School Daysより「鮮血の結末」…その後 (112)

※何となく公開したくなったのでやってきました。
 これは、およそ7年前に書いた作品です。
 ちぐはぐな点もあるかもしれませんが、ご容赦ください。





目の前にいる、二人の少女。
そのどちらもが、見るも無惨な姿でベッドに横たわっていた。
頸部を中心に、保温のため全身が包帯でぐるぐる巻きになっており、
無数につながれた電線が、彼女らの心拍機能を測定していた。
部屋にこだまする機械音は、二人の弱々しい心拍をそのまま反映していた。
そして、ベッドの側につるされた点滴、血清、口を覆う酸素マスク…。
どちらの少女も、死と隣り合わせのチアノーゼを発症しており、
露出している肌すべてが死人のように青ざめていた。
外見はほとんど同じで、どちらが誰なのか一見では分からないが、
頭部の包帯からわずかに出ている髪の毛の違いだけが、
判別の手がかりとなっていた。

右側、頭頂付近から癖っ毛が覗いているのが、西園寺世界。
左側、あちこちの包帯に長い髪が絡んでいるのが、桂言葉。

彼女たちは、ほんの一時間ほど前、鮮血の結末を迎えていた。
今、こうして二人を見つめている男…伊藤誠の目の前で。

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よく晴れた、冬のある朝。
学園前駅の構内から出てすぐの歩道橋の上。
とても賑やかしく構内から出てきた、学生の一団があった。
手をつなぎ、仲良く学園へ向かう誠と世界、
二人を囃し立てる世界の友人の甘露寺七海と、黒田光たちだ。
そして、彼らを待っていたのは…、彼氏であった誠に捨てられ、
また毎日のように繰り返された、七海やその友人の加藤乙女らのいじめによって、
とうとう、完全なる精神崩壊を引き起こしていた、言葉だった。
その瞳は既に正気を失い、輝きも消えており、
ただ、どす黒い狂気とともに、誠の隣にいる少女を見ていた。

「桂…さん?」
あわてて握っていた手を離し、様子のおかしい言葉に、世界は声をかけたが、
言葉は何も聞いていないかのように、ゆっくりと世界の前に立ち、
鞄の裏に隠し持っていた抜き身のレザーソーを取り出し、その刃を世界にむけた。
言葉が不敵な笑みを浮かべた、次の瞬間。
「死んじゃえ」
言葉が真っ直ぐに引いたレザーソーにより、
誠と一緒にいた世界は身につけていたマフラーごと首筋を切られ、
出血とともにその場に倒れ込んだ。
「誠ぉ…」
突然のことになすすべもなく、世界はまもなく意識を失った。

たちまち、歩道橋の上にいたすべての人が、
その凄惨な現場を目の当たりにして、パニックに陥った。
駆け出す人、しゃがみ込む人、雄叫びを上げる人…。
血塗れの世界の姿を見て絶叫する七海、うずくまり震え続ける光。
何もできずにただ見ているだけだった誠は、まだ、何が起きたのか理解できなかった。
言葉は、しばらくの間、世界を血の海に沈めた快感に酔って笑っていたが、
目の前にいる誠が悲壮な表情を浮かべ、地に伏せた世界を見下ろしているのに気づいた。
瞬間、言葉は我を取り戻し、同時に自分がやったことも理解した…その直後、
とっさに、今度は握りしめていたレザーソーを己の方に向け、自身の首筋を切り裂いた。
再び歩道橋の上には血飛沫が上がり…、まもなく言葉も昏倒して地に伏せた。

世界と言葉、二人の少女が、一人の少年…伊藤誠を取り合った結果だった。
けじめなく続いた三人の関係が迎えた、来るべき展開だったのかもしれない。
誰か一人を罰するわけではなく…三人が平等に受けるべき罰を受けた、
そうとらえることも、できるかもしれない。



もし、世界と言葉の二人がそのままだったら、確実に死を迎えていただろう。
…しかし、誠を起点にした運命は、簡単に終演を迎えることを許しはしなかった。
そう…この「鮮血の結末」は、あくまで過程であり、決して結末ではなかったのだ。
…二人の少女は生存し、運命の糸は途絶えることなく、物語を織り上げていく。

奇跡は偶然に起こると言うが、だとしたら、運命は必然によって起こるものなのだろう。
傷つき、終わるはずだった二人の少女の運命は、
その事件の重さを軽く吹き流すように、あっさり続いていくこととなる。
奇跡などではない…、繰り返すが、これは必然に約束された、運命なのだ。

事件直後、幸か不幸か、付近を通っていた救急車により、
二人は出血状態ではあるものの、致死寸前の状態で保護された。
いち早く気丈に戻った七海が、二人の血液型を救急隊に説明したことにより、
止血処理後、血清がすぐに打たれた。
レザーソーによる創傷は…頸動脈に至るほど深く、
現場には大量の血があふれ出たように地溜まりができていたが、
出血量自体は実は少なく、全血液量の1割にも満たなかった。
そのため、二人とも、一命を取り留めることができたのだ。
七海は震えが止まらない光をかばうため、誠に後のことを託した。

かくして、誠は世界、言葉とともに救急車に同乗し、
彼女らが榊野町にある総合病院の緊急医療室に運ばれるまでを見届けたのだった。
「世界…、言葉…、どうしてこんなことに…」
二人を前にして、誠はつぶやいた。

緊急医療室への搬送後、病院から連絡を受けた世界、言葉、二人の家族が駆けつけた。
世界の母・踊子も、言葉の母・真奈美も、仕事仲間であるだけに、
お互いの娘に起こった悲惨な顛末にただただ驚き、悲しむあまりだった。
「ねえ、いったい何でこんなことになったの?」
「お姉ちゃん…お姉ちゃん死んじゃうよ!」
我を忘れて喚く踊子、泣きむせぶ言葉の妹・心。
しかし、誠は、事の一部始終を見ていたものの、両家の家族に説明できず、
ただ、うつむいて押し黙っていた。
誠の様子に憤った真奈美が、不意に彼の横っ面を張り飛ばし、
胸ぐらを掴んでまくし立てた。

「あなたはその場にいたんでしょ? どうして何も言わないの!」
すさまじい表情でにらみつけるが、その目からは涙が止まらない。
誠はなおも何も言えず、真奈美の怒りをさらにかき立てたが、
その場にいた看護士たちがその様子に気づき、誠は真奈美から放された。
「やめて! あの子は全部知ってるのよ! 私たちに話すべきだわ!」
怒りの念が悲しみの情に飲み込まれ、その場に崩れ落ちる真奈美を、
踊子が抱き留めた。
「誠君も…その場に居合わせて混乱してるのよ。ね、そうよね?」
誠は、声は出なかったが、頭を縦に振って答えた。
「返してよ…お姉ちゃんを…お姉ちゃんを返してよ!」
今度は心が誠の前に立ちはだかり、その体に何度も握り拳を打ち付けた。
誠は、やはり無言で…心の悲しみを、受け続けていた。

