上条「出て行けよ、インデックス」 (131)
※胸糞注意なんだよ!
始まりは、とある小さな諍いからだった――
禁書「はふっはふっ」ガツガツムシャムシャ
禁書「とーまおかわり!」クイッ
上条「インデックスさん……もう上条さん家の炊飯器は空っぽですのことよ……」
禁書「はぁ~? そんなこと知らないかも!」
禁書「炊飯器が空なのはとうまが私の食欲を見くびったせいかも! だからとうまが悪いんだよ!」
禁書「わかった? わかったらさっさとご飯を用意するんだよ!」
上条「はいはい、今炊き直しますよ……」
禁書「炊き直す? そんな時間はないかも!」
禁書「そんな悠長なことをしてたらおかずが冷めるんだよ! とうまはそんなこともわからないの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
禁書「レンジご飯があったでしょ? アレば使えばいいんだよ! やっぱり私って天才かも!」
上条「いや、でもあれは非常用の……」
禁書「あーもー! グズグズしないで早くするんだよ!」
禁書「そもそもとうまがこんな粗末なおかずしか用意してないから私はごはんで補って我慢してあげてるんだよ?」
禁書「そんな寛大な私の温情にとうまは甘え過ぎかも!」
上条「」カチン
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不幸なことに、今日の上条当麻は疲れていた
理不尽なほどに長い補習、帰り道に突如として現れた魔術師との戦闘、そしてそのせいでまたも逃したタイムセール
そんな中でも彼はインデックスを思い有り合わせの材料ながらに工夫をして料理を作った
それを、”粗末”呼ばわりされたこと
その言葉は上条当麻の逆鱗を撫ぜ、普段は口にすることもないような言葉を彼の口から放たせる
上条「……じゃあ自分で作ればいいじゃねえか」
禁書「はぁ? とうまは私が電子レンジを使えないってことをもう忘れたのかな?」
禁書「やっぱりとうまは”感謝”ってものが足りてないんだよ」ヤレヤレ
『はぁ?』
そう言いたかったのは他でもない上条当麻自身だっただろう
『感謝?』
朝飯が足りないとグズる誰かさんを相手していて通算50回目の遅刻記録を達成し、お仕置きのすけすけみるみるを延々やらされていたのも
多方からの魔術師の刺客が上条当麻を狙うようになったのも
上条家がタイムセールに縋らなければ食っていけないほどにエンゲル係数を上げているのも
一体、誰のせいだと思っているのか
上条「感、謝?」ギリッ
禁書「そうなんだよ、感謝」
禁書「10万3000冊の魔道書を記憶する有能な美少女の私が、”無能力者”のとうまの家にいてあげてる事自体が主の齎した奇跡かも!」
プツン、と
上条当麻の中で何かが切れる音がした
学園都市に住む者なら誰しもコンプレックスに思う能力レベルの低さ
ことレベル0の無能力者である彼も、その例外ではなかった
インデックスは完全に、上条当麻の心の領域に土足で踏み入れたのだ
バンッ!
禁書「!」ビクッ
禁書「な、なにかなとうま、机を叩いたって――」
上条「……な」
禁書「え?」
上条「じゃあ無能力者の作った粗末な飯なんざいらねえよな!!」ガシャン
禁書「あーっ! 私のご飯……とうま、いくらなんでも悪ふざけがすぎるかも!」
上条「お前にはほとほと愛想が尽きたよ……もう俺はお前のための生活費は一切払わねえからな」
上条「水も電気もガスも! 一切使うんじゃねえ、もちろん食事もやらない」
上条「腹が減ったらてめえの糞でも食ってろ」
禁書「はぁ!? そんなの無理なんだよ!!」
上条「無理だぁ? お前は『10万3000冊の魔道書を記憶する有能な美少女』なんだろ? そんくらいお得意の魔道書でどうにかしてみろよ」
禁書「とーうーまー? いい加減私も怒るんだよ?」ガチッガチッ
上条「…………」
禁書「さっさとご飯を返すんだよー!」ガブー
――パァン!
