男「日本に隕石…」(40)

当初、地球への衝突はないと伝えられていた。

今になって考えてみれば、現在の技術で推測できないはずがない。恐らく無用の混乱を防ぐためだったんだろう。

詳細は衝突の三日前に全世界に告げられた。

落下場所は日本全域。

無数の小型隕石が北海道から沖縄にかけ、雨のように降り注ぐのだのだそうだ。

男「そんで今日の夕方、俺の人生も終わるのか…」

外は予想していたよりも静かだった。

発表初日。それは騒がしい1日だった。

日本国民が海外へと避難を始めた。

世界各国の政府が日本に協力してくれた。

日本の港に各国の飛行機、船が集結した。

日本政府は国民の避難誘導に尽力した。

メディアでの避難の呼びかけ。

自家用車の使用を禁止させ、公共交通機関のフル活用。

公道は自衛隊、警察が指揮の下、依頼を請けたバス会社、運送会社が人を運んだ。

港に入れず待機する大型船には、海上保安庁指揮の下、地元の漁師がピストン輸送を行った。

避難は着々と進められた。

メディアからはそんな各地の情報が流された。

それらは美談ばかりであったが、その影では秩序、道徳の崩壊もあったのだろう。(ルール、マナー違反、強盗、強姦、殺人)

二日目の夕方には日本国民の避難が完了した。

各国の飛行機、船は日本から撤退。

こうしてみると日本の人口もたいしたことないのだなと思う。

俺は日本に残った。

残されたわけじゃない。

こんな非常時、自分の足、意志で逃げようとしなければ置いていかれる。

俺は自分の意志で日本に残った。

三日前の朝。男は目を覚まし、窓の外を眺める。

迷子で残された子供。その子を探す親。歩くのが困難で避難を諦めた老人。

まだ生きたいと願いながら、この国に残された人のことを、俺は考えていた。

男「そんな犠牲はないほうがいい…こんなに静かなんだ、みんな無事に逃げたんだ…きっと」

>>2
だのだそうだ ×
だそうだ ○

>>6
三日前の朝 ×
三日目の朝 ○

誤字脱字すみません

男「街へ行ってみるか。もう車使ってもいいよな。」

ガチャ…パタン



ブゥ~ン…

街へはそれなりに距離がある。

自分以外に車の姿はないと思っていた。

時折すれ違う車があった。

すれ違うたびに、相手のドライバーと目が合うのだった。

相手は何を目指し、どこへ車を走らせているのか。



遠い所でポツリポツリと煙が上っている。

街には少ないが人がいた。

道端にうなだれ座り込む者、笑いながら走り抜ける者。

路肩に車を停め街を歩く。

声が聞こえる。声の聞こえる方へ足を向ける。

日本の再建、残された我々は神により救済され天使となる。日本を後にした彼らは臆病者の愚民。

そんな訳の分からない言葉をメガホンを口にあて吐いていた。

一人の女性が泣き叫びながら奴に駆け寄る。

子どもがいない。この写真の子。見ませんでしたか。

半狂乱になって奴に問いかけている。

大丈夫です。ここに残った私たちは皆救われるのです。



男はその場を離れた。

病院からはナースコールと思しきアラーム音が響いていた。

駅前には吊り上げられた死体があった。

「こうなりたくなければルールに従え」という血で書かれた立て看板と共に。

墓地には街中よりも人が居た。

ある者はすすり泣き墓石を抱きしめ、ある者は墓石の前で自ら命を断っていた。



男は街から離れ、住宅地へ向かった。

ある一軒家で庭先に人の気配を感じて目線を向けた。

老人が縁側に座り盆栽を眺め、お茶を飲んでいた。

今日初めて見た「日常」の光景。

男は思わずその老人に声をかけていた。

男「こんにちは」

老「おぉ、お客とは珍しいのう。急ぎでなければ休んで行かんか?」

男「はい、お邪魔します」

コポポ…

老「ほれ、茶菓子もあるぞ。若いもんの口に合うか分からんが…」

干し柿。

男「いただきます。盆栽、素敵ですね」

老「おぉ!分かるかね!?今時の若者も捨てたもんじゃないのう」

男「あ…いえ、見た目が格好いいと感じただけで、知識は全く…」

老「それでいいんじゃよ。ありがとうの」ニコリ

男(手塩にかけた盆栽なんだろうな…今日で…)

老「…ちと困ったことになったのう」ズズッ…

男「えぇ…」

老「お主はなぜ逃げんかったんじゃ?」

男「…自分でもよく分からないんですけど、多分日本が好きだったからだと思います」ズズッ
男「ただ単に逃げるのが面倒くさかったからかもしれませんし」

老「そうか、ならお主は日本が好きだから残ったんじゃ」

男「?」

老「命を面倒くさいで捨てられる者はおらんからの」

男「でも日本の政治とか、日本人の身勝手さを思うと、その理由に疑問を感じてしまうんです…さっきも街に行って…」

老「そんなもんじゃよ。国も人も。必ず全てのものにはウラがあるんじゃ。今回のような非常時には、そのウラの部分がオモテになるんじゃ」

老「お主は日本で生きて幸せじゃったか?」

男「…えぇ、ツラいこともありましたけど…」

老「それならそれは日本が好きということじゃ。自信を持ちなさい」

男「…おじいさんはどうして日本に?」

老「もう先が長くないからの、逃げても何にもならんさ」

男「…」

老「冗談じゃよ。まぁ本当のことではあるがの」

老「わしもお主と同じじゃよ」ズズッ…

その後おじいさんから色々なことを聞いた。

生まれた時代の話。

今は亡きおばあさんとの馴れ初め。

戦争の体験。

我が子の成長。

老後の人生。

最後に男が言った「日本が好き」という言葉について。

老「今の若者が日本で生きてきて幸せだった。つまり日本が好きという使い方にはなんの問題もないんじゃが…」

老「ちとわしには抵抗があっての…」

老「わしからすれば"日本が好き"というのはつまり"愛国心"でな、その三文字でわしは多くの人を傷つけ殺めてきてしまったからの…」

老「わしがここに残った理由はの、この場所で生まれ、この場所での出会い、別れ、日々の暮らしで得た大切な想い、思い出を抱えたまま、この場所で命を落とそうと思ったからじゃ」ニコリ

そう言っておじいさんは男に微笑み空を見上げた。

老「いい天気じゃの」

男「えぇ、本当に…」ズズッ

男はお茶をもう一杯もらい干し柿を1つ食べ、おじいさんと別れた。

おじいさんは門の外まで出て、男が路地を曲がり見えなくなるまで手を振り続けてくれていた。

男は公園に行った。

住宅地の中央にそれはあって、周辺に住む人々の憩いの場所、だった。

静かだった。

植樹された木々の葉が赤く染まり、枝から離れた葉がヒラリと宙に舞っていた。

動くものはそれだけ。

男は設置された自販機のあったか~いコーヒーのボタンを押した。

ガチャン

自販機は内蔵電源に切り替わり無料提供されていた。

ベンチの葉を手でよけて腰を下ろした。

遠くで小鳥の鳴き声が聞こえる。

カシュ…ゴク…

男(はぁ…ここが死に場所ってのもいいかもな)

一匹の猫が男の前を通り過ぎていく。

男(こんなにゆったりした時間を過ごすのはいつぶりだろう…)

男は猫の行方を目で追った。

猫は猫は十数メートル先のベンチまで歩いていった。

男(あっ他にも人居たんだ…)

白いワンピースを着た女性だった。うつむいた姿で動かない。

猫は彼女の足にすり寄った。

女「ひゃっ!!」

女「…ネコちゃん?」

彼女はぎこちない仕草でネコを探し、抱えひざに乗せ、最初と同じ姿で撫で始めた。

男(寝てたのかな…目の前にネコ居たのに変に手探りだった…)

よくよく見ると彼女の座るベンチの脇には白い杖が掛けてあった。

男(目が見えないのか…)

男は彼女がここに居る理由を考え悲しくなった。

男(気づかれないように去ろう)スッ…ソロ~

女「やっ…やめて下さい!!」

男「!?」ビクッ…クルッ

振り返ると彼女は中年男に腕を掴まれどこかへ連れていかれそうになっていた。

男はその2人の元へ駆け出す。

男「あの~!ちょっとすいませ~ん!」

中年「あ?なんだよあんた」

男「ちょっと見てたんですけど、なんか彼女嫌がってるように見えたんで」

女「…」

中年「あんたに関係ないだろ」

男「あ~すいません。お二人は知り合いかなにかで?」

中年「うるせぇな!!引っ込んでろや!!」ブンッ

男「うぁ…」ドサッ

男「…いったた」

中年「ほらいくぞ!!」グイッ

女「…けて…たすけ…さい…」

男「…」ピクッ

男「あ~あ!!これだから中年のクソジジイはキライなんだよ!!」

中年「…なに?」ピクッ

中年は彼女の手を離し、男に近寄り胸ぐらを掴む。

中年「今、なんつった?」

男「聞こえなかったか?今日で俺もテメーも死ぬってのによ、その最後の最後まで他人を思いやることが出来ねぇテメーみたいなジジイはクソくらえって言ったんだよ!!」

中年は男を気が済むまで殴りつけ去っていった。

男「…いい天気だよなぁ…紅葉も綺麗だわ」…ボソッ

女「…あの…私のために…」

男「ん?あぁ…気にしなくていいよ」

女「でも…お怪我とか…」

男「これから死ぬんだ、ケガの一つや二つ…あっ実際たいしたことないよ?痛いだけ」

女「すみません…」

男「謝る必要ないよ。最後くらい正義のヒーローぽく女の子を助けてカッコいい所見せたいな~なんて…カッコわるくて、こちらこそすみません」

女「そんなことないです。ありがとうございました。助けてもらって、私嬉しかったです」
女「あと…その…あの人に言葉を投げかけてるあなたはとてもカッコ良かったですよ?」

男「…ありがと。よいしょ…いたたっ…立てる?」スッ

女「え!?あ…はい」

女は男の手をとらずに立ち上がる。

男「あっ…そっか」スッ…クイッ

女「ひゃっ…」ビクッ

男「あっごめん。杖のあるベンチまでリードするね」

女「すっすみません…」

男「はい、ここです」

女「ありがとうございます」ペコッ

男「ここは危ないから離れましょうか」

女「はい」

男「それじゃあこっちへ」

女「あの…」スッ

男「?」

女「もしよければ、さっきみたいにリードしてもらえませんか?その方が早く歩けるので…」

男「あ…気が利かなくてすみません」スッ

男「それじゃあこちらへ」

女「ありがとうございます」ニコ

男「とはいっても、どこへ行こうか…」

住宅地をあてもなく歩く。

女「私も何も思いつきません…」
女「ん…コーヒーの香り」スンスン

男「あそこの喫茶店からかな?ちょっと行ってみようか」

住宅地にひっそりとたたずむ昔ながらの喫茶店。

扉にはopenの文字。

2人は中に入った。

マスター「いらっしゃいませ」

男「大丈夫ですか?」

マスター「はいどうぞ」ニコ

男「お邪魔しようか」

女「はい」

席に着く2人。

マスター「何かご注文は?」

男「えっと…コーヒーを。女さんは?」

女「私は…」

男「紅茶とシナモントーストでいい?」

女「えっ?」

男「ダメだったかな?」

女「いえっそれで」

マスター「かしこまりました」スタスタ


男「あっ…そっか」スッ…クイッ

女「ひゃっ…」ビクッ

男「あっごめん。杖のあるベンチまでリードするね」

女「すっすみません…」

この部分がなにやってるかよくわからない

>>34
男が女の手を取りに行って軽く引っ張った。

女はいきなり手を引っ張られ驚いた。

というようなかんじですわかりにくくすみません。

男「女さんコーヒー苦手なんだね」

女「…!何で知ってるんですか?」

男「喫茶店でコーヒーって無難というか、でも女さんためらってたから、そうかなって」

女「それで紅茶を…」

男「オレンジジュースのが良かった?」

女「…」

男「冗談ですよ」

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