲望、恐るべし。
それと同時に、周りも9割女子である。
料理の匂いが支配するホールに、僅かに混ざる女の子の匂いである。
何をいってるんだ、俺。
憧「シズ!和を見た?」
穏乃「飲み物を取りに行ったみたい」
憧「全く!和ったら…」
和?
いや、助かった。
さっきから何処にもいないのだ。
早く見つけて自分も飯にありつきたい。
お腹がすいた。
ひとまず和の名前を出した、彼女達に話しかけてみる。
京太郎「あの…すみません」
憧「はい?」
穏乃「誰ですか?」
穏乃「男の人…?」
京太郎「清澄高校の者ですが…」
憧「ああ!和の学校の人ね!」
穏乃「何だあ、びっくりした」
京太郎「それで…和さん達はどこにいるか探しているのですが…」
憧「清澄高校なら、あっちにいるわよ」
穏乃「私たちが案内するよ!」
京太郎「決勝戦は…すごかったですね」
憧「まあ、優勝は出来なかったけどね~」
穏乃「惜しくも>>154位…悔しいけどなあ…」
憧「シズが一番頑張ってたじゃない。それに比べてあたしは…」
京太郎「全国の決勝戦ですよ?すごいじゃないですか」
阿知賀は何位だった?
2位3位4位のどれかでお願いします。
最下位位
憧「来年!来年こそ!」
穏乃「だけど…先輩たちは…」
憧「悔しいけど、仕方ないわ」
憧「シズは、悪くない。じわじわと失点をした、あたしが…」
やり難い。実にやり難い。
最下位、というと聞こえは悪いが、全国の女子高生の頂点に位置する卓である。
そこに辿り着いた時点で、十分誇れるじゃないか、誇れ、奢れ、威張り散らしてやれ。
待て待て、底辺根性丸出しじゃないか。
自分よりずっと麻雀が強く、向上心があって、いい意味で意識の高い彼女達と自分を対比するのは、まだ無理がある。
まずは自分が出来ることから、日々コツコツ練習だ。
そうすれば、もしかしたら、自分もあの老人の様に、運が掴めるかもしれない。
万が一の可能性に賭ける、わくわくして来た。
久「あら、須賀君、大丈夫だった?」
まこ「よくなったか?」
やっと部長に会えた。
彼女達に案内を頼まなければ、こうすんなり見つからなかっただろう。
まずは事務連絡…
京太郎「何とか。申し訳ありませんでした」
まこ「災難じゃったのう」
久「びっくりしたわよ、いきなり変な人が私の携帯に電話を掛けて来るんだもの」
まこ「なーにがびっくり、じゃ。1万点も稼ぎおって」
久「ええ、このくらいで動揺するようじゃ、清澄高校麻雀部部長は務まらないわよ」
まこ「相変わらずじゃのう」
京太郎「それを聞いて安心しました」
まこ「おいおい、お前さん、ワシは随分と胆冷やしたんじゃよ?」
久「前半戦は酷かったものね」
まこ「部員が1人ぶっ倒れたんじゃ。心配もするじゃろ」
京太郎「すみませんでした…」
まこ「ええ、ええ、元気そうで何よりじゃ」
優希「京太郎!モグモグ…心配したじぇ!」
優希「全く、犬のクセに大事な時にぶっ倒れるとは、使えない犬だじぇ!」
優希?
大丈夫…なのか?
あれだけボコボコにされたのに…全く、いつもと…
京太郎「ああ、ホテルに帰ったらタコス作ってやるから、あまり食い過ぎるなよ」
優希「タコスは別腹だじぇ!」
なんだ、いつもの優希じゃないか。
安心した。
京太郎「ああ、部長、買い物は全部ホテルに置いてあります」
久「ありがとね、須賀くん」
久「さあ~今日はお祝いよ!」
ああ、めでたい、めでたい。
さて、何から食べようかな…?
優希「…どうしてだじぇ」
優希「…」
ん?
