勇者「こんな端金では魔王は倒せません」(504)

王様「な、何を言う」

勇者「装備もこん棒…せめてこの街で用意できる最高の武具でないと」

勇者「本当に魔王を倒してほしいなら、ですが」

王様「わが国は貧しい国なのだ、仕方あるまい」

勇者「ならこの話はなかったことに…」

王様「ま、待てい!」

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王様「お前の父も、こん棒ひとつで旅立ったのだぞ!」

勇者「だから死んだんじゃ……」

王様「うっ、だ、だから、お主は仲間を連れて旅立つがよい」

王様「そのために、ほれ、こん棒二本」ヒョイ

勇者「結局こん棒ですか」

王様「安かったからな!」

王様「しかし、そのようにわがままを言われては困る」

王様「お主の父親の働きを認めて、これまで遺族年金も出してきた」

王様「恩を着せるつもりではないが、働きによって返してほしいと思うのは当然のことじゃ!」

勇者「確かにそれはそうですね」

勇者「……」

勇者「兵士さんの槍はどうですか、せめて」

王様「あれは飾り棒じゃ」

武器屋。

勇者「このこん棒を買ってください」

武器屋「ちょ、ちょっと待った。お前さん、勇者じゃないか?」

勇者「はあ」

武器屋「ダメダメ! これは仲間に持たせてやんな」

勇者「いや、仲間なんかいたら旅費が」

武器屋「今時一人旅するバカがいるかい! 酒場で仲間を集めてきな!」

勇者「なんでじゃ」

酒場。

マスター「いらっしゃーい。お仲間をお探しかしら?」

勇者「はぁ」

マスター「どんな仲間がいいかしら。オススメは屈強な戦士さんとか」

勇者「装備にお金がかからない人をお願いします」

マスター「……えー、他には」

勇者「装備にお金がかからない人で」

マスター「ち、ちょっと待ってね」

マスター「この人なんかどうかしら。武闘家さん」

勇者「ふむ。己の肉体で戦うと」

武闘家「おっ、なんだお前、チビっこいな!」

武闘家「お前が勇者だって? ぶははは、ありえねー」

勇者「性格は最悪と。肉壁くらいにはなりますか」

マスター「仲良くしなさいよ」

マスター「あとは、魔法使いさんとかどうかしら」

勇者「魔法が使えなくなったらお荷物ですね。いりません」

マスター「……」

勇者「後は、金のかかりそうな人ばかりですね」

勇者「ありがとうございました。もう結構です」

マスター「ちょっ、まだ一人しか決めてないわよ!?」

勇者「大丈夫です」

武闘家「おいおい坊主、あまりわがままを言うもんじゃねーぞ」

勇者「はあ」

武闘家「大体、どこへお使いにいくんだかしらねーけど、マスターが心配してるんだからな」

勇者「は?」

マスター「ああ、武闘家さん、この子は魔王討伐に派遣された勇者さんなのよ」

武闘家「へぇ~、そりゃ面白い冗談だな」

勇者「やっぱりあの人、解雇出来ませんかね」

マスター「ダメよ、一人旅するつもりでしょう?」

勇者「ううん」

マスター「じゃあ、どんな人がお望みなの?」

勇者「だったら商人と僧侶ではどうでしょう」

武闘家「なんで?」

勇者「商人ならお金を稼いでくれるでしょうし、僧侶なら贅沢はしないでしょう」

武闘家「なるほどなぁ、坊主、頭がいいな!」

勇者「坊主じゃないんですが」

マスター「わかったわ、商人さーん! 僧侶さーん!」


商人「儲け話っ!?」ダダッ

僧侶「うるせぇぞ、ガキども」ジャラジャラ


勇者「チェンジで」

マスター「商人と僧侶はその二人だけよ?」

勇者「……」

商人「はぁん? このチビっこが勇者なの?」

武闘家「おめーも大して変わらんだろ」

商人「うるっさい、ここで一発逆転しないと性風俗に落とされちゃうんだもん!」

勇者「借金持ちはお断りします」

武闘家「支度金はこん棒らしいぜ」

商人「はぁぁぁああ!? なめてんの!?」

勇者「あなたがね」

僧侶「働いて返す気があるんだからいいだろうよ」

勇者「失礼ですが、どこの不良ですか?」

勇者「金髪にピアス、リングアクセサリーって」

僧侶「イカすだろ」

勇者「……。アクセサリーを買う余裕のある旅ではありませんが」

僧侶「こりゃ魔除けのリングだ。十字をあしらってある」

武闘家「聖職者には見えねーぞ」

勇者「いずれにせよ、こんな連中なら一人で旅をした方がマシです」

勇者「何せこんな端金で魔王を倒せと言われてますからね」チャラ

商人「おうおう、私だって金にならない話はお断りよ!」

マスター「ツケ」

商人「ぜひ! ぜひワタクシメを世界平和の旅に加えてくださいませ!」

武闘家「ははっ、遠慮すんなよな!」

勇者「心の底から嫌なんです」

マスター「僧侶さん、面倒見てくださる?」

僧侶「しようがねぇな」ジャラジャラ

勇者「おい」

結局パーティーを組んだ。

勇者「……どうしてこんなことに」

商人「ワクワクするねー、どんなおいしいものがあるんだろうねー」

武闘家「世界の美女とかにも会いたいな!」

僧侶「うるせぇぞ、ガキども」

商人「なんなの、腐れ金髪!」

僧侶「そうじゃねぇ。このパーティーは勇者がリーダーだ」

僧侶「おしゃべりはリーダーの言うことを聞いてからにしろ」

商人「お、おう」

勇者「そうですね」

勇者「まず、いま魔王を倒すのは無理です」

勇者「そこで、魔王を倒すためにお金を稼ぐことから始めましょう」

武闘家「回りくどくねーか?」

勇者「我々には実力も足りません。魔物を倒して金目のものを漁るだけでも、修行にまるでしょう」

商人「えー、そんな卑しいのやめようよー」

商人「カジノとかあるじゃん!」

僧侶「カジノの方がクズな稼ぎ方だろ」

勇者「……。カジノがある町には、鋼の剣でもないといけません」

勇者「節約のために、普段は野宿、ゆっくり休む時は、僕の自宅で寝てください」

商人「なん……」

武闘家「だと……!?」

武闘家「けどよ、そんな地道にやってて魔王を倒せんのか?」

武闘家「なんかもっとうまく稼ぐ方法はないのかよ」

勇者「例えばですが、魔王の手下が世界中に散らばっています」

勇者「それを倒す前に、村や町の有力者に、報酬を吹っかけるのはどうでしょう?」

勇者「村が危機に陥るまで放置すれば、背に腹は変えられないでしょう」

商人「でもさー、もともと村を強請っても大した金は持ってないっしょー?」

勇者「国レベルならどうですか?」

商人「うーん、それなら……」

僧侶「ダメだな」

勇者「なぜですか?」

僧侶「ガキが悲しむだろうが」

勇者「はあ」

勇者「うーん、じゃ、プランBです」

商人「プランB?」

勇者「ええ。要するに、ボスクラスの魔物を倒して、他の魔物を従わせます」

勇者「それで、貢物を差し出せと……」

武闘家「おいおい、魔物使いにでもなる気かよ?」

商人「勇者ちゃん、頭大丈夫?」

勇者「いやしかしですね」

僧侶「グダグダうるせぇやつらだな。神も言っているぞ、『喚くな、動け』」

武闘家「アグレッシブな神様だな」

勇者「とりあえず、皆さんがどのくらいの強さなのかを知りたいので、戦ってください」

武闘家「はっ、任せておけよ! あまりのかっこ良さにチビるなよ?」

勇者「口は達者ですね」

街の外。

スライムたちが現れた!

勇者「はい、出て来ました」

武闘家「うおおおお、俺に任せろー!」

武闘家の攻撃! スライムAを倒した!

武闘家「よっしゃあ!」

勇者「……作戦指示すら出してないのに」

スライム

――スライムBの攻撃! スライムCの攻撃!

武闘家「う、うおお?」

勇者「これはまずい。商人さん、攻撃してください」

商人「はあー? 髪型崩れちゃう」

勇者「ふざけるな」

僧侶「……とりあえず、回復をかけてやっから」キラッ

――僧侶は回復魔法を唱えた!

武闘家「いやされたー」

勇者「すみません。では、私が」

――勇者の攻撃! スライムBを殴りつけた!

スライムB「ピキー!」

勇者「む……スライムを一撃も出来ないとは」

商人「しょうが無いわねー」

――商人のムチ攻撃! BとCをまとめて倒した!

商人「ほほほ~、ざっとこんなもんよ」

勇者「最初からやれ」

武闘家「楽勝だな! あまりにも!」

僧侶「あー、大丈夫か? 怪我はないか?」ジャラジャラ

勇者「ありがとうございます」

勇者「でも、魔法を使う必要はありませんでしたね」

武闘家「なんだとぅ!」

勇者「薬草で十分だと思いました」

僧侶「それもそうだな」

武闘家「おい、おまら!」

勇者の自宅。

勇者「あれから、何戦か積み重ねてみましたが、いかがでしたか」

武闘家「はぁ、はぁ……あ、ああ、どうだ? 俺の勇姿は」

勇者「勝手に突っ込んでいくのでフォローが大変でした」

商人「なんか、私とこいつが頑張ってる感じじゃない?」

勇者「お二人には肉壁になってもらいます」

武闘家「おい、肉壁ってどういう…・

僧侶「そのまんまの意味だろ」シュボッ

商人「あっ、聖職者がタバコなんて吸ってる~」

僧侶「ふーっ」

勇者「僕、煙苦手なんで、こっちには向けないでください」

僧侶「あ? しょうがねぇな」

勇者「いずれにせよ、武闘家と商人が壁役、僕と僧侶が後方支援。これがベストな隊形です」

勇者「僕は武器を遠距離攻撃系に持ち替えることにします」

勇者「僧侶は……」

僧侶「なんでもいいぜ。バットでも十字架でも」

武闘家「十字架を武器にしたら神様に怒られるんじゃねーか?」

勇者「そうそう。忘れていましたが、パーティー資金は全部、僕が管理します」

商人「ええぇぇえぇええ!? 酒代は!? 遊興費は!?」

勇者「……」

武闘家「おいおい、せめて風俗店に行くお小遣いくらいはくれるんだろうな!?」

勇者「僧侶」

僧侶「自分の分は自分で稼げや」

僧侶「勇者も少しは目溢ししてやりゃいいだろ」

勇者「いや、性風俗について一言いって欲しかったんですが」

>一週間後。

王様「勇者よ」

勇者「は。なんでしょうか」

王様「まだこの城の周辺をうろうろしておるのか」

勇者「魔物が多くおりますので」

王様「えーと、報告では、周辺のスライムを千匹ほど狩ったと」

勇者「ええ。それで、連中が落とした金や道具を売って得たお金がこれです」ドン

王様「……」

勇者「最初に渡されたお金の数十倍ほどあるわけですが……」

王様「今日、お主を呼んだのは他でもない!」

勇者いや、一週間でこれだけ貯まるということは」

王様「実はこの周辺にも、強大な力を持った魔物がいるとのしらせがあってな!」


王様「近隣の村も困り果てておる!」

勇者「はあ」

王様「ちょっと行って倒してきてくれんか」

勇者「褒美はいかほど頂けるんですか」

王様「う、うむ。なんと! こん棒が三本」

勇者「帰ります」

王様「分かった分かった。銅の剣を二本でどうじゃ!」

勇者「ふむ……」


勇者 E 短弓
武闘家 すで
商人 E てつのムチ
僧侶 E スコップ


勇者「お金がほしいです」

王様「正直なやつめ」

勇者「ケチってたら、被害は甚大になるだけですよ」

王様「そ、そこまで言うなら、さっさと倒せるというわけじゃな」

勇者「いえ、魔物次第だと思いますが」

王様「ならば、魔物を倒してきてから再交渉というのはどうじゃ!」

勇者「……そうですね」

勇者「分かりました。ただし、最低保証として、500ゴールドをお願いします」

王様「……」

勇者「残りは魔物の強さに応じて、交渉することにしますね」

勇者「よろしくお願いします」

王様「お主、本当に勇者か?」

勇者「もちろん」

今夜は寝ます。支援ありがとう
誤爆ったりしまして、すみません。謝ります

山。

武闘家「おい」

勇者「なんですか?」

商人「あのさ、山の魔物を倒しに行くのよね、私たち」

勇者「はい」

商人「ちょっと山登りするには、装備を節約しすぎじゃない……?」

勇者「薬草はたっぷり持ちましたよ」

武闘家「さみーんだよ!」

商人「薬草より食糧!」

僧侶「くっちゃくっちゃ」

二人『なに食ってんだー!』

僧侶「干し肉だ」

勇者「ですが、まともな装備をしていくと、魔物を倒すどころじゃありませんよ?」

武闘家「いくらなんでも、魔物を倒す前に山に倒されるわい!」

勇者「武闘家にしては面白い言い回しですね」

武闘家「バカにしてんのか!」

商人「ね、ねえ、干し肉分けてくれない?」

僧侶「教会の非常食用のあまりだ。礼拝の日に、ガキどもと作った」

僧侶「誘ったのに、おめぇらが礼拝に来ないのが悪いんだろぅがよ」

商人「は、はあ!? そんなのがあるなら、最初から言ってよ!」

勇者「しっ、静かに」

怪鳥『準備はよいか』

大鳥『くぇーっ!』

怪鳥『ではいくぞー! 魔王様のためにー!!』

ばさばさ―……


勇者「……」

武闘家「……行っちまったな」

勇者「ちょうど出て行くところだったんですね」

僧侶「作戦練り直すか」

勇者「仕方ありません」

商人「いやいやいや」

>麓。

勇者「いいですか、作戦はこうです」サッ

勇者はとりのえさを取り出した!

武闘家「バカだろお前」

勇者「なぜですか?」

商人「あのねー、さすがにその量じゃあ、魔物的には足りないでしょ?」

武闘家「そこじゃねーよ!」

僧侶「肉の方がいいんじゃねぇか」

勇者「なるほど、参考になります」

武闘家「……俺がおかしいのか?」

勇者「お肉を用意しました」

武闘家「しましたじゃねーよ!」

勇者「何か問題でも?」

武闘家「あの魔物が来るとは限らないだろうがっ!」

勇者「貢物として申し出るんです」

勇者「そうですね……美女も一緒に差し出すのはどうでしょう」

商人「ん、んんっ」

勇者「マスターとかは、若干年がいってますが、美人だと思いますし」

商人「あ、あー」

僧侶「魔物はロリコンだ。若いガキを好む」

僧侶「取って食うとなりゃ、なおさらだ」

勇者「そうですか」

商人「ちょいちょい」

勇者「どうしました」

商人「美少女! 若い娘!」ビシッ

勇者「ああ……」(半笑い)

商人「ふっざけんなよ、おい!」

勇者「商人は僕より年上でしたよね?」

商人「いうても十代よ!? ピッチピチよ!?」

武闘家「勇者が女装すれば?」

勇者「は?」

僧侶「テメェ、言っていいことと悪いことがあるだろ」ボスッ

武闘家「な、なんだよ!」

勇者「……まあ、それは置いとくにしても」

僧侶「看板でも立てりゃいいんじゃねぇか」

僧侶「『これは鳥の魔物様への貢物です』」

勇者「いいアイデアですね」

武闘家「本当か? そんなにか?」

商人「ああーそう、だったら、巣箱でも作ったらいいんじゃないの」

武闘家「アホかっ!」

勇者「いいアイデアですね」

二人(マジな目だ)

僧侶「大工仕事なら任せろや。教会でよくやったから」

勇者「頼りになります」

武闘家「ちょっ、マジでか」

>翌日。

看板
『歓迎! 鳥の魔物さまへ、スゴイ貢物大セール! 巣箱付き』


勇者「出来ましたね」

武闘家「……すんごい、本格的なんだが」

僧侶「あー、材も端切れじゃなくて、ちょっといいやつもらったからな」

商人「ええっと……」

商人「と、とにかく、これで私が肉に囲まれてればいいのよね!」

勇者「うーん、肉の前に、商人が食われそうですね」

武闘家「はっはっは、こんなチビチビから食う魔物がおるかい」

商人「こう見えてもあるわよ!」

武闘家「大体、こんな露骨な罠に引っかかる間抜けが」

勇者「むっ、魔物です、皆さん隠れて」

怪鳥『おおー、皆の者、こんなところに人間の貢物があるぞ!』

大鳥『くけーっ!』

怪鳥『感心な人間もいるものじゃな』

大鳥『けーっ、けーん!』

怪鳥『ぬぬっ、巣箱もあるぞ! ちょっと小さいが』


武闘家「……おい、どうする。アホだぞあいつら」ヒソヒソ

商人「そんなもん、ぶっ飛ばすに決まってるでしょ!」ヒソヒソ

勇者「そうですね……」

武闘家「よっしゃ、行くぞ!」

勇者「ちょっと待って下さい」

武闘家「な、なんだよ」


怪鳥『うめぇうめぇ』 トットトトッ

大鳥『くっくるー』

武闘家「むっちゃ食ってるじゃねぇか」

勇者「……よし、GOしてください」

武闘家「よーしっ!」


怪鳥『うぐぇええええっ!』


武闘家「えっ、なに!?」

勇者「餌に毒を混ぜておいたんです」

商人「なんて卑怯な!」

勇者「さあさあ、焼き鳥にしましょう。毒を食ったので、食べられませんがね」

僧侶「よっしゃ」ジャラジャラン

武闘家「なんでもいいぜ!」ダダッ


怪鳥『ぐ、な、なんじゃあ! 貴様らは!』

武闘家「追加の貢物だァ――ッ!」

武闘家の貢物キック!

怪鳥『うぎぇええええっ!』

勇者「射ます、避けてください」 ぐいっ

武闘家「おっと」

――勇者の射撃攻撃!

怪鳥『カハッ!』

商人「おらっ、ムチ攻撃!」ビシィッ

大鳥『ぐげぇーっ!』

怪鳥『ぐぎゃふっ』

武闘家「ダメ押しパンチ!」

怪鳥『おぎょっ』


怪鳥『……ぐ、こ、このワシが、手も足も出せず……ぐふっ』


――怪鳥をやっつけた!

