真姫「ずるい人」 (62)
それは今よりもずっと先のお話
凛「うぅ~寒いにゃ~」
花陽「ほら凛ちゃん、もう少しで学校だから」
凛「かよち~ん」
真姫「全く……少しは我慢しなさいよ」
凛「と言いつつ真姫ちゃんも完全防備にゃ!」
真姫「そ、それは!」
真姫「寒いものは寒いんだから仕方ないじゃない……」
凛「なら皆でくっついて温まるにゃ!」
花陽「わわっ」
真姫「ちょっ、急に引っ張らないで!」
凛「えへへ~」
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花陽「でもあと少しで3月。春はすぐそこだよ?」
凛「全然そんな感じはしないにゃ」
花陽「う、う~ん、それはそうだけど」
真姫「もうすぐ3月、か……」
花陽「真姫ちゃん?」
凛「どうかしたの?」
真姫「次の春を迎える頃には私たち最上級生なんだなって」
花陽「なんだか早いよね」
凛「でも、凛たちが最上級生になるってことは……」
花陽「うん……」
顔を見合わせる私たち
次の言葉を言うのは簡単だ
でも、誰も言おうとはしない
現実から目を背けるように
ただ、その“現実”は音を立てて近づいてくる
教師A「西木野さん、送辞の方はどうかしら?」
真姫「すいません、もう少し待って下さい」
教師A「急かしてるわけじゃないんだけど、先生も確認したいからね」
真姫「はい、分かっています」
教師A「来週いっぱいを目処に完成させて持ってきてくれると助かるわ」
真姫「分かりました……」
教師B「在校生代表として、卒業記念品を渡す担当、どっちがやるか決めてくれた?」
花陽「え、えぇっと……」
凛「実はまだで……」
教師B「もーう、そんなに難しいことじゃないし早めに決めてほしいのだけども」
花陽「も、もう少し考えさせてください」
教師B「分かったわ。でも早めにね」
凛「ごめんなさい……」
教師B「お世話になった3年生の門出ですものね。じっくり考えたくなるのも分かるわ」
花陽「はい……」
・生徒会室
凛「はぁ~」
花陽「う~ん」
真姫「どうしたの?2人揃ってため息なんてついて」
凛「真姫ちゃ~ん」
花陽「実はね……」
真姫「そう、あなた達も」
花陽「ということは真姫ちゃんも?」
真姫「えぇ、送辞の件で催促されたわ」
凛「真姫ちゃんも大変にゃ」
花陽「1番負担が大きいもんね。手伝ったほうが良い?」
真姫「いえ、大丈夫よ。というか送辞はほぼ出来上がってるの」
花陽「そうなの?」
真姫「えぇ、9割くらいは」
凛「なら早く完成させた方が良いんじゃないかにゃ?」
真姫「うん。そうなんだけどね……」
りんぱな「?」
そう、これは覚悟の問題
別に送辞なんて特別何かの意味を持っているわけではない
でも、これを完成させるということは、
3年生が卒業するという事実を受け入れてしまう
私にはその覚悟がなかった
きっと、言葉にはしないだけで凛も花陽も同じ
だからいつまで経っても在校生代表として壇上に立つなんて
一見簡単なことを決められないんだと思う
真姫「ふぅ。ちょっと、席外すわね」
花陽「あ、真姫ちゃん」
凛「どこ行くの?」
真姫「……音楽室」
真姫「今日はもう、戻ってこないから、先に帰っても良いわよ」
パタン
花陽「最近真姫ちゃん、ずっと音楽室だね」
凛「うん……」
・音楽室
ガランとした音楽室に鎮座するピアノに私は腰を下ろした
ここから見える景色が私は好き
私がピアノを弾いて、皆が歌を歌って
そんな時間が私は好きだった
いつしか9人は6人になって、それでもこのピアノの周りには……
私の周りにはかけがえのない仲間が居てくれた
そんな仲間を、私の居場所を作ってくれた人達が、
もうすぐここを巣立っていく
最近はずっとそんな事実を考えないようにと、音楽室に居た
ピアノを弾けば気が紛れるから
でも、今日は変だな
少し感傷的になりすぎたかしら
登校中に凛と花陽とそんな話をして、
先生にも送辞の催促をされて、
考えないようにしてた事実とまた向き合うことになったから
だから、一通のメールを送った
と言っても、向こうは忙しいだろうしメールを見てもらえるかは分からないけど
見てもらえたところで、このメールに返信が来るかも分からない
でも、メールを送ったことで少し心が軽くなった
真姫「ピアノ、弾こう」
一心不乱に、今まで自分が作った曲を
嬉しい時も悲しい時も、一緒に歩んできた曲を
弾き終わると、携帯が光っているのが見えた
新着メール:1件
ハッと息を呑みそのメールを見たのと、その声が聞こえたのは同時だった
???「やはり、あなたのピアノは素晴らしいですね」
真姫「何よ、来るなら来るって言ってよ」
???「メール、送ったではありませんか」
真姫「私は今見たのよ」
???「全く、自分から送っておいて」
真姫「良いじゃない。それよりも、久しぶりね、海未」
海未「はい。真姫も変わらないようで」
海未「それにしても、突然メールが来たので驚きました」
海未「しかも、『今日、暇?』なんて」
真姫「悪かったわね」
海未「いえ、良いんです。ちょうど学校にも用があったので」
真姫「用?」
海未「はい。進路決定の報告を」
真姫「あっ……」
海未「真姫にも報告しておきますね。無事に大学合格しました」
真姫「そ、そう。それはおめでとう」
海未「ありがとうございます」
真姫「まぁあなたが大学に落ちるなんて想像も出来ないけども」
海未「これでも受験勉強頑張ったんですよ?」クスクス
真姫「大学は、都内?」
海未「はい。ここから通える範囲です」
真姫「そう」
海未「真姫は、何か悩み事があるのではないですか?」
真姫「えっ?」
海未「だからメールを送ったのではありませんか?」
真姫「そ、そういうわけじゃ……」
海未「ここに来る途中、凛と花陽にも会いました」
海未「真姫が苦しんでいるから助けてあげて、と」
海未「私からすれば凛と花陽も、助けを求めている顔だったんですけどね」
海未「ただ、こうやって真姫の顔を見てよく分かりました」
海未「1番助けを欲しているのは真姫だと」
あぁ、ずるいなぁ
この人はいつもずるい
私が求めているものをいつも分かってくれる
だけど、私が1番欲しかったものだけは与えてくれない
だから、ずるい
真姫「35日」
海未「はい?」
真姫「私と海未の誕生日の差」
海未「あぁ、そうですね。私は3月生まれで真姫は4月生まれですものね」
真姫「そうよ。不思議よね、1ヶ月しか生まれは変わらないのよ」
真姫「なのに海未はいつも私の先を行く」
真姫「凛と花陽は誕生日離れてるけど同じ学年……」
真姫「ねぇ、なんで」ギュッ
海未「あ、あの……?」
真姫「なんで1ヶ月しか離れてない人と……」
真姫「1番近い人とは一緒になれないの?」ポロポロ
海未「ま、真姫……?」
真姫「なんで1番一緒に居たかった人とは一緒になれないの!?」
海未「お、落ち着いて」
真姫「わ、私は!」
真姫「私は海未と一緒のクラスで勉強したかったし!」
真姫「海未と一緒に行事に参加したかった!」
真姫「海未と一緒に修学旅行も行きたかった!」
真姫「分かる?一緒に行きたかった人に置いてけぼりにされた気持ちを!」
真姫「一緒に行きたかった人を置いていかなきゃならなかった気持ちを!」
真姫「穂乃果やことりに嫉妬したことさえあった!」
真姫「それでも仕方ないことなんだって自分に言い聞かせた……」
真姫「なのに……なのに……!」
真姫「また海未は私の先を行ってしまう……!」
真姫「私も海未と一緒に卒業したかった……」
真姫「何で1ヶ月しか違わないのに、こんな思いをしなきゃならないの!」
真姫「いつも、いつも海未はずるい……ひっく」
真姫「うわああああああああん!」
海未「真姫……」
ひとしきり泣いた後、私は海未に介抱されていた
海未「落ち着きました?」
真姫「うん……」
今まで我慢してきた、貯めこんでた想いを爆発させてしまった私は
恥ずかしすぎて海未の顔を見ることが出来なかった
それでも海未は、私が泣き止むまでずっと私を抱きしめてくれて
泣き止んだ後もぎゅっと手を握ったまま、私が落ち着くのを待ってくれた
この優しさに、私は何度も救われてきた
その優しさに、もっともっと甘えたくなる
だからこんなことを言ってしまったのだろう
真姫「ねぇ、海未」
海未「なんですか?」
真姫「1人に、なりたくないの……」
真姫「今日はずっと、海未と一緒に居たい……」
そう言うと、海未は優しい笑顔でこう言った
海未「なら、私の家に行きましょうか」
・園田家
海未「どうぞ」
真姫「お邪魔します」
海未「今日は両親が留守にしているので気を使わなくても良いですよ」
真姫「そう……」
真姫(そういえば、海未の部屋に入るのって初めてかも)
海未「すいません、急な話だったので部屋を掃除していなくて」
真姫「構わないわよ。私が押しかけているようなものだし」
海未「お茶、淹れてきますね」
真姫「えぇ」
真姫「参考書だらけ」
合格発表の直後なんだし当然よね
受験勉強頑張ってるって言ってたし
そうやって机の上にある参考書の山を見てたら、
1冊の赤本を見つけてしまった
真姫「えっ、この大学って」
ガチャ
真姫「!?」
海未「お待たせしました。お茶請け探すのに手間取ってしまって」
真姫「あ、ううん。全然待ってなかったわ」
海未「?」
海未「あ、すいません。全然片付けてなくて」
海未「試験自体はとっくに終わってたんですけどね」
海未「どうも燃え尽き症候群というか」
真姫「海未でもそうなるのね」
海未「えぇ」
どうしよう、聞くべきか
いや、別に合格したんだし聞いても問題ないのだけど
ただ、海未の真意を測りかねているから……
だって……だってあの大学って……
そう逡巡しているうちに海未が口を開いた
海未「そうだ、ご飯なんですけど」
真姫「へ?あ、ああ。何でも良いわよ」
海未「実は両親から夕飯代を頂いているので店屋物を頼もうかと」
真姫「あ、うん分かったわ」
結局、海未に何も聞けないまま時間だけが過ぎていった
海未「時間も遅いので寝ましょうか」
真姫「そうね」
真姫「……ねぇ、一緒に寝て良い?」
海未「ふふ、今日の真姫は甘えん坊さんですね」
真姫「なっ、良いじゃない別に!」
海未「はい、どうぞ」ポンポン
真姫「ん……」
海未「こうやって真姫と一緒に寝ることになるなんて」
海未「オトノキに入った頃には想像もしてませんでした」
真姫「そりゃ私と海未が出会ったのは私が入学してからなんだから当たり前じゃない」
海未「それもそうですね」
真姫「……ねぇ、海未」
海未「はい?」
真姫「私ね、卒業式で送辞を読むことになってるんだけど」
海未「はい」
真姫「完成させられないの」
真姫「ううん。本当はほとんど出来てる。最後の一文くらいだし、何を書くかも決まってるの」
海未「では何故?」
真姫「覚悟が決まってないから。これを完成させたら3年生は卒業しちゃうって」
真姫「もし私が送辞を完成させなかったら卒業式は中止になるのかな?って考えたこともあったわ」
真姫「普通は代役を立てるだけなのにね。おかしな話よ」
真姫「それに……大好きな3年生の門出なのに、中止を願う自分が凄い嫌だった」
真姫「海未だって、大学合格して他にも穂乃果やことりも」
真姫「皆次のスタートが待ってるのに、そんなの邪魔出来るわけないじゃない……!」
真姫「自分でもどうしたら良いのか全然分からなくて……」
真姫「もがいて、苦しんで、全てを忘れる為に音楽室に篭った」
真姫「でも結局答えは見つからなくて」
海未「それで、私にメールを送ったんですね」
真姫「うん……」
真姫「海未の顔見たら吹っ切れるんじゃないかって」
真姫「でも逆だった」
真姫「海未の顔見たら、我慢出来なくて……」
真姫「ねぇ、私どうしたら良いの?」ポロポロ
海未「真姫……」
真姫「ごめん、今は少しだけ泣かせて」
海未「私の胸ならいつでも貸しますよ」
真姫「うん、ありがと……」
【Side UMI】
真姫「すぅ……」
海未「泣き疲れて寝てしまいましたね」
海未「しかし、そうですか」
海未「真姫はそんなことを……」
海未「こればかりは数学のように解があるというわけではないので難しいです」
海未「ふむ……」
海未「こういう時はやはり、頼るべきですかね、年長者を」
prrrrrr
海未「あっ、もしもし、夜分遅くにすいません」
海未「今大丈夫ですか?少し相談事がありまして」
海未「はい。こういう時頼りになるのはやはりあなたかと――絵里」
絵里「やだ、久しぶりに電話してきたと思ったらどうしたの?」
海未『はい、実は』
絵里「あ、そうそう。受験の方はどう?上手くいった?」
海未『え?あぁ、はいお陰様で無事に合格しました』
絵里「本当!?おめでとう、海未」
海未『あ、ありがとうございます』
絵里「これはお祝いパーティーしなきゃね!」
海未『え、えぇ。それはありがたいですが……』
海未『ってちょっとこちらの話を聞いて下さい!』
絵里「あーごめんごめん。久しぶりに海未の声を聞いたら嬉しくなっちゃって」
海未『もう……』
絵里「それで、相談事って?」
海未『実は……』
絵里「なるほどね」
海未『はい。こればかりは本人の気の持ちような所もあるので』
絵里「んーそんなに難しく考える必要はないと思うけどなぁ」
海未『そうですか?』
絵里「ほら、真姫って結構さみしがりやなとこあるし」
海未『でも、絵里たちが卒業する時の真姫はここまで酷くは』
絵里「うーんとね、真姫が1番嫌なのは自分の先輩が卒業することじゃなくて」
絵里「海未が居なくなることだと思うのよ」
海未『私が、ですか?』
絵里「そ。私たちが卒業した時はまだ海未は卒業しないわけだし」
絵里「それに、なんやかんや真姫はいつも海未のことばかり気にしてたしね」
海未『そ、そんなこと!』
絵里「あら、気付いてなかったの?」
絵里「どう見たって真姫の海未を見てる眼は他の子を見るそれとは違ってたわよ」
海未『うぅ……』
絵里「それに、薄々気付いてたからこそあんな“志望校”にしたと思ったんだけど?」
海未『それは……そうですけど』
絵里「あなたの気持ちを伝えなさい。真姫は、あなたを求めてるのだから」
海未『そう、ですね。決心がつきました』
絵里「ふふ、それでこそ海未よ」
海未『ありがとうございます、絵里。ちなみに』
絵里「ん?」
海未『絵里には、卒業する時に別れを惜しむような、離れたくないと思った人って居たんですか?』
絵里「あーそれ私に聞いちゃう?」
海未『はい?』
絵里「いやー、そうかー気付いてなかったかー。そうよね、海未って鈍感だものね」
海未『あの、絵里?』
絵里「いいのいいのー。まぁそうなんだろうなとは思ってたし」
絵里「でもきっぱり諦めたのに1年経った今頃になってトドメ刺しに来るとか海未って案外Sね?」
海未『な、何の話ですか!?』
絵里「ニブチンの海未には教えてあげませ~ん」
海未『ちょっ、絵里!?』
絵里「それよりも真姫のこと、頼んだわよ?」
海未『あ、はい、それは』
絵里「卒業しても、私の可愛い後輩であることには変わりないんだから」
海未『絵里……』
絵里「あ、そうそう。卒業式の日、皆予定空いてるから集まれそうよ」
海未『本当ですか!?』
絵里「えぇ。詳しいことはまたこっちから連絡するから」
海未『はい、分かりました。それでは絵里、今日はありがとうございました』
絵里「えぇ、頑張ってね」
海未『はい。おやすみなさい』
絵里「おやすみ、海未」
ピッ
絵里「ほんと、世話の焼ける後輩なんだから」
希「お~い、絵里ち~、どしたん?」
絵里「希。なんでもないわよ」
希「ふうん?その割には眼が赤いみたいやけど?」
絵里「ちょっとコンタクトがね」
希(いや、絵里ちコンタクトつけてないやん)
絵里「それよりもう時間じゃない?」
希「おぉ!そやった!早くしないとにこっちのオールナイトイベント始まってまう!」
絵里「ほら、急ぎましょ」
希「あぁ~絵里ち待って~」
【Side UMI】 End
物音がして私は目が覚めた。
目を開けるとそこには電話片手に窓の外をぼんやり見ている海未の姿が。
真姫「んっ……海未?」
海未「真姫、起こしてしまいましたか?」
真姫「ううん、大丈夫」
真姫「電話してたの?」
海未「えぇ。人生の先輩にアドバイスを貰いに」
真姫「?」
海未「真姫、少し聞いてもらいたいことがあるんです」
真姫「どうしたの?急に改まって」
海未「先ほど音楽室で、大学はここから通える範囲と言いましたが」
海未「あれは嘘なんです」
真姫「えっ?」
海未「ここから通えないこともないのですが、いつまでも親元で甘えるわけにもいかないと」
真姫「そんな、じゃあ……」
海未「地元を離れるのは辛いですが、幸いオトノキも私たちの活動によって軌道に乗りましたし」
海未「春からは一人暮らしを始めようと思うのです」
真姫「そ、そう。でも、仕方ないわよね。うん、仕方ない」
海未「……」
海未「それで、1つ提案なのですが」
真姫「提案?」
海未「その、なんと言いましょうか……」
海未「~~っ」
海未「ま、真姫が卒業したらで構いませんので、い、いっしょに暮らしませんか?」
真姫「……」
真姫「はい!?」
真っ赤な顔の海未のカミングアウトに私は思考が追いつかなかった。
海未「だ、駄目ですか!?」
真姫「いやいやいや、ちょっと待って。え?い、一緒に暮らす?」
海未「わ、私も真姫と同じで一緒の時間を過ごしたいんです」
海未「その、一緒に朝ごはんを食べて、一緒の大学に行って、一緒に帰ってくる」
海未「そんな生活をできたらなと思いまして」
海未「両親も説得しました」
真姫「そ、そう」
うちの両親説得しないと意味ないじゃない……。
ん、あれ?
“一緒の大学”って……
真姫「えっと、海未。今一緒の大学って言わなかった……?」
海未「はい」
真姫「ということはつまりあの大学受けたのって」
海未「あ、もしかして机の赤本見てしまいましたか?」
真姫「うん、ごめん」
海未「その、良かったら真姫と一緒の大学に行けたらなって」
海未「でも真姫は将来お医者様になる目標があるから大学も医学部のあるとこかなと」
真姫「それで、あの大学を受けたと?」
海未「はい。聞いたところによりますと、あそこの医学部は凄い有名らしくて……」
真姫「いや、有名なんてもんじゃないわよ」
真姫「まっとうな医者の道進みたければ皆あそこ目指すわよ」
海未「あ、私は当然医学部ではなくて普通に文学部なんですけどね」
真姫「あそこ文系学部でも相当な倍率だったと思うんだけど……」
海未「頑張りましたから」エッヘン
真姫「もう、呆れるわ」
海未「えぇっ、何でですか?」
真姫「そんな大事な話、何で私に相談もなく1人で進めちゃうのよ」
真姫「ましてや進路なんて」
海未「あまり期待させて駄目だった時のことも考えると……」
真姫「あなたって人はほんと……」
真姫「えいっ」モッギュー
海未「わわっ」
真姫「海未。私、頑張るわ」
真姫「海未の居ない1年間、頑張るわ」
海未「真姫……」
真姫「それで海未と一緒の大学行って、一緒に暮らすの」
海未「はい、待ってます」
真姫「ふふふ、何か目標が出来たら凄いやる気が出てきたわ」
海未「その前に先ずは送辞を完成させましょう」
真姫「ふふ、そうね」
真姫「ねぇ、海未」
海未「なんですか?」
真姫「ありがと。大好きよ」チュッ
海未「……っ///」
海未「私も、大好きですよ///」チュッ
それから1年間、私は残された高校生活を一生懸命楽しんだ
海未の居ない高校生活はそれでもどこかポッカリ穴の空いた感じはしたけど
凛「まーきちゃん!」
花陽「真姫ちゃ~ん!」
凛と花陽の2人が居てくれたから、充実した時を過ごすことが出来た
勿論、受験勉強も頑張ったわよ
私の実力的に大丈夫なはずだったけど、それでももしものことがあったら
海未に顔向け出来ないし……
後は両親の説得……と意気込んで話してみたは良いものの
流石地元の名家の跡取り娘だけあって、私のパパとママも妙に信頼度が高くて
園田さんのとこの娘さんなら心配はいらない!
だって
むしろ私の方が心配されたわ
海未に負担かけないようにって
失礼しちゃうわね!
やがて季節は巡り、秋から冬、そして次の春へ――
・◯×大学 キャンパス
私は1人、キャンパスを歩いていた
新入生のオリエンテーションがあるわけでもなく、
ただこれから自分の通う場所を見ておきたかったから
でも、やっぱり1人は寂しい
なので、メールを送る
と言っても、向こうは忙しいだろうしメールを見てもらえるかは分からないけど
見てもらえたところで、このメールに返信が来るかも分からない
なんて――
そう思ってたらすぐに返信が来た
???「今日は、音楽室じゃないのですね」
真姫「だって私音楽室の場所分からないもの。そもそもこの大学にあるの?」
???「実は私にも分かりません」
真姫「何よそれ」
???「広いキャンパスですからね。私にも分からないものはあります」
すぐ後ろから聞こえる愛してやまない人の声
ずっと、この声が聞きたくて、私は頑張ってきた
真姫「海未……」
海未「はい、お久しぶりです、真姫」
真姫「海未!」ダキッ
海未「よしよし」ナデナデ
振り返るとそこには少し大人っぽくなっている海未が居た
でも根本は変わらない
優しくて、お節介で、恥ずかしがり屋で、不器用で、
いつも私の先を行く、ずるい人
そんな海未のことが、私は大好きです
終わり
以上です
大学は医学部と文学部が同じキャンパスという
トンデモ設定な架空の大学ということで
このSSまとめへのコメント
すごく良かった