京太郎「どうした?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
憧「あの人?和の言ってた…」
穏乃「うん、でも、全然そんな人には見えなかったけど…」
憧「どうせお堅い和のことだから…」
穏乃「でもね…」
穏乃「正直、普通の人だとは思うよ?私は」
憧「うん、そうだね…」
穏乃「あっ、やっと話が終わった」
憧「本当?」
憧「おーい!ハルエー!」
心なしか、苦しそうである。
京太郎「どうした?食べ過ぎで具合が悪くなったか?」
すると、突然、彼女は目から大粒の涙を溢れさせた。
優希「情けないじぇ…」
京太郎「情けないって…」
優希「自覚しているじぇ、先鋒の役目をまるで果たしていなかった事ぐらい」
京太郎「おいおい、あんな化け物、よく持ち堪えたよ」
優希「マイナスだじぇ…自分だけ」
励ましの言葉は見つからなかった。
さっきまで、見上げることすらできない遥かな高みで戦いを繰り広げていた1人の女の子に、自分が何を言えるのだろうか。
京太郎「元気出せよ、ほら、な?」
京太郎「ゆーきは頑張った。また来年も頑張ればいいじゃんか」
優希「この面子での勝負は一度きりだじぇ…そこで、勝ちたかったんだじぇ」
成る程…今年の全国大会決勝、先鋒戦はもうこれっきりである。
一期一会の勝負は取り返しがつかない。負けた時のモヤモヤと一生付き合って行くしかないのだ。
淡「おーい!ユーキ!早く来なよ!タコスがあるよー!」
淡「…?何で泣いてるの?まさか…そこの男に泣かされたの!?」
淡「この金髪不良男め!ユーキをいじめるな!」
そういうお前も立派な金の御髪をお持ちじゃないか。
誰だ、ああ、白糸台の大将だったか。
確か一年生だったけ。
京太郎「誤解ですよ…」
淡「嘘つくな!不良め!どうやってここに来た?答えろ!」
京太郎「ゆーきと同じ学校の者ですよ…一年の」
淡「呼び捨て?馴れ馴れしい!」
馴れ馴れしいのはお前だ。
菫「おい淡、いい加減にしないか」
うるさい、うるさい。あんまり騒ぐなよ…
うわあ、白糸台の部長さんまで来ちゃったよ…
淡「だってスミレ!ユーキが泣いてるの!」
菫「だからってなあ…」
優希「淡ちゃんは優しいじぇ、でも、勝手に自分で泣いただけだじぇ、犬は関係ないじぇ」
淡「むむっ、本当に?」
優希「本当だじぇ」
菫「つまり、そういうことだ。すみません、うちのが迷惑をかけて…」
京太郎「いえいえ、個性的な人が沢山いて楽しそうですね」
菫「褒め言葉とは受け取らないでおく…」
苦労してるんだなあ…この人も…
つか、犬って呼称がこいつらの中では一般化してんのか。
なんか嫌だなあ。
菫「んん…照は…ああ、まだ妹さんと」
見ると、どうやら咲は自らの姉と和解を果たした様だった。
ハッピーエンドは悪くないじゃないか。
晴れやかな顔をしている。
あんな顔をした幼馴染を見るのは初めてだ。
京太郎「良かったですね…あの二人も」
菫「やっと、普通の姉妹に戻れた様な感じがするな」
全国大会で繰り広げられた、最強姉妹の和解の物語。
まるで、出来過ぎの三流漫画やアニメを見てる様な気分だ。
菫「さて、私はこのバカを連れて帰るとするよ」
淡「バカとは何よ!」
菫「大バカだ。見ず知らずの人に喧嘩をふっかけて」
京太郎「いえいえ、気にしてないですよ」
淡「おい、そこの不良!邪魔が入ったけど、次はとっちめてやるわ!」
淡「名前は!?」
京太郎「須賀、です。清澄高校一年の」
淡「スガ!覚えておくわ…」
忘れてくれ。一刻も早く忘れてくれ。
何故名乗った、俺のバカ…
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ふう、食った食った。
ご馳走をたらふく腹に詰め込んでやった。
まとめ食いは太る、なんて話も聞いたことはあるが、気にしない気にしない。まだ高校生である。
トイレに行ったら少しスッキリした。
手を洗い、トイレから出た。
ん?メールだ。部長からか。
先にホテルに帰る、か。
今日は休んでいい?いや、タコスを作る約束をしていた。
その旨を連絡して…
今話題の歩きスマホである。
ドカッ
>>170「きゃっ…」
>>171「大丈夫?」
京太郎「ああっ…すみません!」
団体戦に出ていた誰かでお願いします
揺杏
シロ
やばい、誰かとぶつかってしまった…
歩きスマホはやはり危険だった。
京太郎「あのう…怪我はありませんか?」
照「歩きスマホは危ない。須賀君」
京太郎「…!!!!」
嘘だろ?