武闘家「いよっしゃあああ!」

商人「いえぇぇえい!」

勇者「……」

僧侶「ふーっ、どうにかなったな」

勇者「とりあえず、首を取って帰りましょう。証拠になりますしね」

武闘家「なんだよー、嬉しくないのか?」

商人「そーよ、そーよ! 褒美がっぽりじゃん!」

勇者「そんなわけないでしょう」

勇者「相手は貧乏国家、それも銅の剣を退治報酬に指定するようなところです」

勇者「こちらに被害がほとんどないというのも、頑張った説得力がありませんしね」

商人「う、確かに、楽勝しすぎたかも」

勇者「餌代、肉代、毒代、それに巣箱作成諸々でかかってます」

武闘家「まーいいじゃねぇか! 勝ったんだし!」

勇者「今後もお酒抜きですね」

武闘家「ふぐっ……!」

商人「ぐぬぬっ……」

僧侶「ふーっ」 シュボッ

武闘家「た、タバコはいいのかぁっ!?」

僧侶「これは教会支給品だ」

商人「何支給してんの、教会……」

城。

王様「よくぞ魔物を倒してくれた! 心から礼を言うぞ、勇者よ!」

勇者「はい」

王様「そ、それでこれが、その、500ゴールドじゃな」

勇者「……確かに」

王様「そ、それで、追加報酬じゃが」

勇者「これの10倍ください」

王様「む、無理じゃ!」

勇者「と、思っていましたので、お酒を10本用意していただきましょう」

勇者「領地内の田舎村にブドウ畑があることは知ってますし」

王様「ぐ、ぐぬぬ」

勇者「早く」

王様「し、仕方あるまい。一番、感謝しておるのはその村じゃからな」

酒場。

戦士「おい、聞いたか」

魔法使い「何を?」

戦士「今、売り出している勇者一行だよ」

魔法使い「ああ、聞いているわ。『装備に金のかかる冒険者はいらない』って言われたんでしょ」

戦士「うるせぇ! 装備分の働きをちゃんとするっつーの!」

戦士「大体、素手の筋肉バカに劣るように思われるのが本気で心外だぜ」

魔法使い「まー、あんたのことはどうでもいいわよ」

戦士「ああ、ま、その話からも明らかだが、相当な強欲でな」

戦士「めちゃめちゃにされたブドウ畑からの出来た酒を、わざわざ要求したって話だぜ」

魔法使い「へぇ~」

戦士「とんでもねぇ連中だな」

魔法使い「ま、関わりあいになりたくないわね~」

今夜はここまで。

数日後。

勇者「隣の国に行こうと思います」

武闘家「おお~いよいよか」

勇者「この国での魔物のボスは倒しました。しばらくは安全のはずです」

勇者「その間に、隣の国の魔物を狩りましょう」

商人「あのー」

勇者「なんですか?」

商人「それはいいけどさ、なんかすんごい評判が悪くなってない? うちら」

勇者「強欲な冒険者って評価のことですか」

僧侶「当たってるじゃねぇか。気にするな」

商人「気にするわよ! つーか聖職者なら気にしやがれ!」

僧侶「……」シュボッ

商人「スモークすんじゃねー!」

僧侶「ふーっ、うるせぇな。かかった費用からすりゃトントンだろ」

僧侶「それをお前らは、酒を持ち帰った勇者をボロクソに言ってたよなぁ?」

商人「うっ」

武闘家「まぁな! うまかったけど」

勇者「まあ、みなさん。僕も気にしてないわけではありません」

勇者「ただ人気度で魔王討伐が出来るわけではないということです」

勇者「それに、王様と交渉して、納得して払ってもらったのですから、恥をかくのは相手の方です」

勇者「……それに、お酒はまだ余ってますよね」

商人「ていうか、半分も飲んでないじゃない」

勇者「ええ。この先で活用できるはずですから」

武闘家「んん?」

商人「あ、なるほど。儲け話ね!」

勇者「そうです」

僧侶「詐欺や押し売りじゃねえだろうな」

商人「あんたが言うと違和感」

僧侶「あ?」

商人「な、なんでもないわよ」

勇者「違いますから」

僧侶「ならいい」

武闘家「ま、そんなことはいいんだけどよ! 隣の国つったら結構かかるぜ!」

商人「あー、私もいつもは馬車で行ってるから」

勇者「勿体無いから歩きです」

武闘家「いや、でも」

勇者「もう一週間分の食糧とテントは用意しましたし」

商人「ぶーぶー! 時は金なりって言うじゃん!」

勇者「ですので、馬車と同じペースを目指して、三日間の強行軍をします」

二人「」

隣国。

宿屋「いらっしゃ……い?」

勇者「はぁーっ、はぁーっ」

宿屋「ど、どうなさいましたか」

勇者「よ、四人一部屋で三泊」

宿屋「お客さん、いくらお早いお着きとはいえ、そんなすぐには」

勇者「なら、いいです」

宿屋「ここだとうちしか宿はありませんけど」

勇者「の、野宿しますんで」ハァハァ

商人「い、いやーっ! ベッドで寝るのぉ!」

武闘家「うまいもん食いたい! ゆっくり寝たい!」

僧侶「ギャーギャーうるせぇぞ」

宿屋「わ、分かりました。開けられるか見てきますからね」バタバタ

部屋。

勇者「……誰でしょうね。強行軍なんて言い出したのは」

武闘家「お前だー!」

商人「魔物だって強くなっていって、髪を整える暇もなかったしぃ~」

僧侶「寝る暇もない程、魔物が寄ってきたしな」

勇者「面目ない」

武闘家「ま、まあ、俺の活躍で切り抜けられたんだからな」

武闘家「お前、一生感謝しろよ」

商人「ええ、ええ。壁役としては役立ったかもしれないわね!」

武闘家「お前は石ころ投げてただけじゃねぇか!」

商人「お酒のビンを割らないっていう使命があったんですぅ~」

商人「大体、薬草を管理してたの私じゃない! あんたがボコボコぶん殴られるから!」

武闘家「なんだとこのー!」

ーーバンッ

二人「お、おう」ビクッ

僧侶「……元気がいいなぁ、テメェラよ」

勇者「いろいろすみませんでした」

勇者「ただ、魔物から丁寧にお金を取り上げて来たので、かなりの額が溜まっています」

勇者「これなら、装備も更新できるんじゃないでしょうか?」

武闘家「おお!」

商人「あんたには必要ないでしょ?」

武闘家「いや、さすがに汚れた服のままはいやなんだが」

僧侶「洗ってやろうか?」

武闘家「えっ。穴も空いてるけど」

僧侶「縫ってやるよ。院にいる時になんでも覚えた」

武闘家「ノーサンキューだよ!」

武器屋。

武器屋「ダメだね、こんな端金じゃ」

勇者「……」

商人「あー、そういやここの国って、物価が結構高かったのよねぇ」

武器屋「まあ、お粗末な装備から解放されたいのかもしれんが……」ニヤニヤ

勇者「くそが」

酒場。

勇者「それじゃ、当初の予定通りお願いしますね」

商人「任せなさい! 商人です! お金とお酒が大好きです!」

武闘家「完璧にダメなやつだろ」

勇者「あなたは女の子とお酒が大好きじゃないですか」

武闘家「はっはっは! 武術家のタシナミだ」

勇者「まったく……」

僧侶「やり過ぎたら説教してやるから」ジャラジャラ

武闘家「物理的説教はやめろ!」

商人「……いやあの、行ってもいい?」

勇者「どうぞ」

マスター「いらっしゃい。ミルクでも飲むかね、お嬢ちゃん」

商人「やだー、マスターったらぁん、私そんな年じゃないですわよぉ」

勇者(そういえば10代じゃ……)ヒソヒソ

武闘家(サバ読んでるんだろ)ヒソヒソ

商人「それに私ぃ、今日はお仕事と思って来たんですぅ」

マスター「バニーガールは募集してないよ」

マスター「それに、悪いけどおたくのサイズに合うスーツが用意できないね。胸の辺りが特に」

商人「あらぁん、この国はそんなにド貧乳の娘しかいなかったかしらぁ」

マスター「……いいから帰んな」

商人「そんな怒りっぽいあなたにはコ・レ☆ しゃく熱赤ワイン!」ドン

マスター「む」

マスター「確か、隣国でしか流通してないというアレか」

商人「そうよ~ん、しかも、魔物に襲われてしばらくは手に入らないって代物」

マスター「むむ」

商人「ガツッとした飲み味はまさに絶品よ!」

商人「もともと祭事、神事に振舞われていたものだから、数を多く作っているタイプじゃないんだけどね」

商人「……どうしますぅ? 買いますかぁ?」

マスター「しかし、それが本物とは限らない」

商人「じゃあ、別の国で売ろ」

マスター「……待った。一口、いや、匂いを嗅がせてくれ」

商人「1万」

マスター「いち……!」


勇者「順調ですね」

武闘家「交渉指導の甲斐があったな!」

僧侶「なんで勇者が商人に商売を教えてたんだ」

マスター「ひ、一口でそれか!?」

商人「さっきも言ったけどぉ~、これ、マジで貴重なんですぅ~」

商人「確か、この国ってかなりのお金持ちなんですよねぇ?」

マスター「し、しかしだな……」

商人「無理なら、帰りますねぇん」

マスター「待て! いくらうまい酒でも……一本半値がせいぜいだろう!?」

商人「話になんねぇ~~なぁ~~」

マスター「常識外れだぞ!?」

商人「そうですねぇ。一口10万で売れば、元が取れるんじゃないですかぁ?」

マスター「くっ……」

商人「じゃあ、こういうのはどうですかぁ?」

マスター「な、なんだ」

商人「出資金として5万集めてくだされば、今後、このお酒はこちらの酒場に独占契約してあげますよぉ?」

マスター「ど、独占契約、だと」

商人「お酒を作っている村は、かわいそうに魔物に襲われちゃったんですぅ」

商人「だから、再興費用として、そのくらいいただければ、今後この国でのこのお酒の販売を、こちらのお店に限定させていただく、と」

マスター「……」

マスター「いや、しかし……」

商人「お知り合いのお金持ちの方に、出資金を募る格好でも結構ですよぉ~」

マスター「そうは言うが」

商人「はい、匂い」ポンっ

マスター「……!」

商人「どうですかぁ? これだけのお酒、もしこの国の王様の目に止まったらどうでしょうかねぇ~」

マスター「ひ、一口……」

商人「契約書」ぴっ

マスター「ええい! これでどうだ!」サラサラっ

商人「毎度あり~」

マスター「おお……すごいぞ、これは!」


勇者「お酒にそんなに違いがあるもんですか?」

武闘家「俺は飲めれば何でもいいからな!」

僧侶「料理にも美味いまずいはあるだろ?」

勇者「なるほど……味の分からないバカだけに飲ませちゃ勿体無い代物だったわけで」

武闘家「おい」

外。

商人「……いいよっしゃぁー!」

勇者「お疲れ様でした」

商人「見た!? 私の華麗な交渉術!」

武闘家「詐欺術の間違いだろ!」

商人「うひょひょー! 言ってろぉい!」

商人「苦節十年……始めて万単位の契約を成立させました!」

勇者「今まではどうしていたんですか」

商人「スライムレースで万馬券狙い」

僧侶「ギャンブルじゃねぇか」

勇者「さて、これで万単位のお金が手に入りますね」

武闘家「はい!」

勇者「何でしょう」

武闘家「豪遊は!?」

勇者「あるわけないでしょう? 契約書通りに再興費用に充てます」

武闘家「いやぁ、でも、あの村だって、紙切れでどうなるとは思ってねぇだろ」

勇者「ですが、再興したら、お酒の売り上げの一部をいただくことにしましたからね」

勇者「そもそも五万がポンと入ってくるわけじゃありませんし、きっちりやった方が後々の実入りも大きいです」

商人「はい!」

勇者「なんですか?」

商人「入ったお金を、魔物闘技場で二倍に増やすのは!?」

勇者「いい加減にしろ」

僧侶「それよりよ、王様にあいさつはしなくていいのか、テメェ」

勇者「うーん、それなんですが……」

武闘家「なんか問題でもあるのか?」

勇者「はっきり言いまして、この国はお金持ちが多いので、逆に盗賊も多いんですよね」

商人「ふーん」

勇者「だから、この面子でいくと……」

僧侶「ゾクに間違われるってか」ジャラッ

商人「お前だろ」

武闘家「お前だよな??」

僧侶「なんで?」

勇者「まあ、それに限らず、下手に魔物退治を押し付けられたら、利益が出ないかもしれません」

勇者「ただ、勇者的にはあいさつしないわけにもいかないので……」

武闘家「先に情報収集だな!」

勇者「武闘家にしては珍しくマトモな意見ですね」

武闘家「まあな、見直したか?」

勇者「ちなみに、何の情報を集めたらいいと思いますか?」

武闘家「この町の優良店は二軒あるぜ」

勇者「性病で死ね」

商人「いやでもさー、勇者らしくぱーっと使っちゃってもいいじゃない!」

勇者「あなた、本当に商人ですか?」

僧侶「寄附はいいぞ」

勇者「しかしですね、まだ足りませんよ」

勇者「なにしろ我々の目的は魔王討伐ですから」

勇者「そのために軍団と攻城用の武器が揃えられるくらいの稼ぎは必要です」

商人「国でも作る気?」

勇者「そうですね」

武闘家「本気の目だな……」

今夜はここまでだい。

しばらくして。

勇者「……」

商人「ね、ねえ勇者。そんなに怒ることないんじゃないかしら」

勇者「ええ。お小遣いの範疇ですからね」

武闘家「わりぃわりぃ。でもほら、飲み友ってよく言うじゃん?」ヒック

勇者「おら、口を開けろ。酒の代わりにしこたま矢を飲ませてやる」チャキ

武闘家「ふぉう!」

商人「やめなさいって!」

勇者「腹一杯になるまでお酒をいただいて、何か有益な情報は得られましたか?」

武闘家「この前来た時の一番の子が、お店をやめてた」

勇者「そうですか。死にたいですか」

商人「あ、あー、僧侶はまだかしらネー!」

僧侶「何やってんだお前ら」ジャラッ

商人「ちょうど良かったわ! 勇者を止めて!」

僧侶「……あー?」

勇者「僧侶。お祈りは終わりましたか?」

僧侶「ああ。お前らも一緒に来れば良かったのによ」

勇者「いえ……ああ、鼻の飾りが増えましたね」

僧侶「十字鼻ピアスだ。聖水が入ってるから、いざって時には使える」

商人「協会はいつから鼻ピアスを作るようになったわけ?」

僧侶「勇者、悪いんだけどよ」

勇者「どうしました」

僧侶「ここの神父に言われてな、あっちの村にいった別の僧侶からの連絡がねぇんだと」

勇者「様子を見て来いと」

僧侶「ああ……金にならなくてわりぃな」

勇者「仕方ありませんね。僕も情報を集めたんですが、この周辺の魔物がぐんぐん強くなっているそうです」

勇者「そのため、お金を軍備に投資していて、まあ、要するにお金持ちが多い割に、結構売り上げが落ちてきていると」

商人「ああー、私も聞いたわそれ」

武闘家「飲んだ酒も、いい値段してたなぁ」ヒック

勇者「うるさい」

勇者「おそらくは、王様に何かを依頼されても、あまりお金にはならないでしょうね」

商人「参っちゃうわねー」

僧侶「じゃあ、どうする?」

勇者「うーん、何かの褒美をもらうよりは、情報を得ることを重視するのが良さそうですね」

勇者「国レベルで把握していることもあるでしょう」

武闘家「おおお、それじゃいくかぁー!」

勇者「武闘家はここで待っていてください」

勇者「酒臭い人を連れて謁見は無理です」

武闘家「そんなことはないぞぅ!」

僧侶「俺が見ててやる。さっさと行って来い」ガシッ

武闘家「おおおおー!?」

勇者「お願いしますね」

お城。

王様「よく来たな、勇者よ!」

勇者「はい」

王様「お主の隣国での活躍は聞いておる! ……がめついということもな」

勇者「魔王討伐に必要な物を頂いておるだけでして」

王様「はははっ、それは頼もしい」

商人(なんかウザい、この人)

勇者(うちの国より金持ってますしね。見下しているんでしょう)

王様「でだな、わしもお主に期待はしておる!」

勇者「はい」

王様「だが、簡単に金を差し出すというわけにはのう?」

勇者「何かお困りのことが?」

王様「よくぞ聞いてくれた。ここから少し行ったところの村、さらにその奥に、物見の塔がある」

王様「ところがこれが、魔物に占拠されてしまったらしい」

勇者「それを倒して来いと」

王様「いかにも!」

王様「魔物や、周辺国を見張るために、兵士の詰所になっていたところじゃ」

王様「それが魔物に見張られる塔になったんじゃあ、具合が悪い」

王様「もちろん、引き受けてくれるな!?」

勇者「どのくらいかかりますか、塔までは?」

王様「そうか、引き受けてくれるか!」

勇者「いえ、旅費等の計算に」

王様「案ずるな、四日も経たずにたどり着けるじゃろう」

王様「それで、褒美についても考えておる!」

勇者「いや、まだ受けるとは」

王様「兵士の詰所になっていただけあって、鎧や武器が残っておるはずじゃ!」

王様「私物の類は少ないから、それを持って行っても構わん!」

勇者「いや……」

王様「なんじゃ、まだ足りないと申すか!」

勇者「行って帰るだけでも経費が必要ですよ」

勇者「それに、いくらなんでも、そちらの軍事作戦に利用されっ放しというのも不愉快です」

王様「ほーう……」

将軍「失礼だぞ、貴様ぁ!」

王様「よいよい。一理あるからの」

勇者「その塔は方角的にも北国との境になろうというところですよね」

王様「そうじゃな」

勇者「北国の方が対処しているかもしれません」

王様「どうかな、連中はビビりじゃし」

商人(ヒエー、なんかヤバい空気になってない?)

勇者(黙っててもらっていいですかね)

勇者「では、支度金として2000」

王様「えっ」

勇者「出ないなら、北国に……」

王様「あーいや! それっぽちでいいなら全然出すぞ!」

勇者(し、しまった!)

