【咲-Saki-】宥「原発あったかーい」 (28)
玄「お姉ちゃん、奈良に原発はないのです」
憧「あー…宥姉はあったかいの好きだからね」
穏乃「いやいや!?あったかいってレベルじゃないよ!?一瞬で炭になるよ!」
灼「炭も残らないと思…」
ガラッ
晴絵「よーし、今日も特訓だぞみんなー」
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宥「えへへ…あったかい牌…」
宥手牌
3344666889s発発発 ツモ:2s
打:9s
玄「お姉ちゃんが…赤くない牌で喜んでる?」
穏乃「え?赤くないの?」
憧「対局中に言うのはどうなのよ?」
灼「いくらこれが練習で、宥さんと玄が姉妹でも、流石にマナー違反だと思…」
玄「…多分これ止められないから関係ないのです」
宥「ツモ、アトミックエナジー。16000オール」
憧「…は?緑一色?宥姉が?」
宥「燃料棒と発電所…あったかーい…」ウットリ
晴絵「これは…今はたまたま緑一色だったけど、見たところ1索以外の索子と発か…宥、赤い牌はどうした?」
宥「原発のあったかさに比べたらコタツとマッチの火ぐらいの差がありますよぉ」
晴絵「そうか…原発のエネルギーは圧倒的、使い方を誤るなよ」
宥「あったかーい」ホクホク
奈良県予選
先鋒戦
『お見せしよう、王者の打ちしゅじを!』
『ツモ、8000オールです』
『は?』
『ツモ。ドラ6』
『おいバカやめろふざけるな』
『ドラゴンドラゴン』
『そうか、ドラを独占するのかこいつ。王者舐めんな』
『ふええ…』
『何とかプラスで終わったか…東場の失点が痛かった。すまん、後は任せるぞ』
奈良の王者、晩成高校。
その先鋒を務める彼女は、わずか数局で玄の性質を見切った。
彼女が和了出来たという事実がそれを示している。
普通、待ち牌の残り枚数が同じならドラに絡む面子を残す。
小走やえほどの打ち手であれば、牌効率は期待値まで含めた最善を追及していることは間違いない。
必然、玄が居る以上絶対に和了れないドラカンチャンなどの待ちも、玄の性質に気付かないままなら残してしまう。
小走やえが強い打ち手であるからこそ、玄の性質に気付かないままなら和了れるはずがないのだ。
事実、春日野高校の先鋒が2万程度の失点で済んだのに対して、比較的格上のはずの荒蒔高校の先鋒…昨年の県個人戦の8位は、この半荘で5万点以上を失った。
しかし、小走やえは玄の性質を見切り、ドラが来ないことを前提とした最大効率の打牌に切り替えた。
松実玄のツモにより東場で2万点を超える失点した状態から、プラス15000以上を獲得した状態で半荘一回を終えて見せたのだ。
南場だけで四万点近くを獲得したことになる。
通常の25000持ちなら、東風で7万点に迫る勢いで、しかもドラなしの状態で稼いだと言えば、この小走のすさまじい強さが伝わるだろうか?
