TV「今週も765オールスターズのM@STERPIECEがオリコン一位を譲らず。いやぁ、強いですねぇ~765プロさんは」
TV「アリーナライブも大盛況でしたしね」
TV「そんな好調な765プロさんですが!いやね、うかうかなんてしていられませんよ?」
TV「あれですね?」
ナレーション『シンデレラガールズプロジェクト!一般参加の少女たちがトップアイドルを目指すという大掛かりなプロジェクトが始動!参加希望者はシンデレラプロダクションまで!』チャララン
TV「自分こそは!と自信のある方は奮って応募を……ってことらしいですね」
TV「最近色々な場所で話題になってますよね」
TV「ちなみに、シンデレラがテーマなので女性限定です。年齢は問わないそうです。凄いね、高齢アイドルきちゃう?」
TV「ちょっと見てみ……」
テレビの電源が切られたことで、室内は静寂に包まれた。
凛「一般参加のアイドル……ね」
雑踏のなか、見上げたディスプレイに彼女たちは映っていた。
あれはアリーナよりも以前のこと。
そう、クリスマス時期だったかもしれない。
春香!と叫ぶ765プロのアイドルたちだ。
普段は気にも留めない私が、あの時だけはディスプレイに目を奪われた。
結局のところ、彼女たちに注目したのはその時だけとなったが。
今や街中で彼女たちの歌を耳にする。
765プロを知らない日本人は、もういないだろう。
彼女たちは身近な日常として、私たちには当たり前の存在となっていった。
凛「私にはきっと無理だろうね」
輝きの向こう側へ……か……
アリーナライブの話題は街中で響いていた。
あの日も、ディスプレイに彼女たちはいた。
所詮は、自分とは無縁の世界。そう割り切り、私はその場を後にした。
果たして、無愛想な自分が、あんな眩しい存在になれるのか?
凛「馬鹿らしい」
私の人生は、依然霧の中にある。
-シンデレラプロダクション-
ちひろ「プロデューサーさん。応募締切は来月ですよ」
モバP「応募者はどのくらい増えました?」
ちひろ「結構いますね。ほとんどが書類審査で弾かれそうですけど」
モバP「まあ失礼ですけど、書類に軽く目を通しても……なーんかパッとしないんですよね」
ちひろ「本当に失礼です」
モバP「原石なんて大抵向こうからはやってこないものですって」
ちひろ「募集しておいてそれですか……」
モバP「チャンスは平等に」
ちひろ「ティン!とこない人はすぐ落とすくせに」
モバP「初対面で才能も何も感じられないようなら、トップアイドルなんて夢のまた夢ですよ」
ちひろ「意外とシビアですよね、プロデューサーさん」
モバP「仕事ですからね」
モバP「それに、書類よりも実際に本人を目にしないことには結論も出ませんし」
ちひろ「あれ?面接には参加しないんですよね?」
モバP「そうですね。他のプロデューサーに任せます。自分が担当するアイドルは自分で見つけますよ」
ちひろ「また独断だって言われますよ?いいんですか?」
モバP「実は社長に許可取ってます」
モバP「「アイドルを目指していなかったアイドルか。面白そうだ。好きにやりたまえ」って」
ちひろ「……あの人は」
モバP「シンデレラは、自分のガラスの靴でも自己申告なんてしませんからね。こちらから見つけてあげないと」
ちひろ「シンデレラかぁ。忙しくなるわね」
モバP「じゃ、ちひろさん。原石(シンデレラ)探しに行ってきます!」
ちひろ「行ってらっしゃ~い」
モバP「と、その前に。義妹のお見舞いも済ませてきます」
ちひろ「このシスコンめ」
モバP(花とケーキでも買って行くか)
《普段とは違う道順で、通り過ぎる少女たちに視線を集中させる。》
モバP(これと言ってオーラのある子はいないな……)
モバP(う~ん、妥協すべきか……)
《そんなことを考えながら、目についた個人営業の花屋に足を踏み入れた》
凛「いらっしゃいませ……って、何だ自称プロデューサーか。…何か用?」
モバP(!?)
《本日初の素質と可能性を感じる少女》
《実は彼女とは以前にも話したことがあった》
《あれはスカウトの最中だった。視界に入った彼女に一目で惹かれ、声を掛けたのだ》
モバP(あの時は急いでいるからと断られたんだったな)
モバP(奇跡としか言いようがない。この広い東京で、一度話しただけの少女と再会できるなんて……帰りに宝くじでも買おうか)
モバP「覚えていてくれたのか?」
凛「まあね」
モバP「はは……自称じゃないんだけどな」
凛「まだ信用できない」
モバP「では正攻法で。突然で失礼ですけど、本日はこちらでアルバイトですか?」
凛「え?……花屋でバイトしてるのかって?ここ、私の家なんだけど」
モバP「そうですか。突然申し訳ありません。私、シンデレラプロダクションでプロデューサーをしている者なのですが……」
《名刺を手渡す》
《最初の候補は彼女しかいない》
モバP「いきなりで申し訳ないのですが、アイドルに興味はありませんか?」
少女はほとんど表情を変えない。
凛「尾行したりしてないよね?」
モバP「偶然です。いや本当に」
凛「ふぅん?」
モバP「あ、信用できないようでしたら、今この場でスマホなりガラケーなりで検索したり、事務所に直接問い合わせをして下さって結構です。シンデレラプロダクションでググれば一発で出ますし」
凛「…………」
モバP「公式サイトに記載されている事務所番号に電話するなり、メールするなりお好きにどうぞ。まあ、番号はその名刺にある事務所番号とも一致するでしょうけどね」
《一見無表情のようで、冷静に観察すれば少女の口元は僅かに緩んでいた。おそらく無意識の表情だろう》
凛「……私がアイドルね」
モバP「こちらからのスカウトなので、書類審査もオーディションも一切必要ありません」