禁書「えっ……?」
いつもの肉に歯が食い込む感触がない
その代わりにインデックスの頬にじんじんとした痛みが残った
禁書(――とうまに、ぶたれた?)ポロポロ
上条「理屈で敵わないとなったら暴力に訴える、か」
上条「ホンット、救いようがねえよ、お前」
上条「さっき言ったことが出来ないなら即刻、ここから出て行ってもらうから」
禁書「――!」キッ
禁書「かおりに言いつけてやるー!」ダッ
上条「……チッ」
上条「――うぜえ」
――――
神裂「……それで」
神裂「インデックスの言っていたことは本当ですか?」
神裂「あなたがインデックスに食事を与えていないというのは」
上条「今日の晩飯を半分取り上げただけだ」
禁書「今更とぼけたって遅いかも、私はしっかり聞いたんだよ!」
禁書「とうまが『食事もやらない』って言ったのを!」
禁書「今は大丈夫でもそう言った以上将来的にとうまが私にご飯をくれない可能性が高いんだよ!」
神裂「……と、彼女は言っていますが」
上条「……あのさあ、神裂」
神裂「はい?」
上条「そもそも俺にこいつを扶養してやる義務なんてあるのか?」
禁書「え……?」
上条「半ば勝手に住み込んで散々生活費を貪り、何もせず日ながゴロゴロ」
上条「そんな”穀潰し”に今までせっせと餌を与えてきた今までのほうが異常なんじゃねえか?」
神裂「それは……」
上条「だから簡単な話だ」
上条「俺は正気を取り戻した、だから俺はインデックスを養育しない、インデックスはお前らイギリス清教に連れられて帰る、ハイ終わり」
上条「念のため聞くが何か問題でもあるか?」
禁書「うっ」ズキ
禁書「で、でも私といていいこともあったはず、なんだよ」
上条「ひとつもない」
禁書「えっ」ズキッ
神裂(インデックス……それでもあなたは上条当麻と……)
禁書「そ、そうだ! かおり、とうまは私のことをぶったんだよ!」
神裂「!?」
禁書「そのせいで私の純粋な心と体はズタズタに傷つけられたんだよ!」
禁書「これは責任をとってとうまは私を養い続けるしかないかも!」
神裂「それは真ですか? ……上条当麻」キッ
上条「……ああそうだ」
神裂「あなたは――」
上条「だがな」
シュルッ
上条当麻が右手に巻かれていた包帯を解く
そこから現れたのは無数の傷跡――詳細に述べるならば、それは、噛み痕だった
神裂「!! それはまさか――」
上条「ああ、そのまさかだよ神裂」
上条「そこの穀潰しに再三噛まれた傷跡だ」
上条「おいインデックス、お前俺にぶたれた頬見せてみろよ」グイッ
禁書「ふぎゅっ」
上条「ちょっと痛かっただけで痕も残ってねえよな」
上条「だが俺はお前のせいで包帯で隠さなきゃいけねえほどの傷が残ってるんだよ……!」ギリッ
上条「なあ神裂、この仕打ちに対して俺の行為は正当防衛にも満ちてないと思うんだが……お前はどう思う?」
神裂「うっ……しかし、女性の顔に手を上げるなど――」
上条「ぷっ――はっはっはっはっ!」
神裂「!」ビクッ
上条「『女性の顔に手を上げるなど言語道断』? こりゃ傑作だな! はっはっは!」
神裂「な、何が可笑しいのです上条当麻!」
上条「お前、よくそんなこと言えるな、散々俺に女の子を殴らせておいて」
上条「アニェーゼ、オリアナ、ヴェント、キャーリサ……」
上条「そいつらは別に良くてインデックスは駄目だってのか?」
上条「そもそも魔女狩りだの何だので女性蔑視を繰り返してきた」
上条「てめえらイギリス清教が言えた話しじゃねえだろうが!」
神裂「それは……」
上条「それにインデックスの顔がどうしたってんだ?」
上条「インデックスは魔道書の保管庫として機能すればいいんじゃなかったのか? なら別に顔なんて大した問題じゃねえだろ」
