P「俺らはみんな、妖子荘」 (130)
そこそこ長編予定。
一ヶ月にいっぺんぐらい更新するかも。
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あ、言い忘れてましたがモバPです。
誰しもみんな、人には言えない秘密を持っている。
それは後悔だったり、怒りだったり、恋だったり。
だけど、それはもちろん人じゃない奴らだって持っている。
人間から見たら少し変な人間―――
俺らはそんな、【妖しそう】なモノなんだ。
―――妖子荘前―――
P「……ここが、妖子荘か」
P「ワケありって聞いてたけど……見た目は普通のアパートみたいだな」
prrrr!
P「うわっ!?も、もしもし?!」ピッ
ちひろ『もしもし。Pさんですか?』
P「ち、ちひろさんでしたか」
ちひろ『そろそろ妖子荘に到着する頃かなーって思って電話させていただきました』
P「今ちょうど妖子荘の目の前にいますよ」
ちひろ『ちゃんと迷わないで行けたみたいですね。何よりです』
P「あの……」
ちひろ『はい?』
P「本当に俺が今日からここの管理人になるんですか……?」
ちひろ『ええ。今日からPさんにはこの妖子荘の管理人になっていただきます』
P「……本当に俺でいいんですか?」
ちひろ『それはどういう意味ですか?』
P「いや、だって……」
―――二日前 某ビルにて―――
社長「今までお疲れ様、P君」
P「あの、社長、これって」
社長「見てわからんかね。今日で君はクビだ」
P「え……あ……」
社長「『あの人がいると仕事にならない』という苦情が我が社の女性事務員から殺到していてね」
社長「実際、君のいる部署での、君が入社してからの売り上げは落ち続けている……この意味がわかるかね」
P「……わかり、ました」
社長「君は真面目そうだと思ったのに……残念だよ」
P「……」
社長「さ、出て行きたまえ。私も暇じゃないのでね」
P「……失礼、します」
―――P宅―――
P「くっそ!なんなんだよ!」
P「また、またかよ……畜生……!」
P「どいつもこいつも、俺がいると仕事にならないって……そんなに俺の事が嫌いなのかよ……!」
P「ううう……」
コンコン
P「誰、ですか」
ちひろ「私ですよ。Pさん」
P「……ちひろさん?」
ちひろ「はい。隣から凄い音が聞こえてきましたので、何事かと思いまして」
P「……すみません。静かにします」
ちひろ「いえ。それはいいんです。……今日もおかず作ってきたんですけど、いりますか?」
P「……いいん、ですか?」
ちひろ「はい。それに私、Pさんに少しお話がありまして」
P「……汚い部屋ですが、どうぞ」ガチャ
ちひろ「お邪魔しますね」
P「あ、今座布団を用意しますね」
ちひろ「お構いなく……あ、これどうぞ」
P「ありがとうございます……」
ちひろ「……随分荒れていましたが、何かあったんですか?」
P「……実は、また会社をクビになってしまいまして」
ちひろ「会社を……?」
P「はい。また同部署の、特に女性からの苦情が殺到したみたいで……」
P「ははは。俺ってとことん女の人に好かれないみたいなんですよね。小学校でも、中学校でもそうでした……」
ちひろ「……なるほど」
P「それで癇癪を起こしてしまいまして……お恥ずかしい限りです」
ちひろ「……」
P「ああすみません。それでお話って……」
ちひろ「そう、ですね……なるほどやっぱり……」
P「ちひろさん?」
ちひろ「ああいえ。実は、知り合いからちょっと頼まれ事をされてしまいまして」
P「頼まれ事?」
ちひろ「はい。何でも、知り合いが買い取ったアパートの管理人を募集していて、それを私にやって欲しいと……」
P「アパートの管理人、ですか……大変ですね」
ちひろ「それでその……Pさん、やってみませんか?」
P「なるほど俺が……はい?」
ちひろ「実はその頼まれ事、結構前からお願いされてまして……その頃から私、Pさんならって思ってたんです」
ちひろ「で、その、不謹慎かもしれませんが……Pさんは今、無職……なんですよね?」
P「ええまぁ……いやでも無理ですって!アパートの管理人とか、俺全くの初心者ですよ!?」
ちひろ「お願いします!どうか私を助けると思って……!」
P「いやでも……」
ちひろ「知り合いの言う事にはちゃんと給料も出すし、管理人室も一部屋自由に使っていいと……」
P「(話がうますぎやしないか……?)」
P「(いやでも、ちひろさんにはお世話になってるし……すぐに職が決まって、給料も出る……)」
P「(……どうせ、別の職場に行っても結局クビになると思うし……)」
ちひろ「ダメ……ですか?」
P「……わかりました。俺でいいなら、やってみます」
ちひろ「本当ですか!?じゃあ今すぐ知り合いに連絡してきますね!」バタバタ
P「あっ、ち、ちひろさん!?」
―――妖子荘―――
P「で、とんとん拍子に話がまとまってしまったので……」
ちひろ『私はPさんだからこそお願いしたんですよ』
P「信頼していただけるのは嬉しいのですけど……」
ちひろ『……もしかして、迷惑でした?』
P「いや、まだちょっと戸惑っているんです……初心者で何やってもダメな俺はやっていけるのかなって……」
ちひろ『Pさんならきっと大丈夫です。……ああそうだ!腕輪はちゃんとつけてますか?』
P「はい。管理人の証、ですよね」
ちひろ『それを見せれば住人の娘達も一目でPさんが管理人になったのだとわかると思うので』
P「わかりました」
P「任せてくださいとはいえないですけど……信頼していただいた分、精一杯頑張ります」
ちひろ『はい。よろしくお願いしますね』プッ
P「……さて」スーハー
P「え、えっと……お邪魔しまーすでいいのかな……?」ソローリ
P「いやでも……そういえば管理人室の場所って……ああもう本当にダメだな俺……」
小梅「あ、あの……」
P「うわぁっ!?」ビクッ
小梅「ひゃう……」ビクビクッ
P「お、おおお、女の子?!」
小梅「び、びっくり……した……」
P「ご、ごめんね。急に大声あげたりして……」
小梅「う、ううん。大丈夫……」
P「えっと、それで俺に何か用かな?」
小梅「えっと……妖子荘の前でうろうろしてたから……何か用事があるのかなって……」
P「用があるっちゃあるんだけど……えっと、もしかして君、ここの住人だったりする?」
小梅「う、うん。白坂小梅……201号室に住んでる……」
P「そうなんだ。俺は今日からここの管理人をする事になった、Pっていうんだけど……」
小梅「管理人……さん?」
P「うん。あ、あれ?もしかして聞いてない?」
小梅「ううん……聞いてた……でも、今日来るとは思ってなかった……」
P「結構長い間、管理人は保留にされてたみたいだしね……」
小梅「じゃあ管理人さん……腕輪……見せて……?」
P「これだよね?」
小梅「うん……」スッ
P「え、えっと……腕輪に手なんか乗せて、どうしたの?」
小梅「……」
P「し、白坂さん?」
小梅「……うん。本物……」
P「よ、よかったぁ……何か変なところでもあったのかと……」
小梅「それじゃあ管理人さん……お部屋……こっち……」
P「もしかして管理人室?」
小梅「うん……100号室が……管理人さんの、お部屋……」
P「わざわざありがとう白坂さん」
小梅「ううん……部屋がわからなくてあたふたする未来が見えたから……」
P「え?未来?」
小梅「あ……気にしないで……」
P「う、うん」
小梅「……」
P「(気まずいなぁ……というか聞いてないぞ。こんな可愛い女の子がアパートに住んでるなんて……)」
P「(むっさいオッサンとかなら別に嫌われようが何でもいいんだけど……流石に女の子に嫌われたくはないなぁ……)」
P「(でも引き受けちゃったし……住人から苦情が来て辞めさせられるまでは頑張ろう……)」
小梅「……あの」
P「何かな?」
小梅「管理人さんは……この妖子荘が……ワケありだって……知ってて、管理人さんになったの……?」
P「その辺はちひろさんから話してもらったんだけど、どうもそのワケありについての内容を教えてくれなくて……ああ、ちひろさんって言うのは元々俺が住んでたアパートの隣の―――」
小梅「ちひろさんは……知ってる」
P「そうなんだ。それでここってどういうワケありのアパートなんだい?」
小梅「それは……秘密」
P「白坂さんまで……何なんだ一体……」
小梅「……着いた」
P「ここが新しい俺の部屋かぁ……」
小梅「そういえば……まだトラックとか来てない……平気?」
P「私物はほとんどないからさ。このキャリーバックに入ってるので全部」
小梅「えっ……たったこれだけ……?」
P「元々未練のあるものとかもなかったし、家具も安物ばっかりだったから。これを期に心機一転して、全部買い直そうかなって」
小梅「そうなんだ……なんだかいいな……そういうの」
P「そうかい?」
小梅「うん……私もここに来た時……あの子に勧められてそうしたの……」
P「あの子?」
小梅「あ……友達の事」
P「なるほどね。その友達とは気が合いそうだ」
P「(どうせすぐ嫌われるんだろうけど)」
小梅「本当……?」キラキラ
P「え?ま、まぁ……うん」
小梅「だったら今度……会ってあげて……?」
P「そうだね。もし機会があったらよろしく頼むよ」
小梅「うん……!」ニコッ
小梅「私……みんなに管理人さんが来た事……伝えてくる」
P「うん。よろしく頼むよ。その間に俺はちゃっちゃっと荷物の整理とかしちゃうからさ」
小梅「任せて……!」テクテク
P「……ふぅ」
P「あんな可愛い子にこれから嫌われると思うと……胃が痛いなぁ……」
P「でもそれも承知の上でここに来たんだから……頑張らないと……」
―――100号室―――
prrrrr!
