唯「ともだち!!」(172)
唯「うーん…」
唯「ここどこ…?」
唯「私なんでこんなとこに居るのかな?」
唯「うーっ。コンクリート造りの部屋は寒いよう」
唯「…ん?」
唯「なにこれ?」
唯「トランプの…ゲーム機?」
唯「この柄はスペードのエースかな?えへへいちばーん」
ピッ
唯「わっ!何か映ったあ!」
唯「なになに、首輪の解除条件?」
唯「首輪?」
唯「…なにこれ」
唯「首に何か巻きついてるよぅ!」
唯「首輪ってこれのことかぁ。で、解除条件?」
唯「ダイヤの、エースの、…殺害?」
唯「なにこれー」
唯「何か怖いよぅ」
ピッ
唯「わっ!画面が変わった!」
唯「えーと、なになに?」
唯「72時間経過した時点で解除条件を満たせなかったプレイヤーは、首輪が爆発して死にます?」
唯「えっ?えっ?」
唯「うそっ!?」
唯「…」
ピッ
唯「また画面が変わった」
唯「えーと…pdaは5台存在し、各プレイヤーに1台ずつ配布されています?」
唯「絵柄はダイヤ、クローバー、ハート、スペード。そしてジョーカーが存在します…かぁ」
唯「なんだか良く分かんないけど…」
唯「死にたくないよ…」
ピッ
唯「…このゲーム機の操作にも慣れてきたかなぁ」
ピッ ピッ
唯「なになに、特殊機能?」
唯「半径5m以内にあるpdaの詳細を表示?」
唯「…これ便利!」
唯「ちょっと試してみよう!」
ピッ ピッ
唯「えい!」
ピピッ
唯「おお!」
唯「ハートのエースが出たぁ!」
唯「解除条件は72時間経過した時点で生存していること。特殊機能は半径25m以内のトラップの表示…。」
唯「プレイヤー名…秋山澪」
唯「澪ちゃん!」
唯「近くに澪ちゃんがいる!」
唯「部屋から出てみよう!」
ガチャ
唯「外は廊下だったのかー。アパートみたいな作りだなー」
唯「澪ちゃん、隣の部屋かな」
唯「…一応ノックしとこ」
コンコン
唯「失礼しまー」
澪「うわわっ!くっ来るなぁ!」
唯「わわっ。澪ちゃん落ち着いて落ち着いて!」
唯「私だよぉ唯だよぉ!」
澪「…唯」
唯「えへへ。びっくりさせてごめんねー」
唯「私も心細かっ…」
澪「そ、それ以上近寄るな」
唯「え?」
澪「私を…殺しに来たんだろ?」
唯「え?」
澪「賞金20億…それが狙いなんだろう?おおかた首輪の解除条件もプレイヤーの殺害なんだろう!?」
唯「なんのこと?私よく分かんないよ!」
澪「とぼけるな!」
唯「知らないよぉ!知らないよぉー!澪ちゃん怖いぃー!」
唯「うわぁーん!」
澪「…っ」
澪「…ほ、本当に何も知らないのか?」
唯「分からないよぉー…」
澪「…ごめん唯。私が悪かった。どうかしてたよ…」
唯「う、ううん…。いきなりこんなとこ連れてこられたら誰だってそうだよー」
澪「唯はあまりそう見えないけどな」
唯「わ、私だって怖いんだよう」
澪「そっか…。クスッ」
唯「えへ、えへへ」
澪「私も一人で心細かった。見つけてくれてありがとう、唯」
唯「ううん!ところで澪ちゃん詳しそうだね!いろいろ教えてよ!」
澪「詳しいも何も…。唯、ちゃんとpdaの中見たか?」
唯「まだちょっとしか…」
澪「やれやれ」
梓「…」
梓「ここ、どこ?」
梓「……?」
梓「なにこれ…iphone?」
梓「ジョーカーの待ち受けなんて悪趣味」
ピッ
梓「わっ」
梓「画面が変わった…」
梓「解除条件…?」
梓「首輪を3つ回収する。取得方法は問わない。爆発した首輪の破片でも良い。尚その場合、破片は何個集めても数にはカウントされず、1つとカウントされる…?」
梓「首輪?これのこと?」
梓「これ爆発するの!?」
梓「やだ…いやだ…」
ピッ
梓「…特殊機能?」
梓「半径50cm内にいるプレイヤーの首輪を爆発させる…」
ピッ
梓「今度は特殊条件…」
梓「ジョーカーのpdaの所有者のみ、制限時間が72時間30分になる…か」
ピッピッ
梓「…」
ピッピッピッ
梓「…大体分かったわ」
唯「…なるほどぉ」
澪「これで大体分かったろう」
唯「助かったよ澪ちゃん!」
澪「待て、まだある」
澪「このpdaはそれぞれで書いてある事が違うんだ」
澪「だから多分、賞金の事を知っているのは私と唯だけ」
唯「ほぉー」
澪「現に私も、唯のpdaを見るまでプレイヤーが5人だという事を知らなかった」
唯「え?5人なの?」
澪「…pdaは5台あるんだろ?だったらプレイヤーも5人だろう」
唯「おお!澪ちゃん頭良い!」
澪「で、唯。これからのことなんだが」
唯「りっちゃんやムギちゃんを探すの?」
澪「ああ、そうしようと思う。5人だから多分中野もいる」
唯「あずにゃんも居るのかー。なんだかちょっと元気が出たよ!」
澪「馬鹿っ!遊びじゃないんだぞ!下手をすると死ぬんだ・・・」
唯「・・・ねぇ澪ちゃん」
澪「ん?」
唯「この首輪、本当に爆発するのかな?もしかしたら悪い冗談なんじゃないのかな?」
澪「私もそう思った。でも唯、考えてみろ。この首輪にしても私たちが持っているpdaにしても、見たことないものばかりだろう?」
澪「多分これらは市販品じゃなく、誘拐した奴らの自作だ。きっとこれらには相当なお金がかかっている。これで冗談だとしたら仕掛けた奴はただの馬鹿だ」
唯「ムギちゃんかもしれないよ?」
澪「それはないと思う。ムギにしては悪質すぎる」
唯「・・・そっかぁ」
唯「いやだなー・・・」
澪「ところで、唯の首輪の解除条件は何なんだ?」
唯「・・・。これ」
澪「っ!」
澪「(プレイヤーの殺害・・・。本当にこんな条件があるだなんて・・・)」
澪「(唯は・・・危険かもしれないな。あまり情を移さないようにしよう。私はここで死ぬわけにはいかないんだ!)」
唯「・・・澪ちゃんどうしたの?」
澪「な、なんでもない!」
澪「しかし困ったな・・・。唯はどうするつもりなんだ?」
唯「私?」
唯「私はね・・・、誰かを殺さなきゃいけないようなら、私は助からなくても良いよ・・・えへへ」
澪「!!!」
澪「(う、嘘だ!人間誰でも自分が一番可愛いんだ!こんなの嘘に決まってる!)」
唯「私、人を殺す勇気なんてないし・・・友達を殺すなんてもっとできないよ」
唯「だから私は皆の首輪の解除に協力しようと思う」
澪「(・・・ふん、良い子ぶって・・・。騙されないぞ)」
唯「・・・澪ちゃんどうしたの?さっきから変だよ?具合でも悪いの?」
澪「あ、ああちょっとだけ・・・。でもなんともない。それより皆を探しに行こう」
唯「うん!」
梓「こ、これは・・・」
カチャ…
梓「重い・・・どうやら本物みたいね・・・」
バンッ
梓「う、うるさっ・・・」
梓「銃なんて初めて撃った・・・」
梓「これは使える・・・」
梓「こういう武器庫みたいな部屋が他にもあるかもしれない・・・。今のうちに建物内を探索して武器を集めなきゃ」
さわ子「お前たちを待っていたッ!」
澪「・・・今何か聞こえなかった?」
唯「・・・うん。映画とかでよく聞く音だった」
澪「・・・。まさかな・・・」
唯「あっ、澪ちゃん!あそこ部屋があるよ!」
澪「誰か居るかもしれない。行ってみるか」
ガチャッ ギィ
澪「な、なんだここは!」
唯「てっぽうが一杯だぁ!」
澪「じゃ、じゃあやっぱりさっきのは・・・」
唯「てっぽうの音だったんだ・・・」
澪「唯、隣の部屋も見てみよう」
唯「う、うん」
澪「・・・」
唯が部屋から出て行くのを見届けると、澪は側にあった一丁の拳銃を手にした。
澪「ハンドガンってやつか・・・?とにかく何か武器を持っておかないと・・・」
そう言って手にした銃をそのままブレザーのポケットに入れた。
唯「澪ちゃーん?」
澪「あ、ああ、すまない、すぐいく」
隣の部屋は武器ではなく、防具や救急キット、食料や弾などが置いてあった。
澪「72時間・・・3日もあるんだから食料も確保しておかないとな」
唯「澪ちゃーん、このリュック使えそうだよー」
澪「でかしたぞ唯!」
澪はリュックを受け取ると、中に食料、救急キット、そして弾薬の入った箱を入れた。
唯「ん?澪ちゃんなにそれー」
澪「マ、マッチ箱だよ」
唯「へー。何に使うのー?」
澪「分からないけど、備えあれば憂いなしって言うだろう?」
唯「そだねー。澪ちゃん賢いー」
澪「あとは・・・、防弾チョッキを着ておこう」
唯「え、なんで?それ邪魔になりそうだよぉ」
澪「私のpdaの特殊条件にトラップの事が書いてあったろう。だから万が一を考えて着ておいたほうがいい」
唯「そっかー。かっこ悪いけど仕方ないね」
防弾チョッキはジャンパーのような作りで、ジッパー式の比較的着用しやすいものだった。
唯「これあったかいね!」
澪「防寒対策にも良いな。一石二鳥だ」
唯「あったかーあったかー」
澪「ああ、暖かいな・・・」
澪「・・・っ!」
澪「(な、なにやってるんだ私は!心を許してる余裕はない!信じれるのは自分だけなんだから・・・)」
澪「そ、そろそろ移動しよう、唯」
唯「うんー」
澪「・・・」
澪「(後で自分が可愛くなって私を裏切る可能性もある・・・。今のうちに始末しておくか?)」
澪はブレザーのポケットに手を入れ、銃を掴んだが
唯「ねねっ、澪ちゃーん」
唯がこちらを向いたのですぐに手を抜いた。
唯「この建物、どれぐらいの広さなんだろうねー。結構歩いてるけど壁に当たらないからさー」
澪「い、言われてみれば・・・」
唯「イオンぐらいの広さかなー」
澪「・・・イオンといっても広さはピンキリだろう・・・」
唯「あ、そっかー。えへへー」
澪「(やはり、ここで始末しておくのはよそう。もし誰かに襲われた時、1人だと危険だ・・・、的は多い方が良い)」
澪「(律も・・・、居るのかな・・・。襲ってくるのかな)」
唯「・・・誰か居る」
澪「え!?」
唯「あそこー、今誰かが横切ったよ!」
澪「ほ、本当か!」
唯「行ってみようよ!」
澪「ま、待て!もしそいつがこのゲームに乗った奴だったら危険だ!」
唯「なんで?私たちを襲う理由がないよー」
澪「ありありだ!解除条件が人殺しかもしれないし、もしかしたら賞金の事を知っていてそれが狙いかもしれないだろう!?」
唯「でもでも!ちゃんと話し合えばきっと大丈夫だよ!」
澪「もし、あれがこのゲームの首謀者だったらどうするんだ!」
唯「っ!」
澪「まだよく分からない状況で安易な行動をとるのは危険だ・・・。どんな結果が待っているか分からないんだから・・・」
唯「・・・でもぉ」
澪「今はまだ焦るときじゃない」
唯「うん・・・。わかった・・・」
澪「(危なかった・・・。こいつのせいで私まで危険に晒されるところだった・・・)」
梓「・・・唯先輩と、・・・澪先輩?」
唯が見つけた人影は梓だった。
梓は唯たちの声に気付き、壁に張り付いて様子を窺がっていた。
梓「この距離なら少しぐらい顔が出てても気付かれない・・・」
梓は先に手に入れた銃の後に、コンバットナイフも手に入れていた。
鞘付きの肉厚なナイフだ。
梓「先に射殺して・・・それから首を切り落としてから首輪を回収・・・。これが最善ね」
梓「先輩達には悪いけど、私はこんなところで死にたくない。死ぬわけにはいかない」
梓「私には、音楽で有名になって歴史に名を残すっていう夢があるんだからっ・・・」
梓「・・・やってやるです」
トンちゃん「軽音部はいず れ滅ぶ…滅ぶへくしてなァ!」
唯たちは梓に気付かず、来た道を引き返そうとしていた。
唯「ムギちゃんたちはどこに居るのかなー」
澪「・・・さぁな」
カツカツカツカツ・・・
唯「・・・足音?」
澪「誰の―――」
澪「唯!」
唯「え?」
バン!
