唯「すなっふふぃるむ!」 (31)

このSSには暴力描写、グロテスクな描写しかありません。
そういったジャンルが嫌いな方、普通のけいおんSSが読みたいという方は絶対に読まないでください。
繰り返します。
このSSには暴力描写、グロテスクな描写しかありません。
そういったジャンルが嫌いな方、普通のけいおんSSが読みたいという方は絶対に読まないでください。
この注意書きを無視して読んでしまい、「気分が悪くなった」等の文句を言われても作者は知りません。
もう一度言います。
ド変態の異常性愛者以外は絶対に読まないでください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1403788047

DVD-Rが挿入口に差し込まれ、画面右上には“再生”と表示された。
しかし、画面は暗いままだ。
そうしているうちに、突如、倉庫とも工場ともとれる奇妙な場所が映し出された。
そこには六人の女性と一人の男がいた。
この六人の女性には見覚えがある。
平沢唯、田井中律、秋山澪、琴吹紬、中野梓、真鍋和。
全員、両手を後ろ手に縛られ、両脚も足首で拘束されている。
そして、表情は様々だった。
泣き喚く者、震え怯える者、怒りを露にする者、努めて冷静を保とうとする者。六人六様と
言ってもいいかもしれない。
対して男の方はといえば、ビニール製の保護キャップに黄色いレンズのゴーグル、大きなマスクが
頭部から顔面を覆い、表情どころか正体すら窺い知ることは出来ない。
ただ非常に大きな体格の持ち主だった。身長も横幅もまるでプロレスラーのそれだ。その身体は
やはりビニール製と思われる割烹着のようなものをまとっていた。
男は六人から離れ、こちらへ近づいてきた。

男「Dnes, zabijem tie dievčatá. Sú to japonské dievčatá. Som veľmi nadšený. Bude to
  skvelá zábava」

外国語だ。身振り手振りで後方の六人を指し示しながら説明しているのだが、何を言っているのか
少しも理解出来ない。英語ですらないようだ。
今わかることは、この尋常でない体躯の男は外国人で、唯達を完全に支配している、という
ところだ。
話し終えた男は傍らにある工具箱を取り、ツカツカと六人に歩み寄った。

梓「え……―― きゃあ! いやぁ!」グイッ

男は梓の襟首を引っ掴むと、そのままこちらの方へ引きずり出し、床に這いつくばらせた。

男「Táto žena je prvý」

男はしゃがみ込み、膝で梓の首を潰すように固定すると、工具箱から五寸釘と金槌を取り出した。
他の五人は恐怖に震えながら、その光景を凝視している。
梓は手足の拘束と首への圧力で動くことも出来ず、ただ悲鳴を漏らすだけだ。

梓「ぐうっ……! た、助けて……! げほっ!」

男は梓のこめかみに五寸釘を当てて、金槌を振り上げた。
唯がヒステリックな声を上げる。

唯「な、な、何するの……!? やめて!」

梓「助けて唯先輩! 助けて! たす――」

男は梓のこめかみに当てられた五寸釘に向けて、力を込めて金槌を振り下ろした。
ズンッという鈍い音の後、長い五寸釘は梓の頭の中へすべて埋まってしまった。
梓は短い間身体を細かく痙攣させると、グルリと白目を剥いて絶命した。
そして、梓の両目と両耳からドロリと血が流れ出した頃、唯が切り裂くような悲鳴を上げた。
澪はその隣であまりの恐怖にカチカチと歯を鳴らしている。

唯「いやああああああああああ!! あずにゃん! あずにゃあああああん!!」

澪「ひ、ひいぃ、ひいいいいぃ……! な、なんてこと…… なんてことを…… あ、梓……
  梓ぁ……」

律「ちくしょう! よくも梓を殺したな! 私達が何したっていうんだ! 梓を返せェ!!」

罵倒の言葉を叫ぶ律の横で、紬と和は震えを押し殺しながら、ただ沈黙を守っている。
唯は梓の死体ににじり寄り、声を掛けた。

唯「ねえ、あずにゃん! 起きて! 起きてよぉ!」

両手を縛られて使えない唯は、顔を使って必死に梓を揺り動かした。
だが、梓は起きるどころか呼吸すらしていない。

唯「あずにゃん…… あずにゃあん……」

物言わぬ梓の背中に顔を押しつけ、すすり泣く唯。
それを尻目に男は律の方へ振り返ると、ゆっくりと近づいた。

律「な、なんだよ…… こっち来るな……! 来るなぁ!」

強い語調とは裏腹に、律は蛇に睨まれた蛙の様に座り込んだまま動くことが出来なかった。
震える律の目の前に男が立つ。見下ろす男。見上げる律。
次の瞬間、男は律の鳩尾を爪先で強く蹴り上げた。