P「あれ……もしもし。ちひろさん?」
ちひろ『何度もすみません。Pさんの部屋番号をまだお伝えしていなかったと思いまして』
P「ああ。それなら大丈夫です。ちょうど入口で住人の人に出会って、管理人室を教えてもらいましたから」
ちひろ『それはよかったです。誰と会ったんですか?』
P「白坂さんです」
ちひろ『小梅ちゃんですか。どうですか?第一印象は』
P「なんというか……可愛い子ですね。これからあんな子に嫌われるんだと思うと、今から胃が痛くなってくるなぁと考えてたところです」
ちひろ『……きっと、大丈夫ですよ?』
P「え?」
ちひろ『むしろPさんはみんなに好かれると思います。それは私が保証します』
P「いや、そんな事ないですよ。話しましたよね?いつも俺が会社をクビになっている理由」
ちひろ『はい。人間の女性にいつも嫌われて、苦情が殺到するから……ですよね?』
P「ええ、まぁ」
P「(……ん?何だ今の変な違和感)」
ちひろ『大丈夫です。そこの子達は少なくとも、あなたを嫌ったりはしませんよ』
P「果たしてそうですかね」
ちひろ『ええ、きっと』
P「……俺と仲良くしてくださったちひろさんがそこまで言うなら、少し、ほんの少しだけ信じてみます」
ちひろ『はい。そのほんの少しでも信じてあげることが、アパートのみんなとの信頼に繋がりますから』
P「なるほど……」
ちひろ『それじゃあまた何かあったらこちらから連絡します。Pさんも何か聞きたい事とかがあったら私に電話してくださって大丈夫ですよ』
P「ありがとうございます。助かります」
ちひろ『いえいえ。それでは』ピッ
P「ここの子達は俺を嫌ったりしない……か」
P「……そうだといいんだがな」
コンコン
P「……白坂さんかな?」
P「はーい。どうぞー……」ガチャ
小梅「管理人さん……みんなに……伝えてきた」
P「そっか。ありがとな」
柚「小梅ちゃん!この人が新しい管理人サン?」
小梅「うん……新しいここの管理人さん……」
柚「へー!……結構、かっこいいカモ」
P「えーっと……君は?」
柚「アタシ?アタシは202号室の喜多見柚だよっ♪よろしくね、管理人サンっ♪」
P「よ、よろしく」
こずえ「……」ジーッ
P「……えっと」
こずえ「101ごうしつ……ゆさこずえー……よろしく……」
P「……えっ!?住んでるの?!誰かの妹ってワケじゃなくて?!」
柚「あはは……そりゃ最初は驚くよねっ。でもこずえちゃんだって立派な妖子荘の一員なんだよ!」
P「そ、そうなのか……というかそもそも一人で生活できるのか……?」
こずえ「こずえ……かいもの……りょうり……せんたく……できるよ?」
小梅「むしろこずえちゃん……妖子荘で色んな家事やってる……」
P「マジかよ……」
こずえ「……えらい?」
P「偉いってレベルじゃないけど……こずえちゃんは凄いな……」ナデナデ
こずえ「えへへー……」
周子「……で、管理人さんはこの中で誰が一番好み?」
P「えっ?!というか君は……」
周子「ああそっか。あたしは102号室の塩見周子。気軽にシューコって呼んで」
P「よろしく周子……さん」
周子「さんはいらないんだけどな……それで、誰が一番好み?」
P「いや、いきなりそんな事言われても……」
周子「見た目の話だよ。見た目の。性格とかはまだわかんないだろうし」
P「見た目って言われても……みんな美人だし可愛いからなんとも……」
周子「……なるほど。管理人さんはそういう事を素で言えちゃう人なんだ」
P「え?ああ、まぁ……」
柚「て、照れるナ~……アタシを喜ばせてもあんまりいい物は出ないぞっ?」
小梅「可愛い……えへへ……」
こずえ「こずえ……かわいい……?」
周子「これはもしかしたらとんだ天然ジゴロが管理人になっちゃったかもね……」
P「天然……何?」
周子「気にしない。まぁ、とにもかくにも」
【妖子荘にようこそ!】
―――100号室―――
P「(アパート管理人の朝は早い)」
P「(―――と、言っておくのが通例らしいが、そんなに早く起きなくてもいいとマニュアルに書いてあった事は黙っておこう)」
P「さて……マニュアル通り6時半に起きたワケだけど」
P「最初にする事が『朝弱い子がいるので、起こしてあげてください』って……本当にこんなんでいいのか?」
P「……とりあえず起こしに行くか」
―――101号室―――
P「……」
こずえ「……おはようー?」
P「お、おはよう……」
こずえ「……?」
P「えっと、こずえちゃん。箒を持って、何をしてるのかな?」
こずえ「おそうじ……」シャッシャッ
P「そ、そっか掃除か……もしかして毎日やってるのかい?」
こずえ「うんー」
P「……こずえちゃん。今日からは俺がいるから、こんな朝早く起きて掃除はしないでいいよ。俺がやるから」
こずえ「でも……これが、こずえのおしごと……」
P「こずえちゃんのお仕事って……」
こずえ「それより……みんなをおこしにいかないのー……?」
P「えっ、あー……わかった。こずえちゃん。みんなを起こし終わったら、一度お話しよっか」
こずえ「……わかったー」シャッシャッ
―――102号室―――
P「周子さーん」ピンポーン
周子「はーい。あれ、管理人さんじゃん。どうしたの?」ガチャ
P「あれ、起きてたんですか」
周子「起きてたんですかって……何?みんなを起こして回ってるの?」
P「ええ。ちひろさんから管理人の仕事マニュアルのような物を預かって、その一番最初にやる事の中に書いてあったので……」
周子「なになにー?『朝弱い子がいるので、起こしてあげてください』……ああ、柚の事かな?」
P「柚さん、そんなに朝弱いんですか?」
周子「弱いってレベルじゃないよ。あの子、いつも遅刻してるし」
P「それは……頼まれたのも納得できます」
周子「まぁ弱いと言えば小梅も弱いかな。あの子は低血圧っていうのもあるけど」
P「なるほど……じゃあ2階の二人は朝が弱いと」
周子「そういう事……あと管理人さん」
P「はい?」
周子「敬語、やめること」
P「えっ……」