チュンッ
唯「・・・・・・え?」
唯のすぐ横の壁で何かが弾けた。
梓「ちっ!」
澪「走れ唯!」
唯「え?え?」
銃声の出所は梓が握っている銃によるものだった。
梓は唯たちが後ろを向いた隙に走って近づいてきていたのだ。
銃を携えて。
唯「あ、あずにゃん!」
澪「何してる!早くこい!」
だが、梓は銃の扱いに慣れているはずもなく、当てることはできなかった。
梓「こんなにぶれるなんて・・・!」
唯「あずにゃん!?なにしてるの?やめてよ!」
澪「馬鹿か!早く走れ!」
梓「弾は無駄遣いできない・・・。こうなったら・・・」
梓は銃を腰に挿し、代わりにナイフを取り出した。
唯はほぼ澪に引きずられる形で走っていた。
唯「あずにゃん・・・あんなのあずにゃんじゃない・・・」
梓は物凄い形相で唯たちに迫ってきていた。
その手にはナイフが握られている。
澪「おいしっかりしろよ!走らないと死ぬぞ!」
死ぬ。
その言葉は唯の脳内を貫いた。
殺される――
このままだと殺される――
あずにゃんに――
ピピピッ ピピピッ
その時、澪のpdaが鳴った。
澪「なんだこんなときに・・・!」
確認する暇があるはずもなく、澪はひたすらに走った。
もう梓は目の前に迫っていた。
梓「・・・追い・・・ついたぁ・・・!」
唯「・・・・っ!」
梓は大きく振りかぶり、唯めがけてナイフをおろした!
唯「やめてええええあずにゃあああん!!!!!!!」
あずにゃん
あずにゃん、私の事嫌いになっちゃったの?
あずにゃん顔怖いよ
あずにゃんは笑ってるときが一番可愛いんだよ
あんまり笑わないけど
あずにゃん
あずにゃん・・・
ガチャ
澪「え?」
唯「わわっ!」
突然床に穴が開き、澪と唯は訳も分からないまま落ちて行った。
澪「きゃあああああああああああ」
唯「うわわわわあああああああああ」
ドスンッ
澪「んぐっ!」
唯「うぇ!」
落下地点にはベッドがあった。
澪「・・・落とし穴?」
ピピピッ ピピピッ
澪のpdaはさっきから鳴りっぱなしだった。
澪「もしかして・・・」
澪「やっぱり・・・。これがトラップか・・・」
澪のpdaが鳴ったのは、トラップ設置地点の半径25m内に入ったためであった。
澪「とにかく・・・助かったぁ・・・」
梓「落とし穴・・・?」
梓は空いた穴を見下ろしていた。
しばらくすると空いた穴、というより床に付いた扉は閉まり、元に戻った。
梓「これ、また作動するのかな・・・」
梓はおもむろに足を少し伸ばしてみる。
しかし何も変化はない。
梓「どうやら作動しないようね・・・。追い討ちは無理か・・・」
梓は聞こえるか聞こえないかぐらいの舌打ちをすると、唯達が落ちていったトラップ跡から目を離す。
梓「一気に2個手に入るチャンスだったのに・・・」
梓「まぁいいや。時間はたっぷりあるわ」
梓「ふふっ・・・、ふふふっ・・・」
一応酉つけときます
唯「うぅっっうっうぅ・・・」
澪「どうした唯?どこか打ったのか?」
唯「違うの・・・違うの・・・」
唯「悲しくて・・・」
澪「・・・。」
唯「あずにゃん、笑ってたんだよ・・・。見たことない顔で・・・」
唯「いつものあずにゃんじゃなかったんだよぉ・・・」
唯「どうして、こんなことになっちゃったのかな・・・」
澪「唯・・・お前・・・。」
澪「(本当に甘い奴だな・・・)」
澪「それにしても・・・この建物は何階かに分かれていたんだな。」
澪「さっきの所が1階だと考えると、今は地下1階といったところか・・・」
さっきの場所に比べると少し薄暗く埃っぽい部屋に澪たちは落ちていた。
澪「ここに居ても仕方ない、唯いくぞ」
唯「・・・。」
澪「ほらっ!」
唯「・・・うん。」
澪「入口はどこだ・・・あった」
澪は唯の手を引き、ドアまで向かう。
ドアノブに手をかけ、扉を開けた瞬間、何かが目の前に居た。
?「う、うわ!」
澪「ひゃあっ!」
律「み、澪じゃないかっ!」
唯「り、りっちゃん!」
澪「律!」
扉の向こうに居たのは律だった。
唯「りっちゃああああああああああん」
唯は律を見ると半泣きになりながら抱きついた。
律「お、おおう、唯」
唯「良かったよぉおおお生きててよかったよおおお」
律「んな大袈裟な・・・」
律は苦笑しながら言う。
律「澪たちも参加させられたのか、このゲームに」
澪「あ、ああ」
律「そっかー。しっかしこのpdaとやらに書かれてる事、どうも信用ならないんだよなぁー」
澪「いや、これは遊びじゃない・・・。命を賭けた狂ったゲームなんだ・・・」
律「どうしてそう言えんのさぁ」
澪「私たちは、トラップにかかってここまで来た」
律「はぁ!?トラップ!?」
澪「そうだ。馬鹿でかい落とし穴があって、それでこの部屋に落ちてきた」
律「そうか・・・なるほどなぁー」
澪「ところでなんで律はドアの前に居たんだ?」
律「いやぁ、何かでかい音がしたし誰かの泣き声が聞こえたからさぁ」
澪「それで様子を窺いにきたのか」
律「そゆこと」
唯「りっちゃん、りっちゃんの解除条件はー?」
落ち着いたのか、唯は目尻に涙が残ったままだったが律に問いかけた。
律「ん、ああ。私のはー、これっ!」
そう言って律はpdaを取り出しこちらに向けた。
律「クローバーのいちっ!」
澪「エースな」
律「どっちでもいいじゃんブーブー。んで、条件は他プレイヤーに危害を与えてはいけない。特殊機能は建物のマップ表示」
唯「おおっ!なんかりっちゃんだけ好条件!」
律「そうなのか?唯は?」
唯「・・・。私は・・・」
澪「唯の解除条件は、ダイヤのエースの所有者の殺害だ」
律「んなっ・・・」
唯「だから私はもう諦めてるんだーえへへ」
唯は頭を掻きながら無理に笑って見せた。
律「唯・・・」
澪「(律の条件と私の条件なら一緒に行動しても大丈夫そうだな。敵が来ても私にはこれがある・・・!)」
澪はポケットに入っている拳銃を愛でるように撫でた。
律「ひとまず、ここじゃあれだから。戦闘禁止エリアってのに行ってみようぜ」
唯「戦闘禁止エリア?」
律「あれ?知らねーの?」
律「各階には戦闘禁止エリアが存在し、エリア内で攻撃と取れる行動をしたプレイヤーは首輪が爆発する」
律「ここに書いてあんじゃーん」
律はpdaを指で小突きながらルールが書いてある画面をこちらに向けた。
澪「各階・・・。やっぱり何階層かに分かれてるんだな」
唯「そこに行こう!安全だし!」
律「私も向かう途中だったんだ。さ、行こうぜ!」
澪「あ、ああ・・・」
律のpdaのマップはとても分かりやすいものだった。
戦闘禁止エリアをはじめ、武器庫や寝室、階段やエレベーターまで書いてあった。
唯「エレベーターかぁ」
澪「しかし・・・、何の為に階層を分けてあるんだろう・・・」
律「どういう意味?」
澪「いや・・・。やっぱりなんでもない・・・」
律「ふーん? あ、この先に雑貨って書いてる部屋があるぞ」
唯「生活雑貨とか?」
澪「とりあえず行ってみよう」
雑貨と書いてあった部屋は前に見た武器庫と同じような構造で、ダンボール箱がたくさん置いてあった。
澪「缶詰、缶きり、毛布、枕、救急キット・・・。いろいろあるな」
唯「歯ブラシあったぁ」
澪「・・・?これは何だ?まさか手榴弾・・・!?」
律「おぉ!ガスコンロ発見!」
澪「・・・ガスボンベか」
澪「とりあえず、使いそうなものをリュックに入れて持っていこう」
澪は新しいリュックを発見しており、それに缶詰やガスコンロを入れた。
唯「ねね。これ何かなー?」
唯が見つけたものはプラスチック製のコネクタのようなものだった。
律「なんだ?ゲームのソフトか?」
澪「ちょっと見せて・・・」
コネクタの表面には何か文字が彫ってあった。
澪「アドバンテージ・・・ツール?」
ピピピッ!
