喪黒「私の名は喪黒福造、人呼んで笑ゥせぇるすまん。ただのセールスマンじゃございません。私の取り扱う品物は心、人間の心でございます。ホーホッホッ・・・」
喪黒「この世は老いも若きも男も女も、心のさみしい人ばかり、そんな皆さんの心のスキマをお埋め致します。いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたらそれが何よりの報酬でございます。さて、今日のお客様は・・・」
桐間 紗路(きりま しゃろ)
『克服コーヒー』オーホッホ・・・
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シャロ「うえぇぇん! 来ないでよぉ~!」ビクビク
あんこ「・・・・・・」ピョンピョン
千夜「あらあら、シャロちゃんは本当にあんこに好かれているのね♪」
シャロ「呑気なこと言っていないで早く何とかしてぇ!」アタフタ
あんこ「・・・・・・」カジカジ
シャロ「はぁ・・・本当にどうにかならないかしら・・・」
シャロ「(ウサギ恐怖症を克服するために、家でワイルドギースを飼ってからも、あんこすら未だ慣れないわ)」
喪黒「もしもし、お嬢さん」ヌッ
シャロ「は、はい何でしょうか?」ビク
喪黒「お嬢さんはこの薬草を知っていますか?」スッ
シャロ「黄色い花・・・うーん、知らない花です。薬草なんですか?」
喪黒「はい、そうです。これは弟切草と言いましてね、これをお茶にして飲むと食後の血
糖上昇を抑制する作用があるらしいです」
シャロ「へぇ~、そうなんですか」
喪黒「でもこの草の和名のゆかりは、この草を原料にした秘薬の秘密を漏らした弟を兄が
切り殺したという、平安時代の伝説によるものなんですよぉ」ズイ
シャロ「ひ・・・ひぃ!」ガクガク
喪黒「おっと、これは驚かしてすいません。実は私、こういう者でして」スッ
シャロ「ココロのスキマ、お埋めします・・・?」
喪黒「はい。お金を頂かずに困っている人の力になれるよう、商品を提供しているのです」
シャロ「無料ですか!?」キラキラ
喪黒「まぁ、ボランティアのようなものですからねぇ。そうだ、シャロさんは紅茶はお好
きですか?」
シャロ「私、紅茶が大好きで紅茶専門喫茶で働いているんです!」
喪黒「ほぉ~、それは凄い。もしよろしければ美味しい紅茶がある店、私知っているんで
すよぉ・・・今からどうですか?」
シャロ「あ・・・でもお金が」ショボン
喪黒「大丈夫です、私から誘ったのですから、私が奢りますよ」
シャロ「ありがとうございます!」
――― バー「魔の巣」―――
喪黒「マスター、この方にはアールグレイを、私はブルーマウンテンで」
マスター「・・・・・・」コク
シャロ「この街にこんな店があるなんて・・・何か隠れ家みたいでカッコいいですね!」
喪黒「ホッホッ、私のお気に入りの場所です」
シャロ「リゼさんなんかが喜びそうだな・・・」
マスター「・・・・・・」コト
シャロ「あ、ありがとうございます」ズズ
シャロ「! このアールグレイ、凄く美味しいです!」
喪黒「それは良かったですねぇ」ゴクゴク
喪黒「ところでお嬢さん、先程は何かお悩み事でも?」
シャロ「あ、はい。実は・・・」
・・・・・・・・・・・・
喪黒「ふむふむ、ウサギ恐怖症を克服したいと」
シャロ「はい、そうなんです。家でもウサギを飼ってみたものの・・・毎日怯えながら餌
をやっている始末なんです」
喪黒「なるほど、しかしその恐怖心を克服しようとする志、良いことですなぁ」
喪黒「よし、この私に任せなさい!」
