では一つ、皆様私の歌劇をご観覧あれ
その筋書きは、ありきたりだが
役者が良い 至高と信ずる
ゆえに面白くなると思うよ
Atziluth――――
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彼の日こそ 怒りの日なり
Dies irae, dies illa,
世界を灰に 帰せしめん
Solvet saeclum in favilla,
ダヴィデとシビラの 預言のごとく
Teste David cum Sibylla.
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◆ご注意 またはお品書き◆
この物語には複数の作品のクロスオーバー要素が含まれます。
基本となる作品は以下の二本です。
・『とある魔術の禁書目録』シリーズ
・『Dies irae ~Acta est Fabula~』
またこれら以外の作品からも世界観・用語などの要素が含まれる可能性があります。
Dies iraeについては原作をプレイしていない方にもお楽しみいただけるよう配慮しますが、禁書シリーズについてはまったくそのつもりはありません。用語?禁書wiki見ろ。
言うまでもないですが両作品(特にDies irae)の致命的なネタバレが含まれています。未プレイの方はご注意。
その上で、独自解釈、独自設定、原作との明確な矛盾が含まれるっていうかかなり無茶な展開がありますがご了承ください。何もこじつけ無しでクロスなんてやってられっか。
舞台は当然ながら学園都市、時系列は適当ですがアナザールート補正が入っています。展開上登場すらできないキャラも多数いますがその辺は許してね。Dies irae勢はともかく禁書全員補完なんてやってられっか。
一部にグロテスクな描写が含まれる可能性もありますがそんな気にしなくても大丈夫なくらいには抑えようと思ってますはい。
そんな感じであんまりダークじゃない活劇なノリで。例によってオープニング以後は直書き。更新速度についてはお察しください。並走とか馬鹿だよね。ごめんよ。
また閲覧する際は、アスキーアート系の表記を含むため、専用ブラウザ「Jane Style」の使用を強くお勧めします。主にルビ。カッコあんまり好きやないねん。
そんなこんなで開演でございます。
何方様もゆるりと御歓談の上お楽しみ下さい。
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拝啓。皆様いかがお過ごしでしょうか。
早いものでもう今年も残り僅かですね。
崇高なる科学サマが支配する学園都市でもこの時ばかりは例外らしく街はクリスマスムード一色です。
日本人ってこういうときずるいよね。
街にはあちこちで雨後の筍みたいに突如パンデミックしたにわかカップルで一杯です。
残らず爆発すればいいのにと思う気持ちをぐっとこらえております。
そんな状況で店頭から流れるクリスマスソングに耳を傾けているのも訳があります。
簡単に言うと、現実逃避。
「ちょっとアンタ、どういう事か説明しなさいよ」
「うん、私もちゃんと説明してほしいかも」
左右からステレオで説明要求をされてるのだけど俺には一切覚えがない。
どうしてこのような不測の事態に陥ったのか。
詳しい説明は省きましょう。最低限の情景描写だけ。
ええと、両手に花。ただしこれが噛み付いてくる。
「あー、なんかもう面倒臭せぇー」
それではおなじみ決め台詞をば。
「諸々まとめて、不幸だー」
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第三次世界大戦のあの陰鬱とした空気もどこへやら。
街は薄寒い空も吹き飛ばすような年末のお祭り騒ぎの様子で。
クリスマス
本日十二月二十一日。聖なる夜まであと四日。
わたくし上条当麻は今日も元気に不幸です。
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事の起こりは数分前。
いつものように不幸遭遇体質のわたくしめは日課のスーパー特売に出向いておりました。
珍しく幸運にもタイムセールで目当ての物を確保でき、それはもう幸せの絶頂でありました。
……まぁその分の不幸が後から降りかかる事なんて予想楽勝でしたけどねー。
「ねえとうま」
我が家の居候シスターさんが天使のような笑顔をこちらに向けてきます。
しかしその背後になにやら般若だか羅刹だかの幻影が見えるのは気のせいだと信じたい。
「また? またなのかな? もしかしていつもの奴なのかな? もしかしてこれってもう日常茶飯事なのかも?」
現実を直視できずに視線を逸らすと雷神様(女子中学生)が仁王立ちしてらっしゃいました。
「……で。今回はアンタ何したわけ?」
柔らかそうな髪が微妙にざわついている気がするのは何も錯覚ではなく、単に静電気の仕業なのだろう。
もっともこういう場合画面上には警告テロップが流れて警報音がけたたましく鳴っているべきなのだろうけれど。
そんな訳でこちらからも視線を逸らす。
となればあとは必然的に、もう一人へ。
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\__ / ○' `つ //\ノ `つ //\ノ
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l! .´゙フ'ーv .,y ] '゙ミ
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「……わーお。人畜無害そうな可愛い顔して意外とモテモテ? もしかして君ジゴロの才能があるんじゃない」
すっとぼけたような顔でそんな事をのたまってくれやがります騒動の発端、諸悪の根源へと向けられる事になる。
少女「いるよねそういうの。私も知り合いに一人いるんだけど。
それがちょっと仲良くなった女の子に片っ端からフラグ立てるような節操無しで。なんか薔薇っぽい気配も出してたし」
年齢的にはちょっと上だろうか。整った容姿が日本人離れしていると感じるのは白い肌よりも目を引く銀髪のせいだろう。
肩口あたりで整えられた髪はこれでもかというほど高級感を振りまいている。言動のせいでぶち壊しだけど。
それにそう思えてしまうのは当然だと思う。何せうちには銀髪シスターさんが居座ってるし。
知り合いに白髪の奴もいるけどそういえばもしかしたらアイツも実は外国人なのかもしれないと思いながら俺は引きつった笑顔を彼女に向けた。
上条「もしもしお嬢さん?」
少女「君もそういうクチだよね。似合いそう。薔薇が」
ヲイ待てコラ。
少女「そのうちそういう薄くて高い本を本人の知らないところ出されちゃったりして。ううん、もう出されてるかも」
御坂「えっ……アンタそっちの人だったの……」
禁書「とうま……いくら私でも同性愛はちょっと無理なんだよ」
上条「だーあーもー! 思いっきり勘違いされたじゃねえかコンチクショー!」
こういう人の話をまったく聞かない手合いには若干の耐性はあるものの(主にクラスメイトで)残る二人のいたいけな少女たちには少々毒が強すぎたようだった。
片方はまだ耐性があってもよさそうなものだけどもう片方は……あーでもコイツもありそうだな。何せお嬢様学校在学中だし。
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上条「いきなりなんなんですかぁ!? 俺今アンタに会ったばっかりですよねぇアンタ俺のなんにも知らないよね!?
会って早々アンタの頭の中で俺はどんなキャラ設定にされてんだよ!」
少女「えっ」
上条「『えっ』じゃねえええええええええっ!!
なんでそこで突然予想外の超展開っぽい顔してるんですか! 俺がそっちのケのある人なのは決定事項だったんですか!」
少女「だって君。そういう需要がありそうな顔してるし。女の子受けするよね?
受け? ううん、どっちかっていうとこういう可愛い顔しておいて攻めの方が萌え……」
上条「すとぉぉおおおおっぷ!!」
ダメだ。これ以上コイツに喋らせてはいけない。脳をやられる。
インデックスの中の一〇万三〇〇〇冊の魔道書よりよっぽどタチが悪い。
コイツのせいでいたいけな少女二人がそっちの方向に目覚めてしまっては余りにも可哀想だし何より俺自身がネタにされては堪らない。
……想像してみてぞっとした。一つ屋根の下にいる相手の頭の中で日夜俺がアレやコレやされてる状況を思うと一緒には暮らせない。
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精神衛生上よろしくない展開を回避するために全力で話題を逸らせる事に即決定。
上条「あのなぁ。アンタ道に迷ってるんじゃなかったのかよ。
そういうのはいいからそっち先に解決しようぜ?」
そう。なんだかキョロキョロと辺りを見回してうろついてる姿が目に留まったのだ。
何せ見た目がこれだし学園都市には珍しい外国人だ。
そこで少しだけ彼女を見ていてしまったのが運のつき。ばっちり目が合ってしまった。
ヤバイと思った時にはもう遅い。
彼女は一直線に俺のところに来ると『学園都市食べ歩きマップ』という本来の用途と現在の目的とはかなりかけ離れているような本を出してきて。
『ねえ君。この辺に教会ない?』
そんなどっかで聞いた事があるような台詞を俺に向かって言ったのだ。
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で。運悪くそこにいつの間にか仲良くなってて二人でお出かけしてたインデックスと美琴が偶然通りかかって。
……ごらんの有様だよ!
少女「ああそういえば。そんな事もあったようななかったような」
上条「どっちだよ! 困ってるんじゃないのかよ! 帰っていいですか!」
少女「まあまあ。短気は損気だよ、うん。
人生何事もゆるゆるに生きるのが長生きするコツだってひいお婆ちゃんが言ってた」
上条「俺だって縁側でお茶飲みながら一生を過ごしたいよ!」
少女「若いのに枯れてるね」
上条「うっさい! 俺だって平穏無事な生活が送りたいんですよ!」
少女「君も大変なんだね。可哀想に……
そういう学園ラブコメ主人公系男子は不幸になればいいと思う」
上条「現在アンタのせいで絶賛不幸キャンペーン開催中だよッッ!」
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/::. /""" """\ ヽ
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(⌒ヽ |)
( __ ( ∩∩ ) |
| 、_____ /
ヽ \____/ /
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もう怒鳴り返すのも疲れた俺は「はぁ……」と溜め息を一つついて。
上条「えーと、この辺で教会だっけ? インデックス。知らないか?」
禁書「えっ、私なの!?」
上条「そりゃそうだろ。だってオマエが一番そういうの詳しそうじゃん」
禁書「………………申し訳ないんだけど実は私もあんまり知らないかも……なんちゃって」
上条「……どこに行った完全記憶能力」
禁書「だって私! 実際この街の教会とは直接関係ないし!
そもそも修道女だって言っても実際に教会勤めじゃないんだからこれは仕方ない事なのかも!」
上条「あーはいはい分かった分かった。格好だけ見て当然知ってるなんて思った上条さんがバカでしたー」
禁書「とーうーまー!? その言い草はいくらなんでもあんまりなんだよー!?」
上条「ああっ失言でしたすみませんっ!
だからインデックスさんこんな往来で噛み付きはちょっと勘弁してもらえませんかねぇ!?」
/ ̄ ̄ `ヽ,
/ ', _/\/\/\/|_
{0} /¨`ヽ {0}. \ アザラシ /
l .ヽ._.ノ,. ', < 拾った!!!>
リ `ー'′ ', / \
/` ‐- __ - ‐‐ ´ \  ̄|/\/\/\/ ̄
/ .l _,,ヽ ___ 〉、
| l / ,' 3 `ヽーっ
ヒト- _ l ⊃ ⌒_つ
. !__  ̄, ̄ `'ー-┬‐'''''"
L  ̄7┘l-─┬┘
└‐ '´ ` -┘
/ ̄ ̄ ̄ ̄\,,
/_____ ヽ
| ─ 、 ─ 、 ヽ | |
| ・|・ |─ |___/
|` - c`─ ′ 6 |
ヽ (____ ,-′
ヽ ___ /ヽ
/|/\/ ^ヽ
l i i |
,〃ミy ィ彡ミ、 |
,@⌒ ̄⌒@、 | |
l ″ ソリ |__|
l ,ノ9 ( (
ヾソソリゞソ ノ i~'
,r┴─-、ィ´i |
/ ″\l' l
l rヽ__)つ |
,|,、,、,、,、,、,(、~'二'うン
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| ─ 、 ─ 、 ヽ | | / / `-●-′ \ ヽ
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|` - c`─ ′ 6 l |. ── | ── | |
. ヽ (____ ,-′ | ── | ── | l
ヽ ___ /ヽ ヽ (__|____ / /
/ |/\/ l ^ヽ \ / /
| | | | l━━(t)━━━━┥
/ ̄ ̄ ̄ ̄\,, /_,, ,,_ \
/_____ ヽ / (@)ヅ=ヾ(@));;;;; \
| ─ 、 ─ 、 ヽ | | / /〆"●⌒ヾ;;;;;\ ヽ
| @ | @ |─ |___/ |三(__|___)三、 |
|` - c ヾー' ;;;;; 6 l |. | | | ノ::ヾ | |
. ヽ ィエエエエ》ヾ,,,-′ | Y ̄Y ̄Y ̄Yノノ | l
ヽ ___ /ヽ ヽ と ̄^ ̄^ ̄^"シ / /
/ |/\/ l ^ヽ \ """""" / /
| | | | l━━(t)━━━━┥
御坂「まったくアンタたちは……あ、発見ー」
呆れ顔でこちらを見ながらPDAを弄っていた御坂が画面を突き出してきた。
御坂「ここじゃない?」
少女「あ。うん。多分ここ」
御坂「んー? ちょっと遠いわね。……仕方ない。乗りかかった船だし案内するわよ」
少女「おー、だんけしぇーん。がくえんとしのガクセーさんすごくしんせつデース」
上条「何人だよアンタ……さっきまで日本語ペラペラだったろ」
\ 毛 /
腿 \_ | _/
彡彡彡
ミミミミ クリトリス
ミミミミ / ̄ ̄ ̄ ̄
ノ σ ヽ 尿道
/ / ゚ヽ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ( ( 膣 ) ── 小陰唇
\ \\// /
` \/ '
\ *──肛門
\_____/\_____/
と、そこへ。
「てっ……テレジア……!?」
素っ頓狂な声に思わず全員が振り返った。
見れば、長い金髪に長身の、メガネをかけた男がこちらを……いや、正確には銀髪の電波系ねーちゃんを凝視してわなわなと震えていた。
なんだか妙にがっしりとした体格で風格のありそうに思えるのだけど、
足元に転がっているスーパーの買い物袋とそこから転がり出たジャガイモなんかが妙に親近感を誘って……
威厳っていうかカリスマ性っていうかそういうのを全部吹き飛ばして。正直な感想。
(((なんだか所帯じみてる……っ!)))
少女「やっほー神父様。ご機嫌よう」
上条「なんだ、知り合い?」
少女「うん。探してた教会の」
そんなやり取りをしているこちらに大柄の見るからに外国の方っぽい男
(彼女の言うとおり神父なのだろう。それっぽいどっかで凄く見覚えがあるような感じの服着てるし)
が駆け寄ってきた。おい買い物袋放置していいのか。
神父「なっ、なな、どうしてあなたがいるんですか……っ!」
おい。大通りで女の子にすがり付いて泣くな。
こっちまで仲間だと思われたくないです。
(^o^ )
/ ヽ 現実は いつも私に選択を迫る
| | | | 私には それがたまらなく嫌なのだ
| | | | ならば逃げよう その先に何があろうとも
|| || その現実からも 逃げてみせよう
し| i |J 私には この生き方しかできない
.| ||
| ノ ノ
.| .| (
/ |\.\
少女「どうしてって……ねえ? 一人だけ置いてけぼりなんて、少しずるいと思わない?」
神父「だからといって……ああなんという事でしょう!
神よ感謝します! うちの娘はけなげにも私たちを追いかけてきてくれるような愛しい淑女に……ってそうじゃなくてですね!」
上条「ノリツッコミとは……やるな」
御坂「アンタもそういう問題じゃないでしょ」
ずびし、と横から合いの手を入れてくる御坂はとりあえず放っておいた。
神父「あなたは私たちがどうしてこの街に来たのか理解しているのですか、テレジア。
私たちがどんな思いであなたを一人残して来たか。分かってはくれないのですか」
少女「分かっているつもりだけれど。ええ、どこにいたって同じでしょう? その程度で――」
神父「……確かにあなたの言うとおりですが、しかし」
そんなまったく事情の分からない込み入った感じの話をしていた二人だったが、
しばらくして神父がようやくこちらに視線を向けた。
神父「……こちらの方々は?」
少女「教会の場所が分からなかったから。迷える子羊を救おうと親切にも教えてくれたの」
神父「おお……これはこれは。うちのじゃじゃ馬娘がご迷惑をおかけしました」
顔色一つ変えないまま神父の足を踏みつける少女。
俺たち三人はアイコンタクトもなしに抜群のチームワークを発揮して全力で無視した。
神父「ッッ――――、み、見たところお嬢さん、ご同業のようですが」
禁書「こんにちは神父様。初めまして。イギリス清教の末席に置かせてもらっているインデックスといいます」
神父「これはこれはご丁寧に。……ほう、とすればあなたが英国の誇る魔道図書館司書殿で」
上条「っ――」
思わず一歩足を踏み出しそうになるが、神父がこちらに柔和な笑顔を向けたのを見て止まった。
神父「落ち着いてください少年。私は別に『そのつもり』はありません」
ニコニコといかにも人畜無害そうな笑顔を向けてくる神父。
少しだけ迷ってテレジアと呼ばれていた少女を見る。
少女「…………」
彼女は俺たちの会話の裏にある意味を分かっているのか。それは分からない。
けれど小さく頷いたのを見て、俺は引き下がる事にした。俺だって街のど真ん中でケンカを始めたくない。
神父「おっと失礼、申し遅れました。
ルーマニア静教で司祭職を務めさせていただいています、ヴァレリア・トリファです」
軽く頭を下げる神父。めちゃくちゃでかいから全然そんな感じがしない。
神父「それと、こちらはテレ――」
少女「氷室玲愛。よろしく」
神父の言葉を遮って少女が名乗った。日本人だったのかよ。
さっき横文字で呼ばれていた気もしたけど何か理由があるのだろうと納得しておく事にした。
宗教上の~とかそんなとこだろう。
上条「んじゃ、探していたものも見つかったようだし俺はこの辺で……」
御坂「ちょっとマテ」
そそくさと退散しようとしたところをしっかり腕を掴まれた。
御坂「アンタさ、この人たちが名乗ってんのにはいさよならはちょっと違うんじゃない?」
待て。待つんだ美琴サン。これには深い理由がある。
俺の鍛え抜かれた不幸センサーが何かとてつもなく嫌な予感をビンビン感じ取っているのだ。
ここで名乗ってしまったら絶対にトンデモイベントに巻き込まれると。
御坂「私は御坂美琴、それとこっちが……ほら、自己紹介しなさいよ」
肘でつつかれて仕方なく名乗る事にした。
上条「……上条当麻。デス」
なんとか笑顔でごまかした。
……ごまかせた?
ヴァレリア「本来ならきちんとお礼をすべきところなのでしょうが見たところ買い物帰りのご様子ですし、
こちらも恐妻に買い物くらい行って来い昼行灯と蹴出されましたので、申し訳ありませんがまた日を改めてでよろしいですか。
よろしければうちの教会までお越しください。お茶とお菓子程度ですがご馳走させていただきます」
御坂「え、いいんですか?」
ヴァレリア「ええもちろん。あなたのような可愛らしいお嬢さんに来ていただければ主もお喜びでしょう……ったたた」
また足を踏まれた。もちろん誰も触れなかった。
なんだか声を押し殺して悶えている神父が不憫に思えてきた。
可哀想なので散らばっていたジャガイモやらタマネギやらを拾い集めて袋に押し込んでやる。
上条「ほら、急がないと怒られるんだろ?」
ヴァレリア「あぁありがとうございます上条さん。あなたに天の祝福があらん事を……!」
左手で差し出した買い物袋を大仰に恭しく受け取りヴァレリア満面の笑みで感謝の言葉を言ってきた。
物凄い皮肉に聞こえたけど大人な上条さんはスルーしておく。
上条「アンタも大変そうだな……」
ヴァレリア「ええ、ええ分かりますか上条さん……!」
何かを心で通じ合えたのか。
よく分からない言葉で励ましあう俺たちを少女三人が気持ち悪そうな目で見ていた。
てな感じで先ほど一瞬現れた険悪さはどこへ行ったのか。
心の中で申し訳ない事をしたなと思いながら今度教会にお邪魔してその事を謝ろう、そんな事を考えながら別れた。
帰り道が同じ方向だったので美琴も含め三人で並んで歩く。
上条「宗派が違うんだろ? インデックスが行ってもいいのかねぇ」
御坂「いいんじゃない? 別に宗教戦争やらかそうっていうんじゃないし。好意は素直に受け取りなさいよひねくれ屋」
そんな会話をしている中、インデックスだけが一人で唸っていた。
禁書「……うーん」
上条「さっきからどうしたんだ?」
禁書「ちょっと引っかかるんだよね……」
御坂「何が?」
禁書「さっきのヴァレリア神父。私の事ご同業って言ったから」
上条「そりゃあそういう格好してりゃ一目で分かるだろ」
禁書「ううん。そうじゃなくて」
そこで一度インデックスは言葉を切る。
禁書「――『同業者』なんて言葉、私たちみたいな聖職は使わないんだよ」
上条「それはほら、言葉のあやって奴だろ」
禁書「うーん……」
それでもなんでか納得できない様子で。
またしばらく歩いてから再びインデックスが口を開く。
禁書「……実はまだ引っかかってる事があってね」
御坂「まだあるの?」
…………あれー。
禁書「ヴァレリアって、女性名なんだよ」
御坂「へぇ……確かにちょっと頼りない感じだったけど。たまにはそういう事もあるんじゃないの?」
禁書「そうなんだけど……」
上条「もしかしてインデックスさん。まだ何かあるとか」
禁書「……うん」
……マジですか。
そして、インデックスはなんだか戸惑うような様子で。
少しだけ……まるで自分の記憶を確かめるように目を閉じて。
それから不安そうにこんな事を言ってくれた。
「どこかで見たような気がするんだけど……」
…………ほら、なんか雲行きが怪しくなってきましたよ?
――――――――――――――――――――
そんな訳でプロローグ終了でござる
練炭たちの登場はもう少し後で
香純?俺じゃ出せるほど技量がなかった
Dies irae知らない人のために補足説明コーナー
氷室玲愛(ひむろ れあ)
ヒロインの一人。主人公の先輩で学園の裏ミス。若干ダウナー系電波っ子なクォーター。おうちは教会。
テレジアは洗礼名。実は本編中ですごーく重要なキーパーソン。Bカップ。
ヴァレリア・トリファ
神父。190センチオーバーの金髪メガネっこドイツ人。先輩の育ての親。女難の相あり。実はちょーつよい。
本当はAA貼りたかったんだけどみつかりませんでしたん。誰か持ってたらお願い
キャラ画像についてはメーカーホームページにでも
18禁だよ!
ttp://www.light.gr.jp/light/products/diesirae/
って感じにだらだら更新の予定。インデックスさんがまともに活躍するはず。やったね魔術サイド!
時系列的には禁書は22巻後のとりあえず万事解決ルート
Dies irae側は螢ルート基準にアナザー補正で
そんなわけで禁書勢+α VS 黒円卓な感じのストーリー
残酷歌劇はあっちでやってるのでこっちは滑稽劇。スケルツォでお送りいたします
ではでは皆様、また次回
あ。一つ言い忘れてた
もしドイツ語できる人がいたら助けてくだしあ
「あー……こういうのを既視感っつーンだっけ」
繁華街の中にあるハンバーガーショップ。その一角に異様な気配を放つグループがいた。
一人は白髪の少年。
足が悪いのか、前衛芸術作品にも見えるおかしな杖を突いている。
ボックス席にどっかと腰を下ろし向かいの席に呆れたような視線を送っていた。
「なァ……なンだか前にも同じような事があった気がするンだが」
少年の隣に座る十歳くらいの少女。
頭から一房、重力に逆らうように立った髪の毛が印象的な女の子。
彼女もまた向かいの席に呆れたような視線を向けていたが、少年の言葉に振り返り苦笑した。
コメントしたくない、という事なのだろう。
そして三人目。二人と机を挟んだ反対側の席。
金髪の、見るからに外国人な容貌の年頃の少女だ。
美しい髪は綺麗に結い上げられている。
少年の隣に座る彼女とは対照的に、出るところは出ている。
街を一人で歩いていればすぐさま男に声をかけられてしまうような美人だった。
ゴシックロリータ調の服も彼女の外見と相まってどこか神秘的な印象を与える。
だがそんな少女が。
一心不乱にハンバーガーを口に詰め込んでいた。
「ガイジンっつーのはどいつもコイツも『こう』なのかよ……」
体裁など微塵も気にする様子もなく、フードファイトでもしているかのように次々と口に放り込み、もっきゅもっきゅと咀嚼する。
その姿は彼女の本来持っているだろう神秘性など欠片も残さず破壊するには十分だった。
学園都市斎弱の能力者、上条当麻が銀髪電波系少女に右往左往している同じ頃。
学園都市最強の能力者、一方通行もまた、この金髪の少女の相手に辟易していた。
打止「ミサカに聞かれても困るなぁ……ってミサカはミサカは思ったままを口にしてみる」
そんな事を言ってくる彼の同居人、打ち止め。
そもそもの原因はこのクローンの少女にある。
もう毎日の事なので詳しい説明は省くが、
今日も今日とてこの回転突撃式ちびっ子に引っ張られて一方通行は寒空の下を歩いていた。
で。
街中で幽霊か何かのようにふわふわとうろついていたこの金髪の少女に
打ち止めが話しかけたのを止められなかったのが全部悪いのだろうなあと一方通行はこれまでの顛末を振り返る。
気付けばなじみのファーストフード店で見知らぬ少女に餌付けしていた。
一方「拾ってきたのはオマエだろォがよ。返して来い」
打止「そ、それはいくらなんでもあんまりかも、ってミサカはミサカはあなたのド外道っぷりに驚愕の意を露にしてみたりっ!?」
一方「これ以上俺に妙なキャラ付けすんじゃねェ。
これじゃ俺が街で見かけた外国人に片っ端から餌付けする奴なンて事になりかねねェンだよ」
打止「ご近所から苦情が来る? ってミサカはミサカは暗喩表現を使ってみる」
一方「こォいうのは保健所に任せとけばいいンだよ……おい。オマエも何か言えよ」
はぁ、と溜め息をついて一方通行は名前も知らない少女を見る。
少女「……私?」
一方「オマエ以外に誰がいるンだよ」
少女「えーと……」
キョロキョロと辺りを見回した少女の視線はやがて手元のトレーの上で止まる。
彼女はハンバーガーのセットについてきたオマケの安っぽいプラスチックの人形をおずおずとつまみ上げ。
少女「ど……どうぞ……っ」
一方「いらねェよ!! なンでそンな泣きそうな面向けてンだよ! こりゃ新手の嫌がらせなのかよォっ!!」
なんだかだんだんとツッコミキャラ属性もついてきたかなーと思う打ち止めであった。
一方「ったく……この手合いが一番疲れるンだよ。こっちが何言っても勝手にペースを持って行きやがる」
打止「そうそう。あなたって実は結構振り回されやすいよね、ってミサカはミサカは過去のエピソードを懐古してみる」
一方「あーそーだなーオマエはまず自分の胸に手ェ当てて考えてみるべきだよなー」
打止「そっ、それは暗にミサカの成長っぷりに対して不満があると言っていると思っていいのかな、
ってミサカはミサカは普段は見られないあなたの突然の貴重な発言に目を白黒してみたりっ!?」
一方「オマエも大概に自意識過剰だよな」
打止「ああああなたもやっぱりこういうボインボインでバインバインの方がお好みなのかなってミサカはミサカは怒りのままに揉みしだいてみるっ!!」
少女「ひゃわあああっ!?」
打止「何を食べたらこうまでビッグサイズに成長するのか秘訣を教えてもらいたいなー!