律「うぐえぇっ!!」

律は口から吐瀉物を撒き散らしながら、七転八倒して苦しみ悶えた。


律「うぐぉえええ! ぐぅええ! おぐぅえええ!」

耳障りなえずき声と共に、ビチャビチャと床に飛び散る吐瀉物には血が混じっていた。
強く蹴られたせいで胃でも破れたのだろうか。

澪「ああ、やめて…… やめてぇ…… 律が、律が死んじゃう……」

惨殺された後輩と親友の苦しむ姿を目の当たりにした澪は眼から大粒の涙を溢れさせた。
それでも、彼女はその場から動けずにいる。

律「ひい、ひい…… うぅ…… ひい…… うぐぅ…… ひい、ひい…… うげっ……」ピクピク

律は身をよじりながらうめき声を上げ、涙と鼻水と吐瀉物で濡れた顔を醜く歪ませていた。
男は律の髪を掴むと、顔を引き上げた。
鼻からは鼻水が流れ落ち、口の端からは血と涎と吐瀉物が混じった物が糸を引いている。
男は律の顔をしげしげと見つめると、こちらに向かって何事かを語りかけた。

男「Juicy veľmi」

言い終わるが早いか、男は律の髪を掴んだまま、彼女を壁の方へ力任せに放り投げた。

律「ぐえっ!」ドサッ

壁に叩きつけられた律は潰れたカエルのような声を上げた。
手にゴッソリと残った毛髪を払い落とすと、男は汚いバッグをゴソゴソと探り、多少大きめの
四角い缶を取り出して律の方へと歩み寄る。
缶の蓋が開けられ、律の身体へ傾けられた。
液体が不安定な放物線を描いて、律の身体にビシャビシャと注がれていく。

律「うぅ…… やめろ…… やめろぉ……」ビシャビシャビシャビシャ

動けぬ律の身体にまんべん無く液体をかけた男は、こちらに向かって言った。

男「Bol som ešte mokrý. Ale prosím, v pokoji」

澪の震えが一段と強くなった。その液体の正体、男の意図を理解したのだろうか。

澪「だ、ダメだ! やめて! やめてぇ! 律を殺さないでぇ!!」

聞く気が無いのか、言葉が通じないのか。おそらく両方であろう。男は懐からジッポライターを
出すと、妙な調子で歌のようなものを口ずさみ始めた。

男「Horí, horí, horí hajzel. Horí, horí, horí hajzel」

唯「あ…… ああ…… りっちゃん……」

梓の亡骸から顔を上げた唯もまた、身を震わせている。
紬は涙の止まらない瞳を律からそらせず、それとは逆に和はギュッと目蓋を閉じて顔を
背けていた。
律は相変わらずうずくまったまま動けずにいる。
不意に男がライターをずぶ濡れの律に投げつけた。
その瞬間、律は轟音と共に凄まじい炎に全身を包まれていった。

律「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」ゴオオオオオウ

火だるまとなり、火炎を呼吸しつつも絶叫する律。
まるで陸に上げられた魚のようにビチビチと激しく身体を暴れさせている。

澪「いやあああ! いやあああああ! 律! 律ぅ!!」

唯「きゃああああああああ! りっちゃあああん!!」

澪と唯は炎に包まれた親友の姿を前に、喉も破れんばかりの悲鳴を上げた。
部屋の中にどんどん白い煙が充満していく。

律「あ゙づい゙! あ゙づい゙よ゙ぉ! あ゙づい゙い゙い゙……! あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙……! あ゙あ゙あ゙……」