上条「違うか? 違わねえよな? お前らは今までそうやってインデックスを扱ってきたんだからよ」
上条「それに比べて俺の右手はどうだ」
上条「魔術、科学、双方の戦争を二回はひっくり返せる”幻想殺し”」
上条「それがこんなになるまで傷つけられてんだぞ?」ズイッ
上条「どう考えてもこっちのほうが重大な問題だろうが!!」
神裂「いや、しかし、それは……」
禁書「とうま……どうしちゃったの……?」
神裂(! インデックスが怯えています……ここは彼女を安心させるためにも強気に出なくては)
神裂「とにかく、どれだけ屁理屈をこねようとあなたがした行為は犯罪行為です」
神裂「反省の色が見られないのであれば然るべき――」
上条「へえ、俺を警察に突き出すつもりか」
上条「容疑者は高校生――そして被害者は国籍本名その他の身分不詳の少女ってな」
上条「いいのか? インデックスの存在が表沙汰になって困るのはお前らじゃないのか」
神裂「……誰が警察に突き出すと言いましたか」
神裂「私達のバックにはそれ以上の執行能力を持った『必要悪の教会』があります」
神裂「その気になれば上条当麻、あなたなど――」
上条「おう、好きにしろよ」
神裂「!!」
上条「だけどどうなるだろうな、もし”幻想殺し”を持った俺がイギリス清教との関係が破綻したと誰かが嗅ぎつけたら……」
神裂「くっ……」
上条「俺の右手を欲しがってる組織なんざ腐るほどあるからな」
上条「きっとこれを機と見て俺に取り入ろうと沢山の魔術師が手土産を抱えて上条さん家に訪れることでせうねぇ」
上条「あー、楽しみだなあ」
上条「それに比べて」ギロッ
禁書「っ!」ビクン
上条「イギリス清教が送りつけたのは何の役にも立たない穀潰し一匹だけ」
上条「こりゃー、流石の上条さんもコロッと心変わりしちゃいますよ」
神裂「……上条当麻、あなたの要求は一体何なんですか……?」プルプル
上条「おっと、勘違いしないでくれよ神裂」
上条「別に俺はお前らを脅そうだなんてこれっぽっちも思ってないんだ」
上条「なんだかんだお前らのとこには感謝するところも多いしな」
上条「それにいい目を見たいだなんて考えてないさ」
上条「報酬目当てで戦ってきたわけじゃないし」
上条「この右手を持って生まれたときから不幸なのはある程度割り切ってるんだ」
上条「ただ、さ」
上条「そんな不幸のバーゲンセールの上条さんにこれ以上」
上条「不幸のお裾分けをするのはやめてほしい、ただそれだけなんだ」
上条「神裂なら……わかってくれるよな?」ニコッ
神裂「…………」プルプル
神裂(確かに、上条当麻の言うことにも一理あります――しかし)
禁書「とうま……」
神裂(インデックスは彼と共にありたいと願っている)
神裂(私は、彼女の幸せを守ると誓った……そのためならば)
神裂(手段は選びません――!)キッ
神裂「あなたの言い分と怒りはよくわかりました」
上条「おお、それじゃあ――」
神裂「しかし、それをよく理解した上で頼みたい」スッ
神裂「彼女には――インデックスには上条当麻、あなたが必要なのです」ドゲザ
上条「…………」
神裂「この子の生活費は我々が用意します」
神裂「ですからどうか、この子をここにおいてはもらえないでしょうか……!」グッ
禁書「かおり……」
上条「……おい」
上条「頭を上げてくれよ、神裂」
神裂「! それでは!」
上条「ああ、あの神裂にここまでされて無下にできるほど、上条さんは下衆じゃありませんよ」ポリポリ
上条「神裂に免じて、現状維持ってことでいいよ」
上条「その代わり! 今度また俺に迷惑をかけたら即刻出て行ってもらうからな!」