凛「それって凄いの?」
モバP「ええ。応募は山のように来てますから」
凛「なんで、私?」
モバP「一目で才能を感じたからですけど?」
凛「才能?私に?どうだろね、アンタの気のせいじゃないの?」
モバP「……自分の目には自信があります。今日もたくさんの女の子を観察しましたが、特にこれといって何も感じませんでしたし」
凛「観察て……なんか危ない人みたいだよ」
モバP「失礼しました」
凛「……うん……二度目で悪いけど、アイドルになる気はないかな」
モバP「本音は?」
凛「は?」
モバP「人間観察は得意だと言った。それは君も例外じゃない」
凛「うん、意味わかんないよね」
モバP「前回も今回もさ。スカウトした瞬間、君一瞬だけど嬉しそうだったぜ?断るにもそのあからさまな躊躇い。そして今は、……そうだな。何かを諦めたような表情っていうのか」
凛「……断った瞬間いきなり馴れ馴れしくなったね」
モバP「あー、我に返った感じか」
凛(スルーされた)
凛「…………」
モバP「「興味はある。でも、中途半端に終わるくらいなら夢なんて見ないほうがいい。自分に自信はあるけど、トップに上りつめるまでの自信は欠片もない」……うーん、負けず嫌いといったところだな」
凛「……へぇ」
モバP「違うか?」
凛「……凄いね、超能力者?名探偵?」
モバP「プロデューサーです」ドヤァ
凛「自信なんてないって。私は私、今も精一杯」
モバP「君の知らない、君が輝ける世界を見せる。約束するよ」
凛「店の手伝いもあるし、ハナコ……愛犬の世話もある。アイドルなんてやってる時間ないよ」
モバP「それはただの言い訳だな」
凛「そう、言い訳だよ。悪い?選択は私の自由じゃん。……アンタこそ、しつこい勧誘は嫌われるよ」
モバP「それが仕事なんだ」
凛「ろくな仕事じゃないね」キッ
《シッシッと手を振る店員。話は終わりと言いたいのだろう》
モバP「まあな。だが俺は、自分の仕事に誇りを持ってる」
凛「大人のくせに子供相手に胸張って何言ってんの?」
モバP「シンデレラを捜す王子はな、簡単には諦めなかったんだぜ?ガラスの靴一つで、自分の嫁を見つけ出したんだから」
凛「王子かっこいいじゃん。……今ならストーカー扱いだろうけどさ」
モバP「俺は君を見つけた。君ならシンデレラガールになれると、俺は思う」
凛「お世辞でもありがと」
モバP「得体の知れない俺なんかの評価じゃ不満かもしれないがな」
凛「確かにね」
モバP「ただ、これだけは信じてほしい。決していい加減な気持ちで君をスカウトしたわけじゃない。俺は君が欲しいと思ったから。君はアイドルになるべき才能があると、俺が信じたからだ」
凛「ぅ……なんか告白されてるみたいでムズ痒いんだけど……。……何?王子様(あんた)は私を嫁にでもしたいの?」
モバP「誰もが憧れるような、シンデレラ(あいどる)にしたいと思ってる」
凛「……不安なんだ。今当たり前のように過ごしてる環境、自分の世界が変わってしまうのがさ。ほら、私って普通の高校生だし?」
モバP「変わるのは不安か……。わかるよ。……俺もそうだったから」
モバP「それでもさ、見てみたくないか?君を照すスポットライト……君は優雅にステージを歩いていくんだ」
モバP「綺麗なドレスに身を包み、君は「笑顔は苦手なんだけどね」と苦笑い。そしてそんなクールな部分に惹かれる観客たち……君はふと思い返す、「アイドルになってよかったのかな」…と」
モバP「溢れんばかりの拍手。観客の笑顔を前にして、「なんかもういいや」。気だるい体もなんだか心地よくて。胸いっぱいの充実感」
凛「……突然なに?次から次へと臭い台詞ばっかだね。アンタ、ナルシストか何か?完全痛い詐欺師っぽいよ」
モバP「「あの時、断っていたらどうなっていたんだろう」君は震えた」
凛「……っ!」
モバP「いつだって取り返しのつかない選択肢がある。酷だろうけどな?俺は今、君にその選択肢を突き付けている」
凛「突然やってきて凄い上から目線……それに卑怯」
モバP「それが仕事だからな」
凛「それもういいから」
《アハハと笑う》
《興味を持てばこちらの勝ちだ》
《今しかないチャンスという枷は、本人たちにとってはそれなりに重い》
《「断ったらアイドルになれませんよ」と告げるより、本人にアイドルになった自分を一瞬でも想像させるのだ》
《そこに欲は生まれる》
モバP「これを貰うよ」
《手にしたのは沈丁花》
モバP「そしてこれが、君に贈る餞(はなむけ)だ。花だけにな」
凛「……は?」
《……冗談は全く通じなかったようだ》
凛「花屋の娘にいきなり店の花贈るって……ま、礼は言うよ。ありがとう」
凛「……アイドルねぇ」
沈丁花
花言葉は、栄光
そして『不滅』と『永遠』
凛「……ふふっ。……わかった……私やるよ」
モバP「本当か!?」
凛「条件があるけどね」
モバP「なんだ?」
凛「CGプロって、プロデューサーが何人かいるんだよね?」
モバP「まあな」
凛「私のプロデューサーはアンタじゃなきゃ嫌だ」
モバP「へぇ?俺がいいんだ?」ニヤニヤ
凛「…………やめよっかな」イラッ
モバP「嘘!嘘!冗談!俺も君を譲る気はないって!」
凛「あ、スカウト専門じゃないんだ?」
モバP「はあ!?なんじゃそりゃ」
凛「スカウトだけしてその気にさせてポイみたいな?」
モバP「信用ねえな!」
凛「……嘘だよ。信じてる」(ちょっと思ってたなんて言えない)
モバP「じゃあ改めて、俺はモバP。今日から君のプロデューサーだ!」
凛「ふーん、アンタが私のプロデューサー?……まあ、悪くないかな…。私は渋谷凛。今日からよろしくね」
モバP「な……」
凛「さっきのお返し」ニコッ
一人のプロデューサーと、多くのアイドルたちの伝説が、今始まる!
