~ 天界 ~
神「五つの魂よ」
神「お前たち五人はもうすぐ、新たな人間となって地上で生まれ変わる」
男A「はい」
男B「はい」
男C「はい」
男D「はい」
女「はい」
神「お前たちは近年生まれ変わる魂の中で、もっとも優秀な五人といえる」
神「そこで、お前たちにはあることを競い合ってもらおうと思う」
男A「あることとは?」
神「うむ、ずばり金を稼いでもらう」
神「お前たちはまもなく赤子となって、地上にて生まれる」
神「五人の中で、生まれてから死ぬまでに一番金を稼いでいた人間が優勝だ」
神「正確にいえば、死んだ時に一番金を持っていた人間が優勝、ということになる」
男B「もし優勝したら、どうなるのですか?」
神「優勝した者は、私の次の神へと任命する」
神「残りの四人は補佐に回ってもらう」
男C「なるほど、次の神を決めるための試練というわけですか」
神「うむ、指標は分かりやすい方がよいと思ってな」
男D「しかし、我々五人は長年の天界生活でまったく物欲がありません」
神「その点は心配無用だ。生まれ変われば、ここでの記憶はなくなるからな」
女「記憶が消えてしまえば、私たちは競うことができなくなるのでは?」
神「それも心配いらない」
神「お前たちには“五人の中で死ぬまでに一番金を稼いだ者が勝ち”という使命感を」
神「本能レベルで刻みつける」
神「物心がつけば、お前たちはその使命感に乗っ取った行動を取るようになろう」
神「“他の四人に負けないように”とな」
神「さて、まもなくお前たちはまったく異なる場所で生まれ変わる」
神「お前たちがどのような生き方をすることになるか、それは私にも分からぬ」
神「干渉することもせぬ」
神「さぁ、地上へ降りるがいい」
男A「はい」
男B「はい」
男C「はい」
男D「はい」
女「はい」
五つの魂は地上へと降り、転生を果たした。
数年後──
~ 幼稚園 ~
男児A「……9×7=63、9×8=72、9×9=81」
保母「まぁ、もう九九ができるの?」
男児A「こんなのじょのくちだよ」
男児A「ぼくはいっしょうけんめいべんきょうして」
男児A「おかねをかせげるしょくぎょうについて、おおがねもちになるんだ!」
保母「まぁ、すごい!」
保母(ずいぶんませた子ね……。ご両親が英才教育をしてらっしゃるのかしら)
もちろん彼だけではなく、他の四人も頭角を現し始める。
男児B「だあああああっ!」タタタタタッ
男児B「やったぁ、いっとうしょう!」
母「すごいわ!」
父「よくやったな!」
男児B「ぼく、しょうらいはスポーツせんしゅになって」
男児B「いっぱいおかねをもうけるんだ!」
母「うふふ、頼もしいわね」
父「だけど、運動神経は抜群だし、夢物語じゃないかもしれないぞ」
男児C「はい、ぼくのかちぃ~!」
級友「ちぇっ、まけたぁ~!」
男児C「じゃあビスケットいちまいちょうだい」
級友「わかったよ、ほら」ポイッ
級友「おまえって、かけごとはめっぽうつええもんなぁ~」
男児C「なにかをかけるこのスリルが、たまらないんだよね~」
男児C「それにぼく、かけごとでおかねもちになろうとおもってるからさ」
男児D「よこせっ!」バシッ
男児D「よこせっ!!」ベシッ
男児D「よこせっ!!!」ドカッ
うぇぇ~ん…… うわぁ~ん…… とられたぁ~……
男児D「いいかおまえたち、チクったりしたらぶんなぐるからな!」
男児D「へへへ、これがいちばんてっとりばやいや!」
女児「ねえねえ、おんぞうしくんってかっこいいね」
御曹司「え……」ドキッ
女児「アイス、おごってくれない?」
御曹司「もちろんいいよ!」
女児「じゃあ、おれいにチューしてあげる!」チュッ
御曹司「あ、ありがとう……」ポワァァ…
御曹司「またアイスおごってあげるからね!」
女児(ふふっ、ちょろいもんね)
五人は順調に成長していった。
男A「いっぱい勉強して、金の儲かる職業につくんだ!」カリカリ…
~
男B「体を鍛えて、いっぱいお金儲けしてやる!」タッタッタ…
~
男C「大金を賭けるこの瞬間がたまらないね!」ゾクッ
~
男D「オラッ、オラッ、金出せやぁ!」ドズッドズッ
~
女「ねぇ、ブランド物のバッグ買ってぇ~」ウフン
さらに年月は流れ──
“男B”は“アスリート”になっていた。
記者「世界大会優勝、おめでとうございます!」
アスリート「どうもありがとう」
記者「今後はどうされるつもりですか?」
記者「すでにプロから誘いが来ているという情報もありますが……」
アスリート「ああ、プロに転向するつもりでいるよ」
アスリート「契約金も満足いくものだったしね」
オォ~……!