シャロ「本当ですか?」
喪黒「はい。ところでシャロさんはウサギ以外に何か苦手なものはありますか?」
シャロ「ウサギ以外ですか? えーと・・・コーヒーが少し苦手で」
喪黒「それはどうして?」
シャロ「コーヒーを飲むとハイテンションになってしまって、恥ずかしい思いをするんで
す」
喪黒「ほうほう、それではこれを」スッ
シャロ「これはコーヒー豆?」
喪黒「それは私がブレンドした特製のコーヒーです。この際コーヒーに対する恐怖心も克
服してしまいましょう」
シャロ「で、でも私・・・」
喪黒「大丈夫です。そのコーヒーはありとあらゆる苦手なものを克服できるものです。き
っと、ウサギ嫌いも治りますよ?」
シャロ「でもこれ、本当にタダで良いんですか?」
喪黒「ええ、良いですとも。ただし、そのコーヒーを飲んでいる期間は、他の品種のコー
ヒーを飲んではいけません。これだけ約束してください」
シャロ「コーヒーなんて滅多に飲まないし・・・はい、わかりました。ありがとうござい
ます!」
喪黒「オーホッホッホ・・・」
シャロ「喪黒さんから貰ったコーヒー、飲んでみるか・・・」ゴク
シャロ「・・・・・・」
シャロ「・・・ヒャッハー!!」
シャロ「何よぉ!! ただのコーヒーじゃないのぉー!!」
ワイルドギース「・・・・・・」ピョン
シャロ「あ?」ギロ
シャロ「(ワイルドギースか・・・あれ? 何だか無性にイライラする)」イライラ
シャロ「(おかしいなぁ・・・・・・したい・・・殺したい・・・)」イライラ
ワイルドギース「・・・・・・」プルプル
シャロ「・・・おい!」ガシ
ワイルドギース「・・・!」ジタバタ
シャロ「てめぇ・・・いつもいつも私のことを馬鹿にしやがって!」ミシミシ
ワイルドギース「・・・! ・・・!」ジタバタ
シャロ「死ねぇ! 死ねぇ! お前なんて殺してやる!」ミシミシ
ワイルドギース「・・・・・・!」ジタバタ
ワイルドギース「・・・・・・」ピクピク
ワイルドギース「」グッタリ
シャロ「あははは! 良いザマだ! 私をいつも馬鹿にするからだ!」
シャロ「あはははは! あはは・・・あは・・・?」
シャロ「あ・・・あぁ・・・!」
シャロ「ワイルドギースを・・・私が・・・?」
シャロ「(不思議と罪悪感が感じられない・・・寧ろ胸がときめいている?)」ドクンドクン
シャロ「(ウサギを殺すことが、こんなにも快感なんて・・・)」ドクンドクン
シャロ「(もう何も怖くないわ! 街中のウサギに、仕返ししてやるんだから!)」ニヤ
―――――――――――――――――――――――――――――――
リゼ「あの野良ウサギ、脱走したのか・・・」
シャロ「そうなんです、朝起きたときにはもういなくなってまして」
リゼ「そうか・・・みんなでやる餌やり、楽しかったのにな・・・」シュン
シャロ「そうですねぇ・・・(何でリゼ先輩は落ち込んでいるのかしら? これも全部ウサ
ギのせいなんだから!)」ワナワナ
リゼ「シャロ・・・?」
シャロ「はっ! いえいえ何でもないですよ!」
リゼ「・・・?」
シャロ「この! このぉ!」ザクザク
野良ウサギ「」グチャ
シャロ「あははは! 楽しい・・・楽しいなぁ! 今まで怯えてきた存在が、こうも弱か
ったなんて! ほら! どうだ! 痛いだろう!?」ドスドス
野良ウサギ「」ドクドク
シャロ「リゼ先輩を悲しませやがって! おら!」グシャグシャ
喪黒「・・・・・・」ジー
―――――――――――――――――――――――――――――――
千夜「ひっく・・・ぐす・・・」シクシク
ココア「千夜ちゃん・・・」
