分隊長「必ず、生きて帰れよ」(11)

「気付いたら、戦争が始まっていた」

「きっかけは些細なことかもしれない」

「でも、何故か戦っていた」

「最初は勝ち続けていた僕等も」

「補給でさえままならなくなった今では見る影もない」

「これから一体どうなっていくのか」

「それを分かる人は、一人もいないと思う」


・・・・・・


分隊長「そろそろ小休止にするぞ」

兵「了解しました!」


移動し続けて何日目になるのか…

我々が進めば敵軍も進む。まるで鼬ごっこだ。

先の見えないこの戦いは、まだまだ終わりそうもない。


分隊長「よし、あそこの建造物に陣地を作るぞ」


分隊長「よし、あそこの仏像を倒して入口を塞げ」


僕は大学に通っていた頃は他国のことを学んでいた
奇しくも今、自分がいる国のことである

だからこそ…我慢できなかった


曹長「分隊長殿!考え直してください!
   この寺院は後世のためにも残していくべきです!」

分隊長「黙れ!今がどんな時か分かっているのか!」バキッ

曹長「痛ッ」

分隊長「ここは貴様が通っていた大学とは違うんだ
    黙って作業しろ!」

曹長「申し訳ありません」

~~その日の夜~~


僕は、少しでもこの建物を後世に残せるようにとメモを取っていた

就寝時間は過ぎたが、こればかりは仕方ない


分隊長「貴様!そこで何をしている!」

曹長「ハッ敵兵が潜んでいないか見回りをしておりました」

分隊長「もう就寝時間は過ぎているぞ!それより、それは本当にそうなのか?」


分隊長は見抜いているようだった

僕は何故か正直に話そうと思った


曹長「この寺院のことを少しでも知りたく、巡回していました」

分隊長「そうか…」

流石に分隊長も怒りが度を過ぎたのであろう

その声色は暗かった

でも分隊長の返事は僕の予想していたものと違った


分隊長「確かに凄い建物だなぁ、これは」

分隊長「お前は詳しいんだろ?これはいつごろ出来たものだ?」

曹長「ハッこの建物は大体4~5世紀ごろに建てられた寺院です
   特に中の装飾には珍しいものが多々あります」

分隊長「そうか…」


分隊長はあなにか考えているようだった
流石に、その考えまでは読み取ることができなかった


分隊長「確かにこの建物を傷付けてしまうのは惜しい
    だがな、こう考えられないか?」

分隊長「この寺院は1000年以上俺達を待っていたんだよ」

分隊長「当然、今は戦時中だが、それも運命だ」

分隊長「そう考えると、妙なめぐり合わせだと思わないか?」


そう言うと分隊長はそれきり黙ってしまった

数秒、数分だったかもしれない

間が有った後に分隊長はこういった


分隊長「明日は敵さんがやって来る
    しっかりと睡眠をとり、明日に備えろ」


僕は分隊長に挨拶した後、眠りにつくことにした


~~翌日~~


分隊長「敵兵の数を報告しろ」

軍曹「ハッ1個戦車小隊を中心とし、軽戦車が3両、歩兵が護衛についています」

分隊長「凌ぎきれる数ではないな…ここが最終防衛線だ。ここを死守するぞ!」


軽々しく行ったように感じるかも知れない…

だが、こちらは整備兵や負傷兵など寄せ集めの集団だ

その上、戦力差は圧倒的。文字通り「死守」なのだ


分隊長「対戦車砲は1機しかない。まずは裏にある入口に隠すように配置しろ」

軍曹「ハッ了解しました!」


~~~~~~~~~~

「おい、負傷者がでたぞ」

「馬鹿野郎、全員負傷してる」

「防ぎきれません。応援を」

「やられた、最早これまでか…」

「これが最後の砲弾だ、、、撃ェー」


戦況は圧倒的だった。

味方の多くは自決。

この場にはもう分隊長と僕を含む数人だけだ


軍曹「分隊長殿。もう自決しかありません
   敵軍に突撃しましょう」

分隊長「そうだな…全員、これが最後の戦いだ。覚悟して望め!」

「ハッ了解しました!」


分隊長「ところで曹長。貴様には別の任務を言い渡す」

曹長「何でございますか!分隊長殿!」

分隊長「貴様は撤退しろ」

曹長「…どういうことでしょうか?」

分隊長「文字通りだ」


分隊長「ここは貴重な寺院だそうだな」

   「戦争が終わってからのことだ」

   「この寺院は過去の大切な財産だ」

   「お前は後世にこの寺院のことを伝えるんだ」

   「ほら、この自動小銃を持っていけ。敵さんのだけどな。優れ物だぞ」

曹長「しかし…分隊長殿ッ!」


分隊長「ここは俺達が死守する。大丈夫だ。お前は行け」

曹長「ですが…」

分隊長「曹長。これは命令だ!」

曹長「ッ…」


分隊長「どうだ、一介の分隊長の墓標にしちゃあ…立派なもんだろ」


曹長「分隊長…」


「必ず、生きて帰れよ」


分隊長はそう命令すると僕に背を向け、早く行けと言った


僕は一目散に駆け出した。後ろを見ないように


途中、敵兵に遭遇もしたが、分隊長がくれた自動小銃が役に立った


何も考えないように走り続けて、ようやく安全な所まで来て、ふと後ろを振り返った





寺院は真っ赤に燃えていた。


~~終わり~~

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