神裂「ありがとうございます……!」
上条「俺もカッとなって言い過ぎた、悪かったよ」
上条「インデックスもごめんな」
禁書「ううん、私もわがままばっかり言ったのが悪かったんだよ」
上条「それじゃあ夜も遅いし風呂にすっか」
禁書「うん!」
上条「迷惑かけたな、神裂」
神裂「いえ、こちらこそお騒がせしました」
――――
上条「それじゃあ行ってくるぜ」
禁書「いってらっしゃいなんだよー」
上条(あれからインデックスのわがままが少し抑制された気がする)
上条(ずっとこれが続いてくれればいいんだけどなあ)
パタン
禁書「……気づかないうちに私はとうまを怒らせちゃってたんだね」
禁書「ごめんね、とうま」
――――
禁書『今日はありがとう、かおり』
神裂『いいえ、お安い御用です』
禁書『……ねえ、かおり』
神裂『なんでしょう?』
禁書『私はとうまとどう接すればいいのかな?』
禁書『私は今まで人に甘えることなんかできないまま、生きてきたから』
禁書『甘え方とかわからないんだよ……』
神裂『……インデックス』
神裂『それは少しずつわかっていくしかないでしょう』
禁書『でもこのままじゃとうまに嫌われちゃうんだよ……』グス
神裂『では、こういうのはどうでしょうか』
神裂『日頃から少しずつ感謝の気持を言葉なり行為なりで彼に伝える、というのは』
神裂『あなたが上条当麻に感謝しているということがわかれば彼もきっと喜ぶでしょう』
禁書『そうだね……やっぱりかおりは頼りになるかも!』
神裂『ふふふ』
――――
禁書「よし、今日はかおりに言われた通りとうまに感謝の気持を伝えるんだよ!」
禁書「そのためにまず普段しないお手伝いをするんだよ!」
禁書「となれば手始めに朝ごはんの洗い物をやるのが一番かも」
禁書「たしかこれをつけてゴシゴシ……」アワアワアワ
禁書「ふふーん♪私の手にかかれば洗い物なんてちょろいんだよ!」ワシャワシャ
ツルッ
禁書「あっ」
禁書「うわああああ!」パシッ
禁書「はぁはぁ……危なかったんだよ」ドキドキ
上条『今度また俺に迷惑をかけたら即刻出て行ってもらうからな!』
禁書「…………」ゾクッ
・・・
ピカーッ
禁書「よし、お皿洗いは完璧かも!」
禁書「家事って大変だけど難しいことではないんだよ!」
禁書「この調子で部屋の掃除もちゃちゃっとやるんだよ!」フンス
皿洗いが上手くいったことで調子に乗っているインデックスは知る由もない
ここでやめておけば、最悪の結果は免れたであろうことを……
禁書「? ??」
禁書「掃除機が動いてくれないんだよ……」
禁書「いつもとうまはここのスイッチを押してブイーンってやってたのに……」カチカチ
禁書「うーん」
スフィンクス「にゃーん」ガコッ
禁書「? その尻尾みたいのは何かな?」
禁書「あっ! そういえば機械はみんなその尻尾を壁の穴に刺してあるんだよ!」
禁書「ここに……」ガチャ
ブウウゥゥゥゥン
禁書「動いたんだよ! スフィンクスのお手柄かも!」
スフィンクス「かまへんで」
禁書「よいしょ、よいしょ……」ウィンウィン
禁書「掃除機は重くてかけるのが大変なんだよ」
禁書「ふぅ……寝室はこれで綺麗になったかも!」
禁書「あとはリビングを一気に掃除するんだよ!」
スフィンクス「にゃーん」トコトコッ
禁書「あ、スフィンクス、待つんだよ! 吸い込んじゃうぞー!」トテテ
スフィンクス「んなーご」
ビンッ
禁書「あれっ?」
掃除機の電源コードが限界まで伸びきり、本体がそのまま止まる
掃除機の重さを支えきれないインデックスの貧弱な身体は駆けていた勢いをそのままに前のめりに倒れた
ドンッ!