これは、ちょっと青臭くて、ひたすらまっすぐな少女たちの軌跡。
モバP「今日から凛もアイドルだ」
凛「なんかあっさりしすぎて拍子抜けしちゃうね」
モバP「じゃあオーディションでもするか?私はアイドルになりたいんです!って情熱を俺に売り込むの」
凛「はぁ…。馬鹿言ってないで仕事行くよ」
モバP「……担当アイドルが冷たい」
凛「プロデューサー。この後は何するの?」
モバP「はいこれスケジュール」
凛「宣材写真と局への挨拶回り?」
モバP「そうそう。クール系で売っていきますみたいな」
凛「私って別にクールじゃないよ?」
モバP「ぇ……」
凛「……なにか?」
モバP「いえ、何も言ってません!」
凛「不満はないんだけどさ。私って怖いみたいによく言われてたから」
モバP「凛は可愛いって。キュートで売ってもいいくらい」
凛「それはなんかイヤ」
モバP「どうしろと……」
凛「もう、無駄話してないで。プロデューサー、休んでる暇はないよ?」
モバP「はいはい」
凛「準備できた?じゃ、仕事行くよ」
モバP「あ、おい!」
「宣材撮りまーす」
モバP「制服なのに不良みたいだな」
凛「…言わないで」
モバP「魅力的でいいと思うんだが……」
凛「もうヤンキーとか呼ばれるの勘弁だからね?」
モバP「呼ばれてたんだ……」
凛「……悪い?」
モバP「いや、なんか貫禄あるよ、凛は」
凛「う、嬉しくない……」
TV局
「渋谷凛ちゃんね」
モバP「まだ先日駆け出したばかりの新人ですが、よろしくお願いします」
凛「よろしくお願いします」
「モバPちゃん、あの765プロさんのプロデューサーからも優秀だって聞いてるよぉ~」
モバP「そんなことは……」
「謙遜しない!彼と親しい同期の顔見知りって業界ではデカいよ。これからドカーンと期待してるからね、よろしくちゃん」
モバP「はい!」
凛「へぇ。プロデューサーって765プロのプロデューサーと同期なの?」
モバP「まあね。俺はアイドルは担当してなかったけどな。お互いまだまだ若手だよ」
凛「実績は天と地の差だね」
モバP「うっさい」
忙しい日々が始まった。
毎日があっという間に過ぎていく。
プロデューサーは応募を受け入れ、事務所には少しずつアイドルが増えている。
私はレッスンに明け暮れ、小さな仕事から徐々に下積みを積んでいく。
司会「次は765プロさんのステージだぁ!」
TVでは、ステージ会場から歓声が上がっている。
ライトに照らされた765プロのアイドルたち。
私はもう振り返らない。
まっすぐ進み続ける。
いつか辿りつけると信じた、あの光を目指して。
『渋谷凛初ライブ決定!』
初ライブと言っても、歌うのは765プロの曲のカバーだ。
事務所のコネによる小さなイベント。
凛「ふふっ、どう?こんな格好するの初めてだけど、ちょっと嬉しいかな…ありがとう、プロデューサー」
初めて衣装を身にまとい、私はその場でくるっとターン。
モバP「似合ってるぞ、凛。珍しく機嫌良さそうだな」
凛「……珍しく?どういう意味かな?」
モバP「あ、いや……あはは」
凛「もう、プロデューサーは……」
でも、テンションが高いのは本当。
凛「プロデューサー。……私、もっと頑張るから」
小さなステージ、客は少数。
夢には程遠い一歩だ。
それでも私は懸命に歌う。
この小さなステージをアリーナに変えてやる。
今日このステージを見られなかった、未来のファン達が悔やむような、そんな全力のステージを。
拍手と歓声が響いた。
モバP「最高だったよ!凛!」
凛「プロデューサー。お客さん、喜んでくれたかな?」
モバP「当たり前だろ?お前は最高のアイドルだよ」
プロデューサーの笑顔、今なら信じられる。
この人は仕事抜きで、本当に私を思ってくれているって。
私だけじゃない。この人にも見せたい。
心から思うよ。
だから、必ず連れていって。
光に満ちた『あのステージ』へ。
凛「プロデューサー。ずっと私と一緒にいてね」
養成所
講師「卯月ちゃんはいつも笑顔ね」
みんな同じ事を言う。
両親だってそう。
島村卯月の笑顔は素敵。
それ以外はすべて普通。
アイドルに憧れる普通の女の子。
誰も私の心に触れない。
当然か。だって、拒絶してるのは私だもの。
卯月「島村卯月、精一杯頑張ります!」ニコッ
私だって人間なのよ?
感情がないわけないじゃない。
今日も私は笑い続ける。
それが私の憧れた、私の大好きなアイドルへの近道なのだから。
講師「大丈夫よ、卯月ちゃん。卯月ちゃんは平均的に優れているわ」
卯月「ありがとうございます!嬉しいです!」
候補生「……島村ってなんか普通じゃん。あれでアイドル?私のほうが可愛いって」ボソ
候補生「やめなよ」ヒソヒソ
卯月「……あはは」
よかった。先生には聞こえなかったみたい。
平均という言葉が嫌い。
無個性なんて大嫌い。
普通ってなに?
私のなにがいけないのかな?
嫌われてはいない。
きっと好かれている。
話題に出されただけ。
私をいじっているだけ。
大丈夫、笑っていれば。
嫌われたくない。
それが例えライバルだとしても。
……みんな仲良くできないのかな?