ってミサカはミサカは両手からおぱーいエナジーを吸い取る気合を込めて指を動かしてみるー!」
少女「やっ、あ、んんっ……!」
そんな往年の少年漫画誌にありそうな状況が実際に目の前で繰り広げられているのだが。
一方通行は百円おかわり自由のコーヒーを飲みながら死んだ魚のような目を虚空に向けぽつりと呟く。
一方「帰りてェ……」
普段はあまり気にしないがこの時ばかりは周りの視線が痛かった。
そんな具合に好き勝手に騒ぐ少女二人(大小)を全力で意識の外に追い出しながらポテトをちまちまとつまむ。
とはいえ放置していては終わらない気がする。
さてこのバカ二人をどうやって治めようかと考えようとして。
「――――ぶっは」
なんだか思いっきり馬鹿にされたような笑いがすぐそばで起こった。
一方「………………」
少年「悪りぃ悪りぃ。あんまりにもおかしかったんでな。思わず吹いちまった」
一瞬無視しようとも思ったが言葉を続けられて仕方なく視線を背後に向ける。
一方通行の腰掛けた席の裏、背中合わせの席に座っていたいかにもガラの悪そうな少年が肩越しにこちらを見ていた。
少女「あー! シロウ!」
少年「ようマリィちゃん。あんまり知らない人についてっちゃめーだぜ?」
突然出てきてそんな事を好き勝手に言う少年に一方通行はほんの少し安堵する。
一方「ンだよ、コイツの保護者か……」
この厄介な少女を押し付ければとりあえずの肩の荷は下りる。
少年「悪いねー。このコほっとくとふらふらどっか行っちまうもんでよ」
一方「テメエの女ならちゃンと首輪つけとけよ。そこらのガラの悪いヤツに連れて行かれてもしらねェぞ」
少年「あんたみたいな?」
一方「…………」
こちらを挑発するような言の少年に一方通行は口を閉じる。
この手の輩は話を合わせるだけでいくらでも調子に乗る。似たような少女が身近に一人いるのだ。
深く関わらないのが最良手だと理解しているからこそ無言を決め込んだ。
少年「ま、迷子の保護感謝って事で」
一方「あァ、さっさと持っていってくれ。俺も財布の中身全部食い潰しそうな勢いで困ってたンだよ」
少年「そりゃあ迷惑かけたな。すまんすまん」
少年は立ち上がり、全く悪びれている様子もなくそんな事を言いながら一方通行の座る席の前に来る。
財布から千円札を二枚取り出し、ぽんと一方通行の前のトレーに置いた。
少年「釣りはいらねえよ」
一方「……足りねェよ」
少年「え、マジ? んじゃ貸しって事で頼むわ」
これ以上追求するのも面倒なのでドブにでも捨てるつもりで諦めた。
できる事なら二度と会いたくない。彼らには自分の知らないどこか遠いところで幸せになってもらおう。
そもそも元から期待などしていない。前もそうだったし。
なのに彼はこちらの気も知らず。
少年「迷惑かけちまっちゃあ仕方ねえよなあ。携帯のアド交換してくんねえ?」
一方「……持ってねェ。忘れた」
もちろん嘘だ。
ここで何かしらの接点を作ってしまえば後々面倒になりそうなのは火を見るよりも明らかだ。
打止「もう、しょうがないなぁあなたは、ってミサカはミサカはじゃじゃーんと自分の携帯を取り出してみたり!」
一方(オイ……)
しかしこのちびっ子は相変わらずこちらの気など知ったこっちゃないと言わんばかりに空気を読んでくれない。
少年「おーおーいい子だねえ。んじゃお兄ちゃんとアド交換しようかー。赤外線付いてる?」
打止「びびーっと通信ーアンド完了ー、ってミサカはミサカは登録アドレスが増えるなんて珍しいイベントにほくほくしてみる」
少年「……保護者さんも大変だねえ?」
一方「…………」
にやにやと人を馬鹿にするような笑みを向けてくる少年を本気で殴ろうかと思ったが無視を決め込んだ。
打ち止めの方は後で登録を消去しておこう。直接やると抵抗されるのが目に見えているのでこっそりと。
――――――――――――――――――――
そして、一方通行と打ち止め、二人と名も交わさず別れた彼ら。
ハンバーガーショップを出た途端に寒風が肌に刺さるがそんな事は意にも介さず雑踏の中を掻い潜るように歩く。
「テメエの女、ね。勘違いされっぱなしだけどいいか。マリィちゃん美人だし」
「エリーに怒られるよ?」
「硬い事言うなってつれねえなぁ。第一あいつがそんな事言うようなタマかよ。せっかくだし仲良くデートしようぜ?」
「シーローウー」
「はいはいっと。……で、なんか気付いた?」
「うん。センパイがいるよ」
「……はぁ? マジで?」
「うん。さすがに間違えっこないよ」
「おいおい笑えねえぞ……となりゃドンピシャか」
すれ違った白い修道服の少女に視線を取られながらも彼はポケットから携帯電話を取り出し、アドレス帳を呼び出して電話をかける。
「あーもしもし? こちら潜入捜査官。大当たりだ。確定」
『おまえいつもそう言うじゃねえか……』
電話の相手の少年の溜め息に口の端が軽く緩むのを自覚する。
実に弄り甲斐があって面白い。
『で、根拠は?』
「マリィちゃんレーダー。先輩がいるってよ」
『……んだと』
相手の声色が変わった。
「そんなわけだタイショー。出陣どうぞー」
それだけ告げて一方的に電話を切る。
「……んじゃマリィちゃん。俺らは主役さんが登場するまでデートしよっか」
振り返れば、隣を歩いていたはずの少女はいつのまにかいなくなっていた。
「おいおい……」
辺りを見回して、おもちゃ屋のショーケースの中身に釘付けになっている姿を発見。
肩をすくめて少年は彼女の方に歩いていった。
――――――――――――――――――――
「……で、なんだって?」
学園都市をぐるりと取り囲む高い塀の外。
携帯電話を切り、俺は連れの少女に顔を向けた。
それだけでだいたい事情を察してくれたのだろう。彼女の顔が険しくなる。
「それじゃどうやって中に入るかが問題だけど……
遊佐君みたいに塀を乗り越えてってわけにも行かないだろうし。夜まで待つ?」
「いや」
首を振る。
名高い学園都市の警戒網だ。夜になったところでその質が下がるとは思えない。
「今行こう。善は急げだ。それに……」
「それに?」
「あの馬鹿にこれ以上マリィを預けておくと何を吹き込まれるか分かったもんじゃねえ」
「…………っくく」
くすくすと笑う彼女に俺は唇を尖らせる。
「なんだよ櫻井」
「ううん。あなたって意外と独占欲強いのね、藤井君」
「で、どうやって入るかが問題だけど……」
「ここは単純明快に行こう」
「というと?」
「そんなの決まってるだろ? ――正面突破だよ」
「……無駄に騒ぎを起こしたくないって言ったのはどこの誰だっけ」
「要するにさ、見つかんなきゃいいんだろ」
俺は櫻井の手を取り、握り締める。
「お姫様に妬かれるわよ?」
そんな事を言ってくる彼女を無視して俺は――
――――呪いの詩を口ずさむ。
Es kann die Spur
「我が身、地上の生活の痕跡は
von meinen Erdetagen
幾世を経ても滅びるということがないだろう」
それとまったく同時刻。
学園都市の塀の内側、マリィと呼ばれた少女もまた口を開く。
モン・シェリ
それは恋歌。彼女が愛しい人と呼ぶ彼をより高みへと誘う呪いの詩。
Im Vorgefuhl von solchem hohen Gluck
「そういう無上の幸福を想像して
ich jetzt den hochsten Augenblick. Genies'
今 私はこの最高の刹那を味わい尽くすのだ」
二つの声が重なる。
創造
「Briah――」
Verweile doch, du bist so schon!
「時よ止まれ おまえは美しい」
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
:
: :
Ⅲ : Christof Lohengrin :
: :
Ⅴ : Leonhard August XI : Babylon Magdalena
Ⅵ : Zonnenkind :
: : Zarathustra
Swastika ―――― 0/8
【 Chapter I GHETTO ―――― END 】
――――――――――――――――――――
そんな感じで、ちょっと早いですがチャプター1終了
最後の奴作ってなかった……
ゲットー、エイヴィヒカイト、スワスチカ、シャンバラ、レーベンスボルン、創造位階に流出位階エトセトラ
その辺りを禁書世界と対応させつつ、聖遺物相手に頑張れ僕らの上条さん
上条さんの『幻想殺し』では『流出』はおろか『創造』もまともに対処できません
単純にキャパの問題
では次回、チャプター2の予告
嫌な予感を胸に抱えたままの上条と一方通行
その前に現れる陣、そして流れ出す異界
そんな中、彼らはある決断を迫られる――
満を持してみんな大好きなあのお方が登場します(笑)
合言葉は「ジークハイルヴィクトー↑↑リア!!」
……なんだろうこの至福感は。
別にヤバいクスリをキメたわけじゃない。
そんなものに頼らずとも幸せなんてどこにでも転がってるんだと改めて実感した。
上条「あー……幸せだー……」
禁書「なんだかカナンが見える気がするんだよ……」
そんな事を二人で言いながら机に突っ伏していた。
日は暮れて空は暗い。
まだまだ眠るのには早いが急速に空気が冷えていくこの時間、
わざわざ外に出ているはずもなく俺たちは早々に屋内退避を決め込んでいた。
隣の部屋からはなんだか賑やかしい声が聞こえてくるが今日ばかりは壁を殴らずにおいてやろう。
今日の上条さんは機嫌がいい。というのも。
御坂「あ、あはは。ご満足いただけたようで」
女の子が! うちで! 手料理を!
俺は人生何度あるか分からないような超レアイベントに遭遇していた。
借りに常日頃から人の顔を見るたびにツンツンビリビリしてくる可愛げのない女子中学生であったとしても。
上条「いやー美味かった。オマエって意外と料理上手いのな。こういうときは未元物質出されるのがパターンかと思ってたけど」
御坂「それどこの常識よ……。この程度レディのたしなみっていうか? 仮にも常盤台の生徒なんだしできて当然よね」
上条「さすがレベル5、何をやらせても高レベルですなー……」
もしかしたらまたラッキーイベントに直結してくれるかもしれないという、
そんな淡い期待を込めて適当に褒めちぎっておく。
横でなんだかインデックスの顔が引きつったけど気にしないでおこう。君は君でいてくれれば充分さ。
頼むから妙な気を起こして台所を完膚なきまでに破壊しないように。
上条「つってもよ、オマエ大丈夫なのか?」
御坂「何がー?」
上条「あー後片付けまではいいって……いやオマエさ、寮の門限。もうとっくに過ぎてんじゃないのか?」
御坂「大丈夫よー。ちゃんと許可取ってきてるし」
上条「……待て。そこ変な嘘ついたりしてきてないだろうな? オマエんとこの寮監超怖いんだぞ!?」
御坂「アンタ何うちの寮監ににらまれるような事しでかしたのよ……
そこのところは心配しなくていいわよ。ちゃんと、正直に、話しといたから」
上条「………………え゛」
おい今なんつった。
ちゃんと? 正直に?
それってつまり――
上条「だああーっ!? もうぜってー常盤台の寮の前通れねえええ!」
御坂「何を一人で頭抱えて騒いでるのよ。アンタの名前なんて出せるわけないじゃない。
まさかそんな一発で勘違い、……されるような理由なわけないでしょ。そもそもそれなら絶対許可下りないし」
上条「へ?」
、 、 、 、 、 、
御坂「正直に話したわよ。友達の女の子の家で一緒にご飯食べてくるって」
上条「……」
御坂「色々お世話になってるシスターだって説明したら一発だったわよ」
上条「た、助かった……」
そりゃそうだよな。
よりによって常盤台のお嬢様がまさか通い妻みたいな真似して許されるはずがない。
美琴センセーの機転の利いた口八丁に俺は心底胸を撫で下ろす。
本当に、本当に正直に言っていたら俺絶対生きてない。
あの寮監なら公開処刑とか平気でやりそうだし。
御坂「とはいえー……あんまり遅くなってもいけないんだけど」
禁書「もう帰っちゃうの?」
御坂「もうちょっと後ね。そ・れ・よ・り・も……デザートだっ!」
俺とインデックスはかつてないほどのシンクロ率で平伏した。
――――――――――
上条「ところでさー。オマエら今日二人してどこ行ってたんだよ」
禁書「んー? 気になるの?」
御坂「嫉妬? アンタってばもしかして妬いてるの?」
上条「はぁ!? んなわけねーだろバカ」
禁書「あーバカって言ったー! バカって言う方がバカなんだよ!」
上条「暴食の権化に言われたくないですねぇっ!?
つかどっからその手の知識手に入れてくるんだよオマエは!」
禁書「ななな何をこの町で清廉潔白すぎると評判のシスターさんに」
上条「口の周りクリームでべたべたにしながら言っても説得力皆無だバカっ!」
禁書「またバカって言ったー! むきーっ!」
御坂「ちょっとアンタは女の子に向かって口の利き方がなってないわね……!」
上条「あ、ちょま、すみませんインデックスさん言い過ぎましただからガブリはちょっと勘弁ぎゃー!」
などと隣から壁ドンされてもおかしくないような騒々しい会話をしながら着々と御坂の帰りは遅くなってゆく。
御坂「服買いに行ってただけよ。まさかアンタ一緒になんて言えないでしょ」
上条「あー……はい。そうですね」
禁書「ごめんね、みこと。みことに買ってもらっちゃってなんか申し訳ないんだよ……」
御坂「いーのいーの。どうせ私だって研究協力とかでちょこちょこ貰ってるものなんだし。
それに私の好きなように使ってるんだから悪いなんて事ないの。
でもどうせなら、そうね……ありがとうって言ってくれた方が嬉しいかな」
禁書「……うん。ありがとう、みこと」
御坂「いーえー。……はぁ。アンタも不憫よね。こんな甲斐性なしのところになんかいちゃ」
好き勝手言ってくれるなぁおい。
あと文句なら少しくらい金銭援助してくれてもよさそうなイギリス清教に言ってくれ。
なんなら上層部の方々を紹介してもいい。
なぜか俺の携帯には王室のお姫様のプライベートメアドとか登録されてるし。
禁書「でっ、でもでもっ。とうまの作ってくれるご飯はとっても美味しいんだよ!」
御坂「わ、私だってそれなりに料理作れるし!」
上条「ああ、美味かった。ごちそうさま。オマエいい嫁さんになるよ」
嘘偽りを言ったつもりはない。こればっかりは正直な感想だ。
うむ。俺も負けてはいられない。
コイツをぎゃふんと言わせるために土御門妹か姫神あたりからまた新しいレシピを仕入れておこう
それからしばらく。
アインシュタイン先生も中々奥の深い事を言ってくれる。
お茶とケーキで談笑しているうちに時間はあっというまに過ぎてしまった。
上条「なぁ御坂、オマエほんとそろそろ帰らないとやばくないか?」
御坂「え、嘘っ! もうこんな時間!? さすがにマズい……!」
普通なら正座で説教→反省文→奉仕活動とかのコンボが確実な時間だろう。
さすがに許可を取っているといってもあまり遅くなりすぎては怒られるのは確実だ。
御坂「ご、ごめんどたばたしちゃって! それじゃ私そろそろ帰るわね!」
上条「あー。それなら送ってくよ」
御坂「ええっ!? いいっていいって! それに誰かに見られたりしたら……」
上条「寮の近くまでなら問題ないだろ? 引き止めたのは俺でもあるんだし」
禁書「それじゃ、私も」
上条「寒いぞ?」
禁書「いいよ。私だけ除け者ってなんかずるいかも。
それに夜の学園都市ってあんまり歩いた事ないから」
上条「さいですか」
禁書「……あ。そうだ」
上条「ん?」
禁書「ご、ごめんとうま。ちょっとあっちに……!」
上条「お、おお?」
わけも分からず風呂場に押し込まれる俺。
部屋からはどったんばったんと何やら壮絶な音が聞こえてきて、待つこと数分。
禁書「お、おまたせー……」
扉を開けてひょっこり顔を覗かせたインデックスはなんだかいつもと違った。
上条「あ、それって」
御坂「うん。今日買ってきた奴。どう? 可愛いでしょ」
おずおずとこちらを見るインデックスの頭にはニット帽。
それに暖かそうな毛糸のセーター。彼女らしい白を基調としたコーディネートだ。
うむ。御坂さん服のセンスもレベル5のご様子。
上条「……まあ、似合ってるんじゃないでしょうかねえ」
素直に褒めるのがなんだか照れくさくて、ついついそんな事を言ってしまうのだけど。
彼女たちはなんだかまんざらでもない様子だった。
上条「んじゃ行きますか」
そう言って俺は自分用のジャンパーを羽織る。
これも結構使っているからだろう。ところどころで痛みが目立ってきている。
俺も何か新しい服買わないとなー、でも服って結構高いんだよなー
などと庶民派代表の俺らしい事を考えながら連れ立って家を出た。
その時はまさか、その日のうちに帰ってこれなくなるなど夢にも思わなかった。
――――――――――――――――――――
ちょっと休憩
基本は上条さんの一人称視点、たまに一方通行や蓮で書いていきます
主人公クラスが複数いてその辺の視点変更が分かり辛いとは思いますがご容赦。一応、主人公は上条さんです
Dies知らない人にもなんかそれっぽい新キャラだとか思ってもらえればいいなあ
どちらか一方の無双にはならないようにしていますが、現状の戦力差は歴然
がんばれ僕らの上条さん
――さて、講義を始めようか、少年。
そう、散々私が論じて止まない既知感についてだ。
既視ではなく既知。既に知っているという感覚。
それは五感、六感に至るまでありとあらゆる感覚器官に訴えるもの。
たとえばこの風景は見たことがある。
この酒は飲んだことがある。
この匂いは嗅いだことがある。
この音楽は聞いたことがある。
この女は抱いたことがある。
そして、この感情は前にも懐いたことがある。
「常々感じているのだが、貴方は前置きが長すぎる。
諧謔的な弁は貴方こその業だろうが、はたして今この場で必要あるだろうか。
私の外に他に聞く者などないというのに」
否。それは否だよ少年。
君は実に優秀な生徒だがいささか気が急きすぎる。
確かにこの場には君と私しかいないだろうが、だからと言って外に聞く者がいないとどうして断言できよう。
「――ほう」
では講義を続けようか。
ここに一つの円環がある。
輪廻。螺旋。永劫回帰。ウロボロス。好きなように取ってもらって構わない。
エッシャーの絵は知っているかね?
階段を下りていたら、あるいは上っていたら、いつの間にかまた同じ場所に戻ってしまう。そういう騙し絵のようなものだ。
既知。既に知っているという感覚。
すなわちそれはこの道は既に通ったことがあるというものに他ならない。
覚えていないだけ。人は忘れる事のできる生き物だ。
忘却という記憶の安全弁を持つからこそ人は苦楽を新鮮なものに感じることができる。
世界で最も美味い料理を毎夜毎夜食べることができたとして、その何が幸せというのだろう。
彼の最高潮は最初の一晩のみである。以後は単なる反復。
美味いからといって同じ味を毎度毎度食わされるのは徐々に苦痛となっていくだろう。
それ以外に料理を食らうことすら許されぬ。
拷問も同義だ。何しろひたすらに同じ事を繰り返させられるのだから。
「つまり貴方は――未知を経験できぬのであれば死んだ方がましだと、そうおっしゃるのか?」
それは間違いではないが正しくもない。
死とは生あるものにこそ訪れるものだ。なればこそ、始めから生きていないものに死など訪れようもない。
未知とは知ることであり、また知らないことだ。
「なるほど。確かに今まさに生まれてきた赤ん坊――世界の全ては未知で溢れている」
そのとおりだ少年。
君は幼い時分世界のあらゆるものが新鮮に見えたはずだ。
成長とは未知を既知で変える作業。
知っているもので世界を塗りつぶしていくことに他ならない。
それがゆえにこう思う。
毎夜毎夜同じ説教を繰り返す父。同じ料理を与える母。
同じ笑顔しか浮かべぬ隣人。同じ声で鳴く小鳥。同じ匂いしかしない家。
究極――同じようにしか沈まぬ太陽。
ああ、なんとつまらない。世界はこんなにも退屈だ。
「それを“老い”と、貴方は言う」
理解が早いな少年。さすがと言うべきか、それとも当然と言うべきか。
「では一つ、質問をよいだろうか」
ああ、いいとも。
「その既知感――既に知っているという感覚。
それを貴方は抱いているというのか。すなわち私と――既にこの会話をした事がある、と」
然り。私は以前も君とこの会話をした事がある。
この質問も聞いたことがある。そして私は答えたことがある……君はないかね?
「さあ、どうだろう。あったかもしれないし、なかったかもしれない。私には判断が付かぬゆえ」
なるほど。君はまさしくそうだろう。
なぜなら君の渇望はそこにこそあるのだから。
「そう、私は知りたい。未知を既知に変えてしまいたい。
私はあなたに似ているようで絶対的に違う。
私の知りたいものは未知と既知のさらに向こう側だ」
それでこそだ少年。
師と同じ道を歩く弟子など不要。
既知感以前の問題。それはただの反復ですらない。
劣化模造品――代替にもならぬ粗悪でしかない。
「では私は私の道を往くとして、師よ。一つ弟子に手を貸してはくれませぬか」
手を貸す? 私が? 違うだろう。手を貸すのは君の方だ。
君が用意してくれたこの舞台、一体誰のためだというのかね。
「知れたこと。外でもない貴方のために、我が師よ。ところで一つ質問がある」
ほう……? なんだね、言ってみたまえ我が弟子。
「私は貴方の事をなんと呼べばいいだろうか。
カリオストロ? ノストラダムス? ジェフティ?
それとも貴方の友人、かの獣殿に倣ってカール・クラフトと呼ぶべきだろうか。
我が偉大なる師――アラン=ベネット」
どうとでも。君の好きなように呼ぶがいい――
と言いたいところだが、ここは君も合わせてはくれないだろうか。すなわち。
「了解したとも。メリクリウス、と。この舞台にはその名こそ相応しい」
君は実に理解が早くて助かる。我が弟子、アレイスター=クロウリー。
いやはや、これから彼女に贈り物をしようという立場なのにこれでは先が思いやられる。
だがこれもすべて――
「――ああ、そういえば、私と貴方は前にもこの話をしていた」
然り。然り。百億回も繰り返した。
「だが――未だ知らぬことがある」
なればそれを見つけよう。
既知という既知、三千世界の全てを塗りつぶし未だ見たことのないものを見つけるまで。
「そう、そのためにこそ」
ゆえにこの舞台では外でもない君の用意した『彼』がいるのだよ。
ツァラトゥストラ
――――『幻想殺し』が。
――――――――――――――――――――
夜半、一方通行は一人寒空の下を歩いていた。
面倒な同居人たちから逃れるためでもある。
彼女らは軒並み人格的に問題があり、話しているだけでも疲れるのだ。
年齢も背格好もばらばらな四人の同居人。
共通しているのは性別くらいだろうか。
とはいえ恩義を感じている部分もある。
こうして彼が街を出歩けるのにも彼女らの存在は大なり小なり影響している。
そういう理由もあって無碍にはできず、
かといって姦しい中でストレスを増やすなどという特殊な性癖も持っていない。
そんなわけで彼は適当に理由をつけて夜の街に繰り出していた。
「…………」
話し相手もいないのに独り言を呟くクセがあるわけでもないので無言だ。
騒がしい表通りを歩くのもなんだか嫌で、彼は人気のない路地を選んでぶらついていた。
かつん、かつん、かつん。
体を支える杖の石突の音が静かな冬の街に響く。
こういう路地裏には普段なら面倒な不良連中がたむろしていそうなものなのだが、
最近はどうしてだかそういう事もない。
(まァ……理由はなンとなく分かるンだが)
第三次世界大戦の影響なのだろう。
ほんの半月にも満たない日数で終結したもののその影響は確かにあった。
彼らもまた、何かしら不安を感じているのだろう。
だからこういう風の吹き溜まりのような、どこか濁ったような気配がする場所を無意識の内に忌避している。
とはいえ何かにつけてたむろしていなければ気がすまないような連中だ。
さしずめそれなりに明るい場所――たとえば使われていない倉庫や、人気のない公園などで騒いでいるのだろう。
(そっちの方が俺としてはありがたいがな)
不良、と一言に言ってもそれなりに分は弁えている。
余計な騒ぎを起こしてアンチスキルに追い回されても敵わない。
彼らは彼らなりに楽しく過ごす日々を渇望しているのだろうから。
ふと、喉の渇きを覚える。
空気は乾燥している。
冷たい風は全盛期の彼ならまだしも、今現在の一方通行には相応のものでしかない。
ロシアの地を踏んだときに着ていた暖かいジャケットを羽織っているが、それでもやはり寒い事には変わりない。
何か暖かいものでも飲もう。
コーヒー。カフェオレもいいかもしれない。
糖と乳は体を温めてくれる。
コンビニでも……と視線をめぐらせ目に留まったのは。
公園。
大きめの、それなりに植樹の茂る緑地公園だ。
冬の摂理に反して青々と葉を広げているのは学園都市ならではの場景だろう。
品種改良された樹木は寒さをものともしていない。
「……、……」
一瞬躊躇う。
路地裏にスキルアウトと呼ばれる連中がいないのであれば。
先ほど考えた仮説が脳裏を過ぎる。
だが――
(別に。俺に絡むよォなバカは適当にあしらってやればいい)
そう結論付けて、彼はポケットに片手を突っ込んだまま公園の入り口に向かって歩き出した。
――――――――――――――――――――
上条「さっ――――みい――――!」
なんだこの寒さは。
十二月だからって言っても限度があるぞ。
御坂「だからアンタ、別にいいって言ったのに」
上条「そうは言ってもなあ。
だからってここではいそうですかさようならってわけにはいかないだろ?」
御坂「もちろんそんな事言い出したらアンタの株は真っ逆さまね」
禁書「とうま。とうま。寒いからこそ暖かいものが美味しく感じられるんだよ。
お鍋とかさすがに真夏に食べるのはちょっと厳しいかも」
上条「オマエの頭ん中は常に食い物の事しかないのかよ」
そんなお茶会トークバトル第二回戦を繰り広げながら寒風の下を歩く。
ロシアの白い大地を経験したといっても寒いものは寒い。
むしろ他の二人が平気そうな顔をしている方が不思議で――
上条「ああそっか。オマエらの方が寒さに強いのか」
禁書「え? なんで?」
上条「だって女性の方が体脂bぐっはぁ――!」
美琴の放った回し蹴りが綺麗に決まり、腿が焼けるように熱くなった。
御坂「――――あ」
ふと、美琴が小さく声を上げた。
上条「ん?」
視線をやれば、彼女は立ち止まり満ち沿いにあった建物を見上げていた。
何かの研究施設なのだろう。
それなりに大きく、コンクリートの物々しい壁面が冷たい威圧感を放っていた。
明かりはついていない。
職員は帰った後なのか、それとも既に稼動していないのか。
昼間ならそんな事はないのだろうが、真っ暗な中にずしりとそびえる姿は石の棺を思わせる。
まるで墓標のようだと――なぜだかそんな事を考えた。
御坂「いつもはこっち、通らないから」
こちらに振り返り苦笑する彼女の顔はなぜだか酷く痛々しかった。
御坂「ここね――あの子たちが、生まれたとこ」
……それだけで納得した。
上条「……そっか」
御坂「もう動いてないけどね」
どこか悲しげに笑う美琴。
だとしたらこれを墓標のようだと思った事に間違いはないのだろう。
会った事もない彼女と同じ顔と声の少女たち。
もし生きていたら……なんて夢みたいな事は言わない。
けれど会った事もない彼女たちを思い、少し喋ってみたかったかななどとそんな愚にもつかない事を考えた。
御坂「大丈夫よ。あんな事になっちゃって、済んだ事はもうどうしようもないけど。
あの子たちはあの子たちなりに精一杯生きたんだから。どんな形であっても。
そこだけは否定しちゃいけないわ。そう言ったのはアンタでしょ」
時の流れは残酷だ。
どう足掻いても失った過去は取り返せない。
もしかしたらこれも単に生者が勝手に理屈付けてこねくりまわしただけの詭弁に過ぎないのかもしれないけれど。
そうあってほしいと。願わずにはいられなかった。
禁書「……? なんか二人だけで通じ合ってて私だけ仲間はずれかも……!?
これはまずい雰囲気……っ!」
上条「おいテメ、インデックスっ! 少しは空気読め!
センチメンタルな空気ぶち壊しじゃねえか!」
頭の上に疑問符を浮かべていたインデックスが襲い掛かってくるのを適当にあしらいながら。
きっとこれでいいのだと、自分に納得させた。
きっと彼女たちだって誰かが泣く事を望んでなんかいない。
悼む事は大切だ。過ちは繰り返してはいけない。
だからといって泣き伏してしまっては前に進めない。
痛みを胸に抱きながらも歩き続けるしかない。
それがきっと今の俺にできる最大限。
そう、彼女たちの生には意味があったのだと――
然り 然り
意味のない生などありはせず
また意味のない事象などありはしない
全ては一つの円環の内
万事は連鎖となり繋がっている
君もまたそうだろう?
さあ、観客がお待ちかねだ
いい加減に幕を上げよう
まず今宵は景気付け
出し惜しみせずに派手に行こうではないか
では皆様、僭越ながらご唱和を――
Acta est Fabula
―― 喜劇は終わり ――
――――――――――
「なっ――――!」
「この感じ、まさか……!」
「ははっ! ビンゴぉ! やっぱり俺の言ったとおりだろうが!」
――――――――――
「ぐ――久方ぶりだとやはり堪えますね」
「そんな、いきなり開いた……!? だとしたら私たちの計画は初手から詰まされる……!」
「…………藤井君」
――――――――――
禁書「あ――ぐぅ――っ!」
上条「おい、インデックス――!?」
突然苦しみだしたインデックス。
彼女は胸を抑え、冷や汗を流しながらその場にしゃがみ込んでしまう。
御坂「ちょっと、どうしたの!? 大丈夫っ!?」
美琴も俺と同じように慌ててインデックスの肩を抱く。
けれどインデックスは痛みに耐えるように目を硬く結んだまま苦しげな吐息を吐くだけだった。
なんだ。なんだこれは。
問うが、俺にはこの感覚に覚えがある。
三沢塾。
俺が始めて経験したあの異界と同じ、それでいて何万倍も不吉な空気を凝縮したような気配。
それがついさっきまで見上げていた廃墟となった研究所から放たれていた。
上条「魔術――――」
この世界の裏側、条理の外れた理。
その存在を俺は知っている。
インデックスはその集大成とも言うべき魔道図書館。
一〇万三〇〇〇冊の魔道書をその脳に封印する極大の呪いの塊だ。
具体的な理由や目的、方法はさておき、ここでなんらかの魔術が発動し、
その影響をインデックスが受けたのだとしたら説明はつく。
だが、だからといって。
み ぎ て
どうして幻想殺しで触れているのにインデックスは苦しみ続けている――!!
上条「くそっ……御坂! とりあえず病院に連絡! 救急車!」
そう言うだけ言って俺は、研究所のフェンスをよじ登る。
御坂「ちょっとアンタ何を――」
上条「頼んだ!」
そう一方的に会話を切り俺はフェンスを乗り越え、飛び降りる。
どうしてだか直感的に悟っていた。
原因はこの瘴気の塊に成り果てた建物にあるのだと。
それではようやく本番開始です
が、今日はここまで。ごめんね
とりあえずチャプター2までは出し切っちゃおうかなーと思ってます
それまであっちはお休みになりそう。待っててくれてる人ごめん
蓮の詠唱が本来のものと異なっているのは仕様です
要するに勿体つけてるだけ。ちゃんとしたのはそのうち
(Swastika 1/8)
黒服。赤髪。そして魔術らしきもの。
真っ先に想像したのはあのクソいけ好かないヘビースモーカーの不良神父だった。
けれど今目の前に倒れている人影はどうにも小さい。
アイツは俺よりも背が高かったはずなのに。
まさか妙な魔術の影響か何かで縮んだんじゃないだろうなとかそういう現実逃避を――してる場合かよっ!