律の悲鳴は徐々に小さくなり、身体の動きも芋虫のようなノソノソとしたものへと変わっていった。

澪「お願い! 火を消して! お願いだから!」

唯「りっちゃんを助けて! お願いします!」

男に向かって、二人が叫ぶ。
しかし、男は燃える律を指差しながら、こちらに向かって軽い調子で何かを話すだけだ。

男「Viete, voda je už」

澪「火を消せってばぁ!!」


炎に包まれた律は泣き叫ぶ澪を濁り始めた目で捉えると、気味の悪いしゃがれ声で彼女に訴えた。

律「だっ、だずげ、でぇ…… み゙お゙ぉ……」

澪「ああ…… 律……」

ゴロリと横向きに転がった律は目からほんの僅かに涙を溢れさせたが、激しい炎が瞬時に
蒸発させた。

律「み゙…… お゙……」ガクッ

澪「り、律……」

ついに律は動かなくなった。

唯「りっちゃん…… そんな……」

男「Manžel, je to k ničomu. Staňte sa oheň」

何かを呟きながら男が消化器を持ってきた。
燃え上がる炎に消化剤を噴射すると、木炭の様に真っ黒になって縮まった律の焼死体が姿を
現した。
死体は焼き過ぎたスルメのようによじれ曲がっており、全身が黒く炭化していたが、混濁した
角膜の白さと突き出した舌の赤さが印象的だった。

唯「ううっ……! おえええええ!」ビチャビチャ

無惨な姿となった親友を目の当たりにし、唯は激しく嘔吐した。

男「Prevarenej som steak」

消し炭となった死体を指差し、男はこちらに語りかける。
その後方では、唯が吐瀉物にまみれた地に伏してすすり泣き、澪は呆けたように口を半開きに
してかつて律だった物体を見つめていた。

和「こ、殺しなさい……」

ここまで沈黙を守っていた和がワナワナと震えながら口を開いた。

和「殺すなら私を殺しなさい! どんなにひどい殺し方をしてもいい! その代わりこれ以上
  他の子に手は出さないで!」

続けて紬も男に向かって訴えかける。

紬「Kill me! Please, kill me next, if don't you kill my friends! Please!」

和の心の底からの叫びも、紬の英語での訴えかけも、男には届いてないようだった。
それを示すかのように、男はバッグの中から刃渡り25cmほどのアーミーナイフを取り出し、
右手に握りしめると、宙空に視線を漂わせたままの澪の前に立った。

和「澪から離れなさい! この異常者!」

紬「お願い! やめて!」

二人が叫ぶ間もあればこそ、男はナイフを澪の首筋にスルリと実にスムーズに刺し込んだ。

澪「え?」

刺し込まれたナイフは一度グイと捻られ、そこから一気に引き抜かれた。
少し遅れ、澪の左隣にいた紬の顔にバシャリと真っ赤な液体が飛び散る。

紬「ひいっ!」

澪「あ、あ、あ…… うあぁ……!」

澪の首の左側がパックリと大きな赤い口を開け、そこから勢い良く血が吹き出している。
その勢いは噴水のようにと言っても決して大袈裟ではなかった。
壊れた噴水と化した澪は、独特の鉄に似た臭いを漂わせながら隣にいる紬の全身を真っ赤に
染め上げていく。

澪「いやあああ……! 血が…… 血がいっぱい出てるよぉ……!」

指を切るだの膝を擦り剥くだのとは比べ物にならないほどの大量の血液。
しかも、その血液は止まる事を知らずに、凄まじい速さでその量を増やしていく。

和「澪! 澪! 動かないで!」

にじり寄った和が己の肩で澪の傷口を強く押さえたが、そんなことで止まる訳が無い。


和「血が止まらない……! どうしたらいいの!?」

紬「あ…… ああ…… 澪ちゃん……」ガクガク

唯「うわあああああん! もうやだ! もうやだよう! 誰か助けてえ! お父さん!
  お母さん! 憂ぃ!!」ポロポロ

すでに恐慌状態と化した三人。
更には、ただでさえ血が苦手な澪も、この異常な大量出血にパニックを起こしていた。

澪「だ、誰か…… 誰か、助けて……」ヨロッ

得られるはずの無い助けを求めて、澪は立ち上がろうとしたが、恐怖と錯乱と拘束で足が
ガクガクと震えて言うことを聞いてくれない。
立ち上がろうと足を踏ん張る度に尻餅を突くという行為をノロノロと繰り返すだけである。
そのうち澪は身体を動かすことを止め、うなだれるだけとなってしまった。
そして、ずっと隣にいてくれていた和へ、まるで久しぶりに出会ったかのような表情を向けた。

澪「あ、和…… 助けて…… 気持ち、悪いし…… 頭が、グラグラするよ……」

和「澪…… 澪……! ごめんね……」

澪「ねえ、お願い…… 助けて……」フラフラッ

澪はポロポロと涙をこぼして哀願を繰り返す。だが、その相手は和ではなくなっていた。

澪「神様…… お願い…… これからは、パパと、ママの…… 言うことを、ちゃんと聞きます……
  いい子で…… います…… だから…… だか…… らっ……」ドサッ

その言葉を言い終わらないうちに、澪は崩れ落ちた。
振動で血の海が波を立てる。
澪の顔は血の気の失せた青白さを見せ、唇からは赤みが消えていた。
そして、その唇を酸欠の金魚の様にパクパクさせながら、必死に言葉を絞り出そうとしている。