禁書「ぷぎゃ!」
禁書「うぅ……いたた――」
パリィン
禁書「――えっ」
禁書「ち、血が……!」ドロォ
――――
上条「はぁ~今日が振替休日だなんて初めて聞きましたよ……」
上条「不幸だ……早起きし損じゃねえか」
上条「インデックス、さっき出てったとこだけどただいま――」
パリィン
上条「!?」
ダダッ
上条「おいインデックスなにが――」
唖然
上条当麻は一瞬、眼前の悲惨な光景にあんぐりと口を開けて呆けることしか出来なかった
横転した掃除機
落下して粉々になった花瓶
そのすぐ横で悶える居候
少しして我に返った上条当麻は現場に足を運びしゃがみ込む
上条「おい……」
禁書「とうま、血が出て――」
上条「――何してくれてんだよインデックス」
上条「花瓶、割れちまってるじゃねえか」
禁書「むっ、とうまは私よりもそんな花瓶のほうが大事なのかな!?」
上条「”そんな”……花瓶?」ユラァ
禁書「えっ」
上条「これは御坂妹が絶対能力進化計画が中止になったお礼ってことで俺にくれた大切な花瓶なんだ」
上条「不幸な俺の生活に少しでも潤いができるようにって」
上条「俺に不似合いな高いこの花瓶を綺麗な花と一緒にくれたんだ……」
上条「それなのにッ!」ガシッ
禁書「ひぃっ!」
――とうまに胸ぐらを掴まれている
インデックスが生まれて初めて感じた、上条当麻からの敵意、悪意
しかし先日のような怒りは彼の表情にはなく
むしろ、今にも泣き出しそうなほど悲しそうな顔をしていた
上条「お前はそれを割っておいて”そんな花瓶”で済ませるのか!? なあオイ!」
上条「命がけで助けてやっても感謝の一つもないお前が!」
上条「御坂妹がお礼でくれた花瓶を蔑ろにする権利なんかねぇだろ!?」
上条「なあ、お前は俺に恨みでもあんのかよ……なあ……」
禁書「ちがっ……私はただ……」
上条「――もうたくさんだ」
上条「出て行けよ、インデックス」
禁書「ッ!!」ズキッ
禁書「いやだよ! 私はとうまと――」
上条「出て行けっつってんだよッ!!」
上条「もうこれ以上、お前の顔を見ていると自分でも何するか分かんねえんだ……」
上条「俺が本気でキレる前に……頼むから消えてくれ」
禁書「うぅ……わかったんだよ……」
禁書「今、荷物をまとめてくるんだよ……」
上条「あと、こいつも連れて行け」
スフィンクス「にゃお?」
上条「元々はお前が飼いたいって言い出した猫だ」
上条「うちにいたずらに居候を置いておく余裕はないからな」
禁書「スフィンクス……うぐっ、ぐすっ……」
上条「…………」
禁書「えへへ、追い出されちゃったね、スフィンクス」トボトボ
スフィンクス「にゃー」
禁書「とうまのあんな顔、初めて見たんだよ」
禁書「私、嫌われちゃったかも……」グスッ
禁書「手も切っちゃって血が止まらないんだよ」
禁書「それでもとうま、心配すらしてくれなかった……」
禁書「うっ……うえぇぇぇ……」ボロボロ
スフィンクス「にゃーん」ペロペロ
禁書「……慰めてくれてるの?」
スフィンクス「みゃお」スリスリ
禁書「ありがとう、スフィンクスは優しいんだよ」グゥゥー
禁書「あっ」
禁書「お腹……空いてきたんだよ」
禁書「でも食べるものなんかないし、お金も……」
禁書「そうだ! 小萌の家に――」
禁書「……駄目なんだよ、そんなことしたらまたとうまに迷惑をかけちゃう」シュン
禁書「私はどうすれば――」
上条「――――!」
禁書「はっ!」コソッ
禁書(やだ、どうして私隠れちゃったんだろ)
禁書(あれはとうまと……クールビューティー?)
上条「――――!」ドゲザ
禁書(そういえばあの花瓶は御坂妹がどうとかとうまは言ってたんだよ)
禁書(……とうまは私なんかよりもクールビューティーのほうがいいのかな……)ズキッ
御坂妹「――――」
上条「――――」
禁書(うぅ、声はよく聞き取れないんだよ……)
バチンッ!
禁書(――えっ?)
禁書(クールビューティーがとうまに……ビンタ?)