「おいアンタ! 大丈夫かしっかりしろ!」
慌てて駆け寄り、うつ伏せに倒れていたその人の肩を掴む。
とりあえず息を確認しようと抱き起こして――
抱き上げた体は、あの不良神父にしてはずいぶんと華奢で。
思わず拍子抜けするほど軽かった。
「――――――ぁ」
小さく漏れた吐息でまだ生きている事を悟る。
ほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間、
(コイツも右手で触れても――)
俺は愕然としながら腕の中で小さく喘ぐように呼吸をする少女を見下ろしていた。
「っく――」
苦しげな表情を見せて少女は身をよじる。
やっぱりコイツもインデックスと同じように何か魔術の影響を受けているのか。
だとしたら。
インデックスやコイツが影響を受けて美琴が平気でいる理由はなんだ。
共通点がもしあるとしたら、予想の域を出ないが、コイツも魔術サイドの人間で――
そんな考えが頭の中を一瞬駆け巡り動きが止まっている間に、腕の中の少女が薄く目を開けた。
「――――」
「おい大丈夫か! しっかりしろ!」
人間テンパるとテンプレどおりの言葉しか出てこないらしい。
そんな安っぽい漫画みたいな台詞を大声で叫ぶ。
その言葉も聞こえているのかどうか。
彼女は虚ろな瞳をこちらに向け、俺と視線が交差する。
「――――カ――」
小さくかすれるような声。「か」? 「か」ってなんだ。
そう聞き返すよりも早く、彼女は先ほどよりもいくらかはっきりとした声で言う。
「スワスチカ――開いて――」
意識がはっきりしないのだろう。
半ば夢にうなされるような口調でそう呟く少女の肩を俺は思わず強く掴む。
「なんだよスワスチカって! コイツと関係してるのか!?」
「――――最初はここと――公園」
俺の声が聞こえているのかいないのか。
けれど彼女は俺を確かに見ていて。
「だめ――彼が来ちゃうよ――」
「彼――って――」
なんだよ。わけ分かんねえよ。もっとしっかり喋れよ。
彼女の言葉が何を指しているのかも分からないし、意味もさっぱりだ。
けれど彼女が何かにひどく怯えている事だけはしっかり理解できて。
声が今にも泣きそうなくらいに震えているのは嫌でも感じ取れた。
「――――黄金の獣」
そんな最後までまったく意味不明な事を呟いた少女の体からかくんと力が抜ける。
一瞬慌てるが、まだ息をしている。生きている。
でも相変わらず呼吸は微かに、そして荒く。彼女の容態は一向に変わらない。
こんなに苦しんでいるのに俺は――
「くっ――そぉ――!」
他ならぬ自分に罵声を浴びせ、彼女を抱きかかえて立ち上がる。
なんでこんな肝心な時に限って俺は無能力者なんだよ。クソッタレ。
――――――――――
上条「御坂!」
御坂「ちょっとアンタいきなりどこ行って――、っ!?」
上条「追加。倒れてた」
御坂「何よこれ……一体どうなってんのよ……」
上条「俺だってさっぱりだよ!」
思わず大声を上げた俺に美琴の肩がびくっと震える。
上条「、……悪い」
御坂だって俺と同じだろう。
インデックスも、この赤い髪の少女も、わけも分からず苦しんでいる。
それを冷静に対処できるはずがないに決まってる。
上条「救急車は」
御坂「連絡しといた。もう来ると思う」
上条「……そうか」
抱きかかえていた少女を下ろし、ジャンパーを縫いで地面に敷くとその上に彼女を寝かせる。
それから視線を先ほどと変わらずぜいぜいと苦しげに息を吐くインデックスに向けて。
上条「…………」
これが異能の仕業なのだとしても、俺に何もでないとするなら。
もうあとは現実の技術に頼るしかない。
腕を斬り飛ばされても跡形もなくくっつけてみせてくれた医者がいる。
あのカエル顔の医者ならきっとどうにかしてくれる。そう信じる。
今の俺にできる事は――ない。
御坂「ちょっとアンタ……」
美琴の慌てたような声が聞こえるが俺は首を振った。
上条「頼む御坂。コイツらについていてくれ」
俺にももしかしたらそれくらいはできるんじゃないかと思う。
だけど多分、まだ。俺にできる事は残っている。
御坂「待っ――」
制止の声を振り切るように俺は走り出した。
『――――最初はここと――公園』
上条「公園……」
小さく呟く。
それがこの街にいくつあると思ってるんだよ。なあ上条当麻。
でもそれで思いつく場所なんて一つしかない。
――――――――――――――――――――
赤い髪って言って一瞬ステイルだと思った人は残念でした。だれだろーねー
次こそあの人のご登場です
一方通行が公園に足を踏み入れた途端、猛烈な気配が立ち込めていた。
一方「なンだよこりゃァ……」
夜間の公園の雰囲気は、確かに普段見慣れているであろう安穏なものではない。
日中の子供たちの笑い声は想像もできないほどにどこか薄ら寒いものを感じさせる。
夜の学校、寝静まった夜の住宅街、人気のない路地裏、似たようなシチュエーションはいくらでもある。
けれどそれにしても限度がある。
今のこれはそのどれともかけ離れていて、まるで――
一方「どこの屠殺場だよこれは……」
濃密な死の臭いが充満していた。
見えない壁にでも仕切られていたのか。
公園の外観からはまったく感じられなかったが一歩敷地に入った瞬間に質量さえ感じさせる負の気配が満ちていた。
一方「…………」
一方通行は迷う。
ここで今まさにろくでもない事が起こっているのは分かる。
それが大きかれ小さかれ面倒事には変わりない。
関わりたくなければこのまま見ぬ振りをしてUターンしてしまえばいい。
だが、ここは。
彼のよく知るあの同じ顔をした少女たちにとって掛け替えのない場所ではなかったか。
一方「……ちっ」
結局、舌打ちして彼は歩みを進める。
何、問題はない。
彼はこの学園都市で最強の能力者だ。
ありとあらゆるベクトルを支配下に置く無敵の能力。
能力者の筆頭、超能力者七人の中でも揺るぎようのない最強の座は彼のためだけにある。
その能力には何人たりとも太刀打ちできない。そういうレベルの規格外。
……その事に彼自身が少したりとも慢心していなかったといえば嘘になる。
けれど彼が最強の能力者で、誰も太刀打ちできないというのは間違いなく事実だった。
だからもし、それに対抗できる者がいるとすれば。
それもまた、彼と同じように規格外の存在――
一閃――何かワイヤーのようなものが彼の首と右腕に絡みついた。
一方「――――ッ!?」
瞬時に全身を縛られ、物凄い力で引き寄せられる。
利き腕を封じられた上での早業。
一方通行は首元のチョーカーに触れる事さえできずに数十メートルの空中浮遊を味わう事になる。
一方「がァ――っ!」
衝撃と共にタイルに叩き付けられた。そのまま体を吊り上げられ何かに縛り付けられた。
上下の感覚が狂っているが、背に当たる感触は硬く足も地面に触れていない。
街灯のポールか何かに磔にされているのだろう。
一方「っカ――ぐァ――」
脳をシェイクされて思考が途切れそうになる。
視界は暗くなり、首を締め付ける何かによって呼吸もろくにできない。
一方「っざけン――」
飛びかけた意識を総動員して唇を噛み千切った。
痛みと共に口の中に気持ちの悪い血の味が広がるがなんとか意識を保つ事に成功する。
歯噛みして改めて状況確認。
視界はまだ回復していないが朧気に街灯を捉えている。
その高さと、回復した体に掛かる重力の感覚からやはり何かに磔にされているのか。
全身に食い込む細長いワイヤーのようなものは力の入らない今の自分では千切れそうもない。
もっとも人を一人分振り回してもびくともしないような強度を持つものを自力で引き千切れるとは思わないが。
そして、右手。
叩き付けられた際の衝撃か、それとも別の何かか。
彼の持っていた杖は粉々に砕かれていた。
両手は縛られ封じられたまま。
いくら力を入れようともぎちぎちと食い込むワイヤーは離してはくれない。
もちろんチョーカー型の装置には触れることはできない。
一方通行がいくら最強の能力者だろうと。
能力を解放させるためのスイッチを入れられなければ歩くのにも不自由するような様でしかない。
つまり。
――あ、ヤベェ。詰ンだ。
困った事に大人しく縛り付けられているしかなかった。
しかし相手は、何者かは分からないが今すぐ殺そうというつもりもないらしい。
首の締め付けは弱まる気配もないものの直接死に至らしめるほどではない。
何より先ほどのように人に空を飛ぶような真似をさせられるならば頭から硬い石畳に突っ込ませたほうが確実だろう。
だったら一体何を考えて――
そう思った矢先だった。
一方「――――」
いち早く機能を回復した聴覚と嗅覚がそれを捉えた。
ぎゅ、ぎち、ざく、びしゃ、ぎり、ばたたっ、ぶしゃー、どちゃ。
そんな粘液質の音がフルオーケストラで流れ、鼻を突く鉄の臭いと共に発生源が降りかかる。
遅れてようやく輪郭を捉え始めた目。けれど確認しなくたって分かる。
グーテンアーベント
「こんばんは。気持ちのいい夜ですねぇ」
、 、 、
回復した視界の中にそいつがいた。
さながら人の形をした蜘蛛。
公園の木と街灯の間に糸を張り巡らし巣を作り、その真ん中で嗤いながら留まっていた。
そいつが誰かなんて考えなくても分かる。
その周りには全裸の女の死体がいくつも縛り付けられているのだから。
一方「っァ――オマエ――」
言葉を発しようにも首を締め付けるワイヤーがそれを邪魔する。
そんな一方通行の様子を見て蜘蛛のような男は「ふむ」と頷き軽く指先を動かす。
一方「――っ! かひゅ――」
首の拘束が緩められ呼吸が回復する。
一方通行はぜいぜいと空気を貪り酸素を取り入れる。
自分でも無様とは思う。しかし今の彼はどうする事もできない。
能力を使えない彼は無能力者以下でしかない。
男「ふむ……いささか乱暴すぎましたかね。これは失礼。
あなたを見ているとどうにも気が急いてしまいまして。
ははっ、我ながら下品ですね。ご馳走を目の前に貪りついてしまうのはマナーがよろしくない。
極上の美食も天上の美酒も、もっと味わいながら頂くものだというのに」
そんな事を言いながら男は下卑た哄笑を漏らす。
地上二メートルほどに張られた極細のワイヤーの上。
男はすっくと立ち上がる。その姿に危なげな様子はまったくない。
そしてそのまま悠然とワイヤーの上を伝い、一方通行に歩み寄ってきた。
軍服のように見える黒い外套、襟元から見える白いシャツにはこれまた黒いネクタイが締められている。
そして襟、軍服であれば本来階級章が付けられているであろう部分には
鋭角的に曲げられた直線で形作られた記号が縫い付けられている。
男「あなたを見ているとベイや、そしてシュライバーを嫌でも思い出す。
理不尽な事を言っているとは分かっていますよ。あなたにとっては謂れのない事だと。
確かにあなたにとってはとばっちりもいいところです。がしかし、まあそこはお互い様。
残念ですが単にあなたが不運だったという事で諦めてください」
そう黒衣の男は一方的に告げる。
一方「っざけンなよ――」
男「そうは言いましても。あなたにこれをどうこうできるはずもないでしょう」
男は両腕をこれ見よがしに広げて見せた。
そこでようやく気付く。異様に長い両腕。その姿は蜘蛛というに相応しい。
男「このワルシャワ・ゲットーで劣等どもを縊り殺してきたわたくしの聖遺物。
どうやらこの街の住人はどうやらおかしな異能を持っているようですが、
同じ聖遺物ならまだしも劣等種のままごと紛いの代物に太刀打ちできるほど生易しいものではありません」
一方「聖――遺物だァ――?」
聞きなれない、妙に宗教がかった単語。それは本来十字教の聖人の遺した衣服などを指すものだ。
しかしこれはそんな綺麗なものでは断じてない。
もし魔的な力を持っていたとしても血と怨念に塗れた品をどうして聖なる物などと呼べるだろうか。
男「そう、聖遺物。我々黒円卓が有する副首領閣下より賜ったこの魔道兵器の英知の結晶。
見なさい、素晴らしいでしょう? これならば何百何千何万と括っても千切れるどころかより強く成長してゆく。
そうして魂を食らってきた聖遺物にあなたごとき劣等種が牙を剥こうなど……ははっ、笑わせてくれますね」
一方「……ンだよ、ただの自慢話か」
男「ええそうですとも。もっとも、こうして会話をしているだけでもありがたいと思いなさい。
そこで吊られている雌どもには断末魔の悲鳴すら許されませんでしたからね。
ワルシャワ・ゲットー
如何せんこの辺獄舎の絞殺縄はどう足掻いても絞首紐。首を括ってこそ真価を発揮する。
そういう点ではいささか情緒に欠けますね。もっとも縄の軋む音もまた心地よい音色である事には変わりありませんが」
そう言ってまた生理的に不快感を催すような笑みを浮かべ男は続ける。
男「わたくしはこのような風体ですのでね。あなたのような美しい容貌をしている者を見ると嫉妬してしまうのですよ。
そうしてしまうからこそそれを縛り、縊り、吊るす。ええええ、下衆な考えとは分かっていますよ。
だがしかし、こうして一番手を仰せつかった以上誰にも邪魔されはしませんとも!
そこにあなたのような、あの二匹の凶獣を髣髴とさせる方が現れたのです。
これで昂るなという方が無理というものでしょう。それが代替行為に過ぎないとは分かってはいても!
呪うならばそういう風貌で生まれてきた己が生を呪いなさい。そういう姿形に生んだ母を呪いなさい。
ああ、そういえばあの二人とも、獣の所業で生まれた畜生に等しい存在でしたね。とすればあなたもまた――」
にやぁ、と男の口が不快に捩れる。
男「あなたもまた――近親相姦から生まれた畜生の仔なのでしょうかねぇ――?」
一方「知るか、クソが」
男の言葉に一方通行は一言で吐き捨て睨み返す。
一方「確かに俺はこンなアホみたいに目立つ風をしてるが、どうやって生まれたかなンて知ったこっちゃねェよ。
どうでもいいだろォが、ンな面倒な事はよォ……それよりもオマエに訊きたい事がある」
男「ほう……? この状況で取り乱さないとは。まだまだ演出が足りませんでしたか。
普通ならこの様子を見てしまえば発狂すらしてしまうというのに」
一方通行は男の言葉を無視して続ける。
一方「こいつはオマエがやったって事でいいンだよな。ならオマエは……何者だよ」
男「……っハ、ハハ、ハハハハハハ!
何かと思えばそんな事ですか。これは失礼、自己紹介が遅れました」
男「申し送れました。わたくしはシュピーネ。
聖槍十三騎士団黒円卓第十位、ロート・シュピーネ。
もっともこれは称号であって名ではありませんが。
申し訳ありませんね、とうの昔に捨ててしまったものでして。
そしていかにも。これはわたくしがこの手で、縛り上げ縊り殺した哀れな科刑者。
彼女たちも幸せでしょう。劣等の分際でこのわたくし自ら括って差し上げたのですから。
――とまあそういう具合です。 フロイライン
短いお付き合いでしょうがよろしくお願いします、お嬢さん」
「――あァ、大体分かった」
一方通行は目を閉じ、はぁと嘆息して再び開く。
「つまりオマエは――誰かさンからありがたく頂戴した道具に頼っても悪党にすらなれねェ三下ってわけだ」
男の表情が固まる。
そんな事は意にも介さず一方通行は続ける。
「もしかしてコイツは新手の冗談か? 俺を笑わせようとしてンのか? 最高に下らねェぞ。
アホかオマエは。気持ち悪りィ上に頭も悪いのかよ救いようがねェなァオイ」
「――――――」
「何が演出だ下らねェ。気取ってンじゃねェよ不細工が。
テメェの顔鏡で見た事あるのか? うざってェツラ近付けんなクソが。
ンな事で粋がってンじゃァ女も寄りつかねえよボケ。何よりオマエには――」
一方通行は怒りも嘲りもなく、ただただ哀れむような視線を向け――
「美学が足りねェよ。生きてる価値すらねェ。
恋愛ハウツー本でも読み直して来世からやり直して来い三下が」
「なッ――――」
「だから息が臭せェンだよ顔近付けンなッ!」
全身をの筋肉をばねのようにしならせ一方通行は左足を高く蹴り上げる。
クリーンヒット。凍り付いていたシュピーネと自称していた男の顎に綺麗に決まる。
「づァっ――!」
悲鳴を上げるシュピーネ。
その瞬間拘束がほんの僅かに緩んだのを見逃さなかった。
「この程度俺の周りじゃ日常茶飯事なンだよ。ありふれすぎててあくびも出ねェ。
それに俺を『こっち側』に引き込んだ奴だってもう少し外道らしかったぜ。顔面イレズミはどォかと思うがよ」
落ち着き払った表情のまま右腕を無理矢理捩じ上げ体を締め付けるワイヤーの中を動かす。
「まァオマエみたいな小物相手に言っても仕方ねェとは思うがよ。日本語通じてるか?」
「き、貴様……ッ!」
ラストバタリオン
「しっかり喋れよナチ公。オマエあれだろ。最後の大隊とかそういうのに憧れてぶっ飛んじまったクチだろ。
まァ誰だってそういう事はあるよな。赤面しちまうぜ、ったく。ただまァ――そういうのやるのは頭ン中だけにしとけ」
軽く首を振り、一方通行は。
「処刑してやるよ悪党にもなれねェ劣等が。オマエは生理的に受け付けねェ」
かちり、と首元のスイッチを切り替えた。
ちゅーとこで今日は終了
なんか一通さんの楽しい虐殺教室フラグに見えるけどまだまだ続くよ!上条さん来てないしね!
赤毛の人については、お察しください。舞台が違うので色々と演出を変えております
形成(笑)さんが安定の小物っぷりで安心しました
さすが俺らの形成(笑)さん!罵られているのが良く似合う!
ゴバッ!! と盛大な音を立てて一方通行を磔にしていた街灯が吹き飛ぶ。
バラバラに吹き飛んだ街頭のポール部の分だけ開いた隙間を潜り抜け一方通行は束縛から脱出する。
「オマエも大概に不幸だったな、変態野郎。
俺の目の前でこンな真似しやがった時点でオマエはぶち殺すって決まってンだよ」
ミサカネットワークに接続し能力を解放した一方通行には既に身体的デメリットは存在しない。
存分に揮える足で公園のタイルに震脚を打つ。
作用、反作用、その他諸々のベクトルが即座に一方通行の能力によってその向きを変え地中を伝わり、
宙に張り巡らされた蜘蛛の巣に取り付いたままのシュピーネの真下で天に向かって爆発した。
強烈な破砕音と共にタイルが吹き飛び地中の土砂ごとシュピーネに向かって吹き荒れる。
そのエネルギーは大型トラックが猛スピードで突っ込むのに等しい。
「――キヒッ」
しかしシュピーネはガラスを擦り合わせるような哄笑を上げながら両手指を軽く動かす。
瞬時に彼の力によって編まれた蜘蛛の巣が形を変え、直上に向かって突撃する土石流を正面から受け止める。
ごしゃ、と湿った音。
網に絡め取られた女たちの死体ごと一方通行の一撃は受け止められ、そして突進の力を失い重力に従い地に落ちていった。
「可哀想に、可哀想に。こんなにも美しい姿で飾られていたのに!
あなたのせいですよ、白い人。あなたが彼女たちを惨たらしいただの肉の塊にしてみせた!」
「アホか。寝言は寝て言えクソボケ。
そいつらを殺したのはオマエだろうが。責任転嫁すンじゃねェ鬱陶しい」
学園都市最強の能力者、超能力者第一位『一方通行』。
彼の態度は微塵も揺らぎもしないが一方通行は疑問を持っていた。
(さっき、こいつの束縛から脱出する時だ)
彼の能力はあらゆる力の向き、ベクトルを操る。
この世の物理法則に縛られる限りあらゆる存在はエネルギーを持ち、それには向きが存在する。
だが一方通行は直接束縛していたワイヤーを切断せず、街灯を吹き飛ばし隙間を作る事で脱出した。
いや、あえてそうしたのではない。
切断しようとしてもできなかったのだ。
(衝撃を拡散するとか、そういう風に簡単に説明できるような物じゃねェ。
ベクトルがないわけでもない。そうじゃなきゃ俺を捕まえられてるはずもねェ。それこそ蜃気楼だ。
確かに手応えはあった。……が、何故だかそいつを捕まえられねェ。だとすればこいつは――)
彼の脳裏にロシアの地で見た光景が蘇る。
既存の物理法則ではあり得ない、そして彼のような能力によるものでもない不可思議な現象。
魔術
魔道兵器
『聖遺物』
(ファンタジーやオカルトは漫画の中だけにしろよ、ったく)
既存の物理法則の通じない相手。
だが一方通行には、未知の性質であっても別の数値を代入し新しい演算式を構築する術がある。
そして何よりも。
「オマエ――今、防御したな」
こいつはあの『神の力』のような完全に人外の存在ではない。
蹴りも通じたし常人であれば即死級の一撃を防御もした。
つまり。いくら人外魔境の力を持っていたとしてもシュピーネ本人は生身の人間と大差ない。
殴れば吹き飛ぶし切れば血が出る。首を刎ねれば死ぬだろう。
そういう類の、ごくごくありきたりの異能者でしかない
「駄目だ。全っ然駄目だなオマエ。オマエをぶち殺す方法なンて即座に二十は思いつく。
そういう意味じゃァオマエはアイツらの足元にも及ばねェよ。絶望を振りまくような存在には程遠い。
ちィとばっか面白いオモチャ貰ったからって調子乗って振り回してンなよ」
「確かに。わたくしの体は他の方々とは違い脆い。
だがしかし――あなたにわたくしが殺せると思ったら大間違いでしょう!」
ひゅおっ、と風切り音。
シュピーネの異様に長い腕が振り回されその指から伸びるワイヤーが意思を持ったかのように一方通行に襲い掛かる。
「少なくとも! 聖遺物を持たないあなたにはわたくしの縄からは逃れられない!」
「そォかよ」
――ダンッ!!
呟くと同時、一方通行の足元が爆ぜ砕け彼の体は宙を舞う。
一瞬送れて残滓を絡め取るように飛来したワイヤーが虚空を薙いだ。
宙に身を躍らせた一方通行は、空気のベクトルを操り固定化、そこを足場にしてさらに跳躍する。
その先には自販機。本来ならその中にある缶コーヒーが彼の目当てだが今はそういう事を言っているような状況でもないだろう。
危なげなく自販機の横に着地した一方通行は、そのまま鋭い回転蹴りを叩き込んだ。
「っらァ――――!!」
がぼっ!! と固定していた台座ごと蹴り抜かれた自販機が超高速でシュピーネに向かって飛来する。
だがそれもまた、シュピーネの周りに張り巡らされたワイヤーによって絡め取られ勢いを失ってしまった。
「お返ししますよ」
ビデオを逆再生するかのようにワイヤーによってはじき出された自販機が一方通行の元へと戻ってくる。
その速度は先ほどの一撃と同等。生身の人間であれば撥ね飛ばされるどころか衝撃によって押し潰されてしまうほどだろう。
けれど一方通行には通じない。
正面から受け止めベクトルを操作。真上に向かって跳ね上げると同時に破壊し無数の破片へと変える。
「なるほど、防護ネットか。小物らしい臆病っぷりだ」
砕けた破片は地球の引力によって一方通行の元へと落下する。
一直線に。一欠けも過たず一方通行に向かって。
「なら。大砲が無理なら散弾銃はどォだよ」
彼に触れると同時に向きを変えた無数の金属片が再びシュピーネに向かって打ち出された。
しかしそれも残らずシュピーネの紐に絡め取られてしまう。
ナウシズ オセル
「無駄ですよ。生憎と束縛は私のルーンではありませんが、我がルーンは獲得。
わたくしの聖遺物は絡め取り吊るし上げる事にこそ特化している。
そのような豆鉄砲をいくら撃ったところでわたくしには届きませんよ」
「ワケ分からねェ事をゴチャゴチャと……」
舌打ちして、一方通行は僅かに考える。
大きな質量を持った攻撃では通用しない。ならば。
「ならこォいうのはどうだ?」
新たなベクトル操作を実行。対象は大気。
気体の動きを操作して無数の真空刃を生成し、シュピーネに向かって撃ち放つ。
「ですから無駄だと言ったでしょう!」
シュピーネの言うとおり、見えないカマイタチであっても何条にも重なるワイヤーによって逆に切り刻まれてしまう。
「チッ――――」
再び己のベクトルを操作し一方通行は背後へと高速で飛び退る。
見れば直前までいた辺りの木々やベンチはワイヤーによって細切れにされていた。
「どォすっかなこりゃ……」
正直に言って面倒な相手だ。臆病者らしく防御主体でのらりくらりと受け流される。
かといって直接接近すれば先ほどのように一方通行自身がワイヤーに絡め取られてしまうだろう。
ベクトル操作は可能かもしれないが、現時点で数値代入はできておらず瞬間的に操作する事はできない。
こちらの演算式構築が早いか、それともスライスハムにされるのが先か。
自信がないわけではないが博打に出るほど愚鈍でもない。
ずざぁっ――! と擦過音を立てながら着地。
さてどうしようかと考えながら体勢を整えていると、横から声が聞こえた。
「…………へ?」
鳩が豆鉄砲でも食らったかのように、間抜けな顔をした上条当麻がそこに立っていた。
――――――――――
ちょっときゅーけー
先に。明日から数日ちょっと忙しいので更新しないかも
公園に入った途端、研究所と比べればいくらか薄いものの常識的にはありえないような瘴気が吹き付けた。
俺の勘は当たっていたらしい。こういう時だけは不幸体質も役に立つ。適当に歩けば勝手に飛び込むのだから。
そんな事を考えながら公園の奥へ進もうとすると、見覚えのある白い人影が物凄い勢いでこっちに吹っ飛んできた。
上条「…………へ?」
一方「あァ?」
思わず声を出してしまい、その白い人とばっちり目が合ってしまう。
白い髪、白い肌、赤い瞳。そんな超弩級に特徴のある奴なんて俺は一人しか知らない。
上条「な――オマエ、一方通行っ!?」
一方「なンだ。オマエか」
一方通行はさもつまらなさそうに俺の顔を見、そして今かっ飛んできた方に一瞬目を遣った。
同時に俺も気付く。何かとんでもない馬鹿げた代物がそちらから迫ってきていた。
一方「ハッ。ちょォどいいとこに来てくれたなァオイ」
上条「はぁ? オマエ、どうなって――っておい!?」
背中を蹴り飛ばされ思わずたたらを踏んで前に出る。
上条「――――ッ!!」
空気を切り裂き何かが飛来する。
コイツ、まさか俺を盾に――
上条「っざけんなぁあああ!!」
咄嗟に右手を突き出す。飛んできたのは無数の細い線――糸、ワイヤーか。
一瞬背中に寒いものが走ったが、俺の右手は今度こそしっかり働いてくれた。
バギィィン!! と甲高い音を立ててワイヤーが砕け散る。
やっぱり。幻想殺しはしっかりと存在している。
だからやっぱりさっきのは、俺の右手が通用しなかった事に他ならず――
一方「なンだ。オマエのは効くのかよ」
上条「いきなり何しやがるテメェっ! ってなんだよこれは! 一体何が起こってやがる!」
一方「俺が知るかよ。アイツにでも聞け」
アイツ?
そう言われて一方通行が顎で示した方を見ると――なんか細長いおっさんが空中にぶら下がってた。
よくよく見ると街灯やら植木やらの間に細いワイヤーのようなものが無数に張り巡らされている。そいつはそれにぶら下がっていた。
上条「……オトモダチ?」
一方「ンなわけがあるか。オマエには俺がアイツと同類に見えンのか。ぶっ殺すぞ」
そんな剣呑な会話をしているうちに宙に張られたワイヤーを辿りおっさんがカサカサとこちらに向かってくる。
蜘蛛みたいで正直気持ち悪い。もし一方通行があいつと友達だったら俺は即座に縁を切る。
上条「誰だよ」
一方「なンとか団の……なンつったっけ。シュピーネとかいうアホだ」
上条「はぁ。なんとなく察した」
さすがにここに来てまで察しは悪くない。
不本意ながら日頃から朴念仁だの唐変木だの馬に蹴られて死ねだの言われてるがこういうときばかりは別だ。
上条「要するに――アイツがこの気持ち悪い気配の元凶ってわけだ」
なら話が早い。
一発殴ってやるのが一番手っ取り早いだろう。
シュピーネ「どうして――」
上条「あぁ?」
なんだか生理的に受け付けない系の声に聞かれ俺は思わず応える。
シュピーネ「どうして、わたくしの聖遺物が打ち消される! 聖遺物すら持たない劣等に!」
上条「あー悪い。俺そういうの効かないんだ」
シュピーネ「んな……っ!」
驚愕に顔をゆがめるシュピーネ。正直殴りたくて仕方ない。
なんだかコイツの顔を見ていると無性に腹が立ってくるし、何より。
上条「おい。逆に聞くけどよ」
この蜘蛛野郎の張った巣に引っかかっているのは、どう見たって人間の死体だ。
上条「そこの奴らを殺したのはテメエでいいんだよな」
シュピーネ「これはこれは。何を聞くかと思えばそんな事でしたか」
……オーケー分かった。
分かったから皆まで言うな。それ以上その気持ち悪い面をこっちに向けるんじゃねえ。
シュピーネ「いかにも。わたくしが、このわたくしが! 縊り殺し吊るして差し上げたのですよ」
…………そうかい。
シュピーネ「シャアッ――!」
声と共に腕を振り回すシュピーネ。
それと同時に無数の鋼線が俺を絡め取ろうと襲い掛かる。
上条「邪魔だ」
的確に右腕を振り、残らず叩き落す。
俺の手が触れると同時にワイヤーは砕けて宙に消えた。
シュピーネ「なん――ですと。一度ならず二度までも。わたくしの聖遺物が打ち消された……?」
まったく。一方通行が呆れるのも当然だ。
大振りにもほどがある。美琴だってこんな雑な攻撃はしてこなかった。
それにこういう攻撃なら俺は何度も神裂に食らってる。アイツの七閃の方がよっぽど恐ろしい。
シュピーネ「あなたは、あなた方は一体――」
上条「何者か、ってか。そんな事はどうでもいいだろ」
一方「あァそうだ。くっだらねェよ。なンでオマエみたいなのに名乗ってやらねェといけないンだ」
一方通行もまたコイツに対してどうしようもない怒りを覚えているんだろう。
止める道理はない。いくら心優しい上条さんだってこんな吐き気のする奴に同情なんてするか。
そして何より。
「通りすがりの無能力者だよ」
「通りすがりの超能力者だよ」
あの女たちがオマエみたいなザコに殺される理由なんてあるはずがない――!