病院にいた誠は、まもなく、今度は警察に呼ばれ、
殺人未遂事件の現場に居合わせた者の中でも重要人物であるとして、
事情聴取を受けたが、ここでも無言を貫き、何も語らなかった。
休みを挟みながら、時に優しく、時に厳しく、
およそ2時間にわたり担当の警察官は粘ったが、
とうとう、誠の口を割ることができなかった。
警察は、何も話せないのは精神面の不安定が原因ととらえ、
後日に再び聴取するため呼び出すことを伝えて、誠を帰した。

警察署から出た誠だが、戻るべきところは病院…のはずだった。
しかし、誠は、まるで何事もなかったかのように、家へと戻った。
今は思考停止して、ただ眠りたい…そう考えていたが、
病院や警察から既に連絡を受け、家で待っていた母親は、それを決して認めなかった。
「傷ついているのは、誰なのよ! 今すぐ、二人のいる病院に行きなさい!」
着替えることも許されず、制服姿のまま、誠は、再び駅へと向かった。
辺りはすっかり日が落ちて、夜の闇が降りてきていた。
電車に乗ったが、病院最寄りの榊野町駅では降りなかった。
湾岸新線をひたすら乗り続け、終着駅に着いたら、来た路線を戻った。
病院へ行かず、家にも戻らず…、ただ終電まで電車に乗って逃げ続けるつもりだった。

しかし、誠は、二往復目の模手原坂下駅で、思わぬ人物と出会った。
「え…清浦…?」
駅にいたのは、パリにいるはずの、清浦刹那と、その母・舞の二人だった。
「伊藤…なんでこんなところにいるの」
「それは、むしろ俺のセリフだよ」
驚き、所在なさそうに言う誠に、刹那は暗い表情で答えた。
「世界が…死にそうだって…連絡受けた。だから、お母さんと午前の便で帰ってきた」
「踊子…世界のお母さんから連絡があってね、すぐに駆けつけようって」
一緒に話しかけようとした舞の言葉を遮り、刹那は誠の前に立ち、
鋭く重い蹴りを誠の後頭部に叩き付けた。たまらず、地面に転がり、頭を抱える誠。
なおも蹴り飛ばそうとする刹那を、舞が後ろから羽交い締めにして止めた。

「やめなさい! 誠君を蹴ったって、何にもならないのよ、刹那!」
「放してよ! 伊藤、約束したのに。世界を守るって…約束したのに!」
怒り、憎しみ、悲しみが混じった視線を、刹那は誠に向けた。
誠はうなだれ…何も返せなかった。
「お母さん、もう蹴らないから…放して」
落ち着きを取り戻した娘の声を聞き、舞は刹那を解放した。
誠の前に立ち、複雑な表情のまま、手をさしのべる刹那。
「立って。伊藤、一緒に行こう。世界のいる病院へ」
刹那の言葉に、誠はもう、逃げ続けることができなかった。

病院の緊急医療室前では、西園寺踊子、桂真奈美の二人が誠を待ち続けていた。
ちなみに桂心は、泣き疲れて眠りについた後、父親とともに先に家に帰っていた。
娘が瀕死の重傷を負っている母親二人は、どちらも沈痛そうな表情を浮かべていたが、
舞は、「大丈夫だから、世界ちゃんも、言葉ちゃんも」と励まし続けた。
一方の刹那は、母親たちとは離れたところにあるロビーで、
誠の正面に座り、踊子や真奈美の代わりに事の顛末を聞き出そうとしていた。
しかし、誠はやはり、何も語らない。
「…伊藤、黙ってたら、何も分からない。
 あったことでいいから、何でもいいから。教えて」
泣きながらも懸命に刹那は誠に訊いたが、
「…俺は、何も話せないんだよ」
と、ぼそりとつぶやくだけだった。

「なんで何も話せないの? 話せない理由があるの?」
刹那の問いかけに、誠はうなずき、考え込んでいたが、
しばらくして、重く閉ざしていた口を、ようやく開けた。
「俺が下手に話したら…どちらかの責任になる…」
「どちらかって…世界か、桂さんかってこと?」
「…ああ」
誠は顔を上げたが、視線は下を向いたまま、
「本当は二人とも悪くない…だけど、俺が話をしたら、誤解につながってしまう」
「私は、何も知らないから。世界とも、ここ最近は連絡をとってなかったし。
 …それでも、話せない?」

刹那は、諦めずに説得を続けた。
「伊藤…私が転校する前に言ってくれたよね」
「え…」
「清浦は、いい相談相手だって。もっと早く話ができてればよかったって」
誠は、学祭前のことを思い出し、思わず刹那の方を向いた。
「ね…話して、くれないかな」
刹那の視線は真剣そのものだが、表情は先ほどとは違い、和らいだものになっていた。
これは誠にしゃべらせるための刹那の賭けだった。
誠の心をつかめれば、真実を聞き出せるかもしれないという…。
刹那の読みはずばり的中し、誠の心は、ようやく、動いた。
「清浦なら、話せるか…清浦になら」
誠は、誰にも言えなかった胸の内を、話し始めた。

「なんて言うか、その…悪いのは、俺なんだ」
「…え」
「そうだ。悪いのは…すべて、この俺なんだ」
誠は、再びうつむいたが、押し黙ることなく話し続けた。
「あの時…歩道橋の上で、世界に刃物を向けて斬りつけたのは、言葉だ。
 だけど、言葉は悪くない。俺が…言葉とちゃんと別れないまま、
 世界を好きになって、つきあい始めたから。
 だから、悲しくて、悔しくて…きっと、俺がそうさせたんだと思う。
 …世界も、先に言葉に彼女になれるよう協力しておきながら、
 あとから俺の彼女になったことに、苦しんでいたこともあった。
 でも、世界は悪くない。世界を苦しめたのも…この俺だから。
 世界とつきあっている間、俺はそのことにまったく気づけなかった。
 言葉のことが好きで、でも世界のことも好きで…優柔不断で、
 片方を選べば片方が離れていくから、どっちも引き留めておきたくて。
 そんなことばっかりやってて、俺のことばかり考えてて…、
 二人の気持ちを全然考えてなかった。
 もっと、俺がちゃんとしてて…どっちとつきあうって、
 はっきり決めていたら…俺が最後まではっきりしなかったから、
 だから…だからこんなことに…」
最後の方は、嗚咽混じりになっていた。

「俺…清浦に、世界のこと、お願いって言われて…、
 あの時に、世界とつきあっていくこと、決めたはずなのに…、
 なのに、言葉の寂しそうな姿を見るのが耐えられなくて…。
 刹那には、言葉に近づくなって言われてたのに、
 俺は…結局、言葉も自分の側に呼び戻してしまって、
 そのまま、どっちも選べなくて…くそ、俺って、最低だ…」
「そう。伊藤は、最低」
「はっ…」
誠が涙を零しながら見上げると、刹那は既に涙もなく、
和らいだ表情は醒めた表情に変わり、静かに誠を見つめていた。
「私との約束、世界を守るって約束、守ってくれなかった。
 世界と桂さんだけじゃない、伊藤は、私の気持ちも踏みにじった」
刹那の言葉に、再びうつむき泣き続ける誠。
「伊藤は…世界と言葉、どっちのそばにいる資格もない」
「…」
「だから」
刹那は、椅子から立ち上がり、誠を見下ろしながら告げた。
「詳しいこと、世界のおばさんと、桂さんのおばさんにも話して…帰ろう」
力なく、誠はうなずいた。

