勇者「二重人格」 (41)

 城下町を歩いていると、噂話がよく聞こえる。
情報収集によく使える場所だ。ただし、たまに嘘もまじっているので要注意。


「なあ、知っているか?三代目勇者様の噂。」


 ああ、また”俺達”の噂話か、とテンションが落ちてくる。
自分が変なのなんて、自分でよく分かっている。


「ああ、なんでも独り言と奇行の多いうつけものだそうだ」


「全く……二代目様も大変な息子を持って、不幸だよなあ」


     ( だってさ、噂の勇者サマ )


勇者「うるせえ……お前もだろうが」


 そいつが語りかけてくる。俺の中のもう一人の俺。
顔も、名前も、姿も知らない。だけど、性格も、美点も、汚点も良く知っている。
幼い頃からの俺の友達。もう一人の勇者。

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     ( 次は何処に行く? )


勇者「あぁー……そうだなあ、ここはもう行ったしなあ……」


     ( んー、魔王城への最短ルートは…… )


 「ねえ、ホラ見て……噂の勇者様。また一人でブツブツと喋ってるわよ……」


 「怖いわねえ。アレのせいで、仲間が一人も出来なくて一人旅なんでしょう?」



勇者(……うるさい、人の気も知らないで)


      ( …………ごめんね、ボクのせいで )


勇者「いや、気にスンナよ。俺は慣れたから」


 俺は、言葉を発しないとこいつと意思疎通が出来ない。だから、俺は何時も変人扱いされていた。
 こいつが表に出てきた事は一度しかない。昔々の一度だけ、それはこいつが初めて現れた日。
俺がお父さまの大切な指輪を何処かに無くして、泣いて、泣いて、謎の病魔に襲われて倒れた次の日。
俺はその日の記憶がない、こいつはその日から生まれた。
なんでも、その日の俺はやんちゃな何時もと違って、とても理知的で不思議な雰囲気だったとか。


 ――俺と、こいつは似てるようで違う。俺と、こいつは同じ身体・別々の精神に生まれた。
誰にも理解されず、誰からも疎まれ、両親にすら嫌われ、魔王を倒しに今日も往く。


 「ゆうしゃさぁ~ん!!!ちょおっと待ってくださいよよぉ!」


 ――あぁ、そうだ、三人ほど例外がいたんだっけか。


     ( ほら君、僧侶ちゃんが来たよ。いい加減、その怖い顔をやめたらどうだい? )


勇者「ん、何のようだ?」


僧侶「どうもこうも!せっかくパーティに誘ったのに……どうして断ったんですか!魔法使いちゃんから聞きましたよ!」


勇者「ていうがよ、そのパーティ魔法使いとお前以外は知らない人だらけじゃないか……」


僧侶「そうです!これも全て、勇者様のコミュニケーション障害克服の為の……」


      ( ……ふふっ、相も変わらず愛されてるじゃないか。勇者。)



勇者「……余計なお世話だね。」


 何かと俺に構ってくる厄介者がなんと、この世に三人も居る。困ったことだ。
一人目は良い子ちゃんでお嬢様の”僧侶”。どうやら俺に構う事で、自分の人を助けたいという欲求を満たしているらしい。いい迷惑だ。
二人目は僧侶の友人で俺を嫌っている”魔法使い”。何かと僧侶と一緒に居る俺をとてもとても嫌っている。一回後頭部目掛けて石投げてきた。運良く回避できた。
三人目は俺と同じ嫌われ者の”戦士”。自分と同じ孤独な人間だと勘違いしたこいつは同性愛者の如く俺に迫ってくる。気持ち悪い。


僧侶「……知ってます。」


      ( あらら、失言しちゃったねえ。キミ。)


僧侶「偽善者でも大馬鹿者でも好きに言ったらいいです。」


僧侶「それでも、私は勇者様を助けたいんです。」


勇者「意味わかんねぇよ。」


僧侶「……」


勇者「……」


 見詰めあう。こうやって改めて僧侶をよく視ると、彼女の美しさがわかる。
身長の低さに似合わぬ豊満な胸。風に揺らされながら輝く、黄金色の髪。
何故こんな絶世の美少女が俺のようなうつけに構うのか。本当に理解できない。