ザワザワ…… ドヨドヨ……
夜道を一人歩くアスリート。
アスリート(いよいよボクもプロか)
アスリート(他の四人がどんな人生を歩んでいるか知る由もないが)
アスリート(プロスポーツ選手として稼ぎ、引退後もタレントや指導者として活躍すれば)
アスリート(ボクの優勝まちがいなしだ!)
ところが──
殺し屋「よぉ」ヌッ…
アスリート「な、なんだ君は!?」
殺し屋「五人のうちの一人、だ」
アスリート「な!?」ギクッ
殺し屋「その反応、ビンゴだな」シュッ
ドスッ……!
アスリート「ぐ!?」
アスリート(わ、脇腹を、ナイフで……!)
殺し屋「いくら体を鍛えてても、戦闘に関しちゃしょせんアマチュアだな」
アスリート「ど、どうして……ボクが五人のうちの一人と分かった……?」
アスリート「ボクらは互いの素性は分からないはず……」
殺し屋「そんなもん簡単さ」
殺し屋「ガキの頃からオレの中、いやオレたちの中に巣食ってる謎の使命感──」
殺し屋「“五人の中で死ぬまでに一番金を稼いだ人間が勝ち”」
殺し屋「この五人は同じ日に生まれたにちがいない、と考えるのは自然だろ?」
殺し屋「なら自分と生年月日が同じで、なおかつ大金を稼げる地位にいる奴を探せばいい」
殺し屋「長年裏社会で揉まれたから、そういうことはお手のものだからな」
殺し屋「スポーツばっかやってたお前にゃ思いもつかない発想だろ」
アスリート「な、なぜボクを殺す……」
アスリート「ボクを殺しても、ボクの金はお前の懐には入らないぞ……」
殺し屋「オレは最初、このゲームで優勝するためには」
殺し屋「カツアゲなり強盗なりで、金を奪いまくればいいと考えていた」
殺し屋「だが、いくらなんでもそれは限界がある」
殺し屋「だから悪知恵のはたらくオレ様はもっといいことを思いついたのさ」
殺し屋「他の四人を探し出して消しちまえばいい、ってな」
殺し屋「残る三人もすでに目星はつけてある。全員消せば、オレが優勝だ」
殺し屋「なんで優勝しなきゃいけないのかは分からねえが」
殺し屋「オレはとにかく優勝しなきゃならねえ」
殺し屋「残念ながらお前はここでリタイアだ。じゃあな」
アスリート「ううぅ……」ガクッ
アスリートを殺害した“殺し屋”は“男D”が成長した姿であった。
一方、“男C”は“ギャンブラー”になっていた。
ギャンブラー「フルハウスだ」パサッ…
ギャンブラー「アンタの持ってる資産と利権、全部いただくよ」
外国人「オーノー!」ガーン
手下「すごいですぜ! 世界的な資産家を破りに破りまくるなんて!」
ギャンブラー「ああ、今日はツイている」
ギャンブラー「おそらく、俺のギャンブル人生で最高潮といえる日だろう」
ギャンブラー「さてと、今日は護衛は不要だ。一人で勝利の余韻に浸りたいんでな」
手下「へいっ! お気をつけて!」
ギャンブラーが一人きりになったところで──
殺し屋「よぉ」スッ…
ギャンブラー「ん?」
殺し屋「護衛をつけてねえとは、しくったな」
殺し屋「やはり、稀代の勝負師とて大勝負の後は気が緩むもんなんだな」
ギャンブラー「俺のことを調べ上げてるようだな……」
ギャンブラー「お前も五人のうちの一人、か……?」
殺し屋「確認する手間がはぶけた。俺のナイフでくたばってもらうぜ!」シュッ
ドスッ……!