いや、嘘じゃなかった。
目の前に立っているあれは…
京太郎「ああ…うああ…」
さっき用を足したはずなのに、また尿意がこみ上げて来た。
京太郎「すみませんでした!すみませんでした!」
土の下(カーペットが敷かれているが)に座る。見事なDOGEZAだ。
それ以前に、腰が抜けていたので、座り込んだその場で頭を下げるしか無かったのだ。
すみません、安価を間違えました…
シロはこの後出すので、ひとまずこのまま進めてもよろしいでしょうか…?
申し訳ありませんでした。
揺杏「ちょっと、謝るのはこっちの方じゃないの?」
京太郎「あうっ…」
揺杏「ビビり過ぎじゃね?」
揺杏「面白いね、君、何年?どこの学校?」
京太郎「すみませんでした…」
揺杏「教えてくれないと、返してあげないよ?」
京太郎「うう…」
揺杏「早く」
京太郎「清澄高校一年の…須賀です」
揺杏「はあ、清澄の男のマネージャーさん?ふうん、須賀、ねえ」
揺杏「一応言っとかなきゃね、優勝、おめでとう」
京太郎「ありがとうございます」
揺杏「君は打ってないでしょ」
京太郎「あ…」
揺杏「やっぱ君面白いね」
照「あまりいじめるのはよくない」
揺杏「はいはい、分かりました、チャンピオン様」
照「チャンピオンは妹。私はもう違う」
揺杏「団体戦でちょっと負けただけじゃないですか…まだ個人戦残ってますし」
揺杏「(めんどくせー)」
京太郎「ところで…照さんはどうして?」
揺杏「ああ、トイレから出て来たら、なんか迷ってるみたいだったからね」
京太郎「似るもんですね…姉妹で」
揺杏「どっちも化け物ってことには変わりないけど」
揺杏「あと、いい加減立ったら?」
京太郎「あっ」
揺杏「君のことは覚えておくよ。それじゃあ、宮永さん、行きましょう」
照「うん」
照「須賀君」
なんだ、急に。
京太郎「なんですか?」
照「咲を…ありがとう。私はずっと…」
京太郎「…」
揺杏「ほら、行きますよ、白糸台の皆さんを待たせているんですよね?」
照「うん」
京太郎「それでは、また」
照「色々聞かせて、咲のこと」
京太郎「はい」
結局、自分は床に座ったまま会話していた。
情けないな、全く。
膝を払って、ゆっくり立ち上がった。
今は、夜9時半ぐらいだろうか、門限は確か10時までだったから、急いでホテルに戻らなくてはいけない。
自動ドアから、外に出るとコンクリートジャングルが昼間に溜め込んだ熱が暖めた空気が、むあっと肌に触れる。
長野は夜になると、涼しい風が吹き込み、火照った身体を冷やしてくれるが、東京は昼も夜も容赦が無かった。
そのまま、歩道を歩く。
眠らない街はまだまだ夜はこれからとばかりにあちこちを光らせている。
少し、喉が渇いた。
塩辛いご馳走を沢山食べたせいか、この暑さのせいか、喉の奥はカラカラになっている。
パスの入っていたポケットとは逆のポケットでは小銭がチャリチャリ自分を使え、と主張している。
ひとまず、自動販売機を探す。
小さな公園があった。
都会のオアシス、とも取れるだろう、緑地がビル街にポツンとある様子は、まさしくそれだ。
その公園の奥まった場所に、お目当ての自動販売機があった。
小銭を入れ、ゴトリと缶にはいった飲み物が出て来る。
プルタブを起こし、中の液体を流し込んだ。
近くにベンチがあったので、少し腰を下ろすことにした。
???「ダル…」
変な塊がベンチに乗っかっている。
白い。
人、なのだろうか。
つついてみても、微動だにしない。
京太郎「あの~、大丈夫でしょうか?」
???「ダル…」
顔をこちらに向けた。
女子、か?
この公園は、会場からも近い。大会に出ていたのだろうか?
京太郎「インターハイの関係者ですか?」
シロ「…宮守女子…3年…シロ」
京太郎「ああ、二回戦の時の…」
京太郎「というか、そろそろ戻らないと!門限ですよ…」
京太郎「行きましょう!宿舎は何処ですか?」
シロ「ダル…」
京太郎「う、動かない」
京太郎「だ、誰か…」
>>185「あかん!こんな時間までブラブラしてもうた…」
>>186「早う帰らんとな」
人物安価は関西限定(ウエストジャパンリミット)でお願いします。
ゆーこ
ネキ
あれは…確か姫松高校!
