【ラブライブ】真姫「その罪は何色か」【仮面ライダーW】 (153)

更新遅め。
地の文・台詞混合。
オリキャラあり。

前作あり。
【ラブライブ】海未「私の罪を」【仮面ライダーW】
【ラブライブ】海未「私の罪を」【仮面ライダーW】 - SSまとめ速報
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以上のことが大丈夫な方はお付き合いください。

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ーーーーーー



「ねぇねぇ」

「なに?」

「知ってる?」

「なにを?」

「この病院の噂」

「噂? どんな噂?」

「この病院に出るんだって」

「で、でる……?それって……」

「お化け……とはちょっと違うんだけどねーー」



ーーーーーー

『Bの誇り/彼女の選択』

ーーーーーー



9月。
新学期も始まり、進路について悩む人も多くなるこの時期。
周りからは、この間の模試の結果を嘆くため息も聞こえてくる。

そんな中、




真姫「はぁぁぁぁ……」




私も大きなため息を吐いていた。



花陽「真姫ちゃん?」

凛「どうかした?」



そんな私の様子を見て、寄ってくる友人二人。

花陽と凛だ。
花陽は心配そうな顔で、凛は不思議そうな表情で、私のことを見てくる。



花陽「も、もしかして……えっと……」

凛「模試?」



言いにくそうに言葉を濁す花陽の代わりに、そう尋ねてくる凛。
それには首を横に振る。

そうじゃないわ。
ちなみに、模試はA判定だし。



花陽「さ、さすが、真姫ちゃん……」

真姫「あ、当たり前でしょっ///」



素直に褒められると……うん、照れるわね。



凛「じゃあ、なになに? もしかして、恋する乙女のーー」

真姫「そんなわけないでしょっ!!」ベシッ

凛「んにゃ!?」


痛いにゃ!
アホなこと言ってるからよ!

からかってくる凛にチョップをひとつ。
それから、いつものように軽口を言い合う私と凛。

はぁ、まったく。
この時期に、この娘はなんでこんなに能天気なのかしら。

……まぁ。
推薦、というか大学から直々に声がかかってれば余裕も出てくるってものなのかしらね。



花陽「……えっと、それで?」



なにか悩み事?

ずれかけた話を元に戻すように、花陽が聞いてくる。
えっと……。
ちらりと凛を見る。

……まぁ、大丈夫かしら。
どうせ噂なのだし。
そう考えて、私は例の噂について相談することにした。



真姫「……話し半分に聞いてよ?」



そう。
前置きをしてから。





真姫「うちの病院にーー」




真姫「ーー吸血鬼が出るって噂があるのよ」




ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー



花陽「ほわぁぁ……」

凛「にゃぁぁ……」

真姫「はぁ、なんでこうなるのよ」



噂について相談したその日の放課後。
その建物を見上げる花陽と凛の横で、またもため息を吐いた。

というわけで、



凛「ここが……」

花陽「西木野総合病院……」



うちの病院に来てしまっていた。
行動が早すぎる……。

凛はともかく、花陽まで。
……そうは思ったけど、ここ最近の花陽を見ていると、意外でもないかと思い直した。



凛「ほぇぇ……」

真姫「いつまで呆けてるのよ」

花陽「えっと、ほら、真姫ちゃんのお家には行ったことあるけど、病院には中々来る機会なかったから」

真姫「そういえばそうね」



よっぽどご近所とかじゃない限り、総合病院なんて縁なんてないもの。
ここに来たことがないならそれが1番よ。




真姫「とっとと行くわよ」



一応パパに連絡はしたとはいえ、今は業務中だ。
ただの噂調査に時間なんて使ってられないもの。



花陽「ま、まって、真姫ちゃんっ! ほら、凛ちゃん!」

凛「あ、うん!」



私の後ろを追いかけてくる二人の姿を確認して。
私達は病院の中に歩を進めた。



ーーーーーー

ーーーーーー



ナースステーションを通り、その奥へ進む。
昔から出入りしてるから、慣れたもので。
顔パスってやつね。

途中、ここで働いている先生や看護師の人たちに何度か声をかけられる。
大体の人は好意的で、私もそれにできるだけ明るく返事を返す。

…………。

後ろで、物珍しそうな顔で私を見てた二人。
特に、笑いを堪えてた凛はあとでぶっ飛ばす。



ともかく、なんだかんだで病院に入って10分後。
私達は応接室に辿り着いた。

って!



凛「…………」

花陽「…………」



真姫「…………」チラッ



なんでこの二人、ガチガチなのよ……。




ーー ガチャッ ーー



りんぱな「「っ」」ビクッ



応接室の扉が開く音。
現れたのはパパ……じゃなくて、




「お嬢さん、御無沙汰しております」



物腰の柔らかい男性。
キッチリと切り揃えられた髪に清潔感のある白衣。
確か40代だったかしら。
年齢よりもずっと若く見えるその男性は私のことをお嬢さんと呼んで、笑った。

……うぅぅ。



真姫「その呼び方」

「え?」

真姫「やめてもらってもいいですか……緑先生」



緑「……そうは言われましてもね」



立場上仕方ないんです。
そう言って、緑先生は人の良さそうな笑顔を見せた。


緑先生。

この病院に勤務する医師で、パパとは同期だって話。
昔、パパが家に招待していたこともあったから、よく知ってる人。
結婚もしておらず、子供もいないって話で、私も色々と買ってもらった記憶がある。
今は確か……それなりに偉い立場にいる、っていうのは聞いたけど。



緑「……それで、お嬢さん……こちらはお友達ですか?」

りんぱな「「!」」



と話は二人のことに。



真姫「えぇ……学校のね」



それだけを答える。

スクールアイドルもやってたんだけど。
まぁ、それはいいわよね。
そういうことには詳しくないだろうし。

と思ったら、



緑「あぁ、存じ上げてますよ。確か、スクールアイドルでご一緒に活動されてたーー」

真姫「って、なんで知ってるのよっ!」

緑「院長が嬉しそうに話されてましたから」

真姫「っ///」



そう言って、笑う緑先生。

もう!
パパなに話してるのよっ///


凛「ぷぷっ、真姫ちゃん、真っ赤にゃ」ボソッ

真姫「っ」ゲシッ

凛「にゃにゃっ!?」



茶化す凛の脇腹にチョップを入れた後。
改めて、二人を紹介する。
凛は今ので緊張がとけたようでいつもの調子だったけど……。



花陽「こ、こいずみはなよっ、ですっ」

真姫「ガチガチね」



花陽は相変わらずだった。
こういうとき人見知りよね、花陽って。


緑「それで今日は……」

真姫「っと、そうだった」



やっと本題。
パパにも簡単にしか説明はしてなかったから、ちゃんと説明しないといけないわよね。

まぁ、ちゃんとと言っても……。



真姫「……何て言ったものか……」

緑「……?」

真姫「えぇと、ほらーー」




凛「吸血鬼の噂を調査しにきました!」




ド直球だった。



真姫「ちょ、凛!?」

凛「だって、そうでしょ?」

真姫「そ、それはそうだけど…………」



あまりにも……あまりにもだわ。
そもそも噂だって前置きもして、まだ不確定なものだってことも話したはずなのだけど。



真姫「えっと……」



ちらりと花陽を見る。
暴走し始めそうな凛を止めてって意味も込めた視線……だったんだけどね。



花陽「わたしたち……こういうものです」スッ



はい。
そうだったわ。
これに関してはこの娘もノリノリだったわね……。

花陽が差し出した名刺らしきものには、




『怪事件解決します!』




例のサイトに書かれていたものと同じフォントで、そう書かれていた。


真姫「あー、もう……」



思わず頭を抱える。
ブレーキ役不在っていうのがこんなに大変だなんて……。

雪穂ちゃんを連れてくるべきだった、なんて馬鹿なことを考えながら、緑先生の苦笑を想像してーー



緑「……例の噂ですか」

真姫「……え?」



返ってきた言葉に驚く。
なぜなら、その言葉が少し神妙な空気を帯びていたから。

それが病院内で噂されているのは、私も知ってはいた。
けど、パパやママに聞いても、どうせすぐ無くなるものだから、と笑っていたから。
私もあまり深刻には捉えていなかったんだけど……。



緑「…………」

真姫「…………緑先生?」



なにか、変。
もしかして、私が思ってるよりもーー






「先生」




真姫「っ」



突然聞こえた声に、体が跳ねた。
それは、花陽たちも同じだったようで、声がした方、応接室の入り口の方をばっと反射的に見た。

そこにいたのは、一人の看護師。

無表情で、どこか冷たい印象の瞳。
けれど、顔は絵里……いえ、それよりも整っていて、まさに美人って言葉が似合うような女性だった。

最近入った人かしら?
見たことない人……。



緑「あぁ、真白さん」

真白「…………」



真白さん。

そう呼ばれた彼女は、ペコリと丁寧なお辞儀をした。
その動きもどこか機械的で……。



真姫「……っ」



って、ダメね。
ここの人を悪く思うなんて……。
ブンブンと頭を振って、嫌な考えを追い出す。


真白「渡部さんが傷が痛むと」

緑「あぁ、そうか」



わかりました。
すぐ行きますよ。

緑先生の言葉を聞いた彼女は、またお辞儀をして部屋からいなくなった。



緑「……ということで、申し訳ありません。お嬢さん」

真姫「別に大丈夫です」



大丈夫、というより当然。

ここは病院。
患者さんが第一だもの。



真姫「私達は勝手に聞いて回るから」

緑「……はい。そうしていただけると」

真姫「診療時間内には帰るから、パ……お父さんにもそう伝えといて貰えますか?」

緑「はい。そのくらいはお安いご用ですよ」



お二人もお嬢さんをよろしくお願いします。
緑先生は、そんな余計なことを言って、応接室から出ていった。




真姫「ふぅ……」



軽く息を吐いて、



真姫「てい」ベシッ

凛「…………にゃ!? なにするにゃ!」

真姫「ニヤニヤしてるからよ」



隣でニヤつく凛に一喝。

……さて。
時計を見ると、診療時間はあと一時間半ってところかしら。
早く回らないと、また来ることになるだろうし。



真姫「さっさと行くわよ」



早速立ち上がる。
モタモタしてる時間はないわ。



花陽「うん、そうだね」

凛「……そうだねぇ、行こっか」




りんぱな「「お嬢さん♪」」

真姫「うっ///」




もうっ!!
だから、やだったのよっ!