刹那の支えで、誠はようやく事件のすべてを踊子と真奈美、そして舞にも話し、
その上で、全ての責任は自分にあると言い、土下座をして謝った。
「謝れば、済むってもんじゃないのよ! よくもうちの娘に…」
「私は、誠くんのこと、いい子だと思っていたのに…」
一部始終を聞いて激高する真奈美、誠の本性を知り肩を落とす踊子。
誠はなおも這い蹲って謝り続けたが、その様子を見かねた舞と刹那によって、
二人の母親の前から、引きずられるように離された。
そのまま、病院の入り口まで連れられた誠は、
今日のところはひとまず帰りなさいと、舞から告げられた。
「きちんと、逃げずにやるべき事をやって…そしてまた、ここに来てね」
誠は、泣き腫らした赤い目を舞に向け、頷いた。
誰もいない最終電車で、一人だらだらと泣きながら、誠は帰路についた。

事件の翌日。
誠は十分に眠れなかったが、舞に言われたとおり、
やるべきことをやろうと、警察署に向かった。
事件のことについて、自分が見たこと、またその背景にあった自分の問題についても、
あますとこなく全て説明した。
昨日とはうって変わって誠意ある対応に、事情聴取担当者から誠を責める言葉はなく、
寧ろ、誠は「よく話してくれたね」とねぎらいの言葉を受けた。
そして、「君自身の問題もあるけれど…今回の事件は、それだけじゃないみたいなんだ」
と、誠が知らなかった事件の側面についても、語ってくれた。

担当者は、前日のうちに七海からも事情聴取しており、そのときに、
言葉を3組の女子の他、女子の運動部のつながりでいじめていたことを聞いていた。
誠は、中学からの付き合いである乙女もいじめに加わっていたことや、
そのいじめが学祭以降にさらに激しくなった事などを聞き、大きなショックを受けた。
「七海さんはね…世界さんの友人だけど、世界さんには頼まれていない、
 あくまで自分だけが扇動してやったことなんだって、何度も言っていたよ。
 それだけは、誤解してほしくない、って…。
 私が伊藤君に会ったら話すよ、って言ったら、泣いて困っていたけど。
 まあ、そういうことだから…信じるかどうかは君次第だけどね」
クラスメートたちに、友達だと思っていた女の子に、そして彼氏に…、
すべてに追い詰められた言葉の心境を今になって察し、誠は、再び泣き崩れた。

およそ三分の一を上げたところで、今日は落ちます。
続きは、また明日の夜にでも。それでは。

しかし、読んで下さる奇特な方は、いらっしゃるのだろうか…。

地の文好きだがちょい見にくいね

応援してますよ

昔読んだことあるような…気のせい?