澪「あ…… あ…… やだ、よ…… やだ…… や…… だ……」

もうまともな思考はままならないのか、拒絶の言葉を意味無く繰り返すだけである。
首の傷から流れる血液はだいぶ勢いを弱めていた。
もはや血圧、脈拍が極端に低下し、身体を流れる血液自体も残り少なくなっているのだろう。
ついに澪は虚ろな目で天井を見つめるだけとなった。

和「ダメ! ダメよ澪! 何か喋って! ほら、私を見て!」

既に死んでしまったのではないかと思うほどの間が空いた後、澪の口から小さくか細い声が漏れた。

澪「パパ…… マ…… マ……」

その言葉を言い終わると、澪はピクリとも動かなくなった。瞬きひとつしていない。

和「澪……」

紬「澪ちゃん……」

唯「うわあああああん! うえぇっ! うえええええん!」ポロポロ

男は息絶えた澪をしばらく観察していたが、やがて紬にチラリと視線を移すと、画面の外へ
消えてしまった。
後に残されたのは、澪の開いた瞳孔を見つめ続ける和と紬。それと泣きわめく唯。
いつまでもその光景が続くのかと思われた矢先、男が再び画面に戻ってきた。ドラム缶を
乗せた台車を押して。
男がドラム缶を抱え、それを紬の前へ乱暴に置いた。
ドラム缶は水で満たされているらしく、こぼれた水が紬のスカートを濡らす。

紬「え……? な、何を……―― きゃあっ!」グイッ

男は紬の髪を掴んで強引に立ち上がらせ、ドラム缶の前に立たせた。

男「Môžem postaviť koľko?」

またこちらに向かって何かを説明している。
その時、敢然と顔を上げた和が男の脚に噛みついた。

和「んむぅううううう!」ググッ

男「Bolestivý!」バッ

男は驚きと怒りの声を上げて、和を振り払った。
口の端から血をにじませて倒れ込む和。もしかしたら歯が折れているのかもしれない。


男「Choď po riti!」

男は怒声と共に、床に転がる和の顔面をサッカーボールのように蹴り上げた。

和「ぐっ!」

唯「和ちゃん!」

唯が慌てて這い寄る。
男の方はといえば、今は落ち着きを取り戻したかのように、こちらへ顔を向けて何事かを
話している。

男「Je mi to ľúto. Všetko teraz」

そして、再び紬の髪を掴んで引っ張り上げ、ドラム缶の前へと連れてきた。

紬「や、やめ、ひっく…… たす、助け、うえっ…… ひいっ……」

言う端から嗚咽が溢れて言葉にならない。
紬の髪を掴む男の手に力が込められた。

紬「ひいっ! やめ──」

拒絶の言葉を言い終える間も無く、紬の顔はザブリと水の中に突っ込まれた。
顔を上げようと必死にもがくが、頭をしっかりと押さえられている為、肩をよじり足を
バタつかせるくらいしか動きようが無い。
沈められた顔の横からはボコボコと大きな水泡が浮かぶ。

男「Zaujímalo by ma, asi dve minúty?」

男はどこかあらぬ方向に目をやっているが、時計でも見ているのだろうか。
計ったように沈めてから一分半ほどで紬の顔を上げた。

紬「ぶはぁ! げほっ! ごほっ! げほっ! げほっ! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……
  げほっ! げほっ!」

水から解放された紬は酸素を求めて大きく息を吸ったが、鼻や口に残った水も同時に肺に
吸い込んでしまい、激しく咳き込んだ。

紬「げほっ! げほっ! はぁ、はぁ、はぁ…… く、苦し……」

男「Dobre, ešte raz」

再び紬の顔は水に沈められた。
息継ぎが不充分な状態で沈められたせいか、今度の苦しみ方は尋常ではない。
男は全力で押さえつけているようだが、それでも彼の手を跳ね除けんばかりに紬の身体は
のたうつ。
その激しい動きに反比例して、浮かぶ水泡はずっと小さく少なかった。