商人「あー、王様ぁん。勇者さまは、ど田舎から来て、この国の物価のことが分かっておられないんですぅ」

商人「ほらぁ、装備だってボロボロ」


勇者 E 旅人の服
商人 E シルクローブ


王様「う、うむ。突っ込まなかったが、確かにみすぼらしいのぅ……」

勇者「憐れまないでくれます?」

王様「よし分かった! とりあえず、五倍出そう!」

王様「これで装備を整えるがよい!」

勇者「えっ」

商人「えっ」

王様「なんじゃいらんのか?」

将軍「王様、いくらなんでもそれでは少なすぎるのでは……」

勇者「い、いいええ、それでも十分です!」

王様「そうかそうか! では、塔を解放してくれるのじゃな!」

勇者「あっ、そ、そうですね……」

~~~~~~~~~~

勇者「……というわけでして」

武闘家「ぶひゃひゃひゃ! ざまないな!」

勇者「格差が激しくてうっかりしていました」

武闘家「うふあはははっ!」ゴン

僧侶「うるせぇ」

勇者「仕方ありません。幸いにして、僧侶の言っていた村が途中にあります」

勇者「そこを拠点にして攻略することにしましょう」

僧侶「あぁ、そうだな」

勇者「ただ、塔が占拠されているということは、村も危険に晒されている可能性が高いです」

武闘家「んぅ」

商人「そ、そうねー」

勇者「早目に行きましょう。どんな魔物がいるのかの情報も必要です」

商人「あまりお金になりそうにないわよねー」

勇者「それが問題ですね」

商人「そ、それに、冷静に考えたら、ここの軍隊でも倒せないくらい強いってことじゃない?」

武闘家「任せろ!」ヒック

勇者「頼りにしてますよ、肉壁さん」

僧侶「どうしようもねぇな」

町の外。

武闘家「なんか記憶がねぇんだけど、頭が痛い」

勇者「飲み過ぎじゃないですかね」

武闘家「ちげーよ! 物理的に痛みを感じるんだって!」

勇者「頭痛はどれも物理的ですが」

武闘家「そ、そうか?」

商人「アホねこいつ」

僧侶「ふーっ」スパァ

勇者「げっほえほ」

僧侶「わりぃな」

勇者「支給品ですか?」

僧侶「ああ。万一に備えて、棺桶と十字架も渡されちまった」

商人「万一ってなによ」

僧侶「そりゃおめぇ」

勇者「その村僧侶さんがすでになくなっている場合です」

商人「や、やめてよね……」

僧侶「……ま、棺桶も十字架も、武器にはなるだろ」

僧侶「スコップもあるし、ちゃんと埋葬してやれる」

商人「埋葬用だったんかい」

僧侶「ああ。テメーが死んでもキチンと埋めてやっから」

商人「いらないわよ!」

勇者「おかげで武器を更新する必要がなくなりました」

勇者「……では、出発前に装備を確認してください」

武闘家「おう!」

武闘家 すで 稽古着

武闘家「……何も変わってないけどな!」

勇者「荷物持ちお願いしますね」

勇者 E 短弓
E かわのよろい
E 毒薬
商人 E てつのムチ
E シルクローブ
E 鉄板(アイアンプレート)
僧侶 E スコップ
E 僧衣
E 棺桶
E 大きな十字架
E まよけのピアス

商人「いやあんた、いくらなんでも薄着過ぎるんじゃないの?」

武闘家「男だったら、拳一つで勝負せんかい!」

僧侶「僧衣は仕事着だからなぁ」

武闘家「いや、あんたには言ってないって」

勇者「そう思って、ちょっとしたものを用意しました」サッ

武闘家「なにこれ」

勇者「靴です。丈夫ですよ」

武闘家「けち臭いお前は珍しいな!」

勇者「次の小遣いをナシにしました」

武闘家「うぉい!?」

今夜はここまで~

ーー隣国の隣村。

勇者「着きましたね」

武闘家「うおお、酒ー女ー!」

商人「美味しいもの! お金!」

僧侶「物欲に塗れてんな。罰るぞ?」

勇者「まあ、小さな村ですから、期待は出来ませんね」

村人「小さくて悪かったな」

武闘家「うおっ、急に出てくんな、おっさん」

村人「あんた達、旅の人か」

勇者「ええ。宿が有りましたら教えて頂きたいのですが」

村人「ああ、俺ん家がそーだよ」

商人「平然と会話してるし……」

勇者「お金は出しますので、一晩泊めていただけますか」

村人「いいけど、何しに来たんだ」

勇者「塔の魔物を倒しに来たんです」

村人「がはは、大丈夫だ。うちには村の僧侶さんがいるから」

僧侶「ああ、その村僧侶にも会いに来たんだ」

村人「……なに?」

僧侶「連絡がないからよー、呼んでこいって言われてるんだ」

村人「ダメだダメだ! 村僧侶さんは忙しいからな」

勇者「……?」

武闘家「けちけち言うなよおっさん」

僧侶「じゃあ、後ででも……」

村人「とにかくダメ!」

四人『……』

商人「なに? この覗いてはいけません的な」

武闘家「見るなよ! 絶対に見るなよ! みたいな感じ?」

商人「そうそう!」

勇者「とりあえず、道具類を補充して、情報を集めましょう」

僧侶「……」

勇者「というか、あまり緊張感がないんですよね。この村」

武闘家「さっきいってたみたいに、村僧侶さんとやらがいるからだろ?」

商人「鬼のように強いから、魔物も手出し出来ないってことかしら?」

僧侶「勇者」ジャラッ

勇者「はい」

僧侶「悪いが、俺一人でもいいか?」

勇者「ダメです」

僧侶「……しょうがねぇな」ジャラジャラ

夜。

勇者「さて、みんないますね」

武闘家「うむむ。寝込みを襲うとは感心しないぞ」

商人「ねむ~」

僧侶「どうでもいいが、宿のおやじに何も言わなくていいのか」

勇者「言ったらまた咎められますよ」

武闘家「ま、そりゃそうだな」

僧侶「じゃあ、こっちだ。ちょっと丘になっている部分に穴を掘って協会にしてあるらしい」

勇者「行きましょう」

武闘家「ハードだな」

僧侶「……」

勇者「明かりがついてますね」

僧侶「どうすっかな」

武闘家「そんなもん、堂々と入ったらいいんだよ、すんませーん!」カンカン

僧侶「馬鹿野郎」ガツッ

武闘家「いでぇ!」

ーー「開いていますよ」

武闘家「ほら、開いてるってよ!」

勇者「こうなったら堂々と訪ねましょう」

僧侶「ちっ、おい、構えておけ」

商人「え、なに、ヤバイの?」

村僧侶「夜更けにどうなさいました……あっ!」

勇者「失礼します。あなたが村僧侶さんですね」

村僧侶「た、旅の御方ですか!? あ、えっと、まずい! もうこんな時間!」

僧侶「あー、いや、気遣わないで」

村僧侶「そ、そうではありません! みなさん、中へ入って!」

商人「え? なんで?」

村僧侶「いいから早く! 後でご説明します!」

バタバタ……

村僧侶は四人を部屋の中に引き入れると、扉にカギをかけた。

村僧侶「あ、危なかった……」

勇者「ちょっと待ってください。一体なんなんですか?」

村僧侶「い、いえ。あなたたち、ご存知ないかもしれませんが、この村は魔物に支配されているのです!」

村僧侶「どこかに宿を取ったのかもしれませんが、今晩はここにお泊まりなさい」

商人「はぁー?」

武闘家「村の人はそんなこと、全然言ってなかったぜ!」

村僧侶「そ、それは……」

武闘家「まあ、美人のお誘いなら断れないけどなっ」がしっ

村僧侶「え、きゃあっ」

勇者「やめなさい」ぼかっ

武闘家「あいたっ」

僧侶「ふー」

勇者「正直に話してください。何が起きているんです?」

その時。外で、魔物の鳴き声がした。

武闘家「うおっ、おい! 村の人やべんじゃねぇの!」

村僧侶「だ、大丈夫です」

商人「い、いくら貴女が強くても、一人で魔物を倒しているわけじゃないわよね」

村僧侶「そ、それは……」

僧侶「……」

勇者「みなさん、武器の準備を」

村僧侶「ま、待ってください!」

勇者「なぜ? 我々は塔の魔物を倒しに来たので」

村僧侶「いえ、あの魔物は……」

僧侶「隣国の教会から依頼があった」

村僧侶「!」

僧侶「あんたが連絡を寄越さない、寄越せない、か? それで様子を見てきてくれよって」

勇者「村僧侶さん、何か事情があるにせよ、何も聞かずに逃げるわけには行きません」

勇者「僕、勇者なんで」

村僧侶「勇者……様……」

勇者「様付けされるほど活躍はしてませんが、そういうことです」

村僧侶「……」

勇者「まあ、アホでもない限り、見当はつきますけどね」

勇者「村に魔物がウロついているのに、村人の避難も心配もしないってことは……」

村僧侶「……」

武闘家「どういうこと?」

勇者「この村人は夜中に魔物に変身するってことですよ」

武闘家「な、なんだってー!」

商人「ああ、なるほどね」

僧侶「それだとおかしくねーか」

勇者「何がですか」

僧侶「あの連中はずいぶんと好意的だったぞ、俺らに対して」

勇者「そうですね」

村僧侶「記憶が……」

勇者「なるほど、魔物になっている間は記憶がない、と」

僧侶「よくわからねぇが、それだとまだおかしい」

勇者「何がですか?」

商人「はい! この人はなんで魔物になってないの?」

僧侶「それだよ」

村僧侶「そ、それは……」

勇者「じーっ」

商人「……魔物と裏取引をしたとか?」

村僧侶「そ、そんなこと!」

僧侶「あーいい。言う気がねぇなら、いい」

武闘家「そんな事よりよ、外に魔物がいるならぶちのめそうぜ!」

勇者「はい?」

武闘家「俺たちゃ魔王討伐に来てんだぜ。魔物を倒してナンボだろ」チラチラ

商人「ばか、気づかれたら襲われるわよっ」

勇者「……どうですかね」

武闘家「とにかく全員なぎたおしゃいいんだろうが!」

勇者「いや、そこは効率よく敵を倒すべきです」

勇者「具体的に言うなら、前回のようにボスをおびき寄せるのがいい」

村僧侶「あ、あの!」

勇者「なんですか?」

村僧侶「塔ならご案内出来ます。あなた方は、魔物のボスと戦いたいんですよね」

村僧侶「私はあそこに出入りしていたことがあるので……」

勇者「いやそれは」

僧侶「いいじゃねぇか。連れていってくれるっていうなら」

勇者「……」

僧侶「ここでぐっすりって訳にもいかんだろ、どうせ」

商人「ま、まあ、居心地は良くないわよね」

村僧侶「なら、今から行きましょう。準備して参ります」

武闘家「おう!」

村僧侶が奥に引っ込んでいった……

僧侶「……それで、どうなってんだ?」

勇者「……なんとなく読めましたけど」

勇者「敵戦力が知りたいんですがね」

ここまでにしよう

外。

魔物?「うぉぉん、うぉぉん」

魔物?「あびょびょー!」


武闘家「あれが村人だってのか?」

村僧侶「夜の間だけです。夜の間だけ、変身してしまうのです」

商人「いやでも、放置してていいの?」

村僧侶「……」

勇者「急ぎましょう、避けられる戦いなら避けた方が得です」

僧侶「俺もそう思う」

商人「うーん……」

村僧侶「……塔の魔物は、その、人を魔物に変えてしまう、恐ろしい敵なのです」

勇者「それだけですか?」

村僧侶「え? えーっと」

塔。

勇者「着きましたね」

村僧侶「裏に回りましょう、裏口があったはずですから」

僧侶「あっそう」ジャラッ

武闘家「腕が鳴るぜ~!」

商人「ね、ちょっと待ってよ」

勇者「なんですか?」

商人「なんかさ、怪しくない? なんでそんなに詳しいの、あんた」

商人「もしかしてさ、あんたも魔物の仲間なんじゃないの?」

村僧侶「!」

僧侶「なるほど」

武闘家「なっ、お前、巨乳を僻んでんじゃねぇよ!」

商人「乳じゃねぇよ!」

勇者「なるほど」

商人「勇者!?」

勇者「ああいえ、別に」

村僧侶「……」

商人「はぁ? なんなの?」

勇者「それより、わざわざ塔を登る必要はあるんでしょうか」

武闘家「えっ」

勇者「商人、道具の中に、爆薬がありましたね」

商人「あるけど」

勇者「では、それを一箇所に集中させて、まとめて爆破しましょう」

村僧侶「ちょっ……!」

武闘家「アホかー――ッ!?」

勇者「確認しますが、飛ぶタイプの魔物じゃないんですよね」

村僧侶「そ、それはそうですが……!」

勇者「なら、この作戦は有効です。塔そのものを倒すために必要な火薬と、角度は大体頭に入れてあります」

僧侶「おいおい」

商人「な、何を考えているのよ!」

勇者「相手は人を魔物に変身させるような、特殊なタイプの魔物です」

勇者「つまり、まともにやり合うほど、苦し紛れの状態変化で逆転を狙われる可能性がある」

勇者「ならば、あらかじめまともじゃないやり方を取るのが正しい」

商人「そうじゃなくて! 忘れたの!?」

勇者「なんですか?」

商人「私たちの今度の報酬、塔の中の兵士の装備なのよ!?」

勇者「……」

足音が近づいてくる。

勇者「むっ、魔物が近づいてきますね。一度隠れましょう」


悪魔A「ういー、冷えるなぁ~」

悪魔B「そういうなよ。また、村の連中を連れて夜の狩りと洒落込もうぜ」

悪魔A「しかし、うちのボスは頭がいいな」

悪魔B「ああ。人間を魔物に変えたら、簡単に国を落とせるってな」

悪魔A「後始末が面倒だけどな」

悪魔B「またあいつにやらせておけばいいさ。ははは!」


勇者「……」

武闘家「……」

僧侶「……ふーっ」

商人「あっ、タバコなんか吸っちゃダメだって!」ボソボソ

村僧侶「……」

勇者「よし、行っちゃいましたね」

商人「ちょっ、無視するの!?」

勇者「だって、何匹か離れたということは、中も手薄ということでしょ」

商人「いや、あんたね……」

勇者「じゃあ、どこに仕掛けるか指示をしますから、武闘家と僧侶は……」

村僧侶「ま、待ってください!」

勇者「なんですか」

村僧侶「こ、この塔は……そうです、この塔は見張り塔だったはずです」

村僧侶「壊したら、まずいのではないでしょうか!」

勇者「そこです」

村僧侶「へっ?」

勇者「おそらく、隣国の王様は、魔物から塔を解放したら北国を睨むために、兵士を置くつもりでしょう」

勇者「ですが、塔そのものを破壊したらどうでしょう。少なくとも一からやり直しになります」

勇者「魔物と戦っている間に、人間同士で戦われちゃ面倒ですからね」

僧侶「ああ、そういうことね」

村僧侶「で、でも、でも……!」

勇者「まあまあ。では、僧侶さんは入り口の左右にかけて一列に爆薬を埋め込んでいってください」

僧侶「あー、分かったわ」

勇者「武闘家さんは、二階と三階の間当たりに、このくらい置いてきてください」

武闘家「任せておけ! って、俺だけ突入するのかよ!」

勇者「静かにお願いしますね」

勇者「仕掛けたら、窓から飛び降りてきてください」

武闘家「死ねと!?」

商人「私はー?」

勇者「最後の起爆のし掛けをお願いします」

商人「オッケーイ」

村僧侶「あ、あなた達は本当に勇者なんですか? 解体業者かなんかの……」

勇者「ほっとけ」

勇者「それじゃ、作戦開始で」

武闘家「うおおー! いくでー!」ダダダッ

勇者「あっ、静かに……」


ウオオー ナ、ナンダ センセイコウゲキ セイケンヅキ グワー


勇者「……」

商人「どうするのよ」

勇者「まあ、最悪武闘家ごとふっ飛ばしましょう」

村僧侶「ええーっ!?」

僧侶「~♪」カチャカチャ

商人「鼻歌交じりだし……」


ワーワー

勇者「村僧侶さん、離れて」

村僧侶「いえ、あの、でも……」

勇者「……あなたの正体は大体つかめています」

村僧侶「!」

勇者「邪魔をしなければ、僕もとやかく言いませんから」

村僧侶「け、けど……」

勇者「商人さん、いいですかー?」

商人「……オッケーよ!」

    武闘家「うおおおおお、俺ダイビング!」 ずしゃあああああっ

    魔物C「飛んだー!?」

勇者「角度よし、爆破お願いします」

商人「イエッサー!!」 カチッ


ずどおおおおおおおおおおおんんんん――――

激しい炸裂音、それと共に、正面の門を中心に仕掛けられた爆薬が破裂し、
続いて武闘家がばらまいた爆薬がはじけ飛ぶ。

穴を開けられてぐらりと傾いた塔は、自重によって倒れていく。


勇者「もっと下がって!」

僧侶「おらっ、寝てんじゃねぇ」

武闘家「うおっ、いたわっちくり~!」

商人「うひゃ~、近すぎたんじゃないの、これ」

勇者「……よし、各員戦闘準備!」

三人『おーっ!』


凶悪魔「ぐっ、な、なにが起きたというのだ」

凶悪魔「気がついたら、塔が揺れ始めて……」

勇者「えいっ」 ビュッ

――勇者の射撃攻撃!

凶悪魔「うおおおおおっ!」

凶悪魔「き、貴様らは!」

武闘家「通りすがりの正義の味方よぉ!」

武闘家の回し蹴り!

凶悪魔「ぐほぁっ、おのれ、魔物に姿を……」

商人「させるか、ボケ」

商人は、ムチを強く引き絞り、目元を強く撃った!

凶悪魔「ぎゃあああああああっ!」

僧侶「げほっ、げほっ」

村僧侶「うえっほっ、えほっ」

勇者「……大丈夫ですか?」

僧侶「んなわけあるか、お前らが適応力が高すぎるだけだ」

勇者「確かに砂埃すごかったですね」

僧侶「くそっ、吸うのはモクだけでいいっつーの」

勇者「いいから僧侶さん、お願いします」

僧侶「ちっ、しゃあねぇな」


――僧侶の攻撃! 脳天に十字架をたたき落とした!


凶悪魔「ぬぐわあああああああああああっ!」


――塔の悪魔をやっつけた!

勇者「よし、なんとかなりましたね。後は帰ってくる魔物を返り討ちにするだけですが……」

武闘家「まだやるのか? 結構、走り回って辛いんだが」ハァハァ

勇者「逃げましょう」

商人「逃げるの!?」

勇者「だって追ってくるのは村人魔物になるわけでしょう」

僧侶「……そうか」

勇者「さすがに、一宿一飯の恩義は裏切れません。あっ、一宿もしてませんでしたね」

村僧侶「あの」

勇者「なんでしょう」

村僧侶「私が食い止めます。ですから、勇者……様は、あちらへお逃げください」

商人「いやいや、あんたには無理でしょ?」

村僧侶「大丈夫です、ね?」

勇者「……」

勇者「そうですね、ありがたく申し出を引き受けましょう」

商人「えっ、マジで」

――森付近。

武闘家「なんだよー、結局、野宿ってわけか」ハァハァ

僧侶「勇者、あの村僧侶を置いてきて、本当に良かったのか」

勇者「彼女、おそらくは魔物ですから」

武闘家「ま、マジで?」

僧侶「ふーん」

商人「どーいうこと?」

勇者「おそらくは人間に化けられる魔物でしょうね。そして、村人のお世話をする魔物だったと」

勇者「村人は、『僧侶さんがいるから魔物は大丈夫』、と言っていましたね」

商人「……言ってたっけ」

僧侶「言ってたな」

勇者「だから、村人もグルなのかなぁと思っていたんですが、村僧侶さんに会わせまい、ともしてました」

勇者「おそらく、村人は彼女が魔物であることに気づいていたんだと思います」

勇者「ただ自分たちが魔物に変わるとは思ってなかったので、単に魔物パワーで塔の魔物を追い返していたんだと納得させていたのではないかと」

商人「ふーん。じゃあさ、なんで彼女は私たちがボスを倒すのを見守ってたの?」

勇者「それは……」

僧侶「情が移ったんだろう」

武闘家「じ、情?」

僧侶「と言っても、村人の方だぞ。魔物を食い止めているとはいえ、村人にとっちゃ魔物は脅威だ」

僧侶「それに、よなよな魔物に変身して旅人狩りをしているなんてことがバレたら、全員処刑されてもおかしくない」

武闘家「しょ、処刑、ひえ~っ、おっそろしいね」

勇者「なるほど。優しくしてもらっている人たちが、本人の知らぬ間に魔物の部隊に数えられているわけですからね」

勇者「どこかでやめさせたい、と思ったのかもしれません」

商人「そういうことだったの……」

勇者「まあ、僕が隣国にバラしたらオシマイなんですけどね」

三人『!?』

今夜はここまで。

隣国。

王様「……よく、倒してくれた」

勇者「はい」

王様「……」

勇者「褒美は?」

王様「あるわけなかろう! 塔を魔物から解放してほしいとは言ったが、壊滅させてどーする!」

勇者「手段は問われませんでしたから」

王様「限度ってものがあるわいっ!」

勇者「ふーむ。失礼ですが」

王様「なんじゃ!」

勇者「そこまでおっしゃるなら、ご自分の軍隊で塔を攻めれば良かったんじゃありませんか」

王様「ああいえばこういう!」

勇者「別に構いませんよ。これから北国に行く予定ですので」

王様「ど、どういう意味じゃ」

勇者「僕としては、魔王討伐のための資金が得られればなんでもいいのです」

勇者「たとえば、他国の防衛計画を売り渡すとかでもね」

王様「ぐっ……!」

勇者「塔の再建に早速人を回したのは知ってますよ」

勇者「ですが……まあ、時間はかかるでしょう」

王様「貴様、何が望みじゃ」

勇者「お金。」

――街。

勇者「……」

武闘家「おおぅい! 勇者!」

勇者「うるさいんで、静かに近寄ってもらえます?」

武闘家「はぁー? それより、謁見は終わったんか」

勇者「ええ。たんまりいただきましたよ」ズッシリ

武闘家「おおおっ! これで酒が! 女の子が!」

勇者「ふざけんな肉ダルマ」

武闘家「えー?」

商人「んふふふふふ~♪ んふふふふふ~♪」

勇者「その様子だとうまく行ってるみたいですね」

商人「バッチリ! ぶどう畑は順調に再建中、酒場もあのお酒をダシに、相当客足伸ばしてるって!」

勇者「ちゃんと契約更新はして来ましたか?」

商人「お酒の出来次第とか言って渋ってたけど、基準価格を設定したわ!」

商人「どう? 私の仕事ぶりは」

勇者「ええ。褒めるまでもないことですね」