その時全員のpdaが鳴った。
唯「な、なになに?」
慌ててpdaを取り出すと、画面には「ツールの説明」と書いてあった。
アドバンテージツールに関する説明
pdaの横にコネクタを挿すと、自動的にツールのインストールが始まります。
ツールは様々な種類があります。
ツールによって消費バッテリー量が違います。
一つのツールで一つのpdaにしかインストールできません。
pdaにツールは何個でも入ります。
律「ふむふむ、とりあえず便利なのは分かった」
唯「とりあえずインストールしてみよっか」
澪「だ、大丈夫なのか?」
唯「大丈夫だと思うー」
唯「えっと・・・ここかな」
唯はpdaを少し横に傾け、コネクタを接続した。
画面にはインストール中の文字が表示され、インストールの進行度を表すグラフも表示された。
唯「89・・・94・・・100!」
唯「終わったぁ!」
律「どれどれ?どんな機能だ?」
pdaの待ち受け画面の右下にtoolというメニューが追加されていた。
唯「えっとお、これかなぁ・・・」
ピッ
唯「出たっ!」
澪「残り時間64時間34分・・・」
律「あーそういやこの建物、時計ないもんな」
唯「便利だねー」
澪「・・・もっと良いのを期待してたのに」
律「贅沢言うなってー。んじゃ、気を取り直して禁止エリアにいきますか!」
唯「おー」
戦闘禁止エリアはそう遠くはなく、すぐに着いた。
唯「うわぁー」
律「おおー!」
澪「おお・・・」
戦闘禁止エリアは休憩エリアとも兼ねているのか、リビングに当たる部屋にはソファー、寝室にはベッド、ユニットバス、キッチンまであった。
澪「ここなら安全だし、今日はここに留まって休むか」
律「そうするか」
唯「つかれたぁー」
食事、風呂を済ませ、早めに寝ることに決まった。
ベッドは見た目以上にふかふかで寝心地の良いものだった。
律「んじゃ、電気けすぞー」
唯「うんー」
カチッ
部屋は一気に暗くなった。
澪「明日に備えてしっかり眠らないとな・・・」
唯「修学旅行を思い出すねー」
律「そうだなぁ・・・。楽しかったな」
唯「うん・・・」
律「・・・」
唯「・・・」
唯「なんで、こんなことになったんだろうね・・・」
律「・・・」
唯「あずにゃんも変わっちゃったし・・・」
律「・・・梓に会ったのか?」
唯「うん・・・。でも、襲われた。殺されそうになったんだ・・・」
律「なんだって!?」
唯「仕方ないよ・・・。状況が状況だもん・・・」
律「しかし梓がなー・・・。信じられん」
唯「私もだよ・・・」
律「むぎは大丈夫かな・・・」
唯「早く合流できると良いね」
律「うん・・・」
唯「澪ちゃん寝ちゃったのかな」
律「一番の怖がりはこいつだし、相当疲れてたと思うぞ」
唯「だよね。でも澪ちゃん、私のこと引っ張ってくれたよ」
律「こういう時、頼りになるんだよな」
唯「わたし・・・、澪ちゃん居なかったら最初居た部屋から動かなかったかも・・・」
唯「頼ってばかりじゃ悪いから、私もしっかりしなきゃ」
律「そうだな・・・」
律「・・・なぁ唯」
唯「なぁに?」
律「唯はどうするつもりなんだ?」
律はずっとこれを聞きたかった。明るく振舞っていたが本当はずっと唯の事が心配で仕方がなかったのだ。
唯「澪ちゃんにも同じことを聞かれたよ」
唯「わたしね、人を殺す勇気なんてないから、皆の解除条件に出来る範囲で協力しようと思うの・・・」
律「・・・」
唯「それが一番ベストだと思うんだ」
律「・・・憂ちゃんはどうすんだよ」
唯「憂なら・・・、分かってくれるよ・・・」
律「・・・それでいいのか?」
唯「・・・いいわけないよ」
律「っ・・・」
唯は泣いていた。
唯「死にたくないよぉ!憂に・・・憂に会いたいよぉっ!でも!でも!どうしようもないんだよ!」
律「唯・・・」
律はベッドから立ち上がり、唯のほうへ向かった。
律「ちょっと邪魔するな」
そう言って唯のベッドにもぐりこんだ。
律「どうしようもないよな・・・。そうだよな。野暮な事きいてごめん」
律はそっと唯を抱きしめた。
律「こういう事しか出来ないけど・・・」
律も唯に気付かれないよう、涙を流していた。
唯は思い切り泣いた。
律の胸の中で。
しばらくすると吹っ切れたような顔をして
唯「ありがとね、りっちゃん」
鼻水を垂らしながら笑った。
律「うっわぁ汚ねー!」
唯「うわわごめん!」
律「ほれ、ティッシュ!」
唯「ありがとー!」
律「ったく相変わらずだな・・・」
唯「あはは、ごめーん」
律「ふぅ・・・」
律「・・・それじゃ、そろそろ寝ようぜ」
唯「うん、おやすみー」
律「おやすみ」
澪「・・・うるさいなぁ」
澪は起きていた。
唯たちが騒いでいるのに気付いていたが、小声なのでよく聞こえていなかった。
澪「呑気な奴らだな・・・」
澪は考えていた。
ずっと心の中でひっかかっていることを。
澪「(戦闘禁止エリア内では攻撃はできない・・・。しかし、攻撃判定は誰が取るんだ?)」
澪「(ちょっと小突いただけで首輪が爆発するなんて事はないだろうが・・・)」
澪「(もしかして私たちは、監視されてるんじゃないか?)」
澪「(あのツールの説明だってそうだ。私たちがツールを見つけた時にタイミングよくpdaが鳴った)」
澪「やっぱり・・・私たちは誰かに監視されている・・・」
しかし誰が?何の為に?
そこまでは考え付かなかった。
澪「(考えるにはまだ色々と材料が足りないな・・・)」
澪「寝るか・・・」
そう呟いて、澪は頭まで毛布を被り、眠りについた。
ピーピーピーピーピー
pdaが鳴っている音で全員目が覚めた。
律「なにこれ・・・アラーム機能ついてんのか?」
唯「んむ・・・おはようみんなぁ」
澪「・・・おはよう」
澪はアラームを消そうとpdaを手に取った。
だがpdaから鳴っている音はアラームではなかった。
澪「あと1時間でこの階は進入禁止エリアとなります。時間内に移動できなかった場合リタイアとなります・・・?」
澪「・・・唯!律!」
唯と律も、pdaの警告文を読んでいた。
そう、アラームではなく警告音だったのだ。
律「なんだよこれ・・・聞いてないぞ!」
唯「急がないと・・・!」
澪「律、マップで階段を探してくれ!」
律「分かった!」
唯「荷物取ってくるよ!」
目覚めて早々、生命の危機に危ぶまれた唯たちは完全に目が覚めており、行動が早かった。
澪「・・・階層を分けてあったのはこのためか」
唯が荷物をまとめて戻ってきた。
唯「いこ!急ご!」
律「ああ!」
10分は走っただろうか。
唯たちは息が切れつつあった。
澪「律、あとどれくらいだ?」
律「縮尺がわかんねーからなー。でも多分あと少し」
澪「唯、時間は?」
唯「さっきの時間から引くと、10分はたってるよ」
澪「余裕でいけるな・・・!」
角を曲がった先に階段が見えた。
律「あ、あそこだぁ!」
唯「はぁはぁ・・・あと少し」
しかしここで、澪のpdaがまたもアラームを鳴らす。
澪「!!!!」
澪「トラップだ!とまって!」
唯「えぇ!」
律「おいおい!ここ一本道だぞ!」
澪「・・・どうしよう」
澪「律、迂回路はあるか?」
律「あるけど・・・かなり時間かかりそうだぞ」
唯「・・・それに、私、息がぁ・・・」
唯は苦しそうだった。
澪「そうだ・・・」
澪は何か閃いたような顔をすると、リュックから缶詰を取り出した。
それをボーリングの容量で、階段の方向へ転がす。
唯「えぇ!」
律「おいおい!ここ一本道だぞ!」
澪「・・・どうしよう」
澪「律、迂回路はあるか?」
律「あるけど・・・かなり時間かかりそうだぞ」
唯「・・・それに、私、息がぁ・・・」
唯は苦しそうだった。
澪「そうだ・・・」
澪は何か閃いたような顔をすると、リュックから缶詰を取り出した。
それをボーリングの容量で、階段の方向へ転がす。
しかし何も起こらず缶詰はとまった。
澪「・・・25mも進んでいなよな・・・」
澪「よし・・・」
澪はもう一つ缶詰を取り出すと、少し前に進んで転がした。
しかし何も起こらない。
澪「どうなっているんだ・・・」
律「誤報か?」
澪「人間の重さぐらいじゃないと反応しないのかもしれない・・・」
澪「仕方ない、迂回するぞ!」
律「唯、頑張れ!」
唯「う、うんー」
唯たちは引き返し、迂回路に回った。
しばらく走っていたが、遂に唯が減速し始る。
律「唯!もう少しだ頑張れ!」
唯「・・・」
唯は無言でうなづいた。
表情はとても辛そうだった。
澪「あと少し・・・あと少し・・・」
澪「見えた!」
角を曲がった先に階段が見えた。
律「階段だ!階段が見えたぞ!唯!」
唯「・・・頑張る!」
唯たちは階段に着き、時間内に階段を上ることができた。
澪「はぁはぁ・・・疲れた・・・」
律「ああ・・・久々にこんなに走ったよ・・・」
唯「・・・・・・はぁ」
律「大丈夫か唯?」
唯「・・・だいじょぶ」
澪「そういえば律、マップで自分達が居るフロアは分かるのか?」
律「あー、ちょっとまて・・・」
律はpdaを取り出し、マップを表示した。
律「ここは・・・2階だな」
ピッピッピッピ
律「4階まであるみたいだ」
澪「そうか・・・。しかし各階に居れる時間が決まってるとはな・・・」
律「ずっとあそこに籠ってれば良いと思ってたけど、そんなに甘くないみたいだな」
澪「ああ・・・」
ダダダダ!