今晩は。やって参りました。
続きを上げるだけかと思いきや、
読んで下さる方がいらっしゃるとは…!
ありがとうございます。

>>24
今回から地の文に改行を取り入れてみます。
読みやすくなったならば幸いです。

>>27
ネットで公開するのは、今回が初です。
書いた当初、知り合いにだけは読ませたかも、です。

…誠がまだ警察署で事情聴取を受けている、ちょうどその頃。

血清が間に合い、体内の血液量が元に戻ったことで、

チアノーゼや心拍はかなり回復していたものの、

意識だけがまだ戻っていなかった、世界と言葉は、

薄暗い緊急医療室の中で、…これもまた運命なのだろうか、

二人同時に意識を取り戻した。

世界は、目の前に広がった景色が、最初は理解できず、

死んだはずなのに雲がないなぁなどと思っていたが、

建物の天井…そして、釣り下げられた点滴や機器の電線を見て、

ようやく、自分が死んでいなかったことを知った。



言葉もまた、聞こえてくる機器の音が、最初は理解できず、

車の音が聞こえてこないなぁなどと思っていたが、

それが自分の心拍を刻む機械音であることに気づき、

自分が生き残ったことを知った。

先に言葉を発したのは、世界だった。

「あれ…私、生きてる…」

それを隣で聞き、思わず言葉も声を上げた。

「西園寺さん…そこにいるんですか?」

二人は首を固定されており、お互いの方を向くことができない。

しかし、聞こえてくる声がこの部屋に二人がいることを認知させた。

「え…桂さん…」

「西園寺…さん」

世界は言葉が近くにいることを知ると同時に、

先ほど自分が歩道橋の上で遭った出来事を思い出し、驚愕した。

「いや…やめて…」

言葉は、思わず声をのんだ。

「怖い…こないで…私の方に近づかないで!」

声を荒げたとたん、まだ酸欠状態の体に負担が走り、世界は咳き込んだ。

同時に、動悸が高まった言葉も、激しく咳き込んだ。

それを聞いた世界は、釣り下げられた電線や点滴や血清が、

自分の方だけではなく、反対側のベッドの方にもあることに気づいた。

「え、何で、桂さんも…?」

よく分からないまま、世界は言葉に訊いた。

「西園寺さん…生きてたんですね…」

言葉は、ただ、後悔と懺悔の思いで、いっぱいだった。

その瞳は、既に事件前の精神崩壊状態ではなく、本来の輝きを宿していた。

「よかった…生きてて…死んでなくて、本当によかった…」

と、涙を落としながら言う言葉の声を聞く世界。

そのおだやかな口調に、恐怖は緩やかに溶けていった。

「ごめんなさい…西園寺さん、私、傷つけちゃって…本当に、ごめんなさい」

「桂さん…」

時折咳き込みつつ、言葉の声は続いた。

「誠君取られて、悔しかったけれど…だけど、あんなことするなんて…私…」

「…」

「でも…、私も死にそびれちゃいました…」

天井の方を向いたまま、言葉はつぶやいた。

「死にそびれ…って、まさか」

「…はい、あの後、悲しい顔をしている誠君に気づいて、私自身も死のうって」

「もしかして、それで…?」

「…はい」

「そう…なんだ」

以前、放課後の屋上で、思いこんだ言葉が、

果物ナイフを取り出して「誠君を取った相手を殺して、私も死ぬ!」

と言っていたことを思い出した世界は、

言葉が隣にいる理由を、どうにか理解することができた。

とはいえ、本当にするなんて…。

世界は、言葉の衝動的な性格にも驚いたが、

それ以上に、言葉をあの凶行に追い込んだ背景について、

思い当たるどころか、はっきりと自覚しており、そのことへの慚愧に堪えなかった。

「…」

「…いいよ」

「え?」

「私、死んでなかったから…もう、いいよ」

「でも、私は西園寺さんを…」

「私も桂さんも死んでなかったもの、いいじゃない」

「そんな…」

「…私も、桂さんには、いっぱい、嫌な思いさせちゃったし」

「…」

「私を殺したくなるくらい、恨んでたんだよね…」

「…それは」

「最初に告白したのは、桂さんなのに…途中から、誠のこと、取っちゃって」

「…」

「嫌だったよね…当たり前だよね、…分かってたはずなのに」

二つ三つ咳き込んで、世界は話し続けた。

「私も…」

「へ?」

「私も、もし、逆の立場だったら…同じようなこと、してたかも」

「西園寺さん…」

世界の瞳にも、涙がにじんできた。

「私、やきもち焼きだし…人のこと、言えないよ」

「…」

「桂さん」

「はい」

「今まで、ごめんね」

「そんな…私こそ…ううん、私がやったことの方が、もっと…」

「いいの、違うの、そうじゃないの」

「え…」

「私が、桂さんの気持ちを踏みにじって、誠とつきあおうとしたんだから」

「…」

「ごめん」

「私こそ…ごめんなさい」

「ごめんね、桂さん」

「いえ、本当に…ごめんなさい」

二人は、ベッド越しにいつまでも謝り続け…やがて、疲れて、そろって眠りに落ちた。

生死の境をさまよった世界と言葉だが、

覚醒後は、二人そろって驚異的な回復力を見せた。

出血による虚弱状態が回復すると、二人は緊急医療室から、

一般病室に移されたが、ここでも二人は同じ部屋だった。

事件の被害者と加害者が同じ病室にいるという状況を、

二人の母親である踊子と真奈美は必ずしも快く思ってはいなかったが、

世界と言葉が日に日に回復していく様子を見て、

徐々に理解を示し、また両家の関係も修復されていった。

もともと仕事上で協力し合い、切磋琢磨しあう仲だったため、

ほころび始めた絆もすぐに元に戻ったのだった。

そんな西園寺・桂両親子の関係修復には、清浦母子も一役買っていた。

刹那は先だって誠に会い、見舞いや面会を固く禁じた。

まだ心身ともに万全でない二人の前に誠が現れたら、

同じ事の繰り返しになるリスクが生まれるだけだからだ。

刹那の強い説得により、誠もこれを了承した。

また、刹那は病院で、世界だけでなく、言葉の世話も献身的に行っていた。

その傍らで、舞も、踊子と真奈美の両方を取り持ち、また三人で頑張ろうと、

フランスに戻る日程を引き延ばしてまで、毎日のように応援を続けていた。

病室には常に、清浦親子からの何らかの差し入れがあり、

色とりどりの花が飾られたり、回復状態に合わせた食べ物なども届けられていた。

事件当時に彼女たちが着ていた制服やコートは、既に処分されていたが、

二人の通学鞄だけが、病室の隅に、所在なさそうに置かれていた。

全てが順調にいっているかのように見えていたが、

…しかし、世界と言葉の病院生活は、決して平穏なだけではなかった。

体の回復だけでは解決できない問題が残っている以上、

それは…ある意味、起こるべくして起こった出来事だった。

ある程度治療が進み、通常の生活に戻るため、

通常の食事を摂るようになり、ベッドから離れての歩行訓練が始まった頃。

世界は、全身の筋力が衰え、思うように動けなくなっていたことに加え、

自分の痩せ衰えた体を目の当たりにし、深く落ち込んでいた。

そのため、世界はリハビリをさぼり、自宅同様に病院でも引きこもろうとしていた。

言葉は一刻も早く病院を出たい一心でリハビリに専念していたが、

世界は…病院を出た後、今の姿ではとても誠とは会えないと、

布団にくるまり、一人でぐすぐす泣いていた。

一人でリハビリ訓練をしていた言葉からそのことを聞いた刹那は、

すぐに病室に向かい、世界の布団を引っぺがそうとした。

突然のことに驚きながらも、抵抗する世界。

しかし、筋力の衰えた腕では、布団にしがみつくことすらかなわず、

あっさりと刹那に隠れ蓑を奪われてしまった。

「ひどいよ、刹那…」

何もできず、ベッドに丸まって泣く世界を、刹那は一喝した。

「世界。このまま、桂さんに負けていいの?」

「え…」

「桂さんは、世界がいなくてもリハビリをやってる。
 多分、世界を置いて、先に一人で伊藤のところに会いに行くつもりだと思う」

「そんな…」

「それでいいの?」

世界は、強くかぶりを振った。

「よくないよ!」

「それなら」

「でも…ダメなんだよ、今の私じゃ…」

そう言って、世界は刹那の右手を取り、一回り細くなってしまった太股に導いた。

「あ…」

「ほらね、こんなに痩せちゃって…全然、魅力ないし」

俯いて、つぶやいている世界の目の前に、刹那は迫った。

「世界…」

「…刹那?」

むに。

次の瞬間、刹那の手は太股から世界の胸に伸びていた。

「きゃあっ!」

「…む、そんなに萎んでない」

刹那は、世界の胸の感触を確かめつつ、ため息をついた。

「そりゃ、痩せたけど、萎んじゃ…って、刹那っ」

「私よりも小さくなったと思ったのに…」

「そんなには小さくなってないもんっ」

「そんなにはって…ひどい」

刹那は口をとがらせ、もう片方の手も伸ばし、さらに力を強めた。

「ああ、そういう意味じゃないってば。