講師「卯月ちゃんはシンデレラガールズプロジェクトにはもう応募した?」
卯月「はい!」
講師「私の知り合いにプロデューサーやってる人がいるんだけど、卯月ちゃん、よかったら会ってみる?」ヒソヒソ
……もしかしたら、先ほどの彼女たちの言葉が聞こえていたのかもしれない。
私は無言で頷いた。
喫茶店
モバP「そろそろ講師は辞めて、ウチの事務所で専属トレーナーとかしません?」
講師「しません」
モバP「下の妹さんも優秀なのになぁ」
講師「あれはまだまだ新米ですよ」
モバP「それで?紹介したい子とはそちらの?」
講師「そうよ。卯月ちゃん、さあ挨拶」
卯月「はい!」
卯月「はじめまして、プロデューサーさん!島村卯月、17歳です。私、精一杯頑張りますから、一緒に夢叶えましょうね♪よろしくお願いしますっ!」
モバP「あ……ああ」
講師「ちょ……話進めすぎ!まだ選ばれたわけじゃないわよ?」
卯月「あっ!ごめんなさい!私たら!」
モバP「いいよ、採用。今日から君はウチのアイドルだ」
卯月「本当ですか!?ありがとうございます!島村卯月、一生懸命頑張ります!」
モバP「いい子そうで安心したよ」
講師「そんな簡単に決めていいの?」
モバP「レッスンではドライな貴女の紹介だからね。才能のない子は連れてこないでしょう」
講師「信頼してくれてるんだ?」
モバP「当然ですよ」
凛「プロデューサー、鼻の下伸びてる」
モバP「はぁ!?ついてきたのか!?……凛、お前ついてくるなら最後まで隠れてろって……」
凛「なに言ってんの?私はプロデューサーのために顔出したんだよ?だってプロデューサーが女たらしだと思われたら困るからね」
《そこで不思議そうに首をかしげるな》
卯月「ふふっ。……あ、笑っちゃってごめんなさい!私は島村卯月です!今日からプロデューサーさんのお世話になることになりました!よろしくお願いします!」
凛「私は渋谷凛。よろしく」
卯月「はい!」
モバP「あとで契約書にするから、このまま事務所来れる?」
卯月「もちろんです!」
講師「プロデューサーさん、卯月を頼みます」
モバP「ええ、任されました」
凛「……かっこつけ」
こうして私は、突然やってきたチャンスによって、アイドルの卵としての活動を始めたのです。
卯月「はぁ……はぁ……」
凛「大丈夫?……これ飲みなよ」
凛ちゃんはぶっきらぼうで冷たい印象がありますが、本当はとっても優しいです。
私が疲れていると、用意したスポーツドリンクを渡してくれます。
他にも、私のかいた汗を拭いてくれたり、レッスンでの私の問題点を指摘してくれるのです。
凛ちゃんは過保護なほどよくしてくれます。
私たちはライバルなのに。
これまでに会った子たちとは違いました。
卯月「私、凛ちゃんの足引っ張ってないかな?」
レッスンが厳しく、つい弱音を漏らした私に、「……友達だから」と素っ気なく言った凛ちゃんは、普段と変わりないようで、しかし耳は真っ赤になっていました。
その瞬間、「ああ、凛ちゃんは私の求める存在なんだ」と気付いたのです。
それはまるで、一生の友達ができたようで、私は自然と笑顔が浮かんできました。
作り物じゃない、本物の笑顔で。
卯月「凛ちゃん、これからもよろしくね!」
願うなら、生涯の親友でいてください。
モバP「かつての竜宮小町に匹敵するユニットが作りたいですね」
ちひろ「凛ちゃんと卯月ちゃん?」
モバP「二人では足りません」
ちひろ「では事務所の新人一人一人あたります?」
モバP「またまた。妥協なんてしませんよ」
ちひろ「やっぱり……」
モバP「化学反応みたいなものですよ。ウチの新人たちと凛では方向性が違う」
ちひろ「応募もたくさんきてますよ?」
モバP「それは他のプロデューサーへ。僕が求めるのは「シンデレラ」ですから」
ちひろ「それ意味わかりませんけどね。社会人なんですから、ルールは守りましょうよ。大体、卯月ちゃんだって応募きてましたよ?」
モバP「俺はその資料を見ていないのに、それでも卯月に出会ったでしょう?」
ちひろ「あ、たしかに」
モバP「運命です」
ちひろ「あれ?……そうかな?えー……」
モバP「運命です」
ちひろ「二回言わなくて結構ですから!」
モバP「冗談ですよ。資料にも全部目を通してます。気になった子には直接会いに行くつもりです」
ちひろ「素直じゃないなー」
モバP「さーて、外に出てきますね」
モバP「今日は卯月を連れていきます」
ちひろ「アイドルにしてやったんだからデートくらいしろ?みたいな?」
モバP「いえ。最近色々条例とか煩いですし、あの笑顔があればスカウトする女の子の警戒心も薄れるかと」
ちひろ「凛ちゃんは?」
モバP「クールすぎますね。ズバズバ物を言うので、凛を知らない相手には逆効果の場合が」
ちひろ「報われないなぁ」
モバP「凛はまだ不器用ですからね。俺に構うのは精一杯打ち解けようとしているだけです」
ちひろ「……最近常に一緒に見えるけどなぁ……。さすがの凛ちゃんもプロデューサーさんは落とせないか」
モバP「は?やめてくださいよ。そんな気はありません」
ちひろ「手を出したら通報しますからね」ニッコリ
モバP「……スタドリ30本」
ちひろ「あれ?何の話でしたっけ?」
モバP「では、行ってきます」
今日の私はスカウトのお付き合いです!
卯月「いませんねー」
モバP「こう、ティン!とくる子を探すんだ」
卯月「はい!」
モバP「このスカウトは卯月や凛の今後にも関係することだから慎重にな」
卯月「今後ですか?なんだかわかりませんけど、わかりました!島村卯月、頑張ります!」
モバP「それだよ」
卯月「はい?」
モバP「卯月はさ、自分のセールスポイントが笑顔だって、事務所に提出するプロフィールに書いたろ?」
卯月「はい」
モバP「それ以外は無個性の…普通の人間だって悩んでると」
卯月「……え、なんで……」
モバP「俺は卯月が普通だとは思わない」
卯月「え……?」
モバP「俺のなかの卯月はさ、こう……なんていうか素直な奴なんだよ。俺の話に笑顔で頷いてくれる」
モバP「凄ぇよな。こんな素直でいい奴が、普通なわけないじゃん。どんな普通だよ。お前が普通なら世の中善人だらけだ」
モバP「レッスンの成績が普通?だからなんだ?レッスンをこなせる奴なんてたくさんいる。この世界を生き抜こうと根性見せる奴らがな」
モバP「才能だけじゃだめだ。そこに心はない。俺は卯月に初めて会った瞬間思ったよ」
『なんて素敵な笑顔だろうって』
信じられない。プロデューサーさんは私を見てくれていたの?
表面に出さない私の悩みまで。
ありえない。
プロデューサーさんは魔法使いなの?
モバP「お前は天性の素質があるよ。それは何よりも大切なもの……アイドルの魂だ」
卯月「アイドルの……魂……」
モバP「人を魅了する心だよ」
卯月「でも…私…あれは本心じゃないんです…」
モバP「うん」
卯月「私にはそれしかないから……あれは全部全部作り物の私」
モバP「それは本当?」
卯月「……はい」
卯月「アイドルに憧れて、自信のない自分を隠すため…みんな卯月の笑顔はいい…卯月は普通だなぁって…私悔しくて…」ポロポロ
モバP「卯月はずっと前から、アイドルだったんだなあ」
卯月「……ふぇ…?」
モバP「どんなに悩んでも、苦しくても、辛くても、卯月の笑顔は常に輝いているんだ」
モバP「不機嫌なアイドルなんてイヤだろ?それを一切感じさせない卯月はもう、一流のアイドルさ。周りを明るくする光のような」
モバP「そもそもさ、卯月がこんなに悩んでるなんて、近くにいる奴でもほとんど気づけないぜ?お前は女優かよって」
卯月「……私なれますか、アイドルに」
モバP「もうなってるよ。島村卯月は、俺が胸を張って自慢できるアイドルだ」
卯月「褒めても何も出ませんよ?」ニコッ
モバP「約束するよ、卯月のお節介な親友含めて、お前たちをトップアイドルにしてみせる」
……凛ちゃん、私が悩んでいたこと知っていたんだ。
それでプロデューサーさんに……
そしてプロデューサーさんは、私を勇気づけるために今日……。
モバP「いい友達ができたな?」
卯月「はい!!」ニッコリ
その日から、私の笑顔は本物になった。
今なら思えるんだ。
私はアイドルだよって。
みんなに笑顔になってほしいから――
島村卯月、今日も頑張ります!