周子「あと昨日も言ったと思うけど、「さん」は付けなくていいよ。なんか堅苦しくて嫌」
P「いやでも」
周子「でもも桃も李もないよ。きっと柚や小梅、こずえだって言うと思うよ?」
P「……」
周子「どうしたの?」
P「いや……ここまで女性にフランクに接せられた事がないから戸惑ってる」
周子「そうなの?昨日会った感じ、小梅や柚と普通に話してたし、なんだか女性慣れしてる気がしたんだけど」
P「そんな風に思われてたのか……きっと、女性を怒らせないための癖みたいなのが自然に身についちゃったんだと思う」
周子「女性を怒らせないための癖って……」
P「どうも俺は女性に嫌われる星の下に生まれてきたみたいで……女性と仲良くできた事が数えるほどしかなくて」
P「だから少しでも女性から嫌われないようにって褒め言葉とかも照れずに口に出すようにしてたから……そうすれば、少しは反応がよくなるから……」
周子「……ふーん。じゃあさ、あたし達を美人だとか可愛いとか言ったの、あれもお世辞?」
P「いや、そんな事はない。みんな美人だと思うし、可愛いと思う、思うんだけど……」
周子「だけど?」
P「これから……嫌われていくんだと思うと、こう、心が痛いんだ」
周子「……」
P「ごめんな。変な話して……それじゃあ俺は残りの二人を―――」
周子「待って」
P「え?」
周子「それ、あたしの前だけね」
P「周子……の前だけ?」
周子「そんな『みんなに嫌われるのは当たり前』、みたいな態度を取るのはこれからあたしの前だけでって事」
周子「柚や小梅、それにこずえの前でそんな事言ったら多分、みんな怒るよ?」
周子「あたしだって今ちょっと怒ってる。だけど、Pさんの気持ちを理解できるから」
周子「だから今みたいな話をしていいのはあたしの前だけ。いい?」
P「……わかった」
周子「それじゃ二人を起こしてきて。今まではあたしの仕事だったんだけど、今日からはよろしくね?」
P「おう」タッ
―――201号室―――
P「白坂さ……」ピンポーン
P「……」
P「小梅ー。起きてるかー?」
小梅「……おはよう……管理人、さん」
P「おはよう、起きてたか」
小梅「うん……学校……あるから」
P「……え?学校があるのか?」
小梅「うん……変……?」
P「いや変じゃない。むしろ普通なんだが……学校があるのに一人暮らしをしてるのか?」
小梅「えっとね……お母さんとお父さんが……お金はくれるから……」
P「……そっか」
小梅「で、でも、寂しくないよ……みんながいる、から……」
P「食事とかはどうしてるんだ?」
小梅「自分でやったり……こずえさんや周子さんに手伝ってもらったりしてる……」
P「なるほどな……というかやっぱりこずえは料理できるんだな……」
小梅「凄いと思う……あのちっちゃい体で中華鍋回してた時はびっくりした……」
P「(想像ができない……)」
小梅「そうだ……Pさん」
P「ん?」
小梅「あのね……何か好きな食べ物は……ある……?」
P「好きな食べ物か……カレーかな」
小梅「カレー……そっか」
P「そんな事聞いてどうするんだ?」
小梅「ううん、何でもない……よ?」
P「?」
小梅「ほ、ほら……次は柚さんを起こしに行ってあげて……」グイグイ
P「あ、ああ……」
小梅「明日の夜……楽しみにしててね……?」
P「明日の夜……?」
―――202号室―――
P「結局そのまま小梅は部屋に戻っちゃったな……明日の夜に何かあるのかな」
P「もしかして、誰かがカレーを作ってくれるとか?」
P「……入ったばかりのやつに、そりゃねーか」
P「さて……ゆ、柚ー!起きてるかー?」ピンポーン
P「……」
P「柚ー!」ピンポーン
P「……」
P「…………全く反応がねぇ」
こずえ「……」クイクイ
P「うわっ、こ、こずえ?掃除は?」
こずえ「おわったよー……あのねー……ゆずは……へやにはいってちょくせつおこさないと……おきないのー……」
P「……マジで?」
こずえ「うん……しゅーこも、いつもそうやってた……」
P「でも鍵がさ」
こずえ「かぎ……あいてる……」キィ
P「……無用心だなぁ」
こずえ「ゆず……よるはつよい……だからへいき……」
P「そういう問題じゃないだろうに……というか入っていいのかこれ……」
こずえ「まよわずいけよー……いけばわかるさー……」
P「……」
こずえ「ふわぁー……?」
P「まぁいいや。行ってくる……」
こずえ「ほねはひろってやるー……」ヒラヒラ
P「(誰がこずえに微妙に使い方を間違えてる言葉を教えてるんだろう……)」
―――柚の部屋―――
P「お、お邪魔しまーす……」
P「女の子らしい可愛い部屋……じゃなくて、柚は一体どこに……」キョロキョロ
棺桶「……」
P「……は?」
棺桶「……」
P「これ……棺桶、だよな……?」
棺桶「……」
P「どうしてこんな物が柚の部屋に……?」
棺桶「……ぐぅ」
P「っ!?」ビクッ
棺桶「……」
P「い、今この棺桶から声がしたような」
棺桶「がおー……食べちゃうぞー……」
P「ひ……っていやいやまさか……」ガコッ
柚「……zzz」
P「……」
柚「……えへへ」ニマッ
P「これベッドだったのか……随分と前衛的なデザインのベッドだな……」
柚「がぶー……ぐさぁー!……むにゃむにゃ」
P「と、とりあえず起こすか……柚ー。朝だぞー。起きろー」ユサユサ
柚「ん……あと10時間……」
P「いやそれは寝すぎだろう」
柚「……zzz」
P「うーん……困ったなぁ。周子ならともかく、俺があんまり女の子の体に触るってのも……」
柚「……ぴ、ぴにゃあ……」
P「幸せそうに……一体何の夢を見てるんだか……」ペシペシ
柚「う……ん……なんだかいい匂いがする……えへへ……」ユラァ
P「お、起きたか柚。勝手にあがってすまない―――」
柚「……美味しそー」ガバッ
P「……は?」
柚「がぶっ」ドスッ
P「っ!!!???」
第一話『妖子荘へようこそ!』 完
とりあえず今日はここまで
大体誰が何なのかなんて予想できると思いますが、楽しんでください。
更新です。
生ゴミでもガンバリマス!