男「Dlhšie a dlhšie」

先ほどの倍以上の時間をかけた後、紬の顔が水から上げられた。

紬「ぶはぁっ! げほっ! ごほっ! げほっ! ひいっ、ひい、ひい…… ごほっ! ごほっ!
  ひいっ、ひいっ、ひいぃ……」

室内に咳き込む声と笛の音の様な呼吸音が響き渡る。
紬の目は充血して真っ赤になり、鼻からは大量の鼻水がベットリと垂れ下がっていた。

紬「ひいぃ、ひいぃ、ひいっ、ひぃ…… も…… も、やめて…… し、死んじゃう……
  げほっ……」

紬は自身の身体を支える力も残っておらず、ドラム缶に身体を預けた姿勢のままガックリと
うなだれて、もはや半死半生である。
紬は涙をこぼしながら男に哀願した。

紬「お願い…… もう、やめて…… 死にたくない……」

男「Zabil som čoskoro」

男は短く言うと、紬の頭から手を離し、今度は両腕で彼女の腰辺りを力強く抱えた。

紬「いやあ! やめて! 助けてえ!」

紬の身体が高々と持ち上げられたかと思うと、そのままドラム缶の中に勢いよく放り込まれた。

紬「いやああああ――」

甲高い悲鳴はすぐに途切れ、ザブリという水音が響き渡る。

紬の身体はふくらはぎの辺りまですっぽりとドラム缶の中に納められてしまった。
両の足首はダメ押しとばかりに、男によってしっかりと握られている。
どれだけ身体をくねらせようが、ドラム缶の中で動くことが出来ない。
だが、紬の意思は、というよりも生存本能は身体を必死に動かして無駄な努力をさせようとする。
そして、意外なほど短い時間、おそらく二、三分といったところか。
その程度で紬の身体はあっけなく動きを止めた。
ドラム缶から突き出た両足は動く気配を見せない。

男「A rýchlejšie, než som si myslel」

男は肩をすくめてこちらに語りかけると、後ろへ振り向いた。
そこにいるのは顔を血まみれにして倒れた和とそれを気遣う唯。
男は先ほど澪の命を奪ったアーミーナイフを取り出し、二人の前に立ちはだかった。

唯「あ、ああ……」ガタガタ

ついに自分の番か、と震え上がる唯。
和はいまだに目をギュッと閉じ、眉根を寄せて痛みをこらえている。
男がナイフを突き出して二人に迫った。

唯「いやあああああああ!!」

しかし、次に男が見せた行動は実に予想外のものだった。
和の両手両足の拘束を手にしているナイフで断ち切ったのだ。
そして、さらに驚くべきことに、そのナイフを和の前へ放り捨てた。
男は和を指差す。

男「ハラキリ」

和「な……!?」

日本語だ。発音はだいぶ怪しいが確かに日本語だった。
男は次に唯を指差し、またも片言の日本語で和に話しかけた。

男「タスケル」

和「わ、私が、切腹すれば…… 唯を助けてくれるというの……?」

男「ハラキリ。タスケル」

和はナイフを見つめ、荒い息を吐いている。

和「ほ、本当に…… 本当に唯は、助けてくれるのね……?」

男「ハラキリ。タスケル」

和はしばらく荒い息を吐いたまま動かなかったが、やがて覚悟を決めたかのように目の前の
ナイフを力強く掴んだ。

和「やるわ……!」

唯「やめて! 和ちゃん、やめてよ!」

突如、唯が声を上げた。

唯「私の事は構わないで! 和ちゃんが死んじゃうなんて嫌だよ!」

和「これしかないの…… これであんたは家に帰れるのよ……」

唯「でも! でもっ!」

しばらく二人のやり取りを無言で眺めていた男であったが、やがてバッグから小口径の
回転式拳銃を取り出すと、銃口を唯に向けた。
「いいかげんにしろ。早くやれ」とでも言いたいのか。

和「やめなさい! やるって言っているでしょう!!」

腹の底から叫んだ和は弾かれたように立ち上がった。
そして、男を睨みつけたままナイフを振り上げると、自身の左脇腹に勢いよく突き立てた。

和「うぐうぅ!!」

和は身体を折り曲げて二、三歩後ろへよろめいた。
ナイフの刃が10cmほど刺さったままの傷口からは少しずつだが鮮血が流れ始めている。
むしろ顔や首筋を流れる脂汗の方が多いくらいだ。

和「ぐ…… ぐぎ、ぎいいいいい……!」

部屋中に響き渡っているのは和の口から漏れ出す歯ぎしりとうめき声。
だが和の動きはそこで止まってしまった。

それ以上刺すことも切ることも出来なくなっている。
身体を細かく震わせながら、自分の手を伝って床に流れていく生温かい物を見つめるばかりだ。
唯は涙を溢れさせた目を見開いて、声にならない叫びを上げた。

