女騎士「こんな勇者についていけねぇ」 (248)
女騎士「なんで……崩れゆく洞窟の奥に進んでいくのよ!?」
勇者「まだ奥に人がいますよ。助けないと!」
タタタッ……
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女騎士「私達を生き埋めにする気?!」
勇者「女僧侶さんと、女魔法使いさんは先に外へ逃げてくださいっ」
女僧侶「は、はい」
女魔法使い「おっけー」
女騎士「ちょっ……わ、わたしは?!」
勇者「あなたは僕のスピードについて来られるでしょう?」
ゴゴゴゴ……
洞窟の天井が崩れ落ちていく。
女騎士「きゃっ! 」
勇者「人が倒れてます!」
女騎士「ここがこの洞窟の一番奥ね、生きてる? 早く逃げないと出口が塞がっちゃうわ」
勇者「大丈夫ですか?!」
盗賊「うぅ」
勇者「生きてます。逃げましょう!」
女騎士「はやくっ!」
ーーー洞窟の外ーーー
女騎士「はぁはぁ……本当に生き埋めになるところだった」
女魔法使い「二人とも大丈夫?」
勇者「ああ、危なかった。女僧侶さん、彼に回復魔法を」
女僧侶「はい……〆€☆@×!」
女僧侶は回復魔法を放った!
キュィィン!
盗賊「あ、ありがとう」
女騎士「ちょっと勇者!」
勇者「はい?」
女騎士「この洞窟には盗賊退治に来たのよ?! なんで助けてるのよ!」
勇者「退治にって、僕らは盗賊に奪われたものを取り返しに来たんじゃないですか」
女騎士「同じことでしょっ! 私達は魔王を倒す為に聖剣を探しているのよ?! 悪党助ける為に死にそうになってどうするのよ」
勇者「まあいいじゃないですか。盗賊団が街の人達から奪ったものは回収しましたし、アジトを失ったし」
女騎士「そ、そうだけど」
女魔法使い「まぁそんなカリカリすんなって、いいじゃん無事だったんだから」
女騎士「あ、あなたの魔法で武器庫の火薬に引火したんじゃない!」
女魔法使い「あ、はははは。ごめんごめん」
女僧侶「奪われたものを街へ返しに行きましょう。きっと皆さん喜びますわ」
女騎士(うぐぐ……王都で一番の騎士である私が、勇者パーティに入ったのは、こんな人助けする為じゃないのに)
< 第一章 勇者のあるべき姿 >
ーーー中央大陸・街ーーー
勇者「まずは駐屯兵のところに行って、盗賊団が壊滅したことを報告しましょう」
女騎士「ちょっと勇者!」
勇者「はい?」
女騎士「なんでさっきの盗賊逃がしちゃうのよ?!」
勇者「彼は盗賊団のリーダーではありませんし、きっともう悪さしないと思いますよ」
女騎士「そんなの分からないじゃない! 他の盗賊もみんな逃げちゃったし」
勇者「女騎士さん、また眉間にシワが……せっかく綺麗な顔が台無しですよ」
女騎士「え……シワ??」
勇者「そそ、笑ってください。怒るの良くないですよ」
女騎士「あなたがちゃんとしないから!!」
勇者「あーまたシワが」
女魔法使い・女僧侶「あはははは」
女騎士(もぉーーー)
勇者「さぁ行きましょう」
お婆さん「あらぁ勇者様、お帰りなさい」
勇者「あ、道具屋のお婆さん。ただいまです。荷物重そうですね、持ちますよ」
お婆さん「あらぁ悪いわねぇ、ありがとう。道具屋まで運びたかったの」
勇者「遠いじゃないですか! 持って行きますよ」
女騎士(また勇者の人助けが始まった……王都を旅立ってから、街へ着く度この繰り返し。ついていけない)
女騎士「ねぇ」
女僧侶「どうしたんですか?」
女騎士「私は酒場にいるから色々終わったら来て」
女騎士(聖剣の情報を集めないと。チンタラやってる間も、魔王軍は侵略は止まらないわ)
ーーー中央大陸・街の酒場ーーー
カランカラン……
店主「いらっしゃい……お、勇者パーティの騎士様じゃないですか。どうぞ」
女騎士「え、私達そんな有名なの?」
店主「そりゃ勇者パーティは目立ちますよ、盗賊団に奪われたものを取り返しにいったとか」
女騎士「もう終わったわ」
店主「さすが。ありがとうございます! 魔族相手にするんですもんね、盗賊ごとき楽勝ですか」
女騎士「そうね、別の意味で死にかけたけど……あの…」
店主「なにか情報をお求めで?」
女騎士「私達は聖剣を探しているの。 何処にあるか知らない?」
店主「聖剣ですか……むむ」
女騎士「うん」
店主「聖剣……あの伝説の……うーん」
女騎士「えー? 何もないの?」
店主「聖剣は唯一魔王を倒せる剣。そして勇者しか扱うことができない」
女騎士「そんな伝説はみんな知ってるわ」
店主「そう、みんな知ってますよね。聖剣そのものが、勇者と認めたものしか触れることさえ出来ないという……」
女騎士「……」
店主「つまり見つけても持ち帰れない。どんなトレジャーハンターや盗賊も始めから手を出さないんですよ。つまり探す人がいないので情報が無いんです」
女騎士(そんなもの、どうやって探せばいいのかしら)
カランカラン……
女僧侶「女騎士さん! いたいた」
女騎士「やっときた、遅い! あれ? 勇者は?」
女僧侶「あ、あの……言いづらいんですが、さっきの道具屋のお婆さんが」
女騎士「?」
女僧侶「腰痛が酷いと……勇者様は薬を作る為に、薬草を取りに西の森へ行きました」
女騎士「はぁ?! 」イラ
女僧侶「ひぃッ……わ、わたしに怒らないでくださいよぉ……」
女騎士「お婆さんの腰痛の為に森へ行ったの?」
女僧侶「はぃ……勇者様は、先に宿で休んでくださいと言ってました」
女騎士「どんだけお人好しなの」
店主「勇者様は一人で西の森へ行ったのですか?」
女僧侶「ええ、薬を調合する為の薬草があるそうで……」
店主「むむ……西の森……」
女騎士「なに?」
店主「先日、西の森でとても凶暴な魔物が現れたと情報がありまして……」
女騎士・女僧侶「ええぇぇ?!」
店主「目撃者によるとキマイラだったとか」
女騎士(どーして勇者は自ら危険に飛び込むのよ……)
女僧侶「ど、どどどどうしましょぉ……女騎士さん!」
女騎士「仕方ないわ、私達も西の森へ向かいましょう」
ーーー中央大陸・西の森ーーー
女魔法使い「ちょっとー歩くの早いって。勇者はもっとペースを合わせてくれるよ」
女騎士「そんなヒールの高い靴穿いてるからでしょ」
女魔法使い「“魔法使い”は動的機能性よりデザインと特性で装備を選ぶんだよ」
女騎士「特性はともかくデザインって……魔族相手に意味ないわ」
女魔法使い「勇者パーティがダサかったら、カッコつかないだろー。そんなんだから女騎士は男が寄り付かないんだよ」
女騎士「う、うぐ」
女魔法使い「綺麗な顔してもったいない。なぁ女僧侶」
女僧侶「わ、私は神に使える身ですので……そんな邪神は……勇者様に嫌われなければ……どんな服装でも……」モジモジ
女魔法使い「今度私が装備を選んでやるよ、もうちょっと色気出した方がいいよ、立派なもん持ってるんだから」
女騎士「結構! あなたの服は胸元空きすぎなのよ」
女魔法使い「わかってないなぁこれも武器なのに」
グオオオオオオオオゥゥゥ!!!
女僧侶「ひぃッ! な、なんでしょう? 森の奥から聞こえて……」
女騎士「今のは大型の魔物の鳴き声よね……本当にキマイラが?!」
女魔法使い「勇者が戦ってるのか?!」
女騎士「急ぎましょう!」
タタタタッ……
女魔法使い「あっちから聞こえたわよね」
女僧侶「勇者様どうかご無事で……」
女騎士「いた! 戦ってるわ」
女僧侶「ひぃぃ……アレがキマイラ……躰に色んな魔物がくっついてる」
女騎士「まだこっちに気が付いていない。キマイラの背後にまわるわ!」
女僧侶「え?! え?」
女魔法使い「女僧侶! 私達は勇者の援護!」
女僧侶「はい!」
勇者「だあああああっ!!」
ガキィィィンッ!
キマイラ「グルルルル……」
勇者「ふん、強ぇな」
女魔法使い「くらえっ」ゴォォ
女魔法使いは火炎魔法を放った!
勇者「!」
女僧侶「勇者様! 下がってください」
勇者「女魔法使いさん……女僧侶さん……どうして?」
女魔法使い「私達チームだろ♪」
勇者(女騎士さんは?……!)
キマイラ「グオオオオオオオ!!!」
キマイラは大きな爪で攻撃!
勇者「くっ」ガキーンッ
女騎士(勇者……な、なんで下がらないの?!早く背後へ行かなきゃッ)
女僧侶「勇者様! 回復します! €ζ※ゞ☆……」
女僧侶は回復魔法を放った!
勇者「ありがとう! たぁぁはぁっ」ザンッ
キマイラ「ギャア……グルルルルガアアアアッ!」
勇者「くっ!」
女騎士(あぶない! あんな巨体に近距離で正面から危険よ……背後からッ)
女騎士「ハアァァッ!」ダダッ
女騎士(貫くッ!)
女騎士「やぁっ!」ジャキィィィ!
キマイラ「ギャアアアアアアア……」
ドシーン……
キマイラを倒した!
女魔法使い「すげぇ……背後から脳天一突きで……」
女騎士「ふぅ」
勇者「さすが、女騎士さん」
女騎士「さすがじゃないわよ……もぅ」
女僧侶「無事でよかったですわ」
勇者「みんなありがとう……いやぁこんなところに急に強敵でビックリしましたよ」
女騎士「お説教は帰ってからするわ、行きましょう」
勇者「それが……まだ必要な薬草集めて無いんですよ」
女僧侶「うわぁ、よく見たらこの森……薬草沢山の生えてますわね」
勇者「道具屋のお婆さんも、ここまで取りくるの大変だろうし、沢山集めて帰りましょう」
女魔法使い「それもそうね」
勇者「よし……」ブチブチ
女僧侶「うんしょ」プチプチ
女魔法使い「あら? なかなか質のいい薬草ばかりじゃない」ブチッブチッ
勇者「女騎士さんも早く。集めて帰りましょうよ」
女騎士(ええええええええぇぇ?!)
女騎士「……」プチ……プチ……
女騎士(なんでこの勇者パーティは森で草むしりしてるの?……つ、ついてけねぇ)
ーーー中央大陸・街の宿ーーー
女騎士「やっとついた。ゆっくりできる……」
勇者「すっかり日が沈んでしまいましたね」
女魔法使い「さずがにヘロヘロだわ」
勇者「僕は道具屋のお婆さんへ薬草届けて来ますので、先に部屋で休んでいてください」
女騎士「ちょっと明日以降の予定を決めないと……」
勇者「明日の朝相談しましょう、じゃあ」
タタタタタ……
女僧侶「行っちゃった……」
女魔法使い「元気よねー勇者。子供みたい」フフッ
女騎士「もういいわ、部屋で休みましょう」
…………
女騎士(はあ……疲れた。一日で盗賊退治と魔物狩り……)
女騎士(肝心の聖剣の情報はまだ何もない。この街では期待出来ないから、すぐ次の街へ行くべきね)
女僧侶「女魔法使いさん何作ってるんですか?」
女魔法使い「さっきいい薬草いっぱい取れたからね。美肌の薬草パック」
女騎士(それにしても、なんでキマイラがいたのかしら……この辺りは魔物というより獣程度の敵しかいないに)
女僧侶「わぁ、私もしたいですわ」
女魔法使い「いいよ、でも神に使える身でいいのかい?」
女僧侶「え……」
女魔法使い「なんか言ってたじゃん。オシャレは邪神みたいな」ハハッ
女僧侶「わ、私は殿方にモテたいという、り、理由でパックしたいわけではないですわ! み、身だしなみとして……」
女魔法使い「あはは、冗談だよ。沢山あるよー女騎士の分も」
女騎士(勇者のリーダーシップにも不満が溜まる……)
女魔法使い「女騎士? いらないのかい? 美肌」
女騎士「え? 美肌?……い、いる!」
女達「……」ペタペタ……
女魔法使い「よし、このまま寝ればオッケーよ」
女僧侶「ふふ。みんなすごい顔です。勇者様には見せられないですわ」アハッ
女騎士(意外と気持ちいい……いい匂い……zzz)
次の日
女騎士「おはよう……」
女魔法使い「おはよう。おー! お肌ツルツルじゃん!」
女騎士「そ、そうかしら?」
女僧侶「zzzz……」
女騎士「勇者は? まだ寝てるの?」
女魔法使い「それが夜中に夜這い……じゃなかった、部屋に様子見に行ったら帰ってないんだよ。昨夜戻ってないみたいよ」
女騎士「えええ?!」
女僧侶「ふぁ……」
女騎士「そんなこと今までなかったわよね?」
女魔法使い「ああ……勇者は夜遊びはしないと思うんだけどねー」
女騎士「夜遊びの心配なんかしないけど……」
女騎士(なんか嫌な予感が……お婆さんの為に行った先にキマイラ。お婆さんのところへ行って戻らない勇者)
女騎士「私道具屋のお婆さんのところに行ってくる!」
女魔法使い「えぇ!? い、今?」
女騎士「女僧侶も起こしたら、あなた達も来て」
ーーー中央大陸・街の道具屋ーーー
バタンッ!
女騎士「勇者ッ!!」
勇者「ん? おはよぉぅごふぁいまふ」モグモグ
女騎士「……。」
お婆さん「あら騎士様おはようございますー」
女騎士「お、おはようございます」
勇者「モグモグ」
女騎士「…………」
勇者「ど、どうしました?」
女騎士「ちょっと勇者」イラ
勇者「はい?」
女騎士「何してるの?」
勇者「何って……見ての通り、お婆さんが作ってくれた朝ごはんを食べてます」
女騎士「なんで昨日帰ってこないで、今朝ごはん食べてるの?」イラ
勇者「お婆さんが薬草のお礼に泊まって行きなさいって……」
女騎士「ちょっと!」
勇者「……」
女騎士「自由過ぎるわ。あなたは王都で選ばれ支援された正式な“勇者”なのよ?」
女騎士「王様の支援を受けて旅してるの。魔王を倒す義務があるのよ」
女騎士「人助けも大切だけど、限度があるわ。聖剣の情報は何も得られてないし、昨日だって私が助けなかったら今頃どうなっていたか……」
勇者「…………」
女騎士「“勇者”としての自覚あるの?!」
勇者「ぷっ」
勇者・お婆さん「アハハハハハハッ」
女騎士「な、なによ……」
勇者「ご、ごめんなさい。えと……まず、聖剣の在処はわかりました」
女騎士「ふぇ?!」
勇者「南大陸の最大の都市“魔都”です」
女騎士「な、なぜわかったの?」
お婆さん「すまんの、わたしが知っておったのでな……」
勇者「お婆さんは昔“勇者”と旅した大賢者様なんです。その頃の話を昨晩沢山して頂きました」
女騎士「お婆さんが大賢者様?」
お婆さん「世界のほとんどは旅したのよ、今は体力も魔力もないけど、知識だけは残っておるわ」
勇者「それと、“勇者”としての自覚ですよね? ハッキリ言いましょうか」
女騎士「……」
勇者「僕が……いや」
勇者「俺が“勇者”だ」
女騎士「っ!」
勇者「誰になんと言われようとな」
女騎士(…………)ゾクッ
勇者「だから……俺は人助けをする。それは“勇者”のあるべき姿なんだよ。困ってる人を平等に助ける。そう思われなきゃいけない」
女騎士「いけないって……その正義感で、仲間が危険に晒されてるのよ。昨日だって……」
勇者「…………」
女騎士「……。」
勇者「いい機会だから言いましょう。女騎士さんは強い。王都で一番の騎士言われるだけの強さを間違いなく持っています」
女騎士「貴方にだって負ける気がしないわ」
勇者「剣技だけで言ったら、そうでしょうね。でもそれは対人戦闘。それも一対一のデュエルに限ってのこと」
女騎士「……」
勇者「ずっと一人で戦ってきたせいでしょう。仲間の動きがわかってない。視野が狭く、目の前の敵しか見えていない」
勇者「キマイラはその形態ゆえ、一体で有りながら複数の知性思考を持つ。もちろん視野も複数」
勇者「女騎士さんは背後から近づけば、気付かれないと決め込んでいました。もうここまで言えば分かりますよね?」
女騎士「…………」
女騎士(まさか……あの戦闘で勇者がキマイラ相手に近距離正面から離れなかったのは、背後の私がバレないよう囮になってくれた? )
女騎士(私は助けられてたの?)
勇者「でも本当に貴方は強い。これからも力を貸して欲しいです……このパーティのリーダーとして、貴方に不満を溜めてしまったのは、僕の責任。それは申し訳ない」
女騎士「…………」
勇者「でも僕はこのスタンスを変える気はありません」
女騎士「戦闘技術については反省するわ……。でも!」
勇者「……」
女騎士「ゆっくり旅をするつもりはないわ。時間が経てばそれだけ魔王軍の進軍は進み、人々の被害は増える」
勇者「女騎士さんの言い分も間違ってはいません。僕は“勇者”のあるべき姿で旅をしますので、これからも僕を急かしてくださいね」
女騎士「……わかったわ。人助けより、魔王を倒すのがなにより先決。この考えは変わらないわ」
< 第二章 仲間を繋ぐもの >
ーーー中央大陸・フィールドーーー
女騎士「たあああっ!」ブンッ
魔物A「ぎゃあ」
女騎士「ハッ」ザンッ
魔物B「があぁ」
女騎士「やぁっ」ズバッ
魔物C「ああああ」
女騎士「ふぅ……どう?」
勇者「ど、どうって言われましても……」
女騎士「貴方言ったわよね? 私が強いのは一対一の対人戦だけだって。どうなのよ?」
勇者「いやいや……確かに今女騎士さん一人で複数倒しましたけど」
女僧侶「私達何もしてないですわ」
勇者「僕らと連携して戦わないと……」
女騎士「……連携? 王都を旅立って、ここまで来るのに4人でいくつもダンジョン越えてきたじゃない」
女魔法使い「ちょっと女騎士」イラ
女騎士「はい?」
勇者「本当は旅立って、すぐに言うべきだったんでしょうけど……」
女魔法使い「エンカウントすると、いつもあんたが一番に突っ込んでいくから私達が援護してたんだよ」
勇者「そういうことです。女騎士さんに合わせて僕らが動いていただけ。連携とは言えないです!」
女騎士(たしかにチームワークとか考えたことなかったかも)
女魔法使い「次敵が現れたら、そのへん意識してよね」
女騎士「……わ、わかったわ」シュン……
女僧侶「あの……この先の予定は?」
勇者「えーと、僕らはこの草原を南下して港町を目指します!」
女僧侶「海ですわね」ウキウキ
勇者「港町から船で南大陸へ渡り、魔都を目指します」
女騎士「あの……魔都って?」
女魔法使い「そういや、あんた……外の世界のこと全然知らない王都の箱入り娘だったね」
女騎士「そんな言い方しないでょ……」
女魔法使い「西大陸が魔族に占領されたのは知ってる?」
女騎士「さ、さすがに知ってるわよ……沢山難民が王都にも来たし」
女魔法使い「魔都とは、南大陸最大の都市」
勇者「今いる中央大陸を統治しているのは、我々が所属する王都。南大陸を統治するのは“魔都”です」
女騎士「じゃ、南大陸の王様は魔都にいるわけね?」
勇者「そうです。南大陸は今一番魔族との戦火が酷いところです。僕らは歓迎されるはず。聖剣の情報も教えてもらえるでしょう」
女魔法使い「南大陸はほとんど砂漠だよね……魔物も強いって言うし、気が進まない」
勇者一行は港町を目指し歩く……。
女僧侶「いい天気ですわねー気持ちいい」
勇者「このフィールドは蒼の草原と呼ばれ、雨季以外はこのすごい快晴がほぼ毎日続きます。魔物も少ないし旅には最適ですね」
女騎士「この空を見てると戦争なんてバカらしく思えるわ……」
勇者「ですね……ん?」
女魔法使い「な、なんか飛んでくるよ! 鳥?」
女騎士「複数いるわ! 鳥じゃない敵よっ」
勇者「ワイバーンか。みんなエンカウントします!」
ワイバーン「ギャアギャアッ!」バッサ…バッサ…
女僧侶「ひぃっ……囲まれましたわ。8、いや9体です」
女騎士(連携……一人で突っ走らないようにしないと)
勇者「……お」ニコッ
女騎士「な、なによ?」
勇者「一匹づつ確実に倒して行きましょう」
女魔法使い「OK♪ 」
女騎士「りょ、了解」
女僧侶「はい!」
女魔法使い「私が魔法で地面に叩き落とす! はぁっ!」ゴォォ
女魔法使いは火炎魔法を放った!