シュピーネ「――ふふ、ふふふふふ。はははは……」
一体何が可笑しいのか。シュピーネは顔を抑えて笑い出す。
シュピーネ「なるほど。あなたたちは確かに特殊な能力をお持ちのようだ。
レーベンスボルンの遺産でしょうか。格段に精度は増しているようですね。
だがしかし――どちらにせよこんな島国の劣等種どもがわたくしの聖遺物に太刀打ちできるはずがないッ!」
一体どこからそんな自信が溢れてくるのか分からない。
けれどただのハッタリではないのは感じ取れた。
シュピーネの気配が、より鋭く、より攻撃的に変化する。
どくん――、脈打つようにシュピーネの十指から伸びるワイヤーがうねる。
イェツラー ジークハイル・ヴィクトーリア
「形成――――我に勝利を与えたまえ」
上条「――っ!!」
やばい。
直感的にそう悟った。
具体的に何がやばいのかは分からない。
けれど直前までの奴とは何かが決定的に違う。
シュピーネを覆うワイヤー……一方通行が多少なりとも苦戦しているのだから魔的な存在であろうものがより強く顕在化する。
より密度を増し、気体だったものが液体へ、液体だったものが固体に変化するように。
シュピーネ「極東の猿を相手に活動ではなく形成を使う事になろうとは。
誇りなさい。光栄に思いなさい。あなたたちには過ぎた代物ですがこちらでお相手して差し上げましょう」
上条「何を……、っ!」
シュパァッ!! と空間そのものを切り裂くような力をもってワイヤーが飛来する。
上条「――――」
何か。妙な感じがした。
この圧力。気配を俺は知っている。
右方のフィアンマ。
ミーシャ=クロイツェフ。
そして――――イ[禁則事項です]
上条「くっ――のおおおっ!!」
それが何かを判断する暇もなく、俺は幻想殺しをワイヤーに向かって叩き込んだ。
突き出した右手がワイヤーに触れた途端、
――ばぎばぎばぎばぎばぎばぎぃっ!!
上条「ぐ――あ――!」
なんだか物凄く嫌な音と共に右手に激痛が走る。
見れば、俺の腕は確かにワイヤーを受け止めてはいるのだけど。
上条(打ち消せてない――っ!?)
冷静に考えてみれば当然だった。
こいつの武器は先ほどまでとは段違いな存在感、質量を持っている。
ロウソクの火は消せたとしても、ガスバーナーの火はたやすく消せない。それと同じ理屈だ。
幻想殺しの効果は確かにあるのだろうが、火を消すにはほど足りない。
どころか――
上条(ぐっ――圧されて――)
おいおいおいおい。勘弁してくれよ俺の右手ちゃん。
神の奇跡だって打ち消すって謳い文句はどこ行った。
シュピーネ「何を不思議がっているのです。確かにあなたのその能力は稀有なものでしょう。
しかし当然でしょう? 私の聖遺物は、歴史こそ浅いもののその内に内包された魂は百や二百では効きません。
その総て、そんなか細い右手ごときに打ち消せるとでも思ったのですかっ!」
一方「あァ、上出来だ。オマエはそのままそこで抑えてろ」
受け止めた俺を尻目に一方通行がミサイルみたいに突っ込んでいく。
上条「テメ、また俺を盾に……!」
一方「適材適所って奴だ」
俺に注意が向いていたのか、張り巡らされたワイヤーはほんの少しだけ反応が遅かった。
その程度の隙でも一方通行には充分すぎる。
一方「おとなしく逝きやがれェっ!!」
突き出した両手がシュピーネに向かって繰り出される。
シュピーネ「おおっと。危ない危ない」
だがシュピーネは後ろに下がる事で到達までの時間を僅かに稼ぐ。
その間にシュピーネの指から繰り出されたワイヤーがまるで魚を捕らえる網のように広げられ一方通行へと覆い被さる。
一方「ちィ――」
舌打ちして空中を蹴る。
ぼっ! と空気の爆ぜる音がして一方通行の体が斜め上へと跳ね、物理法則を完全に無視したような軌道を描く。
シュピーネ「そう焦らないで下さいお嬢さん。あなたの相手もちゃぁんとしますよ」
そう言いながらシュピーネの手が上がり――
上条「テメエの相手は俺だろうが浮気してんじゃねえぞ!!」
右手の中で物凄い音を立てているワイヤーを握り締める。
まるで雷に直撃されたかのような激痛。腕が吹っ飛んだんじゃないかと錯覚したほどだった。
いっそ吹き飛んだ方がマシじゃないのかと思えるような痛みの中。
幸か不幸かしっかり捕まえられたワイヤーを掴んで思い切り引っ張った。
シュピーネ「ぬぅっ――!?」
予想外の行動だったのか、シュピーネの動きが、今度こそ完全に止まる。
それは傍目にも充分すぎるほどの隙で――
上条「今だ! やれ、一方通行!」
………………おい。
なぜか期待していた答えがなかった。
上条「おいテメ、アクセ――――だあああっ!?」
協力もクソもないアイツに文句を言おうとした矢先、右手に絡みついたワイヤーに物凄い力で引っ張られた。
まるで一本釣りされたマグロの気分。その行き着く先はもちろん網だ。
上条「――がぁ――っ!」
全身を刃物にでも抱きしめられたような感じだ。
極細の、けれど強靭すぎるワイヤーが肉に食い込み切り裂く。
こいつが蜘蛛だとするならば巣に放り込まれては勝ち目がない。
慌てて抜け出そうとするが、
シュピーネ「逃がすとでも思いましたか」
右手はおろか、全身を縛り付けられる。
今度はハムかちくしょう。
となれば、その先は食べやすい大きさにカットされて食卓に並ぶしかない。
冗談じゃない。俺は一握の望みを託して一方通行を呼ぶ。
上条「おいコラ一方通行! 何やってんだよオマエ!」
なんとか動かせる首でアイツが飛んでった方を見ると――
一方「………………」
アイツは、馬鹿みたいに突っ立ってやがった。
呆然と。まるで魂が抜けたように俯いていた。
電源でも切れたかのようにその場に棒立ちになっていた。
ふざけてる場合か、と叫びそうになって。
上条「――――――」
俺も、アイツみたいに固まるしかなかった。
だってそうだろう。仕方ないだろうこれは。
俺はもちろん、誰にもアイツを責めるなんてできやしない。
だって、アイツの視線の先、足元には。
物凄く見覚えのあるゴツい軍用ゴーグルが転がっていた。
ではでは、ちょうど切りがいいし明日早いのでこの辺で
シュピーネさんってこんなに強かったっけ……
一方「………………おい」
まるで地獄みたいな暗い響きを一方通行は発した。
一方「これ。持ってた奴。どうした」
シュピーネ「どう、と聞かれましても。そんな些事をいちいち覚えてもいませんよ。
大方そのあたりにでも並んでまいるんじゃありませんか」
――待て。それじゃまさか。
キヒッ、と君の悪い声を出してシュピーネの腕が伸びる。
繰り出された糸が棒立ちの一方通行を絡め取り易々と振り回した。
シュピーネ「今度こそ捕まえましたよぉっ!」
俺と同じように、少し離れた場所、裸に向かれた女の死体たちのど真ん中にぶち込まれる。
その衝撃で血飛沫が上がった。
上条「アイツまさか反射できてないのか……!?」
考えればそれも当然だ。
何せ俺の右手が無効化できないレベルの代物だ。アイツが制御できるとは限らない。
それにそもそも相手は魔術の使い手。
一方通行の能力は真っ当な科学を相手にしたもので、物理法則に真っ向から反する魔術には無力なのだろう。
だとしたら……まずい。
俺たち二人ともが掴まってしまったなら、この状況をどうやって打開するというのだ。
上条「おいテメエっ!」
怒りで狂いそうになる心を無理やりねじ込んで俺はシュピーネに向かって叫ぶ。
現状どう考えても詰みだ。起死回生の一手は思いつかない。
だからせめてその一手が浮かぶまでの僅かな時間を稼ぐ。
状況の変化。事態の好転。妙案の思いつき。
カミサマが降りてきて助けてくれるのだっていい。
とにかく少しでもゲームセットまでの時間を引き延ばすしかない――
上条「っざけんなよ! コイツらになんの罪があるっていうんだ!
どうしてテメエみたいな屑に殺されなきゃならねえ!」
自分でも頭の悪い言葉だとは分かっている。
でも、今の俺の頭の中は自分でもどうしようもないほどの嵐が暴れている。
今すぐにでも感情のままにアイツを噛み殺してやりたい。
喉元に歯を突き立てて引き千切ってやりたい。
そういう衝動を抑えるのに精一杯だった。
今感情の手綱を放せば腕も何もかも引き千切ってでもアイツに食らいつく。
それはだめだ。馬鹿でも分かる。
それでアイツを殺れるなら手足の一本や二本くれてやってもいい。
でも現実問題そんな事は不可能だ。
だから奥歯を割れそうなほどに噛み締めて飲み込む。
こういうところだけは自分でも嫌になるほど冷静だった。
シュピーネ「何かと思えばおかしな事を聞く」
しかしどうやら相手はこちらの口車に乗ってくれたようだった。
シュピーネ「鷹が鼠を食らうのに、熊が魚を食らうのに、虎が兎を食らうのに理由が必要ですか。
それはそういう風にできている。聖遺物は人の魂を食らい、糧とする。
そも聖遺物とは。血と涙で染まり、恐怖と畏敬を浴び、呪いと怨嗟を受けて生まれた代物。
むしろそんな代物が人を食わないほうがおかしい。極めて自然。もはや当然。必然ですらある。
これはそういうものだと理解しなさい。
残念ながら家畜を屠り解体し調理し食すその度に涙するほどわたくしは正純潔白な精神を持ち合わせていない。
そういう偽善的な事はクリストフにでも任せておけばいい。あの男はそういう自慰的な行動が好きでたまらない性分です。
ですから素直に諦めなさい。これはそういう類のものです。まあいうなれば――天災にでも遭ったと」
…………ああそうかい。
つまり、だ。
上条「単に運が悪かった、不幸だったって。そういう事かよ」
シュピーネ「そのとおり。愚劣極まりない民族にしてはあなたは物分りがよい。
まあ多少なりともわたくし個人の趣味も入っている事は否定できませんが。
しかし何よりも――あなた方の死には大いに意味がある!
あの方は約束した。わたくしに見合っただけの魂を差し出せばわたくしを解放すると!
諧謔の具現である方ですが約定を違えた事はわたくしの知る限りない。その点だけは他の誰よりも信頼できる。
カルネアデスの板という言葉を知っていますか? 緊急避難。そういう事です。
ですからあなたはわたくしの代わりに黄金の海に呑み込まれるがいい――!」
上条「……ああ、もういい。諦めた」
さすがの上条さんもこれはもう無理だ。
完全に俺の負け。どうしようもない。完敗だ。
上条「だからそれ以上気持ち悪い顔をこっちに向けて喋んな」
一方通行には悪い事を言った。アイツが怒るのも無理はない。
コイツと一緒にされたら誰でも怒るだろう。
コイツは災厄しか振り撒かない嵐だ。究極的にぶっ壊れてやがる。
生きているだけで罪だというのがまかり通るなら、コイツこそがそれだろう。
上条「いいぜ。テメエがそんなクソ下らない理由で人を殺すっていうなら――」
――誰も不幸にならない世界を願っていた。
たとえどんな奴だろうと幸せになっていいんだって思ってた。
聖人みたいな奴だって悪魔みたいな奴だっている。
人を殺せば罪だ。人を泣かせたら悪だ。
でも本当は、みんな平等に笑っていてもいいはずだ。
誰にだって救いはあるはずだ。
そう思ってた。
でもコイツはだめだ。どうしようもない。
、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
――こんなふざけた幻想を許してはいけない。
コイツは完全に、どうしようもなく救いようがない。
上条「――まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!」
「――――いや。その必要はねェよ」
声がした。
上条「っ――」
それが誰だかは考える必要もない。
一方通行。網にかかったままのアイツが俺の言葉を即座に不要だと断言した。
一方「ったく、俺としたことがなンてザマだよ。ついつい頭が逆上せちまった」
その声には先ほどまでの暗いものはない。
気だるそうな、何もかもが面倒で仕方ないというようないつもの調子だった。
一方「だいたい最初から俺がそンなの見逃すはずがないンだよ。
よりによって俺が他でもないアイツらを見落とすはずがないンだ」
俯いていた顔をゆっくりと上げる。
その顔は――笑っていた。
歯を剥き出しに。何もかもが滑稽で仕方ないというように。
一方「アイツらの死に顔に限っては嫌ってほど見てきたンだ。間違うはずがねェ」
上条「って事は……」
一方「あァ。こン中にはいねェ」
彼女たちには悪いがその言葉に一瞬ほっとした自分がいた。
けれどぶら下げられ辱められている彼女たちがアイツに殺された事には変わりない。
放っておけばいくらでも惨劇は拡大する。
それを食い止めるにはここでコイツを――
一方「だからオマエが出張る必要はねェよ」
絡みつくワイヤーを無視して動こうとするがそれを一方通行は制止する。
一方「自分でも無様な格好だとは思うが結果オーライだ。ここに放り込まれたお陰で分かった。
確かにコイツは俺の能力じゃどォしようもねェだろうな。法則が違いすぎる。理屈は分かるが理解が出来ねェ。
お国言葉がまかり通るほど甘くはねェンだよここは。日本なンだから日本の常識で頼むぜ、ったくよォ」
そんな副首領閣下の術があなたごとき凡夫に理解できてなるものですか」
哄笑するシュピーネ。
それに一方通行は嘆息し、
一方「獲物を前に舌なめずりはすンのは三下のスタンダードなのかァ?
まァお陰で大体掴ンだがよ……ベラベラ語ってくれてどォもアリガトォ」
みし――――
と、何かが軋む音がした。
シュピーネ「なっ――」
それが何か。
この場においてそんな事、考えるまでもない。
一方「気になってたンだがよォ……オマエのそれ、聖遺物だったか?
呪いの逸品。ッハ、今時ゲームなンかじゃよくあるパターンだ。平凡すぎてあくびが出る。
まァどうやってソイツが出来たのか理屈は分かるが……それがどォしてよりによって絞首縄なンだよ」
その言葉がシュピーネには聞こえているのか。
みし……みし……と嫌な音が続く中、一方通行は続ける。
一方「ナチでゲットーで大虐殺っつったら毒ガスだろォが。小学生でも知ってるぞそれくらい。
つまりアレだ。ソイツは他でもないオマエの趣味って事だ。よかったなァオイ、わざわざ合わせてもらってよ」
シュピーネ「くっ――舐めるな劣等の分際がぁっ――!」
押し返すようにワイヤーがより強固に、より堅固に密度を上げる。
しかし焼け石に水。すでにはち切れそうなほどに張り詰めたワイヤーはみちみちと悲鳴を上げている。
一方「血と涙、恐怖と畏敬、呪いと怨嗟だったか? 魂食って密度を上げる。
なるほど、理にかなってンだろォな。その思考はさっぱり理解できねェが。
ただまァ――――その理屈で言えばだ」
カハッ、と一方通行は嗤った。
たまらなく愉快そうに。
ともすれば泣きそうに。
色んな感情が綯い交ぜになって全部ひっくるめて一周した先のような。
もう笑うしかないみたいなそんな風に。
アクセラレータ
「アイツらの魂を食って食って食らいまくったこの『一方通行』だって、聖遺物だって言えない事もねェよなァ?」
つまり、全てはそういう具合に出来ている
ゲットー
当然であろう。この学園都市を想像したのは誰なのか考えてもみたまえ
師の業を扱えぬようでは弟子とは言えぬ
ご都合主義と笑いたければ笑いたまえ
確かにデウス・エクス・マキナは愚劣の極みと言えよう
あらゆる伏線も筋書きも無駄にする機械仕掛けの神が登場するようでは観客も興醒めしようものを
しかしこれは滑稽劇
お恥ずかしながら笑って済ませてくれはしまいか
なに、退屈はさせはしないとも
今はただ、新たなる生を言祝ごうではないか――
学園都市二三〇万の序列第一位――『一方通行』
学園都市の最高位に君臨する絶対王者。
あらゆる力を捻じ伏せる暴君。
その名は二三〇万の嫉妬と羨望と忌避と畏怖を向けられた対象だ。
そして、あの実験。
少なくとも『一方通行』は一〇〇三一人分の魂を、その手で散らした。
それも残らず『戦場』で。
だとすれば条件はすでに合致している。
そして彼自身も、聖遺物に触れる事によってその性質を理解し、
そして呪いを飲み干している。
そこに水銀の色をした魔法使いの弟子の見えざる手が加われば――
この故にこそ 汝らは生命と大地とに憤怒する
「――Und darum zurnt ihr nun dem Leben und der Erde.
汝らの侮蔑の斜視の中には 無意識の嫉妬が潜在している
Ein ungewusster Neid ist im scheelen Blick Eurer Verachtung.
我は汝らの道を行かぬ 汝ら肉體の侮蔑者たちよ
Ich gehe nicht euren Weg, ihr Verachter des Leibes!」
それは超人へと至る詩。
あらゆる縛鎖から解放され、高みへ至り人でなくなった者。
人としての枷を外され天上へと辿り着くものの物語。
Yetzirah
「形成――」
ツ ァ ラ ト ゥ ス ト ラ
彼の者の名を『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』という――
汝らは 超人への架橋ではない
「Ihr seid mir keine Bruchen zum Ubermenschen!」
その瞬間、呪いの奔流が吹き出した。
上条「っ――――!?」
ゴバァッ!! と空間そのものが爆発した。
枷を解かれその内にあったものが形を成して溢れ出る。
それは翼だった。
天上に羽ばたくには余りに暗すぎる、闇色をした双翼。
そして『一方通行』の本質を現すのであれば最も近いであろう形。
彼の背から噴出した力の奔流が漆黒の翼を形成する。
一方「――だからオマエはそこで見てればいい」
一方通行の目には既にシュピーネは映っていない。
その視線の先は、糸に絡め取られたままの俺に向けられていた。
一方「オマエには似合わねェよ。こォいう汚ねェ仕事は俺みたいな奴の役だって相場は決まってンだ」
シュピーネ「ぎっ――ひぁ――ぎゃ――!」
どういう理屈か、一方通行の翼にアイツを縛り付けていたワイヤーが吹き飛ぶと同時にシュピーネの全身から血が飛沫いた。
なんとなく分かる。ああして形を成していたものはアイツの魂そのものに直結している。
だから聖遺物を絶たれればアイツ自身が傷を負うのも自明の理だ。
荒れ狂う翼とそれの巻き起こす黒い風に鋼線は見る間に引き裂かれていく。
そしてそれにつられるようにシュピーネの体から血煙が上がる。
一方「大体な、先にコイツを殺すっつったのは俺だ」
シュピーネ「どう――して、どうしてあなたが聖遺物を――」
一方「知るかよクソが。……まァあえていうなら、そォだな」
翼を翻し、その荒々しさとは対称的にふわりと地に転がりのたうつシュピーネの真横に降り立った一方通行は。
一方「顔だろォよ。オマエは誰がどう見てもザコキャラだ」
そう言って、
シュピーネ「待っ――――」
ぐしゃりと、空き缶でも潰すようにシュピーネの顔面を踏み砕いた。
上条「…………」
そうして、一方通行がシュピーネを斃したことにより、シュピーネ自身も、奴の聖遺物である辺りに張り巡らされた鋼線も、
そして殺された犠牲者たちの遺体も塵となって消滅した。
一方通行のズボンには返り血すら付いていない。
どころか血の一滴、髪の一本すら消え失せ、辺りには破壊の痕跡だけが残された。
上条「う、わっと……」
体を束縛していた奴の聖遺物が消えた事で俺は再び硬い地面に下ろされる。
一方「…………」
既に一方通行の背から黒い翼は消えている。
アイツはタイルごと踏み抜いた姿勢のままじっと黙ったまま立っていた。
上条「くそ……なんだったんだアイツは……」
誰かに説明してもらいたかった。
いきなり学園都市に現れ無差別に殺戮したシュピーネ。
どうして、なんでこんな奴に殺されなきゃならない。そんな不条理があっていいはずがない。
上条「ちくしょう…………!」
いくらそんな事を言おうとも答えてくれる奴なんているはずがないのに。
なのにそこに現れた人物がいた。
ヴァレリア「上条……さん……?」
突然の声に驚いて振り返れば、昼間見たあの長身金髪の神父がそこに立っていた。
その台詞も、タイミングもどう考えても無関係じゃない。
俺の嫌な予感はやっぱり的中していた。
コイツもまた、この件に関係ある。
一方「なンだよオマエ」
上条「待て一方通行、コイツは」
再び殺意がざわつきだした一方通行を今度は俺が制止する。
コイツには色々聞きたい事がある。できるなら穏便に済ませたいところだ。
第二回戦を始められては敵わないし、何よりコイツを力ずくでとめたくない。
そんな俺たちを意にも介さず神父は「ああ」と天を仰いだ。
ヴァレリア「――なるほど。つまり私は、遅かったというわけですか」
上条「? どういう――」
神父の言葉の意味を訊くよりも早く。
――――どくん
足元が波打ち脈打った気がした。
それに呼応するように、ヴァレリアの両手両足と、脇腹から鮮血が迸る。
上条「――――!? おいアンタ!」
思わず声を荒げるが神父は一向に聞く気配すら持たない。
その間にも流れ出る血は僧衣を赤黒く染め上げてゆく。
そんな状態なのに全く動じる事なくヴァレリアは十字を切る。
そして厳かに祝詞を紡ぐように呟いた。
「斯くして第二のスワスチカが開かれた。おお、いよいよ御国が来たらしめる――エィメン」
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
:
: :
Ⅲ : Christof Lohengrin :
: Ⅹ :
Ⅴ : Leonhard August XI : Babylon Magdalena
Ⅵ : Zonnenkind :
: : Zarathustra
Der L∴D∴O in Shamballa ―――― 6/13
Swastika ―――― 2/8
【 Chapter Ⅱ ROT SPINNE ―――― END 】
――――――――――――――――――――
そんな訳でチャプター2終了です
名前が出ないとかわいそうなのでシュピーネさんは副題に
一通さんのアレのことに関しては、まあそういう具合のお話です
とりあえず「>>1死ね」って言っとけばいいんじゃないでしょうか
今回の劇場の特等席は窓のないビル
水銀と魔法使いの弟子、一人でもろくな事にならないってのにあの手のが二人もいるともうどうしようも
これ伏線全部回収できるのか……?
シュピーネさんの紹介ですが今日はちょっと時間がないので後に
ごめんねシュピーネさん。もう出番は終わりだよ
そんなわけで、宣言したので当分あっちメインでこっち適度に更新していく感じで(明日から
ほぼ本編のみしか知らないので双翼の鷲とかについては無理
特殊ルールやキャラクターのステータスについてはまた出てきたらその都度こういうコメントで補完していこうと思います
で、アンケートなんですが
読んでくれてる人で、Dies知ってる人と知らない人どれくらいいるのかなと
あとなんかコイツ出せよとかいうのあったらもしかすると出るかもしれません
そんな感じで今日は若干の補足説明的なのとか
現キャラクターステータス
・一方通行
超能力者第一位。ただし能力自体は聖遺物に対し直接作用させられない
能力そのものを聖遺物と定義し新たなベクトルを獲得。黒円卓との直接的な戦闘が可能に
聖遺物は『超能力・一方通行(ニヴォヒュンフ・ブシュローニガ)』。人器融合型。形成位階
詳しい説明は割愛。形成の詠唱は『ツァラトゥストラはかく語りき』より
・上条当麻
『幻想殺し』は聖遺物に対し質量差によって効果が減少。活動位階に対しては有効、形成位階に対しては圧される
形成状態の聖遺物の直接破壊、およびスワスチカの破壊は不可
(あるとして)スワスチカの『核』に対し直接破壊が可能かは不明
・インデックス
急病により早退
・御坂美琴
付き添い
クリストフ・ローエングリーン
黒円卓第三位。学園都市侵入
レオンハルト・アウグスト
黒円卓第五位。学園都市侵入
ゾーネンキント
黒円卓第六位。学園都市侵入
ロート・シュピーネ
黒円卓第十位。散華(笑)
バビロン・マグダレーナ
黒円卓第十一位。学園都市侵入
ツァラトゥストラ
黒円卓第十三位代行。学園都市侵入
ゲオルギウス
自滅因子。学園都市侵入
赤毛の少女
意識不明。救急車により病院へ搬送
アレイスター=クロウリー
学園都市統括理事長。魔法使いの弟子。シャンバラの製作者
姓名の表記は原作を遵守
カール・クラフト=メルクリウス
水銀の魔術師。影の水星。白痴の道化
そして、アレイスターの師であるアラン・ベネットその人
分かり辛いDies irae用語解説コーナー
一応劇中でもそのうち説明すると思うけど
・聖遺物
聖人の遺品ではなく、魂と怨念を食らい自ら意思を持った魔毒の結晶
永劫破壊(エイヴィヒカイト)と呼ばれる特殊な魔術によってのみ操ることができる
聖遺物による攻撃は物理、魔術両面から防御しなければ防げない
出力は取り込んだ魂の量に比例する。魂は質も大きく関係する
簡単にいうと強い奴殺すほど強くなるけどスライムぷちぷち倒してもあんまり強くならない
実はアーネンエルベとルビが振られるけど大抵「せいいぶつ」って呼ばれる
レベルが4つに分類される。以下その説明
・活動
聖遺物の持つ特性を限定的に使用できる。一応ルビはアッシャーらしいけど一度も呼ばれたことがない
刃物であれば触れずに物体を切断するなど。幻想殺しで破壊可能
・形成
聖遺物を具現化し、使用者も超人的な身体能力などを得る
形成の仕方で人器融合型、武装具現型、事象展開型、特殊発現型の四つに分類される
読みはイェツラー。詠唱の時しか呼ばれない
・創造
聖遺物の超必。シュピーネさん以外はだいたいこのレベル
読みはブリアー。以下同文
・流出
最高位。いまだ前例なし
読みはアティルト。以下同文
・スワスチカ
大量の魂が散華し呪いの吹き溜まりとなった戦場跡
全八つ。現在二ヶ所が解放。閉鎖された研究施設、とある公園
・聖槍十三騎士団・黒円卓
変態ナチ将校の集い。人外魔境の集団。エイヴィヒカイトの使い手たち。Dies本編での敵キャラ
総勢十三名。現在半数以上が行方不明
聖遺物はぶっちゃけると宝具みたいな。通常状態は形成、真名解放が創造
強さ的にはシュピーネさんは黒円卓で最弱(笑)レベルですが、実際はレベル4上位~レベル5クラスを想定
肉体的にまだそこそこ人間しちゃってるのと、そもそも相手が一通だし
創造位階の団員は聖人とか神の右席とかとガチでやりあって勝てる程度
幹部クラスだと下手するとミーシャを真っ向から落としかねないくらいの強さだと思ってください。マジ無理ゲー
えーとあとなんかあったかな……
それではチャプター3、開演。のろのろと書いていきますよ
これが終わったあたりで一度きっちりとしたルール説明コーナーを
ところで13章にきっちり収まるようなプロット書いてないんだけど大丈夫か
「――――と、連絡は以上ですよー」
教室に砂糖菓子を転がしたような甘い声が響く。
教壇に立つ小さな担任教師は一度ぐるりと教室内を見回すと、
苦笑――というには余りに複雑な、感情の入り乱れた笑顔を彼女の生徒たちに向けた。
「この前の一件でちょっと冬休み開始が早くなりましたけど、休みだからってハメを外しすぎちゃダメですよ。
クリスマスとかお正月とか帰省とか色々イベントがありますけど、皆さんちゃんと宿題してきてくださいね?」
はーい、とクラスが唱和するが、頭から自重する気すらないのは火を見るよりも明らかだ。
下手に補導とかされて仕事を増やさないでくださいよーと月詠小萌は内心ごちた。
彼女のささやかな楽しみである晩酌はイコール車禁止。
アンチスキルに生徒が補導されれば彼女が迎えに行くしかないのだが、徒歩は色々と面倒だ。
だからといってビールを飲まないなどという選択肢もまた存在しないのだが。
「それじゃ私からは以上です。皆さんからは何かありますかー?」
「はいはーい。小萌センセー」
生徒の中でも一際目立つ頭、髪を真っ青に染めた少年が手を挙げた。
「さっきからずっとカミジョークンが爆睡してまーす」
『………………』
クラス中の視線が一点に集中する。
その先では黒いツンツンした髪の少年――上条当麻が机に突っ伏して眠っていた。
「…………」
月詠は知っている。
彼が昨夜、明け方まで病院にいた事。
彼の同居人であるシスターの少女。それが救急車で病院に担ぎ込まれたのだった。
それだけで彼の心中を察するには充分だ。
立場上怒らなければならないとは理解しても無理な話だ。
そのまま休んでしまえばいいのに律儀にこうして終業式に出席してくる辺りは可愛らしいとすら思うのだが。
心配なのはこちらもだ。目の前でこんな姿を見せられては心配するなという方が無理がある。
その辺りの機微までは考えが及ばないのが若さって物なんだろうなぁと月詠は少し自嘲的な事を考えて、
月詠「大丈夫ですよー。上条ちゃんには後で私がきっちりみっちりお説教しておきますから」
青髪「な、なにぃーッ!? 小萌先生のドキ☆ドキ課外授業~放課後二人の秘密のデート~』やてぇー!?」
土御門「おいおい後半AVだかエロゲーだかのタイトルみたいになっとるぜよ」
吹寄「アホだ。アホの塊だ……どうしてうちのクラスにはこう頭の狂った連中しかいないのよ」
姫神「一緒にされるのは。かなり心外。名誉毀損で訴えられるレベル」
月詠「もうお前らだまりやがれ☆ ですよー」
この調子だと年末年始もやっぱり忙しくなりそうだ。
月詠「それじゃあこれにて二学期終了です。皆さん、新学期に会いましょうー」
そう締めてホームルームを終わり、月詠は教壇の上に残っている書類を纏める。
背が低いので台に乗りながらだが。正直この姿は色々と切なくなるのだがいい加減に諦めはついている。
そんな感じでわたわたとプリント用紙を纏めていると、その上に別の紙が一枚滑り込んできた。
月詠「……ほえ?」
思わず妙な声を出したと自分でも呆れつつ視線を上げると、長身に青髪にピアスのクラス委員長が教壇越しに立っていた。
青髪「クリスマス会兼忘年会のご案内ー。どーせウチの連中、だーれもカレシカノジョいてへんからさ。
みんなで集まってぱーっとやろうって事になってな。先生も来てや? どうせ予定なんかあらへんやろ?」
月詠「……お酒はダメですよ」
青髪「分かってます、分かってますって。ボクらが大好きな小萌ちゃんに迷惑かけるはずあらへんやろ?」
月詠「ちゃん付け禁止ですーっ!」
両手を振り回して怒る月詠に青髪ピアスはからからと笑いながら逃げていく。
青髪「25日なー。あとカミやんにも渡しといて。それと月詠先生――愛しとるで」
月詠「こーらー!!」
青髪「はははっ。それじゃ、あでゅー♪」
そのまま瞬く間に逃げていく彼や、そんなやり取りを見てにやにやと笑い月詠に軽く手を振りながら教室を後にしていくクラスの面々を見て。
月詠「これじゃやっぱりちゃんと監督しに行かないと不安ですね……なんて」
幸いにも予定はない。
言ってて悲しくなるが。
――――――――――――――――――――
「ん……」
唐突に目が覚めた事を自覚する。
どうやら寝てしまっていたらしい。
昨日は徹夜をしてしまった。
学校にふらふらしながら登校したのは覚えているがその後が曖昧だ。
終業式だったし、相変わらずクソ長い校長の話は催眠効果全開で確実に爆睡してしまったのは間違いない。
ただ突っ伏した机の感触からしてどうやら教室までは辿り着いたようだ。
「起きましたかー?」
「……へ?」
声に視線を上げると、小萌先生の顔が目の前にあった。
超至近距離に。
「えっ、ちょ……うわああっ!?」
思わず跳ね起きて、そのままバランスを崩して後ろに倒れそうになる。
椅子ががったんばったんとけたたましい音を立てたがなんとか堪えた。
「もうホームルーム終わっちゃいましたよ」
呆れたように言う小萌先生は、でもどこか優しげだった。
俺の前の席、椅子に正座して背もたれに両手を乗せ、後ろ向きに俺の顔を覗きこんでいた。
見回せば教室には誰もいない。
残っているのは俺と先生だけだった。
上条「あー……ごめん。今何時?」
月詠「十二時過ぎ。お腹空かないんですか?」
言われてようやく自覚したのか腹の虫がぐぎゅるるーと鳴いた。
そういえば朝食もまともに食べてなかったっけ。
それが可笑しかったのか、小萌先生はくすくすと笑った。
月詠「上条ちゃん。ご飯はちゃんと食べなきゃダメですよ。元気が出ませんから。
元気が出ないと何事も上手く行きませんよ」
そんなお説教みたいな事を言ってくる先生は、それからふっと顔を曇らせた。
月詠「……シスターちゃんは大丈夫なのです?」
上条「ああ、うん。大丈夫。なんかよく分からないけどピンピンしてる」
月詠「それならいいのですけど……。……」
朧気ながら先生にはその事を話した記憶があった。
昨夜の一件。
インデックスが倒れ、救急車で運ばれ、それからあの公園で――。
上条「…………」
あの時公園に現れた金髪の神父は、絶対に何かを知っている様子だった。
その事を問い質したいのは山々だったし、あちらもそのつもりだったのだろう。
けれど俺はあえて後回しにした。
何よりもまずインデックスの様子が気がかりだったから。
美琴に付き添いを頼んでいる手前もある。
緊急事態だから学校の方からもやかましく言われはしないだろうが、それでも深夜に中学生の女の子に任せきりなのは気が引けた。
病院に急いで行って、美琴は返した。
何やら言いたげではあったのだけど俺は気付かないふりをしておいた。
常盤台の超電磁砲。超能力者第三位。
そうは言ってもやっぱり、年下の少女だ。実質的な実力は確かに伴っているのだろうが、それでもやっぱり。
……それからインデックスが目を覚ましたのは夜が明けるちょっと前だった。
あんなに苦しそうにしていたのは嘘のようで、いつもの調子の彼女に思わず泣きそうになったのは秘密。
いつものカエルみたいな顔をした医者に色々無理を言ってそのまま連れ帰り、そのまま折り返すように登校。
んでもって、体力的にも精神的にもいっぱいいっぱいだった俺はトドメの校長の長話で爆睡してしまったのだろう。
とまあ、昨夜からの顛末がそんな感じ。
月詠「……上条ちゃん」
背もたれに乗せた細い両腕の上に可愛らしい顎を乗せてこちらを見返してくる小萌先生。
その顔はどこか物憂げだった。
月詠「おバカで頑固ですけど一度決めた事は何があっても全力でやり遂げようとするその姿勢は上条ちゃんのいいところだと思ってます。
でも……先生は心配なのです。上条ちゃん、いつかそれで無理をしすぎて、……。
シスターちゃんも心配なのは分かりますけど……それで上条ちゃんがまいっちゃったら元も子もないんですから」
月詠「上条ちゃん、これだけは覚えていてください。
上条ちゃんを心配する人だって、上条ちゃんを大切だと思う人だっているんですから」
上条「……ごめん」
月詠「そこは『すみません』でしょう? いつも思うんですけど先生の事ちゃんと先生扱いしてくださいよ。
見た目はこんなですけど、先生は大人で、上条ちゃんはまだ子供で、先生と生徒なんですから」
はぁ……と溜め息をつき、小萌先生は「はい」とプリント用紙を俺の机の上に並べた。
月詠「配布プリントはこれだけ。ちゃんと目を通してくださいね? あと……」
上条「……何これ?」
月詠「クリスマス会兼忘年会のお知らせですって。うちのクラスの委員長はこういう事ばっかり精力的ですから」
上条「あー、青髪ピアスの野郎か」
無駄にカラフルに仕上げられた紙にはでかでかと『リア充参加禁止 爆発しろ!』と書かれている。
月詠「上条ちゃんも参加します?」
上条「…………」
少しだけ迷う。
インデックスの事や、あの蜘蛛男、そして神父。
明々後日のクリスマス会までに全部カタをつけられるだろうか。
そんな事を考えてから苦笑した。
今小萌先生に釘を刺されたばかりなのに、俺はやっぱりいつもみたいに面倒事に首を突っ込もうとしている。
……大丈夫。
クリスマスには何もかもが上手く行ってみんなで楽しく騒げるはずだ。
そうでなければ聖夜なんて誰も祝えない。
上条「インデックスも連れてっていいですかね」
月詠「どうせ幹事の事ですから『女の子は大歓迎やでー』とか言うに決まってます」
上条「それもそうか」
二人で笑った。
御坂にも声をかけてやってもいいかもしれない。アイツはアイツで用事があるかもしれないけど。
ただなんとなく――大勢で騒いだ方がきっと楽しいだろうと。そう思った。
――――――――――――――――――――
校門を出ると、見慣れた白い修道服の少女がそこにいた。
禁書「おっそーい! とうまってば一体何を油売ってたのかな!?」
上条「あー、悪い……忘れてた」
禁書「忘れてた!? 今忘れてたって言った!? この寒空の下にどれだけ待たせるつもりだったの!