ギャンブラー「ぐ、は……っ!」
殺し屋「ふん、手ごたえのない奴だ」
ギャンブラー「や、やはり……今日の俺は……」
ギャンブラー「ツ、ツイて……る……」ガクッ
殺し屋「なにいってやがる。ツイてるというかナイフで突かれてるじゃねえか」
殺し屋「これでこいつももう、金を稼ぐことはできない……」
殺し屋「残り二人もすぐに消してやる!」ニヤ…
~ 大病院 ~
ナース「先生、お疲れ様です!」
医者「君もご苦労様」
ナース「今日も大手術でしたね!」
医者「うむ、しかし成功してよかった。彼は日本有数の大企業の社長だからな」
医者(むふふ、これでまた寄付金で儲けることができる)
医者(こうやって儲けていけば、私に課せられた使命を達成することができる!)
“男A”は猛勉強の末、“医者”となっていた。
~ 医者の自宅 ~
殺し屋「よぉ」
殺し屋「アンタはなかなか一人きりにならねえから待たせてもらってたぜ」
医者「──む、誰だね君は!? まさか強盗か!?」
殺し屋「こういえば分かるんじゃねえか? 五人のうちの一人……だってな」
医者「!」ビクッ
医者「ひっ、ひいっ!」ガタッ
ガシャァンッ! ビチャビチャッ……
殺し屋「ビンゴだな……。クックック、動揺しすぎだぜ」
殺し屋「安心しな、一瞬で楽にしてやるからよ」サッ
医者「ふ……」
医者「ふっふっふ……君の敗因を教えておこう」
殺し屋「あ?」
医者「それは私に気づかれぬまま私を殺さなかったことだ」
医者「もっとも、私を“五人のうちの一人”と確認してから殺さねば意味がないから」
医者「そうすることはできなかったんだろうがね」
殺し屋「なにいって──うっ!」グラッ…
殺し屋「ぐおぉぉ……!」ドサッ…
医者「さっき割った容器に入ってた液体は、すぐに気化する猛毒だ」
医者「世界でこの毒が通じない人間は、この私だけ……」
医者「なぜなら毒を作ったのは他ならぬ私なのだからね」
医者「対をなす薬物で耐性ができているのだ」
殺し屋「う、ぐぐ……」
殺し屋「な、なんでこんな準備、が……?」
医者「私はめいっぱい勉強したのだ。それこそ君とは比べ物にならないほどにね」
医者「君のような短絡的な低学歴が考えることなどお見通しさ」
医者「いずれ他の四人のうちの誰かが私を殺しに来ることは分かっていたのだよ」
殺し屋「ち、ちくしょぉ……」ガクッ
医者「ふう、危ないところだった」
医者(さて、毒と死体を処理したら、今晩は久々にパーッとやるかな)
~ 繁華街 ~
美女「うふぅ~ん」
医者「!」ピクッ
美女「ねえ、あなた、とってもステキな方ね」
医者(おおっ、なんという美しい女性!)
美女「もしもおヒマなら、あたしに付き合って下さらない?」
医者「いいともいいとも! 今夜はパーッとやるつもりでいたからね!」
医者はすっかり美女のとりことなってしまい──
美女「ねぇあなた、あたしを愛してるなら、お金ちょうだ~い」
医者「いいともいいとも!」
医者(この人はなんとすばらしい女性なのだ!)
医者(私の使命を忘れさせてくれるほどの魅力! やはり美女というのは最高の娯楽!)
医者(私はこの女性に全てを捧げるぞ!)
美女(バ~カ、いいカモだわ)
この“美女”が、“女”であることはいうまでもない。
結局、医者は全ての財産を吸い取られてしまうことになる。
美女「やったわ! あたしが優勝よ!」
~ 天界 ~
神「……さて、全員天に召されたようだな」
神「再び天界の住人になったことで、生まれ変わる前の記憶も戻ったであろう」
神「では、もっとも金を稼いでいた人間……つまり次の神を発表する」
神「優勝者は──」
アスリート(一番長生きしたし、美女が優勝だろうなぁ)
殺し屋(ふん、美女だろ……)
医者(美女だろうなぁ……私の全財産持っていかれたし)
美女(ふふふ、数々の男を骨抜きにしたあたしに決まってるわ!)