モバP「よーし、スカウトに行くぞー」
ずっとついていきますね!プロデューサーさん?
凛「CDデビュー?」
卯月「凛ちゃんが?」
モバP「ああ」
凛「……ほんとに?」
モバP「曲はこれだ。『Never say never』」
凛「……私の曲」
卯月「おめでとう!凛ちゃん!」
凛「……ありがと、卯月」
モバP「凛だけで悪いな」
卯月「そんなことないです!私も頑張りますね!」
モバP「ああ。期待してる」
振り返らず前を向いて
そして沢山の笑顔をあげる
??「へ~、カッコイイじゃん!」
ちひろ「サイン会ですか?」
モバP「そうです。某レコードショップで」
ちひろ「凄いじゃないですか!」
モバP「新人でオリコン初登場6位は驚異的なセールスでしたからね」
凛「でも1位じゃない」
モバP「知名度は上がってる。次頑張ろう」
凛「悔しいよ」
モバP「凛、デビューおめでとう」
《凛の頭を撫でる》
凛「……髪崩れる」
モバP「失礼、僕の悪い癖」キリッ
凛「……先行くから」
《照れ屋な奴め》
凛「ねぇ、プロデューサー?」
モバP「うん?」
歩き出した凛が、こちらに振り返る。
凛「私がここまで来られたのも、全部プロデューサーのおかげ」
凛「ずっと…隣にいてね?ふふっ、これからも一緒に頑張ろうね」
一瞬で真っ赤になる凛。
凛「…は、話はおしまい」
もう言うことはないと、渋谷凛は今度こそ歩き出した。
モバP「……可愛い奴」
スタッフ「これより、渋谷凛のサイン会を開始しまーす」
RINだ!
本物だ!
歓声が響く。
新人とは思えない熱烈な歓迎。
《人が集まらなくて凹む凛を、どう宥めるか、朝からずっと考えていたのが全て杞憂に終わったようだ》
《運にも恵まれた》
《あとは機会だ》
《せめてあと一人は欲しい》
??「うわー!本物のしぶりんだぁ♪あ、ねぇねぇ、私、私、しぶりんのファン第1号だからね!!」
突然台風のように現れた少女を前に、無表情で困惑する凛。
スタッフがこちらを窺う。
凛「ごめんなさい。私のファン1号は、私のプロデューサーだから」
??「そうなんだ?じゃあ2号でいいよ?」ニッコリ
《素直だな》
凛「2号は卯月。デビューはまだだけど、いつかトップアイドルになる子。ちなみに私も卯月のファン」
《本人に言ってやれよ。泣いて喜ぶぞ》
??「卯月ちゃんか。会ってみたいなー」
モバP「なら3号はどうだ?」
《いい加減割って入る》
凛「親とかハナコとか友達とか?」
モバP「適当だなおい」
??「え?私は?」
凛「てか誰?」
《ファンへの接し方を教育し直す必要がありそうだった》
??「本田未央ちゃんでーす!最近ハマってるものはねぇ、しぶりん!」
凛「あ…ありがとう」
凛はプルプルしていた。
《あれは絶対苛ついてるな》
《しぶりんて……渋谷凛だからか……》
??「本当にしぶりんの歌、好きだから」
本田未央の不意打ちのような言葉で、凛は一瞬固まる。
凛「……うん。ありがとう」
機嫌が良さそうだ。
誉め殺しは凛にも有効であった。
《調子いい奴》
未央「私もなりたいんだ。トップアイドルってやつ。みんなが憧れるような?私一部の奴から、よくウザいって言われたりするから見返したいし」
スタッフ「そろそろ時間です。次の方に譲ってください」
未央「あっ……すみません」アセアセ
モバP「ねえ、君。今時間ある?」
未央「はい!ありますけ……ど?」
モバP「俺、凛のプロデューサーやってる者だけど、よかったらここで見てく?」
未央「いいんですか!?」
モバP「アイドル目指してるんだろ?」
未央「はい!めっちゃ目指してます!」
モバP「凛の姿見とけよ、ファン3号」
未央「やったぁ!」
凛のサイン会は何事もなく終了した。
《多少無愛想な部分も、クールな凛を望むファンにはプラスに映るらしい》
凛「お疲れ様プロデューサー」
モバP「凛もお疲れ」
未央「しぶりん、かっこよかったよ!」
凛「……なんであなたが?」
未央「ファン3号だし♪」
凛「いや認めてないし」
未央「ひどっ!」
凛「卯月がいいって言ったら認めてあげる」
未央「そんなあ~」
凛「ふふっ」
《凛がクールタイプで、卯月がキュートタイプとするなら》
《未央は差詰めパッションといったところか》
モバP「凛、彼女は今日からウチのアイドルとなる本田未央だ」
未央「はぃい!?」
モバP「トップアイドル目指すんだろ?」
未央「いいの?」
凛「また勝手に……」
モバP「大丈夫だ、問題ない」
未央「いぃぃやったぁぁぁぁ!!」
凛「なら、改めて。私は渋谷凛、同じCGプロ所属のアイドル。よろしく、未央」
未央「しぶりん!うん!よろしく♪」
凛「しぶりんはやめて」
未央「しぶりんはしぶりんだよ♪」
モバP「さて、帰って契約の話だ。スカウトばかりじゃちひろさんが煩いから、未央は応募という扱いでいいな?御両親の了解が得られなかったら諦めろよ?」
未央「大丈夫だよーっ!!本田未央15歳。高校一年生ですっ!元気に明るく、トップアイドル目指して頑張りまーっす!えへへ。今日からよろしくお願いしまーす♪」
凛「調子いいんだから」
《765プロに代わる新たな……次世代アイドル》
《……ニュージェネレーション》
《渋谷凛、島村卯月、本田未央》
《タイプはバラバラだが、こいつらならきっと成功する》
《俺の勘が告げてる》
《だがまだ早い》
《今は個の力を磨かせよう》
《この三人でやっていけるか、今は試すときだ》
未央「あ、しまむー、一緒にお昼食べよう♪」
卯月「いいですよ。凛ちゃんも呼びましょうか」
未央「そだね。やっぱりしぶりんがいないと」
未央が加わって一月が経過した。
三人はすっかり打ち解けたようで、プライベートも共に遊んだりしているらしい。
今はこのままでいいだろう。
未央「しぶり~ん」
私は本田未央。
友達は多いほうだと思うよ?