唐突に、背後からけたましい銃声が鳴り響く。
今まで聞いた銃声とは違い、連続したものだった。
梓「やっぱり・・・、ここで待ち伏せていれば来ると思ってたんですよ」
梓の手に握られていたのは拳銃ではなく、もっと凶悪なものだった。
澪「あそこだ!あそこに隠れるぞ!」
澪は近くにあった支柱を指差し、すぐさまそこに駆け込んだ。
澪「なんだあれは・・・マシンガンってやつか?」
梓「隠れても無駄です。すぐに蜂の巣にしてやるです」
澪「くっ・・・」
律「・・・本当だったんだな。唯の話・・・」
唯「あずにゃん!もうやめてよ!やめようよ!」
梓「うるさいです!」
梓は柱に向けて威嚇射撃を行う。
唯「うわ!」
唯は出そうとしていた顔を引っ込めた。
律「ばか!あぶないだろ!顔出すな!」
梓「・・・反撃してこないんですね」
梓「その様子だと武器を持ってないんですか?それともまだ人を傷つけたくないとかきれいごとを?」
梓「まぁ、恐らく後者でしょうが・・・。本当に甘いですね。こういう状況でそんな事言ってる奴はただの馬鹿です」
澪「・・・」
梓「いつまでもそこから動かないつもりなら・・・、弾がもったいないので刺し殺してあげます」
梓はマシンガンを腰につけていたポーチにしまい、ナイフを取り出した。
梓「あまり手を煩わせないでください?先輩方」
梓はナイフを構え、ゆっくりと唯達の居る柱のほうへ歩き出す。
唯「ど、どうしよう・・・」
律「・・・肉弾戦を仕掛けてみるか?」
唯「でもでも、あっちはナイフを持ってるんだよ?」
律「・・・でもそれしかないだろ」
唯「それにそれに!りっちゃんは人に攻撃しちゃいけないんだよ!?」
律「・・・!そうだった・・・」
律は完全に自分の解除条件を失念していた。
澪「・・・」
澪は黙り込んでポケットの中の銃を握り締めていた。
俯いていた澪は、決心をつけたかのように表情を引き締めると、顔を上げ柱から飛び出した。
澪「動くな梓!」
その手には銃が握られていた。
律「えっ・・・」
唯「み、澪ちゃん・・・それ」
唯と律は、澪が持っている銃に釘付けだった。
梓は手を後ろに回し、ポーチからマシンガンを出そうとしたが、
澪「う、動くなって言ってるだろう!撃つぞ!」
澪の制止によりそれは断念させられた。
梓「ちっ・・・!」
しかし梓は、後ろに回した手でマシンガンではなく、別の物を握っていた。
澪「両手を挙げて、後ろを向くんだ」
梓「・・・」
澪「早くっ!」
梓が握ったものは煙幕弾だった。
それを器用に指だけでピンを外し、澪の顔めがけて投げた。
澪「う、うわ!」
梓が投げたそれは、澪の顔面に見事にヒットし、澪はひるむ。
その時澪は発砲したが、当たるはずもなかった。
煙玉が爆発し、あたり一面煙幕が張られた。
澪「うっごほごほっ・・・」
軽く煙を吸ってしまった澪は、咳き込みながらも唯達に指示を出す。
澪「・・・唯!律!そこの角を曲がって逃げるぞ!」
律「お、おう!」
唯「・・・うん」
二人も柱の影から出て、曲がり角へ向かった。
ダダダダダッ!
煙幕の向こう側から銃声が聞こえた。
梓が当てずっぽうに発砲したのである。
だが当たらず唯たちのスレスレを通過していく。
曲がり角へ到達し、迂回しようとしたとき
律「うあっ!」
梓の放った弾丸は律の左肩に穴を空けた。
澪「り、律!」
唯「りっちゃん大丈夫!?」
律「うあ・・・あ・・・」
律は撃たれた右肩を凝視し、呻き声のような声を出している。
澪「あそこの部屋に入ろう!」
澪は前方にある部屋の入口を指差して言った。
唯「りっちゃん!もう少し我慢してね!」
部屋に入り扉の鍵を閉めた。
唯たちが入った部屋は武器庫だった。
梓が追ってくる気配はなかったが万が一に備え、澪は近くにあったライフルを手に取る。
唯「りっちゃん、今から治療するね」
唯はリュックから救急キットを取り出していた。
消毒液を吹きかけると律の顔が歪む。
律「っ…ああぁ!」
唯「りっちゃん!りっちゃん!我慢して!」
傷口にガーゼを当て、包帯を巻いた。
唯「今はこんな手当てしか出来ないけど…」
律「いや…助かったよ唯。ありがとう」
唯「ううん」
弾丸は貫通しており、動脈などを傷つけていなかったため、ひとまず大事には至らなそうであった。
律「しかしこれは肩を動かすのは難しいな」
唯「大丈夫…?無理しないでね」
律「あぁ…」
少し遅れて澪も心配そうに訪ねてきた。
澪「…大丈夫か?」
律「大丈夫。それよりも…唯」
律は神妙な面もちで唯を見た。
律「やっぱり私たちも、武器を持った方が良いと思う」
唯「りっちゃん…」
律「ほら、撃たなくてもさっきの澪みたいに脅しに使えるじゃん」
唯「…そういえばさ、澪ちゃん銃持ってたんだね」
唯は、先ほどから尋ねたかったことを澪に問いかける。
澪「…隠しててごめん」
唯「…なんで隠してたの?」
唯は不安そうな顔をして問う。
澪「唯が…、唯が怖かったんだ…」
唯「え…?」
澪「いつもと変わらない唯が怖かったんだ…。いつも通りを装って私を襲うんじゃないかって。賞金の事も話したし…」
唯「…」
澪「だから怖くて…。私は自分の命が惜しくて、銃を取った。襲われる前に襲おうと、唯を殺そうと」
澪「でも、出来なかった。やっぱり…唯は唯だった」
澪「すまなかった…」
唯「…ううん」
唯は澪を抱き締め、頭を撫でる。
唯「あずにゃんはね、こうするとね、落ち着いたんだよ」
唯「…あずにゃんがあんな風になったから。怖くなっちゃったんだよね…」
唯「いいこいいこ…」
そう言いながら唯は、赤ん坊をあやすように澪の頭を撫でた。
澪「ゆ、唯…」
澪「ありがとう…!」
律「おいおいお二人さんよ!2人だけの世界に入っちゃってんじゃないよ!」
唯「あ、ごめーん」
手持ち無沙汰になった律は、二人に横槍をいれる。
澪「なーんだ律。羨ましいのか?」
律「ち、ちげーし!逆にやってやった方だし!」
澪「え?」
唯「り、りっちゃん!それは無しだよぉー」
しばらくの間、3人は笑っていた。
それは、このゲームが始まって以来、一番楽しそうな笑顔だっただろう。
澪「救急キットを補充しないとな」
澪は律のpdaのマップを見ながら言った。
律「替えの包帯とか消毒液とか必要だしな」
唯「私これで良いや」
唯は武器の入った木箱を漁り、中から小柄な拳銃を取り出した
唯「あんまり持っていたくないけど」
律「状況が状況だから仕方ないだろう。我慢しろ」
唯「うん…」
律「唯、私の分も取ってくれ。唯と同じので良い」
唯「大丈夫なの?」
律「ないよりマシだ」
澪「それじゃ、移動するか」
3人は雑貨が集まった部屋を目指し移動を開始した。
律「ここからちょっと遠いな」
澪「注意しながら行こう。また梓が現れるかもしれないからな」
律「そうだな」
唯「むぎちゃんにも早く会えると良いね」
律「…そうだな。大丈夫かな、むぎの奴」
澪「…きっと大丈夫だ。むぎは強いからな」
唯「…そだね。」
律「そこの分かれ道を左に曲がって、次の分かれ道を右に曲がれば着く」
澪「もう少しだな」
何事もなく順調に3人は目的地へ向かっていた。
澪「しかし、意外と少ないんだな。トラップ」
唯「そだね。あんまり鳴らないもんね」
律「でも今落とし穴なんかに引っかかったら終わりだぜ」
唯「え?なんで?」
律「下は進入禁止エリアになっちまっただろ?だから落ちたらドッカーンだ」
唯「あ、そっか!」
澪「他にどんなトラップがあるのかも気になるな。さすがに落とし穴だけというの有り得ないだろう」
律「でも澪の探知があるんだからさ、引っかかる事はないと思うぜ?」
唯「うんうん」
あれこれ話してるうちに部屋に着いた。
律「んじゃ、ちゃっちゃと要る物取って次の階に行くか」
澪「そうだな」
澪はドアノブに手をかけ、扉を開こうとした。
ガチャガチャ
澪「…?鍵が閉まってる」
扉には鍵が掛かっていて開かなかった。
律「ちょっと貸してみ」
律は右手で扉を開こうとしたが、やはり開かない。
次第に律がドアノブにかける力は強くなっていき、律の顔は力んでいた。
律「開かないっ!開けよぅ!」
ガンッガンッ
しまいには蹴りはじめた。
澪「お、おい律」
唯「無理しちゃダメだよぅ」
律「おら!おらおら!おりゃーーー!」
ガンッ ガンッ ガチャ!