商人「何よぉ~、買い出しだって、私のおかげで安く入手できてるのにぃ~」

武闘家「女の子は」

商人「シャー!」

僧侶「……ふぁ~あ」ジャラジャラッ

勇者「僧侶さん」

僧侶「あー」

勇者「どうでした?」

僧侶「あー、なんとかした」

勇者「そうですか。それはそれは」

僧侶「ったく、経典にかじりついているだけのおやじはつかえねーよ」

勇者「……村僧侶さんは?」

僧侶「移動するとよ」

勇者「ほう。村人を連れてですか」

僧侶「そう」

商人「はい!」

勇者「なんですか」

商人「何がどうしたわけ? あの村僧侶とか」

勇者「そうですね、一応、ご説明しておきます」

勇者「今回の件では、僕らが何も得しない可能性があったので、一つ策を入れておいたんです」

武闘家「策ぅ~?」

勇者「ええ。村僧侶と連絡を取ってみたんです。こういう手紙を添えて」

勇者「『魔物の村と化したことを吹聴して欲くなければ、魔王軍のスパイをしろ』、とね」

商人「ドン引きなんだけど」

勇者「いや、もちろん、隣国は塔を再建するつもりだろう、という予想を書き添えて置きましたけどね」

僧侶「あぁ、そういうことか」ジャラッ

武闘家「どういうことだよ!」

商人「馬鹿ね、手前の村に立ち寄られたら、魔物の巣だってバレちゃうじゃない」

武闘家「あー」

勇者「ですから、教えて上げた例に、取引をしましょうと持ちかけたわけです」

勇者「これなら、褒美がもらえなくても、お金で買えない情報が手に入ります」

商人「な、なるほど。情報は商売上でも大事よね」メモメモ

勇者「……商人なのに、今更」

商人「うるさいっ」

勇者「さて、これからですが……」

武闘家「おっ、いよいよ次の街か!」

商人「ねぇねぇ、だったらさ、西に行くと商人の国があるのよ!」

商人「そこ行ったら儲かるんじゃない!」

勇者「却下です」

商人「どーしてよー!」

勇者「手持ちに売れそうな商品がありません」

勇者「何も持ってない人間がパフォーマンスだけで金を稼ぐには無理がありますね」

僧侶「……」ズズッ

勇者「棺桶はちょっと……」

勇者「一応、考えはあります。北国に行きましょう」

二人『うえぇぇぇぇぇぇえええ!?』

勇者「何か?」

武闘家「だってさー、北国ってこの国と仲が悪いんだろ」

武闘家「そこから来たら、何もしなくてもとっ捕まりそうなんだが」

勇者「そうかもしれません」

商人「それにさー、楽しいものなんかないよ? 北には」

勇者「その代わりに、武器が強いと言います」

勇者「むしろ、塔を破壊させた、というネタは切り札になるかもしれません」

僧侶「あのよぉ」

勇者「なんですか」

僧侶「寒いの苦手なんだけどよ」

勇者「……」

北国。

武闘家「さむいっ! 女の子っ!」

Eグローブ
E稽古着
Eスゴイブーツ(すごい)


勇者「寒さでアタマが湧いているようですね」

Eコンポジットボウ(複合弓)
E毛皮のマント
Eかわのよろい
E毒薬


商人「やんなっちゃうわよねー」

Eてつのムチ
Eねこグローブ&ねこみみバンド
Eもこもこコート
E鉄板


僧侶「……」

Eスコップ
Eグローブ
E毛皮のコート
Eマスク
Eマフラー
E防寒帽
Eまよけのピアス


商人「なんか変質者がいるんだけど」

勇者「……さっきから一言も発してませんね」

勇者「僧侶さん? せっかく重装備にしたんですから」

僧侶「ああ……」

勇者「ほら、町ですよ」

僧侶「ガキは体温が高くていいな」

武闘家「俺雪って見たことなかったんだよねー!」ダダダッ

商人「北国は万年雪のところも多いからね」

商人「その代わり、家とか宿の中は暖かいわよー」

勇者「だそうですよ」

僧侶「……」

商人「ダメね、回復はしてくれてるけど」

北国宿屋。

勇者「ふう。やっと一息ツケましたね」

武闘家「なあ、勇者」

勇者「なんですか」

武闘家「北国の女の子ってかわいくね? 俺もろ好みなんだが」

勇者「それで、今後の方針なんですが」

商人「武器屋を探すのね」

勇者「そうです」

僧侶「……」

勇者「動けない人もいるようですが」

商人「僧侶、カイロっていう勝手に熱を発する道具があるんだけど、知ってる?」

僧侶「あー、知らねぇ」

勇者「商人は北国にいたことがあるのですか?」

商人「んー、まあ、この辺に住んでたしねー」

勇者「なるほど」

商人「それだけ?」

勇者「いえ、その割には涼しい格好をしていたなと(へそ出し)」

商人「むしろ暑すぎちゃってさー」

武闘家「おいおい、無視されるとさすがの俺も困っちゃうよ?」

勇者「北国の美女がパーティー内にもいるじゃないですか」

武闘家「ないわー」

商人「黙れ」

武器屋。

勇者「とりあえず来てみましたが……」

商人「二人を残してきてよかったのかしら」

勇者「僧侶が調子悪そうでしたからね。看病してもらわないと」

商人「まー、しょうがねっか」


武器屋「……」

勇者「すみません、武器を見せてもらってもいいですか」

武器屋「……うちは一見さんお断りだよ」

勇者「はあ」

商人「おっさん、まだそんな商売やってんの」

武器屋「うおっ!?」

勇者「お知り合いですか」

商人「まぁね」

武器屋「ふんっ、物の価値も分からん小娘が、なんの用だ!」

商人「私、お客さん。この人、パトロン」

勇者「まあ、お財布握っているのは確かですね」

武器屋「帰れ帰れ! 商売のイロハも分からんやつに、売る品はねぇ!」

商人「ふっ」

武器屋「な、何がおかしい」

商人「悪いけどー、私、五万の契約だって成立させたのよ~?」

武器屋「それがどうした」

商人「えっ」

武器屋「おめぇがいくら売ってきたからって、俺の芸術品が理解できるわけじゃねぇ」

商人「な、なによ!」

勇者「あの……」

商人「悪いけどね、おっさんの商品は大体ガラクタなのよ!」

武器屋「なにおう! 言わせておけばふざけたことぬかしやがって!」

勇者「ええと……」

武器屋「俺のどこが目利き悪だってんだ!」

商人「ただの鉄の剣を名刀だとかどや顔しちゃってるところでしょ! 道具屋に持ってったら2ゴールドにしかならなかった!」

武器屋「う、うるせぇやい! お前に商売の基本を教えてやったのはどこの誰だと思ってんだ!」

商人「そのせいで私の商売センスはズタズタだったのよ!」

バン!

二人 ビクッ

勇者「大砲ください。とりあえず」

武器屋「た、たた大砲!? あるわけ、ねーだろ」

勇者「では調達してください。鉄の名産地だし、作っているはずです」

商人「いやいや、技術力がないのよ」

勇者「商人もよく分かってませんね。ここの産出量のせいで、鉄の剣をただの、と言い切れるのでしょうが」

勇者「鉄の剣は他国ではそれなりの値段がつきますよ」

商人「……そーなの?」

勇者「そーなんです」

武器屋「む、むむむ、しかしな、その大砲なんざ何に使うんだい」

武器屋「戦争でもふっかける気かい」

勇者「ええ、魔王にね」

すまぬ。眠る。

武器屋「しかしなぁ、鉄、鉄というが、鉱石の類はそう採れるもんじゃあないんだぞ」

商人「ええ? だって、採掘場があったじゃない」

武器屋「む……」

勇者「……」

商人「もしかして、掘りきっちゃったとか?」

武器屋「いや、魔物が住み着いてしまって」

商人「ああー、ありがち」

武器屋「そ、そうだ。あんた、勇者、だっけか?」

勇者「そうですね」

武器屋「採掘坑を安全にしてくれたら、大砲でも何でも作れるんじゃないか」

武器屋「俺からも王様に言って、準備するように働きかけてみるさ」

商人「いいじゃない! やりましょ」

勇者「嫌です」

商人「ええー!?」

勇者「そういうことなら、僕も考え直します」

武器屋「おいおい、人違いなのか? 噂になっているやつと」

武器屋「隣国の、魔物が住み着いた塔をぶっ壊した勇者がいるって聞いたんだが」

勇者「対価に見合わない仕事はしたくないです」

武器屋「そ、そうかい」

商人「何言ってるのよ! もし解放したら、ただで準備してくれるんでしょ!?」

武器屋「え、いや、それは」

商人「ほら、するって! 大砲ってでっかい道具なわけでしょ。人手も考えたら、無料って超お得でしょ!」

武器屋「おい! 誰も無料でやるとは」

勇者「確かに、『無料』は魅力的ですね。『無料』は」

武器屋「おい、聞えよがしに強調するな」

商人「それに、要はうちの国の名産品なわけでしょ? 鉄って」

商人「ってことはお国のためになるし、無料どころか報酬をもらうレベルじゃない!」

勇者「そうですね、『報酬』を頂いてもおかしくはないですね」

武器屋「お前ら!」バンバン

商人「どうしたの、おっさん」

武器屋「勝手に話を進めるんじゃねぇーよ!」

商人「え? なに?」

勇者「別に話は進めていませんよね」

商人「そうよ……ね?」

武器屋「進めてんじゃねぇか!」

勇者「いえいえ、ただ、この仕事は大変ですから、きちんと条件を確認しないといけないということなんです」 

勇者「それとも、まさか端金で放り出して、さらに状況が悪化してもよいと?」

武器屋「い、いや、よく分からんが」

勇者「では、仮に、ですが……」

勇者「必要経費として、防寒の類、食料、火薬や燃えやすい薬剤を現物か、支度金として準備しつつ……」

勇者「成功報酬として大砲三門、砲撃手を人数分。これらは魔王討伐の際の勇士になりますので、プロが望ましいですね」

武器屋「は、はぁ……」

商人「砲撃手なんているのかしら」

勇者「くわえて、鉄の生産性を高める工房への投資金、また販売ルートの開拓依頼を優先的に僕らに回すこと……」

勇者「最後に金十万でどうでしょう」

武器屋「知らねーよ」

勇者「……? 王様に取り次いでくれるのでは?」

武器屋「誰がそんな強欲要求をそのまま上げるやつがいるかっ!」

勇者「相当控えめに言いましたが」

武器屋「……はい?」

外。

勇者「追い出されちゃいましたね」

商人「当たり前じゃない、あんなの!」

勇者「いえ、実際のところ、あのくらいは頂かないと、相当ふっかけられますよ」

商人「ん、んー、そうかなぁ」

勇者「そうです」

商人「というかさ、もしかして勇者、本当にさっきの仕事やりたくなかった?」

勇者「……」

商人「あ、やっぱりそうなんだ~!」

勇者「なぜそこで嬉しそうにするんですかね」

勇者「というかですね。ちょっと考えて欲しいんです」

商人「なにを?」

勇者「僕らがどうやって勝ってきたのか、ですよ」

商人「えーと、爆破?」

勇者「そうです」

商人「あってんのかい」

勇者「つまり、罠を仕掛けたり、建物自体を破壊したり、卑怯な手で格上の相手を倒して来ました」

勇者「ところが、今度は実際に洞窟を探索して魔物を殲滅する必要がある」

勇者「これは、かなり大変です」

商人「えーっと、そう、かな?」

勇者「そうなんです」

勇者「おまけに僧侶は寒さに弱く、寒い地域の魔物は守りが固めです」

勇者「僕の弓矢も、氷や岩が相手ではなかなか通じにくいでしょう」

商人「うーん……」

勇者「生物用の毒を複数準備していますが、それも効きにくい」

勇者「となると、武闘家の拳に頼ることになるわけですが…

商人「それは確かに心配よね~」

勇者「はい。ですから率直に言いまして、かなり頂かないと見合わないと思っています」

商人「うーん……」

勇者「どうしました?」

商人「全然勇者っぽくないよね、勇者」

勇者「ほっとけ」

酒場。

武闘家「でよー、俺がキックして脱出! その時、後ろから爆風がボカーン!!」

バニー「あははー、おもしろーい」

武闘家「だろー?」

僧侶「くっちゃくっちゃ」

武闘家「おいおいおい、僧侶さんよ、飲んでないじゃんじゃん」

僧侶「うるせぇ」ゴスッ

武闘家「いてぇ!」

バニー「だ、大丈夫?」

僧侶「十字架で殴っただけだ。神の痛みだ」

武闘家「てめぇ、本気で殴ってねぇか!」

僧侶「俺は酒は飲めねぇんだよ」

武闘家「は? は、はぁ~ん?」

武闘家「ダッセェですなー、酒が飲めないから聖職者になったのか」

僧侶「ダチが酒のんで崖から落ちて死んだ」

武闘家「……」

僧侶「俺も飲んでたんだがな、ちなみに死体は魔物に食われてたぜ」

武闘家「す、すんませんっしたー!」ゲザー

僧侶「だから酒は飲めねぇんだよ。改宗した理由だからな」

バニー「あらぁ……それは、大変でしたねぇ」

僧侶「たいしたことじゃねぇ」

僧侶「人間はみな神のガキに過ぎないからな、等しく世界に投げ出されただけだ」

僧侶「俺もいつ死ぬのかは分からん」

武闘家「……あ、ああ、そう」

僧侶「うるさすぎねぇ程度に飲めよ」

武闘家「おう……」

バタン。

バニー「あ、いらっしゃいませ~」

勇者「やっぱり室内は暑いくらいですね」

商人「暖炉ガンガン炊いてるからねぇ~」

商人「でも、最近火の魔法を使った最新式のがさぁ」

勇者「新しければいいというものではないと思います」

武闘家「おーう! どうだった?」

勇者「宛が外れました」

商人「うーん、武器というか兵器は良さそうなのがありそうなんだけどねー」

商人「採掘抗が魔物に占拠されちゃって困ってるみたいなのよ」

武闘家「ふはは、だったら俺達でやっつけてやりゃいいじゃねぇか!」

バニー「あらぁ、頼もしいですね」

僧侶「……やらねーんだろ」

勇者「ええ。成功率が低そうなので、やりません」

武闘家「はぁああ!? それが勇者のやることかよ!」ヒック

勇者「魔王を倒したら魔物も消えるんじゃないですかね(適当)」

武闘家「はっはっは、だったら俺一人でも行ってやるぜ!」

勇者「ほう……」

商人「ちょっと待った!」

勇者「なんですか?」

商人「ゆ、勇者、冷静に考えてね。一応、一緒に戦ってきた仲間なのよ?」

勇者「どうしたんですか、誰も武闘家を犠牲にしようなんて言ってませんでしたが」

商人「する気よね!? めっちゃいろいろ考えだしたわよね!?」

勇者「商人も先読みがうまくなりましたね。いい傾向だと思います」

僧侶「そーだな」

商人「アホかー!」

武闘家「まぁまぁ、俺に任せろー」

商人「黙れ!」

勇者「まあ、王様への挨拶は明日に回すことにして……」

商人「他になにかすることでもある?」

勇者「宛は外れましたが、ここの武器は結構強力です」

勇者「みんなで武器屋を見て、装備を整えるだけでも悪くはないと思います」

僧侶「装備ねぇ……」

勇者「僧侶も、せっかくですからスコップの代わりにもっと攻撃翌力のある……」

僧侶「そうもいかねぇだろ」

勇者「なぜですか?」

僧侶「誰か死んだ時に、埋める道具がない」

勇者「なるほど」

商人「納得するところじゃないよそれ!?」

武闘家「しかし、装備品をケチってたあの勇者が、まさか装備を新しくしようとか言い出すなんて……」

商人「雪がふるわね」

勇者「もう降ってますが」

二人『あははははっ』

僧侶「寒いんだが」

バニー「じゃあ、暖かいお茶でも出しましょうかぁ~」

僧侶「たのむわ」

勇者「……」

僧侶「どーした?」

勇者「いえ、僕もお酒よりお茶の方がいいです」

バニー「はいはーい」

――翌日。

北王「お、お主が勇者、か?」

勇者「はい、そうです」

北王「……い、いきなり暴れだしたりせんじゃろうな」

北大臣「大丈夫ですぞ、陛下! ちゃんと武器は下げさせましたから」

北王「し、しかし、隣国の監視塔をぶっ壊したというし……」

北大臣「大丈夫です! 火薬も持ってませんでしたし!」

北王「し、しかしな……」

勇者「あの」

北王「な、なんじゃ! 急に話しかけるでない!」

勇者「いえ、出直してきましょうか?」

北王「ば、馬鹿者! わしは余裕じゃ、オールオッケーじゃ!」

勇者「そうですか」

北王「そ、それで、隣王の様子は、ど、どんな……」

勇者「はぁ。塔を壊されてしょげてましたね」

北王「そ、そうか。ザマァ見ろってんだ」

北大臣「陛下、ちょっと口がアレですぞ!」

北王「し、しまった。ゆ、勇者、今のは内緒な、しー、な」

勇者「はい」

北王「やーれやれ」

勇者「王様は隣国を攻めたりする気はないんですか?」

北王「!?」

北大臣「あ、あるわけなかろう!」

北王「先代は確かに領土的野心があったようじゃが、わしは違う」

北王「だ、大体、魔物もおるっちゅーに、隣国と戦争なんかやってられるか」

勇者「そうですか」

北王「うむ……そういう意味では、お主が隣国の監視塔を破壊してくれたこと、感謝するぞ」

北大臣「あ、今のはオフレコでよろしく」

勇者「はい」

勇者「……そういえば、鉱山の採掘が魔物に占拠されているそうですね」

北王「ドキーン!」バタッ

北大臣「陛下! 気を確かに!」

勇者「自分で擬音を言うのか……」

今夜はここまでで

しばらくして。

北王「……つまり、だな。わしはその、先代に敬意を払ってないわけではなくて」

北王「ただその、ちょっと頑張りすぎたんじゃあないかと。そう思っているわけで」

勇者「細々と領地を守って暮らしたいと」

北大臣「貴様、口が過ぎるぞ!」

北王「よいよい。実際、そういうわけじゃからな」

北王「じゃが、魔物が攻めてくるわ、隣国も攻めてきそうだわで、どうすればいいのか……」

勇者「それこそ豊富な鉱石類を使って、武器を揃えればいいじゃありませんか」

北王「そうは言うが、その採掘抗が占拠されているんじゃあのう……」チラッ

勇者「……」

北王「やはり、魔物退治の専門家がのう……」チラチラッ

勇者「……報酬はいかほどで?」

北王「そうじゃな、どのくらいほしい?」

勇者「国家予算一年分ではどうでしょう」

北王「」 ガタターン!

北大臣「[ピーーー]気か!」

勇者「いや、冗談ですよ。冗談」

勇者「しかし、鉱石類の採掘場ともなれば、北国の生命線でしょう」

勇者「実際のところ、国家予算分くらいの価値はあるのではないかと思いますが」

北王「ブクブク……」

北大臣「泡を吹いてしまったではないか!」

勇者「……そうですね」

宿屋。

武闘家「ふぁぁ~、酒が抜けねぇなぁ」

商人「あんたって酒と女の話しかしないわよね」

武闘家「お前は食い物の話しかしないだろ!」

商人「しょうがないじゃない。北国って寒いから、あまり食べ物も彩り鮮やかって感じじゃなくってさ」

僧侶「へっぷし」

二人『……』

僧侶「ずず、どーした、こっち見て」

商人「い、いやぁ、鼻水出てるわよ」

僧侶「ああ。わりぃな」

武闘家「大丈夫か? あんた」

バタン。

勇者「なかなか楽しんでらっしゃるようですね」

商人「あ、勇者! 謁見はどうだった?」

勇者「依頼受けちゃいました」

武闘家「ああん? 昨日、なんかやらないやりたくないとか言ってなかったか」

勇者「そうなんですけど……」

僧侶「押し切られたか」

勇者「ええ。なんというかなぁ、この国はお人好しというか、間抜けが多すぎます」

武闘家「言えてる、酒も良心的な値段だったし、バニーちゃんもおさわりしかけてもお金取らなかったし」

商人「なんか、間接的に私を馬鹿にしてない?」

勇者「ただ、やるとなったからには知恵を絞らなくてはなりません」

勇者「商人、何かありますか?」

商人「ええー? さすがに採掘坑になんか入ったことはないわよ」

勇者「そういう意味ではないんですが」

武闘家「まあ、俺に任せておけよ」

勇者「具体的に、どういう風に攻略する気ですか」

武闘家「ばーっと行って、だーっと帰ってくる」

勇者「……」

勇者「僧侶は何か」

僧侶「寒いな。早くベッドで眠りてーわ」

勇者「そうですか」

すみません、今夜はここまでで。
ラーメンより担々麺が好きです。

――採掘坑。

勇者「いいですか? まずはボスの情報を集めましょう」

勇者「とにかく、狭い洞窟みたいなところでは、僕の弓矢は少し使い勝手がよくありません」

商人「私のムチもねー」

武闘家「ふっ、分かるぜ。俺の出番ってことだな!」

僧侶「ずびっ」

勇者「……不本意ながら、そういうことになります」

勇者「特に、なんというか、この採掘坑、冷えますしね」

武闘家「はっはー! 任せておけ」

僧侶「……さみーな」

勇者「不安ですね……」

武闘家「しかしよ、なんだって魔物が鉄鋼山なんかに住むんだ?」

商人「そりゃ、単純に住みやすかったからじゃない?」

武闘家「お前、そんな単純な理由ってあるか?」

勇者「そうですね……」

勇者「僕もそう思ってます。この周辺、妙に硬くて冷たい、鉱物に邪心が取り憑いたような魔物が多くいました」

勇者「その拠点がココ、ということではないでしょうか?」

商人「ほらほら」

武闘家「そんな理由かなぁ」

勇者「他には、そうですね。あえて、この国を弱体化させるつもりで占拠させた」

勇者「つまり、魔物にも戦略家がいるという可能性もあります」

僧侶「ひぃっきし」

勇者「その場合、今後の魔物たちの討伐難易度は上昇していくこと請け合いです」

勇者「ですから……」

武闘家「おっ、魔物だ、魔物!」

勇者「……」

武闘家「うおおおお、いくぜぇええええええ!!」ズ┣¨┣¨┣¨┣¨

商人「本当にアホね」

勇者「まあ、城の周辺の魔物レベルなら、それこそ武闘家一人でも……」


武闘家「ふぎゃあああああああっ!!」


勇者「……」

僧侶「ダメじゃねぇか」

氷魔人「ぐふふふっ、ようやく人間が来たか。待ちくたびれておったわ」