唯「のっ、の、のど、のどがぢゃあん!」ポロポロ

男「Koniec to? Takže ste sa pokúsili zabiť tú ženu」

男が低く呟き、唯に向けた拳銃の撃鉄を起こす。

和「ま…… 待ちなさい……!」ガクガク

身体をくの字に曲げたままの和は顔だけを上げると男を睨みつけた。
そしてゆっくりと唯の方に顔を向ける。
和は優しく微笑みつつも必死に言葉を絞り出した。

和「ゆ、唯…… 大好きだよ…… あんたが、大好き……」ニコッ

それだけ言うと和は鬼の様な形相となり、震える手に力を込めた。

和「ううっ、うううううううう!」

ナイフがゆっくりと和の体内奥深くへと押し込まれていった。
食いしばった歯の間から血の泡が吹き出し、顎の先から床に滴り落ちる。

和「うぐあああああああああああっ!!」

そして理知的な彼女には似合わない獣にも似た雄叫びを上げながら、和は脇腹のナイフを
左から右へ一気に引き回した。
ブブブブブッという肉が破れる低く太い音が部屋中に響く。
その細いウェストは端から端まで大きく切り裂かれ、パックリとガマガエルのように大きな
赤い口を開けた。

和「がはぁっ!」

血混じりの息を吐くと同時に、和の腹の裂け目からビチャビチャと大量の小腸が溢れ出した。

和「あぁ…… うあぁ……!」

ナイフから手を放し、本能的に傷口を押さえるも、腹圧によって勢いよく押し出された小腸は
次々と床に散らばる。

和「あ、ああ……」フラフラ

和は虚ろな目で撒き散らされた自身の臓物をしばらく眺めていたが、やがてその場にドサリと
崩れ落ちてしまった。

男「Veľký japonský hara-kiri. To je umenie smrti」

和「の、和ちゃん! 和ちゃあん!」

唯はすぐに和の元へにじり寄った。

唯「和ちゃん、しっかりして! 和ちゃん! 和ちゃん!」

大声で呼びかけられても、和は生気の無い眼を薄く開けて、ヒューヒューと弱々しく呼吸を
繰り返すだけである。
内臓がはみ出た傷口からは後から後から血が溢れ、床の血溜まりはどんどん大きくなっていく。

唯「いやぁ…… 和ちゃんが死んじゃう…… 和ちゃんが死んじゃうよぉ! うわあああああん!」

唯は為す術も無く和に己の身体を預け、子供のように泣き叫ぶ。

唯「うわああああああああああん! お願い、和ちゃん死なないで! 死んじゃやだよぉ!
  うわああああああああん!!」

それを見ていた男は唯の元に近寄り、彼女の両手足の拘束を切った。本当に解放しようというのか。
しかし、男は唯のそばにしゃがみ込み、耳元でこう囁いた。

男「タベル」

唯「え……?」

唯は言葉の意味を理解出来ていないらしく、オドオドした表情で男を見つめている。
男は和の腹からはみ出して床に散らばった臓物を指差し、もう一度唯に言った。

男「タベル」

そして、和の顔を指差す。

 
男「タスケル」

唯の顔から見る見るうちに血の気が引いていく。

唯「ええっ……!? で、でもっ…… そんな…… だって…… そんなことしたら和ちゃんが……」

男「タベル。タスケル」

唯「出来ない…… 出来ないよぉ!」

激しく首を振る唯。
その様子を見た男は立ち上がり、先ほどの拳銃を和の方へと向けた。

男「To je nuda. Poďme zabiť tú ženu」

唯「ま、待って! だめぇ! 和ちゃんを殺さないでぇ!」

唯が男の腕にしがみつくも、簡単に振り払われる。

男「タベル。タスケル」

オウムのように繰り返される男の声に、唯は横たわる和へと視線を落とした。
すでに顔面蒼白の和はヒュッヒュッと短く小さい呼吸を繰り返しており、それは今にも止まって
しまいそうだ。
さらに下を見遣ると、和の身体から飛び出した彼女の臓物が目に入った。
血と脂にヌラついた優にバケツ一杯分はある小腸が、部屋の薄明かりに照らされて不気味な
輝きを放っている。
唯はすぐに視線を外すと、男に問いかけるでもなく一人呟いた。

