春香「皿の上のケーキが美味しそうに見えます」 (12)

食べないというのが約束でした。

皿の上に乗ったケーキを、私はただ眺めていました。

美味しそうだなぁ…
食べたいなぁ…

そんなことを考えて、ただひたすらにじっとケーキを眺めるのです。


そうしていると、部屋のドアが開いて、千早ちゃんが中に入ってきました。


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「本当に眺めてるだけなのね。春香のことだから食べてるかと思った」

「なーにそれ、ひどい」

千早ちゃんは楽しそうな顔でケーキを眺見て、ニコッと笑います。

「私…こういうの滅多に食べないから、とっても楽しみにしてた。今すぐにでも食べたいところね」

「えー…食べないの?」

「もう少し見た目を楽しむのよ」

ケーキを眺める千早ちゃんの姿は、まるでやよいのようでした。

今、私失礼なことを考えたでしょうか

仕方がないので、私ももう見飽きたケーキをまたじっと眺めるのでした。

見れば見るほど食べたくなるのですが、
千早ちゃんが楽しみにしてたというならそうはいきません。

ケーキは我慢しよう、と自分の胸の内に言い聞かせます。

すると、ふいに千早ちゃんが言うのでした。


「……少しなら分けてもいいわよ」

「えっ、いいの…千早ちゃん」

「えぇ…春香にはいつも感謝してるから」

「千早ちゃん…」

私は目頭が熱くなりました。
千早ちゃんの手を握り、名前をそっと呼びます。

千早ちゃんは優しく微笑み、私を見つめるのです。


私はなんて幸せ者なのでしょう。
こうして私にケーキを分けてくれる友達がいるのです。

千早ちゃんの顔を見つめていると、
不意にその顔が無表情になりました。





「でも、トランプで私に勝ってからよ」

「…………えっ」

千早ちゃんはそっと私の前にケースを置きました。

「大富豪…それともババ抜きがいいかしら。 それくらいしか分からないわ」

ブツブツと喋りながら、ババ抜きにするわ、という声が聞こえてきます。

……
……………
トランプをすることになってるぅー


そう、私の頭の中で何かが叫びました。

「どういうこと、千早ちゃん! 何で急にトランプをするの!?」

「うふふ…面白いわよね、トランプ」

千早ちゃんは嬉しそうにニコニコと笑います。

私の頭は疑問だらけでした。

千早ちゃんがトランプをするのを私は見たことがありませんでした。

いつも歌のことを考えていて、こういう遊びに夢中になるのは想像が付きません。

トランプというものに関わるきっかけでもあったのでしょうか。

カードを配る千早ちゃんを見ながら、私は考えます。

「さぁ…ケーキを掛けてババ抜きよ」

うきうき気分の千早ちゃんを見てると、なんだが悲しくなってきました。

そして、思ってはいけないことを、私は考えます。

……もしかして、ケーキを分けるというのは、トランプをする為の口実?


私と千早ちゃんの友情では無かったのでしょうか。

何があったのか分かりませんが、取り敢えず千早ちゃんとトランプをしないと話が進まないようです。

別の意味で目頭が熱くなりながらも、私は頷きました。

「いいよ、ババ抜きやろう」

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