武闘家「う、おお、凍ったぁ……」

勇者「くっ、お、大きい!」

商人「ち、ちょっと! こいつってボスなんじゃないの?」

勇者「出入り口付近なんですけど」

僧侶「よく分からんが、でかい下っ端じゃあないのか」カチカチ

氷魔人「なんだとぉ~?」

氷魔人「この俺が、魔王様の命を受け北の地を統括する司令官よ!」

勇者「司令官が基地の出入り口にいるんですか……」

氷魔人「暇だったからな!」

氷魔人「まあ、御託はいい。さっさと踏みつけてやることにしよう」

勇者「みなさん、武器を取ってください!」

氷魔人「遅いわ!」


氷魔人の攻撃! 勇者が吹っ飛んだ!


勇者「うわっ」

商人「勇者!?」

僧侶「ずびっ」

武闘家「うおお、こいつ、意外と早いんだよ……」

僧侶「滑るからか」

商人「ハゲっぽいもんね」

氷魔人「ほっとけ」

氷魔人「さああ、このまま大人しく踏み潰されるが良い!」

勇者「……うっ」

商人「勇者! 早く逃げて!」

勇者「ど、毒……は効かないか、えっと、えっと……」

武闘家「うおおおっ、足が、離れねぇえええ!」

勇者「ひ、火の魔法」 ボッ

――勇者の火炎魔法! 魔人に当たると、空しく掻き消えた……。

氷魔人「どはははははっ、威力が全然足りんわ!」

氷魔人「では[ピーーー]ぇっ!」

僧侶「おい、青ハゲ」

氷魔人 ピタッ

僧侶「もう少し、暖かくならねぇのか。鼻水がつららになっちまう」

僧侶「寒いんだよ、オメーは」

氷魔人「……なんだ、こいつは?」

商人「口の悪い人です」

氷魔人「そんなことは知っとるわい!」


僧侶「……勇者、回復だ」

――僧侶の回復魔法。勇者に力が戻ってくる。

勇者「すみません……不意を突かれて……」

僧侶「それより、どうするんだ」

勇者「……」


氷魔人「こそこそ喋ってる場合かっ!!」

氷魔人の攻撃! 勇者はとっさに、僧侶を盾にした!

僧侶「うごっ」

勇者「あ、つい」

氷魔人「ふん! どうやら聞いていたほど大したことはなさそうだな」

勇者「……へぇ、誰かから聞かされていたと」

氷魔人「ばっはっは! もちろん魔王様の定期連絡からに決まってんだろ」

勇者「そうですか」

氷魔人「世界を征服するならそんなものは当たり前だろう」

氷魔人「だが、こういう伝聞は、実際に目にしてみないと分からんもんだな」

氷魔人「鳥やチビを倒したことでいい気になっていたようだが、まったく話にならん」

勇者「そうですね」

氷魔人「ちっ、倒しがいの無いやつだ。さっさととどめを刺してやろう!」

勇者「待ってください」

氷魔人「……なんだ?」

勇者「取引をしませんか?」

氷魔人「なんだとう?」

勇者「僕はまだ三つの国しか回っていませんが、その国の弱点が大体分かります」

勇者「この情報を売る代わりに、見逃してください」

商人「ゆ……勇者!?」

勇者「命だけは助けて欲しいです」

氷魔人「……くっ」

勇者「どうか、お願いします」

氷魔人「くははは、ぎゃあははははははっ!!」

勇者「……」

氷魔人「お前、バカじゃねぇか?」

氷魔人「俺もそれほど頭が回る質じゃあねぇが、魔王様からこれだけは言われたよ」

氷魔人「取引ってのはな、強者が主導権を握るもんだってな」

勇者「……」

氷魔人「誰が命乞いしているカスの言うことを聞くものかよっ」

氷魔人「せめて一太刀入れてから言ってみたらどうだ!」

勇者「そうですね」

武闘家「おう、喰らえ!」

武闘家の奇襲攻撃! 稲妻蹴りを放った!

氷魔人「おごっ」 ズガッ!!

勇者「さ、みなさん、武闘家にまかせて逃げましょう」

商人「えーっ!?」

僧侶「リングで唇切れた……」

勇者「泣き言は後です、さぁさぁ」

勇者「武闘家! 任せましたよ!」

武闘家「おう! 俺に任せろ!」

氷魔人「ぬかせ! 卑怯な人間め!」

武闘家「チームプレイだ! うおおおおっ!」

武闘家は勇者たちと別方向に逃げ出した!

氷魔人「あっ、お前ら! バラバラに逃げてんじゃねぇ!」

氷魔人「糞野郎ーっ、逃げてんじゃねぇぞーっ!!」

――出入り口。

勇者「はぁ、はぁ」

商人「ひーっ、ひーっ」

勇者「さすがに、はぁはぁ、僧侶さんを、はっ」

勇者「抱えてここまで戻るのは、骨が折れますね」

僧侶「はあ、はあ、ワリィな」

勇者「い、いえ……」

商人「……はぁ、はぁ」

勇者「武闘家は、まあ、なんとか戻って来られるといいんですけど」

勇者「地図、持たせて、一応、おきましたし……」

商人「はーっ、はーっ」

商人「……ちょっと、勇者」

勇者「なんです、か?」

商人「あんた、さっきの、話、ちょっとマジで言ってなかった?」

勇者「ええ」

商人「ええって……」

勇者「何かおかしかったですか」

商人「おかしいわよ

ミス。

商人「あんた、さっきの、話、ちょっとマジで言ってなかった?」

勇者「ええ」

商人「ええって……」

勇者「何かおかしかったですか」

商人「おかしいわよ! 自分の命さえ助かればいいっての?」

勇者「利益にならないことはしませんよ」

商人「いや、その、そりゃ」

僧侶「……とっさのことだ。本音が出たんだろ」

商人「だから悪いっつってんのよ!?」

勇者「まあまあ。さっきの話でいくつかのことが分かりました」

商人「な、何が……!」

勇者「魔王軍は人間に苦戦しています。正面でゴリ押しして勝てると思ってないわけです」

商人「いや……そうなの?」

勇者「あの馬鹿っぽそうな魔物ですら、城攻めより生産拠点の占拠から入りました」

勇者「魔王の入れ知恵もあるでしょうが、この場合、重要なことは直接人間を滅ぼす方向ではないということです」

商人「はぁ……」

勇者「あの魔物は、魔王から『取引』についてのお言葉を頂戴していたわけですね?」

僧侶「そう、だな」

勇者「ということは、『取引』について何らかのレクチャーを受けている可能性があります」

勇者「つまり、魔王軍は『取引』を一つの政治手段として考えているわけです」

二人『……』

武闘家「……ゴールっ!」ダダダッ

勇者「お疲れ様です」

武闘家「ふへへ、どうだ、俺の、すごさ、思い、知ったか!」

商人「よく生きて帰ってこれたわね」

武闘家「昔、から、悪運の、悪さ、だけは、人並み以上でな!」

勇者「悪運がさらに悪いんですか。それはすごいですね」

武闘家「魔物、ついてきちゃったけど……」ゼェハァ

僧侶「ちっ、来るぞ」

勇者「はい、逃げましょう」

商人「えっ、まだ逃げるの!?」

勇者「勝ち目のない戦いはしないタイプなので」


――勇者たちは逃げ出した!

数日後。

氷魔人「どうだ、人間どもの様子は」

狼「はっ、ビビって町の外も歩けていないようです」

狼「本当に人の姿が見当たりませんよ」

氷魔人「ふん……まあ、そうだろうな」

氷魔人「本当なら、ここで隣国のやつらが北国と戦争をおっ始める予定だったのが、悪魔が失敗したせいでなぁ」

狼「次の刺客が決まるまで、俺達は暇ですもんね」

氷魔人「……ちょっくら、また表に出て人間狩りでもしねぇか」

氷魔人「なんか少し雪が溶けてきたというか、暑い気がすんだ」

狼「そうですな……」

氷魔人「む、むむ!?」

狼「どうしました……って、あっ」

氷魔人「出入り口が岩で塞がれているぞ!」

狼「ぐっ、ぐぐぐ……」

氷魔人「どうした!」

狼「なんか、息苦しい……」

氷魔人「こ、これはまさか!」


採掘抗外。

勇者「もうちょっと燃料追加してください」

僧侶「おう」ザポッ

武闘家「おー、スコップが役に立つなぁ」

僧侶「暖かければこんなもんだ」

商人「……蒸し焼きにして殺すとか」

勇者「まあ、あの氷魔人には通じにくいでしょうが、暖まるだけでも意味はあります」

勇者「採掘抗を破壊せずに、敵を殲滅するなら、とりあえず出入り口をすべて塞ぎ、熱と煙で追い詰めることから始めなくては」

商人「あんたさぁ、人間相手にこういうのやったら本当にヤバイよ?」

勇者「やりません」

商人「へぇ?」

勇者「非人道的手段は、後々の利益に繋がりにくいですからね」

商人「ちょっと僧侶! そろそろこいつの倫理観に説教してあげてください!」

僧侶「体動かしてないと寒いだろ?」ザポッ

商人「なにいい汗流してんだよあんたー!」

どぐっわぁあああああん!

武闘家「うおっ、岩が吹き飛んだ!」

   氷魔人「はぁ、はぁ……」

勇者「どうやら出てきたようですね」

   氷魔人「うおおおおっ、あの人間どもはどこだあああああっ」

勇者「武闘家、作戦通りにおびき寄せてください」

武闘家「任せておけ! おらっ、マヌケな青ハゲ野郎!」

氷魔人「貴様らーっ!!」ドドド……!

武闘家「こっちだよん!」タタタッ

氷魔人「今度こそ生かして帰さん……!?」ドドド……ズボッ!?

氷魔人「ぬうっ、くっ、ほっ」

武闘家「ざまーみやがれ! 落とし穴ごときに引っかかりやがって!」

氷魔人「ぐっ、ごっ、抜けん……!」

僧侶「深く掘ったからよぉ~~」ザポッ

氷魔人「き、貴様ら……!」

勇者「落ち着いてください。商人、例のものを」

商人「はいはい、魔封じの御札!」キィン

氷魔人「ぐおおお……!」

勇者「武闘家、油を撒いてください」

武闘家「へーい」トポポ……

氷魔人「ぐ、ぐぐぐ……」

勇者「火の魔法」ボワッ

勇者「……数日振りです。勇者です」

氷魔人「き、貴様……!」

勇者「侮っちゃいましたね。監視はしていたようですが、それに対して何らの対策も取らなかった」

氷魔人「ぐぬっ」

勇者「『取引』をするなら、こういう状態に追い詰めてからすべきなんでしょうかね」

氷魔人「……」

勇者「もっとも『取引』をするまでもなく、あなたは僕に情報を駄々漏れさせてましたけど」

勇者「要するに、僕だけもらってしまっていたようなものです」

氷魔人「こ、この程度で、俺を倒せると思うな」

勇者「どうぞ、抵抗してください」

氷魔人「う、おおお……!」

勇者「燃えろ」 ボウンッ!!

勇者「トドメに弩を用意しました。爆弾石をセットしてあります」

勇者「武闘家、暴れまわって穴から抜け出さないようにお願いします」

武闘家「おう!」

勇者「商人、魔封じの御札を追加投入してください」

商人「はーい!」

勇者「僧侶、手伝ってもらえませんか。僕の腕力だけじゃ、弦を巻き上げられません」

僧侶「あー、いいぞ」

氷魔人「ぐおおおおおおっ! 貴様ら! 貴様ら!」

勇者「……」ぐぐぐ

勇者「発射」 ビュン!

今夜はここまで。

――北国。

北王「まさか、本当に採掘抗を解放するとは……」

勇者「今後は、少なくとも魔物が入らないように兵をつけるべきですね」

北王「うむ、それは分かっておる」

勇者「一応言っておきますが、内部は悲惨なことになっています」

勇者「すぐに入るのではなく、空気を確認してから、魔物の死体を片付ける必要もありますので」

北王「えっ、それはどういう?」

勇者「煙を内部に充満させて、魔物の一部を窒息死させたのです」

北王「……だ、大臣!」

北大臣「はっ!」

北王「コワイ」

北大臣「貴様、陛下を怖がらせるなどと!」

勇者「はぁ」

勇者「とりあえず、お借りしていた採掘抗の地図は返却します」

北大臣「うむ、役に立ったようだな」

勇者「ええ。そうそう、アフターサービスとして、空気穴や脱出経路についても提案を書き込んでおきました」

北大臣「む…・

ミス。

勇者「とりあえず、お借りしていた採掘抗の地図は返却します」

北大臣「うむ、役に立ったようだな」

勇者「ええ。そうそう、アフターサービスとして、空気穴や脱出経路についても提案を書き込んでおきました」

北大臣「む……」

勇者「それで、報酬の方なんですが……」

北王「こ、国家予算などは出せんぞ!」

勇者「分かっています」

勇者「魔王攻略には、必ず兵器が必要になってきます。その際に優先的に僕らに回すことがひとつ」

北王「ほ、ほう」

勇者「それから、武器・兵器の販売ルートの優先権をください」

北大臣「な、なんじゃとっ!」

北大臣「我が国の経済的な自主権を奪うつもりかっ!」

勇者「僕はタダで魔王が倒せると思っていません」

勇者「武器の安定的な供給と、その販売による資金調達は必要です」

北大臣「そんなことを言って! 隣国に売りつけるつもりではなかろうなっ!?」

勇者「ああ、そういう手もありますね」

勇者「僕が考えているのは、僕のいた国と同盟を結び、隣国を牽制するという手段です」

北大臣「そ、そんなこと信じられるかっ!」

北王「まあ、良いではないか、大臣」

北大臣「陛下、しかしですね!」

北王「こやつは我が国を救ってくれた、いわば英雄じゃ」

北王「なんだかんだ言って、助けてくれたことには違いない」

北王「のう?」

勇者「利用できるうちは利用しませんと」

北王 ガクガクガク

北大臣「陛下ー!」

――城下町。

勇者「おまたせしました」

武闘家「おう! なんだ~? あんまりずっしりしてねぇなぁ」

商人「ずっしりって何がずっしりなの~?」

武闘家「そりゃあなぁ?」

商人「お・か・ね、よね!」

勇者「……。僧侶、寒くないですか?」

二人『無視するな!』

僧侶「ああ。お祈りも済ませてきたところだ」ジャラッ

僧侶「教会で『カイロ』が支給されたからな……」

僧侶「ぬくいぜ」ぽかぽか

勇者「そうですか

勇者「何か、各地から情報はありましたか?」

商人「んーとね、まずぶどう畑は順調に再開できてるみたいよ」

商人「まだお金は入ってきてないけど、隣国の酒場は収益が上がっているみたい」

勇者「なるほど」

僧侶「……あー。村僧侶から、だ」

僧侶「ほれ、手紙」

勇者「はい。はい」


村僧侶『お寒いところへ行かれると聞き、心配しています。私たちは今、魔王様の指示に従うフリをして、森を拓いています』

村僧侶『魔王軍では、このところ、腕の立つ剣客の話題で持ちきりです。何匹か倒されたようです』

村僧侶『勇者という者が、人間側の切り札として動きまわっているのではないかと噂されています』

村僧侶『人間側の動向を観察しているようです。お気をつけてください』


勇者「どうやら、我々以外にも人間が頑張っているようですね」

武闘家「なにィ!?」

勇者「どうかしましたか?」

武闘家「それじゃ俺達の活躍が霞むだろ?」

勇者「いや、いいんじゃないですか」

僧侶「……それで、どうするんだ?」

勇者「そうですね。武器の目星はつきましたが、僕達の実力不足も露呈しました」

勇者「修行を、と言いたいところですが……」

武闘家「ちょっと待て!」

勇者「なんですか?」

武闘家「それじゃまるで、俺が弱いみたいじゃね?」

勇者「うっかり足元を凍らされる武闘家」

武闘家「おいおい! むしろ俺のおかげで大体助かってんだろうがよ!」

商人「強気ねー」

勇者「助かってますよ?」

武闘家「そっ……そうだろう」

勇者「でも、それじゃ足りないわけです。人材を補強したい」

勇者「リストラ、というやつですかね?」

三人『!!』

勇者「元々、酒場のマスターに勝手に決められただけです」

武闘家「ち、ちょっと待てや!」

商人「そ、そうよ~、私達、四人で頑張ってきたじゃない~」

僧侶「……ん~」ジャラジャラ

勇者「そうですね、たとえば噂に出てきた剣客とやらはどうでしょう」

勇者「もちろん本人の希望もあるでしょうが、仮に魔王討伐に賛同してくれるなら、入れ替えても悪くはないはずです」

武闘家「本気じゃないよなっ!?」

勇者「本気ですけど」

商人「ゆ、勇者、まだ私ツケと借金が、返済できてないのよ!」

勇者「……少しずつ渡しているはずですが」

商人「あ、あれってお小遣いじゃないの!?」

勇者「とりあえず放出最有力候補は商人、と」

商人「いやああああああっ!」

勇者「あとは……」

武闘家「ふっ、ふっふっふ」

勇者「どうしました」

武闘家「勇者! お前はひとつ、忘れていることがあるようだな!」

勇者「何を忘れていると?」

武闘家「俺はお前の節約のために、まだ武器を装備していない!」

勇者「そうですね」

武闘家「つまり! 武器を装備した俺はさらに何倍も強くなるということ!」

僧侶「……使い慣れてねーと、攻撃力下がるぞ」

勇者「棍棒ですら持て余していましたっけ」

武闘家「うおーい!」

商人「そ、そうよ、勇者! 僧侶はどうなの!」

商人「さ、寒がりじゃあ、万一山を超えなきゃいけない時、不利でしょ!?」

勇者「防寒を整えればどうということはありません」

勇者「一番役に立ってますしね。こないだは、穴掘りから、僕を庇ってくれたりもしました」

勇者「力仕事と回復を同時に出来るのは非常に頼もしい」

僧侶「あー、そう」ジャラッ

商人「ひいきよ、ひいきだわ!」

武闘家「そうだそうだー!」

商人「ひょっとして二人できてるんじゃないの!」

武闘家「糞野郎どもー!」

勇者「借金持ちと風俗遊びが止まらない人を解雇することはそんなにおかしいですか?」

二人『……』

勇者「節約しろと言っているのに、気がつくと飲み食いしている人を解雇対象に入れることは、そんなにおかしいですか?」

二人『……ごめんなさい』

勇者「食って遊んだお金のはみ出し分は、いつも僕が払っています」

勇者「とりあえず、今すぐ解雇するつもりはありませんが、いい加減にしないと怒ります」

武闘家「……はい」

商人「……すみません」

勇者「役に立ってないとは言ってません」

勇者「特に、武闘家には奮闘してもらっていますし、商人も前に出てもらってるわけで」

勇者「むしろ戦闘に関しては僕の力不足が問題なわけで」

武闘家「そ、そんなことはねぇよ、な?」

商人「そ、そうよねぇ~?」

僧侶「確かにな」 ふーっ

二人『モク吸ってんじゃねー!!』

勇者「とにかく、魔王討伐に役に立ちそうな人材に当たりをつけておくことは大事です」

勇者「別にパーティを組み直さなくても、連携を取れば、陽動作戦を取って動けるかもしれませんし」

武闘家「そ、そういうことか」ほっ

商人「ま、そ、そうよねぇ~」

勇者「それで、今度は砂漠の国に行こうかと思います」

商人「えっ?」

武闘家「そ、それは……暑いじゃねぇか!」

勇者「ええ。砂漠を抜けると、港町があります」

勇者「ここらで海を渡れるようにしておけば、人が集まりやすいところに行けます」

勇者「どうでしょうか?」

武闘家「別にいいけど……」

商人「私、暑いのは……」

僧侶「ふーっ、そんなに寒そうな格好が出来るんだから、暑いのも大丈夫だろ」

商人「何言ってんのよ! 寒いのは着ればどうにかなるけど、暑いのは脱いでもダメなんだからね!」

武闘家「おい、論点はそこじゃないだろ」

勇者「どこにありますか」

武闘家「砂漠だと暑すぎて、露出度がかえって減るんだよぉ!」

勇者「……」

武闘家「汗まみれのセックスってさぁ、後始末が大変なんだよな」

勇者「とりあえず殴りますね」

こんやはここまで。

――砂漠の国。

勇者「ほう。剣客が助けてくれたと」

道具屋「ああ、そりゃもう立派な人だったよ」

勇者「魔物に襲われているところを、一人で助けて、金品も要求せず、町まで護衛したと」

道具屋「そうだよ」

商人「どこかの誰かさんとは大違いね……」

勇者「そのようですね」

商人「いや、少しは言い訳しなさいよ」

勇者「何も言い訳することはないと思うのですが」

道具屋「あんたたち、勇者なんだって?」

勇者「ええ、そうです」

道具屋「少しはあの人を見習った方がええぞ」

勇者「それとこれとは別です」

道具屋「別じゃねぇぞ! 散々値切りやがって!」

勇者「だって本格的に砂漠を渡るのはこれからですからね」

商人「そうそう。めっちゃ暑いし、ここ」

道具屋「あついのはあんたたちの面の皮だよ!」

勇者「そう言われましてもね」

勇者「有益そうな情報は得られましたし、とっとと退散しましょうか」

商人「そうねー。そんじゃ、おじさん、ばいばーい♪」

道具屋「二度とくんじゃねぇ!」

勇者「一度で済むと思ってるんですね」

道具屋「こ、このやろう!」

勇者「……なかなか、有能かつ清廉潔白な男のようですね」

商人「ああ。さっきの男の話?」

勇者「ええ。こういう人は一番やりにくいです」

商人「どうしてよー、正義感に働きかければいいんじゃないの?」

勇者「ですが、魔王討伐という大義があっても、やり方に反発されれば納得は得られません」

勇者「とりわけそういう人は、一度へそを曲げられると後が大変でしょう」

商人「じ、じゃあ、仲間の入れ替えとかはないわよね」

勇者「それとこれとは別ってものです」

商人「はぁ!? 今だって私、女なのに荷物持ち手伝ってるし!」ずっしり

勇者「道具持ちは商人の仕事でしょう」

商人「う、うぬぬ……はっ!」

勇者「どうしました?」

商人「私、今すごく面白いことを考えついたわ」

勇者「なんですか」

商人「私たちが、その剣客とやらについていくのよ!」

勇者「なるほど。ではやはり、商人から優先して解雇を考えましょう」

商人「ちょっとぉおおお!?」

勇者「どうかしました?」

商人「どうかしたじゃないのでしょ!? 引き留めなさいよ!」

勇者「今の話はつまり、商人が僕のパーティーから離れたがっているということでは?」

商人「違うでしょ!? 一斉に私たちにやめられたら困るでしょ!?」

商人「困るから、ヤメテほしくないって言うべきでしょ!?」

勇者「やめたくないのは皆さんの方では」


武闘家「うおーい」

武闘家「おい、聞いたぞ?」

勇者「何がですか」

武闘家「砂漠を越えるのには一昼夜かかるらしいぜ」

武闘家「つまり、砂の真ん中で野営しないといけないってんだ!」

勇者「そうですね……」

武闘家「しかも、砂漠って夜冷えるらしいじゃねぇか!」

勇者「ほう」

武闘家「テントが必要だからっつって言われてさ」

商人「あんたまさか……」

武闘家「じゃーん! 先回りして買ってきてやったぜ!」

勇者「おらっ、いい加減にしろ」ボグゥ

武闘家「うべあ」

勇者「いくらかかったのか言ってご覧なさい」

武闘家「ご、五千……」

勇者「すみませんでした。商人」

商人「へ、なに?」

勇者「どちらかというと、こっちの方が優先対象でしたね」

武闘家「な、なんの話だよ……格闘家の隙を突きやがって……」

勇者「あれほど勝手に金を使うなって言ったのに何を考えているんですか?」

武闘家「いや、酒とかには変えてないだろ……」

勇者「テント一つくらいなら、その半額以下でもっと良いのが買えますよ」

商人「そうよね~」

勇者「……これは、しばらく宿には泊まれませんね」

勇者「今日から出発しなくては」

武闘家「ちょっと待て!? もう野宿するってのか!?」

勇者「はい」

武闘家「踊り子ちゃんのポールダンスは!?」

武闘家「パフパフ屋は!? あと俺の武器は!?」

商人「勇者、もしかして……ここのうまいもの全部捨てていくつもりなの!?」

商人「ほら! 『世界うまいもん紀行・スゲェ編』にも十ページくらい割いてるのに!」パララ

勇者「このテントになって消えました」

二人『……!』

勇者「やれやれ、僕らには魔王討伐という崇高な目的があるというのに」

武闘家「と、取って付けたようなことを言ってんじゃねぇ!」

商人「お前がいえた口かー!」

武闘家「だってこれ三分の一くらいになったんだぞ!」

商人「んなもん、ありえない金額を提示して、払えるところに落とし込むありがちな商法でしょ!?」


僧侶「……なにやってんだ」

勇者「ああ。どうやらもう、出発しないといけないようです」

僧侶「なんだ? 忙しねぇな」

勇者「そうは言いますが、この町には教会もないでしょう」

僧侶「ああ。そのおかげで、支給品が切れちまった」

僧侶「異教徒どもが多くて嫌になるぜ」

勇者「荒事を起こす前に、移動した方が良さそうですね」

武闘家「……おいおい、勇者よぉ!」

勇者「なんですか」

武闘家「お、俺は悪くねーよな!?」

商人「悪いに来まってんでしょ」

勇者「……」

武闘家「なんでじゃ、俺は良かれと思ったことをしただけだぞ!」

勇者「そうですね。武闘家は気が利かない方が役に立ちますね」

武闘家「」

砂漠。

武闘家「あっつー……」

商人「あー、こんなところで魔物になんか会いたくないわよー……」

勇者「商人は寒いところ出身なのに、暑いのも平気そうですね」

商人「平気じゃないって……」

僧侶「んー」ザッザッ

勇者「僧侶は暑いのは大丈夫そうですね」

僧侶「まあ、寒いのに比べりゃな」

勇者「僕はダメです」フラッ

武闘家「うおーい! 無表情で倒れんな!」

勇者「誰ですかね、砂漠を徒歩で越えようなんて言った人は」

武闘家「お前だ、お前!」

武闘家「うっ、やべぇ、なんか音がするぞ!」

商人「魔物!? 勘弁してよ……!」

僧侶「勇者、指示を出せ」

勇者「逃げましょう、暑いし」

武闘家「バカ、お前な!」

勇者「なんか、乾燥してて、硬くてやなんですよ……」

勇者「矢も刺さらないし……」

武闘家「……なんか」

商人「完全に……」

僧侶「弱ってんな」

武闘家「ゆ、勇者~? とりあえず、走ろうぜ?」

商人「そうそう、逃げないといけないしね」

勇者「うい」

僧侶「おう、近いぞ」

砂蛇が現れた!

蛇「しゃあああああ!」

僧侶「チッ」

武闘家「くそー! 逃げるっ!」ザカザカ

商人「砂に足を取られて、歩きにくいわねー!」

勇者「はぁー、はぁー」

武闘家「勇者、遅れてるぞ!」

勇者「分かって、ますよ」

商人「あっちにちゃんと地面あるわよ!」

僧侶「急げ!」ジャラッ

――砂蛇の攻撃! 勇者に噛み付いた!

蛇「ぎしゃああああっ!」

勇者「あうっ!」

武闘家「勇者ー!」

勇者「チッ、近接武器を……!」

蛇「しゃああああああ!」

砂蛇の攻撃! 勇者の武器を弾いた!

勇者「あっ」

蛇「シュゥゥゥーッ!」

僧侶「勇者!」

勇者「うっ」

砂蛇の攻撃! ……勇者には届かなかった。

ザクッ!

――剣客の攻撃! 蛇の首を跳ね飛ばした!

剣客「……大丈夫かい?」

勇者「あ……はい」

明日に回そう……すまぬ(´・ω・`)

剣客「君たちも無事か?」

武闘家「当たり前だ!」

商人「礼は言うわよ、お礼は払わないけど」

剣客「……お礼?」

勇者「いえ……」パッパッ

僧侶「おい、お前ら」

武闘家「な、なんだよ」

僧侶「助けてもらったらいうことがあるだろ」

勇者「そうですね、ありがとうございます」ペコリ

商人「あ、ありがとう」

武闘家「あーん? 別に俺が助けてもらったわけじゃないし」

剣客「いや、いいよいいよ」

僧侶「そうか」ジャラッ

剣客「それより、どうしてこんな砂漠を?」

勇者「突っ切って、港町に行こうかと思っていたんです」

剣客「ははぁ、それは無茶な真似をしたね。普通はもっと別の方向から、山道を越えていくルートがある」

商人「結局山越えでしょー?」

剣客「いや、ちゃんとした道になっているから、大した装備も要らないんだ」

武闘家「ち、ちょっと待て! あそこの商人どもは、砂漠を越えるのが一般的つってたぞ!」

剣客「……騙されてるね、それは」

武闘家「おい、勇者!」

勇者「なんですか?」

武闘家「お前、騙されてるじゃねぇか」

勇者「知ってますよ。ただ、時間とお金が惜しかったので」

勇者「誰かさんが別ルートを取るための装備代を、テントに使わなければ」

武闘家「……」

剣客「ええと……」

商人「いいのよ、別に」

僧侶「そういうてめぇこそ、なんでこんな砂漠を渡っている?」

剣客「もちろん、通過するだけなら、ここを突っ切った方が早いからね」

剣客「というか、何度もここは通っている。熱砂の中で、魔物を斬り伏せる修行をしていたから」

勇者「ほう、筋金入りですね」

剣客「なんのことだ?」

勇者「もし良かったら、港町までご一緒しませんか?」

武闘家「!」

剣客「それは構わないよ。俺が先導者になろう」

商人「ち、ちょっと勇者!」

勇者「なんですか?」

商人「まさか、この人と入れ替えとか……」

勇者「いえいえ、道案内を頼むだけですよ」

勇者「といっても、勝手についていくだけですので、金銭的なお礼はできませんがね」

剣客「ははは、お金がないから砂漠を渡ろうって人に、お金なんか取れないさ」

剣客「なんだったら、港町についたらおごってやろうか?」

武闘家・商人 ピクッ

僧侶「おい」

勇者「ありがたいのですが、さすがにそこまでは甘えられません」

勇者「代わりと言ってはなんですが、一緒に飲むというのはどうでしょう」

剣客「そりゃあ、いいね」

勇者「では、すみませんが」

剣客「ああ。砂漠の歩き方も教えてやろう」

――しばらくして。

剣客「ほう、勇者、か」

勇者「ええ。魔王討伐の任務を受けているのです」

剣客「そんな若い身空でよくやるもんだな」

勇者「あなたも十分若いと思いますが」

剣客「ははっ、俺は天涯孤独だからな。自分がいくつかもよく分からない」

勇者「へぇ~」


武闘家「……おいおいおい」

商人「なに、どうしたの?」

武闘家「なんかさ、あいつらすごいいい雰囲気じゃね?」

商人「そうだけど」

武闘家「その、リストラ、リストラあるんじゃね?」

商人「ふ、ふっ! あんたビビってんの?」

武闘家「び、ビビってねぇよ!」

剣客「しかし……魔王か」

勇者「何か知っていることでもありますか?」

剣客「いや、魔物退治で日銭を稼いでいたからな、そういえば最近、強い魔物に当たったな、と思って」

勇者「なるほど。それはそれは」

剣客「君こそ、なんか知っているのかい?」

勇者「ええ。あなたは、魔王軍にマークされていますよ、多分」

剣客「マーク?」

勇者「要注意人物として、危険視されているということです」

勇者「そうですね、一人で冒険するのではなく、パーティーで冒険することをオススメしますよ」


武闘家「き、来やがった!」

商人「だ、だ、大丈夫よ! ほら、激戦を潜り抜けてきた信頼ってのがあああああるし」

剣客「……そういうわけにもいかない」

勇者「なぜです?」

剣客「実を言うとね、少し前にはパーティーを組んでいたんだ」

勇者「はい」

剣客「だけど、その連中は、魔物との闘いでみんな死んでしまった」

剣客「俺がより凶悪な魔物にぶつかっていくからだろうな」

勇者「……」

剣客「仲間を失うくらいなら、最初から一人のほうが気楽さ」

勇者「ま、いたらいたで、お金がかかりますしね」

剣客「お金?」

勇者「いえ、別に」

僧侶「……あんたの仲間は、神の元に還っていったんだ」

僧侶「人はみんな等しく神のガキに過ぎねぇ。気に病むな」

剣客「き、気に病んでいることはないぞ」

勇者「そうですか?」

剣客「そうだとも」

武闘家「そうかそうか、あんたにもつらい過去があったんだな」

剣客「……ん?」

武闘家「まあ、それで堅苦しく考えてしまうのも無理は無いがな、こいつを見てみろ!」

武闘家「このガキンチョは、報酬が足りないといって王様に金をせびり、出せないなら他所の国で売るというとんでもない守銭奴!」

勇者「武闘家」

武闘家「なんだよ」

勇者「今後の飲み代は一切なくなりました」

武闘家「おっ……!」

剣客「へぇぇ、勇者らしからぬって思うが」

勇者「そうでもありません」

勇者「ただ、客観的な条件からして、魔王討伐のための布石として適切な報酬を得ているだけです」

剣客「こんな砂漠で苦戦しているのに、討伐なんて出来るのか?」

勇者「だからこそ、です」

剣客「ん?」

勇者「自分にとって過分な仕事を任されたなら、それを成功させるために最善を尽くすのは当然です」

勇者「そのために他人にもかぶってもらおう、というわけで」

商人「まあ、何が無茶かって言ったら、魔王を倒して来いって言われるのが無茶よねー」

剣客「はっはっは! そりゃそーだな!」

勇者「そこで、ですね。あなたにお願いがあるんですが」

剣客「おう、なんだ?」

勇者「魔王討伐の際に、力を貸してもらえませんか?」

剣客「……」

勇者「といっても、やることは魔王を攻める時に鉄砲玉になってもらいたいってわけで」

剣客「なかなかひどいことを言うな」

勇者「お嫌ですか」

剣客「……うーん」

勇者「報酬は出します。勝てれば日銭どころじゃない金を、各国から搾り取るつもりです」

剣客「ははっ」

武闘家「笑いどころじゃねぇんだよな……」

商人「本気でやるからね……」

僧侶「そりゃ、平和維持費はタダじゃねぇんだから」

剣客「せっかくの申し出だが、好き勝手にやらせてもらうさ」

勇者「そうですか」

剣客「なんだ、引き止めると思っていたが」

勇者「自信満々ですね。本心はそのとおりですが」

剣客「お前こそ、よくまあ、正直に言うぜ」

勇者「では、一応理由を聞いておきましょう」

剣客「命令されるのが好きじゃないんだ」

剣客「魔王を倒すなら、俺が勝手に倒してやる」

勇者「無理ですね」

剣客「お、言うな」

勇者「魔王もバカじゃないですからね。あなた用の罠も考えているでしょう」

剣客「……なるほど、そりゃあるかもな」

剣客「よし、分かった。そのへんは気をつけておくよ」

勇者「別に注意を促したわけでもないですが」

剣客「はっ、何を言ってんだ」グリグリ

勇者「……」


武闘家「うぐぐ、なんか嬉しそうな顔してね?」

商人「なに? この仲の良い兄弟的な」

武闘家「大体、俺と扱いが違うってのがおかしいだろーよー」

商人「え、それは」

僧侶「どこがおかしいんだ?」

武闘家「俺もあいつも酒を呑む!」

商人「……それから?」

武闘家「勇者を子供扱いしている!」

商人「それで?」

武闘家「しかも! 俺はあいつより金がかかってないぜ!? 装備に!」

商人・僧侶『テント』

武闘家「ぎゃーす!」ドサッ

今夜はここまで。明日もやるぞ~

港町。

勇者「着きましたね」

剣客「そーだな」

武闘家「よっしゃぁああ! それじゃ早速酒場に行って女の子を――」

勇者「宿を取れ」

商人「港町っていったら、新鮮なお魚よね!」

勇者「おい」

武闘家「なぁんだよー、だって砂漠はめっちゃ大変だったじゃねぇかよー」

商人「お酒! お料理! おいしいもの!」

僧侶「欲にまみれてねーでとっとと探しに行け」

勇者「まったくです」

武闘家「ちょっと待った!」

勇者「なんですか?」

武闘家「欲と言うより、砂にまみれてる」

勇者「それで?」

剣客「あー、こほん。ちょっといいか?」

勇者「なんですか?」

剣客「この町はそんな性風俗なんてないぞ」

武闘家「……!!!」ビッシャァァアアアンン

剣客「なんでそんなにショックを受けているんだか」

勇者「ええと、聞くのも馬鹿らしいがなぜです?」

剣客「ああ。実はな、この町では海に潜って貝を取ったりする仕事は、女性がやるんだ」

剣客「魚取りと、貝取り。この二つに加えて、大陸間の移動もやっているが……」

剣客「要は女も仕事があるから、する必要がないんだよ」

商人「そんなもんなの?」

剣客「貝なんか、魚よりも稼げる時があるからな」

剣客「男を取るよりもこっちの方が金になるなら、当然こっちだろ」

勇者「ふうん……」

剣客「ただ、アレだな」キョロキョロ

剣客「なんとなく、今は活気が薄い気がするけど」

勇者「そうですね」

僧侶「教会がありゃあいい。しかし、海に近いと干し肉じゃなくて干しイワシか何かになってるかもしれねぇな」

剣客「教会ならあっちだ。案内しようか?」

勇者「どうします?」

僧侶「いらねぇよ」

勇者「だ、そうです」

剣客「ふっ、ま、そういうことならいいけどな」

勇者「剣客さん、とりあえずここまでありがとうございました」

勇者「魔王討伐の件は……」

剣客「気が向いたらやるさ」

勇者「では、とりあえずここでお別れしましょうか」

剣客「ああ、それじゃあな」

港。

勇者「……」

武闘家「なんだなんだ、寂しそうな顔をしやがって!」

商人「ふぅ~、恋する乙女のような感じよね」

勇者「いえ、彼が有能なので、いろいろ作戦の幅が広がると思ったのです」

商人「はぁ? でも、別れちゃったじゃない」

勇者「例えばですね。僕がやむを得ず、魔王を倒せずに死んだとします」

武闘家「縁起でもねぇぞ!」

勇者「その場合、誰が魔王討伐を引き継げるでしょうか?」

勇者「せっかく作り上げた討伐作戦のネットワークを利用する冒険者というと、限られてきますね」

僧侶「……」クッチャクッチャ

勇者「彼は個人行動が趣味のようですが、とにかく剣の腕はありそうです」

勇者「もう一つ、よく他人を助けているみたいなので、信頼感もある」

勇者「万が一の場合の、切り札としては持って来いでしょう」

商人「はい!」

勇者「なんですか」

商人「その場合、私らはどうなるわけ?」

勇者「まあ、僕はこのチームでは後衛ですからね。僕が死ぬ時は、ほぼ全員死んでいるでしょ」

勇者「もちろん、生き残っていたら剣客さんに後事を託す係になって貰いたいですけど」

商人「いやいやいや! マジで生きて帰りましょってことなんですけど!」

勇者「ああ、そっちですか」

武闘家「当たり前だろ、俺も若い身空で死ぬ気なんか全然ないぞ!」

勇者「僕もあまり考えたくはないですが、ほら、何しろ、結構追い詰められる機会もありましたし」

僧侶「……ま、安心しろ。俺がいるから、死後は保証されているぜ」ニヤニヤ

商人「……どういう意味?」

僧侶「お祈りには、死んだらみんな天国に行けますようにってことも含まれてるから」

武闘家・商人『IRANEEEEE!!』

勇者「ま、それより、船が借りられるか聞いてみましょう」

商人「しょーがない、ちょっと行ってくるわね」タッ

勇者「僕は船旅に必要な道具を聞いてみます」

武闘家「俺はー?」

僧侶「荷物持ちでいいだろ」

武闘家「……つまんねぇ。なんで女の子と……」ブツブツ

僧侶「すまんな、ここにも教会はあるようだから、行ってくる」

勇者「分かりました」

僧侶「……言い辛いことか?」ボソ

勇者「え?」

僧侶「いや、何か思うことがあるなら、聞く準備はあるぜ」

勇者「……大丈夫です。存外、大した悩みじゃないですから」

僧侶「なんだ、悩みはあるのか」

勇者「あっ」

僧侶「くくっ、少しは歳相応に甘えていいんじゃねぇの」

勇者「……」

僧侶「それじゃあ、ちょっと行くわ」

勇者「はいはい」

武闘家「……ん? 待てよ? もしかしてお店はなくても直接声をかけるのとかはありか?」

勇者「何を言っているんですか?」

武闘家「おう! よくよく見たら、港でも結構女の子働いてるなと思ってよ!」

武闘家「しかも可愛い子が網の手入れをしたりとかしてるし!」

勇者「そうですね」

武闘家「これはもう、一発お願いしないほうが失礼に当たらね!?」

勇者「自分の存在が失礼だとは思わないんですか」

明日が2週間後になってすまない……
今日の夜も頑張りたい(願望

武闘家「お前な、セックスしたくなるほどかわいいってのは褒め言葉だぞ」

勇者「へー」

武闘家「お前だってカワイイ子を見たら興奮するだろ?」

勇者「そんな反射的に勃起するのは武闘家くらいでしょ」

武闘家「ばっ、ちげーよ!」

勇者「言っておきますが、お金は出しませんからね」

武闘家「うぐぁっ、そうだった!」

勇者「えーと、船が借りられればいいんですがね」

武闘家「……」

勇者「どうしました?」

武闘家「お前、もしかしてホモなんじゃねーの」

勇者「違います」

武闘家「だってさ、女のところに飛びつかないって……おかしいだろ?」

勇者「商人も女の子じゃないですか」

武闘家「大食い貧乳のブスはイヤだ」

勇者「後で告げ口しておきましょう」

武闘家「アーッ! 言うほどブスとは思ってませんごめんなさい!」

勇者「分かればいいんですよ」

武闘家「そうだけどさぁ、俺の気持ちも分かってほしいわけよ」

武闘家「いつ死ぬか分からない世界で、唯一の楽しみと言ったら女の子と寝ることだぜ?」

勇者「お酒もですね」

武闘家「そうそう、酒と」

勇者「色情狂いに大食バカにスモーカー……どう考えてもまともな人選じゃありません」

武闘家「お、お前、後で告げ口するぞ!」

勇者「これで解雇が捗りますね」

武闘家「……」

武闘家「そ、そんなことより船関係をあたらなくっちゃな! おねえさぁーん!」

海女「どうしました?」

武闘家「私の船をお姉さんの港に接岸したい」

海女「は?」

勇者「船旅をする予定なんですが」

海女「ああー、そう。そりゃまずい時に来たわね」

勇者「なにかあったんですか? 船旅に必要な道具を知りたかったのですが」

海女「それどころじゃないわ、今、魔物が海を封鎖するように取り囲んでいて、とても船を出せないの」

武闘家「魔物!?」

海女「ええ。困ったわ、もちろん、海辺付近に潜ったりはできないし」

海女「船も出せない、素潜りも出来ないんじゃ、何もなりゃしないわ」

勇者「せいぜい、岸釣りくらいですか」

海女「そうなのよ」

武闘家「それはお困りですな! なんだったら俺が倒してやるぜ!」

海女「ホントに?」

武闘家「ああ、何しろ俺たちは勇者一行でな……」

勇者「武闘家」がしっ

武闘家「な、なんだ」

勇者「金にならない仕事はしない、基本です」

武闘家「ば、バカ……どの道、船で海を渡らないと魔王がいるところにはいけないんだろ?」

勇者「確かにそれはそうですが」

海女「……へぇ、あなた達が噂の?」

武闘家「そうそう!」

勇者「あー、お姉さん。僕たちは魔物を一々倒しているわけではありません」

海女「でも、魔王を倒すために、各地の魔物も倒しているんでしょ?」

勇者「結果的にね」

海女「もし……魔物を倒してくれるなら、私が船を都合してもいいわ」

武闘家「マジっすか!? ついでにお姉さんにも乗りたい!」

勇者「ありがたい申し出ですが、魔物の姿も分かりません」

勇者「一体、どんな魔物だというのですか?」

海女「とにかく、ものすごく大きな魚だって聞いたわ」

海女「それに、喋ったりする、らしいの」

武闘家「ほう、魚の魔物か」

勇者「……」

武闘家「おい、勇者。どうせなんだかんだ言って戦うことになるんだろ?」

武闘家「おとなしく戦っておけよ」

勇者「武闘家。考えてみてください」

武闘家「な、なんだ」

勇者「魚の魔物にとって、海はホームです。揺れる船上で、まともに戦えると思いますか?」

武闘家「いや、そりゃな……」

海女「もし、助けてくれるなら、船漕ぎくらい用意するわよ」

勇者「漁をするのとは訳が違うんですが」

海女「そうでもないわ? ものすごく大きな魚を捕らえることもあるからね」

海女「ただ……魔物はダメなのよ。指揮がうまくて、とても戦えない……」

海女「私の父も……」

武闘家「なんてこった……」

勇者「それ、僕らでも勝ち目があるんですかね」

武闘家「バカ野郎! ここで戦わなきゃ男じゃないだろ!」

勇者「あなた、海女さんとやりたいだけですよね」

武闘家「おう!」

武闘家「ちげーよ!」

海女「別に、父の仇を取ってくれるなら」

武闘家「マジで!?」

勇者「お断りします」

武闘家「なんで!?」

勇者「勝算が必要です。海で劣勢に追い込まれたら、次回はありません」

いったん休憩

海女「あなた、それでも勇者なの?」

勇者「逆に聞きたいんですが……」

勇者「海の人間で敵わないのに、陸の人間があっさり倒せると?」

海女「ううん……」

勇者「どうやら、あなたは冷静に考えられるようですね」

海女「でも、このままじゃ私達も、もちろんあなた達も海には出られないわ。それは分かるでしょう?」

勇者「そうですね」

武闘家「だったら腹くくってやるしかねーだろ」

勇者「こういうのはどうですか? 武闘家を生贄にして、魚を釣るんです」

武闘家「は?」

勇者「海に出ると勝ち目が薄いなら、やはり釣り上げるしかないでしょう」

武闘家「……」

海女「面白そうね」

武闘家「おねえさん!?」

勇者「そうでなくとも、海にいる魔物を倒すためには船がいります」

勇者「なおかつ、今後を考えるなら、そう、大砲や兵器類を運ぶための船が報酬でほしい」

勇者「船を動かす漕ぎ手も、格安で雇いたいですね」

海女「海に出られるなら、なんでもいいわよ」

勇者「ほう……」

海女「なんだったら、うちにいる連中は命知らずも多いわ」

海女「ただ、勝ち目が無さそうだから引き止めてるだけで」

勇者「ふむ……」

武闘家「珍しいな、お前にしちゃ」

勇者「何がです?」

武闘家「金を直接要求しないなんて」

勇者「船そのものが相当なお金になりますからね」

勇者「貿易船として作ったらどうでしょう、商売の新ルートを独占的に開拓出来たら、大勝利間違いなしです」

武闘家「なんの勝利だよ」

商人「おーい、勇者ー!」

勇者「どうしました?」

商人「なんかさー、魔物がいるから船は出せないんだって」

勇者「そうですか」

商人「それだけじゃないのよ!」

武闘家「なんだよ」

商人「新鮮なお魚がなかなか入りにくくて、めっちゃ値段が上がってんのよ!」

武闘家「あっそ」

商人「ぶぅわかものー!」バチーン

武闘家「いってぇ!! 貴様、格闘家の不意を……!」

勇者「突かれ安すぎだろ」

商人「この港町でうまいものって言ったら生魚の料理なのよ!?」

商人「あんた、それが食べたくないわけ!?」

武闘家「うるせぇ! 魚がなんだってんだ!」

海女「ふぅん?」ピク

武闘家「別に魚が食えないくらいで、そんなショックを受けることはないだろ?」

武闘家「他にもうまいもんが……」

海女「聞き捨てならないね、お兄さん」

武闘家「え?」

海女「うちの店はそりゃ高級じゃないが、魚を捌かせたら右に出るものはいないよ」

海女「どこよりもうまいものを出している自信があるんだ」

商人「も、もしかして……! 港の定食屋さんの人!?」

海女「知っているのかい?」

商人「そりゃ商人界隈でも超有名なのよ!」

商人「この、グルメガイドにも載っているやつ!」バッ

勇者「また無駄なものを買いましたね」

『絶品! ナマから煮付けまで、最強魚料理店!!』

海女「照れるね」

海女「実家なだけで、私は調達しているだけなんだけどね」

海女「なんだったらサービスしちゃうわ」

商人「うっひょー! 絶対に行くわ!」

勇者「いや、この旅は貧乏旅行で」

商人「勇者だってまずい飯より、うまい飯の方がいいでしょ!?」

勇者「そりゃどちらかを選べと言われればね。それより、今は魔物に阻まれてうまい魚が取れないらしいじゃないですか」

商人「こりゃ倒すしかないわね!」

武闘家「だろうな!」

勇者「……」

勇者「海女さん、魔物についてもう少し詳しくと、周辺海域の地図は用意出来ませんか?」

海女「構わないけど、いますぐは無理よ」

勇者「ええ。タダでくれるなら」

――定食屋。

勇者「……周辺海域の地図です」

勇者「こう、入江を囲むようにして杭が立てられてまして、ここが出入り口になっていると」

勇者「で、魔物を防ぐ防衛線であると同時に、ここから出た途端に襲われると」

武闘家「ふんふん」もぐもぐ

商人「へぇ」パクパク

僧侶「うまいな、コレ」

勇者「……」

海女「食べてる最中なんだから、無駄よ」

勇者「ええ。かれこれ一時間以上ね」

武闘家「お前が食うのが早すぎるんだよ!」

勇者「一つ言っておきますが、ここの食事は個別会計なんで」

商人・武闘家「!?」

僧侶「それで、どうするつもりだって?」

勇者「……一番良いのは、やはりこちらの有利な場所へ引き込むことでしょう」

勇者「つまり、陸地に釣り上げることでしょうね」

海女「ってことは、本当に倒してくれるのかい?」

勇者「そこなんですが。私には釣りの経験はありません」

海女「……」

勇者「要は漁師の皆さんが魔物漁をする、僕らが捌く、そういう分担ではいかがですか」

海女「……この子は本気で言ってんのかい?」

商人「間違いなく」

武闘家「おねえさん、そんなガキの言うことよりも! お酒追加で!」

勇者「あ、武闘家を釣り餌にしてくださっても構いません」

勇者「しかしですよ、不慣れな海の上で、身の丈が小島ほどある魚の魔物」

海女「みんなは大げさに言うからねぇ」

勇者「少なくとも、自分より大きな魚と戦えと言われて、うまい手が思いつくはずもありません」

勇者「それとも他に何か考えはありますか?」

商人「う~ん、毒餌をまくとか?」

勇者「本末転倒ですね」

僧侶「生贄を捧げる」

勇者「邪教か何か?」

武闘家「考えるのはお前の役目だろ!」

勇者「やはり犠牲になるのは武闘家ですね」

武闘家「おいおいおい、俺のこの強靭な……肉体を、あっさり生贄にしていいのかい?」

勇者「まあ、それは置いておくにしても」

海女「……」

海女「わかったよ。私が引き付けることにしよう」

武闘家「ええ!?」

勇者「ほう」

海女「いくら勇者を名乗っているとはいえ、見ず知らずの子どもに何からなにまで助けてもらうってのは、虫が良すぎるしね」

武闘家「いいのいいの! こんなやつ」

僧侶「おい、うっせーぞ」ごん

武闘家「ぶぎゃっ!」

勇者「……」

僧侶「神は自ら助くるものを助くっつーんだ」

僧侶「あ? 聞こえてるか?」

武闘家「き、聞こえねえよ……」

商人「十字架で殴らないでほしいわ」

勇者「海女さん。今回の討伐作戦が成功すれば、貴方はこの港町で発言力が高まるはずです」

海女「そうかい?」

勇者「ええ。何しろ、漁にも出れない状況を解決するわけですからね」

勇者「それを利用して、兵器を運ぶだけの巨大船を準備してほしいのです。無料で」

海女「む、無料はどうかな」

勇者「……商人。僕らが取り交わしている契約書を」

商人「ん? ああ、えっとー」ゴソゴソ

勇者「この間、僕らは行く先々で、その土地の名産品を専属的に売買する契約ルートを作って来ました」

勇者「これらの海の販売ルートを作る際に、海女さん。あなたが発言権を得るように僕が一筆書きます」

海女「はぁ!? いやいや、あたしは海に出るくらいしかできないよ」

勇者「構いません。実際のルート設定は、商人が中心になってやります」

商人「え?」

勇者「貴方は莫大な収入を得る、権利を持っていることになる。これは実力のひとつだ」

海女「え、えー……」

勇者「町を救った先導役としての実績と、権利者としての実力を合わせて、町を動かしていただきましょう」

勇者「もちろん、生き残れれば、の話ですが」

海女「その、なんてっか、そんなことやったこともないよ」

勇者「分からないことは信頼できる人に聞いてください」

勇者「とにかく、責任を持つ者になってください」

勇者「僕が求める覚悟というのは、命だけではなく、そこまで含めてですよ」

海女「……」

勇者「さて、では、海女さんがここまで飲んでくれたところで、作戦を練り直しますか」

勇者「要員がひとつ増えたわけですし」

海女「……この子は本気で言ってんのかい?」

商人「間違いなく」

勇者「そうですね、念のため、剣客さんにも声をかけておきましょうか」

――海の上。

巨大魚『……ふーむ。人間どもはもう海に出てきておらんか』

魚兵「ぎょっ!」

巨大魚『やれやれ。これでここも完全に閉鎖できたか』

巨大魚『それでは、次の港を襲うことにしよう』

烏賊兵「ぴちゃぺちゃ」

巨大魚『……どうした? 何があった?」

烏賊兵「ぷちゃぴちゃちゃ」

巨大魚『なに!? 船が出てきているだと』

巨大魚『それで、何をやっているのだ?』

巨大魚『……杭を抜いているだと?』

巨大魚『やつらめ、何を考えている。魔王様の命令では、防御を固めるくらいしか対策は立てられまいと……』

巨大魚『仕方あるまい。これで下手に外洋に出られてもな』

巨大魚『いくぞ、お前たち!』

魚兵「ぎょぎょーッ!」(※さかなクンではありません)

海女「……!」

海女「き、来たよーっ!」


勇者「はーい! では、ラインを超えるまでは作業を続けてくださーい!」

武闘家「……おい、本当に大丈夫なんだろうな」

商人「ぶっちゃけ怖いんだけど。船」

勇者「安心してください。僕も怖いんで」

武闘家「おい」

勇者「冗談はさておき、統率の取れた部隊をまともに相手にしても意味がありません」

僧侶「ふん」ブスッ

勇者「ましてや……ほら、見てください」

勇者「警戒してまるで近づいて来ませんね」

僧侶「ほっ」グサッ

勇者「つまり、罠を張るには絶好のチャンスというわけです」

僧侶「よっ」ザクッ

武闘家「うるせぇよ、いちいち声に出すなよ!」

僧侶「あ?」ジャラッ

武闘家「すみません」

武闘家「けどよ……いくらなんでも、定置網漁を利用ってどういうことだ?」

勇者「分かりませんか?」

商人「うん。漁法ってことはわかるけど」

勇者「今までの杭の打ち方では、魔物たちを防ぐことはできても、誘い込むことはできません」

勇者「しかし、魚たちの習性を利用すればですよ」

武闘家「お前、統率の取れた部隊がどうとか言ってたよなぁ!?」

勇者「陸地に近づけるなら、こういうやり方が一番でしょ」

勇者「この配置で魔封じの網を使えば、誘い込まれた魚が」

商人「……あ、突撃してきた」

勇者「逃げますよ!」

武闘家「おい、ふざけんな!」

勇者「武闘家、もっと早く漕いでください!」

武闘家「うるせぇ! これでも必死にやっとるわい!」バシャバシャ

勇者「しくじりましたね!」

商人「な、何が!?」

勇者「一人の方を狙ってくると思ったんですが、こっちの方に近づいてきます」

勇者「絶対、近い方に来ると思ってたのに」

僧侶「チッ、全然前に進まねぇ」

商人「なんか、すんごい影が来てるよ!」

武闘家「おい、勇者、おい」

勇者「剣を構える暇もありませんね、マジで」

勇者「衝撃に備えてください!」

勇者「3,2,1……」


ズドンッ

――勇者たちは海に投げ出された!

今夜はここまでにしておこう。

勇者「がぼっ、ごぼぼっ」

武闘家「んー! 勇者、こっち!」

勇者「は、はいっ」ばしゃばしゃ

武闘家「お前、泳げないのか!?」

勇者「得意じゃないだけです」

勇者「ほら、岩壁近いですよ」

武闘家「おう! しっかり掴まれ!」


巨大魚『……ふははは! 逃すと思うかっ!』


勇者「む」

武闘家「ち、ちょっと待て。囲まれてるぞ!」


巨大魚『ふむ、やはり貴様が頭目か。指示を出しているやつを倒せば、他の隊も止まると思っていたが』

勇者「魚が喋ってるのはシュールですね」

武闘家「ありゃ魔物だぞ。魚じゃなくて」

巨大魚『……』

魚兵「ぎょーっ」


巨大魚『陸に上がる前に、息の根を止めてやろう』

勇者「ごめんこうむります」

武闘家「言ってる、前に、少しはおよげ!」

勇者「……いやです」

巨大魚『……まさか、お前が勇者とやらか』

勇者「御存知でしたか、光栄ですね」

巨大魚『各地の戦友が敗れたと聞いていたが、所詮は陸のもの』

巨大魚『人間ごとき、我らのフィールドでは敵ではなかったようだ』

魚兵「ぎょーッ!」

勇者「そうですね。あとは陸にさえ、上がれればね」

巨大魚『……ふ。命乞いのつもりか?』

勇者「いいえ。確実に勝てるというだけのことで」

巨大魚『なんだと?』

武闘家「おおい! 本気で、言ってんのか?」

武闘家「他の、連中は……!」

勇者「道具を落っことしてないといいんですが……」

武闘家「ホントに、出来るのかよ!」

巨大魚『……なんの話だ』

勇者「いえいえ。それより、おしゃべりしていていいんですかね」

巨大魚『……チッ。かかれ!』

魚兵「ぎょーっ!」

武闘家「バカ! もう少し引き伸ばせよ!」

勇者「いえ。見えました」

――湾口。

商人「……あ、ありがとうね!」

海女「大丈夫かい!?」

僧侶「ふー。船を、くくりつけておけ」

海女「ゆ、勇者たちはどうしたんだい!?」

僧侶「大丈夫だ」

海女「何が!」

僧侶「作戦は八割成功している」

海女「だからって……」

僧侶「商人、とっととやってくれ」

商人「オッケー! つえよ~、波を引き起こせ~!」


商人はうみなりの杖を高く掲げた!
大きな波が、唸りを立てて押し寄せてくる!


巨大魚『な、なんだと!?』

勇者「武闘家、ちゃんと掴まえててくださいね!」

武闘家「うおおお! このタイミングは無理があるだろぉおおおお!」


どざぁぁあああああああ――――

――港。

次々と魚たちが流されてくる。
想定された威力の魔法の波に合わせて、準備された網に見事に引っかかっていく。

その中に、勇者達の姿もあった。


武闘家「ぶげえっほ!」

勇者「げほっ、ごほっ!」

武闘家「は、離してくれ! 引っかかって取れない!」

剣客「……よくやるぜ」

勇者「剣客さん」

剣客「まさかこんな無茶なことをやらかすとは思わなかったぞ」

剣客「最初から考えていたのか?」

勇者「ええ、まあ」

剣客「よし、網から外してやる」

勇者「助かりました」

武闘家「お、おい、勇者。俺もがんばったんだが」

勇者「仲間だから当然でしょ」

武闘家「なんだと!?」

勇者「……町のみなさーん! 陸に上がったとはいえ、魔物です! 油断せずに倒しましょうー!」

『おおーっ!』

武闘家「ひでぇよなー! こいつ!」

剣客「待て、あそこに大物がいるぞ」

勇者「急ぎましょう。一般人じゃあ倒せない」ダッ

巨大魚『……ぐっ、ぐう』

勇者「形勢逆転ですね」

巨大魚『お前たち……』

勇者「さあ、大人しく三枚におろされてくださ」

巨大魚『なめるな!』ぐわっ

――巨大魚の攻撃! 勇者は吹き飛ばされた!

勇者「うわっ!?」

巨大魚『まさか陸の上でなら、勝てると思っていたのか!?』

巨大魚『兵を絡め取られたとはいえ、この程度で遅れを取るような雑魚とは違う!』

武闘家「自分で部下を雑魚って言っちゃったよ」

巨大魚『ふんっ』ぶんっ

武闘家「うぎゃああ!」

――武闘家も跳ね飛ばされた!

巨大魚『このまま捻り潰してくれる……!』

勇者「ゆ、油断した……」

剣客「しょうがない!」カッ

――剣客の攻撃! 巨大魚に会心の一撃!

巨大魚『ぬっぐわあああああああ!!』

剣客「……手応えあった!」

勇者「おお……」

武闘家「いいとこ取りをぉ……!」

巨大魚『ぐっ、おの、れぇ!』

剣客「まだ息があるか。よし、もう一撃」

巨大魚『……!』

――巨大魚は海に向かって逃げ出した!

剣客「あっ!」

剣客「くそっ、追いかけなくては!」

勇者「問題ありません」

剣客「なに?」

勇者「定置網漁法です。沖にでようとすると、網に絡め取られます」

剣客「そんな悠長なことを言ってどうする!?」

勇者「武闘家、寝てないで、合図を出しますよ」

武闘家「う、うーん、ひでぇよ、ひでぇよ」

勇者「……信号を」ピカッ、ピカッ

商人「……合図があったよ」

海女「こ、こっちに来るわ」

僧侶「落ち着け、傷も負っている」

僧侶「まっすぐに来るはずだ……」

商人「私が発動させるから、数を数えて!」

海女「わ、分かったわ」

海女「さん、に、いち……」

商人「ぜーろっ!!」

――商人は網にかけていた導線を引っ張った! 仕掛けられていた爆弾が破裂する!

ずどどどどどどっ!!


商人「うわわわっ! 火薬多すぎ!」

僧侶「しっかり掴まれや!」

海女「ひぃい~!」

今後はペース上げていきたい

海女「……はっ、はあっ」

商人「すっごい爆発だったわねー」

僧侶「ああ」

海女「あ、あんたたち、よく、平気、だね……」

商人「ん? ああ。爆破させるのは二度目だから(塔以来)」

商人「っていうか、火薬を使った漁法もあるんじゃないの?」

海女「こんな爆発を起こしたら、しばらくはここじゃ穫れないよ……」

僧侶「祈りは捧げておこう」

海女「勇者の戦いってのはみんなこんな感じなのかい……」

商人「おっ、死体が浮いてきたよ」

僧侶「魔物だからな、食ったりするんじゃねぇ」

商人「食べないよ!」

――陸地。

勇者「……商人と僧侶は生き残れましたかね」

武闘家「爆発は起きてたし、ちゃんとやっただろう」

勇者「漁師さんにも魔物に襲われた人がいるかもしれません」

勇者「注意しながら戻るように、連絡おねがいしますね」

町人A「あいよ」

町人A「それにしても、坊主、ちびっこいのによくやるなぁ」

町人B「俺も驚いたぜ!」

勇者「褒められて嫌な気がしませんが、これも海女さん等の協力あってのことです」

勇者「わかりますね、つまり……」

剣客「金をよこせってか」

勇者「いえいえ。金になる、権利を寄越せと」

剣客「あそこで爆発させたのが、作戦だったのか?」

勇者「そうです」

剣客「……なるほどねぇ。二段構えだったわけか、まず海上に罠を張る」

剣客「一度波を起こして陸地におびき寄せた上で、引き波を利用して罠を飛び越せないように、と」

勇者「少し相手の行動力を見誤りましたけどね」

武闘家「本当は海女さんを囮にするつもりだったよな……」

勇者「しっ、とりあえず生き残れたのでよしとしましょう」

剣客「……まあ、やることの大胆さにかけては間違いなく勇者だな」

勇者「お褒めに預かり光栄です」

剣客「だが、ちょっと命がけすぎるな」

勇者「確かに、もっと時間をかければ別の方法もあったかもしれませんが」

勇者「時間が長引けばこの戦い、戦力の整っている魔王に為す術はありません」

勇者「外海に逃げられたら一巻の終わりでしたし」

剣客「……よし、分かった。俺も魔王討伐を手伝おう」

武闘家「!」

勇者「それはありがたい」

剣客「俺も海を渡って、魔王のいる地に渡って修行をするつもりではあったからな」

武闘家「おい、てめー! 悪いがパーティーは四人でいっぱいなんだぜぇぇ!?」

勇者「入れ替え可能です」

武闘家「勇者! 考えなおせ!」

剣客「いや、普段は一人で魔物を狩るつもりでいるよ」

剣客「その代わり、別働隊として動くってのはどうだい?」

勇者「ああ、それだけでもかなりありがたいですね」

武闘家「だよねー! ばーかばーか! ビビらせやがって!」

勇者「別に入れ替えじゃなくても解雇はできますよ」

武闘家「すんませんっしたー!」

勇者「では、海を渡ったら北部で魔物を倒しつつ、荷受けしてくださいますか」

剣客「北部……ああ、北の国からの兵器ってやつか」

勇者「そうです、護衛がいれば、温存して戦えますからね」

剣客「ま、海の魔物の親玉が潰れたとなれば、大量輸送も出来るだろうからな」

剣客「分かったよ、引き受けた」

勇者「えーっと」

勇者「……それで、報酬についてなんですが」

剣客「報酬? あ、ああ。そうだな」

勇者「まさかあっさり引き受けられるとは思いませんでしたので」

武闘家「……タダ働きでいいんじゃねぇか」

勇者「また後で、幾ばくかお金と食料をお渡しします」

剣客「そうだな、頼むぜ」

勇者「それじゃ、また」

剣客「ああ」 スタスタスタ……

武闘家「おとといきやがれ!」

勇者「……」

武闘家「ごめんなさい」

勇者「武闘家、僧侶と商人を迎えに行ってきてください」

武闘家「お前はどうするの?」

勇者「着替えてきます」

武闘家「ああ……」

勇者「……」

武闘家「えーと……」

勇者「なんですか?」

武闘家「……お前って女の子だったんだな」

勇者「そうですが」

勇者「もしかして、気づかなかったんですか」

武闘家「いや、まあ、なんだ」

武闘家「あれ? これって秘密にしておいてくれとか、そういうもんじゃないの?」

勇者「いえ、別に」

武闘家「だって、女の子の格好じゃなくね?」

勇者「魔王討伐に女の子らしい格好をする必要性はあまりないですね」

勇者「大体、最初から非力なので、力の要らないタイプの短弓を使うと言ってましたし」

武闘家「……お、お前、酒場に行く時にも自分が女だって言わなかったし」

勇者「勝手に武闘家が決めつけただけなので」

武闘家「だ、大体、俺の股間が反応しねぇんだよ!」

勇者「知らねぇよ」