圧倒的な力を持つ王者は、しかし、敗北した。
もしこれが決勝であったならば、ここから半荘をもう一度打つことになる。
それが許されるならば、晩成高校は阿知賀を逆転した状態で次鋒の丸瀬紀子にバトンを託すことが出来ただろう。
あるいは、松実玄の性質を見抜いてから始めることが出来る二回戦であれば、小走やえはトップで半荘を終わらせただろう。
例年ならば晩成はシード校になるところを、阿知賀女子をはじめとして、例年参加しない数校が参加したことで、一回戦での阿知賀ー晩成の組み合わせが実現した。
晩成にとっては最悪の、阿知賀にとっては最高の、奇跡ともいえる偶然の重ね合わせの結果だった。
ただし、どのような経過を辿っても次鋒戦以降の結果は変わらなかっただろう。
次鋒戦
『あったかーい。3000、6000』
『は?』
『ツモ。6000オール』
『ちょっと待って…』
『原発ってあったかいよね、24300』
『ぐああああ!?』
『私、あったかいの大好きなんだ。8200オール』
『くそっ、化け物め…』
『ツモ、アトミックエナジー』
55566677799s発発 ツモ:発
憧「前は緑一色をアトミックエナジーって言ってなかった?」
晴絵「役満は全部アトミックエナジーなんだろ」
灼「次鋒の東場で終わった。すご…」
第71回全国高等学校麻雀選手権大会
その大会において、阿知賀女子の次鋒、松実宥を相手に半荘一回を打ち切れたチームは存在しなかった。
晴絵「全国大会までの二か月、毎週二泊三日で各県の二位と闘う」
「「「「「はーい」」」」」
ーー
練習試合をした人の声
『…これは宮永さんと同じでヒトじゃない部類のお人やな、完敗ですわ』
『大将も一寸厄介だが…次鋒のこの力、下手をすれば世界を滅ぼしかねんな』
『もう麻雀やめますー!』
ーー
晴絵「各県の二位と闘って全勝か。いい感じじゃないか(全部宥が次鋒で終わらせただけだが)」
玄「けど、龍門淵の天江さんと三箇牧のあの人にはお姉ちゃん以外誰も勝てませんでしたよ」
晴絵「そりゃね。天江衣は昨年のMVP、荒川憩は去年の個人戦二位。あれにみんなが勝てるようなら、うちは全国優勝出来ちゃうよ」
穏乃「逆に言うと勝てないようなら全国優勝出来ない…」
晴絵「いやそのりくつはいろいろおかしい」
憧「天江さんと荒川さんに勝ってる宥姉が居るからね」
玄「それに、三箇牧が北大阪で二位なのは総合力で千里山に負けたから。だったら、私たちも総合力で勝てば良いんだよ」
灼「宥さんが一点突破も出来る。自信持と…」
穏乃「そっか…よし、頑張るぞー!」
宥「穏乃ちゃんあったかーい」
浜名湖SA、大阪や奈良から車で東京に向かうならちょうど中間ぐらいに位置するSAである。
松実宥は、そこで大きなバスが四台並んで停まっているのに気付いた。
宥「人がたくさん…あったかそう」
気付けば、周りには休んでいる様子の赤土晴絵しか居ない。
他のみんなは、おそらく休憩のために降りたのだろう。
自分に声をかけなかったのは、おそらく寝ているところを起こすのは悪いという気遣いから。
宥「先生、私、少し外を歩いてきますね」
晴絵「ん~、迷子になるなよー」
怜「大げさやな、何も飲み物買うのに四人ともついてこなくてもええやん」
セーラ「怜はほっとくと倒れるからな」
泉「独りで残されるんは嫌です」
浩子「高速道路のパーキングは空気が悪いですから、念のために」
竜華「うちはいつでも怜と一緒やもん!」
