なぜあなたは君はお前はてめぇはそうするのそうするんだ(72)


進撃小話。

誰かから誰かへ。

主にエレン絡み。


【ミカ→エレ気味のエレンからミカサへ】



「…何でお前は俺を守ろうとするんだ」




コイツはずっとそうだった。

いつどこでも、何をするにしてもそう。

「エレン、大丈夫?」

「私が代わりにやるからエレンは休んで」

余計なお世話だよ。

俺は俺のしたいことがあるし、俺の思惑がある。

なのにアイツはいつも俺より前へ出て、先に足を踏み入れる。

…まるで、俺が行く先に危険がないか確かめる様に。


いや、実際既に“様に”ではなくなっている。



アイツは俺より少し先を歩いて、自分がまず危ない目に遭おうとしているんだ。
俺の代わりに。俺が危険にさらされないように。


…まず、そこが俺は気に入らない。

確かにアイツは強い。

俺よりも優秀で、下手したら男の俺より頑丈な可能性もある。


…けど、俺は守られる程弱くはないと自負している。

それに、男が女に守られるなんてみっともないし、情けない。

初めて俺がアイツと会った時のように、俺がアイツを守らなきゃいけないんだ。



だが、アイツは聞く耳を持たない。


俺が何を言っても、

「大丈夫。エレンは私が守る」

の一点張り。


親友は「もう諦めたら?」と呆れてるし、訓練兵一優しい女子なんかは、

「それが彼女の優しさなんだよ!」

と言ってくれる始末。


優しさ?優しいんじゃない。

…過保護なだけだ。アイツは俺の保護者かなんかの気でいるんだ。
お前は俺の保護者じゃなくて家族だろうが。


…と、最近まではそう思ってたけど、どうやらアイツは俺の保護者でいるわけではないらしい。

この前、俺が文句を言ったときに、こんなことを言ってたっけ…。



「…なぁ」

「なに、エレン」

「…何度も言うけどさ」


「何でお前は俺を守ろうとするんだ?」


「お前は俺の保護者じゃねぇ。俺の家族だ」

「お前が俺を守る必要なんて何もないんだぞ」



「…その通り」

「はぁ?」

「私はエレンの家族。エレンは私の家族…」

「でも、私にとってエレンはただの家族ではない」

「…?」



「エレン、あなたは私を助けてくれた。……凍えるように寒く、うさぎが死ぬくらい孤独だった私を」

「そしてこのマフラーをくれて、私を家族に迎えてくれた」

「…それと同時に、エレン。エレンは私にとって無二唯一の人になった」

「私を救ってくれた格好いいエレン。
壁の外へ行くんだ、と目を輝かせる素敵なエレン。巨人を駆逐してやる、と息巻く危なっかしいエレン…」



「…そんなあなたの全てが愛しい」

「…」



「ねぇエレン。自分の好きで愛しい人に死んで欲しくない、生きていて欲しいと願う…」

「それは、おかしいことなのだろうか?」


「…」

「…それがあなたにとって迷惑だというなら今すぐ止める。もう貴方の前に現れもしない…」

「……決めて…………エレン」



「…バーカ」

「!」

「お前は極端なんだよ全く」

「…」


「…まぁ、俺がお前の立場だったらお前と同じようにするけどな………ミカサ」

「…いや、実際既にそうしてるよ」

「え…?」

「お前にアルミン、それにアイツらを守れるようにと、ずっと自分を鍛えてきた」

「お前らを守られる力が欲しくて、お前に守られるんじゃなくてお前を助けられる力が欲しくて……ずっと…」


「…え、エレン…」



「…けど、ようやくその力を手にすることが出来た…」

「俺はやる。やってみせる!!」

「…うん」

「一緒に、皆を守ろう…」

「おう!!!」



「巨人の力を使って壁の穴を塞ぐ!!サポート頼むぞミカサ!」

「大丈夫。エレン、貴方に近づく敵は皆殺しにする」

「はっ、巨人共なら殺っちまえ!!」

「任せて」



エレンからミカサへ。

家族の仲でもあり、仲間でもあり、そして………。





エレン「何でお前は俺を守ろうとするんだ? ミカサ…」



ミカサ「エレン、貴方が愛しくて仕方がないから……私は貴方を護るの」

――――――
―――――
――――
―――
――


「…何でエレンは、そんなに訓練に一生懸命になれるんだい?」

「…そりゃどういう意味だよ」

「人間走り続けたら疲れるんだし、少しは休んだらってことさ」

「…」


止むことのないと思っていた蹴りと巻き藁で出されていた音が不意に止んだ。

辺りには静寂が訪れ、遠くの方では少しばかりの喧騒が聞こえる。
食堂の方だろうか。



「…それはできねぇよ。…というより、したくないな」



…これは意外な答えが返って来た。

訓練に努め続けることが俺の義務だからだ、とかぐらいが返ってくると思ったのに。


「したくない、っていうのは?何で?」


「…一つは巨人を駆逐したいからだろ。それには休まずにはいられないだろ」

「うん」

「…けど、もう一個大事な理由があるだろう?」

「…それは一体………?」




「…お前忘れたのか?」

「え?」



忘れたって……………え?



「約束したのを忘れたってのかよ!」

「約束……」


…約束…………そうだ、約束。

二人で約束した、夢…。






『氷の大地に炎の水…更には砂の雪原に塩の湖!!』

『すげぇなぁ、どんなとこなんだろうな!!』

『想像が出来ないよね、壁の外なんて…』



『…よし、決めた!!』

『へ?』

『あの壁を越えるぞ!!』

『へ?』

『そして壁外の世界を探検する!!!それがおれの夢だ!!』

『…それはつまり、調査兵団に入るってこと?』

『そうだ!!いっぱい訓練して、いっぱい鍛えて………巨人なんてものともしないくらい強くなってやる!!!』

『…』

『…お前はどうする?』



『…ぼくは……』

――――――
―――――
――――
―――
――


「…そうだ、約束したよね」


最近は忙殺されかけてて、少し失念してた。

訓練が厳しくなり、座学で巨人のことを詳しく知るにつれて、巨人への恐怖が日に日に増してきているのも要因の一つだろう。



「…そうだ。そして、おれが訓練をサボるってことは………お前を裏切るのと同意義なんだよ!」

「裏切るって、そんな…」

「いや、言いすぎじゃない!!お前との約束を無下にするなんて、お前を裏切るのと一緒だ!」



「俺はお前を裏切りたくない!!ただそれだけだ!!」

「…」


…憎悪? とんでもない。

エレンはずっとエレンのままだ。

エレンの目標は昔も今も、壁の外だ。

そしてエレンが壁の外に降り立った時は、僕やミカサがいるって信じてるんだ、エレンは。

…そうだ、そうだよ。


エレンは僕の親友で、将来の壁外探検家だ。


「…ありがとう、エレン」

「ん?」

「僕の親友でいてくれて、さ」

「…へへっ!当たり前だろ、アルミン!!」



アルミンからエレンへ。

エレンの訓練への勢いの根源はいずこから?



アルミン「何で君はそこまで訓練に打ち込めるんだい? エレン…」

エレン「アルミン、親友のお前を裏切りたくないからだ!」




エレンとアルミン。


親友同士の二人がいつか壁外を自由に闊歩する日を、我々は楽しみにしている。

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