女魔王「もうやめましょう」 男勇者「……」(19)

魔王「何度やっても無駄よ、私を殺して貴方も呪いで死んで。私が蘇って貴方も蘇って。永遠に終わらない」

魔王「私も貴方も、ひたすら同じことをしてきたでしょう? だったら、他のことをすればこの連鎖から逃れられるかもしれない」

魔王「それに、私も貴方も戦い以外の好きなことができる。恋愛だって結婚だって」

勇者「……俺は、戦うことしかできない」

勇者「いや、わからないんだ」

魔王「初めて口を開いたわね。大丈夫、私が教えてあげるわ」

魔王「これは、魔王の契約。一度受けたら後で拒否することはできない」

魔王「でも、悪い条件じゃないはずよ。どうするの?」

勇者「………………受けよう」

魔王「契約完了、ね」

魔王「じゃあまず、ここから連れ出してもらいましょうか」

勇者「……自分でできないのか?」

魔王「ええ、無理よ。城の周りには強力な魔力障壁が発生していて、それに触れると問答無用で魔力を吸いとられるの」

勇者「……ならどうやって出るんだ」

魔王「貴方が障壁の一部を破壊して、そこから出ればいいわ」

勇者「……わかった」

【魔力障壁前】

勇者「……ここか」

魔王「そうよ。さあ、壊してもらいましょうか」

勇者「……ビックバン」キュイイイ

バリイン!

魔王「流石ね」

勇者「……どうして、こんなものが出来た? 他の魔族が行き来するのにも不便だろうに」

魔王「貴方、意外と話すのね。これは、私が逃げ出すからでしょうね」

勇者「……逃げ出す」

魔王「16回目に復活したとき、もう何もかもが嫌になってここから逃げ出したのよ。すぐに捕まったけどね」

勇者「……」

魔王「ところで貴方、今回で何回目の復活か分かる?」

勇者「……いや」

魔王「27回目。馬鹿よね私達。26回も同じこと繰り返すなんて」

魔王「もっと早く貴方にこれを持ちかければ良かった」

勇者「……どうだろうな。俺は、今回じゃなきゃ受けなかったかも知れん」

魔王「あら、どうして?」

勇者「……俺は今回で初めてこの戦いに疑問を持ったからだ」

魔王「そうだったの。だとしたら、もし今より前に持ちかけてたらすっぱり断られて、聞く耳持たずと判断して不毛な戦いを続けてたでしょうね」

魔王「いつかこの連鎖から抜け出せると信じて。そう考えると、これはもの凄い偶然ね」

勇者「……そうだな」

魔王「さてと、話はここまでにして、早く行きましょう」

勇者「……ああ。飛翔魔法」バサッ

魔王「え、ちょっと待って!」

勇者「……どうした?」

魔王「私、翔べないのだけれど」

勇者「…………」スタッ

魔王「ごめんなさい……」

勇者「……」ガシッ

魔王「!?」

勇者「……?」

魔王「あの、お姫様だっこ?」

勇者「……そうしないと運べないんだが」

魔王「うん、そうよね、しょうがないわよね」

勇者「……何をそんなに動揺している?」

魔王「私、男の人に触られるの初めてだから……」

勇者「……そうか。行くぞ」バサッ

魔王「ひゃっ!」

勇者「……」バサッバサッ

魔王「うわあ、凄い……」

勇者(こうしていると、普通の少女のようだな)

勇者(口調も変わっているし、さしずめ魔王としての威厳を守る殻といったところか。……いや、威厳は無いな)

勇者(そういえば俺が助けた少女も気の強い言葉を殻に使っていたな)

勇者(あれは何年前だったか。久しく時間を意識していないな)

勇者(ん、俺はどこに行こうとしているんだ? 宛もなく翔ぶところだった)

勇者「……おい、どこに行くんだ?」

魔王「え、あ、そうだったわね。あの山のふもとに降りてもらおうかしら」

勇者「……」バサッ

【恐々山】

勇者「……着いたぞ」スタッ

魔王「ご苦労様。えーと……あったわ、ここよ」

勇者「……山小屋?」

ミス
勇者の最初のセリフ「さしずめ~」じゃなくて「あの口調はさしずめ~」

……さしずめの使い方あってるよね?