でもさぁ、常にテンションが高いとかうざいとか
私を嫌っている奴も結構いるんだ。
アンチだね。私アンチ。
悔しいなぁ。見返したい!
それがアイドルになりたいと思った切っ掛けだった。
テレビとか映画とか雑誌の影響力って凄いじゃん?
そんで、私が有名になったらアンチ私のクラスメートもビビるっしょ?
うぜーアイツが有名人様になって登場。
それで某掲示板にあることないこと悪口書きまくり。私のテンションも急降下。
そんな未来は嫌だけど。だからって逃げたりしない。
本田未央は身近に感じる騒がしいアイドルでいい。
ファンも友達みたいに接してくれてさ。
今はまだ夢物語だけど。人気出たらいいなぁって思う。
私の悩みはある意味贅沢だ。
P「小さな仕事だが、田舎でライブやるぞ」
レッスンだけの日々はおしまい。
未央「さぁ、お仕事いこっ!」
はじめの一歩を、私は迷わず踏み出した。
「すたじおズブリ最新作、海の底のカモシカ」
「カモシカ役に現在売り出し中で人気急上昇中の若手アイドル、渋谷凛を起用!」
「声優初挑戦となりますが、収録の感想は?」
凛「アフレコは実際に演じるより大変でした。やっぱり経験不足を痛感しましたね。私は一人別録りだったので収録中は寂しかったです」
「お一人で収録したんですか?」
凛「え?スタッフや演技指導の方はいました。あと私のプロデューサー……マネージャーも兼任してるような人なんですけど、彼が付き添ってくれたので不安はなかったです」
あたしはTVのチャンネルを切り替える。
奈緒「アイドルとか芸能人が声優やるのやめてほしーよな」
奈緒「ズブリはちゃんと声優使ってくれよ」
あたしは不機嫌さを隠す気もなく、アニメのBDをセットする。
奈緒「劇場版薄桜鬼ング一章最高だろ……。原作知らないけど短い尺でよくまとまってるよ……」
あたしは熱いアニメが好きだ。
今日もあたしは燃えている。
千葉より愛をこめて
こんにちは
事務所
モバP「ちゃんと話せてたぞ」
凛「プロデューサー。私は自分を偽るのはいけないと思うんだ。特に最後」
回想『みんな劇場に観に来てね♪』ニコッ
凛「台本でもあれはないよ……。何がクールな凛さ。ああいうのは卯月の役割だよ……」
卯月「でもでも、クールじゃない凛ちゃんも可愛かったよ!」
未央「いやぁ、最高だったよ♪しーぶりーん!「劇場に観に来てね♪」」
凛「やめて」
フリカエラズマエヲムイテ~♪
モバP「おっ、妹から電話だ」
凛「妹いたの!?」
未央「衝撃的事実発覚♪」
卯月「静かにしないと駄目だよ?」
モバP「はい。お兄ちゃんだけど」
凛「うわぁ……」
未央「いつもならクールに流すしぶりんが、マジで引いてる!」
モバP「映画?アニメ?ああ、一緒に海の底のカモシカ行きたいって?……えっ?違うの?薄桜鬼ング第二章?」
凛「なにそれ」
未央「スマホで検索」
卯月「あ、YaPoo!映画」
未央「はくおうきんぐ」
卯月「出てきた」
未央「なにこれ新撰組?」
卯月「妹さんこういうの好きなんだ。あっ、765プロの三浦あずささんが、ドス持って大暴れだって」
凛「プロデューサーと一緒に映画か……悪くないね」
モバP「いや、お兄ちゃん最近すっごく忙しくてな?」
未央「スカウトしながらプロデューサー兼マネージャーだもんね♪」
卯月「凄いですよね、プロデューサーさん」
凛「これは……プロデューサーにゆっくりしてもらうチャンスなんじゃ……」
未央「と、それっぽい理由を掲げてデートがしたいしぶりんなのであった♪」
凛「違うって」
卯月「凛ちゃん、正直になろう?」
凛「二人といると私のキャラ崩壊しそう……」
モバP「わかったって!兄ちゃんが悪かった!必ず行くよ…うん…絶対!お兄ちゃん奮発しちゃうから!」
未央「押しに弱っ」
凛「妹……ね。私はプロデューサーの相棒だし。一緒に夢を目指すって誓った仲だし」
未央「なんで妹相手に嫉妬してんの!?」
卯月「プロデューサーさんの目と、カメラのないとこだと意外とワガママだよ、凛ちゃん」
未央「いつもカッコイイのに」
卯月「プロデューサーさんの視界に入ってるときはクールなんだよね?…冷たい的な」
凛「う……」
未央「あー、わかる♪「…別に」とか言って裏で一人であわあわしてるタイプだ!」
凛「お喋りは終わりだよっ。私たちには大事な仕事があるんだから」
未央「あ、逃げたぁ」
卯月「逃げたね」
凛「怒るよ?」
未央「えへへ…ごめーん♪」
卯月「許して♪」
凛「……気にしてないから」
モバP「じゃあ今週末な!……ふぅ……」
凛「プロデューサー。仕事中は私用の電話は控えた方がいいよ?」
モバP「ごめんな」
未央「プロデューサーって妹いるんだ?」
モバP「まあな。って言っても血の繋がりとかは一切ないんだが」
凛「…………」ゴゴゴゴゴ
未央(無言の圧力!?なに?私が聞くの!?)
卯月「義理の妹さんですか?」
未央(しまむーGJ!)
モバP「そうだな。奈緒の…妹の御両親とうちの両親が仲良くてさ。向こうの御両親が数年間海外出張に出て、うちがしばらく娘さんの身元を預かることにしたんだよ」
未央(どの辺が妹?)