鍵が壊れたのか、扉は開いた。
唯「りっちゃんやったね!」
律「へへーん、私にかかりゃこんなもんよ!」
澪「なんて乱暴な…」
3人は部屋に入り救急キットを探そうとしたが、部屋の隅に誰かがしゃがみ込んで震えていた。
長い綺麗なブロンドヘアー。
唯「む、むぎちゃん!?」
それは紬だった。
紬はゆっくりと顔を上げた。
その顔は怯えており、泣いていたのか涙でぐしゃぐしゃだったが、唯たちを見ると驚きの表情に変わった。
紬「唯ちゃん!?」
続いて入ってきた律と澪も紬を見つけると歓喜の声をあげた。
律「むぎぃぃぃ!」
澪「むぎじゃないか!」
紬「りっちゃん!澪ちゃん!」
紬の顔はさっきとは打って変わり、いつもの笑顔になっていた。
唯「良かったよぅ!無事で良かったよー!」
唯は紬に抱きついた。
紬「あらあら…。でも本当に良かったわ、皆と合流出来て」
紬「私、ずっと一人だったから…。不安だったの…!」
4人はしばらくの間、無事再会できた事を喜びあった。
落ち着いてきた頃に、澪が話を初めた。
澪「まずはいろいろ教えないとな」
澪はトラップの事、武器の事、各pdaの特殊能力、制限時間の事、戦闘禁止エリアの事、そして梓の事を教えた。
紬「そう…、梓ちゃんが…」
澪「ああ、信じられないだろう…。だが事実なんだ。律の肩の怪我も梓によるものだ」
紬はかなり驚いた顔をして俯いたが、何かを思い出したように顔を上げた。
紬「…そうだ、私のpdaの事、まだ言ってなかったわね。」
紬「書いてあるルールは、この建物が4階まであるという事と、各階の制限時間。1階が24時間、2階が48時間、3階が72時間よ。そして4階にはクリア条件を満たした人しか入れないみたいね」
紬「特殊能力は、半径50m内にpdaの反応があったら知らせてくれるみたい」
澪「……待ち受けの絵は?」
紬「ダイヤのエースよ」
唯「っ!!!」
澪「…」
律「…」
紬「えっ、なになに?どうして皆黙っちゃうの?」
澪と律は口を開こうとしなかった。
唯「…あのね、むぎちゃん」
代わりに唯が口を開いた。
澪「唯…」
唯「良いの。言っても言わなくても、私がやることは変わらないから」
紬「?」
唯「落ち着いて聞いてね。私のpdaはね、スペードのエースなの」
唯「でね、スペードのエースの解除条件は、ダイヤのエースの持ち主の殺害なの…」
紬「え…?」
唯「でもね!でもね!安心して!前に澪ちゃんとりっちゃんには話してるけど、私、人殺しをするつもりはないんだ」
紬「…じゃあどうするの?唯ちゃんは自分の命を諦めちゃうの?」
唯は笑って答えた。
唯「うん」
紬「!!!」
唯「だからね、皆の解除条件に出来る範囲で協力しようと思うの」
紬「…」
唯「むぎちゃんから見たら私は怖い存在かもしれないけど、私はむぎちゃんを殺そうだなんて微塵も思ってないよ」
唯「こんな事言われても信じられないだろうけど…。私を信じて?」
紬「…唯ちゃん」
唯「人殺しどころか、…私に友達を殺すなんて無理だから」
紬「…うん。分かった。信じるわ!」
紬も笑って答えた。
唯「それでむぎちゃんの解除条件は何なの?」
紬「えっと…。3台のpdaの収集ね」
澪「なんだ、ならもう大丈夫だな」
紬「え?どうして?」
澪と律は顔を合わせて笑った。
澪「私の解除条件は制限時間まで生き延びる事」
律「私のは制限時間まで誰にも手を出さない。」
澪「ほら、もう3台集まっているようなものだろう?」
紬「まぁ…!本当ね!」
紬「皆と合流出来て良かったー!」
澪「唯、残りの制限時間を教えてくれないか」
唯「えっと…。残り40時間」
澪「あと1日ちょっとか…」
澪は少し考えこむと、
澪「よし、戦闘禁止エリアへ行こう。今の私たちには戦う理由もないし」
唯「そうしようー。疲れたよぅー」
紬「そうね。お茶もしたいし」
律「相変わらずだな、むぎは」
方針が決定し、4人は行動に移った。
戦闘禁止エリアまでは何事もなく移動できた。
紬「あらあら…!まぁまぁまぁ…!」
紬は戦闘禁止エリアに来るのが初めてらしく、目を輝かせていた。
澪「それじゃ、まず食事にしようか」
唯「あ、その前にりっちゃん。包帯かえよ」
律「お、悪いな」
前の戦闘禁止エリアと同じで、なるべく早く寝て体力を回復するということで決まった。
唯「んじゃ、電気消すよー」
紬「はーい」
律「おやすみー」
澪「おやすみ」
唯たちは梓に追われたこともあってか、すぐに深い眠りについた。
制限時間、残り32時間12分
夜中、唯は目が覚めた。
寝室の外から物音が聞こえたからだ。
唯「・・・?」
他の皆は起きる気配はない。
唯「・・・あずにゃんかな?」
唯はベッドを出て、寝室の扉へ向かい、手をかけた。
おそるおそる扉を開いてみると信じられない光景が広がっていた。
唯「・・・・・・!?」
そこに居たのは
憂「おねえ・・・ちゃん?」
憂だった。
唯「憂・・・?本当に憂!?」
憂「お姉ちゃん!私だよ!」
唯「本当に?本当の本当に!?」
憂「ほんとだよ!」
唯の顔はしわくちゃになっていき、唯に抱きついた。
唯「ういいいいいいい!!!!!!!!!!」
憂「お姉ちゃん!」
憂も泣いていた。
澪たちも騒ぎを聞きつけ起きてきた。
澪「・・・え?」
律「憂ちゃん!?」
二人とも驚きの顔を隠せないでいる。
だが、澪の顔は律の驚きとはまた別だった。
唯「憂も気付いたらここにいたの?」
憂「そうなの・・・何がなんだか分からなくて・・・」
唯「でも、でも、良かったよ。憂に会いたかった!」
憂「私もだよ!お姉ちゃん!」
二人は再会を喜んでいた。
しかし、そこに澪が割って入った。
澪「唯!憂ちゃんから離れろ!」
唯「え?」
澪「人数が合わないんだ!」
唯「・・・あ」
憂「え?え?どういうこと?」
澪「とぼけるな!」
唯は憂から離れた。
唯が憂に向ける視線は、疑いに変わっていた。
憂「え?お姉ちゃん!?」
憂はとても困惑した顔をしていた。
澪「憂ちゃんが犯人・・・。もしそうでなくても一味であることは間違いない」
憂「そんな!私何も知りません!」
憂は唯の方を向き、助けを求めるように見た。
唯「・・・」
唯もまた困惑した顔をしていた。
憂が犯人な訳がない。そんなわけない。でも・・・そしたらここに居る憂は何?
唯の中で葛藤が起きていた。
律「・・・」
紬「・・・」
律と紬は黙って様子を窺っていた。
二人とも緊張した顔をしていた。
紬「・・・人数が合わないって?」
紬が尋ねる。
澪「唯のpdaには、プレイヤーは5人と書いてあった。私、唯、律、むぎ、そして梓。これで5人のはずだった。でも、そこに憂ちゃんが現れた」
澪「pdaに書いてあることが嘘だとも思えない」
憂「そんな・・・」
その場は凍りつき、誰も動かなかった。
いや、動けなかった。
戦闘禁止エリアだから、というのもあっただろう。
紬「・・・そう」
バンッ
その時、1発の銃声が響いた。
銃声の出所は、
紬が握っている銃からだった。
そして、その銃口は澪を向いていた。
澪「・・・・・・え?」
紬「こうすれば、5人かしら?」
紬が放った弾丸は、綺麗に心臓を貫いていた。
澪「・・・むぎ?」
紬は口角を上げてくすくすと笑っていた。
紬「ごめんね、澪ちゃん」
澪「・・・ちくしょう」
澪は動かなくなった。
紬の首輪の赤いランプが点滅し始めた。
紬「あらやだ、ここ戦闘禁止エリアじゃない」
この点滅は、首輪が作動したことを意味していた。
紬「首輪が爆発して死んじゃうわー!」
しかし紬は楽しそうに笑っていた。
首輪から電子音じみた声が流れてきた。
「ルールに反したため、10秒後に首輪が爆発します」
紬「私の命もあと10秒か・・・」
唯「・・・」
律「・・・」
唯と律と憂、三人は黙ってその光景を見つめていた。
いろいろな事が一気に起こりすぎて思考が回らなかったのだ。
紬「・・・5、4」
カウントをする紬の顔はとても死ぬ前の人間とは思えない顔だ。
紬「3、2、1!」
紬「どっかーん!」
カウントを終えると紬は両手をあげて叫んだ。
首輪は爆発していない。
紬「あははははは!あははははははは!」
笑い出す紬。
その表情はまるで無邪気な子供のようだった。
紬「皆どうしたのー?鳩が豆鉄砲くらったような顔してるわよ?うふふふふ・・・」
律「そ、そんな・・・」
憂「どうして・・・」
唯「ルール違反したら首輪が爆発するんじゃなかったの!?」
三人は信じられないという顔で紬を見ていた。
紬「ごめんなさいね、これ偽物なのー」
そう言うと、紬はいとも簡単にあの忌々しい首輪を外した。
紬「このpdaも偽物よ。機能や中身は唯ちゃんたちのと全く同じだけどね」
律「じゃ、じゃあ・・・」
紬「そうよ。私が皆をここにつれてきたの」
唯「!!!」
紬「だから憂ちゃんはちゃんとした正規のプレイヤーよ。安心してね」
憂「・・・」
紬「それなのに唯ちゃん、疑いの目を向けちゃって・・・。憂ちゃんかわいそうー」
唯「だ、だって・・・」
紬「所詮、そんなものなのよ、人間って」
今まで楽しそうに話していた紬の目が、一気に冷めた目に変わった。
紬「澪ちゃん、期待してたのに・・・。残念ねー」
律「期待って・・・何にだよ!」
律が叫んだ。
紬「それはもちろん、仲間割れ、によ」
律「そんなのに期待する意味がわかんねえよ!むぎは何がしたいんだよ!私たちをここに連れてきて殺し合いをさせたかったのか!?」
紬「そうよ」
紬はにっこり笑って答えた。
紬「私ね、皆が殺し合いをするところを見るのが夢だったのー」
律「な・・・!」
紬「まぁ、連れてきた理由はそれだけじゃないんだけどね」
紬は一息吐くと
紬「この際だから、全部話してあげるわ」
紬「あなたたちはね、『賭け』の対象なの」
律「はぁ?」
紬「この建物の様子はね、ある場所にモニタリングされているの。建物中に設置された超小型カメラでね。多分1万単位であるんじゃないかしら、カメラ」
唯「ある場所・・・?」
紬「世界中から大富豪の方々が集まる極秘裏のカジノがあるの。それも指折りの富豪がね。そこにモニタリングされているわ」