寒かったんだよ凍え死ぬかと思ったんだよ! 『歩く教会』の防御機能はもうないって分かってるのねぇとうま!」
ぎゃんぎゃんと噛み付いてくるインデックス。
いつもどおり、日常の光景だ。昨夜のあの苦しみようは嘘みたいに。
一方「痴話喧嘩は後にしろ。こォ寒くちゃ敵わねェ。さっさと行くぞ」
少し離れたところ、フェンスに背を預けていた一方通行がこちらにイライラ度MAXの視線を向けてくる。
そういえばコイツもいたんだっけ。
手に持つコーヒーの空き缶を揺らしながら一方通行は。
一方「それで。あの胡散臭せェ神父が言ってた教会ってのはどこなンだ」
昨晩の公園。
黒い翼を翻す一方通行。
シュピーネを斃し、そこに現れたヴァレリア神父。
アイツが事件の鍵を握っている事くらい考えなくても分かる。
本当はその場で問い質してもよかったのだけど……倒れたインデックスが気がかりだった。
「ならば明日にでも。ご足労かとは思いますが教会までお越しください。
よろしければ昼食でもご一緒にいかがですか? 詳しいお話はその時にしましょう」
一方通行が言うように胡散臭い事には変わりないし、もしかしたら……考えたくはないが神父は敵なのかもしれない。
そういう疑心暗鬼に捕らわれる前に承諾した。とにかく何も分からないようじゃ話が進まない。
で、一方通行も一緒に行く事になって。
それと。
「あぁそうそう――できればあの禁書目録のお嬢さんも連れてきてください」
……正直気乗りはしない。
今はピンピンしてるとはいっても病み上がりだ。
そもそもが原因不明。いつまた苦しみだしてもおかしくはない。
さらに言うならその時インデックスはまだ病院にいて昏睡状態だったのだから。
もしかしてこうしてインデックスが何もなかったかのようにまで回復する事も全て折り込み済みだったのだろうか――
そんな事を回想しながら三人で歩く。
……あれ?
上条「なあ一方通行」
一方「ンだよ」
上条「オマエ、杖は?」
そう。アイツがいつも突いている妙な形をした杖がなかった。
右手にコーヒーの缶をぶら下げ、左手はポケットに突っ込んで普通に歩いている。
一方「あァ――昨日から身体能力が回復した」
上条「……はぁ!?」
おいおいちょっと待て。脳やられて能力使うどころか歩くのもままならない状態じゃなかったのかよ。
妹達に脳の演算補助をしてもらって一定時間だけ能力が使えるようにはなるとかは聞いてたけど、日常生活じゃ杖が欠かせなかったはずだ。
なのに今、コイツは普通に歩いている。
一方「聖遺物を形成した事が原因なンだろォな」
そう言って一方通行は首元のチョーカーみたいに見えるミサカネットワークとの通信装置を指差す。
一瞬、そこを小さな青白い雷光が走り抜けた。
上条「!?」
、 、 、 、 、
一方「……まァそういう事だ。内側の連中が電力補助してくれてるみたいなンでな。
常時能力の演算までするようなフル稼動はできねェが」
『内側の連中』
その言葉が指す者が誰なのかは容易に想像がついた。
彼の殺してきた『妹達』、一〇〇三一人。
シュピーネとかいう奴の言葉を鵜呑みにするならその魂は一方通行の中に吸収されている。
聖遺物の形成がそれを具現化する事を意味するのならば――同時に彼女たち、その能力を具現化することも可能なのだろう。
一方「…………」
その事をアイツがどう受け止めているのかは分からない。何せ自分が殺した相手だ。
アイツはそれを悔いているようではあるけど……それならなおの事、その魂を自分の内に実感して何も思わないでいられるはずがない。
そしてそんな相手が電力補助――補い助けてくれているのだというのならなおさらだ。
アイツは今どんな気持ちで歩いているのだろう。
真っ白な髪。真っ白な肌。血のように赤い瞳。
そしてあの漆黒の翼。
一方「寒みィなァ……」
ぽつりと、白い息と共に呟くと一方通行は空を見上げた。
つられて俺も見上げると、そこは分厚い雲に覆われていた。
一方「雪でも降りそォだ」
……もしそうなって、全てが真っ白に覆われてしまったら。
俺はそんな世界でコイツを見つけ出せるだろうか。
禁書「……降るといいな」
同じように空を見上げたインデックスが小さく言った。
上条「へ?」
禁書「雪だよ雪。降るといいな。だってほら、もうすぐクリスマスだし。そしたらホワイトクリスマスかも」
上条「……そういえばオマエって一応そっちの人でしたね」
禁書「本当にとうまは私をなんだと思ってるのかなぁあああ」
上条「ひいっすみませんシスター!」
一方「元気でいいなァオマエらは。羨ましいぜ、ったくよォ……」
上条「あ、そうだ」
ふと思いついてしまった。我ながら最悪の思いつきだ。
上条「オマエさ、明々後日ヒマ?」
一方「明々後日ェ? ……つったらオマエ、クリスマスじゃねェか」
上条「うん。だからみんなでぱーっと騒ごうぜって言ってんだけど、オマエも来いよ」
一方「……はァ? なンだって俺がそンなとこ行かなきゃならねェンだよ」
上条「打ち止めにメールしておこーっと」
一方「ばっ、止めろ! アイツに知らせるといらねェのまで付いてくるンだよ……!」
上条「送信ーっと」
我ながら華麗な指捌き。 シャイニングフィンガー
これはもはや一つの能力と呼んでもいいかもしれない。うむ、『閃光の指圧師』と名付けよう。
一方通行が制止する間もなく俺はメールをチビ御坂に送信する。
なんでアイツのメアドが登録されてるのかは推して知るべし。
一方「…………」
なんかすげー目で睨まれる。
だが大丈夫。大丈夫だ上条さん。
実はコイツ見かけによらず意外と押しに弱いのは知っている……!
禁書「また私だけ置いてけぼりなのかもー!?」
上条「いや、オマエも来いよって言われてるよ。来るだろ?」
禁書「! 行くっ!」
よし、これで場は味方につけた。
あとはインデックスが一方通行に聖女っぷりを遺憾なく発揮してくれれば万事解決。
禁書「あなたも一緒に行こうよ、クリスマスのお祝い。きっと楽しいから」
一方「だからなンで俺がそンなくだらねェ事に……」
……十分後。
インデックスの善意という名のごり押しに屈服した一方通行は、疲れきった表情でしぶしぶながらも承諾したのだった。
一旦休憩ー
そんなこんなで。
俺たちはなぜか左右を林に囲まれた道を歩いていた。
道はやや傾斜していて、この辺りは小さな丘のようになっているようだ。
学園都市らしからぬ地形に首を捻った。
上条「学園都市にこんなとこあったんだな」
一方「この辺りは前に諏訪池女学院があったとこだろ。なら何も不思議じゃねェ」
上条「……何それ」
一方「ミッション系のクソでかいお嬢様学校だよ。不祥事起こしてそのまま潰れちまったけどよ。
おおかた教会ってのもそこの礼拝堂か何かを転用したんだろ。
校舎があった辺りは再開発されたけどこの辺は手付かずだったってェわけだ」
一方「……だから意図的に開発しなかったンだろォよ」
上条「へ?」
禁書「あ、着いたかも!」
インデックスの声に前を見ると、唐突に林がなくなりそこには小さな教会が建っていた。
大きさは一軒家程度。俺の知っているものと比べると随分と小さい。もっとも俺の知っている教会なんて母数が知れてるんだけど。
扉の前に立ち、少し戸惑う。
インターホンがない。ノッカーもない。
このまま中に入っていいのだろうかと躊躇っていると。
ヴァレリア「ようこそ。お待ちしていましたよ」
教会の扉が開き、中からあの金髪神父が出てきた。
あまりにタイミングがよすぎる。カメラの類はまったく見当たらないというのに。
だとしたらやっぱりコイツは魔術師なのか――。
ヴァレリア「ささ、どうぞこちらへ。昼食は済まされましたか?
まだでしたら、昨日言ったようによろしければご一緒にいかがですか」
そう言ってヴァレリアは俺たちを奥に案内する。
インデックス、目を輝かせるな。俺たちの目的はそっちじゃない。
……ともあれ俺も腹が減っているのは確かなので素直にご馳走になる事にした。
毒とか入ってなきゃいいけど。
礼拝堂を奥へ進み、目立たぬよう隠すようにその隅にあった木製の扉を潜る。
こちらが裏側、生活区域なのだろう。狭い廊下を少し進むとまた扉。先を進むヴァレリアがノックして扉を開けた。
ヴァレリア「お客様がいらっしゃいましたよ。料理の準備はできていますか、リザ」
戸を開いた瞬間、なんとも言えない食欲をそそる匂いがした。
隣のインデックスはとっくに戦闘体制に入っている。頼むから暴走しないでくれよ。
部屋の中――食堂だろう、大きな机の上には所狭しと料理が並べられている。
そこと奥の厨房らしきところを忙しなく往復していた、リザと呼ばれたメガネのシスターがこちらを振り返り微笑んだ。
リザ「こんにちは。ちょうど出来上がったところですよ。
お腹空いたでしょ。ささ、座って座って」
上条「――!?」
で……でけぇ……!
いや、何がとはあえて言わない。だがこの俺の驚愕っぷりから察してほしい。
尼僧らしく黒っぽい修道服を着ているが、あるのとないのとではこうまで違うのか。
誰と比べているのかは彼女の名誉のために伏せておこう。だがこのシスター、オルソラ以上かもしれない……!
メガネの端から見える泣きぼくろもあってか随分とエロ……いや、これ以上は言うまい。上条さんは紳士なのだ。
玲愛「ちょっとリザー。フォークはどこに……あら」
厨房から顔を覗かせた昨日の少女……氷室だっけ? と目が合った。
玲愛「いらっしゃい。久し振り」
上条「昨日会ったばっかだけど」
玲愛「そうだっけ?」
すっとぼける氷室。
俺はにこやかに笑顔を返しながら全力でスルーした。
……こっちはインデックスよりは……うーん、どうだろう。
早くも食らいつきそうになっているインデックスをなんとか宥めながら席につく。
一方通行も、気だるげだが大人しく座った。
厨房から持ってきたフォークとナイフを氷室が順に並べてゆく。
そして俺のところまで来た時。
玲愛「警戒しないで」
そんな、言葉とは逆にどきりとするような事を言った。
玲愛「私もこの人たちも敵意はないわ」
一方「ンな事言っても信用できるかよ」
横から口を挟む一方通行。
玲愛「最初から君たちを殺すつもりならもうとっくにやってるわ。それくらいは分かってて言ってるでしょう?」
一方「…………」
玲愛「お腹空いてるとイライラするのよ。お行儀悪いと思うけど食べながら話しましょう」
ヴァレリア「ええそうですとも。食卓に諍いは持ち込まぬものです。
それにここは神の家なのですから。汝の隣人を愛せよと主は言われました」
そう言いながらいつのまにか厨房の方に消えていたヴァレリアがひょっこり戻ってくる。
玲愛「……ねえ神父様。その手に持っているものは何かしら」
ヴァレリア「てっテレジア! 間違えないで下さい! ジュースですよジュース! まさか真昼間から呑むはずがないでしょう!?」
玲愛「じゃあお客様たちにもお出しして」
ヴァレリア「……取り替えてきます」
ああ、確かにこの人たちは何かするつもりはなさそうだ。
大変だなぁあの人も……。
――――――――――
ヴァレリア「さて――何からお話しましょうか」
唐突にそんな事を言われて一瞬何の事だか分からなかった。
禁書「むっ……!」
上条「ああっ俺の鶏肉っ! おいテメ、インデックス! 今日という今日は許さねえぞ!」
禁書「ふっふーん。世の中常に弱肉強食っ。隙を見せるとうまが悪いんだよ!」
上条「ならテメエこいつは俺が頂いてもいいっていうんだなっ!」
禁書「あああっ私のソーセージがーっ!?」
ヴァレリア「……あのー。お話してもよろしいですか」
玲愛「なんか懐かしいようなそうでないような」
リザ「賑やかでいいわねえ」
氷室とリザは何やら楽しげだが、その一方で。
一方「あー……すっげェ帰りてェ……」
一方通行が虚空を仰いでそんな事を言っていた気がするけど気のせいだろう。たぶん。
俺とインデックスの攻防がとりあえず収まったのは結構後になってからだった。
というのも、テーブルの上に料理がなくなったからで。
リザ「そんなに美味しそうに食べてもらえて、作った方としても嬉しいわぁ」
上条「いやほんと、ご馳走様。マジ美味かったです」
なんだろう。高級レストランのようなそういう美味しさではなくて。
……もしかしたらおふくろの味ってのに近いかもしれない。そういう素朴で家庭的な味だった。
日本料理じゃないからわりと適当に言ってるけど。そもそも俺おふくろの味なんて記憶がないし。
一方「もォ少し遠慮ってもンをしろよ。猿みたいにがっついてンじゃねェ」
上条「そういうオマエこそ黙々と食べてたじゃん」
一方「…………」
俺の指摘に目を逸らす一方通行。
もしかしてコイツ、図星を突かれて照れてるんだろうか。
だとしたらあまりに貴重なシーンだ。俺は全力で記憶のアルバムに永久保存版として焼き付ける。
空になった食器を片付ける氷室を手伝おうと声をかけたけど客は黙って座ってろと一蹴された。
ならお言葉に甘えてこの至福感にしばらく浸らせてもらおう。
ヴァレリア「あのー……そろそろお話、してもいいですか……?」
……すっかり忘れてた。
さて、何を聞こう。質問の内容考え中
「では改めて自己紹介を」
ヴァレリアは少し考えてからそう切り出した。
「私はヴァレリア・トリファ。こちらはリザ・ブレンナー。そしてテレジア……氷室玲愛」
「よろしく」
「……どうも」
笑顔を向けるリザに俺はどう返していいのか戸惑って、結局そんな言葉で返した。
「リザ、テレジア。こちらはイギリス清教のシスター・インデックス。それと上条当麻さん。それからええと……」
「一方通行だ。そォ呼ばれてる」
目を瞑り腕組みしたまま無愛想に答える一方通行。
オマエもう少し愛想よくしたらどうだ、と言ったところで聞く耳持たないのは分かっているので放っておく。
「面倒臭せェ前置きはいい。こっちから質問させてもらう」
「どうぞ。私も何から話していいのか困っていたところです」
「じゃァ聞くがよ……オマエらはなにもンだ。それと昨日のアイツ。聖遺物ってのは」
「昨日の……?」
一方通行の言葉にインデックスが首を傾げる。
昨日の公園での一件についてはまだコイツに話してなかった。
「ふむ。では順を追って説明しましょう」
頷き、ヴァレリアは一度手元のグラス(ぶどうジュースだ)に口を付けた。
「私と、そしてシスター・リザは見てのとおり十字教の者です。
お察しのとおり、学園都市外部の者です。
ルーマニア十字静教……もっとも国籍自体はドイツにあるはずですが」
「はず……?」
ヴァレリアの言葉に引っかかりを覚えながらも俺は小さく呟くだけに止めた。
「そしてそれらは表向きの、名だけ借りたに過ぎない隠れ蓑です」
「っ……!」
インデックスの顔が若干険しくなる。
そう。十字教の関係者だと言い、それすらも仮の顔だというのなら。
「我々が属する組織の名は『聖槍十三騎士団』。
……インデックスさんには『L∴D∴O』と言った方が分かりやすいでしょうか」
「ろっ……ロンギヌス・サーティーン……っ!?」
「オマエ、知ってるのか?」
「……第二次大戦中のドイツにあった魔術結社だよ。ナチスの中核、親衛隊の暗部。
科学と魔術の融合なんてトンデモ理論を構築しようとしてたんだけど……もちろん大失敗。
結局、大戦の終結と一緒に粛清されて解体。……されたんだけど」
一度言葉を切り、インデックスは続ける。
「一応、表向きの歴史的にはそういう感じなんだけど。
そのさらに裏、実はちょっと冗談じゃないレベルの魔術師でね。大戦終結のどさくさに紛れて姿を消したんだよ」
「冗談じゃないって……神の右席みたいな?」
「……下手をすると、それ以上」
……あ、今俺の顔引きつった。
十字教の最大宗派ローマ正教を実質牛耳っていた四人の超魔術師。
ヴェント。テッラ。アックア。そしてフィアンマ。
インデックスが言うからには……うん、認めたくないけど事実なんだろう。
「待て。神の右席ってあれだろ。ロシアで馬鹿でかいの飛ばしてた連中」
横から口を挟んだ一方通行に俺とインデックスは揃って頷く。
「こォ言っちゃなンだが、昨日のアイツはザコもいいとこだったぞ。
あれと同等? それ以上? 馬鹿言え。あンなのがあれ以上なはずがあるか」
「ええ確かに。あんなものでは済まない」
それを遮るヴァレリア神父。
彼は首を振って話を続けた。
「なに!? もしかしてとうまってばまた一人で戦ってたの!?
しかも相手は『L∴D∴O』っ!? そんなに、そんなに死に急ぎたいのかなーっ!?」
「待てインデックス。襟を絞めるな。死ぬ。今この場で俺が死ぬ。そして一人じゃなくて斃したのは一方通行だ」
がくがくと俺を揺さぶりまくるインデックスをなんとか宥めようとする。
視界の端で一方通行が「コイツらは放っておけ」とばかりにあちらの三人に手を振っているのが見えた。おのれ裏切り者。
なんとかインデックスの熱烈な抱擁から脱出するまで話の続きは待っててくれた。
だけど、だからといって誰も助けてくれなかった。ちくしょう教会だってのに神はいないのか。
こほん、と一つ咳払いをしてヴァレリアがようやく話を続ける。
「昨夜あなたがたが戦った彼……ロート・シュピーネ。
彼もまた聖槍十三騎士団の十三人……我々は黒円卓と呼んでいますが、その一席です。
しかし……こう言ってはなんですが」
「ぶっちゃけ、かなり弱い。ザコ」
氷室がぶっちゃけた。
すっげーぶっちゃけた。
弱いって言っちゃったよ。ザコって断言しちゃったよ。
……あれ?
「待てよ。その清掃……なんだっけ?」
「聖槍十三騎士団。英語だとロンギヌス・サーティーン・オーダー。
ドイツ語だとロンギヌス・ドライツェーン・オルデン。どれがいい?」
あ、なんか馬鹿にされた気がする。
俺を心なしか小馬鹿にしたような顔で見る氷室に視線を向けず俺は頭を掻いた。
「その騎士団って、アンタらもなんだろ。昨日の奴の……仲間なのか」
そんな俺の質問に、あちらの三人は顔を見合わせ、それから揃って首を捻った。
「仲間……とは言い難いですね」
「私、実は彼の事あんまり好きじゃなかったのよね。なんか生理的に受け付けないっていうか」
「っていうか私は、そもそも入団した覚えがない」
……あっれー?
なんだろうこの色々ぶっちゃけた感じは。
結構、かなり重大な話をしてる気はするんだけどなんだかノリがおかしい。
「実を言うとですね。私もリザも黒円卓に席を持つ者なんですよ」
「ああ。今それ聞いたから。アンタさっきそう言ったよな」
「黒円卓云々は言ってなかったと思うのですが……」
「いいからとっとと話を進めろ。ブチ殺すぞ」
一方通行がキレかけていた。
話の途中ですが今日はここまで
……ついてこれてる?
「実際私たち……ああ、テレジアは含みませんが、私とリザは黒円卓に在席していた過去を持っています」
「過去? って事はもうアンタらはその黒円卓とかいうのを抜けたって事でいいのか?」
「正確には抜けようとしている……と表現した方が適切なのでしょうね。
私たちは数年前、とある街で魔術儀式を行い、そこの住人を殺戮したのですから。この事実はどう足掻いても拭えません」
神父の言葉に場の空気が一気に下がった。
殺戮、というからには一人や二人ではないのだろう。
何十人、下手をすると何百人という単位で殺人を行っている。
それも一般人、平和に暮らしていたであろう民間人を相手に。
けれど……
「その魔術儀式は、ある一人の若者によって打ち砕かれました。
我々と、そして一方通行さん、あなたと同じく聖遺物を持ちながら黒円卓の意に従わぬ若者によって」
ヴァレリアの言葉を聴きながら氷室は目を閉じ、リザはどこか懐かしむようにどこかを見詰めている。
ああそうか、コイツらは……
「言うなれば私は彼の魂に打ちのめされたのですよ。
改心した……というとおこがましいにもほどがありますが、私はそれを期に黒円卓に叛意を翻した。そしてリザも。
腐り堕落しきろうともこの身は聖職者なれば。私利私欲のために幼子を手に掛けるなど言語道断。
愛し子を抱くためにこそこの腕はあるというのに、ましてその血で濡らす事などあってはならない。
……そんな簡単な事に六十年以上経ってようやく愚僧は気付いたのですよ」
懺悔するようにヴァレリアが吐く言葉はきっと嘘じゃないだろう。
彼の姿は見るからに、どうしようもなく小さなものに見えた。
小物……というと語弊があるだろうが、何の力も持たない凡百などこにでもいるような哀れな神父にしか見えなかった。
違和感は拭いきれていないがきっとそれは彼の本心だろう。
そうであると信じたい。
「……あれ?」
一つ、なんか今凄い事言ったような。
いや殺戮だのなんだのとかなり物騒な事を言っていたのも確かなのだけどそれとは別に。
「………………六十年、以上? 経って?」
「はい。私もリザも、黒円卓創立時からのメンバーですから。あなた方からすれば相当のジジババでしょうね」
……え。
見た目、せいぜい三十前後くらいにしか見えない神父が?
んでこの随分とえr……若々しく見えるシスターも?
