武内P「……」飛鳥「……」 (19)
≪喫茶店≫
武内P「………」
飛鳥(………気まずい)
武内P「………」
飛鳥(話がしたいと言われ、名刺を見せられ、喫茶店に連れて行かれ……そこからずっとこんな調子だ)
武内P「………」
飛鳥(こう言うのは普通、資料を読んでいる間も説明なりなんなりが入ると思うんだけど……)
武内P「………」
飛鳥(無言とは、恐れ入るよ……こうなってくると流石に、ボクとキミとの間に不可視の境界を感じざるを得ない)
武内P「………」ズズッ
飛鳥(無言でブラックコーヒーを飲む姿がここまで様になっているのは羨ましいと思わないでもないかな……)
武内P「………」
飛鳥(でもまあ、ブラックを選んでおけば格好いいだなんて、それこそ格好悪い。生物は本能的に苦みを避けるものだよ)
武内P「………」
飛鳥(とは言え、相手が茨の道を進むことを選んだ手前……ボクも引くわけには行かないかな。生存本能に抗って……)ズズッ
武内P「………」
飛鳥「………ぅぇ…」
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武内P「………」
飛鳥(……苦いな。でもまあ、心地いい苦痛だ。悪くない………悪くないんだ)
武内P「………」スッ…
飛鳥(っ! ……なんだ、手を動かしただけか……警戒心が表に出てしまうなんて、ボクも野生が抜けていないかな)
武内P「………」サラサラ…
飛鳥(……? 何故、このタイミングでグラニュー糖を……コーヒーは半分も残っていないというのに……)
武内P「………」ズズッ
飛鳥(あれじゃ甘すぎるだろう。今まで苦痛に耐えていたのに、この段階に至って現実から逃げる理由は……)
武内P「………」
飛鳥(………まさか…ボクに気を使って…?)
武内P「………」
飛鳥(ははっ……余計なことをしてしまったかな。ボクの生存本能にしたがっていれば、誰も傷付くことはなかったわけだ)
武内P「………」
飛鳥(繰り返す過ちは、得てして意図しない場面で起こる物……今回は偶々、少しだけ、彼とボクの歯車がかみ合わなかっただけ……)
武内P「………」ズズッ
飛鳥(そんなに甘くなっては、もうコーヒーなんて言えないだろうに……二重の苦痛を文字通り味わってまで、ボクの過ちを拭おうと……)
武内P「………」
飛鳥(不器用な優しさだね。それが伝わる相手は、多くないよ。嫌味に思われても仕方ないし、気付かれないことだってあるんじゃないかな)
武内P「………」
飛鳥(でも、まあ……ボクにはちゃんと届いたさ。不可視の境界を超えてね)
武内P「………」
飛鳥(最初はどうかと思ったけれど、多くを語らないその姿勢も高評価だ。ボクとキミだけが、心で通じる……これは良い。凄く良い)
武内P「………」
飛鳥(こんな人になら、付いて行ってもいいかもしれない。面白い景色が見れそうだ……見たことも無い、景色が)
武内P「………あの」
飛鳥「………なにかな?」
武内P「お返事を……聞かせて頂きたいのですが」
飛鳥「それは、アイドルに興味があるか……という問いの返事、かい?」
武内P「はい」
飛鳥「そうだな……はっきり言って、良く分からない。明確にあるとは、言い切れない」
武内P「そう……ですか…」
飛鳥「だけどね」
武内P「……はい」
飛鳥「ボクはキミに興味が湧いた。キミが見せてくれる世界に、期待してしまった。キミに魅せられたんだよ」
武内P「………それは、つまり…」
飛鳥「契約成立だ。キミが見せたいものを、ボクに見せてくれないか?」
武内P「本格的な契約は、保護者の方と話をされてからの方が……」
飛鳥「そういうことじゃなくて」
武内P「はい」
飛鳥「ボクはアイドルになる。キミはボクをプロデュースする」
武内P「はい」
飛鳥「きっと甘くは無いだろう。コーヒーでいうならエスプレッソかな」
武内P「………」
飛鳥「だけどそのくらいの苦痛は、与えて貰わなければむしろ困る。生存本能を無視して、自分を死地へと追いやるんだから」
武内P「………」
飛鳥「ここに砂糖を入れていないエスプレッソがある」
武内P「はい。……あの、なにを」
飛鳥「これがボクの、覚悟だよ」グイッ
武内P「あっ……」
飛鳥「………苦いね、やっぱり。だけどまあこのくらい……飲み干せなくちゃ、格好悪いだろう?」
武内P「………では、受けてくださいますか?」
飛鳥「ああ、勿論。 酸いも甘いも、軽く飲み干して行こう。キミとボクで、ね」
おしまい
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