リゼ「最近、大量のウサギが惨殺される事件が増えてきたと思っていたら・・・まさかあ
んこまで・・・!」
チノ「信じられないです! こんな酷いこと、人間のすることじゃないです!」
シャロ「・・・・・・」
リゼ「はぁ・・・少し気分を落ち着けるためにコーヒーでも飲むか。シャロはコーヒーで
大丈夫か?」
シャロ「は、はい!(リゼ先輩の淹れるコーヒーなんて断れないよぉ!)」
喪黒『他の品種のコーヒーは飲んではいけません』
シャロ「(・・・へへ、今の私に怖い物なんてないわ!)」
リゼ「はい、どうぞ」コト
シャロ「あ、ありがとうございます」
千夜「うう・・・あんこぉ・・・」シクシク
ココア「千夜ちゃん・・・あんこを守ってやれなくてゴメンね・・・?」
千夜「ココアちゃんのせいじゃないわ・・・」グスグス
ココア「大丈夫。私がついているから・・・ね?」ギュ
千夜「・・・うん」グス
リゼ「・・・くっ」ポロポロ
チノ「おじ・・・ティッピーが心配です・・・」グス
ティッピー「わしは無事じゃよ」
シャロ「(ああーもう! 何でみんな落ち込んでいるのよ!? 憎きウサギどもが死んで嬉
しくないの!?)」
シャロ「(ええい! もうこうなりゃヤケコーヒーよ!)」ゴクゴク
喪黒『シャロさん、約束を破りましたね?』
シャロ「な! 喪黒さん!?」キョロキョロ
喪黒『あんなにウサギを殺して・・・どうなっても知りませんよぉ?』
シャロ「あ、あれは喪黒さんが・・・!」
喪黒『ウサギ嫌いを克服するチャンスを与えたのは私ですが、ウサギを殺したのは貴女の
判断です』
シャロ「私は悪くない・・・悪いのはウサギどもよ!」
千夜「シャロ・・・ちゃん?」
リゼ「シャロ・・・?」
喪黒『あーあー、これはもう手遅れですね』
喪黒「ドーーーーン!!!!」
シャロ「きゃああぁぁぁ!?」
シャロ「うーん・・・あれ? 私、今まで何を・・・?」ムク
千夜「」
ココア「」
リゼ「」
チノ「」
ティーピー「」
シャロ「え・・・え!?」ビク
シャロ「何これ・・・何でみんな血だらけに?」ガクガク
シャロ「それに・・・何で私包丁を持っているの・・・?」ガクガク
千夜「」ドクドク
シャロ「嫌あああぁぁぁぁぁ!!」
喪黒「苦手なものを克服しようとする志、それは本当に素晴らしいことです」
喪黒「しかし、行き過ぎたやり方はおすすめできませんよぉ。ストレスを溜め過ぎて辿り
着く末路は良い結果ではありませんから」
喪黒「彼女のように、ウサギの次は友達に苛立ちを覚えて、ウサギを殺す罪悪感どころか」
喪黒「友達を殺す罪悪感まで失ってしまうのですから、オーホッホッホ・・・」
喪黒「さて、次のお客様は・・・」
宇治松 千夜(うじまつ ちや) 『本音花』オーホッホ・・・
チノ「ココアさん!」プンスカ
ココア「ごめんなさい・・・」シュン
リゼ「まったく、だから慌てるなと言ったのに」
チノ「私のアイスが食べられなくなってしまったじゃないですか!」プンスカ
ココア「本当にごめんなさい・・・」シュン
千夜「(ああ・・・私があのとき注意していれば・・・)」
―――――――――――――――――――――――――――――――
シャロ「じゃあ行ってきまーす!」
千夜「あ、待ってシャロちゃん! 今日は雨・・・」
千夜「(でも午前中だけってニュースで言っていたし、大丈夫よね?)」
――― 放課後 ―――
窓「」ザー
千夜「凄い雨・・・」
千夜「(私は傘を持ってきて家まで帰ってきたけど・・・シャロちゃんはまだ帰っていない
わね)」
千夜「(シャロちゃん、大丈夫かしら・・・)」