紬「ここまで言えば分かるかしら?」
紬「これはね、プレイヤーの生死に賭けるデスゲームなの」
律「!!!!」
紬「どのプレイヤーが生き残るか考えて、そのプレイヤーにチップを賭けるの」
紬「・・・チップは1枚10億円よ。うふふふ」
紬「そのカジノを運営しているのが、私たち琴吹グループでね、今回のゲームマスターは私なの。ゲームマスターって呼んでね」
首を少しだけ傾けて紬は笑った。
紬「最初は私が介入する計画はなかったんだけど、あなたたちがあまりにも平和主義だからね、会場が興ざめしてたのよー?」
紬は頬を膨らませ、わざとらしく怒る。
紬「だ・か・ら、私が盛り上げる為に参上したの」
紬「これで分かった?」
律「・・・ああ。むぎがろくでもないクソったれ野郎ってのが分かったよ!そんな事のために澪を殺しやがって!」
律の顔は怒りに歪んでいた。
律「返せ!澪を返せ!返せよおおおおおお!!!!」
今にも飛び掛りそうな律を、唯が止めた。
唯「だめだよりっちゃん!ここは戦闘禁止エリアだよ!」
それを聞いて律は一気に力を抜いた。
律「・・・くっ!」
紬「あらあら、怖いですわー」
紬は笑っていた。
ピリリリリ ピリリリリ
戦闘禁止エリアについ二日前まで当たり前だった電子音が鳴り響く。
紬の携帯電話の着信音だった。
紬「もしもし?」
運営「紬お嬢様、ゲームマスターがプレイヤーを殺してしまったので、秋山澪に賭けていたお客様が騒いでいます」
紬「あらあら・・・。ふぅ」
電話の相手は紬の部下のようだった。
紬「そうよねぇ・・・。仕方ないわね、特別措置をとるわ。秋山澪に賭けていた方々は、賭けていた分を他のプレイヤーに賭けなおしても良い。そう伝えて頂戴」
運営「かしこまりました。紬お嬢様、くれぐれも出過ぎないように・・・」
紬「分かってるわ」
運営「では」
ブツ
紬「というわけで、私は裏に引っ込むわ」
紬「じゃあねー」
紬は軽く手を振りながら部屋を出ていった。
唯「・・・!」
すると、唯は澪のポケットから銃を取り出し、紬の元へ走った。
追いつくと、その銃口を紬のほうへ向けた。
唯「よくも・・・、よくも澪ちゃんを!」
紬「あらあら、まぁまぁ」
紬は困ったような顔で唯を見つめる。
紬「さっきも言ったけど、私のpdaは偽物なのよ?撃っても首輪は外れないわよ?」
唯「そんなの関係ないよ!」
唯は叫んだ。
唯「むぎちゃんが許せない!許せない!だから撃つ!」
唯の目は今までに見たことのない目だった。
紬「敵討ちのつもりかしら?なら尚更撃っても意味がないわねー」
紬は楽しそうに笑う。
唯「・・・どういうこと?」
紬「私、あなたのいうむぎちゃんじゃないもの」
唯は呆気にとられた顔をした。
紬「雇われの影武者なのー。おかしいと思わないの?わざわざ身を危険にさらす人は居ないわ」
唯「そんなの・・・、信じられるかああああああああああ!!!!」
唯は銃を構えなおす。
紬「あなたが琴吹紬を殺したつもりでも、それは全くの別人なの。人違いであなたは手を血に染めるのよ」
唯「!!!」
紬「・・・ああ、そういうシチュエーションもいいわねぇ。自分で考えてゾクゾクしちゃった」
唯「それでも・・・それでも・・・。澪ちゃんを殺したのはお前だ!」
紬「そんなこと言ったってぇー、命令だったんだから仕方ないでしょう?紬お嬢様には逆らえないもの」
紬の口調が変わった。
唯「・・・っ。うっうっ・・・」
唯の目からは涙が溢れてきていた。
紬「私は貰った報酬の分しか動かないわ。だからこれ以上あなたたちに関わるつもりはないの。任務もこれだけだしね」
紬「見逃してもらえなーい?」
紬は両手を合わせてお願いする仕草を見せた。
唯はもう混乱していた。
唯「(嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!影武者なんて絶対嘘だ!自分が助かるための口実だ!)」
唯「(でも・・・本当に影武者だったら・・・)」
紬「・・・ったくもう。人間の一人や二人、死んでも何も変わらないでしょう?」
紬は面倒くさそうに喋る。
紬「それが有権者で、更に政治に関わるような人だったら変わるかもしれないけど、そんなたかだか女子高生一人でそこまで怒ることないじゃない?何も変わらないっての」
唯の目つきは先ほどの比にならないくらい凶悪になる。
唯「おまえええええええええええええ!!!」
銃のトリガーに指をかけ、撃とうとしたとき、
憂「だめ!お姉ちゃんだめぇぇぇぇ!」
憂がとめた。
憂「落ち着いて!落ち着いておねえちゃん!」
唯「うるさい!邪魔しないで!」
憂「きっと後悔するよ!お姉ちゃん後できっと、後悔するよ!」
憂と唯はもみあいになった。
唯「どけえええええええ!」
バン!
黄色い沢庵です。
唯ががむしゃらに発砲した。
弾は憂の頬をかすめ、廊下の壁に当たった。
憂「いっ・・・!」
憂の頬からは血が流れ始める。
唯「・・・っ!ういいい!」
唯は我に帰り、銃を投げて憂に向き合った。
唯「あ・・・ああぁ・・・」
唯は憂の頬の傷を見てうめき声をもらしている。
憂「・・・落ち着いた?お姉ちゃん」
憂は優しく笑い、唯に語りかける。
憂「大丈夫だよ、これくらい。心配しないで」
唯「でも・・・でもぉ・・・」
唯は泣き出していた。
憂「もし撃っていたら、きっとこれよりも深い傷を負っていたと思う」
そういいながら憂は唯を抱きしめた。
唯「・・・ありがとう、ありがとう!憂!」
唯も抱き返した。
唯「ぐすっ・・・。これじゃ、どっちがお姉ちゃんか分かんないね・・・」
憂「・・・そうだね」
紬はいつの間にかいなくなっていた。
唯が落ち着くと、戦闘禁止エリアに戻った。
律「おまえら、ほんと良い姉妹だよな」
唯「そ、そうかな。えへへ」
憂「律先輩のとこの弟さんも良い子じゃないですか」
荷物をまとめながら談笑していた。
澪の死体はと言うと、つれていくのは無理だからベッドに寝かせておこうと決まった。
律「・・・これ、借りてくから、ちゃんと取りにこいよ・・・」
そう言って澪の制服のリボンをほどき、取った。
律「待ってるから。ずっと待ってるからな」
唯「澪ちゃん・・・。本当にありがとう」
憂「さようなら・・・、澪先輩」
唯と憂は泣いていたが、律は泣かなかった。
もう踏ん切りがついていたのだろう。
律「・・・じゃ、行くか」
律「唯、あと何時間?」
唯「んと…、残り28時間しかないよ」
律「そうか。じゃあ今まで通り戦闘禁止エリアで時間を潰そう」
唯「うん」
3日目も戦闘禁止エリアに行き、制限時間まで安全に過ごす事に決まった。
律「そういや、憂ちゃんのpdaは?」
憂「あ、私ですか?私のは、ハートのエースです」
唯「え…」
憂「紬さんが持ってたのは偽物でしたけど、最初に見た時はびっくりしました」
憂「私がもっと早く来て、もっと早く気付いてればこんな事にならなかったかもしれないのに…」
律「あ、ああ。憂ちゃんのせいじゃないよ」
唯「…」
憂「…?お姉ちゃん、どうしたの?」
唯が黙りこんでしまったので、憂は不思議に思い、尋ねた。
律「…唯、説明しときな」
あ、間違えた。
憂のはダイヤのエースです。
唯は自分のpdaの事、解除条件の事、自分がどうするつもりなのかを話した。
憂「…」
唯「憂。信じられないかもしれないけど…。けど、信じて」
憂は俯き、黙ってしまった。
しばらくして顔を上げると
憂「…だめだよ」
唯「…え?」
憂「簡単に諦めちゃダメだよ!」
唯「憂…」
憂「絶対!絶対何か方法があるはず!」
憂は怒っていた。
唯の決意にも、この状況にも。
律「…とは言ってもなぁ」
憂「律さん!どうしてそんなに消極的なんですか!」
律「ご、ごめん」
唯「憂、今からじゃもう遅いよ。もう…良いんだよ」
憂「そんな…」
憂は今にも泣きそうな顔をしていた。
唯「たまには、お姉ちゃんらしいとこ見せないとね」
えへへ、と笑いながら唯は言った。
唯「それにね、状況はどうであれ、こうして憂と会えたから。私は満足だよ」
憂「お姉ちゃん…」
憂は、それ以上は何も言わなかった。
律「戦闘禁止エリアの前に武器庫がある。一応寄っとくか」
唯「うん」
武器庫につき、三人は部屋中を物色し始めた。
律「…これは使えそうだな」
律が手に取ったのは煙幕だった。
唯「はい、これ憂の分」
唯は憂に防弾ベストを手渡していた。
唯「万が一があるからね」
憂「ありがとう、お姉ちゃん」
憂は早速、防弾ベストを着用した。
憂「うわぁ、これ暖かいね」
唯「でしょー?でもちょっと着苦しいよね」
憂「ちょっとね」
各々一通り物色を終え、荷物をまとめた。
律「…あ。あちゃー」
律は一人で何かを思い出し額に手を当てている。
憂「どうかしました?」
律「いや、憂ちゃんのpdaはダイヤのエースだろ?そしたら解除条件はpdaの収集だよな?」
憂「あ、はい」
律「澪のpda、持ってくれば良かったなーって思ってさ」
律たちは澪のpdaを回収していなかった。
唯「あー…」
律「すると憂ちゃんの解除条件を満たすには…、梓のpdaが必要だな。」
憂「え!?梓ちゃんも来てるんですか!?」
憂は梓の事を知らないようだった。
律「あ、ああ。今は…狂っちまったのかな。敵だよ」
憂「そ、そんな…」
唯「きっと大丈夫だよ。このゲームが終われば元に戻ってくれるよ」
憂「…うん」
律「あいつの解除条件次第だけどな」
そうこう話している内に戦闘禁止エリアに着いた。
律「おお。こりゃまた一段と広い」
この戦闘禁止エリアは、今までの戦闘禁止エリアの二倍近くの広さだった。
唯「あー、疲れた」
律「疲れんの早すぎ」
唯「んぅー…」
唯はソファーに腰掛け、くつろいでいる。
憂「あ、私お茶の準備します」
憂はリュックからミネラルウォーターとやかん、ガスコンロを取り出した。
律「お、悪いね」
三人とも防弾ベストは脱いでいた。
律「この防弾ベストももう少し着心地が良けりゃな」
唯「仕方ないよー、りっちゃん」
三人が談笑していると、
ドオオオオン!