勇者「まあ、いろいろあるんです。いろいろ」

武闘家「まだなんか隠しているのか!? あれか!? 実はお忍びのお姫様だったりするのか!」

勇者「本気でお姫様なら、もっと早くその権力を行使してますよ」

武闘家「確かに……」

勇者「とにかく、早いところ二人を迎えに行ってきてください」

勇者「防具が少し壊れてしまったので、どのみち補修は必要なんです」

武闘家「ちっ、結局大して変わらないわな」

武闘家「とりあえず、俺は黙っておいてやるぜ! みんなにはな!」

勇者「はいはい」

武闘家「女の子には優しいからな! 俺はな!」

勇者「早く行け」

>武闘家「なるほどなぁ、坊主、頭がいいな!」

>勇者「坊主じゃないんですが」

ちゃんと坊主じゃないって言ってたわ

――海上。

勇者「ふう。やっぱり海に出るには、海のプロに任せるのが一番ですね」

船長「おう! 海女ちゃんの頼みなら断れねぇからな!」

武闘家「まあ、漕手から解放されたのは別にいいけどよ……」

勇者「なんですか?」

武闘家「なんでヤローなんだよ! 海女ちゃんとトレードしておっさん共って……!」

商人「そんなの、パワーがあって、長旅も出来る人たちがいいに決まってるでしょ?」

勇者「ですね。海女さんは、外海で漁はしてないですから、知識量も船長の方が」

武闘家「うるせーよ!」

船長「ガッハッハ! まあ、俺達も、まさかこの町で足止め食らうとは思っていなかったからな」

船長「海に出てると女と酒が恋しくなるもんだが……陸にいると、海が恋しくなる」

船長「そりゃもう、格安でやってやるからな」

勇者「ありがとうございます」

僧侶「うるせぇぞ、武闘家」クッチャクッチャ

武闘家「また食ってんのか……」

僧侶「魚のベーコンもなかなか乙なもんだからな」

商人「干し肉系っていうの? あんた好きだよねー」

僧侶「神が示したもうた調理法だからな」

勇者「……まあ、それは置いておくにして」

勇者「いいですか。海が解放された以上、僕らが各個撃破によって、中ボス連中を倒していく段階はもう通過したと言って良いでしょう」

商人「はい!」

勇者「なんですか?」

商人「お金はもう稼がなくていいの? 私、儲け話が」

勇者「……もう少し、全体を見てください」

勇者「二方向から説明します。まず、魔王軍はかなり厳しい状況に追い込まれています」

僧侶「なんでだ」

勇者「僕らが最初に倒した怪鳥は空を、悪魔は軍事力を、氷の魔人は武器になる地域を、それぞれ支配しようとしていました」

勇者「これらを討伐し、今回の海を支配していた魔物を倒したことで、かなり人間が自由に動けるようになった」

勇者「さらに、剣客など、強力な冒険者達が、なんだかんだで魔物を討伐している」

勇者「さて、ここまで追い込まれて、魔王軍が取る行動とはなんでしょうか?」

武闘家「そりゃもう、白旗だろ!」

勇者「……。魔物は個々で凄まじい能力を持っています」

勇者「魔王自身は、人間相手に負けているとは思っていないでしょう」

商人「そうかしらぁ? だって、こんなに頑張って戦ってきたのよ?」

勇者「どうでしょうかね」

僧侶「まあ、プライドが高そうだからな」

勇者「おそらく、じわじわと人間を支配して、抵抗できない状態にするのが魔王の目的だったのではないかと」

勇者「それが非常に困難になった以上、総攻撃を仕掛けてくる可能性は大いにあります」

三人『……!』

武闘家「つまり……?」

商人「どういうこと?」

僧侶「分かったんじゃねーのかお前ら」

勇者「魔王軍がまとめて人間を滅ぼしに来るかもしれない、ということです」

武闘家「ほー! それじゃあ、俺の大活躍じゃん? 腕が鳴るじゃん?」

商人「ええー!? 面倒くさいなぁ」

僧侶「しかしよ、これだけ倒されていたら、魔物だってどれくらい残ってるのかって話だ」

勇者「そこです」

僧侶「ああー?」ジャラッ

勇者「魔王軍は、戦力を確認するために、魔物を集結させるでしょう」

勇者「つまり、魔王の所在地が正確に分かるチャンスです」

武闘家「おおー、そういうことか」

勇者「だから、総攻撃の前に、あるいは時間差でこちらの戦力をぶつけられるだけぶつければ、勝てます」

商人「ふーん」

僧侶「……」

商人「でも、こっちだって、そんなに整ってないじゃないの」

勇者「そこです。こちらの問題は、ぶつけられる戦力があまり揃っていないことです」

勇者「個人レベルで……もちろん、お金を揃えて兵器の量産体制には入りましたが……限界があります」

勇者「そこで、一度、最初の国に戻ることにします」

僧侶「また金をせびる気か?」

勇者「それでもいいんですが」

勇者「銅剣くらいしか用意できない国じゃあねえ?」

商人「ですよね~」

勇者「しかたがないので、お金の代わりにひと働きしてもらうことにします」

武闘家「じゃあ、あの国に戻るのか」

勇者「ええ」

商人「そういえば、しばらくは勇者の自宅に泊まってたのよね~」

勇者「……そうですね。向こうの国での滞在中は、また同じようになるでしょう」

僧侶「で、何をさせる気なんだ?」

勇者「それはもちろん、世界平和のためにお願いしてもらうわけですよ」ニヤリ

すまぬ。とりあえず、ここのところで

勇者「国家予算を」

王様「い、いきなり何を言う!」

勇者「魔王を倒す算段がつきそうなので、支援してほしいんですが」

王様「いやあの、その、ほれ」

勇者「……」

王様「ごほん。その方の活躍、よく聞いておる」

勇者「そうですか」

王様「しかしじゃな、いくらなんでも、我が国の財政事情はお主も知っておろう」

勇者「商人」

商人「はいはい」スッ

勇者「最近、税制改正を行いましたね」

商人「そーね! 酒税が大幅にアップしてるのと、道路の整備目的の税を新設したわね」パラパラ

王様「そ、それがどうした」

勇者「例の村に一番出資しているのは僕です」

王様「!」

勇者「それから、魔物が減少したことに伴って、交通ルートを整備するのは結構ですが……」

勇者「道路工事自体は全然進んでいません」

王様「そ、それは、腕の良い大工が見つからないからじゃ」

勇者「取った税金が何に使われているかを教えて下さい」

商人「庭園整備と、あとはほとんど貯めこんでるわね」

王様「」

勇者「これは由々しき問題ですよ、魔物の討伐によって人々の安全が確保された」

勇者「それによって財政事情が好転した、にも関わらず、初期投資と討伐報酬しか渡していないと言うのは」

王様「そ、それは……」プルプル

勇者「まさか、こん棒と酒程度で済むと思っていないでしょうね」

王様「そうじゃ! ま、まだ魔王を倒してはおらんではないか!」

王様「これでは報酬、報酬と言われてものう」

勇者「そうですね」ニッコリ

王様「!?」

勇者「魔王討伐のために、本格的に出すものを出してほしいというわけです」

勇者「と言っても、金銭的なものよりも人手が欲しいのです」

勇者「五十人ほど、魔王城への攻城戦用兵器の搬送にお貸しください」

勇者「すでに北国の王には協力する旨の書状は出しました」

勇者「王様が快く人を派遣してくださると」

王様「も、もしかして、わしの名を騙ったのか!?」

勇者「違いますよ。ただ、こう書いただけです」

勇者「『南の国も、魔王討伐のために、五十人を派遣してくださると思います』……」

勇者「間違っていませんね。僕が思っているだけなので」

王様「」

勇者「そうですね、あとは大体三百人程度の部隊になりそうなので、食事の確保をお願い出来ますかね」

勇者「ここ、ご飯は美味しいので」

王様「……ゆ、勇者よ」

勇者「どうしました?」

王様「その、なんか、こう、一人でぶっ込んでいったほうが名誉になるんじゃ……」

勇者「はぁ。父は一人で戦って死にましたけど」

王様「そういうんじゃなくて! なんかお主は勇者より魔王っぽいぞ!?」

勇者「ふっ」

王様「笑うな!」

勇者宅。

勇者「ただいま戻りました」

商人「ただいまー」

武闘家「うおーい、おつかれぇーい」ヒック

勇者「……」

商人「あっ!? あんた、何飲んでいるのよ!」

武闘家「どうせ、今日は一泊してくんだろぉ?」

武闘家「仕事も終わったし、今日ぐらいまったりしようぜぇ」

勇者「僧侶」

僧侶「おう」クッチャクッチャ

勇者「とりあえず、このゴミを出しといてもらえますか?」

僧侶「生ゴミは明後日の筈だったがなぁ」

勇者「仕方ないですね。とりあえず、外に出しておきましょう」ガチャ

武闘家「おおお? ちょっと待ってくれよう」

商人「まあ、あのアホが会話に加わっても意味ないしね」

勇者「自分は含まれてないと?」

商人「勇者なんかここまで来てひどくない!?」

僧侶「そんで? 言われたものは教会に用意させたぜ」

勇者「ふむ。やはり覚せい剤くらいは持っていましたか」

僧侶「痛み止め用たって、限界があるからなぁ。乱用はするなよ」

勇者「いえ。この手の複数の毒薬物は、魔物用です」

僧侶「……あ、そう」

商人「……すっごい恐ろしい話をしてない?」

勇者「魔僧侶の方から連絡は?」

僧侶「あった。やっぱり、魔王の居城は別の大陸で間違いなさそうだ」

勇者「何か付近の地形に特徴はありますかね」

僧侶「湖に囲まれた要害だと」

勇者「……となると、やはりこのへんか」

勇者「湖だけじゃなく、山にも囲まれていますね……」

商人「ふーん?」

勇者「しかし、この距離なら問題なく運べるかな」

僧侶「いいけどよ、魔僧侶の話じゃあ、移転も検討されてるってことらしいぞ」ジャラァ

勇者「移転。しかし、移転するには用地が必要です」

勇者「仕方ありません。もう少し計画は早めにしましょう」

商人「なんだか本格的だねぇ~、私の出番とか、ないんじゃない?」

勇者「まさか」

商人「なに、その顔」

勇者「いえ、一番死ぬ確率が高い位置ですけど」

商人「なん……だと……」

勇者「簡単に言えば、陽動作戦です。攻城兵器を使って、魔物とドンパチやらせている間に、僕らが魔王を倒す」

勇者「強敵は居城から誘き寄せて、と言っても挟み撃ちになっては困るので、剣客さんが出てきた魔物を倒す」

勇者「手薄になった隙に侵入するという算段なわけです」

商人「……あの」

勇者「なんですか?」

商人「私まで入る必要なくね!?」

勇者「救世主一行ですから」(苦笑い)

商人「いやあああああああ!」

僧侶「すると、これが最後の晩餐ってやつか」

商人「やめなさいよ! そういうのは!」

勇者「厳密にはまだ最後じゃないんじゃないですか」

商人「そういう問題じゃない!」

勇者「借金返済出来たんだからいいじゃないですか」

商人「儲け口がいっぱい出来たのに死ねないわよ!」

僧侶「まあ聞けや」

商人「な、なに」

僧侶「大丈夫だ、死後は善行が財産になるってもんだ」

商人「IRANEEEEEEEE!!!!!」

商人「私は現世で儲けたいの!」

勇者「余裕が出てきたからって欲を出し過ぎですよ」

商人「生存本能は守ってこ!?」

勇者「ははは」

商人「あーもう! あーもう!」

僧侶「話はそんなところか?」

勇者「ええ。場所の特定に、明日もう少し時間を使いましょう」

勇者「魔法使いなんかを利用すれば分かりますかね?」

僧侶「知らんな」

武闘家「話は終わったな!?」バァン

勇者「……」

武闘家「じゃあ、飲もうぜぇー!」

勇者「……」

書くよ(小声

深夜。

勇者「……」

商人「どーしたの、こんなところで」

勇者「寝たんじゃないですか」

商人「一回寝たら目が覚めちゃった」

勇者「はぁ」

商人「えーっと、これ、お墓よね?」

勇者「ええ。父と母と」

商人「ナムナム」

勇者「別に手を合わせても何もありませんよ」

商人「あんた本当に淡白よね」

商人「前から聞きたかったんだけど、あんたって勇者の血を引いてるのよね?」

勇者「はあ、一応そうなってますね」

商人「その割にはなんか……勇者っぽくなくない?」

勇者「自分の力を過大評価してないだけです」

商人「うーん……」

勇者「こう考えてみるのはいかがです? 勇者の子が勇者とは限らないじゃないですか」

商人「どうして?」

勇者「勇者の子が必ず勇者になるということは、勇者の父は必ず勇者でなければならない」

勇者「だったら、最初の勇者は誰になるのでしょうか?」

商人「そりゃ、平和な時代は覚醒してないわけよ」

商人「私だって、この荒れようだから大儲け出来るわけで」

勇者「……? 確か、僕が会った時は借金を」

商人「言うな、言わないで」

勇者「僕が、勇者らしくないのは母の影響もあるかもしれません」

商人「ふうん?」

勇者「母は、僕を勇者にするつもりはなかったようです」

勇者「父の遺族年金で切り抜けるつもりで……まあ、死んだから成功したわけですけど」

商人「もしかして、そのガメついのはお母さんの影響……?」

勇者「どうですかね」

商人「だって、もっと正々堂々とするでしょ、普通、勇者って」

勇者「よくわかりませんが、母の教えはシンプルです」

商人「なによ」

勇者「方法論を捨てることです。方法にこだわり過ぎると失敗しかしません」

商人(拘らなすぎだと思うけど)

商人「まあ、なんでもいいけどさ、私は死にたくないわよ」

勇者「なぜですか?」

商人「えっ」

勇者「ああ、すみません。とりあえず、明日はよろしくおねがいします」ペコリ

商人「えっ、えっ」

商人「なんなの、どーしたの?」

商人「もしかして自己犠牲精神に目覚めちゃったの!?」

商人「死ぬの!?」

勇者「……」

勇者「この仕事が終わったら、権利関係もお譲りしましょう」

商人「ぐわああああああああっ!?」

――翌日、王宮占い部屋。

魔法使い「うむむむ……む! 見えたような!」

勇者「ようなでは困ります」

魔法使い「しかしのぉ、魔王城の場所なんて、そんなものが簡単に分かったら苦労はせんぞ」

勇者「魔物が集まっているということは禍々しいなんとかが集まっている可能性がありますし」


商人「……ちょっと、ちょっとちょっと」

武闘家「なんだよ~、どうした」

僧侶「準備は済んでるだろ」

商人「そーじゃないのよ! 重要な相談!」

武闘家「はぁ? 今更バックレようって話じゃないだろうな」

商人「違うのよ! もっと危険なことよ!」

僧侶「勇者が死ぬつもりだってことか」

商人「そう……なんで分かるの!?」

武闘家「な、なにっ!!」

僧侶「うるせぇな、小さくしゃべれ」ジャラッ

僧侶「そりゃ、生き急いでいる感じがするからな」

僧侶「俺も聖職者として、人を大勢見てきた。そのくらいは分かる」

武闘家「お前みたいな格好をしてても、人のことを見てるんだな」

僧侶「懺悔室じゃ、顔は見えねぇから」ジャラァ、ギリッ

商人「すっごい納得した」

武闘家「俺も」

僧侶「殴ろうかなぁ」

商人「じゃなくって! だったら、どうして止めないのよ!」

商人「あんた、命の無駄遣いは止める立場でしょう!」

僧侶「別に死にたいわけじゃねぇから」

僧侶「ただ、死んでも魔王は倒すってことなんだろう」

武闘家「なぁんだ、それなら簡単だ。魔王を片付けて、生きて戻ってくりゃいい」

商人「だーっ! 違うのよ!」

商人「……あのね、勇者ったら、これが終わったら、私に財産を譲るつってんのよ?」

商人「何もかもくれるって」

武闘家「それはヤバいな……」

僧侶「ああ。あっという間に消え失せそうだな」

商人「……」

勇者「皆さん、場所の大筋が判明しました」

商人「あ……あ、そう」

武闘家「どこだ?」

勇者「南の海上に、ここから直進して……こう、西に行ったところではないかと」

武闘家「ほう。そこそこ遠いな」

僧侶「例の、彼女から来た手紙と方向が大体同じだ」

勇者「ただ、この辺りは岩礁が多いので、上陸ポイントは早めに設定したほうがよさそうですね」

勇者「ここの兵士さんも準備ができているなら、今日中に出航しましょう」

商人「そ、そうね」

勇者「どうかしましたか?」

武闘家「商人が勇者の財産を分捕りたいらしいぜ」

勇者「[ピーーー]」

商人「」

僧侶「ちょっといいか」

勇者「どうしました?」

僧侶「ああ、最後の戦いの前だ。お祈りをしておいた方がいいと思ってな」

勇者「……ふむ」

武闘家「なんかマトモなことを言い出したぞ」

商人「き、気を使ってくれてるのよね、そうなのよね」

僧侶「それに、教会に、ようやく材料が揃ったそうだから」

武闘家「材料……?」

僧侶「行けば分かる」

――教会。

シスター「僧侶。よく来ましたね」

僧侶「ああ、それじゃ頼む」ヌギ

勇者「なんですか、急に」

シスター「これはわが教会に伝わる、聖なるタトゥーです」

商人「修羅の顔が彫ってありますけど……」

僧侶「祈りを込めた魔除けの顔料で、丁寧に彫り上げた」

僧侶「教会に伝わる技法で、悪の力を減退させ、筋力、法力、魔翌力を大幅に高めることが出来る」

武闘家「前から思ってたけど、これ教会の技術じゃねぇだろ」

シスター「今、私達に求められているのは、人々を守るための力、そしてそれを行使するための正義の心です」

商人「過激派じゃないですかヤダー!」

シスター「しかし、何よりも僧侶が優れた聖職者である理由は、その懐の深さです」トントントン

商人「くひっ」

武闘家「ぶほっ」

勇者「何か変な笑いが出たようですね」

僧侶「……おう」

シスター「私達は魔物を撃滅せよと訴えてはいません」

シスター「襲いかかる魔物は滅せよ、ただし、自らすべてを討ち滅ぼす必要なしと」コン

勇者「それでは、残った魔物が別の人間を襲うかもしれません」

僧侶「どのみち、魔物を滅ぼし終えれば、人間同士が殺しあう」

僧侶「どんな屑にも生きる権利はある。俺みたいな……ああ、お前らみてーなやつもよ」

武闘家「ん?」

商人「まさか」

シスター「害悪のような存在を許せば苦痛が生まれる。だからこそ、私達は、あえてどんな苦しみにも耐え抜くために自らを鍛えあげるのです」

シスター「このようにね」ムキィ……

勇者「あっ、筋肉と魔除けのリング(鼻を貫通)を見せびらかさなくて結構です」

シスター「これで終わりました……」

僧侶「ん……よし」コキコキ

勇者「もしかしなくても、これって命を削るタイプのアレですか」

僧侶「そんな大層なもんじゃねぇよ。ちょっとした願掛けってやつだな」

シスター「では、僧侶。そして勇者様」

シスター「神のご加護があらんことを」

商人「どんな加護を与えるつもりよ」

僧侶「腕力かな」

勇者「……。まあ、いいですけど」

――海上。

勇者「もう一度確認しましょう。この辺りから上陸します」

勇者「海上移動の方が武器を運びやすいですが、空から攻められても対空の攻撃方法が豊富にあるわけではありませんので」

勇者「海上で船から振り落とされては目も当てられません」

兵士「しかし、このまま行くと、正面からの激突になりますが……」

勇者「それをお願いします。おそらく激戦になるでしょうが、その隙に僕らが魔王を倒します」

ザワザワ……

武闘家「おーおー、ビビってやがる」

商人「普通に死にたくないからでしょ!」

勇者「そこでですがね……」

剣客「まあ、待て待て」

剣客「勇者、ここは俺に任せてくれ」

剣客「幸い、俺ならボスクラスの魔物と一人でやり合った経験は多い」

剣客「ここの戦力は、居城を攻めるのに使ったほうがマシだろ」

勇者「それだと困ります」

兵士「も、申し訳ありませんが、こちらは、どなた様で」

勇者「僕より剣の腕が立つ人です」

勇者「もっと別の働きをしてもらいたいと思っていたんですが」

剣客「しかし、指揮官は必要だろ?」

兵士「そ、それは、我々を侮られては困りますな」

剣客「しかし、魔物退治の経験を持ったやつがいた方がいいだろう」

勇者「……」

武闘家「……おい、また始まったぞ」

商人「何よ、何の話?」

武闘家「ぽっと出の野郎がいいところをかっさらっていく感じだよ!」

僧侶「お前、軍隊の指揮なんて出来んの?」

武闘家「出来ません」

商人「残念ながら、イケメンで強くて頼りになる彼と、あんたを比べちゃいけないと思うわ」

武闘家「うるせぇな!」

商人「そんなことより、勇者のことよ~、ああ~、大丈夫かしら」

僧侶「……ま、死んだら天国に行けるように、お祈りはしておいた」

商人「アホか!」

武闘家「任せろ! 俺が勇者を守ってやるぜ!」

商人「全く頼りにならない」

僧侶「大丈夫だ、全員死んでも天国に行けるように」

商人「それ意味ないわよね!?」

僧侶「大体、お前はつまらないことにビビりすぎだ」

商人「何よ、だって、勇者があんなことを言うなんて……」

僧侶「まさか勇者が死んでも自分は生き延びられるなんて思ってんのか?」

商人「!」

武闘家「ははっ」

商人「ちょ、え……」

僧侶「死ぬ危険が一番高いところに行くんだよ」

商人「ノォォォォォォォ!!」


勇者「……ですから、剣客さんはまず隠れていると」

勇者「用どうして出てきた強敵を倒すというやり方でですね」

剣客「しかし、兵器が活躍する前にぶっ壊されたんじゃ元も子もないだろう?」

剣客「いいから任せておけ、正面切って俺が暴れれば、否が応でも出てこざるを得なくなる……」

ぬう、ここまで

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