ワイバーン「ギェッ」
女騎士(よし、追撃っ!)
女騎士「やぁ!」ザンッ
ワイバーンを一体倒した!
勇者「おお、僕も魔法で……いけッ!」ヒュッン!
勇者は風撃魔法を放った!
女騎士「追撃ッ!」ザンッ
ワイバーン「ガアァ」
女魔法使い「どんどん行くよ」ゴォ! ゴォ! ゴォ!
勇者「今だっ! やぁ!」ブンッ
女騎士「たぁ!」ザンッ
ワイバーンを倒した!
ワイバーン「ギャアギャア!」
女騎士(!……逃げる気?! させないっ)タタッ
勇者「ふ、深追いは……」
女騎士「はぁっ」ブンッ
ワイバーン「キャアアアァアア」
女騎士(誰か追撃を…………って、みんな、あんな後衛に?!)
ワイバーンに逃げられた……。
女騎士「あーぁ、逃げられちゃった」
勇者「よし、追い払いましたね。みんな怪我はないですか?」
女僧侶「大丈夫ですわ」
女魔法使い「なんだい。あっけなかったじゃん」
女騎士「どう? 私だって連携出来たでしょ? むしろ勇者がちゃんと私についてれば、逃がしはしなかったわ」
勇者「あの深追いは……」
女騎士「危険。って言いたいんでしょ? 最初に逃げたのは、あの一体だけ。危険な深追いじゃないわ」
勇者「ちがいます。女騎士さんが言うとおり、最初に逃げたワイバーンは一体だけでした。他のワイバーンはまだ戦闘態勢でした」
女騎士「?」
勇者「僕と女騎士さんが深追いしたら、誰が女魔法使いさんと女僧侶さんを守るんですか? 二人は僕らほど防御力は高くないですよ」
女騎士(!!……そ、そっかぁそうよね。チームでは私は守りも兼ねているのね)
勇者「でも、それ以外は凄くよかったです」
女騎士「そ、そう? 次はもっと気をつけるわ」
勇者「はい」ニコッ
女魔法使い(勇者はアメとムチが上手い。フフ)
勇者「さあ、先を急ぎましょう」
ーーー中央大陸・港町ーーー
勇者「南大陸へ船を出せない?! なぜですか?」
船長「最近、南黒海には海賊がウヨウヨしている。通れば必ず襲われるからねー」
女僧侶「か、海賊」ガクブル
船長「でも安心してくれ、時間と金はかかるが東大陸を経由して行けば南黒海を通らずに、南大陸へ行ける」
女騎士「そうですか、よかった。港町の人達は不便してますね」
船長「そうなんだがね、まあ命には変えられないよ。戦争で兵はほとんど出払ってここ数年で治安はかなり悪化したよ」
女騎士「じゃあまず東大陸へ……」
勇者「僕らがなんとかしましょう!!」
船長「え……」
女騎士(やっぱりこうなるの?)
船長「いや、いくらなんでも」
勇者「王都軍は待っても来ません。僕らを海賊のいる海へ案内してくれませんか?」
女騎士「ちょ、ちょっと待った! 勇者、私達も先を急ぐでしょ? とりあえず街の人達は遠回りすれば南大陸に行けるんだし」
勇者「悪党ほっといていいんですか? 待っていても治安は回復しませんよ」
女騎士「“勇者”が魔王を倒して戦争を終わらす。そうすれば兵も治安維持に戻るわ」
勇者「“勇者”として悪党を見逃すことはできない!」
…………
女魔法使い「あーぁ、また同じ言い争いが」
女僧侶「この意見が合わないとチームワークどころではないですわね……」
勇者「魔王を倒した後、国がボロボロになってたら意味ないですよ」
女騎士「だから私達は旅を急いでいるんでしょ? 早く魔王を倒さないとっ!」
勇者「…………わかりました。これで決めましょう」キラッ
女騎士「コイン?」
勇者「表が出れば、東大陸へ。裏が出たら海賊退治に……どうです?」
女魔法使い「コイントスか……」
勇者「迷った時は、運命に身を任せるんです」
女騎士「いいわ」
勇者はニコッと笑うと、コインを弾いた。
キンッ!
……
バッ
女僧侶「……」ドキドキ
女騎士(どう?)
ス……
勇者「裏です」ニコッ
女魔法使い「はい! 決まり。さっさと海賊退治にいこうじゃない」
女騎士(うーん……仕方ない。)
船長「そ、そうかい? じゃ南黒海へ船を出すよ」
ーーー南黒海・船内ーーー
勇者「もういつ海賊が現れてもおかしくないですから、油断しないでくださいね」
女僧侶「は、はい!」
船長「そうはいっても海賊も船だから、エンカウントするだいぶ前に気づけるよ」
勇者「そ、そうか」
女騎士「海賊の戦力はどのくらいなの?」
船長「詳しくは分からんが、南黒海の何処かに海賊が住む海洋都市があるとか」
女僧侶「ひぃ……そ、それって物凄い数の海賊ってことでしょうか?」
船長「海洋都市といっても、海に浮かぶ要塞みたいなものらしいよ。中には奴隷や王都軍兵士の捕虜なんかが沢山監禁されてるって話だ」
女魔法使い「そんなところに、よく案内する気になったな? この船だって戦場になるかもしれない」
船長「海賊が縄張りを広げて一番困ったのは、わしら船乗りだよ。勇者様ご一行が味方なら心強いからね」
勇者「この船は必ず守ります」
船長「頼もしいねぇ、飯でも食べて戦に備えてくれよ」
勇者「ありがたいです。いただきます!」
女騎士「私も、いただきます」
女魔法使い「おぉシーフード大好き」
女僧侶「お、美味しいです」
みんな「モグモグ」
勇者「あれ? 船長さん達は食べないのですか?」
船長「わしらは先に頂いたんでな」
勇者「?モグモグ」
女僧侶「モグモグ……あ、あれ……?う…」
バタッ……ZZz……
女騎士「女僧侶?!……う。く……なに?意識が……」
女魔法使い「くそ……何か盛りやがったな……」
勇者「み、みんな……」
バタッ
バタッ
バタッ……
勇者一行「ZZZzz……」
船長「ちょろいな」
ーーー南黒海・海洋都市ーーー
女騎士「ハッ……」
勇者「気が付きましたか。大丈夫ですか?」
女騎士「イタタタ。かなりキツく縛られて動けないけど大丈夫。ここは? 牢屋?」
勇者「おそらく海賊のアジト、この揺れを感じるってことは例の海洋都市でしょう」
女騎士「あの船長裏切ったのね」
勇者「もともと海賊と繋がってたと考えるのが妥当でしょうね。迂闊でした」
女騎士「女魔法使いと女僧侶がいない……別の牢屋かしら? 武器や荷物もないわ」
勇者「この程度の拘束は魔法ですぐ解けますが、彼女達が人質になってると思うと暴れるわけにもいかないですね」
女騎士「相手は海賊よ? 二人とも可愛いし何されてるかわかったもんじゃないわ。すぐに助けに行くべきよ」
勇者「いや彼女達も魔法が使えます。いざとなれば大暴れするはず」
女騎士「大丈夫かしら………」
勇者「今は彼女達を信じて機を待ちましょう。仲間を信じることもチームワークですよ」
女騎士「私は魔法使えないわ。この拘束しているロープに切れ目を入れておいてくれない?」
勇者「わかりました。ただし、僕の指示があるまで拘束されている振りをしてくださいよ? 武器もありませんし」
女騎士「あなたの指示? うーん……わかったわ」
勇者「なんだか不安ですが……ハッ」ヒュンッ
勇者は風の魔法を弱々しく放った。
スパッ
女騎士(よし、これで武器はないけど戦える)
勇者「拘束ロープに切れ目入れましたので、ちょっと力入れれは切れます。勝手に暴れないでくださいね」
数時間後……
海賊「お、二人とも目覚めてますぜ」
船長「おはよう、勇者様。いい夢は見れたかな?」
勇者「いや、ここはあまり寝心地がよくないですね」
女騎士「女魔法使いと女僧侶は無事なの?」
海賊「安心しろ、指一本触れてねぇよ。キャプテンが戻ったから、ちょと挨拶しにいくぞ。そのあと女共は遊んでやるよ、カカカカカ」
女騎士(よし、全員の無事が確認出来たら一気に反撃ね)
船長「さぁキャプテンがお待ちだ。広場に連れてくぞ」
…………
海賊「こっちだ、歩け」
勇者「船長さん、なんで海賊と手を組んだんです?」
船長「船乗りとして生きていく為には仕方なかった。この国は無法地帯になりつつある。自分の船は自分で守るしかないんだよ」
勇者「それしか選択肢がなかったかもしれない。でも僕が来た時点で、海賊を裏切ることも出来たでしょう? 僕を信じてくれれば……」
船長「あんたは“勇者”だ、そりゃ強いだろうよ。海賊を崩壊させることも出来たかもしれない、でも」
船長「あんたに治安を回復させることは出来ない。戦争が続く限り、それは“勇者”一人ではどうにもできないさ」
勇者「…………」
船長「わしは船乗りとして、船を守る為にはなんでもする。たとえ殺しでも」
勇者「信じてもらえず残念です。それと、あなたはもう船乗りじゃない。海賊だ」
船長「うるせぇ!!!! お前に何がわかるっ! 黙って歩け!」
…………
海賊「キャプテン連れて来ました。こいつ等が勇者パーティですぜ」
海賊キャプテン「おう、船長よくやったぞ」
船長「いえ」
女僧侶「あぁ勇者様」
女魔法使い「勇者、よかった」
女騎士(よかった、みんな無事だ。海賊のキャプテンに幹部もみんなそろってる。拘束を解いたら奴らの剣を奪い制圧するっ!)
勇者「よし……みんな無事ですね」
船長「おっと、妙な真似するなよ。魔法で暴れたりしたら、この奴隷の首をかっさばく」
奴隷「ひぃぃ勇者様たたすけてぇ!!」
勇者「くっ人質を……」
海賊キャプテン「この海洋都市には奴隷や捕虜は腐る程いる。正義の勇者様じゃ人質見捨てられないだろ? カカカカカ」
女騎士(勇者、早く合図をっ! 私達のスピードなら、きっと人質も助けられる)
眼で訴える女騎士に、勇者は首を横に振った。
女騎士(なんでよっ!)
海賊「さすが勇者……いい女達連れてるなぁ。へへへ」
海賊キャプテン「女達は薬漬けにして、闇市に売り飛ばすか。勇者はどうすっかねぇ」
船長「魔王軍に売れませんか?」
女騎士(このまま黙ってて反撃のチャンスがくるの?! 4人揃ってる今暴れるべきじゃない?)
勇者「女騎士さん、ダメです我慢してください」
女騎士(?!なんで?! 今反撃すべきよ)
勇者「僕を信じて……」
海賊「何コソコソ喋ってんだっ!!」ドガッ
勇者「くっ」
女騎士(信じる?……それがチームワーク?)
海賊幹部「キャプテン、売り飛ばす前に楽しませてくれよ。我慢できねぇぜ」
女僧侶「ひぃっ、触らないで」
海賊キャプテン「そうだな、女達は好きにしろ。どうせ薬漬けにするんだ」
女騎士(勇者を信じるのよ、私一人で突っ走ってはいけない。それが仲間としての連携のはず)
女魔法使い「うちの僧侶に触んじゃないよ。私がまとめて相手してやるから、その子は勘弁してやってよ」
海賊「へぇ、あんたが俺たちを慰めてくれるってか? いいねぇ、無理やり犯すより楽しめそうだ。へへ」
女騎士(くっ……こらえるのよ)
勇者「女魔法使いさん……」
女魔法使い「まかせて、勇者」
女魔法使い「おい! 海賊ども! 私があんたらにいい夢は見させてやんよっ」
海賊幹部「妙な真似したら人質ぶっ殺すからな。こっち来い」
女騎士(武器のない今、一番の戦力の女魔法使いが行ってしまう……)
海賊キャプテン「俺はこの女騎士がいいなぁ、ウヘヘヘ……」モミモミ
女騎士「さ、触るなっ!」
海賊キャプテン「へへへ。その高飛車なキャラがたまんねぇ」
海賊「んじゃ、僧侶ちゃんはいただきますね」
女僧侶「きゃあああああ……」
女騎士(女僧侶も連れていかれた)
女騎士「もうだめ……」
海賊キャプテン「あ?」
女騎士「我慢の限界よっ!」ドガッ
海賊キャプテン「くっ。いってぇ……こ、こいつ拘束を自力で?!」
勇者「女騎士さん?! 」
女騎士(武器を奪わなきゃ!)シュッ
海賊キャプテン「ふん。殺せっ!皆殺しだ!」
海賊「オラッ」
海賊「死にさらせ!」
海賊「ぶっころせぇ!」
ズバッ
ドスッ
女騎士「う……ああああ……………」
奴隷「ゲホ……」
海賊キャプテン「マヌケな勇者パーティだな。シネ」
ザン!
勇者達は全滅した。
女騎士「ハッ……」
勇者「気が付きましたか。大丈夫ですか?」
女騎士「え? 何が……???」
女僧侶「全員無事です。安心してください」
女騎士「ど、どうなってるの? 海賊にやられて、確かに全滅したはず……」
勇者「幻です。女魔法使いさんの幻覚魔法ですよ」
女騎士「え?! げ、幻覚?!」
女魔法使い「わるいね、広範囲で強力に魔法かけたんで敵味方区別できなかったわ」
女騎士「さ、さっきのは幻……
海賊キャプテン「ZZZzzz……」
海賊幹部「ZZZzzz……」
海賊達「ZZZzzz……」
船長「ZZZzzz……」
奴隷「ZZZzzz……」
女魔法使い「まだみんな幻見てるよ」ハハッ
女騎士「何処から幻覚見てたのかしら……全然気が付かなかったわ」
勇者「たぶん『まかせて勇者』の後からですね。ハハッ」
女騎士「最悪な夢だったわ……」
女魔法使い「さっさと海賊退治しちゃおうよ」
勇者「そうですね、海賊キャプテンも幹部も捕らえてしまったので、後は残党狩りみたいなものですけど」
女騎士「私は何もできなかった」
勇者「女騎士さん、我慢して動かなかったじゃないですか。僕を信じてくれてありがとうございました」
女騎士「いや私は助けられただけよ」
勇者「言ったでしょう。“信じること”もチームワークです。この勝利は皆の勝利です」
女僧侶「はい」ニコッ
女魔法使い「だな」フフッ
勇者「仲間なんですから」
勇者達は海洋都市を制圧。奴隷と捕虜を解放し、この海賊達のアジトを海に沈めた……。
< 第三章 犠牲と対価 >
ーーー南大陸・港ーーー
勇者「海賊の後処理で遅くなりましたが、無事に南大陸に到着しましたね、さあ魔都へ行きましょう」
女騎士「あ、暑い」
勇者「南大陸はほぼ砂漠ですから、鎧脱いだ方が……」
女騎士「いや、騎士である以上脱げないわ。身なりをキチンとするのも騎士道よ!」
女魔法使い「見てるこっちが暑苦しいわ」
女騎士「なんで涼しい顔してるの? こんなに日差し強いのに」
女僧侶「私達は氷冷魔法を身に纏えますので……」
女騎士「え? 三人とも?! うぅ……魔力の無駄使いよ」
女魔法使い「あんたは体力の無駄使いね」
勇者「鎧脱いでください、砂漠もフィールドも歩かないので敵にエンカウントすることもありません」
女騎士「え? なんで? 魔都へは徒歩で行くんじゃないの?」
女魔法使い「そういえば、あんた中央大陸から出るの始めてだったわね」
勇者「ここは南大陸です。魔法技術が世界一進んでる国ですよ、各街に転移魔法陣がありますので、ひとっ飛びで魔都まで行けます」
女騎士「そうなの……?」
女魔法使い「光石のランプだったり、街は魔法の結界で守られてるし、魔力で動く兵器とか魔法科学、魔導学の研究も沢山ってわけ
」
勇者「噂じゃ、空飛ぶ船を発明したとか
…」
女騎士「すごい国ね、南大陸。あ、やっぱり女魔法使いもこの国の出身なの??」
女魔法使い「え…………あ、わ、私の出身は……」
勇者「……」
女僧侶「あっ! あれが転移魔法陣ですわね!」
スタスタスタ……
受付「いらっしゃい、どこまで?」
勇者「魔都へ。4人です」
受付「あいよ、4000Gね」
女騎士「え? 私達、“勇者”パーティなのにお金かかるの?」
勇者「僕は王都の勇者ですから、中央大陸以外ではただの旅人と変わらず通行料も税もかかります」
女騎士「ふーん」
女魔法使い「これから魔都にいる南大陸の王様にあって支援を求めるんでしょ、それまでは仕方ないってこと」
受付「あんたたちも“勇者”パーティなのかい。ちょいと前にも“勇者”を見かけたな」
勇者「他にも“勇者”が南大陸に?」
受付「愛想のないパーティだったけどねぇ。魔族が沢山いる戦争の最前線に行きたいとか」
勇者「そうですか……」
受付「まぁ本当に“勇者”だったのかは分からんけどね」
ーーー南大陸・魔都の王宮ーーー
南王「うむ……王都の勇者達よ、ようこそ南大陸へ」
勇者「王様、お忙しい所お時間作って頂きありがとうございます」
南王「聞いたぞ、南黒海の海賊を壊滅させたそうじゃな。我が国は魔族との戦争で忙しく、そこまで手が回らんかった。南大陸を代表して礼を」
勇者「もったいないお言葉です。勇者として当然であります」
女騎士(謙遜してるけど、人助けは恩を売ることになるのね)
勇者「魔王軍との戦況はいかがでしょうか?」
南王「4つの街と軍事拠点の“塔”が一つ奪われて、我が国最大の砂漠“死の砂丘”にて魔王軍との戦闘が続いておる。まだまだ魔都は安全じゃが芳しくはないの」
勇者「そうですか……。魔都の軍に入るわけにはいきませんが、何かお手伝いがあれば何なりと……
女騎士「王様! 」……。」
女騎士「我が王都の“勇者”部隊は、聖剣を探しており、魔王を撃つことが戦争を終結させる最善策と考えております。何卒、情報をいただけませんでしょうか?」
南王「フォッフォッフォ。それがお主たちの本題であったか」
女騎士「そうです」
南王「情報も何も、わしが所持しておる。いや、我が国で所持している」
女騎士「ええ?!」
女魔法使い「!」
女僧侶「えー!?」
勇者「そ、そうでしたか。なぜそれを……」
南王「ついてきなさい」
…………
ーーー南大陸・魔都 聖剣の間ーーー
何もない広い地下室で、見たこともない魔法陣の中心に突き刺さっている聖剣。
すべてと聖剣が呼応するように部屋全体が光っている。
勇者「これが……聖剣。神々しい」
女騎士「これがないと魔王を倒せません。なぜこんな所に置いてあるんですか?」
南王「ふむ、二つ理由がある。まず、伝説の通り“勇者”にしか触れることができないのじゃ」
女騎士「あ、そうでした……私、触ってみてもいいでしょうか?」
南王「どうぞ触れるなら」
女騎士「はい……」
そぉ……
バチッ!!
女騎士「きゃああああああ!!」
女僧侶「だ、大丈夫ですか?!」
女騎士「うん……いたた。バリア?」
女魔法使い「聖剣に認められた勇者しか触れることが出来ない。本当だったのね」
女騎士「……」チラッ
女魔法使い「……」ジッ
女僧侶「……」ジー
南王「……」チラチラ
勇者「な、なんですか? 僕の顔に何かついてます?」アセ
女魔法使い「ちょっと触っておくれよ。“勇者”でしょ?」
勇者「はい……あの、今まで触れた“勇者”はいましたか?」
南王「わしが王位を継承してからはおらんな」
南王「触れることが出来ても、今は絶対に抜かないでくれ」
勇者「はい、わかりました。では……」
スッ……
一同「ゴクリ」
女騎士(勇者は本当に“勇者”としての素質があるの?)