凛「一緒に住んでるの?」
モバP「いや?俺は一人暮らしだし、奈緒も学生だから通学のために自分の実家にいるよ」
卯月「東京にいるんですか?」
モバP「千葉だな」
未央「あ、なるー」
凛「プロデューサーの実家は?」
モバP「それは秘密」
未央「けちー」
モバP「とっぷしーくれっとです」
未央「四条さんかい!」
モバP「最近まで入院しててさ。まあ、骨折なんだけど」
卯月「え?大丈夫だったんですか?」
モバP「寝惚けて階段から落ちたんだよアイツ」
未央「あはは……」
モバP「すっかり治ったから退院祝いにな」
凛「ねぇ、プロデューサー」
モバP「うん?」
凛「映画、行くんだよね?」
モバP「そうだな」
凛「私も一緒に行っていい?プロデューサーの妹にも会ってみたいしさ」
卯月「私も会いたいです!」
未央「……私は今週末は無理かなー。プロデューサーが仕事入れちゃったしー」
未央(二人とも鼻息荒いよぉ~。どう考えてもデート妨害じゃん)
モバP「ああ、制服グラビアな」
未央「そぅそ♪」
モバP「付き添えなくて悪い」
未央「いいよ。プロデューサーに休みないの知ってるし。たまにはゆっくりしてよ」
モバP「ありがとう、未央」
未央「お土産よろしくね♪」
モバP「はいはい」
凛「プロデューサー、場所とかはあとで連絡して」
モバP「おいおい、一緒に行くとはまだ言ってないぞ」
凛「迷惑なら言って。プロデューサーを困らせるつもりはないから」
卯月「そうですよ。やっぱり妹さんと二人きりでお話したいですよね?」
未央「いや、ちょっと待とう。プロデューサー、その子って親が身元預かってる女の子だよね?」
モバP「うん」
未央「それ妹なの?世間では知り合いの娘さんって言うんじゃ……」
凛(未央が真面目にツッコミ入れてる)
モバP「兄貴って慕ってくれてさ。昔から妹みたいな奴なんだ。凛も卯月も一緒に来るなら仲良くしてほしい」
凛「わかってる。問題ないよ」
卯月「楽しみです!」
未央(修羅場にならなきゃいいけど……)
週末 喫茶店
奈緒「アニキ!こっち!」
モバP「よっ、久しぶり」
奈緒「来てくれてよかった」
モバP「妹のお願いだしな」
奈緒「い…妹じゃねぇし…!あたしはその…舎弟みたいなもんだろ?」
モバP「妹だよ。奈緒は俺の大事な妹だ」
奈緒「アニ…兄さん……」
凛「……ねぇ、プロデューサー。私たちを無視していつまでイチャイチャしてるつもり?」
卯月「凛ちゃんの強力なライバル登場だね」
奈緒「あーっ!アンタ、渋谷凛だろ!?」
凛「そうだけど……え?プロデューサー……」
モバP「……悪い。お前たちのこと伝えるの忘れてたわ」
卯月「酷いです!」
凛「うっかりしすぎだよ……」
モバP「こちらは俺が担当してるアイドルの渋谷凛と島村卯月。で、こっちが俺の妹分の神谷奈緒だ。奈緒には今日来るって伝えてなかったな、すまん」
凛「よろしく」
卯月「よろしくお願いしますね!」
奈緒「ああ…こっちこそよろしくな?」ニカッ
モバP「めでたしめでたし」
凛「めでたくない」
奈緒「結果オーライって言うんだぜ?」
モバP「面目ない」
店員「こちら、お水です」
モバP「あ、注文はコーヒー一つと」
凛「…わ、私もコーヒー……コーラで」
卯月「オレンジジュースにします」
奈緒「もう頼んだ」
モバP「コーヒーとコーラとオレンジジュース。あと特製パフェ3つ」
加蓮「それとミルクティーにチーズケーキ一つ」サッ
奈緒「やっと来たか」
モバP「え?」
店員が注文を繰り返す。注文に誤りはないと、忙しそうに去っていった。
加蓮「ねぇ奈緒、この人?」
奈緒「ああ。どっかの芸能事務所でプロデューサーやってんだ」
卯月「どっかの……」
凛「プロデューサー……」
モバP「……んな呆れた顔すんなよ……アイドルのプロデューサーやってるしか言ってないんだからさ」
凛「まあいいけどね」
卯月「プロデューサーさんって仕事以外だとわりと適当ですよね」
奈緒「……アニキごめん!今日誘ったのは映画のためじゃないんだ!」
モバP「はぁ…説明してくれるんだろうな?」
加蓮「アタシが奈緒に頼んだんだ。お兄さんが芸能事務所のプロデューサーって聞いて、一度会ってみたいってさ」
モバP「君は?」
加蓮「アタシは北条加蓮って言います。奈緒とは病院で知り合いました」
奈緒「加蓮はずっとアイドルに憧れてたんだ!でも体が弱くて諦めるしかなかったんだって」
モバP「病院で?」
加蓮「…風邪で熱出してさ。親が要心のため病院行けって。で、病院の売店で車椅子の奈緒に会ったの」
奈緒「あたしも暇だったし、なんか意気投合して親友になったんだ」
モバP「アイドルになりたいならさ、シンデレラガールズには応募した?」
加蓮「…体力ないの、昔入院してたから」
奈緒「わかってんだよ!現実には難しいって。だから…芸能業界にいるアニキなら相談に乗ってくれるって」
モバP「あんまりコネとかよくないんだけどね……でもそういうコネが大切な業界でもあるんだよな」
加蓮「まさかCGプロのプロデューサーだったなんて……」
奈緒「CGプロ?まあ、あたしには何が凄いのか全然わからないけどな」
凛「うん、嫌いじゃないよ。あなたみたいな人」
奈緒「お?そうか?あー、その……悪かったな、渋谷凛」
凛「え?なにが?」
奈緒「アンタのことさ、道楽で声優もどきやってる糞アイドルとか思ってた」
凛「……ちょっと効いたかも……」
卯月「凛ちゃん!」ダキッ
加蓮「うわ…ぁ…」
奈緒「ほら、ズブリのアニメって下手クソな俳優とかアイドル使うじゃん?あたし詳しくないから、合わない仕事引き受けんなよーとか思っちゃうんだ」
モバP「すまん、凛。許してくれ」
凛「いや…いいよ……プロの声優と比べたら私なんてね……。奈緒も不快にさせたならごめん」
奈緒「……あ、名前。そっか!そっかぁ。いやぁ、アンタ…凛のこと勝手に誤解してたよ!TVだとさ、なんかよく難しい顔して生意気なこと言ってんじゃん?性格悪そうだなって思ってたんだよね」