P「(え、お、俺今、柚に何されてる?!)」
柚「ちゅー……ちゅー……」
P「(だ、抱きつかれたと思ったら首筋を噛まれて……そ、それでち、血を吸われ……!?)」
柚「ぷはっ……やっぱ凄く美味しい……あれ?」
P「ゆ、柚……?」
柚「P、サン……Pサン!?」バババッ
小梅「あう……お、遅かった……」ガチャ
P「こ、小梅」
周子「Pさん、大丈夫!?」
P「あ、ああ……」
こずえ「くび……ちがでてる……」
P「……ま、マジか」ヌチャ
柚「あ、ああ……ご、ごご、ごめんなさいっ!ア、アタシ……」
周子「とりあえずPさんはこっち来て。治療するから。小梅とこずえは柚をお願い」
小梅「う、うん……!」
こずえ「まかせろー……ばりばりー……」
―――周子の部屋―――
周子「とりあえずこれで平気」
P「す、すまない……まさかこんな事になるとは……」
周子「謝るのはこっち。柚に噛み癖があるのをすっかり忘れててさ」
P「噛み癖?」
周子「うん……どうも寝ぼけてるとあの子、近くにいる人にあーやって噛み付いちゃうんだって」
P「そりゃあまた難儀な……」
周子「あたしも何回かやられた事があったのに、最近はなかったから油断してた……本当ごめん」
P「いや、俺は大丈夫なんだけど……柚がさ、大丈夫かなって」
周子「え?」
P「周子ならまだ女の子だからいいじゃないか。ただ昨日入ったばかりの、しかも男の俺に噛み付いたって事で柚がショック受けてるんじゃないかって」
P「(……血を飲まれたような気がした事は本人のために黙っておこう)」
周子「うーん……どうだろう」
P「どうだろうって」
周子「見ず知らず、じゃないだけよかったと思うし……それに柚自身はまた別の場所でショック受けてると思う」
P「別の場所?」
周子「その辺は……まぁ、女の子の事情ってやつ」
P「そうか……じゃあ俺が立ち入るべきではないな」
周子「そうしてくれるとありがたいな。きっと、そのうち話せると思うから」
P「話せるのか?」
周子「【今は】女の子の事情だけど、いずれこの妖子荘全体の事情になると思うから」
P「……わかった」
周子「そんじゃ話は御終い。……外にお客さんが待ってるよ」
P「お客さん?」
―――妖子荘―――
P「お邪魔しましたー」ガチャ
柚「あ……」
P「柚……」
柚「え、えっと……ご、ごめんなさいっ!」ペコッ
P「いや、いいよ。傷もそんなに深くなかったし」
柚「でも痛かったでしょ?本当ごめんねっ」
P「いや俺はいいんだ……それより柚は大丈夫なのか?」
柚「ア、アタシ?」
P「ああ。俺なんかに噛み付いたりして……嫌だろ」
柚「アタシ的には……その……嫌じゃないっていうか……むしろ……」
P「嫌じゃないのか?」
柚「その、一目見た時から、Pサンはなんかいいなーって思ってたし……」
P「……そ、そうか。ありがとう」
柚「(あ、あれ。おかしいな。こんな事言うつもりじゃなかったのに)」
P「とりあえずお互い部屋に一回戻ろうか。学校の準備もあるんだろ?」
柚「う、うん……」
柚「(な、何だろう……凄く心臓がドキドキして……凄く……)」
P「それじゃ、またな。柚」
柚「(凄く―――喉が、渇く)」
――― 学校 ―――
柚「……っ、はぁ、はぁ」
女子「柚?」
柚「な、何カナ?」
女子「凄くしんどそうだけど、大丈夫?」
柚「う、うん。ちょっと寝不足なだけだから」
女子「そっか。ならいいんだけど……」
柚「もしかして体調悪そうに見えちゃった?」
女子「うん。顔も赤いし、熱でもあるんじゃない?」
柚「あはは、ごめんね」
女子「一回保健室で熱を測ってみたら?」
柚「もー。おせっかいだよー」
女子「その言い方はひどくなーい?うりうりー」
柚「にゃっ、やったなー?!」バタバタ
柚「(……人間の血を飲みたいワケじゃないみたい)」
柚「(じゃあ、どうしてこんなに……)」
―――夜 周子の部屋―――
周子「さて、みんなに今日集まってもらったのは他でもない、明日のPさんの歓迎パーティについて話し合うためなんだけど……」チラッ
柚「あう……」
こずえ「……ゆず……へーき」
周子「……少し早すぎるような気もするけど、今日の件もあったし、あたしは明日、【私達】の事を話そうと思う。それについて反対意見はある?」
柚「……ごめんね」
周子「柚のせいじゃないってば……でもどうしてあんな事したの?私には一度もした事ないよね?」
柚「それは……Pサンが人間だからじゃないかナ……?」
周子「じゃあ柚は学校で友達にあんな事する?」
柚「しない、ケド……でも、なんだかPサンからは凄く……美味しそうな匂いがしたんだ」
周子「何となく、ここの管理人って時点で普通の人間じゃないとは思っていたけど……」
こずえ「しゅーこ……あのねー……」
周子「どうかした、こずえ?」
こずえ「さいしょ……こずえがPになでられたとき……すごく……きもちよかったのー……」
周子「普通の事じゃないの?」
こずえ「ううん……こずえ……あんなのはじめてだった……」
周子「……柚とこずえの情報から推測する限り、どうも【私達】に惹かれやすい体質みたいだね」
小梅「だから……ちひろさんがここの管理人に……?」
周子「その辺は本人に聞いてみないとわからないや。それよりも、明日の事。【私達】の事を話す、そこに反対する人はいない?」
柚「うん、Pサンになら大丈夫」
こずえ「こずえもー……いぎなーし……」
小梅「うん……賛成……」
周子「じゃあそれは決定事項っていう事で。じゃあ明日の段取りだけど―――」
柚「ん……ぐ……」
柚「(ずっと……喉が痛いほど渇いてる……)」
柚「(飲みたい、呑みたい、ノミタイ……Pサンの血……)」
柚「っ!」バッ
周子「柚?」
柚「ご、ごめん。寝ちゃいそうになってた……ちょっと顔洗ってくる!」ダッ
周子「あっ、柚!」
柚「(アタシ何を考えてた?!)」
柚「(今まで人の血を飲んだ時でもここまで固執する事なんてなかったのに、どうして、どうして?!)」
柚「(アタシ……どうしちゃったの……?!)」
―――翌日 早朝 202号室前―――
P「……どうしたものかな」
周子「どうしたの?」
P「周子か……いや、これさ……」
周子「……何これ。テープ?」
P「早速嫌われたかな……まぁあんな事があった直後だし……」
『Pサン立ち入り禁止!』
『アタシに近づかないで!』
周子「……」
P「ここまで書かれちゃうとな……ご丁寧に鍵までかかってるし」
周子「……」
P「周子?」
周子「ちょっと待ってて。柚と話しつけてくる」
P「え?」
周子「(柚……何考えて……!)」グッ
P「周子、だから鍵が―――」
周子「っ」ガシャコン!
P「あれ?」
周子「開いてるじゃん。邪魔するよー」ガチャ
P「俺が確認した時は閉まってたはずなのに……って待て周子」グッ
P「……あ、あれ?」ガッ
P「あ、開かない……なんで?!」
―――柚の部屋―――
周子「柚、起きてんでしょ。朝からあんな事して何のつもり?」
柚「……Pサンは?」
周子「外だよ」
柚「……そっか。あのさ、周子」
周子「どうしたの?」
柚「今日のパーティ……出れないかも……」
周子「どうして?」
柚「多分……次、Pサンを見たらアタシ……意識なくして襲っちゃうかもしれない」
周子「襲うって」
柚「……昨日、会議が終わってから、アタシ、何回も無意識にPサンの部屋に行っちゃったんだ」
周子「無意識に?」
柚「気がついたら、Pサンの部屋をノックしようとしてた」
周子「今までそんな事あったの?」
柚「ないよ。だから怖いんだ……怖いよ周子……」
周子「……それでも」
柚「え……?」
周子「それでも、参加しなさい」
柚「でも、アタシ」
周子「柚がPさんを襲いそうになったらあたしが止める。約束する」
周子「というかそうでもしないと……あの人、本当に居場所がなくなっちゃう」
柚「居場所……?」
周子「あの人はずっと人間の女の人に嫌われてたらしくてさ。あたし達もそうなるんじゃないかって思ってるフシがある」
周子「そう思われたら多分……あの人は、ここの管理人もやめちゃうと思う」
周子「ちひろさんが必死で探してきてくれた管理人さん何だからさ。そういうのでいなくなっちゃうのって嫌じゃない?」
柚「……わかった。でも、パーティー始まるまでは外に出ない。パーティーの時間だけなら耐えられると思う、から」
周子「ありがと、柚」
柚「ううん、アタシこそ……そうだよね、アタシだって妖子荘の一員なんだし……」
周子「そーゆーこと。そんじゃ、またパーティーでね」ガチャ
―――夜 101号室―――
周子「そんなわけでー」
こずえ「かんりにんの……」
小梅「歓迎……パーティーを……」
柚「始めたいと思いマース!わー!パチパチー!」
P「……凄いな。数時間部屋あけてただけでここまで出来るものなのか」
周子「驚くところそこー?」
P「いや、驚きすぎていらんところまで目がいってしまうというか」
柚「何それ。Pサン変なのっ」
P「(……よかった。元気そうだ)」
こずえ「こずえー……りょうり……がんばったよー……?」
P「これ全部こずえが作ったのか……?俺の好物のカレーまで」
こずえ「えへん……ほめてくれても、いいんですよ……こずえは……かわいいのでー……」
P「偉い偉い」ナデナデ
こずえ「えへー……」
小梅「料理の他に……プレゼントもある……」
P「本当か?わざわざありがとうな。俺なんかのために」
周子「めっ」
P「え?」
周子「【なんか】は禁止。謙遜はいいけど、卑屈になるのはダメ」
P「……わかった。すまんな」
周子「わかればいいよ」
柚「……」
P「柚?」
柚「え?あ、あたしのプレゼントの番?!」
周子「プレゼントはもうちょっと先。ぼーっとしてたからさ」
柚「……ごめん」
周子「いいよ。辛い?」
柚「……頑張る」
こずえ「ゆずー……」スリスリ
柚「あはは、背中さすってくれてありがと、こずえちゃん。でも大丈夫だから」
柚「もう、大丈夫だから……」
周子「それならいいけど……」
小梅「それじゃ……料理、取り分ける」
P「お、ありがとな小梅。俺も手伝うよ」
柚「じゃあアタシもー」
P「いや、柚は休んでろって」
柚「……どうして?」
P「体調、悪いんだろ?無理すんなよ」
柚「心配してくれるんだ」
P「当たり前だろ。管理人として―――」
柚「じゃあさ」
柚「血、チョウダイ?」グイッ
小梅「しゅ、周子さん!」
周子「柚っ!」
P「ゆ、柚っ……」
柚「この前はゴメン、痛かったよね。今度は痛くならないようにするから……」ドン
周子「(嘘っ、あたしの神通力が効いてない……!?)」
柚「いただきまーす……えへへ」ガプッ
P「(っ……また、血を吸われ……)」
周子「こうなったら力づくでっ……!」
P「周子……待ってくれ」
周子「でもっ」
P「大丈夫、柚は……あれだろ?俺にストレスが溜まってたんだろ?」
周子「へっ?」
P「ごめんな。こんなダメな俺が管理人なんかやっててさ。凄くウザかったよな。苦しかったよな」ナデナデ
柚「……ふぇ?」
P「こんな事で柚の気が済むなら……俺、我慢するからさ。いくらでもやっていいぞ……」
柚「あ……ち、違う。違うのPサン!」ガバッ
P「どうしたんだよ……あ、殴ったり、蹴ったりする方がいいか……?前の会社でもされたからさ。慣れっこだよ」
柚「違う、違くて、アタシ」
P「柚、我慢するなって」
柚「あうう……?」
周子「(……どれだけ悲惨な人生を送ってきてるんだろう、この人)」
周子「はいはいストップストップ。柚も吸血衝動治まった?」
柚「う、うん。Pサンの少し飲んだからか楽になった」
P「もういいのか?」
周子「……あのさ。Pさんは絶対何か勘違いしてるよね。まぁ話さなかったあたし達も悪いんだけどさ……」
P「勘違い?」
周子「実はこのパーティは、歓迎パーティだけじゃなくて他の意味合いも込めてたの」
小梅「Pさんが気にしてた……ワケありについて……話そうって……」
こずえ「みんなで……きめたのー」
P「ああ、そんなのあったな……で、そのワケありって何なんだ?」
周子「実はあたし達はさ、普通じゃないんだ」
P「特別な才能がある的な意味で?」
周子「そう言っても間違いではないけど……簡単に言えば、【人間じゃない】」
P「……はい?」
周子「まぁ一番見た目がわかりやすいのがあたしかな。ちょっと見てて」ボンッ
P「煙っ!?か、火事?!」
こずえ「だいじょうぶだよー……えんしゅつってやつー……」
周子「それ言ったらおしまいじゃんこずえ……さて、どう?」
P「……コスプレへの早着替えって隠し芸か何か?」
周子「いやいやそうじゃないよ。この狐耳も、尻尾も本物」
P「とすると何か。周子は狐なのか」
周子「まぁねん。九尾、って呼ばれてる」
P「九尾ってゲームとかによく出てくるアレだよな。神様?」
周子「そこまで大した存在じゃないよ。強いて言えば、妖怪」
P「……信じられない」
周子「じゃあ信じさせるために何すればいい?」
P「尻尾と耳、触ってみていいか?」
周子「それはダメ。あたしの中でも敏感なパーツだから。Pさんのえっち」
P「逆に何ができるんだじゃあ」
周子「そうだなぁ……神通力でそこらへんの物を浮かせたりできるよ。そこのベットとか」
P「本当か?」
周子「ほいっ」グオッ
P「うわ……マジで浮いてる……ドッキリじゃないよな」
周子「Pさんにドッキリを仕掛けて得をする人がどこにいるのさ」
P「まぁそうなんだが……え?じゃあみんなも妖怪なの?」
周子「察しがいいね、Pさん」
小梅「私は……百目で……触れたものの……未来と過去を見られる……」
こずえ「こずえはー……ざしきわらしだよー……?」
P「じゃあ柚は……血を吸ってたしもしかして……」
柚「……吸血鬼、です。てへっ」
P「マジで?」
周子「疑い深くなるのはわかるけど、これが真実だよ」
P「……ちょっと待て!?そうなるともしかしてちひろさんも」
周子「うん。妖怪」
P「俺がちひろさんに嫌われなかったのって」
周子「ちひろさんが妖怪だからだろうね。それはあたし達も同じだよ」
P「頭痛くなってきた」
周子「ごめんね。でも、こうでもしないと柚のさっきのアレ、理解してもらえないと思ったからさ」
P「……じゃあ俺、柚に嫌われたワケじゃ、ない?」
周子「そうだよね?柚」
柚「うん。Pサンは嫌いじゃない……ヨ?」
P「……そっか。よかった、本当に、よか、っ」ボロボロ
柚「ちょ!?Pサンなんで泣いてるの?!」
P「だって、また、何もしてないのに、嫌われたんじゃないかって」
周子「(何でもない風に話してたけど、やっぱりストレスは溜まってたんだね)」
小梅「(ストレスでPさんが……壊れちゃう未来が消えた……)
柚「だいじょーぶだいじょーぶ。アタシ達はPサンの事、嫌いにならないから」
P「本当、か?こんな、いきなり泣き出すような男でもか?」
柚「まーね。うちの管理人さんだもん」
P「……ありがとう、柚」
周子「ちょっと待ってほしいなー。あたしも嫌いにはならないよ」
こずえ「こずえもー……」
小梅「私も……Pさんの、味方ですから……」
P「……何これモテ期?」
柚「かもねっ。……ホントに」
小梅「(……あれ?未来、一つ増えた……?)」
―――翌日―――
P「(―――管理人の朝は早い)」
P「(昨日はなんだかんだ、どんちゃん騒ぎをしてパーティは終わった)」
P「(妖怪、と言っても彼女達はみんな普通の人間と変わらない。そんな感想を持った)」
P「さて……柚を起こしに行くか……」
P「(そういえば昨日、朝の仕事が一つ増えた)」
―――柚の部屋―――
P「お邪魔しまーす……」
棺桶「……ぴにゃー」
P「……」ガパッ
柚「うーん……トマトジュース……」
P「吸血鬼だからやっぱ飲んでんのかね……おい、起きろー」ユサユサ
柚「……この匂い……Pサン?」ムクッ
P「そうだぞー。愛しのPさんだぞー」
柚「そっかー……じゃあ早速……」
P「お、おう。来い」
柚「がぶー!」
P「(今日からの朝の仕事……【毎朝、柚に血を飲ませる】)」
P「(周子や小梅は安全性の問題から反対したものの、自分に出来る事をしたいと伝えた結果である)」
P「(とはいえ……)」
柚「ちゅー……ちゅー……」
P「(近いっ……役得といえば役得なんだか……こう、変な気分になる……)」
柚「ぷはっ。あ、おはようPサン!」テカテカ
P「(まぁ、柚が元気になってくれるならいいか……)」
柚「やっぱりPサンの血は美味しいねっ」
P「そんなに違う物なのか?」
柚「まぁねー……あの時は、状況も状況だったからなぁ……」
P「状況?」
柚「ううん、なんでもない!それじゃPサン、起こしてくれてありがと♪これからもよろしく!」
P「(……こうして)」
P「(俺の妖子荘での管理人生活は、本当に幕を開けた)」
ちひろ「……ふふ、柚ちゃんやみんなと仲良くしているようですね」
ちひろ「あわよくば……全員を篭絡して、牙を抜いてくれるとありがたいのですが」
ちひろ「まぁ……貴方なら簡単ですよ、Pさん」
第二話「柑橘類ヴァンパイア系女子」 終わり
今回の更新分は終わりです
妖怪っぽくない子もいますが、まぁ一応妖怪という事で。
こんばんは。
長くお待たせしましたが更新です。
ついでに本日投げた別作もよければ見てってください(ボソッ
こずえ「ふわぁー……」シャッシャッ
P「……」
P「(彼女は遊佐こずえ。先日、座敷わらしだと判明した)」
P「(……いや、言ってもわからんと思うが、とにかく判明した)」
P「(そんな彼女は今、妖子荘の庭を背丈とはアンバランスな大きさの箒で掃除している)」
P「おはよう、こずえ」
こずえ「……さくやはおたのしみでしたね」
P「みんなのせいでね。なんで俺の部屋で鍋パーティーやるのかね。この前パーティーやったばっかじゃないか」
こずえ「あのときは……ゆずが……ぼうそうしちゃったから……」
P「……みんななりに、仕切りなおしてくれたって事?」
こずえ「そう……」
P「……そっか。ありがとな」ナデナデ
こずえ「ふわぁ……」
P「ところで庭の掃除は俺の仕事だと思うんだけど、どうしてこずえがやってるんだ?」
こずえ「それはー……こずえが……ざしきわらしだからー……」
P「どうしてこずえが座敷わらしだと、俺の仕事をする事になるんだ?」
こずえ「こずえがおしごとする……するとかんりにんはらくになる……するとかんりにんはしあわせになる……つまりそういうこと……」
P「……うーん。なら俺は仕事してたほうが幸せかな」
こずえ「……どうしてー?」
P「みんなのために何かやってるって気分になれるからね。こんな俺みたいな男でも―――」
こずえ「めー」ゴッ
P「いたっ」
こずえ「めー……めー……」ゴッゴッ
P「ちょ、やめ、こずえ、箒で頭を叩かないで!」
こずえ「じぶんをひげするのー……きんしー……」ゴッゴッ
P「わ、わかったわかった!ごめんってば!」
こずえ「わかったならば……よろしい……」
P「とりあえずさっきの話に戻すけど、俺は仕事をしてた方が幸せ」
こずえ「……かんりにん、へん」
P「変……かな」
こずえ「しゅーこも……ゆずも……こうめも……こずえがそうじしたら、よろこんでくれる……」
こずえ「でも……かんりにん、かなしそうなかおしてる……どうして?」
P「悲しそうな顔……か。正直俺はさ、みんながまだ妖怪だなんて実感は全然ないんだ」
P「柚とか小梅なんか普通に学校行ってるし、周子だって話してて全然妖怪っぽいところはないし」
P「もちろんこずえもだ。……だから、何か、自分の仕事をこずえに押し付けてるみたいで嫌なんだよ」
P「それに……まぁこれはいいや」
こずえ「……やっぱり、へん」
P「変でいいよ。だからこれ貸して」ヒョイ
こずえ「あう」
P「こずえはゆっくりしてなよ。掃除は俺がやるからさ」
こずえ「……むー」
P「~♪」サッサッ
こずえ「……ごみ、のこってる」
P「え、どこ?」
こずえ「ここ……」
P「うわ、本当だ」
こずえ「ここにも、ここにも……ふっ、まだまだだね」
P「そりゃこんな庭の掃除なんて初めてだからさ」
こずえ「だまってこずえにまかせるのー……ばんじかいけつー……」
P「いいからいいから。部屋で遊んでろって」
こずえ「……うー」
―――数十分後―――
P「ふぅ、これで一通りは綺麗になったかな」
P「……もうすぐ、クリスマスか」
P「まぁ彼女いない俺には関係ないですけどねっと……」
P「ふぅー、寒い寒い。そろそろ中に―――」
こずえ「……ごし、ごし」
P「……何やってんのこずえちゃん」
こずえ「……せんたく」
P「洗濯って、あのさ」
こずえ「なにかもんくあんのかー……ごらー……」
P「なんでそんな喧嘩腰なのか知らないけどさ。見たところそれ、みんなのも混じってるよな」
こずえ「うん」
P「どうしてそれをこずえ一人で洗ってるんだ?」
こずえ「……こずえがざしきわらしだから」
P「結局そこに戻るのか……あのなこずえ、別に人がやって欲しい事を全部自分がやったからと言ってその人は幸せにはならないんだぞ?」
こずえ「……え?」
P「確かにその人は楽にはなるよ。だけどさ、本当に幸せなのかな、それって」
こずえ「……じゃあ」
P「ん?」
こずえ「じゃあ……しあわせって、なぁに?」
P「……難しい質問だね」
こずえ「こずえがせんたくしてあげると、ゆずも、しゅーこも、こうめも、えがおだよ?」
P「そうかもしれない。けど、こずえがみんなにあげたい幸せってそういう幸せなのか?」
こずえ「……?」
P「こずえはみんなを幸せにしたいからみんなの代わりに家事をやってるんだろ?」
こずえ「うん」
P「けど、こずえがみんなに感じて欲しい幸せって……そういう幸せなのかなって」
こずえ「どういうしあわせ?」
P「うーん……本当の幸せっていうのは、もっと別な事なんじゃないかって俺は思うんだ」
こずえ「……」
P「例えば……そうだな。絵本を読んだ時、その物語が明るく終わったら心がほっとするだろ?」
こずえ「うん……」
P「こずえがみんなに感じて欲しい幸せって、そういう幸せなんじゃないかなって」
こずえ「……えほんみたいな、しあわせ」
P「あくまでこれは一つの例だよ。俺がこずえに言いたかったのは、そういう事」
こずえ「……よく、わかんない」
P「……こずえには難しかったかな」
こずえ「でもいちおう……こずえがせんたくをするりゆうはほかにもある……」
P「え?何?」
こずえ「……」ピラッ
P「ぶっ、おま、それ」
こずえ「このくろいのがしゅーこので……ぴんくのがゆず……しろいのがこうめのー……」
P「やめなさい!」
こずえ「みんなのていそうを……こずえはまもっているのだ……」
P「……確かにそれは俺には無理だわ。洗濯してるのは構わないけど、風邪だけは引くなよ?」
こずえ「へいきへいきー……」
P「心配だなぁ……」
―――数日後―――
柚「Pサン!」
P「ん?なんだ柚」
柚「こずえちゃんに何を言ったのっ!?」
P「こずえに?何かあったのか」
柚「突然こずえが『しあわせってなぁに?』って聞いてきたからビックリして。それで聞いてみたらPサンとお話したって言うから」
P「……あー。あれかな」
周子「Pさんだったんだ。こずえに変な事言ったの」
P「周子」
小梅「何言ったの……?」
P「小梅まで……何か俺、悪いことしたのか……?」
周子「悪いことじゃないと思うけど、もしかしたらこずえのあんまり触れて欲しくない場所に触れたのかも」
P「……マジかよ。俺はただこずえが庭掃除してた時にだな―――」
周子「……それ、本当?」
P「あ、ああ」
柚「うーん……これはヤバイかもしれませんぜ、姉御」
周子「由々しき事態やな、柚」
小梅「え、えーっと……こ、この男どうしやす……姉御」
こずえ「としょかんだいしゃりんのけいにしょすー……」
柚「何それ怖っ……ってこずえ!?」
こずえ「ふわぁー?」
P「こずえ、お前みんなに変な事言ったんだってな」
こずえ「へんなこと……?かんりにんのしたぎのいろはいってないよ……?」