ーーーーーー

本日はここまで。
明日も出来たら更新します。

本日更新難しいです。
申し訳ない。

少しだけ更新。

ーーーーーー



「真姫ちゃん、ばいばい!」

真姫「はいはい……って、病院内は走らないの!」

「は~い」



病院内での聞きこみの最中のこと。



凛「……真姫ちゃんが子供と親しげに話してるっ!?」



そんなことで驚かれた。



真姫「…………わるい?」

凛「わ、悪くはないけど……ね、かよちん?」

花陽「うん。意外、かな?」



花陽まで……。

確かに私は子供苦手だけど。
直感とか感覚で動くし、後先も考えないし。
でも、



真姫「医者になるんだもの」



ぽつりと呟く。

子供が苦手とか言ってられないわ。
どんな患者にもちゃんと接してちゃんと診る。
それが医者の使命のはずだから。

……恥ずかしいから口には出さないけれど。



凛「真姫ちゃんも成長したんだね」

真姫「なんで、凛が得意気なのよ」

花陽「あはは……」



そんないつものやり取りをしていると、



「あら、真姫ちゃん!」

真姫「っ」



名前を呼ばれ、振り返る。

そこにいたのは、少し恰幅のいい女性。
よく見知った彼女に返事を返す。



真姫「えぇと、こんにちは。青子さん」

青子「ふふっ、元気そうね」



私の顔を見て、彼女は笑った。
五十過ぎには見えないパワフルな笑顔だ。



凛「……真姫ちゃん」

真姫「なに……?」

凛「このおばちゃんは……?」

真姫「おばちゃんって……」



小声で聞いてくる凛に苦笑を返す。
まぁ、確かに彼女を形容するとしたら、気のいいおばちゃん、なんだろうけど。



青子「あら、そっちの二人は……」

凛「あ、えっと」

花陽「私たち、真姫ちゃんの友達で」

青子「知ってるわよぉ、なんだっけ、スクール……」

花陽「アイドル、です」

青子「そうそう。スクールアイドル! うちの娘も一時期はまって、追っかけてたみたいだから! 凛ちゃんと花陽ちゃんでしょう!」

凛「はい!」

花陽「は、はい」

青子「いやぁ、やっぱり可愛いわねぇ……真姫ちゃんと同い年よね? いやぁ、いいわねぇ! って、あ、そうそう、真姫ちゃん!」

真姫「え、えっと」

青子「前はサインありがとねぇ! うちの娘も喜んでたわよぉ」

真姫「そ、それは秘密にっ///」

青子「あら? そうだったかしら? ごめんなさいねぇ、忘れっぽくて!」

真姫「~~~っ///」



そういうことしたの恥ずかしいから黙っててって言ったのに!!
もう!
口軽すぎよ!

隣をちらりと見ると、凛がニヤニヤしてた。
後でハッ倒す……。



青子「あ、そうそう。ところで、真姫ちゃんは今日はどうしたの?」



一通り話し終えて一段落ついたのか、青子さんはそう切り出した。

って、そうね。
話好きな彼女なら、例の噂について詳しく聞けるかもしれないわ。



真姫「……えぇと、青子さんは……吸血鬼の噂って知ってますか?」



緑先生の様子には多少引っ掛かってはいたけど、とりあえずはストレートに聞いてみる。
というか、彼女にはそう聞いた方がいいだろうし。



青子「あら! 真姫ちゃんも知ってるのね! ま、当然ね、院長先生からも聞いてるんでしょうから」



やっぱり知ってるみたい。

青子さんの言う通り、私もパパから話を聞いた。
院長であるパパが知ってる話だし、それなりに噂されてるってこと。

事実、さっきまでの聞きこみでも知ってる人は多かった。
患者さんでも知ってるみたいだし。
ただ、詳しいことは知らないみたいで、大体の人が吸血鬼が出るって話しかしていなかった。



青子「あら、なに? もしかして?」

花陽「あ、はい! 私たち、こういう活動もしてるんです……」



例の名刺を渡された青子さんは、探偵みたいね、なんて言って、どうやらテンションがあがっているみたい。
生き生きとした様子で、噂について語り出した。


「噂がされ出したのは、そうねぇ、ここ1ヶ月くらいのことよ」

「うちに入院してる小学生の女の子が言い始めたのが始まりね」



「病室に吸血鬼が出た!」



「そう言って、夜、ナースステーションに泣きながら駆け込んできたの」

「その時、私もちょうどいてねぇ」

「……えぇ、どうしてもその子が怯えるもんだから、病室に着いていったのよ」

「私とあと二人で」

「……そう、こんな世の中だから。不審者かもしれないじゃない? だから、念には念をってことでね」



「結論から言うと、そんなのどこにもいなかったわ」



「…………ただ」

「………………床にね、痕があったのよ」

「小さな染み程度だったけど、流石に看護婦やってれば分かるわね。あれはーー」




「ーー血の痕だったわ」




「…………」

「それからね、入院してる患者さんで貧血の症状を訴える人が増えたのは」

青子「それで、患者さんの間でも話題になってね」

青子「患者から血を吸う吸血鬼が出るんだって」



真姫「…………」

花陽「…………なるほど」



青子さんの話を聞いて、花陽が頷いた。

聞きこみの時とあんまり内容は変わらなかったわね。
事の発端が聞けただけいいかしらね。



真姫「…………ありがとうございました。それじゃあーー」

青子「ふふっ、待ちなさいな、真姫ちゃん」

真姫「え?」

青子「これで終わりとでも?」



花陽「! まだなにかあるんですか!!」

真姫「っ」ビクッ



意味ありげな発言に食いつく花陽。
び、ビックリした……。



凛「凛はこっちのかよちんも好きだよ」

真姫「でしょうね」



小声でやり取り。
予想以上の食いつきを見せる花陽を見て、得意気になったようで、青子さんは若干もったいつけながら話を続けた。


「…………貧血の症状になるのは、決まって夜」

「しかも、貧血を訴えた患者さんの病室には、必ず血の痕が残ってるのよ」

「…………聞いた話? いいえ! ちゃんと私はその現場を見てるわよ!」

「と、まぁ、私も現場に遭遇することが多かったからねぇ。ちょっとこの噂について調べてるのよ。おばちゃんの好奇心ってやつね。それで、あることに気がついたの!」

「ふふっ、知りたい?」

「…………花陽ちゃん、反応がいいわね! おばちゃん、そういう子好きよ!」

「いいわ。教えてあげる」

「……実は騒動がある夜には、共通して院内に残ってる人物が何人かいるの」

「夜勤や当直、残業とか院内にいる理由は色々みたいだけど」

「えぇ、私もその一人ね」

「…………こうも貧血の症状を訴える患者さんが多いとね。やっぱり考えちゃうわよ」

「吸血鬼かどうかは置いておくとしてもーー」





「ーー院内に残っている誰かが、患者さんの血を抜き取っているんじゃないかってね」




ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー




凛「夜の病院……ワクワクするにゃ!」

花陽「うぅぅぅ……ちょっと怖いよぉ」

真姫「…………」

凛「大丈夫だよ、かよちん」

花陽「凛ちゃん?」

凛「かよちんは凛が守るから」キリッ

花陽「凛ちゃんっ」トゥンク

真姫「…………」



真姫「なにこれ」




夜の病院。
とある空き病室に私たちはいた。

というのも、例の噂について青子さんから聞いた後、花陽が彼女の案、というか推理に同調してしまったことが原因だった。

それを解明する!