魔王「そうよ。ひとまずここに身を隠しましょう」

勇者「……何故、こんなものがあると知っている?」

魔王「前に私が逃げ出した時に使ってたのよ」

勇者「……それでは真っ先にここを探されるんじゃないか?」

魔王「ええ、だからここに長居する気はないわ」ガチャ

勇者「……そうか」

魔王「うわ、凄い埃……」

魔王「使ったのが16回目だから……550年前ね。550年もたったらこんなにもなるか」

勇者(550年……ということは俺達が戦い始めてもう1350年か。随分と長い間戦っていたんだな)

勇者(まあ、ずっと戦い通しという訳ではないが)

勇者(そういえば、最初の仲間はどのような最後を迎えたのだろうか。できることならば、彼女と一緒に最後を迎えたかった)

魔王「さすがに缶詰も食べられないわよね」

勇者(俺はこの1000年以上、何回の別れを繰り返した? 星の数程……というのは少し大げさだが、かなりの数の人間と出会い、そして別れてきた筈だ)

魔王「お腹空いたわね。食べられるものは何にもないし、さっさと引き上げた方が良いわね」

勇者(それもこれも、目の前の魔王のせいだ……と怒りにまかせて殺すのは楽だ。だがそれでは何も解決はしない。それどころかまた同じことをする羽目になる)

勇者(そう考えると今はこいつの言うことを聞いておくのが得策だな)

魔王「勇者、移動するわよ」

勇者「……わかった」

ーーーーーー

魔王「ここでいいわ」

勇者「……町? 大丈夫か?」

魔王「大丈夫よ。私の顔は人間には分からないし、貴方だって勇者には見えないみすぼらしい服で、しかも顔を隠して来たのでしょう? 気づかれる筈がないわ」

勇者「……何故知っている」

魔王「分かるわよ。何となく、だけど」

勇者「……」

魔王「あ、あとその服は着替えた方が良いわよ」

【町の宿屋】

魔王「ツインの部屋の一泊で」

主人「防音にしますか?」

魔王「あ、それでお願いします」

主人「かしこまりました。2-5の部屋へどうぞ」

勇者「……おい」

魔王「こっちの方が怪しまれないわ」

勇者「……」

【2-5】

魔王「中々広いわね。私の部屋程じゃないけど」

勇者「……そうだろうな」

魔王「でもあの狭っ苦しい場所の数倍、いいえ数十倍は良いわ」

勇者「……」

魔王「さてと、この町の観光でもしましょうか」

勇者「……あまり動かない方がいいんじゃないのか?」

魔王「多分平気よ。この町は魔物や魔族を嫌っているから、入ってこれない筈」

魔王「まあ、人型の魔族や無理矢理にでも入ってこようとする魔物はいるかもしれないわね」

勇者「……」

魔王「でも大丈夫よ。貴方が守ってくれるのでしょう?」

勇者「……そんなこと言った覚えはないのだが」

魔王「あら、勇者なのにか弱い女の子を守ってくれないのかしら?」

勇者「……か弱い?」

魔王「ええ、貴方よりはね」

勇者「……」

【自由の塔】

案内人「ここは1000年以上前、魔王の手のものから勇者が救ってくれた記念に立てられました」

魔王「あれきっと貴方のことよね」

勇者「……だろうな。俺以外の勇者の話は聞いたことがない」

案内人「おやそこのあなた、この像の勇者様に顔が似ていますね。写真、記念に撮っていきますか?」

勇者「……遠慮しておく」

魔王「何で撮らなかったの? 自分を模した像と写真を撮るなんてなかなかないわよ」

勇者「……記録を残しておくと色々と面倒だからな」

魔王「あ、それもそうね」

【永遠の剣】

案内人「この剣は勇者様がここを救ってくださった時、この町の守り神として置いて行ってくださった物です」

魔王「あれは偽物ね」

勇者「……ああ、本物は俺が持っている」

ミス

案内人「~勇者が救ってくれた~」じゃなくて

案内人「~勇者様が救ってくださった~」

魔王「まあ、別にいいわよね。貴方に何か不利益があるわけではないもの」

勇者「……そうだな」

魔王「さて、そろそろ暗くなるから戻りましょうか」

【宿屋2-5】

魔王「じゃあ私はお風呂に入るけれど、覗かないでね」

勇者「……?」

勇者「……」ボフッ

勇者(今日は長い一日だったな)

勇者(思えば、誰かとまともに話すのはかなり久しぶりだ)

勇者(話すというのが、こんなに疲れるとはな)

勇者(だが、今夜は悪い夢を見ずに眠れそうだ……)

勇者「……」グー

魔王「お風呂上がったわよ……あら、もう寝てる」

魔王「……寝てるわよね?」ツンツン

魔王「……よし」

魔王「こんなに長く外に出られたのは初めてね」

魔王「勇者がいなかったら私はまだあの城の中にいたのかしら」

魔王「……」

魔王「ありがとう、勇者」

勇者「……」

魔王「まだしたいことは沢山有るから、もうちょっと勇者には頑張ってもらうんだけどね」

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