P「いや、それは普通に言うなよ」
こずえ「ちなみにきょうはゆずは―――」
柚「こずえストップ!それ以上はいくらPさんでもダメッ!」
こずえ「むぐむぐ」
柚「危ないところだった……乙女の貞操は守られたよ……」
こずえ「……きいろ」ボソッ
周子「とりあえず、どうしてこずえはみんなに『しあわせってなぁに?』って聞いてるの?」
こずえ「……かんりにんのせい」
P「お、俺のせいなのかやっぱり」
こずえ「こずえは……みんながえがおになってくれるのが……しあわせだとおもってた……」
こずえ「でもかんりにんが……それはちがうっていった……」
周子「……」
こずえ「だからよくわかんなくなって……きいてみた」
周子「……そっか。じゃあこずえ。アタシは今日の夕ご飯が久しぶりにすき焼きだったら幸せだな」
P「おい、周子」
こずえ「わかったー……すき焼きにするー……」トコトコ
周子「……さてと。ねぇ、Pさん」
P「な、何だよ」
周子「やっぱり……あんまり触れちゃいけないところに触れたっぽいね」
P「……マジかよ」
周子「私たち妖怪にはね、やっぱり人間のように『存在意義』ってやつがある」
周子「例えばアタシ、九尾なら『狐を守る』コト」
P「……守ってなくね」
周子「昔は守ってたの」
P「昔って……じゃあ周子は今なんさ」
周子「それ以上言ったら……どうなるのかな?」ファサ
P「……すいませんでした」
周子「よろしい」
柚「吸血鬼は一応、『人の敵であれ』だったカナ?」
P「敵じゃないじゃん」
柚「まーね。アタシは外れ者だからっ♪」
小梅「ひゃ、百目は……『人を守れ』……」
P「もしかして、未来が見えるから?」
小梅「そういうこと……」
P「なるほどな……それで、こずえ……座敷わらしは?」
周子「『人を幸せにしろ』……まぁ誰もが知ってるっていうか、わかってる存在意義だね」
周子「だけど今、あの子の中の『幸せ』の定義が揺れ始めてる」
周子「つまり……存在意義を、達成できなくなってる」
P「そうなるとどうなるんだ?」
周子「別にどうもならない。そもそも存在意義を守ってない存在がそこにいるし」
柚「アタシの事カナー?」
周子「だけどさ……存在意義、なんて固定概念的に言うからにはやっぱり何かが根底にあって」
柚「う……」
小梅「……」
周子「あたしの場合は……仲間の狐達を、守れなかったコト」
P「……」
柚「あ、あたしは」
P「いや、いい。話したくないんだろ」
柚「……うん」
周子「あたしは割とそれを軽く捉えてるからこうやって話してるけど……他の子にとってはそうでない事のほうがむしろ多いんだ」
P「今の柚のリアクションでわかったよ」
周子「そしてPさんは今、こずえの存在意義の根底に手が触れちゃってる」
周子「こずえが『人を幸せにする』事を存在意義としてる理由に、こずえの中の『幸せ』の定義をひっくり返してしまったことで、触れてしまった」
P「……」
周子「PさんがこれからどうするのかはPさんの自由だよ。けれど、こずえの根底に一度でも触れてしまった事をよくよく考えて欲しいな」
P「……ああ」
周子「もちろん、あたしもね?」
P「え?」
周子「だって今あたしだって話したじゃん。あたしの存在意義の根底」
P「あ、ああ。まぁな」
周子「つまりPさんはあたしの根底に関しては手を触れるだけでなく、どっぷり浸かってしまったって事だよ?」
P「つまり、周子の事も考えろと」
周子「アタシは強制しないけどね。ちなみにアタシ、この事話したのPさんが初めてだよ」
P「……そうなのか?」
柚「うん」
小梅「私たちも……聞いた事ない……」
周子「つまり、Pさんはアタシにとっての初めての人ってワケで」
P「そういう言い方をするなよ。わかったわかった。周子の事も考えるから」
周子「……楽しみにしてる」
P「でもまずはこずえの事からだ。……『幸せ』、ねぇ」
柚「Pサンは、こずえが家事をしてるのをよくないと思ってるんだよね?」
P「当たり前だろ」
柚「なんで?」
P「なんでってそりゃ簡単だよ」
柚「ほう、じゃあ言ってみなよ」
P「あいつが『幸せ』じゃない」
柚「……え?」
P「見ててわかるんだよ。心から楽しそうに家事してるやつなら俺は止めやしないけど。あいつは違う」
柚「違うって……だってこずえちゃんは存在意義に則って」
P「だからだよ。あいつはその存在意義に囚われすぎなんじゃねぇか?」
P「自分の幸せを押し殺してまで、他の人の幸せを願うやつを、俺は好きにはなれない」
周子「自分だってそうだった癖に」
P「いやあれは……だからこそだよ。こずえは、俺みたいになって欲しくないし、俺自身そんな自分が嫌いだ」
小梅「管理人さん……」
P「とりあえず、やれるだけやってみる。もし手を貸して欲しかったら言うから」
周子「……そ。ま、がんばってねー」
柚「うん、アタシ達でよかったら手伝うから」
小梅「……ファイト」
P「おう、じゃあな」
周子「……」
柚「周子、どしたの?」
周子「……ううん。似てる、って思っただけ」
柚「似てる?ね、誰に?もしかして、元彼とかっ?」
周子「そんなのじゃない。じゃあアタシも部屋に戻るから」
柚「あー、待ってよ周子ー!暇だから一緒に夕飯まで遊ぼー!」
―――Pの部屋―――
P「……『人を幸せにしろ』か」
P「あいつは一体何があってそんなもんを存在意義としてるのかね……」
コンコン
P「ん?」
こずえ「ごはんできたー……」
P「そういえば今日はすき焼きなんだっけ」ガチャ
こずえ「うん」
P「……なぁ、少し時間あるか?」
こずえ「……?」
P「話をしたいんだ、こずえと」
こずえ「……ろりこん?」
P「違う」
こずえ「しかたないにゃあ……いいよ」ヒョイッ
P「全然渋ってる様子がないんだが気のせいかね」
こずえ「それで……なぁに?」
P「お前、人を幸せにする事が存在意義なんだって?」
こずえ「……だれにきいたの?」
P「俺があいつらから無理矢理聞きだした」
こずえ「……」ジッ
P「な、なんだよ」
こずえ「うそ……きっと、しゅーこたちがしゃべった……そう?」
P「……いや、俺が聞き出したんだ。それは間違いない」
こずえ「……わかった。そういうことにしてあげる……」
P「それでいい。あいつらに何も責任はない」
こずえ「かんりにん、うそ、へた」
P「うっせ。それで単刀直入に聞く」
こずえ「……なに?」
P「お前、今、幸せか?」
こずえ「どういうことー……?」
P「そのまんまの意味だよ。お前は、今、幸せかどうか聞いてる」
こずえ「……どうして……こずえがしあわせじゃないと……いけないの?」
P「これは俺の勝手な理論だ」
こずえ「……うん」
P「幸せってのは、分け与えるためにあるもんだと思ってる」
こずえ「わけあたえる……?」
P「ああ。幸せになった人は、他の人を幸せにしたいと思う。そして行動する」
P「要は、元々幸せな人間が分け与えて、他の人の幸せってのは生まれる」
P「俺はここに来て、それを感じた。あいつらの幸せを、俺は分けてもらったんだ」
P「だけど、こずえ、お前はどうだ?今、幸せか?」
こずえ「……こずえは、しあわせ」
P「お前も大概、嘘が下手だよな」
こずえ「……ううん、しあわせ……しあわせなの……こずえは、そうじゃなきゃ、だめ」
P「こずえ」
こずえ「こずえは……しあわせなの……!」ビュンッ
ガシャァン!
P「……お、おいおい」
P「(目の前を皿がかすめる)」
こずえ「……こずえは、しあわせ……しあわせじゃないと……おかあさんとおとうさん……」ビュンビュン
P「(こずえの周りにあったものが宙に浮き、そして俺目掛けて飛来する)」
P「ポルターガイストかよっ!どこが座敷わらしだっ!」
こずえ「ううう……」グググググ
P「……冗談だろ、おい」
P「(そして……俺の部屋の机が、舞い上がる)」
P「そんなん喰らったら洒落になんねぇよ……!」
こずえ「こずえは……しあわせ……!!」ビュンッ
P「っ!」
柚「Pサンっ!!」ゴシャァ!