そう意気込んだ花陽と今日夜勤あるからという青子さんに押し切られる形で、私はパパに連絡を取った。
こんなバカなことで許可出るわけないわ。
……そんな私の予想は裏切られ……。



真姫「はぁぁ、頭いたい」

凛「大丈夫? 薬もらってくる?」

真姫「…………遠慮しとく」


凛「……ところで、青子さんが話してた例の人たちは今日もいるの?」

真姫「…………あぁ」



凛に訊ねられて、手元のメモを見る。
青子さんから聞いた『騒動のときに院内にいる職員』の一覧だ。
そこには彼女を含めて6人の人物の名前があった。

そのなかには、



花陽「昼間の……緑先生の名前もあるんだね」

真姫「……えぇ」



手元のそれには、緑先生の名前もあった。
それからあの真白って看護師の名前も。

あとは、



凛「黒崎さんに、藤さん、あとは……紅花さん」

花陽「みんな、知ってる人?」

真姫「……まぁ、そうね」



この3人のことは知っていた。

黒崎さんはこの病院の副院長。
パパよりもずっと年上で、パパと同じ心臓外科医。
ただあまりパパのことをよく思ってないみたい。
…………正直私もあまり得意じゃない。

藤さんは2、3年前にこの病院に来た看護師。
にこにこと愛想もよくて、ママ曰くピリピリした空気を和ませてくれる女の子、だそうだ。
たしか、結構若いって聞いた記憶がある。

紅花さんは内科の女医。
所謂エリート街道を進んできた人で、きつい印象の人だったのを覚えてる。



真姫「…………」

凛「真姫ちゃん? どうかした?」

真姫「…………なんでもないわ」



噂について詳しく教えてくれた青子さんの手前言わなかったけれど、正直な話、ここに名前がある人たちがそんなことをするなんて思えない。



患者さんの血を抜き取る、なんて。



そんな意味のないこと……。
第一、メリットがないだろうし。

だから、ここまで付き合ってもらって悪いんだけど……。







「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」






真姫「っ!?」


凛「いまの!!」

花陽「ひ、悲鳴……?」

真姫「っ」



なに?
夜の病院、悲鳴……?

混乱する頭で考える。
何が起こってるの?
まずは当直の先生にーー





凛「いってくる!!」




混乱する私を尻目に、凛が立ち上がった。



真姫「は!? なに言ってるのよ!」

花陽「そ、そうだよ! 凛ちゃん! まずは、えっと、警備員さん?」

真姫「いえ、当直の先生たちに連絡して……」




凛「大丈夫にゃ!」




私と花陽の言葉を遮るように、凛はそう言った。
その手には、



真姫「それ、仮面ライダーの!」

凛「うん、『ロストドライバー』! 念のために、持ってきたんだ」

花陽「もしかして、凛ちゃん……」



凛「『ドーパント』でも吸血鬼でも……凛が倒すから!」




真姫「……くっ」

凛「? どうしたの、真姫ちゃん?」

真姫「不覚にも、凛がかっこよくみえちゃったわ」

凛「不覚にもって!?」



ま、そうね。
凛だけに任せるわけにもいかないわ。



真姫「行くわよ」

凛「え? でも……」

真姫「私を誰だと思ってるの?」

凛「だれって……」




真姫「この病院の次期院長よ!!」




ーーーーーー

本日はここまで。
……風都探偵面白くて困る。

もう少ししたら少し更新予定。

ーーーーーー



真姫「ここよ!」



悲鳴やその後の音を頼りに辿り着いた病室。
そこには、気を失った女性が倒れてて。

窓際。
カーテンが揺れて、ひんやりとした風が入ってくる。
そして、月明かりに照らされて、




『……………………』




『そいつ』は立っていた。
暗くてよく見えないけど、そのフォルムはまさに……。



花陽「き、吸血鬼……!」

『………………』



花陽の声に反応したのか、吸血鬼は花陽の方を向いた。



真姫「っ、凛!」

凛「うんっ!」



凛がそいつに向かって駆け出した。
腰には『ロストドライバー』、手には『ガイアメモリ』。
凛はそのままそいつめがけて跳び、




『サイクロン』




凛「変身っ!」




『サイクロン!!』



ーー バリンッ ーー



窓を突き破って、その場から消えた。


真姫「花陽!」

花陽「う、うん!」

真姫「凛のこと追って!」

花陽「真姫ちゃんは!?」



正直、花陽だけを向かわせるのは抵抗がある。
だから、追いかけたい、ところではあるけど。



真姫「…………」

花陽「…………うん」

真姫「ありがと」



視線だけでそれを察してくれた花陽。
すぐに向かうから。
それを聞いて、花陽は病室のドアから出ていった。




真姫「っ」



それを確認してすぐに取りかかる。

目の前の女性。
意識はない。

じゃあ、まずは脈。
…………ある。
それから呼吸も……してる。

……倒れたときに頭を打ったりは……。



真姫「目立った外傷はなさそうだけど……」



これは外見だけでは判断できない。
少なくとも頭部から血は出ている訳じゃないから……。



真姫「…………とりあえずは大丈夫かしら」



……いえ。
安易に判断はできないわ。
ともかく、誰か呼ばないと……!



ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー




サイクロン『ほっ!』スタッ



高いところから着地。
あの病室は三階だから、本来なら死んじゃってもおかしくない高さだけど、仮面ライダーに変身してる今ならなんてことない。

よしっ!
調子いい!
これなら、なんだってかかってこいにゃ!



サイクロン『かかってこい! 吸血ーー ベチャッ ーー






サイクロン『………………え?』




張り切って振り返ると、そこにはなにもいなかった。
…………いや、いた痕跡はある。
吸血鬼が着地したはずのコンクリートは…………。



サイクロン『血まみれ…………』




まるで、何かがそこで潰れてしまったかのように、血の池が広がっている。
これって、もしかして……。



サイクロン『…………さっきの……吸血鬼……?』


それを自覚した瞬間に、感覚が襲ってくる。

鼻を突く鉄の臭い。
暗くても分かる生き物が潰れた赤。
そして、



ーー ベチャッ ーー



サイクロン『っ』



足に感じるぬるりとした水の感触。

これが元は何だったか今となっては分からない。
だけど、今分かるのは……。



サイクロン『凛が……吸血鬼を……殺しーーうっぷっ……」



酷い吐け気を感じて、瞬間、




凛「っ、おぇ……っ……」



視界が戻った。
遮蔽物のなにもないクリアな視界に。
同時に、鼻にくる臭い、鉄の、血の臭い……っ。



凛「っ、はっ、はぁ……」



どうにか、耐える。
前の時、『マネー』ドーパントの時とは全然違う。
メモリをブレイクしたんじゃなくて……相手を殺した感覚。




凛「……さいあくにゃ……」



体に力がいまいち入らない。
……これ、ほんとにーー




花陽「凛ちゃん!」

凛「っ、かよち、ん……」



吐き気をどうにか堪えながら、病院のなかからやってくるかよちんを見る。
これ、かよちんが見たら絶体倒れちゃう……。
最初に考えたのはそんなこと。
だから、かよちんに近づかないで、って言おうとしてーー





ーー グチャァァァ ーー





ーー音が聞こえた。




凛「っ」



その音に振り返る。
凛の視線の先、あの血の池は無くなっていた。



凛「っ!?」



もう一度、 かよちんの方を向いたとき、





『……………………』






そいつはもう、かよちんの目の前に立っていた。




花陽「え……え……?」

凛「かよちんッ!!!」



駆け出す。
かよちんの方に向けてーー。



凛「変身ッ!!!」



『サイクロン!!』





サイクロン『かよちんに近づくなぁぁぁッ!!』ブンッ






『…………ーー ベチャァァ ーー





サイクロン『はっ、はぁ……はぁ』



攻撃は命中。
また吸血鬼は血の池に戻った。



花陽「り、りんちゃん……?」

サイクロン『……だい、じょうぶ?』

花陽「う、うんっ」



凛の後ろにいるかよちんに何もないことを確認する。
…………よかった。
けど、また……。

必死に殴った凛の拳は、真っ赤に染まっていた。
たぶん、顔や体にも……この赤はついているはず。

顔のそれを拭おうと、右腕で顔を擦ってーー




ーー グチャ ーー



サイクロン『え!?』




違和感。
拭ったはずのそれが、動いた。
拭った方向とは正反対に動いた。


花陽「り、りんちゃんっ!」

サイクロン『くっ、これ……!?』



必死に拭う。
けど、それは思ったように落ちてくれない。
それどころか、その赤は体を覆うようにして広がっていく。



サイクロン『っ、は、ぐっ……』

花陽「え、えっ!? な、なんで、凛ちゃんの体がーー」





花陽「ーー真っ赤になってくのっ!?」



まとわりついてくるのが分かる。
ベタ、ベタと気味の悪い音が体を包んでいく。



サイクロン『……こ、これ……いやにゃ……っ』



そして、同時に感じるのは、体から力が抜けていく感覚。
こ、これ……。



サイクロン『まず……い……』



音が耳元まで上がってきた。
視界もだんだん赤に染まって、意識がーー





花陽「凛ちゃんっ!!」






ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー



凛「……………………ん」



目が、覚める。
目の前にあるのは、白い天井。

…………って、あれ?
凛、いつ寝たんだっけ……?

ぼんやりした頭でゆっくり、思い出そうとしてーー




真姫「凛っ!」

花陽「凛ちゃんっ!!」



ーー モギュッ ーー



凛「にゃ、ぷっ!?」



その衝撃で、一気に覚めた。

い、いたいにゃぁ……。
目の前には、なぜか凛に抱きつく真姫ちゃんとかよちん。
って、あれ?



凛「なんで、凛…………あれ?」

凛「ここ、病院……?」


きょろきょろと周りを見て、やっと凛が病院のベッドに寝ていたことに気づいた。
それに、かよちんと真姫ちゃん、なんでこんな……?



「…………倒れていたのよ」

凛「……え?」



知らない声。
その声の主は、



「………………」



白衣を着て、メガネをかけた女の人。
…………えっと、誰?