御坂妹「――――」
上条「――――!」ダッ
禁書(あ……とうま行っちゃったんだよ)
禁書「ふ、ふん、いい気味かも!」
禁書「私を追い出すからバチが当たったんだよ!」
禁書(でも――)
禁書「クールビューティーが余計なことをしなければ私がこんな目に遭うこともなかったかも」
スフィンクス「にゃ?」
空腹による苛立ち、理不尽な上条当麻からの仕打ち
そして、先ほどの光景
インデックスの心に燻っていた嫉妬心を燃え上がらせるのに必要な薪は十分だった
そのドロドロとした感情は彼女から、先程までの反省と正常な判断力を一時的に奪う
御坂妹に非はないとどこかでわかっていても、その憎悪と嫉妬を彼女に向けることを、インデックス自身も止められないでいた
禁書「そうだよ」
禁書「私よりも後にぽっと現れただけのクローンのくせに、とうまに気に入られて調子に乗っているとしか思えないんだよ」
禁書「それにさっきのとうまへの態度は何かな?」
禁書「――私なら、もっととうまに優しくしてあげられるんだよ」
禁書「絶対能力進化計画が何? 花瓶が何?」
禁書「私はずっととうまと一緒にいるのに――!」
禁書「これは少し、お仕置きが必要かも」
禁書「ふふ、ふふふふふふふふふふふふ」
――――
禁書「あ、クールビューティー!」
御坂妹「これはこれはシスターさん、とミサカは予想外の出会いに軽く驚愕しながらも会釈します」
御坂妹「ところでシスターさんは上条当麻に会いましたか? とミサカは事実確認とともに裏を取ります」
禁書「え? えーと、うん! 会ったかも!」
御坂妹「それは良かった、とミサカは安堵の表情で無い胸を撫で下ろします」
禁書「それでね、とうまがクールビューティーに用があるって言ってたから私が呼びに来たんだよ!」
御坂妹「上条当麻が? とミサカは疑問を抱きつつも大人しくついていきます」
禁書「ただいまー!」
御坂妹「お邪魔します、とミサカは礼儀正しく靴を揃えます」
禁書「ねえクールビューティー?」
御坂妹「なんでしょう?」
禁書「私の勘違いならいいんだけど……とうまと何かあった?」
禁書「ちょっととうまの様子がおかしかったから気になったんだよ」
御坂妹「ないことはないですが些細な事ですよ、とミサカは目を泳がせながらお茶を濁します」
禁書「へえ……」
禁書「じゃあ最後に聞きたいんだけど――クールビューティーはとうまのことどう思っているのかな?」
御坂妹「そうですね……強いて言うならばヒーロー、でしょうか、とミサカは意味ありげにあの日のことを回想します」
御坂妹「命を救ってくれた以上に、単価十八万の体細胞クローンである妹達の命に意味を与えてくれたのは彼ですから、とミサカは情報を追加します」
禁書「ふーん……」
禁書「じゃあリビングで待っていて欲しいんだよ♪」ニコッ
御坂妹「わかりました、とミサカは笑顔に笑顔で返します」
トッ、トッ
禁書「…………」ニヤッ
御坂妹「? これは……アニメに出てきそうな魔法陣のようなものとお見受けします、とミサカは――」チラッ
禁書「我が『dedicatus545(献身的な子羊は強者の知識を守る)』の名において行使する」
御坂妹「!?」
禁書「『喰贄の食卓(メフィストーフェレス)』」
ゴオオオオオ……
御坂妹「こ、これは――っ!?」
禁書「私の中の10万3000冊の魔道書に記された許されざる魔術のうちの一つなんだよ」
御坂妹「うっ、くっ――!?」ドタンバタン
禁書「この術式はかつて拷問に使われた恐ろしいものなんだよ、禁書の名は伊達じゃないかも!」
禁書「生命力を少しずつ吸い取られながら真綿でギュウギュウと絞められるような苦しみはどうかな?」
御坂妹「あっ、ぅっ!」ジタバタ
禁書「ふふふ、ちなみにこれは被術者の生命力を魔力に変換して発動する術式なんだよ」
禁書「だからもがけばもがくほど魔力が術式に供給されて強力になっていく、蟻地獄のようなものかも」