洋榎「あんたら食い過ぎや…」
絹恵「せやかて、こんなご馳走久しぶりやお姉ちゃん」
由子「美味しかったのよー」
漫「うっぷ…」
洋榎「吐いたらあかんで…」
漫「は、はい」
京太郎「あのっ、すみません!」
恭子「何や?」
京太郎「清澄の須賀、と申しますが、少し力を貸して頂けないでしょうか?」
恭子「清澄…?あっ…」
洋榎「あっ」
恭子「うう~…」
洋榎「あかんて、あかん」
由子「いかんでしょー」
京太郎「?」
京太郎「とりあえず、こっちに…」
絹恵「わかったわ、お姉ちゃん行ってあげよ」
洋榎「うん…」
京太郎「あっちで人が…」
京太郎「確か、宮守女子の…」
恭子「あれ?タンマの人やん」
洋榎「ああ、あのダルそうな毛玉か」
絹恵「毛玉って…」
京太郎「ずっと、倒れてるんです」
洋榎「倒れてるというか…あれは動かないだけや」
京太郎「門限め近いんで俺が運ぼうと思ったんですが…」
由子「そーゆーわけにもいかんしねー」
京太郎「なんとか、出来ませんか?」
洋榎「うーん…」
洋榎「絹!」
絹恵「何?」
洋榎「おぶってったれ、宮守の人を。鍛えてたから平気やろ」
絹恵「ええ~…お姉ちゃん、そりゃ無茶や」
洋榎「いけるやろ、おぶったれおぶったれ」
恭子「確か、宮守の宿舎はここから近かった筈や」
恭子「清澄と、うちらの宿舎も近いから、丁度良いわ、これも何かの縁やしな」
洋榎「歯ぁガチガチいうとるで」
恭子「うう…」
由子「あれー?この人、なんか様子がおかしいのー」
恭子「せやかて…ん?」
恭子「やばい!この子軽い熱中症起こしとる!」
恭子「絹ちゃん!急いで運んだれ!」
絹恵「は、はい!」
恭子「漫ちゃんはそこの自販でスポドリ買って!あと、濡れタオル!水道でハンカチ濡らして来てや!」
漫「はい!」
シロ「」プシュー
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豊音「あ、ありがとうございました!」
洋榎「ええ、ええ。それよりシロちゃんは?」
シロ「…何とか」
洋榎「大事にならなくて良かったわ…」
恭子「ありがとな、二人とも」
漫「はい!」
絹恵「それで…他の方々は…」
豊音「みんな、シロを探しに行ったよー」
京太郎「とりあえず、豊音さんが預かっていたケータイで、連絡はつきました」
豊音「ごめんねー…私がケータイ使えないばっかりに…」
洋榎「じゃあ何で留守番役なんや?」
豊音「私も迷子になっちゃうからだよー」
恭子「ミイラ取りがミイラに…って奴やな」
漫「ああ、来ましたよ!」
洋榎「良かったわ~、やっぱり人助けはええな」
由子「なにもしてないけどねー」
洋榎「やかましいわ!」
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結局、あの後また姫松と宮守女子のご歴々につかまった。
姫松のお姉さんの方の話を切り上げられず、ついつい残ってしまった。
おかげで、熱帯夜の東京を、ホテルまで全力疾走する羽目になった。
入り口封鎖まであと一分という綱渡りである。
汗がダクダクと溢れ、目の前が霞んで見える。
ありゃ。
>>193「大丈夫ですか…?なんだかフラフラして…」
人物安価です
個人戦団体戦問わず全国大会出場者限定で
はお
むむむむ…
はっ…
いけない、意識が飛んでいた。
ハオ「あの…汗だくみたいですが…」
京太郎「ああ、ちょっと走って来たもので…」
ハオ「お水、飲みますか?」
京太郎「いえ、というかそれは…」
ハオ「はい、私がさっき買って来たものです」
ハオ「お水はまた買えばいいです。それより早く…」
京太郎「すみません…」
ゴクリ
命の水である。
頭の中で、髭に火縄を編み込んだ大海賊と、望みのものを見つけるコンパスを持った一匹狼の海賊がサーベルで戦っている。
京太郎「い、生き返る…」
ハオ「500mlが一瞬で…」
京太郎「ああっ、すみません、お金は…」
確かさっき自販機で飲み物を買った時のお金がまだ残っていた筈である。
ハオ「結構です。まだお金、あるんで」
京太郎「いや、でも…」
京太郎「とりあえず受け取って下さい…110円ですかね?」
ハオ「だから…あくまで私があなたにあげた、んですからお金を渡す必要はないです」
ハオ「いりません…」
このままでは自分の気がすまない。
いきなり目の前に走り込んで来た汗だくでフラフラしている人を見たら、誰だって水を渡したくなるだろう。
京太郎「でも…」
智葉「おい、遅いな、そろそろ就寝時間だぞ」
ハオ「すぐに行く」
ハオ「じゃあ、そういうことで。須賀くん」
京太郎「え?なんで俺の名前を…」
ハオ「そこにパスが落ちてた。じゃあね、清澄高校一年須賀京太郎君」
京太郎「ええ~?」
あ、パス拾わなきゃ。
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京太郎「部長!須賀です!」
久「今日は休んでって言わなかった?」
京太郎「いえ、タコス作りに来ました」
京太郎「というかメールしましたよね?」
優希「約束したじょ、作ってくれるって」
京太郎「つかあれだけ食ってまだ食うのか?」
優希「犬のタコスは別腹だじぇ!」
久「じゃあ入って」
まこ「もう10時過ぎじゃぞ…今から食べるのか…」
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京太郎「おっしゃ、出来たぞ」
優希「ありがたく頂くじぇ!」
ムシャムシャ
京太郎「おかわりもあるからな~」
優希「…!!…!」
ダメだ、タコスに夢中だ。
まこ「にしても、やけに来るのが遅かったのう」
京太郎「ああ、途中色々あったんで…」
京太郎「というか残りの一年2人は何処行っちゃったんですか?」
久「ああ、個人戦の研究がしたいってことで別室の自動卓へ行ったわ」
まこ「24時間解放とは便利じゃのう」
久「流石にそこまで使い倒す学校はウチくらいだと思うけどね」
京太郎「いや、改めて…」
まこ「なんじゃい、改まって」
京太郎「優勝、おめでとうございます」
久「正直今でも信じられないわ…」
まこ「この半年?いや、もっと短いか、あっという間じゃったのう」
久「さしずめ、私はセミといったところかしら」
まこ「短い命じゃな」
久「麻雀部を次世代に繋げることができただけで万々歳よ」
久「きっと来年は入部希望者で溢れかえるわね」
京太郎「いや…うん…そうですね」
優希「いただきました!美味しかったじぇ!」
京太郎「あれだけ作ったのに、もう食い終わったのか…」
優希「朝飯前だじぇ!」
京太郎「寧ろ夜食だろ」
まこ「はっはっは!」
まこ「わしらの戦いはここまでじゃ、次は一年の出番じゃのう」
久「何やり切った感じ出してるのよ、まだ来年があるじゃない」
まこ「じゃがのう…正直ワシが部長ってイマイチ実感が湧かんのじゃ」
久「そんなもの慣れよ、慣れ。部長らしく振る舞えば部長になれるわよ。次なる目標は連覇よ」
まこ「よく分からんのう…」
京太郎「あのう…」
まこ「どうした?」
京太郎「今から…打ちませんか?」
いきなり何を言い出すんだ、俺は。
今から打つって…
ただ、何と無く口が動いてしまった。
今日一日、学んだことを試してみたいという気持ちが強かったのだろうか。
気が付くともう一度口を開いていた。
京太郎「お願いします!」
優希「ええ?」
京太郎「24時間空いてるんですよね?」
久「もう11時近いわよ…」
まこ「何か観戦してて得たもんがあったのか?幸いにも明日は移動&休養日じゃし、半荘一回ぐらいなら考えんでもないぞ、なあ?」
久「むむ…眠いけど…いいわ、かわいい部員が頼みだもの、聞いてあげなくっちゃ」
久「それにこの9日間、倒れるくらいまで色々頑張ってくれたし」
優希「分かった、じゃあいくじぇ!」
まこ「決まりじゃな」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
蛍光灯の光が、広い会議室を照らしていた。
しかし、目を引くのはやはり一面に並べられた自動卓である。
しかしその多くは空席だった。
まこ「ガラガラじゃのう、何処に座ろうか」
久「端っこでいいわね」
優希「はいだじぇ」
>>204「ああ、まだ人が…」
>>205「いますね」
人物安価です
個人戦、団体戦問わず全国大会出場者でお願いします。
明華
ハオ
安価が取れた所で、今日はここまでです。
続きは明日でお願いします。
ゆっくりな更新ですみません。
京太郎「あっ、さっきの…」
京太郎「就寝時間じゃ無かったんですか?
ハオ「須賀くんじゃないですか」
優希「し、知り合いだったのか?り、臨海の人と…」
まこ「ああ…どうも」
ハオ「サトハに外出許可もらって来ました。まだ、打ち足りなかったので」
明華「ハオも熱心ですね」
ハオ「明華だってついて来てるじゃないですか」
まこ「やべえよ…やべえよ…」
ハオ「あっ…」
どうやらあの2人は互いが互いにトラウマを抱えているらしい。
準決勝でやられたまこ先輩に、決勝で役満を振り込んだハオさん?だっけな。
ハオ「緑…緑…」
明華「あっ、どうせなら私達と打ちませんか?」
うそん。
無理に決まってるじゃ無いか、だって、団体戦>>213位のチームと打つとか…
臨海は何位だった?
2位、3位のどちらかでお願いします。
2
久「ふんふん…いいわね…」
久「優希!須賀くん!一緒に打ってもらいなさい」
優希「えー!?」
京太郎「…」
知る、ということは大切だ。
現時点でピラミッドの最底辺にいる自分が、頂点を知るのも悪くない。
たった今話していた同じ学校の3人も勿論頂点にいることには変わりないが、それは頂点の卓に座っていた20人の内の3人でしかない。
京太郎「…分かりました」
優希「しょ、正気か犬?今やってもボコボコのメタメタにされるだけだじぇ…」
京太郎「お願いします」
優希「え~…」
久「その心意気や良し!ボコボコにされて来なさい!」
まこ「(中国麻雀の打ち筋を研究するいいチャンスじゃけえ…まあ、東場持ってくれれば見れるな)」
久「まこは?」
まこ「ワシゃあ、見てるだけで十分じゃけえ」
明華「それじゃあ、お願いしますね」
京太郎「お願いします」
ハオ「お願いします」
明華「お願いします」
優希「お願いするじぇ!」
優希は当然の如く東家からスタートである。
5巡目。
優希「まずはリーチ!だじぇ!」
ハオ「速いですねえ…」
ここまでは大丈夫だ。
優希は二筒を捨てた。一筒は場に2枚。
安牌の概念を知ったことで、安心して牌を捨てることが出来た。ところが…
優希「それ、ロンだじぇ!」
京太郎「はあ?」
自分は二筒を捨てた…のだが。
優希「リーチ一発、一通にドラが二つ乗って12000だじぇ!」
京太郎「何で二筒を捨てたんだ?」
優希「一通の待ちの形を崩したくなかったからだじぇ」
久「私の専売特許かしらね」
ハオ「相変わらず、東場はすごいのですね…」
彼女達に安牌だの何だのというセオリーは通じない。
誰だってあれは振り込んでしまうだろう。
まこ「こりゃあ、事故みたいなもんじゃな」
本当に、その通りである。
間違えました
一筒は場に二枚→二筒は場に二枚
間違えてる~
正しくはこうでしたすみません。
京太郎「お願いします」
ハオ「お願いします」
明華「お願いします」
優希「お願いするじぇ!」
優希は当然の如く東家からスタートである。
5巡目。
優希「まずはリーチ!だじぇ!」
ハオ「速いですねえ…」
ここまでは大丈夫だ。
優希は一筒を捨てた。一筒は場に3枚。二筒も場に3枚。
彼女の少ない捨て牌から見て順子ならば、恐らく上の方、最低でも二筒は安全だろう。
ところが…
優希「それ、ロンだじぇ!」
京太郎「はあ?」
自分は二筒を捨てた…のだが。
優希「リーチ一発、一通にドラが二つ乗って12000だじぇ!」
京太郎「何で一筒を捨てたんだ?」
優希「一通の待ちの形を崩したくなかったからだじぇ」
ハオ「相変わらず、東場はすごいのですね…」
彼女達に安牌だの何だのというセオリーは通じない。
誰だってあれは振り込んでしまうだろう。
まこ「こりゃあ、事故みたいなもんじゃな」
本当に、その通りである。
このSSまとめへのコメント
その展開で次峰時点で白糸台1位じゃないところまで読んで終了
安価にするなら2-4位だけにするか最初の描写いらんかった
もっと読みたかったなぁ……