……
ピタッ
勇者「ふぅ」
女騎士「触れた……」
勇者「なに驚いているんですか。当然でしょう。ハハッ」
女騎士「ドキドキだったくせに」フフッ
南王「勇者殿、時が来たら聖剣を譲ることを約束しよう」
女魔法使い「時が来たら? 聖剣を動かせないもう一つの理由は?」
南王「この国は魔法の技術が支えておる。街を魔族や魔物から守る魔法結界、砂漠で移動困難な物流を守る転移魔法陣、人々の生活を守る光熱エネルギー」
女僧侶「??(難しい……)」
南王「聖剣は……魔法結界のエネルギー源。これを抜くと、この大陸の街すべての魔法結界が消えてしまう」
勇者「なるほど……これは動力。この聖剣の魔力を使い、国を守ってきたんですね」
南王「その通りじゃ」
勇者「街を守る結界がなくなれば、魔王軍に一気に攻め落とされてしまう」
南王「そうなれば、西大陸と同じように滅ぶであろう……」
女魔法使い「…………」
女騎士「魔王を倒す為に聖剣を抜くと、南大陸が犠牲に……でも抜かなければ魔王は倒せない?」
女僧侶「どうすれば……?」
勇者「南大陸の街にはすべて結界があるのですか?」
南王「結界のなかった街はすべて占領されてしまった。南大陸の魔王軍を殲滅、もしくは撤退させれば軍を街の警護に当てることができる。聖剣をお渡しするのはそれからじゃ」
勇者「まずは南大陸の魔王軍に勝利する。僕らも最前線へ行きます」
南王「ありがたい。勇者殿が参戦するとなれば兵達の士気も上がるじゃろう」
勇者達は南大陸の王に支援・援助をもらい、魔族との戦闘がもっとも厳しい“死の砂丘”へ向かう。
ーーー南大陸・死の砂丘入り口の村ーーー
女騎士「暑い………これからこの砂漠歩くの?」
勇者「転移魔法陣で来られるのはここまでです。軍のキャンプは砂漠のオアシスにあるそうです」
女僧侶「傷は癒せても、暑さで奪われた体力・疲れは回復できません。無理せず行きましょう」
勇者「じゃ歩きましょう」
ザッザッザッザッ……
女騎士「あぁ暑いの嫌い……この大陸の人達はなんでこの地に住み着いたのかしら」
勇者「砂漠も悪いことばかりではありませんよ、魔王軍も中々侵略できないはず」
女騎士「魔王軍がこの大陸を狙うのは、やはり聖剣を狙って?」
勇者「そうかもしれません。攻めやすい北大陸は平穏そのもの」
女騎士「戦争が落ち着くまで、この大陸の人達は避難するべきね」
女魔法使い「簡単に言うなよ」
女騎士「え?」
女魔法使い「故郷を捨てるって簡単なことじゃない」
女騎士「……(捨てるなんて言ってないけど)」
…………
ザッザッザッザッ……
女騎士「あついわね……」
勇者「あついですね……」
女魔法使い「さすがにずーと氷冷魔法使い続けるわけにもいかないしな」
女騎士「って……なんてカッコしてるの?! なにその下着みたいな装備?!」
女魔法使い「ちがうって。こーゆーデザインなの、踊り子用の装備だけど」
女僧侶(む、胸おっきい……私は……)チラッ(うぅ……)ガーン……
女騎士「露出し過ぎ! ちょっと、勇者! 」
勇者「はい?」
女騎士「リーダーでしょ?! なんとか言ってよ」
勇者「へ? いや……僕は男ですので嬉しいですが……」
女騎士「えぇぇ! 人類希望の勇者様が! ハ、ハレンチ……なんてことなの」
勇者「僕も男ですから。アハハ」
女魔法使い「その割りに全然見てこないし、興味なさそうなのがムカつくわ。あんた達も脱ぎなよ」
女騎士「絶対嫌!!!!!」
女僧侶「ひぃっ! 出来ません!」
勇者「あつい~」
ザッザッザッザッ……
勇者「方角に間違いありませんか?」
女僧侶「はい……大丈夫です。あと数キロで軍のキャンプが見えてくるはずです」
女魔法使い「ちょっと……休憩しない?」
女騎士「さっきしたばかりじゃない。それに暗くなる前にキャンプにつかないと!」
女魔法使い「あんたは本当にストイックよね……勇者、決めて」
勇者「じゃぁ平等にコイントスで。表が出たら休憩しましょう」キンッ
クルクル……
パッ
勇者「表です」
女魔法使い「やた!」
勇者「決まりましたね」
女魔法使い「アレはなんだい?」
女騎士「大きな岩ね、日陰がある! あそこで休憩しましょ」
ザッザッザッザッ……大岩の日陰へ
勇者「ふぅ……」
女僧侶「うぅ砂だらけ……」
女魔法使い「オアシスが待ち遠しいわね……ん?」
勇者「!……魔力を感じる。敵か?」
女僧侶「ひぃ!」キョロキョロ
女騎士「どこ?!」
女魔法使い「岩の反対側の方!」
タタタタタッ……
兵士B「やあっ!」キンッ!
魔族兵G「フンっ!」チャキッ!
魔族兵C「ハァァァ!」ゴォォ
兵士D「だぁぁ」ザンッ!
兵士E「うわっ!」
タタタタ……
勇者「あ、あれは」
女騎士「魔王軍の部隊と魔都の小隊が戦闘してる!」
勇者「みんな行きますよ!!」
女騎士「了解っ!」
女魔法使い「おう」
女僧侶「はい!」
女魔法使い「はぁっ!」ゴォォ
女魔法使いは火炎魔法を放った!
女騎士「たあああぁっ!」シュッ
魔族兵J「くっ」キンッ
女僧侶「回復します!£〆♦︎*<!」キュイィィン
女僧侶は全体回復魔法を放った!
兵士達「!!!」
勇者「大丈夫ですか?! 加勢します!」
兵士E「あんた達は……」
兵士D「噂の勇者パーティか。ありがたい」
勇者「噂?」
魔族兵G「オラァ!」
勇者「おっと」サッ
魔族兵C「ふんっ!くらえぇ!」
魔族兵Cは爆炎魔法を放った!
ドドドドッ!!!
女騎士「キャアッ」
女僧侶「うぅぅ」
兵士E「くっ!」
魔族兵M「ハハッ死ね!」ザザッ
兵士E「うわっ」
女騎士「あぶないっ!」キンッ
魔族兵E「ふんっ邪魔しやがって」
女騎士(強いっ。連携して攻撃してくる……魔物とは訳が違う)
勇者「魔族相手に出し惜しみは良くないかな……」
勇者が刀身に手を添えると剣が輝き出す。
勇者「はあああぁぁぁっ!!」キィィィン!
勇者は光魔法を放った!
魔族兵G「ぐああぁぁっ」
魔族兵C「ぎゃあああ」
兵士K「これは光の魔法?!」
魔族兵M「く……みんな退けっ!」
勇者「逃がさねぇ……よ」キィィィン!
剣から放たれる光魔法は逃げ惑う魔族を捕らえる。
魔族兵M「うあああ……」
魔族兵E「ぎゃあああ」
魔族兵J「うおぇ……」
魔族部隊を倒した!
兵士E「す、すげぇ」
女騎士(これが光の魔法……)
勇者「ふぅ……みんな大丈夫ですか?」
兵士D「ありがとうございます勇者様。あなた達が来てくれなかったら全滅していた」
勇者「とんでもない、みんな無事でよかったです」
兵士D「とりあえず大岩の日陰で休みましょう」
……
女騎士「ふぅ砂漠の戦闘がこんなにしんどいなんて……」
兵士E「足場はわるいし、暑さで体力は奪われるし、この戦場は地獄だよ……」
勇者「魔族部隊は強い……前線はどんな感じですか?」
兵士D「我々人間の方が数は多い、なんとか堪えてはいるがジリ貧です。やはり“塔”を奪還しないと活路がない」
女魔法使い「塔?」
兵士D「元は砂漠の遺跡で、我々の軍事拠点でしたが、少し前に魔王軍に占領されました。それから戦況が悪化……現在は魔王軍の拠点になってます」
勇者「そこを落とせば再び戦況を好転させることができる……よし、我々の出番ですね」
兵士K「勇者様、我々と共闘していただけるんですか??!」
勇者「もちろんですよ。塔をなんとかしましょう。あなた達は魔王軍の進軍を少しでも食い止めてほしい」
兵士K「おおお!!」
兵士D「ありがとうございます! 」
兵士E「やったぁぁ」
勇者「まずはオアシスにあるキャンプへ。指揮官と話がしたいです」
兵士D「わかりました、案内致します。噂では“勇者”様は協力的ではないと聞きましたが誤った情報でしたね。ハハッ」
女騎士「さっきも気になったんだけど、噂って……? 私達この大陸に来たばかりよ?」
兵士K「え? 数日前から突然現れて、最前線で魔族狩りをしている“勇者”様って、あなた達なんですよね?」
女騎士「え?? なにそれ……」
女僧侶「ひぃぃぃぃっ!!!!」
勇者「どうしました!? 女僧侶さん」
女僧侶「あ、あれです……地平線が……」
どこまでも続く砂漠を見る。
地平線一面に砂煙の壁が覆っている。
兵士E「マジかよ……砂嵐だ」
女騎士「どんどん近付いてるわ、逃げないと!」
兵士D「無理だ、間に合わない……」
勇者「この大岩に掴まってください。下手に動くとみんなはぐれてしまう」
女魔法使い「よくあることなのかぃ?」
兵士D「いや、これほど巨大な砂嵐は初めてです。大岩の近くで幸いでしたね、通り過ぎるのを待ちましょう」
女騎士「もぅ……砂漠きらい」
ゴゴゴゴ……
一同「?」
女僧侶「な、な、なんか今……この大岩動きませんでしたか?」ガクブル
勇者「……?」
ゴゴゴゴ……
女騎士「次は、なに?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォ!!!
兵士K「う、うわああああ! 岩じゃない!」
兵士D「この大岩……ゴーレムだ!!」
勇者「みんなっ!! 離れろっ距離を取れ!!」ダダッ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
ゴーレム「グオオオオオっ!」
兵士E「で、でけぇ……」
兵士D「くそっ! みんな戦闘陣形を」
ゴーレム「グオオッ」ブォンッ
ドオオォォン!
兵士E「うわああああ」
勇者「くっ、砂嵐が…………」
女魔法使い「来るよっ!」
ザアアアアアアアァァァァ………………………………………………
………………………………………………………………
………………………………………………………………
女騎士「キャアッ」…………………………
………………………………………………………………………………
女騎士(砂嵐に巻き込まれたっ!)………………
…………………………………………………
女騎士(くぅ……何も見えない)………………
……………………………………………………………………………………
女騎士(どうすればっ)……………………
………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………
……………………………………………………
女騎士(足場の砂が崩れる……立っていられない!)…………
…………………………………………………………………………
女騎士「きゃあああああぁぁ」…………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………
……………………………………
……………………………………
………………ザアアアァァァァ……
…………………………
ーーー南大陸・死の砂丘のどこかーーー
女騎士「ケホッケホッ……た、助かった」
女騎士「みんな……」
容赦無く降り注ぐ日差しの中、周りを見渡すが見えるのは砂、砂、砂。
女騎士「……」
女騎士「ゆうしゃぁぁ!」
女騎士「女魔法使いーーー! 女僧侶ぉ!」タタッ
女騎士「みんなぁぁ! どこなのよーー! 」
女騎士(あ、暑い……ゴーレムも兵士達も見えない)
女騎士「はぁはぁ……私、ひとり?」
女騎士(はぐれたの? それともみんな砂に生き埋めに? 私だけ助かったの?)
女騎士「くっ……暑い」
女騎士(私、助かってない。コンパスも水もない……このままじゃ死んじゃう)
女騎士「はぁはぁ」
女騎士(どうしよ、どうしよ)
女騎士(冷静にならなきゃ、冷静に……)
女騎士「すぅ……はぁ」
女騎士(ここにいたら死ぬわ。軍のキャンプへ行こう。みんなはぐれただけで、キャンプへ向かうはず)
女騎士(どっちの方へいけばいいのかしら……くっ。周りを見ても砂丘しかないわ)
女騎士(たしか北西に歩いていた……太陽の位置からしてこっち? 信じて歩くしかない)
ザッザッザッザッ……
………………
女騎士「はぁはぁ」
女騎士(いくら歩いても何も見えてこない)
女騎士(暑すぎるわ……ダメ、鎧脱ごう。荷物も捨てよう)
女騎士「ふぅ……」
ザッザッザッザッ……
………………………………
女騎士「あれ?」
女騎士(なんか近付いてくる?! 馬? 人が乗ってる!!)
女騎士「おーい!! おーぃ……ち、ちがう」
女騎士(馬じゃない……魔物に乗ってる! こんなときに敵……)
ダダッダダッダダッ!
オーク「フガフガッ」
女騎士「無駄に体力使うわけにはいかないのよ!」
オーク「フゴォォォウ」
女騎士「やぁっ!」
シュッ……スパ
オーク「フガ?」
女騎士「なんか分からないけど、あなた生理的に嫌い」
瞬殺!
オーク「ふぎゃああああ」
オークを倒した。
回復薬を手に入れた!
女騎士「やた。水分!」ゴクゴク
女騎士「ふぅ……生きかえる」
女騎士(歩くしかないわ……)
ザッザ……ザッザ……
…………………………………………
女騎士「はぁはぁ……あ……」
女騎士(何か見えるわ、オアシス?)
女騎士(よかった……あと少し)
ザッ……ザッ……
女騎士(く……視界が歪む……あと少しあと少し……)
女騎士「はぁはぁ……暑い」
ザッ…………ザッ……
お母様『騎士になりたいってどういうこと?!』
女騎士「え?」
女騎士(何? 走馬灯?……お母様……)
ザッ……ザッ……
お母様『私達上位階級は徴兵制度は免除されるのよっ! 何を言ってるの!』
少女『だから志願するの』
お母様『あなたは戦争に行く必要はないのよ……』
少女『何故貴族は戦争に参加しないの? 下位の人達だけを犠牲にしていいの?』
お母様『誰だって何かを犠牲にして生きているの……でも、あなたが犠牲になっても何も変えられないわ』
…………………………
ザッ……ザッ……
女騎士「はぁはぁ暑い……」
女騎士(お母様の反対を押し切って兵士訓練生に。訓練学校で騎士団にスカウトされ、王様の命令で勇者のパーティに入った)
女騎士(何かの犠牲だなんて思ってないけれど、私はこの世界を変えたい……)
ザッ………… ザッ…………
女騎士(まだ死ぬわけにはいかない……あと少し)
女騎士(あと少し……あと少し……あと……え?)
ザッ……ザッ……ピタリ。
女騎士(さっきまで目の前にあった……オアシスが消えた)
女騎士(まさか蜃気楼?)
女騎士(砂しか見えない……)
女騎士(まだ……しぬわけには……)
バタッ
……………………………………
ーーー南大陸・死の砂丘 オアシスーーー
女騎士「ぅぅん……」
衛生兵「お?」
女騎士「??ここは……?」
衛生兵「ここはオアシス。魔都の軍事拠点っスよー」
女騎士「私……生きてるんだ。貴方が助けてくれたんですか?」
衛生兵「ちがうっス。砂漠で倒れている貴方を勇者様が見つけて運んでくれたみたいっスよ。悪運強い」ハハ
女騎士「勇者?! 無事なの?!」ガバッ
衛生兵「え、ええ……元気でしたよ。ところでなんで砂漠のど真ん中で倒れてたんスか?」
女騎士「砂嵐で仲間とはぐれて……私も勇者パーティの一人なのよ……勇者はどこ?」
衛生兵「そうだったんスかー。勇者様は魔族の捕虜に尋問したいとかで、収容区画へ行きましたよ」
女騎士「そう……」
衛生兵「動いて大丈夫っスか? 僕案内しますよ。班長ぉちょっと案内してきまスよ」
班長「おう」
女騎士「ありがとう……」
……………………
女騎士「大きなオアシス……」
衛生兵「このキャンプオアシスに100人くらいの兵士が常駐してます。ここを拠点に各部隊が魔族討伐に行くって感じっスね」
女騎士「魔王軍の拠点は、以前奪われた塔?」
衛生兵「そうっス。すっごい高い塔っス」
女騎士(その塔を制圧。指揮官を倒して南大陸から魔王軍を追い出せば、聖剣を手に入れることが出来るわ)
衛生兵「あ、いたいた。勇者様ぁーお仲間の方が目を覚ましたっスよー」
女騎士「勇者、無事でよかったわ……」
“勇者”はくるりと振り返る。
??「あ? 」
女騎士「え?」
??「仲間? 何言ってんだ? 誰だ……てめぇ」
女騎士「え?? “勇者”は?」
西の勇者「俺様が“勇者”だ、文句あんのか」
< 第四章 戦いの価値観 >
女騎士「どういうこと?」
西の勇者「俺様の仲間は今戦士しかいねぇぞ」
戦士「…………勇者。こいつ昨日助けた女だ」
衛生兵「??あれ? 人違いっスか」
女騎士「??」
女魔法使い「彼 も “ 勇 者 ” だ よ」
女騎士「女魔法使い!!! 無事だったのね。勇者は?」
女魔法使い「私もはぐれたっきり分からない。勇者がここにいるって言うから来たんだけど…“勇者”があんただったとはね」
西の勇者「女魔法使いか……久しぶりだな。相変わらずいい身体してんじゃねぇか」
女魔法使い「どこ見てんのよ。あんた目つき悪いから見られて気分悪いんだよ」
西の勇者「てことは、おめーらが探してるのは王都の“勇者”か」
女騎士「え? 女魔法使いは、この勇者サンと知り合い?」
女魔法使い「ええ、そうよ。同じ大陸の出身。幼馴染というか昔馴染みなのさ」
女騎士「どゆこと? 勇者がふたり??」
女魔法使い「“勇者”は一人じゃない。各大陸に一人づついる……私達パーティの“勇者”は中央大陸・王都の勇者よ」
女騎士「北大陸や、東大陸にも?」
西の勇者「そーだよ。全部で5人だ。つーか、そんなことも知らねーのかよ」
女魔法使い「この子、王都の上位階級のお嬢さんだから。勘弁してやってよ」
女騎士「わ、悪かったわね。世間知らずで!」
西の勇者「なんだ箱入り娘かよ。色気のねぇしションベンくせーわけだ」
女騎士「な?! 初対面で……勇者様と言えどシツレイジャナイデスカ?」イラ
西の勇者「箱入り娘のくせに、上品さもねぇし」
ブチっ
女騎士「ちょっと西の勇者!!」
西の勇者「あ?」
女騎士「いくらなんでも失礼よ! “勇者”がそんなんでいいわけない!」プンプン
西の勇者「うっせーな。箱入り女」
女騎士「うぅ……ムカつくっ! アンタなんか“勇者”じゃないわよ、 ただのゴロツキじゃない!ゴロツキ!」ベー
女魔法使い「こいつはこーゆーやつだから。相手にするなよ」
女騎士「うぅムカつく」
西の勇者「昨日砂漠で倒れてたオメーを助けたのは、この俺様だぞ? ほれ、礼は?」
女騎士「う……アリガトウゴザイマシタ」
西の勇者「ハハッー。気にすんなよ箱入りちゃん」
女騎士(くやしいぃぃ!!)
戦士「…………勇者。早く捕虜の尋問を」
西の勇者「まあそう言うことだ。じゃあな」ハハッ
……………
女騎士「もう! なんなのあのゴロツキ勇者!」
女魔法使い「だから相手にするなって、疲れるだけ」
女騎士「あいつがこの南大陸の“勇者”なんでしょ? うちの勇者とはえらい違いね」
女勇者使い「違う……南大陸の“勇者”は、使命を放棄して逃げ出したとか」
女騎士「ほぇー……じゃ、彼は?」
女魔法使い「あいつは西大陸の“勇者”よ。私も西大陸の出身」
女騎士「え? …………西大陸って魔王軍に占領されて滅びたんじゃ……」
女魔法使い「ええ、私達は西大陸から中央大陸に逃げた“難民”なの」
女騎士「…………」
ぎゃああああぁぁぁ
女騎士「な、なに? 向こうから叫び声が」
女魔法使い「行こう!」
ーーー南大陸・オアシス キャンプ捕虜収容区画ーーー
魔族捕虜「ぎゃああああああっ」
西の勇者「オラァ! 吐けよ、死にてぇのか?!」ドガッ
戦士「…………塔の情報を言え」
魔族捕虜「はぁはぁ……」キッ
西の勇者「なんだその目は? 指もう一本いくか?」
ボキッ!
魔族捕虜「ぎゃああああああああ!」
女騎士「ちょ、ちょっと何してるのよ!」
西の勇者「あ?」
女騎士「それは尋問じゃない! 拷問よ」
西の勇者「またオメーらか。邪魔すんなよ」
魔族捕虜「殺せ……」
西の勇者「情報吐けば、すぐ殺してやるよ」ドガッ!
魔族捕虜「うぐ……」
戦士「…………塔の警備体制、指揮官、今後の作戦。全部言うんだ」グサッ
魔族捕虜「うぎゃああああああああああああ」
女騎士(これが“勇者”のやることなの? 見ていられない)
女魔法使い「あんたは見ない方がいい」
女騎士「いくら魔族相手でも、人を痛ぶることが“勇者”のやることなの?」
戦士「何言ってる? 魔族は人じゃない」
女騎士(西の勇者、戦士、女魔法使い。3人とも滅びた西の大陸出身なのね……王都の私なんかとは魔族への憎しみが違いすぎる)
魔族捕虜「殺せよ……殺せよ……うぅ」
西の勇者「早く話しちまえよ。指が全部折れたら、腕を切り落とす。すぐ回復魔法かけてやるから死ねないからな」
戦士「…………手足を全て切り落とし、回復魔法で傷を塞ぐ。ダルマにして魔王軍に返してやる」
魔族捕虜「うあああああああぁぁ。言うよ、言うから殺してくれぇ……」
西の勇者「指揮官は?」
魔族捕虜「うぅ……黒騎士様だ……」
西の勇者「塔警備の戦力はどのくらいだ?」
魔族捕虜「すべてだ。砂漠に展開していた部隊は、すべて塔に集結している」
戦士「…………敵が急に減ったのはそのせいか。何故だ?」
魔族捕虜「次の奇襲作戦の為………魔族部隊を塔の地下から地下水脈を通って、このキャンプのオアシスへ送る」
女騎士「ええ?! あ、あのオアシスから攻めてくるの?!」
女魔法使い「キャンプ内部にいきなり敵が現れたら……」
西の勇者「あっという間に全滅だな。作戦はいつだ?」
魔族捕虜「わからない。でも、もうすぐだ……」
西の勇者「そうか。情報ありがとよ……じゃあな」
ジャキン!
魔族捕虜「ああああぁぁぁ……。」
ーーー南大陸・オアシス キャンプ指令本部ーーー
兵士団長「なんとオアシスからの奇襲作戦とは……」
西の勇者「あまり時間はねぇ。てめぇらが捕虜からしっかり情報を聞き出せなかったせいだ」
女騎士「すぐに拠点を移動させるべきです」
兵士団長「そうだな。すべての部隊に伝令を送る。準備が出来次第移動だ」
西の勇者「いや、その必要はねぇ」
女魔法使い「なにか作戦?」
西の勇者「ああ。塔の地下からオアシスに攻められるなら、逆も出来る。オアシスから地下を通って塔を攻める」
戦士「なるほど……逆に奇襲するんだな」
西の勇者「だか時間がねぇ、こちらから仕掛けなければ。すぐ行くぞ」
女騎士「なんの情報もない! ムチャよ……地下についての情報はないの?」
兵士団長「この死の砂丘の何処かに、巨大な地下空洞があると聞いたことはあるが……まさか、この真下に??」
西の勇者「ふん」
兵士団長「我が軍の精鋭部隊も同行させましょう」
女騎士「私達も行くわ」
西の勇者「どーなってもしらねぇぞ」
女魔法使い「私はパス」
西の勇者「ああ? なんでだよ?」
女魔法使い「私はあんた嫌いだから」
西の勇者「ハハッ! ツレねぇな。同じ西大陸出身だろ? 手を組もうぜ」
女魔法使い「あんたは……誰とも組む気なんてないだろ。とにかく私はいかない」
女騎士「女魔法使い……」
女魔法使い「私はこのキャンプを守るわ。勇者や女僧侶が来るかもしれない」
女騎士「うん、わかったわ」
勇者、女僧侶の安否は不明。
西の勇者、戦士、女騎士と兵士部隊数名は、空気草を咥えオアシスを潜り、地下空洞へ……。
塔への奇襲作戦を開始する。
ーーー地下大空洞・地底湖ーーー
女騎士「ぷはぁっ!」チャプン……
西の勇者「ふぅ……」
ザブーン
ザブーン……次々と地底湖の水面に出る兵士達。
戦士「…………っ」
衛生兵「ぷっはぁー……地底湖ッスか……。 砂漠の下にこんな広い空間があったなんてビックリっス」
女騎士「あれ? あんたも来たの?」
衛生兵「好きで来たわけじゃ……上官の命令には逆らえないっスよ」
…………
兵士X「地底なのに薄暗いが光がある……?」
兵士Z「壁と天井が光ってんだよな? 光石でも採れるのかもな」
女騎士「なんて広さ……洞窟みたいなものかと思ってたけど、そんなレベルじゃない……」
兵士P「地下は涼しくていいな」
戦士「…………お前ら黙って歩けないのか」
兵士Z「おい! あれは…」
西の勇者「敵のキャンプだな、オメーら気付かれないよう近づくぞ」
ーーー地下大空洞・魔王軍キャンプーーー
女騎士「魔族が3人……魔族兵はいないみたいね」
西の勇者「俺様と戦士で右の二人を殺る。オメーは左の寝ている奴を頼んだぞ」
女騎士「ちょ、ちょっと西の勇者っ!」
西の勇者「行くぞっ」サッ
戦士「……」サッ
女騎士(は、早い。くっ……)サッ
勇者「うらぁっ」ザンッ
戦士「……ふんっ」ズバッ
魔族「ぎゃあああ」
魔族「があぁぁ……」
魔族「zzz……うん?! な、なんだ?!」
シャキ
女騎士「動かないで」
魔族「うああああ! に、ニンゲン!? 」
女騎士「貴方を拘束します」
西の勇者「何やってる?! 早く殺せっ!」
戦士「……チッ」
魔族「俺はただの伝令兵だ。殺さないでくれっ」
女騎士「大人しくしていれば……」
西の勇者「フヌケがぁッ! オラッ!」
ジャキンッ
魔族「ぐああぁぁ…………」バタッ
魔族を倒した。
女騎士「ちょっと! 西の勇者っ!」
西の勇者「ああ?」
女騎士「この魔族は武器を持ってないし、戦闘兵じゃないっ! 」
西の勇者「だからなんだよ?」
女騎士「殺さなくてもよかった!」
西の勇者「は? オメー何言ってんだ?」
女騎士「無抵抗な相手に剣を向けるのは騎士道に反する、人道的とは言えないわ」
西の勇者「じゃあ何か? 挨拶でもすりゃよかったのか? ハハッ」
女騎士「殺す必要なかった! 私達人間は魔物じゃない 。意思ある生き物よ、魔族に脅かされる人間的な生活を守る為の戦争でしょ?」
西の勇者「あ?」
女騎士「その戦争で非人道的な行いは、自ら人間としての尊厳を……」
西の勇者「うっせーな。奴らはどう見ても魔族だ。肌の色を見ればわかるだろ? 無抵抗だろうが敵だ」
戦士「…………。奴らは人間にとって害虫だ。駆除するのに理由はいらない」
女騎士「魔族にも意思があるわ! 虫とは違う」
西の勇者「話し合いで収まる戦争じゃねぇ。その時点で奴らの意思は関係ねぇだよ」
戦士「……この魔族が戦闘兵かどうかは見ただけではわからん」
西の勇者「魔族は女子供だろうと皆殺しだ。それしか戦争終わらせられねぇよ」
女騎士(そんな……勇者は、王都の勇者ならそんなことしない!)
衛生兵「まぁまぁ……味方同士で言い争ってもいいことないっスよ」
女騎士「みんなはどう思ってるのよ?」
兵士Z「俺達は……」
シュッ…………ドスッ
何処からか飛んできたナイフが兵士Zの喉に突き刺さる。
兵士Z「??………………くはぁ」バタッ
西の勇者・女騎士「な?!」
兵士Y「Zぉぉっ!!」
衛生兵「て、手当てを」
西の勇者「敵だっ!」
戦士「どこだ?!」
魔族道化師「うひゃひゃひゃ。めいちゅー」
兵士P「上位魔族……」
西の勇者「くらえっっ!!」ゴォオ!
西の勇者は火炎魔法を放った!
魔族道化師「うひゃひゃひゃ、当たらんよー」シュッ
女騎士「早いっ」
魔族道化師「うひゃひゃひゃひゃひゃ」
兵士Y「よくもっ! 仲間をぉぉぉ!! やあっ!」
魔族道化師「遅っ! ほぃ」シュパッ
兵士Y「ぐああぁぁ……」バタッ
魔族道化師「怒ったヤツ殺すのサイコーっ! うひゃうひゃ」
女騎士(この魔族つよいっ)
戦士「……ふん!」キンッ
魔族道化師「うひゃ」
戦士「…………何がおかしい?」
魔族道化師「オマエいい眼をしている」
戦士「……?」
魔族道化師「同じじゃん。うひゃひゃひゃ」
西の勇者「はあああああああっ!」
西の勇者は爆炎魔法を放った!
ドドドドォッ! ドドドドォッ! ドドドドォッ!
女騎士「きゃあああ」
兵士P「おわぁぁ」
女騎士(西の勇者の広範囲破壊魔法っ……みんな巻き添いにする気?!)
魔族道化師「うひゃっ当たらんよー! 次はオマエだ」シュッ
兵士P「ぎゃぁぁああ……」
魔族道化師「三匹目。うっひゃ」
西の勇者「うらぁっ!!」
戦士「はっ!」
女騎士「たぁぁっ!」
魔族道化師「うわわわわっ」
戦士「くっ……ちょこまかとっ! 」
女騎士「逃がさないわっ!」
西の勇者「ふん、取り囲んだぜ。ゆっくり切り刻んでやる」
魔族道化師「オイラ……ひょっとしてピンチ? うひゃ殺し合い楽しいなぁ」
女騎士「こいつ……」
衛生兵「うわああああ、離せっ」
????「あは☆ ピエロちゃんやばぃじゃん。キミ達動いたら、この衛生兵クン殺しちゃぅよ?」
西の勇者「新手か、女魔族……」
女騎士「衛生兵!」
魔族道化師「女魔剣士……。うひゃひゃひゃ邪魔すんな」
女魔剣士「えー☆ 助けに来たのに、それはなぃんじゃない?」
衛生兵「く、離せぇ……みんな僕に構うことないっス」
女騎士(人質……どうしよ)
西の勇者「…………」ニヤ
スタ……スタ……
女魔剣士「動くなってぇ~! 本当にこいつ殺しちゃうぞ☆」
スタ……スタ……
西の勇者「やれよ」
女魔剣士「はぁ? 殺すって言ってんだょ?」
西の勇者「しらねーよ。ハハッ」
女騎士「ちょっと!ゴロツキ勇者っ!」
女魔剣士「!……ゆ、勇者?☆」
西の勇者「っ!!!」ダダダッ
ズバッ
女魔剣士「きゃあぁ!」
衛生兵「うああああああっ」
女騎士(えええ! 西の勇者が人質ごと攻撃……そんな無茶苦茶な……)
女魔剣士「いったーぃ!」
西の勇者「殺す……」
女魔剣士「いてて☆ ピエロちゃん帰ろ! 黒騎士様にドヤされるよっ!」
魔族道化師「うひゃひゃひゃ……オマエ強いなぁまた遊ぼうね」
シュウゥゥ
魔族道化師と女魔剣士は黒い煙とともに消えた。
西の勇者「チッ……転移魔法か」
女騎士「衛生兵っ! 大丈夫?」
衛生兵「くぁ……今魔法で回復してます。はぁはぁ……」
女騎士「ちょっとゴロツキ勇者っ!!」
西の勇者「あ?」
女騎士「仲間ごと攻撃するなんてなに考えてるの? あの魔法だって、あやうく巻き添いになるところだった!」
西の勇者「知るか」
女騎士「ふざけないで!!」
西の勇者「ふざけてねぇよ。じゃあこの雑魚兵士の為に、俺様が死んだ方が世界の為だってのか?」
女騎士「仲間は助け合うものよ。貴方一人で魔王を倒せると思ってるの?」
西の勇者「足手まといなら、いねー方がマシだ」
女騎士「それでも“勇者”なの?」
西の勇者「ああ、魔族を殺す。これが俺様の“勇者”としての役割なんだよ」
戦士「…………戦いに犠牲は付き物だ。先を急がないと」
西の勇者「俺たちの奇襲がバレたはずだ。防御体制が整う前に攻めこまねぇと」
女騎士「まだ衛生兵の治療が済んでないわ! 回復魔法使えるんでしょ? 手伝ってよ、貴方がやったんじゃない!」
西の勇者「雑魚の為に魔力使えるか。こいつ回復しても役にたたねぇよ。行くぞ戦士」
戦士「…………ふん」
スタタタタ……西の勇者と戦士は走り去っていった。
女騎士「なんてやつ……ついていけない」
衛生兵「申し訳ないっス……少し時間もらえば回復は自分で出来るっス。それより…………みんなのタグを」
女騎士(みんな………さっきまで普通に話してたのに。あっさり戦死してしまった)
衛生兵「うぅ……」
女騎士(やられた兵士仲間も弔うことも出来ない……これが戦場なのね)
女騎士は亡骸の身なりを整える。
衛生兵「勇者様の考えは……間違ってないッス。足手まといになるくらいなら死んだ方がマシ……」
女騎士「……」
衛生兵「みんな同じ気持ちのはず」
女騎士(死んでしまった彼らにもう聞くことはできないわ)
衛生兵「さぁ回復は終わったっス。勇者様の後を追いましょ」
女騎士と衛生兵は、先に行ってしまった西の勇者を追いかける。
< 第五章 戦争に必要なもの >
地下とは思えないほどの広い大地を、しばらく歩くと塔が見えてくる。
衛生兵「塔っスよ!天上に突き刺さってる」
女騎士「ねぇ? さっきから魔族兵の死体がそこら中にあるわ」
衛生兵「先に行った勇者様達が倒してるんスね。マジでケタ違いの強さ……」
ーーー地下大空洞・塔B24地下入口ーーー
女騎士「入るわよ……」
ギィ……塔の扉を開ける
衛生兵「う」
女騎士(部屋一面に魔族兵の死体……)
衛生兵「い、行きましょう」
女騎士(戦争してるんだ。人間の平和を守る為には仕方ないんだ)
瀕死の魔族C「うぅ……死にたくなぃ」
女騎士「!」
衛生兵「女騎士さん!立ち止まらないでくださいっ!」
女騎士(くっ……私達が攻め込んでいるのよ。情けは無用)
瀕死の魔族V「いてぇよ……」
衛生兵「このまま塔を登れば地上の砂漠に出られるッス」
惨劇の塔。
二人の走る音と瀕死の魔族達のうめき声が聞こえる。
瀕死の魔族兵R「うぅ……」
タタタタ……
瀕死の魔族兵G「腕が……腕が……」
瀕死の魔族兵K「あぁ……ぁぁ……」
瀕死の魔族兵C「タスケテ」
タタタタ……
女騎士(これが戦争。残虐で非道……人間と魔族は100年近くもこんなことを続けてきたの?)
ーーー南大陸 塔F1地上入口のロビーーー
西の勇者「死ねぇ!死ね死ね死ね死ねぇええっ!」
魔族兵1「うああああ!」
魔族兵2「ぎゃあああぁ」
魔族兵3「ぐあああああ」
バタ………バタ……バタ………
魔族兵4「う、うわぁ強過ぎるっ、みんな引けっ」
戦士「…………逃がさん」ジャキーンッ!
魔族兵4「がぁぁぁ……」
西の勇者「死ね死ねぇぇ!ハハッ!」
魔族兵5「うわぁぁ」
女騎士「いた! ゴロツキ勇者……追い付いた。でも」
女騎士(あまりに一方的。加勢の必要がないわ……)
衛生兵「勇者様っ!」
西の勇者「ん? なんだオメーら来たのか。帰ったのかと思ったぜ」
戦士「…………手助けは必要ないがな」
女騎士「…………」
西の勇者「ハハハッオメーなんて顔してんだ。箱入り娘ちゃんには、この死体の山は刺激つえーだろ?」
女騎士「これが戦争なのね」
西の勇者「勇者パーティってのは、誰よりも死体の山を作らなきゃならねぇんだぞ」
女騎士「わかってるわ」
西の勇者「いやわかってねー。戸惑ってだろ? 迷ってんだろ? これでいいのかって思ってんだろ?!」
女騎士「…………ま、迷うわよ……殺すことに迷わないなんて! そっちの方がどうかしてるっ!」
西の勇者「ダメだ。迷うな、躊躇わず殺せ」
女騎士「くっ、そんなの狂ってる」
西の勇者「じゃなきゃ死ぬぞ」
女騎士「……」
西の勇者「俺らが狂ってたっていいじゃねぇか。戦わない普通の人間が平和に暮らせるなら、いくらでも狂って殺しまくってやるよ」
女騎士「ゴロツキ勇者……」
女騎士(そうよ、魔族を殺すのは騎士になった時からわかってた。何を今更言ってるの私は。覚悟がなかった…)
西の勇者「ふん」
女騎士「ごめんなさい、私がどうかしてたわ」
西の勇者「どんなに迷ったってよ、結局は……『運命に身を任せる』しかねぇんだ。ハハハッ」
こんな未熟なスレなのに、レスありがとうございます。本当に勉強になります。
西の勇者「ま、俺様は殺したいから殺すだけだけどな」
……
???「外道が………」
女騎士「!」
魔族道化師「うひゃひゃひゃ。死体死体死体」
女魔剣士「あは☆黒騎士様の登場ぉー♩」
戦士「…………親玉登場か」
女騎士(こいつが指揮官っ!)
黒騎士「“勇者”ってのは快楽殺人鬼なのか。大義もなく剣を持つなど魔物と変わらん。私が斬る」
西の勇者「指揮官出てくるのは早ぇーじゃねぇか? 塔の最上階だろ。普通」ニヤニヤ
黒騎士「貴様の強さはよく分かった。これ以上部下の命を失う訳にはいかん」
女魔剣士「キャ☆ 黒騎士さま~かっくいい」
西の勇者「ふん。安心しろ、お前を殺してから全員殺す!」
魔族道化師「うひゃひゃひゃ、怖っ」
衛生兵「あいつ…」
黒騎士「殺人鬼め!ゆるさん」
西の勇者「黒騎士さんよ…俺様が殺人鬼ってんなら、お前ら魔族は違うとでもいうのか?」
黒騎士「私には大義がある。個人的な感情で戦っているわけではない!」
西の勇者「戦争の大義だと? ハハハッ笑わせるんじゃねぇよ」
黒騎士「この戦争の意味すら忘れてしまったのか人間ども」
西の勇者「あ?」
黒騎士「100年前魔界へのゲートを開き、先に侵略してきたのは人間、お前らだ」
女騎士(!!! そうなの?!)
女魔剣士「戦争を始めたくせに~負けそうなった人間どもはゲートを閉じちゃうんだもん。魔界に帰れなくなったうちら魔族は、人間と戦うしかないんだよん☆」
西の勇者「大義ね。そんなもの価値観や考え方の違いじゃねぇか」
黒騎士「人間がゲートを開かなければ戦争は起こらなかったのだぞ」
西の勇者「ふん。なんだ? ゲートを開けて戦争始めたから人間が悪いってか? 」
西の勇者「ハッ! 俺様は人間だかゲートのことも、戦争始めたヤツのことも知らねぇ」
女騎士(100年も前のこと知ってる人の方か少ないわ……)
西の勇者「何にも知らねぇし関係ねぇけど同じ人間だからぶっ殺す。ってのが、お前ら魔族の大義なのか」
黒騎士「……無知とは罪なのだよ」
西の勇者「だから知ってたとしても、俺様がゲート開けたわけじゃねぇ」
黒騎士「やはり話し合いは意味がないな。貴様を斬るっ!」
西の勇者「それでいい。殺し合いに理由なんていらねぇ!」
黒騎士「行くぞっ!」
女魔剣士「あは☆」
魔族道化師「うひゃひゃひゃ殺し合い!」
西の勇者「コ ロ スッ!」
女騎士「負けないっ」
戦士「……」
衛生兵(僕は援護ッス)
…………
ガッ
キィィィン!!
人間と魔族が戦う。
100年続く戦いは終わらない。
< 第六章 勇者達 >
ザアアアアァァァァ………………………………
死の砂丘の巨大砂嵐が塔を包み込む。
ーーー南大陸 死の砂丘・塔ーーー
キンッ! キンッ!
ドォォォン!
…………
西の勇者は爆炎魔法を放った!
