書き溜めありです一気に投下します
いつからでしょうか…
自分の誕生日を素直に喜べなくなったのは…
ピピピピ ピピピピ………カチッ
「んっ……うぅん………ふわぁ……ねむ…」ゴソゴソ
「あぁ……仕事…」モゾモゾ
音無小鳥、本日9月9日でめでたくX0歳になりました。
小鳥「今日からX0歳のワタシ、デビュー!」
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誕生日と言えど平日には変わりありません。
寝汗を流すためにまずはシャワーを浴びます。
熱いシャワーで目を覚まし、ボケッとした頭を叩き起こします。
「…痛っ」
どうやら寝違えてしまったみたいです。
首の付け根の当たりが痛みます。
誕生日に寝違える女なんて私くらいかもしれません。
我ながら情けなさすぎで笑いがこぼれてしまいます、ふふっ。
痛めた首を温めすぎないように今日は早めにシャワーを終えて支度を始めます。
「…あー、パン……」
昨日の朝で切らしていたみたいです。
今日仕事帰りに買って来なきゃ。
食べなきゃダメ、というほどお腹が空いているわけでもないので今朝はごはんぬき決定です。
やよいちゃんが聞いたら怒りそうね。
朝食も抜いたため微妙に時間が残ってしまいました。うーん、どうしようかしら……
誕生日、ということもあり家でダラダラするのはなんとなく嫌だったので少し早めに仕事場に向かうことにしました。
いつもより少し早い電車に乗り、いつもより少し眠そうな顔をしたスーツ姿の男性達を眺めながら、電車に揺られます。
「小鳥?」
突然声をかけられました。
驚いて振り返ると高校時代の友人がそこには居ました。首が痛いの忘れてた……
「久しぶりじゃない! 元気してた?……って大丈夫?」
私が首の痛みに顔を歪めていると、喜びの顔から一転、心配そうに顔を覗き込んで来ました。
「大丈夫大丈夫、寝違えてたの忘れてただけ…」
痛みに耐えつつも笑顔を作り、久しぶりに会えた友人を安心させました。イテテ……
「なんだ、心配したよぉ、急に怖い顔したからびっくりしちゃった」
「あ、あはは…ごめんごめん」
「でも、相変わらずそういうトコ、変わってないねぇ」
なんて返せば良いのかわからず、思わず微妙な表情で笑うことしか出来ませんでした。
「最近どうなの? 芸能事務所で働いてるんでしょ? 今度奢りなさいよぉ」
「んー、まあまあってとこかな? 私なんかより全然稼いでるくせによく言うわよ」
実際彼女は誰もが一度は聞いたことのある有名な大手企業に就職し、バリバリのキャリアウーマンをやっています。
私の収入も決して悪い方ではないのですが、やはりその業界最大手ともなると収入の差は歴然とあります。
「まあまあ、お金の話は朝からやめましょ、気が滅入っちゃうから」
「自分から振っておいてよく言うわよ… 調子が良いのも相変わらずね」
「えへへ、まーね」
電車に揺られつつ、近況報告を互いにしているとあることに気がつきました。
「ねぇ、その指輪…」
「あっ、バレちゃった?」
「もしかして…」
「えへへっ、うん。そのまさか」
彼女は結婚していました。
話によると式はいろいろタイミングもあり挙げていないんだとか。
相手は大学時代の友人で数年前の飲み会で再開し、付き合い始めたそうです。
そして晴れて二人は先月結婚。籍を入れただけなのであまり他の人には報告していないんだそうです。
「へぇ、あんたが結婚なんて、ねぇ…」
私は思わず洩らしてしまいました。彼女はバリバリ仕事をこなし、以前飲んだ時も「恋愛より今は仕事が楽しい」と熱く語っていたのを覚えていたからです。
「なによぉ、私が結婚しちゃいけないって言うの?」
彼女はジトッとした目を私に向けながら少し膨れ気味に続けました。
「そういう小鳥こそどうなのさ? いい人、居るの?」
「うっ……」
まさかこんな日にその話題が出るとは…
誕生日なのにこの有様。もしかしたら今後一年間、ずっとこんなことが続くのかも…
「気になる人とかも?」
正直に言うと居ないわけじゃありません。
ただ、きっとその人は私のことをなんとも思っていないでしょう。
その人には叶えなきゃならない夢がありますから。
「……い、……り、…とり?」
「小鳥?」
「あっ」
どうやらぼうっとしていたみたいです。
彼女がまた心配そうにこちらを見ています。
「どうしたの? ぼーっとして?」
「えっ、ああ、大丈夫。なんでもないから」
「本当? ま、なんでもないならいいわ。小鳥の妄想癖も今に始まったことじゃないしね」
「もうやめてよ、昔ほどじゃないんだから」
電車がゆっくりとホームに滑り込みました。
確か彼女の降りる駅はここだったはずです。
「本当かしら? …っと、私もう降りなきゃ、またね」
「あ、うん。また」
「がんばんなさいよ。 あと、誕生日おめでとう」
そう言って彼女は颯爽とホームに降りて行きました。
「ありがとう! そっちもお幸せに!」
扉の閉まる音と共に軽快なメロディーが流れます。
彼女はニコリと笑い、改札の方へと歩いて行きました。
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突然だった旧友との再開のあと、私は一人仕事場へ向かいました。
いつもの出社時間から30分程早く着いた私は、静かに事務所の階段を登り、鍵を開け……たはずですが
「…開いてる?」
社長がいつもより早く来たのかしら?