 ――静寂を一つの叫び声が破る。


        「勇者あああああ覚悟おおおおお!!!!!!!!!!!」


 後ろを振り返ると、街中にも関わらず火炎魔法をぶっ放す常識外れの黒髪ゴスロリ。
通称”魔法使い”。溢れ出る殺気で、どれだけ俺を殺したいかがよく分かる。
クレイジーサイコレズめ、いつかどさくさに紛れて殺してやる。


        ( 詠唱が無いから、恐らく範囲はそれ程じゃあない。斬撃一回で消せるよ。 )


勇者「把握した。」


 相棒のサポートを瞬時に聴き取り、素早く剣を抜き、構える。
そして、此方に向かってくるファイアボール目掛けてジャンプ。剣で真っ二つに裂く。
俺の使う剣はお父さまから授かった、常識外の”魔法を斬るちから”を持った勇者専用の聖剣。
俺に斬れない魔法は無いのだ……と自負している。

 ―― 一瞬の静寂が止み、拍手喝采が始まる。さっきまで俺の噂話をしていたあいつ等も関心したかのように、
良い笑顔で拍手をする。俺ではなく、俺の剣への賛辞の言葉。俺に対する上っ面だけのお世辞がよく聞こえる。


 「すげえ!流石勇者様だぜえ!」「何だあの剣、すげえ!」「あれが噂の勇者様かあ、凄いお人だあ!」


魔法使い「悔しいぃ!何なのよあんたのその剣!バカなんじゃないの!」


勇者「お前次この剣馬鹿にしたらその服真っ二つに裂くから。」


魔法使い「変態![ピーーー]!!!」


僧侶「流石勇者様です!魔法使いちゃんの不意打ちをいともたやすく……凄い!」


戦士「ふっ……俺様の認めた男だ。これぐらいじゃあないとな。」


勇者「どっから出てきたお前。」



          ( やっぱり勇者は凄いね。 )



勇者「それ程じゃあないし、お前もやろうとすれば出来るだろ……それにお前のサポートがあってこその……」


僧侶「勇者様の独り言がまた始まった。不治の病ですねえ。」


魔法使い「気持ちわるっ」


戦士「ふっ、契約をしていない者にはわかるまい。やはり奴こそ俺様のマイベストフレンド……いや、唯一無二の相棒よ。」


勇者「いや別に契約をしているとかそういうわけじゃあ無いぞ。うん。」


戦士「何ぃ!?素でそれならドン引きなんだが……」



           ( 戦士君ってすごくマイペースだよね。 )



          ( やっぱり勇者は凄いね。 )



勇者「それ程じゃあないし、お前もやろうとすれば出来るだろ……それにお前のサポートがあってこその……」


僧侶「勇者様の独り言がまた始まった。不治の病ですねえ。」


魔法使い「気持ちわるっ」


戦士「ふっ、契約をしていない者にはわかるまい。やはり奴こそ俺様のマイベストフレンド……いや、唯一無二の相棒よ。」


勇者「いや別に契約をしているとかそういうわけじゃあ無いぞ。うん。」




勇者「いや、何ていうか、こう…………いや、お前等に話すような事じゃないな。」


戦士「隠さなくて良いんだぞ勇者。俺とお前は相棒なんだからな。うん。」


僧侶「何か悩み事があったら言ってくださいね。私、何時でも受け付けていますから。」


魔法使い「あんた、僧侶に迷惑かけたらマジ[ピーーー]からね。」


 何かと優しくしてくる戦士と僧侶が嫌いだ。どう接して良いか分からなくなるから。
何かと俺に構ってくる魔法使いが嫌いだ。たまに見せてくる此奴の優しい一面は、見ていると心に違和感を感じるから

 ――俺はこいつらが嫌いだ。


勇者「神に誓ってお前等なんかには絶対に話さないから安心しておけ。」


 そうして俺は、その場から速やかに去って行った。














戦士「何ぃ!?素でそれならドン引きなんだが……」



           ( 戦士君ってすごくマイペースだよね。 )

―――コピペが変な事になってました。訂正






勇者「いや、何ていうか、こう…………いや、お前等に話すような事じゃないな。」


戦士「隠さなくて良いんだぞ勇者。俺とお前は相棒なんだからな。うん。」


僧侶「何か悩み事があったら言ってくださいね。私、何時でも受け付けていますから。」


魔法使い「あんた、僧侶に迷惑かけたらマジ[ピーーー]からね。」


 何かと優しくしてくる戦士と僧侶が嫌いだ。どう接して良いか分からなくなるから。
何かと俺に構ってくる魔法使いが嫌いだ。たまに見せてくる此奴の優しい一面は、見ていると心に違和感を感じるから

 ――俺はこいつらが嫌いだ。


勇者「神に誓ってお前等なんかには絶対に話さないから安心しておけ。」


 そうして俺は、その場から速やかに去って行った。
















           ( 相談、しなくて良かったのかい? )


 草原で適当に魔物を狩って暇を潰していると、あいつが語りかけてきた。
返答内容を考えながら、的確に急所を狙い、剣で突く。


勇者「良いんだよ、どうせ誰も理解してくれない。」


 まだ幼い時、お父さまにこいつの事を話したことがある。
結果、魔物か何かの魔法と思われ、専門の呪術師や国家所属の賢者を何人も呼ばれ、身体中と心の中を詳細に調べられた。
結果、分かったのは”一つの体に二つの魂が存在する奇病”を抱えているという事。
自らの息子が、否、”才能に溢れた次期勇者候補”が奇病を抱えている事を知った俺のお父さまは落胆し、俺に辛く当たるようになった。
それでも、俺は努力して何とか勇者として認めて貰えるようになった。お父さまから剣を譲っていただいた。

 ――お父さまは汚らわしい者を嫌う。お父さまは社会に適合しない者を嫌う。お父さまは異常なほどに潔癖症だ。俺と同じ病人だ。
ああ、胸が痛む。ここち良い痛みだ。


           ( それで、良いのかなあ…… )



勇者「お前まで、俺の行動を認めないのか?」


 剣を握る力が強くなる。狙いが定まらなくなる。怒りは、毒だ。
冷静になれ。


           ( ごめん…… )


 何も言葉が出ない。謝るなよ……
俺がまるで、惨めじゃないか。俺がまるで、子供みたいじゃないか。


勇者「ああ、クソ。今日はもう寝るぞ。明日は魔女の森に行くぞ。」


 そう言って俺は魔物の死体から剣を引き抜き、服についた土埃をはらう。
全く、今日は厄日だ。良い事が無い。

















書き溜めが尽きた。即行時間かかりすぎて無理だな……という事で本日は以上で。
続きはまた明日やらさせていただきます。


メール欄にsaga入れて

>>12
以後気を付けます。すみませんでした。




勇者「で、何でお前等が居るんだよ!」


 魔女の森の前で、冒険用の道具一式を揃えた僧侶、魔法使い、戦士に向かって叫ぶ。


僧侶「あはは……来ちゃいました。」


魔法使い「僧侶ちゃんが心配だから来た。」


戦士「ふっ、俺とお前は何時も一心同体。そうだろ?相棒。」


           ( 魔法使いちゃん以外のは答えになってない気がする…… )


勇者「はあ、お前等どうせ言っても聞かないだろうし。行くぞ。」


僧侶「おー、今日は素直ですねえ!」


勇者「呆れてんだよ……」


魔法使い「ていうか、魔女の森って名前の癖にただの荒野ってどういう事なのこのダンジョン。」


勇者「あー、それはなあ……」


 約200年前、当時国を治めていた国王は魔法を恐れ、使える者達を迫害していた。
ここは、昔迫害された達が暮らしていた森だった場所。迫害された者達の末路を示す場所。


勇者「……なーんかあってこうなったんだとさ。」


魔法使い「ふーん、何か歯切れの悪い言い方ね。」


           ( ふふっ、やっぱり君は優しい人だね。 )