シャロ「うえぇ・・・」ビシャビシャ
千夜「シャロちゃん!」
シャロ「こんなにドシャ降りになるなんて聞いてなかったよぉ・・・何で朝に教えてくれ
なかったのさ!」
千夜「ご、ごめんなさい・・・」シュン
シャロ「ふんだ!」プイ
千夜「(あぁ・・・朝にシャロちゃんに傘を渡していれば・・・)」
―――――――――――――――――――――――――――――――
千夜「こちら花の都三つ子の宝石になります♪」コト
喪黒「これはどうも」
千夜「(はぁ・・・最近になって、言いたいことが言えない自分に嫌気がさしてきた
わ・・・)」
千夜「はぁ・・・」ズーン
喪黒「んまんま」パクパク
喪黒「・・・・・・」
喪黒「店員さん」
千夜「は、はい、如何なさいましたか?」
喪黒「お客さんの目の前で溜息をするのは感心しませんなぁ」
千夜「も、申し訳ございません!(また私・・・)」
喪黒「それにそんなに暗いオーラを出して・・・これは何か悩んでいますな?」
千夜「そ、それは・・・」
喪黒「今はお客さんが少ないし、私に相談してみて下さいな。今心の中に溜まった
ものを出さないと、いつまで経ってもスッキリしませんよ?」
千夜「はい、実は・・・」
・・・・・・・・・・・・
喪黒「ははーん、そういうことがあったんですね」
千夜「はい、私、いつも自分の言いたいことが言えずに、みんなに迷惑をかけてし
まって・・・」ズーン
喪黒「そんな顔をしてはいけませんよ? 折角のお淑やかな雰囲気が台無しです」
喪黒「よろしい、お嬢さん。これをプレゼントしましょう」スッ
千夜「これは花の髪飾り?」
喪黒「はい、そうです。この髪飾りをつければきっと貴女の役にたつことでしょう」
千夜「あの、お客様はいったい・・・?」
喪黒「ああ、申し遅れました。私、こういう者です」スッ
千夜「ココロのスキマ、お埋めします・・・?」
喪黒「はい、私せぇるすまんをしていまして、貴女のようなココロのお悩みを無償で解決
しているんです」
千夜「無料ですか?」
喪黒「はい、その通りです。もちろんその髪飾りもタダで差し上げます」
千夜「でも、こんな素敵な髪飾り・・・」
喪黒「良いんですよ、私が持っていても何の価値もありませんから。貴女みたいな美しい
女性が使うからこそ、より一層輝きが増すんです」
千夜「・・・ありがとうございます」
喪黒「いえいえ。ただし、その髪飾りに水をかけてはいけません。それだけお約束を」
千夜「水ですか? わかりました」
喪黒「・・・・・・」ニヤ
―――――――――――――――――――――――――――――――
ココア「千夜ちゃん、髪飾り変えたんだ!」
千夜「ええ、イメチェンよ♪」
ココア「凄い素敵な色・・・あ、可愛いウサギ発見!」ダッ
千夜「あ、ココアちゃん・・・!」
千夜「靴ひも解けてるよ!」
ココア「え? あ、本当だ」
ココア「ありがとうね、千夜ちゃん! 私また転ぶところだったよ!」
千夜「え、ええ・・・良いのよ」
千夜「(言えた・・・言いたいことが言えた!)」
千夜「(やっぱりこの髪飾りのおかげなのかしら?)」
―――――――――――――――――――――――――――――――
シャロ「嫌だぁ! こんなの飲みたくない!」
千夜「でも牛乳は体に良いのよ?」
シャロ「何でこんなの飲ますの!? 私の胸がないからって馬鹿にしているんだ!」
千夜「そ、そんな・・・」
シャロ「千夜なんか大嫌いよ!」
千夜「シャロちゃん・・・」
千夜「いい加減にして!!」
シャロ「!?」ビク
千夜「シャロちゃんの体調が本気で心配なの! 栄養が偏っていないか心配なの!」