 ていうか…刹那、いつまで触ってるのよっ」

サイズが小さくなった分、感度は良好…なのだろうか、

世界は身をよじり、あえぎ声を漏らすまいと必死だった。

「これなら大丈夫。いつ伊藤に触られても」

「って、何てこと言うのよ…んっ」

刹那の言葉で誠のことを思い出した世界は、思わず甘い声を漏らしてしまった。

「ふ」と含み笑いをしながら、刹那はそっと両手を世界の胸から離した。

「世界は、何も変わっていない。だから、大丈夫」

「刹那…」

世界は、顔を紅潮させたまま、刹那の方を向いた。

「あとは、体力をつけて、退院できるよう、頑張るだけ」

「そう…だけど」

「私は、世界の代わりをすることはできないから…、
 今は世界が頑張る時」

「…うん」

「早く元気になって、退院して。そして、伊藤と乳繰りあって」

「…だから、そこで誠の名前を出さないでよ」

世界は、誠の名前に敏感に反応し、もじもじしている。

「もしかして、さっきので…」

「もう…いじわるだよ、刹那ぁ」

「嫌なら、ベッドから起きて、リハビリに行く。早く」

「はいはい…もう、刹那にはかなわないよ」

「慣れてるから」

世界は、のそのそとベッドから起き上がり、病室を出た。

でも、その顔に陰りはなく…退院に向けての意欲がみなぎっていた。



この時、二人のやりとりを廊下の奥から聞いていた人物がいたが、

もちろん、世界と刹那は知るよしもなかった。

その日の真夜中。

言葉は、突如跳ね起きた。

入院して以来、久しぶりに夢を見たのだが、

その夢で映し出されたのは、学園の屋上や、誠の家で見聞きした、誠と世界のやりとりだった。

誠を巧みに誘う世界、世界の体に溺れて腰を振り続ける誠…。

まるでイドから無意識の悪魔が飛び出したように、

言葉をもっとも痛めつけた記憶たちが、封印を破って蹂躙した。

その瞬間、言葉の精神は事件当時の最悪の状態に、逆戻りしてしまっていた。

隣で、静かに寝息を立てている世界。

彼女を襲おうという考えは、沸いてこなかった。

一度、殺害失敗を経験している以上、同じ失敗は踏めなかった。

もっと確実に、誠と西園寺さんを引き離す方法は、ないのかしら…。

一思案というよりもわずかな時間で、言葉の脳裏にある考えが閃いた。

「そう…二人を永遠に引き離す方法…ふふふ、あはははははは」

小さく笑うと、言葉は静かに着替え、病室を抜け出し、まだしっかりしない足取りで、

目的を遂行するための場所へと、一歩一歩進んでいった。

その頃、二人の病室のある階のナースステーションの前で、

踊子、真奈美、舞の母親三人と、刹那が話をしていた。

娘二人の回復が順調に進んでいることで、踊子と真奈美も少しずつ、

強い不安感から解放されつつあるところだったのだ。

舞は、「この調子なら、二人一緒に退院できるかもね」と、

さらに踊子と真奈美を励まし、元気づけていた。

刹那も、その会話を聞いて笑っていたが、廊下の奥へと消えていく一つの影に気づき、

「ごめん、ちょっと、トイレ」と、席を外した。

言葉は、病院の階段を、ゆっくりと上がっていた。

目指しているのは、最上階…のさらに上にある、屋上だった。

リハビリ訓練中に、階段の昇降練習をしていたのだが、

階段を上った先にある最上階の扉と、そこから続く屋上への扉、

そのどちらも、どういうわけか鍵がかかっていないということを確認していた。

今の言葉は、凶器こそ持っていないものの、

狂気に駆られ、ただ世界に逆襲することだけが、意識にあった。

自らの命を葬り去ること…それが、言葉が世界に向ける、最大の凶器だった。

だが、最上階に向かう階段の途中で、

言葉は目の前に立ちふさがる人の姿を見て、思わず歩みを止めた。

「え…」

それは、エレベーターを使い、言葉より上の階へと先回りをしていた刹那だった。

「桂さん…こんな時間なのに、リハビリ訓練?」

刹那は、尋常ではない様子の言葉を、鋭い目つきでにらみつけた。

「ええ…そう、リハビリ中なの。だから、どいてください」

場を和まし、ごまかして先に進もうとする言葉を、刹那は両手を広げて止めた。

「どかない」

「清浦さん…」

「ここは、絶対にどかない!」

刹那はそういうと、自身も両手を広げたまま、階段を一歩下りた。

「清浦さん…邪魔、しないでください」

言葉も、負けじと階段を一段上った。

二人はじりじりと詰め寄り…階段上でにらみ合った。

「邪魔するなら…容赦しません」

言葉が刹那につかみかかろうとした、次の瞬間、

刹那は小柄な体躯を生かしてそれを避け、素早く言葉の背後に回り、

言葉の胴を、両腕でがっちりと囲い込んだ。

「やめてください…清浦さん、やだ、離して、離してッ!」

言葉は刹那の腕を爪を立てて掴み、必死に引き離そうとしたが、

刹那も、ものすごい力で言葉の胴を締め付け、離そうとしなかった。

そのまま、転げ落ちないように、一歩ずつ後ろ向きの体勢で、

階段を後退していった。

「いや…やめて…離して…」

言葉は、刹那の戒めをとこうと、腕に拳を打ち付けたり、脇腹を肘で突いたりしたが、

治療中であり、思うように力が出ない。

だが、力以上に、強い執念を持っていた刹那により、

とうとう、階段途中の踊り場にまで引きずられるようにおろされ、

そして、刹那と一緒にその場に転倒するように座り込んだ。

「はあ…はあ…」

刹那は、言葉の反撃を避けることなく何度も受け続けたため、

そのあまりの痛さに半泣きになっていたが、

座り込んでもなお、言葉を離そうとはしなかった。

引き離そうと抵抗を続けるする言葉に、刹那は言い放った。

「勝手に死んだりなんて、させない」

言葉は、それを聞いて、はっと我に返った。

「桂さん一人…勝手に死ぬなんて…私が許さない」

「どうして、そんな、私、何も…」

「飛び降りて死ぬために屋上に向かっていた…違う?」

「っ…」

「私が死ねば、責任を感じて世界も後を追う…そんな卑怯な真似、絶対に許さない」

刹那は、階段を上る言葉の、ただならぬ気配を感じ取るのと同時に、

言葉がこの真夜中の時間に屋上へと向かう意図を、全て見破っていた。

一方の言葉はというと、刹那に心の内を見抜かれたため、

抵抗する力の一切が抜け、両腕をだらんと垂らし、うつむいていた。

しかし、まだ、全てを諦めたわけではなかった。

「清浦さん。…何が悪いんですか?」

口許に歪な笑みを浮かべ、言葉は言った。

「知ってますか? 誠君を横取りしたのは、西園寺さんなんですよ。
 最初に付き合っていたのは私で、西園寺さんは手助けをしてくれて…、
 それがどういうわけか、私が誠君のことを怖がっているうちに、
 西園寺さんが誠君のことを体を使って誘惑して、奪っていったんですよ。
 清浦さんは、西園寺さんの親友ですから…、それくらいは、ご存じですよね?」

刹那は、最初から誠、世界、言葉の三角関係が歪であったことに驚いたが、

素知らぬふりをして、黙って話を聞き続けた。

「誠君も完全に西園寺さんに騙されて、言いなりになって…。
 でも、あくまでも悪いのは西園寺さんですから。
 学校で、誠君の家でも…際限なく、常識なく、どこでもいやらしいことをして。
 誠君が変になっちゃうのも仕方ないです。あんなことを…毎日…」

「…」

「私、クラスでのいじめなんて、そんなのはどうでもよかったんです。
 ただ、誠君を西園寺さんに寝取られたのが悔しくて…。
 そして、西園寺さんが友達を使ってまで、私と誠君を引き離そうとしたことも」

「友達って…」

「私と同じ中学出身の甘露寺七海さんと、あと一人…確か、黒田さん、です」

「…」

ここまで黙って聞いていた刹那は、自分が転校した後、

七海と光がアンフェアな関わり方をしていたことに、ショックを受けた。

「清浦さんは、転校しちゃいましたから、ご存じないかもしれませんが…、
 清浦さんがいなくなったあと、西園寺さんは私に卑怯な手段をとり続けていたんです。
 私、ずっと我慢して、誠君が振り向いてくれるのを待っていたんですが…、
 それも、もう、限界だったんです」

言葉の肩が小刻みに震えた。口許には笑みが残っているが、

両の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。

「私が、西園寺さんを殺そうとしたのは、そのため…でも、失敗しちゃいましたから。
 だから…西園寺さんを殺せないなら、せめて私だけでも死んでしまおうかと…」

「そう。死んで、今の状況から逃げるつもりなんだ」

「うるさいっ!」

刹那の声に、言葉は思わず叫んだ。

「私の気持ち…西園寺さんを許せないこの気持ち…、
 これだけは、一緒の病室で、仲良くしてるつもりでも、許せないんです!
 …ねえ、清浦さん、私、間違ってますか? 友達だって信じて、裏切られて…。
 その上誠君まで寝取られて…そんな西園寺さんを、許せって、私に言うつもりですか?」