そう思い、扉を開けるとその先には彼が。
「あ、おはようございます」
「おはようございます、プロデューサーさん。今日はお早いですね」
「ええ、ちょっと時間が余ったもので、早く来ちゃいました」
「私もなんです。いつもはもっと遅いけど」
「コーヒー、飲みますか? 淹れたばかりなんで注ぎますけど?」
「あ、じゃあお願いしちゃおうかな?」
「わかりました。座って待っててください。お持ちしますんで」
そう彼が言うと、私の横を通り過ぎました。コーヒーの苦味のある匂いが鼻腔をくすぐります。
私は彼の言葉の通りに事務机のイスを引き、パソコンを点け待つこと数分、
「お待たせしました。はい、音無さん」
「あ、ありがとうございます」
手渡されたマグからは、彼から漂ったのと同じ苦味のある独特な匂いが湯気と一緒にたっていました。
一口すすると、彼がこちらに僅かな笑みを浮かべながら「どうです?」と訪ねてきました。
いつも飲んでるものより少し苦味が強いそれは、なんとなく大人な感じがして嫌いな味ではありませんでした。
「ん、美味しいです。ありがとうございます」
「ああ、良かった」
私は子供のように見せる笑顔に思わず吹き出してしまいました。
「笑うことないじゃないですか」
彼は少し恥ずかしそうに頭を掻きます。
その行動すら子供のように感じられて私はなおのこと笑ってしまいました。
「……実はですね」
「…はい?」
ひとしきり互いに笑うと、彼は照れながら「それ、僕が挽いた豆で淹れたんです」と言いました。
『嫌いではない』は撤回させてもらいます。
「プロデューサーさんが?」
「はい。…で本当のところどうでした? 飲めなかったら捨ててくださいね?」
「いや、そんな。美味しいですよ。私は好きです」
…言っちゃいました。コーヒーの味の事なのに、なぜか変に意識して顔が熱くなってくるのがわかりました。
そんな私に気づいていないのか、彼は最近コーヒーに凝り始めたこと、自分でも焙煎してみようかと考えていること。
休日は豆を買いにいろいろ出歩いていること。止まることなく動く彼の口を眺めながら、私は少し苦いコーヒーを口に含みます。
「あ、すみません。つまらないですよね」
夢中になって話していることに気がついたのか、彼は突然話をやめてしまいました。
「いいえ、楽しそうに話しているから思わず聞きこんじゃって」
私は素直にそう返しました。
「あはは、そんないいですよ。無理しないでください」
「無理なんかしてませんよ、…すごいですね。私もコーヒー豆から淹れてみようかな?」
「楽しいですよ、すごく」
「ふふっ、私もプロデューサーさんみたいになっちゃったりして」
「あ、バカにしてますね?」
私がいたずらっぽく言うと、今度は少し拗ねたような顔で機嫌を悪くしたポーズをとって見せてきました。
「ふふっ、冗談ですって、ごめんなさい」
「…まあ、許しましょう」
また二人で顔を見合わせると思わず互いに吹き出してしまいました。
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話し込んでいるうちにもうすぐ始業時間です。
そろそろアイドルの娘達が出勤してきます。
私達も仕事の準備をしなくちゃいけません。楽しい時間はあっという間に過ぎていくものです。
私が立ち上げたきりずっとスクリーンセーバーになっていたパソコンを触り始めた時
「そういえば、音無さんって今日お誕生日ですよね?」
彼がそう切り出して来ました。
あっ、知っててくれてたんだ…と内心嬉しかったりします。
「ええ、今日は朝から憂鬱でしたよ…」
「はは、じゃあこれを渡しても憂鬱に拍車がかかっちゃうかな?」
と言いながら彼はかばんからラッピングされた箱を取り出しました。
「えっ!?」
思わず大きな声が出てしまいました。まさかプレゼントまで用意してくれているとは…
正直嬉しさよりも先に驚きが来てしまいました。
「気に入らなかったら捨ててください、僕が勝手に音無さんに合いそうだなって思って買ったんで」
「あ、あの…開けてみていいですか?」
「ええ、どうぞ……なんだか恥ずかしいな」
苦笑を浮かべながらも許可してくれた彼の顔から目を離し、綺麗にラッピングされた包みを見ます。
私は年甲斐もなく逸る気持ちを抑えつつ、ラッピングを破かぬよう、そっと包みを開けました。
ラッピングを外すと中には白い無地の箱が入っていました。
少し重量があるみたいです。
「……開けますね?」
「どうぞ」
彼が優しい声でそう答えたのを聞くと、私はそっと箱を開け、中を覗いて見ました。
中には淡い黄色の、ひよこ色で塗られたマグカップが入っていました。
「これ……」
ひよこ色、私がよく身につけている色の一つでした。
「繰り返しますけど気に入らなかったら捨ててくださいね?」
捨てるわけがありません、私のために選んでくれたものを。
そして気づいてしまいました。
取っ手のところに赤い筆記体でkotoriと書いてあるのを。
「これもしかして……」
結構お値段するんじゃないですか?とは続けられませんでした。
さすがの私でもそんな無粋なことは聞けません。
「あの、音無さんさえ良ければなんですけど、その…」
私が返事をすると、彼は今日何度目かの照れた笑いを見せ、少しぬるくなったコーヒーを口に含みました。
終わり
以上です。
どうもありがとうございました。
小鳥さんと同じ誕生日で良かったです、読みにくかったらすみません。
HTML化お願いしてきます
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