そんな凛の思考を読み取ったようで、そのメガネの女の人はこう名乗った。




紅花「私は紅花。ここの内科医よ」



紅花……って?



凛「あっ……」



そうだ。
思い出した。
確か、例の事件があるときにいつも病院にいるお医者さんたちのうちのひとりだよね。



紅花「……なに?」

凛「え?」

紅花「……私の顔になにかついてるかしら」

凛「あ、いえ……」



…………な、なんだろう。
この人、ちょっと怖いというかきついというか……。

そんなことを考えていると、さっきまで凛に抱きついていた真姫ちゃんが立ち上がる。
目元をごしごしして…………ふふっ。



真姫「……なによ?」

凛「なんでもないよ?」

真姫「……っ、と、とにかく、無事でよかったわっ」



誤魔化すようにそう言う真姫ちゃん。
ごめんね、って言ったら、ほんとよって返された。

一方のかよちんはまだ凛に抱きついてて。
ごめんね、って言ったら、大丈夫って言ってもっと強く抱きつかれる。
…………うぅ、なんか罪悪感にゃ……。


凛「って、そうだ」

凛「凛は……一体……? 倒れてたって言ってたけど……」



さっきの言葉を思い出して、ちらりと紅花さんを見る。
すると、紅花さんはポツリと言った。



紅花「……拒絶反応ね」



拒絶反応……?
え、凛は一体なにに?



真姫「……紅花さん、それって……?」

紅花「どこかの馬鹿がABO不適合輸血をやらかした時のような症状が出ていたわ」

真姫「……っ」

紅花「……早期発見できたから、どうにか持ち直したみたいだけど」

凛「えっと……」



いまいち、分かんないんだけど……。
つまり、凛は、



凛「軽く、死にかけてたってこと……?」

紅花「そういうこと」

凛「…………」



実感はない、けど。
そっか、凛、殺されかけたんだ……。



紅花「とにかくしばらくは安静にしてることね」

凛「……え、で、でも、凛はーー」




紅花「死にたくなかったら」

凛「っ」ビクッ




紅花「大人しくしてなさい」



凛「…………」



その静かな迫力に、凛は何も言い返せなかった。




ーーーーーー



ということで。
凛はちょっとだけ離脱。

…………真姫ちゃんは調査続けるって言ってたけど。

…………まったく。
こういうときに、にこちゃんなにしてるにゃ……!



ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー




にこ「ねぇ、穂乃果」

穂乃果「ん? なに? にこちゃん?」



にこ「なに? ……じゃないわよ!」バンッ



穂乃果「お、おぉ!? なに、怒ってるの?」

にこ「そりゃ…………あんな話聞かせといて…………なに? あんた、また観光?」

穂乃果「…………えー、言ったじゃん!」




にこ「聞いてないわよ!」

にこ「ロケ終わりに、あんたに拉致られたからっ!」




穂乃果「…………あー」

にこ「…………」

穂乃果「うん、ファイトだよ!」

にこ「はっ倒すわよ?」

穂乃果「ご、ごめんっ!」


にこ「で?」

穂乃果「うん」

にこ「結局なに?」



にこ「なんで、にこは風都に連れてこられたわけ?」



穂乃果「……えっと、実は、穂乃果に協力してくれてる人から言われてさ」

にこ「!」ピクッ

穂乃果「その人がにこちゃんに会いたいんだって」

にこ「え~っ♪ にこにーに会いたいって……ファンの人~?」

にこ「今、オフだからそういうの、にこにー困っちゃーー「いや、そういうんじゃなくて。全然ファンじゃないよ」


にこ「ぬぅぁんでよ!?」


穂乃果「まぁ、会いたいって言ってるのは……」




穂乃果「『ジョーカー』のメモリを使ってる人に会ってみたい、らしいよ」

にこ「………………そう、そっちね」


にこ「んで、その人がいるのがここなわけ?」

穂乃果「まぁ、うん」チラッ

にこ「寂れたビリヤード場に呼び出すとか……なに? 結構ヤバイ人なわけ?」

穂乃果「えっと……呼び出されたのはビリヤード場じゃない方なんだけど」アハハ

にこ「…………? あぁ、こっちの…………?」

穂乃果「う、うんっ」

にこ「とにかく……危ない人じゃないのよね?」ジトッ

穂乃果「…………危なくはない」

にこ「……含みがある言い方ね?」ジトーッ

穂乃果「…………まぁ、うん」




穂乃果「すごい変な人だとは思うよ」




にこ「?」

穂乃果「と、とにかく入ろうか!」

にこ「はぁ、分かったわよ」スッ






『鳴海探偵事務所』




ーーーーーー

ーーーーーー

本日はここまで。
レス感謝です。

ほんの少しだけ更新。

ーーーーーー



翌日。
私と花陽はまた病院に来ていた。
今日は昨日、患者さんが吸血鬼に襲われた時間のアリバイを確認しに。
結果は……。



真姫「アリバイありね」

花陽「そうだね……」



というものだった。

緑先生は黒崎副院長と。
真白さんは紅花先生と。
青子さんは藤さんと。
一緒にいたとそれぞれが証言していた。
勿論、鵜呑みにする訳じゃないけど……。



花陽「難しいね」

真姫「えぇ」



凛と花陽の話を聞くに、例の吸血鬼は『ドーパント』なのは間違いないはず。
なら…………もしかして、あの6人とは別に犯人がいる?



真姫「………………」

花陽「……あ、真姫ちゃん」



歩きながら考えに没頭していると、花陽に肩を叩かれた。



花陽「ここ、だよね?」



花陽が指差す先には、とある病室があった。

というのも、実は藤さんにまだ話を聞いていなかったから。
さっき青子さんから聞いた話だとここにいるらしいんだけど……。


真姫「個室、ね」

花陽「どうかした?」

真姫「こういうとこの患者って……金持ちのボンボンとか企業の社長とかが多いのよ」



昔、そういう人から嫌な目で見られていたのを思い出した。
この病院の娘だからでしょうね。
幼い私にすり寄ってくるのが気持ち悪かった。

だから、正直気が進まない。
そりゃ医者になるからにはどんな人にも平等にしなきゃいけないのは重々承知だけど。



花陽「真姫ちゃん?」

真姫「……ごめん、なんでもないわ」


今はそんなことをいってる場合じゃないわよね。

入りましょ。
それだけ言って、その扉をノックした。



ーー コンコン ーー



「はーい」



ノックに応じたのは、若い女の人の声。
……藤さん、かしら?



真姫「失礼します」



入ってよいか確認してから、開く。



真姫「って、え?」



ドアを開けて、声をもらした。
なぜなら、声の主は藤さんじゃなかったから。
どころか、職員ですらなかった。



私の声に答えたのは、ベッドの上の女の人……いえ、女の子だったから。



年齢は私たちより下。
たぶん中学生くらい。
私たちのノックで起き上がったのか、上半身だけ起こし、こちらを見ている。
顔色は素人目に見てもよくないことがわかった。



真姫「あ、えっと……」



予想外の展開に、少しフリーズしてから、持ち直す。

まぁ、別に普通に接すればいいわけだしね。
子どもの相手ならーー




「まきちゃんだ!!」

真姫「っ」ビクッ




いきなり名前を呼ばれた。
って、え!?
私、この子とは初対面よね!?



「はなよちゃんもいる!!」

花陽「えっ!?」



混乱の第二波。
なんと、花陽のことまで知っている!?



「あれ? りんちゃんは?」

まきぱな「「!?」」



第三波。
…………って、流石にここまで来ればわかるわ。
この娘、たぶんーー




「μ'sだぁぁぁ!!」




ーーそう。
μ'sのファン、でしょうね。

さっきまでの病弱そうな様子とは一転。
かなり興奮してるようで……。



「うわぁぁ! す、すごい!」

花陽「え、あ、えっと……」

「生はなよちゃんだ!」

花陽「生花陽!?」

「サインください!」

花陽「え、あ、うん。いいよ?」

「えっと、じゃあ……この病院着に!!」

花陽「病院着に!?」



テンパる花陽と面白会話を繰り広げていた。





「って、葵ちゃん!」



真姫「っ」



声に振り返る。
そこには、若い女の人。

目の前の女の子を葵ちゃんと呼ぶ彼女は、どうやら怒っているようだが…………あんまり怖くないわね。
なんとなく察した。
この人が、



葵「あっ、藤ちゃん!」

藤「もう! ちゃんづけしないでよぉ! わたし、これでも三十路だよ!」

葵「あっ」

藤「……うぅぅ、三十路……」ズゥーン



真姫「…………」



なんだろう。
穂乃果とかにこちゃんとかと同じにおいを感じるわね。

って、そうだ。



真姫「あの……藤さん、ですか?」

藤「んー? えっと、葵ちゃんのお友だち?」

葵「ちがうよ! まきちゃん!」

藤「まきちゃん……? まきちゃん? まき…………って!」



藤「院長先生の娘さんっ!?」ガタッ



真姫「え、あっ、はい」

オーバーすぎるリアクションとともに崩れ落ちる、というか平伏す藤さん。



真姫「って、ちょっと!?」

藤「いつも院長先生にはお世話になっておりますっ! なにとぞ今後ともご贔屓に!」

真姫「…………」



日本語がどこかおかしい。

うん。
察した。
この人はたぶん穂乃果とかにこちゃんとかの同類。
つまり、この人はたぶん『ドーパント』じゃないわね。



真姫「えっと、顔、あげてもらってもいいですか……」

藤「はい! よろこんで!」

真姫「……」チラッ

花陽「あはは……」



思わず花陽も苦笑い。
……まぁ、とりあえず話しやすそうな人でよかったわ。
黒崎副院長とかの時は最悪だったし。
それを考えたら……。



藤「真姫様におかれましては大変ご機嫌麗しゅうございますが、本日はどのようなご用件でございましょうか!?」

真姫「…………」



いえ。
この人はこの人で、面倒そうね。



葵「ははっ! 藤ちゃん、おもしろい!」

花陽「あはは……」

葵「って、そうだ! サインは!?」

花陽「え、あっ、は、はい!」



真姫「………………はぁ」



しっちゃかめっちゃかな目の前の現状を見て、私はため息を吐くのだった。
メンドクサイ……。



ーーーーーー

ーーーーーー



その場をどうにかなだめて。
私と花陽は改めて、藤さん……と葵ちゃんの前に座っていた。



藤「それで? わたしになにかご用ですか?」

真姫「えぇ」チラッ

葵「?」



チラリと彼女を見る。
話が話だから、患者である彼女には聞かれない方がいいんだけど……。



藤「たぶん葵ちゃんなら大丈夫ですよぉ?」

真姫「え?」

藤「葵ちゃん、口固いし」

葵「はい! 固いです!」

真姫「えっと…………」チラッ

花陽「…………うん」



まぁ、そうね。
そもそも患者さんの間でも噂になってたくらいだし。

それに、個室だから。
狙われる心配も……少ないはず。



真姫「それじゃあ、お聞きしますけど……」

藤「なんでも聞いてください!」


吸血鬼の噂のこと。
昨日の事件のこと。
その時のアリバイなどを尋ねてみる。

…………うん。
青子さんの話とも食い違いはないわね。
となるとやっぱり……。



真姫「…………ありがとうございました」

藤「あ、はい!」



とにかくこれで全員がアリバイあり。
となると、やっぱり犯人は外部犯なのかしら。

全員のアリバイを頭のなかで反芻していると、




葵「吸血鬼かぁ」




ポツリと。
葵ちゃんが呟いた。
今までの元気さとは一転して、憂いを帯びたような響きの呟きだった。



花陽「えっと、葵ちゃん……?」

葵「…………吸血鬼って血を吸ってくれるんだよね?」

花陽「うん。そう噂されてるよ?」

葵「そっかぁ」

真姫「…………?」



血を『吸ってくれる』?
その言葉に引っ掛かりを感じて……。



真姫「……ねぇ、葵ちゃーー」







紅花「…………葵さん」




いつの間にか病室に入ってきてた紅花先生の声に阻まれた。



葵「あっ、紅花先生っ」

紅花「…………起きてちゃダメでしょう。身体に障るわ」

葵「ご、ごめんなさい……」

紅花「早くベッドに入りなさい」

葵「……うん」



葵ちゃんは、彼女の言葉にしゅんとなる。
見て分かるくらいに落ち込んで、言われた通りにベッドに横になった。

それを確認してから、紅花先生は一言、



紅花「……藤」キッ

藤「は、はいっ」

紅花「葵さんに無理をさせないようにと言ったでしょう」

藤「っ、すみません……」



それだけを言った。
そして、今度は私と花陽の方に視線を向ける。
眼鏡の奥の眼光は鋭くて……かなり……怖い。




紅花「…………院長の娘かなにか知らないけど」

紅花「あんまりうろつかれると迷惑よ」




花陽「っ」

真姫「………………」



その言葉に私はなにも返せない。
彼女の言ってることは、正しい、から。


……でも、私はーー




ーーーーーー

本日はここまで。
レス感謝です。
励みになります。

ーーーーーー



次の日の放課後。
私はまた病院に来ていた。

青子さんには、真姫ちゃんも暇ねぇ、と笑われ。
紅花先生からは冷たい目で見られていた。

けど、私だってここまで来たら引き下がる訳にはいかないわ!
絶対に吸血鬼を捕まえる!
捕まえて、追い出してやるわよ!

ちなみに、花陽は用事があるということで、今日は来ていない。
その代わり、



凛「♪」



隣には凛がいた。
戦闘での後遺症もなく、無事退院。
……って、普通ABO不適合輸血での拒絶反応から回復するのにはそれなりにかかるはずなんだけど。
凛って何者よ……。



凛「真姫ちゃん?」

真姫「え」

凛「考え事?」

真姫「…………まぁね」



適当に誤魔化す。
とりあえず、特に異常はなかったとはいえ、病み上がりだし、あんまり凛に無理はさせられないわよね。
……となると、



真姫「凛」

凛「? なに?」

真姫「ちょっと付き合ってもらえるかしら?」



ーーーーーー

ーーーーーー



所変わって、資料室。
ここには、過去の患者のカルテや入院患者に関する資料が置いてある。
…………まぁ、勿論、立入禁止の場所なんだけど。



真姫「…………」ペラッ

凛「…………」キョロキョロ

真姫「…………」ペラッ

凛「…………」キョロキョロ

真姫「…………」ペラッ

凛「……真姫ちゃん」

真姫「っ、誰かきた?」

凛「…………違うけど……」

真姫「なら、引き続き、周り見ておいて」ペラッ

凛「じゃなくて!」

真姫「ちょっと大きな声出すんじゃないわよっ」

凛「あ、ご、ごめんにゃ……」

真姫「……もうっ」

凛「…………」

真姫「…………」ペラッ




凛「じゃなくて!」バンッ

凛「これ、アウトにゃ!!」




真姫「ヴぇぇっ!?」



凛の声が誰もいない資料室に響き渡った。
突然の大声に、私のからだも大きく跳ねた。

って!



真姫「大声出さないでって言ったでしょ!」

凛「これ、ふほーしんにゅーでしょ!」

真姫「…………」

凛「……ちょっと真姫ちゃん」

真姫「…………」プイッ

凛「目、反らさないで!」



真姫「しょうがないでしょ! 普通にカルテ見ることできないんだから!」




調べたいことがあるんです。
だから、カルテを見せてもらえませんか。

今日、病院に来て最初に緑先生にそうお願いをした。
けど、まぁ、当然ダメ。


いくらお嬢さんの頼みとはいえ、それは難しいですね。
我々医師には守秘義務がありますから。

そう言われて、断られてしまった。



だから、今、ここに至るってわけ。



真姫「どうせここまで来たら、凛も共犯よ」

凛「うぅ……真姫ちゃん、鬼にゃ、悪魔にゃ……」

真姫「はいはい。そうね」



見張りよろしく。
それだけを凛に言って、資料探しに戻る。

正直、分からないことだらけ。

吸血鬼……いえ、ドーパントの正体は勿論だけど。
一番不可解なのは、その行動。

ガイアメモリの力は強大だ。
それは部室の破壊事件の時に、私はよく思い知ってる。
だからこそ、今回の事件はおかしい。



やっていることは、『血を吸う』だけ。



しかも、患者さんが貧血になるくらいの被害しかない。
あまりにも、やることが小さすぎない?



真姫「…………」チラッ

凛「……うぅ、凛は悪くないにゃぁ」



頭を抱える凛を見る。

そうよね。
一番被害を受けたのは、凛だ。
その凛も今はこうしてピンピンしてるわけだし。

一体……。




真姫「あっ……」



資料探しの手が止まる。
そのページには、一昨日被害にあった患者さんのカルテがあった。



真姫「…………」



たしか、この人で被害にあったのは、5人目だったかしら?

うーん……。
まだ3人しかカルテは見ていないけど、襲われた人に共通点は特に……。



真姫「あ」



……いや。
ある、かもしれない。
これって……。




ーー ガチャッ ーー




真姫「っ!」






「誰かいるのか」




資料室に響いた声。
それは、



黒崎「………………声がした気がしたが……」



副院長の黒崎先生のものだった。

じっと息を殺して、身を潜める。

黒崎副院長はパパのことをよく思ってない。
それは私のこともよく思ってないってこと。
だから、見つかったら……終わるっ!



黒崎「…………」

黒崎「…………」

黒崎「……気のせいか」



ーー ガチャッ ーー



真姫「……………………ふぅ」

どうにかなった、かしら。
深く息を吐きながら、周りを警戒する。
……って、凛は……?

キョロキョロと見渡すと、凛は入口の方でうずくまっていた。



真姫「凛!」



小声で名前を呼ぶ。
それに反応して、凛はこちらを向いた。
見る限り具合が悪いって訳じゃないみたい。



凛「真姫ちゃん、ごめんねっ」

真姫「……ばれなかったからよかったけど……どうかしたの?」

凛「う、うん、えっと……」



凛が差し出したのは、携帯電話。
どうやら凛はそれに気をとられていて、黒崎先生が近づいてくるのを感じ取れなかったみたい。



凛「いきなり着信が来て……」



ちょうど足音に気付いた時に、着信がきたらしく、それで私に知らせることができなかったとのこと。

院内なんだから電源は切っておきなさいよ、とか。
色々と言いたいことはあるけど。



真姫「……着信って、だれからーー」




ーー prprprprprpr ーー




まきりん「「っ!?」」



まるで、図ったかのようなタイミング。
少しびくっとしてから、二人でその画面を見る。
そこに表示されていたのは、『矢澤にこ』の文字。



凛「にこちゃん?」

真姫「……何でこんなときに……」

凛「えっと、どうする?」

真姫「貸して!」



つまんない話だったら、承知しないわよ!
心のなかで憤りながら、私は通話ボタンを押した。



真姫「もしもし! にこちゃん!」

真姫「タイミング悪すぎよ!!」



『………………』



真姫「…………って、にこちゃん?」



携帯の向こうから返事がないことに違和感を覚えた。
いつもなら、なんで真姫ちゃんが凛の携帯に出てるのよ!とか言いそうなものなのに……。

怪訝に思いながら、もう一度。
私は電話の向こうに話しかけた。



真姫「……もしもし?」






『なるほど』

『君が西木野真姫か』






真姫「!?」



そこから聞こえてきたのは、にこちゃんの声じゃなかった。
それどころか女性の声ですらない。
これは……!



真姫「あなた、だれよっ!」



にこちゃんは!?

叫ぶようにそう言う。
こいつ、一体!!



『……安心したまえ』

『矢澤にこは僕のとなりにいる』



真姫「……え?」



『…………もしもし、真姫ちゃん?』



と、謎の人物の声の後に聞こえてきたのは、聞きなれた声。
それは確かににこちゃんの声だった。

その声を聞いてホッとした。
ことりのこともあったから、にこちゃんまでなにかに巻き込まれたんじゃないかと思って……。



『心配してくれたにこぉ?』

真姫「なっ! ち、違うわよっ///」



からかうようなにこちゃんの声に、ついムキになってそう返す。
それがちょっと恥ずかしくて、



真姫「って、さっきの誰よ!」



話をすぐに反らした。

なによ。
つまんないわねぇ。

またにこちゃんはからかうように言う。
まぁ、でも、すぐに切り替えたようで、私の質問にこう答えた。




『穂乃果の協力者よ』



真姫「協力者?」

『そ。ほら、凛の持ってるメモリあるでしょ?』

真姫「……えぇ」

『それを穂乃果に預けた人物よ』

真姫「!」



まぁ、詳しいことは後で話すけど。

にこちゃんはそう前置きをして、それを聞いてきた。



『今、そっちでなにか起こってるのよね?』

真姫「!」



なにか。
それって、この吸血鬼騒動のこと?



『その反応、ほんとになにかあるみたいね』

真姫「……え、えぇ……でも、なんで……?」




『僕が検索したからさ』




真姫「っ!」

私達の会話に割り込むように、その協力者は口を出した。

検索?
何をいってるの?



真姫「…………あの」

『当ててみせようか』

真姫「え?」




『君の父親が経営する病院で、怪事件が起きているんだろう?』

『そして、それにはドーパントが絡んでいる』




真姫「!?!?」


『その反応……どうやら当たりのようだね』

真姫「……なんで、それを……」

『さっき言ったよね、検索したって』

真姫「…………」



なにがなんだか。
よくわからない。
けど、



真姫「…………貴方は……」

『安心したまえ。僕は君の……いや、君達の味方さ』



電話越しに、その声はそう言った。
私達の味方だと。



『…………西木野真姫』

『君はこの事件をいち早く解決したいんだろう?』



……えぇ。
そう。
私はこの事件を早く解決したい。

だって、このままじゃ患者さんが安心できないから。
それが医者じゃない私にできる唯一のーー




真姫「…………えぇ」




『それだけ聞ければ十分だ』

『検索によれば君は中々頭がキレるらしい。なら、なにか掴んでいるんじゃないかい?』

真姫「…………多少は」

『……僕としても、ガイアメモリ犯罪は少しでも早く解決したいからね。早速試してみよう、君が掴んでいるキーワードを使ってーー』






『さぁ、検索を始めよう』





ーーーーーー

本日はここまで。
レス感謝です。

ちょい更新。

ーーーーーー

ーーーーーー




ーー コンコン ーー




中の返事を待って、私は扉を開けた。
そこにいたのは、




葵「まきちゃん!」

真姫「こんばんは。葵ちゃん」




葵ちゃんの姿があった。
昨日と変わらず、ベッドに横になった彼女の姿は、窓から差し込む月の光のせいか、どこか幻想的で儚げに見える。



真姫「こんな時間まで起きてると、体に障るわよ」

葵「あ、えっと……ごめんなさい」



素直に謝る葵ちゃん。

なんでこの時間まで起きてたの?
そう尋ねると、彼女はまた窓の外に輝く月を見ながら答えた。




葵「綺麗な満月だったから」




彼女に倣って、そちらを見る。
真っ暗闇に、はっきりと浮かぶ満月は確かに綺麗ね。



葵「それで、どうしたの? こんな夜中に」



しばらくして、葵ちゃんはそう聞いてきた。



真姫「…………ちょっと、葵ちゃんに聞きたいことがあったの」

葵「わたしに?」

真姫「……えぇ」



小首を傾げる葵ちゃん。

…………。

正直、これは彼女本人に聞くのは憚られること。
それだけならば、カルテを見たから知っている。
けど、私は聞かなきゃならない。



真姫「ねぇ、葵ちゃん」

葵「うん」

真姫「貴女、血液の病気なのよね」

葵「…………うん。そうだよ」

真姫「…………それも……えぇと」




葵「…………重い病気、なんだって」



言葉を選んでいる間に、彼女はそう言った。
さらに、続ける。



葵「たぶん、わたしには聞こえないようにしてたんだと思う」

葵「けど、聞いちゃったの」



お母さんと先生の会話。
それから、お母さんの辛そうな泣き声も。
だから、



葵「言葉、選ばなくてもいいよ。まきちゃん」

真姫「…………」



そう言って笑う彼女。
その顔は、まるで……。



真姫「………………」

葵「…………はぁ、スクールアイドルやってみたかったなぁ」

真姫「…………」

葵「あと2年もしたら高校生だったのに! でも、こんな体だしね、しかたないしかたない」

真姫「…………」



……あぁ、そっか。
だからなのね。

だから、彼女はーー



ーーーーーー

ーーーーーー




ーー ガチャッ ーー



『…………』

葵「…………すぅ……すぅ」

『…………』スッ




ーー ナデッ ーー




葵「……んっ」

『っ』

葵「………………すぅ」

『……………………』クルッ





真姫「やっぱり現れたわね」

『っ!』



病室から出ようとするその人物を呼び止めた。
葵ちゃんを起こさないような小声でも、なんの音も聞こえない深夜ならよく響く。

その人物、いえ、そのドーパントはこちらに向き直った。
月に照らされて、その風貌がよく見える。



いつか凛が見たという姿とは違い、吸血鬼に似た姿じゃない。
全身は赤。
液体のようなものが右腕から胸にかけてを覆っている。
顔はノッペリとしていて、顔のパーツは見当たらない。
左手だけは、5本の指と掌という人間と同じような形。
葵ちゃんの頭を撫でていたのも、こちらの手だった。

本物のドーパントを見たは初めてだったから、恐怖を感じるのかと思ってたけど……。
私の心のなかは穏やかだった。

それはきっと、葵ちゃんを慈しむ『彼女』の表情を見たような気がしていたから。


????『……貴女、なんで』

真姫「ここにいるのが分かってたからよ」

????『分かってた……?』

真姫「えぇ」



犯行の動機が葵ちゃんにあるのなら、きっとここに来るんじゃないかと思ってたから。
……正直、半分は賭けだったけど。



????『……そう』



ドーパントはそれだけを呟いて、また葵ちゃんを見つめている。

……そう。
やっぱり、そうなのね。
その様子を見て、予想が確信に変わる。

『検索』だったかしら。
それをしてもらったのは、メモリの名前と能力までだった。
その先は、私が直接確かめたかったから。



葵「…………んん……」

????『……っ』

真姫「…………いつまでもここにいたら、葵ちゃんを起こしてしまうわね」

????『…………』

真姫「外で話をしましょうか」

????『…………』

真姫「ねぇーー」






真姫「ーー紅花先生」





????『…………そう』

????『ばれていたのね』スッ




紅花「…………出ましょうか。彼女が起きてしまうわ」




ーーーーーー

短いですが、本日はここまで。

少し更新。

ーーーーーー



紅花「いつ、分かったの?」



屋上に着くと、彼女はフェンスに背を預け、そう訊ねた。
気づかれるような真似はしていないはずだけど。
さらに、そう続ける。



真姫「引っ掛かったのは、襲われた患者さんが貧血程度で済んでることです」

真姫「ドーパントの力が強力なのは分かってたわ。だから、なにか目的があるんじゃないかと思った」



なるほど。
紅花先生は私の言葉に相槌をうつ。



真姫「例えば、この病院で不祥事を起こすだけならもっと血を抜き取って死者を出せばいい」

真姫「でも、それをしなかった」

紅花「メモリ使用者が病院関係者なら当然じゃない」



誰だって職はなくしたくないもの。
少し笑いながら、そう言う紅花先生。
確かに、それもあるかもしれない。

だけど、私はその言葉に首を振る。



真姫「抜き取られた量もおかしいんです。全員がその体型に合わせて、一定の割合抜かれてた」

紅花「…………」

真姫「注射器でならまだしも、メモリを使って血を一定の量、しかも、その人の体型に合わせて抜き取るなんて、慣れが……いえ、相当の知識と技術が必要、でしょ」

紅花「……そう、ね」



だから、少なくとも看護師になって数年の藤さんや真白さんにはできないはず。


紅花「なら、私以外にも黒崎や緑もいたんじゃないの?」

真姫「そう。あの二人にも可能よ」

紅花「なら、なぜ私を疑ったのかしら?」



それは、資料室で見つけたある共通点があったから。
あの後、全員のカルテを確認した。
私の読み通りだった。
全員が、



真姫「AB型のRH-……ですよね」

紅花「そう。そこまで分かっていたのね」

真姫「カルテ、確認しましたから」

紅花「……犯罪よ、それ」

真姫「うっ……」



それに関しては、言い返せなかった。
確かにそれはそうよね……。



紅花「まぁ、いいわ」

紅花「それで? 私を捕まえるつもり?」



彼女の雰囲気が変わる。

白衣のポケットの中。
たぶんもう、メモリを手にしてる。



真姫「…………」



ポケットの中のスマホに触れる。
通話画面にしてたから、このまま発信すればすぐに凛に繋がるようにしてあった。

けど、私は




真姫「…………いえ」

真姫「捕まえません」




彼女の問いにそう答えた。

捕まえない、と。
だから、スマホから手を離す。




紅花「…………なんのつもり」




紅花先生は変わらず、こちらを警戒してる。
ポケットからも手は出さない。

睨み合うような状況が続く。



真姫「…………」

紅花「…………」







真姫「…………治してあげて」




紅花「…………っ」



沈黙を破ったのは私から。
それを、彼女の目を見て、伝えた。



真姫「ガイアメモリを使ってるのは、葵ちゃんのためなんでしょ……」

紅花「…………」

真姫「あの娘の病気は、血を総取替えでもしないと治らないって藤さんに聞いたわ」

紅花「っ、藤……余計なこと……」

真姫「でも、そんなことそうそう簡単にできるものじゃない。手術ができたとしても、長時間の手術に彼女が耐えられるかも分からない。普通の手段じゃ…………治療はかなり難しい」

紅花「…………えぇ」



真姫「だから、手を出したその『ブラッド』のメモリに」






『ブラッド』



穂乃果の協力者を名乗る人物が出した答えがそれだった。

血液を操作することができる能力を持っていて、血を抜き取ることは勿論、それを他の人間に輸血することもできる。
それで凛はやられたみたい。

さらに、使用者が人体の構造に精通していればいるほど、その精度とスピードは上がっていく。
そんな能力も秘めているらしい。

つまりーー




真姫「貴女がガイアメモリに手を出したのは、病院の名を陥れるためでも、患者さんを襲うためでもない」

真姫「葵ちゃんを」

真姫「生きることを諦めてるあの娘を救うため、なんでしょ」




それが私が辿り着いたこの事件の真相だった。



真姫「…………」

紅花「…………」



彼女の目を見つめる。
彼女は、視線を反らして、



紅花「救う……ね」



自虐的に呟いた。

おこがましいわ。
私はただ自分の担当患者のそんな姿を見ているのが嫌だっただけよ。



紅花「そのために、他の患者も傷つけた。本末転倒ね」

真姫「……でも、紅花先生は」

紅花「…………えぇ」




紅花「それでも、私はあの娘を治したい」




真姫「…………」



この言葉は本当だ。

……いつか見たことがある。
手術の日の朝、パパがしてた表情と同じ……覚悟を決めた表情をしてたから。


真姫「…………血はもう足りてるんですか」

紅花「え……?」



私の言葉に、紅花先生はポカンとした表情を返してきた。
そんな顔は珍しい。



真姫「葵ちゃんを治療するための血液です。ABのRH-ですよね」

紅花「あっ……確か輸血用の血液もあったから…………あと一人分、かしら」

真姫「なら、すぐ始めましょう」

紅花「は? だから、あとーー」



真姫「ここにいるじゃない」



私が指差す先にいるのは、勿論私自身。

偶然もあるものね。
これなら、これ以上患者さんを傷つけることはないし。
だから、よかった。
だって、私もーー




真姫「あの顔……」

真姫「あの娘の表情、気に食わなかったのよ!」




ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー



紅花「…………」

真姫「…………」



手術室。
手術台の上には、紅花先生が抱えて連れてきた葵ちゃんがすやすやと眠っていた。
……よく起きないわね。



紅花「中々起きないのよ。だから、朝も藤が困ってるわ」



そう言って、彼女は笑う。
その表情はどこか穏やかで、葵ちゃんのことを大切に思ってるのが分かる。



紅花「外で待ってるのはお友達?」

真姫「…………えぇ」



凛のことね。
念のため連れてきたけど、流石にここにまで入らせるのもどうかと思って、手術室の外で待ってもらってる。



紅花「彼女、仮面ライダーよね」

真姫「……えぇ。最近なったばかりだけど」

紅花「そう。あの子には悪いことをしたわね」



悪いこと。
あぁ、拒絶反応のことね。

確かに大変だったけど、1日で治るくらいだし。
ここに来るまでも、紅花先生と私と凛、一緒だったけど、特に気にした様子はなかったわね。


紅花「後で謝っておいてもらえる?」

真姫「……そんなの自分でーー」

紅花「私には襲ってしまった人に会わせる顔がないもの。患者も含めて、ね」

真姫「………………分かりました」



私の答えに満足したのか、ひとつ頷く紅花先生。
深呼吸をしてから、それを取り出した。




紅花「…………さぁ」スッ




『ブラッド』



ブラッド『……手術を始めましょう』



紅花先生が姿を変えた。
葵ちゃんの病室で見た、あの赤いドーパントだ。

彼女がスッと右手をあげると同時に、その腕にまとわりついていた液体が放出される。
そのまま、形を変え、



『…………』

真姫「……人?」

ブラッド『えぇ。助手よ』



真っ赤な液体は人の形になって留まっている。
助手と言ったけど……。



ブラッド『……じゃあ、血少し貰うわよ』

真姫「……はい」

ブラッド『お願い』

『…………』



指示に反応するように、人形は動いた。
私の腕を取って、そのまま人形の頭が液体に戻り、私の腕を包んだ。



真姫「……っ」

ブラッド『奇妙な感覚でしょうけど、少し我慢して』

真姫「っ、は、はい……」

ブラッド『………………』

真姫「…………」

ブラッド『………………もういいわ』



1分もせずに、彼女はそう言って、人形を止める。
それに従うように、人形はまた頭の形を取り戻した。

これで、足りたのよね?

息を吐く、と同時に眩暈がした。
軽い貧血のような症状。
……なるほど、これがそうなのね。



真姫「っ」フラッ

ブラッド『…………座っていなさい』




ブラッド『すぐに終わらせるから』





ブラッド『戻りなさい、人形』

『…………』



右手をかざす。
すると、さっきまで人の形を保っていたそれは形を無くし、また彼女の腕に流れ込んでいく。



ブラッド『…………っ』

真姫「……紅花先生」

ブラッド『………………さぁ、包みなさい』



今度は、葵ちゃんへ向けて手をかざす。

かざした手から液体が放出。
みるみるうちに、葵ちゃんの体を包み込んだ。



真姫「…………息は……」

ブラッド『できるわ。この力は包み込んだ人間の血液だけを抜き取るものなの』



それを考えると、このメモリは中々に恐ろしい。
これが悪用されてたら……。
考えたら、背筋が震えた。


真姫「あっ」

ブラッド『………………よし』



別のことを考えていたら、目の前の状況が変化した。
いつのまにか葵ちゃんを包む液体から、何本もの管状の物が伸びていた。



真姫「…………これは……」

ブラッド『…………葵ちゃんの体から抜き取った血液よ。混ざらないように外に出してるだけ』

真姫「は、はぁ……」

ブラッド『っと、残念ながら、ここからは話している余裕はないわ』

真姫「っ」



……………………。

そこからはあっという間だった。
葵ちゃんを包んでいた液体が踊るように宙を舞う。

その光景を見て、私は、




真姫「…………綺麗」




ポツリと呟いていた。



ーーーーーー

ーーーーーー




ーー バンッ ーー



凛「あっ」



手術中のパネルの光が消えた。
これ、終わったってことだよね!

扉を見ると、



真姫「…………」

紅花「…………」



中から真姫ちゃんたちの姿が出てきた。



凛「あっ」

真姫「待たせたわね、凛」

凛「えっと…………どうだったの?」

真姫「…………」



凛の質問に、




真姫「成功よ、ほら」



葵「すぅ…………」

凛「おぉ!」



その女の子の姿が答えだった。
すやすやとなにもなかったかのような穏やかな寝顔。
それを見る真姫ちゃんの表情も明るい。


凛「よかったにゃぁ」

真姫「えぇ、ほんとにね」



紅花「…………っ」



安心してた。
これで事件も終わりだねって。

だから、凛も真姫ちゃんもその変化を見逃してたんだ。



紅花「…………葵さんをお願い」

真姫「……え? あ、あの!」



真姫ちゃんの制止も聞かず、紅花先生は足早に去ってしまった。
って、えっと?



凛「……とりあえず、この子病室まで連れてく?」

真姫「…………えぇ」

凛「じゃあ……んしょ!」



真姫ちゃんじゃ連れてくの無理だろうし、ここは凛の腕の見せどころにゃ!
首と膝下に腕を入れて、抱き上げる。
いわゆるお姫さまだっこってやつ。



凛「よーし! じゃあ、行くにゃ!」

真姫「……凛、葵ちゃんよろしく」

凛「って、真姫ちゃん!? どこいくの!?」

真姫「紅花先生を追うわ!」



ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー


屋上。
紅花先生の後を追って辿り着いたのはそこだった。



真姫「……紅花先生」

紅花「…………」



私の呼び掛けに、ビクッと体を震わせる先生。
うずくまるように、体を丸めている。



真姫「紅花……先生」



もう一度、呼び掛ける。
けれど、彼女は振り返らない。
その代わりに、



紅花「っ、ぐっ……」



聞こえてきたのは、呻き声。
って!



真姫「っ」



慌てて駆け寄る。
そして、顔色を確認するために、彼女の顔を見たーー



真姫「なっ……!?」



ーーと同時に、たじろいだ。

彼女の顔は普通じゃなかった。
血管が浮き上がり、それが胎動していて……。



紅花「は、はっ……」

真姫「紅花先生っ! ねぇ!」

紅花「っ、は、はなれ、なさい……」

真姫「え……?」



苦しそうなその言葉はよく聞こえなくて。
だから、もう一度、聞いたの。
今、なんて……?
それに答えるように、今度は耳に刺すような叫び声で彼女は言った。





紅花「離れてっ!!!!」




『ブラッド』




紅花「あ、アァぁぁあ……!』

紅花『ぁぁァァアっ!!!』



真姫「っ、なにが……」



後退る。
叫び続ける彼女の体がみるみる変わっていく。

彼女のすべてが赤に包まれる。

葵ちゃんを包んだあの真っ赤な液体。
あのときの綺麗さはない。
ただ、彼女を飲み込まんと猛り狂う。



真姫「……っ、こんなの……」



ポツリと呟いた言葉は届かない。
彼女の絶叫に消されてしまう。

やがて。
彼女は姿を完全に変えた。




ブラッド『………………ア、アァァ……』




言葉をもたない。
意思もない怪物に。


真姫「……紅、花先生……?」

ブラッド『…………ア、ァァ』

真姫「なんで……」



返答はない。
もう言葉は届かない。



真姫「……っ」





…………知ってた、はずなのに。

アイドル研究部の時の事件。
あれで分かってたはずだった。

ガイアメモリが人を変えてしまうことを。

私達にあれだけ好意をもってくれていた『あの娘』でさえ大きく変えてしまった。
それだけ、危険なもの。




真姫「わかってたのに……」



いや。
……違う。
分かったつもりになってただけ。
それで、勝手に判断した。



紅花先生なら、ガイアメモリに負けないんじゃないかって。
きっと正しいことに使えるんだって。



でも、現実はそう甘くなかった。
現に彼女は、



ブラッド『ア……アァァア』



メモリに飲まれてしまっている。




真姫「っ、私の……せい……」



危険だって分かってたのに……。
なのに、私が大丈夫だって甘いことを考えたせいで……。



真姫「ごめん、なさいっ……」








「大丈夫」

「…………真姫ちゃんのせいじゃないよ」







真姫「……え……?」



顔を上げる。
そこにいたのは、



凛「大丈夫にゃ」

真姫「…………凛」



凛がいた。


真姫「……凛、でも……」

凛「……でも、じゃないよ」



私の言葉を否定して。
凛は、一歩、私の前に出た。
紅花先生と私の間に、割って入るような形。

そして、続ける。




凛「真姫ちゃんが協力するって決めてなかったら、きっと葵ちゃんは助かってないよ」




それは、そう、だけど。
でも、そのせいで……。



凛「それに、紅花先生だって悪くない」

凛「たしかに他の人の血は抜き取ったみたいだけど」

凛「……でも、誰も不幸になってないもん」



真姫「……凛」



凛「凛はさ」

凛「難しいことはわかんないにゃ」

凛「でも、きっと誰も悪くないし、誰のせいでもないんだよ」

凛「だって、ひとりの命が助かったのはホントなんでしょ?」



真姫「っ、えぇ」



頷く。

そうよ。
紅花先生が葵ちゃんを救ったのは事実だもの。
…………うん。



真姫「…………でも、このままじゃ」

凛「分かってるにゃ!」

真姫「…………ねぇ、凛」

凛「うん」




真姫「お願い」

凛「うん」




『サイクロン』



凛「変身っ!」



『サイクロン!!』




凛の体に風がまとわりつく。
そして、風が止んだ頃、そこにはその姿があった。




サイクロン『…………今、助けるからね』





ブラッド『ァァア……』



よろよろと。
彼女が近寄ってくる。

背中からは管のように伸びた液体。
それが、



ーー ブンッ ーー



凛の方に!



真姫「りーー」

サイクロン『ふっ!』ブンッ



私が声を呼ぶ前に、凛が手を振る。
それに合わせて、風が吹いたかと思えば……。



ブラッド『ア……ア゛ァァ……』



管が消し飛んだ。

それだけで終わりじゃない。
彼女は体から管を、2本、3本……いえ、それ以上の数を出してくる。

でも。



サイクロン『はぁぁぁっ!』ブンッ



一払いで、管は霧散していく。




ブラッド『ア゛ァァ!』



管を消される度に、彼女は叫ぶ。
苦しげな声で。



真姫「…………っ」



それを聞いてるのが辛い。
だから、私はーー




真姫「凛っ!」




叫んだ。
お願いだから、早くーー。

その思いに答えるように、凛は頷く。
そして、





『サイクロンマキシマムドライブ』



サイクロン『……………………ライダーキック』




ーーーーーー

ーーーーーー




こうして。
事件は幕を閉じた。




ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー




葵「ねぇねぇ、まきちゃん!」

真姫「……なに?」




数日後。
私は葵ちゃんの病室に来ていた。

ベッドに横にはなっているけれど、もう体には何の異常もない。
健康そのもの。
そんな彼女は、




葵「いつ、退院できるの?」




それが口癖になっていた。

重病が急に消えてしまったということもあり、病院側としては検査はしなくてはいけない。
だから、退院まではもう少しかかるようで。



真姫「……藤さんに聞きなさいよ」

葵「だって、藤ちゃん、わたわたするだけで答えてくれないから」

真姫「……あぁ」



何となく想像できるわね。
慌ててるところ。
…………今後が不安だけど……。


葵「あ!」

真姫「なに?」

葵「まきちゃんは知ってる?」




葵「なんでわたしの担当の先生変わっちゃったか」




真姫「…………」



葵ちゃんの質問。
それに私は答えられない。
事実を教えるわけにもいかないし……。

だから、話題をそらす。



真姫「葵ちゃんは……」

葵「うん!」

真姫「…………紅花先生がよかったの?」



正直、彼女は結構性格はきつかった。
医師としてはすごい人だとは思うけどね。

だから、きっと葵ちゃんとしては今の方がいいんじゃないかと思って。
けど、




葵「うん!」

葵「だって、紅花先生の手、あったかかったから」




彼女は笑った。


葵「なんかね、わたしが寝てるときによく撫でてくれたみたいで」

葵「それがすごく優しくて、きもちよかったんだ」



真姫「…………そう」



そっか。
葵ちゃんには伝わってたのね。
紅花先生の思いが……。



真姫「ねぇ、葵ちゃん」



私は彼女の名前を呼ぶ。
そして、それを告げた。





真姫「スクールアイドルやってみない?」






ーーーーーー fin ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー




ーー コンコン ーー




紅花「…………はい」

??「……失礼します。病院にまで押し掛けてしまい申し訳ありません」

紅花「……どちら様、かしら」

??「…………」




??「…………メモリの関係者、とだけ言えば分かっていただけますか」




紅花「っ」

??「そんなに身構えないでください。私は貴女に害をなそうとしているわけではありませんから」

紅花「じゃあ……」

??「お聞きしたいだけです」




??「貴女にメモリを渡した人物のことを」




紅花「…………」

??「…………こう聞いた方がよろしいですか?」




??「『亜坂真白』という人物について教えてもらえますか?」




紅花「……そう。やはり彼女は……ただの看護師じゃなかったわけね」

??「はい。彼女はガイアメモリに関わる事件を起こし続けています」

紅花「…………あなたも?」

??「……………………はい」

紅花「教えるのは構わないけれど……」

??「…………」

紅花「まずは、貴女の名前を教えてもらえる?」

??「……そうでしたね。失礼いたしました」

??「私はーー」






海未「園田海未」

海未「ただの復讐者ですよ」






ーーーー To be continued ーーーー

以上で
『真姫「その罪は何色か」』完結になります。

レスをくださった方
読んでくださった方
稚拙な文章・表現にお付き合いいただき、ありがとうございました。

以下過去作等です。
よろしければどうぞ。

1作目
にこ「さぁ、お前の罪を数えろ!」
【ラブライブ】にこ「さぁ、お前の罪を数えろ!」【仮面ライダーW】 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1500978922/)

2作目
凛「さぁ、お前の罪を数えろ!」
【ラブライブ】凛「さぁ、お前の罪を数えろ!」【仮面ライダーW】 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1510213255/)

3作目
海未「私の罪を」
【ラブライブ】海未「私の罪を」【仮面ライダーW】 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1512647204/)

また続き書きます。
かっとなって百合作品も書くと思いますが。
その時はあたたかい目で見ていただけると幸いです。
では、また。

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