そのとき。

階段に、もう一人の足音がこだました。

一歩一歩、ゆっくり近づいてくる足音とともに、

泣きむせぶ声も、入り交じって聞こえてきた。

「え…」

刹那と言葉は、同時に声を漏らした。

足音の主は、時間をかけて、二人の元にやってきた。

…顔を涙でぐじゃぐじゃにした、パジャマに半纏姿の世界だった。

約三分の一を残したところで、今日はおしまいにします。
明日の夜、ラストまで掲載します。それでは。

…ご意見、ご要望等、ございましたら、遠慮なくお寄せくださいませ。

今晩は。お読みいただき、ありがとうございます。
それでは、最後までどうか、お付き合いくださいませ。

「西園寺さん」

「世界…」

世界は、激しく泣き続けており、話そうにも声が出なかった。

その代わりに、まだ十分に動かない両足を引きずるようにそろえると、

言葉の前で端座し、地に頭をつけた。

「ごめん…なさい」

泣きすぎてしゃっくりが止まらず、言葉が声にならなかったが、

それでも、世界は何度も頭を床にこすりつけて繰り返した。

刹那は、ただただ懺悔を繰り返す世界に、何も言えなかった。

言葉はそんな世界の様子にあっけにとられていたが、

間もなく、その姿を見るほどに怒りや恨みがわき上がってきた。

「何度謝られても…私は、西園寺さんを許すことはできません」

その声を聞いて、世界は顔を上げ、言葉の方を見た。

言葉は、動じることなく、きっと世界を見返した。

強い言葉の視線を受け、世界は再び顔をおろし、

そろそろと、半纏の袖の中から、何かを取りだした。

巻き付けてあった布を取り、自分の胸の方に向ける…、

それを見た刹那と言葉は、思わず息をのんだ。

世界が握りしめていたのは、刃渡り20cmほどの出刃包丁だったのだ。

二人がひるんだその隙に、世界は己の胸を一突きしようとした。

「ダメ、世界!」

刹那がそういって止めに入る前に、

世界の包丁は、床に叩き落とされていた。

不意打ちを受けた自分の手を凝視する世界。

それから、視線は…目の前にいる、言葉に向けられた。

そう、世界の手から包丁を叩き落としたのは、言葉だったのだ。

「どうして…」

力なく言う世界に、言葉は言った。

「西園寺さんがここで死んだら…誠君がどんなに悲しむか…」

世界の両の眼から、涙が引いた。

「とても…悔しいですけど…許せないですけど…、
 やっぱり、西園寺さんが死ぬのはダメです…」

「桂さん…」

「勘違いしないでくださいね…私、誠君のことを思って、止めたんですから…」

「…じゃあ、桂さんもだよ」

「え…」

世界は、言葉に返した。

「桂さんが死んだら、誠はきっと、悲しむ…。
 だから、死んじゃダメ。私だけじゃない…誠も、悲しくて、死んじゃうかもしれないよ」

それを聞いた言葉は、ふと狂気から醒め、我を取り戻した。

「私のこと、許さなくてもいい…当然だもの。
 だけど、一緒に生きていこうよ? 誠のために…」

「…」

「刹那、退院したら、誠に会わせてくれるんだよね?」

突然話を振られた刹那は、ちょっとあわてたが、

「え…うん、退院したら」と同意した。

「ほらね? だから、頑張ろうよ。私のことは…嫌いなままでいいから」

世界は、涙で目元を真っ赤にしながらも、無理に笑顔を作って見せた。

言葉はというと、おだやかな眼を世界に向けていた。もう、壊れた瞳ではなかった。

「私…西園寺さんにはまだまだ言い足りないですけど、それでもよければ」

「全然、かまわないよ。私もまだまだ謝り足りないし」

そう言って、手を差し出す世界。言葉は、世界の手を、そっと握った。

…緊張した空気が緩やかに流れ出し、二人はまた、涙が止まらなくなった。

世界と言葉の二人が、一転して和解したのを見て、

刹那は、気づかれないように、ほっとため息をついた。

「今日は疲れたけど…まあ、無事で何よりかな」

そうつぶやいて、全身の痛みをこらえながら、小さくVの字を作ってみた。




それから。

世界と言葉は、リハビリの合間に、誠との出会いから今に至るまでのことを、

全て、包み隠さず、話し合い、理解を深めた。

もちろんきれい事ばかりではなく、裏切り、騙しあったことなど、

痛みを伴う出来事まで共有されたが、その分、二人の関係は改善された。

「私、誠と一緒になった後も、ずっと不安で…。
 ほら、誠って、結構色んな女の子にもててるから。
 毎日のように、放課後に会ってたけれど…会うほど不安が膨らんでいって。
 だから…誠がもし浮気したら、あれで刺してやろうと思ってたんだ」

「え…もしかして、こないだの包丁って、それで持ち歩いてたんですか?」

「あはは…そう、毎日鞄に入れて持ち歩いてたから、入院した後も入れっぱなしだった」

「わあ…西園寺さんも、病んでたんですね」

「あはは…病んでたのは、お互い様だよ」

「ふふ、そうかもしれませんね」

なんていう重い会話が、実に軽い雰囲気で行われていた。

…刹那はいつまたこの前のようなことが起こるのではないかと、

本当は気が気でなかったが、心配する以上に、二人は仲を取り戻していた。

その過程で、言葉は、世界のことを、少しずつ、許し始めていた。



…なお、伊藤誠に関する話は、最初のうちは頻繁に出ていたが、

忌まわしい事件を避けるかのように、やがて、二人ともしなくなった。




事件から、一ヶ月後。

二人同時に、首筋の縫合部分から抜糸が行われた。

身体面や知能面の障害等のハンデを背負うことが一切ない状態で、

両名とも完全に回復し、無事に退院することができた。




事実上、傷害事件を起こした言葉は、まもなく警察に逮捕された。

言葉は連日取調べを受けたが…被害者である世界も警察に行き、

桂さんは悪くない、無罪だと、自らの行いを全て明かして弁護した。

取り調べ後、言葉の身柄はひとまず少年院に預けられたが、

その後行われた刑事裁判では、言葉が陰惨ないじめを受けていたこと、

言葉が事件に至るまでの背景に情状酌量の余地がかなりあること、

また被害者が被疑者のことを強く弁護していること、

本来は真面目な性格であり、更正の可能性が十分にあることなどを理由に、

最終判決では、少年院を出て、経過観察を受けるという軽い措置で済むことができた。




冬も終わり、春が訪れ、緑が生い茂る季節。

世界と言葉は、学園の屋上で、お昼ご飯をともにしていた。

学食では事件の詳細を知らない学生たちの好奇の視線が否応なしに集まるため、

やむなく屋上を選んでいたが、すでに暖かく、過ごしやすい場所でもあった。



腰に至るほど長い、美少女の象徴だった言葉の髪は、

少年院にいたときにばっさり切っており、今はかつての世界よりも短い。

別に髪を切る必要ないのに、言葉が自分の意志で切ったのだったが、

これは、裁判中に事件後の反省を視覚的に示す一つの好材料となった。

世界はというと、言葉とは逆に髪を伸ばし、一本に束ねていた。

長さこそ母・踊子には及ばないが、まとめられた髪は落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

そして、二人は、そろって首元にスカーフを巻いていた。

縫合手術の痕が残っており、それを隠すためだ。

おそらく、この傷痕は、一生残るだろう。

事件もひとまずの解決を迎えていたが…痕跡はまだ、目に見える形で残っていた。

今回の事件を受け、学園内にも警察の取り調べが入っており、

乱れた風紀の改善や、いじめの廃絶が義務づけられた。

これを受け、学祭での休憩所の伝統も発覚し、次年度以降、完全廃止となった。

いじめについては、警察の指導を受けた教職員が徹底的に学生たちを洗ったため、

今はもう、言葉をいじめる生徒は誰もいなかった。

…もっとも、好きこのんで言葉に近づこうという生徒もいなかった。

殺人未遂事件を起こした生徒ということで、誰もが怖がり、相手にしなかったのだ。

言葉のいた3組では、彼女からの報復を恐れ、学校を去っていった者もいたほどだった。

一部の保護者からは、なぜ桂言葉を復学させたのかという非難も上がったが、

事件前の言葉の人間関係に関する情報も既に周知となっており、

むしろ言葉をかばう声が強く、退学を強要する動きにはならなかった。

世界サイドはというと、親しかった七海は、責任を感じて学校に出てこなくなった。

光は事件現場のフラッシュバックが続き、精神を病んで自宅の床に伏しており、

世界の頼みで、クラスメートの澤永泰介が、連日、見舞いに行っていた。

そして、刹那も、世界が退院をしたあと、まもなくパリに帰ってしまっていた。

かくして、世界と言葉は、校内では二人ぼっちの状態だった。

さらに…本来、この二人の間にいたはずの誠も、今、この学園にいない。

といっても、退学したのではなく、留学のための休学中なのである。

誠は、世界と言葉の入院中、見舞いに行くことを刹那から禁じられ、

ただ学園に通い続ける日々だったが、世界も言葉もいない学園生活は、

既に彼にとって、ただ空虚でしかなかった。

そこで、世界と言葉が退院した直後に、刹那とともに、パリへと留学しに行ったのだった。

かつて刹那が言っていた「どっちのそばにいる資格もない」という一言は、

誠の心深くに刻み込まれており、彼の行動を強く抑止していた。

この学園にいたら、戻ってきた二人の狭間でまた揺れて、傷つけてしまう…。

自分はどちらの側にもいない方がいい…そう決意し、

まもなく、学校に休学届けを出した。

日夜のバイトで、短期間で旅費を貯め、独学で簡単なフランス語も勉強した上で、

刹那親子にパリへの同行を願い出たのだった。

刹那たちも、世界と言葉が退院したら戻るつもりだったので、

この誠の頼みを快く受け入れ、一緒にパリへと向かった。

出発前にあったトラブルといえば、空港まで見送りに来た誠の妹の止が、

誠と離れることを嫌がり、脚にしがみついて離れないことだったが…、

「必ず、日本に帰ってくるから。甘くておいしいおみやげもって、戻ってくるから」

と誠が説得すると、ようやく止も納得し、泣き笑いの表情で誠を見送った。

…かくして今、誠はパリで暮らし、刹那と同じ学校に通っている。




「やっぱり、世界さんのサンドイッチ、おいしいです」

「そうでしょ、これだけは自信あるんだ。あ、言葉、お茶、お代わりちょうだい」

「はい、どうぞ」

「ありがとう。…んー、やっぱりおいしいね、これ」

あんな事件があった後だが、二人の絆は、

また言葉の裁判を巡っての世界の献身的な協力もあったため、

さらに深まり、世界にとって、言葉は刹那と同じくらいの親友となった。

言葉にとってもまた、世界はかけがえのない友達となっており、

二人はお互いを名前で呼び合うほどの親しい仲になっていた。

事件前、誠がらみでこじれた問題も、今や、完全に風化しつつあった。

「もうすぐで、2年生になりますね」

「そうだよねー。勉強、難しくなるんだろうなぁ…はぁ」

「大丈夫ですよ。一緒に勉強しましょう」

「ありがとう。言葉、頭いいから助かるよー」

「うふふ…その代わり、また、料理を教えてくださいね」

「いいけど…いつも言ってるけど、私、そんなに得意ってわけじゃないよ?」

「いえ、世界さんのサンドイッチを越えるまで、私、頑張りますから」

「あはは…私も負けないように頑張らないと」

談笑の合間に、屋上に突風が吹く。

初夏の暖かさを乗せた風で、とても心地よく感じられた。

「そうだ、今日は言葉に見せたい物があって」

「え、なんですか?」

そう言って世界が取り出したのは、一通のエアメールだった。

「じゃーん、これ、刹那からの手紙!」

「あら、本当ですね」

「これさ…、刹那の名前の下に…ほら、誠って書いてあるでしょ」

世界は、Setsuna Kiyouraの下にあるMakoto Itoを、そっと指し示した。

言葉は一瞬表情が硬くなったが、すぐに元の調子に戻して、

「っと…本当、Makotoって書いてあります」と返した。

「私一人で読んでもよかったんだけど、折角だから、言葉と一緒に読もうかなって」

「でも、刹那さんの手紙だし…」

「誠も一筆添えてるんだから、二人で読まなきゃ」

「ありがとう、世界さん」

言葉は微笑んでみたが、やはりどこかぎこちなかった。

事件のことは風化したが、誠のことは、二人にとって、未だに禁忌であった。

同じ過ちを繰り返さないために、意図的に誠についての話題を避けていた。

だから、この手紙を受け取った世界は、一人では怖くて読む気になれなかった。

なぜ、今になって刹那が誠と連名で手紙を出してきたのか、

意図が全く分からず、ただ恐怖しか感じられなかった。

そのために、言葉と一緒に読もうと思ったのだが…、

伊藤誠という名前を見て心が強く揺らいだのは、むしろ言葉の方だった。

過去に封じたはずの「もう一人の自分」が、表に出ないように…言葉はそればかり考えていた。

「じゃ、開けるよ…」

「…はい」



ハサミで封筒の端を切ると、中から一枚の写真が出てきた。

それをおそるおそる手に取る世界、隣から覗き込む言葉。



…瞬間、二人は予想外の内容に同時に凍り付いた。

『…お久しぶりです。私、刹那は、このたび、めでたく、
 パリにて、誠君とお付き合いを始めました。
 世界と桂さんには知らせようと二人で決めたので、
 手紙を送らせていただきました。かしこ      刹那』



という文面が書かれた写真には、

真正面を向いて得意のVサインを送る刹那と、

彼女の右頬にキスをしている誠が、

凱旋門をバックにして、写っていた。

しばらく、無言が続いた。

吹き抜ける風にも、暖かさを感じられなくなってきた。

「…っ、これって…」

「刹那…」

小刻みに震える二人。

怒りとも悲しみとも憎しみともとれぬ感情が、屋上に渦巻いていた。

沈黙を破ったのは、言葉だった。

「世界さん」

「はい?」

真剣な表情で、世界を見る言葉。

「…パリ、行きましょう」

「え」

「これはきっと、刹那さんが私たちのことを呼んでいるんです」

「そう、なのかな…」

「きっとそうです。事件のことだけじゃなくて、
 誠君のことについても、決着を付けに来なさいって…、
 私には、そう言っているように見えます。
 そうでなきゃ、こんなふざけた写真を送ったりしません」

声を荒げてはいるが、言葉の瞳の色は、正気のままだった。

「…そうだね」

それを聞いて、世界も同意した。

「私、お父さんに頼んで、今すぐにでもパリに行けるようにしてみます」

「うん、お願いっ!」

二人はお互いにうなずきあい、西の空を仰ぎ見た。




…ところ変わって、パリ。

二人は、学校帰りで、寄宿舎へ向かう、いつものタクシーに乗っていた。

「なぁ、清浦…」

うつむきへこむ誠に、刹那はいつものペースで言った。

「伊藤、往生際が悪い。いつまでも、うじうじしない」

「何を言ってるんだよ、騙したのは清浦の方じゃないかっ」

恨めしそうに刹那を見る誠。だが、刹那は相変わらずの様子で、

「ふ」と一笑。

「って、清浦ぁ…はぁ」

誠は、肩を落としてうなだれた。

誠がパリに来て、まもなく一ヶ月。

世界と言葉の身辺は落ち着いたというのに、

誠は「まだ心の準備が…」と、一向に日本に帰る気がなかった。

「二人は二人の問題を解決した、あとは誠だけ」

と刹那がたしなめても、誠は帰国するそぶりを見せなかった。

誠は、パリに来てからというもの、確かに一回りは精神的に大人になっていたが、

女性関係となると優柔不断になる性格は、…あの凄惨な事件を経たあとだというのに、

ほとんど改善されていないようで、さすがに刹那は辟易としていた。

業を煮やした刹那は、ある日の夕食後、

誠の部屋で、帰国をうながすため本格的な説得に出た。

「ここに来たのは、あくまでも一時的な避難。
 私は…伊藤が、世界を選んでも、桂さんを選んでも、
 両方を振ったとしても、どうでもいい。
 伊藤さえ、しっかりと二人に向き合ってくれれば、
それで、この問題は、全て終わるから」

「そりゃそうだけど…前も言ったけど、今さら、会いに行きづらいよ。それに…」

「それに?」

「俺、こっちで清浦といる方が、落ち着くんだ」

「また、そういうことを言う…」

「だって…、清浦、なんだかんだで俺の面倒見てくれるし。
 なんて言うかその…俺が思っていたより、ずっと、いいヤツだって分かったし」

話し続けようとする誠を、刹那は不意に遮り、手で口を覆った。

「…待った、その手には乗らない」

「もが…」

「何気なくそういうこと言って、私の気を引こうとしてる」

誠は、慌てて刹那の口封じを解いて反論した。

「してないって。本当にそう思ってるんだって」

「どうだか…」

「おいおい、信じてくれよ。実際、刹那にはずっと世話になりっぱなしなんだから」

なおも喋り続けようとする誠を無視して、刹那は窓の外を眺めながらぼやいた。

「むう、誠のそういう中途半端な優しさに、世界も桂さんも…」

「…何だよ」

「何でもない」

いぶかしげな表情の誠。刹那は、思わずため息をついた。

そのとき突然、妙案が刹那の脳裏にひらめいた。

「…あ」

「今度は何だよ」

「そうだ。伊藤が帰らないなら、呼べばいいんだ」

「呼ぶって、誰をだよ。まさか」

「何でもない。ところで、明日は休みだけど、どこかいく?」

「いきなり言われても…まあ、別にいいけど」

「じゃあ、決定。凱旋門とか行ってみよう。
 まだ、こっちにきて、全然、観光とかしてなかったし」

刹那は意味ありげな笑顔で誠にそう言った。




かくして、翌日、刹那は誠と一緒に凱旋門に出かけ、

近くにいた日本人観光客に頼んで、記念写真を撮った。

…刹那はその際、横向きの誠に「目をつぶり、口をとがらせて、三歩進んで」

と言っていた。結果、できあがったのが、日本で世界と言葉が見た写真だった。




「…変なことを言うな、とは思ったけど、あんな写真に利用するなんて」

「気づかない伊藤が悪い。あんなのにひっかかるのは、伊藤くらい」

「ぐ…」

うなだれる誠。

「…まあ、おかげで私も踏ん切りが付いたし」

「へ?」

「何でもない」

刹那は、意味ありげな笑みを浮かべていた。

「世界と桂さん、もうすぐ来ると思う」

「…はい?」

「桂さんからメール来てた。
 学校終わったら、世界と一緒に桂さんのお父さんのチャーター機でパリへ飛ぶって」

「…マジかよ」

「世界と桂さんには、前から、一区切り着いたら、誠に会わせるって、言ってたし」

「そんなの、俺は聞いてないぞ」

「さあ、覚悟、決めないと」

「無理無理! 大体…いくら何でも急すぎるだろ」

誠は、全身に冷や汗を感じていた。

「会いたくないの?」

「そういうわけじゃない…けどなぁ」

「じゃあ、誠はいつになったらけじめをつけるの?」

「それは…その…」

刹那の切り返しに、誠は即答できず、返すべき文句も見つからなかった。

そのとき突然、刹那の携帯が鳴った。

「もしもし。…うん、今向かってる。…うん。
 …ああ、あれ…わかっちゃった? ま、そういうこと。
 こっちは押さえてるから、大丈夫。…うん、それじゃまた現地で」

「…誰?」

「世界」

焦り、顔がこわばる誠。

「は…?」

「もう、空港に着いたって」

「…なあ、本当に行くのか?」

「行くも何も、私たちももうすぐ着く」

「もうすぐ…って、待て清浦、これ、寄宿舎に向かってるんじゃないのかよ!」

「違うよ。空港に行ってもらってる」

「嘘だろ…」

「私、運転手の人にちゃんと言ったもん。聞いてない伊藤が悪い。
 …あ、フランス語だったから、分からなかった?」

「…ああ」

「勉強、さぼっちゃダメだよ」

「うるせぇ」

「そうでなくても、走ってる道だって、いつもと違うから、
 それだけで分かりそうなのに…」

「あ、言われてみれば…」

「やっぱり、鈍感だね、伊藤って。…あ、見えてきた」

「なあ、俺だけ引き返していい?」

「蹴るよ」

「分かった分かった…はぁ」

考えがまとまらず、どうしたものか、途方に暮れている誠。

そんな頼りない誠の様子を見ていた刹那は、小さくため息をついた。

二人を乗せたタクシーは、かくして、パリのシャルル=ド=ゴール空港に到着。

誠が空港で運命に決着をつけることができたかどうかは…また、別の機会に。







fin.

というわけで、以上で終わりです。
途中、>>96で、伊藤誠の清浦刹那に対する呼び方が誤っていました(「刹那」ではなく「清浦」で統一)。
申し訳ありませんでした。

…話の内容を三行でまとめると、
壊れた言葉を救いたい
+世界に死を許さず謝罪させたい
=二人は変わったけど誠は変わらず、でした。

続きを書くならば…おそらく三人とも誠を見限ってハッピーエンド、でしょうか。

初めての投稿だったので、不手際も多々ありましたが、
ひとまず、完走できて、ほっとしています。

HTML化の依頼をいたします。
三日間、ありがとうございました。それでは。

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