怜「ありがとな、みんーーーー」ゾワ
セーラ「ん?怜、どないしt---」ゾゾゾ
竜華「…これ、なんや?」ピキーン
浩子「江口先輩まで…って、あれは…」ピクン
泉「あれ、名前なんて言いましたっけ…阿知賀の次鋒…」ゾクッ
テク、テク
泉「宥…そう、松実宥…」
テク、テク
泉「奈良県大会を他家に一度も和了らせずに終わらせた、怪物…」
テク、テク
泉「うちの、倒すべき相手ーーー」
二条泉は、言葉にして、自らを「それ」に伍する敵として奮い立たせようとする。
しかし、卓についていない時点でもその力の差を感じ取ることが出来るほどに、彼女の力は強大だった。
公式戦和了率100%、平均打点21000超。
彼女が卓について、彼女以外の人間が和了した公式記録は、この時点では存在しない。
非公式の練習試合とはいえ、天江衣や荒川憩といった全国でも最強候補に名前が挙がる猛者を一蹴したほどの打ち手。
正真正銘の、怪物。
すれ違うだけで、二条泉は身心ともに凍えきっていた。
宥(お日様、あったかーい♪)ルンルン
インハイ 一回戦
遊月「ロン、11600」
玄「ひうっ!?」
遊月(県大会じゃ稼いだようだけど、全国じゃそうはいかないよ。あの次鋒に回すとヤバい、ここで飛ばさないと…)
寺崎遊月は昨年の個人戦の15位である。
奈良の王者、大阪の荒川、宮永照と辻垣内智葉…ベスト16までそういった面々との対決がなかったとはいえ、十分すぎる実績。
二年生にしてベスト16というのは、運だけでなく、確かな実力に裏打ちされた結果である。
その遊月の実力であれば、玄の性質を理解していれば、玄を相手に半荘でトップを取ることなど容易い。
次鋒の松実宥の異常な成績から、阿知賀女子は全国からマークされている。
県予選の開催が奈良より遅かった県ではエースを次鋒に据える高校も多かった。
当然、遊月が属する射水総合高校も阿知賀を警戒し、牌譜の研究を行った。
ゆえに、玄の性質は理解できている。
対策も完璧。
遊月が玄に負けることはない。
しかし、玄にただ勝っても意味はない。
チームの勝利のためには、ここで玄を飛ばす必要があった。
そして、それは叶わなかった。
当たり前だが、半荘二回で、ドラを使わずに、特定の相手を10万点削るなどというのは、もはや人間業ではない。
寺崎遊月は、確かな実力を持つ打ち手ではあったが、人外、牌に愛された子などと呼ばれる打ち手ではなかった。
玄「ごめんね、おねーちゃん、ちょっとヘコんじゃった…」
宥「大丈夫だよ玄ちゃん、お姉ちゃんが取り返してくるから…」
…
……
………
宥「ツモ、16400オール。終了ですね」
千里山 ホテルで一回戦の模様を観察
セーラ「あの姉妹は厄介やけど、妹のほうには穴があるな」
竜華「せやな」
怜「私があの妹から毟る、次鋒の泉が固く打てば、うちらが三位に落ちることはないやろ」
セーラ「ああ…とりあえずーーーー」
『ーーーこの阿知賀ってのとうちらが準決に行くのは間違いなさそうや』
二回戦
怜「ツモ。2000、3900」
怜「リーチ」
(((出た、園城寺怜のリーチ…これは、誰かが鳴かないと一発でツモられるーーー)))
怜「ツモ。3000、6000」
怜「リーチ」
ソフィア(二連続だとー?)
美幸(もうヤダこのひともー!)
玄(これが全国…一万人の頂に近づくとーーー)
怜「ツモ、4000オール」ゴゴゴ
玄(ーーーとんでもない人がいる!!)