禁書「いいザマだね、クールビューティー」
御坂妹「ぃ゛……ぎっ……!」モゾモゾ
禁書「私からとうまを取ろうとするからこうなるんだよ?」
禁書「よりにもよって短髪の出来損ないのくせに――」
禁書「とうまに色目を使って!」ゲシッ
御坂妹「かはっ」ビクッビクッ
禁書「それに私は見てたんだよ? お前がとうまをぶつところを」
禁書「ちょっとばかり調子に乗り過ぎかも……私なんか噛み付いたってだけで追い出されかけたっていうのに!」ゲシゲシッ
御坂妹「……ぁ」ピク
禁書「惚けた顔で『ヒーロー』だなんて言っちゃって、呆れ返りすぎて開いた口が塞がらないんだよ」
禁書「とうまはね、困ってる人を見たら”誰にでも”手を差し伸べずにはいられない”みんなの”ヒーローなんだよ!」
禁書「ぷっ、もしかしてとうまが”自分だけの”『ヒーロー』だとでも勘違いしてたのかな?」ケラケラ
禁書「自意識過剰も甚だしいんだよ!」バキッ
御坂妹「……こひゅ……」
禁書「どうしようもない勘違い豚なんだよ! これは流石に慈愛に満ちたシスターである私でも救いようがないかも!」
御坂妹「…………」
禁書「そのくせ生意気にも贈り物なんていう姑息な手を使ってとうまを誑かそうとして……」
禁書「そのせいで私はとうまに追い出されたんだよ!! わかってるのかな!?」
禁書「ゴミクローンは少し悔い改めたほうがいいかも!」ゲシッ
禁書「ちょっと聞いて――!?」
御坂妹「…………」クタ
禁書「な、なにをふざけているのかな? クールビューティー?」ユサユサ
禁書「ししし、死んだふりなんかしても私は騙されな――」ハッ
禁書「……術式が、解除されてる……?」
禁書「はっ……はっ……どうしよう……クールビューティーが――」
禁書「――死んじゃった」
禁書「どうしよう、こんなところとうまに見られたら……!」
禁書「そうだ……こんな時こそ『必要悪の教会』に頼んで……きっとあそこなら死体処理の一つや二つ、楽勝なんだよ!」
禁書「思えば短髪のクローンは一万体もいるんだから一人くらい減っても誰も気づかないかも!」
禁書「そうと決まれば早速かおりに――」
ドサッ
嫉妬で狂い、憎悪で鈍ったインデックスの思考は通常であれば少し考えればわかることさえ思案の外に弾きだしていた
犯行を行うべきだった場所は何処だったのか、この家の主は誰か、そしてその家の主はいつ何時帰宅してきてもおかしくないということ――
本当に、ちょっと考えればわかることだったのだ
上条「……っ……!」パクパク
信じられない光景だった
いや、信じたくない光景だった
受話器を持ったまま茫然自失とするインデックス
そして、今となってはもう見慣れた魔法陣の上で、糸の切れた操り人形のように力なく横たえる御坂妹
誰がどう見ても、彼女が事切れているのは明白だった
その衝撃に、さしもの上条当麻も身動きどころか、声を出すことすらできない
数時間前まで生きて、自分と話をしていた御坂妹が今や、物言わぬ死体となっている
だが彼の絶望を色濃くしたものはそれだけではない
本来の彼であれば、すぐさまインデックスに駆け寄り、無事な彼女に「怪我はないか」等の優しい言葉をかけていたことだろう
そう、彼が帰ってくるのがあと数秒遅ければ
上条(『死体処理』……? 『一人くらい減っても誰も気づかない』……?)
上条(どういうことだよ……これじゃあまるで……インデックスが……)
上条「!」ハッ
ダッ
上条「御坂妹!!」キュピーン
上条「おい御坂妹! しっかりしろ!」ユサユサ
上条「クソッ、魔法陣を消しても駄目か!」
上条「早く救急車を!」ピッピッピッ
上条「もしもし! 今すぐ救急車を――」
禁書「――もう手遅れだよ、とうま」
上条「えっ?」
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