神「ギャンブラーだ」
ギャンブラー「……」ニヤ…
他の四人「!?」
殺し屋「ちょ、ちょっと待ってくれ! なんでギャンブラーなんだ!?」
殺し屋「ギャンブラーはオレが早々に始末したはずだ!」
美女「そうよ! それに、あたしが一番来るの遅かったじゃないのよ!」
神「なにをいっておるか」
神「この試練は殺し殺されや、長生きを競うものではない」
神「勝敗の基準は、あくまで“死んだ時にいくら金を持っていたか”なのだ」
ギャンブラー「そういうことだ」
ギャンブラー「殺し屋に殺された日、俺はまれに見る大勝をしていたからな」
殺し屋「そ、そうか! お前が死ぬ間際にツイてるっていったのは──」
ギャンブラー「あれ以上長生きしてたら、多分また別のギャンブルをやって」
ギャンブラー「スッてただろうからな。あそこで殺されたのは幸運だったのさ」
ギャンブラー「儲けたらさっさと下りるに限る……ってわけだ。ギャンブルの鉄則だな」
ギャンブラー「護衛もつけず一人でぶらぶら歩いていたのも」
ギャンブラー「“一人で歩いていれば誰かに殺されるかも”という賭けだったんだ」
殺し屋「そういうことかぁぁぁ!」
医者「そしてみごと、人生で一番金を持っていたと思われる瞬間に殺されたというわけか」
アスリート「自分の命をも賭けに使うなんて……とてもボクには無理だよ」
美女「何人もの男をとりこにしたあたしが負けるなんて……」
美女「どんだけ大勝してたってのよ……」
神「それではギャンブラーよ、約束通りお前を次の神に任命する」
神「私はもはや無用の長物、ここで消えるとしよう」シュゥゥ…
ギャンブラー「神様が消えた……。これで俺が神ってわけか」
アスリート「仕方ない、ボクたちは負けたんだ。神様に従うよ」
医者「うむ。神が決まった以上、もはやこの五人で争う意味はない」
殺し屋「もう恨みっこなしだ。しっかりやれよ、神様!」
美女「ファイト、神様!」
ギャンブラー「神様ってのはやめてくれ。なんか照れ臭いからさ」
こうしてギャンブラーは四人の補佐を従え、神となった。
しかし、いきなりギャンブラーの悪い癖が出てしまう。
ギャンブラー(いつまでたっても地上は平和にならない……)
ギャンブラー(そうだ!)
ギャンブラー(人類の中で、指導者的立場にある人物を俺の好きなように動かそう!)
ギャンブラー(うまくいけば人類は平和になるし、失敗すれば滅亡!)
ギャンブラー(全人類ギャンブル……やってみるか!)
ギャンブラーはサイコロを振るような気軽さで地上に干渉し、
結果、地上では核戦争が起こり人類は滅亡した。
ギャンブラー「くそっ……賭けは失敗に終わったか!」
~ 廃墟となった惑星 ~
医者「……どうやら、わずかな微生物以外は滅びてしまったようだ」
殺し屋「なぁ~にやってんだよ、ギャンブラー!」
美女「軽率にもほどがあるわ! 神様のくせして!」
ギャンブラー「……すまん」
ギャンブラー「いつまでたっても地上が平和にならないから、つい賭けに出てしまって」
アスリート「やっちゃったことは仕方ないさ。ボクたちでまた星を作り直そう!」
殺し屋「それしかねえか」
美女「めんどくさいわねぇ」
医者「では私が生物を作ろう。クローン技術を用いればなんとかなるはずだ」
アスリート「ボクは地上を走りまわって、大地を整えるよ」タタタッ
殺し屋「んじゃ、オレはこのナイフで大地を切り分けるぜ」ズバッ
ギャンブラー「みんな、なかなかやるじゃないか」
ギャンブラー「あと……できれば水も欲しいところだが……」
美女「水ならいっぱい用意してきたわよ」ジャバッ
ギャンブラー「おお、これで海ができる! だけど、どうやって用意してきたんだ?」
美女「なんたって、あたしは水商売をやってたからね」
ギャンブラー(え、そんな理屈?)
やがて、ギャンブラーたちの努力が実り、惑星は復活した。
殺し屋「やったな! あとは生物が進化して人類が繁栄するのをのんびり待つだけだ!」
アスリート「体力には自信あるけど、さすがに疲れたよ」
美女「ねぇ、せっかくだからこの星に名前をつけてあげたら?」
ギャンブラー「そうだな……。じゃあ、“地球”にでもしてみるか」
医者「おお、なかなかいいネーミングですな」
これが地球誕生の真相である。
それから膨大な時が経ち──
~ 天界 ~
ギャンブラー「……」ウズウズ…
ギャンブラー(そろそろまたやりたいな……全人類ギャンブル……)
ギャンブラー(地上ではもうそろそろ2014年ってのが終わるらしいけど)
ギャンブラー(その頃にやってみるか……)
はたして地上は平和になるのか、それとも──
END
以上で終わりです
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