千夜「だから私にできる精一杯のことをしようとしたの! いい加減わかってよ!」
千夜「・・・はっ! そ、その・・・」オロオロ
シャロ「・・・わかった、ゴメンね?」
千夜「え?」
シャロ「千夜は私のことを思ってしたことなんだよね? 私が正直じゃなかったわ」
千夜「あの・・・」
シャロ「今までゴメンね? あといつもありがとう」
千夜「う、うん・・・」
―――――――――――――――――――――――――――――――
千夜「喪黒さん、あの髪飾りをつけてから、自分の言いたいことが言えるようになったん
です!」
喪黒「ほほぅ、それは良かったですねぇ」
千夜「はい! これも喪黒さんのおかげです、本当にありがとうございます!」
喪黒「いえいえ、約束を守っていただければ・・・」
―――――――――――――――――――――――――――――――
千夜「さて、そろそろ帰りましょうか」
ココア「ごめーん千夜ちゃん、私補修で残んなきゃいけないの~」
千夜「あら、そうなの・・・じゃあ先に帰っているわね?」
ココア「ふえぇ~ん」シクシク
千夜「まぁまぁ。帰ったら、私も勉強見てあげるから、ね?」
ココア「千夜ちゃん大好き!」ダキ
千夜「あらあら///」
千夜「じゃあ頑張ってね」
ココア「うん、気を付けて帰ってね!」フリフリ
―――――――――――――――――――――――――――――――
千夜「あら・・・? おかしいわね、傘がないわ」
千夜「外はドシャ降りだし・・・どうしようかしら」
千夜「お店もあるし、雨宿りするわけにはいかないし・・・」
喪黒『その髪飾りを決して濡らしてはいけません』
千夜「うーん・・・」
千夜「・・・走っていけば良いわよね?」
ザー
千夜「思っていたより降っているわね」パシャパシャ
千夜「風邪をひいてしまいそうだわ・・・」パシャパシャ
喪黒「千夜さん」ヌッ
千夜「あ、喪黒さん」
喪黒「貴女、約束を破ってその髪飾りを濡らしてしまいましたね?」
千夜「あ・・・」
喪黒「実はその髪飾りの花は生きていましてねぇ。水をやると枯れてしまうんです」
千夜「そんな・・・」
喪黒「その花は生きているからこそ効力を発揮するもの。枯らしてしまうとどうなるか、
私は知りませんよ?」
千夜「え・・・え?」
喪黒「ドーーーーン!!!!」
千夜「きゃああぁぁぁ!?」
ココア「千夜ちゃん、大丈夫?」ガチャ
千夜「・・・ええ、大丈夫よ。熱はある程度下がったし」
ココア「無理しないでね?」
リゼ「そうだぞ、ドシャ降りの中、道端で倒れていたときはびっくりしたぞ」
チノ「お店の方は任せてください。メニュー表がわかるココアさんに臨時でつかせますの
で」
シャロ「もう! 本当に心配したんだから!」
千夜「・・・ゴメンなさい・・・本当にゴメンなさい・・・」ポロポロ
リゼ「お、おい・・・」
千夜「いつもいつも迷惑をかけてしまって・・・ゴメンなさい・・・」ズーン
リゼ「き、気にするなよ」
千夜「私は何て迷惑な存在なのかしら・・・」ズーン
リゼ「え、えーと・・・」
ココア「千夜ちゃん・・・」
チノ「千夜さん・・・」
シャロ「千夜・・・」
喪黒「自分の言いたいことを言えずに困っている人というのは、良く言えば大人しい人、
悪く言えば優柔不断。本音と建前を両立させるのは本当に難しいことです」
喪黒「しかし、ネガティブ過ぎるのもいけないことですよね? 彼女のように、自分だけ
が落ち込むどころか、他人まで暗い気持ちにさせてしまう性格になってしまうことだって
あるのですから」