ドォォォォオオオンッ!!!
黒騎士「くっ」
女魔剣士「きゃあっ」
魔族道化師「うびゃ」
西の勇者「ハッハーっ!」
黒騎士「く……つよい」
魔族道化師「うひゃーまたピンチ」
女魔剣士「あぅ……☆ 負けそぅじゃん」
女騎士(いけるっ! ゴロツキの強さが半端じゃないわ)
衛生兵「みんなっ回復するっス!」キュイィン!
衛生兵は全体回復魔法を放った!
戦士「…………ふん。役にたったな」
黒騎士「く……」
西の勇者「もうちょい頑張れって、歯ごたえねぇな」
黒騎士「……道化師と魔剣士よ……」
女魔剣士「はぃ☆」
魔族道化師「ひゃ?」
黒騎士「逃げろ………お前たちまで死ぬことはない」
西の勇者「はぁ? 逃がさねぇよ」
黒騎士「はああぁっ!」ボオオオオッ!
黒騎士は暗黒魔法を放った!
西の勇者「うおっ」
黒騎士「はああっ! 私がこいつを食い止めるっ早くっ!」
女魔剣士「そんなぁ黒騎士様をおぃて逃げれないょ……」
魔族道化師「オイラはお先に失礼。うひゃひゃひゃ」ダダダッ
西の勇者「戦士っ! ヤツを追ってくれ」
戦士「承知した」ダダダッ
黒騎士「女魔剣士っ命令だ! 早くっ魔王様に伝えるのだ! 」
女魔剣士「……っ。うぅ、はぃ☆」ダダダッ
女騎士「逃がさないわっ!」ダダダッ
……
女騎士は女魔剣士を追いかけ、塔を登って行く…
ーーー南大陸 塔最上階ーーー
女騎士「はぁはぁ……追い詰めたわ」
女魔剣士「くぅ……しつこぃぃ」
女騎士「外は砂嵐。逃げられないわ」
女魔剣士「あんた一人なら負けなぃよーだ☆行くよ!」
女騎士「転移魔法使わないってことは魔力も尽きてるんでしょ」
女魔剣士「はいやっ☆」ブンッ
女騎士「っ……」ス……
キンッ
女騎士「やあっ!」
ズバッ
女魔剣士に会心の一撃!
女魔剣士「きゃああああ」
女騎士「終わりよ………」
ス……
女騎士(やらなきゃ……やられる)
女騎士「やああああああああっ」
シュゥゥイン!!
剣を振り下ろした瞬間、あたりに眩い光に包まれ一人の男が現れる。
女騎士・女魔剣士「?!?!」
勇者「女騎士さん、待ってください」
女騎士「ゆ、勇者?!」
女魔剣士「????」
勇者「久しぶりですね」
女騎士「て、転移魔法?? どうしてここへ…? どこにいたのよ?」
勇者「ハハ。質問多いです。転移魔法陣で飛んで来ました」
女魔剣士(あは☆ なんか分かんなぃけど今のうちに屋上へ!)ダダダッ
女騎士「あ! 逃がさないわ!」
勇者「待ってください! 彼女を行かせてくださいっ」
女騎士「なんでよ?! 魔族を倒すの! やられる前にやらなきゃいけないのよ!」
勇者「彼女はいいんです……逃がしてください」
女騎士「だから、どうしてよ? 私は決めたの。もう迷わないわ」
勇者「…………理由は言えません。何も聞かずに彼女を逃がしてください」
女騎士「?……納得できないわ。どいて。どのみち屋上じゃ逃げれない」
女騎士は勇者を押しのけて屋上へ……勇者もその後に続く。
ーーー南大陸 塔 屋上ーーー
ビュゥゥゥ……
女騎士「屋上は砂嵐より高いところなのね……」
勇者「女魔剣士はいないですね」ホッ
女騎士「な、なにあれ……」
砂嵐に包まれた塔の屋上からの景色は、足元に茶色い雲海が広がり地上の砂漠は見えない。
その砂嵐の上には、いくつもの島のような大地が浮いている。
勇者「あれは空大陸です」
女騎士「あの巨大な砂嵐の上には……大陸が浮いていたの?」
勇者「そうです。女魔剣士はあそこへ逃げたようですね……」
女騎士「砂嵐が遠ざかって行くわ」
勇者「とりあえず、塔奪還の任務は完了ですね」
女騎士「………」ジッ
勇者「?」
女騎士「……無事でよかった……心配したんだから」プイッ
勇者「お……ふふ」ニタァ
女騎士「な、なによ?」
勇者「心配してくれたんですね♪ なんか嬉しい」
女騎士「す、するわよ。“勇者”が死んじゃ困るからね」アセ
勇者「女騎士さんも無事でよかった。パーティがバラバラになったのは僕の責任。すみませんでした」
女騎士「貴方はなんでも自分のせいにするのね」
勇者「それがリーダーというものですよ」
女騎士「空大陸ってなんなの?」
勇者「あまり分かっていませんが、魔王軍の拠点があると思われます。この塔は地底、地上、空大陸を繋ぐジャンクションですね」
女騎士「あの女魔剣士は何者なの? なぜ見逃したの?」
勇者「それは言えません。とりあえず、オアシスにある軍のキャンプに戻りましょう」
女騎士「…………これで聖剣がもらえるってことかしら」
ーーー南大陸 死の砂丘・オアシスキャンプーーー
女魔法使い「ああああっ! 勇者に女騎士っ! 無事だったっ……よかった」
勇者「心配かけてすみません」ニコッ
女僧侶「ゆうしゃさまぁぁ」ウルウル
女騎士「女僧侶っ! 貴方も無事だったのね……よかったぁ」ホッ
女魔法使い「女騎士が作戦に出てすぐ合流できたんだ」
女僧侶「勇者様何処で何をしていたのですかぁ?」
勇者「ちょっと人助けを」アハハ
女魔法使い「相変わらずってわけね」フフ
女騎士「これで……」
勇者「王都の“勇者”パーティ再結成ですね」
女僧侶「はぃっ!」
女魔法使い「だね」
女騎士「うん」
女魔法使い「私は他のパーティに浮気してないぞ♪」ジッ……ニヤニヤ
女騎士「わ、私だって、別にパーティ組んだわけじゃないわ。ちょっと手を貸しただけ」
ザザッ……
西の勇者「……」
女騎士「ゴロツキ勇者。貴方も無事でなにより……」
西の勇者「ふん」スタスタ……
勇者「やぁ西の勇者」ニコッ
西の勇者「久しぶりだな。相変わらずイケスカねぇな」
勇者「“勇者会議”以来ですね」
西の勇者「女はべらしていい気なもんだ」
戦士「……」
勇者「あ、あはは……ひとつ報告しておいた方がいいことが」
西の勇者「あ?」
勇者は近づくと西の勇者に耳打ちする。
女騎士(なんなの、この二人)
勇者「……」コソコソ
西の勇者「な、なんだと?! 彼女が?!」
勇者「うん」コクリ
西の勇者「チッ……全然気づかなかったぜ。変わってねぇのは俺らだけか」
勇者「僕らはこれから“東の勇者”と合流します。一緒にどうですか?」
西の勇者「俺らはあのピエロ魔族に逃げられたままだ。追いかけるわ」
戦士「……くっ」
勇者「わかりました。ご武運を」
西の勇者「ケッ運なんかに頼らねぇよ。じゃあな」
スタスタスタスタ……
西の勇者と戦士は去って行った。
女騎士「…………。」
女魔法使い「…………?」
女僧侶「…………」オドオド
勇者「さてと……」
女騎士「ちょっと勇者!」
勇者「はい?」
女騎士「いろいろ全然わかんないんだけど!」
勇者「?……西の勇者とは友達です。お互いに切磋琢磨して魔王討伐を目指してますよ」
女騎士「なんかコソコソ話しちゃってさー」
女僧侶「まぁいいじゃないですか。勇者様が私達に知るべき話じゃないって判断したのですわ」
女魔法使い「男同士じゃないと言えないこともあるさ」
勇者「あ、あはは」
女騎士「むぅ…………(勇者会議って何よ~)」
女魔法使い「これからの予定は? 東の勇者と合流って?」
勇者「あ、そうなんです。あの空大陸の魔王軍をどうにかしないと、聖剣貰えませんですし。東の勇者に情報を提供してもらおうかと」
女騎士「情報?」
勇者「はい。彼はこの世界のこと何でも知ってますからね」
女僧侶「どちらへいくのですか?」
勇者「行くというか………迎えに来てもらう手筈なんですよ」
ヒュンヒュンヒュン……
女騎士「なんの音かしら??」
勇者「お、きた」
女僧侶「ひぃぃぃっ! そ、空からなんか来ますわ」アセアセ
女騎士「ふ、船? 飛んでるの?!」
ヒュンヒュン……
勇者「飛空船です」
ゴーッと音と砂煙を上げて、飛空船は勇者達の前に着陸する。
無数のプロペラが付いてる以外は普通の中型船だ。船体の横にある扉が開き、女性が降りてくる。
メイド「王都の勇者様、お迎えが遅くなりまして申し訳ありません」
勇者「いえ、時間通りですよ。こちらが僕のパーティです」
女僧侶「か、彼女が東の勇者様ですか?」
勇者「はは、まさか。彼女は東の勇者に仕えるメイドです」
メイド「東大陸、古都のメイドでございます」
女魔法使い「東の勇者……どんな王子様なのかしら♪」デヘヘ
女騎士「何処の勇者も変なのばっかりじゃないのー?」ブツブツ……
メイド「どうぞ飛空船へ。ここは暑いですから」ニコッ
スタスタ……
一同、飛空船へ。
女騎士「あれ?? 何もない、誰もいないわ」
勇者「よく見てください。魔法陣です」
女魔法使い「これは……転移魔法陣ね。東の勇者は?」
メイド「彼は東大陸の古都にいます。この転移魔法陣は彼の城の前に繋がってます」
女騎士(中央大陸は王都。南大陸の魔都。東大陸の都は“古都”かぁ)
勇者「さぁ行きましょう」
ーーー東大陸 古都・東の勇者の城前ーーー
女騎士「あ、あっという間に東大陸………」
女僧侶「涼しいですわぁ」
メイド「こちらへ」
スタスタ……
勇者「こんないきなり大勢で尋ねて大丈夫ですかね?」
メイド「はい。私がワガママ言わせませんよ」
勇者「はは、厳しいメイドさんだ。おっとここだ」
女魔法使い「え? ここ? こんなボロいお城に住んでるのかい?」
勇者「そうですよ」
女魔法使い(……メイドがいるくらいだから、すごいお城かと思ったのに)
ーーー東大陸 古都・東の勇者自室前ーーー
トントン……
メイド「東の勇者様、王都の勇者様ご一行をお連れしました。扉を開けてもよろしいでしょうか?」
自室の扉の奥でゴソゴソと物音がすると、扉越しに返事が来る。
東の勇者「み、みみみ、みんないるの?」
メイド「勇者様と女騎士様、女魔法使い様、女僧侶様の4人です」
東の勇者「じょじょじょ女性がいっぱい……ムリムリムリムリ」
メイド「ムリじゃありません。開けますよ」
ガチャ……
勇者「やあ、東の勇者」ニコッ
東の勇者「ぉぅ……」チラッ
女騎士「ど、どうも始めまして」ニコッ
女僧侶「東大陸の勇者様、お会い出来て光栄です」
女魔法使い「…………貴方が勇者?」
東の勇者「そ、そ、えっと、そうだよ。ぼ、ぼぽボクが“勇者”です」ビクビク
< 第七章 選べない選択 >
東の勇者「あ、いや……えっと」オドオド
女騎士(この人が“勇者”?? 変なクマのぬいぐるみ持ってるし、髪はボサボサだし、服はヨレヨレだし、ただのニートにしか見えないわ)
女魔法使い「うそでしょ? こんなニートみたいな人が“勇者”な訳ないでしょ」
女僧侶「ひぃっ……そんなハッキリ言わなくても」
東の勇者「あ、え、えっと……」
勇者「こう見えても彼は凄いんですよ。どんなことでも知ってます」
女魔法使い「本当に??」ジィ……
東の勇者「え、えっと、あの……あなた達のことは、し、調べたよ」
女騎士「私達のことって?」
東の勇者「ああああ、あの、女騎士さんは中央大陸・王都の聖宮街出身。えっと……上位貴族でアカデミー卒業後、兵士訓練学校へ。お、お王都騎士団にスカウトされ、王の命令で“勇者”パーティに。」
女騎士「……」
東の勇者「ご両親は健在だけど、訓練兵になる時に家を飛び出し、現在まで一度も会っていない。あ、えっと……あと……王都での剣技最上の称号を持ってます」
女騎士(あたってるわ)
東の勇者「ちなみにスリーサイズは上から86、57、80」
女騎士「ちょっ!!えええぇ……」\\\
勇者「!……ほぉ」
女騎士「むぅ」ジロッ
勇者「うっ」アセアセ
東の勇者「……えと……お女魔法使いさんは」
女魔法使い「私のことも?」
東の勇者「あ、はい、え、えと……西大陸・帝都の下位の出身。……帝都が魔族に落ちた時に中央大陸に難民として移住。そのときに両親は難民権を得られず亡くなってます」
女魔法使い「……」
東の勇者「王都に移住後、幼馴染である西の勇者と世界を転々とし、その後現在所属する王都の“勇者”パーティに移籍。スリーサイズは92、62、89」
女騎士(女魔法使いとゴロツキ勇者は、昔パーティを組んでいたのね……)
東の勇者「あ、ああああと……女僧侶さんは北大陸・聖都の修道院出身。王都の教会に……」
女僧侶「あっ!あ、わ、私はいいですわ!」
東の勇者「あ、あそう? あなた達のことで分かったのはこのくらい」
女魔法使い「どうやって調べたんだい? 大変だったでしょ?」
東の勇者「クヒヒ……か、簡単だよ、ボクはこの城から出ていないもん」
勇者「彼は引きこもりなんですよ。だから家からでない“勇者”なんです。あはは」
東の勇者「さ、さ最後に外に出たのは……勇者会議の時だ」
女騎士「じゃぁどうやって調べたの?」
東の勇者「え、えっと、あの……こっちへ……」
奥の部屋へ案内されると、そこには大きなクリスタルがある。
女僧侶「すごい……こんな大きなクリスタルみたことないですわ」
女魔法使い「まさかこれを媒介にして……?」
女騎士「どういうこと?」
女魔法使い「占い師が水晶で、知り得ないことを占うだろ? それと同じことをこの巨大なクリスタルで」
東の勇者「クヒヒ……そういうこと。で、でもこれは占いなんて不確実な物じゃないよ」
勇者「ほぼすべての人間を占うことが出来ます。この間みんなとはぐれた後、僕は彼に助けられ、ここでみんなを見てました」
東の勇者「えっと……に人間だけ。魔族のことは見れないんだけどね」オド……
勇者「空大陸のことはわかりましたか?」
東の勇者「あ、あ、うん……元々は遺跡があったものの、ずっと人は住んでいなかったみたい。魔王軍に塔を奪われたときに、魔族達が空大陸を発見」
女魔法使い「あの地下世界も空大陸も塔の遺跡も、古代の産物ってわけか」
東の勇者「人間にあまり知られていなかったから、魔族達は空大陸に軍事基地を作ったようだね」
ペラ……
東の勇者「こ、これに空大陸の魔王軍施設の見取り図、警備体制が書いといたよ……。弾薬庫、火薬庫、武器庫の場所もわかったから、飛空船の砲撃で一掃できる」
勇者「“彼女”はまだ空大陸に?」
東の勇者「うん。生きてるよ」
女騎士(彼女って、あの魔族の女魔剣士のことよね……)
勇者「助けよう」
東の勇者「クヒヒ……なな何でも助ける。それが王都の“勇者”……だよね。でも魔族だよ」
勇者「魔族……か」
女魔法使い「……」
女僧侶「……?」
勇者「あ、すみません。……では、これから飛空船に戻り空大陸へ向かいます。僕一人で上陸し、“ある人”を回収します」
女騎士「一人でって……私達も行くわ!」
勇者「あ、一人で戦う訳じゃないですよ。みんなには飛空船から砲撃で援護してもらいたいんです。ある人を回収したら、飛空船に戻ります。その後武器庫に砲撃し、空大陸を制圧します」
女魔法使い「回収対象って……?」
勇者「すみません……今は言えない。彼女の覚悟を無駄にしてしまう」
女魔法使い「…………うん」(なんとなく分かったかも)
女騎士・女僧侶(??)
勇者「東の勇者、また飛空船をお借りしますよ」
東の勇者「あ、え、うん。メイドさん、また操縦お願いね」
メイド「かしこまりました」
勇者「行きましょう」
東の勇者「あ、あの……」オドオド
女騎士「うん? わ、わたし? 何?」
東の勇者「え、あの、えと……」アセアセ
女騎士(こんな“勇者”じゃ、外に出られても誰もついていかないわね)
東の勇者「ぼ、ボクは外にで出れないので、ので、こ、これを……」
スッ……
女騎士「え?……クマのぬいぐるみ?」
女僧侶「……」(可愛いぬいぐるみ……)
女魔法使い「……」(キモ……)
女騎士「あ、ありがとう……」
メイド「参りましょう」
ーーー南大陸 上空・飛空船内ーーー
メイド「間も無く空大陸です」
勇者「よし、予定通りのポイントで降ろしてください。僕が降りたらすぐ離陸して、空から援護をお願いします」
女僧侶「お一人で大丈夫ですか?」
勇者「はい、敵は沢山でしょうけど殲滅が目的ではないので、一気に駆け抜けて目標の女魔剣士を連れて帰ります」
女騎士(女魔剣士ね……)
勇者「女騎士は援護砲撃をお願いします。女魔法使いと女僧侶は飛空船の護衛を」
女騎士「わかったわ」
女魔法使い「了解」
女僧侶「かしこまりましたっ」
勇者「女騎士さん……この見取り図を見てください」
女騎士「なに?」
勇者「武器庫・弾薬庫はここです」
女騎士「うん」
勇者「もし……この赤い発煙筒の煙が見えたら作戦失敗。僕は戻りません。武器庫を砲撃して基地ごと吹き飛ばしてください」
女騎士「……え?」
勇者「いや、万が一の話です。一応……」
メイド「この飛空船は間も無く雲を出ます。すぐ空大陸に到着し、敵に気付かれるはずです。ご準備を!」
勇者「よし、やるぞっ!」
ーーー空大陸 魔王軍基地ーーー
ヒュンヒュン……ヒュンヒュン……
ゴォォォ……飛空船は予定の場所に着陸する。
勇者「いってきます!」
女魔法使い「死ぬなよっ!」
女僧侶「どうかご無事で……」
勇者「はい」
女騎士「援護はまかせて……」
勇者はコクリと頷くと軍事基地に向かって走り出した。
メイド「では、飛空船離陸します!」
ヒュンヒュン……ゴォォォ!
女騎士(私は砲台の台座へ)
メイド「さっそく来ました! 前方からモンスター群多数!」
女魔法使い「私達の出番だな、いくよ女僧侶」
女僧侶「はいっ」
女騎士(デッキの敵は二人に任せて、私は勇者を)
ヒュンヒュン……
女騎士(勇者は…………もう敵に囲まれてるわ?! 砲撃で道を切り開く)
女騎士「やぁ!」
ドッドッドッドッ!!!!
女騎士(よし! 勇者が進んだ!)
メイド「上空にドラゴン出現!」
女騎士「ええぇ?!」
女騎士(くっ……なんて敵の数なの。とても勇者一人じゃ進めないわ)
ドッドッドッドッ!!!
女騎士(よし)
ドォォォン!
女騎士「きゃああああっ」フラ……
グラグラッ……
メイド「ドラゴンの攻撃が船体に被弾しました! 一旦距離を取ります!」
女騎士「ちょっ……離れたら勇者に援護できないわ!」
メイド「このままじゃ飛空船がやられてしまいます! 旋回してすぐ戻ります!」
ヒュンヒュン……
女騎士(勇者っ!)
ヒュンヒュン……
女騎士(勇者! どこ?! 見失った?)
女騎士「メイドさん! もっと飛空船を近づけてっ!」
メイド「は、はい!」
女騎士(ダメだ、見当たらない。建物に入ったのね)
ドォォォンッッ!!
グラグラ……
女騎士「キャアアア!」
メイド「さ、さらにもう一体……上空からドラゴンです!」
女騎士「そ、そんな……」
ドォォォン!!
女騎士「キャ!」
メイド「このままでは……一旦離脱しましょう!」
女騎士「待って! それでは勇者を助けられないわ。私がデッキに出て護衛にまわるわ。勇者が出てきたら知らせて!」
メイド「はい! あ…………あれは」
女騎士「何? 出て来たの?!」
メイド「あの建物から赤い煙が……」
女騎士「え? 勇者の……発煙筒?」
女騎士(そ、そんな……勇者がやられたってこと??)
メイド「あれは作戦失敗の合図……でございますよね」
ドォォォォオオオン!
グラグラッ……
女騎士「くっ」
メイド「もう保ちません。武器庫を砲撃し離脱しましょう!」
女騎士「ダメ……」
メイド「え?」
女騎士「勇者を助けに行く! 降ろして!」
メイド「無理です! 今貴方が降りても、この船がやられてしまいます」
女騎士(ど……どうすれば?!?)
???「や、やっぱり……ボ、ボクの出番が来たね」
ピョコピョコ……
女騎士「だ、だれ?!」
ぬいぐるみ勇者「えっと……あ、え、あの……」
女騎士「ええ?!? クマのぬいぐるみ?!」
メイド「東の勇者様っ! 遅いですよ」
ぬいぐるみ勇者「あ、えっと、すすすすみません。お、遅くなっちゃった」
女騎士「な、なんなの??」
ぬいぐるみ勇者「えっと、あの、えっと……」
メイド「東の勇者様は外に出れませんので……お部屋からこのクマのぬいぐるみを遠隔操作して活動します」
ぬいぐるみ勇者「ボ、ボクが船を守るから王都の勇者を助けに行ってよ」
女騎士「あなた戦えるの?」
ぬいぐるみ勇者「う、うん、魔法で戦える。女騎士さんは魔法使えないから……えと、空中戦には向いてないよ」
女騎士「そ、そうね」
ぬいぐるみ勇者「彼は生きてる。は、早く行って」
女騎士「わかったわ……お願いっ!」
ーーー空大陸・魔王軍基地内ーーー
女騎士(勇者っ……どこなの?)
魔族兵「しねぇぇ!」シュッ
サッ!
女騎士「遅いっ! やぁ」ズバッ
魔族兵「ぎゃあああぁぁ」
魔族兵を倒した!
女騎士(この建物から発煙筒の煙が……。 勇者はどこなの?!)
タタタタタッ
女魔剣士「たぁ☆」ザンッ
勇者「くっ……」キンッ
女騎士(いた! 勇者は……足をやられて動けないわっ! やばい)
勇者「キミとは戦えませんっ!」
女魔剣士「あは☆ 攻撃してこないし、さっきから訳わかんなぃこと言ってぇ。なんなのよぉ」
勇者「思い出してくださいっ! 僕は勇者です!」
女魔剣士「だから訳わかんないっての☆ やぁ!」ボオオオオオォォン
女魔剣士は闇魔法を放った!
勇者「うわああああっ」
女騎士「ゆうしゃっ!!!」
勇者「グ……うぅ、女騎士さん……なんでここに?」
女騎士「見捨てるわけないでしょっ! はあああぁったぁ!」シュッ
ガキィィッ!!
女魔剣士「きゃぁ☆……ま、またアンタぁ?」
女騎士「やっぱりあの時に倒しとくべきだったのよ。勇者の命より優先する物はないわ」
勇者「ま、待ってください!」
女騎士「魔族は……敵よっ……やぁっ!」シュンッ
ガギギギィンッ!!
女魔剣士「きゃぁっ☆!」ザザァ……
女騎士「トドメッ」
勇者「だ、だめですっ!」
ジャキンッ!
女魔剣士「う……あ…………」バタ……
女魔剣士を倒した!
女騎士「はぁはぁ……」
勇者「ああぁぁ……」
女騎士「いくら勇者でも、自分を殺そうとする魔族まで助けようなんておかしいわ」
勇者「彼女は……彼女は……」
女騎士「……」
勇者「彼女は元人間……」
勇者「北大陸の“勇者”なんです」
< 第八章 捨てる >
女騎士「か、彼女が“勇者”?」
勇者「はぃ……魔王軍に潜入していたんです。もう……隠す必要がなくなってしまった」
女騎士「……殺してないわよ」
勇者「え?」
女魔剣士「うぅん……☆」
勇者「女魔剣士っ!!!」
女騎士「あとで説明しなさいよ、とりあえず船に戻るわよ!」プンッ
船に戻った勇者達は、武器庫・弾薬庫を砲撃し魔王軍の基地を破壊した。
ーーー空大陸 上空・飛空船内ーーー
ぬいぐるみ勇者「えっと、と塔と空大陸の基地を……制圧したから、み、南大陸の魔王軍はほぼ壊滅したかな?」
勇者「残党はいるでしょうけど、王様に掛け合えば聖剣をもらえるかもしれないですね」
女魔法使い「聖剣を抜くと、街を守る結界が消えてしまうんだったね」
ぬいぐるみ勇者「じゃ、あの…ぼ、ボクは調べ物に戻ります。えっと…あとお願いねメイド」
メイド「はぃ、かしこまりました」
女僧侶「え、えぇ~。ただのぬいぐるみに戻っちゃうんですか……かわいぃのに」シュン……
ビョコピョコ……
ぬいぐるみ勇者「あ、えと……、女騎士さん。ぼ、ボクがいない間この体お願い」
女騎士(なんで私のところに……)
ピョンッ……むぎゅ
女騎士「あっ……ちょっと! どこ触ってんのよ。ぬいぐるみっ!」
ぬいぐるみ勇者「クヒヒ……」
女騎士「もう! 女僧侶。持っててよ、はい」
ぬいぐるみ勇者「」
女僧侶「あーぁ。もう動かないですわ……」
女魔法使い「キモ……」
メイド「勇者様、次の目的地はいかが致しますか? この飛空船はどちらに向かえば?」
女魔法使い「その前に……この生け捕りにした女魔族は?」
女魔剣士「~~んーっ☆」モガモガ……
勇者「……」
女騎士「このぐらいの拘束は仕方ないわ、勇者を殺そうとしていたんだから」
女魔法使い「あんな危険を犯して助け出したんだから、よっぽど重要人物なんだろ」
女騎士「勇者、みんな死にかけたんだから……ちゃんと説明するべぎじゃない?」
勇者「わかりました。黙っててすみませんでした」
女魔法使い「本当は言いたくないんだろ? 私はいいよ、聞かなくて」
女僧侶「あ、私もですわ」
女騎士「ええ?! なんでよ??」
女魔法使い「勇者から無理に聞き出したくない」
女僧侶「勇者様を信じてますから。それだけですわ」
勇者「すみません……メイドさん、船は南大陸の魔都へ向かってください」
メイド「か、かしこまりました」
勇者「女騎士さん……こちらへ」
二人は飛空船内の転移魔法陣で東大陸に飛んだ。
ーーー東大陸 古都ーーー
女騎士(勇者と二人きり……)
女騎士「…………。雨が降りそう」
勇者「東大陸は湿地帯ですからね、雨は多いです」
女騎士「東のぬいぐるみ勇者もジメッとしてるもんね。引きこもりだし、とてもパーティを率いることはできないわ……」
勇者「……」
女騎士「西のゴロツキ勇者は、仲間を仲間と思ってないし、北の勇者は魔族で敵になっちゃってるし」
勇者「……ッ」
女騎士「“勇者”って、みんなマトモじゃないわ……」
女騎士「でも」
女騎士「貴方は……ちょっと違うかも」
女騎士「過剰に人助けをしてしまうところはあるけれど……」
女騎士「貴方は人のことを考え、仲間を想い、強く優しい。私を……仲間を成長させ、素早い判断力、冷静さ、正義感、リーダーシップ」
女騎士「私は王都の“勇者”パーティでよかった」
女騎士「私は貴方についていく」
勇者「女騎士さん……」
女騎士「わ、私急に何言ってるのっ」アセッ
勇者「…………」
女騎士「ちょ、ちょっと……何か言いなさいよ。さっきから黙っちゃって……恥ずかしいじゃない」プィッ
勇者「違うんです……」ボソ……
女騎士「え?」
勇者「違うんです。僕は一番“勇者”としての資格がない」
女騎士「な、何言ってるの?」
勇者「女騎士さんは上辺でしかわかってない」
女騎士「だって他の“勇者”なんか……」
勇者「彼らのことを悪く言うなッ!」
女騎士「……ッ!」ゾクッ
勇者「彼らは “俺” なんかとは違う」
勇者「東の勇者は……好きで引きこもりになったわけじゃない」
勇者「あのクリスタルで情報を得る魔法システムは、世界中の何処にいる人間も驚異的な正確さで占うことができる」
勇者「リアルタイムで何処にいるか、何をしているか、過去何があったのかも分かる。……」
女騎士「……」
勇者「そんな神のような魔法にどんな代償があると思う? 」
勇者「彼は……一生自分の部屋から出れないんだ。魔王軍との戦争に勝つ為に、彼は “自由” を捨てた」
女騎士(……)
勇者「西の勇者は魔王を殺すため、“人間性” を捨てた」
女騎士「ゴロツキ勇者……」
勇者「彼は西大陸が滅びた時の難民だ。帝都の最高指揮官だった父親は、魔王軍が攻めて来た時に西の勇者をかばって死んでしまった」
勇者「指揮官を失った帝都軍は、混乱の中あっという間に滅びてしまった……」
勇者「彼は思った。自分が死んで、指揮官の父親が生きていれば西大陸は滅びなかったかもしれない」
勇者「命には優先順位がある」
勇者「目の前の犠牲を、仲間の犠牲を厭わない力がこの戦争には必要だったんだ」
女騎士「……」
勇者「女魔剣士……北の女勇者は、魔王軍のスパイになるために “肉体” を捨てた」
勇者「魔導医療で自分の血を魔族の血と入れ替え、肌の色を変えて、呪いで肉体の魔法属性を変える」
女騎士「……」
勇者「昔の彼女は順序なる聖職者だった。誰よりも優しく性格も気品があり、聖都一番の憧れの的だった」
勇者「でも彼女は魔王軍のスパイの道を選んだ」
勇者「家族にも友人にも知られず魔族となった。魔王軍に潜り込んだ後は魔王を暗殺する為、出世で魔王を目指したんだ」
女騎士「彼女は……人間であった時のことを忘れてしまったの?」
勇者「なぜ記憶がないのか……わからないが、彼女は魔族になりきってる……」
女騎士「そんな……」
勇者「みんな色んなものを犠牲にして戦ってる。俺は……」
ポツ……ポツ……と雨が降り出す。
勇者「何も捨ててない」
勇者「俺は……王都の下位、それもスラムの出身だ」
勇者「貴族のキミには分からないかもしれないが、その日を生きるのに必死な毎日に、魔族との戦争なんてどうでもよかった」
勇者「そんな時、全滅している“勇者”パーティを見つけた。俺は彼の装備を奪い、勇者のふりをして旅立った」
勇者「勇者になれば金も地位も名誉も、全てが手に入ると思ったんだ」
勇者「正式に王都“勇者”として所属できると、面白いように金も地位も女も手に入れることができた」
勇者「俺は……俺だけは……」
勇者「私利私欲で “勇者” になったんだ」
女騎士「…………」
勇者「見損なっただろ? これが俺の本性だ」
ザァァァ……
強くなった雨のせいで、勇者の表情はよく見えなかった。
< 第九章 裏と表 >
ーーー南大陸 魔都・王宮ーーー
南王「王都勇者、王都騎士よ、よくぞ戻られた。本当に魔王軍を追い払うとは……」
勇者「王様、僕一人の力ではありません。仲間達と、西大陸の“勇者”、なにより魔都軍の力あってのことでございます」
南王「軍事拠点を失った魔王軍は、各戦地から撤退していると報告が来ておる。お主達がこの大陸へ来て、すぐこの結果。さすがは“勇者”というべきじゃな」
勇者「これで聖剣を譲っていただける条件は整いましたか?」
南王「う、うむ……前にも言ったが、聖剣を抜くと我が国の結界に使用するエネルギーが止まる……」
勇者「わかっています。兵を各町の防衛体制にするまで待つつもりですよ」
南王「申し訳ない……かなり時間がかかると思うが、この王宮でゆっくり過ごすといい」
女騎士(お、王宮に住めるっっっ! 女魔法使いと女僧侶が聞いたら喜ぶわっ!)
南王「お主達専用の部屋と執事を用意しよう。それと、捕虜の女魔族…………いや、北の女勇者であったか。彼女は……」
勇者「彼女には特例の待遇をお願いしたいです。牢ではなく部屋では?」
南王「人間の記憶が無い以上、監禁拘束は仕方のないことじゃ」
勇者「そうですよね……なんとか記憶を……」
南王「可能な限りは優遇させよう」
勇者「ご配慮ありがとうございます、王様」
ーーー南大陸 魔都・城下町ーーー
女騎士「女魔法使いっ! 女僧侶。お待たせ」
女魔法使い「やっと終わったか」
女僧侶「お疲れ様ですわ」
勇者「この大陸の防衛体制が整うまでは、この街で待機だ」
女魔法使い「どのくらいかかるんだろう?」
勇者「わからないが……一ヶ月以上はかかるんじゃないかな」
女騎士「南大陸の魔王軍も撤退してるって。勇者褒められてたよ」
勇者「王様にも言ったけど、俺だけのチカラじゃない。みんなで勝ち取った勝利だよ」
女魔法使い「そ、そうね……(あれ?)」
女僧侶「ゆ、勇者様……」
勇者「ん、なに?」
女僧侶「いえ、な、なんでもないですわ」アセ
女僧侶(?勇者様の口調が……)
勇者「さぁ、買い物でも行くかっ」スタスタ……
女魔法使い「女騎士……何かあったの?」ヒソヒソ
女騎士「ん……ううん。な、何もないよ」ヒソヒソ
ーーー南大陸 魔都・防具屋ーーー
女騎士「わぁ……ここが魔都軍御用達の防具屋さんかぁ。さすがにすごいっ!」
勇者「本当にすごいね、王都の武具より機能性が遙かにいい」
女魔法使い「うん! このワンピース可愛いじゃん。女騎士! これ似合うよ」
女僧侶「ひゃぁ……華やかですわ」
女騎士「なんで防具屋にきて普段着見てるのよ……」
勇者「本当だ。似合いそうじゃん」
女騎士「え?!……そ、そうかな?」
女魔法使い「いっつも鎧なんだから、ちょっと着てみなよ」
女騎士「え? え?……ちょ、ちょっとぉ」
…………
ガサゴソ……
女騎士(試着室に押し込められちゃった……もぅ)
ガラッ
女騎士「着替えたわ……」モジモジ……
女魔法使い「おお……」
女僧侶「か、かわいぃ!」
勇者「………………」ボー……
女騎士「ゆうしゃ?」
勇者「へ?……あ! す、すすすごく似合ってると思う」アセ
女騎士「ふふふっ、何ドモってるの? 東の勇者みたい」
女魔法使い「そーゆーカッコで笑ってると普通の女の子だね」
???「失礼! 貴方達が王都の勇者様ご一行でしょうか?」
女僧侶「あ、はい」
勇者「僕が勇者です。どうかしましたか?」
???「私は魔都騎士団の者です。騎士様にお会いしたいのですが……」
女騎士「え? 私?」
騎士団の使者「え??! 貴方が王都勇者パーティの騎士様?!」
女騎士「そうですけど……」
騎士団の使者「騎士団長がお目にかかりたいと」
女騎士「?」
ーーー南大陸 魔都・騎士団本部ーーー
騎士団長「おお! 勇者ご一行様! お呼びだてしてすまない」
女騎士(この人が魔都軍トップ。すべての指揮をとる騎士団長……若いのね)
騎士団長「塔、空大陸のこと。私からも礼を言わせてくれ」
女騎士「私に御用があると伺ったのですが……」
騎士団長「うむ、君は王都の剣技最高の称号を持っていると聞いたんだが」
女騎士「はい、そうですね」
騎士団長「私は魔都の剣技最高の称号を持ってる……ぜひ……」
騎士団長「手合わせ願いたい」
女騎士「私と騎士団長様で剣技の試合……という意味ですか?」
騎士団長「そうだ。別に殺し合うわけじゃない。不都合はなかろう?」
女騎士「ええ、まあ」
ーーー南大陸 魔都・訓練所ーーー
ガヤガヤ……
ガヤガヤ……
兵士「騎士団長と勇者様パーティの騎士様が、剣技の試合するってよ!」
兵士「本当か! そりゃすげー見ものだ」
ガヤガヤ……
兵士「どっちが強いんだろう……」
兵士「そりゃ、騎士団長様だろ。魔族討伐数は30を超えるっていう噂だぞ」
ガヤガヤ……
兵士「でも王都の勇者様パーティは、空大陸をあっという間に制圧したって聞いたぞ」
……
……
騎士団長「こちらだ。女騎士殿」
女騎士「すごいギャラリーですね……」
騎士団長「その方が面白いだろ? 南大陸から魔王軍を追いやったと話題だしな」
女騎士「それは魔都軍の成果だと私達は思ってます。私達は少し力を貸しただけです」
騎士団長「ふっ、謙遜するねぇ。君たちのおかげで……」
騎士団長「我が騎士団の評判はガタ落ちだ」
女騎士「……」
騎士団長「騎士団の評判ってのは、軍の士気に大きく関わる……それを考えるのは指揮官の役目だ」
女騎士(つまり、ここで私を倒して兵士達に自分の強さを見せびらかしたいってことね)
ガヤガヤ……
兵士達「始まるぞっ」
女騎士(負けてあげようかな……)
騎士団長「正々堂々やろう……殺し合いじゃない。技のみで競い会うんだ、武器力の差が出ないように、お互いこの剣でやろう」
カチャ
女騎士(魔都軍兵の剣……)
騎士団長「さぁはじめよう」
…………
勇者「……」
女僧侶「女騎士さん、頑張ってくださぃー」
女魔法使い「勇者パーティの名にかけて負けんなよー」
審判「はじめっ!」
女騎士「あれ?この剣……」
騎士団長「行くぞ! やぁっ」
キンッ! キンッ!
女騎士「くっ」
女騎士(こ、この剣……呪われてる?!)
騎士団長「たぁぁはぁっ!」
キィンッ!
女騎士(呪いのせいで体が重い…………何が正々堂々よ、私に勝たせる気なんてないってわけね)
騎士団長「どうした? 来ないのならこっちから行くぞ」ニヤリ
キンッ
キンッ
ガキンッ!
女騎士(くっ……こいつ魔法で強化してる?! )
騎士団長「あっさり勝ってしまうと盛り上がらんのだかなぁ」
女騎士「こんなの剣技の試合と言えないわ……」
騎士団長「私は騎士団長。騎士道を重んずる者だ……何も変ではない。正々堂々戦っているではないか」フハハ
女騎士(誰もが、この騎士団長の表の顏しかみえない)
騎士団長「はあああったぁ!」
シュッシュッシュッ
スッ…… サッ ……キンッ!
女騎士(この人に騎士道語って欲しくないわ)
騎士団長「やあっ」シュッ
スッ
騎士団長「たぁ!」シュッ
スッ
女騎士「…………」
騎士団長「はっ」シュッシュッ
スッスッ
………………
女魔法使い「おいおい、騎士団長の攻撃……全部避けてる」
女僧侶「完全に見切ってるますわね。女騎士さん強い……」
勇者「俺らと旅してかなりレベルアップしたから。こんなスポーツみたいな剣筋じゃ当たらないよ」
……
女魔法使い「あれ? 女騎士が地面に剣を突き刺して……跪いた。これって」
勇者「降参ってことだね」
女僧侶「えええぇぇ?! なんで……」
女魔法使い「降参?! 誰が見ても女騎士の方が強いのはわかったのに」
勇者「試合に負けてあげて、勝負に勝つ……女騎士さんらしい」
ガヤガヤ……
兵士「騎士様……降参しちゃったぞ」
兵士「騎士団長の勝ち? でも……」
ガヤガヤ……
勇者「みんな女騎士さんの強さはわかっただろうけど、相手に花を持たせてやる……それが騎士道か」
女魔法使い「あの子の表の顏は、やっぱり騎士ってわけね」
夜。
ーーー南大陸 魔都・王宮ーーー
トントン……
女騎士「はい?………あ、勇者」
勇者「遅い時間にゴメン。さっき王様から謝罪があったよ」
女騎士「え?」
勇者「騎士団長が無礼をしたって」アハハ
女騎士「え、えー…なんか私が無礼したような……」
勇者「女騎士さん、今からちょっと付き合って欲しいところがあるんだけど」
女騎士「え? いいけど。こんな夜に?」ドキドキ
勇者「うん」
女騎士「わ、わかったわ」
スタスタ……
勇者「女騎士は……子供がほしいと思ったことある?」
女騎士「ええ?? なに突然」アセアセ
勇者「俺は親がいなかったし……子供の気持ちとか、親の母性とか分からないから」
女騎士「私は……女である前に騎士だから。でも、いずれはほしい……かな」
スタスタ……
勇者「彼女は全てを捨てた筈なのに。その先に女性として……どうにもならないものがあったんだ」
女騎士「彼女?」
スタスタ……ピタ。
勇者「ここだ」
女騎士「ここは……地下牢?」
女兵士「勇者様。どうぞ」
勇者「女魔剣士の様子はどうですか?」
女兵士「問題ありません。静かなものです」
勇者「ありがとう」ニコッ
女騎士(ここは女魔剣士……北の女勇者の牢屋)
ギィィ……ガシャン
勇者「女魔剣士さん、起きて」
女魔剣士「……う……んん☆ ふぁわぁぁ……むにゃむにゃ☆ なに? ご飯の時間?」
女騎士「……」
勇者「違うよ。ちょっと話したいんだ」
女魔剣士「うわ☆ ゆ、勇者っ!」
勇者「元気そうだね……」
女魔剣士「な、なによ。女連れじゃワタシを弄ぼうってわけじゃなぃんでしょ?」
勇者「……」
女魔剣士「あは☆ 逃がしてくれるってなら、何でもするけどぉ」
勇者「あ、服一枚脱いでもらえるかな?」
女騎士「ゆ、勇者っ!??」
勇者「あ、いや……変な意味じゃなくて」
女魔剣士「あは☆ 他にどんな意味がぁるのよぉ」ヌギヌギ
パサッ
勇者「……」ジィ……
女騎士(女魔剣士のお腹に大きな傷跡……魔法で治さなかったのかしら)
女魔剣士「うふ……彼女の前でぇ別の女抱こうって感じぃ? 」
勇者「……ちょっと話そう。服を着てください」
女魔剣士「話ぃ? なによ」
勇者「一人の“勇者”の話だ。友達に調べてもらったんで」
勇者「北大陸。とても寒い国で生まれた彼女は、幼い頃から修道院で僧侶として働いていた」
女魔剣士「……」
勇者「彼女はとても信仰が深く、清らかな性格、美しい容姿、才に恵まれた力。沢山のものを持ち人々の憧れだった」
勇者「そんな噂を聞いた北大陸の王様は、彼女を“勇者”にし支援しました。」
女魔剣士「あは☆ なにそれぇ」
勇者「責任感の強い彼女が選んだ“勇者”としての生き方は、『魔族になって魔王軍内部から壊す』」
勇者「まず、血の色をカモフラージュする為に、捕らえた魔族と血を入れ変えた。魔法と薬で、身体の拒否反応を抑えつつ、ゆっくりと。」
勇者「全身に行き渡る激痛と、止まることのない吐き気。20日以上もベットの上で苦しんだんだ」
勇者「拒否反応が収まってくると、今度は肌の色……魔石の採れる狭い洞窟に40日間閉じ込められ魔光を浴び続ける」
勇者「一連の約60日を強力な呪いの架かった装備で行う。自らの魔法属性を闇属性に変える為に」
女魔剣士「あ……ぁぁ……」
勇者「魔族になると、彼女は単身魔大陸へ渡った。そこからが本当の地獄」
勇者「小さな魔族の村に転がり込み、少しの間過ごした。疑う者はいなかった、彼女の見た目は魔族そのものだった」
勇者「そんなあるとき、彼女のいる魔族の村が人間の兵士部隊に襲われた。彼女は村の魔族を守るため……」
勇者「人間を斬った」
女魔剣士「し、知らない……知らない……」
勇者「その功績が認められ……彼女は魔王軍に入ることとなる。その為に、彼女は人間の命を犠牲にした」
勇者「魔王軍に入った彼女は、魔王に近づく為、必死に戦い、戦場で人を斬り出世した。時には仲間を踏み台にし、時には上官に媚を売り、身体も売った」
女魔剣士「だ、誰だってやってるわ」
勇者「順調に出世し、上位魔族にまで昇りつめる。そんな彼女に予想越える感情が生まれてしまう」
勇者「魔族に恋をしてしまった」
女魔剣士「………黒騎士様……」
勇者「いけないと分かりつつも、実ってしまう。そして……」
勇者「 魔族の子を身籠る」
女魔剣士「あ……あ……」
勇者「生まれてくる子供は、魔族と人間のハーフ。自分が人間であることが暴露てしまう。悩みに悩んだ彼女は……」
女魔剣士「知らない……シラナイ……シラナイシラナイシラナイ……」
勇者「子供のいるお腹に……自らの剣を突き刺したんだ」
女魔剣士「いやぁあああああぁぁぁっ!!」
勇者「全てを犠牲にしたつもりだったんだろうけど、キミは恋愛感情と母性だけは捨てれなかったんだね。罪悪感から心が壊れてしまった」
女騎士(なんてこと……そんなの壊れるに決まってる。それで記憶がおかしくなってしまったのね)
勇者「思い出せっ!! キミが自分の子供の殺したのは何の為だっ! 」
女魔剣士「ああああああああっ! 」
勇者「その犠牲を無駄にするのかっ! 思い出せっ! 自分の行いを認め受け入れるんだっ」
女魔剣士「う……うぅ……」
勇者「女魔剣士っ! いや、北の女勇者っ! キミは人間なんだっ!」
女魔剣士「うぅ……ウチは……」
北の女勇者「ニンゲン……」
勇者「そうだよ……俺は勇者だ。勇者会議で会ったろ? 覚えているか?」
北の女勇者「お、王都勇者……?」
女騎士(記憶が戻った!)
勇者「そうだよ、勇者だよ」
北の女勇者「ウチは人間……い、いやあぁぁぁあっ」
勇者「……」
女騎士(思い出したことで、罪悪感が……)
北の女勇者「殺して……殺して……」
勇者「苦しいか? 苦しいよな……それが罰なんだ。死んで楽になろうとするなっ! 負けるなよっ」
北の女勇者「うぅ……」
勇者「まだ魔王を倒してない。なんの為に辛い思いをしたんだよ」
北の女勇者「永く……魔族と生活してわかったの。戦争に巻き込まれたごく普通の人間も、ごく普通の魔族も、平和を願う気持ちは変わらない」
勇者「そうだ。でも俺らは戦うしかないんだ」
北の女勇者「もぅ……ウチにはどちらが正義かわからないょ……うぅ……」
勇者「……」
女騎士(自分の正義は自分しかわからない)
勇者「じゃあ……」
キラッ
勇者「これで決めよう」
女騎士「コイン……コイントス?」
勇者「北の女勇者……これは勇者会議の後、キミがくれたコインだ。あの時こう言ったよね」
勇者「『運命に身を任せるんだ』」
北の女勇者「……」
勇者「裏ならその身体で人間として生きろ……表なら魔族として俺が殺す」
女騎士(どちらも報われないわ)
北の女勇者「ぅん……☆」コクリ
勇者「行くぞ」
キンッ
クルクル……っと、コインは宙に舞い再び勇者の手の中へ。
パッ
勇者「……」
北の女勇者「どんな結果でも……受け入れるょ」
ス……
勇者「表だ。生きろ」
その日の〆を記してくれると有難い
うわあああ、間違えてる!!
↑勇者「裏だ。生きろ」
です…。はぁ…
ひっでぇ感じですが、ラストまで書き溜めてあるんで最後まで行かせてください。
ながいんで1日1章進ませます。もうすぐ終わります。
読んでいただけたら幸いです。
つうか表じゃ…
>>180
了解です!
>>182
すみません…
あ、第九章終わりです。
< 第十章 勇者会議 >
ーーー南大陸 魔都・王宮ーーー
南王「これより緊急の“勇者会議”を始めるっ!」
魔都の王宮会議室に集まる会議メンバー
王都勇者、西のゴロツキ勇者、東のぬいぐるみ勇者、北の女勇者。
女騎士、女魔法使い、女僧侶、戦士、メイド。
南大陸の王、魔都軍の騎士団長。
南王「本来、勇者達だけで極秘に行うものだが、今回は緊急ということで各パーティメンバーにも参加していただく」
南王「なお、我が南大陸の“勇者”は職務放棄、逃亡中の為、不参加である。議長は南大陸の王である私、南王が務めさせてもらう」
女騎士(魔王軍と戦う為の勇者だけの会議……セキュリティ上、各国の王と勇者以外には完全極秘会議。こんなことがあったなんて)
西の勇者「南の勇者は相変わらず逃亡中かよ。前回の会議にそいつが来てれば、聖剣を探す必要が無かったってのによ」
女魔法使い「緊急ってどういうことだい?」
南王「永らく魔王軍に潜入していた北の女勇者からの情報じゃ……」
北の女勇者「あは☆」
南王「魔王軍は……空大陸を魔都に落とすつもりじゃ」
戦士「……っ!」
女騎士「えぇぇぇっ」
女僧侶「ひぃぃ……あんな大きなものが落ちてきたら」
南王「結界はあるが……耐えられないじゃろう」
女僧侶「耐えられなかったら……空大陸が魔都を押しつぶし、誰も助からないですわ」
西の勇者「マジかよッ」
勇者「東の勇者、情報の裏は取れました?」
ぬいぐるみ勇者「え、えと、あの……その、あの……」
メイド「はい、たしかに空大陸は魔都に近づいております。今のスピードのままですと、あと20日くらいで魔都に落下致します」
西の勇者「止める方法はねぇのか?」
女魔法使い「浮いているのは大陸の特性そのものだろうけど、空大陸を動かしてる魔力の根源を断つしかないだろうね」
北の女勇者「根源って……魔王だよね。たぶん☆」
南王「間違いないじゃろう。つまり20日以内に魔王を倒さないと魔都は……南大陸は滅びる」
…………
勇者「聖剣を抜こう」
西の勇者「だな。魔王をぶっ殺す」
女騎士「でも……結界が消えてしまうわ。それにどうやって魔王のところへ?」
ぬいぐるみ勇者「ままま魔王への移動手段だったら、あの……えと、か、考えがあるよ」
南王「ふむ、どのような考えじゃ?」
ぬいぐるみ勇者「あ、ああああの……えと、」
メイド「私がご説明致します。簡単に申し上げますと魔族達が使っている転移魔法陣に、聖剣の魔力を使い強引に割り込んで転移します」
女騎士・女僧侶「???」
女魔法使い「人間の使う転移魔法陣と、魔族達の転移魔法陣は属性が違うから繋げるのは無理なんじゃ?」
メイド「こちらには、魔族の属性を持つ北の女勇者様がいます。あとは聖剣の膨大な魔力で無理やり次元を繋げる。理論的には可能でございます」
西の勇者「つまり……俺らの転移魔法陣で、一気に魔王城まで行けちまうってわけか」
ぬいぐるみ勇者「た、ただ……問題がひ、ひとつあって……」
メイド「聖剣を使う転移魔法なので……聖剣に触れる者しか転移できません」
戦士「…………聖剣に触れれるのは“勇者”だけ」
西の勇者「俺様と」
北の女勇者「ウチと☆」
ぬいぐるみ勇者「ぼ、ボクと」
勇者「俺の4人だけか」
女騎士「…………」
南王「他に選択肢はない……のか?」
西の勇者「おもしれぇじゃねぇか。魔王討伐の為のパーティは全員“勇者”か。ハハッー」
ーーー南大陸 魔都・聖剣の間ーーー
以前と変わらぬまま、聖剣は静かに刺さっている。
勇者「では……聖剣を抜きます」
西の勇者「はやくしろよ」
南王「これを抜くと結界がなくなる……そんな日が本当にくるなんてのぉ」
北の女勇者「そりゃビビるよねー☆」
ぬいぐるみ勇者「な、何もしなければ滅びるだけ」
南王「そうじゃな……勇者殿。頼んだ」
勇者「はい……」
女騎士(ついに聖剣を……ながかったわ)
ガッ……勇者は両手で聖剣を掴む。
勇者「ふッ」
ズズ……
勇者「…………っ!」
女騎士「抜ける……」
女魔法使い「聖剣が光だした」
女僧侶「きゃあっ眩しい」
………………
女騎士「ど、どうなったの……?」
勇者「聖剣です…………これで魔王を倒すっ!」
勇者は聖剣を手に入れた!!!!
ーーー南大陸 魔都・王宮中庭ーーー
決戦前夜。空大陸が落下するまで後18日。
女騎士「明日は決戦なのに……夜遅く呼び出してごめんなさい」
勇者「いや……どうせ寝れないし」
女騎士「勇者に言っておきたいことがあって……」
勇者「え?」ドキッ
女騎士「あの、前に貴方が勇者なった理由を話してくれたでしょ?」
勇者「……」
女騎士「地位やお金、私利私欲で“勇者”になったって」
勇者「…………ああ」
女騎士「私がね……騎士になろうと思ったのは、親への反抗なの」
勇者「……」
女騎士「母親に……お前には何も変えられないって言われて、悔しくて。私は魔法が使えなかったから、剣で世界を変えてみせようと思ったの」
女騎士「上位貴族の家に生まれた私は、小さい頃から何不自由しなかった。魔族や魔物が怖いなんて思ったことなかった」
女騎士「魔族に恨みも正義感もなかった。ただ母親を見返したかった」
女騎士「勇者と同じよ」
勇者「……ふっ」ニコッ
勇者「女騎士さん……ありがとう」
女騎士「お礼言われることじゃないわ」アセ
勇者「キミはいつも本当の俺自身を見てくれている」
女騎士「……」
勇者「………俺も言っておきたいことが」
女騎士「ん、なに?」
勇者「俺……」ジィ……
女騎士「……」ドキッ
勇者「えっと……」
女騎士「……」
女騎士(え?! え?! )
勇者「あの……」
女騎士(な、なななに?)
勇者「ちょっと待って」アセ
勇者はコインを出すと、指で頭上に弾く
キンッ
クルクル…………スパッ!
女騎士(コイントス……)
勇者「あ……」
女騎士 「裏?」
勇者「や、やっぱり魔王倒してから言う!」
女騎士「ええ~!!!!?? 気になるじゃんっ」
勇者「じゃ、じゃあ」スタタタ
女騎士「もぅ」
次の日。
ーーー南大陸 魔都・転送魔法陣ーーー
南王「では、“勇者”達よ。頼んだぞ」
勇者「はい、いってきます」
西の勇者「サクッと魔王を殺してくるぜ」
戦士「…………西の勇者、一緒に行けなくて残念だ」
女魔法使い「西の勇者、私達の故郷の仇を……頼んだよ」
西の勇者「ふん。わあってるよ、無事に戻ったら乳でも揉ませろや」
ぬいぐるみ勇者「め、メイド。ああの……魔法陣と聖剣のリンクは……えっと大丈夫?」
メイド「問題ありません。聖剣の魔力を使って魔大陸にある魔族の魔法陣にシンクロさせます」
ぬいぐるみ勇者「か、可能な限り魔王城に近い魔法陣にボクらを飛ばしてね」
女僧侶「東の勇者さんも、どうかご無事で」
ぬいぐるみ勇者「え、わ、あの……」ピョコピョコ
メイド「東の勇者様は遠隔操作で、ぬいぐるみで戦いますので心配要りません。本人は自室の部屋の中ですから」
北の女勇者「あは☆ ぬいぐるみ可愛ぃ」
戦士「……」
勇者「では、西の勇者。東の勇者。北の女勇者。行きましょう」
西の勇者「おぅ」
ぬいぐるみ勇者「は、はい」
北の女勇者「はーぃ☆」
女騎士「…………ちょっと、勇者!」
勇者「はい?」クルッ
女騎士「死なないでね」
勇者「誰にも負ける気がしないよ」ニコッ
勇者達は魔大陸へ飛んで行った。
残り17日。
第十章 終。
女騎士「死なないでね」
勇者「誰にも負ける気がしないよ」ニコッ
これが私たちの最後に交わす言葉になるなんてあの時は思っていませんでした。
< 最終章 その一 指揮 >
勇者達が旅立って3日。
ーーー南大陸 魔都・王宮ーーー
騎士団長「キミの言うとおり避難用に王都へ転移魔法陣を設定しておいたよ」
女騎士「ありがとう。それを使うことがないといいのだけれど」
南王「空大陸は以前同じスピードで、こちらに向かっておる。勇者達を信じて待つしかないのぉ」
女騎士「結界が無くなった後の影響はどうですか?」
騎士団長「今の所、大きな被害報告は入ってない。ちょっと魔物が街に入ったりとかはあるが大したことはない」
女騎士「そうですか……」
騎士団長「まあ、王都の君が心配することではない」
女騎士「……」
南王「そう言うでない。女騎士殿は、今までの働きと先日の試合で、我が国の兵にも多くの支持者がおる」
騎士団長「くっ……」
女騎士「すみません、出しゃばるつもりありません」
トントン……
兵士「失礼します!」
南王「なんじゃ?」
兵士「アポイントのない来客が正門に来ております」
騎士団長「そんな者追いかえせ、当然だろう!」
兵士「そ、それが……西大陸の王を名乗っています」
女騎士「西大陸?……滅びた国でしょ?」(西の勇者や女魔法使いの故郷だったわね)
南王「どんな輩だ?」
兵士「5人です。皆、黒いローブにフードを被っている不気味な輩です」
南王「ふむ……通せ」
女騎士「陛下……大丈夫ですか?」
南王「曲者であったとしても、ここでならすぐ捕らえられる。念のため、女騎士殿も立ち会ってもらえぬか?」
女騎士「わかりました」
トントン……
兵士「失礼します。お連れしました」
南王「入れ」
スタスタ……黒ローブを身にまとった5人が玉座の間に入ってくる。
黒ローブの人達「……」
女騎士(どう見ても普通じゃない……)
南王「お主ら何者じゃ?」
黒ローブの人達「……」
南王「儂は西大陸の皇帝とは古い付き合い……お主らが偽物であることはわかる」
騎士団長「返答次第では、牢獄にぶち込むっ!」
黒ローブの男「こちらにいるのは、間違いなく西大陸の王」
黒ローブの親玉「……」
女騎士(この声……どこかで?)
騎士団長「西大陸の皇帝陛下は、帝都が滅びた時にお亡くなりになられた。これ以上ふざけた返答をするとこの場で叩き切る!」
黒ローブの男「ふざけてない。 現 在 の西大陸の王だ。…………うひゃ」
女騎士(こいつはっ!)
女騎士「魔族っ!」
騎士団長「な?! 剣を抜けっ!!」
兵士「ハッ」
兵士「て、敵襲っ」
兵士「くっ」
シャキン!
魔族道化師「うひゃひゃひゃー! バレちゃった」
騎士団長「陛下を守るんだ!」
魔族道化師「うひゃひゃ! 西大陸は魔族のもの。つまり~王はこの魔王様だー」
黒ローブの親玉「……ふ、フハハ!」
南王「な、なんじゃと……?」
兵士「そんな……まさか」
騎士団長「う、うそだろ。こいつが……」
女騎士「魔王……」
魔王「フハハハハハハ。人間よ、アッサリ招き入れるとはマヌケすぎるぞ」
魔族道化師「うひゃひゃマヌケ~」
女騎士(フードのとったら、初老の魔族……こいつが魔王)
南王「なぜ魔王が……」
騎士団長「ゆ、勇者達は?!」
魔王「奴らなら今頃魔大陸で余の配下と戦っているんじゃないかの?」
ダダダダッ……バタン!
伝令兵士「陛下っ!大変ですっ!ま、魔都を取り囲むように魔王軍が現れました!」
女騎士「ええ?!」
伝令兵士「完全に囲まれています……」
魔王「フハハハハ。ずっと結界が無くなるのを待っておったのじゃ」
女騎士(魔王軍は撤退したと思ったのにフェイクだったの?!……)
騎士団長「くっ……」
兵士達「ひぃ……」
女騎士(恐怖で……誰も動けない)
魔王「なんと臆病よの……人間。ではこちらから」ピンッ
魔王は黒い波動を放った!
兵士「ぐえええぇぇっ!」
兵士「うわああぁ」
兵士「ぎゃああああ」
女騎士「きゃっ!」
騎士団長「があああぁ」
魔王「なんと脆い生き物じゃ、お前らを殺すことだけなら造作もない」
女騎士(ぐ……な、なんて魔力)
南王「ひぃっ……」
魔王「わざわざ余が出向いたのに訳がある、人間の王よ」
南王「く、くるな……」
スタスタ……
魔王「 魔 剣 は 何 処 に あ る ? 」
南王「ま、まさか……お主の真の目的は……」
女騎士(魔剣?)
魔王「余の読み通りじゃ、聖剣を抜いて魔力が断たれ止まったのは結界のみ」
南王「……」
魔王「他の転移魔法陣や、高熱エネルギーなどは動いておる、その動力源は……魔剣」
魔族道化師「うひゃーどこにあるっ!」ガシッ
南王「うぐ……」
魔王「南大陸の王よ、案内してもらおうか」
…………
…………魔族達は南王を連れて出て行った。
女騎士(王様が連れて行かれてしまった……)
騎士団長「ぐぐ……」
女騎士(な、なんてことなの。勇者達は魔大陸で待ち構えていた魔王軍と交戦中。魔王がここにいることを知らない)
女騎士(ど、どうすればいいの?!)
ダダダダッ……バタン!
兵士「王様っ!取り囲んでいる魔王軍が攻めてきました!」
騎士「騎士団長っ!正門前で魔王軍との交戦開始です!」
伝令「空からモンスターの大群が現れましたっ!」
ゴゴゴゴゴ……地響きが聞こえる
兵士「お、王様は?!」
騎士「騎士団長っ! 指揮をっ!」
騎士団長「あ、あああぁぁ……」ガクブル
女騎士「ちょっと! しっかりしてよ!」
騎士団長「あ、あ、……」
王宮魔導師「王宮内部に敵が進入っ! 王様!」
兵士「騎士団長っ! 指揮をっ!」
兵士「王様はどこだ!」
兵士「南門突破されました!」
騎士「誰か、命令を……」
ドタドタ……
女騎士(だめだ……もう魔都はどうにもならない。どうすれば?!)
女騎士(勇者だったら……勇者だったら冷静に状況を判断して……みんなに……)
女騎士(空大陸は止められない、魔都は滅びる……王様は魔王に……騎士団長は恐怖で動けない……)
女騎士(わたしが……わたしがやるしかないっ!)
女騎士「みんなっ!」
兵士達「女騎士様……」
騎士達「王都の騎士様……」
ザワザワ……
女騎士「聞いてくださいっ!」
シーン……
女騎士「陛下、騎士団長は戦闘不能。わたしが指揮をとりますっ!」
女騎士「こ、この場にいる兵士は伝令になってもらう! 各部隊長に伝えろっ!」
女騎士「魔都を放棄!!」
女騎士「緊急用の魔法陣で王都へ避難する!兵士は魔王軍に応戦、王宮騎士は住民を避難誘導、王宮魔道士は魔法陣を起動しろ!」
女騎士「住民の避難完了次第、魔都軍も避難撤退するっ」
兵士「女騎士様……」
兵士「そうだ……家族を避難させないと」
兵士「俺たちしか戦えないんだ」
女騎士「各部隊長に必ず伝えろっ! 担当区画を死守! 住民の命が最優先。伝令は逐一報告くをっ!」
兵士達「「「「ハッ!!」」」」
女騎士「みんな……お願いっ!!」
14日後……
空大陸は魔都へ落ちた。
最終章その一 終。
< 最終章 その二 役割 >
ーーー中央大陸 王都ーーー
女騎士「ぅぅん……」
女魔法使い「お?」
女騎士「??ここは……?」
女魔法使い「ここは王都の病院。大丈夫?」
女騎士「王都?……私、帰ってきたの?……」
女魔法使い「覚えてないかぃ?」
女騎士「うん……えっと、魔王が攻めてきて……その後は??」
女魔法使い「……魔都は滅びたよ……」
女騎士「!!」
女魔法使い「魔王が南王様を連れ去って、混乱した魔都軍をあんたは指揮をした。住民を避難させ、兵士達をまとめた」
女騎士「……魔都を守るため戦った」
女魔法使い「そうよ、兵士達は貴方の指示通り戦った、魔族を斬って、斬って」
女騎士「魔都の人達を守りたかったの」
女魔法使い「戦ったのは14日間」
女魔法使い「助かったのは住民の約10%。緊急用の魔法陣で王都へ避難したわ。私たちは、空大陸が落ちてくる寸前に、戻ってきた勇者達に助けられ……命拾いしたってわけ」
女騎士「勇者?!……勇者がいるの?」
女魔法使い「ああ、無事だよ。勇者! 女騎士が目を覚ましたよっ」
勇者「やぁ女騎士さん……」ニコッ
女騎士「勇者……魔都が……ぅぅ……」
勇者「君が指揮してくれたおかげで助かった命が沢山ある。ありがとう」
女騎士「……そんなことないよ……沢山死んだ。守れなかった……私がもっとしっかりしていれば……あぁぁ……」
勇者「キミはよくやった。自分を責めるな」
女騎士「ぅぅ……」
…………コンコン
兵士S「失礼します」
兵士A「勇者様、女騎士様。王様がお呼びです」
勇者「……わかりました」
兵士S「……」ジ…
勇者「ん?何か?」
兵士S「あ、いや、なんでも……」プィ
……
ーーー中央大陸 王都・皇帝の間ーーー
王「おーぅ。勇者くん、女騎士ちゃん。よく戻ったね」
女騎士(中央大陸、王都の王様。相変わらず陽気なオジサマ……)
勇者「聖剣捜索の任務完了しました」
王「うにゃ、魔大陸へ行ったんだろ? 大変だったね。どうだったよ?」
勇者「魔王城には結界があって近づけませんでした。魔王軍が待ち構えていたので……完全に罠にかかったスライム状態でしたね」
王「俺っちに一言相談してくれればねぇ。まぁ無事でなによりだよ」
勇者「東の勇者が遠隔操作する『ぬいぐるみ』は魔大陸に残してきましたので、今魔大陸に転移魔法陣を作らせています」
王「さっすが勇者! ぬかりないね」
勇者「陛下ほどではありませんよ、予定通りですもんね」
王「これで……王都軍を魔大陸へ送ることができる……ふむふむ……」
勇者「……魔都を失ったのは予定外でしたが、前の勇者会議で聞いた王様の“魔王討伐計画”は順調ですね」
王「ふむふむ……」
女騎士(計画?)
王「よぉぉ……しゃっ! 最終決戦だな。今が一番のタイミングだろうな」
勇者「西大陸、南大陸と魔族に取られてしまいましたからね。もう王都も安全では無い」
王「まず魔大陸に全王都軍を送る。魔王城正面から進行し魔王軍を引きつける、その間に西の勇者部隊は結界を破壊」
王「結界の破壊を確認したら、君たち勇者パーティは目立たないよう船で裏からか魔王城に進入。魔王を撃つ!」
女騎士「それって……つまり」
女騎士「王都軍はすべて囮ってことですか?」
王「そういうことだね……」
女騎士「…………敵の本拠地で、正面から戦うなんて……命を捨てるだけよ」
王「敵を引きつけることはできる」
勇者「……」
王「やらなければ、この王都も魔都と同じ運命だろうなー」
女騎士「兵士が沢山死んでしまう……」
王「必要な犠牲だ」
女騎士「そんなの許されないっ!!」
王「そうだ。許されないね……正義とは言い難い。でも戦争を終わりにすることが出来る」
勇者「何かを変えるには……覚悟がいるんだ」
女騎士「勇者っ!!」
勇者「もうこの戦争は100年続いてるんだ。いつまで続けるんだ? あと100年? そうなれば、もっともっと多くの犠牲がでる!」
女騎士「どのみち……死ぬとわかっている作戦に参加する兵士なんていないわ」
王「するさ……キミが命令すれば」
勇者「……」
王「女騎士ちゃん……キミを王都騎士団長に任命する。この最終決戦の総隊長になるんだ」
女騎士「な?! なんで私が……」
王「女騎士ちゃんは、先日の魔都崩壊時に多くの住民を助けたと、王都全土で話題だ。巷では『砂漠のヴァルキリー』とか『魔都の救世主』とか呼ばれてるらしいぞ」ニヤ
女騎士「なにそれ……私はそんなに救えてない」
王「うにゃ、王都公式発表ではキミは魔都の半数以上を助けたことになっている。そりゃ英雄だよ」
女騎士「なんで??」
王「キミを英雄に仕立て上げる為に、私の考えたプロパガンダ(嘘)だよ。王都軍の英雄であるキミと、正義の勇者が最終決戦! 素晴らしいシナリオだろう?」
女騎士「シナリオ?」
王「この日を何年も前にイメージしてたってわけよ。その為にキミを勇者のパーティへ入れたんだ」
女騎士「!!!……」
王「キミは命令するだけでいい。あとの仕事はこっちでなんとかする」
王「魔都が滅びた怒り」
王「王都に迫り来る恐怖」
王「立ち上がる英雄と勇者の声!」
王「このタイミングで、キミが言うのが適任だ。誰もが君たちの為に立ち上がるだろう」
女騎士「この命令で何十人も、いや、何百人も死ぬ……」
王「そうだな。だけど君の命令で戦争を終わらせる」
女騎士「…………」
王「君の手で戦争を終わらせるんだ」
女騎士「少し……考えさせてください」
王「ああ、いいとも。ゆっくり考えるといい」
女騎士「はい……失礼します」
ガチャ……バタンッ
…………
…………
王「やはり即答はしてもらえなかったか」
勇者「一人で考える時間くらいあげてください」
王「うにゃ、どう思うよ?」
勇者「彼女の気持ちは俺には分かりません。でも……」
王「うん?」
勇者「彼女が断ったら、潔く承諾してください。彼女は“勇者”ではない」
王「ふふん。わかってるよー。計画に必要なのは“筋書き”じゃない」
王「何より大事なのは“枠組み”だ。臨機応変に対応できる策を打てるかどうか……」
勇者「彼女じゃなくてもいいって訳ですね」
王「この戦争は俺っちと、魔王の知恵比べだ。今の所計画は順調。ふふふふふ」
勇者「策士……陛下はひょっとして南大陸が滅びてしまうのも予想していたんですか?」
王「どうだろね」ニヤ
ーーー中央大陸 王都・王宮テラスーーー
女騎士(私の命令で沢山の犠牲……)
女騎士(全王都軍兵士……約千人。みんな家族がいて、待ってる人がいる……)
西の勇者「よぉ、騎士団長さま。箱入り娘がずいぶんな出世じゃねぇか」
女騎士「ゴロツキ……」
西の勇者「暗ぇ顔してんなよ、うちの戦士みてぇだぞ、ハハハッ」
女騎士「私……陽動作戦の……」
西の勇者「作戦聞いた。オメーが総隊長だってな」
女騎士「あんな残酷な命令下せない……あなたなら簡単にできるんでしょうね」
西の勇者「ああ、俺様ならな」
女騎士「勇者に聞いたわ。あなたがそんな考えになった過去を……」
西の勇者「過去? 過去は関係ねぇ、魔族を殺す。これに手段や心情を選ばないのは、そーゆー役割ってだけだ。俺様が」
女騎士「役割?」
西の勇者「んだよ。魔王討伐計画の役割だ、オメー聞いてねぇのかよ、勇者から」
女騎士「う、うん」
西の勇者「あのやろーホントにマジメちゃんだな」
女騎士「どうゆーこと?」
西の勇者「前の勇者会議で決まったのが“魔王討伐計画”」
西の勇者「中央大陸 王都の勇者は人助けし、名声を得る」
西の勇者「西大陸 帝都の勇者……つまり俺様は魔族を殺して魔王軍を弱体化」
西の勇者「東大陸 古都の勇者……あの引きこもりは情報収集」
西の勇者「北大陸 聖都の勇者……あの半分魔族の女勇者は魔王軍に潜入して内部から破壊」
西の勇者「来るべき決戦に備えて各勇者が、役割を全うする」
女騎士「それが魔王討伐計画……」
西の勇者「歴代の勇者達は皆単独で仲間を集め、魔王軍と戦ってた。それじゃーいつまで経っても魔王を倒せねぇ」
女騎士「……」
西の勇者「王都の王は、各国の王と勇者達の力を合わせることを考えた。それが勇者会議の始まりだ」
西の勇者「そして正義という概念も捨てた。犠牲を厭わねぇ戦いをし、魔族になった勇者が人を斬り、驚異の占い魔法で全人類の個人情報を隅から隅まで調べちまう……」
女騎士「……」
西の勇者「“勇者”なんて汚れ仕事だ。それゆえ、この計画は極秘ってわけだ」
西の勇者「俺様がこんな犠牲を厭わねぇ戦い方なのは、俺様がこの計画のそーゆー役割だからだ」
女騎士「役割……勇者は、他の勇者はいろんなものを犠牲にしてるって。自分は何も捨ててないって…」
西の勇者「なんでも背負い込むあいつらしいな」
西の勇者「あいつの役割は、この戦争の希望になるように名声を得ることだ。兵達がが勇者の為に命をかける……それには名声が必要なんだ」
女騎士「それであんな人助けを?」
西の勇者「それもあの王の命令っていうかシナリオだ」
西の勇者「勇者は……この役割を決めるとき、一番自己犠牲のでかい魔族になる役を志願した。」
女騎士「……」
西の勇者「でもよ、北の女勇者が女の方が都合がいいと、やつも志願した。どちらも譲らず……王の意見でコイントスで決めることになったんだ」
西の勇者「表なら勇者が魔族になり、魔王軍へ潜入」
西の勇者「裏なら北の女勇者が魔族になる……結果は」
女騎士「裏だったのね」
西の勇者「そーゆーこった。あの時、表が出てたら今頃勇者は魔族の身体だ」
女騎士(それであんなに彼女を助けようと……)
西の勇者「あいつは、のらりくらり人助けばっかの緩い勇者にみえるかもしれねぇが……あいつにも覚悟があってよ」
西の勇者「俺様は……あいつこそが“勇者”だと思う。誰よりもな」
女騎士(私もそう思う……最初は私利私欲の為だったかもしれない。でも、今の勇者は自分ではなく人の為に戦ってる)
西の勇者「お前も王のシナリオの一部だ。覚悟を決めろ」
女騎士「“勇者”とは汚れ仕事。」
西の勇者「そうだ、戦争を終わらせる。それが最優先だ」
女騎士「…………」
女騎士「わたしが」
女騎士「わたしが世界を変えるっ!」
西の勇者「へっ……これで、お前もこっち側の人間だ」
女騎士「……。ゴロツキ」
西の勇者「あ?」
女騎士「一つだけお願いがあるの」
西の勇者「んだよ?」
女騎士「あのね…………
………………
最終章その二 終。
< 最終章 その終 最後の犠牲 >
ーーー中央大陸 王都・第二訓練場ーーー
ガヤ……ガヤ……
兵士「全体ブリーフィングが始まるぞ……」
兵士「ついに最終決戦だな」
兵士「南大陸はほぼ壊滅したらしいぞ……」
ガヤ……
ガヤ……
兵士「静粛にっ! これより新騎士団長である女騎士様より作戦の説明をしていただくっ!」
シーーーン……
女騎士「ついに! 最終決戦の時が来た! 皆命を捧げよっ!」
兵士一同「おおおっ!」
兵士「あの方が魔都の救世主……」
兵士「たったひとりで魔都軍をまとめ、大勢救ったらしいぞ」
女騎士「魔王軍は南大陸の街をほぼ侵略し、我が王都のすぐ目の前まで来ている。もう一刻の猶予もない」
兵士一同「……」
女騎士「先日、勇者様が旅から戻られたのは皆も知っていると思うが、その手には聖剣を持っておられた」
兵士「おお、さすが勇者様」
兵士「あの伝説の…」
兵士「ついに見つけたのか…」
女騎士「我々は! 勇者様と共に魔王軍の本拠地『魔王城』へ侵攻する!」
兵士一同「おおおっ! やるぞぉ!」
兵士「家族を守るっ!」
兵士「勇者様のために!」
女騎士「我々王都軍は魔王城の正面から侵攻、勇者様パーティは裏の海から城へ侵入。魔王を撃つ!」
兵士「魔族どもを蹴散らす」
兵士「家族の仇だ!」
兵士「命に代えても奴らを倒す!」
兵士一同「やるぞぉぉおおおおお!」
オオオオオオオオオゥッッ!!!!
女騎士(これが……勇者の名声……勇者が培ってきたもの)
…………
夜。
ーーー中央大陸 王都・王宮空中庭園ーーー
勇者「女騎士さん、すごく立派だったよ」
女騎士「……これで最終決戦の準備は整ったのね」
勇者「ここ、覚えてる? 俺と女騎士さんが初めてあった場所」
女騎士「勇者パーティに入ることが決まって……ここで貴方を紹介されたわね」
勇者「最初は騎士ってオーラ全開だったなぁ……言葉遣いとかさ」アハハ
女騎士「ゆ、勇者だって最初はすっごい腰引くかったよ。変な勇者だと思った!」
勇者「今でも低姿勢のつもりだけどなぁ」
女騎士「すぐ私だけには遠慮しなかったじゃん」
勇者「キミは“勇者”にもガツガツ言ってきたから。……うれしかった。」
女騎士「色々あったわね……洞窟で迷ったり盗賊にと戦ったり、敵に捕まったり……砂漠ではぐれたり」
勇者「空大陸ではもうダメかと思ったし」
女騎士「いつだって力を合わせて切り抜けてきた」
勇者「ケンカしたり笑ったり、泣いたり……」
女騎士「……」
勇者「“俺達”なら魔王にだって負けない」
女騎士「勇者……私……」
女騎士「貴方にはついていけない」
勇者「?!?!」
女騎士「……私はパーティを抜ける」
勇者「な、なんで?」
女騎士「私も残って、王都軍に参加する……」
勇者「……っ」
女騎士「私の命令で戦う人たちの為に、最後まで総隊長として陽動作戦に参加するわ」
勇者「い、いや……だめだ」
女騎士「もう決めたの」
勇者「だめだよ、俺と一緒に魔王と戦うんだ」
女騎士「私の代わりは、ゴロツキ勇者のところの戦士にお願いしておいたわ」
勇者「だめだ、キミが一緒に来るんだ」
女騎士「今、私はこの国の騎士団長。無責任な命令だけでは終われないわ」
勇者「魔王を倒すことッ! 戦争を終わらせることが最優先だろ?!」
女騎士「しっかり陽動できるかで、この作戦の勝率は変わってくる」
勇者「何言ってるんだ……キミは俺のパーティメンバーだろ」
女騎士「今この場でパーティは抜ける。王都軍の総隊長として魔王軍と戦う」
勇者「陽動作戦なんだっ?! 死んでしまう!」
女騎士「……そういう作戦だもんね」
勇者「だめだッだめだ! 許さない」
勇者「俺には……」
勇者「キミだけは犠牲に出来ないッ!」
女騎士「……っ!」
勇者「いやだ……いやだ……」
女騎士「………勇者」
女騎士「これまでの犠牲を無駄にする気?! 」
女騎士「ふざけないでっ! 貴方は“勇者”なのよ! 何があっても……聖剣が折れたって、仲間が死んでしまったって……」
女騎士「貴方は戦わなきゃいけない。魔王を倒さなきゃいけない!」
勇者「キミが……」
勇者「キミが、俺に架せられた犠牲……なのか?」
女騎士「みんな犠牲を払ってきたわ。貴方が一番知ってるでしょ……」
勇者「う、う……うああああああああっ!!!!」
女騎士「勇者、魔王を倒して……お願い」
女騎士はパーティを抜けた。
…………
…………
…………
勇者、女魔法使い、女僧侶、戦士は魔王討伐へ
女騎士は総隊長として王都軍とともに陽動作戦へ
女騎士(信じること、それがチームワークだったわよね)
女騎士(勇者、信じて……)
ーーー魔大陸ーーー
魔王城まであと2キロ地点を、王都軍約1000人が歩く…
総隊長「全軍っ!! 進めっ!」
[女騎士「こんな勇者についてけねぇ」] END
ありがとうございました!!
読んでくれた方、レスくれた方ありがとうございました。
中途半端な終わり方に見えるのは訳があります。
前に書いたSSのエピソードゼロ的なもので書き始めました。色んなアイディアを詰め込んでいたら長くなってしまいましたが、これでこの物語は終わりです。
その後の話……
兵士「勇者の為に死にたくねぇ」
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1395806984
最終決戦の話です。主人公もテーマも違うのでまったく別物の物語ですが、時間軸と舞台は一緒です。一応……
すごく短いです。こちらも見ていただけたら幸いです。今年の4月のSSで今より更に未熟な感じですが。
今回も、もっと簡潔にすれば良かったとか、キャラクター性をもっと付けれればよかったとか反省点は沢山ありますが、酷評もいただけたので次回作に生かしたいと思います。
本当に最後まで読んでくれた方、ありがとうございました!
>>243
上官=女騎士だと思う
台詞も一緒だし
>>244
その通りです!
読んでくれた方、ありがとうございました!
html化依頼します!
このSSまとめへのコメント
つまんね