勇者「俺の目的は魔王討伐じゃない」 (30)
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>全国より強豪が集い、一週間に渡って繰り広げられた「勇者決定トーナメント」――その優勝者が、今日決定した。
王「そなたを今日より、勇者と認定しよう――」
>勇者と認定された者は国により、魔王討伐の旅の支援を受けられるようになる。
>その日すぐに、新たに誕生した勇者の肖像画が全国の店屋・宿屋等に配布された。これにより勇者による店の利用は無料となり、料金請求は国に行く仕組みとなる。
勇者(経済的支援、旅人にとっちゃ随分助かるな――だが)
>勇者の目的はむしろ、そちらではなく…
勇者(全国に俺の顔が知れた。これで目的が達成しやすくなったな)
勇者(『餌』を撒けば獲物は向こうからやってくる。あとは…)
?「勇者ー」「勇者様…ウフフ」「勇者さん!」
勇者「…あ?」
>急に呼ばれたことに若干の苛立ちを覚えつつ、振り返ると見知らぬ人間が3人。
>どいつもこいつも、こちらをキラキラした目で見つめてくる。
勇者「誰だ」
戦士(男)「勇者さん…俺らを忘れたのか!?いや違う…呆れているんだな、不甲斐ない俺たちに!」
勇者(え、何?)
狩人(女)「あーゴメンゴメン、あたしらトーナメントであんたに負けた者さ」
勇者「一回戦敗退者だろ」(一回戦は複数人混合だったから、一人一人顔覚えてないし)
戦士「わかってる!勇者さん、そんなに早く脱落した俺たちに呆れているんだろう!もう、顔も見たくないんだろう!」
勇者「そもそも覚えてないんだが…」
呪術師(女)「ゆ、勇者様だわ…近くで見ると、い、いいい男ウフフ~」
勇者「」ゾワァ
勇者「で…何の用だ?」
狩人「実はさ、あんたの旅に同行したくて」
勇者「断る」スタスタ
狩人「流石、剣も態度も切れ味抜群だねぇ」
呪術師「だけど着いていくわよウフフ何と言われても」
戦士「そうだぜ!俺たち仲間じゃんかよ!」グッ
勇者(こいつらの頭の中では、俺との間に何があったんだ?)スタスタ
呪術師「無視ね…完璧な放置プレーだわウフフフフ…刺激的ィ」ニヤァ
戦士「わかる!俺にはわかるぞ!「お前達の気持ちはわかった、俺はもう何も言わんから勝手に着いてこい」ってことだな!勇者さん、あんたって人は、あんたって人はああぁぁ!」涙ダー
勇者「いや、何一つ合ってねーから!」
呪術師「立ち止まった!立ち止まってくれたわああぁぁ」
戦士「勇者さん!待ってくれたんですね!俺…俺、勇者さんを誤解してたよ…っ!」
勇者「絶対お前今現在も誤解してるぞ」
戦士「「誤解しているぞ、だって俺はお前達のことを…戦友と認めている!!」ですね!勇者さん!」ガシッ
勇者「だ、抱きつくな!…って貴様ぁ、俺の髪を抜くな!」
呪術師「ウ、ウフフ、勇者様…毛を手に入れたからは、貴方のいる場所は私に筒抜け…ゆ、勇者様の髪のおけけペロペロ」
勇者「」ゾゾー
狩人「着いていくよ勇者ー。タダ飯、タダ飯~」
勇者「お前っ、援助のおこぼれ貰いたいだけだろ!?」
>結局了承するまで戦士が離れなかった為、渋々了承した勇者であった。
夜 =宿屋=
勇者(全員寝静まってから抜け出そうと思ったが…)
呪術師「ウ、ウフフフフフ」
勇者(何かずっと見つめられてるんだけど…いつ寝るんだあいつ)ゾゾー ←寝たフリ中
呪術師「ハァハァ勇者様の寝顔、う、美しいわぁ…寝ている隙に、キ、キキキキ、キスとかしちゃったりしてぇ…」ニヤァ
勇者「それはやめろ」チャキ
呪術師「あらぁ勇者様ん、私の愛を察知して起きたのねぇ、ウフフフ」
勇者「」ザクッ
呪術師「きゃん、切られたぁ~!勇者様の剣で切られたわぁん、ゆ、勇者様に頂いた傷口」ペロペロ
勇者(い、今の内に抜け出そう!)ダッ
・
・
・
勇者「ふぅ…初日から変なのに絡まれたな。目的を達するまではなるべく人とは関わらず…」
街人「魔物の襲撃だー!」「門を閉めろー!」「武装しろー!」
勇者「いきなりか…」
街人「あっ、貴方は勇者様!」「勇者様だー!」ワーワー
勇者(顔が割れているからな…)クッ
勇者「邪魔だから全員建物の中に引っ込んでいろ!」
街人「お1人で大丈夫ですか!」
勇者「心配は無用だ…」
狩人「何故なら~」
戦士「勇者さんには仲間がいるからな!皆行くぜ!魔物の脅威から人々を守るんだ!なっ、勇者さん!」
呪術師「ヒヒヒヒヒヒ」
勇者(急に湧いてきやがった…)ガックリ
呪術師「ウ、ウフフ…どこにいてもわかると言ったでしょう、勇者様ぁ」ニヤァ
勇者「お前達も邪魔だから引っ込んでろ」
戦士「こんな時でも俺らを気遣ってくれるなんて…でも大丈夫だよ勇者さん!何せ俺たちは勇者の仲間だ、死ぬ覚悟だってできているさ!」
勇者「なら今死んでくれ」
戦士「死ぬ気で戦えってことだね!皆、行くぞ!」ダッ
狩人「おー」
勇者「また勝手に解釈しやがって…!仕方ない行くぞ!」
呪術師「えぇ行きましょう勇者様ウフフ」
勇者「お前に言ってねー!」
・
・
・
勇者「ハァハァ先に突っ走った2人は…」
魔物「ハ~ッハッハ!」
勇者「!」
狩人「いちち、やられちった~」
戦士「すまねぇ勇者さん…頑張ったんだ俺ら、だけど駄目だった!」
勇者(くっそ弱ぇ…)
魔物「人間は大人しく魔王様の奴隷となるのだ!しかし我らに歯向かう者は、見せしめに殺してやるわーっ!」
勇者(とっとと殺ってくれ、とっとと)
魔物「…ムッ!?」ピタッ
狩人「…!?」
勇者「どうしたんだお前達!?」
戦士「わからねぇんだ勇者さん!だけど不思議だよこの感じ…!まるで…まるで、奴らの動きが止まったように見えるんだ!俺は、時間を超越したのかな!」
勇者「いや、お前に言ったんじゃなくてな…あとまるでじゃなくて、止まったんだよ動きが」
呪術師「ぶゎ~か♪お前達みたいな雑魚…」
勇者「!?」
>呪術師の手からは不気味な光が発せられ、よく見るとその光は魔物の体を覆っていた。
呪術師「動きを止めるなんて赤子の手を千切るより簡単なんだよおおォォォ!アーッハッハッハ、このまま呪い殺してやろうかああぁぁ!」ゴオオォォ
魔物「ひいいぃぃ!?」
勇者「待て、俺がやる…」(無駄に苦しめそうで、気の毒だ…)
呪術師「ゆ、勇者様///」キュン
勇者(顔を赤らめるな、顔を!)
勇者「我と契約し魔剣よ…今こそ、その力を我に!」ゴォッ
魔物「!?」
>勇者が抜いた剣は、神々しく光を放っていた
勇者「邪(よこしま)なる者よ、苦しむことなく、我が剣に…斬(ざん)ッ!」シュバァーッ
>勇者が剣を振るったと同時、魔物は剣の光に包まれ――
狩人「消えた~…」
勇者「フン、手応えもない」
戦士「勇者さん!すまねぇ、俺たちが不甲斐ないばかりに…だけど俺、負けないから!絶対もう、負けないからっ!」
勇者「黙れ負け犬」
呪術師「勇者様ぁ…一生着いていくわぁ」ニタァ
勇者(こいつの呪術だけは本物のようだし…今日は逃げるのを諦めよう)グッタリ
翌日
戦士「勇者さん、朝だよ!爽やかな太陽だ!まるで俺たちを祝福してくれているようだね!」
勇者「うるせーよ…」(あー眠ぃ)
狩人「勇者、魔王を倒すんだろ?情報は仕入れてあるからね~」
勇者(余計なことを)チッ「聞かせてみろ」
狩人「うん。これは最近判明したことなんだけどね、魔王城に行く為には4つの宝玉を集める必要があるんだ。その宝玉が揃えば、魔王城までの「道」ができるって話だよ」
勇者「ほー…。よく調べたな」
狩人「だけどその4つの宝玉はそれぞれ、魔王直属の部下が持っていて、そいつらを倒さないと宝玉は手に入らないだろうね」
戦士「魔王直属の部下ってぇと、東西南北それぞれに君臨してる化物共だな!腕が鳴るぜ!」
勇者(雑魚にやられた奴が何を言う)
呪術師「ま、負けるわけがないわぁ勇者様が…ねぇ~?」ニタァ
狩人「よし、1番近い西の化物から倒しに行こう」
戦士「勇者さん!俺着いて行くよ!世界の皆に笑顔を届ける為に戦う勇者さんに、どこまでも着いて行くよ!」
勇者「着いて行くと言うなら、目的地は俺に決めさせろ…」
戦士「わかってるよ勇者さん、皆が行き着くべき目的地は世界平和!そうだろ勇者さん!」
勇者(もうこいつと話したくない)
>こうして勇者は(不本意ながら)西を目指すこととなった
=西地方=
狩人「あ、村が見えてきた~。これでタダ飯にありつけるね~」
勇者「あぁ、俺の顔は知れ渡っているからな」
呪術師「世界一有名でお美しい勇者様ウフフ…ん?何かあの村、変よ?」ブツブツ
戦士「どこも変な所はないぞ?それよりも早く行こう、皆!」ダダッ
勇者「疲れ知らずな奴だな…ん?」
>村の高台で人影が動いた。そして――
シュババッ
戦士「ぐわー」
>高台から放たれた矢が、戦士に突き刺さった!
狩人「わあ。戦士がやられたねぇ」
呪術師「雑魚が」ケッ
勇者「そんなことはどうでもいい」ダッ
狩人「あっ、勇者」
戦士「ぐえっ」
>勇者は狩人の声を無視して村に駆け出した。その際戦士を踏みつけてしまったが、気にせず高台に向かって叫んだ。
勇者「勇者だ…弓矢を向けるな!」
魔物「クク…そうはいかんな小僧!」
勇者「!」
>高台には魔物がいた。そして高台だけではなく、村のあちこちから魔物が姿を現した。
勇者「この村は制圧されたのか。わざわざ、こんな小さな村を制圧するなんてな」
魔物「それは、貴様が西を目指していると報告を受けたからだ。きっとここに立ち寄るだろうと思って、先回りした」
勇者「勇者の顔は魔物にも知れ渡っているってことか」
魔物「それもあるが――知ってる奴は知ってるだろう、お前の顔は」
勇者「…あぁ、そうだな。だが」
>こいつ、俺の顔を知っていたか――そう思ったものの、勇者は特に何の感慨もなく剣を抜いた。
勇者「今の俺は、勇者なんで――」
呪術師「あっ、あれ!」
狩人「わー」
>少し離れた所から見守っていた呪術師が指差した所からは、光が放たれていた。
戦士「勇者さんの剣だ!流石勇者さん、村を解放する為に、皆の笑顔を取り戻す為に、戦うんだね!勇者さーん!」ダッ
狩人「戦士ぃ、血ぃ吹き出てるよ~。まぁいいや、勇者~」ダッ
呪術師「フヒッフヒッ今行きますううぅぅ」ダッ
勇者「…手応えが無かったな」
>そして、呪術師らが勇者の元に着いたのは、既に魔物達が消えた後だった。
村人達「勇者様ありがとうございます!」「流石勇者様だ!」「勇者様万歳!」ワーワー
戦士「勇者さんはな…勇者さんは、その笑顔が見たかったんだよ!その為に魔物の群れに突っ込んでいったんだ、そういう人なんだよ勇者さんは!」
村人達「キャアアァ、勇者様素敵いいぃぃぃ」キャーキャー
勇者「そういう人じゃねーし、とりあえず1人にしてくれないか…」
戦士「世界を背負っているから!だから勇者さんにも独りになりたい時があるんだよ!独りの時に泣いて、皆にはそんな姿を見せない!そういう人なんだよ勇者さんは!」
勇者(あぁ泣きたいよ、お前と出会った宿命に)
村人達「勇者様ー勇者様ー」ワーワー
勇者「村はずれに泉があるんだな…そこに行っている」(あーうるさい)
狩人「宿とっておくね、勇者~」
呪術師「宿で待ってるわ…待ってるけど、でも…!忘れないでね、勇者様がどこにいても私にはわかる…」ニタァ
勇者(逃げらんねーなこりゃ…)
・
・
・
勇者「…あー、あの3人といたら疲れる」ドサッ
?「ふふ、相変わらず人付き合いが悪いのね」
勇者「!?」
?「久しぶりね…勇者?」
勇者「何でお前がここに…幼馴染!?」
幼馴染「うふふ~、勇者を追って来ちゃった♪なーんて言ったら、嬉しい?」
勇者「バカか!家を抜け出してきたのか…帰れ、危ないだろ!」
幼馴染「じゃあ、送ってくれる?」
勇者「あのな…」
幼馴染「帰ったら勇者、会えないじゃん。昔は一杯遊んでくれたのにさぁ…」
勇者「わかってるだろ、今はそういう状況じゃない。状況が変わったら迎えに行くから…」
幼馴染「変わるの?状況は」
勇者「…変えてみせる」
幼馴染「そう。じゃ、約束の~…」チュッ
勇者「!!!??」
幼馴染「あはは、不意打ち成功~。じゃあね勇者、状況が変わったら会いに来てね~」
勇者「…」ドキドキ
勇者「誰のために、勇者になったと思うんだよ…」
=西の化物の拠点=
呪術師「ハァハァ…勇者様ハァハァもうだめェん…」
狩人「やーられちったー」
戦士「俺たちは…俺たちは無力なのかッ!」
勇者(早々にやられたな雑魚どもが)
西の化物「このガキがぁ!宝玉は渡さんぞおぉぉっ!」シュッ
>西の化物の豪腕が勇者を貫こうと襲ってきたが――
勇者「甘い」カキーン
西の化物「防ぎやがったぁ!?テメエェ…何者だコラアァッ!」
勇者「勇者だ…終わりだ、西の化物」
>そう言うと勇者は高く跳躍し、西の化物の巨体に狙いを定め――
勇者「ハッ――!」
西の化物「ぐあああああああぁぁ」
>鋭い斬撃によって、西の化物を切り裂いたのであった。
・
・
・
呪術師「勇者様…流石だわぁ、素敵でしたわぁん」ウットリ
戦士「俺は信じてたよ、勇者さんはできる人だって!俺たちの想いが届けば、たっだ1人でも化物を負けない人だって!そう思ってたよ!」
勇者(何で復活するんだよこいつら…)チッ
狩人「お疲れ勇者~、凄いね、西全域の魔物を束ねてた奴を簡単にやっちゃうなんてね~」
戦士「勇者さんは世界を背負っている人なんだよ!皆の期待が勇者さんに力を与えているんだよ!負けるわけがないんだよッ!!」
呪術師「わ、私の勇者様が負けるわけないじゃない…ねぇ勇者様デュフフフ」
勇者「負けたことくらいはあるぞ」
狩人「へー、勇者を負かすなんてねー」
呪術師「どこの不届き者かしらぁ…?勇者様、お望みとあらば呪いますわよウッフッフ」
勇者「望んでない」
勇者(俺を負かせた男…あいつと再び会う為に、俺は勇者になったんだ)
~~~~~~~~~~~~~
?「どうした騎士(ナイト)くん…こんなものか?」
勇者「グッ…ハァ、ハァ…」ボタボタ
幼馴染「勇者…もうやめてぇ、死んじゃうよぉーっ!」
?「なら、貴様の首を差し出せ…」チャキ
幼馴染「ヒッ――」
?「あまりいい気持ちはしないが、仕方がない――死ね」
幼馴染「―――」
勇者「幼馴染――ッ」
~~~~~~~~~~~~~~
勇者「やめろォ――ッ!」ガバッ
勇者「ハッ」
グゴーグゴー
勇者(夢か…)ハァハァ
呪術師「ウフフ…うなされてる勇者様もス・テ・キ…」ウットリ
勇者「」
>勇者の攻撃!改心の一撃!
呪術師「」ピクピク
勇者(あの時はたまたま助かったが、奴は今でも幼馴染の命を狙っている…だから奴が幼馴染に辿り着く前に…)
勇者「俺が、殺さないとな――」
戦士「殺すってのは取り返しのつかないことなんだ!だけど…だけど世界平和の為には魔王を討たないといけないんだ!いや、討つなんて言葉で綺麗にしたって意味がない…討つというのは殺すことで」
>勇者の攻撃!改心の一撃
戦士「」ピクピク
勇者(こいつらもいつか殺す…)
・
・
・
刺客「勇者、覚悟ッ!」
勇者「失せろォっ!」ザシュッ
刺客「グフッ」
狩人「ふー、危なかったね~」
戦士「すまねぇ勇者さん!俺、いつも足手纏いで!気持ちに体がついていかねぇんだ!俺、俺…!」涙ブワッ
勇者「誰も期待してない。それよりも最近、刺客が頻繁に来るな」
狩人「西の化物を討ったせいかね~」
呪術師「ゆ、勇者様に近づく奴は私が呪い殺してあげるから、安心してぇ勇者様ぁ」ニタァ
勇者(…最近は俺が寝てる間に敵が来たら対処してくれるが、刺客よりこいつのが油断できないんだよな)
戦士「勇者さん!くじけたら駄目だよ!俺たちが側にいるから、いつでも側にいるからっ!」
勇者(四六時中役に立たないんだよな、こいつ)
狩人「これじゃあ全箇所の化物を討つ前にバテちゃうかもね…ほら見てよ、この地図」
勇者(狩人の情報収集能力は高いが、俺の旅の目的とはズレる…)
勇者(クッ、いつまでもこいつらと旅をするのは限界だぞ…)
狩人「…で、ここからここまでは馬車ですぐなんだけど、ここがね…」
勇者(…うん?待てよ、それなら…)
勇者「おい全員聞け」
戦士「何だい勇者さん!俺は受け入れるよ!例え勇者さんが何を言おうと、俺は現実から目をそらさない!だって仲間なんだから!」
勇者「いいから聞け。おい、手分けしないか?」
狩人「手分け?」
勇者「そうだ。このままのペースだと日数がかかって仕方がない。だから俺とお前達3人で手分けして、それぞれ宝玉を集めないか」
狩人「うーん、できるかなー」
戦士「できないわけないんだよ!俺たちのリーダーが言うことに、できませんって言う答えはないんだよ!俺たちは、やらねばならないんだよッッ!」
呪術師「ゆ、勇者様に初めて頼られた…」キュンキュン
勇者「やってくれるな?」
戦士「イエス!俺の答えはその一言さ!」
呪術師「や、やりますわ…デュフフフフフ」
狩人「うーん、ならやるしかないねー」
勇者「よし…頼んだぞ」
一同「行ってきまーす」「歩け歩け!前に進め!それしか道はない!」「勇者様ぁ…しばらくお元気でえぇ…」ウジウジ
勇者(これで邪魔者が片付いた!)
勇者「一応「足跡」を残しておく必要がある…東を目指すか」
>そんでもって
東の化物「グアアアァァ」バタッ
勇者「ふー」
勇者(争う気は無かったんだが、そっちからやってきた…。相手が俺を殺そうとするなら、そりゃ返り討ちにするしかないだろ)
勇者「一応貰っておくか、宝玉…」
勇者「少し、休んでいくか」ドサッ
勇者「…」
~~~~~~~~~~~~~~~
幼馴染「勇者、勇者ぁ」
勇者「ついてくんなよ。お前の父さん、俺を嫌ってるだろ」
幼馴染「…私は勇者のこと、好きだよ?勇者は私のこと――
~~~~~~~~~~~~~~~
勇者「幼馴染…」
?「サボるのは感心しないな、勇者殿」
勇者「!?」ガバッ
>聞き覚えのある声に勇者は即身構え、そして――
勇者「お前は――」
>その顔を見て、全身の血が冷めるような感覚がした。
?「やぁ…」
勇者「…待ってたぜ」
>その男こそ、かつて勇者を破り、そして勇者がずっと探していた――
勇者「久しぶりだな、『真勇者』!」
真勇者「ふっ」
真勇者「君は行く先々で顔を知られているからプライバシーも何もないな。君の居場所に追いつくのに時間はいらなかった」
勇者「あぁ…「公認勇者」だからな」
真勇者「魔物にも居場所がバレバレとはな…気が休まらないだろう」
勇者「それも「公認勇者」だからな。そうなる事位、トーナメントに出る前からわかっていた。「公認勇者」は「真勇者」の影武者みたいなもんだってな」
真勇者「わかっていたなら結構。何も知らない者を影武者にするのは、心が痛むんでな」
勇者「…王は今だに、俺とお前のことを知らないのか?」
真勇者「あぁ、知らないだろうな…私達はかつて戦い、君は私が勇者だと知った」
勇者「お前が幼馴染を殺しに来たからな…」
真勇者「…それは君の幼馴染が「魔王の娘」だったからだ――」
幼馴染は魔王の娘でありながら、素性を隠して人間の村によく遊びに来た。その、幼馴染がよく来る村にいたのが俺だ。同年代の奴らから浮き気味だった俺は、何故か幼馴染とは馬が合い、よく遊ぶ仲となった。
そしてある日、幼馴染は俺だけにと打ち明けたんだ――自分が魔王の娘だと。
勇者「あいつは父親と違って、人間に悪意なんざ持っちゃいない。なのにお前は、あいつを殺そうとした」
真勇者「彼女も、私を殺そうとしただろう」
勇者「お前があいつを狙わなきゃ、そんなことはしなかった」
真勇者「君も見ただろう、彼女の真の力を。魔王の娘の心がいつ、悪に傾くかわかったものじゃない。そうなった時、あの力を解放されては危険だ…」
勇者「そんなの、誰だって――」
>しかし、言いかけてやめた。話が通じる相手じゃないのは、話し合う前からわかりきっていた。
真勇者「どうした…まぁいい、とりあえず集めた宝玉をよこしな影武者君」
勇者「俺をパシリにして楽に宝玉集めようってか…だから嫌だったんだよ、宝玉集め」
真勇者「そうじゃない。見ろ、これを」
>真勇者が懐から取り出したのは、勇者が持っているのとは違う宝玉だった。
真勇者「北の化物から入手した。残りの南のも自力で手に入れるつもりだ」
勇者「どういうつもりだ?俺に全部宝玉集めさせて魔物に狙わせて、お前が楽ちんに魔王を討つってのが王の計画じゃねぇのか」
真勇者「私にだってプライドはある。君はもう用済みだ、影武者君」
勇者「フン、宝玉なんていらないからくれてやる。…けど、お前は殺すぞ」チャキッ
真勇者「そう言うと思った…」ニヤ
>真勇者は不適に笑いながら、剣を抜いた
真勇者「魔王の娘に加担する不届き者、私が討ってくれる――」
・
・
・
勇者「ぐっ…」ボタボタ
>勇者の肩からは大量の血が溢れていた。片手で押さえても溢れるのが収まらぬ程、深い傷を負ったのだ。
真勇者「昔よりはマシになったが、まだまだ未熟だな…」
勇者「く…」フラッ
>真勇者にもダメージは与えた。だが、自分のダメージに比べて遥かに軽い。
>自分はあの頃よりも強くなったが、真勇者はそれよりも強くなっていたのだ。
勇者「何で、こんなに強いのに無名のままで…!?」
真勇者「これが、陰に生きていた結果」
>真勇者は王の命により、魔物達に命を狙われぬよう、ずっと目立たぬよう活動していた。
>その結果、密かに平和に貢献してはいたが、人々からの賞賛も得られずに過ごしていた。
真勇者(私が受けるべき賞賛を、この男は――)
真勇者「「世界の為」「皆の笑顔の為」など、心にも無いことを叫びまわり人々の心を掴んでいたようだな…!私には正直、君が妬ましい!」
勇者「それは俺の言葉じゃねぇーっ!」
>いらぬ仲間により得られたイメージが真勇者の闘志に火をつけているなら、つくづく迷惑な奴らだ、と勇者は思った。
勇者(俺は最初からこいつをおびき寄せる為に勇者になったんだよ…!それが何で…)
真勇者「そろそろ限界だろう、死ね!」
勇者「――!」
>――その時
シャッ
真勇者「…!?」
>1本の弓矢が2人の間に割り込み、真勇者を後退させた。
狩人「勇者ーっ」
呪術師「ゆ、ゆゆ勇者様が血だらけにアワワワワ」
戦士「勇者さんは今、最高に熱くなってんだよ!最高の強敵に出会えて、闘志をメラメラ燃やしてんだよ!」
勇者(出たーーーーー!!)←鳥肌
真勇者「仲間か…彼が影武者だとも知らずに着いてきたんだろう。全く、哀れな人たちだ」
勇者「まるで俺が騙したみたいじゃねーか!」
呪術師「影武者ぁ…?何言ってやがんだ、このスカシが」ペッ
狩人(へー勇者って偽物だったんだ。まいいや、今まで店屋無料の恩恵受けられてたし)
戦士「確かに、勇者さんには常に陰が纏っている…だって勇者さんの背負うものは重いから、苦しくなることだってあるんだよ!だけど、それを一緒に背負うのが仲間じゃないか!」
勇者(やべー今更ながら、あいつ人間の言葉を理解できてねぇ)
真勇者「それを背負うのは私だ!こいつは、偽物だぁ――ッ!」
勇者「あぁ、俺はいらんから背負ってくれ!むしろあいつごと引き取ってくれ!」
戦士「心が折れそうになってるんだね、勇者さん…だけど俺たちにとっての勇者は勇者さんだけなんだ!そんな奴に惑わされたりしないよ!」
勇者「お前の存在に1番心が折れそうだ!」
真勇者「影武者ごときが…勇者の座、取り戻すっ!」
狩人「えーと…がんばれー勇者ー」
戦士「負けないで…勇者さんっ!」グッ
呪術師「勇者様デュフフフ、あぁ血まみれの姿も美しいわぁ…」ニヤニヤ
勇者「」ビキビキ
勇者「お前ら、好き勝手言いやがってええええぇぇぇぇッ!」
真勇者「!?」
勇者「俺は、名声なんぞクソも欲しくねええぇっ!!」ズバァッ
真勇者「うぐ!?」
勇者「勇者の座ァ?くれてやる、そんなもの!!勝手に世界救ってろやああぁぁっ!!」ズビシィッ
真勇者「ぐぁっ…パワーアップした…っ!?」
勇者「どいつもこいつも「理想の勇者像」を押し付けてきやがる!!ふざけんな、くだらねぇよ勇者なんてよおおぉぉっ!!」ズバズバッ
真勇者「く…っ」
勇者「俺は、俺は…っ!」シュッ…
真勇者「!?」
>その時勇者の想いに反応してか、剣が強く光った――
勇者「大事な人を守りたい、それだけなんだよおおぉぉ―――ッ!」
真勇者「ああああぁぁ――――っ」
>そして、辺りは光に包まれた――
*
真勇者「く…」
狩人「…やった」
呪術師「あぁ勇者様、光で包まれてよく見えなかったけど、素敵なお姿でしたわぁ」ウットリ
戦士「やる人なんだよ、勇者さんは!俺は…俺は信じていたよ!勇者さん…勇者さん!!」涙ダバー
勇者「ハァハァ」(くそ…突っ込む気力もねぇ)
真勇者「私の負けだ…殺すがいい」
勇者「フン…やなこった」
真勇者「!?」
勇者「さっき気付いたが、お前が死んだら、俺が真勇者じゃねぇか…冗談じゃねぇ」ゼェゼェ
真勇者「しかし…」
勇者「フン…お前みたいな雑魚からなら、いつでも幼馴染は守れるんだよ」
真勇者「……そうだな」
狩人「あ、こいつ宝玉持ってら。よし、宝玉が揃ったぞ~い」
勇者「…待て。お前達南の宝玉を手に入れたのか?」
呪術師「こ、これを見て勇者様ぁ…そして褒めてぇん…」ニヤニヤ
勇者(ほ、宝玉だ…!)
勇者「お前達(みたいな雑魚)がどうやって…」
南の化物「あげたんだよ」
勇者「!?」
南の化物「君、お嬢様(幼馴染)のご友人だろ。魔物達の間では、人間である君の評判は悪いが、俺はお嬢様にできた唯一の友人として君を認めている」
狩人「私らをここまで送ってくれたのも、こいつなんだよ」
戦士「流石勇者さん…その心は、敵すらも虜にしてしまうんだね!」
勇者「南の化物…」
勇者(認めてくれたのはいいが、俺が魔王と戦わないといけなくなるだろ…勘弁してくれ)
真勇者「ところで勇者よ」
勇者「何だ…」
真勇者「君の知らない話をしたいのだが――」
勇者「…!?」
・
・
・
=城=
王「久しぶりだな勇者よ。して、何の用だ?」
勇者「王よ――」
>勇者は王に近付くと、素早く剣を取り――
ザシュッ
王「――な!?」
>そして周囲の兵士が反応できぬ速さで、王に斬りつけた。
勇者「真勇者の野郎に聞いたぜ――」
勇者「幼馴染を討てと命令したのは、お前だってな」
これで俺は国王殺しの重罪人だ。ここから逃げても、今度は追われる身となる。
だが、それもいいかもしれない。俺は初めから真勇者を殺す為、魔王の娘を守る為勇者となった、背徳者なのだから。
勇者「俺を捕らえるならかかってこい。相手してや…」
兵士「見ろ!王の姿が!」
勇者「…は?」
>兵士が声をあげたので王の姿を見ると、その姿は徐々に魔物のものと化していった。
魔物「ググ…せっかく王と成り代わったというのに…何故、わかったぁ…!」
勇者(な、何だと)
魔物「貴様が宝玉を集め、真勇者に魔王を討たせ…私が新たな魔王になろうと…思っ…た、の、に…」ガクッ
勇者「…」ボーゼン
兵士「勇者様が王に化けた魔物を討ったぞー!」
勇者「えーと…だな…」
戦士「わかってたんだよ、勇者さんは!」
勇者「うわっ!?」(宿にいろと言っただろうがー!)
戦士「わかってたんだよ!勇者さんの目はごまかせない!何故なら勇者さんは、善と悪を見極める勇者さんだから!」
兵士達「勇者様ー!」「流石勇者様だー!」「勇者様最高ー!」ワーワー
呪術師「す、凄いわぁ勇者様…ますます惚れちゃいそうデュフフ」
勇者(ええぇー…)
>こうして瞬く間に勇者の武勇伝は全国に広まった。
>ちなみに本物の王は地下牢の奥に幽閉されていた所を救出された。裏では幼馴染を狙わないようガッツリ脅しておいた。
狩人「ちなみに、どのタイミングで魔物と入れ替わったかというとー…」
勇者「あーどうでもいい!もう余計な情報を俺の頭に入れるな!」
=夜=
幼馴染「こんばんは、勇者様っ♪凄いじゃないの、もうすっかり英雄様になっちゃって~」
>夜風に当たっていた所にふっと現れた幼馴染は、おどけたように勇者に声をかけた。
勇者「俺がそんな名声を欲しがると思っているのか…」
幼馴染「ははは欲しがらないよねー、勇者って昔から無欲だもんね~」
勇者(無欲ではないんだけどな…)
幼馴染「ところで噂によると、明日は魔王城へ乗り込むそうじゃない?ふふ、お父様強いわよ~?」
勇者「あーできれば戦いは避けたい…」
幼馴染「じゃあさ、2人で逃げちゃう?」
勇者「…却下。何かいい方法は無いものか…」
幼馴染「あるよ」
勇者「何っ!?」
幼馴染「ふっふっふ、知りたい~?」
勇者「もったいぶらずに教えろ…何なんだ、その方法とは!」
幼馴染「教えるには、条件がありまーす」
勇者「何だ、条件って!?」
幼馴染「勇者が、私と結婚してくれることでーす」
勇者「…!!?」
幼馴染「一途に思ってても、勇者デレないんだもーん。だから意地悪しちゃいまーす。どうする、勇者ぁ?」ニコッ
勇者「…ったく」
勇者「その方法が本当にいいものならな…」
幼馴染「安心して、本当にいいものだから♪あのね、宝玉の使い道なんだけど…」
勇者「あぁ」
幼馴染「宝玉4つとも壊せば、魔王城までの道が完全閉鎖されるの。つまり、お父様が人間達に悪さもできなくなるわけ」
勇者「…は?」
幼馴染「どう、簡単でいい方法でしょ~」
勇者(簡単すぎねぇか…つか、それなら魔王倒さなくていいじゃねぇか…)
勇者「ちょっと待てよ…幼馴染、そんなことしたらお前城に帰れなくなるんじゃ…」
幼馴染「いいのよ、お父様は勇者との結婚認めてくれないもん。だからその方法を取れば、お父様の邪魔も無くなるわけよ~♪」
勇者(えー)
>勇者は疑いつつもこれを実行した。すると本当に魔王の影響は弱まったかのように、魔物達が大人しくなったのである。
>人々はこれを、勇者が魔王を討った為だと勘違いした。こうして、人間達に平和が訪れた。
勇者「くっ、あっけなかったな…」
幼馴染「勇者ー、一生離れちゃやーよ♪」
勇者「あ、あぁ」
勇者(そりゃ、こいつをずっと守っていくつもりだったが…)
人々「勇者様ばんざーい!」「結婚おめでとうございます!」「お幸せに!」ワーワー
勇者(もっと静かに式を挙げたかったものだな…)
幼馴染「あっほら、お仲間さん達も手を振ってるわよ勇者!」
呪術師「勇者様が寝取られた…グギギギギギ」
戦士「勇者さん、我らの英雄!俺は、俺は勇者様と旅をした思い出を、一生忘れませーーーん!!」
狩人「あー…オメデト」
勇者「あいつらはいい…」グッタリ
幼馴染「ふふ…でもあの人たちがいなかったら、今頃勇者は…」
勇者「…どうなっていたんだろうな」
幼馴染「さぁね…でも、こんな幸せは手に入らなかったかもよ?」
勇者「…そうかもな」
勇者(役たたずどころか邪魔者だったが――そこだけは、感謝してやるよ)
>こうして勇者と幼馴染は人々に祝福を受けながら、永遠の愛を誓った。
>ちなみに、勇者と旅をした仲間たちは――
狩人「今度からはまた自分で稼がないとねー。さーて、やりますかっ」
>狩人は勇者と旅をする前の生活に戻り、真っ当に暮らし始めた。
戦士「勇者さんは…勇者さんは言ったんだ!「俺は世界を背負う者だ…世界を救えるのなら、この命を燃やして見せよう」とな!」
子供達「勇者様すげー」「勇者様かっこいいー」ワイワイ
>戦士は旅をし、勇者の英雄譚を広めていた。
=呪術者の墓=
>呪術者は幼馴染に呪いをかけたが呪い返しされ、死亡した。
南の化物「真勇者は国の姫と結婚して毎日幸せに過ごしているようだ。王も脅しておいたし、もうお嬢様を狙うまい」
勇者「そうか。何か、随分簡単なことを物凄く遠回りしてやっていた気がするな…」
南の化物「簡単じゃないぞ、宝玉の入手自体本当な困難なことだからな」
幼馴染「でも、確かに最初から勇者が私といてくれたら、勇者になる必要もなかったのにねー」
勇者「」クッ
幼馴染「ま、いいや。苦労した末に手に入れた幸せの方が、貴重なものに思えるもんね♪」
勇者「…正に人生の墓場ってやつか」
幼馴染「ま~たそんなこと言っちゃってぇ。たまにはデレなさい」
南の化物「そうだぞ、じゃないとお嬢様の心が離れていくかもしれんぞ」
勇者「…フン」
勇者「離れないだろ、幼馴染」
幼馴染「――うん」
勇者「なら、それでいい」フッ
勇者「お前を一生守っていくからな――幼馴染」
幼馴染「はいっ!」
Fin
このSSまとめへのコメント
とてもいい話だった!!