玄(けどまあ、トバなきゃおねーちゃんが何とかしれくれるのです)ケロッ
ーー
『二回戦終了ーーー!まさかまさかの大逆転!阿知賀女子松実姉妹、今大会すべての試合をこの二人で決めています!』
『いやあー、妹ちゃんの方もすげーけど、お姉ちゃんのほうは化けもんだねえ。多分あたしより上だよ、やってみなきゃわかんねーけど』
『越谷高校の浅見選手、剱谷高校の依藤選手、ガックリとうなだれています』
『相手が悪かったねえ…ご愁傷様』
その夜
「「「「「ベスト8おめでとー!」」」」」
晴絵「浮かれるのもほどほどにしないと明後日が辛いよ」
灼「ハルちゃん…」
晴絵「今日は千里山に何点差だった?」
憧「えっと…9万?」
晴絵「明後日の準決勝には、それより強い高校が出てくる」
穏乃「」ゴクリ
玄「全国ランキング一位…白糸台高校」
晴絵「そう。今日お前たちと9万点差だった千里山高校、それより強いと言われる白糸台、そして、北九州の強豪新道寺…この三校を相手に二位以内にならなければ決勝には行けないんだ」
憧「うん、わかってるけど、9万差ってプラス9万だからね?」
晴絵「私たちの決勝進出は、良く言えば確定、悪く言ってもーー確実」
玄「あの…だったら浮かれてもいいんじゃ?」
晴絵「…確かに」
宥「えへへ、あったかーい」
しかし、九州にはとんでもない魔物が居た。
準決勝第一試合 先鋒戦
園城寺怜の決死の闘牌と宮永照の猛威にさらされ、姉に頼りきりの玄が無残に削られた阿知賀女子は、残り二万点を切るところまで追い込まれる。
本来なら、絶対的エース松実宥が、ここで試合を終わらせる勢いで猛追するはずだった。
しかし、この次鋒戦で松実宥が和了ることはなかった。
奈良県より一週間遅れて予選が始まった福岡予選。
奈良県の名門晩成を蹴散らした松実宥を警戒した新道寺高校は、本人の希望により、本来中堅に起用するはずだった彼女を対松実宥の切り札に据えた。
原子の力で索子と発を集める彼女にとっての、天敵をーーー
仁美「原発反対!原発反対!なんもかんも政治のせい!なんもかんも政治のせい!」
宥「こ、このひと…あったかくない…」
菫「ロン、8000」
仁美「おうっ!?なんもかんも政治が悪い…」
泉「あ、ダブロンです。こっちも8000」
仁美「げふう…」
阿知賀女子は二位の千里山との差を詰められないまま、四位に転落した新道寺が飛ぶのを見守るしかなかった。
『原子力反対!原子力反対!』
飛び終了で負けが決まるその瞬間まで、江崎仁美は反原発を唱え続けた。
それは意地か、あるいは信念か?
はたまた、自身がトビの危機に瀕したとしても、松実宥を抑えることが最善と判断したのだろうか?
いずれにせよ、現実は残酷だ。
彼女の思惑がどうであれ、彼女に突き付けられた結果は、飛び終了による敗北。
控室に佇む新道寺の面々には、やりきれない悔しさをにじませた表情が浮かぶ。
自滅に等しい打牌に巻き込まれて三位に終わった阿知賀女子の面々にも、同様に悔しさがにじんでいた。
せめて、松実宥を封じた新道寺が準決勝に駒を進めてくれたのなら、割り切れたのかもしれないが。
松実宥は思う。
こんなに暖かいものを、何故拒絶するのかと。
単純に温度が高いだけではない。
資源に乏しい日本に、暖かい火を灯してくれる原発を何故否定するのかと。
この世界では、原発事故は一度も起きていない。
ゆえに、松実宥には理解できない。
しかし、江崎仁美は知っていた。
異世界、こことよく似た世界で、多くの人に犠牲を強いた二度の原発事故が起きたことを。
そのうち一つは彼女の暮らす日本で起きたことを。
その世界ですら、原発を受け入れる人は居る。
しかし、彼女は受け入れなかった。
そう、彼女は信念のために散ったのだ。
誰にも原発の危険が理解されないこの世界で…
宥「ねえ、玄ちゃん?」
玄「おねーちゃん…ごめんなさい、私が、私が点棒取られてなければ二位で抜けられたかもしれないのに…」グスン
宥「ふふ、いいの、玄ちゃんは頑張ってくれたから。それよりも…」
玄「…?」
宥「帰りに、原発に寄って行こう?私、あったかいの大好きだから」
玄「…うん!」
槓
羊先輩に原発反対言わせたかったがために書いた、原子力使うのは誰でもよかった
ただそこに宥さんがいたから宥さんを選んだ
反省はしていない
原発いってメルトダウンに巻き込まれて溶けていく松実姉妹までかければ完璧なキチガイSSだった
乙
面白かったし乙だが大きな原発事故は3つだぞ
スリーマイル
チェルノブイリ
福島
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