恐る恐るそちらを見るとリザは苦々しく笑って。
「ごめんね。曾孫もいるの」
「………………詐欺だーっ!!」
って事は何か。
氷室もアンタ俺らと同じくらいに見えるけど実は。
「私は違うから。一緒にしないで」
俺の視線に不貞腐れたような顔で返しながら氷室がぼそりと呟いた。
「もォいいからオマエは黙ってろよ。話が進まねェ」
苛立ちが最高潮に達している一方通行から殺気じみたものが発していた。
これ以上コイツを怒らせるとマジで黒翼が生えかねないので俺は大人しく貝のように口を噤んでおくことにする。
「黒円卓云々が何かってのはこの際どォでもいい。こっちの質問は三つ。
オマエらの目的、アイツらの目的、それと聖遺物ってのはなンだ。簡潔に答えろ」
「我々、私とリザの目的は、黒円卓の目的の妨害及び阻止。
彼らここにいる私たち三人を除く黒円卓の目的は、以前阻害されたと言いました魔術儀式の再執行。
聖遺物とは魔道の究極兵器……としか言い様がありませんね。これ以上はどうしても細かくなります」
「魔術儀式ってのは」
「黒円卓を率いる首領閣下の降臨。そのための下ごしらえといったところですか。
少々クセがありすぎるお方でして、いろいろと場を整えねば表に出てこれないのですよ」
「儀式の実行方法」
「街の地脈……ええと、大地を流れる霊的なエネルギーの流れだと思ってください。
その要所要所で大量殺戮を行い、戦場跡を作り出す。
それにより方陣を描き、首領閣下を召喚する。大まかに説明するとそんな感じです」
「……ふむ」
小さく呟き一方通行は瞑黙する。
それから少しだけ何かを考えてから。
「その首領閣下ってのは何者だ。ソイツが出てくると何がマズい。
オマエらが必死に阻止しよォとするンだから何か相当のもンがあるンだろォ」
一方通行の問いにヴァレリアは少しの沈黙の後、重々しく溜め息をついた。
「黒円卓の第一位、首領閣下は――文字通りの最強。三千世界の頂点に君臨する実力をお持ちの方です。
いわば万物の頂点。地球規模などという言葉も足りない、森羅万象全てに勝る圧倒的な力を持っています」
「……はァ?」
あまりに突然の突飛な発言に一方通行はもちろん俺も眉をひそめる。
最強なら今目の前にいる。一方通行がそれだ。
あらゆる力のベクトルを意のままに操る学園都市最強……いや、物理法則すら捻じ伏せる力を持っている。
その彼を前にして最強という言葉はあまりに……なんというか絵空物語の一語にすら聞こえる。
「詳しい説明は省きます。ただ純然たる事実として『そういうものだ』と受け止めてください。
あの方は想像をはるかに超えた存在なのです。あの方の前では、そう。神であろうとも赤子同然だ」
「ふざけてンのか」
「ふざけてなどいません。手に入れた者は世界を支配すると云われた運命の聖槍、その正統後継者たる破壊の君。
黄金の獣、第三帝国の首切り役人、黒太子――その名に冠された異名は多々あれどどれも本質の一端すら捉えていない。
人界に現れた絶対普遍の黄金率。大ドイツ帝国秘密警察ゲシュタポ総帥大将その人にして聖槍十三騎士団を率いる首領閣下……」
ヴァレリアは、ああ、とどこか嘆くようにその名を口にした。
メフィストフェレス
「黒円卓第一位、『愛すべからざる光』――ラインハルト・トリスタン・オイゲ・ハイドリヒ。それがあの方の名です」
その言葉が紡がれた瞬間。
俺の隣に座っていたインデックスが口に含んでいたぶどうジュースを盛大に噴き出した。
「げほっ、ごほっ、ごほっ!」
「お、おいインデックス……?」
まさかインデックスが一度口に入れたものを吐き出すだなんて……!
などという戯言はおいといて、この反応は尋常じゃないのは俺にだって分かる。
こと魔術だとかそういうものに関しては圧倒的な知識量を誇る歩く魔道図書館。
意外ととんでもない事でもそれなりに平静に対応する彼女のこんな反応はいまだかつてない。
「ら、ラインハルト・ハイドリヒ……!?」
「知ってるのか?」
「知ってるも何も、本当にラインハルトだとしたらその人のいう事は全部本当なんだよ!
冗談じゃないかも。もしそうだとしたら、比喩じゃなく世界が終わりかねないかも……!」
俺と一方通行の表情が凍り付いた。
……え、まじで?
場を和ませようとする小粋なジョークの類ではなく?
「私も断片的にしか知らないけど……うん」
そう言って俯くインデックスの表情はなんだか……端的に表現するなら絶望的だった。
長い沈黙。
それを破ったのはやっぱり一方通行だった。
「……まァオマエの話がどこまで本当かは分からねェが。
その儀式とやらを完遂させられると超弩級のバケモノが出てくるって認識でいいンだな」
「ええ。まったく間違いありません」
「世界が終わる、ねェ……どこの漫画だか知らねェが少なくともそォ言われるくらいの事は起きるんだろォよ。
だとしたら。あァそォだ、冗談じゃねェ。ンなわけの分からないヤツに出てこられてたまるか」
それは俺もまったくの同意。
昨日のアレがザコだと言い、その上で最悪最強のバケモノだと言うのなら。
事実、世界が終わるという表現が的外れなはずがない。
だったらそれは絶対的な不幸の塊だ。
もはやそれは人ではない。害悪にしかならない悪魔の類。
あの黄金の瞳に睨まれただけで誰だろうと身動き一つ取れなくなる絶対的な――
「――――あ」
と。インデックスがぽつりと、声を漏らした。
それからゆっくりと顔を上げる。
表情は引きつっている。まるで悪魔か幽霊でも目にしたかのような表情で視線を向け。
「あ、あああ、ああああああ……」
震える指で神父を差す。
「ら…………ライン、ハルト……かも」
…………。
………………。
「「なにィいいいいいッッ!?」」
おいちょっと待て、どういう事だ。
インデックスが指差したのはヴァレリア神父。
それを彼女はラインハルトだと言う。
インデックスは絶対記憶能力を持っている。
その彼女が人を見間違えるなど絶対にあり得ない。
昨日言っていたどこかで見た気がするという言葉は間違ってなかったのだ。
説明が真実ならラインハルトっていうのはナチスの高官で、写真の一枚や二枚あってもおかしくない
それをインデックスが目にした事があったのなら――
「おいテメエ言ってる事が違うじゃねえか!」
「あァ同感だな。ラインハルトとやらを引っ張り出すのがアイツらの目的じゃなかったのか」
「落ち着いてくださいお二人とも。こちらにも少し事情があるんです」
椅子を蹴り立ち上がった俺と一方通行を慌てて宥める神父。
「私は首領閣下ではない。が、しかし。確かにこの身は間違いなくハイドリヒ閣下のものです。
ですからインデックスさんが仰った事は間違いではないですし、私の言っている事もまた事実なのです」
「何をワケ分かンねェことをゴチャゴチャと……!」
「……いや待て一方通行」
聞く耳持とうとしない一方通行を制する。
確かにあまりにも理不尽な、苦し紛れの言い訳にもならないような言葉だったが俺はそれに引っ掛かりを覚えた。
「なぁ、そのハイドリヒって奴を召喚するって言ってたよな。
だったら……ソイツは今、一体どこにいるっていうんだ」
俺の問いにヴァレリアは「少々抽象的な表現になりますが……」と前置きして。
「この世界を水槽のようなものだと考えてください。我々はそこに住む魚だ。水槽の中からは外の様子は見えません。
そしてハイドリヒ閣下は水槽の水面の向こう側……肉体だけを水槽の中に残して魂を一つ上の位相へに飛ばしておられるのです」
「じゃあ召喚っていうのは……その、上にいるラインハルトが水槽の中に墜ちてくるって事なのか」
「然り。水槽全体の容量をはるかに超える莫大な質量を伴って。ともなれば水槽の外枠ごと破壊せんほどの」
直感的に俺の知っているそれと繋がった事を理解する。
神父の言っている事は筋が通っているのだ。
それを俺は体験として知っている。
肉体と魂の交換。
上位位相からの墜落。
圧倒的な質量を持つ存在。
これはまるで――
「『御使堕し』じゃねえか……」
ただ俺が知っているのと違う点があるとすれば。
墜ちてくるのは天使ではなく悪魔だって事だ。
休憩兼設定を再度まとめつつ
説明パート長いなぁ……ぶっちゃけ端折りたい
「…………」
俺の言葉は一方通行には理解できなかっただろう。
だが、俺の言っている事の本質的な根本の部分を察する程度にはコイツの頭の回転は速い。
チッ、と舌打ちして一方通行は椅子に座りなおした。
「色々と理解の範疇を超えてるが……おいどォなンだ専門家」
「え、私!?」
話を振られインデックスが素っ頓狂な声を上げる。
「オマエ以外に誰がいる禁書目録」
「……理屈の上では可能、かも」
「随分と曖昧な答えだなァ」
「私もちょっとにわかには信じがたいんだよ。既存の魔術体系とか理論とか、ほとんど無視してるようなものだから。
新しい魔術理論……ううん、もしかするとこれは……」
考え込むようにインデックスは数呼吸分沈黙した後尋ねる。
「ヴァレリア神父。この術を組んだのは誰?
こんな魔術の常識すら無視してるような術を、言っちゃ悪いけどその辺の魔術師が組めるはずがないんだよ」
インデックスの言葉にヴァレリアは頷き、柔和な顔を崩してどこか忌々しげにその名を告げた。
「黒円卓第十三位、副首領カール・エルンスト・クラフト。ラインハルト閣下の盟友にして稀代の天才魔術師その人です」
「……もー何が出てきても驚かないかも」
「また知ってる奴?」
脱力して天井を見上げるインデックス。
彼女は思いっきり嫌そうな溜め息をつくと視線をそのままに口を開く。
「何度か歴史に登場する実在のトリックスターって言ったら的確かも。
カリオストロ、ノストラダムス、パラケルスス、ローゼンクロイツ、それに偉大なるヘルメス……
名前も場所も、歴史上の時間軸もばらばらだけど同一人物じゃないかって言われてる人。
既存の魔術体系は全部この人が作ったって言っても過言じゃないんだよ……本当にこの人なの?」
「ええ。私も魔術には明るくはないのですが間違いないでしょう。
あの方であれば何をしていてもおかしくはない。比喩ではなく、そのままの意味で」
「うわーやっぱり本人なんだー……」
端から見ていてもインデックスの様子から大体分かった。
もう笑うしかないような、冗談で済んでほしいレベルの存在らしい。
「そんなに無茶苦茶なヤツなのか」
「私の頭の中にある魔道書、そのほとんど……九割くらいは彼が書いたものなんだよ」
どれくらい凄いかがなんとなく分かった。
「……マジで笑えねえぞ」
そんな中、一方通行が小さく呟く。
「……なンとなく話が見えてきた」
「え?」
俺の言葉を無視して一方通行は神父に質問を続ける。
「おい。オマエらの目的はソイツらの妨害だって言ってたよなァ。だったらどうやって食い止める。
こォして暢気に喋ってンだ。ソイツが出張ってくるまでまだ猶予はあるンだろ。
そンなヤツに出てこられたら俺だって迷惑なンだ。不本意だが協力してやる。さっさと手の内晒しやがれ」
……驚いた。
あの一方通行が、対人関係最悪の口を開けば暴言しか出てこないような一方通行が。
その口から協力するなんて言葉が出るだなんて想像だにしなかった。
「私の方からも是非ともお願いします。そしてインデックスさん、あなたにも」
「え、私っ!?」
「こちらは戦力にも知識にも不足しています。
リザも聖遺物を扱えるとはいえ、正直に申し上げて戦力とは言いがたい。テレジアに至っては論外と言ってもいい。
加えて私はこのように首領閣下の器を借り受けている身ですので。一応切り札もありますが……あまり好んで使える代物ではありません」
苦笑するリザとジト目で神父を睨む氷室。
そんな彼女らを横目に一方通行はぼそりと呟く。
「あァ……ますます嫌な予感がしやがる」
「え?」
「なンでもねェよ。続けろ」
「この術には前例が二つ。
一つは一九四五年、ベルリンで首領閣下が『城』を飛ばされた際に行ったもの。
もう一つは二〇〇六年。日本、諏訪原市で行われた、前回の儀式。もっともこれは失敗に終わりましたが」
「ストップ。また知らねェ単語が出てきたな。『城』ってなンだ」
「ラインハルト閣下の力を存分に引き出すことができる場……と表現すればいいでしょうか。
先ほどの例で言えば水面上に船を引き上げる儀式がそれだったと言えば分かりやすいですかね。
その船に現在閣下は他の団員と共に乗っておられるのです」
「他の団員……?」
「ええ。昨日あなたが戦ったでしょう?
……と、また話が逸れる。先に続きを説明しましょうか。
以上二例から鑑みて、都市規模の巨大な儀式場の上に八点の場を開放するのが儀式の内容です。
我々はスワスチカと呼んでいますが、大量の魂が散ったいわば戦場跡です。
それが八つ揃った時に儀式は完成し、ラインハルト閣下の乗った船が水面下に堕ちてくる……」
「要するにそのスワスチカってのを作らせなければいいのか」
「ええ。ですが、幾つか問題があります」
ヴァレリアは指を順番に立てながら答える。
「一つ。スワスチカとなりうる場所が不明。まずそこを抑えなければ始まりません。
インデックスさんの協力が欲しいと言ったのはこのためです。無理な相談だとは思いますが、なんとかして特定してもらえないでしょうか」
「うぐ……がんばってみる」
言葉を詰まらせながら答えるインデックス。
魔術の知識に関しては多分世界屈指どころかトップかもしれないインデックスだ。
その彼女がこんな顔をするんだから……よっぽど訳が分からない代物なんだろう。
「二つ。場所を特定できたとして、スワスチカが開くのを止める手段がほとんどない事」
「……どォいう意味だそりゃァ」
「魂が大量に散った場所、と言ったでしょう? あちらはそこで大量殺戮を行えばいい。
対しこちらは、あちらを殺せない。聖遺物とは魂を大量にストックする蓄電器のようなものです。
昨日あなたがシュピーネを殺した事であの公園のスワスチカは開いた。彼と彼の内に取り込まれていた大量の魂によって」
「放置はできねェ、止めもできねェ、か。なら他の場所で殺すのはどォだ」
「無理でしょうね。彼らは昨日のシュピーネの例から見て、実体を持って顕現した魂……いわば聖遺物そのものです。
本来であれば首領閣下と共に城に封ぜられているようなものです。
それが降りてくるのであれば、閣下が通れる大きさではないにしろ経路は開いている。当然、ピンポイントでスワスチカに現れるでしょう」
だんだん話しに付いていけなくなってきた。
インデックスはともかく一方通行は理解しているのだろうか。
もっともコイツは学園都市第一位、この街で最高の頭脳だ。
魔術だろうがなんだろうが常識のフィルタをとっぱらえば理解するのは容易いのかもしれない。
はぁ……と一人蚊帳の外みたいな心境で溜め息をついてぽつりとこぼした。
「しかしさっきから殺すだのなんだのと物騒だなあ……もうちょっと平和的に行かないもんかね」
ともすれば一方通行に「オマエは馬鹿か? 死ぬのか?」などと言われそうな呟きだったが、
意外な事にアイツは俺の言葉に乗ってくれた。
「あァ。コイツの言うように殺さずに取り押さえる、ないし懐柔するのはどうなンだ」
「ええ。それが私たちの対抗策です」
あれ?
自分で言っておいてなんだけど、他のが昨日のと同じようなヤツなら不可能に思えてたのに神父はあっさりと頷いた。
「城にいると思われる団員は十一名。
その内、双首領と幹部である大隊長お三方は恐らく出てこれません。
スワスチカが開くたびに城門が開かれてゆく……と言えばいいでしょうか。
なまじ強大すぎるがために門の幅が狭いうちはおいそれと通り抜けられない。
最低でも半分、スワスチカが四つ開かねば大隊長は出てこれぬでしょう。
そして残る六名のうち一人は城の核として動けぬ身です。そして一人は昨日あなたが斃したロート・シュピーネ。
ならば残る四人。カイン、ベイ、ヴァルキュリア、マレウス。これらの内の可能な限りをこちらに抱き込む。
……と簡単に言ってしまっていますが、基本的にこちらの言う事には聞く耳持ってくれないと思ったほうがいいでしょうね。
むしろ彼らにとっては私やリザの方が背信者です」
「御託はいい。勝算は」
「よくて三割」
「十分だ」
頷いて、一方通行は体が凝ってきたのか首を曲げ肩を回したりしながら言う。
「用は言う事聞かないヤツは叩きのめしてやればいいンだろォ。可能なら殺さずに。
面倒臭せェが……まァやれねェ事もねェだろォ」
……一体コイツの自信はどこから湧いてくるんだろうか。
半ば呆れながらも我が身が可愛いので俺は黙っておいた。
「しかし、三つ目の問題があります」
「あン……?」
ヴァレリアの立てた三本目の指に一方通行は眉をひそめた。
「昨晩開いたスワスチカは二つ。
一つはシュピーネが顕現し、あなたたちがそれを斃した公園。そしてもう一つは……」
「! あの研究所か……!」
インデックスが瘴気に当てられ倒れたあの研究所。
つまりあのとんでもなく気持ち悪い気配の正体はコイツらの言うスワスチカってヤツが開いたからなんだろう。
「ええ。何が研究されていたのかは知りませんが、あそこでは大量に人が死んでいるはずです」
「…………」
思い当たる節が……あるのだろう。
一方通行は僅かに表情を曇らせたが何も言わなかった。
「故に自動的に開いた。新たに誰かが散ったでもなく。
恐らく昨晩、先ほどあげた四人の内の誰かがあそこに顕現した。それを引き金に元々適正があったスワスチカが開いた。
本命の儀式場が諏訪原市だった以上こちらは予備のような扱いになるのでしょう。
が、でしたら少々勝手が違うのも頷ける。手前味噌ではありますが気配を察知するのは私も得意です。
その私が発見できなかったのですから……恐らくは団員の顕現と共にスワスチカの素質を持った場がスワスチカになる準備をする。
そこで既に大量の死があったのならば即座にスワスチカが開いてしまう。と、そう考えていいはずです」
……えーと。
よく分からない話をなんとか頭の中で整理しようとしている俺を見かねたのか一方通行が噛み砕いて説明してくれた。
「魂を電池、スワスチカが開くのを電球が点くもンだと考えろ。
普段はスイッチが入ってねェが奴らの誰かが出てくるとスイッチが入る。
神父はスイッチが入った状態なら明かりがついてなくてもその装置に気付けるが、オフ状態だと見分けがつかねェ。
すでに電池がセットされている状態ならスイッチが入れられた瞬間に明かりが点く。
セットされてなけりゃァ、あとから十分な量を突っ込んだ時点で点灯する」
「あー……なんとなく分かった気がする」
こういう辺りコイツはさすがだなあと思うのだけど。
これでもう少し人当たりがよければいいのに。もったいない。
もしそんな事があれば宿題を手伝ってもらったりできるかもしれないのに。
と我ながら小市民的な事を考えているうちに話が先に進む。
「三つ目の問題はそれです。既に大量の魂が散っているところがいまだ活性化していないスワスチカ上に存在する可能性。
それと昨晩、一方通行さんの言うところの『スイッチ』がもう一つ入った気配があります。
繁華街のあたりですが、スワスチカが開いた様子はありません。ですが誰かが現れたのは間違いないでしょう」
そう言ってヴァレリアはさらに指を立てる。
「そして四つ目。先に開いた研究所と、繁華街とに現れたはずの二名の行方が知れません。
……まぁ大体誰なのかは見当がつくのですが。しかし不安要素としては十分です」
「つまり何か。この街に、今この瞬間にも辺り構わずぶち殺しまくるかもしれねェ連中が歩き回ってるって事かよ」
……そいつは随分と、ぞっとしない話だ。
――――――――――――――――――――
禁書「うーん、参考になりそうな文献が少なすぎるかも……
魔道書の知識と照らし合わせてもこれ、無茶苦茶すぎるよう」
ヴァレリア「弱りましたね……私も魔術に関しては付け焼刃もいいところなので。マレウスならばそれなりに理解できるのでしょうが」
禁書「ねえ、その諏訪原市の地図ってある?
とりあえず過去の事例と対応させてみるからスワスチカになった場所を教えてもらえると助かるかも」
そんな声を後ろに聞きながら俺は厨房で皿洗いしてたりする。
はっきり言って手持ち無沙汰なのだ。
魔術に関しては何も分からないし、かといって一方通行のように黙って椅子に座ったままというのも気が引ける。
リザ「別にお客様なんだから気を使わなくてもいいのに」
上条「いや、あっちにいるとアイツの不機嫌オーラが痛いと言うか……」
そんな理由もあって逃げてきたという理由もある。
まさかこのままインデックスを置いて帰るわけにもいかないし。
玲愛「君も大変だね」
そう言う氷室の顔は、ぜんぜん、これっぽっちもそんな事を思っているようには見えなかった。
むしろ楽しんでいるようにすら見える。
ええ、どうせ俺の不幸は今に始まった事じゃないし、端から見ればエンターテイメントみたいなもんだろう。
しかしあえてこっちに来たのにも理由がある。
こっそりと女性陣二人と仲良くなってあの料理の味を伝授してもらうのだ!
そして美琴に……っ! 昨日のあのドヤ顔を打ち崩してくれる……!
そこまで考えて、俺は彼女の事を思い出す。
昨日の病院の一件から連絡を取ってない。
別に忘れてたというわけではなく、取る暇もなかったのだ。
インデックスが大丈夫だと分かってから、医者に直談判して、寮にインデックスを連れ帰ってそのまま学校に直行。
そして爆睡。目が覚めたら覚めたで教会に直行だ。
いい加減にメールの一つでも打ってやらないとあっちから電話がかかってきかねない。
二人に断ってポチポチと携帯を打っていると、横から氷室が覗き込んできた。
上条「……なんだよ」
玲愛「カノジョ?」
またまた、ご冗談を。
上条「ちげーよ。確かに生物学上は女性に分類されるかもしれないけど。
会うたびにギャンギャン突っかかってくる腐れ縁みたいな奴だよ」
玲愛「ふーん……それって普通に考えて、君に気があるってことじゃないのかなと思うんだけど」
上条「アイツが? ないない。だって事あるごとにケンカ吹っかけてくるような奴なんだぜ?」
玲愛「それを俗にツンデレというのです。私の後輩にも一人いたからよく分かるよ」
上条「はぁ……」
玲愛「ちなみに私の恋敵」
上条「いや聞いてねーし」
リザ「なになに? コイバナ? お姉さんも混ぜてくれないかしら」
玲愛「リザ。あなた、自分でお姉さんって言うのもそろそろ厳しいと思わないの。上条君にはさっきので実年齢バレてるし」
リザ「……じゃあお婆ちゃん」
玲愛「開き直るのもやめて。お願いだから」
……曾孫いるとか言ってたっけ、この人。
見た目二十代にしか見えないだけに実感が持てない。
魔術なんて俺からしてみればどれも似たようなトンデモない代物だから何がどうなってたって不思議じゃないんだろうけど。
けど、本当にそうだとしたら納得がいく。
彼女の料理に感じたものは間違いじゃなくて、正しく的を射ていたと考えるべきなのだろう。
おふくろの味……曾孫がいるなら自分の子供もいるわけで、そういう意味では彼女は母親なのだ。
リザ「それで上条君のカノジョはどんな人なの?」
上条「いない。いないから。言ってて悲しくなるけど存在しませんっ」
玲愛「そう言うのこそ悲しくない?」
上条「うっせえなチクショウ!」
リザ「ふーん……でも見たところ可愛い顔してるしモテそうなものだけど」
なんつーことを言いやがるこの超若作りシスターは。
リザ「藤井君と同じタイプ? うわぁよく見るとまつげ長いー」
玲愛「実にけしからん。ちょっとお姉さんにそれ分けなさい」
上条「だぁーっ! やめ、顔撫で回すなーっ!」
リザ「照れてる? 照れてるの? かっわいー」
玲愛「よいではないかよいではないか」
周りにはいないタイプの二人を相手に耐性のない俺はいいように弄ばれる。
もしかすると一方通行の無言の重圧に耐えながらもあっちで大人しくしていた方がよかったかもしれない。
助けを求めて視線を食堂の方に向けると。
一方「…………」
一方通行と目が合ったけど即座に逸らされた。
薄情者め。別に今に始まった事じゃないけど。
インデックスには助けを求められない。
過去の経験則から言ってこういう状況にインデックスを突っ込めば確実に大荒れに荒れて最終的にいつものがぶりだ。
となれば。最後の頼みの綱はヴァレリアだった。
どうやらこの二人には随分とこき使われているようだし、俺を不憫に思って助け舟を出してくれるかもしれない。
そう願ってこちらに気付いてくれと念を送っていると、本当にヴァレリアがこちらに気付いて視線を向けた。
そして。
ヴァレリア(…………グッ!)