喪黒「それにしても、彼女の作ったあんみつとお団子は絶品でした! オーホッホッホ・・・」
喪黒「さて、次のお客様は・・・」
条河 麻耶(じょうが まや) 『見せかけピストル』オーホッホ・・・
マヤ「リゼ! その拳銃貸してよ!」
リゼ「ダメだ! お前には扱いきれない物だ!」
マヤ「SpringfieldXDの5inchモデルでしょ?」
リゼ「な、何故それを・・・!」
マヤ「しかも40口径なんだから私でも扱えるよ!」
リゼ「ダメと言ったらダメだ!」
マヤ「ぶー、けちー」
―――――――――――――――――――――――――――――――
マヤ「まったく、ちょっと貸してほしいだけなのに・・・」
喪黒「お嬢さん、手を挙げなさい」チャキ
マヤ「うわぁ!? そのトカレフを私に向けるなぁ!」ビク
喪黒「はっはっは、冗談ですよ。それにこれはKSC製のエアガンです」
マヤ「まったく紛らわしいことを・・・」
喪黒「それにしてもお嬢さん、銃に詳しいですね」
マヤ「へへん! 凄いだろ、オッサン!」
喪黒「貴女の性別と年齢を考えれば、珍しい趣味ですなぁ。それにしても先ほどはどうし
ていじけていたのですか?」
マヤ「ああ、実はな・・・」
・・・・・・・・・・・・
喪黒「ほう、その人が銃を貸してくれなかったと」
マヤ「そうなんだよ! 私にはまだ早いって貸してくれないんだ!」
喪黒「確かにその銃ではグリップが太すぎて貴女の手には合わないでしょうな」
マヤ「そうかなぁ?」
喪黒「そうだ、今からとっておきの場所に連れて行ってあげましょう」
マヤ「・・・もしかして誘拐?」
喪黒「いえいえ、実は私こういう者です」スッ
マヤ「ココロのスキマ、お埋めします・・・?」
喪黒「はい、私はせぇるすまんをしていますが、実は日本射撃協会の人間でもあるんです」
マヤ「日本射撃協会・・・?」
喪黒「公には公表していませんが、あるバーの地下で射撃場を経営しているんです」
マヤ「へぇー、カッコいいな!」
喪黒「貴女のように銃に詳しい方は大歓迎です、さぁ行きましょう」
――― バー「魔の巣」・地下 ―――
マヤ「へぇー、こんなところがあったんだ!」
喪黒「ここは秘密の場所ですからねぇ、メンバーズカードを持っている人間のみ、ここを
利用することができるのです」
マヤ「私は?」
喪黒「貴女は特別です。ここにある銃本体と弾薬の使用は無制限、しかも無料です」
マヤ「本当か?」
喪黒「ええ、本当です。ここにある銃は全て本物ですからご注意を」
喪黒「マヤさんには・・・これが良いでしょう」スッ
マヤ「これはM1911A1か?」
喪黒「はい、少々古い物ですが、SpringfieldXDに比べてグリップも握りやすいでしょう。
使用弾薬は45ACP弾ですので反動にご注意を」
マヤ「早速撃ってみても良い?」
喪黒「どうぞどうぞ。ではまず最初は10m射撃で慣れさせますか」
喪黒「まずはマガジンキャッチを押してマガジンを取り出して下さい」
マヤ「こうか?」カチ スー
喪黒「そうです。次にそのマガジンに弾をこめてみて下さい」
マヤ「よいしょ、よいしょ」カチカチ
喪黒「この銃は装弾数は7発ですから、くれぐれも無駄撃ちをしないように。全弾こめた
らマガジンを元の場所に差し込んで下さい」
マヤ「わかった」カチャ
喪黒「次はスライドを名一杯引いて下さい」
マヤ「こうか?」チャキン
喪黒「そうです、これで銃が撃てる状態になりました。あとはグリップセーフティーを握
りこんで、トリガーを引いてください」
喪黒「他にも銃の分解方法などもありますが・・・今はまだ良いでしょう」