唯「ほ、本当に、和ちゃんを助けてくれるの……? コレを…… た、食べたりなんかして……
  和ちゃんは死んじゃったりしないの……?」

死ぬに決まっている。
腹を切り開いたナイフは腹大動脈をも傷つけているかもしれない。それほどの大量出血だ。
次の瞬間に息絶えても決しておかしくないだろう。
唯はなおも考え込んでいたが、やがてゆっくりと和に近づいた。

唯「の、和、ちゃん……」

そしてカチカチと歯を鳴らしながら、和の傍らに溜っている小腸に震える手を伸ばす。
だが、血と脂でドロドロな小腸はなかなか上手く掴めず、ヌルリと手から滑り落ちてしまった。

唯「うぅ…… うえっ……」

次々に押し寄せてくる猛烈な吐き気。
それでも唯は喉元まで込み上げてくる物を必死に飲み下しながら、小腸を掴もうと悪戦苦闘
している。

唯「つ、掴めない…… 早く、早くしなきゃ…… 和ちゃんが、死んじゃう……」

そうこうしていると、唯の横にまたも男がしゃがみ込んできた。

男「Jedzte veľké mäso viac」

男は唯に何事かを語りかけると、突然和の切り開かれた腹腔内に手を突っ込んだ。

和「がふっ……」

和はゴボゴボと口から血を溢れさせながら、ビクンと身体を大きく痙攣させる。

唯「いやあっ! 和ちゃん!」

男はマイペースに腹腔内を探り、そして手の動きを止めると一気に何かを引っ張り出した。
それは大腸だった。
その時、和のスカートの中からブッという下品な音が響いた。
大腸を有り得ない強さで刺激されたせいで宿便が肛門から飛び出したのだろう。
和の下着が大きく盛り上がり、隙間からは茶色い糞便が顔を覗かせている。
男は唯の両頬を掴んで凄まじい力で口をこじ開けた。

唯「あがあっ! あがががががっ!」

先ほどの決意はどこへ行ったのか、唯はジタバタと激しい抵抗を見せる。
だが、男はそんな抵抗など問題にせず、無理矢理唯の口中に和の大腸を捻り込んだ。

唯「うぐっ! んぐううううう! うぶぅっ!」

口の隙間、さらには鼻の穴から嘔吐物が勢いよく吹き出す。

男「Nepáči sa mäso priateľa?」

 
唯「ぶはっ! おえぇ! うえええええっ!」ビチャビチャ

男は嘔吐を続ける唯の身体を乱暴に突き飛ばした。

唯「げほっ、げほっ…… うぅ…… 食べた…… 私、和ちゃんを食べた…… 食べちゃった……
  どうしよう、食べちゃった…… 和ちゃ――」

しかし、唯は意外なほど素早く起き上がると和の方を見つめた。見つめるその瞳には尋常ではない
光を宿らせていたが。

唯「和ちゃん…… ごめんね、吐き出しちゃって…… わ、私…… ちゃんと食べるから……
  今、助けてあげるね……」

フラフラと和の元へ辿り着くとしゃがみ込み、転がっている大腸の前に顔を伏せた。
掴み上げることを諦めた唯は、まるで犬が餌を食うように、両手で大腸を床に押さえて
かじりついた。

唯「あぐっ…… はぐ、ぐぐ……」

大腸は弾性が強くなかなか歯が通らない。唯は焦りながら遮二無二歯を立て続ける。
ただ一心不乱に和の大腸にかじりつく。

唯「あぐぐぐ…… うぐっ、ぐっ……」

そうしているうちに唯の犬歯がついに腸壁を突き破った。
その破れ目からは次々と糞便が漏れ出し、唯の口中は刺激の強い苦味でいっぱいになっていく。

唯「う、うげっ…… はぐ…… むぐむぐ…… んぐっ……」

唯は込み上げてくる吐き気と闘いながらも懸命に大腸を喰い千切り、糞便と共に咀嚼し嚥下する。
しかし、そこで唯の肩が叩かれた。

唯「へ……?」

血と糞便で口の周りを汚した唯は顔を上げた。
男はクイックイッと親指である方向を指している。
指された方向へ移した視線の先には、ピクリとも動かない血の気の失せた白い顔があった。