凛「……誤解が解けてよかったよ」
卯月「死者に鞭打つってやつだね」
加蓮「奈緒の無邪気な笑顔が怖い」
凛「私、奈緒とは気が合うと思う」
奈緒「あたしもだ。今日から友達だな」
凛「だね」
加蓮「は?流れの意味わからないんだけど」
卯月「喧嘩するほど仲がいい?」
加蓮「それ絶対違う。奈緒が一方的に渋谷凛さんをサンドバックにしてた」
凛「奈緒は素直なんだよ。思ってること言えるんだ。なんかそういうの良いと思う」
奈緒「これからは応援するよ。カモシカは観るまで評価できないけどな!」
凛「ありがと。いっそ奈緒もアイドルになったら?」
奈緒「あたしにアイドルなんて無理だって」キャッキャウフフ
モバP「友情だなぁ」
加蓮「……似た者同士」
卯月「加蓮ちゃんはアイドルになるつもりはあるの?」
加蓮「なりたいって思う。ずっと昔から夢見てた。でも無理かなぁ……」
モバP「やってみないとわからんぞ。諦めたらそこで、アイドル終了だからな」
加蓮「あはは、なにそれ」
加蓮「レッスンとかさ……、アタシほんと体力ないから」
モバP「俺がコーヒーを飲み終わる前に決断しろ」
モバP「妹の頼みだしな。アイドルになりたいなら俺が無条件でプロデュースしてやる。きっとこれが唯一にして最後のチャンスかもしれない」
加蓮「えー、はやいよ」
モバP「人生そんな甘くない」
卯月「今は加蓮ちゃんがどうしたいかだけを考えてみよう?」
加蓮「アタシがどうしたいか……」
身体が弱くて寝たきりだった昔の私。
ほとんど未使用の携帯ゲーム機。
あの頃はスマホなんて便利なものは無かった。
子供たちが元気に外で遊んでいるときも、私の友達は病室のTVだけ。
幼い私が特に興味を持ったのは、ステージの上で踊るアイドルたち。
綺麗な衣装を着て、楽しそうに歌う彼女たちを見て
『私もあんな風にステージに立てたら』って
今よりずっとずっと私は女の子だった。
当然か。
可愛くなりたい。
そうやって自分を磨くのは、男の気を引くためじゃない。
そっか……
私……心だけはアイドルでいたかったのか
『無理だよ。私はアイドルになれるほど強くない』
『心だって脆い』
『夢は叶わない』
『アイドルなんて私には無理』
『どーせ迷惑かけるだけじゃん』
奈緒『あたしの兄さんみたいな人が芸能事務所でプロデューサーやってんだ』
偶然の話題から飛び出した一言が…私を動揺させた。
奈緒『大手かどうかは知らないけどさ。兄さん自身は信用できるから』
会ってみたいなんて
どうして今更口にしたんだろう?
そんなのはっきりしてる。
『私の心はまだ諦めてないんだ……』
奈緒『加蓮なら絶対なれるよ』
そんなの無責任じゃない?
でも、心の奥底で、奈緒との出会いに運命を感じている自分がいた。
私は身体が弱い。
でも……本当に問題があるのは……それに逃げ続けてきた、中途半端な私の心なんだ。
アイドルは大変そう。挫折するくらいならやらないほうがいいよ。
??「あたし、アイドルになるよ」
えっ?
ありえない声を聞いた。
凛「奈緒となら、私は頑張れると思う」
奈緒「でも条件がある。加蓮の奴が、あたしたちと一緒にアイドルやること」
奈緒「あたしはあたしのために、あたしの親友を支えたいんだ。加蓮が一人で倒れそうになったら、あたしが加蓮の足になるよ」
凛「私も手伝うよ。奈緒一人じゃキツいだろうし、ね?」
奈緒「凛……」
なにを……言っているの……?
凛「これで加蓮を支える足は増えた。あとは、加蓮の足で立ち上がるだけ…だよ?」
出会ったばかりの人たちに、一体なにができるの?
卯月「私も協力しますね!」
凛「心強いよ」
モバP「加蓮、君はかなり恵まれている。アイドルになる前から、もうこんなにも強力な仲間がいるんだ」
加蓮「どうして……?」
奈緒「なりたいんだろ?アイドルにさ。あたしって単純でバカだから、友達のためにできることなんて、これくらいしかないんだ」ニカッ
奈緒の笑顔に、私がかつて憧れたアイドルの面影が宿る。
そっか。
見てみたいな。
神谷奈緒がどこまでいけるのかさ。
彼女はきっと輝ける。
そしてそのとき、奈緒の隣にいるのが私だったら……
加蓮「ズルいよ……。そんなこと言われたら断れないじゃん」
幸せかなって
素直じゃないね、私。
凛「それも計算」
奈緒の隣に渋谷凛が並ぶ。
訂正だね。
凛と奈緒と私と。
三人で輝きたい。
モバP「北条加蓮。君には才能を感じました。スカウトしたいのですが、今お時間よろしいですか?」
悪戯っぽくニヤけるプロデューサー。
だから私も……
加蓮「アンタがアタシをアイドルにしてくれるの?でもアタシ特訓とか練習とか下積みとか努力とか気合いとか根性とか、なんかそーゆーキャラじゃないんだよね。体力ないし。それでもいい?ダメぇ?」
苦笑するプロデューサー。
奈緒は大笑い。
モバP「次に奈緒……神谷奈緒さん。お前に才能を感じた。スカウトしてやるからアイドルになれ」
奈緒「は、はァ!?な、なんであたしがアイドルなんて…っ!てゆーか無理に決まってんだろ!べ、べつに可愛いカッコとか…興味ねぇ…し。きっ、興味ねぇからな!ホントだからなっ!!」
えーっ!?
断っちゃったよ!
奈緒の肩に手を乗せる凛。
凛「この流れでさ、その照れ隠しは無理があるでしょ」
卯月「ないと思います!」
加蓮「ありえないよね」
奈緒「なんだよ!皆してさ!だって!だってさ!今になって考えたら、…アニキにプロデュースしてもらうとかさ!は…恥ずかしいんだから……」
加蓮「乙女か!」
今日、私に一生ものの親友ができた。
奈緒、凛、卯月
この三人と私、きっと死ぬまで腐れ縁が続くんだろうなぁって
加蓮「ネイル新しくしようかなぁ」
そんな関係ないことを考えながら、私のアイドルとしての物語が始まった。
私たちの戦いはこれからだ!
序・結成編おわり
いつの日かまた
破・大集合編で!
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