マヤ「リアサイトの溝にフロントサイトを合わせて・・・えい!」バン
マヤ「うわ!? 手が痛い・・・」
喪黒「はっはっは、最初は誰もがそうなります。内股にならず、肩幅と同じ位に脚を開い
て、利き足を一歩後ろに引いて下さい」
喪黒「両上肢は両尺骨鉤状突起同士をつけないで、ある程度伸ばして下さい」
喪黒「銃の握り方は最初に利き手でグリッピングして、次に空いている手で利き手の第3
~5指を包み込むように握って支えて下さい」
マヤ「よし、やったぞ」
喪黒「それでは精神を集中して撃ってみて下さい」
マヤ「よぉ~し!」バン
マヤ「あ! 当たった!」
喪黒「おほぅ、これは凄いですね。ところでマヤさん、1つお約束があります」
マヤ「何?」
喪黒「この銃を扱う際は、決して他の人にホールドオープンの状態を見せてはいけません」
マヤ「ホールドオープン?」
喪黒「オートマティック拳銃特有の弾切れのサインのことです。スライドが引ききった状
態になることですよ」
マヤ「へぇー、つまり弾切れになったことは知られちゃダメってこと?」
喪黒「そうです、弾切れ状態を相手に知られるということは、それは負けを意味している
のです」
マヤ「うーん、わかった! じゃあ今2発撃ったから、あと6発撃って・・・」バンバン
マヤ「チャンバーに1発残っているから次は7発弾をこめて・・・」カチカチ
マヤ「その次もまた7発弾を撃ってこめれば良いね!」
喪黒「ええ、その通りです・・・くれぐれも無駄撃ちをしないように・・・」
―――――――――――――――――――――――――――――――
喪黒「さて、25m射撃も完璧になったことですし、次は人気のない野外でやりましょう」
マヤ「でも何を的にするんだ?」
喪黒「あそこにいる野良ウサギです」
マヤ「えっ!?」
喪黒「結構数もいますし、練習台にはもってこいだと思いますよ?」
マヤ「そ、そんな・・・ウサギを撃つなんて・・・」
喪黒「マヤさん、銃は何のために存在すると思っているんですか? 銃は動物を撃って狩
猟するため、人を撃って戦争をするために存在しているんです。銃を扱う以上、動物を撃
てなくてどうするんですか。いざというとき、戦場では相手は待ってはくれないのですよ?」
マヤ「で、でも・・・」
喪黒「大丈夫ですよ、これはゲームなのです。そう、ゲームなのです!」ドーーーーン!!!!
マヤ「あーれー!?」
マヤ「・・・・・・」バン
野良ウサギ「」ブチ
マヤ「・・・・・・」バン
野良ウサギ「」グシャ
マヤ「・・・・・・」バン
野良ウサギ「」ドクドク
マヤ「あはは・・・楽しい!」
喪黒「これはこれは、もうすっかり慣れましたね。次からはお1人でも練習なさってみて
下さい」
マヤ「はい!」
―――――――――――――――――――――――――――――――
マヤ「今日はあのウサギにしてみよう!」
マヤ「・・・よいしょ」チャキ
リゼ「マヤ・・・? 何をしているんだ!?」
マヤ「うわ!?」バッ
マヤ「(しまった! 反射的にリゼに銃を向けてしまった!)」
リゼ「ほほぅ、やる気か・・・良いだろう! 手加減はなしだ!」チャキ
マヤ「(ヤバい・・・リゼは本気だ・・・どうしよう)」
マヤ「(いや、これはゲームなんだ・・・そうだ、ゲームなんだ)」
マヤ「(リゼを倒せばそこでゲームクリア・・・なんだ、簡単じゃないか)」
マヤ「食らえ!」バン
リゼ「ひっ・・・! 本物!?」
マヤ「ちっ・・・はずしたか!」タッタッ
リゼ「おい待てマヤ!」バッ
―――――――――――――――――――――――――――――――
マヤ「しまった・・・! 残りの弾薬が少ない!」ハアハア
マヤ「あっちは装弾数が12発だけど、もう11発撃っているから残りは1発・・・」
マヤ「もう! どうしてこんなときに予備のマガジンがないかな!」
リゼ「隙あり!」バッ
マヤ「うわっ!?」バンバン カチ
マヤ「(しまった! ホールドオープンしてしまった・・・!)」
リゼ「これで終わりだ!」バスン
マヤ「痛っ!」ペチ
マヤ「・・・? BB弾・・・?」
リゼ「私が護身用に携帯しているのは東京マルイ製のエアガンだ。まぁ、私はリアル志向
だから装弾数は実銃と同じにしているがな」
リゼ「さぁ、もうお互い弾切れだ。実銃を使ってウサギを殺そうとしていたこと、正直に
警察に言って話そう」ズイ
マヤ「い、嫌だ! まだ私は負けていない!」バッ
リゼ「お、おい・・・!」
マヤ「こうやってスライドストップを下に下ろしてスライドを元に戻せば!」カチ
マヤ「あたかもまだ弾が入っているように見せられる! 私の勝ちだ、リゼ!」チャキ
リゼ「いや、勝ちって・・・」
マヤ「あはははは!!」
喪黒『いいえ、貴女は彼女に負けたのです、マヤさん』
マヤ「オッサン!?」
喪黒『あれほど忠告していたのに・・・ホールドオープンの状態を他の人に見せてしまい
ましたね?』
マヤ「で、でもスライドを元に戻せば・・・!」
喪黒『誤魔化しても無駄です。貴女は負けたのです、戦場で負けるということ、つまりそ
れは死・・・貴女はこれから死ぬのです!』
マヤ「そ、そんなこと・・・!?」
喪黒「ドーーーーン!!!!」
マヤ「うわああぁぁぁ!?」
リゼ「ほら、私も着いて行ってやるから、いくz」
警官1「ラビット公園付近で銃を発砲していると通報を受けた、犯人と思しき人物を発見し
ました!」
リゼ「なっ!?」カランカラン
警官2「銃を置いて両手を挙げなさい!」
マヤ「え・・・あの、これは・・・!」
マヤ「(あれ!? 銃が手から放れない!?)」
マヤ「違うんです! これは、これは・・・!」アタフタ
警官2「銃を捨てろと言っている!」
マヤ「あ・・・あぁ! 銃が放れない!」チャキ
警官1「なっ! 銃をこっちに構えてきたぞ!? 無駄な抵抗はよせ!」チャキ
リゼ「止せ! 撃つな! 彼女の銃は弾切れだ!」
警官2「やむを得ん! 撃て!」バン
マヤ「か・・・は・・・!」バタ
リゼ「マヤ!!」タッ
マヤ「リ・・・ゼ・・・げふぅ・・・」ガク
リゼ「マヤァァァ!!!」
警官1「ホシを確保しました。が、やむを得ず発砲、弾丸は犯人の左鎖骨下静脈付近に被弾、
至急救急車の手配を!」
マヤ「」ドクドク
喪黒「かの第二次世界大戦でアメリカ軍が正式採用した自動小銃、M1ガーランドは、弾倉
に弾薬がなくなるとピンッという金属音がなり、弾切れであることを使用者に教えてくれ
るという、画期的なシステムを搭載した小銃と言われました」
喪黒「しかし、いざ戦場で使用すると、その金属音の発生のため、敵にも弾切れであるこ
とを知られてしまうという、かえって命取りになる場面もあったそうです」
喪黒「オートマティック拳銃を扱う身として、彼女も変な意地を張らなければ、命は落と
さずに済んだというのに」
喪黒「銃を扱うというのは、自分が殺される覚悟も持っていないとダメなんですよ?」
喪黒「オーホッホッホ・・・」
―――――― 完 ――――――
これにて完結です、残りのキャラは誰か書いてくれると良いですね
では、オヤスミノフ
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません