仙崎恵磨「7人が行く・偶像怪奇夜話」 (283)
あらすじ
魔法をかけてくれた、あなたのために。
7人が行くシリーズの第6話。
設定はドラマ内のものです。
グロ注意。
それでは、投下していきます。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1421753841
7人が行く・シリーズリスト
第1話
松山久美子「7人が行く・吸血令嬢」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403002283
第2話
伊集院惠「7人が行く・狐憑き」
伊集院惠「7人が行く・狐憑き」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1406552681/)
第3話
持田亜里沙「7人が行く・真鍋先生の罪」
持田亜里沙「7人が行く・真鍋先生の罪」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1407499766/)
第4話
大和亜季「7人が行く・ハッピーエンド」
大和亜季「7人が行く・ハッピーエンド」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1410009024/)
第5話
太田優「7人が行く・公園の花の満開の下」
太田優「7人が行く・公園の花の満開の下」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1418202792/)
登場人物
SWOWメンバー
1・仙崎恵磨
2・松山久美子
3・太田優
4・大和亜季
5・伊集院惠
6・財前時子
7・持田亜里沙
梅木音葉
早坂美玲
星輝子
諸星きらり
双葉杏
三村かな子
小日向美穂
安部菜々
島村卯月
渋谷凛
本田未央
榊原里美
城ヶ崎美嘉
城ヶ崎莉嘉
上田鈴帆
ナターリア
野々村そら
丹羽仁美
喜多日菜子
浜口あやめ
キャシー・グラハム
CGプロダクション職員
CuP
CoP
PaP
スカウト
社長
千川ちひろ
クラリス
柳瀬美由紀
松永涼
白坂小梅
高垣楓
依田芳乃
関裕美
刑事課警部・東郷あい
刑事課巡査・藤原肇
佐藤心
序
横目に見ていた、安アパートの明かりが消えた。
良かった。寝れていないわけじゃないじゃん。
「よっしゃ、いっちょやりますか☆」
体の筋を伸ばす。屈伸、あっ、膝が鳴った。
「あー、しんど」
ハロウィン間近の夜、冷え性気味な体には辛い。
冷たい秋風に逆らうように歩いていく。
一際強い風に立ち止る。
「ふーん、ここか」
ビルとビルの隙間。強いビル風が吹いてて、マジで寒い。
黒い影がビルに張り付いてる。どうみても、タコ。黒いタコ。
「やっばいなー」
何がやばいって、明らかに日本産じゃないこと。まずいまずい。
黒い影から伸びた腕がウネウネ動く。キモい。
「でもまっ、どうせ逃げちゃいられないんだし」
覚悟なんて決めてる。ダウンジャケットを脱いで、武器を見せつける。
それじゃ、最後の仕上げと行きますか。
大げさに手袋をつける。
「キャスト・ア・スペル・オン・ミー……」
ぼそっ、と呟いたつもりだけど意外と響いた。
ふー、と息を吐く。
タコがウネウネと近づいてくる。ぎゅっと、右手を握る。
黒い影にしか見えない触手が伸びてくる。きゃー、さらわれちゃう☆
「さすがにそれはキツイっすわ!」
右足を引いて、ぐーっと重心を落とす。
「はぁとパンチ☆オルルルァッ!」
はぁとに触ろうとした不埒な触手を、拳で吹っ飛ばす。おもちゃみたいにタコの腕が弾ける。
「もう待ってられないんで、いくぞー☆」
強く地面を蹴って、跳ぶ。タコに一気に距離を詰めて。
「あん?」
んで、地面に落とされた。
「いったたたた……もう一匹いるなんて卑怯だぞ☆」
お手製衣装で助かった、本当に痛いだけ。
すぐに立ち上がって、タコとそれにくっついてたもう一匹を見上げる。
「浮いてる?嘘っしょ?」
うん、浮かんでるわ。タコ達はぷかぷかとビルの隙間に浮かんでいた。
「ったく、はぁとは天使だけど飛べないんだからね☆」
……さすがに一人でこのセリフ言うのは虚しいわ。今日は羽つけてないし。
「さぁて、撃ち落としちゃいましょうか」
コンコン、カンカン、とブーツを鳴らして。ビルの壁を眺める。イメージ完了。
「せーのっ!」
1回目。地面を蹴る。
2回目。ビルの壁。
3回目。電柱。
タコの真横をずばっと抜けて。
4回目。もういっちょビルの壁。
完全にタコ達の真上。重力に任せて落ちていきながら。
「いくよー、物理的はぁとアタック☆」
ベリッと腰からハートのクッションをはがして、落とす。
ふわふわしながら3つのハートが落ちていく。タコ達の目がそれを追っていた。まだ仲良くくっついてやがる。
「キャスト!」
ハートの揺れが停まる。次の瞬間に、速度が増した。
本当に重くなっただけの単純な仕掛け。
タコは反応しきれなかった。
ボコボコボコと鈍い音をして大きい方のタコに衝突した。重さに耐えきれずに、タコが墜落していく。
ベチーンと地面へと墜落。
タコと目があった。そう、わかってんじゃん。はぁとは、今までずっと浮いてる。
「オラアアアアア!」
全力で落ちる。それだけ。おもっきしブーツのカカトから。
感触はビニール風船。潰れて弾ける様もビニール風船だった。
「きゃっ、きたなーい☆」
大きい方のタコが弾けた。黒い液体が散らばった。でも。
「跡形もなく消えた……ふしぎー☆」
ますます、やばいじゃんか。
小さなタコ、こっちよりも数倍大きいけどさ、がこっちを見ていた。恨めしそうに。
「どっから来たの、あんたら」
答えない。答えてくれるわけない。
「……ん?」
キュイキィという音が聞こえてきた。これが言葉なのかな?
でも、はぁとにはわからない。相手もわかってもらおうと思ってない。
だから、襲ってきたし。それで、カウンターパンチ一発で雲散霧消。
「はいっ、おしまい☆」
物思いにふけるのはやめ。
地面に置いたダウンジャケットを着なおす。
「あー、さむさむ」
明日もレッスン。風邪ひく前に、さっさと帰って寝よう。
序 了
1
10月4日(金)
SWOW部室
SWOW
S大学のサークル。名目上は旅行サークル。メンバーが1年生の頃の4月に設立。
仙崎恵磨「ただいまっ!」
仙崎恵磨
SWOWメンバー。経済学部。最近好きなアイドルは星輝子。
松山久美子「おかえりなさい」
太田優「おかえりー、どうだったぁ?」
松山久美子
SWOWメンバー。経済学部。応援しているアイドルは梅木音葉。
太田優
SWOWメンバー。教育学部。最近、星井美希押しから我那覇響押しに転身。
恵磨「良かったよ、歓迎してくれた」
財前時子「あら、恵磨。お帰りなさい」
財前時子
SWOW代表。経済学部。高槻やよいのベストアルバムがケータイに入っているのは秘密。
恵磨「ただいま」
時子「どこに行ってたのかしら」
恵磨「内定式だよ、前に言ったじゃん」
時子「そういえば、言ってたわね」
恵磨「ま、アタシ含めて3人だけだし、気楽だったよ」
持田亜里沙「ただいまっ」
持田亜里沙
SWOW副代表。教育学部。ローマ字一文字しか違わないアイドルは気になるご様子。
恵磨「おっす、お帰り!」
亜里沙「ただいま、恵磨ちゃん。内定式はどうだったの?」
恵磨「うーん、のんびりした感じ?」
優「髪型も服装もそのままだったんでしょぉ?」
恵磨「そうそう!」
亜里沙「大らかな会社が見つかってよかったね」
久美子「そうね」
優「経理なら服装自由なんだよねー、いいなぁー」
恵磨「うんうん、探してみるもんだよね。4月が楽しみになってきた!」
時子「……そう、それは良かったわ」
久美子「あれ、時子ちゃんは不安?」
時子「そういうわけじゃないわ」
亜里沙「おなかすいちゃった、何かあるかな?」
恵磨「アタシもおなかすいたっ」
久美子「早いけど、夕ご飯にする?」
時子「もう少しだけ待ちなさい。惠と亜季も来るわ」
優「惠ちゃんと亜季ちゃんが来たら、ご飯にいこうねー」
2
某カレーショップ
大和亜季「そろそろ文化祭でありますな」
伊集院惠「そういえば、そうね」
大和亜季
SWOWメンバー。工学部。気になるアイドルは福田のり子。
伊集院惠
SWOWメンバー。工学部。玲音のファンクラブ会員。
優「今年も文化の日なんだよねぇ」
恵磨「11月2日と3日だっけ」
久美子「今年は何かする?」
恵磨「屋台とか?」
時子「しないわよ」
優「そうなのー?ざんねーん」
亜里沙「申し込みの時期も過ぎてるから、今年はなしかな」
惠「今年も、じゃないかしら」
時子「そういうこと。まともに参加したことなんてないわよ」
恵磨「最後くらいしたら良かったじゃん」
亜里沙「参加する手段がないわけじゃないんだどね」
優「えっ、なになにー?」
亜季「強引な手段があるでありますか?」
時子「どうせ特設ステージのキャンセル待ちでしょう」
亜里沙「あら、わかっちゃった?」
久美子「そういえば、そんなこともあったね」
亜季「あー、思い出したであります」
優「あの時は1年生だったもんねぇ」
久美子「いろいろ思い出してきた……よく考えると、とんでもないことやってたわ」
亜季「結果、成功したから良いでありますよ」
惠「そうね」
恵磨「いやー、久美子ちゃん大活躍だったね!」
久美子「……」
優「久美子ちゃん、どうしたのー?」
久美子「大活躍……うーん、大変な目にあった気がするんだけど」
亜里沙「ええ、人生で一番ピアノを焦って運んだかな」
亜季「あの時はびっくりしたであります」
優「いきなり電話かかってきたもんねー」
恵磨「ピアノ運べって、何事かと思った」
惠「本当に急よね」
亜里沙「でも、集まっちゃった」
久美子「で、私が生演奏するはめに」
時子「はめに、って。お膳立てをしてあげたのよ」
亜季「当日だけ活動して優勝できる人間がいるのでありますな、感心したであります」
久美子「褒められてるのかな……?」
恵磨「もちろん!」
惠「ええ」
時子「……懐かしいわね」
亜里沙「今年はのんびりしましょうねー」
亜季「そうでありますな」
優「ラッシーもう一杯欲しいなぁ」
惠「カレーもおかわりをお願い」
亜里沙「ナンもね♪」
恵磨「オッケー、店員さーん!こっちこっち!」
3
帰り道
恵磨「あー、食べた食べた!」
久美子「ほんと、おなかいっぱい」
恵磨「口直しにアイスでも食べる?」
久美子「さっきおなかいっぱいって。それに、マンゴープリン食べたじゃない」
恵磨「アイスは別腹っしょ」
久美子「そうかなぁ……?」
恵磨「そうだって!とりあえず、コンビニ行こうよ」
久美子「うん、コンビニは行く」
恵磨「よし、行こっか!」
スカウト「よし、ティンと来た。こんばんは、お二人さん」
スカウト
CGプロのスカウト。Pa担当のプロデューサー兼務。演じてるのは個性派俳優。
久美子「こんばんは、どうかしましたか?」
スカウト「話は単純。アイドルやりません?」
恵磨「スカウトなん?」
スカウト「そうそう」
久美子「困っちゃうなぁ……」
スカウト「うん、君は綺麗だし、歌もうまそうだよね」
恵磨「うんうん、確かに久美子ちゃんはそうだね」
スカウト「でも、違う。ボクの心にはぐっとこないのさ」
久美子「えっと……なんで恥ずかしい思いしてるのかしら、私」
恵磨「どういうこと?」
スカウト「アイドル、やりませんか?」
恵磨「えっ、アタシ?」
スカウト「そうそう。絶対に活躍できるよ」
恵磨「だって、アタシこんなんだよ?」
スカウト「白髪ベリーショートでロックな上着なのにフリフリミニスカ、その恰好が嫌いなのかい?」
恵磨「嫌いじゃ着ないよ!好きだから着てるだけ、そりゃ普通の人は好きじゃないかもしれないけどさ」
スカウト「良い。うちの事務所向きだ」
恵磨「ここに誰がどう見ても美人がいるじゃん!」グイグイ
久美子「私はもういいんじゃないかな……」
スカウト「うん。でもさ、その子ならその気になればオーディション通るよ」
恵磨「ほら、即戦力だよ!」
久美子「だから、その気はないんだって」
スカウト「そういうこと。ボクが探してるのは、君」
恵磨「アタシがねぇ……」
スカウト「音楽とか好きそうだしさ。結論は急がないよー、その気になったら連絡してね。これ、名刺」
恵磨「CGプロダクション……?」
久美子「CGプロ?」
スカウト「そう、CGプロ。事務所に来てくれてもいいよ」
久美子「音葉さんの事務所じゃない。恵磨ちゃん、いいかもよ」
スカウト「音葉ちゃんの知り合いなんだ。なんか前に言ってたな」
恵磨「……」
久美子「恵磨ちゃん、アイドルとか好きだし歌も……どうしたの?」
恵磨「決めた」
久美子「決めた?」
恵磨「アタシ、事務所に行きます!」
4
10月5日(土)
SWOW部室
時子「で、恵磨は事務所に行ったわけね」
久美子「うん。今頃行ってるんじゃないかな」
惠「スカウトされるなんて凄いわね」
優「恵磨ちゃんは可愛いもんねー。うんうん」
時子「事務所の名前は?」
久美子「CGプロ。音葉さんと同じ事務所よ」
惠「CGプロ……どんな事務所だったかしら?」
優「アイドル事務所だよねぇ」
時子「あんまり大所帯ではないわね。悪い噂は聞かない」
惠「なら、安心かしら」
久美子「最初は疑ってたのに、最後にはやる気になってた」
優「何かあるのかなぁ?」
惠「何かあるんでしょうね」
時子「聞いてみればわかるでしょう」
久美子「ねぇ、時子ちゃん」
時子「なにかしら」
久美子「恵磨ちゃんが芸能界に行くって言ったら、止める?」
時子「止めないわよ」
惠「止めないのね」
優「なんでぇ?」
時子「私の意思じゃない。恵磨が決めて走り出したら、私じゃ止められないからよ」
5
Zビル・CGプロダクション前
恵磨「ここだよね……?」
恵磨「このビルの3階なんだ。よし、行こう」
恵磨「ふー、緊張してきた。お邪魔します!」
ガチャ
佐藤心「zzz……ぐがー」
佐藤心
CGプロ所属アイドル。愛称は名前からシュガーハート。花も恥じらう26歳。
CGプロダクション
中堅アイドル事務所。規模は小さめだが、売れっ子も所属している。
恵磨「入ってすぐの応接ソファーですごい髪型の人が寝てる……」
心「zzz……」
恵磨「しかも、ジャージだし。他に誰かいないのかな……」
心「すーすー……」
恵磨「テーブルにあるの人魚姫の絵本だ、年代ものぽいなぁ……」
心「むにゃむにゃ……はっ!」
恵磨「あっ、起きた」
心「はぁと、寝てた?」
恵磨「うん、寝てた」
心「今、何時?」
恵磨「10時過ぎたところだけど」
心「いっけなーい☆プロデューサーに怒られちゃう☆」
恵磨「はぁ……」
心「それで、あなたはだぁれ?」
恵磨「仙崎恵磨です!見学に来ました!」
心「見学……?」
恵磨「名刺もらって、これこれ」
心「あー、スーさんにスカウトされたんだー。有望☆」
恵磨「スーさん?」
心「スカウトのスーさん、背が小さめの不思議な話し方する人でしょ?」
恵磨「そうそう、そうだった!」
ガチャ
PaP「おはようございます」
PaP
CGプロ、Pa担当プロデューサー。心の担当P。刑事ドラマに出演が増えた若手俳優が演じている。
心「遅いぞ、プロデューサー☆」
PaP「遅いのはそっちです。どこいたんですか?」
心「てへぺろ☆それは乙女の秘密だぞ?」
恵磨「……そこで寝てた」
心「ほらそこ!余計なこと言わない!」
PaP「心さん、ちゃんと寝てます?」
心「ちょっと睡魔という天使に負けただけ、体調ばっちしだから☆」
PaP「ならいいですけど。さ、レッスン行きましょう」
心「はーい。でも、ちょっと待って」
PaP「なんです?」
心「この子、恵磨ちゃん。見学に来たんだって」
恵磨「仙崎恵磨です。よろしくお願いします!」
心「スーさんから何か聞いてる?」
PaP「……今朝聞いた。本当に急だよ、困った困った」
心「で、どうするの?」
PaP「ちひろさんもいないし、レッスンでも見に行こうか。細かい話とかは後でね」
恵磨「はいっ!」
6
Zビル4階・レッスンルーム
恵磨「へー、真上にレッスンルームがあるんだ。すげぇ」
心「ねー。ハピハピマニーで買い取って改装したんだってー」
PaP「真上なのに遅刻してきましたけど」
心「早く着きすぎたから仮眠してただけだぞ☆」
PaP「はいはい。準備体操してくださいねー、その……」
心「年のことを言ったら」
PaP「年なので」
心「はぁーとぱんち☆」プニン♪
PaP「手が出るのが早いです」
心「そっちは口が悪いぞ☆」
梅木音葉「……あら」
梅木音葉
CGプロ所属のアイドル。久美子の友人。独特な雰囲気と高い歌唱力で売り出し中。
恵磨「あ、おはよう!」
音葉「おはようございます……恵磨さん」
恵磨「元気にしてた?」
音葉「……はい。久美子さんから話は聞いてます。よろしくお願いしますね」
PaP「あれ、知り合いなんだ?」
音葉「はい……恵磨さんと同じサークルにお世話になっている方がいまして」
心「へー。音葉ちゃんは準備体操した?」
音葉「……はい」
心「恵磨ちゃんも体験してく?」
恵磨「えっ、いいんですかっ?」
PaP「いいんじゃない。ジャージありますよね?」
心「更衣室の中かな?」
音葉「ええ……女子更衣室に案内しますね、恵磨さん」
7
CGプロ・レッスンルーム更衣室
音葉「サイズは……いかがでしょうか」
恵磨「うん、大丈夫。名前書いてあるけど平気なの?」
音葉「あれ……どなたのお名前が書いてありますか?」
恵磨「えっと、なたーりあ?」
音葉「ナターリアさんなら、今は自分のものを持っていますので……平気ですよ」
恵磨「ふーん……」
ガタッ
恵磨「ん?」
音葉「どうかしましたか……?」
恵磨「なんか物音が……聞こえた?」
音葉「……」
恵磨「音葉ちゃん?」
音葉「いいえ……聞こえませんでした」
恵磨「あっ、これが倒れたのか。侍のフィギュアかな?直しとこ」
音葉「……なんで、倒れたのでしょうか」
恵磨「よしっと。たまたまじゃない?」
音葉「そうですね……行きましょうか」
恵磨「オッケー」
8
CGプロ・トレーニングルーム
心「いーち、にー、さん、しー」
恵磨「いち、に、さん、し!」
ガチャ
CoP「おはよう」
CoP
CGプロ所属。Co担当。音楽プロデューサー。演じているのは中堅俳優。
心「おはようございまーす!」
音葉「……おはようございます、プロデューサー」
恵磨「音葉ちゃん、この人は?」
音葉「CoPです……今日のレッスン担当です」
CoP「この子は?」
PaP「仙崎さん。スーさんが連れてきた」
CoP「そうか。採用は決まってるのか?」
心「はぁとはしらなーい」
CoP「まぁ……実力を見ましょうか。音楽の経験は?」
恵磨「ありません!」
PaP「ガールズロックでもやってそうなのに」
音葉「ええ……」
CoP「そんなもんだ。ぼちぼち始めようか」
心「はーい☆」
9
CGプロ・トレーニングルーム
RealにMetamorphose……
恵磨「うまいなー、音葉ちゃん」
心「ねー、絶対音感あるらしいよ」
恵磨「音域も低いところから高いところまで広いしさー」
心「ずるいよね、うんうん」
恵磨「他のアイドルは?」
心「今日はお仕事とか。午後にもレッスンはあるから、増えるんじゃないかな?」
恵磨「そうなんだ」
PaP「んー……」
心「うなっちゃって、どうしたの?」
PaP「いや、勘違いならいいんですけど」
CoP「やめだ、音葉」
音葉「……はい」
CoP「理由はわかるのか?」
音葉「……ええ」
CoP「わかった。休んどけ」
音葉「……はい」
心「なにかあった?」
恵磨「調子が悪いのかな」
PaP「……」
音葉「飲み物を持ってきます……」
恵磨「うん、いってらっしゃい」
PaP「仙崎さん、歌ってみてもらえます?」
恵磨「アタシ?」
心「はぁとも恵磨ちゃんの歌を聞きたいな☆」
CoP「何か歌える?」
恵磨「何か……あ、さっきの歌は歌えるよ!響ちゃんの曲だし」
PaP「トライアルダンスを歌えるのか……?」
CoP「試しに歌ってみようか」
10
CGプロ・トレーニングルーム
恵磨「ふー、どうだった?」
PaP「へー」
CoP「ほう」
PaP「スーさんに披露したことある?」
恵磨「スカウトに?してないけど」
PaP「やっぱり、あの人おかしいよなぁ……」
心「すごーい☆」
恵磨「そう?」
心「うまいよー」
PaP「心さんとか最初フラフラだったし」
心「はぁとの話は関係ないだろ☆」
CoP「本気で考えるか。どう、やる気はあるの?」
恵磨「うーん、でもなぁ……」
心「あれ、あんまり乗り気じゃないんだ?」
PaP「今、ちひろさん、来たみたいですね。下に行きましょうか」
恵磨「はい」
PaP「心さんはレッスン続行で。お願いします、Coさん」
CoP「了解。続けるぞ」
心「よし、やりますか☆」
11
CGプロ・事務所
千川ちひろ「仙崎恵磨ちゃんですね、お待ちしてました♪」
千川ちひろ
CGプロの事務員。事務服は蛍光緑色。
恵磨「仙崎恵磨です!あの……」
PaP「なんですか?」
恵磨「この人もアイドルなんですか?」
ちひろ「まー、そんなんじゃないですよぉ♪ただの事務員です」
PaP「……」
恵磨「こんなに綺麗でスタイルもいいのに?」
ちひろ「そんなに褒めても何もでませ……あっ、安売りしてたので栄養ドリンクをあげますね♪」
恵磨「ありがとっ!……見たことないドリンクだなぁ」
ちひろ「ちょっと準備をするので、待っててください。好きなところに座っててくださいねー」
恵磨「ねぇ、このドリンクなに?」
PaP「よくわからないけど、効くよ」
恵磨「へー、とっとこ。ここ座っていい?」
PaP「どうぞ」
恵磨「それじゃ、失礼してっと」
PaP「芸能活動に興味は?」
恵磨「あんまり。ここに興味があっただけかな」
PaP「そう。向いてると思うけどね」
恵磨「そうかなぁ。それに、進路も決まってるしさ」
PaP「あれ、今いくつだっけ?」
恵磨「21……じゃなかった、今は22歳」
PaP「大学生なの?」
恵磨「今は4年。あと、卒論かいて卒業するだけ」
PaP「そうなると、次の4月に新入社か。ま、スーさんはそんなこと気にしないよな、うん」
ちひろ「お茶をお持ちしました。どうぞ」
恵磨「ありがと、いただきます」
ちひろ「あらためまして、CGプロへようこそ!アシスタントの千川ちひろです。よろしくお願いしますね」
恵磨「よろしくお願いします」
ちひろ「では、簡単に事務所の説明をしますね」
12
CGプロ・事務所
ちひろ「説明はこんなもですねー。何か質問はありますか?」
恵磨「はーい」
ちひろ「どうぞ」
恵磨「月給制なの?」
PaP「そうだよ。必要最低限の生活費くらいにしかならないけど、歩合もあるから売れれば増えてく」
ちひろ「ご希望なら女子寮もありますよ。資料をあげますね」
恵磨「近くにあるの?」
PaP「歩いて行ける」
ちひろ「上京してる子とかが通ってます」
恵磨「ふーん。レッスン費用とかは?」
PaP「ちゃんと契約してるならタダ」
ちひろ「その言い方だと語弊がありますけど、アイドルに払ってもらうことはないですね」
恵磨「おおー」
ちひろ「そんなわけで、一度潰れかけました」
恵磨「えっ?」
PaP「そんなこともありましたねぇ……」
ちひろ「今はそんな心配無用ですよ?」
PaP「スカウトも優秀だしね」
ちひろ「どうです?」
恵磨「うーん……」
ちひろ「……あまり乗り気じゃないですね」ヒソヒソ
PaP「……スーさんの話だともっと乗り気だと思ってたんですけど」ヒソヒソ
恵磨「ん?」
ちひろ「な、なんでもないですよ」
恵磨「何か物音がしたような」
PaP「物音?」
ちひろ「また、ですか?」
恵磨「また?」
ちひろ「アイドル達が気味悪がってるんですよ。その、これがいるんじゃないかって」
PaP「ユーレイねぇ」
恵磨「こっちだったような」
ちひろ「霊感があるんですか?」
恵磨「ないよ。必要があるなら本物を連れてくる」
PaP「本物?」
恵磨「さっきの物音はこっちだったような……」
ちひろ「あっ、その机の下は……」
恵磨「ここだ。何かいるの?」
星輝子「フヒ……お、驚かせるなよ」
星輝子
CGプロ所属、ラブリーキノコメタルアイドル。趣味はキノコ栽培アンダーザデスク。
ちひろ「輝子ちゃん、来てたんですねー」
輝子「トモダチのこと、気になったから……」
PaP「トモダチは元気?」
輝子「うん……元気」
恵磨「……」
PaP「どうした?」
恵磨「この子って」
ちひろ「星輝子ちゃんです。輝子ちゃん、挨拶を」
輝子「フヒ……星輝子……」
恵磨「おお……おお!」
PaP「どしたの、いきなり声だして」
恵磨「本物だ!えっと、これを!」
ちひろ「色紙ですか?」
輝子「……サイン?」
恵磨「サインください!それと、握手も!」
12
CGプロ・事務所
心「ふはー、疲れたー」
音葉「……ええ」
PaP「お疲れ様です。どうでした?」
CoP「良くなってるよ。変に可愛い声出そうとしなけりゃいいのに」
心「もう、これが地声なのー」
PaP「はいはい」
音葉「……恵磨さんはどちらへ?」
輝子「……帰った」
心「わっ、輝子ちゃんいたの?」
CoP「来てたのか、輝子。ちょっとだけ歌っていくか?」
輝子「うん……歌うよ」
CoP「よし、行くか」
PaP「よろしくお願いします」
CoP「仙崎さんは帰っちゃったの?」
ちひろ「はい……輝子ちゃんにサインと握手をしてもらったら満足して帰っていきました」
CoP「そうなのか?」
PaP「はい。ただのファンだったみたいで……」
音葉「あら……」
心「もったいなーい。スーさんにスカウトされたのに?」
ちひろ「ええ、あまり活動する気はなかったようですね」
PaP「昨日は内定式だったそうです」
音葉「……そうですか」
CoP「しまったな、もう少し聞きたかったのに」
ちひろ「連絡先は聞きましたけど、呼びますか?」
CoP「いや、やめとこう」
音葉「説得してみましょうか……?」
PaP「できるの?」
音葉「自信は……ありませんが」
CoP「ゼロよりはいい。イベントもあるしさ」
心「イベントって、ハロウィン?」
PaP「ハロウィンですねぇ」
ちひろ「せっかくだから参加してもらいたかったですね」
音葉「ええ……話してみます」
CoP「明日にミーティングがあるから、出るだけ出てもらえると……」
ガタン!
PaP「なんだ、この音」
ちひろ「この建物も古いですから。管理会社に相談してみますね」
心「……」
13
夕方
SWOW部室
亜季「あーあーテステス。聞こえるでありますか?」
久美子「こちら久美子。聞こえてます」
亜季「こちら亜季、久美子殿を確認したであります」
時子「こっちも聞こえてるわ」
亜季「時子殿も確認したであります。残りも順次確認をお願いするであります」
恵磨「ただいまっ!って、なにしてるのさ」
久美子「お帰り、恵磨ちゃん。3号機聞こえてる?」
時子「聞こえてるわ。お帰りなさい、恵磨」
亜季「8人分の動作を確認したであります」
恵磨「なにそれ、トランシーバー?」
亜季「その通りであります、恵磨殿」
久美子「亜季ちゃんが貰ってきたんだって」
亜季「使わない古いものを貰ってきたであります」
時子「スイッチを押してる間しか話せないトランシーバーなんて今は使わないのね」
亜季「ええ。趣があっていいと思うでありますが、もっと小型で使いやすいものはいくらでもあるであります」
恵磨「へー」
久美子「恵磨ちゃん、今日はどうだった?」
亜季「芸能事務所に行ってたらしいでありますな」
恵磨「そうそう。見て見て、これ!」
久美子「サインかしら」
恵磨「星輝子ちゃん直筆だよ!握手もしてもらってきた!」
時子「……そう」
亜季「あれ?スカウトされたのではありませんか?」
恵磨「そうなんだけどね、うん、そっちは断ってきた」
久美子「あれ、そうなの?」
恵磨「サインもらえて良かった。うんうん」
時子「乗り気で行ったのもそんな理由だったのね」
恵磨「さすがに内定先に断れないし、中途半端にやるのもいやだしさ」
久美子「ふーん、なるほどね」
亜季「そうでありますか」
恵磨「そういえば、音葉ちゃんに会ったよ」
久美子「そうなの?どうだった?」
恵磨「元気そうだったよ」
久美子「良かった」
恵磨「でも、歌の調子は良くなさそうだった」
亜季「それは心配でありますな」
恵磨「少し忙しくて、疲れてたみたい」
久美子「気をつけないとね……あら?」
時子「どうしたのかしら?」
久美子「その音葉さんからメールが来てた」
恵磨「なんて?」
久美子「恵磨ちゃん、近くにいたりしませんか、だって」
恵磨「アタシ?」
プルルルル……
亜季「部室の電話でありますか?」
時子「そうみたいね。出なさい」
亜季「了解であります。はい、こちらSWOWであります」
久美子「部室にいるって、送信っと」
恵磨「何か用事かな?直接連絡してくれればいいのに」
亜季「はい?これはこれはお世話になっているであります」
恵磨「電話は誰から?」
亜季「時子殿、お電話であります」
時子「誰よ」
亜季「その……お父様であります」
時子「……なんで、部室にかけてくるのよ」
亜季「適当に理由をつけるでありますか?」
時子「出ておくわ。無駄な苦労はしたくない」
亜季「ただいま変わるであります」
時子「私よ。何か用かしら」
久美子「あ、メール返ってきた。会いたいって」
恵磨「しばらくいるからいいけど、どうしたの?」
時子「わかったわ。メールで建物と住所は頂戴。今度はケータイにかけて……ちゃんと出るわよ。また」
亜季「お父様から何であったでありますか?」
時子「……幽霊の話を聞かされたわ」
恵磨「幽霊?」
久美子「音葉さん、近くにいるからすぐに来るって」
恵磨「うん、わかった」
時子「梅木音葉が来るのね?」
久美子「そうだけど」
時子「恵磨、聞いてもいいかしら」
恵磨「なに?」
時子「Zビルを知ってるわね」
亜季「Zビルでありますか?」
恵磨「うん、知ってるよ」
久美子「なんで?」
恵磨「今日、行ってきたから」
久美子「CGプロが入ってる事務所なの?」
時子「そのようね」
亜季「幽霊の話というのは?」
時子「変な音が良くするらしいわ。設備の問題とは限らない、とも」
久美子「じゃあ、なんでお父さんから話が?」
時子「……変な気を使ったからでしょう。我那覇響の件もあったからでしょうね」
亜季「恵磨殿、気になったりはしたでありますか?」
恵磨「何を?」
時子「不審な音よ、聞いたかしら?」
恵磨「そういえば、少しだけ気になったかな」
久美子「幽霊だと思う?」
恵磨「違うと思うけど」
亜季「ふむ、なら裕美殿に相談はしなくてもいいでありますな」
時子「少なくとも今はね」
久美子「音葉さんも来るし、話を聞いてみましょうか」
亜季「そういえば、裕美殿で思い出したでありますが」
恵磨「なに?」
亜季「新しい映画が見たいと言っていたであります」
久美子「あら、一緒に行ったら?」
時子「……行けないのね」
恵磨「未成年だけど、夜にしか出れないから」
亜季「解決策は探してみるであります。トランシーバーをしまったら今日は帰るであります」
久美子「うん、がんばってね」
恵磨「アタシたちは音葉ちゃんを待たないとだね」
14
SWOW部室
音葉「私に聞きたいことがある……のですか?」
時子「ええ」
音葉「なに……でしょうか」
時子「それは後でいいわ。恵磨に用事なのでしょう?」
音葉「はい……」
久美子「それで何の用事なの?」
音葉「恵磨さん」
恵磨「なに?」
音葉「アイドルをやりませんか……?」
時子「あら」
久美子「へー」
音葉「CoPがとても残念そうでした……もう一度考えていただけませんか?」
恵磨「うーん、でも断ったからなぁ」
音葉「それでも構わないと……スカウトさんはむしろ喜んでいたかと」
久美子「喜んでたの?」
音葉「いいね、なかなか見どころがあるじゃないか。ぜひ、連れ戻してくれたまえ、と……」
時子「愉快な人間性をしているようね」
久美子「うん、そうね」
音葉「いかがでしょうか……?」
恵磨「誘ってくれるのは嬉しいけど、気持ちだけで」
音葉「……明日なのですが」
久美子「明日?」
音葉「ミーティングがあります……」
恵磨「ミーティング?」
音葉「はい……事務所で大きなイベントがあります、そのために」
時子「そんなこともやるのね」
音葉「そこまで大きな事務所ではありませんから……今後のためにも」
久美子「そうなんだ。音葉さんも歌うの?」
音葉「ええ……仮装もしようと思います」
恵磨「楽しそうじゃん」
時子「……出ればいいじゃない」
音葉「はい。明日のミーティングに出てもらいたい、と」
恵磨「うーん……」
音葉「明日はほとんどのアイドルが事務所に来ます……わかるでしょうか?」
恵磨「……ん?」
音葉「きらりちゃんや菜々ちゃんも……」
恵磨「……」
久美子「揺れてるのがわかるね」
時子「わかりやすいわ」
音葉「私も……恵磨さんがいてくれると助かります」
恵磨「でも……」
時子「結論は後からでいいわ」
久美子「音葉さん、こっちから質問していい?」
音葉「聞きたいことがあるんでしたね……どうぞ」
時子「芸能事務所、どこだったかしら?」
音葉「CGプロダクション……小さい事務所ですが、よいところですよ」
時子「なんてビルに入ってるの?」
音葉「Zビルです……その3階に」
恵磨「さっきアタシが言ったよ、覚えてないの?」
時子「確認しただけよ。それで、本題なのだけど」
音葉「何でしょうか……?」
久美子「変な音を聞かない?」
音葉「変な音……ですか?」
時子「ビル内で変な音がする。設備の老朽化から出る音ではないと」
恵磨「幽霊とか何かの仕業なの?」
時子「さぁ、私に聞かれても」
久美子「音葉さん、何か知ってる?」
音葉「私はよくわかりませんが……事務所の人はよく聞くそうです」
時子「当たり前でしょう。事務所の人間が相談してきたのだから」
恵磨「うーん、そうなのかなぁ……」
音葉「異音ではありませんが……」
久美子「別のものがあるの?」
音葉「はい」
時子「なにかしら」
音葉「……何かがいると」
15
SWOW部室
恵磨「何か?」
時子「何かって、何よ」
音葉「その……詳しくはわからないのですが」
久美子「例えば?」
音葉「例えば、黒い影」
恵磨「黒い影……」
音葉「天井の足跡、猫娘、動くキグルミ……」
久美子「そんなに出てくるの?」
時子「集まり過ぎね」
音葉「どこまで本当かわかりませんが……ソファーの下に斧を持った男が潜んでる、そんな話も」
恵磨「幽霊、怪談かと思ったら……」
時子「都市伝説まで」
久美子「どうなの?」
恵磨「事務所の子とかは怖がってるの?」
音葉「ええ……あまり良い気分はしていないようですね」
久美子「それはそうでしょうね」
時子「原因に心当たりは?」
音葉「……ありません」
久美子「それだけいっぱい起こってるとなると」
恵磨「原因は一つだけじゃないよね」
時子「そう考えるのが妥当でしょう」
音葉「……」
時子「それで」
恵磨「それで?」
久美子「私たちは調査がしたいから、誰か行く?」
時子「そういうわけよ。恵磨、行ってきなさい」
音葉「あら……」
恵磨「あ、そういう話になるの?」
久美子「誰も損しないものね」
時子「得する人が多いわ。記念でも何でもいいから行ってきなさい」
音葉「お願いします……恵磨さん」
恵磨「わかった、行ってくる。サインもらってこよ」
時子「ええ。ついでに調査もしてきなさい」
16
10月6日(日)
SWOW部室
亜里沙「変な音?」
久美子「うん」
優「恵磨ちゃんがスカウトされた事務所で?」
久美子「そうなの。何か、理由って考えられる?」
優「幽霊とか?」
亜里沙「簡単なところだと、例えば車」
久美子「車?」
亜里沙「近くの道が劣化してて、車が通るだけで揺れたり」
久美子「他には?」
亜里沙「人が動くだけ、とか」
優「どういうこと?」
亜里沙「上下の階とか近くの建物の動きが伝わってる」
優「静かだと、そういう音も聞こえるもんねぇー」
亜里沙「単純に建物が鳴ってる可能性もあるかな」
久美子「建物が鳴るの?」
亜里沙「家鳴り、っていうんだけど」
優「やなり?」
亜里沙「木とか建築材料って温度とか湿度で縮んだり、広がったりするの」
久美子「それで?」
亜里沙「ふとした瞬間に弾けて、揺れるの」
優「それで音が?」
亜里沙「簡単にいうとだけどね」
久美子「そう。なら、今回の事務所も?」
亜里沙「そう思うの?」
久美子「正直、そうは思わないわ」
優「……何かいるかも」
亜里沙「家鳴りも、由来は物の怪の類から」
優「結局……奏ちゃんを連れ去った正体はわからなかったし」
亜里沙「何もいないことを祈りましょ」
久美子「そうね」
コンコン
亜里沙「はーい、どなたですかー?」
荒木比奈「おじゃましまス」
荒木比奈
S大学の学生。本年度文化祭実行委員。既に文化祭実行委員ジャージ上下を身にまとっている。
優「だれ?」
比奈「はじめまして、文化祭実行委員の荒木比奈っス」
亜里沙「文化祭実行委員の方がなにかごようですか?」
比奈「えっと、松山久美子さんはいるっスか?」
久美子「私だけど、なにか?」
優「なにかなぁ?出し物の依頼?」
比奈「日曜だけど来てみるものスね。お願いがありまス」
久美子「お願い?」
比奈「ミスコンの審査員を」
亜里沙「審査員?」
久美子「……なんで私?」
比奈「お綺麗でスから」
優「嘘っぽいねぇ」
比奈「嘘っス。今年の優勝候補が1年生だから、3年前に1年生で優勝した人連れてくれば、とかいう感じ」
久美子「いや……やめておくわ。今更って感じもするし」
比奈「なるほど、そういうことなら」
亜里沙「そういうことなら?」
比奈「参加スね?おっぱいの大きい1年生に負けてられないと」
久美子「どうして、そういう話になるの……?」
比奈「初めて会いましたけど、凄い美人だと思いまス」
久美子「……」
優「だめだよー、そんなんじゃ」
比奈「コツが?」
優「久美子ちゃんは美人なんて言われ慣れてるからぁ」
亜里沙「もっと、違うとこ褒めないとね」
比奈「フム。ではピアノ……」
久美子「待って待って」
比奈「活動ほとんどしてないのに、投票日だけで勝ったとか」
久美子「し、調べ過ぎじゃない?」
比奈「先代から聞いただけっス。詳しくは全然」
亜里沙「詳しく聞きたいなら、ね?」
優「ねー?」
久美子「味方がいない……」
優「メイクとかカットは任せてねぇー☆」
亜里沙「衣装も探さないとね♪」
優「裕美ちゃんが言ってたの、衣装づくりしてくれる人がいるんだってぇ」
比奈「いやー、乗り気でよかった」
久美子「断ったはずなんだけど……」
時子「おはよう」
久美子「時子ちゃん、助けて!」
時子「あら、慌てるなんて珍しいこともあるのね」
比奈「お邪魔してまス」
時子「どなたかしら」
優「文化祭の実行委員だってぇー」
亜里沙「久美子ちゃんにミスコンの参加依頼をしにきたの」
久美子「違う。審査員の依頼だから、ね?」
時子「それぐらいやればいいじゃない」
比奈「代表さんもそう言ってまス」
優「出ればいいのにねー、亜里沙ちゃん♪」
亜里沙「ねー♪」
久美子「この二人は……」
比奈「それじゃ、詳細は連絡しまス。それでは!」
時子「一ヶ月切ってるから忙しそうね」
久美子「……」
時子「久美子、なんて顔してるのよ」
久美子「……思い出した」
優「なにを?」
久美子「1年生の頃も同じノリだったわ……気づいたらエントリーしてて……」
時子「何を今更。亜里沙」
亜里沙「はーい、コーヒーかな?」
時子「ええ。お願いしてもいいかしら」
亜里沙「もちろん、待っててね。優ちゃんも飲む?」
優「もらうー。ねぇねぇ、そういえばー……」
久美子「一言でこの話題が終わりになるあたりもね……」
17
CGプロ事務所前
音葉「……」
恵磨「おっ、音葉ちゃん!」
音葉「びっくりしました……こんにちは、恵磨さん」
恵磨「呼んでるのに気づかないんだもん、何か考え事でもしてた?」
音葉「ええ……性格ですかね」
恵磨「なんかあったら、相談してね!」
音葉「はい……行きましょうか」
恵磨「うん、あっ、でも待って」
音葉「……なんでしょう」
恵磨「上から何か物音がしない?」
音葉「誰かいるのでしょう……」
恵磨「とりあえず、確認しにいくよ!」
18
CGプロ・レッスンルーム
恵磨「……」ソー
音葉「……」ソー
恵磨「お?」
音葉「あら……未央さん達ですね」
島村卯月「燃やせ!」
渋谷凛「友情」
本田未央「パッションは!」
NG「ミツボシ☆☆★」
島村卯月
CGプロ所属のアイドル。キュートな17歳。
渋谷凛
CGプロ所属のアイドル。クールな15歳。
本田未央
CGプロ所属のアイドル。パッションあふれる15歳。
NG
ニュージェネレーション。3人で結成されたユニット。
音葉「練習中のようですね……」
恵磨「おー、あれ……でも、この曲は」
音葉「未央さんの曲ですね……本来ならば」
恵磨「だよね、ラッキー」
音葉「お邪魔しないうちに戻りましょうか……」
恵磨「そうする。本番で聞ければいいし」
音葉「ええ……次のイベントで聞ける……」
恵磨「どうしたの?」
音葉「聞けると思います……行きましょう」
19
CGプロ・事務所会議室
心「恵磨ちゃん、おはよー☆」
恵磨「おはよーございまっす!」
心「元気だねー」
恵磨「もっと、前に座らなくていいの?」
心「まだまだ下っ端だしねー」
音葉「隣……よろしいですか?」
心「どうぞー」
恵磨「今日って何のミーティングなの?」
音葉「そういえば……説明を忘れていましたね」
心「大きなイベントがあるって知ってる?」
恵磨「えーっと……」
音葉「知りませんか……」
心「明日から大々的に宣伝だもん、知らなくてもしかたないよねー」
喜多日菜子「仕方がないですねぇ……むふふ」
喜多日菜子
CGプロ所属のアイドル。趣味は妄想。不思議なキャラクターで徐々に話題が出ている。
恵磨「わっ、いつの間に」
日菜子「そのイベントで起こることは……それは、むふふふふ」
音葉「違う世界に行ってしまわれました……」
心「いつものことだしねー。恵磨ちゃん、日菜子ちゃんね」
日菜子「むふふ……」
恵磨「可愛い子だけど……大丈夫なの?」
心「大丈夫どころかイベントのメインの一人なんだよね」
音葉「ええ……やるときはやります、日菜子さんは」
日菜子「そんなことないですよぉ、日菜子はいつも、いつも通りです」
心「……うん、ホントーにこのままでステージに立つんだよね」
日菜子「日菜子は前の方に座りますねぇ」
心「がんばってー」
恵磨「それで……結局なんのイベントなの?」
浜口あやめ「ニンッ!お答えしましょう!」
浜口あやめ
CGプロ所属のアイドル。忍者アイドル。急に後ろから登場。
恵磨「わっ、急に現れるのが流行ってたりする……?」
音葉「そんなことはないと思いますが……」
あやめ「イベントはハロウィンです!」
恵磨「ハロウィン?」
あやめ「詳細はプロデューサー殿より語られるでしょう。それでは、ニン!」
恵磨「行っちゃった……」
音葉「元気なのは良いことです……きっと」
心「はぁとには真似できないもんね。年だから?なんだと☆」
恵磨「何も言ってないから!」
ちひろ「みなさーん、いますかー?そろそろ始めるので着席してくださいねー」
20
CGプロ・会議室
CuP「揃って……ないな」
CuP
CGプロのプロデューサー。主にCu担当。第一印象は、クマ。
社長「元気なのはいいことだ。が、時間は守らねぇとな」
社長
CGプロの社長。普段なら刑事にキャストされる俳優が演じている。
スカウト「ま、もう少し待ちましょう」
未央「……しぶりん、しまむー、そーっと、そーっと」
凛「……始まってる」
卯月「そーっと、そーっと」
CoP「凛、未央、それと卯月」
卯月「あわわ……」
未央「くっ、忍びの道は遠い……」
凛「そもそもばれないわけないって……」
CuP「今度は気を付けてね、卯月」
卯月「は、はい!」
CuP「理由は聞かないから、始めよう」
PaP「プロジェクター、プロジェクターっと」
CuP「それじゃ、社長からお願いします」
社長「オホン。それじゃ、始めるぞ」
21
CGプロ・会議室
恵磨「要するに、10月27日にイベントがある」
心「事務所総出、一日中で」
恵磨「会場は陸上競技場とその周辺。ステージ前以外は自由に出入り可能か」
音葉「ええ……」
恵磨「目的は事務所としての価値を上げるため、か」
心「CGプロというユニットを作る、って感じ?」
音葉「今のところ……私達の事務所は独唱的です」
恵磨「それぞれのアイドルに紐づけがない、ってこと?」
心「そういうこと。同じアイドル事務所所属なだけで、それだけ」
音葉「これを機に……重ね合わせの最適解を探そうと」
恵磨「なるほど」
心「もっと単純な目的もあるんだよね」
恵磨「なに?」
心「一緒にイベントをがんばって、親睦を深めよう☆ってこと」
音葉「良い機会だと思います……」
恵磨「いろいろと考えてるんだね」
心「そうは見えないけどねー」
音葉「……」
CuP「全体の概略とスケジュールは以上。詳しいことは担当から個人に伝えるから、よろしく」
社長「さて、ぜひ成功させて、CGプロを大いに盛り上げていこうじゃないか」
CuP「それじゃ、解散」
恵磨「ふーん」
音葉「興味は……出てきましたか?」
恵磨「少し。でも、今はやることをやろう」
心「やること?」
恵磨「幽霊探し」
22
CGプロ・会議室
心「幽霊?」
恵磨「うん。このビルでおかしなことが起こってるって」
心「……このビルでねぇ」
恵磨「何か知ってる?」
心「ううん、はぁと、わかんなーい☆」
音葉「……」
心「そういうことだから、それじゃ!」
恵磨「なんか知ってるよね、あれ」
音葉「……ええ。どう思いますか?」
恵磨「悪いことはしてないと思うから、後で」
音葉「そうですか……」
恵磨「他の人にも話を聞いていい?」
音葉「ええ……紹介しますね」
23
CGプロ・事務所
ちひろ「あら、恵磨ちゃんが調べてくれるんですか?」
恵磨「うん。時子ちゃんから言われて」
ちひろ「時子ちゃん?」
恵磨「時子ちゃんは、えっと……」
音葉「このビルを所有している御方のご息女様です……」
ちひろ「そうなんですか!またの機会に紹介してくださいね」
恵磨「考えとく。それで、相談を聞きなおしてもいい?」
ちひろ「はい。不思議な物音が聞こえるって話はしましたか?」
恵磨「なんとなくわかるけど、他には?」
ちひろ「物が倒れていたり、建物が揺れたり。気のせいだとは思えなくてですね……」
恵磨「それで、幽霊じゃないかって?」
ちひろ「違いますよ!建物の問題じゃないかって」
恵磨「そっちの業者とかは?」
ちひろ「さっき連絡がありまして、来週中には来てくれるみたいです」
恵磨「建物の問題なら、そこでわかるのかな」
音葉「そうですね……」
ちひろ「私も全ては知らないので……アイドル達に聞いてみるのがいいと思いますよ」
音葉「……そうします」
24
CGプロ・事務所
榊原里美「はわぁ、幽霊ですかぁ?」
榊原里美
CGプロ所属アイドル。甘々妹系ぽわんぽわんアイドル。
恵磨「ううん、そうと決まったわけじゃないよ。何か、気になることない?」
里美「ほぇぇ、怖いですぅ」
恵磨「大丈夫だから、さ」
里美「本当ですかぁ?」
恵磨「うんうん」
音葉「里美さん……何を読んでるのですか?」
里美「お兄様からもらった台本ですぅ」
恵磨「違くない?」
里美「お兄様じゃなくて、プロデューサーさんでしたぁ」
恵磨「そこじゃなくて、読んでるの台本じゃなくない?」
音葉「私には絵本に見えます……」
里美「あれぇ?いつの間に変わったのでしょう?」
恵磨「台本はそっちじゃないかな」
里美「本当ですぅ。読みなさいって、プロデューサーさんに言われてたのにぃ」
恵磨「それで、何か知ってる?」
里美「ほぇ?」
音葉「知らなそうですね……」
恵磨「悩み事とかある?」
里美「ハロウィンの衣装、似合うでしょうかぁ?」
恵磨「着てみたら?」
音葉「里美さんの衣装は、まだ届いていません……最初に届いたものはサイズがあわなくて」
恵磨「あらら」
里美「わたし、台本を読まないと~みんなよりゆっくりなんですぅ」
恵磨「台本はこっちだからねー。何かあったら言ってね」
里美「はい~」
25
CGプロ・会議室
CoP「変な音がする話?」
恵磨「はい。気になることとかありませんか?」
CoP「変な音は確かにする。君たちも何か聞いてるか?」
三村かな子「音ですか?」
安部菜々「音?」
三村かな子
CGプロ所属アイドル。お菓子作りが好きでふわふわボディの持ち主。
安部菜々
CGプロ所属アイドル。ウサミン星人。ウサミン星から来た永遠の17歳。
恵磨「おお、生ウサミンだ……」ボソッ
菜々「確かに、時々変な音がします」
かな子「はい。ガタンとかパチンとか」
CoP「音葉はどう思う?」
音葉「私……ですか?」
かな子「音葉さんは耳もいいですし、私よりも聞いてたりしませんか?」
音葉「私はタイミングが悪いようで……聞けていません」
恵磨「他には何かある?」
かな子「ナナちゃん……あの時」
菜々「かな子ちゃん……あれは」
恵磨「何かあるの?」
菜々「その、信じてもらえないと思うんですけど」
恵磨「ウサミン星人だってことは信じてるよ」
菜々「ナナはウサミン星人ですっ!」
恵磨「ホント?」
菜々「ホントもホントです!」
恵磨「……むしろ本当なんだ」
菜々「おほん。それで、この前のことなんです」
かな子「私達、レッスンの後におやつを食べてたんです」
菜々「窓から視線を感じて振り向いたら……」
恵磨「振り向いたら?」
かな子「顔が、あったんです」
CoP「不審者か?」
菜々「給湯室の窓は何もないんです!」
恵磨「浮いてた?」
かな子「その、すぐに消えてしまったので、なんとも言えないんですけど」
菜々「でも、確かに見たんです」
恵磨「ふーむ」
CoP「俺らが悩んでいても仕方がないか。お願いしていいか?」
恵磨「うん。こっちでなんかしてみるから」
かな子「お願いします。たまにお菓子がなくなるので、そっちも調べてくれると嬉しいな」
音葉「それは……どちらでしょう」
恵磨「調べてみればわかるよね」
音葉「ええ……お忙しいところお邪魔しました」
CoP「さて、続きをしようか」
菜々「はいっ」
恵磨「今は何を?」
かな子「イベントで歌う曲の打合せです」
CoP「事務所で音楽指導できるの俺しかいないしさ。いつでも人不足だし、やることはやらないと」
恵磨「そんな状況でアイドル増やしていいの?」
CoP「いい。それは断言する」
音葉「だそうです……恵磨さん?」
恵磨「あれだよね、歓迎され過ぎると一歩引くってやつ」
CoP「……人をその気にさせるのは難しいね、やっぱり」
26
CGプロ・給湯室
恵磨「窓の外に確かに乗れるところはないかな」
音葉「はい……付近のビルとも遠いですね」
恵磨「何かの見間違いはあるかもしれないけど、人がいたってことはなさそうだね」
音葉「ええ……」
早坂美玲「二人して窓の外なんか見て、何してるんだ?」
早坂美玲
CGプロ所属アイドル。眼帯と爪がトレードマーク。
音葉「調べものです……顔が見えたと、言っていました」
美玲「顔だァ?」
恵磨「この窓から見てたらしいんだけどさ、知ってる?」
美玲「知らないぞッ、そんな気味の悪い話」
音葉「……」
恵磨「怖い?」
美玲「怖くないッ!ウチは怖がらせる側だッ!」
恵磨「音葉ちゃん」
音葉「なにでしょう……?」
恵磨「カワイイよ、この生き物」
音葉「ええ……常々そう思っていました」
美玲「なんだよッ!そんな目で見るな!」
恵磨「撫でていい?」
音葉「ええ、構いませんよ」
美玲「なんで音葉が許可を出すんだッ!?」
音葉「冗談です……お聞きしたいことが」
恵磨「顔は見なくても気になることはある?」
美玲「変な音を聞くかな」
恵磨「具体的にどこからとかある?」
美玲「わかんない」
恵磨「やっぱりみんな聞いてるんだね」
音葉「そうですね……」
美玲「後は、キャシーが話してたよ、なんだっけ?」
音葉「キャシーさんですか……?」
美玲「落語だと思ってたのに、怪談だったんだ」
恵磨「怪談?」
音葉「聞いてみましょうか……」
恵磨「そうしよう。ありがとね」
27
CGプロ・事務所
キャシー・グラハム「へぇ、女の見せたものってこんなものじゃなかったんですかい?」
キャシー・グラハム
CGプロ所属アイドル。インラインスケート+金髪外人+下町っ子。
音葉「……」
キャシー「そば屋の主人は振り返ったんだ。その顔は……」
恵磨「……」
キャシー「目も鼻もなんもなかった!」
輝子「おお……」
キャシー「お粗末様でした」
音葉「……まぎれもない怪談ですね」
キャシー「どうだった?」
恵磨「やっぱり、話し方が上手いね」
ナターリア「これはなんて話なノ?」
ナターリア
CGプロ所属アイドル。ブラジル出身の14歳。
恵磨「世間一般には、のっぺらぼう、だっけ」
ナターリア「ニッポンには不思議な話があるんだナ」
音葉「それは実体験なのですか……?」
キャシー「ううん、そんなわけないよ」
恵磨「だよね」
ナターリア「のっぺらぼうなんているのカ?」
キャシー「いないから、安心して!」
恵磨「でも、それじゃあねぇ」
ナターリア「いないと問題あるのカ?」
音葉「もちろん、ありませんよ……」
恵磨「この話は置いておいて、何かある?」
キャシー「何か?」
恵磨「事務所で変なことが起こってるとか」
ナターリア「?」
音葉「ありませんか……?」
キャシー「特にないかなぁ。この話も近所のおじさんが言ってた話だしー」
恵磨「不審な音とかは?」
ナターリア「夜に聞くヨ」
恵磨「どんな音?」
ナターリア「イチマーイ、ニマーイって」
恵磨「えっ、本当に?」
ナターリア「ウン」
音葉「それだと……皿屋敷です」
キャシー「お菊さん?」
音葉「ええ……」
恵磨「声の正体はわかる?」
ナターリア「……」フルフル
恵磨「わからないか……」
ナターリア「でも、一緒に聞いた人がいるゾ」
キャシー「誰?」
ナターリア「スズホ」
28
CGプロ・倉庫
丹羽仁美「アタシは魔女!」
野々村そら「そらちんはまみー☆」
丹羽仁美
CGプロ所属アイドル。歴史と史跡巡り好きなアイドル。
野々村そら
しーじーぷろのあいどる☆みんなをはっぴーはっぴーなきぶんにさせるよ☆
恵磨「二人は衣装がもうあるんだね」
仁美「そうだよー」
そら「ほーたいをまきまき☆」
恵磨「これ普通の包帯じゃないんだ」
仁美「厚いやつだっけ?」
そら「そう☆これでみんなのしせんもほーるど☆」
音葉「ところで、鈴帆さんはどちらでしょうか……?」
恵磨「ここにいるって聞いたんだけど」
仁美「上田っち?」チラ
そら「うえだしゃん?」チラ
音葉「……」
上田鈴帆「完璧ばい……」
上田鈴帆
CGプロ所属アイドル。日本の一般家庭に飾られるツタンカーメンと化している。なお、お手製。
そら「そらちんは、どんとのー☆」
仁美「あれれー?どこにいったんだろー?」
鈴帆「ふふふ……」
恵磨「目を閉じてるから……わからないんだね」ボソボソ
音葉「ええ……」
仁美「上田っちに何か用なの?」
そら「きぐるみのいらい?」
鈴帆「……」ピクッ
音葉「いいかもしれませんね……」
鈴帆「……我慢ばい、ウチはツタンカーメン……」
恵磨「そうじゃないよ」
鈴帆「……」ガクリ
そら「つたんかーめんがむーびんぐ?」
仁美「そらちゃん、そんなわけないよー」
恵磨「うんうん」
鈴帆「……」
音葉「変な音を聞きませんか……?」
仁美「聞く聞く。倉庫とか物の位置が勝手に変わってるし」
そら「うえだしゃんのきぐるみも勝手にむーびんぐ☆」
鈴帆「……」
恵磨「勝手に動いてるの?」
仁美「そうそう。衣装とか記念品とか位置が変わってるんだよ」
そら「仁美ちゃんのふぃぎゅあもふらふらー」
恵磨「鈴帆ちゃんが夜中に入り込んでるとか?」
鈴帆「……」
仁美「ナイナイ。上田っちは14歳の乙女だからそんなことしないよ」
音葉「……」ジー
鈴帆「……」
恵磨「ツタンカーメンの表情変わった?」
音葉「気のせいです……照れて赤みがさしてなどいません」
恵磨「だよねー」
そら「そうそう☆」
鈴帆「……」プルプル
仁美「きゃあー、うごいてるー」
恵磨「うわああ、のろいだー」
音葉「おそろしやー……」
そら「いっつほらー☆」
鈴帆「茶番たい!」パチッ
仁美「てへぺろっ♪」
そら「てへぺろっ☆」
鈴帆「やるならやりきるのがプロ!棒読みはいかんばい!」
恵磨「おおー」
音葉「それで、鈴帆さん、お聞きしたいことが」
鈴帆「音葉しゃんはいつでもクールたい……何ば?」
恵磨「夜に一枚二枚と数える声を聞いた?」
仁美「一枚足りないやつ?」
恵磨「そこまではわからないけど」
鈴帆「聞きたばい」
恵磨「どんな感じ?」
鈴帆「ナターリアしゃんと帰る前に、給湯室から……」
音葉「……」
鈴帆「聞こえてきたばい……低い女の声で」
そら「ごーすと?」
鈴帆「わからんけん……聞き違いだっち思いたい」
恵磨「詳しくはわからない……ってこと?」
仁美「ふーむ」
鈴帆「気になることのあっけん、ひとつ」
恵磨「なんでもいいよ、言ってみて」
鈴帆「聞こえのーなった」
音葉「聞こえなく、なった?」
仁美「黙った、ってこと?」
鈴帆「何も聞こえなくなった……ウチの耳が悪くなったように」
音葉「……詳しく」
鈴帆「でも、外に出た時には治ってたばい」
音葉「そうですか……」
恵磨「理由はわからないよね?」
鈴帆「……」コクリ
音葉「調べてみましょうか……」
鈴帆「もうひとつ、お願いのあっけん」
恵磨「なに?」
鈴帆「出してほしか……ト、お手洗いにいきたかー」
恵磨「自分で出れないの!?」
29
CGプロ・事務室
恵磨「あの……」
CuP「どうした?えっと……」
音葉「仙崎恵磨さんです……昨日からこちらに」
CuP「挨拶がまだだったかな。よろしく」
恵磨「よろしくお願いします」
CuP「ちょっと待ってね、出番は作るから」
恵磨「え?」
CuP「ん?」
音葉「……」
恵磨「そんな話になってるの?」
CuP「そうじゃないなら、なんでここにいるのさ」
恵磨「調査だけど」
CuP「調査?ああ、幽霊話か」
恵磨「何か知ってますか?」
CuP「僕は詳しくは知らないな。ただな、気になることを言ってたな」
音葉「……何でしょう」
CuP「美穂が言ってたんだが、事務所よりも気になるところがあるらしい」
恵磨「ここ以外?」
CuP「ウチの女子寮だ」
音葉「……女子寮」
CuP「僕も見回りに行ったが、その時は何もなくてな。詳しくは美穂とか寮生に聞いてくれ」
恵磨「そうしてみる」
CuP「答えたから、僕のお願いを聞いてもらってもいい?」
恵磨「何?」
CuP「イベントの出番を作るから、出ない?」
恵磨「答える前に質問していい?」
CuP「どうぞ」
恵磨「なんで、そんなにアタシをステージに立たせたがるの?」
CuP「なんで?なんでと言われてもなぁ」
恵磨「理由はないの?」
CuP「んーとなぁ、ちゃんと説明できる理由はないよ、たぶん、みんな」
恵磨「それじゃ、何があるのさ」
CuP「ステージに立たせてみたい、って願望があるだけ、とか」
音葉「……そういうものですか」
CuP「次はもっと説得力ある言葉を考えておくから。その時に」
恵磨「じゃあ、回答は保留で」
CuP「そういうことで」
音葉「……事務所の人に話は聞き終わりましたでしょうか」
CuP「そこに杏が……あれ?ナナちゃん、杏ちゃんは?」
菜々「杏ちゃんならきらりちゃんに連れていかれましたよ?」
CuP「仕事?」
菜々「はいっ」
CuP「だそうだ。きらりちゃんは相変わらず忙しそうだな」
恵磨「あー、残念」
音葉「他の方はどちらに……?」
菜々「上のレッスンルームでしょうか」
CuP「だろうね。美穂も上にいるだろうから、話を聞いてみてね」
菜々「美穂ちゃんに何かようなんですか?」
恵磨「女子寮で何か起こってるとか?」
菜々「そうなんですか?」
CuP「よくは知らない。ナナちゃんも何か気になることある?」
菜々「寮で、ですか?」
恵磨「うん」
菜々「うーん……ナナはウサミン星から引っ越してきて間もないので……」
音葉「電車で1時間は遠いですものね……」
菜々「後で寮にも来ます?」
恵磨「必要なら」
菜々「他の人にも声をかけてみますねー」
音葉「お願いします。先にレッスンルームの方へ行ってみましょうか……」
恵磨「うん。えっと、美穂ちゃんを探してみようか」
CuP「知ってる?」
恵磨「うん。可愛いよね、小日向美穂ちゃん」
CuP「ありがとよ。次のイベントで魔女役の一人なんだ、応援してやってくれ」
30
CGプロ・レッスンルーム
卯月「音ですか?」
凛「時々するよね、パチンとかガタンとかさ」
未央「うんうん。ユーレイじゃないか、とか言ってるよね」
恵磨「アタシが聞いてるくらいだもんなぁ、聞いてないわけないか」
卯月「他にもあるとか」
未央「美嘉ねーが前に話してたよ。ねーねー、美嘉ねー!」
城ヶ崎美嘉「なにー?」
城ヶ崎美嘉
CGプロ所属アイドル。われらのカリスマギャル。
未央「ちょっとちょっと」
美嘉「未央、ちょっとじゃわからない」
未央「前に言ってた、怖い話を聞きたいんだって」
美嘉「あー、あの話?」
未央「あの話」
卯月「どの話?」
美嘉「絵本の話」
恵磨「絵本?」
凛「社長が貰ってきた絵本があるんだよ」
卯月「絵が綺麗で時々私も眺めてます」
恵磨「それで?」
美嘉「結構年代ものもあるんだよね、その絵本」
未央「味があるっていうか」
凛「雰囲気はあるよね」
美嘉「ある日、事務所に来たら絵本が落ちてたんだ」
恵磨「絵本……?」
美嘉「莉嘉とか誰かがそのままにしたのかなー、って思って、本棚に返したんだよね。その日は」
音葉「……」
美嘉「でも、また別の日にはテーブルの上に置いてあってさー」
恵磨「……」
美嘉「それが何回もあって。ある日ね、机の上に置いてあったんだけど……」
卯月「だけど……」ゴクリ
美嘉「イヤーな感じがしてね、すぐに近づかなかったら……」
凛「……」
美嘉「黒い手みたいのが机の下から伸びてきて、その本を引っ張って行った」
卯月「あわわ……」
美嘉「アタシが怖くなって、後ずさったら……後ろから!」
音葉「……」
城ヶ崎莉嘉「お姉ちゃーん!」
城ヶ崎莉嘉
CGプロ所属アイドル。カリスマちびギャル。美嘉の妹。
美嘉「こらっ、莉嘉っ!」
莉嘉「レッスン終わったー?買い物にいこうよー、はやくー♪」
凛「オチは?」
未央「オチはこの通りだよ。びっくりした美嘉ねーが、ひょえええ!って叫んで終わり」
卯月「そうなんですか!怖い話じゃなかったんですね?」
美嘉「黒い手の話は本当だけどね」
恵磨「絵本かぁ……」
莉嘉「お姉ちゃん、何の話してるの?」
美嘉「怖い話」
莉嘉「なら、凄いのがあるんだー」
音葉「すごいの……?」
莉嘉「みんな、上見て~」
卯月「上ですか?」
恵磨「上……えっ?」
凛「は?」
未央「これは……ガチだね」
美嘉「ええ!?」
莉嘉「レッスンルームの天井にね……小さい子供の、赤い足跡があるんだ」
31
CGプロ・レッスンルーム
恵磨「とりあえず、写真だけ取っておこう」
音葉「どう思いますか……?」
恵磨「イタズラには手が込み過ぎてるよね」
音葉「はい……事務所にある脚立などだけでは付けるのも難しいですから」
恵磨「定期的に移動してるらしいから、小まめにやらないといけないし」
音葉「本物……でしょうか?」
恵磨「これはちょっと増援を頼まないとかなぁ」
音葉「増援ですか……?」
恵磨「霊媒師とかエクソシストとか」
音葉「ふむ……」
菜々「恵磨ちゃん、音葉ちゃーん」
恵磨「ウサミン……じゃなかった、安部さん」
菜々「ウサミンでいいですよぉ♪美穂ちゃん、見ませんでした?」
恵磨「そういえば、いないね」
菜々「ひなたぼっこをしてるのかな?」
音葉「日当たりの良い場所を探してみましょう……」
菜々「はいっ。美穂ちゃーん、どこですかー?」
32
CGプロ・4階倉庫
恵磨「いた?」
菜々「シー……」
音葉「おや……」
小日向美穂「……」スースー
小日向美穂
CGプロ所属アイドル。かわいい。ただいまお昼寝中。
音葉「ここは日当たりが良いのですね……」
恵磨「本を読んでたのかな?」
菜々「そうみたいですねー。かわいいですねぇ」
恵磨「実物は本当にかわいいなぁ」
菜々「眺めていたいのはやまやまですが、起こしましょう。美穂ちゃーん」
美穂「むにゃむにゃ……」
音葉「プロデューサーくん……?」
恵磨「何か聞こえた?」
菜々「美穂ちゃんが持っているクマさんの名前ですね。美穂ちゃーん、起きてくださーい」
美穂「……ナナちゃん?」
菜々「おはようございます、美穂ちゃん」
美穂「わ、わたし寝てました?」
菜々「はい。気持ちがよかったですか?」
美穂「はい……ところで」
菜々「日差しが気持ちいいですねぇ♪なんです、美穂ちゃん?」
美穂「何かありました?打合せ?」
菜々「CuPから聞きましたけど、美穂ちゃんの打合せはもう終わってます」
美穂「それじゃ、なんでしょう?」
恵磨「女子寮に案内して欲しいんだ」
美穂「女子寮?なんでですか?」
音葉「不思議なことが起こるとか……」
美穂「ええ?」
菜々「CuPさんに聞いたんです。お悩みがあるんですよね?」
美穂「あ、その話ですか」
音葉「心当たりがあるのですか……?」
美穂「そのうまくは説明できないんですけど……」
恵磨「とりあえず、行ってみようか」
音葉「ええ……事務所はほとんど調べ終えましたから」
菜々「美穂ちゃんも一緒にきてください、ね?」
美穂「はい。この本だけ置いてきますっ」
33
女子寮・玄関
綺羅星女子寮
CGプロが借り上げている3階建てのアパート。事務所から徒歩10分。共同キッチンと食堂あり。
恵磨「音葉ちゃんもここにいるの?」
音葉「ええ……家賃が安いので、引っ越してきました」
美穂「よく一緒にご飯を食べるんですよ。ね、ナナちゃん?」
菜々「はいっ。皆で食べるご飯は美味しいです♪」
美穂「そうなんですっ、ナナちゃんは同い年なのにすっごく料理上手なんですよっ」
恵磨「同い年……?」
音葉「恵磨さん……あの表情を見てください」
美穂「?」
音葉「あの顔を曇らせていいのですか……?」
恵磨「凄いね!アタシなんか22になるけど、料理できないもんね」
音葉「ええ……私も得意ではありません」
菜々「ナナはどうしてこんな気遣われているんでしょうか……?」
美穂「ねっ、憧れちゃいます♪わたしもお料理上手になりたいなっ」
菜々「え、ええ!今度は一緒にお料理しましょうね、美穂ちゃん!」
音葉「中に入りましょうか……」
34
女子寮・食堂
恵磨「ここには誰がいるの?」
菜々「ナナと美穂ちゃん、音葉ちゃんと」
音葉「心さんに……日菜子さん、そらさんに」
美穂「仁美さんに、ナターリアちゃんに……」
ニンッ!
菜々「ひぅっ!何か声がしましたよっ」
恵磨「……いや、これは」
あやめ「みなさん、お集まりのようですね!」
美穂「あ、あやめちゃん?」
音葉「テーブルの下から出てきましたね……」
あやめ「むっ、隠密活動のニオイがします」
恵磨「するの?」
音葉「さぁ……」
恵磨「ちょうどいいや、聞いていい?」
あやめ「なんなりと」
恵磨「この寮で不思議なこと、起こってない?」
あやめ「不思議なこと?」
菜々「幽霊とか人の顔とか見ませんか?」
あやめ「フム。話はわかりました」
音葉「何か……?」
あやめ「この屋敷にからくりがしかけられていると。忍の名にかけて、調べて参ります。それではっ!」
恵磨「調べてくれるなら、いいか」
あやめ「おっと!」
菜々「なにかありました?」
あやめ「忘れておりました。こちらがテーブルの下に落ちておりました」
恵磨「えっ……?」
あやめ「あやめ、行って参ります!」タンッ!
美穂「絵本ですか?」
菜々「あれっ、誰が持ってきたんでしょう?」
恵磨「しかも、人魚姫だし……」
美穂「人魚姫ですか?」
音葉「……」
恵磨「とりあえず、これは預かっておくね」
菜々「美穂ちゃん、何か見たって言ってましたよね?」
美穂「あ、はい」
恵磨「案内してもらっていい?」
美穂「どうぞ、わたしの部屋に案内しますっ」
35
女子寮・美穂の部屋(3階)
美穂「ここです、どうぞ」
菜々「前にもお招きされましたけど、ほんとーに可愛い部屋ですねぇ♪」
恵磨「大きいクマのぬいぐるみがあるね」
音葉「美穂さん、気になることというのは……」
恵磨「……!」
菜々「恵磨ちゃん、どうしました?」
恵磨「ごめん!勝手に入るよ!」タッタッタ!
美穂「え、ええ、大丈夫ですけど……」
音葉「窓を開けて……何かありましたか?」
恵磨「真下の部屋!」
菜々「真下?」
美穂「な、な、何があったんですか?」
恵磨「よくわからないけど、黒いものが移動していった!急ぐよ!」
美穂「黒い……もの」
音葉「下の部屋は……」
菜々「って、ナナの部屋じゃないですか!」
音葉「恵磨さんは行ってしまいました……急ぎましょう」
菜々「か、片づけてないのにー!」
36
女子寮・ウサミン星植民地(2階)
恵磨「我々はウサミン星に足を踏み入れた!」
菜々「意外と慌ててないんですねっ!」
音葉「何も……いませんね」
恵磨「あれ……」
美穂「ま、待ってください~」
恵磨「どっかに隠れてるのかも」
美穂「はわわ」
菜々「ええ!」
恵磨「ちょっと探検していい?」
菜々「ウサミン星人の秘密は口外無用ですよっ!」
恵磨「わかってる。音葉ちゃん、そっちお願い」
音葉「ええ……」
恵磨「コタツの中は……洗濯物がある」
音葉「こっちには落花生がたくさん……」
美穂「これなんですか、ウサミン秘密の設定ノー……」
菜々「美穂ちゃん、それは美穂ちゃんには見せられません!見せてはいけません!見せたら、美穂ちゃんファンにどうお詫びしたらいいのか、ナナにはわかりません!」
美穂「ご、ごめんなさい!ナナちゃんにも見られたくないものあるよねっ」
音葉「かわいい……クローゼットもあけますね。ウサミン星人のカップ数が気になっています」
恵磨「かわいい……ベッドの下も見よう。別のノートが見つかるかも」
菜々「あなた達はもうすこーしだけ、本心を隠すべきです!」
音葉「おお……ウサミン星人は凄いデス」
恵磨「うーん、いないか……」
美穂「どこにもいませんね……」
菜々「あのー、恵磨ちゃんは何を見たんですか?」
恵磨「黒い影だよ。何だったんだろう……美穂ちゃんが見たっていうのも同じ?」
美穂「は、はい!」
音葉「黒い影……」
菜々「消えちゃったんでしょうか……?」
恵磨「そうとは思えないよね。一応全部見回ってみようか」
音葉「……ええ」
恵磨「ねぇ、ウサミン」
菜々「はい、なんでしょう?」
恵磨「部屋に入っていいか、確認してもらっていい?」
菜々「任せてください!」
37
女子寮・食堂
音葉「結局……何も見つかりませんでしたね」
菜々「お茶をどうぞ♪」
美穂「ありがとう、ナナちゃん」
恵磨「うーむ……何なんだろ、あれ」
音葉「あれが原因だと思います……」
菜々「どうして、ですか?」
音葉「イヤな感じが……します」
美穂「悪いことをしてるんですか?」
音葉「……」
恵磨「そういう話じゃないけどさ。別々な方が幸せな関係もあるよ」
菜々「難しい問題ですねぇー」
恵磨「まずは見つけないといけないけど……そもそも、何なんだろ、あれ?」
音葉「……なんなのでしょうか」
菜々「ウサミン星人のナナでもわかりませんねぇ」
恵磨「明らかに危ない気がする……どうしよう」
あやめ「ニンッ!」
菜々「あやめちゃん、お茶飲みますか?」
あやめ「かたじけない」
恵磨「何か見つけた?」
あやめ「いいえ。この建物には忍びの一人も入り込んでいません!」
美穂「えっと……忍者は一人いるような」
あやめ「いや、あはは、照れます……」
菜々「本当ですか?」
あやめ「はい。屋根裏なども調べて参りましたが、何もありません」
恵磨「そうか……何もないならそれでいいんだけど」
あやめ「それではこれにて御免!」
菜々「待ってください!一緒にお茶を飲みましょう」
あやめ「そうします」スタッ
恵磨「堂々とした忍者だなぁ……」
音葉「どうしましょうか……」
恵磨「とりあえず、直接的な危害はないけど、気をつけて」
音葉「それくらいしか、ないでしょうか……」
菜々「黒い影には近づかないように、ですね」
恵磨「うん。対策はちょっと考えてみるよ」
音葉「あの……恵磨さん」
恵磨「なに?」
音葉「……」
恵磨「音葉ちゃん?」
音葉「調査に来るときは連絡をください……」
恵磨「うん。ありがとう」
37
夜
SWOW部室
恵磨「出た話はだいたいこんな感じ」
亜里沙「まずは異音ね」
恵磨「これは来週中に業者が来るから、建物のせいならその時にわかると思う」
亜季「ふむ。窓の顔の話はどうでしょう?」
時子「判断は保留するわ。何とも言えない」
亜里沙「お菓子がなくなる話は?」
恵磨「うーん、これは話しだけ。実際はどうかわからない」
時子「皿屋敷については?」
恵磨「これもよくわからない」
亜季「一番嘘くさいであります」
亜里沙「そうねぇ、これだけ明確に人間の言葉だものねぇ」
時子「結論はあとでいいわ。次を」
恵磨「後はポルターガイストっぽいやつ」
亜季「物が動く話でありますな」
時子「これは異音の原因とも考えられるわ」
亜里沙「事務所の前は交通量が多いんですか?」
恵磨「それなり。個人的な感覚でいうと、外側から揺れてる感じはないかな」
亜季「原因はこれもわからない、と」
亜里沙「レッスンルームの足跡は?」
恵磨「写真はこれ」
亜季「ばっちり写っておりますなぁ」
時子「人の手によるとしても、理由が気になるわね」
恵磨「こんなに面倒なことしなくていいと思うんだよね」
亜里沙「この足跡、動くのよね?」
恵磨「そうみたい。理由はわからないけど」
亜季「よく聞く学校の怪談の類であります」
亜里沙「女の子はたくさんいるものね」
恵磨「うーん」
時子「後は黒い影ね」
恵磨「アタシが直接見たのはそれくらい」
亜季「見たのは何でありますか?」
恵磨「わかんない。黒い影みたいな」
亜里沙「なにか、気づいたことはある?」
恵磨「気づいたこと?」
亜里沙「特徴とか、動きとか」
恵磨「なんか輪郭がぼやけてたような……あとは」
時子「あとは?」
恵磨「なんか腕みたいのが伸びてて揺れてたような」
亜季「ますます謎でありますな」
時子「何とも言えないわね」
恵磨「うーん」
亜里沙「それと、もう一つ」
恵磨「絵本が動いてる」
亜季「その絵本はあるでありますか?」
恵磨「これ」
亜里沙「ちょっと見せて」
恵磨「はい、古い人魚姫なんだけど」
亜里沙「ありがとう」
時子「年代物だけど、特に変なところはないわね」
亜里沙「内容も……特に変わったところはないかな」ペラペラ
亜季「この本に何かあるでありますか?」
亜里沙「ない、と思うな」
時子「亜里沙、貸しなさい」
亜里沙「はい、時子ちゃん」
亜季「本の移動でありますが、城ヶ崎美嘉殿のお話によりますと」
恵磨「うん。黒い影が関わってる」
時子「この本が動くことに意味はあるの?」
恵磨「意味?」
時子「内容は至極一般的な人魚姫」
亜里沙「だからこそ、メッセージになるのかも」
亜季「ふむ。どういうことになるでしょう」
恵磨「人魚姫と言えば、結ばれない恋?」
時子「魔女、薬、失う声、悲恋」
亜季「アニメならもう少し明るいミュージカル調でありましたな」
亜里沙「でも、これは絵本」
時子「フム……」
恵磨「結局、よくわからないか」
時子「恵磨、この本は返しておきなさい」
恵磨「わかった」
亜季「しかし、どうするでありますか?」
恵磨「亜季ちゃん、お願いがあるんだけど」
亜季「なんでありますか?」
恵磨「誰か、相談役を連れていけないかな」
亜里沙「このままだと進まないものね」
亜季「わかったであります。裕美殿に聞いてみるであります」
38
10月7日(月)
SWOW部室
亜季「お疲れ様であります」
時子「あら、亜季」
久美子「お昼ご飯食べた?」
亜季「まだであります」
恵磨「お待たせっ!」
時子「待ったわ」
恵磨「おっ、亜季ちゃん。ご飯食べてく?」
亜季「いただくであります。何でありますか?」
久美子「新しくできたお総菜屋さんの開店記念セット」
亜季「それは期待できそうでありますな」
恵磨「さ、座って」
亜季「恵磨殿、忘れないうちにお伝えするでありますが」
恵磨「ん?なに?」
亜季「本日21時にこちらへお越しください」
恵磨「住所、教会?」
亜季「はい。裕美殿と待ち合わせをしているであります。時間厳守でお願いするであります」
久美子「時間厳守なの?」
亜季「ええ。相手方がお話を聞きたがっているであります」
時子「相手方ねぇ……」
39
出渕教会
出渕教会
クラリス達が住居としている小さな教会。地上2階、地下2階建て。
恵磨「ここ?」
亜季「私もはじめてでありますから……ここでいいと思うのですが」
恵磨「普通の教会だね」
亜季「ええ、裕美殿はシスターにお世話になってるようであります」
恵磨「シスター?」
カチャ
関裕美「こんばんは!亜季さん、恵磨さん!」
関裕美
ヴァンパイア。亜季と縁の深い少女。オデコがチャーミング。
恵磨「こんばんはっ、元気だった?」
裕美「はい。今日は、その、来てくれて嬉しいです」
恵磨「いつも頼み事してごめんね」
裕美「ううん、いつでも大丈夫。どうぞ、シスタークラリスが待ってるから」
40
出渕教会1階・礼拝堂
柳瀬美由紀「クラリスさん、お客様が来たよ」
クラリス「お待ちしておりました」
クラリス
『シスター』。出渕教会は彼女の持ち物。
柳瀬美由紀
クラリスのアシスタント。視界を塞がれているクラリスの日常生活を補助している。
裕美「シスタークラリス、大和亜季さんと仙崎恵磨さんです」
クラリス「はじめまして。クラリスと申します」
美由紀「お姉さんたち、近づいてもらっていい?」
クラリス「握手をお願いします」
恵磨「うん。仙崎恵磨です、よろしく」
亜季「大和亜季であります。裕美殿がお世話になっているであります」
クラリス「どちらも力強い魂を感じます……」
恵磨「聞いていいのかな……」
亜季「ええ……気にはなっているであります」
美由紀「クラリスさんの目隠しのこと?」
恵磨「え、うん、そうだけど」
亜季「どうして、両目を隠しているでありますか?」
クラリス「私はこの混雑した世界を見ることができません。そのため、ですよ」
恵磨「……?」
クラリス「下の食堂へどうぞ。お話を聞きましょう」
美由紀「あ、クラリスさん、つかんで」
クラリス「ありがとうございます、美由紀さん」
裕美「案内するね、こっちだよ」
41
出渕教会地下1階・リビングルーム
依田芳乃「お茶でしてー」
依田芳乃
退魔師。和装の少女。惠に守護霊を与えた張本人。
恵磨「ありがとっ」
芳乃「静かにしておりますのでーおくつろぎくださいませー」
亜季「本当にただのリビングでありますな」
恵磨「なんか秘密基地みたいのだと思ってた」
亜季「私もであります」
クラリス「他の皆様も同席してよろしいですか?」
恵磨「うん、大丈夫」
クラリス「お聞きを」
白坂小梅「うん……聞いてるよ」
白坂小梅
ネクロマンサー。小柄で痩せた少女。長い袖の服を着ている。
高垣楓「芳乃さん、私にもお茶を貰えますか?」
高垣楓
捕食者。外見はミステリアスな美女。
芳乃「よいのでしてー」
楓「昼間にお茶菓子を買ってきました。いただきます」
小梅「楓さん……お客様にも出して……?」
楓「そうでした。これを渡してください」
裕美「うん」
松永涼「それで。話ってなんだ?」
松永涼
死神。ドクロがついた服装をしてるのはもとからの趣味。
クラリス「公園の話は聞いております。今回はなんでしょうか」
恵磨「調べて欲しいところがあるんだ」
クラリス「お聞きしましょう。お話ください」
42
出渕教会地下1階・リビングルーム
恵磨「こんなところかな、事務所で起こっていたのは」
クラリス「確かにお聞きしました」
亜季「どう思うでありますか?」
クラリス「私に判断はできません」
恵磨「悪魔とかが憑いてる可能性とかは?」
クラリス「例えそうだとしても、私ではお力になれません」
恵磨「そうなんですか?」
クラリス「私はエクソシストではありませんから」
亜季「なら……なんでありますか?」
クラリス「私が見るものは光ある世界だけです」
裕美「……?」
クラリス「私の話はやめておきましょう。涼さん、感想を」
涼「問題は黒い影だろうな」
クラリス「ええ、それは同感です」
恵磨「他のは?」
小梅「たぶんね……気のせい」
涼「本物はおそらくいない」
亜季「わかるでありますか?」
涼「経験則だ。特に窓の顔」
芳乃「それは科学の領分なのでしてー」
恵磨「なるほど。そっちは調べなおしてみる」
クラリス「しかし、黒い影は気になります」
亜季「やはり、幽霊でありますか?」
裕美「違うんだよね……?」
涼「そういうことだ」
芳乃「違う世界のものとも考えられるのでしてー」
クラリス「私達としても情報を集めたいところです」
恵磨「誰か、連れて行ってもいい?」
クラリス「ええ。どなたにしましょうか」
涼「アタシは死人が見れないし、小梅と裕美は時間が夜だけだ」
芳乃「異界のものとは戦えないのでありましてー」
クラリス「楓さんにいたしましょう……楓さん」
楓「……」モグモグ
涼「楓」
楓「はい、なんでしょうか」ゴックン
クラリス「現地調査へ行ってください」
楓「どちらに?」
恵磨「Zビル、CGプロっていう芸能事務所が入ってる」
楓「CGプロダクション?」
恵磨「聞き覚えがあるの?」
楓「うふふ……いいえ、ありません。わかりました」
亜季「お願いするであります」
楓「こちらこそ。ひとつ、報酬を頂きたいのです」
恵磨「なに?」
楓「お昼を一緒に食べましょう、仙崎さん」
43
10月8日(火)
某定食屋
楓「すみません。おかわりを。あと、焼き魚定食も追加で」
恵磨「ウワサに聞いてたけど、よく食べるね」
楓「食べないと生きていけませんから」
恵磨「大目にお金おろしてきてよかった……」
楓「……」モグモグ
恵磨「その体のどこに入ってるの?」
楓「何がですか?」
恵磨「食べたもの」
楓「……聞きたいですか?」
恵磨「うん」
楓「答えは簡単です。ほとんどこの体に入っていません」
恵磨「え……?」
楓「私は死なないために食べます。どちらも」
恵磨「……日下部若葉を探していたのも、死なないため」
楓「はい。私はそんな存在を捕食していかなければいけません」
恵磨「聞いていい?」
楓「どうぞ」
恵磨「どうして、そうなったの?」
楓「……」
恵磨「……ごめん」
楓「いいんですよ……自分で招いた災いです」
恵磨「……」
楓「今は聞かないでください。私を縛るものは、今は武器でもあるんですから」
恵磨「わかった。ねぇ、楓さん」
楓「なんでしょう」
恵磨「今度、お酒飲みに行こうよ。うん、それがいい」
楓「お気持ちだけ受け取っておきます」
恵磨「お酒、嫌いだった?」
楓「好き、でした……でも」
恵磨「でも?」
楓「酔えないんですよ、今は」
恵磨「……そうなんだ」
楓「でも、こうなってしまったことに後悔はしてません」
恵磨「なんで?」
楓「ここで生きていますから」
恵磨「うん、そっちの方がいい」
楓「だから、忠告しておきます」
恵磨「……」
楓「何に寄るとしても、異界のものだけは避けてください。必ず」
44
CGプロ・事務所
恵磨「こんにちはっ」
ちひろ「あら、恵磨ちゃん」
恵磨「今日、音葉さんはいないんだよね」
ちひろ「はい、今日はお仕事ですねー。どうかしましたか?」
恵磨「昨日の続きをしていい?」
ちひろ「調査ですね、どうぞ。あの……ところで」
PaP「お、恵磨ちゃん、こんにちは……へ?」
恵磨「こんにちはっ、なにか?」
ちひろ「あの、後ろの人はどなたでしょう?」
楓「……」
恵磨「楓さん。今日のお手伝いをしてくれるんだ」
楓「……」ペコリ
恵磨「少し入っても大丈夫?」
ちひろ「え、ええ、どうぞ」
恵磨「お邪魔します」
楓「先に給湯室から」
恵磨「こっち」
ちひろ「……行っちゃいました」
PaP「スーさんがまた連れてきたのかと思った」
ちひろ「ええ、でも違うみたいですね。なんというか」
PaP「なんというか?」
ちひろ「スカウトしてはいけない気が、します」
45
CGプロ・レッスンルーム
恵磨「事務所は何か見つけた?」
楓「いませんね」
恵磨「幽霊も?」
楓「はい。絵本にも何もないでしょう」
恵磨「後は、この天井なんだけど」
楓「確かに、足跡がついていますね」
恵磨「どう思う?」
楓「……」
恵磨「まさか……」
楓「恵磨さん」
恵磨「なに?」
楓「この足跡がいつ頃からついたか、知っていますか?」
恵磨「いや、わからない。誰か……」
菜々「はぁはぁ、体力……体力をつけないと地球ではやっていけません……」
恵磨「ウサミーン!」
菜々「は、はい、なんですか?」
恵磨「この足跡いつごろからついてるか、知ってる?」
菜々「えっと、莉嘉ちゃんによると数日前くらいからですねぇ」
楓「やはり……」
菜々「あの……この美人さんはどなたでしょう?」
楓「あら……あなたは」
菜々「はい?」
楓「ウサミン星人ですね。恵磨さん、こちらについてですが」
恵磨「どうなの?」
楓「本物です。幽霊がつけたものでしょうね」
菜々「え、えええ!」
楓「だけど、安心してください」
菜々「安心なんてできませんよぉ!」
楓「まだ、結論を言ってませんよ」
菜々「はい?」
恵磨「結論ってなにさ?」
楓「この幽霊、すでに退治されています」
菜々「退治されてる……?」
楓「ええ。なので、このまま残っているのかと」
恵磨「そっか。この足跡、移動してるんだもんね」
楓「はい」
菜々「それじゃあ、誰が退治してくれたのですか?」
楓「退治……という言葉が誤解を招きましたね」
恵磨「どういうこと?」
楓「別の何かに追い出された可能性もあります」
恵磨「例えば……黒い影とか」
楓「可能性はあるでしょう」
恵磨「とりあえず、事務所の音の原因は幽霊じゃないの?」
楓「はい。ですが」
恵磨「違うもの、がいる」
楓「ええ。女子寮の方へもお伺いしてみましょう」
46
女子寮・1階廊下
恵磨「事情を説明して入れて貰ったけど」
楓「いきなり、お出迎えされたようですね」
恵磨「絵本が落ちてる。人魚姫じゃない」
楓「タイトルは、赤ずきんですか」
恵磨「意味があると思う?」
楓「どちらでしょう?」
恵磨「アタシは思わないけど」
楓「ならば、そうなのでしょう……静かに」
恵磨「……なに?あっ」
楓「さて……いただきましょうか」
恵磨「黒い影が……」
楓「小腹がすいてきたところです……」
47
女子寮・食堂
楓「ごちそうさまでした」
恵磨「昨日見たやつかな」
楓「上等どころかゲテモノの類ですが、十分でしょう」
恵磨「……なんだった?」
楓「わかりません……成分はほぼ水です」
恵磨「……もしかしてだけどさ」
楓「はい」
恵磨「なんかその、公園の事件と同じなの?」
楓「何がですか?」
恵磨「別世界から何かが来てるって話」
楓「はい。あれ……説明はしてませんでしたか」
恵磨「うん。そういうことなんだ」
楓「私達は原因を探しています」
恵磨「原因……」
楓「どのようにして招きいれているのか、それを突き止められればと」
恵磨「ふーむ」
楓「この寮にそれがあるのなら、楽なんですけどね」
恵磨「それ、って?」
楓「わかりません。魔法のステッキかもしれませんね」
恵磨「何かを招き入れられるもの……」
楓「ええ」
恵磨「探してみよっか」
48
女子寮3階・廊下
カタカタカタ……
恵磨「何か音がするね」
楓「何かの機械でしょうか」
恵磨「この部屋かな?」
貼紙『勝手に入ったらしばくぞ☆シュガーハート♡』
恵磨「心さんの部屋だ。いるのかな?」
楓「いるのでしょう」ガチャ
恵磨「わっ、勝手に入っちゃダメだって!」
49
女子寮・佐藤心の部屋
恵磨「おお……服と布とラフ画で埋め尽くされてる!」
楓「工場のようです」
心「貼り紙を無視する奴は誰だ☆ぶん殴るぞ☆」
楓「こんにちは、しゅがーはぁとさん」
心「はっ……?」
恵磨「あ、これ、765オールスターズの衣装だ。模倣品?」
楓「高垣です。お久しぶりですね」
心「な、何でこんなところに!?」
楓「たまたまです」
心「たまたま……じゃないだろ?」
楓「どうしてですか?」
心「黒い影」
恵磨「えっ?」
楓「はい。連絡をくれればいいのに」
心「協力はするけど、一線は越えない」
恵磨「あの、知り合いなの?」
楓「ええ。佐藤心さん、魔法使いですよ」
50
女子寮・魔法使いの部屋
恵磨「魔法使い?」
心「そうなの♪はぁとは皆の心をメロメロにする魔法を使えるの☆」
楓「裕美ちゃんと見ましたよ、この前の深夜テレビを。芸能のお仕事をしてたのですね」
心「スルーはきついなぁ……そういうこと」
楓「こちらに来たのも理由はそちらですか」
心「そうそう。言ったでしょ、仕事の関係で出てきただけだって」
楓「では、この件に関しては」
心「なんの話?はぁと、わかんない☆」
恵磨「……」
楓「黒い影を追っていますね。自分で言いました」
心「……追ってるけど」
楓「いつからですか」
心「こっちに来てから」
楓「本当ですか?」
心「嘘ついて、何か得がある?」
楓「ないですね。正体はわかりましたか?」
心「わからない」
楓「出所は」
心「そっちもさっぱり。寮にまで現れるようになったのは予想外」
楓「レッスンルームの幽霊については、退治をしましたか?」
心「何度も言ってるけど、幽霊は見えない、触れない、退治できない」
楓「……そうですか」
恵磨「あの……聞いていい?」
楓「なんでしょう?」
恵磨「魔法使い、って何?」
心「楓ちゃん、質問」
楓「はい」
心「フツーにばらされてるけど、いいの?」
楓「はい」
心「ま、いっか☆バレた以上は協力してもらおう、ね?」
恵磨「有無を言わせない迫力……これがアイドル……」
楓「違うと思います」
シュガシュガスウィート……
心「プロデューサーから電話だ☆もしもーし☆」
恵磨「協力って?」
楓「心さんから説明があるかと……」
心「はーい、待っててね。いや、事務所で待ってろって☆」
楓「お仕事でしょうか?」
心「そーそー、それじゃ行ってくるから☆それで、恵磨ちゃん」
恵磨「なに?」
心「乙女の秘密だぞ☆」
楓「心さんの正体は言いふらさないように、と」
恵磨「うん、わかった」
心「また連絡するからねー☆ばーい♪」
51
夜
SWOW部室
恵磨「ただいまっ」
惠「お帰りなさい。コーヒー飲む?」
恵磨「もらう。砂糖2つで」
惠「わかったわ」
時子「今日は何をしてたのかしら、恵磨」
恵磨「今日も事務所に行ってたよ」
惠「あら、レッスンとか?」
恵磨「そうじゃなくて、調査に連れてった」
惠「誰を?」
恵磨「楓さん」
時子「高垣楓ねぇ……」
惠「何かわかったの?」
恵磨「えーっと、幽霊はいないみたい」
時子「黒い影については?」
恵磨「なんか話によると……異世界から来たとか」
惠「……そう」
時子「先月の優の話からすると、嘘とも言い切れないわけね」
恵磨「後は……」
時子「他には?」
恵磨「あー、いや、これは何でもない」
時子「言ってみなさい」
惠「コーヒー、どうぞ」
恵磨「ありがと。ねぇ、時子ちゃん」
時子「何よ、改まって」
恵磨「魔法使いっていると思う?」
惠「……」
時子「いるらしいわね」
恵磨「え?」
時子「何よ、びっくりしちゃって。関裕美が言ってたじゃない、魔法使いに作って貰ったとか」
惠「衣装をね」
恵磨「あ、そっか。そうだよね」
時子「それが、どうしたのよ」
恵磨「別に何でもない」
ヒャッハー!オマエハテンプラニシテヤロウカ!
恵磨「メールだ。お、ちひろさんからだ」
惠「何……その着信音」
恵磨「明日、建物管理の業者が来るってさ。午前10時に来てくださいね、か」
時子「高垣楓の見立てが正しいかどうか、明日にはわかるということね」
惠「そうね。可能性はつぶしていった方がいい」
時子「ええ。明日の予定は大丈夫?」
恵磨「アタシは平気。音葉ちゃんに連絡してみよ」
時子「それにしても……黒い影ねぇ」
恵磨「音葉ちゃん、電話でないなー。メールにしておこうかな」
惠「どこから来てるのかしら」
時子「私が知るわけないでしょう。速水奏もどこから来たのかわからないのに」
惠「じゃあ、誰が連れてきてるのかしら」
時子「服部瞳子やアッキーからすると、つながってさえいれば勝手に入り込む可能性はあるわね」
恵磨「メールの返信はすぐに返ってきた。良かった、明日は音葉ちゃんと行こう」
惠「楓さんは何を探してるって言ってたの?」
恵磨「素敵なステッキを探してる、って」
時子「ハァ?」
恵磨「冗談だって!招き入れられるものならなんでも良いって。それこそ、魔法のステッキかも」
惠「要するに、何もわかってないのね」
時子「そのようね」
恵磨「とりあえず、動かないことには始まらないし、やってみる」
惠「それはいいけど、恵磨ちゃん」
恵磨「なに?」
惠「灯台下暗し、らしいわ。気をつけて」
恵磨「よくわかんないけど、気をつける」
惠「お願い」
本日はこれまで。また明日。
タイムリーすぎるけど、偶然です。
それでは。
52
10月9日(水)
CGプロ・事務所
午前10時
恵磨「業者が来るのは3時過ぎ?」
ちひろ「はい♪時間もありますし、レッスンでもいかがです?」
恵磨「だ、騙したな!」
音葉「……ふふ」
恵磨「音葉ちゃんはそんな人だと思わなかったのに!」
音葉「……すみません」
恵磨「そんなに深刻なトーンで謝られることじゃ……」
PaP「あ、恵磨ちゃん来てるね」
恵磨「主犯格だ……」
PaP「……え、俺何かしたっけ?」
恵磨「とぼけるんじゃないっ!」
PaP「へ?」
恵磨「騙して連れ出した、罠だったんだろっ!」
PaP「何の話?」
恵磨「調査に来ただけなのにさー」
PaP「あれ?俺はレッスンの予定をちひろさんに連絡してもらうように言って」
恵磨「ん?」
PaP「そしたら今日から来てくれるって……ねぇ、ちひろさん?」
ちひろ「……」ニコニコ
音葉「危険な笑顔です……」
恵磨「ちひろさん……そのジャージなに?」
ちひろ「恵磨さんは、何色が好きですか?黄緑色なんかどうでしょうか?」
恵磨「その黄緑はテカテカ過ぎじゃあ……」
ちひろ「……」ニコッ
恵磨「アタシは黄色がいいな」
ちひろ「……黄色をどうぞ」
PaP「あれ、レッスン受けるの?」
音葉「嬉しいです……」
恵磨「なんだろ……流されると負けな気がするぞ」
PaP「CuPががんばって、出番もレッスンメニューも組んでくれたんだけどなぁ……」
音葉「ええ……」
恵磨「わかった。今回だけね」
PaP「ありがとう。スーさんの眼力を信じて、さ」
音葉「恵磨さんがいてくれると……心強いです」
恵磨「うーん、いいのかな、これで……」
53
CGプロ・レッスンルーム
恵磨「あー、疲れたっ」
音葉「ええ……」
PaP「心さん」
心「はぁい☆」
PaP「どうです?」
心「歌うのと同時は無理っぽいね☆」
PaP「長丁場ですもんね。やめときましょう」
恵磨「何の話?」
PaP「コーラスまで恵磨ちゃんに仕込もうかどうか相談してみただけ」
音葉「私も踊りながらは……苦手です」
恵磨「初心者にそこまで求めちゃだめでしょー……あれ?」
心「どうしたの?」
恵磨「天井の足跡、消した?」
PaP「消した。見てて気持ちがいいもんじゃなかったし」
恵磨「ふーん、それならいいんだけど」
心「さて、もういっちょがんばりますか☆」
PaP「その前にお昼にしましょう」
54
CGプロ・レッスンルーム
ちひろ「お疲れ様です。飲み物いかがですか?」
心「ちひろちゃん、やさしーい☆」
恵磨「ふぅ、はー、ふー」
ちひろ「恵磨さん、大丈夫ですか?」
恵磨「ウサミン星人は大変だ、あんなに小さいのに」
音葉「お疲れみたいですね……」
ちひろ「そうそう。恵磨さん、先ほど業者の方が来られまして」
恵磨「おっと、何か見つかった?」
ちひろ「ええ。配管がしっかり固定されてなくて、揺れると音がなったようですね」
恵磨「やっぱりか。他にも何かあった?」
ちひろ「少し古い建物ですからねぇ、細かいところは色々と」
恵磨「じゃあ、音は建物のせいってことでいい?」
ちひろ「おそらく」
PaP「ここも引っ越し時ですか?」
ちひろ「社長にそれとなく聞いてみます?」
心「広い事務所、憧れちゃう☆」
PaP「心さんにお仕事が入れば……」
心「おい☆プロデューサーもがんばれよ☆」
PaP「がんばりましょう」
心「もちろん」
恵磨「ふー、それじゃ、あっちが解決すればいいのか」
音葉「そのようですね……」
PaP「あっち?」
心「プロデューサーは心配しなくていいぞ☆」
PaP「ですけどねぇ」
心「いいったら。それよりお仕事ちょーだい☆」
PaP「なら。信じますよ」
心「任せて☆」
卯月「お疲れ様でーす♪」
美穂「お疲れ様ですっ」
ちひろ「お疲れ様です、卯月ちゃん、美穂ちゃん」
PaP「そんな時間か。成人組はお疲れさん」
恵磨「ふー、終わりか」
音葉「恵磨さん、ストレッチをしてから帰りましょう……」
心「はぶっちゃいやだぞっ♪」
55
Zビル・階段
恵磨「ジャージもらっちゃっていいのかな?」
音葉「はい。記念に……いえ、使ってください」
心「よーし、帰るぞー☆」
恵磨「ちょっと待って」
音葉「どうしました……?」
恵磨「また、落ちてる」
心「絵本?ちゃんとしまわないとねー」
恵磨「とりあえず、本棚に置いてくるね」
音葉「ええ……待ってますね」
心「はぁーい」
音葉「あの……はぁとさん」
心「なにぃ?」
音葉「その……」
恵磨「うわわわわぁ!」
心「恵磨ちゃん!?何かあったの!?」
音葉「……」
心「ぼけっとしてないで行くよ、音葉ちゃん!」
56
CGプロ・事務所
恵磨「おおお!」
心「あれ?」
音葉「無事のようですね……」
恵磨「ねぇ、あれのソファーに座ってるのきらりんだよね?」
心「うん、そうだけど……」
恵磨「ヤバイ、生きらりんはヤバイよ!こうしちゃいられない、行ってくる!」
心「……」
音葉「無事でしたね……」
心「さすが、きらりさん、パワーが違う……」
音葉「ええ……あそこまでテンションが上がるとは……」
心「あっ、きらりんホールドで捕まった」
音葉「恵磨さん……小柄ですから」
心「助ける?」
音葉「一応行きましょう……」
57
CGプロ・事務所
諸星きらり「うきゃー☆心ちゃん、音葉ちゃん、おっすおっす☆」
諸星きらり
CGプロ所属アイドル。歌にモデルにバラエティと大活躍のトップアイドル候補。出したCDで寮が借り上げられ、事務所の上にレッスンルームが出来た。
心「お疲れ様ですっ、きらりさん」
きらり「ハピハピしてるぅ?」
音葉「ええ……はぴはぴです」
きらり「きらりんも、かわいい子を見つけて、ハピハピ☆」
恵磨「……かわいいかなぁ」
音葉「かわいいですよ……」
心「かわいいよ☆」
恵磨「そうかなぁ……」
きらり「照れてて、かわいいにぃ♪」
CoP「きらりちゃん、いる?」
きらり「ぴーちゃん、にゃっほー☆」
CoP「おっす。レッスン始めるけど、いい?」
きらり「恵磨ちゃん、お別れだにぃ。またねー☆」
恵磨「ばいばーい。その前に一つ聞いていい?」
きらり「なんだにぃ?」
恵磨「事務所で起こる怪談とか知らない?」
きらり「うーんとねぇ、このソファーの下にね」
心「ソファーの下に?」
きらり「斧を持った男が隠れてたんだよー」
恵磨「へっ……?」
きらり「きらりんねぇ、その時は気づかなかったの。誰かいるような気はしてたけど、その日は帰ったにぃ」
CoP「……」
きらり「でねー、次の日にお手紙が来たの」
恵磨「なんて?」
きらり「これなんだにぃ」
音葉「紅い字が……」
恵磨「いっ……」
きらり「見つけなくて、よかったな」ボソッ
音葉「そんな声出せるのですね……」
心「きらりさん、さすが大女優」
恵磨「いや、ほんとに危ない話はダメだって!」
きらり「にゃは☆それじゃあ、ぴーちゃん、レッスンに行くにぃ☆」
CoP「ああ。それじゃ、またな」
心「はぁい♡おつかれさまっしたー」
音葉「さようなら……」
恵磨「え……これ、ストーカーとかそんなんじゃ……」
音葉「違うと思いますよ……」
恵磨「違うの?」
心「CoPが無反応すぎだもん。ウチのトップアイドルに危険が迫ってたら慌てるでしょ?」
恵磨「あ、確かに」
音葉「ええ……ですが」
恵磨「なに?」
音葉「きらりさんが、視線を感じると言っていたことはあります……」
心「その時も、だれーもいなかったけどねぇ」
恵磨「ふーん……」
心「まっ、事務所も女子寮も警備はしっかりしてるし☆」
音葉「ええ……不審者は入れないかと……」
心「監視カメラとか振動感知とかあるんだってー」
恵磨「それだとさ、つまり人じゃな……」
心「はいっ☆怖いことは言わない☆」
恵磨「あ、うん」
心「ねぇ、恵磨ちゃん、ご飯食べてく?」
音葉「ご一緒にいかがですか……?」
心「お買い物を手伝ってー☆」
恵磨「寮?」
音葉「ええ……ナナさんがお仕事で遅いので私たちが作ることになりますが……」
恵磨「もちろん!買い出しでも何でも任せて!」
58
女子寮・食堂
仁美「はぁとさんの煮物美味しいよねー」モグモグ
日菜子「むふふ……愛情が込められているんです」
あやめ「この味はまさしく、一子相伝の味」
ナターリア「イッシソーデン?」
仁美「お母さんに教えてもらったってことだよ。うん」
ナターリア「ママに教えてもらったのカ!」
仁美「そうそう、お袋の味だよね」
心「誰が年寄だって☆」
音葉「言ってません……」
恵磨「うん、よく考えてみると」
あやめ「どうかしました?」
恵磨「アイドルの手料理を食べるって、凄いな」
ナターリア「?エマもアイドルじゃないのカ?」
恵磨「うーん、と……」
音葉「……否定しなくてもよいかと」
恵磨「ああ、それで、聞きたいことがあるんだけど」
心「逃げたな☆」
音葉「逃げましたね……」
恵磨「ソファーの下に男が潜んでいたとかいう話を聞いたことある?」
あやめ「ムム、忍ですか?気配を隠せないようでは二流です」
日菜子「むふふ……むふ、むふっふっふ」
心「日菜子ちゃん、むせた?さすってあげよーか?」
日菜子「ご心配には及びません。佐藤さん」
恵磨「真顔になった……」
心「とりあえず、佐藤呼びは傷つくぞ☆はぁとって呼んで♡」
日菜子「はい。佐藤先輩。人生の先輩という意味です」
心「おい☆」
音葉「追い打ちを……」
日菜子「事務所のソファーに何故、男は潜んでいたのでしょうか」
仁美「えっと、え?」
日菜子「誰か目的のアイドルがいたのでしょうか」
恵磨「うーん……」
日菜子「でも、見つかりませんでした。なんで、でしょう」
音葉「……」
日菜子「姿を見せられないからです……男の姿は、幽霊となっても血みどろで」
あやめ「日菜子殿、こ、怖がらせるのはいませんよ!」
日菜子「愛する人を守るために戻ってきたのに見せられない。彼女はもう一度会いたい、と願っているのに」
恵磨「ん……?」
日菜子「そんな時に彼女に優しい人が現れて……むふふ」
心「いつも通りになった」
日菜子「愛情と嫉妬がまじりあって……むふふ」
恵磨「えーっと、どこまでが妄想なの?」
日菜子「むふふ……本当の王子様はどっち?」
恵磨「聞いてないね……」
そら「ただいまー☆」
美穂「ただいま帰りました」
心「お疲れー、ご飯すぐに食べる?」
そら「そらちんは、そーはんぐりー☆」
美穂「私もいただきます。わぁ、いいニオイがしますっ」
心「待ってて☆」
日菜子「むふふ……」
仁美「日菜子ちゃん、レッスンがあるからそろそろ帰ってきて」
恵磨「これから?」
あやめ「ええ」
恵磨「そうか、みんな学生だもんね」
ナターリア「レッスンがんばって、イベントを成功させるんダ」
恵磨「うん、がんばってね」
音葉「……」
心「おかわり欲しい子いるかなー?」
恵磨「はいっ!」
音葉「レッスンはおなかが空きますからね……」
59
女子寮・食堂
音葉「本当によろしいのですか……?」
恵磨「片づけくらいは任せて」
心「学業優先、任せておきなさい☆」
音葉「それでは……お願いします」
恵磨「うん、がんばってっ」
心「さぁて、片づけちゃいますか☆」
恵磨「ウサミンの分はこれでいいんだよね?」
心「そうだよー。冷蔵庫に入れておいて」
恵磨「これにしかないけど、いいの?」
心「体が小さいからすぐにおなか一杯になるんだよね、ウサミン星人は」
恵磨「へぇー」
心「洗い物もお願いしていい?」
恵磨「いいよっ。洗剤は?」
心「上の棚ー」
恵磨「おし、あったあった」
心「恵磨ちゃん、来年就職なんだよね?」
恵磨「うん。会社の経理だよ」
心「ふーん。仕事するの楽しみ?」
恵磨「なんでそんなこと聞くん?」
心「質問に質問で返しちゃだめだぞ☆どっち?」
恵磨「どちらかというと楽しみかな。不安もあるけど、もちろん」
心「そんなもん」
恵磨「はぁとさんは別の仕事をしてたの?」
心「はぁとはずっとアイドル☆」
恵磨「上京してきたのって、いつ?」
心「……今年の春」
恵磨「出身どこ?」
心「えっとねぇ、長野☆ウサミンとキャラ被りはダメだね☆」
恵磨「亜里沙ちゃんと一緒だ。地元で働いてたん?」
心「地元っていうか、家業を継いでた。から、実家?」
恵磨「へー。何の仕事?」
心「……それは」
恵磨「よし、終わりっと」
心「恵磨ちゃん」
恵磨「なに?」
心「少しだけ、お茶に付き合って。いや、付き合え☆」
恵磨「いいけど……なにかあるの?」
心「教えるから、色々と」
60
女子寮3階・魔法使いの部屋
心「実家は被服工場だったの。家族経営できるくらい小さいところだけどね」
恵磨「この部屋も工場みたいだよね」
心「自分の作業部屋を持ってきたから、ちょっと狭いかな」
恵磨「今も仕事をしてるの?」
心「してない。暮らせるくらいはお金ももらえてる……ていうか、事務所に支援してもらってるから」
恵磨「それじゃあ、趣味?」
心「これは、なんだろうね……ボランティアじゃなくて」
恵磨「この手袋、肌触りいいなぁ……不思議な感じがする」
心「使命とか宿命、なんて言うのかな」
恵磨「使命とか宿命……?」
心「魔法使いだから」
恵磨「……服と魔法が関係あるの?」
心「はい、これ持って。なにかわかる?」
恵磨「コイン、鉄かな」
心「指で曲げて」
恵磨「よしっ……んー!曲がらないよ!」
心「それじゃ、その手袋して」
恵磨「これを?」
心「そう。サイズはおーけー?」
恵磨「うん。フィットするよ」
心「それじゃ、スペル」
恵磨「スペル?」
心「変な感じするー?ゆっくり手を開いて閉じたりしてみて」
恵磨「ぐー。ぱー。大丈夫」
心「はい、もう一回。ゆっくりね」
恵磨「さっきはやったけどさぁ、曲がるわけな……へ?」グニャリ
心「言わないように、ね?」
恵磨「これが魔法……?」
心「地味っしょ」
恵磨「いや、凄いよ。他にも何かできるの?」
心「できない」
恵磨「空を飛んだり、薬を作ったりは?」
心「もちろん、無理」
恵磨「魔法の服の仕立て屋、ってところ?」
心「そう。自分が作ったものにしかスペルがかけられない」
恵磨「でも、凄いよ。魔法使いの家系なんだ」
心「……」
恵磨「どうしたの?」
心「はぁともそうだと思ってた。でも、違ってもいいってさ」
恵磨「何の話?」
心「恵磨ちゃん、ちょっと散歩に行こう。手袋したままね」
恵磨「何かいるの?」
心「この町の状況、見ておいて」
61
女子寮付近の公園
心「感想は?」
恵磨「小さいのが3匹……結構いるんだね」
心「室内に入るのが稀みたい」
恵磨「大きいのもいるの?」
心「数メートルくらいは見たかな」
恵磨「被害者は?」
心「今のところ、いない」
恵磨「……っていうか、何してるの、あいつら」
心「基本的に水だから、水を探してるみたい。汚い水も飲めるよ」
恵磨「それじゃ、安全かな」
心「濡れスポンジでもいいんだよ?」
恵磨「どういう意味?」
心「水分があれば何でもいい、ってこと」
恵磨「人でも……?」
心「……」
恵磨「そういうことか……」
心「住処か発生源を見つけないといけないの。あとは被害を防止すること」
恵磨「被害は防げてそうだね」
心「今のところ、なら」
恵磨「早いうちに根を絶たないといけないってことだよね?」
心「そう」
恵磨「何か心当たりは?」
心「見つかんない。この近くだとは思うんだけど」
恵磨「……そう」
心「お願いをしていい?」
恵磨「これになら協力するよ」
心「ありがと。でも、秘密にして」
恵磨「……わかった。具体的には何をしたらいいの?」
心「まずは採寸、はぁとが衣装を作るよ☆」
恵磨「あれと戦わないといけないもんね。そのための武器っと」
心「次に体力づくり。衣装で体を壊さないくらいにはつけて」
恵磨「うん」
心「定期的にこの周辺に来て」
恵磨「えっと……つまり」
心「一緒にレッスンがんばろうね?がんばるぞ☆」
恵磨「そういうことになるのかぁ……」
62
SWOW部室
恵磨「ただいまっ」
時子「あら、恵磨。ずいぶんと遅かったじゃない」
恵磨「ご飯をごちそうになったりしたからさ。時子ちゃんは?」
時子「なんとなく本を読んでいて遅くなっただけよ」
恵磨「他の人は?」
時子「とっくに帰ったわよ。それで、どうだったかしら?」
恵磨「よくわからないものがいる、よ」
時子「フムン。幽霊については?」
恵磨「退治されてた。というか、黒い影との縄張り争いに負けたみたい」
時子「今回の事件はそれが原因で、結論ということね」
恵磨「うーん、そうともいかない」
時子「言ってみなさい」
恵磨「ソファーの下に男が潜んでるとか」
時子「梅木音葉もそんなことを言ってたわね」
恵磨「黒い影は実物も見たけど、本当に黒い何かなんだよね」
時子「つまり、別と」
恵磨「そういうこと」
時子「そう簡単には解決しなさそうね」
恵磨「それと……」
時子「なにかしら」
恵磨「あー、いや、これは何でもない。というか、秘密」
時子「そう」
恵磨「調査は続けるよ、何か起こらないようにしないと」
時子「それがいいわね」
恵磨「だから、しばらくレッスンに通うことにしたから」
時子「フーン、なるほどねぇ」
恵磨「なにさ、その反応」
時子「いいじゃない。少しは楽しんできなさい」
恵磨「あのさ、聞いていい?」
時子「何をかしら」
恵磨「やたらアタシの芸能活動に賛成な人だらけなのはなんでなん?」
時子「なんでって。別にやれとは言ってないわよ」
恵磨「そうかぁ?」
時子「ええ。やりたそうなのに、何かに遠慮してるから唆してみてるだけよ」
恵磨「……そうなん?」
時子「さぁ。自分にでも聞いてみればいいわ」
63
10月10日(木)
昼
SWOW部室
優「時子ちゃん、久美子ちゃん、こっち来てぇ♪」
久美子「なにー?どうしたの、優ちゃん」
時子「パソコンがどうかしたのかしら」
優「ここ、ここ」
久美子「ホームページ?」
時子「CGプロのイベント、ってハロウィンイベントね」
久美子「イベントは27日日曜日か。行こうかしら」
優「そうだねぇ。ほら、出演者のところ見てぇー」
久美子「音葉さんに……あら」
時子「もう恵磨の名前が載ってるじゃない」
優「そっかぁ、決めたんだー♪」
時子「決めてはないみたいよ。あっちにも強引な人間がいるってことでしょう」
久美子「そのようね……」
優「今日、恵磨ちゃんは?」
久美子「今日はゼミじゃないかしら」
時子「ええ。優、所属アイドル一覧も見てちょうだい」
優「はぁーい」
久美子「こっちはまだみたいね」
時子「アイドル事務所だけあって、高校生と中学生がほとんどね」
優「永遠の17歳はどういう意味なのかなぁ?」
久美子「音葉さんも年長側なのね。恵磨ちゃんも年齢的には上になるのかしら」
時子「最年長は、26?」
優「気になるねぇ。クリックしちゃお♪」
久美子「佐藤心、さんか」
優「童顔で、かわいいー」
時子「でも、身長は166cm」
優「高いね、モデルさんなのかなぁ?」
久美子「どうなのかしら?」
時子「恵磨にでも聞いてみましょう」
コンコン
久美子「はーい。どうぞー」
比奈「お邪魔するっス」
大西由里子「おじゃまするじぇ」
大西由里子
S大学の学生。本年度文化祭実行委員。本日、薄い冊子を持参。
優「実行委員の人たちだねぇー」
由里子「松山久美子さんはどちら?」
久美子「松山です、なにか?」
由里子「この冊子を届けにきたじぇ」
優「その薄い冊子なぁに?」
由里子「見ればわかるから」
比奈「ミスコンの開催要項でス」
久美子「なんだ、もったいぶるから変なものだと思っちゃった」
優「変なってなにー?」
由里子「わかるってことは、松山さんはもしかして」
久美子「違うからね?」
由里子「残念だじぇ……」
比奈「当日の流れを確認しにもう一回来まス」
久美子「わかったわ。お疲れ様」
比奈「それじゃ、これで失礼するっス」
由里子「失礼しましたー」
優「文化祭楽しみだねぇ♪」
時子「ええ。プラカードでも持っていきましょうか」
久美子「審査員だからね?」
優「わかってるってぇ♪当日はエントリー者の誰よりも綺麗にメイクするから、任せて☆」
久美子「優ちゃんは、台無しにしたいの?」
時子「誰よりも綺麗を否定はしないあたりが久美子ね……」ボソリ
64
夜
CGプロ・レッスンルーム
恵磨「こんばんはっ!」
CuP「恵磨ちゃん、お疲れ様。レッスン参加できそう?」
恵磨「うん。来れないときは誰かに連絡するから」
CuP「ありがとう。助かるよ」
恵磨「音葉ちゃんは?」
CuP「音葉ちゃんは午前中のレッスンにはいたよ。そこからは知らない」
恵磨「あ、そうなんだ。はぁとさんは?」
CuP「はぁとちゃん?美穂、知ってるか?」
美穂「はい?あ、恵磨さん、こんばんは」
恵磨「こんばんは。はぁとさん、どこにいる?」
美穂「今日は部屋にこもりきりだったような」
心「やっほー☆」
恵磨「あ、来た」
CuP「夜の部は3人だけか。美穂だけじゃ心細かったし、来てくれて助かるよ。な?」
美穂「……はい」
恵磨「はぁとさん、今日は何してたん?」
心「レッスンが終わるまでの内緒☆」
CuP「よし、遅くならないうちにはじめるか。着替えておいで」
65
CGプロ・事務所
恵磨「また……絵本が落ちてるんだけど」
心「うーん、あいつら知能あるのかなぁ?」
恵磨「あると思う?」
心「あったところで、どうするの?」
恵磨「そうか……」
ちひろ「お疲れ様です。お茶をどうぞ」
心「ありがとー☆」
恵磨「いただきます。ちひろさん、最近変わったことあります?」
ちひろ「そうですねぇ、特にはありません。音もしなくなりました」
心「結局設備の問題かぁ」
ちひろ「そうみたいですね。まだ怪談話は残ってますけど」
恵磨「ソファーの下の男とか?」
ちひろ「皿を数える話とお菓子がなくなる話ですね」
恵磨「気をつけといたほうがいいかも」
ちひろ「はい。アイドル達にも言っておきますね」
恵磨「お願いします」
心「さて、帰りますか☆恵磨ちゃん、行こう」
恵磨「わかった。それじゃ、失礼します、ちひろさん」
ちひろ「はい。また明日」
66
女子寮3階・魔法使いの部屋
心「よしっ、型はこんな感じでいい?」
恵磨「うん。かなりぴったりだね」
心「ぴったりに作らないと体を痛めるからね。足のサイズも測るねー」
恵磨「足?」
心「ブーツも作らないと跳べないでしょ?」
恵磨「跳ぶ?」
心「色とか指定ある?」
恵磨「色?目立たない方がいいんじゃないの?」
心「何を言ってるのっ☆」
恵磨「へっ?」
心「アイドルが着るのはステージ衣装☆デザインに何か指定ある?露出は色々な意味でダメ☆」
恵磨「そういうものなの?それじゃあ……」
カクカクジカジカ
心「ふむふむ。なるほど、恵磨ちゃんっぽくていいよ☆」
恵磨「これに、魔法がかかるんだ……」
心「そうそう、呪文は何がいい?」
恵磨「呪文?」
心「いつでも魔法が稼働してたら使いづらいでしょ?」
恵磨「ああ、はぁとさんがキャストって言ってる、あれ?」
心「そうそう。何がいい?」
恵磨「急に言われても、思いつかないや」
心「じゃ、勝手に考えておくねー」
恵磨「じゃあ、お任せで」
心「任された☆」
恵磨「ねぇ、はぁとさん」
心「なにー?」
恵磨「聞きたいんだけどさ、部屋を見る限りさ、凄い技術もってるでしょ?」
心「いやん、褒められてるぅ」
恵磨「どうして、アイドルになったの?ちゃんと手に職あるのに」
心「うふふ……それはねぇ」
恵磨「なに?」
心「ヒ・ミ・ツ☆」
恵磨「えー、教えてくれてもいいじゃん!」
心「ヒミツですー。恥ずかしいんだよ☆」
恵磨「ぶーぶー」
心「明日も来る?」
恵磨「こうなったら最後まで付き合うよ」
心「頼もしい☆」
恵磨「黒い影の発生源、突き止めないとね」
心「もちろん。だって……」
恵磨「だって?」
心「はぁとは正義の魔法使いだから♡」
67
10月11日(金)
CGプロ・レッスンルーム
PaP「お皿を数える?」
恵磨「そうそう、聞いたことある?」
PaP「いやー、俺霊感とか全くなくてさ」
心「プロデューサーは警戒心が足らなすぎるんだぞ☆」
PaP「そうですか?」
心「スキあり過ぎ」
PaP「ナナさん、そうなの?」
菜々「そうですねぇ、思い当たる節はいくらでも」
PaP「むっ、悔い改めます」
心「なんで担当アイドルの言うことは信じないのかな?」
恵磨「色々と心当たりが……」
コトン……
菜々「あれ?」
恵磨「何か音がした、よね?」
PaP「そうですか?」
心「言ってるそばから、聞いてないでしょ」
恵磨「ちょっと、見てくる」
心「待って、はぁとも行くー☆」
68
CGプロ・4階倉庫
心「音の原因はこれかな?」
恵磨「仁美ちゃんが置いていったフィギュアだね。倒れたみたい」
心「それの原因は……」
恵磨「窓が開いてる」
心「よいしょっと☆」
恵磨「何かいる?」
心「黒いのが一匹。よし、捕まえた☆悪霊退散☆」
恵磨「原因はそれみたいだね」
心「うーん、恵磨ちゃん、こいつどっから来た?」
恵磨「外から……じゃないの?」
心「窓、開けた?」
恵磨「いいや、開けてないと思う」
心「窓を開けるくらいの知性はあるみたい。ここ見て」
恵磨「濡れてるね」
心「そういうこと。ということは?」
恵磨「中から開けた」
心「イエス。つまり、この部屋に発生源がある」
恵磨「探しちゃおう、すぐに」
心「さて、どこを探す?」
恵磨「うーん……発生源って何?」
心「わかんない。怪しものがあったら、言って」
恵磨「よしっ、とりあえずこのキグルミの山から行こう」
ガタガタ
心「そのクマのキグルミ、動いたよね?」
恵磨「うん。顔、外すよ」
心「お願い」
恵磨「よいしょっ!」
心「これか……」
恵磨「何これ、穴?」
心「穴が空中に浮いてるとか、おかしいでしょ」
恵磨「うわっ、黒い小さいのが出てきた」
心「押し込んじゃえ!」
恵磨「本当に押し込まれた……」
心「どっかとつながってるのかな?」
恵磨「優ちゃんの話だとそうみたい。ゴミでも投げてみようか、それっ」
心「飲み込まれたね……やっぱり繋がってる」
恵磨「これが発生源?」
心「でも、小さすぎる」
恵磨「広がらないみたいだから、このサイズしかないのかな」
心「とりあえず、保留で。誰かを呼べる?」
恵磨「楓さんに連絡してみる」
心「とりあえず、ビニール袋で閉じ込めて……これ動かせるんだ……」
恵磨「どうする?」
心「他の人には秘密で」
恵磨「了解。音の原因は風でいい?」
心「いいよー☆窓が開けっ放しだったぞ、で」
恵磨「よし、レッスンに戻ろう」
69
CGプロ・事務所
恵磨「ちひろさーん」
ちひろ「あら、恵磨ちゃん。どうしました?」
恵磨「発砲スチロールのケースとかあるかな?」
ちひろ「ありますよ。待っててくださいねー」
スカウト「発砲スチロールなんて、何に使うんだい?」
心「スーさん、お疲れ様です」
恵磨「荷物を運ぶから」
心「ちょっと濡れてて」
スカウト「ふーん、まぁいいけど」
ちひろ「これなんかどうでしょう。社長が鮭児を頂いた時のです」
恵磨「大きさ的には十分かな」
心「ちひろさん、ありがと☆」
スカウト「ちひろちゃん、ボクも探し物があるんだけど」
ちひろ「何ですか?」
スカウト「ボクのオヤツ知らない?」
ちひろ「オヤツ、ですか?」
スカウト「デスクに置いておいたんだけどさ、無くて」
恵磨「どんなお菓子?」
スカウト「ゼリーだよ。パックで飲むやつ」
心「しまっておかないのが悪い☆」
スカウト「一刀両断は酷いなぁ、はぁとちゃん」
ちひろ「名前を書いておくべきでしたね」
スカウト「そーいうことか。まっ、いっか。ボクに食べられるよりもアイドルに食べられた方が本望だろう」
恵磨「そうなの?」
スカウト「そうだろ」
心「それじゃ、これにてドロン☆」
スカウト「どこで覚えたが知らないが古い」
心「てへっ☆」
恵磨「はぁとさん、行こっ」
70
夜
出渕教会・地下2階
クラリス「お待ちしておりました」
美由紀「こんばんは」
裕美「心さん、来てくれたんだ」
心「前置きはなくていいっしょ、とりあえず見て」
恵磨「これ、なんだけど」
裕美「これ……」
クラリス「どのようなものなのですか?」
美由紀「なにかねー、穴があるよ」
裕美「根高公園で見た、どこかとつながってる穴と同じ……?」
クラリス「そうですか。どちらで?」
恵磨「Zビルの倉庫で」
クラリス「この前の、ですね」
心「事務所で怪奇現象が起こってる理由の大半はこれだと思う」
裕美「ここから、黒い影が出てくる」
美由紀「今も何か動いてるね」
クラリス「ですが……妙ですね」
恵磨「妙?」
クラリス「これであれば、すぐに見つかってもよいかと」
心「移動させてたんだよ。たまたま先に見つけられた」
恵磨「アタシ達でも運べるくらいだから、簡単だと思う」
裕美「バックにも入るくらいだから、簡単だよね」
クラリス「ならば、問いましょう」
恵磨「何を?」
クラリス「移動させているのはどなたでしょう」
心「……」
裕美「これを作った人……?」
クラリス「それが同じかどうか、私にはわかりません」
恵磨「あそこに出入りできるのってさ」
クラリス「物事は想像よりも単純かもしれません」
心「……事務所の誰か」
クラリス「はい。これについては私達で調べておきます」
恵磨「アタシ達は犯人を捜す、と」
クラリス「くれぐれもお気をつけて。神のご加護を」
71
10月12日(土)
夕方
SWOW部室
恵磨「今のところ、こんな感じ」
時子「犯人、ね」
亜里沙「その発生源を持っている人が犯人?」
恵磨「持ってるというか、利用してる犯人がいる」
優「本当に利用してるのかなぁ……」
恵磨「優ちゃん、それどういう意味?」
優「作った人は、その悪い人だよ、きっと」
亜里沙「……」
時子「使えるとして、何をしてるのかしら」
恵磨「それが良くわからないんだよね」
亜里沙「起こったところで怪奇現象くらいだものね。実害があるかといえば」
時子「あまりないわね」
恵磨「黒い影がいつ誰を襲うか、わからないのが問題かな」
時子「ええ。今日の事務所の様子は?」
恵磨「平和だったよ。特に何もなかった」
優「犯人に気づかれてるよねぇ、持って行ったの」
時子「でしょうね。それでいて、動かない」
亜里沙「無くなったら諦める程度のものしかなかった、のかな」
恵磨「うーん」
優「問題はぁ、どこでそれを手に入れたかだよね」
時子「その通り。まずは、事務所内の犯人を見つけること」
亜里沙「そこから、次へと結びつけないと」
恵磨「わかった。やってみる」
亜里沙「気をつけてね」
恵磨「うん。それでさ、これあげるよ」
優「なに、パンフレット?」
恵磨「そう。イベントのやつ。良かったら来て、だってさ」
時子「他人事ね」
亜里沙「スケジュールを開けとかないとね」
優「がんばってねぇ♪」
72
10月13日(日)
CGプロ・会議室
CuP「全体ミーティングはこれで終わり。何かありますか?」
社長「ないようなら終わりだな。あと2週間だ、全力でいこうじゃないか。以上、解散」
恵磨「意外と本番早いね」
心「2週間もあれば良い方にぃ、ってきらりさんが」
恵磨「売れっ子は大変なんだ」
音葉「ええ……前日のリハーサルで何とか追い込むという形ですね」
心「アイドルも肉体労働☆体力をつけとかないとね」
かな子「恵磨さーん、PaPが呼んでますよー」
恵磨「はーい。それじゃ、また」
心「恵磨ちゃん、今日はよろしく」
恵磨「わかった。夜にね」
音葉「何か……あるのですか?」
恵磨「なんでもないよ。それじゃ、行ってくるね」
音葉「……」
73
CGプロ・レッスンルーム
美玲「がおーッ!」
恵磨「それ、衣装?」
美玲「そうだぞ、怖いかッ!」
恵磨「うんうん、凄い怖いよー」ナデナデ
美玲「だから、なんで撫でるんだッ」
CuP「よいしょ、っと。恵磨ちゃん、ちょっと来て」
恵磨「はいっ。なんですか?」
CuP「衣装合わせてもらえる?」
恵磨「あれ、もう来たの?」
CuP「実は余分に頼んでたやつなんだけどさ」
恵磨「おお、魔法使いの衣装だ」
CuP「うん。後、お願いがあるんだけど」
恵磨「なに?」
CuP「里美ちゃん、更衣室から出てこないんだよね」
恵磨「着替えに戸惑ってるのかな?」
美玲「ほぇぇ、って言ってるに違いないゾ!」
CuP「里美ちゃん、のんびりしてるからね。着替えのついでに見てきてくれる?」
恵磨「はーい。行ってくるっ」
74
CGプロ・更衣室
恵磨「里美ちゃん、いるー?」
恵磨「いないのかな?」
恵磨「って!倒れてる!?」
恵磨「里美ちゃん、大丈夫!?」
里美「うう……」
恵磨「良かった意識がある、どうしたの?」
里美「ほぇ……そこに」
恵磨「そこに?」
里美「……あれ?」
恵磨「なんだっ、何もないよね……?」
里美「ううーん、わからなくなりましたぁ」
恵磨「とりあえず、休もうか」
里美「はいぃ」
恵磨「凄くセクシーなことになってるから、衣装をちゃんと着てからね……ボタンも掛け違えてるし」
75
CGプロ・更衣室
恵磨「うーん、何もないよなぁ……」
音葉「恵磨さん……」
恵磨「音葉ちゃん、里美ちゃんの様子は?」
音葉「大丈夫です……少し頭を打ったようなので、しばらく安静に」
恵磨「そう。無事ならいいんだ」
音葉「それでなのですが……」
恵磨「なに?」
音葉「里美さん、自分の衣装の裾を踏んで転んだみたいです……」
恵磨「はい?」
音葉「裾が汚れていました……何かを見たのも勘違いかと」
恵磨「あー、そういうことか」
音葉「恵磨さん、それで」
恵磨「なに?」
音葉「衣装……お似合いですよ」
恵磨「音葉ちゃんこそ」
音葉「……ありがとうございます」
恵磨「皆で衣装合わせしてるから、先取りした気分だよねっ」
音葉「ええ……」
恵磨「よし、気を取り直してやろうか」
音葉「はい……行きましょうか」
76
CGプロ・レッスンルーム
卯月「あ、い、う、え、お、あ、お、あ、い、う、え、お。はい!」
未央、凛「あいうえおあおあいうえお!」
恵磨「発声練習してるね」
CuP「持ち回りでステージの司会があるから、3人は特に多いし」
菜々「こういう時こそ、基本からですね!卯月ちゃん達、ナナも入れてくださーい」
恵磨「へー」
CuP「恵磨ちゃんはさすがに司会はないけど、こういう仕事もしてみたい?」
恵磨「まだ、全然思いつかない」
PaP「恵磨ちゃーん」
恵磨「あっ、PaP。衣装どうかな?」
PaP「似合ってるよ。サイズどう?直すなら心ちゃんに急ぎで依頼かけるけど」
恵磨「大丈夫。問題ないよ」
PaP「そう?」
恵磨「そっちの用事はなんなの?」
PaP「タイムスケジュールの打合せするから、来て」
恵磨「はい」
PaP「後は美穂ちゃんと鈴帆ちゃんか。恵磨ちゃんは先に会議室に行ってて」
77
夜
女子寮3階・魔法使いの部屋
恵磨「うおー、頭パンクしそう」
心「覚えること多いもんねー☆」
恵磨「これを少ない日数で叩き込むのか、プロって凄い」
心「ねー。よし、できた☆」
恵磨「出来た?」
心「それじゃ、試着してみて」
恵磨「これが、魔法の衣装?」
心「パンツスーツにしてみた。どう?」
恵磨「黄色にしてくれたんだ」
心「恵磨ちゃんのイメージはやっぱり黄色だからね☆はい、グローブ、ブーツ、キャップ、ゴーグルもいる?」
恵磨「準備いいねっ。全部お手製?」
心「ゴーグル以外は。がんばっちゃったぞ☆」
恵磨「イベントの衣装も貰えたし、いい日になるかな」
心「それは、夜に何も出なければ。さっ、仕上げをするから着てみて☆」
恵磨「オッケー。あ、それで」
心「なにかなぁ?」
恵磨「呪文はどうしたの?」
心「エクスプロージョン」
恵磨「爆発?」
心「そんな感じ。どう?」
恵磨「いいねっ!気合入りそう!」
78
夜
女子寮付近の公園
心「調子は?」
恵磨「悪くない。つーか凄いね、これ」
心「ムリすると体にダメージがくるぞ☆」
恵磨「ホント、想像以上に動くからね」
心「うん、少しずつ慣らしていって」
恵磨「でも、今日はムダだったみたい」
心「あれを見つけてから、平和そのもの」
恵磨「つまり……」
心「行動を控えてる」
恵磨「そういうことだよね」
心「……行動が控えられる」
恵磨「湧き出してるだけじゃない……」
心「ヘッドがいる」
恵磨「犯人が操ってるのかな」
心「……わかんない」
恵磨「見つけだすしかないか」
心「後は対処療法かな」
恵磨「見つけたら、倒していく」
心「そういうこと。イベントまでに解決すればいいけどね……」
恵磨「そうだね」
心「さて、戻って寝よう☆明日からもがんばるんだぞ☆」
79
幕間
10月14日
ここではないどこか。この世界のどこか。
知らない土地知らない人知らない空知らない気持ち。
麦畑は黄金の海。豊饒の海。豊かな世界。
だと思っていたけれど。
何もかもが類似品の重ね合わせ積み合わせ何度も何度も繰り返してきた愚かさの山。
いつか見た景色どこかで感じた気持ち同じ罪違う人同じ生物同じ争い。
生まれた世界しばりつける制限動けない花その場所で咲けと人はいい加減なことを言う。
だから楽しいことを。
混じり合った反応混雑が生む美混沌夢にまで見た異世界をここではないどこかを。
海の底暗い底綺麗だね褒め言葉歌声あなたを狂わせてナイフの痛み泡になって消えて。
そうそう。そうなると、楽しいよね。
だから、可愛いお姫様。
あなたのお願いはなにかな?
幕間 了
80
10月15日(火)
夕方
CGプロ・レッスンルーム
PaP「よし、成人組はこれで終わり。お疲れさん」
心「お疲れさまっした☆」
恵磨「お疲れさまっ!」
菜々「はぁ、はー、お疲れ様ですっ」
恵磨「音葉ちゃん、大丈夫?」
菜々「少し熱があっただけなので、一日安静にしていれば大丈夫ですよ。帰ったらナナが様子を見てきますね」
恵磨「ありがと、ウサミン」
バターン!
PaP「ドアは静かに開いて」
心「鈴帆ちゃんだ、やっほー☆」
鈴帆「みんな……これを見るばい!」
菜々「これはバルーンの写真ですか?」
恵磨「結構大きそうだね。ハロウィンパンプキン?」
鈴帆「ウチのデザインが通った特製バルーンばい!」
PaP「あ、それできたんだ」
恵磨「デカッ!縦で10m近い、スゲェ!」
菜々「会場も大きいですからねー。鈴帆ちゃん、よかったですね♪」
鈴帆「レッスンにも一層熱が入るばい。プロデューサー、今日はやる気たい!」
PaP「やる気があっていいね。着替えておいで」
鈴帆「もとよりその気たい!」タッタッタ
菜々「いいですねぇ♪楽しそうな雰囲気、ナナは大好きです♪」
恵磨「そうだねっ」
心「皆のアイディアを反映させてくれるの嬉しいよね☆」
PaP「おかげでCuPがよく唸ってますけどね」
菜々「ふふ、よく見ますよー。クマみたいな唸り声あげてます。ちょっとカワイイんですよ」
恵磨「そうなんだ」
PaP「CuPのためにも協力しないといけな……」
キャー!
恵磨「悲鳴!?」
菜々「ちひろさんの声です!な、何があったんですか!?」
恵磨「事務所にいるよねっ!見てくる!」
81
CGプロ・事務所
恵磨「ちひろさんっ!」
心「どうしたの!?」
ちひろ「そ、そこに。人間の手が……」
恵磨「ソファーの下?」
心「気をつけて、よし、行くぞ☆」
PaP「待って、危ない……あれ?」
恵磨「誰もいないよ」
心「いないね☆」
ちひろ「あれ……確かにそこにいたと思うんですけど」
PaP「何かを見間違えました?」
ちひろ「そんな、確かに……」
双葉杏「ふあああ……なにー、みんなうるさいよー」
双葉杏
CGプロ所属アイドル。だらだら妖精。
菜々「杏ちゃん、いたんですね」
PaP「むしろいるなら、レッスン受けてくれ」
杏「えー、杏は皆に譲るよ」
ちひろ「それより、杏ちゃんは不審者を見ませんでしたか!?」
杏「不審者……いないんじゃないかなぁー」
心「やっぱり見間違い?」
ちひろ「そうなんですかね……でも、確かに細くて白い手が伸びてて」
恵磨「細くて白い手?」
菜々「どうしたんですか、恵磨ちゃん」
恵磨「えっと、杏ちゃん」
杏「なにー、もしかして飴をくれるの?持って来たの床に転がっていっちゃってさー」
恵磨「どこに?」
杏「そのソファーの下」
心「……ってことは」
PaP「杏ちゃんなら簡単に潜れるのか、そこ」
恵磨「不審者、杏ちゃんだね」
82
CGプロ・事務所
ちひろ「はぁ、驚きました……」
菜々「でも、何事もなくてよかったです」
恵磨「夏は床が涼しいとか、きらりんは足元が見にくいとか」
心「自白がでるわでるわ、ってとこ」
ちひろ「面倒だから事務所に泊まったり、飴玉を拝借してたりもしていみたいですし……」
菜々「本当に妖精さんみたいですねぇ」
心「杏ちゃんは注意も込めて強制レッスンだから、今後は大丈夫かなぁ?」
ちひろ「気をつけます」
恵磨「でも、取ってたのは飴玉だけだよね?」
心「うん、他にもいるかもね。お菓子に関しては」
ちひろ「とりあえず、不審者がいないようなので」
菜々「はいっ。お菓子を取っていく妖精さんは叱っておきますからね」
心「……」
83
夜
SWOW部室
亜季「これだから、自分が主流派と思い込んでる人間はタチが悪いであります」
惠「亜季ちゃん、今なんて言ったのかしら」
亜季「玲音ファンは尊大だと、申しただけであります」
惠「なんですって!?」
恵磨「ただいまっ!……ってなにこの雰囲気」
時子「お帰りなさい、恵磨」
恵磨「亜季ちゃんと惠ちゃんが睨みあってるけど……ケンカ?」
亜里沙「(そこでパンチウサー!)」
時子「大したことないわよ。そうよね、亜里沙」
亜里沙「はい。たまには言わせておきましょう」
恵磨「亜里沙ちゃんが言うなら、何の問題もないよね」
時子「ええ。理由が思い出せないくらい、深い理由はないわ」
亜季「おや……恵磨殿が帰ってきたようでありますな」
惠「そうみたいね……」
恵磨「こっちを見てるのが怖いんだけど」
亜里沙「(ブルブル、怖いウサー)」
亜季「恵磨殿、お聞きしたいであります」
恵磨「何を?」
惠「CGプロのハロウィンイベントのゲスト、誰なの?」
恵磨「へっ?」
亜里沙「そうそう、ここから始まってあーでもないこーでもないとか言ってたらこんな感じになったんですよ」
時子「想像以上にくだらないでしょう」
恵磨「た、確かに」
亜季「それで、どうなのでありますか?」
惠「知ってるでしょ?」
恵磨「知ってるけどさ、秘密だよ」
亜季「ふむ。では、どのランクでありますか」
惠「ええ、それで手打ちにしましょう」
恵磨「とりあえず、玲音じゃないよ」
惠「わかってるわ。無料入場だもの、死者が出るわよ」
亜季「ムッ」
恵磨「まぁ、来てみて。損はないよ」
亜季「わかったであります」
惠「ええ、楽しみにしてるわ」
恵磨「これで合ってたの……?」
時子「いいんじゃないかしら。いつも通り話始めたわよ」
亜里沙「これはこれ、それはそれ。大丈夫よね、ウサコちゃん。(ウサー!)」
恵磨「それならいいけどさ」
時子「何か進展はあったかしら?」
恵磨「ソファーの下の男の話は解決したよ」
亜里沙「原因がわかったんですか?」
恵磨「うん。単純にとある子が潜んでた」
時子「そう。単純なものね」
亜里沙「残ったのはどの話?」
恵磨「あとは顔の窓と黒い影かな。黒い影が最有力課題」
時子「でも、黒い影は最近見ないのよね」
恵磨「うん。でも、まだ安心はできない」
時子「ええ。困ったことがあったら、連絡なさい。いいわね?」
恵磨「わかってるよ、時子ちゃん」
84
10月16日(水)
夜
女子寮付近の公園
心「今日も平和、いいこといいこと」
恵磨「本当にいないよね」
Invade!
恵磨「電話だ。もしもし!」
心「だぁれ?」
恵磨「裕美ちゃんだ、どうしたの?」
心「裕美ちゃん、なにかな?」
恵磨「わかった。すぐ行くっ!」ピッ
心「なに?」
恵磨「黒い影が出たって」
85
某ビル街
裕美「心さん、恵磨さん、こっち」
心「黒い影は?」
裕美「ごめんなさい、退治しちゃった」
心「大きさは?」
裕美「小さかった。手のひらより大きいくらい」
恵磨「ケガはない?」
裕美「大丈夫。それより……」
心「急にここに現れたね、なんでこんなところに……?」
恵磨「この辺ってなにかあるっけ」
裕美「これ、見つけたの」
恵磨「発生源……」
裕美「クラリスさん達はホールって名前つけてた」
心「このホールが発生源?」
恵磨「どこにあったの?」
裕美「ここのビル。勝手に入っちゃって怒られないかな……?」
心「見つけ出せなければへーきへーき☆」
恵磨「何階?」
裕美「これが落ちてたのは4階」
恵磨「ビル名わかる?」
心「これかな」
恵磨「4階は……ん?」
裕美「どうしたの?」
恵磨「業務はビル設備点検……」
心「入れた人間がいた……ってことか」
恵磨「裕美ちゃん、連絡ありがとう」
裕美「私は平気だけど、大丈夫なの?」
心「ごめん、協力をお願いしていい?」
裕美「うん。何をすればいいの?」
心「夜になったらこの辺のパトロールをお願い」
裕美「任せて」
心「今度、お洋服あげるから」
裕美「本当?やった、心さんの服大好きなんだ」
心「裕美ちゃんは可愛いから作り甲斐があるよー」
裕美「……そんな、心さんのお洋服が可愛いだけだって」
恵磨「そんな、可愛いって」
心「わかった、恵磨ちゃん?」
恵磨「アタシが何を?」
心「なんでもない。でも、これで怪しいところが増えたよね」
恵磨「うん」
心「怪しいのは事務所の点検に来た業者」
86
10月17日(木)
昼
SWOW部室
恵磨「連絡ありがとうございます、ちひろさん。夜にまた行きます」ピッ
時子「業者についての連絡かしら」
恵磨「そうだった。作業は全部付き添ってて、変なものを置くような場所も時間もなかったって」
久美子「作業員にも聞いてみたの?」
恵磨「うん。名刺を二人からもらってるから、すぐに連絡が取れたって」
時子「そっちからも裏付けが取れたのね」
恵磨「そういうこと」
久美子「なら、なんでそんな場所に現れたのかしら」
時子「誰かが意図的に、ホールを置いた」
恵磨「何のために?」
久美子「ミスリードのため」
時子「そう考えるのが妥当でしょうね。あからさますぎるわ」
恵磨「それなら、犯人は」
時子「事務所内にいると考えるのが妥当でしょうね」
恵磨「やっぱりそうか……」
時子「管理会社の方はこっちで調べてみるわ」
恵磨「お願い」
久美子「恵磨ちゃん、時間大丈夫?」
恵磨「しまった!ゼミの時間だ、行ってきますっ!」
時子「いってらっしゃい」
87
夜
CGプロ・給湯室
恵磨「ごめんねっ、付き合ってもらって」
音葉「いえ……私も確認ができて助かります」
恵磨「熱は大丈夫?」
音葉「ええ……よくなりました。お気遣いいただきありがとうございます」
恵磨「このお茶飲んだら帰ろっか」
音葉「あの……恵磨さん」
恵磨「なに?」
音葉「昨日……何かありましたか?」
恵磨「何にもないよ。どうしたの?」
音葉「いえ……調査はどうでしょうか?」
恵磨「後はこの給湯室周りの話だけなんだよね」
音葉「顔が映る……と」
恵磨「映るのかなぁ……」
音葉「……」
恵磨「……」
音葉「そう上手くは……」
恵磨「あっ」
音葉「えっ……」
恵磨「顔、映ったよね」
音葉「ええ……ですが」
恵磨「幽霊じゃないよね」
音葉「はい……どこかから反射しているような」
恵磨「反射するような場所は、隣のビルの窓かな」
音葉「そこの窓に人が立っても映りませんよね」
恵磨「うん。そこに映ったのが見えてる、ということは」
音葉「こっちのビルですね」
恵磨「ちょっと訪ねてくる。ここで確認してて」
音葉「はい……お願いします」
88
CGプロ・給湯室
恵磨「これでわかったね」
音葉「はい……上のテナントですね」
恵磨「かなり近くに立たないといけないし、前のビルの窓側に電気がついてたらそもそも映らない」
音葉「幽霊では……なかったのですね」
恵磨「うん。後は」
音葉「皿を数える……怪談ですか」
恵磨「給湯室についてはそうだね」
音葉「何だと……思いますか」
恵磨「わからない。本当に気のせいかも」
音葉「……そうでしょうか」
恵磨「実害は起こってないし、ゆっくり行こう」
音葉「……はい」
恵磨「よし、帰ろうか」
音葉「ええ……」
恵磨「ラーメンでも食べてく?」
音葉「遠慮しておきます……」
89
10月18日(金)
CGプロ・トレーニングルーム
菜々「反射だったんですかぁ!?」
恵磨「うん」
菜々「ふー。なんだか安心しました。今思うと、見たことあるような顔だったような」
恵磨「うん。映った張本人とも会えたしさ」
菜々「でも、これでほとんど解決かな?」
恵磨「後はかなり怪しいのが二つ」
音葉「お菊さんと……黒い影の話ですね」
菜々「むー。一筋縄には行かなそうですねぇ」
心「まぁ、ぼちぼち解決してくっしょ☆」
CoP「おはよう」
恵磨「おはようございまっす!」
CoP「さて、始めるか」
90
夜
根高公園
涼「なんで急にこんなところに出てくるんだろうな?」
小梅「もしかして……まだホールが残ってた?」
涼「可能性はあるな。裕美に電話してみる。ちょっと待っててくれ」
小梅「うん……待ってるよ」
涼「そっちはどう、裕美?何もないか。わかった。ありがとよ」
小梅「なにもなかった……?」
涼「ああ。今夜、黒い影が出たのはここと」
小梅「心さんのところ……だけ」
涼「ホールを探そう、小梅」
小梅「うん……みんな、協力して」
91
某ビル街
恵磨「うおりゃぁぁぁあ!」バチーン!
心「はーい、ナイスパンチ☆」
恵磨「よっしゃ」
心「慣れてきた?」
恵磨「だいぶ。それなりには」
心「よしよし、仲間が増えて頼もしいよ☆」
恵磨「でも、今日はこれで3匹目」
心「多いよね」
恵磨「そうだね。根高公園の方にも出たみたいだし」
心「根高公園は何回か出てるから、ホールがあるのかもね」
恵磨「こっちはどうだと思う?」
心「結構大きめだから、本丸かも」
恵磨「それじゃあ、追っていける?」
心「ムリ。たぶん、トカゲの尻尾切り」
恵磨「そっか」
心「やっぱり、なんかいるよね」
恵磨「目的は何なんだろ……?」
心「わかんない。水を集めるのが目的かと思ってたけど、そうでもないみたいだし」
恵磨「仮にさ」
心「なに?」
恵磨「事務所の誰かが犯人だとして、何の意味があるの?」
心「黒い影を使うと何かメリットがあるとか?」
恵磨「あるの?」
心「ないよね。あいつら不気味なだけで使い物にならないし」
恵磨「ますますわからないよね」
心「動機で追えないからこそ、ゲンナマで抑える。簡単っしょ?」
恵磨「簡単に言うなぁ」
心「やってみたら案外簡単だったり」
恵磨「あはは、そうかも」
心「よし、お仕事完了☆明日もよろしく☆」
恵磨「了解、はぁとさん」
92
10月19日(土)
SWOW部室
優「やっほー♪」
惠「優ちゃん、こんにちは」
優「あれぇ、惠ちゃんだけ?」
時子「私もいるわよ」
優「そんなところで、何してるの?」
時子「やっと見つけたわ。亜季は物を積み過ぎよ」
惠「何を見つけたの?」
時子「これ、よ」
優「トロフィー?」
惠「誰か優勝したかしら?亜季ちゃん?」
時子「違うわ、久美子よ」
優「あっ、ミスコンのトロフィー?」
時子「そうよ。久美子が当日に亜季のプラモデルと並べて、そのまま」
惠「久美子ちゃんらしいわね」
優「思い出したから掘り起こしてみたの?」
時子「そうね。深い意味はないわ」
惠「他にも埋まってそうね、亜季ちゃんの山」
時子「後で、掃除が必要ね」
優「みんなでやろうよ、楽しいよぉ♪」
時子「……そうね」
優「そういえばぁ、恵磨ちゃんは?」
惠「今日もレッスンに行ってるらしいわね」
優「やる気になったんだねぇー。CD返そうと思ったのに」
時子「何を聞いてるの?」
優「これこれー♪響ちゃんのCD、時子ちゃんも聞く?」
時子「辞めておくわ」
惠「やよいちゃんの曲、聞いてるのにねー」
時子「えっ?」
惠「どうしたの、時子ちゃん」
時子「どうして、知ってるの……?」
優「本当なの?」
惠「……あ」
時子「なんで、そっちが苦虫をかみつぶしたような顔してるのよ」
惠「もう……」
優「時子ちゃん、あたしはわかってるからね!大丈夫だからっ!」
時子「優は口調もテンションもおかしすぎるわよ」
93
CGプロ・レッスンルーム
輝子「フヒ……」
スカウト「ショーコちゃん、準備はいいかい?」
輝子「……あ、マイクの電源……入ってない」
恵磨「大丈夫なの?」
心「大丈夫大丈夫☆」
美嘉「輝子ちゃんはスイッチ入れば凄いから★」
スカウト「とりあえず、音楽スタート」
輝子「ま、待ってくれよ……」
莉嘉「輝子ちゃーん、がんばれー」
恵磨「……」
輝子「フヒヒ……」
未央「おっ?」
輝子「ヒャッハー!ハロウィンに浮かれてるリア充ども!かかってきやがれぇ!」
しばらくお待ちください。
輝子「フヒ……疲れた」
心「輝子ちゃん、さっすがー☆」
スカウト「こんな感じだから。当日フォローよろしく」
輝子「……」ペコリ
スカウト「ボクからは以上。がんばって。それじゃ」
恵磨「……えっ、これだけ?」
美嘉「輝子ちゃんはアドリブ凄いから合わせこんでもムダなんだよねー」
心「スーさんも自由にやらせる主義だから、いつもこんな感じ」
恵磨「アタシ、どうしたらいいんだろ?」
未央「一緒にコールする?」
恵磨「あ、それならできる。むしろ完璧」
莉嘉「会場真っ赤になるんだってー☆怖がらせないと、ガオー!って!」
あやめ「あやめの出番と聞いて参りました!」
心「あやめちゃん、出るんだっけ?まっ、いっか☆」
輝子「フヒ……楽しい……」
94
CGプロ・レッスンルーム
菜々「美穂ちゃん、はいっ、こうです!」
美穂「は、はいっ!」
菜々「そうですそうです♪美穂ちゃんはさすがですねぇ♪」
美穂「ナナちゃんの方が凄いですっ。同い年で学生なのに凄いです!」
菜々「あ、あははは」
卯月「ナナちゃん、私にも教えてくださーい」
菜々「はいっ!」
恵磨「微笑ましいなぁ……」
CuP「仲良さそうで何よりだよ」
恵磨「ねー」
CuP「まだまだ小さい事務所だし、顔を合わせる機会も多い。そのうえ、イベント前だし」
恵磨「それが雰囲気良い理由?」
CuP「出来れば売れててほしいけど。ま、これからだ」
恵磨「うん。だから、まずはイベント?」
CuP「そういうこと。ナナちゃん、指導役代わるよ」
菜々「はいっ、プロデューサーさん」
美穂「プロデューサーさん、よろしくお願いします」
CuP「よーし、今日で大まかには仕上げていこう」
卯月「はい!島村卯月、頑張ります♪」
95
CGプロ・事務所
CuP「お疲れ様。これ、先にあげるね」
恵磨「なに?」
音葉「進行表でしょうか……」
心「おー☆」
CuP「進行表の決定版だ、何か質問ある?」
CoP「特になし」
凛「出番が多いね」
卯月「頑張ろうね、凛ちゃん」
PaP「オーケーです」
輝子「フヒ……」
スカウト「いいんじゃない」
社長「細かいところはアイドルと相談して、詰めていこう。明日の予定は?」
CuP「明日1時から全体でミーティングするから、ちゃんと来てね」
美穂「き、緊張してきました」
菜々「大丈夫ですよ、後一週間がんばっていきましょうね♪」
社長「さぁ、頑張っていこうじゃないか」
96
夜
某ビル街
楓「今日は一段と数が多いのでしょうか」ガブリガブリ
心「その通り」
恵磨「でも、小さい」
心「だから、まだ本丸じゃない」
楓「そのようですね。ごちそうさまでした」
恵磨「よし、今日のところはこれで終わりかな?」
心「そうだねー。あー、さむさむ」
楓「帰る前にひとつ、お願いが」
心「いっぱいやってく?」
恵磨「……」
楓「行きたいところはそこではありません」
心「なら、どこなの?」
楓「CGプロの事務所へ」
恵磨「事務所?」
楓「ええ。行きましょう」
心「いいけど……なんで?」
楓「理由ですか、ありませんけど」
心「……」
恵磨「まっ、とりあえず様子を見に行ってみようよ」
97
Zビル・CGプロ前
恵磨「あれっ、電気ついてるね」
楓「残業中でしょうか」
心「がんばりすぎなんだよ、うちの職員共は」
楓「行きましょう」
98
CGプロ・事務所
CuP「こんな時間に誰かと思った。どうしたの……さ」
楓「夜分遅く失礼します」
CuP「ねぇ、二人とも、この人……」
心「言いたいことはわかるけど」
恵磨「聞かない方がいいと思うよ」
楓「給湯室はこちらですか?」
CuP「ああ、そうだけど……」
楓「ありがとうございます」
CuP「……自由な人だなぁ」
恵磨「気にしてもしょうがないよ。うん」
CuP「そうするよ。ところで、何しに来たの?」
心「ランニングのついで☆PaPは帰った?」
CuP「ああ。休めるときには休まないとな」
心「CuPも無理しちゃダメだぞ☆」
CuP「大丈夫。今日は仮眠室に泊まらせてもらうけど」
恵磨「……」
いちまーい、にまーい……
心「え?」
CuP「なんだ……これ?」
恵磨「なんか、耳鳴りがするし……」
心「給湯室から……?」
恵磨「楓さん、給湯室にいるじゃん!」
楓「はい、どうかしましたか?」
さんまーい、よんまーい
心「あれれ?」
楓「どうやら、声の正体はこれのようですね」
恵磨「テープレコーダー?」
CuP「レコーダーというか再生機だ。どっからか拝借してきたやつかもしれない」
心「どこにあったの?」
楓「冷蔵庫の裏に」
恵磨「……もしかして、食べ物探してた?」
楓「ふふ」
心「笑ってごまかせる美人はずるいぞ☆」
楓「スイッチオフ」
心「音、止まったね」
恵磨「キーンっていう音も止まった」
CuP「古いテープみたいだし、ノイズが入ってたんだろうね」
恵磨「ああ、耳の調子が悪くなったわけじゃないんだ」
楓「ええ。ボタンが押されて、音がなったのでしょう。便利なことに再生が終了すると、巻き戻る機能がついています」
CuP「ボタンはどうやって押されたんだ?」
楓「水で濡れているので……」
恵磨「……シー」
楓「何かの拍子で入ったのでしょう」
CuP「ふーん。とりあえず、それは預かっておくよ」
楓「ええ。どうぞ」
恵磨「これでさ、怪談話はほとんど解決じゃない?」
心「うん」
楓「あとは影」
心「……そう」
CuP「影?何の話?」
恵磨「事務所で、黒い影とか見ない?」
CuP「いや、見ないな」
楓「良いことです。眠くなってきました。帰りましょう」
恵磨「そうだね、お邪魔しました」
CuP「ああ。明日もよろしく。PaPが言ってたけど、心ちゃんと恵磨ちゃんは午前中に来てね」
心「わかってるってぇ、おやすみなさーい☆」
CuP「おやすみ」
99
幕間
一歩進めてくれた、だから、認めて。
幕間 了
100
10月20日(日)
Zビル前
午前8時37分
心「おはよっ☆」
恵磨「おはよーございますっ!」
心「はー、朝が寒いわ」
恵磨「そう?」
心「恵磨ちゃん、体温高そうだもんね。羨ましい」
恵磨「これでも朝は低体温なんだよっ。起き抜けは本当に弱いんだから」
心「またまたぁ」
恵磨「ホントだって!」
心「はいはい。おはようございます☆」
恵磨「あれ、事務所は誰もいないね」
心「まだ、CuPは仮眠中かなぁ?」
恵磨「ちひろさんも土日はお休みだしね」
心「結構休日出勤してるけどねー☆ちひろちゃん、事務所とかアイドルとか大好きだもん☆」
恵磨「起こしても仕方がないし、レッスンルームに行こうか」
心「カギは、これっと☆」
恵磨「よし、行こうか」
心「恵磨ちゃんも慣れてきたよね☆」
恵磨「うん、なんとなくね」
心「恵磨ちゃんはライブとかしたら映えそうだよねー」
恵磨「ライブかぁ」
心「ほら、妄想し始めない☆」
恵磨「も、妄想なんかしてないし!」
心「そんな慌ててると説得力ないぞ☆」
恵磨「もー、はぁとさんは……ん?」
心「レッスンルームの扉が半開きだ、不用心☆」
恵磨「待って」
心「なに?」
恵磨「足元、なんで濡れてるの?」
心「……グローブはある?」
恵磨「グローブだけは」
心「着けて。キャスト」
恵磨「オッケー。エクスプロージョン」
心「行くよ、せーの!」
恵磨「はい!」バターン!
心「ひい……!血の海……」
恵磨「うっそ、でしょ……」
心「CuP……?」
恵磨「ひ、酷い……」
心「119番を……」
恵磨「……110番だと思う」
心「……なんで」
恵磨「この出血量じゃ生きてないよ……」
101
CGプロ・事務所
東郷あい「第一発見者の、佐藤心さんと仙崎恵磨さんで間違いないか?」
東郷あい
刑事課警部。眉目秀麗な女性刑事。
心「はい」
恵磨「はい」
あい「話を聞いてもいいかな?」
恵磨「大丈夫」
あい「ありがとう。自己紹介が遅れたな、刑事課の東郷だ。こっちは藤原君」
藤原肇「刑事課の藤原です。よろしくお願いします」
藤原肇
刑事課巡査。東郷あいの部下。
あい「順に聞いていくとしようか。まずは」
恵磨「ちょっと待って」
あい「何だね?」
恵磨「状況を教えて。さっきから完全に締め出されてるし」
心「妙に待たされてるしさ」
あい「もっともだな。藤原君、説明を」
肇「はい。死亡したのはCGプロダクションの職員の男性です」
あい「死因はおそらくショック死だ。痛みか失血によるものか、それを判断する意味はないだろう」
肇「腹部に大きな傷がありまして、床に臓器が散乱していました」
心「うぇ……」
あい「血はレッスンルームに大きく飛散している。派手にやられたようだな」
恵磨「……」
肇「昨夜、被害者は事務所にいたようです」
心「11時過ぎまでは生きてたのに……」
あい「そのようだな」
肇「翌朝、お二人が発見するまでに8時間。時間としては十分です」
恵磨「待って」
肇「なんでしょうか?」
恵磨「アタシ達、昨日のこと話したっけ?」
あい「ああ、すまないな。わかってるんだ。藤原君」
肇「はい。こちらを見てください」
心「タブレット?」
あい「監視カメラの映像だ。このビルには十分なほどに監視カメラがある」
恵磨「レッスンルームにも?」
肇「いいえ。そんな売れてしまう映像を取る意味はありません」
あい「とりあえずは、昨晩の映像だ」
肇「ビルを出入りした人物が3人います」
恵磨「アタシと心さんと、楓さんか」
あい「早送りを」
肇「はい。しばらく出入りはありませんが、深夜4時ごろ」
恵磨「CuPが出てきた」
あい「そもそも、どうやってレッスンルームに入った?」
心「カギを持ってたのは、CuPだから」
あい「その通り。カギは彼の服の中から見つかった」
恵磨「なんで……レッスンルームに?」
肇「何かの理由があって、彼は3階の事務所から4階に向かいました」
あい「この通り、レッスンルームへと入っている」
心「あれ……」
恵磨「ドア、ちゃんと閉めてある?」
肇「はい。今朝の状況と違います」
恵磨「……」
あい「死亡時刻だが、この後だ」
肇「血の凝固から判断されました」
心「誰も、入ってきてない……」
肇「はい」
恵磨「えっ、それじゃ、自殺……」
あい「命がいくつあってもあんな自殺はできんな。他殺だよ」
恵磨「犯人、入ってきてないじゃん」
肇「少なくともカメラがあるところからは入っていません」
心「そんなところあるの?」
あい「どこだっていいさ。窓からも入れる」
恵磨「だってカギ……」
肇「部屋に人がいました。被害者その人です」
あい「被害者が招き入れた、その可能性がある」
肇「窓から強引に入れば、警報がなります」
恵磨「……」
肇「続きを見ていきましょう」
あい「ここだ。扉が開く」
肇「既に被害者は亡くなっています」
恵磨「え……」
あい「犯人が開けたようだが、しばらく誰も出てこない」
心「あ……」
恵磨「黒い影が……」
肇「何かはわかりませんが、黒いものが扉から出てきます」
あい「すぐにカメラの視界がなくなる。止めてくれ」
肇「見えますか?」
恵磨「誰か……いる?」
あい「何かが動いてる。人のようにも見えるな」
肇「視界が悪すぎてはっきりとしませんが」
心「これなら、他のカメラに……映ってないのか」
あい「ああ。この何かが移動する前に、黒い影がいたるところの視界を潰している」
恵磨「出てった……のかな」
肇「はい。しばらくすると視界が開けます」
あい「扉は開いたままだ」
肇「このまま誰も来ません。日曜日ですので」
あい「そのままお二人が来る時間になる」
肇「以上です。昨夜の事件は、単純です」
あい「被害者は犯人を招き入れ、殺された。犯人は出て行った。それだけだ」
恵磨「……でも、違う」
あい「そいういうことだ。さて、何が起こった?」
心「……」
恵磨「その、怪奇現象」
あい「そうだな。今のところはそうとしか言えない」
心「……意外と寛容だね、刑事さん」
あい「ふっ、寛容か。良く見られたものだ」
心「それじゃなんなの?」
あい「私は単純なんだよ。犯人を捕まえたい、その欲望だけで動いてる」
心「そんなこと言っていいの、刑事さんが」
あい「だから、どうでもいいのさ」
恵磨「どうでもいい?」
あい「相手が魑魅魍魎の類であろうが、怪奇現象を操っていようがどうでもいい。この事件には犯人がいる」
肇「はい。犯人の意思が介在し、殺人が発生しています」
あい「聞くが、君らは黒い影に心当たりはないか?」
恵磨「……」
肇「教えてください」
心「その前に、質問。なんで、聞くの?」
あい「知ってるだろう」
心「はぁと、そんなことわかんない☆」
あい「知ってるな」
心「……」
あい「……」
心「……」
あい「……」
肇「やめましょう」
あい「そうするとしよう。犯人がいることは否定しないようだしな」
恵磨「……」
肇「警部、電話の件については」
あい「ふむ。いいだろう、説明を」
肇「はい」
あい「では、犯人捜しへと舵を切ることにしよう」
102
CGプロ・事務所
心「……犯人か」
あい「先に言ったとおり、被害者は事務所から4階へと向かった」
恵磨「仕事の途中だったの?」
肇「おそらく違うと思います」
心「なんで?」
あい「仮眠室に布団が敷いてあった」
肇「はい。枕元にはこちらが。写真で申し訳ありませんが」
恵磨「充電器だよね、ケータイの」
あい「そうだ。枕元において充電していたと思われる」
心「それじゃ……ケータイは?」
肇「被害者の血の海に落ちていました」
心「平然と言うねぇ……」
あい「仮眠中の男性が起きる理由は?」
恵磨「ケータイに連絡」
肇「はい」
心「誰から……?」
あい「近くの公衆電話だ。藤原君、出してくれ」
肇「少しお待ちください」
心「そこまで突き止めてるの?」
恵磨「速くない?」
あい「調査は迅速に、大切なことだよ」
肇「こちらが実際の通話です」
CuP『もしもし、こんな深夜に誰だ?』
『ジムショニイルナ?』
恵磨「ボイスチェンジャーを通してる、よね?」
あい「ああ。まずは聞きたまえ」
CuP『イタズラか?』
『ワタシノイウコトヲキケ。スグニウエニイケ』
CuP『上?何の話だ?』
『イソゲ』
CuP『おい、もしもーし!切られた……イタズラか?』
肇「通話は以上です。監視カメラに被害者が現れた時刻の少し前です」
あい「聞けばわかると思うが、ボイスチェンジャーを使っている」
恵磨「特定はできない……?」
肇「おそらく、男性です」
恵磨「なんで?」
あい「簡単に手に入る安物だからだよ。明確に特定はできないが、どの程度の高さかはわかる」
肇「平均よりやや高めの男性でしょう」
心「犯人は男、ってこと?」
あい「それはわからない」
肇「電話をした人物が男性だと推測される、だけです」
心「……何が言いたい」
あい「もうわかるだろう?」
心「意地の悪い……」
恵磨「電話がかかってくる、招き入れる、カメラを隠して出ていく……」
肇「はい。犯人は、いえ、少なくとも計画した人物はこの事務所にいます」
103
CGプロ・事務所
心「……」
あい「それで、事情聴取でも始めようとしたところさ」
肇「何か、質問はありますか?」
恵磨「そう……もう急いでないわけか」
心「……で、何がしたいの」
あい「怨恨やトラブルを探すのがお決まりさ。何か心当たりは?」
心「ない……はず」
肇「悪い噂も聞きませんし、もちろん暴力団と関係している様子はありません」
あい「しかし、複雑怪奇な世界だ。何を引き寄せていてもおかしくない」
恵磨「アタシもないと思うよ」
肇「断言できますか?」
恵磨「……それは、できないけど」
肇「はい。人の心なんてわかりません。断言なんて出来ません」
あい「事件は起こった。原因もあるはずだ」
心「それを探すの……?」
肇「はい。それが使命です」
あい「それで、君らにはお願いをしたい」
恵磨「アタシ達に?」
あい「少し、探りを入れてみてくれ」
心「……」
肇「警部、まもなく鑑識が終わります」
あい「行くとしよう。ありがとう、参考になった。何か思い出したら、伝えてくれたまえ」
恵磨「……凄いね」
心「侮れない警察だなぁ……昔から警察は嫌い」
恵磨「やんちゃしてたから?」
心「恵磨ちゃん、ぶっとばすよ☆」
恵磨「冗談だって。でも、明らかにさ、聞きにきてないよね」
心「逆だよね。はぁと達に全部伝えるのが目的」
恵磨「つまり、捜査しろってことだよね?」
心「……黒い影の話を丸投げされた。やるしか、ないよ」
恵磨「……うん、でもさ」
心「恵磨ちゃん」
恵磨「ちっこいの倒せて、なんとなく気分が良くなってた。しっぺ返しを食らった気分」
心「恵磨ちゃんが原因じゃない」
恵磨「ありがと」
心「犯人を見つけないと……」
恵磨「疑いたく、ないよね」
心「でも、それじゃダメ」
恵磨「わかってる」
心「皆、大丈夫かな……」
恵磨「イベント、どうなるんだろ……」
104
CGプロ・事務所
菜々「プロデューサーさんが……こんなことになるなんて」
心「……」
菜々「ナナの夢、馬鹿にしないで聞いてくれて、一生懸命な人でした。体が大きいのに、いばってなくてですねぇ、それで、えっと、ですねぇ……えっと……」
恵磨「ウサミン……」
菜々「でも、少しだけお姉さんですから、今は頑張ります」
恵磨「……ごめんね。伝えて……もらえるかな」
菜々「はい……美穂ちゃんとか卯月ちゃんに伝えるの、本当につらいですけど」
心「隠されてた方が不安になるから……さ」
菜々「ええ、ちょっと行ってきますね」
恵磨「ねぇ、ウサミン」
菜々「ここで止まると泣いちゃうから、行きます」
恵磨「……うん」
心「……ずっと長く過ごしてきた子もいるんだ」
恵磨「つらいなぁ……」
心「枕元にさ、イベントの工程表あったらしいよ」
恵磨「……CuPが一番悔しいのかな」
105
CGプロ・レッスンルーム前
音葉「……」
恵磨「音葉ちゃん、その……」
音葉「……」
恵磨「音葉……ちゃん?」
音葉「はっ……恵磨さん、びっくりしました。いつから……後ろに」
恵磨「……ごめん」
音葉「……何か謝ることはあったでしょうか」
恵磨「ない……忘れて」
音葉「ええ……」
恵磨「これから、どうなるんだろ……?」
音葉「私には……わかりません」
恵磨「皆、来た?」
音葉「はい……社長とプロデューサーが一人一人に説明しています」
恵磨「音葉ちゃんは誰から聞いたの?」
音葉「……ナナさんからです」
恵磨「そう……」
音葉「……」
恵磨「……」
音葉「先ほど、卯月さんが来ました……」
恵磨「……」
音葉「彼女は下積み時代が長くて……」
恵磨「一番、一緒にいたんだ」
音葉「ええ……」
恵磨「どうして、ここに来たの?」
音葉「信じられない、と……」
恵磨「信じたくないよね」
音葉「……」
恵磨「会議、あるよね。お昼過ぎに」
音葉「はい……」
恵磨「大丈夫かな」
音葉「大丈夫だと思います……」
恵磨「なんで?」
音葉「ここで止まってしまったら……いけません。負けです」
106
CGプロ・会議室
社長「イベントは……中止だ」
恵磨「そうだよね……」
心「……」
社長「気持ちは一緒だ。悲しく、悔しく、そして憤っている」
卯月「プロデューサーさん……どうして」
凛「卯月……」
社長「一刻も早い事件の解決に向けて、警察も動いてくれている。メディアにも要請は出した」
菜々「……」
社長「しばらくは休んでくれ。私からは以上だ」
美穂「あ、あの……」
CoP「美穂ちゃん、質問は後で聞くから……今日はやめよう」
美穂「わたし、言いたいことが……」
菜々「美穂ちゃん、無理しないでください」
美穂「わたしは、イヤですっ!」
心「美穂ちゃん……?」
美穂「こんなところで、プロデューサーさんが頑張ってきたことが、なくなっちゃうのは、イヤです……」
社長「小日向君……」
美穂「イヤです……」
菜々「美穂ちゃん……」
美穂「お願いします」
PaP「出来るよ、イベント自体は」
心「プロデューサー、やめなさい」
スカウト「一人の力でやるのは会社の仕事じゃない」
CoP「進行表もできてる。レッスンも後は精度を上げるだけ」
音葉「……その通りです」
社長「確かに……そうだが」
PaP「やれます、やらないと」
心「だから、やめろって言ってんだろ!」
恵磨「心さん……落ち着いて」
心「私は落ち着てる。落ち着かないといけないのは、大人のあんたら」
PaP「何が言いたい?」
心「考えて。変な流れだけ決めないで」
CoP「……」
心「はぁとはやりたいよ。やりたいから、わかりなさい」
恵磨「……」
心「あんたらが冷静に、踏んばらなかったら終わりだから」
107
女子寮近くの公園
心「はあ……」
恵磨「イベント、開催するみたいだね」
心「そうだねぇ……」
恵磨「イヤだった?」
心「逆。黒い影ごときに止めさせたくない」
恵磨「もちろん」
心「CuP、控えのレッスンルームまで用意してたんだよ?諦める?」
恵磨「そんなことしない」
心「気持ちは同じ」
恵磨「ならさ、なんで、あんなこと言ったの?」
心「お姉さんとしての義務かな☆」
恵磨「冗談めかして言ってるけど、それ本心だよね」
心「恵磨ちゃん、さすがわかってる☆」
恵磨「ありがと」
心「なにが?」
恵磨「こういう時にさ、落ち着かせてくれる人が必要なんだ。アタシはできないし」
心「……実はさ」
恵磨「実は?」
心「なんでもない☆」
あい「おや、こんなところにいたのか」
恵磨「刑事さん」
肇「お伝えしようかと思いまして」
心「なにを?」
あい「ここでは難だ。どこか場所はないか?」
心「女子寮の食堂でいい?」
肇「はい。ぜひよろしくお願いします」
108
女子寮・食堂
あい「話を始める前に、確認だ」
肇「今、他に誰かいますか?」
恵磨「いないと思う。今は事務所だし」
あい「藤原君」
肇「はい」
あい「念のため、見回りを」
肇「行ってきます」
あい「頼んだよ。それで、本題に入ろうか」
恵磨「何かわかったの?」
あい「鑑識の結果だ。どこから話そうか?」
心「……CuPはどうして、亡くなったの?」
あい「場所、時間はわかってるな」
恵磨「死因、とか」
あい「被害者の腹部は大きく抉り取られていた。他にも全身にひっかき傷がある。最後に床に叩き付けられた」
心「……」
あい「その際、背骨が折れた衝撃で貫通していた。見るか?」
恵磨「見なくていい」
あい「余計な掃除の手間を省いてくれて感謝するよ。さて、この傷をつけた方法だが」
心「……」
あい「もっぱら不明だ。クマにでも襲われたのかもしれん」
恵磨「……」
あい「私にはわからない。私には、な」
恵磨「犯人につながる証拠は?」
あい「窓からは多数の指紋が検出されたが、新しいものは被害者のものだけだ」
心「窓から入ってきた?」
あい「そうらしい。入れるのか?」
恵磨「……」
あい「まぁ、いい。次は遺留物だが」
恵磨「足跡とか凶器とか、あったの?」
あい「ない」
心「ない……?」
あい「現場には血以外の水分が大量に残っていた」
心「……」
あい「成分を分析したところ、あることがわかった」
恵磨「なに?」
あい「水だ」
恵磨「水……」
あい「どういうわけか、犯人が移動した、もしくは触れたと思われるところには水が付着している。人の足跡は綺麗に消し去られているよ」
心「……」
あい「つまり、言いたいことはわかるかな?」
恵磨「犯人がわからない」
あい「そういうことだ。現場の状況から断定をすることは不可能に近い」
心「……」
あい「だから、別のアプローチでも考えているところさ」
恵磨「聞き込みとか」
あい「おや、察しがいいじゃないか」
恵磨「犯人は来てるんだよね、事務所に」
あい「ああ。だから、目撃者を捜している。深夜4時のオフィス街だがな」
恵磨「電話をかけてるわけだもんね」
あい「少なくともそこにいた時間がある。見つけてみせるさ」
心「ねぇ」
あい「何か、質問でも?」
心「刑事さんは犯人の目星がついてるの?」
あい「もちろん、ついていない」
恵磨「本当に?何か、隠してない?」
あい「事件については隠し事はしていない。君らから情報を得るためにはそれが最適と判断した」
心「褒められてる、とは思えない」
あい「思うのは自由さ。こちらからも質問をしていいかな」
恵磨「どうぞ」
あい「被害者と関わりが深いのは、誰だ?」
心「事務所内で?」
あい「ああ」
恵磨「担当なのは、ウサミン、卯月ちゃん、美穂ちゃん、仁美ちゃん、それと里美ちゃん?」
心「あと、杏ちゃん」
あい「ふむ。他の人との関わりはないのか?」
心「凄いあるよ。レッスンとかお仕事とかで」
あい「なら、誰が親しい間柄になってもおかしくないな」
恵磨「親しい間柄」
あい「例えば、恋仲。実に物語性のあることだ」
心「CuPが……考えられない」
あい「同僚もそう証言しているな。真面目な男だったようだ」
恵磨「最近は忙しいらしい、って話は聞いた?」
あい「聞いているよ。泊まっていたのもそのためだ」
恵磨「なんで、今なんだろう」
あい「それはわからない。わからないからこそ、衝動的な殺人であることは捨てきれない」
心「本当に?電話で呼び出してるのに」
あい「殺意はあったのか、最初から?」
恵磨「なかった……?」
あい「それは聞いてみないとわからないだが、可能性としてはある」
心「うーん……」
あい「この食堂でいつも食事をとっているのか?」
心「そう。可能な限り一緒に」
あい「いいじゃないか。私も学生時代は合宿もしたし、舞台にも出たものさ」
恵磨「刑事さん、女優志望だったの?」
あい「違うよ。体育館のステージで、少しだけ黄色い声援を送られていただけさ」
心「想像がまったく難しくない」
恵磨「へー」
あい「君らはどうして、アイドルになったんだい?」
恵磨「アタシはスカウト」
心「はぁとは、内緒☆」
あい「悔いなくやりたまえ。こんなことになったが、君らのために働こう」
恵磨「ありがとう、刑事さん」
あい「なに、ちょっとしたお詫びみたいなものだ」
心「ん……」
肇「警部」
あい「ご苦労」
肇「異常ありません」
あい「時間のようだ。失礼するよ」
肇「お邪魔しました」
心「お詫び……?」
恵磨「……あ」
心「どうしたの?」
恵磨「あー、そいうことかぁ……」
心「なに?」
恵磨「ここに誰が住んでるか、聞かなかったよね」
心「うん、それで?」
恵磨「部下の刑事さん、長く席外しすぎだよね」
心「あ……」
恵磨「……油断ならないぁ、ホントに。招き入れられるタイミング図ってたんだ」
109
CGプロ・事務所
恵磨「レッスン、始まってる?」
CoP「お帰り。僕が今から移動するところだし、大丈夫だよ。それに、咎める人なんていないよ」
恵磨「そうだね……」
CoP「恵磨ちゃん、これを」
恵磨「なに?」
CoP「イベントまでのレッスンスケジュール、と」
恵磨「この便箋はなに?」
CoP「お仕事の依頼。読んで」
恵磨「ふむふむ……」
CoP「引き受けてくれるかな」
恵磨「わかった。アタシなら見れるからさ」
CoP「ありがとう。少しだけ見ていて欲しいんだ」
恵磨「うん」
CoP「移動しようか、きらりちゃんは?」
恵磨「きらりん?あっちにいるけど」
きらり「お願いするにぃ」
スカウト「わかった。明日までにはなんとかする」
CoP「スーさん、きらりちゃん」
スカウト「そうか、移動か。行っておいで、きらりん」
きらり「それじゃあ、レッスン行ってくるにぃ」
恵磨「何の話をしてたの?」
スカウト「仕事の話。詳しくはあとで」
きらり「恵磨ちゃん、一緒に行くっよー☆」
CoP「よし、行こう」
110
夜
SWOW部室
恵磨「アタシが知ってるところはこんなところ」
久美子「大変なことになったみたいね」
恵磨「……まぁね」
時子「事件は報道の通り?」
恵磨「大体は」
亜季「その報道なのでありますが」
恵磨「何かあったの?」
優「急にね、報道が減ったのー」
恵磨「東郷とかいう刑事さんが出てたりした?」
亜季「そういえば、出ておりました」
惠「何か、したのね」
時子「情報統制といったところかしら」
恵磨「たぶん」
亜里沙「アイドル事務所だもの。気を使わないと」
時子「表向きはね」
惠「本当の所としては、違うわね」
亜里沙「公にできない理由があるから」
時子「そういうことでしょうね」
亜季「……」
優「その黒い影を見つけないとねぇ」
時子「でも、それが原因でした、なんて警察は言えないわ」
亜季「だから、情報統制でありますか?」
亜里沙「そういうことかな」
恵磨「犯罪としてはわかりやすいんだよね」
惠「ええ、でも解決しない」
時子「相手が普通ではないから」
恵磨「ただの人間がやってれば、もう解決してると思う」
亜季「そうでありますな」
時子「私達がのこのこ行くわけにいかないわ。恵磨、行きなさい」
恵磨「わかってる」
久美子「ねぇ、音葉さんは知ってるの?」
恵磨「何を?」
久美子「黒い影がいるってこと」
恵磨「それは知らないと思うよ」
優「調査は一緒にやってたんだよねぇ?」
恵磨「うん。でも、音葉ちゃんを明らかにおかしいものに近づけるわけにはいかないし」
久美子「そうね。うん、ありがと、恵磨ちゃん」
恵磨「黒い影以外の話は解決してるし、後はこれだけ」
亜季「ふむ。しかし、どうするでありますか?」
時子「何が起こったかを含めて、知らないといけないわ」
恵磨「だけど、どうやって?」
時子「犯人を見つけるしかないでしょうね」
亜里沙「はい。誰かが関わっていますから」
恵磨「わかった。がんばってみる」
惠「動機は何かしら」
亜季「見当がつかないであります」
時子「このタイミングで、そのプロデューサーが亡くなる、それによって影響を受けるのは」
恵磨「イベントか……」
亜里沙「可能性の一つでしょうね」
時子「恵磨に協力なさい。いいわね」
久美子「ええ」
時子「恵磨は小まめに連絡を」
恵磨「わかってる」
時子「それと」
恵磨「なに?」
時子「私達を頼りなさい。いいわね」
恵磨「ありがと、時子ちゃん」
111
10月21日(月)
CGプロ・事務所
恵磨「何か、進展は?」
あい「個人のアリバイについてだ」
肇「犯行時刻に何をしていたか、調査を行いました」
ちひろ「お茶をどうぞ」
あい「すまない。いただくとしよう」
恵磨「何か、わかった?」
肇「ほとんどの人物にアリバイはありません」
あい「君は何をしていたかな?」
恵磨「アタシ?」
肇「はい。10月20日午前4時ごろ、何をしていましたか?」
恵磨「自宅で寝てた」
あい「一人暮らしかな?」
恵磨「そう」
あい「なら、アリバイはないな」
肇「他の人々は同じようです」
恵磨「誰か、アリバイがあった人はいたの?」
肇「おひとりだけ」
あい「社長だ。家族が証言している」
恵磨「つまりさ、犯人は絞れてない、ってことだよね」
あい「そうだな」
肇「引き続き調査を続けます」
あい「失礼するよ」
112
貸レッスンスタジオ
恵磨「おはようございますっ」
心「恵磨ちゃん、おはよー☆」
きらり「おっす、おっす☆」
恵磨「きらりん?」
きらり「にょわ?」
恵磨「なんで、いるの?」
きらり「うんとねぇ、きらり、学校もお仕事もお休みなの」
恵磨「休み?」
きらり「だから、イベントのレッスンいっぱいできるの☆」
心「……とりあえず一週間全部キャンセルだって」ボソボソ
恵磨「昨日の話って、それ?」ボソボソ
きらり「皆でイベントを成功させるにぃ♪きらりん、リーダーがんばっちゃう☆」
心「きらりさん、頼りになるー☆」
きらり「うきゃー、照れるー☆」
PaP「おはよう」
心「遅いぞ、プロデューサー☆」
PaP「ごめんね。さ、始めようか」
きらり「おにゃーしゃー☆」
113
夜
某ビル街
裕美「見つからないね」
亜季「そうでありますな。以前はこのビルにいたでありますか?」
裕美「うん」
亜季「私は思うのでありますが」
裕美「なに?」
亜季「ビル街に現れたのは一回だけであります」
裕美「そうだね」
亜季「思うに、こちらを誘導するためだけではないでしょうか」
裕美「目的は……」
亜季「裕美殿だと思うであります」
裕美「私を遠ざけるため……」
亜季「あまり強力な存在ではないと思うであります」
裕美「私にはかなわないから?」
亜季「ええ」
恵磨「亜季ちゃん!」
亜季「恵磨殿、何か見つかったでありますか?」
恵磨「こっちは何も。そっちは?」
裕美「ううん、今日は静かだよ」
恵磨「出てこないか」
亜季「見回りを続けるでありますか?」
恵磨「いや、これまでの傾向から深夜は出ないんだ」
亜季「だから、明け方の事件を防げなかったであります」
恵磨「……そうだけど」
裕美「私が朝まで見回るから大丈夫」
亜季「裕美殿、申し訳ないであります」
裕美「いいの、ヒマだから。事務所の周りでいいよね?」
亜季「……ええ」
恵磨「お願いしていい?」
裕美「うん。何か見つけたら連絡するね」
114
10月22日(火)
貸レッスンスタジオ
きらり「ここはこうするといいと思うにぃ。さ、もう一回☆」
里美「はいぃ~」
卯月「は、はい!もう一回、頑張ります!」
心「お疲れー、飲む?」
恵磨「ありがと」
心「あー、やっぱ、きらりさんすげえわ」
恵磨「うん。パフォーマンスのことも知ってるし」
心「なにより、求心力が凄いわ」
恵磨「それに、アタシが心配することじゃなかったみたい」
心「何を?」
恵磨「CoPに言われてたんだ、ちょっとケアしてくれって」
心「そうなんだ。はぁともPaPに言われた」
恵磨「よく見てるよ、きらりん」
きらり「はい、良くできたにぃ☆よしよし☆」
音葉「あの……頭をなでられるのは恥ずかしいです……」
恵磨「負けらんないね」
心「もちろん☆黒い影にも、何にもね♪」
恵磨「きらりん、アタシ達も入れて!」
115
夜
女子寮付近の公園・ラーメン屋台
涼「収穫は?」
楓「ありません……」ズルズル
涼「裕美は?」ズルズル
裕美「ううん。昨日も今日もなにもなかった」ズルズル
涼「刑事サンは何か掴んでたか?」
恵磨「全然」
涼「手詰まりか」
恵磨「そうみたい」
心「……どこに行ったのかな」
楓「ご主人、おかわりを」
涼「さぁな」
恵磨「聞いていい?」
涼「アタシにか?」
恵磨「うん。黒い影を使う人ってどんな気持ちなのかな?」
涼「例えば、絶望感。そんなものにも縋るほど、追い詰められた人はいるのか?」
恵磨「いない、よね」
心「うん」
裕美「なら、勝手にされた」
涼「……ああ。選んだのか、強制だったのか。それはわからないことだ」
裕美「……」
恵磨「犯人、今なにしてると思う?」
楓「寝ていると思います」
心「……かもね」
涼「これで終わりとは思えない。何かあるはずだ」
恵磨「わかってる」
心「ごちそうさま」
116
10月23日(水)
夜
SWOW部室
亜季「これが聞き取りの結果であります」
亜里沙「黒い影は目撃されてるのね」
時子「フムン。それとセットで目撃されてるのは」
亜季「裕美殿とその関係者がほとんどでありますな」
亜里沙「あの、何かを呼び出す穴、を持ってる人は?」
時子「見られてないわね」
亜季「見られてはおりませんが、どこにいそうかは判断できるであります」
亜里沙「前から言われてるとおり、CGプロの事務所周辺ね」
時子「でも、見つからない」
亜里沙「犯人は知恵があると思うの」
亜季「同感であります」
時子「それが、どちらかという問題よね」
亜季「ええ。人が持っているのか」
亜里沙「招かれざるものが持っているのか」
時子「恵磨から連絡が来たわ」
亜季「なんでありますか?」
時子「今日は進展なし、だそうよ」
亜里沙「はい。今日は解散ですね」
亜季「そういえば」
時子「なにかしら?」
亜季「恵磨殿は明日ゼミのお休み許可はもらったようであります」
亜里沙「大学には来ないのね?」
亜季「はい。言ってみるものでありますな」
亜里沙「ええ。まずは話してみないとね」
時子「そうね。さて、帰りましょう」
亜里沙「また、明日ね」
117
10月24日(木)
CGプロ・事務所
恵磨「こんにちはっ」
あい「やぁ、お邪魔してるよ」
肇「こんにちは」
恵磨「刑事さん達、なにか?」
あい「これを見てくれたまえ」
恵磨「なに、この変な色をした便箋?」
肇「脅迫状です」
恵磨「はい?」
あい「中身は一枚折りされた紙が一枚」
恵磨「本当だ。なに……『やめろ。さもなくば混乱を』?」
肇「はい。やめろなければ、何かするようです」
あい「要求も不明瞭だ。誰かのイタズラかもしれない」
恵磨「これは、いつ届いてたの?」
肇「今朝です。早朝にアシスタントの千川ちひろさんが発見しました」
あい「見ればわかると思うが、郵便物ではない」
恵磨「直接、郵便受けに?」
肇「そのようですね」
恵磨「誰が入れたか、わかる?」
あい「わかっていると言えば、そう言える」
恵磨「どういう意味?」
肇「こちらを。防犯カメラの映像ですが」
あい「見逃すな、一瞬だぞ」
恵磨「はぁ!?何これ!?」
肇「何が起こったか、わかりますか?」
恵磨「いきなり、空間になんか出てきた。そこから手が伸びて、ポストに手紙を入れた」
あい「そのようだな。出来の悪い合成映像にしか見えん」
肇「加工された形式はありません。少なくとも撮影はされました」
恵磨「……」
あい「さて、この手だが」
肇「女性のようですね。綺麗な手をしています」
恵磨「そこ?」
あい「他に何か聞かれたいのか?」
恵磨「いや……」
肇「心当たりはありますか?」
恵磨「ううん」
あい「特にアクセサリー類はしていない」
肇「左手ですが、結婚指輪もしておりません。独身ではないかと」
あい「手紙には指紋がついていた」
肇「犯人のものだと思われます」
恵磨「誰かの指紋と一致したの?」
あい「いいや」
肇「はい。事務所の人物ではありません」
恵磨「……なるほどね」
あい「この人物は何者だ?」
恵磨「……どこまで知りたいの?」
肇「殺人事件の犯人がわかる程度に」
恵磨「黒い影は、こんな風にどこかから湧き出ている」
あい「それで?」
恵磨「こういうことができる人物がいる」
肇「この手は誰のものですか?」
恵磨「今回の犯人じゃなくて、その奥」
あい「ふむ」
恵磨「犯人とは別人」
あい「なるほどな。だが、共犯だろう」
恵磨「それはわからないんだよね……」
肇「どういうことでしょうか?」
恵磨「前は、黒幕は犯人を、その」
あい「そうか」
肇「ですが、手紙に意味はあると思います」
恵磨「やめろ、か」
あい「事務所に投函されたくらいだ」
恵磨「イベント、かな」
肇「被害者はイベントの企画者です。そう考えるのが妥当と思います」
あい「しかし、だ」
恵磨「これで止められると思ってるのかな?」
あい「辞めるか?」
恵磨「いや、やめない」
あい「同感だ。こんなものでは警察が強制的に止める理由にならない」
恵磨「うん」
あい「事務所の人間にはもう言ってあるが、十二分に気を付けたまえ」
肇「私達も協力させていただきます」
恵磨「ありがとう。ひとつ、お願いがあるんだけど」
肇「なにでしょうか?」
恵磨「さっきの映像、もらっていい?」
118
貸レッスンスタジオ
音葉「美穂さん……準備はできましたか?」
美穂「は、はいっ」
CoP「よし、美穂ちゃん来たし、一回通しで行くぞ」
きらり「美穂ちゃん、がんばるにぃ☆」
菜々「美穂ちゃん、ファイトですよっ♪」
CoP「バックは?」
仁美「はいっ!」
里美「はいぃ~」
心「はーい☆」
鈴帆「準備完了たい!」
CoP「よし、始めよう」
音葉「私は休憩に……」
CoP「わかった。日菜子ちゃんを呼び戻してくれ」
音葉「わかりました……」
恵磨「美穂ちゃんの主役は、3時半くらいか」
菜々「はい。きらりちゃんの前ですか?」
きらり「そうなんだにぃ。きらりん、特等席☆」
菜々「いいですねぇ♪」
恵磨「ゲストはいつだっけ?」
きらり「ゲストはきらりんが紹介するの☆」
菜々「こんなことになりましたけど、来てくれるんですよねぇ」
恵磨「あ、回答来たんだ。よかった」
菜々「ほら、始まりますよ。美穂ちゃん、がんばってくださーい♪」
119
夜
SWOW部室
時子「脅迫状ね」
恵磨「犯人に動きはないけど、何かするとしたら」
優「イベント当日?」
惠「可能性としては十分ね」
亜里沙「目的は、ここだったのかしら」
優「イベントの混乱が目的だった?」
時子「いまいち筋が通らないわね」
亜季「誰もイベントに乗り気ではないわけではないようですし」
亜里沙「深い理由はないのかも。行き当たりばったり、感情任せの行動」
時子「想像にすぎないわね」
恵磨「うん。だから、対策を」
久美子「イベントの日、みんな空いてるよね?」
惠「ええ。言われたとおりに」
優「がんばっちゃうよー♪」
亜季「ええ。恵磨殿、会場の地図と進行表などはありますか?」
亜里沙「出演者とか関係者のリストも」
恵磨「はい。公開しないでね」
時子「わかってるわよ。優」
優「なにー?」
時子「コピーを取ってきなさい」
優「はぁーい。行ってきまーす」
久美子「他の人には伝える?」
恵磨「楓さん達には伝えようと思う」
時子「事務所にいる他の一般人には伝えない方がいいわね」
亜季「そうでありますな」
亜里沙「刑事さん達は?」
時子「わざわざ言わなくていいわ。必要なら動くでしょう」
恵磨「わかった」
亜季「裕美殿には私から伝えておくでありますか?」
惠「そうね。恵磨ちゃんは忙しいものね」
恵磨「いや。今から教会に行ってくる」
時子「何か、あるのね」
恵磨「この映像を見て。脅迫状が入れられたやつだから」
惠「これは……」
亜季「根高公園のものと同じでありますか」
亜里沙「ふーむ」
時子「なるほどね」
恵磨「あの人たちが追ってる犯人だと思う」
亜里沙「女の人の手、みたいね」
時子「きな臭くなってきたわね」
恵磨「この人は危ないよ、絶対に」
惠「ええ……」
亜季「警備のプランを立てましょう」
時子「そうね。優が戻り次第計画を」
久美子「道具も揃えないとね」
時子「恵磨は教会へ」
恵磨「わかった」
時子「行動開始。やるわよ」
120
出渕教会地下1階
美由紀「ホールがいきなり現れて、手が伸びてきたよ」
クラリス「はい。続きを」
美由紀「えっとね、その手が郵便受けに手紙を入れたよ」
クラリス「その手はどうなりましたか?」
美由紀「ホールの中に隠れた」
クラリス「ホールはどうなりました?」
美由紀「消えちゃった」
クラリス「ありがとうございます。わかりました」
恵磨「何かわかったの?」
クラリス「私達が追っている敵のようですね。理由はホールを消せること、です」
恵磨「ホールが消せる……」
クラリス「はい。この人物は、ホールを作り、消すことができます」
美由紀「この手、女の人みたい」
クラリス「私達も他の誰も、作ることはできません。消すことも難しいようです」
恵磨「この手が黒幕」
クラリス「はい。初めて女性だとわかったくらいですから、先は長そうです」
恵磨「これ、何なの?」
クラリス「わかりません」
恵磨「それで、お願いがあるんだけど」
クラリス「話は聞いております。皆様に協力をお願いしましょう」
美由紀「やったね、クラリスさん」
クラリス「ええ。美由紀さん、当日は皆で仮装をしていきましょう」
美由紀「うん!」
クラリス「CGプロのイベントにお伺いします」
恵磨「ありがとう。でもさ、聞いていい?」
クラリス「なんなりと」
恵磨「意外とイベント好きなの?」
クラリス「音楽は良いものですね。ハロウィンも楽しみたいのです」
美由紀「チケット取れて良かったね、クラリスさん」
恵磨「え、ステージ前のチケット取れてるの?」
クラリス「2枚、お譲りいただきました」
恵磨「どうして?」
クラリス「怖いから、と」
恵磨「……」
クラリス「当日はよろしくお願いします。私と美由紀さんではお力になれませんが、彼女達なら」
恵磨「ありがと」
クラリス「最後に一つだけ申しておきます」
恵磨「なに?」
クラリス「相手が動くのならば、日没前です。イベントの終了は日没後ですが」
美由紀「裕美ちゃんが来れないの、寂しいな」
恵磨「つまり、日没まで抑えろ、ってことでしょ」
クラリス「はい。イベントの成功を願っています」
121
幕間
CGプロ・事務所
PaP「こんな時間か……まぁ、仕方ないよな」
心「お疲れ、プロデューサー☆」
PaP「誰かと思った、心さんか」
心「缶コーヒー飲む?」
PaP「もらいます。こんな時間になにしてるの?」
心「なんか心配になってねぇ」
PaP「俺の心配より、心さんの方が不安ですよ」
心「なにを?」
PaP「肌の具合です。こんな深夜に起きてて」
心「もう☆年以上に若いと言われるのにぃ」
PaP「確かに童顔ですよね。最初会ったとき、びっくりしました」
心「どうして?」
PaP「いや、なんか色々と凄いなぁって」
心「悪口かなぁ?でも、採用してくれたから許すぞ☆」
PaP「はは。もう少し簡単に売れたらよかったですね」
心「そんなに簡単に売れたら苦労しない☆」
PaP「そうですね。がんばりましょう」
心「がんばります、か」
PaP「なに?」
心「ちゃんと休んでる?」
PaP「今週は休めてない」
心「休め☆」
PaP「はい。あと少ししたら帰ります」
心「よろしい☆また明日、プロデューサー☆」
PaP「おやすみなさい、心さん」
幕間 了
122
10月25日(金)
CGプロ・会議室
CoP「皆、お疲れ様。調子はいいか?」
凛「うん。準備はできてるよ、プロデューサー」
そら「そらちんもおっけー☆」
CoP「明日はリハーサルだ。今日はゆっくり休むように」
音葉「……はい」
CoP「よし、終わりにしよう。また明日」
心「本番かぁ」
恵磨「緊張してきた?」
心「ううん。ワクワクかな☆」
恵磨「さすが」
心「不安もあるけどね」
恵磨「その件なんだけどさ」
心「なに?」
恵磨「来てもらいたいところがあるんだけど」
心「はぁとに?」
恵磨「うん。紹介するから」
音葉「……あの、恵磨さん」
恵磨「なに?」
音葉「がんばりましょうね、また明日」
恵磨「うん。またね、音葉ちゃん」
心「ばいばーい☆」
恵磨「それじゃ、はぁとさん行こうか」
心「どこに?」
恵磨「部室」
123
SWOW部室
心「エス・ダブリュー・オー・ダブリュー?」
時子「ええ、旅行サークルよ。名目上は」
心「ふーん」
時子「代表の財前時子よ。よろしく」
心「しゅがーはぁとですぅ♪アイドルやってます☆」
時子「知ってるわ。佐藤心さんね」
心「もしかして、ファン?やだぁ、照れる☆」
時子「ネットで調べただけよ」
優「ネットの写真より可愛いねぇ♪」
久美子「ええ。26歳とは思えない」
心「年のことを言うな☆」
亜季「本題に入っていいでありますか」
心「真面目な話、旅行サークルが何のよう?」
時子「黒い影を調べてるわ。知ってるわね?」
心「もちろん。恵磨ちゃんから聞いた?」
亜里沙「はい」
心「なにしてるの?」
時子「変な事件の調査よ。できれば解決まで」
心「クラリスさん達と仲間なわけ、ね」
惠「厳密にいえば違うわ」
心「勝手に調べてるだけ?」
恵磨「うん。勝手に」
心「変なことやってるねぇ」
時子「それで、あなたは何者?」
心「はぁとはアイドル☆」
時子「別に何言おうが驚かないわ」
心「肝が据わった代表さんだね。頼りになるわ」
恵磨「そうでしょ」
時子「褒め言葉は受け取っておくわ」
心「魔法使い、なの」
亜季「ああ、裕美殿が言ってた魔法使い殿でありましたか」
亜里沙「魔法使い?」
優「どんなことができるのぉ?空を飛んだり?」
心「空は跳べるっちゃ跳べるけど、それは結果的に」
惠「どういう意味かしら」
心「はぁとが出来ることは、自分の作ったものを少し変えるだけ」
久美子「変える?」
心「詳しくは恵磨ちゃんに聞いて」
時子「そうなの、恵磨?」
恵磨「はぁとさんに秘密にしろって言われてたし」
心「ということで、恵磨ちゃんにも魔法の道具を授けてるから」
時子「つまり、黒い影と戦える力があるのね」
心「そういうこと。裕美ちゃん達にも衣装あげたといたよ」
恵磨「むしろ、その裁縫スピードが凄いと思う」
心「はぁとに出来るのはそれくらい」
優「ええー、箒で空を飛べないのぉ?」
久美子「人の心を操るとか」
亜里沙「メラとかベギラマとか」
心「出来ない地味な魔法使いでごめんねー。あと、幽霊も見えないから。お祓いとかムリ」
惠「それは、本職がいるから平気ね」
亜季「依田殿でありますな」
心「で、はぁとに何をしてもらいたいわけ?」
時子「私達に会場での犯人探しに協力してもらうわ」
心「言われなくてもするけど」
時子「いえ、情報共有を。亜季、あれを」
亜季「こちらを」
心「トランシーバー?」
時子「8つあるうちの1つよ」
亜里沙「他の7つは私達が持ってるの」
恵磨「協力してくれる?」
心「いいけど、持たせるだけ?」
時子「いいえ。亜季、説明をお願いするわ」
亜季「了解であります。今から説明をするであります」
124
SWOW部室
心「なるほどねー」
亜季「はっきり言いますが、ことが起こったら役に立たないと思うであります」
亜里沙「備えあれば患いなし」
時子「そういうことよ。ご賛同いただけたかしら」
心「ええ。だけど、質問」
亜季「なんでありますか?」
心「犯人、動くと思う?」
惠「動くわ」
心「根拠は?」
惠「勘よ」
恵磨「勘なんだ……」
時子「動かないと足取りも掴めないわ」
心「ふーん」
恵磨「何もないのが一番だけどさ」
時子「話は以上よ」
恵磨「アタシ達、明日はここに来れないけど、大丈夫?」
亜季「ええ。必要事項は連絡するであります」
時子「リハーサルに集中なさい」
心「もちろん☆だって、はぁとは」
優「だって、アイドルだもんねー♪」
心「こらそこ、セリフを取るな☆」
125
10月26日(土)
某陸上競技場・特設ステージ
全体リハーサル終了後
社長「これで無事にリハーサルも終了だ。みんな、よく準備をしてくれた」
CoP「ええ。アクシデントがあったけど、良い完成度だ」
美穂「プロデューサーさん……」
社長「明日も笑顔を忘れずに頑張ってくれ。最後に、諸星君」
きらり「はーい」
社長「お願いするよ」
きらり「任されましたー☆」
恵磨「挨拶かな?」
きらり「おほん!」
輝子「フヒ……」
きらり「明日はハロウィンイベント、準備はできてるー?」
あやめ「もちろん、抜かりはありません」
きらり「一年に一度のお祭りなの。会場に来てくれた皆をハピハピな気分にしてあげたいにぃ」
莉嘉「うんうん、お菓子ももらえるといいよねー」
きらり「みんなで心を合わせてがんばるにぃ☆」
ナターリア「団結だナ」
きらり「だからね、きらりん、みんなに言いたいことがあるの」
日菜子「むふふ……」
きらり「CuPね、きっとみんなが笑顔じゃなかったら悲しくなると思うの」
菜々「きらりちゃん……」
きらり「だから、ぜぇーたいに成功させてあげるの☆」
卯月「はいっ!」
きらり「最後に円陣を組もうと思うの」
美嘉「ウチのプロダクション、掛け声なんかあったっけ?」
凛「特にないよね」
きらり「だから、きらりんオリジナルだにぃ☆」
仁美「いっちょやっちゃうよ!」
きらり「ほーら、みんなくるにぃ!」
PaP「俺も?」
CoP「そうみたいだな。行こうか」
きらり「いっくよー、ふぁいとー、おー☆」
一同「おー☆」
CoP「なんだか、照れるな」
きらり「うっきゃー☆ばっちし☆きらりん、みんなとお仕事できて本当にハピハピ☆」
心「ふふ」
きらり「最後にひとつ、お知らせなの☆ピーちゃん、おにゃーしゃー☆」
恵磨「あれ、ケーキ?」
きらり「今日はね、鈴帆ちゃんの誕生日なの☆」
かな子「はい!おめでとうございます!」
鈴帆「本当に照れるたい……」
きらり「にゃはは☆みんなでお祝いして、ケーキを食べて、がんばるにぃ♪」
126
10月27日(日)
ハロウィンイベント当日
SWOW部室
時子「わかったわ。がんばりなさい、恵磨。ええ、それじゃ」
亜季「恵磨殿でありますか?」
時子「そうよ。会場に入ったわ。開催も予定通りに」
優「天気も良いし、お出かけ日和だねー」
久美子「ええ。優ちゃん、髪のセットお願いしていい?」
優「いいよー♪」
惠「準備しましょうか」
亜里沙「はーい」
亜季「さて、装備を整えるであります」
惠「亜季ちゃん、その箱なに?」
亜季「これはレイナ製バズーカであります」
優「魔女の衣装もどこから持って来たのー?」
亜季「これはたまたま見つけたであります。惠、どうぞ」
惠「着ろって?」
時子「着ればいいじゃない」
亜里沙「こんな時くらいしかチャンスがないと思うな♪」
惠「……わかったわ」
時子「13時の開演前に入るわよ。急ぎなさい」
127
某陸上競技場・イベント会場
ステージ脇
恵磨「こう見ると大きいなぁ」
心「恵磨ちゃん、準備はオーケー?」
恵磨「おっす、ばっちしだよ。あんま出番ないから、気楽」
心「余裕だねっ☆」
恵磨「こっちの方が気になるし」
心「使い方、確認した?」
恵磨「うん」
音葉「恵磨さん……」
心「音葉ちゃん、調子はどう?」
音葉「ええ……問題はありません」
恵磨「他の人は?」
音葉「問題はないかと……」
心「ご飯食べた?」
恵磨「まだ。よっしゃ、気合入れますかっ!」
128
イベント会場・CGプロ控室
菜々「美穂ちゃん、そのクマさん、持って来たんですか?」
美穂「はい。なんとなく力をくれる気がするので」
そら「そらちん、まみー☆」
美玲「がおーッ!」
恵磨「混沌度が増してるなぁ」モグモグ
ナターリア「エマ、バナナを食べるといいゾ!」
恵磨「ありがと、ナターリア。いただきますっ」
日菜子「むふふ……王子様見てらっしゃいますかぁ」
心「プロデューサー、メイクどう?よく言えよ☆」
PaP「なんで悪く言う必要があるんですか。大丈夫ですよ」
キャシー「マンダリン……マンダリン……」
恵磨「キャシーちゃんは何で呟いてるの?」
仁美「漫談をするとか、なんとか」
あやめ「マンダリン漫談?」
恵磨「無駄に韻を踏んでるね」
鈴帆「みんな、見るたい!」
菜々「鈴帆ちゃん、魔女の衣装可愛いですよぉ♪」
莉嘉「キグルミじゃない鈴帆ちゃん、しんせーん☆」
鈴帆「そこじゃないたい!上ば見ちゃんない!」
美嘉「上?」
恵磨「おお!バルーンがっ!」
輝子「おお……すごい……」
スカウト「鈴帆ちゃん、デザインだしね」
里美「ほえぇ~おっきいですぅ」
かな子「里美ちゃん、クッキー落ちてます!」
恵磨「よし、ごちそうさまっ」
杏「それじゃ、杏はお休みー」
きらり「杏ちゃーん☆めっ、だぞー☆」
杏「き、きらり、わかってるって」
CoP「開演まであと少しだ。準備しろよ」
凛「わかってる」
未央「しまむー、しぶりん、ステージに行くよ!」
卯月「待って、未央ちゃん!」
心「さーて、やりますか☆」
ちひろ「ふふ、みんな、がんばってくださいね♪」
129
イベント会場・グラウンド
楓「美味しいですよ」
涼「アイドル事務所のイベントだから、味はそれなりだと思ってたな」
小梅「うん……」
楓「値段はお高めですけれど」
小梅「グッズついてて嬉しい……」
楓「涼さん、似合ってますね。死神の仮装」
涼「一応本物だからな」
小梅「その鎌、ホンモノ?」
楓「ホンモノだから可愛いカバーがついているんですよね」
涼「そういうこと。楓も似合ってるぞ」
小梅「楓さん、何の仮装……?」
楓「魔法のローブですよ。いっぱい隠しておけます。ふふ」
涼「……」
小梅「私は……?似合ってる?」
涼「似合ってるよ。包帯、綺麗にまけたな」
小梅「ありがとう」
涼「さて、どうなることやら」
小梅「人がいっぱい……守ってる人もいっぱい」
楓「そちらはどうですか?」
小梅「みんな警戒してる……なんで、だろう」
涼「何かいるって、ことか」
楓「ええ。そのようですね。それでは」
涼「なんだ、なにかやるのか?」
楓「あそこのリンゴアメ、美味しそうですよね?」
小梅「そうだね……リンゴアメ、私は好き」
涼「よし。小梅、買いに行くか」
小梅「うん……」
130
イベント会場・スタンド
時子「この辺でいいかしら、亜里沙」
亜里沙「そうね。ステージが正面から見れないけど」
時子「そこまで贅沢言わないわよ」
亜里沙「そうね。オペラグラスは、っと」
時子「無線の確認でもしましょう。亜里沙、準備を」
亜里沙「ねぇ、見て見て!あそこに大きなウサちゃんがいる♪」
時子「……どこよ」
亜里沙「あそこ、見える?」
時子「見えるわ。意外と豪華ね」
亜里沙「ねー♪あーあ、テステス、聞こえるー?」
時子「……聞こえるわ。他は。亜季、応答して」
亜季『こちら大和亜季、聞こえるであります』
亜里沙「亜季ちゃん、どこにいるの?」
亜季『グラウンド、ブロック3であります』
亜里沙「あ、いたいた」フリフリ
亜季『こちらも確認したであります』
時子「亜季、人気者ね」
亜季『ええ……想像以上に子供に人気であります』
亜里沙「トランシーバーが珍しいのかな?」
時子「そのようね。亜季、よろしく」
亜季『了解であります。それでは』
亜里沙「グラウンドから行こうかな、惠ちゃん、聞こえる?」
惠『こちら、ジジジ……』
時子「惠?」
惠『聞こえてるわ。どうぞ』
亜里沙「どこにいるの?」
惠『グラウンドよ。ステージ前近く』
時子「確認したわ」
惠『特に異常なし。以上』
亜里沙「よろしくねー」
時子「優、聞こえてるかしら?」
優『聞こえてまーす。あ、アッキー、こらぁ、暴れないの♪』
時子「わかってるわね?」
優『もちろん、待っててねぇー』
亜里沙「お願いね」
時子「後は久美子ね。久美子?」
久美子『こちら松山』
亜里沙「久美子ちゃん、今はどこ?」
久美子『ふふ。見つけてみて』
時子「よろしく、久美子」
久美子『電源切るわ』
亜里沙「お願い」
久美子『ええ。また』
時子「確認よし」
亜里沙「恵磨ちゃんは何かあったら使うように言ってあるから」
時子「始まるわね」
亜里沙「あ、誰かステージに出てきましたよ」
時子「オペラグラスを貸して」
亜里沙「はい」
時子「諸星きらり、島村卯月、本田未央、渋谷凛ね。この事務所なら妥当なメンツね」
亜里沙「……よく調べてるのね、時子ちゃん」
131
イベント会場・ステージ前席
美由紀「クラリスさん、始まるみたい」
クラリス「そのようですね……騒がしくなってきました」
美由紀「皆、出てきたよ!」
クラリス「ええ。しばらく、楽しんでいましょうか」
132
イベント会場・CGプロ控室
卯月「はぁー、緊張しました……」
未央「良かったよ、しまむー」
恵磨「盛り上がり凄いね」
心「もちろん☆」
CoP「仁美ちゃん、あやめちゃん連れて物販行って」
仁美「あいあいさー!行ってきまーす!」
恵磨「っと、落ち着いてもいられないんだった」
心「どしたの?」
恵磨「そろそろ、来ると思うんだけど……」
133
イベント会場・グラウンド
楓「あら」
涼「どうした?」
楓「可愛いドラゴンが動いてますね」
小梅「ふふ……かわいい」
涼「仮装してる人も多いな」
小梅「だから……ばれない」
涼「本物が紛れ込んだりしていても」
楓「ええ」
134
イベント会場・ステージ脇
優「よし、アッキー」
アッキー「くぅん」
優「お願いねー、はい!」
アッキー「わん!」タッタッタ!
優「待ってぇ、アッキー!そっちは関係者以外立ち入り禁止だからぁ!」
優「入っていっちゃった。早く捕まえないと♪」
優「お邪魔しまーす」
アッキー「わん!」
優「アッキー、捕まえた♪。ちょっと、ここにいてね」
アッキー「くぅん」
優「えっと、控室控室っと」
かな子「あれ?」
優「こんにちはー♪」
かな子「あの、どちら様ですか?」
優「スタイリストの太田です。仙崎さんってこちらにいらっしゃいます?」
かな子「恵磨さんですか?」
優「はい♪中にいるって聞いたんですけどぉ」
かな子「ちょっと見てますね。中にいますよ」
優「あ、いたいた。こんにちは、仙崎さん」
恵磨「あ、来た。よろしくお願いします」
優「ありがとう、えっと」
恵磨「三村かな子ちゃん」
優「かな子ちゃん、ありがと」
かな子「どういたしまして」
優「関係者の名札、ちょうだい」ボソボソ
恵磨「これ。後ろに名前書いておいたから」
優「ありがと。今日はどうします?」
恵磨「いつも通りで、お願いしていい?」
優「はーい♪」
135
イベント会場・スタンド
時子「梅木音葉ね」
亜里沙「やっぱり上手ね」
優『時子ちゃん、亜里沙ちゃん、聞こえる?』
時子「聞こえてるわ。どうぞ」
優『今ね、お茶して休んでるのー』
亜里沙「今はスタイリストさんなのね?」
優『そうだよー。休憩所を使わせてもらってるの』
時子「気づいたことは?」
優『ないよー。あ、一つだけ』
時子「なにかしら?」
優『双葉杏ちゃんって本当に小さくてかわいいよ♪』
亜里沙「目の前にいたりするの?」
優『ううん。さっき連れてかれちゃった』
時子「そう。怪しい動きは」
優『ないよー。あっ、音葉ちゃんの番が終わっちゃった』
亜里沙「怪しまれない程度に移動しててね」
優『はぁーい。またねー☆』
136
イベント会場・某所
久美子「……」
久美子「なんか、イヤな予感がする……」
みなさーん、こちらへー!
久美子「よし……移動しよう」
137
イベント会場・ステージ裏
恵磨「よし、行くぞっ!」
輝子「フヒ……出番……」
恵磨「あれ……」
未央「どうしたの?」
恵磨「いや、なんでもない」
莉嘉「なにしてるのー?行くよー」
輝子「わかった……すぐにいくぞ」
恵磨「なんで、あんなところに絵本が落ちてるのさ……」
138
イベント会場・ステージ近辺
惠「あら……美由紀ちゃん。ステージの上で何をしてるのかしら」
美嘉「会場で見つけた、カワイイ仮装を紹介しちゃいまーす★」
涼「おや、伊集院サン」
惠「あら」
涼「そうだな」
惠「あなたも仮装というか……本物ね。かっこいいわ」
涼「ありがとよ。さっき声をかけられたよ。あのステージのピンク髪の子に」
美嘉「今日はどこから来たのかなー?」
惠「どう?」
涼「今日、ここでアタシが仕事をすることはない」
惠「死ななければいけない人はいないのね」
涼「なければいけない、はいない」
惠「ええ……十分に気を付けるわ」
涼「実体のある存在だ。体には気をつけな」
惠「わかってる」
涼「それと」
惠「なにかしら」
涼「似合ってるじゃないか、ガンマンの衣装」
139
イベント会場・スタンド
時子「そろそろ、3時半ね」
亜里沙「そうね。時子ちゃん、小腹空かない?」
時子「さっき貰ったお菓子があるわね」
亜里沙「むふふ、トリックオアトリート、って言いながらお菓子配ってましたね」
時子「お菓子をねだる言葉、よね?」
亜里沙「ええ。細かいことは気にしません、どうぞ、時子ちゃん」
時子「いただくわ」
亜里沙「さっきの子、なんて言うんだっけ?」
時子「喜多日菜子よ。早い時間にステージで歌ってたじゃない」
亜里沙「そういえばそうかも」
時子「次は握手会場に移動するようね」
亜里沙「ええ。色々と仕掛けがあって面白い」
時子「楽しませてもらってるわ。恵磨は大変そうだけど」
亜里沙「想像以上に出番が多かったのね」
時子「まさか、話すとは思わなかったけど」
亜里沙「ねー、堂々としててかっこよかった♪」
時子「ええ。向いてるんでしょう」
バチン……
亜里沙「ステージの電気が消えました!」
時子「応答なさい!」
亜季『ステージの停電確認!』
惠『多少の混乱あり』
亜里沙「演出か何か?」
優『演出じゃないってぇ!明らかに変な音がしたよ!』
時子「原因は?」
恵磨『ステージ裏だけど、電源系統じゃなかって!』
亜里沙「恵磨ちゃん、そっちの様子は?」
恵磨『復旧にちょっと時間かかりそう……えっ』
時子「恵磨?」
恵磨『黒い影確認!』
亜里沙「動きだはじめたみたい」
時子「ええ」
ジジジ……
亜里沙「なんか変な音を拾ってない?」
あい『聞こえるか?』
亜里沙「え、刑事さん?」
あい『もう少し高いものを使いたまえ。筒抜けだぞ』
時子「筒抜けなら、私の要求くらいわかるわね?」
あい『もちろんだ。会場から避難させるぞ』
亜里沙「お願いします」
あい『それでは、失礼した』
時子「会場の様子は?」
亜里沙「戸惑っているけど……特には異常なし」
時子「まだ、黒い影が見えてはいないわね」
亜里沙「時間の問題かも」
時子「ええ。犯人を捜しなさい!」
優『りょーかい!』
140
イベント会場・某所
音葉「……」
久美子「……」
音葉「気づきませんでした……久美子さん」
久美子「音葉さん」
音葉「アイドル以外の出演者にまぎれていたのですね……さすが久美子さんです」
久美子「なんで?」
音葉「なぜ……?」
久美子「なんで、こんなことをしてるの?」
音葉「……」
久美子「いつから、最初から?」
音葉「……」
久美子「今、ここの電源が落ちているのは、あなたのせいよ、音葉さん」
音葉「……」
久美子「おそらく、殺人事件の前の電話も」
音葉「……」
久美子「答えて」
音葉「ええ……私が」
ガシャーン!
久美子「何の音……?」
音葉「最初からではありません……最初はただ助けを」
久美子「音葉さん……?」
音葉「……こうするしか、なくて」
久美子「音葉さん……聞いて」
音葉「何をですか……」
久美子「……」パクパクパク
音葉「私は……犯人ではありません」
久美子「音葉さん、私、口しか動かしてないわ。声を出してないの」
音葉「え……あぁ……」
久美子「耳、聞こえてないの……?」
音葉「……」
久美子「歌、本調子じゃなかった」
音葉「気づかれてましたか……」
久美子「電話には出ないのも。殺人事件前の電話で、相手に反応してないのも、そのせい」
音葉「……」
久美子「それで、脅されてたの?」
音葉「久美子さん……私は……」
久美子「あなたの大切なものだって、私にもわかる。だから」
音葉「……」
久美子「バカじゃないの!あれだけ頼れって言ったのに!」
音葉「ごめんなさい……あなた達を危険に巻き込みたくなくて……」
久美子「大丈夫。音葉さん、私は負けないわ」
音葉「久美子さん……」
ガタン!
久美子「黒い影が出てきた……」
音葉「ひぃ……」
久美子「音葉さん、教えて。犯人は誰なの?」
141
イベント会場・ステージ前
クラリス「避難誘導をしていますね」
美由紀「そうみたい」
クラリス「ここは退却しましょう」
美由紀「うん。クラリスさん、手を」
クラリス「お願いします、美由紀さん」
142
イベント会場・スタンド
久美子『こちら、松山!』
時子「久美子、なにか!」
久美子『停電の原因は確保したから!』
亜里沙「停電の原因は誰なの?」
久美子『音葉さん……』
恵磨『え……』
久美子『音葉さんを脅していた人物は聞きだしたわ!』
時子「答えなさい」
久美子『小日向美穂、よ』
亜里沙「今はどこに……?」
恵磨『ステージの上だ!』
心『こっちは任せて。以上』
時子「佐藤さん!」
亜里沙「もう聞いてないと思います。ステージを見て」
時子「黒い影出てきてるわね……」
亜里沙「なんとか、なるでしょうか」
時子「なんとか、してもらうわよ」
143
イベント会場・ステージ
美穂「……」
心「美穂ちゃんが犯人だったの?」
美穂「心さん、何者ですか」
心「さぁね」
美穂「普通の人なら簡単に眠っちゃうのに」
心「何がしたいの?」
美穂「めちゃくちゃになっちゃえばいいんですっ!」
心「……!」
美穂「さようなら!」
心「ホウキで飛んだ……本物みたいじゃん!」
144
イベント会場・グラウンド
時子『惠、状況は?』
惠「とりあえず、ステージ付近に押し込めるわ」
時子『お願い』
惠「黒い影は想像以上に多いわ」
時子『どこから出てるか、わかる?』
惠「さっき飛んでいった子がいたけど。近くから出てたわ」
亜里沙『うん。何から?』
惠「持ってるクマの人形からよ」
時子『趣味が悪いわ』
惠「とにかく、今は黒い影を少しでも減らさないといけないわ」
時子『ええ。気を付けて』
145
イベント会場・ステージ付近
楓「数が多いですね」ガブリブチュリ
涼「ああ。目に見えるやつから片っ端からだ」
楓「ええ」
クラリス「皆様」
涼「シスター」
クラリス「ご無事で」
涼「ああ、わかってる」
美由紀「クラリスさん、行こう」
クラリス「はい。美由紀さん」
楓「大きいのが出てきましたね。私では対処しきれないかもしれません」
涼「そっちはアタシがやる」
楓「ええ。行きましょうか」
146
久美子「音葉さん、こっち!」
音葉「はぁはぁ……」
久美子「音葉さん、はやく!」
音葉「あ……やめて……」
久美子「音葉さん!」
音葉「……助けて!」
久美子「黒い手が持って行った……」
恵磨「久美子ちゃん!止まって!」
久美子「恵磨ちゃん、音葉さんが……」
恵磨「大丈夫。あそこにいるから」
久美子「でも、なんで音葉さんを……え?」
ズズズズ……
恵磨「大きい、な」
久美子「恵磨ちゃん」
恵磨「わかってる。音葉ちゃん、助けてくるから」
久美子「お願い」
恵磨「他の人、避難させて。アタシがやるから」
147
イベント会場・スタンド
時子「ステージセットの上、何かいるわ」
亜里沙「心さんと、あれが美穂ちゃんかな」
優『亜里沙ちゃん!』
亜里沙「関係者の避難誘導できた?」
優『うん!そこからステージ見える?』
時子「申し訳ないけど、見えないわ」
亜里沙「黒い影が増えてて」
優『ステージにまだ何人かいるらしいの!助けに行っていい?』
時子「状況はわかったわ。いいわ」
優『ありがと、行ってくるね』
亜里沙「他の人は?」
優『安部菜々ちゃんが絶対に行きたいって、言ってるけど、いい?』
時子「いいわ。それなりの覚悟もあるんでしょう」
亜里沙「急いで。心さんがステージ上でやりあってるから」
優『わかった!それじゃ!』
時子「南に出てきた大きいやつは」
恵磨『アタシが追ってる!』
久美子『音葉さんが、捕まえられてるの……』
亜里沙「確認しました」
時子「久美子は戻ってきなさい」
久美子『わかった。残ってる人がいないか、確認だけするね』
亜里沙「お願い」
芳乃「おねえさまがたー」
亜里沙「えっと、どちら様でしたっけ?」
芳乃「あそこに行くにはどうしたらいいのでしょうー?」
亜里沙「ステージ?」
芳乃「はいー」
時子「関係者なのね。突っ切っていくしかないわ」
芳乃「わかりましたですー。ご健闘をー」
亜里沙「行っちゃった」
時子「亜季、そっちはどうかしら」
亜季『避難誘導中であります!』
亜里沙「バズーカは?」
亜季『暴発しました……レイナ製では対抗できなかったであります』
時子「ただの特大クラッカーよね?」
亜里沙「うん。本物のわけないもの」
亜季『それでは、失礼するであります!』
時子「気をつけて」
惠『こちら、惠!』
亜里沙「惠ちゃん?」
時子「なにかしら」
惠『ちょっと、やばいかもしれないわ』
時子「なによ」
惠『見れば、わかるわ』
亜里沙「これは……」
時子「ずいぶんと大きいのが出てきたわね」
亜里沙「かぼちゃの特大バルーンくらいあるのね……」
148
イベント会場・グラウンド
涼「あいつが本番みたいだな。止めるぞ」
小梅「うん……」
涼「小梅」
小梅「任せて……」
涼「カボチャの特大バルーンをつかえ」
小梅「わかった……みんな、助けて……」
涼「よし、行くぞ!」
149
イベント会場・スタンド
亜里沙「バルーン、動いてる?」
時子「動いてるわね」
ドゴーン!
亜里沙「大きいの、止めた!」
時子「これで、対策は取れたわ」
亜里沙「ええ。後は情報を伝えて」
時子「信じるだけね」
150
イベント会場・ステージセット上
美穂「誰……何が止めてるの?」
心「美穂ちゃんは知らないよね」
美穂「何がですかっ」
心「人に知られずに、誰かを守ってる人だっているよ」
美穂「なんで……今この場所にいるんですかっ!」
心「……知らない?」
美穂「いいんです、わたしはもう魔法使いなんですからっ」
心「ねぇ、美穂ちゃん。あなた、その力どこから?」
美穂「プロデューサーくん……助けて」
心「その愛用のクマさんの中なのね」
美穂「この子が魔法をかけてくれたんですっ!ただの臆病だったわたしに」
心「……」
美穂「でも、プロデューサーさんは認めてくれなかった」
心「……」
美穂「どうして……わたしの背中を押してくれた存在を認めてくれないのかな」
心「間違ってるから」
美穂「何が、間違ってるんですか」
心「あーあ、美穂ちゃんならわかってると思ったのに」
美穂「だから、何をですかっ!?」
心「危ないものから遠ざけないほど、プロデューサーは美穂ちゃんのこと嫌いじゃないよ」
美穂「だから……なんですか」
心「その気持ちも、美穂ちゃんのもの?」
美穂「……」
心「本当じゃないでしょ。それだって、黒い影に言わされてるのかも」
美穂「違いますっ!」
心「どっちでもいい。それは退治するから」
美穂「させません……」
心「だけど、これだけは許さない」
美穂「行って!」
心「この世には魔法なんて使えないのに、さ」ドゴン!
美穂「殴り飛ばした……」
心「本当の魔法使いがいることをさ。忘れてたのは許せない。だから」
美穂「本当の魔法使いは、ここにいます!」
心「ぶん殴るから、目覚ませ☆」
151
イベント会場・グラウンド
恵磨「おっりゃああああっ!」
恵磨「かった……なんで、ここだけ妙に硬いのさ!」
恵磨「音葉ちゃん、聞こえる!?」
音葉「……」
恵磨「聞こえてない、よね。意識なさそうだし」
恵磨「ふー」
恵磨「はぁとさん言ってたし」
恵磨「殴る力が足らないならぁ、助走をつけて殴れ!」
152
イベント会場・控室
優「うわぁ、いっぱいいる」
菜々「うぅ……」
PaP「ナナさん!」
菜々「PaP!?どうしてここに!?」
PaP「勝手に行かれたら心配するに決まってるでしょう!」
菜々「そうなんですけどねぇ……」
優「時子ちゃん、上から見える?」
PaP「ステージに残ってるのは?」
菜々「里美ちゃん、仁美ちゃん、鈴帆ちゃん」
PaP「後は美穂ちゃんと心さんか」
菜々「ええ……大丈夫でしょうか」
優「見えないかぁ。ちょっとずつ進んでみる」
PaP「ところで、この人は?」
菜々「えっと、スタッフさんですよね?」
PaP「そうだっけ?」
優「うーん、どうしようかなぁ」
ゴリゴリゴリゴリ!
菜々「なんですか、この音」
楓「あら」
優「楓さん!」バリバリバリバリ!
PaP「ブルドーザーみたいな音がしてるんだけど」
優「楓さん、ステージに行きたいんだけど、行けるかなぁ?」
楓「はい」フゴフゴフゴ
優「良かったぁ。まだステージに人がいるの、急いで!」
楓「それでは、まっすぐ」
菜々「この変なものを倒せるんですか?」
楓「倒せませんよ、食らうのです」
菜々「くらう?」
楓「行きますよ」
PaP「なにものなんだ……?」
優「気にしたら負け。行こっ!」
菜々「黒い影が消えていきます……」
楓「どうかしましたか?」
PaP「なんでもない」
楓「それでは向かいましょう」
153
イベント会場・スタンド
久美子「時子ちゃん、亜里沙ちゃん!」
時子「無事ね」
久美子「ええ、でも音葉さんが」
亜里沙「見えてます。あそこ」
時子「おかしな青い箱に入ってるわ。恵磨が頑張ってくれてるけど」
久美子「厳しそうね……」
亜里沙「はい」
亜季『こちら、大和であります!』
時子「どうしたの?」
亜季『ほぼ避難が完了したようであります。グラウンドに残ってる人はいるでありますか?』
亜里沙「ステージに数人」
時子「そこを助けに行こうとしている数人だけよ、ここから見る限りでは」
亜季『ふむ』
時子「引き続き捜索を」
亜季『了解であります』
亜里沙「あそこで楓さんと優ちゃん達が進んでる」
久美子「黒い影減らないわね」
時子「理由はあそこ」
久美子「まき散らしてるわね」
亜里沙「はい。そのホールとか呼んでいるものは、あそこです」
時子「小日向美穂が持ってるクマのぬいぐるみからよ」
久美子「かわいい恰好してるのに」
亜里沙「やっていることは悪い魔法使いみたい」
時子「ええ。正義の魔法使いは、どうにも無骨だけど」
久美子「佐藤さん、何が出来てるの?」
亜里沙「跳ぶ、蹴る、殴る」
久美子「え?」
亜里沙「それだけみたいですね」
時子「恵磨も特に火を出していたりしないから、衣装だけに魔法がかけられるのは本当のようね」
久美子「勝てそう?」
時子「小日向美穂には苦戦してるわね」
亜里沙「ええ。何とか発生源を引き離せるといいのだけれど」
久美子「他は?」
時子「目立つのがあるじゃない。面白いわよ」
久美子「どういうこと?」
亜里沙「あのカボチャバルーンね、凄い優勢なの」
時子「ほら、見なさい」
久美子「完全に動きを封じてる?」
時子「封じたうえで、殺しにかかってるわ」
亜里沙「なので、ステージも壊れてませんし、他の人を心配する必要がありません」
久美子「やっぱり、問題は」
時子「ええ。どうにかして、あのクマを引きはがすか、ね」
154
イベント会場・ステージセット上
美穂「マジカルみほたん♪」ビタン!
心「くっそ、呪文だけはかわいらしいんだから、おっと!」
美穂「あのバルーンは強敵です。なんとかしないとっ」
心「あんたの相手はこっちだぁ!」
美穂「うふふ。魔法使いなのに飛べないんですか?」
心「美穂ちゃんはさ、どうして浮いてるかを疑問に思った方がいい!」
美穂「そうだ。思い出しました!」
心「何をっ」ブン!
美穂「おっと。まだ、ステージに人がいるんでした」
心「ちっ、あくどい」
美穂「あ、PaPの姿が見えますっ」
心「え?」
美穂「どうします?この子たちを行かせてもいいんですよ?」
心「……」
美穂「どうしますか?」
心「そう。わかった」
美穂「ふふっ。逃がしてくれますか?」
心「もう、終わりだから」
155
イベント会場・グラウンド
小梅「涼さん……!」
涼「ャアアアアアアアア!」
ザクリ!
涼「オッシャアッ!」
小梅「凄い……雨みた……い」
涼「小梅!」
小梅「ごめん……少しだけ疲れた」
涼「よく頑張った。離れるぞ」
小梅「うん……」
涼「捕まってな。跳ぶぞ」
156
イベント会場・スタンド
久美子「まっぷたつ……」
時子「亜里沙、傘を」
亜里沙「はい、どうぞ」
久美子「この水、大丈夫なの?」
時子「成分はほとんど水よ。問題ないわ」
久美子「でも、これで一番大きいのは倒せたわ」
亜里沙「ステージの上、見て!」
時子「クマのぬいぐるみを地面に落としたわ!回収を!」
亜季『目視しました!了解で、ありま……なっ!』
久美子「き、消えた!?」
時子「亜季、何があったの」
亜季『その、クマを取り込むくらいの穴が開いて、飲み込まれました……』
亜里沙「黒幕もここにいたってこと……?」
時子「見てたのね。どこかで」
久美子「なんのために……?」
時子「まだ終わってないわ。小日向美穂の確保を急ぎなさい」
亜里沙「暗くなってきましたね……」
157
イベント会場・ステージ
菜々「みなさん!」
楓「倒れていますね」ゴックン
PaP「大丈夫か!意識は、ないか」
優「急いで運ばないと!」
菜々「あの、美穂ちゃんと心ちゃんはどこですか?」
PaP「まさか」
優「あ、言ってなかったっけ?」
楓「降りてきましたね。あちらです」
美穂「わ、わたしのプロデューサーくんはどこ!?」
菜々「美穂ちゃんの周りの黒いものなに、ですか……?」
楓「知らなくても良いですよ。早く避難を」
心「そういうこと、はやく逃げろっ!」
PaP「心さん、空から降りてきた?」
心「あーもう、無駄な心配増やすな☆」
優「はやく、行くよっ!」
菜々「PaPは里美ちゃんをお願いしますっ!」
PaP「ああ、鈴帆ちゃんは頼む!」
優「仁美ちゃん、歩ける?」
美穂「見られた、見られちゃった!」
心「今更、何言ってんの!」
美穂「いやいやいや!いやなんですっ!」
心「そんなにあのぬいぐるみ大切だった?」
美穂「はい、何よりも大切で」
心「大切なら、あんなものと一緒にするな!」
美穂「うるさいですっ。みほたん、ふぁいあ!」
心「うおりゃあああああ!」
美穂「腕の振りで消した……?」
心「後はそっちの味方は減っていくだけ」
楓「はい」グチャグチャグチャ
心「さて、そろそろウチのお姫様を助けに行きますか☆」
158
イベント会場・グラウンド
恵磨「おりゃあああああっ!」
バキン!
恵磨「ぶっ壊れろっ!」
亜季「恵磨殿!ご無事ですか!」
恵磨「亜季ちゃん、ごめん!」
亜季「何がでありますか!?」
恵磨「勢いつきすぎた!音葉ちゃん、受け止めて!」
亜季「へ、あわわわわ!」
恵磨「お前は止まれぇっ!」
亜季「ていやぁ!」
恵磨「ナイスキャッチ!」
亜季「無事でありますか、音葉殿!?」
音葉「……」
久美子『亜季ちゃん、音葉さん、耳が聞こえないの』
亜季「意識はないようでありますな」ペチペチ
恵磨「音葉ちゃん、よろしく」
亜季「恵磨殿、お願いが」
恵磨「なに?」
亜季「惠、どこに行ったでありますか」
159
イベント会場・ステージ前
美穂「はぁ……はぁ」
心「苦しいのは後ろかな、それとも美穂ちゃん?」
美穂「心さん……こそ」
心「あはは、バレてら」
美穂「どうして……どうして、みんな認めてくれない……認めてくれたら、こんなことに」
心「そうだねぇ、強いて言うなら」
美穂「なに……ですか」
心「好きだから?」
美穂「え……?」
心「あんなにかわいがられてさぁ、羨ましいぞ☆」
美穂「……」
心「だから、そろそろ帰ってきて」
美穂「はっ!行って!」
パーン!
惠「黒い影に、銃は当たるのよね」
美穂「本物の銃なんて、危ないですっ!」
心「退魔師、遅いぞっ☆」
芳乃「遅れましたのでしてー」
美穂「どなた……?」
惠「本当に何も知らないのね……」
芳乃「この世に無き者。故に敬意は不要なり」
美穂「敵なら!」
惠「止まりなさい」
美穂「ひ……」
芳乃「詠唱略式。離れよ」
160
イベント会場・スタンド
時子「恵磨の相手も消えたわ」
久美子「あれ、見て!」
亜里沙「何か、見るからに禍々しいものが移動していますね」
時子「魔女かしらね」
亜里沙「私にはタコにしか見えないな」
時子「逃げ足が速いわね」
クラリス「問題ありませんよ」
美由紀「問題ないよー」
久美子「び、びっくりした」
クラリス「なぜなら」
時子「なによ」
クラリス「時間切れです」
161
幕間
それは逃げていた。
もう逃げる場所なんてないのに。
逃げ込む場所はもうなく。
帰る土地もなくなった。
騙された。
容易い世界だと思っていた。
しかし、ここには。
暗い通路。ここから逃げ出そうとして。
通路の真ん中。遅れてきた参加者が立っていた。
紅い瞳が見つめていた。
「こんばんは」
ニコリ、っと笑って。
犬歯が白く闇に浮かぶ。
「赦さないから」
それはもう逃げられない。
幕間 了
162
イベント会場・ステージ付近
楓「これで終わりでしょうか」ゲッフ
涼「終わりだろう」
楓「ホールは消えてしまいましたか」
涼「敵はいたみたいだな」
楓「姿は現しませんが」
涼「だが、ヒントはつかめた」
楓「ええ。彼女は単に瞬間移動が出来るわけではないようですね」
涼「能力を隠しているのかもしれないが、これまでに出来ることは一つだ」
楓「ホールを作るだけ」
涼「制限があるだけ、希望がある」
楓「はい」
涼「……ところで」
楓「なんでしょう?」
涼「あいつらは何をやってるんだ?」
心「恵磨ちゃん、そっち持って☆」
恵磨「よしっ、せーのっ!」
涼「急いでセットを直してるように見えるんだが」
楓「あら、聞いてませんでした?」
涼「なにをだ?」
楓「あと1時間もしたら再開しますよ」
涼「はぁ?嘘だろ?」
楓「はい。ここ数時間で起こったことは全て嘘です」
涼「……なるほどな」
楓「活躍を認めてくれなくて残念ですか?」
涼「アタシの出番なんて多くの人が嫌になるほど知ってる」
楓「そうでしたね」
涼「……」
楓「ステージが羨ましいですか」
涼「いいや」
楓「別にいいんですよ。クラリスさんとか良く教会で歌っていますよ」
涼「そうなのか?」
楓「ええ」
涼「いいや、それでも大丈夫だ」
楓「カラオケぐらいにしておきましょうか。今度、行きましょうね」
涼「考えとくよ。アタシらは撤退するぞ」
楓「ええ。お口直しが必要ですね」
163
イベント会場・控室
音葉「……」
優「あっ、目を覚ましたねぇー」
音葉「ここは……?」
優「CGプロの控室だよー、はい、タオル。顔、汚れてるよ?」
音葉「ありがとうございます……あ」
優「耳、聞こえてるでしょー?」
音葉「はい……」
優「そろそろイベント再開するみたいだよ。はい、これ」
音葉「なんですか?」
優「修正版プログラム、起きたら渡しておいてって」
音葉「あの……」
優「大変だったんだよぉ。ちょっとサプライズ過ぎるって」
音葉「あの、聞いてくれますか」
優「なぁに?」
音葉「私……変われてませんでした」
優「うん」
音葉「何があっても、信じて、と私は……言う側だったのに」
優「音葉ちゃん、大丈夫」
音葉「何が……ですか」
優「それでも助けてくれるよ」
音葉「私は犯罪に加担しました……」
優「脅されてたんでしょ?」
音葉「……それでも」
優「あたしは何もしーらない」
音葉「……」
優「だから、イベントが終わったら久美子ちゃんに謝ってね」
音葉「久美子さんは……なんて」
優「凄い怒ってたよー。千秋ちゃんと一緒に一言物申しに来るって」
音葉「それは……恐ろしいですね」
優「ふふ♪」
音葉「……ありがとうございます」
優「怖い刑事さんも来るけどぉ、がんばってねぇー」
音葉「はい……」
優「またねー。アッキー、帰ろ♪」
アッキー「わん!」
164
イベント会場・スタンド
惠「ゲストは876プロの……」
亜季「水谷絵理殿でありましたか」
亜里沙「どっちか当たった?」
亜季「いえ、両者ともにはずれたであります」
惠「タダでランチを食べ損ねたわ」
時子「ステージの二人とも細いわねぇ」
亜季「水谷絵理殿を私は心配しているであります。細すぎであります」
きらり『絵里ちゃんは自分でミュージックビデオもとるんだってぇ、すごーい☆』
絵理『CGとか好き?』
きらり『ねぇねぇ、今日のはどうだったぁー?』
絵理『良かった。でも、今日のはやりすぎ?』
時子「あの子、本当のことに気づいてないかしら」
亜里沙「そんな感じはしますね」
亜季「しかし、撮影と言われて納得するものでありますか?」
時子「異世界から来た怪物が暴れてました、よりわかりやすいじゃない」
惠「ええ。空想が起こるより、空想を見せてくれる方が人は好きよ」
亜里沙「はい。だから、ぜんぶあの子たちが見せてくれた魔法の時間です」
時子「犯人は?」
惠「記憶、あるかも怪しいそうよ」
亜里沙「大切な人を失ったことも忘れてるのでしょうか」
時子「その方がいいかもしれないわ」
亜季「決めるのは、私達ではありません」
時子「そうね」
裕美「亜季さーん!」
亜季「裕美殿、どうしたでありますか?」
裕美「下でね、福引やってるんだって」
亜里沙「仮装していたら、一回タダですよ」
裕美「一緒に行こう?」
亜季「ええ。惠も行くでありますよ」
惠「私?」
時子「仮装してるじゃない。楽しんでらっしゃい」
亜里沙「いってらっしゃーい♪」
きらり『ここで絵理ちゃんのお歌を聞いてもらうにぃ☆』
絵理『曲はクロスワード?』
時子「亜里沙、聞いていいかしら」
亜里沙「なにでしょう?絵理ちゃんがなんでクエスチョンマークがつくような話し方をしてるか?恵磨ちゃんなら知ってそうね」
時子「脅迫状は黒幕が出したのよね」
亜里沙「はい」
時子「でも、小日向美穂と魔女に預けていたホールを回収したのも黒幕よ」
亜里沙「そうです。質問は何かな?」
時子「この事態を作り出されたわね」
亜里沙「はい。私達はちゃんとおびき出されて、ちゃんと解決しました」
時子「犯人には何の得もないわ。恨みを晴らすわけでも金銭の問題もない」
亜里沙「はい。犯人は面白がって見ているだけかな。だから、目的は」
時子「ただの混乱。やっかいね」
亜里沙「うん、本当にやっかい」
165
イベント会場・ステージ裏
心「はー、疲れたー」
PaP「なんてところで寝転がってるんですか、心さん」
心「いいでしょー、許せよ☆」
PaP「……聞いていい?」
心「なーに☆」
PaP「魔法使いだったんですか?」
心「違うぞ☆」
PaP「さすがに見間違いだと思いたくないんですが」
心「じゃあ、教えてあげる」
PaP「何?」
心「いやーさ。昔から自分が魔法使いになるのもわかってたし、なりたかった」
PaP「……」
心「本当になれた時は嬉しかった。服を作るの、本当に好き」
PaP「知ってます」
心「それが人生だと思ってたの。故郷の服屋で幸せに終わると思ってた」
PaP「……」
心「だから、本当に夢みたい」
PaP「そうですか?今、ステージ百鬼夜行みたいになってますけど」
心「もー、恥ずかしがってんの☆」
PaP「……はい」
心「見つけてくれて、ありがとう。プロデューサー」
PaP「いえ、声をあげていたから、見つけられたんです」
心「ふふ♪」
PaP「……アクとアピールの強いやつだと」
心「はぁとパンチ☆こらっ、本気で怯えんじゃない☆」
恵磨「おっす、はぁとさん!」
心「どうしたの恵磨ちゃん?」
恵磨「ステージに乱入しに行くよっ!」
PaP「大混乱だな……あ、輝子ちゃんにスイッチ入った」
心「おっけー、年長者らしく」
恵磨「更にしっちゃかめっちゃかに!」
PaP「ほどほどに、ね?」
恵磨「わかってるって!」
PaP「恵磨ちゃん、アイドル楽しい?」
恵磨「もちろん!行ってきまーすっ!」
心「仲間が増えたよ☆」
PaP「俺の仕事も増えました」
心「嬉しいくせにー☆あのさ、プロデューサー」
PaP「なんです?」
心「年も年だしさ、時間がないんでアイドル街道超特急でよろしく!」
PaP「はい」
心「ありがと、はぁとの魔法使い☆」
166
イベント会場・スタンド
あい「さて、どうするか」
肇「犯人は見つかりました」
あい「上が納得いく説明はできないだろうな」
肇「はい。どういたしましょうか?」
あい「全部忘れてしまうか」
肇「それもいいかもしれませんね」
あい「誰も信じないことを説明したくはない」
肇「はい」
あい「犯人も事件の全容もわかった」
肇「もう興味がありません」
あい「そういうことだ。異界のものを裁く法なんてない」
肇「だから、私法で」
あい「そして、裁かれた」
ワーワー!パチパチパチ!
肇「イベントも終わりですね」
あい「ああ。夢か幻だったのさ」
肇「はい」
あい「署に戻るとしよう」
167
後日
SWOW部室
恵磨「あのさ……」
時子「珍しく声が小さいわね。何かしら」
恵磨「昨日、内定先に行ったんだよね」
時子「ええ。それで?」
恵磨「芸能活動したいって言ったらさ」
時子「いつの間にそんなに決意決めてたのよ」
恵磨「なんて言ったと思う?」
時子「知らないわよ」
恵磨「本当か!嬉しいぞ!ぜひ、ウチの会社の名前も売ってくれ!勤務時間、そんなこと心配するな!だって」
時子「話が分かりすぎる会社ね」
恵磨「遠慮したり、悩んでたの間抜けみたいだよ、これじゃ」
時子「そもそも、さっさと話してたら解決じゃない」
恵磨「確かに。よくよく考えたらあの会社だしなぁ」
時子「そうよ」
恵磨「よっしゃ、楽しも」
時子「……ええ」
恵磨「そうだ、事務所から連絡来てたんだ。行かないと」
時子「そう。存分に楽しんでらっしゃい」
恵磨「もちろん!それじゃ、行ってきます!」
EDテーマ
ExploSion
歌 仙崎恵磨
エピローグ
SWOW部室
時子「恵磨も行ってしまったし、今日は誰もいないのね」
時子「……」
時子「……ヒマね」
終
制作 ブーブーエス
オマケ
PaP「さすが、我ながらイケメンだな」
CoP「若手俳優起用して何言ってんですか」
CuP「本物は三十路いや三十路半ばのおっさんだろうに」
PaP「少しは先輩を敬え、お前ら」
CoP「でも、なんで起用したんですか?」
PaP「そりゃ、心ちゃんが役得にしろよ☆って言ったからだよ」
CoP「前はセリフなしで爆殺しましたからね」
PaP「かなり怒られたし反省したから、サービスだよ。なぜかまた怒られたけど」
CuP「先輩、割とノリで生きてますよね」
PaP「アイドルの意見を聞く、って言ってくれ」
CuP「へぇ、そうですか」
PaP「……あ、被害者役だから不機嫌なの?」
CuP「……」
CoP「Cuさんだけ、無駄に似てましたもんね」
おしまい
次回予告
財前時子「貴方、なにしてるの?」
イヴ・サンタクロース「あはは……」
次回
財前時子、サンタを拾う。
あとがき
きらりと美玲はアイドル役以外一切思い浮かびませんでした。
第4話で長すぎると思ったけど、さらにそれより長くなる。結果、まさかのシュガーハートガチャ開催日に書きあがる、っていうね。
音葉がアイドルになった第1話の時点で、この話はするつもりだったのにトレーナー姉妹を第2話で使ってしまうのは我ながらアホだと思う。茜ちゃんとむっちゃんが同郷だったのがいけない。
久美子、誕生日おめでとー。ちなみに、優の誕生日は1月28日です。
あと、作中ではじめて誕生日ネタ使いました。
次回は、
財前時子「7人が行く・トマル聖ヤ」
です。
それでは。
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