【SIREN】須田恭也「皆神村……?」【零】 (123)

・不定期更新

・設定の改変あり(?)

・雑談などはご自由に



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須田恭也は激しく後悔していた。
 もともとオカルトマニアである彼は『皆神村』の儀式についての噂を聞きつけて、山奥に来たのはいいのだが自前のマウンテンバイクがパンクしてしまい歩く羽目になったのだ。普通なら、別の機会にするべきなのだろう。だが、この村は近々開発で廃村になってしまうとなれば話は変わる。彼としては何としても一目見てみたいのだ。

(……地図くらい持ってくるんだった)

 今更ながらそんな溜息をもらす彼は当てもなく山中をさまよっていた。一応、来た道は覚えているので、戻ることはいつでもできるだろう。しかし、村の近くまで行ける保証が全くない。総じて、近道などの横着を行った者の末路なんてこんなものである。
 現在、所持しているのは二千円程度が入った財布に昼飯の握り飯(梅干し)二個と水稲の入った小さ目のバッグだけである。
 しかも、山ということを考慮して丈夫なズボンと緑の長そでYシャツを着てきたことが裏目に出た。暑すぎて水筒の中身がどんどん減っていく。

(これは戻るべきかな……)

 半ば諦めかけていたとき。
 茂みの向こうから誰かの声が須田の耳をかすめた。

「……ねえ、澪。茂みの中に誰かいない?」

「え? まさかクマとか?」

「ここにクマはいないと思うけど……」

 くだらない冗談を交えつつ天倉繭と天倉澪の姉妹は茂みの中に目をこらす。
 中から出てきたのは人だった。

「……?」

 繭が素っ頓狂に首をかしげた。

「ひ、人? よかったぁ~」

 須田は思わず安堵の息を吐き出した。
 ここにいたということはおそらく村の関係者だろう。この辺の地理にも詳しいはずだ。しかも見たところ自分と同じくらいの年齢のようなのでおじさん、おばさんよりははるかにとっつきやすい。

「あの、君たちってこの辺の人?」

 姉妹と思わしき似た顔つきの少女たちはいぶかしそうに顔を見合わせたが、すぐに座っていた方の少女が答える。

「そうだけど……?」

「ホント!? 実は俺さ、このあたりにあるっていう村に興味があってきたんだけど道に迷ちゃって……」

「そうなの? でも村っていうほどでも……」

 少女はそう言って、後ろを振り返った。
 そこで須田もはっとした。
 もう一人の少女が、いない。

「お姉ちゃん……?」

 少女があわてて辺りを見回すが、その姿はない。
 しかしよく見ると、森の奥へ入り込んでいく後姿が見えた。
 少女は須田のことなど忘れたようにあわてて、追いかける。

「え、ちょっ……」

 須田もおいてけぼりともいかず、あとを追いかけた。

――――――――
――――――
――――

澪はこの上なく焦っていた。
 姉の繭は小さいころの事故で足がよくない。今でも痛みを覚えるため、歩行すら加減が必要なほどだ。その原因が自分であるとすればなおさらだろう。
 だからこそ気付けなかった。この異常事態に。
 逆に須田は気付いていた。あたりが一気に暗がりに沈んでいることに。

「ちょっと待った!」

 あわてて澪の手首をつかみ、まくしたてるように言った。

「なんか様子がおかしい。周りも一気に暗くなってるし……」

「でも……お姉ちゃんが!」

「そうかもしれないけど……」

 あまりに強く反抗され、須田がたじろぐ。
 澪はその緩んだ手を振り払うと、そのまま奥へ行ってしまった。
 須田は空を見て思う。この先へ進んでは戻れないのではないか、と。
 でも女の子を二人も見捨てるわけにもいかない。
 そんな中途半端な気持ちのまま彼は奥へと進んでいった。

 そして澪は鳥居をくぐる。越えてはならないであろう一線を越える。
 あの少年に対しては強く逆らったが、澪だって嫌な予感はしていた。ただ、そんなことは引き返す理由にもならない。

「お姉ちゃん……」

 帰ろう、と言おうとして。言葉が止まる。
 振り返った繭からは数匹の紅い蝶が羽ばたいていた。

「……、」

 背中のあたりにどっと冷や汗が噴き出す。
 しかし繭は澪とは対照的に、静かにつぶやいた。

「地図から消えた村……」

「……さて、と。役者は揃ったか」

 木造の家屋の壁によりかかりながら、白衣の青年はつぶやいた。
 家の窓から白髪の青年が憂いた表所で彼を見つめている。

「本当に、やる気なのかい。司郎」

「当然ですよ。……それに、彼女の血筋が途絶えることはあなたにとっては望まないことのはずだ。少なくとも僕が儀式を完遂することよりは、ね」

「……だからって。こんなことはやめるべきだ」

 青年は残念そうに首を振る。

「それはそうかもしれない。……でもこれは僕の道だ。いくらあなたとはいえどもこればっかりは聞き入れられない」

 そう言い残し、強い足取りで立ち去る。
 白髪の少年はそれを悲しそうに見つめていた。

今日はここまで

とりあえずWiiUが欲しい

「地図から……消えた村」

 須田が鳥居をくぐって最初に出てきた言葉がそれだった。
 彼の持っている情報と全てが合致する。その村は祭りの夜に消えてしまったこと。森に迷い込んだ者はその村に誘われること。
 どうやら好奇心だけで手を伸ばすべきではなかったようだ。
 しかし今更、後戻りもできない。ならば、何とかするしかないだろう。

「大丈夫?」

 少し苦しそうに胸を抑える少女にそっと声をかける。

「うん……」

「きっとここから抜け出せるさ」

 正直、自分も不安だったが何とかその一言を振り絞る。
 とにかく唯一の男なんだしそれなりに気を使う必要はあるだろう。

「君たち、名前は?」

「え……?」

「いや、この状況でさすがに名前も知らないんじゃまずいかなって……」

 坂道を下りながら須田は照れ臭そうに言った。
 少女も少し間を開けて答える。

「澪……天倉澪。こっちは姉の天倉繭」

「……よろしくね」

「澪に繭ね。俺は須田恭也。ま、頑張っていこうぜ」

 完全な空元気である。

「……ここ、どこ?」

 三つ編みの少女が呟いた。

「せん、せい……」

 この地獄はどこまで続くのだろう。

村の入り口まで来ると一つの廃屋から人の気配を感じた。

「誰かいるのかな……」

 澪が不安そうにつぶやく。
 これはやはり自分の役目だろう、と須田が一歩前へ進み出た。

「俺が見てくるよ。もしかしたら簡単に抜けれるかもしれないし」

 本音を言うとこんな雰囲気丸出しの家には入りたくもないが、わずかな好奇心と使命感が彼を前へ進ませた。
 しかし襖をあけ、一歩足を踏み入れた瞬間に改めて実感する。
 ここはまともじゃない、と。
 わずかに息を吐き、表情を引き締めると須田は奥へと進んだ。

「誰か、いる……?」

 それを確信したのは一階の廊下の奥の部屋へ入った時だ。
 一気に温度が下がったような感覚に襲われた。もしかすると本当に下がっているのかもしれない。
 部屋を見渡すと、メモの切れ端ようなものを見つけた。

「……真澄、美也子?」

 そこには二人の人物の名が記されていた。紙片もそれほど古いとは思えない。
 やはりこの家には誰かいる。

 とりあえず澪と繭に戻って報告しよう。二階もあるようだが、いつまでも外にいさせるわけにいかない。そう思って戻ろうとしたときだった。
 二階へあがっていく女性の姿が見えた。

「あ……」

 もしかするとこの村の人だろうか。そう思い須田は二階へ駆け上がった。
 
「あれ……誰もいない」

 二階の部屋に人の気配はない。しかしあれを幻覚と呼ぶにはあまりにもはっきりしすぎている。やはり恐怖を抱いているからだろうか。
 一階より少し暗い部屋に顔をしかめるがその問題はすぐに解決された。目の前の大きな机の上に懐中電灯があったからだ。
 その一筋の光を頼りにあたりを見回す。

「……カメラ? 何でこんなものが」

 部屋の隅にある割にはそれは異様な存在感を持っていた。
 その時だった。
 唐突に須田の肩へ手が置かれる。
 はっとして振り向くと、それは外で待たせていたはずの少女だった。

「そのカメラ……」

「あ……うん、なんだろうね」

 内心ほっと溜息をつきながら須田は答えた。
 顔の違いはよくわからないが、服装から言って澪の方だろう。
 繭は不安そうに周りをきょろきょろしている。

「ねえ、澪。早くここから出よう?」

「うん…」

 澪が須田にアイコンタクトを取り、部屋を出ようとしたときだった。
 襖ががたがた! と激しい音を鳴らした。

「ひ……」

 繭が思わず澪の肩に顔をうずめる。澪も繭の頭を手でそっと包んだが、その表情はこわばっている。

「……」

 須田は二人に対して力強くうなずくと、襖へ手をかけた。決心を固めるようにゆっくりと目を閉じ、開く。
 勢いよく襖を開けようとした瞬間――――

――――隙間から女性がこちらをにらんだ

「わぁ!?」

 須田も思わずしりもちをついてしまう。繭と澪に関しては声を上げることすらかなわない。

(な、なんだ今の……)

 この家にはやはり人がいたのだろうか。いや、それなら普通に声をかければいいはずだ。
 つまりあれは――――

(――――よそう)

 今、ネガティブになってはダメだ。二人まで不安にさせてしまう。
 しかし、どうすればいいのか。

「このカメラ……」

 須田は襖へカメラを向ける。
 シャッター音とともに何かがはがれるような音がした。

「あ……開いた」

 カメラ一つで簡単に開いたので須田も拍子抜けたように息を吐く。

「消え、たの……?」

 繭が後ろで不安そうにつぶやいた。
 須田はわずかに頷き、ゆっくりと部屋を出る。二人もそれに続いた。

今日はここまで


PSYRENてサイレンて読むのか…


ジェノサイダーじゃないSDKとは珍しい

>>32
それただのチート


投下

繭が後ろで不安そうにつぶやいた。
 須田はわずかに頷き、ゆっくりと部屋を出る。二人もそれに続いた。

「とりあえず、ここから出よう」

 これ以上は危険だと予感した須田が厳かに言った。
 しかしここでまた問題が発生する。
 入ってきた襖が開かないのだ。

(……どうなってるんだ? 鍵なんかはなさそうだし)

 何度やっても固く閉ざされたままなのでまたカメラを向けようかと考えたとき。

「あ、あれ――――」

 澪がひきつった声でそう言った。

「あそこに……いる」

 青白いシルエットの女性が不気味にたたずんでいたかと思うと、数瞬後には消えていた。
 そしてその先の扉がいびつなブレを見せる。
 須田は生唾を飲み込みながら、扉に近づき写真を撮る。

「……? 囲炉裏、か? これ」

「どうしたの?」

 澪が覗き込むとそこには明らかに扉とは別の場所が写っていた。

「この場所に何かあるってことなのかな」

「――そういえば」

 須田は奥の部屋で似たような物を見ていた。昔さながらの殺風景な部屋だったのでそれは覚えている。

「行ってみようか」

 一人で見ようとも考えたが、この状況でさすがにそれはまずいし、何かあってからでは遅い。狭い廊下なので、三人でぞろぞろと移動するのは変な感じもするが、仕方ない。

「……やっぱり」

 やはり変化があった。囲炉裏が同じように歪んで見える。
 それに対しシャッターを切り、何かが打ち払われたのを確認する。

――――来るな…

 部屋を立ち去る寸前。
 澪はそんな声を、聞いた。

 女性がたたずんでいた扉はやはり開いていた。
 部屋を開けると、若干のカビ臭さが鼻を突いた。見たところ寝室のような部屋なのだろうが、膨らんだ掛布団が嫌な予感を与える。とてもここで疲れが取れるとは思えない。

「ねえ、これ」

 それは須田が見つけたものと同じような紙片だった。
 澪がそれをゆっくりと読み上げる。

「……誰でもいいから、このメモを見つけた人、私を探してください。村から出られない、助けて」

「じゃあ、この村は本当に……」

 繭がぼそりと呟く。

「……、」

 今度ばかりは須田も否定することができない。というより明らかに危険を感じさせる現象が続いている。ここで否定しては余計に不安をあおってしまうだろう。
 そんな沈黙を破ったのは押入れの襖が落ちる音だった。
 懐中電灯で中を照らすと、光が反射した。
 どうやら中に小さい何かが置いてあるようだ。

「……鍵?」

「はぁ……はぁ……」

 牧野慶はひたすら村を疾走していた。当然、目的地があって逃げているわけではない。修道士の服は動きにくく、体中に汗がまとわりついたがそんなことすら気にならない恐怖だった。

「どう、して……この村が!」

 彼はこの村を知っていた。だからこそ正しく恐怖し、正しく逃避した。
 ずっと恐れていたことだった。
 迷い込まないように細心の注意を払ってきた。
 なのに、どうして。

「困るなぁ。いくら射影機がないからってそう簡単に死なれちゃ」

 それを物陰から白衣の青年があきれた表情で見ていた。
 彼は手に持っていたカメラを構えるとシャッターを切った。
 牧野を追いかけていた村人数人が光を浴び、動きを止める。

「やれやれ……これは手間がかかりそうだ」

「司郎……」

 家の中で白髪の少年が呟いた。
 彼は司郎……宮田司郎が幼少のころからずっと見守り、必要なら助言も与えてきた。
 宮田司郎の人生は不遇だった。生まれてすぐに実の両親を亡くし、しかも養子に出されたのがとある秘密を守る家系の宮田家である。
 しかし、宮田は家を継ぐ前に自分が養子であることを知ってしまう。ここで皮肉だったのはその重たい事実を受け止められるほどに彼が優秀だったことだ。
 彼は代々、宮田家で継がれてきた一切を無視して自分のやりたいようにやった。それでも代わりもいないから廃嫡にすることもできない。義理の両親は何も言わなかった。
 それがさらに拍車をかけ、宮田は近くの村の者たちまでをコケにして回った。自分より劣ると思った人間は徹底的に踏みにじり、故郷を去る者すらいたほどだ。
 そんな彼にわずかでもブレーキをかけさせていたのが立花樹月だった。
 本来の才能に加え、圧倒的な霊的耐性を持ち下級の霊なら自力で弾き返すほどの宮田に彼が憑いたのは不幸中の幸いであった。
 どんな時であっても樹月の言葉に、宮田は耳を貸した。それを聞き入れるかどうかは別の話であっても宮田が樹月を認めていたのは間違いなかったのだ。
 あるいは拠り所が欲しかったのかもしれない。それに一番最適だったのが樹月というだけの話だったのでは。

「……僕では、止められない」

 樹はゆっくりと空を見上げた。
 祭りの夜はいつまでも続く。

今日はここまで。

正直ラジオとかまで再現できん

あのカメラを赤い水に浸ければポケモンスナップ感覚でバケモンスナップできそう

>>40
その前にカメラに防水機能があるのかどうか



開始

「これは……」

 須田たちは二階の施錠された部屋に鍵を使い侵入した。
 そこで今までと同じような紙片を見つけたのだが、どれもいいものではなかった。

「……この人、この村に迷い込んだんだ。恋人を追って…それからどこへ行ったんだろう?」

 澪が繭と須田を交互に見て問いかけた。
 繭が不安そうに歩き回り、部屋を見回しながら、

「やっぱり、ここは…」

 言いかけて繭の言葉が止まった。その視線の先は須田の肩の後ろあたりに注がれている。
 澪がいぶかしげに振り向き、そして同じように目を見開いた。

「……、」

 須田もその気配に気づいたのだろうか。体に電流のような緊張が走る。

「どうして…」

 女性のどすの入ったような声が鼓膜を揺らした。その刺激は心臓を動悸させ、呼吸を早める。
 一瞬の決心と同時に振り返る――――
 ―――青白い手が伸びた

「ひ、ぐ……」

 四方田晴海はこの上なく運がなかった。
 ようやくあの村から逃げ切ったというのに、また別の場所で同じような目にあっている。
 しかも、少女にはそれを乗り切るだけの力と経験があった。
 どうやら幽霊にも視界はあるらしく、その幽霊の視界を避けつつ移動すればどうということはなかった。
 だが。

「ここは……」

 少女は大きな屋敷という監獄に囚われてしまった。

「ぐ、……」

 須田と澪は二階の一室で倒れこんでいた。
 あの女性の霊を写真で撮ると、彼女は姿を消した。このカメラには怨霊を払うような効果があるらしい。

「恭也くん! 早く起きて!」

 須田が意識を覚醒させたのは澪の叫び声によってだった。
 まだうつろう頭を片手で押さえながら澪を見上げる。
 どうやら彼女は相当焦っているらしく、間髪入れずにまくしたてた。

「おねえちゃんが……おねえちゃんが!」

 そう言われて周りを見ると、確かに繭の姿はない。
 須田ははっとして立ち上がり部屋を出る。

「ま……繭!?」

 二階の廊下から階下を見下ろすと、繭が一人で家の外に出ようとしていた。

「おねえちゃん、待って!」

「ごめん、澪……私行かなきゃ」

 何かに誘われるように繭は外へ出る。
 澪があわててそのあとを追おうとする、が。

「きゃぁ!」

 突如、現れた霊たちによってその道を阻まれる。

「くそっ!」

 須田は澪の前に躍り出ると、カメラを構えた。

繭は大きな屋敷へとひた走っていた。
 足の痛みはあったが、それを超える何かが繭の足を速めさせる。
 ちょうど屋敷が眼前に捉えられたときだった。
 門の前に誰かがたたずんでいる。
 繭はその人影に見覚えがあった。

「宮田、さん……?」

「……繭ちゃん」

 繭はほんの少し我に返ったような表情で宮田に近づいていく。

「どうして、ここに……?」

 宮田はわずかに首を横に振った。

「わからない。ただ、ふらっと散歩をしていて……気付いたらここにいたんだ」

 それより、と宮田は言葉を続ける。

「ここはどうもまともな場所じゃないようだし、君の足が心配なんだが……」

「私は……大丈夫です。あの時、宮田さんがすぐに来てくれたおかげで、私は自分の足で立っていられる、から」

「そうか……できればすぐに抜けたいが、どうにも出口が見つからない。ここはあえて奥に進むしかない」
 宮田の言葉に繭はおそるおそるうなずいた。
 宮田はそれを確認してから振り向くと、門に手をかけた。

「どうなってんだよ……」

 須田と澪はやっとの思いで家を脱出した。
 かつての住人と思わしき怨霊が現れ、二人に襲いかかったのだ。
 今回は何とか倒しきった。
 だが、この先自分がそれを完全に遂行できる保証はどこにもない。澪とその姉を守り切れる保証はどこにも、ない。

「……澪。これ、君が使っていいよ」

「え……? でも、それじゃあ恭也くんが」

「俺は大丈夫。それに、何があるかわからない以上、女の子が丸腰ってのもまずいだろ?」

 半分は、言葉のとおりだった。もう半分は責任転嫁。
 たった一軒の家だというのに、須田の精神はギリギリまですり減らされていた。
 かばいきれる自信がなかったのだ。
 このカメラさえ渡しておけば、逃げても大丈夫という淡い幻想。
 どうせ、彼女が傷つけば後悔するのに。

「とにかく、おねえちゃんを探さないと」

 須田の少し疲れた表情に耐え切れず、澪はつぶやいた。

今日はここまで

須田さんが若干へたれになってしまった…

でも牧野もだから問題ないね

新作見て思うけどなぜわざわざ夜に行くのか…




それでは開始

「どこに行ったんだろう……」

 澪が不安そうにつぶやく。
 とりあえず家の外へ出たはいいが、繭の行き先がわからない。
 それなりに広そうなこの村を当てもなく彷徨うのも危険だ。

「……蝶?」

 そんな焦る澪とは対照的に須田はきょとんとした調子だった。
 彼の眼を釘付けにしているものは一匹の紅い蝶である。
 その蝶はまるで須田を誘うように奥へと消えていった。

「恭也くん?」

「今、蝶が……。行ってみよう」

 須田は澪の手を掴むと、蝶を追った。

「足の包帯を変えておこう。……もっとも量もそれほどないからこれ一回きりだけど」

 門をくぐると、宮田は繭にそう言った。
 もともと、それほど気の強くない繭は何も言わずにしたがい、橋に座り込むと右足を宮田に差し出した。

「……痛みは、ある?」

「いえ…」

「そうか」

 宮田は患部に過度な刺激を与えないように、慎重に触る。
 それほど熱を持っていないことを確認してから包帯を巻く作業にとりかかった。
 途中、宮田の手が自身の足に触れていることがこそばゆかったのか、繭は頬をわずかに赤らめ、顔をそむける。

「僕を恨んでいるだろう」

「……、」

 宮田は一瞬だけ視線を繭の顔へ向けた。

「あの時、まだ学生だった僕は当然、医師免許など持っていない。だが、一番に来た僕が少しばかり適切な応急処置をしたから君は今も歩けてしまう」

「そんな、私は…」

「知ってるよ。君がわざと崖から落ちたことくらい」

「……、」

「あそこは確かに広い道ではないが、転んで滑り落ちるほど狭くもない。……澪はどうやら気が動転して気付かなかったみたいだけどね」

「じゃあ、どうして言わなかったんですか」

 繭の問いに宮田は笑った。

「証拠がないし、一人の子供に過ぎなかった僕が言っても無駄だろう。それに、君の立場もある」

「宮田さんは……昔から賢いですよね。人を見下してるのに、傲慢だと思えないです」

「……それは僕が君たちを見下していないからだ。それに君が澪を縛り付けるためにそこまでできるという執念には敬意を表するよ。それが、狂気だとしてもね」

 宮田の言葉は素直なものだった。彼はこの姉妹が嫌いではなかったし、もし樹月がいなければ彼女らにもっと関わっていたと思うほどだ。

「宮田さんは……卑怯です」

「だろうね。……澪はいいのかい?」

 包帯を巻き終わり、立ち上がった宮田に繭は首を振った。

「私、行かなきゃ」

 繭の言葉にうなずくと宮田は手を差し出した。
 繭はその手を掴み、足に気を遣いながら立ち上がると、奥を目指す。

(……まだだ。まだ動くには早い)

短いけどここまで。




今回は繭と先生を絡ませたかった

(これは……)

 樹月は窓の隙間から少女を見て絶句した。
 宮田の言っていた通り、彼女は生き写しそのものだった。祭りの夜で時が止まっている彼は、宮田からの情報がなければ完全に見間違えていただろう。

(そうか……君は逃げたんだね、八重)

 その事実に複雑な感情を抱きながらも樹月は声を上げた。

「ねえ、」

 その声に少女が肩をビクっとさせ応えた。
 傍らにいた少年もそれに気づいて歩み寄る。

「君のお姉さんは祭主の屋敷に行った。……入るためには鍵が必要だ。確かそこの地蔵と同じものが他の場所にあって――――」

夢であってくれ。
 牧野慶は素直にそう願った。
 よほど、その願いが強かったのか彼は神社の前に佇んでいる。

「……皆神村。まさか、本当に存在しているなんて」

 生き別れた双子の弟である宮田司郎がその秘密を守る家に養子でいることは知っていた。
 でも、牧野はそこから少し離れた場所で修道士として気ままに暮らしていたのだ。まさか自分が迷い込むとは思わない。
 心当たりがあるとすれば儀式の内容。双子の兄が弟を殺すというものだ。
 だが、儀式が行われていた当時は双子のうち後に生まれた子を兄となす風習があった。
 つまり、殺されるのは――――

「い、いや。宮田さんがここにいるとは限らない」

 そうだ。今はとにかくここから逃げる方法を探そう。
 決心して階段を下りる牧野。
 その後ろから一人の白装束をまとった少女が牧野をにらんだ。

「あった……これだ」

 須田と澪は鳥居の近くと狭い道筋で紅い蝶の羽ばたく地蔵を見つけ、無事に鍵を回収した。
 途中で怨霊にも出くわしたが、澪がうまくカメラを使って撃退した。

「だからって俺が囮ってのもなあ……」

「違うよ。なぜか恭也くんのほうによってくだけだから」

「洒落になってないって……」

 わざと大げさに肩を落として見せると澪がクスクスと笑った。

 門の近くまで来てみると、ちょうど二つのカギをはめるような跡を発見した。

「……鍵がかかってるのにおねえちゃんはどうやって入ったんだろう?」

「空いてた鍵を内側からかけた、とか?」

「これ……そういうタイプには見えないし、そんなことする意味がわからないかも」

 そこまで話して二人の間にある疑念がよぎった。
 そもそも繭はここには来ていない。
 冷静に考えれば普通のことだ。あの少年が本当のことを言っている保証はどこにもないし、二人は繭の行き先を知らない。
 だが。

「……行こう」

 それでも須田はそう言った。
 この村の地理を知っているわけでもなければ、繭の行き先に当てがあるわけでもない。
 ならば、多少のリスクを背負ってでも虱潰しに捜すしかないだろう。
 須田はゆっくりと門に手をかけた。

 門を開くとその先に橋が続き、さらに奥に門が見える。

(あれにも鍵がかかってるなんてことないよな……?)

 一抹の不安を抱えつつも須田は澪を先導する。
 澪は目の前の屋敷に異様な禍々しさを感じ、カメラを強く握りしめた。
 
「あれは……?」

 橋の半ばほどに差し掛かった時だった。
 須田はいぶかしげな表情で水の方を指さす。

「女の、人?」

 そこには長い髪を水に浮かせた女性の死体があった。
 わずかな時間とはいえ、異常な状況に身を置いていた二人もこれにはさすがに息をのむ。
 二人はまだ学生。死体など見たことがあるはずもない。

「……この人も、ここに」

「多分……そうだと思う」

 呆然と立ち尽くし、今ここにいるという危険性を二人が再認識したときだった。
 澪の視界の上を白い腕がかすめた。

「……?」

 澪にはそれが何なのかわからなかった。目の焦点が下に言っていたこともあるが、ここまでで澪の集中力が完全に切れかけていたのだ。
 だから、それが敵と呼ぶべき存在だと気付けなかった。

「澪!」

 須田が澪の体を体当たりで突き飛ばす。突然の衝撃に澪の体が吹き飛ぶ。

「痛ッ――」

 だがその痛みに逡巡している暇は澪に与えられなかった。
 須田が白いワンピースをまとった女性に首を掴まれていたからだ。
 宙に浮いた須田の体が徐々に橋から外れていく。このままいけば水の中に引きずり込まれるのは必至だ。
 須田は体全体でもがくが、不思議な力を持った女性の腕から抜け出せる気配はなかった。

(やばい……このままじゃ)

 須田は澪の方に助けを求めた。

 澪はカメラのシャッターを切れなかった。
 もしこのままシャッターを切って、女性が須田から手を離せば、彼は水の中に落ちてしまう。

「やれ、澪……」

「で、でも……」

「いい、から……!」

 首を掴まれ、ギリギリのところで須田は言った。
 澪が決心をし、シャッターを切る。
 女性が甲高い悲鳴を上げその姿を水の中に沈めていく。
 その遅さと対照的に須田の体は真っ逆さまに水の中へと落ちた。

「恭也くん!!」

 澪はあわてて水の中を覗き込んだ。
 しかし。

「そんな……」

 ――――須田の姿は、どこにもなかった

今日はここまで



五作目の主人公…なぜ夜に自殺の名所へ行ったのか(二作連続三回目の愚行)

>途中で怨霊にも出くわしたが、澪がうまくカメラを使って撃退した。

闇に佇む男だったっけな?
まさか彼もこんな一行であっさりやられるとは思ってなかったろうに

水に消えるといえば刺青の聲のラストは地下にある地底湖(?)で月蝕の仮面は同じく海に向けて魂が帰るのとその後のピアノ演奏が確か月を映し出した湖だったかな

月蝕はちょっと自信ないな。クリア一回しかやってないし、ラスボスが凄まじく面倒だった記憶しかないわ……

>>67
シリーズ最強の敵・ピアノ

>>66
村人三人「俺らは……?」


それでは開始

 深く、深く――沈んでいく。
 水の底は橋から見たよりもはるかに深かった。それとも、底など最初から存在しないのかもしれない。
 須田も泳げないはずはないのだが、不思議と抵抗する気になれなかった。

――――苦、しい……助けて

 さっきの女性の霊と思わしき声が聞こえる。
 ここが苦しい? この女性は何を言っている?
 そう思考した瞬間だった。

――――お前は、お前の世界を…

 聞き覚えのある声とともに須田の意識が覚醒した。

「――――くん、恭也くん!」

「み、お……?」

 ちぐはぐな意識を呼び起こすように須田は頭をふった。気付けば、わたってきた橋のよこにある水辺に体が引き上げられている。
 澪の力でできるとも思えない。

「澪、どうやって俺をここまで運んだんだ?」

「私じゃないよ? 私は入口の方から水の音が聞こえたから来ただけで……そういえば、人影があったような……?」

 どこかで見たことあるような気もする、と澪は首をかしげる。
 しかし、感謝はしなければならない。須田の命は、こうして残っているのだから。

(正直、幽霊になるなんてゴメンだな……)

 オカルトマニアだとしても、それは思う。

「恭也くん…服、大丈夫?」

「大丈夫だって。それより澪こそ、疲れてない?」

「私は、大丈夫……おねえちゃんを早く見つけなきゃいけないし」

 何かに追われるように、張り付いたセリフのように澪はつぶやき、屋敷の扉を開き足を踏み入れた。
 須田はそれを不安げに聞いて、うなずいて後に続いた。

「おねえちゃん!」

 正直言って、意外だった。須田はてっきり繭がどこか奥へ向かっていて、すぐには見つからないと覚悟していたからだ。
 だが、繭は二人には気付かずにゆっくりとその場を立ち去る。その後ろを澪にとって見覚えのある人影が通った。

「あれは……」

 その時だった。
 後ろの扉が勝手に閉ざされ、澪の持っていたライトが消えた。

「そんな、ライトが……」

 叩いても、振ってもそれは無駄なあがきだと言わんばかりにライトがその光を失う。
 直後だった。
 
「……!?」

 須田の頭にノイズが走った。

『助けて……』

 須田はそれが自分のいる屋敷のどこかだろうと一瞬でわかった。ただ、あまりにも広いのでそれがどこなのかは正確にわからない。

『先生……怖いよ』

 少女の視界を共有しているのだろうか。須田の見ている灰色の景色が揺れている。どうやら走っているようだ。

(いや、これは……何かから逃げている?)

 そう考えて、須田は目を見開いた。
 モノクロでもわかるほどに禍々しい何かが少女のいる部屋を包んでいる。

『また……もう、逃げられないよ』

 須田の見ている景色は少女の言葉と同時に途切れた。

「今のは……、」

 どうやら迷い込んで、そしてまだ生きているのは自分たちだけではない。姿は見えなかったが、澪や繭よりもさらに幼いであろう少女までが迷い込んでいる。

「恭也くん……? やっぱりさっきの霊に何かされたんじゃ、」

 いつの間にか玄関口で跪いていた須田の顔を澪が心配そうに覗き込んだ。

「いや、違う。そうじゃないんだ……ただ、誰かがこの屋敷にいる。繭じゃない誰かが……」

 助けなければならない。
 何かに共鳴するように、須田はそう思った。

今日はここまで。


濡烏の主人公名前なんて呼ぶんだ……ふぐかたゆうり?



なんで急に読みにくくしたんだよ

公式サイトだとこずかたゆうりだね
ザッピングは幽霊相手に使えないのかな

やっぱピアノはシリーズ最強の敵だよなw
月蝕はストーリーなのに6体1で殺しにくるとか操作感とか全体的に難易度が高いと思うんだ
ストーリー的にも要所要所でドロッとした人間的な怖さが見えてやりごたえがあった


紅い蝶がリメイクされたんだし、シリーズ屈指の心霊作品初代とSAN値を金ヤスリで削るような刺青もリメイクしてくれないかなー

>>75
あれこずかたって言うのか……ありがとうございます



>>76
そして第二の強敵、ナイトメアによるバグ

なぜ3作目だけリメイクされない・・・


それでは開始

「……、」

 宮田は険しい表情で屋敷の奥へと進んでいた。後ろから来る繭は目をうっすらと細め、心ここにあらずといった印象だ。

(紗重、か)

 宮田は村でただ一人生き残った少女を思い浮かべる。
 今、彼女の意識はその少女が乗っ取っている状況なため宮田は宮田家としての役目を果たすことしかできない。さすがの宮田も彼女の霊的能力には対抗しきれないからだ。

(本物のこれがあれば……)

 宮田は手に持つカメラに視線を落とす。
 射影機。明治終わりごろから昭和初期にかけて活躍した麻生という人物が作ったありえないものを写すカメラ。
 宮田はその複製に成功していた。しかし、そのスペックは彼の垣間見た資料のものよりはるかに劣る。
 脆すぎる自分の武器は彼女を写した瞬間に壊れてしまうだろう。

「ここだ」

 宮田は扉を開き繭を導く。
 横目で部屋の中を見ると、その中央に一人の少女がたたずんでいた。

(あれが……なるほど)

 姿を見ただけでわかるほどの狂気と禍々しさが宮田の肌にピリピリとした威圧感を与える。
 宮田は敬意を示すように頭を下げてさらに奥へと進む。

「大償い……」

 宮田はその時を静かに待つ。

儀式をするためには邪魔者がいる。
 紗重はそう考えていた。
 そしてその標的になるという不幸は一人の少女に注がれる。

「……もう逃げられないよ」

 春海はなかば諦めるようにそうつぶやいた。
 モノクロの屋敷の中で彼女だけが色づいている。

「……また、」

 近づく視界を幻視で認識しながら少女は必死に屋敷を逃げ惑っていた。
 一つの部屋に逃げ込み、押入れの中に隠れる。
 体の震えが止まらない。
 同じ経験を過去にしているとはいえ、十歳の少女に過ぎない春海にとって連続で得体のしれない何かから逃げるという行為は過酷なものだ。すでに体は鉛のように重くなっている。

(大丈夫……先生が、お母さんがきっと守ってくれる)

 ぎゅっと体を閉じ、自分自身を励ます。
 あまりの疲労にそのまま視界がまどろんだ時だった。

「お兄ちゃんは……どこ?」

 戸の間から赤い着物の少女が春海を覗き込んだ。
 だが。
 一瞬、ほんの一瞬だけ春海は恐怖を感じなかった。疲労のあまり感覚が麻痺していたのかもしれない。
 赤い着物の少女は首を傾げ、もう一度言った。

「お兄ちゃんは、どこ?」

 春海は本能的に危険を察知した。
 少女を突き飛ばすように押入れから飛び出ると、部屋から駆け出していく。

「お兄ちゃんを返して……」

 後ろから着物の少女の、怒りに満ちた声が響く。
 さっきの少女らしいきょとんとした声の面影はどこにもなく、そこにはただ憎悪だけが満ちていた。

「お兄ちゃんを……返して!」

 春海の肩へその小さな腕が伸ばされた。

今日はここまで


押し入れに隠れる零キャラといえば、緒方を思い出す


次回はちょっと幕間的なことやりそう

竹内多聞は研究室で一人、本に目を落としていた。
 彼は民俗学と宗教学を融合した論文を数多く発表している。しかし、それはほとんどの学者からは理解されず、学会では『麻生邦彦の再来』と皮肉な陰口をたたかれている。
 しかし、一方で彼のしていることの意味を正しく理解している者も少なくない。

「竹内先生……お久しぶりです」

 雛咲深紅もその一人である。
 彼女はうつむき加減で竹内の横の椅子の腰を掛ける。

「もう、二年か」

 竹内はぼそりと呟いた。

 竹内は二年前に有名作家である高峰準星と氷室邸へ向かっていた。しかし、そこで高峰とその助手である平坂巴、緒方浩二は死亡。竹内へ怨霊となって襲いかかった。
 どうにか生き残った竹内は心配して様子を見に来た教え子の安野と高峰繋がりで面識のあった雛咲真冬に救出されたのだが、そこでも脱出がかなわずに結局は真冬の妹に助けられている。
 命の恩人である少女の兄すら助けられなかった。その無力感は竹内の心に一つの影を落としている。
 こうして不定期で深紅と会っているのは完全に竹内の身勝手だった。

「あの時……」

 竹内はゆっくりと口を開いた。

「私が、高嶺先生を止めておくべきだったのだ。平坂さんは立場上逆らえなかったし、緒方さんにはそれを予見する力がなかった。私しかいなかったんだ」

「……でも、先生には理由があったじゃないですか。それに、先生だけじゃありません。安野さんだって、いてくれた。兄さんはいなくなってしまっても……私には理解者がいてくれたから、」

「私は君の兄の代わりにはなれない。安野にも」

「この世界に存在しない村……私、聞いたんです」

 重苦しい雰囲気に耐え切れなくなったのか、深紅は話題を変えた。

「私が助手をしている人の婚約者が……実家でそういう資料を見た記憶があるって」

「それは……本当か!?」

椅子から跳ね上がるように立ち上がった竹内に深紅の体がわずかにのけぞった。

「……すまない。それで、その人は?」

「はい……なんでもその資料を実家まで取りに行かないといけないらしくて、仕事の都合もあるので二週間後に会えないか、と」

「そうか、こっちはあいにく干されてる身でね。暇ならいくらでもある」

 それと、と深紅は思い出したように言った。

「先生の名前を出したら、先生に麻生優雨って名前を伝えてって……」

「優雨……? そうか、彼だったのか」

 竹内は懐かしい名前に思わず微笑んだ。

「優雨、また手紙来てるわよ。今日は差出人が違うみたいだけど」

「ああ、さっそく送ってきたのか……」

 婚約者の黒沢怜に手紙を差し出され、麻生優雨は思わず笑った。
 横で怜がいぶかしげな表情を浮かべている。
 
「この人は仕事の先輩で今度会う約束をしてるんだ。そうだ……実家まで資料を取りにいかなきゃいけないから怜もあいさつに行く?」

「そうね、せっかくだしそうしましょうか。いつ行くの?」

「来週くらい、かな」

 怜は幸せそうな表情でうなずく。
 それがどんな運命になるかも知らずに。


今日はここまで

今回は完全な伏線回でした


てかそれよりも月蝕のナイトメアバグやばすぎだろ……九十式いくらあっても足りねえぞ

乙。ウザ子逝ってしもうたん?(´・ω・`)

>>89
奴が死ぬか? いえることはそれだけ



それでは開始

「ここに……ここに、おねえちゃんはいた」

 澪は部屋に入ると、囲炉裏の近くに座り込み言った。
 この部屋にたどり着くまでに須田は澪と繭の体質について聞いた。
 そういう話が好きな須田にとっては状況が状況なら、目を輝かせていただろう。
 周囲の畳には埃が積もっているが、いくつか足跡も見える。繭がここを通ったことは間違いない。それに屋敷は村よりも狭く、通路も単純なはずだ。見つけることはより容易になる、と須田は考えた。

――フフフフフフフフ…

 かすかに聞こえた不気味な笑い声にはどこか狂気が混じっている。
 どうやら澪には聞こえておらず、須田は苦々しく表情を歪め、部屋を見渡した。

 その時、澪は畳にそっとしゃがんでいたのだが、須田とは全く別のことに気を取られていた。
 気付けば自分は部屋に一人立ち尽くしていたのだ。須田の姿はどこにもない。不安になり、一歩踏み出すとぐにゅりと柔らかい感触が足を刺激した。
 その柔らかい感触の正体は死体だった。そして、思わず一歩飛び退いて澪は気付く。
 自分の周囲が死体だらけだということに。
目の前でかろうじて息をつないでいた男性が血まみれになりながら澪へ手を伸ばした。
 澪はそれを呆然と見つめている。
 それに気を取られていたせいだろうか。澪は気付かなかった。
 自分に忍び寄る縄をまとった怨霊に。
 ――――



「――――澪、危ない!」

 須田が自分を抱きしめ、横っ飛びしたときに初めて彼女は意識を取り戻した。
 部屋の中央、ちょうど囲炉裏のあたりに縄の男が浮遊している。
 それだけではない。
 部屋全体が灰色に染まり、まるで自分たちの存在すべき場所ではないような錯覚に襲われる。

(違う……錯覚なんかじゃない)

 ここは間違いなく自分たち生きた人間の存在すべき場所ではないのだ。ここにいては自分も須田もこの怨霊に殺されてしまう。
 白い煙が自分の足元に広がり始めるのに比例して、怨霊との距離が詰まっていく。

「恭也くん……逃げよう」

 恐怖の中、澪は震えた唇をそう動かした。

 その時、澪は畳にそっとしゃがんでいたのだが、須田とは全く別のことに気を取られていた。
 気付けば自分は部屋に一人立ち尽くしていたのだ。須田の姿はどこにもない。不安になり、一歩踏み出すとぐにゅりと柔らかい感触が足を刺激した。
 その柔らかい感触の正体は死体だった。そして、思わず一歩飛び退いて澪は気付く。
 自分の周囲が死体だらけだということに。
目の前でかろうじて息をつないでいた男性が血まみれになりながら澪へ手を伸ばした。
 澪はそれを呆然と見つめている。
 それに気を取られていたせいだろうか。澪は気付かなかった。
 自分に忍び寄る縄をまとった怨霊に。
 ――――



「――――澪、危ない!」

 須田が自分を抱きしめ、横っ飛びしたときに初めて彼女は意識を取り戻した。
 部屋の中央、ちょうど囲炉裏のあたりに縄の男が浮遊している。
 それだけではない。
 部屋全体が灰色に染まり、まるで自分たちの存在すべき場所ではないような錯覚に襲われる。

(違う……錯覚なんかじゃない)

 ここは間違いなく自分たち生きた人間の存在すべき場所ではないのだ。ここにいては自分も須田もこの怨霊に殺されてしまう。
 白い煙が自分の足元に広がり始めるのに比例して、怨霊との距離が詰まっていく。

「恭也くん……逃げよう」

 恐怖の中、澪は震えた唇をそう動かした。

パシャ! という音ともにフラッシュが廊下いっぱいに広がる。
 むせび泣くような声で霧散する村人の怨霊を見て宮田は溜息をついた。

「……時間がない」

 宮田のここまでの動きは予想通りだった。
 天倉姉妹が森に迷い込み、そしてそこから開いた皆神村への入り口へ牧野も巻き込む。通常なら超能力の存在でも疑うところだが、宮田家の書物庫を読み漁っているうちにその性質に気付いたのだ。
 もっとも宮田家がなぜ消えたはずの村の秘密をここまで大量に保管できたかは宮田の両親も知らない。彼の予想で言うなら麻生博士あたりが宮田家の当時の当主に今の形態をとるようにとの助言を聞き入れたのだろう。
 村側が秘密を外に漏らす可能性を見過ごしたかどうかはまた別の話ではあるのだが。

「あの少年……」

 宮田は紗重の目をかいくぐり屋敷から抜け出す方法を模索しながら、澪の横に見えた少年の影を思い出す。
 もう、イレギュラーは起き始めている。急がなければなるまい。


「はぁ……さっきのあれ、何?」

 澪が疲れた声でつぶやいた。部屋の中に充満したあの禍々しい灰色の何かは触れることすら死を意味しかねないような気がしたのだ。
 それでも。
 須田は笑ったみせた。

「大丈夫、あいつ動き遅いみたいだし。見つかってもすぐ逃げればいいよ」

「うん……」

 澪は弱弱しくうなずく。
 須田と会ってから澪は時々、彼の前向きさに驚かされる。自分が持っているカメラだって半分くらいは恐怖からの逃亡なのかもしれないが、もう半分は女の子である自分に身を守りやすくさせるためだろう。さっきだって、須田がいなければあの怨霊に捕まっていたかもしれない。

(私は……)

 ずっと繭と、姉と一緒に過ごしてきた。それが姉に対する償いになると信じていたから。
 でも、もしかすると自分は自分の弱い部分を見たくなかっただけなのかもしれない。もしそうなら今までしてきたことはひどいお仕着せになる。

「澪?」

「……なんでもない」

 恐怖しながらもめげない須田を見て、澪の心に針のようなつっかえが生まれた。

今日はここまで。


冷静に考えたら須田と澪のビジュアル違いすぎて並んでる図が想像できなかった

SDKをテクモ風に変更で……なんや普通の超絶イケメンじゃねぇか

>>97
なお、女の子みたいになる模様



それでは開始

屋敷の縁側に出る。囲炉裏のあった部屋ほどではないにしても、やはりこの屋敷は村より、さらに嫌な空気が張りつめていた。

「おねえちゃんは……どうしてこんなところに一人で」

「多分、霊に憑かれたんだと思う」

 須田ははっきりと言って、言葉を続ける。

「でも、この村に迷い込んだ人は今まで……その、霊たちにやられてるだろ? でも繭はちょくちょく姿見えたりしたけど何ともなさそうだし。きっと無事な理由があるんだよ。だから、大丈夫」

 言外で自分たちにその保障はない、と言ってしまってもいるが、須田にそこまでの余裕はなかった。
 すでに彼の精神は澪同様、あるいはそれ以上にすり減っていたのだ。澪をかばいながらの行動で須田の疲れはがたがたと震える足に来ていた。

「おねえちゃん!?」

「え、どこ!?」

 澪は上の階の廊下に繭の姿を見たのだが、須田には認識できなかった。
 それはまるで、澪だけを招こうとするようで。

「あそこの上に、おねえちゃんが!」

 澪は上の廊下を指さし、力なくその腕をおろした。

「澪……?」

 その時、澪は繭のいたであろう場所をじっと見ていた。須田には見えない何かを見ているようだった。

「澪……?」

「……なんでもない」

 澪は力なくそうつぶやくと、さっさと階段を上っていく。
 
(女の子って難しいな……)

 そういえば自分が部長のオカルト研究部の後輩も難しい性格だった。
 こういう状況では情緒も不安定になるだろう。
 諦めたように肩をすくめて、須田は澪の後姿を追った。


 不思議な一瞬だった。。
 廊下を、自分にも気付かずに去る繭を見て、ふと意識が飛びかけるような感覚に襲われたのだ。
 そしてそれと同時に、自分の中に何かが入り込んでくるような感覚も。それらは不思議と不快ではなかった。

(私……どうしたんだろう)

 繭の通った道をなぞるように澪と須田は屋敷の二階へと侵入する。
 入った時に感じた圧迫感はない。まるで屋敷の中の大きな意思が自分を受け入れたかのようだ。
 澪はその感覚に飲まれかけていた。
 ずっとここにいたい、と。

今回はここまで



ちとせがかわいすぎて戦闘を長引かせてしまう……(最高記録1時間)


神風見せる人は出ないんですか!?

>>103
???「やるじゃなーい」




それでは開始

 奥へと進むと今度は明かりが明滅する部屋にたどり着いた。チカチカする視界が、ここの部屋に長居することを拒絶する。

「……開かない」

 須田は横開きの扉をがたがたと何度か揺らして首を振った。
 鍵がかかっているというよりは別の何かで抑え込まれているような感じで、扉はかたくなに動かない。

「……鍵そのものがないなぁ、これ」

「……ここ、何かが封じ込まれてるみたい」

 澪はそういうとカメラを構えた。
 現像された写真には明らかにこの部屋と別の場所が写る。

「ここに行けってこと……?」

「……でもこんな場所あったけ?」

 二人は顔を見合わせて首をかしげた。

「誰……?」

 繭はひな人形が飾られた薄暗い部屋でふと人の気配を感じた。
 一瞬、自分を読んでいる声の主かとも思ったがそれは違う。

「……どこにいるの?」

 宮田かとも思ったが、それも違う。繭は親しい人間なら気配だけでわかる。もっとも、それは宮田と澪、それに叔父と母くらいだろうが。
 ゆらり、と不安定に揺れた影は衝立の向こうにあった。どこか不安定でここにいるのかいないのかよくわからない……平たく言えば幽霊のようなものだろう。

――――自分を見失ったらだめだ

 誰かの声が響いた。聞き覚えのあるものとないものが重なった声だ。
 まるで、誰かが誰かの力を借りてこの声を届けたかったかのように。
 おそるおそる衝立の向こうを覗き込むと、そこには誰もいない。
 繭は張りつめた糸が切れたのか、その場に力なく座り込んだ。

「……で、もうこの屋敷内で調べてない場所はこの先しかないんだけど」

「ここ、通らなきゃダメ?」

 二人は囲炉裏の部屋への入り口で立ち往生していた。
 この先の部屋には縄の男がいるのだ。あの空間に一瞬でもいることの恐ろしさは二人とも体感している。
 
「……俺がひきつけるから、その隙に駆け抜けて」

「恭也くんは?」

「大丈夫、そんなに離れるわけじゃないし、あいつはあの部屋にしか入れないみたいだからね」
 須田は笑顔さえ見せてそういうと、一気に部屋へ突撃した。

須田が廊下を迂回するように駆けぬける。しかし、速度はそれほどでもない。澪が安全に囲炉裏のところを突っ切るためにの時間を確保しなければならないからだ。
 だが。

(なんで……)

 縄の男は須田ではなく澪の方に狙いを定めていた。いやむしろ、須田のことなど眼中にないといった感じだ。
 澪は進むことができずに後ろに下がり、やがてその背が壁にぶつかった。
 助けようにも須田にはその力がない。澪があわててシャッターを切るが、縄の男には全く効果が見られないようだ。

「澪!」

 それでも須田は澪をかばうように覆いかぶさった。
 自分がどうなるかを想像しぎゅっと目をつぶったその瞬間。
 灰色の瘴気が霧散した。

今日はここまで



サイレン2って難しすぎてよくわからん…解説wikiみてもちんぷんかんぷんや

ちょっと更新速度ゆるめます




今日はなしってことで

「今のは……?」

 須田は体を起こし、すっとあたりを見渡す。
 部屋から灰色はきれいに消え去っている。まるで、何かに祓われたような。

「――、」

 澪はそれを祓った主を知っている。
 ゆっくりと体を起こし、立ち上がった。
 しかしその影は襖を指さすと、ふっと消えてしまう。
 確かにその場所に人はいたのだ。自分と目があったのも確認した。
 そこまであわてて駆け寄る。見覚えのあるシルエットだった。

「どうした澪?」

「今……ううん、なんでもない」

 澪は襖を開けると、その奥をそっと覗いた。

「この先にあの写真の場所があるのか」

「そう、だといいね……」

 どこか上の空の澪に須田は怪訝な顔をする。
 だが、繭が心配なのだろう、とあえて何も言わずに肩を軽くたたくだけにとどめた。

(あの姿……)

 澪は考え込み、視線を落とす。
 気のせいだったとは思うが、それでもそういうことは起こり得るのではないか。この異常な村であり得ないことなどない。

(恭也くん……)

 それは、事実かもしれない。

「君は……」

 樹月は蔵の中から驚いた表情でその少年を見た。
 少年の体の輪郭は陽炎のように不安定に揺らいでいる。

「――、」

 少年は、ぼそりと何かを問いかけた。
 樹月はうなずき、口を早める。

「僕はここから出られない。いや、出られるが、ある人物のそばにしかいれないんだ。……だからもし何かあったら八重、澪を守ってほしい」

「――――」

 もう一度、少年は樹月へ別の質問を投げかけた。
 その内容は決して、樹月が望む最高の結末にはなりえないものだった。
 それでも。
 司郎が生きてくれるなら、と樹月は覚悟を決めた。

「……ありがとう」

 樹月は少年に目を細めて、言った。
 悲しみも喜びも交えて、そう言った。

屋敷の中はどこか肌寒いというのに、汗は体中からしみだしてくる。
 脂汗というのはこういうものなのか、とじっとりした手をスカートで強めに拭う。
 屋敷に入ってから須田との会話も自然と減っていた。

「……、」

 血に染まった畳を見つめて、何も思わないことでさえ普段からは考えられない。
 二人は自然とこの環境に適応しだしている。
 黙々とシャッターを切り、押入れに閉じ込められていた何かを解いて部屋を立ち去る。

「……やっぱり、さっきのやついないな」

 須田は囲炉裏の部屋でぼそりと呟いた。
 さっきの出来事は夢ではなかったのだ。誰かが自分たちを助けてくれた。それを改めて須田はかみしめる。
 まだ生きてる、と。

「この手帳は……」

 宮田は書斎のような部屋でとある民俗学者の記録に目を通していた。
 真壁清次郎がこの村で記した内容だろう。
 宮田は真壁について多少の知識があった。麻生邦彦の射影機を調べている際にその名を伝え聞いていたからだ。

(……そういえば、)

 真壁が死んだのは村の外からの人間を生贄として捧げることで一時的に虚を押さえつける『影祭』のためだったはずだ。

(樹月さんの話では『大償い』の際に高級の怨霊として蘇ったとのことだった……。彼は樹月さん同様に黒澤姉妹を逃がそうとした。この夜の大前提は『再現』だ。と、すれば…その役柄は?)

 あの少年は違うと確信する。不思議と、そう思った。
 自分はあの忌々しい兄と儀式を遂げなければならない。
 そう何人もこの村にはいないはずだ。また、百人いたとして一人残るかどうかのこの村にそれをできる人間が――――

「一人、いる。いや……もしあの人がいるとすれば、」

 誰も知らなかったことは、存在しなかったことになるのだろうか。
 少なくとも、それは人間の身勝手だと思う。

「はぁ……これも外れ、か」

 麻生海咲は部室の棚にまとめられたファイルを閉じて溜息をもらす。
 彼女はオカルト研究部に所属している。
 もともと、入るつもりなどみじんもなかったのだが唯一の先輩である部長がやたらと的確な資料をまとめていたので入ることにした。
 彼女が調べている内容はとある島に関することだ。
 あの島での出来事は誰も覚えていない。もしかすると、少しばかりあの島について調べていた先輩の方が詳しいのかもしれない。

(やめよう)

 そういえば、あの人も夏休みを利用してどこかへ行くと言っていた。好奇心が強すぎると思う。
 世の中には知らなくていいこともあるのだ。せいぜい痛い目にあえばいい。

「恭也くん、おねえちゃんをお願い」

「え、澪は?」

「私は…これ持ってるし、なんでかな。恭也くんはほかの人と違うような気がしたから」

「はは、なんだそれ」

 繭の声は澪の耳に届かなかったのだ。
 ぞく、と自分でも背筋が凍るほど黒い何かが自分の中から噴き出してくる。
 初めて、澪が自分の前で自分以外の人間を一番にした。

――――マタ、オイテイカレル

 もう一人の自分が耳元でささやいた。
 殺してしまえ、と。

今日はここまで


原作と時間関係をちょっといじって、海咲さんは高校一年です

あー暑い

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