にこやかに親指を立ててくれやがった。この間に割って入るのは御免という事なのだろう。
ちくしょう。ここは教会だっていうのに神は本当にいないらしい。
……まあ、悪い人たちじゃないことは確かなようだ。
どうやってこの場を切り抜けようかと考えていると、食堂の方から大きな声が上がった。
禁書「でき――たぁ――!」
上条「ほんとかっ!?」
これ幸いと二人の拘束から逃れてそそくさと食堂へ逃げる。
インデックスはこちらを振り返り、どこか疲れたような、けれど満面の笑顔を俺に向けた。
禁書「やったよ、やったよとうま……私やり遂げたんだよ……!」
上条「すげーなインデックス! 何が凄いのかさっぱり分からないけどさすが禁書目録の異名は伊達じゃないぜ!」
禁書「えへへ、褒めて褒めてー! もっと褒めてー!」
一方「能天気なもンだなァオマエらは……」
一方通行の辟易した視線を無視して俺は机の上に広げられた地図の山を覗き込む。
って学園都市の地図、氷室の持ってた学園都市食べ歩きマップかよ。
禁書「もう無茶苦茶だったんだよ。ベースは錬金術なんだけど、十字教も北欧神話もエジプト神話もケルト神話もごちゃ混ぜだし。
仏教とかヒンドゥー教まで入ってきてもうこれ既存の魔術体系の集大成って感じ」
上条「うん、分からん」
ヴァレリア「上条さん。私にもさっぱりだから大丈夫です」
禁書「たぶん私じゃないとこれ無理だね。それでも分からないところはあるし。
半分勘でやっちゃってるんだけど。でも多分間違いないとは思うんだよ」
一方「そンなので本当に大丈夫なのかよ」
禁書「理屈の上では術がちゃんと回るから問題ないと思う。
細かい仕組みは分からないから応用しろって言われたら無理だけどスワスチカの場所くらいは分かるんだよ」
俺に頭をぐりぐりと撫で回されながら自信げに胸を張るインデックス。
この様子なら信用しても大丈夫そうだ。
上条「それで、スワスチカの場所ってどこなんだ」
禁書「基本図式は鍵十字、ハーケンクロイツだね。逆万字とも言えるかも。スワスチカって万字の事だし」
そう言ってインデックスは宙に図形を描いてみせる。
――卍
歴史や国語の教科書でよく見る仏教なんかでよく使われてるあれだ。
禁書「その頂点と角が八ヶ所のスワスチカに対応してるんだね。簡単に言うと。
既に特定されているスワスチカから残りを逆算するのが難しかったんだけど……」
言いながらインデックスは地図上を順に指差す。
既に開いているのは昨日の公園と研究所。
ヴァレリアがスイッチが入ったと察知した繁華街……セブンスミストって大型の服屋がある辺りだ。
そして残りは……ちょっと待て。なんでこんなに分かりやすい場所ばっかりなんだよ。
上条「この教会と……常盤台、いつもの病院、……おいここって三沢塾がある辺りじゃないのか」
夏休み、俺が始めて遭遇した魔術の事件。錬金術師アウレオルス=イザードの居城だった場所だ。
だとするとまずい。
上条「三沢塾がスワスチカだったとして、スイッチが入れば即座に開くぞ。
あそこでは既に大量に人が死んでいる」
ヴァレリアが息を呑む。
半分以上スワスチカを開いてはいけないと言うのなら、ここのスイッチを入れられてしまえばもう後がない。
禁書「ここが開く順番は多分五番目だと思うよ。
魂の召喚具現化なんて無理にもほどがあるような魔術をやるんだからそれくらいの制約はかかるんだよ」
上条「開く順番も分かるのか?」
だったらこちらから迎え撃つことができる。
奴らが現れるそこを見計らって片っ端から押さえられる。
禁書「うん。……あんまり自信ないんだけどね。で、ここが六番目で……」
インデックスが指したのはセブンスミストを含む大規模な繁華街の一角。
ゲームセンターやカラオケや映画館なんかが立ち並んでる辺りだ。
禁書「最後に四番目……次に開くと思うのが、ここ」
そう言ってインデックスが最後に指差したのが……
上条「…………冗談じゃねえぞ」
――――うちの学校だった。
一方「……ハッ、なるほどな」
地図を覗き込んでいた一方通行が面白くなさそうに吐き捨てた。
一方「やっぱりそォいうオチかよ。確かにこれなら納得がいく。全部が全部折り込み済みなんだろ」
上条「何一人で納得してるんだよ」
一方「ったく……これくらい分かれよ。深く考える必要ないンだぜ?」
椅子にどっかと座りなおした一方通行は重々しく溜め息をつく。
一方「ハーケンクロイツなンだろ、それ」
先ほどのインデックスと同じように指で宙に図形を描く一方通行。
それを見て俺は、地図上に示された点を順になぞっていく。
――最初に開いたのがあの妹達が生まれた研究所。
――次に、俺が美琴と出会い、御坂妹と出合った公園。
――三つ目、セブンスミスト。
――俺の通う高校。
――ステイルと乗り込んだ三沢塾。
――たまにお世話になる歓楽街は青髪ピアスの企画したクリスマス会の会場もある辺りだ。
――毎度毎度担ぎ込まれる病院。
――そして、今俺たちがいる教会。
そしてできあがる鍵十字。
しばらくじっと地図を見ていて――気付く。
上条「おい……まさか……」
一方「オマエはここをどこだと思ってる。全部アイツの仕業に決まってるンだよ」
地図上に描かれた鍵十字の、その線が交差する場所。
学園都市にいる者なら誰だって知ってるその場所は。
一方「ここまで都合よく来て、まさか偶然ですだなンて言葉で済ませるつもりはねェだろォなァ?」
俺の能力が聖遺物に化けた事も、術を解読できるソイツがいる事もなンだろォな。
恐らくオマエの右手も、妹達の件も、『0930』事件も、下手すると第三次世界大戦だって。
何もかも全部あのクソ野郎に最初から仕組まれてたンだよ」
――通称『窓のないビル』。
学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリーの居城だった。
――――――――――――――――――――
ようやく説明パート終わりー\(^o^)/じゃないまだちょっと残ってるー
アレイスターや聖遺物云々に関してはまた今度で
「――――ふむ。どうやら彼は気付いたようだぞ」
上条と一方通行が教会でその存在に気付いた頃、彼らもまたそれに気付いていた。
学園都市の第七学区に敷かれた黄金練成の法陣の中央に位置する『窓のないビル』。
その奥深く、中央に位置する場所で影の水星は唇を歪めた。
「さすがは我が弟子の秘蔵っ子というべきだろうか。君の子も見事なものではないか。
いやはや、初めはどうなるかと思ってはいたがこれはなかなかどうして。
やはり物語は観覧するに限る。自らの手で劇を編むのも一興だがやはり鮮烈さには欠けるのでね」
「あなたはいつもそうだろう。我が師、メルクリウス」
彼の立つ傍らにそびえるようにして置かれた巨大な試験管。
その中に満たされた液体にたゆたっていたアレイスターはどこか呆れたように口を開いた。
「あなたは手を出すようで出さず、出さぬかと思えばふと出すような方だ。
これは私の指揮する演目だが役者の多くは他所からの借り物。
それを指揮していたあなたの手が掛かっていないとはどうして言えようか」
「さてはて……なんのことやら」
淡く照らされた試験管の脇に影のように立つメルクリウスはくつくつと笑った。
「しかし我が弟子、アレイスター。君も面白いことをする」
「さて……なんのことやら」
先ほどのメルクリウスの言葉を真似るように。
アレイスターは試験管の中で逆さに揺れながら笑った。
「科学と魔術の融合。と言うだけなら簡単だが、異なる二つの理を束ねるのは容易ではない。
この凝り固まった思考では思いも及ばぬ事だ。君も随分と面白く成長した」
「私は私にやれる事をやったまでだ。そもそも師と同じ事をしてなんの面白みがあろう。
模倣するだけではなく、己が理論をその上に乗せ発展させる……継承とはそういうものでしょう」
「そのとおりだ我が弟子。そもそも弟子が師の真似をして、真似をするだけで超えることなど到底不可能。
故の師弟。既に先達によって敷かれたレールをなぞるだけの理論など反復にすぎない。そのような真似は唾棄すべきだ」
「それをあなたがよく言う」
「繰り返すというのは存外味気ないものだよ、アレイスター。
それが己にとって初めての試みにあったにせよ、その道は既に誰かによって開拓されている。
無論それでは駄目だ。穢れなき処女雪に足跡を刻む悦びは最初の一歩にこそあるのだから……さて」
影がそのまま立ち上がったかのような虚ろな気配を纏った襤褸に内包しながらメルクリウスは視線すら向けぬまま続ける。
「そろそろご高説を賜ろうではないか。我が弟子。君の紡いだこのシャンバラがどのようにして編まれているのかを」
メルクリウスの言葉にアレイスターは僅かに鬱々とした――しかしどこか喜悦すら感じさせる言葉を返す。
「あなたを前にそのようなことを論じたところでなんの意味があるという。
私の術などあなたは既に一片残さず把握しているというのに」
「これは失礼。確かに私は君の言うとおりに余さず理解している。
君を見下しているわけではないのは十分に理解していると思うが謝罪を述べておこう。
先の言葉は別に君を論っているわけではない。
ただ私と君が理解していたところで、他の方々には我々が何を語らっているのか分からないのだろう。
それでは面白みが半減する。舞台装置の解説など興醒めもいいところだが……それもまた一興と思ってくれたまえ。
高みの見物とは場を余さず理解してこそ最高の快楽となると私は常々思っているのだがね」
、 、
芝居がかった口調に彼女は眉をひそめる。
アレイスターとメルクリウス。二者以外にもこの場にはもう一人存在した。
試験管に繋がる用途不明の大小の管に埋もれるように用意された椅子。
合板とパイプでできた、教室に生徒の数だけ並べられているよくあるタイプのものだ。
この街では飽きるほど見かける、もはや普段では意識すら向けられぬ背景となってしまうそれに彼女は腰掛けていた。
「…………」
「どうだろう、我が弟子によるゾーネンキント――ヒューズ=カザキリ。
君もそろそろ飽いてきているだろう。私も彼も、勝手に他人を前にするという事が特に苦手でね。
どうも勝手に話を急いてしまうきらいがある。
君のようないたいけな少女に私のような老いぼれが己を曝け出すというのは中々に赤面物ではある……
が、君さえよければ自分語りもやぶさかではない。……と言っても語るのは彼の方なのだが」
メルクリウスの言葉にヒューズ=カザキリ……風斬氷華は険しい顔を二人に向けながら黙したままだった。
そんな彼女の様子にメルクリウスはまた愉快そうに笑った。
「どうやら嫌われてしまったようだ」
「当然。あなたとあれは相反する存在であるが故に。
あなたがあれを好むというならあれはあなたを嫌うでしょうな」
「彼女に窮屈な思いをさせていることは自覚しているがね。彼女に舞台に上がられては困る。
デウス・エクス・マキナは既にこちらで用意がある。女神の方が観客受けはいいだろうが役が被ってしまうのはいただけない。
そもそも女神もまた舞台の上に上がられている。であれば彼女にはこうして楽屋にいてもらわねば。
まあいいだろう。目の前にいる観客を無視して歌うのは私も君も得意ではないか。さあ好きに喋りたまえ」
「あなたは観客どころか自分以外の誰でも……いや、自分自身すらも無碍にするではありませんか」
「おっと。これは痛いところを突かれてしまった」
平坦なアレイスターの口調とは対照的にメルクリウスは諧謔的に唇を歪ませる。
「ともあれ、私とて師を前にして手前の業を披露することは躊躇うものではない。
いいでしょう。それではしばしお付き合いを」
「ああ。お手並み拝見といこうか」
「…………」
科学の頂点と魔道の極点を前に人工の天使は沈黙を続ける。
アレイスターはゆっくりと、巨大な試験管に満たされた液内に揺れながら歌うように口を開く。
「基礎となる術式はあなたの黄金練成。
鍵十字の陣によって飛ばされた城を引き下ろすのであればこれ以外では不可能だ。
だが陣の形成に必要となるシャンバラはあなた以外には紡げない。私が模倣したところでその十分の一も再現できぬであろ
ならば別ベクトルからのアプローチを試みる。黄金練成とは異なる魔神降臨の大儀式。
ドイツにいた時分によくしてくれた者らがいてね。
私が彼らの術の形成に微力ながら助力した対価にその術の方式を頂いてきた。もっとも勝手に頂戴してしまったのだが」
「ふむ。それは如何様なものであるか興味がある。……合いの手は不要かね?」
「結構。しかしアインツベルンの術は門外不出。それを私が転用してしまえば彼らからしてみれば盗人同然なのだが……
魔道に限らず学問とはそういうものだろう。何、こうして種を明かしているのだから文句を言われる筋合いはない。
あくまでオリジナルはあちら。私のこれは贋作でしかない。とはいえ原形など留めていようはずもないのもまた事実だが。
聖槍、聖櫃、聖骸布、聖釘……そして聖杯。歴史に名を連ねる聖遺物は数あれどこれほどの神格を有したものはない。
かの獣殿、聖槍の主を降ろすのであればまたそれに見合ったものでもてなすのが礼儀というもの。
故に聖杯を用いた渇望の流出装置……彼ら曰く『聖杯戦争』を以って降臨の儀式と成す。
万物を叶える聖杯の内に溢れる混沌より黄金の海は現れる。そもそも錬金の術とはこのようなものではないでしょうか」
「なるほど。何もかも模倣に頼るか。
それもまた結構。それはそれでまた味わいあるものだろう……続けたまえよ」
「贋作ゆえに本来のものに比べ出力は劣るが、英霊の座に坐す存在を降ろすならともかくとしても。
薄紙一枚を隔てた場所にある獣殿の城であれば事足りる。同時に擬似的な英霊として肉体がなくとも形成具現することができる……
他いくつかの不要な舞台装置は取り払ってはいるものの、大まかに言ってしまえばこういう具合の代物。
そこに聖杯の鋳型としてヒューズ=カザキリをゾーネンキントの代替として組み入れる。
あなたの作ったものの聖櫃はあなたのシャンバラでこそあれ、私の陣にはそれに適したものが必要となる。
鋳型としては十分な代物だろうと自負しているが。何しろこの街の、私の作った聖遺物の雛形たちが織り成す呪いの極点だ。
神代ははるか遠く過去のものとなってしまったが故に、現代の新たな聖遺物とするには相応のプロデュースが必要となる。
だからこその超能力。聞こえはいいがやっていることは大して変わらぬ。
それが木でできているか紙でできているかの違い程度でしかない。同じ用途に用いる事が可能ならば見た目の差異などさしたる問題ではない。
簡単に言ってしまえば――能力の発現とはそれ即ち己が内に秘めた渇望を活動させる事に他ならない。
この街の学生諸君は誰でも聖遺物となる資質は持ち合わせている。もっともそれに至れる力量を持った者はごく限られているが。
……このようなところでどうでしょうか。このような所詮は贋作の寄せ集めでしかない代物、師の前で高説など汗顔の至りだが」
言葉を締めくくるアレイスターにメルクリウスは拍手を送る。
「結構。実に結構。よくぞここまで大成した。あえて贋作を気取る君の気概もだが、その手並みも中々だ。
師としては弟子の偉業に何か言祝ぎたいものだが……さて、如何にしようか」
そう呟き――視線を送る先は風斬。
「名付けとは祝福であり呪い。曖昧なその形を名に縛る行為に他ならない。
万物は名のとおりに縛られる。火は火のように、水は水のように。火を水のようだと言うことは決してあり得ない。
ならばヒューズ=カザキリ。君にも呪い名を送ろう。呪いと祝いは本来同じもの。
この呪いをもって我が弟子とその傑作への祝福と成す。まあもっとも、私のような百も二百も名を持つ者が言っても詮無いことなのだが」
びくり、と風斬の肩が震える。
そんな彼女の様子に満足げに頷き、そして。
ゾーネンキント モンデンキント
「私のシャンバラの核が『太陽の御子』であるならば。彼のシャンバラの核たる君はさしずめ『太陰の御子』といったところか。
あえてこの場にそぐうように発音するならばムーンチャイルド……が、言葉の形にもまた意味がある。
よろしい。黒円卓第六位の座は君に送ろう。あの子もまたこの席に座らせられた事を快く思ってないようだからね」
「………………あなたは」
そしてようやく、風斬は口を開く。
アレイスターを、そしてメルクリウスを睨みつけ、小さく、けれどはっきりとした声で。
「あなたは、何を企んでいるんです――――エイワス」
「さて。私は何もせぬよ。何かするのは私ではなく彼の方だ」
にい、と口の端を歪めていくつもの名を持つ影は笑う。
「汝の欲する所を為せ、それが汝の法とならん。それがこの不肖の師たるen私glrの唯一の教えでね。
今回に限っては完全に、文字通りに高みの見物をさせてもらうとしよう。君も付き合ってくれたまえ」
くつくつと哂う影を睨みつけたまま風斬は小さく唇を噛む。
彼女は先ほどからずっとその下腹部に手を当てている。
あるはずのない感覚、あるはずのない器官の蠢きが彼女を苛んでいた。
――ずぐん、ずぐん、ずぐん
かつて経験のした事がない幻痛に似たそれは――
――――――――――――――――――――
さーて、大体の設定暴露は終わったかな。どうでもいいネタが大半ですが
この辺りDiesやってない人は完全においてけぼりですが、まあそれはそれである意味原作に忠実という事で
このスレはいつものように99%が曲解でできております
ついて――これるか――
うーん、もうちょっとこっち書いてるかな
聖杯戦争云々はあくまで色々都合よく動かすための舞台装置なので深い意味はないはず
上条「はぁ……」
もう都合何度目になるか。
教会からの帰り道、俺は深い溜め息をついた。
禁書「あのね、とうま。そうやって溜め息ばっかりつくから幸せが逃げていっちゃうんだよ」
上条「つってもなあインデックス。オマエこの状況で能天気でいろっていう方が無理があるぞ」
禁書「それはそうだけど……」
日は冬の空にもう沈みかけている。
あの後ああだこうだと色々と(主にインデックスとヴァレリアが)話し込んで結構遅くなってしまった。
暗くならないうちに帰ろう。日が落ちれば寒さが急激に増す。帰って温かいものでも飲もう。
暗くなればまた奴らが現れる。
上条「なあ。オマエが予測した時間って何時だっけ」
禁書「十時頃から十二時頃って見てるけど、結構ずれちゃうかも」
インデックスが召喚術式を解析した結果。
スワスチカの活性化するタイミング……つまり黒円卓の誰かが現れるタイミングがある程度予測できた。
禁書「私だってあの術の仕組みをちゃんと解析できてるわけじゃないし。その辺り星の位置はもちろん地形や地脈も関係してるからね。
学園都市は人為的に手が加えられすぎててちょっと複雑すぎるかも。色んなのか絡まりあってスパゲティ化してるんだよね」
簡単に言ってしまっているが術の形式を出してからそこに至るまでに更に二時間ほど。それでも驚異的なスピードなのだろう。
専門用語が多すぎて解説は右から左だったが必要な点はしっかり抑えてる。
今夜、俺の学校に黒円卓の誰かが現れる。
俺たちはそれを迎撃する。
正直なところ不安は大きい。何せ俺の唯一の武器である右手はシュピーネの聖遺物に通用しなかった。
ヴァレリアにその辺りの事を聞いてみると難しい顔をされた。
仮にも聖職者だ。神の奇跡すら打ち消せる(という宣伝文句の)俺の右手を快く思わなかったのかもしれない。
「一応、シュピーネの形成を相手にある程度の効果は発揮していたのですよね。
そうでなくては掴めるはずもない。少なくとも聖遺物とは生身の人体では抵抗する事すらできない代物です。
でしたら、これは私の勘ですが、純粋に出力が足りなかったと。そう考えるのはいかがでしょうか。
あなたの右手は燃える火に対する消火器のようなものだとすれば、単純に火勢が強すぎたと。
聖遺物は奪った魂の分だけ強化されます。
彼の聖遺物は確かに他の者の持つそれと比べれば見劣りしますが、だからといって決して甘く見てはいけない」
シュピーネの聖遺物、あのワイヤーのように見えたものを打ち消せなかった以上、他の団員の聖遺物も同じだと考えるべきだ。
そもそもアイツの事を神父たちは口をそろえてザコ呼ばわりしてたし。
そんなのにも効かないんじゃ他の奴らになんか通用するとは考えにくい。
だけど何もしないでいるなんて事はできない。
何かきっと方法があるはずだ。それを見つけ出せば――
ちなみに一方通行はまだ教会にいる。
神父に聖遺物についての講義を受けている。
いくら学園都市最強だからといってもオカルト、その中でも特にクセが強そうな聖遺物についてはずぶの素人だ。
が、アイツの頭の回転は恐ろしく速い。なら今夜までには十分にその特性を理解しているはずだ。
「一方通行さん。あなたの聖遺物はまだ弱い。
聖遺物には四つの格付けがあり、あなたもシュピーネもその第二段階、形成の状態だ。
しかし他は軒並みその上、創造位階に至っている。今のあなたでは歯が立たないと言ってもいい。
ですから夜までにある程度使い物になるようお勉強しましょう。私とリザがみっちりしごいて差し上げますから」
神父の嬉々とした表情を思い出す。
きっと日頃の鬱憤を晴らす機会を得て喜んでいるに違いなかった。
こう言ってしまえば一方通行も話を聞かざるをえないのを分かっているのだろう。
ちなみにアイツはそのときぼそりとこんな事を言っていた。
「…………またレベル上げかよ……」
多分あの場でこの言葉の意味が理解できたのは俺だけ。
なんだかいたたまれなかったのでインデックスを連れて逃げた次第。
……アイツも中々に不幸な星の元に生まれてきたんじゃないだろうか。
上条「しっかしどうしたもんかねえ……」
一方通行と違って聖遺物を持たない俺はあまりに非力だ。
神裂とかなら戦えるんだろうが『聖人』ってカテゴライズされる別の意味での人外だしなあ。
せめて俺もそれなりの能力なり魔術なりが別にあればなんとかなったのかもしれないが……
どうしたものかなぁ、と考えながら帰ってると。
上条「…………お?」
見覚えのある奴を発見した。
上条「なんだ、浜面じゃねえか」
あ、そうだ。
アイツ無能力者なのに前に悪魔みたいに強い能力者倒した事があるとかって言ってたな。
それに元々スキルアウトだったし異能を持った相手との鉄火場はある程度経験しているだろう。
同じ無能力者のよしみだ。何かヒントでも手に入らないかと声をかけようと近付いて。
上条「おーい浜――」
声をかけようとして、かけれなかった。
アイツの横で楽しげに話かけている少女がいた。
長い金髪をポニーテールにしたお姉ちゃんが。
何かツボに入ったのか笑いながら浜面の肩をばしばし叩いてる。
上条「………………」
やっぱり声をかけるのをやめてそのまま家に帰る事にした。
「あーもしもし滝壺ー? あのさー今――――」
――――――――――――――――――――
いやあ、いい事をした後ってのは気分が爽やかだ。
彼女いるのに他の女の子といちゃついてる奴に情けは必要ない。
そそくさと浮気現場の一部始終を余すところなく伝えて帰宅した。
夕暮れ時の寮の前には人気がない。
今日から冬休みだという事もあってみんなどこかに遊びに出ているんだろう。
平和なもんだとどこか他人事のように思う。
昨日の公園では何人も人が死んでる。
まだ事件にはなっていないようだが、それは死体が出ていないからというだけだ。
昨夜のあの場で殺された奴らは失踪という扱いになるんだろう。
上条「…………」
できればこの平和を壊したくない。
何一つ不幸な出来事のない日常で笑っていたい。
けれどそれを奴らは許してくれない。今晩にもまた奴らは現れる。
それをどうにかしなければこの平穏は全て飲み込まれてしまう。
……まあそれまでにはある程度時間がある。
それまでにきっちり腹ごしらえをしておこう。
何より先ほどから隣のインデックスの気配がお腹すいたモードに移行しつつあるのを感じる。
放っておけばいつものパターンだ。いい加減に俺も学習した。
さて冷蔵庫の中には何があったかなと考えながら俺は自室の戸を開く。
上条「ただいまー」
と言ってから気付く。
その言葉を向けるいつもの相手は俺と一緒に帰宅したばかりだ。
でも――――
「あ、おかえりー」
部屋の中から返事があった。
部屋にいたのは――昨日あの研究所で倒れていた少女。
年はインデックスと同じくらいだろうか。
背中まである長い髪は日本ではまずお目にかからない赤毛で、ゆるいウェーブを描いている。
少女「ん? どうしたの? 私の顔に何かついてる?」
彼女もまたインデックスと同じように昨夜のあれが嘘のようにけろりとしていた。
あれほど苦しげにしていたというのに今はその事を微塵も感じさせない。
少女「それとももしかして、私の顔に見とれちゃったのかしら。やーん私ってば罪作りな女ー」
上条「元気そうで何よりだよ……」
テンションが高い彼女に「はぁ」溜め息をついて俺は鞄を下ろす。
なんでコイツがうちにいるのか。簡単に説明しよう。
昨夜……いや今朝か。インデックスが目が覚めた頃、彼女も同じように目を覚ました。
その後二人とも検査をしたのだが異常なし――とは行かなかった。
多分色々とよく知った相手だったからか、いつものカエル顔の医者は俺を個別に呼び出してこんな事を言った。
――――彼女、記憶喪失だね?
彼女の名前はアンナ。
それ以外は全部、何も思い出せないらしい。
医師が言うにはどうにも普通の記憶喪失とは違うらしい。
俺も夏休みのある日を境にそれより前の記憶がない。彼が言うには俺のそれと同じようなものらしい。
「普通記憶喪失っていうのは二種類あるんだけどね? 忘れてしまったか、思い出せないかだ。
乱暴に言ってしまえば記憶のノートに書かれている文字を消しゴムで消された場合と修正テープで潰されてしまった場合。
どちらも切欠さえあればまた記憶を取り戻す事ができるだろうね?
でも君の場合は違う。君の場合は言ってみればノートを破りとられたようなものだ。
そして彼女は――ノートのページが抜け落ちてしまっているようだね?
消しゴムで消されたのとは違ってそこに文字が書かれた痕跡が存在しない。思い出すのはまず無理だろうね?」
正直どれも違いがよく分からないのだけど専門用語を並べられたところでもっと分からなくなるのは目に見えている。
適当に相槌を打っているうちに、気付けば彼女も引き取る事になっていた。
曰く、
「君も記憶を失っていて、彼女の記憶喪失は君と似ているからね?
もしかしたら何かの拍子に欠けたページが埋まるかもしれないしね?」
当てずっぽうもいいところだった。
本当にこの人は医者なんだろうかとたまに思う。
インデックスの事もあるし、アンナの分の治療費とか少しの生活費は彼が研究費って名目で肩代わりしてくれるという事で引き受けた。
俺はこの人に恩がある。切り飛ばされた腕をくっつけてもらったりもした。妹達のうちの何人かは彼の世話になっているはずだ。
そういうところは凄腕の医者なんだろうなあと思うんだけど彼が看護士のお姉ちゃんたちに向ける視線を俺は知っている。
いい年なんだからもう少し落ち着けよと思うんだけど、ある意味では元気の源なのかもしれない。
アンナ「いったいどこ行ってたのよー。右も左も分からない女の子を部屋に連れ込んどいてそれはちょっとないんじゃない?」
上条「学校だよ。終業式。俺は健全な高校生なんですー」
アンナ「じゃあインデックスは? お昼前からあなたと用があるって出てったんだけど。私一人除け者にしてデートですかふーん」
上条「こっちにも色々と事情があるんだよ。昼飯は準備しておいたろ? レンジの使い方は分かったか?」
アンナ「そういうのは覚えてるっぽいんだけどねー……ってそうじゃなくて! デートなら私も誘ってくれればいいのに」
上条「アホか。第一俺とインデックスは別にそういう仲じゃねーし」
アンナ「え、うそっ!?」
上条「そこまで驚くかよ」
アンナ「当たり前じゃないの! ねえそれホントなの!?」
禁書「うん……」
なんだかインデックスがどこか遠いところを見ながら頷いた。
どうしたんだろう。そろそろ空腹で気が遠くなってきたんだろうか。
アンナ「一つ屋根の下に暮らしてるんだから私てっきりそういう関係だと思ってたのに……」
上条「あのなぁアンナ、もし俺とインデックスがそうだったとして、ならオマエをウチに入れると思うか?」
アンナ「それもそうね。もっとも、誰かに見られてるほうが興奮するって事もありえるから一言には頷けないけど」
上条「そんな特殊性癖俺にはありませんっ! つかさらっと凄い事言うなぁオイ!?」
アンナ「っていうかなんなの? 女の子と一緒に暮らしといてそれって……あ」
上条「あ、なんだよ」
アンナ「…………もしかして、男の方が好きとか?」
上条「違いますー! 別にそういう人を差別するわけじゃないけど上条さんはいたってノーマルですーっ!」
凄いデジャヴを覚える。ああ昨日も氷室にそんな事言われたよ!
なんでどいつもこいつも俺をそっちの人にしようとしたがるんだよ!
アンナ「じゃーあー……ああ、そうなのね……可哀想に」
上条「今度はなんですかっ」
アンナ「勃たない?」
上条「だあーっ!!」
なんで帰って早々下ネタ全開トークやってるんだ!
あともう少し恥じらいとか持てよ! 思春期の男子高校生にはちょっとキツすぎますよお嬢さん!
禁書「とうまーとうまー、私お腹すいたかも」
インデックスが助け舟を出してくれた。
顔がちょっと赤くなっているあたりコイツもしっかり理解した上で話を逸らせようとしているのだろう。
上条「そうだな、腹減ったな! じゃあ飯作るか!」
アンナ「あ。もうできてるわよ」
………………なんですと。
さっきから何やらいい匂いがすると思ったら。
見るとコンロの上の鍋にはスープが入っていた。
冷蔵庫を開いてみればラップのかけられた皿に豚肉と野菜の炒め物が乗っていた。
また隣にメイド妹でも来ているのだろうと思ってたら発生源は俺の部屋だったか。
アンナ「ごめんね、手持ち無沙汰だったからつい。適当だけど、冷蔵庫の中身使わせてもらっちゃった」
上条「これオマエが作ったのか?」
アンナ「うん。やればできるもんねぇ。体が覚えてるっていうか、包丁持ったらなんとなく」
上条「そりゃあまた……」
俺も料理は記憶を失ってもできたし、アンナができてもおかしくはないだろう。
ありあわせの材料からここまでできるとは。これじゃあ俺よりも料理の腕は上かもしれない。
鍋の蓋を開けて中身を見てみると食欲をそそる匂いがして、思わず腹の虫が鳴いた。
アンナ「それじゃあ改めまして」
そう言ってアンナは「こほん」と咳払いをする。
アンナ「――お帰りなさいあなた♪ ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」
上条「飯」
アンナ「ああんもう何よいけずー。亭主関白は嫌われるわよー」
上条「だってほらこれ、美味そうじゃん」
アンナ「あ……えっと……ありがと」
上条「見てたら腹減ってきたし飯にしようぜ。インデックスも言ってるし」
アンナ「そ、うね。うん」
禁書「そうだよ! 早くごはんにしないと大変な事になるかも!」
上条「っておいインデックス! フライングは禁止だっ何一人だけつまみ食いしようとしてる!」
禁書「だって、だってお腹すいてるんだもん」
上条「オマエ、だからってなあ! 俺だって腹減ってるんだよ!」
そんな事を言い合いながら騒がしく夕食の準備をする。
昨日今日と上条さんの食糧事情はかつてない幸福に彩られているかもしれない。
できればこれに触発されたインデックスが料理の一つでも覚えてくれないかなあなどと淡い幻想を抱くくらいは許して貰いたい。
アンナ「…………あは♪」
――――――――――――――――――――
そんな具合でなんとアンナちゃんでした()
ご紹介はまた後ほど
香純ェ……
チャプター4のシナリオ考えつつしばらくあっちに専念するかも
蓮サイドの活躍はあんまり期待しないでください
【現勢力】
上条、インデックス、一方通行、ヴァレリア、リザ、玲愛
浜面、ベアトリス
蓮、マリィ、螢、司狼
その他:御坂、打ち止め、アンナ
死亡:シュピーネ
おまけのやっつけデータ
ロート・シュピーネ
クラス:アサシン
称号:聖槍十三騎士団黒円卓第十位・紅蜘蛛(ロート・シュピーネ)
性別:男性
属性:秩序・悪
ルーン:獲得
大アルカナ:悪魔
占星術:磨羯宮
聖遺物:辺獄舎の絞殺縄(ワルシャワ・ゲットー)
黒円卓第十位『紅蜘蛛(ロート・シュピーネ)』。人蜘蛛。サーヴァントとしてのクラスはアサシン。
かつてのナチスで狂気の限りに残虐非道の人体実験を繰り返していたマッドサイエンティスト。
美男美女揃いの黒円卓で唯一の不細工担当。細長い体躯、特に異様に長い手を持つ男で、本人も外見にコンプレックスを抱いているようだ。
本来は戦闘要員ではなく諜報活動担当であり、黒円卓の中でもかなりの弱者。というか戦闘能力を持ったキャラの中では最弱。
Dies irae本編では最も早く、共通ルートで蓮に斃されるためにその後まったく活躍できない不遇な扱いを受けていた。
が、次回作のイベントCGにてちゃっかり転生していた事が見受けられる。やったねシュピーネさん! でも背景だよ!
聖遺物は『辺獄舎の絞殺縄(ワルシャワ・ゲットー)』。人器融合型。位階は形成。
ワルシャワ収容所で多くの捕虜を絞殺した縄で、彼ら犠牲者の体毛が編みこまれている。
鋭利な刃物と同等以上の切断力を持つが本来の用途はやはり絞殺。
創造がないどころか団員の中で唯一それっぽい詠唱がない。仕方ないので「ジークハイル・ヴィクトー↑↑リア!!」と言っておこう。
ちなみに、本名はとっくに捨てていてシュピーネは称号なのだがモデルは「死の天使」ことヨーゼフ・メンゲレ医師のようだ。
しばらく=一週間以内
というわけで微妙に再開
アンナの作ってくれた夕食を食べ、俺は再び寮を出る。
正直に言おう。美味かった。
冷蔵庫の残り物で作ったとは思えない味だった。
何か根本的な部分で俺の作るものと違っているような、そんな感じ。
もしかしたら彼女は記憶を失う前に日常的に料理をしていたのかもしれない。
調理師とかそういうものじゃなくて極々一般的な家事として。
一体彼女は何者なのか。
「…………」
分かってる。
ヴァレリアの言っていた事が間違っていないとすればきっと彼女は。
「聖槍十三騎士団……黒円卓、か……」
彼女もまたその一員なのだろう。
話を聞く限りでは残虐非道の人外集団。
ナチスの暗部に深く関わっていたというのならその手に掛かって命を落とした人の数は万を超えるだろう。
「でもなぁ……」
記憶喪失というのは嘘ではないのだろう。
他ならぬあのカエル顔の医者がそう判断したのだ。きっと間違ってはいない。
だとしたらアンナはただの少女と変わりない。
記憶を失う以前が何者だったかは知らない。
でも彼女の料理は温かくて、彼女の笑顔は眩しかった。
きっとそれだけで十分だ。
出掛けにアンナはこう言った。
帰ってくるよね、と。
笑ってはいたけどどこか心配そうな目で俺を見ながら言った。
気丈に振舞ってはいるが彼女も記憶を失って不安なのだろう。
実際俺がそうだった。
自分が誰なのかも分からず、周りがどうなっているのかも分からず、そんな中にいきなりぽんと放り出されて。
どうすればいいのかも分からない。何が正しいのか、何が間違っているのかすらも分からない。
判断材料は何もない。あるとすれば自分だけだった。
そんな俺のそばにいてくれたインデックスだけが頼りだった。
彼女の笑顔を見るたびに癒された。
これでいい。これで間違っていない。俺はちゃんと『俺』でいられている。
でももしその判断すらできなかったら?