勇者「うるせえ!!!!!」


魔法使い「何急にキレてんのよ、気持ちわるっ!」


戦士「おい皆、遊んでる暇はどうやら無いようだぞ。」


 時に、死んだ人間が強い憎しみを持っていた時、その魂が物に宿り、魔物化する時がある。
ここは、魔王の城に近い事もあり、特に魔物が多く棲息する場所。

 ――大量の魔物の軍勢が迫る。


勇者「おうおうおう、大勢着やがりやがったなあ!」



僧侶「小型の魔物ばかりですが、かなりの量です。ご注意ください」


 勇者が剣を抜いたのを見て、戦士も大剣を構える。
魔法使いが詠唱を唱え始め、僧侶も回復の準備は出来ているようだ。


「あ゛あ゛ぁあああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


 魔物達が苦痛の叫びのような鳴き声をあげる。
この声は聞くたびに嫌な気分になる。さっさと楽にしてやろう。
 近づいてきた魔物の後ろに素早く回り込み、剣で首を切り落とす。


勇者「先ずは一体……!」


魔法使い「ちょぉおーっと僧侶ちゃんと戦士さん魔物達から離れてください!」


勇者「俺はあ!?」


 空を見ると、巨大な魔方陣が浮かんでいる。
これはヤバい、と素早く遠くに逃げる。


魔法使い「はぁあああっ!!!雷撃魔法!」





 ―――巨大な雷が、一瞬。全てを滅した。





勇者「なんじゃありゃ」


戦士「巻き込まれてたら俺様達も死んでたな。」


魔法使い「へっへー♪魔法使いちゃんは最強なのだー!どうだ、惚れたか僧侶ちゃん!」


僧侶「まだ魔物が残ってます。速やかに排除してください。」



 魔法使いスルーされたな。可哀想に……
とか考えながら、生き残っていたボロボロの魔物を斬り倒す。
切っても、切っても、キリが無い。


           ( それにしても、あんな凄い魔法使ったのに魔法使いちゃん元気だね。 )


勇者(それもそうだな……何でだ?)


 普通、あのレベルの魔法を使ったら精神力が足りなくて誰でも貧血の時のようにフラフラになるはずだ。
なのにあいつは冗談を言えるぐらいに元気。むしろ、元気すぎるぐらいだ。
何かあるのだろうか?


勇者(まあ、あいつの問題はあいつの問題だ。俺が軽々しく関っていいような事じゃあないだろう。)


僧侶「ふう、もう来ないようですね。」


戦士「意外と楽勝だったな。魔法使いのおかげだな。」


魔法使い「ふふふのふー!もっと褒めても良いのよ?」


戦士「そういや、勇者は何でこんなところに来たんだ?魔王討伐の為?」


勇者「いや、魔王の討伐も確かに任務だけど、それとは別件だ。」



           ( 魔王ったら各地に居るから倒しても倒してもキリが無いんだよね。魔王の大安売りでもしてるのかな? )


勇者「この魔女の森に大魔王が居るっていう噂が流行っていて、気になるから調べろと国王様から直々の御命令だ。」


戦士「ほほう。これまた面白そうな。各地の魔王を従えている、魔物達の長”大魔王”様が本当に居るというのなら……」


僧侶「凄い大発見ですよ!」


 大魔王を見つけたとして、俺達が生きていられるかは心配にならないのかこいつ等……
幸せな脳内してるんだろうなあ。ホント、馬鹿な奴等だ。


魔法使い「で、どうやって捜すの?」


勇者「それは……」


 考えていなかった。俺も馬鹿だ。
この広い荒野、やみくもに捜していたらキリが無い。
どうやって捜し当ててやろうか。


           ( 取り敢えず、それぞれバラバラに探索したらどう? )


勇者「バラバラに行動か……危険だが、集団で動くより効率が良いかもしれないな。」


僧侶「なら、私は町に戻って魔女の森に関する情報を収集します。」


魔法使い「僧侶ちゃんは攻撃苦手だしダンジョンで行動するよりその方が良いかもね。」


戦士「俺は南の方に行こう。」


魔法使い「じゃあ私、北ね。」


勇者「俺は東だな。それじゃあ三時間後にここに戻ろう。何かあったら上の方向に物を投げてアピールしてくれ。」


戦士魔法使い僧侶「はぁーい!」
















 ―――1時間後


勇者「で、何かあったか?俺は特に何も見つからなかったが……」



           ( とんだ無駄足だったねえ。 )



勇者「あぁ、無駄に疲れるだけだった……」


戦士「俺様も何も見つからなかったな。カラスや犬に胴体を喰われてる死体ぐらいしかなかった。」


 おい馬鹿、そういうのはオブラートに包め。というかそもそも報告するな。
自分の心の中に留めておけよ。


僧侶「私も特にこれといった情報は得られませんでした。ただ、荒野の北に古びた教会があるって城下町の御婆さんが仰っていました。」


勇者「教会、ね。」


 恐らく、昔使われていた異教徒達の神を敬う為の教会だろう。
そういうのはだいたい壊されたと聞いたが、まだ残っていたのか。


魔法使い「あ、それ私見たよ。行く?」


僧侶「まだ太陽がおちていませんし、行ってみるのも良いかもしれませんね。」


戦士「お腹空いたから早く帰りたいんだが?」


勇者「ふむ、なら、行ってみようか。」















 教会に、頭に角の生えた異形の巨漢が祈っている。
それは神聖なようで、教職者にとっては冒涜的な光景。
何故なら異形は、魔を統べる主”大魔王”そのものなのだから。


大魔王「あぁ、神よ。こんなところで忌々しい血をひく者と出会うとは……」


 異形がこちらを見る。


勇者「お前が俺の血をどう思っているかどうかなんて知らんが、ここで死んでもらうぞ。」


戦士「まさか本当に居るとは思わなかったぜ。あんた、情報漏洩してるぞ?」


僧侶「忌々しい異形め……!」


魔法使い「ちょっと展開早くない?もうラストバトル?」


 ―――元々、勇者とは120年前突然現れた魔物を討伐する時に、当時の国王が名乗った異名。
その異名を継ぎ、同じように魔王達と争ったのが我が父である二代目勇者。
魔物の事はまだ半分以上も分かっていない。
大魔王も魔王も人間と争っているが何故敵対しているのか、どこから現れたのか誰も分かっていない。

 忌々しい血とは、どういう事なのか。


大魔王「可哀想に、無知な青年よ。お前に恨みは無いが、お前の先祖に恨みがある。」


大魔王「ここで、死んで貰うぞ。」


 大魔王が、俺に向かって手を翳す、何かが引き摺り出される感触がする。
ずるり、ずるりと大切な者が奪われる。




           ( ……!まずい、君!早く逃げるんだ! )



勇者(ていうがよ、何か意識が朦朧として動けないんだよ……)


僧侶「勇者さん!どうしたんですか、胸を押さえて苦しそうに……!」


戦士「おい何してやがる、大魔王!」


 大魔王が、慈悲に溢れた眼差しで僧侶、戦士、魔法使いを見詰める。


大魔王「貴様ら、死にたくなければ速やかに去れ。」


大魔王「そして、国王にこう告げるのだ。”勇者は死んだ。ざまあみろと大魔王が言っていた”と……」


 ――意識が、薄れていく。もう、駄目だ。苦しい。苦しい。苦しい。
















 眼を開けると、そこは見覚えの無い天井だった。


「ここは……ボクは……」


 窓から差し込む朝の陽ざしが眩しい。ああ、彼の魂は奪われたのか?彼の魂は失われたのか?
昨日の事が鮮明に思い出されていく。


「長年、一緒に居た親友を失って、良い気はしない。よね?」


 助けなければいけない。頑張って生きた彼の最期があんなもので良いはずがない。
だから、ボクの冒険をここから始めよう。

 と、誓いを立てていると、突如部屋の扉を開ける音が聞こえた。
現れたのは、ボロボロの衣服を着た老婆。


老婆「おお!お目覚めになられたのですか……てっきり、お亡くなりになったと思ったのですが。」


「何で、ボクはこんなところに?」


老婆「教会で倒れているのを発見したのですじゃ。周りに花が添えられていて、とても奇妙な光景でしたぞ。」


老婆「おっと、そういえばお名前を聞き忘れていました。何と御呼びになられれば良いのでしょうか……」


「ボクかい?ボクは……名前が無いんだ。そうだなあ……旅芸人って呼んでよ。」


旅芸人「そう、ボクは旅芸人。これから宜しくね。」

展開急すぎたかなあと少し反省。今日は以上です。お目汚し失礼しました。

誤字があったので訂正。
>>23のそれは”神聖なようで、教職者にとっては冒涜的な光景。” の部分。


×教職者


〇聖職者















 家に住ませてくれた老婆に感謝の言葉を述べ、老婆の家から去る。
さて、これからどうしようか。
あてもなく旅をするのも良いが、彼の魂がいつまでも無事とは限らない。
大魔王を倒すのは、一人では難しい……否、不可能だ。


旅芸人「さあて、どうしようかなあ。」


 先ず最初にボクがするべきなのは仲間集め。
仲間はある程度知っている人物が好ましい。なら、ボクが探す必要があるのは……
”僧侶”、”魔法使い”、”戦士”の三人。


旅芸人「今、彼にそっくりなこの姿で会っても逆効果だよね。」


 だから、ボクは容姿を変えなければならない。
彼の仲間達に彼の友人として接触する為に、彼とは違う容姿を得る必要がある。
さて、どんな姿になろうか。


旅芸人「そういえば、今のボクは旅芸人という設定だったね。」


 旅芸人には、旅芸人に相応しい容姿と衣装が必要だ。
















旅芸人「客観的に今の自分の姿が見れないのが惜しいね……さて、”旅芸人”の完成だ。」


 五時間ほどかけて、近くの街等から色々な者を漁り、ついに旅芸人の姿を得た。
顔をパン粉を使って真っ白に塗りたくり、口紅で唇を真っ赤に……
髪を後ろに束ね、奇抜な服や面白いデザインの靴を着た。
きっと今のボクは、”勇者”とはかけ離れた容姿をしているだろう。


旅芸人(雨の日は要注意だね。パン粉や口紅は常に携帯するにしよう。)


 等と考えながら城下町を歩いていると、一人の少女を見つけた。
本屋の前で本を物色している彼女は、間違いなく”魔法使いちゃん”。



旅芸人「ねえ。」


魔法使い「ん……何ですか?面白い恰好ですねえ。」


旅芸人「えーっと……」


 失敗した。何も考えずに話しかけるのは良くない。ボクは学んだ。


魔法使い「ああ!義勇軍への参加申し込みですか?」


旅芸人「…………はい、そうです!」


 ふう、魔法使いちゃんが話を勝手に進めてくれて助かった。
しかし、義勇軍……?


魔法使い「中々人が集まらなくて困ったんですよねー……リーダーのところに案内するのでついて来てください!」


 勝手に話が進んでいるが……然し、都合の良い展開だ。
ボクの予想があたっていれば、その義勇軍、僧侶と戦士も参加しているだろう。















戦士「どうも、俺様が義勇軍のリーダーだ。戦士って呼んでくれ。」


僧侶「僧侶といいます。愛しき勇者様の敵討ちの為に、お力をお貸しください。」


旅芸人「旅芸人です。宜しくお願いします。」


 ―――やっぱり予想通りだった。


商人「拙者商人でござる。旅芸人殿、どうぞ宜しく。」


旅芸人「面白い喋り方だね。何処から来たの?」


商人「東洋の祖国から参ったでござる。旅芸人殿も拙者の口調と負けず劣らず面白い格好でござるよ。」


 商人さんとグダグダと色々喋りながら、他の人達にバレないように周りを見渡した。
品の良い鎧を着た、おそらく貴族出身の剣士。ほぼ半裸でポーズをとる筋肉ムキムキの格闘家、
楽しそうに人形を弄る幼い少年等々……中々面白いメンバーが揃っている。


旅芸人(うんうん、これだけおとりが居れば彼の魂は取り戻せるかな。)


 ボクの最優先事項は”彼の魂を取り戻す”。その為ならば、何だってしてやろうじゃないか。
彼等には悪いが、ボクの手の裏の中で踊ってもらうよ。

短いですが本日は以上で。疲れていて筆が進まなかった……。お目汚し失礼しました。

本日はお休みします。個人的に気になった点を補足……

・何故、勇者が倒れた後回収されなかったのか:大魔王が回収させなかった。戦士達は大魔王が持って行ったと勘違い中。

・勇者の剣の見た目について:見た目は普通の剣と変わらない。

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