部屋の入り口が吹き飛んだ。
部屋中に埃が舞い上がり、視界が悪くなった。
律「ごほっごほっ!」
唯「けほっけほっ!」
憂「うぅっ…、一体何?」
吹き飛んだ入り口の方から声が聞こえてきた。
梓「今日で最終日…。今日という今日こそ死んで貰います」
律「ばかな・・・、あいつは戦闘禁止エリアの事をしらないのか?」
律たちは困惑を隠しきれなかった。
梓はなんの躊躇もなく戦闘禁止エリアを攻撃してきたからだ。
しかし、梓の首輪は光らない。
唯「ど、どうなってるの?」
憂「わ、わかんないよぉ」
梓「ふふ・・・。焦ってますね。何故、戦闘禁止エリアを攻撃できるんだろうって」
話しながら梓は手榴弾のピンを抜き、こちらに投げてきた。
律「・・・!そこのソファーの陰だ!」
ドオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!
3人は咄嗟にソファーの影へ飛び込み、爆風を防いだ。
梓「ほんと、このルールを考えた奴はいやらしい奴です・・・」
梓は笑いながら戦闘禁止エリアはの一歩手前ぐらいまで近づいてきた。
梓「私は、戦闘禁止エリアの『外』から攻撃しているんです。ルールには戦闘禁止エリア内と表記してあります・・・ふふふ」
律「なっ・・・」
梓「あはははははははははは!!!!!」
梓は高笑いをし始めた。
梓「勝てる!これで勝てる!逃がさない!殺す!殺してやる!あはははははは!」
唯はソファーから少しだけ顔を出し、梓のほうを見た。
唯「・・・」
唯が見た梓は、もう梓ではなかった。
目は虚ろで、目の下にはクマができていた。
髪も結んではあるが所々ボサボサしている。
服も、リボンは解れ、服のいたるところが薄汚れている。
無表情の笑み、とでも言うのだろうか。その顔は笑っているが笑ってはいなかった。
梓は狂ってしまったのだ。
唯「あずにゃん・・・」
唯はそんな姿の梓を見て悲しんだ。
律「・・・どうする」
律は一人で何かブツブツつぶやいていた。
律「いや、どうしようもない・・・。私は人を傷つけてはいけないんだ・・・」
律「でも、唯たちが・・・」
梓「いつまで隠れてるんですかぁ?いい加減諦めて死んでくれてくださいよ!」
梓は二つ目の手榴弾を持ち出した。
梓「もう・・・逃がしません!」
梓は思いっきり振りかぶり、こちらへ手榴弾を投げてきた。
カンッ コロコロ
手榴弾が唯たちの目の前に落ちた。
唯「ひっ・・・」
憂「あぁ・・・うあぁ・・・」
律「し・・・死ぬ!」
今からどこかへ逃げようにも、時間がないし隠れるところもなかった。
逃げ場を失った唯たちはもう死んだも同然だった。
しかし、
律「う・・・おらあああああああああああああ!!!!!!!!!」
律は咄嗟に手榴弾を拾い、梓の方へ投げ返した。
梓「んなっ!」
まさか手榴弾が投げ返されるとは思っていもいなかった梓は完全に油断していた。
梓「くぅ・・・!」
咄嗟に前の戦闘禁止エリアに転がり込み、なんとか爆風を回避した。
しかし目の前には、銃を構えた律がいた。
律「形勢・・・逆転だな。へへっ」
梓「・・・!」
バンバンッ バンッ!
梓「ぐ・・・あぁ・・・。ああぁはぁ・・・」
梓「あああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
3発の弾丸は梓の体の肉をえぐりながら貫き、大量の出血を催した。
律の首輪から前にも聞いた声が流れてきた。
「ルールに反したため、10秒後に首輪が爆発します」
唯「り、りっちゃあああん!」
律の首輪は赤いランプが点滅している。
律「は・・・はは・・・、勢いでやったけど、やっぱ怖ぇな、死ぬってなると、はは・・・」
律「でも後悔はないかな・・・」
憂「律先輩・・・」
律「唯、最後まで憂ちゃんを守ってやれよ。お姉ちゃんだろ?」
唯「うん・・・。うぅっうっ・・・」
律「泣くなよ・・・」
点滅の間隔が早くなってきている。
律「あ、あのさぁ!良かったら、私のリボンをさ、澪の・・・」
ピーーーー
ドンッ
唯「うああ・・・あああ・・・」
グシャッ ゴロゴロゴロ・・・
唯「りっちゃあああああああああああああああん!!!!!!!!!!!」
首輪が爆発し、律の首は飛んだ。
爆発の勢いが強かったのか、あらわになった肉の表面は炭化し、あまり血は流れてこなかった。
唯「う、ううう、うおぇ・・・ぇええぇ・・・」
憂「あ・・・あああううう・・・」
二人とも律『だった』物を見て、嘔吐感に襲われた。
無理もなかった。
律の死に方はあまりにも残酷で無残だった。
唯「りっちゃん・・・りっちゃん・・・」
唯は最後に何か言おうとしていた律の言葉を思い出し、律の死体を見た。
死体をちゃんと『律』として見ると、不思議と嘔吐感はおさまった。
唯「りっちゃん・・・。これ、貰っていくね・・・」
唯は、律の制服のリボンを外し、ポケットから澪のリボンとpdaを回収した。
唯は梓を確認した。
律に撃たれて死んだのか、動く気配はなかった。
唯「憂・・・」
憂「・・・」
唯「りっちゃん、ちゃんと寝かせてあげないとね・・・」
憂「・・・うん」
唯と憂は、律を寝室へ運び、澪の時と同じく、ベッドに寝かせた。
首も一緒に。
唯「私たちのゲームは、まだ終わってないんだよ・・・」
唯は憂に言った。
唯「・・・行こう、4階に」
憂「うん・・・」
二人は手早く荷物をまとめ、戦闘禁止エリアを出た。
パンッ
銃声が響いた。
唯「え・・・?」
誰が撃った?
もう誰も居ないはず。
まさか・・・、むぎちゃんが来た!?
憂「お、お姉ちゃん・・・」
憂は胸部から血を流していた。
唯「う、憂!?」
倒れこむ憂を唯は抱きかかえた。
梓「一矢・・・報いて・・・やった・・・で・・・す」
撃ったのは梓だった。
律に撃たれても尚生きていたのだ。
執念からだろうか。
しかし、何か言っていたがそれ以降ピクリとも動かなくなった。
唯「憂!憂!しっかりしてぇ!」
梓が撃った弾は肺を貫通したのか、憂は呼吸するたびに笛のような音を鳴らしている。
憂「はぁ・・・はぁ・・・、お、お姉ちゃん」
唯「憂!」
憂「お姉ちゃん、私、多分、もう・・・、助からない・・・」
唯「そんなことない!そんなことないよ!お姉ちゃんが助けてあげるよ!」
唯「さっき・・・、さっきりっちゃんと約束したんだもん!!!」
しかし、憂は首を振った。
憂「自分の体だもん・・・。自分でが一番よく分かるよ・・・」
唯「・・・そんなぁ」
唯は泣き出してしまった。
憂「泣かないで・・・おねえちゃん・・・」
唯「うっうあああ・・・憂いいいぃ・・・」
憂「ごめんねお姉ちゃん・・・。私おねえちゃんを泣かせてばかりだね・・・」
唯「そっそんなことっ、そんなことないよっ・・・ひっく」
憂「んん・・・はぁ・・・はぁはぁ・・・」
唯「・・・憂、憂ぃ・・・」
憂はかなり息苦しそうだった。
憂「はぁ・・・ねえ、お姉ちゃん・・・」
唯「・・・なに、憂?」
憂「私、ね。お姉ちゃんにね、お願いが・・・あるの」
唯「・・・なんでも聞くよ」
憂「良かった・・・」
憂「あのね、私ね、すっごく苦しいの・・・」
唯「うん・・・」
憂「だから・・・ね」
憂は唯のブレザーのポケットから少しはみ出ていた拳銃を指さし
憂「楽に・・・してほしいの・・・」
唯「え・・・?」
それはとんでもないお願いだった。
憂「お願い・・・。ほんとに、苦しいの・・・はぁ・・・」
唯が見ても分かる。憂はとても苦しそうだ。
だがしかし、
唯「そんなこと・・・」
憂は力強い眼差しで唯を見た。
憂「・・・お願い」
唯「できないよぉ!」
出来るはずがなかった。
それはとても残酷なお願いだった。
憂「お願い・・・だよぉ・・・」
憂は涙を流しながら訴えた。
唯「でも、でも・・・」
憂「私、もう、耐えられない・・・」
憂「苦しいの・・・」
唯「・・・」
憂「だからお願い。お姉ちゃんの手で・・・楽にさせて」
唯は迷った。
憂は本当に苦しそうだ。
しかし今すぐに死にそうというわけでもない。
妹が、大好きな妹が目の前で苦しんでいるのだ。
その妹が姉に救いを求めているのだ。
唯「・・・」
唯はポケットから銃を出し、銃口をゆっくりと憂の方へ向けた。
憂「・・・ありがとう、お姉ちゃん」
唯は銃のトリガーに指をかけた。
あとはこれを引くだけ。
引くだけで憂は楽になれる。
もう苦しまなくても良い。
唯「・・・」
銃を持つ手は震えていた・・・。
憂「・・・おねえちゃん」
唯「う、撃てない!やっぱり撃てないよぉー!」
唯は撃てなかった。
憂「お姉ちゃんは・・・本当に優しいね」
憂が手を伸ばし、唯の手を包み込むように握った。
憂「あったかい・・・」
唯の手を握った憂の手は、冷たかった。
唯「憂・・・」
このとき、唯は気付いていなかった。
憂の指が銃のトリガーにかかっていることに。
バンッ
唯「え・・・」
廊下に渇いた音が響き渡った。
握られていた手は力をなくしてダラリと落ちていった。
唯「う・・・憂!」
銃弾は憂の心臓を貫いており、とめどなく血が溢れてきた。
憂の顔は急激に血の気が引いていった。
唯「憂!憂!」
既に目は虚ろだった。
意識が朦朧としているのだろう。
既に憂の周りは自分の血で一杯で、水溜りのようになっていた。