唯「和、ちゃん……? 和ちゃん、和ちゃん……」

和の名前を呟きながら、唯はその肩を何度も揺り動かした。

唯「和ちゃん、和ちゃん、和ちゃん、和ちゃん、和ちゃん、和ちゃん、和ちゃん、和…… ちゃん……」

だが、いくら名前を呼ぼうと身体を揺らそうと返事は無い。
呼吸することを止めた和は乾いた瞳を天井に向け、血と臓物と糞便を晒しているだけである。

唯「う、嘘つき……」

唯は涙で潤んだ目で男を睨みつけると、彼の方へフラフラと近づいた。

唯「嘘つき! 嘘つき! 助けてくれるって言ったのに! 嘘つき! 和ちゃんを返して!
 返してよぉ!」

そして、男を罵りながら、彼の身体をポカポカと叩く。
そんな唯の攻撃など意に介さず、男は拳銃の台尻で唯の頭部を殴りつけた。

唯「ぎゃっ!」バタッ

短い悲鳴を上げ、床に倒れる唯。両手で頭を押さえて動けずにいる。
その様子を見ていた男はまたも画面の外へと消えていってしまった。
画面は床の上で身体を丸めてすすり泣く唯を映し続けている。
映像に動きが無いまま数分ほど経過した後、どこからか犬の吠える声が聞こえてきた。
それはどんどん音量を増してこちらへ近づいてくるようだった。
吠え声が最高潮にまで高まった中、男はとんでもないものを押しながら戻ってきた。
小さな部屋と言っていい広さの、頑丈そうなケージ。
その中では二匹の大型犬が、血の臭いに反応しているのか、ひどく興奮した状態で唯や男に
向かって吠えたてている。
男がケージのキャスターにブレーキを掛け、扉を開けると、犬達は素早く襲いかかろうとしたが、
短めのリードがその突進を阻む。
男は幾分余裕のある動きで準備を整え、唯の前に戻ってきた。

唯「あ、あ……」ガクガク

すでに顔を上げていた唯はケージを見つめて震えている。
一人残された自分。扉を開けられた広いケージ。狂暴な犬。男。
自身の置かれた状況がごく近い未来を想像させたのか、男から逃れようと後ずさりを始める。

 
唯「いや…… いやだよぉ……!」ズリズリ

男はいとも簡単に唯を捕らえ、ケージの前へと引きずり、彼女を中へ放り込んだ。
ガシャリと非常な音を立てて、扉が閉められる。

唯「やだぁ! お願い! 出して! 助けてぇ!!」ガシャガシャガシャ

ケージの柵を叩いて泣き叫ぶ唯を尻目に、男は犬側の方へと回る。
威嚇する犬に手間取り、しばしの間は空いたが、男の手によって結ばれたリードが解放された。
そこからはあっという間の出来事だった。
一匹目が唯に飛びかかり、彼女の手首に食いついた。

唯「きゃあああああ! 痛い! 痛い痛い痛い!」

大型犬の咬筋力は瞬時に手首の骨を噛み折り、犬の口からはみ出した手が不自然な位置で
ブラブラと揺れていた。
間を置かず二匹目が唯の顔面に食らいつく。

唯「ひいいいいいいいいいい!!」

犬はすぐに離れ、涎を垂らしながら唯の顔の肉を咀嚼していた。
もんどり打って倒れた唯の右顔面は大半の肉を持っていかれた悲惨極まるものだった。
潰れた眼球が飛び出し、鼻は削げ落ち、頬の肉の大半を失った口元は並びの良い歯列を
覗かせている。

唯「た、た、たひゅけ…… たひゅけへえぇ……」ビクンビクン

そして、終幕は実にあっけなく訪れた。
手首に噛みついていた一匹目が狙いを変え、唯の喉に食いついたのだ。

唯「ぐぉえっ!!」

喉の肉は簡単に食い千切られ、それ以降唯の悲鳴は一切聞こえなくなった。
ただガラガラとうがいをするような音が響くだけだ。
大の字となった唯は断続的に全身を痙攣させていたが、二匹の犬に頭部と喉を集中的に
捕食される中、やがてその動きも無くなってしまった。
少しの間、画面は犬達の食事シーンを流すだけであったが、不意に地震が起きたかのように
映像が大きく乱れた。
どうやら男がカメラを手にしたようだ。
画面は、頭蓋に釘を打ち込まれた梓、消し炭の律、失血死した澪、ドラム缶から両足を覗かせる紬、
臓物をはみ出させた和、犬の餌となった唯と、物言わぬ屍を順序よく映していき、最後に男の
バストアップとなった。

男「Tento film je u konca. Ďakujem. Dovidenia」

こちらへ朗らかに語りかける男がバイバイとばかりに手を振る映像を最後に、画面は始めと同じ
真っ暗闇へ戻ったのだった。



[完]

終わりです。さようなら。

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