P「……は?」
柚「Pサン、大丈夫?!あ、えっと……机、壊しちゃった」
P「だ、大丈夫だけどお前は……」
柚「アタシは大丈夫!ヴァンパイア柚、夜は無敵だよ!」
P「(柚の足元に机だったものが散乱している。本当にこいつ、あれを?)」
柚「それよりどういうことっ、こずえがあんなに怒ってるの、初めて見たよ!?」
P「あれ……怒って、んのか?」
こずえ「こずえは……しあわせなの……じゃない、と……」
P「(ここからはこずえの表情は俯いていているから伺えない。だけど……)」
P「今にもあいつ……泣きそうじゃねぇか」フラフラ
P「(自然に、足が動いた)」
柚「ちょ、Pサン危ないって!!Pサンは人間なんだよ!?」
P「……こずえ」
こずえ「こずえは、しあわせ……!」ビュッ
P「っ……痛ぇ……」ブシュッ
柚「い、言わんこっちゃない!」
P「柚、来ないでくれ」
柚「でも!」
P「……来るな」
柚「っ!?は、はい……」ビクッ
P「こずえ」
こずえ「……こない、で」
P「嫌だ」
こずえ「どうして……」
P「今度は……俺が……お前に、分け与える番だから……」スッ
こずえ「っ……」
P「……俺が、お前を幸せにする番だから」ナデナデ
こずえ「え……」
P「なんだよ。ぶつかと思ったのか」
こずえ「……うん」
P「んな事しねぇよ。こんなの、お前と比べたら痛くもかゆくもない」
こずえ「……」
P「幸せは、分け与えるもんだって話したよな」
こずえ「うん」
P「今の俺は、幸せなんだ。妖子荘に来た事、みんなと出会えたこと」
P「だから、俺の幸せをお前に分け与えてやる。お前が、本当に幸せだって思えるまで」
こずえ「こずえ……しあわせって……よくわからない……」
P「じゃあ俺が教えてやる。嫌になるほどな」
こずえ「……ほんとう?」
P「ああ」
こずえ「……わかった。かんりにん……しんじる……」
P「よし。そんじゃこれで喧嘩は終わりな」
こずえ「じゃあ……おかたづけ、する」
P「いや、片付けって言ってもこれは……」グチャグチャァ
こずえ「……すきやき、たべてきて」
P「は?」
こずえ「そのあいだに……なんとかする……」キリッ
P「いやいやいや。無理だろ」
こずえ「わがはいのじしょに……ふかのうのにもじはない……」
P「どっちにしろ二文字じゃねぇよ」
こずえ「……むー。いいからでていく……」グイグイ
P「おい、ちょ」
柚「……」ポカーン
こずえ「ゆずも……でていく……」
柚「え、ああ、うんっ。行こう、Pサンっ!」
P「色々危ないし、というかこずえに掃除をさせるわけには」
こずえ「……こずえは……だいじょうぶだから……」ニコッ
P「……」
こずえ「だから……」
P「……わかったよ。んじゃ行くか。柚」
柚「う、うん」
P「……?どうかしたか?」
柚「え?あ、えっと……なんでもないっ」
柚「(気のせい、だよね)」
柚「(Pサンの言葉一つで、アタシが動けなくなったなんて……だってアレは妖怪の……)」
P「早く行かないと置いてくぞー」
柚「(だって、Pサンは人間のハズだから……)」
柚「ま、待ってPサンっ!」
P「それにしても、今ようやく実感したよ」
柚「何を?」
P「柚もこずえも、妖怪だって」
柚「ふふーん。凄いでしょ。ヴァンパイア柚は、夜は無敵のヒーローなのだ」
P「後は小梅だけど……」
柚「小梅のは分かりづらいから……いつか見せてくれるよっ」
P「どうだろうな。そう簡単に見せるもんじゃないだろ、ああいうのって」
柚「ま、今回は非常事態だったしねっ」
P「そうか」
―――数十分後―――
P「……なぁ、こずえさんや」
こずえ「ふわぁー……?」シャッシャッ
P「その、壊れた食器とか、その、机とか、どうしたんや?」
P「(俺の目の前にはまだこずえによって荒らされる前の部屋が広がっていた)」
P「(いや、実際は後なんだけどそれぐらい遜色ないっていう)」
こずえ「なおした……」
P「……やっぱ人間じゃねぇのな」
こずえ「うん……そう」ポス
P「ん?膝の上に座るなんてどうした?流石に疲れたか?」
こずえ「おはなし……きいて……」
P「話?」
こずえ「こずえの……むかしの……おはなし……」
P「……それって、存在意義の」
こずえ「うん……」
P「いいのか?」
こずえ「かんりにんなら……いい……」
P「……ありがとな」
こずえ「おれいなんてへん……」
P「それでも、ありがとうだ」
こずえ「……あのね……こずえには……おかあさんとおとうさんがいたの」
P「そりゃそうだろうな」
こずえ「でも……ふたりとも……にんげんだった……」
P「……え?人間の親子から、妖怪のお前が生まれたのか?」
こずえ「……ほんとうは……ようかいとにんげんのちがいは……そんなにない……」
P「マジかよ……」
こずえ「さいしょにこずえがうまれたとき……ふたりは……よろこんでた……」
こずえ「でも……こずえがおかしいってわかってから……こずえにぼうりょくをふるうようになった……」
P「……なんつー親だ」
こずえ「だからこずえは……ぼうりょくをふるわれないように……ふたりを、しあわせにしようとがんばったの……」
こずえ「こずえは……ざしきわらしだから……」
P「……だから、ここでも家事や掃除が誰かを幸せにする事だって……」
こずえ「でも……たまに、きんじょのおばさんが……ふたりがこずえにぼうりょくをふるってるってうたがって……」
こずえ「そのたびに……ぼうりょく、もっとふるわれて……」
こずえ「だから……こずえも……しあわせだって……」
P「……そうだったのか」ナデナデ
こずえ「ふわぁ……?」
P「ああ、気にしないでくれ」
こずえ「ううん……おちつく……」
P「じゃあこうしてよう」
こずえ「うん……それでね……あるひ……こずえ……わかったの……」
P「何をわかったんだ?」
こずえ「こずえは……ふこうもあやつれるんだって……」
P「……人を不幸せにも、できたのか」
こずえ「うん……だから……ふたりを……ふこうにしたの……」
P「不幸にしたって……お前……」
こずえ「いま……ふたりとも……びょういんにいる……でも……」
こずえ「にどとあるけないし……にどとものをつかめない……」
P「……」
こずえ「こずえは……このちからはだめだって……ひとをふこうにしたら……たいへんなことになるって……わかって……」
P「じゃあなんで自分は幸せだって思おうとしてたんだ?それとあれとは直接繋がらないよな」
こずえ「それは……こずえがこずえをふこうだとおもうと……このちからは……でちゃうって……おしえてもらったから……」
P「誰に?」
こずえ「さとりさま……」
P「さとりさま……?」
こずえ「このあやしそうの……ううん……ようかいたちの……とっぷ」
P「妖怪たちのトップ……」
こずえ「……これで……こずえのはなしはおしまい……」
P「……話してくれて、ありがとな」
こずえ「かんりにん……おれいばっかり……」
P「お前が話してて幸せじゃない事ぐらいはわかるからな」
こずえ「……うん」
P「なぁ、こずえ」
こずえ「なに……?」
P「これから、俺がお前を幸せにしてやる」
こずえ「うん……」
P「だから……もし、自分で自分を幸せだって思えたなら」
P「今度は俺も、幸せにしてくれないか」
こずえ「……もちろん……こずえは……ざしきわらしだから……」
P「約束、だな」
こずえ「やくそく……」
P「ああ」
こずえ「ゆびきりげんまん……うそついたら……りゅうさんのーます」
P「現実的過ぎて怖いな」
こずえ「ゆびきった……しあわせの、やくそく……」
P「ああ、お互い、頑張って幸せになろうな」
こずえ「……うん」ニコッ
こずえ「……なんだか……ぷろぽーずみたいだね……」
P「えっ、そ、そう聞こえたか!?というかプロポーズなんてよく知ってたな……」
こずえ「こずえは……かんりにんなら……いい……」
P「えっ」
こずえ「……じょうだん」
P「だ、だよな。びっくりした……そういう冗談は気軽に言うもんじゃないぞ」
こずえ「……」
こずえ「……じゃない」ボソッ
第二話「しあわせって、なぁに?」 終わり
本日の更新はこれで終わりです。
次も一ヵ月後くらいの更新となります。では、ありがとうございました。
生存報告です。
動画を作り始めてしまったので、こちら側の更新が遅れ気味になるやもしれません。申し訳ない。
このSSまとめへのコメント
面白かった
ぜひ続きを