アンナの過去を俺は知らない。
だからアンナは自分がどんな人間で、どうしてここにいるのかも分からない。
ここでもし俺やインデックスがいなくなれば彼女は見知らぬ街で独り取り残される事になる。
きっとそれが不安でたまらないんだろう。
「……帰ってくるさ」
俺のそばにはいつもインデックスがいてくれた。
だから今度は俺が彼女のそばにいてやろう。
それがきっと俺を支えてくれた少女の恩に報いる方法だから。
何もかもさっさと片付けて、それからみんなでクリスマスパーティをやるんだ。
アンナも一緒に。どうせクラスの連中は賑やかなのは大歓迎だ。
青髪ピアスの奴は可愛い女の子なら絶対に大喜びするに決まってる。
バカばっかりだからもしかしたらアンナは呆れるかもしれないけど、それでもきっと笑ってくれる。
友達ができればいいと思う。
独りじゃ寂しいから。一杯仲間がいれば寂しくないから。
誰かと一緒にいればそんな事は絶対にない。
だからそのためにも。
「…………」
校門の前に立ち、校舎を見上げる。
見慣れた学校。
日常の一コマに紛れてしまって普段は忘れてしまっているけれど。
掛け替えのない俺の日常。
この場所を血で染めるなんて、そんな事はあってはならない。
みんなが笑って過ごせる場所を壊されてたまるか。
唯一の武器である右手は頼りにならないけど。
それでも俺はこの場所を守りたい。
記憶を失う以前の『上条当麻』という人物を俺は知らない。
だから、変な言い方だけど。
俺と、俺の友達と、そして『上条当麻』の過ごしていた日常を守るために。
「……行くか」
強く右手を握り締めて俺は校門をくぐる。
どうにかできる保証なんてこれっぽっちもないけど。
絶対になんとかなるって根拠のない自信だけはいくらでもあった。
――――――――――――――――――――
「綺麗な街ね」
クリスマスの装飾の賑やかな町並みを歩きながらベアトリスは小さく呟いた。
電光装飾はキラキラと、まるで満天の星空を見ているようだ。
「それから平和」
「この前まで戦争してたけどな」
隣を歩く少年、浜面仕上と名乗った彼はそんな事をぽつりと言った。
「でも今は平和なんでしょ?」
「まあな。誰かさんのお陰で」
彼の言葉に少しだけ引っかかりを覚えたが、考えない事にした。
「うんうん、やっぱり平和が一番よね。私の国でも戦争が激しかったけど、やっぱりそういうのは好きじゃないから」
「ん? アンタの故郷ってロシア?」
その言葉に少しだけむっとする。
彼女が知る名とは変わっているが、旧ソビエトは彼女の故郷とは敵対国だった。
その意識は戦争が終わった今でもある。
もう終わった事なのだからと思いつつも深く根付いたそれは容易には取り払えないものだった。
「違うわよ。ドイツ。最後にいたのはベルリンかな」
「へえ。ドイツっていえばなんか、ポテトとソーセージばっかり食ってるイメージがあるけど」
「真っ先に出てくるのは食文化なのね……あながち間違ってもないけど。でも日本食も好きよ?」
肩をすくめて笑う。
日本は好きだ。他の元お仲間とは違いベアトリスはこの国に対して嫌悪感を持っていない。
選民思想を馬鹿げていると一蹴する事もできないが、だからといって無碍に友人を扱う事もできない。
何より彼が、そして彼女が日本人だった。
自分が何よりも守りたいと思った二人。
同じ姓を持つあの兄妹はこの国の人間だった。
「ねえ、仕上」
隣を歩く少年にベアトリスは尋ねる。
ファーストネームを呼ばれた事に少し恥ずかしさを覚えたのか彼ははにかみながら答える。
「なんだ?」
「この国は好き?」
「国……か。そういえばあんまり考えた事なかったな。俺この街から外に出たことほとんどないし」
少々哲学的な質問すぎたか、と思いながらもベアトリスは続く言葉を待つ。
「でもテレビとかで見る限り、京都とかいかにも日本風な街も好きだぜ?
狭い国だからどこもゴミゴミしてるけど、どこも活気に溢れてる。
それに今や世界一の技術大国だし。その最高峰がこの学園都市。
色々面倒な事はいくらでもあるけど、でも多分、この街に暮らす俺はきっとこの国が好きなんだろうな」
あと飯が美味い、と彼は付け足して笑う。
それには全面的に同意だ。少し味付けが薄く感じる事もあるけど、と彼女も笑い返した。
「ところでさ」
「ん?」
「さっきの電話、彼女なんでしょ? いいの?」
ベアトリスの言葉に浜面は「あー……」と唸る。
「大丈夫……かな? 後がちょっと怖いけど。人助けしてたって言えば許してくれるだろ」
そんな事を言う彼に申し訳なさを感じる。
電話口にぺこぺこと頭を下げるその仕草は見ていて可笑しいと思ったけれどそれだけ真剣なのだろう。
彼の恋人は一体どんな女の子なのだろうか。少し会ってみたいとも思うが。
(修羅場になること間違いなしよね……)
自分は少なくとも見た目は同年代の少女だ。
そんな自分と一緒にいたと知ったならばいい気はしないだろう。
少しその様子を見てみたいとも思うが可哀想なのでやめておく。
「じゃあ彼女さんには悪いけど、もう少し付き合ってもらおうかしら」
微笑む彼女に浜面は諦めたように重い溜め息をついた。
「あのなぁ……寝るところに困ってるって言うから俺の部屋貸したのに、その上まだ俺を引っ張りまわすか」
昨夜、ベアトリスは浜面の寮のベッドを借りた。
もっとも彼は件の彼女のところあたりに転がり込んだのだろうが一人だったが。
そういうところもお国柄なのだろうか。好感を持てるのは確かだが。
「いいじゃない。ほら、犬に噛まれたと思って」
「それ犬本人が言うことじゃないと思うぞ……」
それもそうか、とベアトリスは笑う。
「それで? 次はどこに?」
「んー、そうねぇ……」
一日中歩き回ってくたびれているだろうに彼は律儀に付き合ってくれるらしい。
多少無茶を言っていることも自覚しているが、早いうちにこの街の事を知っておかなければならない。
いつ、どこがスワスチカになるかも分からない。
まずは足でこの街を把握しておく必要があった。
「じゃあ、夜景の綺麗な場所ってある?」
多少は自分の趣味が入っている部分も否定できないが。
――――――――――――――――――――
上条「…………」
一方「…………」
隣に座っている一方通行の無言が痛い。
教会であの三人にそうとう弄られたのだろう。アイツらはそういうキャラだ。
だからってそのイライラを俺にぶつけるのは理不尽としか言い様がない。
あと寒い。
マジ寒い。
学校はもうとっくに閉まっていて、俺たちは寒風吹き荒ぶ登校口の前に座っている。
ちなみにあとこの場にいるのはヴァレリアとリザの二人。氷室の姿は見えない。
ヴァレリアは無言で立ち続けている。
どうせなら面白い小噺でも一席やってくれればいいのに。神父なんだからそういうの得意だろう。
リザはというと、魔法瓶に暖かいコーヒーを入れてきてくれていた。
確かに待ち続けるのは辛い。
一方通行と二人でありがたく呼ばれながら待つこと数時間。
日付が変わろうとしていたときだった。
上条「っ……!」
場の空気が一変する。
昨日の公園と同じような、あのまとわりつくような不快感が学校全体に瞬時に立ち込めた。
「よォやく来たか。待ちくたびれたぜ」
立ち上がり、首の関節を鳴らす一方通行。
その視線は校庭の真ん中を見ていた。
そしてヴァレリアもリザも一方通行と同じ方を見ている。
その先、校庭の中心にいつのまにか人影が現れていた。
人と言っていいのか迷う巨体。
辺りに比較物がないから分かり辛いが二メートルを軽く超えているだろう。
ボロボロのフードを纏ったソイツの手には巨大な漆黒の剣。
もはや鉄塊と言った方が正しいかもしれない。
それを軽々と肩に担ぎ上げたソイツは間違いなくとんでもない馬鹿力の持ち主だろう。
殴っただけで人が死ぬような、そんなバケモノとしか言い様がない存在。
「なンだよアレ」
そんな奴を見て一方通行は眉をひそめる。
「アイツ、死ンでるじゃねェか」
「え……?」
死んでる……?
そう一方通行は言うのだけれど、
「黒円卓第二位――トバルカイン」
ヴァレリアがその名を呼んだ瞬間。
死体が絶叫し、その大音声が校舎の窓をビリビリと振動させた。
――――――――――
「っ――!」
突然、ベアトリスは振り向く。
深夜の街に今まさに現れた気配を彼女だけが鋭敏に感じ取っていた。
「どうした?」
横の浜面もその例外ではない。
彼もまた一般人だ。ベアトリスのような超感覚は持ち合わせていない。
こんな夜中まで文句を言いながらもよく付き合ってくれたと思う。
ほんの少しの時間だけれどずっと忘れていた時間を取り戻せた気がした。
だから、
「――ありがとう」
感謝の言葉を告げてベアトリスは彼に微笑む。
「私はちょっと、やることができちゃったみたい」
さよなら、と彼女は告げて、
そして返事を待たずに深夜の街を一直線に駆け出した。
いきなり物凄い速さで走って行ってしまったベアトリスの背を浜面は呆然と見送り、
それからようやくはっと気付く。
彼女が何をするために、どこへ行こうとしているのかは分からない。
けれど――
「なんだよそれ……」
さよならと彼女は言った。
もう二度と会う事はないだろうと、そういう意味があるように思えた。
「冗談じゃねえ……ここまで引っ張りまわしておいて突然はいさよならなんてのはいくらなんでも無茶苦茶だろ」
文句の一つでも言ってやらないと気がすまない。
そう適当に理由を付けて、辺りを見回す。
ちょうど都合よく、路肩に止められた大型バイクがあった。
ご丁寧にリアシートまで取り付けられている。
「…………」
持ち主らしき人影はあたりにない。
それどころか深夜の街には見渡す限り浜面だけしかいなかった。
――――――――――
深夜の街にエンジンの音が響く。
疾走するベアトリスに追い縋るそれは、浜面の跨るバイクだった。
「オマエ走るのメチャクチャ速いな」
交通の少ない時間帯でよかったと浜面は思う。
メーターは見ないことにした。体感である程度分かるが。
「乗ってくかい。追いつけるなら走るより少しは早いだろ」
ちらりと横目でベアトリスを見る。
彼女は驚いたような顔をして、それから笑った。
そしてひらりと、背後に飛び乗った。
「カッコイイね、仕上。そうやって彼女も落としたの?」
「違ぇよ。俺が落とされたの」
そんな軽口を叩きながら浜面はアクセルグリップを握り締める。
「お嬢さん、どちらまで?」
――――――――――――――――――――
今日はここまで
二回戦は初戦と正反対にいきなり最高戦闘力との戦いですが、はてさて
おまけのサーヴァントデータ
なんか見た目がそれっぽいから適当にでっち上げてるだけです
クラススキルなんかは割愛
トバルカイン
クラス:バーサーカー
魔名:死を喰らう者(トバルカイン)
性別:男性
属性:中庸・狂
ルーン:力
大アルカナ:法王
占星術:金牛宮
聖遺物:黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)
「なァ――液状化現象って知ってるか」
ずぶずぶとカインの巨体が沈んでゆく。
硬いはずの地面は泥沼のように、立つ足を受け止めず重力に従いその中へと引き込んでいった。
「グ――」
埋まる足をカインは強引に引き抜こうとする。
だが一方通行がそれを許すはずがない。
ざぁああっ、とカインの足元から地面が這い上がってくる。
無数の蟻に集られているようにも見えるそれは残らず一方通行の能力の影響を受けている代物だ。
振り払おうとしてもそう易々とはいかない。第一、意思を持って這い上がってくる砂の一粒一粒をどうやったら取り除けるっていうんだ。
「いくら頑丈って言ってもこの学校まるごとの重さは流石に堪えるだろォ。
ソイツから抜け出そうと思ったら敷地を丸ごと持ち上げられねェと無理だ」
這い上がる砂の上から更に砂が覆い、既にカインの胸辺りまでが土に埋まっている。
一方通行の言うとおりならアイツの能力で砂同士は何万トンもの力で結び付いている。
そんなものを引き剥がすなんて当然できっこないのだが。
「――――私ヲ、捕マエラレルト思ウナ」
ごぽりと地面が沸き立ち、カインを覆う土がどろりと崩れてゆく。
能力の効果すらアイツは腐らせるっていうのか。
「っく――」
能力に腐食の呪いを浴びたフィードバックだろうか。
一方通行の顔が苦悶に歪み頬を冷や汗が伝った。
けれど能力は効果を発揮し続け、完全に汚泥と化したグラウンドの土はなおもカインを離そうとはしない。
「オラ、突っ立ってンじゃねェ早くしろォ――!」
一方通行の声にリザが爆ぜるように駆け出す。
彼女もやはり聖遺物の使い手。
足取りは確かで、俺やインデックスと同じくカインの呪いを浴びたにも関わらず彼女は既に復活している。
「――キサマ――バビ、ロン」
重く湿ったようなカインの声が響く。
リザは間違いなくアイツの鬼門だ。
その聖遺物がどんなものかは知らないが、死人と成り果て腐った脳でもその事は分かるのだろう。
カインの周囲の空気が爆発的に負の密度を上げる。
効果が広がりすぎる散布ではなく、最初に見た一点集中の砲撃の創造で束縛する一方通行の能力を溶かしにかかる。
「っが、ァ――!」
血を吐くような呻き声を上げ一方通行は胸を掻く。
が、片手は地に付けられたまま。能力を使い続ける。
しかし土山の端からカインの聖遺物が僅かに覗く。
その形状は砲。用途は射出。弾丸は呪い。狙いは――リザ!
聖遺物から打ち出された腐の弾丸は、狙いどおり真っ直ぐに走るリザに向かって喰らいつく。
「させません……っ!」
「ヴァレリアっ!?」
その前に立ち塞がったヴァレリアを直撃する。
身に纏ったカソックの胸元がボロボロと崩れるが神父には何一つ効いちゃいない。
「お願い、抑えて、戒――!」
腐毒を切り裂くようにベアトリスの白雷が降り注ぐ。
夜を切り裂いた数十条の光の槍がカインに突き刺さり肉の焼け焦げる臭いが辺りに立ち込める。
そして彼女の雷に応えるかのように――
「ッ――ガァァアアアア――!!」
吼えたカインは三人の内の誰だったのか。
そんな事はこの際関係ない。
ただ確かなのはカインの動きが内から何かに抑えつけられるように止まった事だ。
時間にして数秒。ほんの少しの間。
だが遅い。ついにリザの手がカインに届く――!
「今です、リザ!」
「リザさん!」
瞬間、彼女の気配が逆転したように濃密な暗色へと変貌する。
それまでずっと優しげだった彼女が聖母だとするなら、今の彼女の纏う気配はさながら毒婦のそれだ。
真剣な表情で、けれど淫蕩に笑い、リザは虚空に手を伸ばす。
バビロン
籠絡し懐柔し手懐ける、堕落の女神――故に彼女の魔名は大淫婦。
形 成 青褪めた死面
「Yetzirah――――Pallida Mors」
リザの気配が彼女の手元に凝縮し、一瞬で聖遺物が形成される。
――それは小さな、一頭の奇形の面だった。
ヘルメットのシールド部分だけを取り外したような、眼のための穴のないのっぺりとした表面。
一見硬質に見えるのにどこか奇妙な柔らかさを持つそれは確かに呪怨の塊だった。
遠目でも確かに分かるくらいに寒気を催すそれは、人間の皮でできていた。
それもまだ幼い――言葉も解せないような赤子のものだ。
薄い人皮を数百数千と張り合わせて作られた狂気の産物。
それは間違いなく呪いの聖遺物と呼ぶに相応しい。
「眠りなさい、カイン――あなたの眼を私が覆ってあげるから」
手にした聖遺物をリザは優しくカインの顔に近付け――
「ア――ァ――」
死面がカインに触れ両目を覆い隠すと同時。
ずるりとその中に吸い込まれるようにしてカインの巨体が消え去った。
同時に周囲に満ちていた死体の山のような気配が消え去る。
ただの静かな夜の学校――でもそこには確かに破壊の爪痕が残されていた。
「やった……のか……?」
体は理解しているのに頭がついてこなくて、思わず口からそんな言葉が零れた。
「ええ、もう大丈夫よ。彼は今この中にいるから」
リザが手にした面を掲げて見せる。
正直なところ見ているだけで気分が侵されそうなのだが、俺はできるだけ顔には出さず小さく頷いておいた。
「ひとまず、これで一安心といったところでしょうか」
「ええ。八つのスワスチカの内、二ヶ所は抑えたわ」
既に開いているスワスチカは二つ。
大隊長とかいうトンデモ級の団員が出てくるために半数以上の開放が条件なら、あと一つは開いてもいい事になる。
「次のスワスチカは……三沢塾、だったかしら」
「上条さんの言う事が本当なら、誰かが降りた時点で開くでしょう。
しかし今回はこちらで迎え撃てる。現れたと同時にその場で斃せば――」
「……え? みんなが出てくる場所、分かっちゃってるんですか?」
聖職者二人の会話にベアトリスが割って入る。
これまでの経緯を知らない彼女が驚くのも無理もないだろう。
「ええ、そちらのインデックスさんがおおよそのあたりをつけてくれました――
と、いけない。彼女を早く病院に」
「あ、ああ……」
腕の中のインデックスはいつのまにか気を失っていた。
呼吸は荒く体温も高い。が、命に別状はなさそうだ。
連日で病院に運び込まれるコイツも不幸だな、と思いながらも俺はインデックスには悪いけれど少し嬉しかった。
俺を心配して来てくれたのだ。自分にも何かできる事はないかと思って俺を助けに来てくれた。
それなのに俺は――
「ヴァレリア、話はそっちでつけておいてくれ。俺はインデックスを病院に連れて行く」
「あなたは大丈夫なのですか? 我々とは違い生身の人間だ。
カインの創造の直撃を受けて、普通なら即死していてもおかしくないというのに」
「あー……俺もちょっと、普通じゃない能力があって」
とはいえ肉体のダメージは激しい。歩くので精一杯だろう。
でもきっとコイツを運ぶのは俺の役目だ。少し格好を付けすぎかと自分でも思うけど。
「ったくよォ……少しくらいは労いの言葉があってもいいと思うンだが」
重い溜め息をつき、ふらつきながら一方通行が立ち上がる。
そうだ。コイツだって能力――聖遺物越しとはいえ何度もカインの創造を食らっている。
もしかしたらその呪いのベクトルも多少は操れるのか、俺よりはいくらか確かな足取りでこっちに近付いてきて――
「――――っ、」
そのままふらりと倒れた。
「おい、一方通行!?」
「……るせェ。少し、疲れただけだ」
いつものような悪態をつくけれど、うつ伏せのままの弱々しい声はアイツらしくなくて。
それが余計に俺の不安を掻き立てる。
「嘘言ってどォすンだよ馬鹿が……少し休めば、……」
一方通行は力なく俺を睨みつけ――そしてそのまま眠るように気絶した。
「本当に大丈夫なのかよ……」
「ええ、多分。彼も聖遺物を扱えるのですから相応の回復力を持っているはずです。
しかしここでは少々寝心地が悪すぎる。彼は――私が教会に運びましょう」
「えっと……この人たちは?」
ベアトリスがリザに耳打ちするように尋ねるのが聞こえた。
「実は私もよく……まあ、詳しい話は教会でしましょう」
「そうですね。ここじゃあなんですし」
そうして、ここにいる全員が各々傷を負いながらも安堵の息を漏らし引き上げようとした時だった。
『――――なるほど。これは中々悪くない見世物だ』
言葉と共に黄金の天蓋が墜ちてきた。
「なっ……!?」
「づぁっ!?」
「これは……!」
ただただ圧倒的な存在感が突然現れた。
天がそのまま落ちてきたとしか思えないような馬鹿げた質量を伴うプレッシャー。
その気配だけで文字通り地面に押し伏せられる。
身動き一つ取れない重圧は確かな圧力を持っていて、校舎が歪み窓ガラスが残らず砕け校庭の隅に生えた木々が折れそうにしなる。
莫大な質量に押し出された空気が渦を巻き烈風となって吹き荒れる様はまるで戦場のよう。
黄金の奈落としか形容のできない代物が天に穴を穿ち降ってきた。
「カールの代理など、それこそツァラトゥストラでなくば勤まらんと思ってはいたが――しかし余計な気負いだったかな。
あれに不手際などあるはずもない。が代打ちと言うならば間違いなくそれが勤まるのだろうよ」
地獄の底から鳴り響くような、けれどどこか涼やかで凛とした男の声。
眼を焼き尽くすような黄金の気配の中に天空から映し出された影が映写機のようにその像を結び――
「不完全な状態だったとはいえ、トバルカインの創造を生身で受けるか。――面白い」
現れたのは長身の男。
長い金髪を鬣のようになびかせ、白い軍服の上から黒のコートを肩にかけ立つ姿は気持ち悪いほどに絶対的だった。
およそ人としての黄金比を具現化したような麗貌は美の神が現れたと言っても不思議じゃない。
なのにその顔に燃えるのは――万物を余さず焼き尽くす黄金の双眸。
俺は確信する。間違いようもない。
こいつが――
、 、 、 、 、 、 、
「初めまして――と言うべきかな。卿の存在を私は知っていると言えるのか分からんものでね。
本来ここで名乗るべきではないのだろうが、相手の名も知れぬまま踊るのは興も乗らんだろう」
そう言って男は真っ直ぐにその黄金の瞳で――俺を見て――
ハガル・ツォーク
「聖槍十三騎士団黒円卓第一位、破壊公――――ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒである。
卿の奮戦に賞賛を送ろう。魅せてもらったぞ、力なき少年。我が戦奴を前によくぞ生き残った」
ただ立っているだけなのに、指一本動かせない。
見られているだけなのに魂ごと打ち砕かれそうになる。
その姿は黄金と呼ぶに相応しく――けれど――
「オマエ、が――」
コイツが――コレが、こんなものが――
ラインハルト・ハイドリヒ――――っ!
「ふむ……やはりそうか。
単純な確認作業、結果が既知のものであったとはいえ、未知かもしれんと心躍らせるのもそう悪くない」
僅かに笑みながらもその口の端には落胆が浮かんでいる。
だが奴は愉快そうに俺と、俺の抱き寄せたインデックスを交互に見る。
「なるほど。あれも相も変わらず筋書きをなぞるのが好きなようだ。
未知を望むというのに自ら進んで既知を行うというのはいかにも彼奴らしい。そうは思わんか、聖餐杯」
「っ……ハイドリヒ卿……!」
視線を向けられぬまま言葉をかけられ、ラインハルト以外ではただ一人この場に立っていたヴァレリアは苦悶の表情を浮かべる。
「彼は――!」
「よい。言うな」
一瞥もせず返答を短い二言で切って捨て、ラインハルトは視線を俺に向け続ける。
「たとえ結果が同じであれ他人の口から聞くものでは些か風情もなかろう。
それにカールの手際ではなくとも友の計らいには違いない。私とて踊るのは吝かではないのだよ」
「っ――! まさか、あなたは――!」
瞠目するヴァレリアを背に黄金の獣は優雅に笑する。見惚れるほどのその笑みは同時に怖気を誘うものでしかない。
そんな吐き気がこみ上げるほどの美しい微笑を俺に向け、
「卿らと少々話がしたい。卿と彼女を我が城に招待しよう、無能の少年」
次瞬、大地が張り裂けんほどの轟音と共に眩い閃光が視界を埋め尽くし、
その光に意識までもが焼き尽くされるように、
俺は――腕の中の彼女だけは――
彼女だけは絶対に守ろうと抱き締め――
――――――、
――――――、
――――――。
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
:
Ⅱ : Tubal Cain :
Ⅲ : Christof Lohengrin :
: Ⅹ :
Ⅴ : Leonhard August XI : Babylon Magdalena
Ⅵ : Mondenkind :
: : Zarathustra
Der L∴D∴O in Shamballa ―――― 7/13
Swastika ―――― 2/8
【 Chapter Ⅲ Open the Nightmare ―――― END 】
――――――――――――――――――――
さて、そんなわけで対トバルカインのチャプター3でした
未だにもう片方の主人公勢が出てない。なのに司狼だけ抜け駆けとか、おのれ太子め
獣殿のカリスマっぷりがちゃんと描けるかすっげー不安ですが、それもまた次回に
なんか一通さんがすげー弱キャラに見えるんだが……最強(笑)とか第一位(笑)とか言われそうだ
次回予告は書いても仕方ない気がするんで代わりにキャラ紹介とか
ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ
黒円卓第一位、首領、『愛すべからざる光(メフィストフェレス)』。あらゆる意味で最強。存在そのものがチート
二人称は「卿(けい)」。どこぞの我と書いてオレと読む金ピカに若干キャラが被ってるなんてことはない
サーヴァントではないのでクラスはないけど当てるとしたらランサー。でも声はあーchうわなにをするやめ
ちなみに全ジャンル敵役最強スレでもかなりの上位にランクインするマジキチっぷり。まとめwikiでは上から2クラス目、全体22位
参考までに、一方通行はクラス26
トバルカイン
黒円卓第二位『死を喰らう者(トバルカイン)』。不死怪物。サーヴァントとしてのクラスはバーサーカー。
聖遺物に飲まれた者の末路であり彼自身が屍肉の塊。そのため痛覚などは存在せず、人体の条理を無視した動きが可能。
その正体はヒロインの一人、櫻井螢の兄・櫻井戒であり、また聖遺物に食われた歴代の櫻井でもある。
聖遺物は『黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)』。武装具現型。創造位階。
形状こそ長大な鉄塊といった様子だが、人為的に製造された聖遺物であり聖槍の贋作。定まった形はなく使い手によって形状は変化する。
櫻井一族のみが製造できる神鉄によって打ち出された槍は形状こそ別物だが、性質は真作に忠実に再現されていたため擬似的に聖槍として機能する事となる。
櫻井の血族とその縁者のみを使い手として正確に狙い打ちし、その魂を食らい続ける呪いの槍となった。
戒と愛し合っていたベアトリスもまた死と共にカインとなっていたが、二〇〇六年の諏訪原市での事件の際に完全に分断される。
創造は取り込まれた櫻井が個々に有するためその数だけ存在する。
詠唱は鈴が「古事記」、武蔵が祝詞の「天津罪・国津罪」
ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン
元黒円卓第五位、『戦乙女(ヴァルキュリア)』。雷光の戦姫。サーヴァントとしてのクラスはセイバー。
長い金髪を後ろで結った碧眼の女性軍人。黒円卓にありながら陽気で気さくな性格で、唯一双首領に魂を売っていない獅子身中の虫。
Dies irae本編では純粋な剣の腕では最強クラスを誇る。戦闘中に詠唱で告白という前代未聞の偉業を成し遂げた。
城には召し上げられていない在野メンバーだったが、Dies irae本編開始前の一九九五年に諏訪原市で起こった団員同士の戦闘で命を落とす。
お互い明言せぬものの当時の黒円卓の一人と恋仲であった。
聖遺物は『戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)』。武装具現型。創造位階。
伝説のままの武器ではないが高い霊格を持つ聖遺物で青白く輝く両刃の剣の形をしている。雷撃を伴う攻撃が可能。
創造は『雷速剣舞・戦姫変生(トール・トーテンタンツ・ヴァルキュリア)』。求道型。
共に戦場で戦う仲間のために「彼らの往く道を照らす光になりたい」という渇望を具現化。自分を雷撃そのものへと変質させる。
そのため物質透過能力を持ち、創造状態の彼女への攻撃は格上からのもの以外は完全に意味を成さない。
また速度も最速級、威力も雷撃そのものとなっているため幹部を除く団員の中では最強クラスの実力を持つ。
詠唱はワーグナーの「ニーベルングの指輪・第一日『ワルキューレ』」。
……と、ここまでずっと最高・最強クラスと続いているがどれも誰かに一歩及ばない器用貧乏。
リザ・ブレンナー
黒円卓第十一位『大淫婦(バビロン・マグダレナ)』。代行補佐。
姉属性と母属性と婆属性を併せ持つ色々凄い人。胸とか。
メガネに泣きぼくろのエロい巨乳シスター。Fカップ。玲愛の母親代わりであり姉代わり。実のところ曾祖母に当たる。
日々玲愛に度が過ぎる愛情表現を繰り返すヴァレリアに制裁を下す毎日を送っており彼から恐れられている。
かつて優生学の一環としてナチスが設立した生命の泉協会レーベンスボルンに所属していたため家事万能。
というかレベルファイブ良妻賢母。実年齢は九十オーバーだが気にしない。
人格破綻者揃いの黒円卓(というかDies irae全体)の中では比較的良識人だが、葛藤を抱えながらも何もしない偽善者と自嘲する。
今回の話は彼女が「何かした」場合の話でもある。
聖遺物は『青褪めた死面(パッリダ・モルス)』。事象展開型。形成位階。
赤子の皮を張り合わせて作られた覗き穴のない仮面。マグダラの聖骸布。
シュピーネと同じく形成位階で戦闘能力も黒円卓の正規メンバー内では最弱だが、仮面を装着した死者を意のままに操ることができるという性質を持つ。
創造位階ではないものの、微妙に詠唱がある辺りシュピーネさんの不遇っぷりが際立つ。
ヴァレリア・トリファ
黒円卓第三位、首領代行『神を運ぶ者(クリストフ・ローエングリーン)』。もう一人の黄金。
長い金髪に碧眼を持つ長身の神父。玲愛の育ての親であり、螢にとっても同じような存在だった。
柔和な物腰と気弱な性格で、玲愛を溺愛しているが大抵冷たくあしらわれる。彼女とリザには頭が上がらずこき使われている。
本来の役割はラインハルトのいない間の陣頭指揮を取る補佐官。謀略を駆使し諏訪原市で行われた惨劇を指揮した。
味方である黒円卓すら言葉巧みに操り己の目的のために誘導していた。
現在では黒円卓の意図から離反し、玲愛を守るためにラインハルトの復活を阻止しようと学園都市にリザと共に潜入している。
聖遺物は『黄金聖餐杯(ハイリヒ・エオロー)』。特殊発現型。創造位階。
その身そのものが彼の聖遺物であり、恐怖と呪いのあまりに聖遺物と化するまでになったラインハルトの玉体。
ラインハルトが『城』に引き篭もる時に色々あってヴァレリアに貸し出さ管理を任された。
そのため常に形成状態であり、メルクリウスの術もあって徒手空拳で他の聖遺物を圧倒する絶対的な防御力を誇る。
彼を傷つける事はラインハルトを傷つける事を意味し、その総軍に匹敵する質量の魂でなければかすり傷すら負わない。
創造とかに関しては出てきてから
あれ、螢がまだ出てきてないぞ……!?
次回更新はまた未知
卿ら、それまで待てるか?
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