憂「・・・。・・・・・・」
憂が何か口をパクパクさせて言っている。
唯「え・・・」
憂は動かなくなった。
唯「いま・・・」
唯は憂の口の動きを思い出していた。
その口の動きは、確かにこう言っていた。
『お姉ちゃん大好き』
唯「ううううううううう・・・」
唯の両目からは大粒の涙が溢れ出した。
とまることを知らないように。
唯「憂いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
その声は、建物全体に響き渡るのではないかというぐらいで、雄叫びに近い叫びだった。
ピーピーピー
唯の首輪が光りだした。
唯「えっ・・・?」
しかし、今までに見たことのない、緑のランプが光っていた。
「あなたは解除条件をクリアしました。首輪が解除されます」
その声と共に、首輪は2つに割れ、外れた。
唯「憂のpdaは・・・、ダイヤのエース・・・」
それを思い出し、憂は何故あんなに撃つように言ったのか思いついた。
それを考えると更に涙が溢れだしてきた。
唯「ありがとう・・・。ありがとう憂・・・。私も大好きだよ。自慢の妹だよ・・・。大好き・・・大好き・・・。」
唯は憂を抱きしめ、泣き続けた。
いきなりpdaが震えた。
唯「な、なに・・・?」
慌てて取り出してみると、画面には「通話」の文字が浮かんでいる。
画面にタッチすると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
紬「唯ちゃんおめでとー!プレイヤーは唯ちゃんしか残っていないし、もう解除しちゃったからここでゲームは終了よ。お疲れ様ー」
電話の相手は紬だった。
紬「今からその建物から出してあげるけど、そのまま出すわけにはいかないから・・・、ちょっと我慢してね?」
唯「・・・?」
するといきなり壁からガスが噴射された。
唯「・・・!なに・・・これ・・・。」
唯は急激な眠気に襲われ、眠りに落ちた。
壁から噴射されたのは催眠ガスだった。
ここで、一つのゲームが終わった。
唯が目を覚ました時、そこは病室だった。
ベッドの上で寝かされており、腕に点滴の注射が刺してあった。
唯「・・・」
目が覚めてもしばらくは動く気になれなかった。
ただただボーっと天井を見つめていた。
私は助かった。
私だけが助かった。
憂を犠牲にして。
憂の居ない世界。
澪ちゃんも、りっちゃんも、あずにゃんも、むぎちゃん・・・
唯「・・・っ!」
全ては、全てはあいつが悪いんだ。
あいつがこんなふざけたゲームをやらなければこんなことにはならなかったんだ!
ガララッ
病室の扉が開いた。
そこに立っていたのは、
紬「体の方は大丈夫かしら、唯ちゃん」
紬だった。
唯は咄嗟に起き上がり、鬼のような形相で紬をにらみつけた。
しかし、興奮しすぎたのか息苦しくなってきた。
唯「ぐぅっ・・・はぁはぁ・・・」
紬「あら、だめよ無理しちゃ」
唯「おまえの・・・おまえのせいで・・・!」
唯「憂を返せ!皆を帰せ!私たちの楽しかった日常を返せ!返せえええええええええええ!!!」
唯は紬に飛びかかろうと、ベッドかた降りようとした。
しかし、
唯「っ!?」
足には拘束具が着けられていた。
誤字
ベッドかた→ベッドから
です。
紬「ごめんねー。こういう事を想定して着けさせてもらったのー」
唯「くううぅぅぅ・・・!」
もどかしい。
目の前に憎いあいつが立っているのに、殴ることは愚か近づくことすらできない。
紬「落ち着いて、唯ちゃん」
紬は唯のベッドの一歩手前ぐらいに座った。
紬「今日はね、大事な話があるの」
唯「・・・」
紬「毎回、生存者にはこうやって話をしてるんだけど・・・」
紬「私たちの仲間になってみない?唯ちゃん」
それは思いもしなかった誘いだった。
唯「ふ・・・」
唯の目は更に凶悪になった。
唯「ふざけるなあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
紬「ちょっとちょっと!落ち着いて!」
唯「誰が!誰がお前のところなんかに!死んでもいくか!!!!」
唯はふーっふーっと息を荒げている。
すると
紬「ちょっと黙って。話は最後まで聞いて」
紬は前に見た冷酷な目で唯を睨み、制した。
唯「・・・」
紬「琴吹グループはね、色んな分野の方々と精通しているの」
紬「あの楽器屋はもちろん、飲食店から病院まで。ほとんどが私たちの傘下なのよ」
唯「・・・」
紬「だから常に業界の最先端を行っているわ」
唯「・・・なにが、言いたいの?」
紬「唯ちゃん、クローン技術って聞いたことあるわよね?」
紬「ある人の遺伝子を使って、その人とまったく同じ人間を生み出したりできる」
紬「ここまで言えば分かるかしら?」
唯は喉を鳴らした。
紬「皆にまた会えるとしたら、どうする?」
唯「・・・」
それは願ったり叶ったりだ。
しかしこいつの言う事なんて信じられない。
紬「今までのクローンはね、寿命が短いというとても大きな欠点があったの。でもね、うちの総力をあげて研究を進めた結果、平均寿命を軽く越える寿命を持ったクローンが生み出せたの」
紬「それもね、生まれた時の年齢まで操れるの。わざわざ赤ん坊から育てなくても、小学生なら小学生、高校生なら高校生が生み出せるのよ」
唯「・・・そんなの嘘だ」
紬「本当よ。その例があの影武者の子よ。ほら、私とそっくりの影武者が居たでしょ?」
唯「・・・あ」
紬「覚えてるみたいね。あれね、影武者っていうのは名ばかりで私のクローンだったのよ」
唯「・・・!」
唯はこの話を信じ始めていた。
あの紬の家の財力ならあながち無い話でもない。
紬「どう?唯ちゃん。私たちに協力してくれれば、唯ちゃんの望むとおりにしてあげるわよ」
唯「・・・ほ、本当に?」
紬「ええ、本当よ」
紬はにっこり笑って見せた。
紬「でも一つ、条件があるわ」
唯「な、なに?」
紬「クローンを生み出すにはね馬鹿みたいなお金がかかるの。だから、唯ちゃんがそれを払ってくれればクローンを作ってあげる」
唯「い、いくら・・・?」
紬「そうねー、一人20億かしら」
唯「そ、そんなお金ないよ!」
とても払える金額ではなかった。
20億なんて金は、一生かかっても難しい金額だ。
紬「あらあら、何の為に私たちの仲間になるの?」
唯「え・・・?」
紬「ゲームに参加すれば良いのよ」
唯「・・・あ」
紬「ちなみに今唯ちゃんは20億円の賞金があるけど、もし仲間になるのならこれは入会料として徴収させてもらうわ」
唯「そ、そんな・・・」
紬「大丈夫よー。ただゲームに参加してプレイヤーを皆殺しにすれば良いだけなんだから」
紬「それに次のゲームで唯ちゃんは2回目。当然、ゲームの事を知ってる唯ちゃんの方が有利よね」
紬「最短で3回よ。それで皆とまた会えるのよ?なにを迷うことがあるのかしら」
唯「・・・」
唯「・・・やる」
紬「え?聞こえなかったわ。ごめんなさいもう一度」
唯「やる。やります。やらせてください!」
紬は満面の笑みで答えた。
紬「唯ちゃんなら分かってもらえると思っていたわ!歓迎するわよ」
紬は唯の手を握り、ぶんぶん振った。
紬「それじゃあ退院手続きしてくるわね。あ、ちなみにこの病院もうちの系列よー」
紬はそう言い残して病室を出て行った。
唯「・・・」
唯の顔は笑っていた。
しかし今までの笑顔ではなかった。
梓と同じような、あの笑顔だった。
唯「憂・・・皆・・・。待っててね・・・」
病室を出て廊下を歩いていた紬の顔は、さっきまでの笑みとは全く逆の冷徹な笑みを浮かべていた。
紬「うふふ・・・。人間って本当に残酷で傲慢な生き物よね・・・」
紬「クローン技術なんて、嘘に決まってるのにね・・・」
実は紬が言っていたクローン技術のことは全て嘘だった。
あの時、戦闘禁止エリアで発砲したのは、紬本人だったのである。
戦闘禁止エリアで言った影武者のくだりは、唯が発砲するのを渋ると踏んでいたからだ。
つまり、保身のためのでまかせだったのである。
紬はポケットから携帯電話を取り出し、どこかへ電話をかけた。
紬「斉藤?わたしよ」
紬「協力者を迎える準備をしておいて。あと、次のゲームの参加者を集めておいて」
紬「今回の新たな協力者が入るから1枠空けておいてね」
そういい終わると、紬は携帯をポケットにしまった。
紬「楽しくなりそうね・・・。なんたってあの唯ちゃんが私益の為に人を殺すんだもの・・・」
紬「うふふふ・・・あはははははは!!!!」
紬の後姿はとても楽しそうだった。
まるで公園に遊びに行く子供のように。
-fin-
ここまで付き合ってくれた読者様本当にありがとうございました。
実はこれ数年前に書き上げていたのですが、
こういった沢山の人が集まる場所に投稿する機会がなかったので
今回、ここに投稿させてもらいました。
帰宅してからの」晩酌しながらでコピペしていたので、連投してしまったり・・・。
すみませんでした。
今はまた新しいssを書いています。
自分に納得のいく出来に仕上がったらまた投稿しに来ようと思います。
感想など貰えると嬉しいです。
それでは、読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません