勇者「もうがんばりたくない」(317)
国王「そなたは選ばれし勇者だと神託があったのだ」
青年「私が……勇者ですか」
国王「死にかけた我が国をどうか救ってほしい、勇者よ!!」
【 100Gてにいれた! 】
青年(……これだけで旅に出ろと?)
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勇者「え、えっと……」
村長「どうかこの村を救って下され!」
僧侶「勇者様、彼らを助けてあげましょう!」
女戦士「勇者ならやるべきだぜ!」
勇者「………うん」
勇者(お城の兵士をこっちにまわせばそれで事足りるような相手なのに)
スライム娘「……」ギュッ
勇者「………」
村長「ゆ、勇者の仲間だったのですかな? 村を荒らしていた魔物とは」
僧侶「なついてしまったようなのです」
村長「……さようですか、ありがとうございました」
勇者「え?」
村長「勇者様はお急ぎの旅をしているのでしょう? 早く旅立ってはいかがか」
勇者「・・・」
関所兵士「魔物を連れているなど、貴様が勇者なわけあるか!」
関所兵士B「殺せ!!」
勇者「や、やめて! この娘は悪い魔物じゃないのに!」
スライム娘「…っ」ビクビク
ズバッ
勇者「っああ!!」ドサッ
僧侶「勇者様!」
女戦士「通行証が見えねえのかよてめぇらァァ!!」ズバッ
勇者「だ、だめだよ……同じ人なのに殺し合ったらだめだよ……」
「勇者は殺人鬼だー!!」
「この街から出て行け?!!」
「化け物も殺せ!!」
僧侶「あわわわ、逃げましょう勇者様!」
勇者「で、でも女戦士さんの解毒薬が買えない…」
女戦士「ぁ……アタシはいい、逃げよう……」
勇者(あの時、ちゃんと関所の兵士達と和解してれば………………)
騎士「国王はお前たちを切り捨てた、新たな勇者も見つかったそうだしな」
僧侶「では! 我々の支援は…」
騎士「無くなる」
騎士「話は終わりだ、ここでお前達には死んでもらう」
勇者(騎士団を相手するほどぼくらは体力が残ってない、どうしたら……!!)
スライム娘「……!!」バッ
勇者「ぇ…」
スライム娘「………!!」パクパク
『 に げ て 』
勇者「す、スラリン……っ」
女戦士「今のうちに逃げよう勇者!!」
エルフ「・・・」
勇者「……あの」
エルフ「疲れてる、休め、寝る? 食事?」
勇者「え、えっと、あの」
僧侶「この娘、エルフみたいです、私達を村か何かに案内してくれるのかも」
女戦士「そりゃーいい、休みたいな」
勇者「・・・」
勇者(何だろう、何度か見た事ある気がする)
勇者「なんで!? なんでぼくたちを騙すの!」
エルフ「私達エルフは人間の敵、それが、真実」
女戦士「勇者に助けて貰った癖に、恩を仇で返すのかよ!!」
エルフ「ケラケラケラ」
ガッ!! ガッ!!
僧侶「」ビチャッ
勇者「なんで……なんで………助けてあげたのに……」
女戦士「……」フラフラ
勇者「もう少しだよ、がんばって…」
女戦士「………もう少しってさ、何がもう少しなんだ」
勇者「村だよ! さっきの村人がくれた地図だとこの先に……」
女戦士「……勇者」
女戦士「がんばり屋だなぁ…おまえ」
勇者「女戦士まで死なせないよ、当たり前でしょ」
女戦士「・・・」
女戦士(故郷にも帰れなくて、村にも町にも受け入れて貰えないのに)
女戦士(世界を救うには人間も敵になるのに、よくがんばれるよなぁ)
ドサッ
四天王「ぐあ・・・勇者、何故それほどまでの力を有していながら人間の味方をする」
勇者「・・・しらない」
四天王「数多もの村や町を救い、世界を救う為に戦って何が楽しい!」
勇者「・・・楽しくない」
四天王「初恋のエルフに騙されても尚、人間の味方を何故する!!」
勇者「・・・ぼくが好きだったのは僧侶と女戦士さんだけだよ」
勇者「・・・もういい」
勇者「もう……いい、んだ」
魔王「……」
勇者「……来ないの?」
魔王「先程から貴様が無言なのでな」
勇者「疲れちゃった」
魔王「ほう」
魔王「何故に」
勇者「……わからないよ」
魔王「ぐぉぉお……ばかな」
勇者「……」
魔王「そなた、何故に泣いている…我を倒して嬉しいか」
勇者「……もういやだ」
魔王「…? 何がだ」
ドバン!
騎士「突撃だ!! 今ならば勇者も魔王も弱っている!!」ドドドド
魔王「!?」
勇者「・・・」
騎士「」ドサッ
勇者「・・・」
魔王「ハァ…ハァ…」
勇者「…………」
勇者「これであとは魔王が死んだら……何か変わるかな」
魔王「ハァ…ハァ……さぁな」
魔王「……勇者」
勇者「なに」
魔王「・・・そなたの目、何故に死んでいるのだ」
勇者「・・・」
魔王「ハァ…ハァ、我の生もあとわずかか」
魔王「教えよ勇者、何故……そなたの目は死んでいるのだ」
勇者「魔王を倒したら見える必要ないから」
魔王「何故……回復させない、魔法は使えただろう」
勇者「傷を塞ぐ必要ないから」
魔王「死にたいのか」
勇者「……生きるだけのがんばれる気力がないから」
勇者「生きる気力がないから」
勇者「戦う体力がないから」
勇者「がんばれる……力が無いから」
勇者「もうやだよ、いやなんだ」
勇者「勇者なのに、いい大人なのに弱音を吐いたら怒られるしだらしないって言われる」
勇者「ぼくはがんばって皆を助けたよ」
勇者「でも御礼が欲しいのに、嫌な顔してお金渡されるんだ」
勇者「泊めてって頼むと僧侶の体を欲しがってくるんだ」
勇者「怪我した魔物を助けても怒られる、口答えすると犯罪者になる」
勇者「がんばってもがんばっても、僧侶は死んだ、女戦士も死んだ」
勇者「みんな、ぼくが頑張れるようにって、一人で寂しくないようにって派遣された只の一般人だよ」
勇者「でも僧侶は少しでも役に立ちたくて魔法を覚えてくれた」
勇者「女戦士も本当は普通の女の子だったのにぼくが勇気出るように勇ましくいてくれたよ」
勇者「……でも、どれだけがんばっても無駄になるんだ」
勇者「泣いても誰も優しくしてはくれなかった」
勇者「沢山優しくして、助けて、笑っても、がんばっても……」
勇者「………………」
魔王「……勇者、そなた」
勇者「魔王、ぼくは勇者になる前からこうなんだよ」
勇者「お母さんに褒めて貰いたくて書記官の勉強をしてもね」
勇者「好きな女の子に振り向いてほしくて体を鍛えてもね」
勇者「一杯一杯……努力してもね………」ポロポロ
勇者「……報われない、優しさのない世界なんだよ」にこっ
魔王「…………」
魔王「…………勇者よ、我が死んだ時この城は崩れる」
魔王「その際に我が座っていた玉座の隠し階段が開く」
勇者「・・・」
魔王「そなたの願いを叶える秘宝、くれてやる」
魔王「その代わり、約束せよ」
勇者「なにを・・・?」
魔王「その願いを無駄にせぬように、そなたのやり方で『がんばる』のだ」
魔王「…………ぐ、ゴフッ」
魔王「さぁ、そなたの願いを聞かせてくれ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
勇者「……」フラフラ
勇者(隠し階段……)フラフラ
勇者(罠、かな)
勇者(もういいや……このまま城に潰されても)
フラフラ・・・
勇者(・・・)
勇者「え?」
勇者「これが……魔王の言ってた秘宝?」
勇者「………」
『さぁ、そなたの願いを聞かせてくれ』
勇者(……)フラフラ
勇者「お願いです……私の願いを叶えて下さい……」
勇者「・・・・・・」
勇者「もうがんばりたくない」
前編は完結
深夜に後編投下しにくる
書き溜め凄い速度で消えるな
「……起きて」
勇者「…」
「起きなさい」
勇者「……ぅ、う」
母親「起きなさいな! 今日は大切な試験日でしょ!」
勇者「!!」がばっ
勇者「なっ……お、お母さん?」
母親「早く行かないと復習する時間もなくなるよ!」
勇者「…………」
勇者(……これは、夢?)
勇者「お母さん……今日ってなんの試験日?」
母親「はぁ!? あんた、馬鹿な事言うんじゃないよ!!」バシンッ
勇者「痛ッ」
母親「今日は『第二次書記官試験』の日でしょうに!」
勇者「…」
勇者(書記官の……試験、日…?)
勇者(・・・)
「今日は城で書記官試験があるらしいな」
「ほら坊主! 屋台を出すから手伝え!」
「うへぇ・・・」
「はい、いらっしゃいいらっしゃい!!」
勇者(どういう事だろう……)
勇者(これじゃ、まるで過去の世界に来たみたいだ)
勇者(……仮に、ここが過去の世界だとしても)
勇者(ぼくは)
勇者「ぼくは・・・どうしてここに?」
勇者(思い出せない、確かぼくは魔王を倒して…それから、それから)
『・・・願いを叶えて下さい』
『もうがんばりたくない』
勇者(!!)
勇者(……ぼくは 何か に願いを告げた)
勇者(これは僕の願い? 過去に戻る事が?)
ドンッ
勇者「っと」
女「す、すいません! お怪我は?」
勇者「平気だよ」
女「そうですか、では私はこれで!」
勇者「うん、試験がんばってね」
女「はい!」タッタッ
勇者「・・・」
噴水広場
勇者(……)
勇者(これが僕の願いなわけない)
勇者(過去に戻ってもどうしようもないじゃないか)
勇者(さっきの女の子は 試験に合格していた 、だけどぼくは、違う)
勇者(……ぼくは試験に落ちて、母親に幻滅される)
勇者(それから数ヵ月、ぼくはお母さんに何度も落ちた事を責められる)
勇者(それがぼくの過去なのに)
勇者「…………」
「試験お疲れ様、……って言いたかったのにな」
勇者「?」
「こんなところでなにしてるの、勇者」
「あ、隣に座っていい?」
勇者「……うん」
「よいしょ」
勇者「・・・」
「・・・」
勇者「ごめん、君は誰かな」
「……?」
勇者「君」
「私?」
「誰かなー?」
勇者(………)
勇者(こんな娘は居なかったはず、となるとこの目の前にいる女の子)
勇者(魔物、もしくは罠……? この世界は虚実なの?)
「………」くすくすくす
「……ごめんなさい」
勇者「え」
「初対面だよ、私と勇者は」
勇者「でも、名前……」
「やっぱり気づいてないんだ、手に試験参加要書を持ってるの」
勇者(あ、これを見たから名前を……)
「私も書記官試験諦めたから、その紙が何かも大体分かるよ」
「驚かせてごめんね」
勇者「ぁ…いや、うん」
「試験、どうして行かなかったの」
勇者「受からないから、かな」
「だからがんばらないで逃げたんだ」
勇者「そうだね」
勇者「………」
「お疲れ様、勇者はよくがんばったよ」
勇者「何を……?」
「勉強、不安、不満、悲壮、つらいこと」
勇者「どういう事かな」
「理屈なんて要らないよ、勇者はがんばった」
勇者「……ただいま」
母親「お帰り『青年』、試験の結果は?」
勇者「落ちたと思う」
母親「・・・!!」
勇者「何を言われてもかまわないよ……ぼくはもう限界なんだ」
母親「なっ、待ちなさい青年! あんた何を考えて…!!」
勇者「出ていくよ、もうお母さんにまた同じ事言われたくないんだ」
勇者(・・・もう耐えたくない)
教会
神父「……おや」
勇者「こんばんは」
神父「こんばんは、どのような用件かな」
勇者「すいません、1日だけ泊めて頂けますか」
神父「構いませんよ、御名前は?」
勇者「名前は……」
勇者(まだぼくは勇者じゃないもんな)
勇者「青年です」
神父「青年君か、ではお部屋に案内しましょう」
勇者「……」
勇者(これからどうしたらいいんだろう)
コンコン
勇者「! はい?」
僧侶「神父様があなたに飲み物を、と」ニコリ
勇者「そこに置いといてくだ……さ…?」
僧侶「?」
勇者「そ……僧侶、さん」
僧侶「? はい、そうですよ」
僧侶「失礼ですが、どこかで会いましたか?」
勇者「………ッ」
勇者「・・・」
勇者「僧侶さん、この教会にいたんですね」
僧侶「はあ、そうですが」
勇者「……」
勇者(ほくと出会う前の、僧侶さん、……)
バタンッ!
勇者(……僧侶さん)
『わ、私僧侶って言います! まだ初歩的な回復魔法しか使えませんが……勇者さんの役に立ちたいです!』
勇者(………)ポロポロ
『こんな魔物もいるんですね、人間の女の子型のスライムなんて』
『彼女に敵意は無いみたいですし見逃してあげられませんか、勇者様』
勇者(……………)
勇者(優しい目は今も未来でもそのままだったんだね)グスッ
勇者「……ティッシュティッシュ」ズズッ
翌日
勇者「……」ガサゴソ
勇者(荷物の中身は魔王城に入った時のままだ)
勇者(勇者として任命されて、僧侶と女戦士さん達に出会った時に録った絵……)
勇者(……まだ残ってた)
勇者「ふぅ」
勇者(・・・)
勇者「これから、どうしたらいいのかな……」
「まずは朝食食べに行こうよ」
勇者「!」
「凄い偶然だよね、まさか同じ教会で一泊してたなーんて」
勇者「本当だね、えっと……」
「名前?」
勇者「そうそう」
「ふふん、好きに呼んでいいよ」
勇者「……えぇ」
「結局名無しなんだね」
勇者「……君が自分から言いたくないならぼくは無理に名前を呼ぼうとはしないよ」
「そうなんだ、ありがとう勇者」
勇者「うん」
勇者(・・・)チラッ
「さて、何食べに行こっか?」
勇者(……地元では見た事ない、綺麗な水色の髪の毛)
勇者(とても綺麗な肌……)
「綺麗かな?」
勇者「うん、………え?」
「ありがとう」
勇者(……///)
「美味しそうな料理だね、早く食べたいな」
勇者(さっき……///)
勇者(まるで心でも読まれたみたいな気分だったなぁ)
「顔赤いよ勇者、まだ恥ずかしいの?」
勇者「いや、何て言うのかな……あはは」
「楽しい?」
勇者「楽しいって、なにが?」
「………何でもない」
勇者「?」
「……ご馳走さま」
勇者「?」
勇者「まだ残ってるよ」
「ちょっとお手洗い行ってくるね、またね勇者」
勇者「………」
勇者(なんか不思議な娘だなぁ、ぼくでも疲れてきた)
「この店に『青年』とかいう奴はいるか!!」
勇者「!?」ビクッ
騎士「『青年』を連れて参りました、国王」ザッ!
国王「御苦労」
勇者(……な、なんだ? この状況)
ジャラッ
勇者「この手枷…外して貰えますか」
騎士「駄目だ」
勇者(まるで犯罪者扱い……)
国王「青年よ、そなたにはこのワシから話があって呼び出したのだ」
勇者「……国王陛下が私のような職にもついていない若僧にどの様なお話しが?」
国王「ふむ、実はな」
国王「 そなたは選ばれし勇者だと神託があったのだ 」
勇者「………え?」
国王 「魔物共の脅威に晒されている我が国をどうか救ってほしい、勇者よ!!」
勇者「な……………な、………」
勇者(なに……これ、昨日が書記官試験日ならぼくが勇者になるのはまだ2年は先のはず)
勇者(何故いま勇者に……!?)
国王「勇者よ、引き受けてくれるな?」
勇者「ぁ…………」
勇者(……………)
勇者「……」
騎士「フン、明日再び城まで来い」
騎士「改めて貴様の使命を確認させるのと、国王から資金が与えられる」
勇者「100Gぽっちの資金でしょう」
騎士「…貴様、切り捨てられたいか」
勇者「・・・」
「いたいた、勇者おかえりなさい」
騎士「っ、ち……命拾いしたな」ボソッ
勇者「では改めてまた明日」
騎士「フン……」ザッザッ
「今の人は?」
勇者「……騎士団長だよ」
「偉そうだったね、勇者の方が凄いのに」
勇者「どうかな、ぼくなんて………」
勇者「……」
『 「勇者は殺人鬼だー!!」』
『「国王はお前たちを切り捨てた、新たな勇者も見つかったそうだし な」』
『 「話は終わりだ、ここでお前達には死んでもらう」 』
勇者「・・・」
勇者(何一つ、報われない)
「……」
「おめでとー勇者っ、明日から頑張らなきゃね」
勇者「……ありがとう」
「えへへ」
「勇者、今夜泊まる所ないでしょ」
勇者「え……うん」
「噴水広場に行こう? 泊めてくれる親切な人がいるかも」
勇者「??」
ウェイトレス「……」
ウェイトレス(アタシが……アタシが……)
ウェイトレス(親には何て言えば良いのかな)
ウェイトレス(・・・)
勇者「誰もいないよ、もう日が暮れて来たしね」
「えー?」
勇者「どうしようかな」
「ね、あの人は?」
ウェイトレス「………」ウーン
勇者「えーと、すいません」
ウェイトレス「はい!?」ビクッ
勇者「わっ……あの、この辺りで一泊させてもらえる場所ってあるかな」
ウェイトレス「一泊? ……宿屋があるわよ」
勇者「お金なくて…」
「勇者、警戒されてない?」
ウェイトレス「お金ないなら諦めた方がいいわ、余程親切な人でないと」
勇者「ですよね、すいません」
「元気出して勇者、仕方ないよ」
勇者「ああ、うん……撫でなくていいから」
ウェイトレス(……えっ)
ウェイトレス(『勇者』?)
ウェイトレス「ちょっと待って、勇者って…明日正式な任命を受ける勇者よね!」
勇者「? そうだよ」
ウェイトレス「……本物の勇者様ですね?」ボソッ
勇者「・・・」
勇者(この子、まさか)
女戦士『がんばり屋だなぁ…おまえ』
ウェイトレス「?」
勇者「女……戦士」
ウェイトレス「! 騎士様から私の話が伝わってたんですね!!」
勇者「じゃあやっぱり君が女戦士さん!?」
ウェイトレス「は、初めまして勇者様! 今夜泊まる所が無いなら私の家に来てください!!」
勇者「・・・」
「ほら、ね」クスクス
ウェイトレス「スゥ・・・スゥ・・・」
勇者「……」
「寝ちゃったね」
勇者「楽しそうだったしね、きっと色々想像したら疲れちゃったんだよ」
パサッ
勇者(お休みなさい、女戦士さん……)
勇者「……っ」ポロポロ
「………」
「泣いていいと思うよ、勇者にとって大切な人だったもんね」ボソッ
翌日
国王「これより任命式を行う」
騎士「勇者とその使命に付き従う者達は前へ」
ザンッ!!
勇者「……」
僧侶(ゆ、勇者様ってこの間の……!?)
女戦士(こ、この防具何でこんなに露出してるのよ……!!)
国王「王としてそなた達に与える権限は・・・」
勇者(やっぱり話が長いなぁ)
勇者(……)
勇者「王様」
国王「……何か」
勇者「何故に彼女達も同行させる必要があるのですか」
国王「それについては今から言おうと思っていたのだ」
騎士「勇者、貴様がやるのは魔物狩り……つまりモンスターハンターになる事だ」
勇者「…!」
勇者(モンスターハンター? どういう事だ)
国王「近年我が王国の周辺や内部では多数の魔物が増えている」
国王「今回そなたは勇者を名乗り、我が王国の秩序を守る為に戦い続けるのだ」
騎士「薄汚い魔物共の親玉も探し出して……な」
勇者(・・・)
勇者「王様、私には仲間という存在は不要です」
僧侶(!)
女戦士(え…)
国王「……勇者よ、まだそなたは未熟だ」
国王「今のそなたでは騎士団長にも敵うまい」
騎士「全くですな」
国王「そなた一人では魔物に太刀打ち出来ぬ、その者達がいるだけでもマシになろう」
勇者「彼女達は貴方の兵士でも駒でもないッ!!」
国王「!?」ビクッ
勇者「僧侶さんは今まで孤児だった自分を拾ってくれた教会で、沢山の人を自分のように困っていれば救いたい」
勇者「そんな想いで誠実に優しく生きて来たんだ!!」
勇者「女戦士さんもだ! 彼女は貧しい暮らしをしている両親の為に必死で働いていた!」
勇者「それが、ぼくのような人間の為に両親への仕送りを止めるなんて間違ってる!!」
騎士「口が過ぎるぞ小僧ッ!! 国王に謝罪せよ!!」
勇者「断る」
騎士「貴様……国王、抜刀の許可を!!」
国王「落ち着け騎士団長、相手は若い未熟者だぞ?」
国王「勇者よ、今ならば若さゆえの過ちと見逃そう……だが尚の事撤回せぬというのならば」
国王「騎士団長、ここはそなたの実力を見せてやれ」
騎士「御意に」ザッ!
勇者「……」
勇者(これが……本質)
勇者(これが………ぼくがあの日勇者として忠誠を誓ったら人間、がんばる意味の象徴)
ヒュッ……ガツンッッ!!
勇者「……」スタッ!
騎士「ッ……!?」ドサッ
国王「…………?」
勇者「王様、騎士団長など私が瀕死時でない限りは敵にすらなりません」
国王「ば、馬鹿な・・・」
勇者「彼女達は私には必要ない、彼女達を巻き込む必要なんてない」
勇者「……勇者は一人で戦っていれば誰も傷つかなくて良いのです」
僧侶(勇者様……なんて誠実な方なんでしょう)
女戦士(……)
国王「……」
国王「良かろう、ではそなた一人でこれからも頼んだぞ」
国王「期待させてもらおう」
勇者「ありがとうございます」ザッ
勇者「……はぁ」
「おかえりなさい勇者」
勇者「え、待ってたの?」
「うん」
「!」
女戦士「勇者様……」
勇者「……」
(私はお邪魔かな)ソソッ
女戦士「どうして……ですか、昨夜はあんなに楽しそうな冒険の話をしたのに」
勇者「6年だからだよ」
女戦士「6年…?」
勇者「そう、6年」
勇者「6年間という長い旅で楽しかった思い出は、あれしかないんだよ」
女戦士「…………」
勇者「僕は今……『本来は』24になる、それでも昨日話したのが楽しい冒険譚の全てなんだよ?」
女戦士「何を言っているのか、わからないです……」
勇者「君は必ず死ぬ、そう言ってるんだ」
女戦士「っ!!」ビクッ
勇者「僕は君一人守れない、絶対に」
女戦士「あんなに、あんなに強いのに……?」
勇者「そうだよ」
勇者「僕は回復魔法が使えない、もしも君が毒に侵されても僕は見ている事しか出来ない」
女戦士「だったら絶対に私は毒に侵されたりしません!!」
勇者「なら君はメデューサの石化で死ぬ、エルフの幻覚魔法で死ぬ、魔王の配下に殺される!!」
勇者「ぼくにはもう二度と君を守る気力は無い!! 大切な人が死ぬ姿から目をそらしてがんばる事なんて出来ない!!」
勇者「君はもう忘れろよ!! 日常に戻って平凡で幸せな毎日を作れよ!!」
女戦士「ひ……」ビクッ
勇者「もうがんばりたくないんだよぼくは!!」
女戦士「……っ」ビクビク
女戦士「……ごめんなさい」ボソッ
タタッ!
勇者「…」
勇者「………」
ガサゴソ
勇者「…」
勇者(僧侶と女戦士さん……三人の絵)
「がんばったねぇ勇者」
勇者「!」
「お疲れ様、帰ろう?」
勇者「…帰る?」
「うん、帰ろ」
宿屋
勇者「……」
「当分はここで良いんじゃないかな」
勇者「5日しかもたないと思う」
「一部屋10Gだよ? 十日もあれば直ぐに勇者にお金一杯はいるよ!」
勇者「……君も同じベッドで寝る気?」
「うん」
勇者「…」
「……」
「………」ニコリ
勇者「……」
勇者(…何でだろう、この子)
勇者(ぼくと同じ……同じ目をしてる)
数日後
リザードマン【 …… 】
ドサッ
勇者「……」スタッ!
勇者(これで西城下町周辺の魔物は最後)
勇者(数は大したことはない、でも……数日前の早すぎる勇者任命の時と同じで『おかしい』)
勇者(リザードマンは魔王城に仕える、言わばドラゴン族の精鋭だ)
勇者(そんな大物がこんな城下町周辺を襲ってるなんて……)
勇者(この世界はぼくのいた世界とは違う世界なのか?)
町長「も、もう魔物を退治されたのですか!?」
勇者「リザードマンが首領の魔物集団も活動を止めるでしょう」
町長「素晴らしい……流石は神託の勇者様ですなぁ」
町長「どうぞ、今回の謝礼金です」
ジャラッ
勇者「……町長さん」
勇者「ぼくは200Gあれば充分です……お金よりぼくは」
町長「感謝の気持ちならあるよ、君の奥さんからは話を聞いた」
勇者「すいませんその奥さんの特徴を教えて下さい」
勇者「君ね……」
「?」
勇者「ぼくの奥さんだって言った上に泣いたでしょ」
「うん」
勇者「町長さんが同情して700Gくれた」
「凄い凄い! 強い魔物が出たの!?」
勇者「分かるの?」
「国王は勇者が倒した魔物に比例して報酬を払うように呼び掛けまわってるんだと思う」
勇者「……」
「勇者は優しいから、お金いらないって言うとも思ってた」
「だからちょっと泣いてみたの」
「それじゃ今日の夕御飯の材料買ってくるねー!」
勇者「……気をつけてね」
勇者(あの子、初めて会った時からそろそろ一週間だけど)
勇者(日を重ねる毎にぼくになついてる気がする)
勇者「……」
勇者(疑いたくはない、でもあの子はあまりにも……ぼくに従順というか優し過ぎる)
勇者(………)
更に数日後
勇者「……」
勇者(いよいよ半月になるけど、決定的にぼくの世界と違う点が見つかった)ガサゴソ
勇者(この世界には…『この国しか存在していない』ということ)
勇者(その代わりにぼくのいた世界の王国よりも領土も城下町の広さも、想像を絶するものだ)
勇者(以前ならば少し離れた位置に存在した村や町も『南城下町』、『北西城下町』という風になってる)
勇者(……ここは、どこなんだろう)
勇者(一体ぼくはどこに来てしまったんだろう)
勇者「……と」パタン
「勇者、南南西の城下町の町長さんが勇者に討伐依頼だって」
勇者「今行くよ」
南町長「おお、あなたが勇者様ですかな」
勇者「!?」
勇者「あなたは……」
『 「どうかこの村を救って下され!」 』
『 「勇者様はお急ぎの旅をしているのでしょう? 早く旅立ってはいか がか」 』
勇者(あの時の村長……ッ)
南町長「早速ですが頼みたい、小さな区画である私の町に何度も荒らしに来るスライムがおりまして……」
勇者「受けましょう、その依頼」
南町長「なんと、本当ですかな!」
勇者「ただし条件があります」
勇者「報酬は要りません」
「報酬、いらなかったの?」
勇者「いらない」
「そっか、まあスライムだしね」
勇者「普通の人間からしたらスライムだって恐ろしい魔物だよ」
「スライムは涙を象徴した精霊なんだよ? 怖くないのに」
勇者「精霊?」
「うん、スライムは一粒の涙から生まれた原初にして最古の魔物なんだからね」
勇者「よく知ってるね」
「歴史に詳しいの」
勇者「……じゃあスライムが人間になつく事ってあるのかな」
「なつかないよ」
勇者「えっ? なつかないの?」
「スライム達には共通して基準があるの、他者を『敵』かもしくは……」
勇者「もしくは味方?」
「『大切な家族』、って認める事」
勇者「……」
王国から東の森
勇者「……」ザッザッ
勇者(そろそろスライムが出るはず)ピタッ
勇者「・・・」
勇者「・・・」
勇者「・・・」
勇者「……そこッ」
ヒュッ!!
ガゴンッッ!!
ゴーレム【 …!? 】バラバラ
勇者「ゴーレム……? 何故四天王直属の配下がここに!?」ヒュッ!!
ガガガガ!!
ゴシャァアッッ・・・
勇者「ふっ……!」ザッ!
勇者(あの後さらにゴーレムが四体…)
勇者(……この森、どうやらぼくが知る森とは違うみたいだ)
勇者(あのスライム娘がぼくになついたきっかけを考えるなら…急いだ方が良いかもしれない)
『勇者様、このスライム怪我を……!』
『何があったのかな』
『さぁ……』
『……この傷、転んだ訳じゃないみたいだぜ勇者』
『じゃあ、誰が?』
『この森を仕切ってる主……つまりアタシ達にとっては、 バ ケ モ ノ に値するヤツだな』
スライム娘『なぜ、なぜです……! 私達は貴方のために人間の国に侵入までしたのにっ』
スライム娘B『い、痛いよ…痛いよお姉ちゃん』
「黙りなさいな」バリィッ!!
バヂバヂィッ!!
スライム娘B『ぅあ''あ '' あ ''っッ!! 』
スライム娘『や、やめて! やめてぇ!!』
「身の程知らずが、この私に謀反の気を起こしたのが間違いよ」
スライム娘『しらない! 私達は貴方達に敵対するつもりなんて……』
「あら? じゃあ教えて貰おうかしら、一体誰が私の配下を燃やしたのかしら」
スライム娘『知らない!! お願いだから妹をこれ以上苦しめないで!!』
スライム娘B『お……お姉ちゃん』
スライム娘『お願いだから、お願いだから……っ』
勇者「……」ザッ!
「!?」
ヒュッ!!
ズバンッ!
バヂバヂィッ!!
「……なに、今の? もう少しで死んでたわぁ」
勇者「……」
勇者(この『女』……【魔王】にそっくりだ)
女魔王「アンタ、何者? 良い度胸してるわね」バリィッ
勇者「……雷が本体か」
女魔王「そうよ、だからどうするのかしら人間」
勇者(……)チラッ
スライム娘「……っ」
スライム娘B「…っ……」
勇者「…………私がお前の相手をしてやる」
女魔王「アンタがこの私の相手?」
女魔王「ハッ! 身の程知らずが、よっぽど死にたいようねッ!!」 バリバリィッッッ
バヂバヂィッ!!
ヒュッ
勇者「……」ザッ!
女魔王(なっ……雷を避けた!?)
女魔王「なら放電で!!」バジィンッッ
勇者「……」ヒュヒュッ
ゴガガッッ
女魔王「ぐぁァッ!!」ドゴォ
女魔王(う、嘘……なぜ私に物理攻撃が……)
勇者「・・・」チャキッ
女魔王「待っ……」
スパッ
ゴトンッ
勇者「……」
勇者(四天王よりも遥かに弱かった……ならゴーレム達はなんで居た?)
勇者(……それよりも今はスライム達が先か)
スライム娘「……!」バッ
勇者「?」
スライム娘「・・・!」パクパク
『こ な い で』
勇者「大丈夫だよ、そっちのスライムの傷を手当てするだけだから」
スライム娘「?」
勇者「……だめかな」
スライム娘「……」
スライム娘B「??!」ダキッ
スライム娘「! っ♪」ギュッ
勇者「・・・」
勇者(この娘、妹か娘がいたんだ)
勇者(でもぼくが知ってるスライムはあの時………)
勇者(……一人だったのは、ぼくがこの娘達を見つけるのが遅かったから?)
スライム娘「…」トントン
勇者「え?」
スライム娘「……っ」パクパク
『あ り が と う』
勇者「……」
勇者「もう町に近づいたらダメだよ」
スライム娘「……」コクンコクン
・・・
「それで、どうしたの」
勇者「どうもしないよ、そこでお別れしてきた」
「そうなんだ」
勇者「あ、でも」ガサゴソ
「?」
勇者「小さいスライムの娘がくれたんだよ、このピンク色のガラス玉」
「……ふーん」
勇者「何だろうこれ、ちょっと温かいんだよ」
「勇者の胸に押し当ててみて」
勇者「これを?」
「うん、そうしたら分かるから」
勇者「・・・」ギュッ
ポワンッ
勇者「!!」
勇者「は、入っちゃったけど……」
「やっぱりね」
「それ、その小さいスライムの『心』だよ」
勇者「ココロ……?」
「スライムが本当に信頼する相手にだけ渡す、何て言うか……通訳?」
「とにかくこれで勇者はスライム達が何を言っているか全部分かるよ」
勇者「……」
勇者(あったかい……)
「じゃ、勇者が雷を使う女魔王からスライムを助けた記念にパーッとご馳走にしますか!」
勇者「ほどほどにね」
「はいはいっ」タッ
勇者(…………あれ)
勇者(ぼく、『魔王』まで言ったっけ)
後編完結
今夜から完結編を投下していく
・・・2ヶ月後
勇者「……」ザッザッ
ガラガラッ
勇者「……」ザッザッ
勇者(脆いな、かなり風化してる)
勇者(いや違う……この惨状は風化じゃないんだ)
勇者(そう、これは『燃やされた』跡にも見える)
勇者(確か2ヶ月前にスライム娘が言っていた)
スライム娘『あ……来てくれたんですね』
スライム娘『妹の心を受け取って私達の言葉が聞こえるようになったんですよ』
スライム娘『え? どうしてあの時襲われていたのか?』
スライム娘『えーと……今までは命令に従っていれば安全だったのですが、突然怒り狂って来たんです』
スライム娘『何度も呟いてました……確か』
スライム娘『 何者かに配下を燃やされたとか 』
勇者「………」
勇者(あの話が本当ならば、ぼくのいた世界のスライム娘も同じ理由だったのかもしれない)
勇者(……四天王の炎使いは違う……だとしたらおかしい)ガラガラッ
ザッザッ
勇者「どうしてこの『 魔 王 城 』が朽ちているんだ……?」
勇者(ここは過去の世界じゃないのか?)
勇者(全てに絶望して、魔王が与えてくれた秘宝に願って辿り着いた優しい世界じゃないのか?)
勇者(だったら……ここはどこ? ぼくにどうしろと言うんだ?)
勇者「・・・」
勇者「……………誰か………誰か教えて…よ………」
勇者「ただいま」
勇者(……いない、のかな)
勇者(思えばあの子とも3ヶ月近い付き合いなのかな…早いや)
勇者(国中から来る討伐依頼を完了しつつ、お金は要らない分は全部あの子にあげて)
勇者(てっきり遊びに使ってるのかと思ってたら……いつの間にかこんな一軒家を買ってて)
勇者「ふぅ…… ん?」
カサッ
『帰ってきたら近所の果物屋に迎えに来て』
『多分、雨降るだろうから』
勇者「……」
勇者(そしていつの間にか……本当にあの子はぼくの奥さんになったつもりらしい)
勇者(…ぼくは、どうしたら良いんだろう)
店主「お嬢さん、傘貸そうか?」
「ありがとうおばさん、でも平気だよ」
ザァアアア・・・
「こんな雨でも、迎えに来てくれる優しい人がいるから」
「だから、私は待ってるの」
店主「ふぅん彼氏かい?」
「えへへ……だったら良いのにね」
店主「違うのかい」
「うん、きっと…彼は私がそばにいても気休めだから」
「だから私は全ての人に代わって優しくいたい、彼を好きでいたい」
「……なんてね」
パシャッ
勇者「おまたせ」スタッ!
「ちょっと遅いよ、雨風で体が冷えちゃった」
勇者「あ、ごめん…」
「いいよ、来てくれたのは嬉しかったんだから」
「勇者もお疲れ様……どこに行って来たの?」
勇者「帰ったら話すよ、寒いでしょ?」
「………うん♪」
ギュッ
勇者(……)
勇者「帰ったら温めてあげるね、部屋」
「えへへ……って部屋か」
「東の朽ちた城……」
勇者「何か知ってる?」
「………」
「どうだろ、分からないかな」
勇者「君でも分からないのか……」
「うん」
勇者(以前の世界なら魔王城は誰でも知っていた、つまり忘れ去られている?)
「勇者、図書館に行ってみたらどうかな」ギュッ
勇者「図書館?」
「何か……見つかるかも」
勇者「分かった、明日行ってみるよ」
「……」
勇者「ありがとう」
「うん……!」
王立図書館
勇者「こんにちは、重要閲覧室に入りたいんだけど」
女「これはこれは勇者様! 朝から歴史に興味を持つなんて……え」
勇者「あっ」
女「あの時の……あー、覚えてます? ちょっとぶつかりましたよね!」
勇者「覚えてるよ、凄い偶然」
女「あはは、あの後試験に合格してこの王立図書館の責任者になったんです」
勇者(やっぱり…)
女「まさかあの時の人が勇者様だったなんて、もしかしたら勇者様が応援してくれたから 合格出来たかもしれないですね」
女「それはそうと、何でしたら閲覧室を私が案内しますよ」
勇者「助かるよ、お願いしようかな」
勇者「………」パラパラ
勇者(これじゃない)パタン
女「うーん、東の朽ちた城についてって、ちょっと情報不足ですねぇ」
勇者「地域別の歴史書だと付近のものばかりだしね」
女「『雷帝の年』・『水の月』より以前の歴史書なんて幾らでもありますからねー」
勇者「え?」
女「お忘れですか、今年の中でも今月は最悪ですよきっと」
勇者「そうじゃなくて、年号ってそんな呼び方だっけ」
女「はい?」
勇者「・・・いや、なんでもない」
勇者(そういえば『雷帝の年』って聞いたことあるなぁ)
勇者(何年も旅してると勉強してきた知識が全部うろ覚えみたいになるから・・・)
勇者「ありがとう、また来るよ」
女「はい!」
勇者(やっぱり……ぼくはこの世界でやり直すしかないのか)
勇者(……)ピタッ
勇者(魔王城が、魔王がいないなら……)
勇者(違う、そもそもこの世界に『魔王が存在した形跡が無い』んだ)
勇者(ここにずっと粘りつくような異物感があるのは、多分それが関係してる)
勇者「と思うんだけどな……」
「何が思うの?」
勇者「うわっ……いたの」
「今来たの、そろそろ勇者が出てくるかなーって」
勇者「いつも勘が良いね」
「うん、はい討伐依頼の紙」
勇者「うん?」カサッ
西城下町
勇者(……依頼内容は水溜まりに潜む魔物ってなってたっけ)
勇者(既に数人犠牲者が出てるとも書いてあった)
勇者(届いたのはついさっき)
勇者(なのに・・・)
「助けてくれぇ!」
「イヤァァァ!!」
「だれか、誰かぁ!! ぁあ!?」
ゲルスライム【・・・】ビタッ
ゲルスライム【・・・】ビタッ
勇者(数が多い……!!)
勇者(騎士団は何をしていたんだ……西城下町がこんなになるまで放置するなんて!)チャキッ
商人「うわぁぁあ!!」
ゲルスライム【・・・】ビュルルッ
ズバンッ
ゲルスライム【?】ビチャァ
勇者「近くの建物に入って下さい」スタッ!
商人「は、はいぃ!」
勇者「……!」
モコモコモコモコ……
ゲルスライム【・・・】ビタッ
ゲルスライムB【・・・】ビタッ
勇者(分裂再生……? いや、似てるけど違う)
勇者(短時間で増殖したのは、これのせいか)
ゲルスライム【・・・】シュルッ
勇者(移動なんてさせない……!)ヒュッ!!
トプンッ
ゲルスライム【?】
ゲルスライムB【・・・!】
ドパァアアアン!!
勇者(……)
勇者(『やっぱり』、か)
勇者(四天王の水使いも似たような戦術だから分かる、このゲル状の人形はパーツだ)
モコモコモコモコ………
モコモコモコモコ………
勇者(一体を形作っていた集合体の一部……のはず)
モコモコモコモコ……
アームスライム【………】ミシィッ
勇者(腕…?)
勇者「!!」ヒュッ!!
ガァンッッ
アームスライムB【……】ガラガラァッ
フットスライム【………】スタッ!
フットスライムB【……】スタッ!
勇者(……ぼくの実力を見抜いて集まって来たか、これで周りに被害は無くなるかな)
勇者「来い、私が相手をしてやる」チャキッ
「……♪」ザァーカチャカチャ
「・・・?」
モコモコモコモコ………
「……!」
モコモコモコモコ………
水魔王「くすくすくす、こんにちはぁ」モコモコモコ
「………」
水魔王「昨夜の雨で私、知ってるわぁ? あなた勇者とかいう奴の大切な番いらしいわねぇ?」
水魔王「ちょっと来てもらうわよ、あの男には借りがあるのぉ」
「………」
「乱暴はしないよ……ね」
水魔王「さぁ、どぉかしらぁ?」
勇者「・・・」スタッ!
モコモコモコモコ……ッッ!!!!
水魔人【………】
勇者(実力は大した事は無い、でも周囲の家屋に被害を出さずに奴は倒せない)
勇者(『水』である奴に物理攻撃は時間稼ぎにしかならない!)
水魔人【ッ!!】ブォンッ
勇者「……」ヒュッ
ズバンッ! スパスパスパパパパパンッッ
水魔人【……!】バシャァ
モコモコモコモコ……ッッ!!!!
水魔人【………】
勇者(キリがない……)
水魔人【……!】ビュルルッ
勇者(しまっ……地面に溶け込んで…!)
ガシィッ
勇者「うぁ!」ガクッ
ビュルルッ!!
ブォンッ!!
勇者「!?」
ドゴンッ・・・!
勇者(ぐあ……っ、コイツ思ったよりキツい一撃を……)
勇者「破ァッ!!」
水魔人【!?】バシャァ
勇者「……!」ヒュッ
スタッ!
勇者(四天王には程遠い……でもコイツは新しい意味で苦戦しそうだ)
水魔人【・・・】モコモコモコモコ
勇者「……」
モコモコモコモコ………
勇者「?」
勇者(なんだ? 新手?)
モコモコモコモコ………
水魔王「はぁーい?」
「・・・勇者」
勇者「なっ……!?」
水魔王「状況が理解できたなら武器は捨てなさいなぁ?」
勇者(なんで、なんであの子が……)ガシャン
勇者「………」
水魔王「こんにちはぁ、私が誰か分かるかしら?」
勇者「さぁ、水の魔王ってところかな」
水魔王「それだけじゃないわよぉ! あなたが2ヶ月前に殺した『雷帝』のとーっても大切な友達よぅ!」
勇者「目的は復讐?」
水魔王「その通り」
勇者「………」
勇者(それで、あの子を……)
「勇者、勇者」
勇者「なんだい」
「さっき聞いたの、あの女の弱点は……」ボソッ
勇者(……なるほど)
「どのタイミングで逃げたらいいかな」
勇者「……」
勇者(待ってて、すぐに迎えに来るから)
「うん、分かった」
水魔王「何をひそひそ話してたのかしら?」
勇者「何だろうね」
水魔王「まぁいいわ、どうせあんたは動けないし」
勇者「そうかもね」
ヒュッ!! スタッ!
水魔王「は?」
水魔人【!】
勇者「……『本体が出てきたのは失敗だったな』」
バシュンッッ
バシュンッッ
ヒュルルルルル・・・
水魔王(なっ!? なんで私、空から落ちてるの!?)
水魔人【……!?】
勇者「破ァッッ!!」
バチュンッッ!!
水魔王(嘘……私の分身が一撃で………)ゾク
水魔王「こ、の……ォッ!!」ザシュンッッ
バシュンッッ
水魔王(また瞬間移動…っ)
バシュンッッ
勇者「・・・」ピトッ
水魔王「ひっ……」
西城下町
「んしょんしょ……うぁ、ぬるぬるするよ」ニュルニュル
(・・・私を拘束してるスライムより、勇者大丈夫かな)
(大丈夫、だよね)
ニュルニュル……ッ
(あ、外れそう)
ニュル!
「ふぅ、まだペタペタする」
「………」クスクス
(かっこよかったな……私が人質になってるの見た勇者……)
(早く戻って来ないかな、勇者)
水魔王「ほ、本当よぉ!! 『マオウ』なんて見たことも聞いたこともないわぁ!!」
水魔王「もう許して……もうあんたには関わらないからぁ!」
勇者「………」
水魔王「ひぐ……痛いよぉ……なんで急に再生出来なくなったの……」
勇者「今の君は半分凍りついてるからだよ、 だから液体化出来ないんだ」
水魔王「凍りついてる……?」
勇者「最後に質問に答えてもらう、いいね?」
水魔王「は、はいぃ」
勇者「・・・他に、君達みたいな知能を持った魔物はどのくらいいる?」
ズバンッ
バシャァ……ジュゥゥ
勇者「……」チャキッ
勇者(いる、後二人……)
勇者(いずれも水魔王と変わらないらしいけど、能力は炎と大地)
勇者(四天王もそうだった、『雷帝』『水帝』『炎帝』『地帝』の四人だ)
勇者(となると……もしかしたら彼らはぼくの知る四天王の祖先に当たる存在なのだろうか)
勇者(でも……)
勇者(分からない事だらけだ)
「おかえり勇者」
勇者「ただいま、大丈夫? 怪我はないね?」
「うん」
「……かっこよかったよ、さっきの」
勇者「さっきの?」
「ずっとあの魔物に圧力をかけてたでしょ、私に危害を加えないように」
勇者「そりゃ…そうだよ、君はほら……」
勇者「・・・えーと」
「ふふん、勇者として弱い女の子は守らなきゃ?」
勇者「そう、それ」
「ふーん」
「とりあえずお風呂入ってからご飯にしよ? あなた」
勇者(……)
(……思ったより恥ずかしいや)
数日後
勇者「ねぇ、大丈夫?」
「え、へぇ?」
勇者「ここ最近顔が赤いから」
「えー…大丈夫、だよっ」
勇者「本当に?」
「…………」
「ちょっと風邪気味です」
勇者「もう……待ってて、すぐに薬買ってくるから」
「行ってらっしゃい、勇者」フラフラ
(……勇者、私のために………………)
「うれしい…な」キュン
炎魔王「……ガハッ」ガクッ
勇者「……命は奪わない、急いでる」チャキッ
炎魔王「き、貴様は一体……」
勇者「死にたいならいつでも勝負は受ける、でも今は急いでるんだ」
炎魔王「くっ……」
勇者(薬草……確かこの先にあったはず)
勇者(あぁもう! どうして今日に限って薬屋が閉まってるんだ!!)ヒュッ!!
炎魔王(……ウ、ぐ)ヨロッ
炎魔王(噂通りの強さか、物理攻撃の効かない俺を一撃で仕留めて来るとはな)
炎魔王(俺も帰って一族の者達と鍛え直そう、でなければ水帝と雷帝に顔向け出来ん)
フラフラ
勇者B「どちらへ行かれるのですか」ドズンッ
炎魔王「!!?」ビチャッッ
炎魔王「ゴフッ…!! 貴様、見逃すと言っただろう!?」
勇者B「『私』が言ったのではありませんので、その契約は無効です」ヒュッ
ズバンッ
ボトッ
勇者B「・・・」オオオオ
バシュンッッ
勇者「ただいま! 薬草持ってきたからまっててね」
「……」
勇者「……どうかした?」
「勇者、私昨日勇者に何した?」
勇者「何って」
勇者「………なんだろう、沢山感謝するような事はしてもらったかな」
「!」
「おかえり! どこに行ってたのかな?」パァァ
勇者「く、薬屋だよ」
「ここの裾が焦げてるんだけどなーー」
勇者「う……」
「えへへ、甘い甘い」
勇者(ほんとこの子、勘が良いよね)
数日後・図書館
勇者「………」パラッ
勇者(・・・見つけた)
女「見つかりましたか?」
勇者「うん、悪いけど一人にしてもらって良いかな」
女「はい! 何かあれば呼んで下さいね?」
勇者(……歴史書第2の巻)
勇者(殆どこの国が出来た頃の話だ)
勇者(『かつてこの大陸には2つの国が存在し、同じく2つの城が存在した』)
勇者(『西の国』と『東の国』……『現在王国と呼ばれているのは西の国である』)
勇者(・・・じゃあ魔王城があったのは、『東の国』?)
勇者(『西の国と東の国の力は均衡しており、当時の戦力では決着はつかなかった』)
勇者(『しかしその後、神と契約した伝説の戦士が誕生』)
勇者(『戦士一人に東の国は成す術はなく陥落、その後数年間も東の国の王族は奴隷として使われた』)
勇者(まさかこの戦士って……『勇者』なのか)
パラパラ
勇者(……?)
勇者「あれ……この先のページが切り取られてる」
女「えぇ? ページが破れてる?」
勇者「そうなんだ、どうにかならないかな」
女「わぁ酷い……貴重な本なのに」
勇者「え、写本はないの?」
女「無いですよ、それだけ歴史的価値があるのに……」
勇者(……)
勇者「因みに、この破れてる先の内容と同じ時期の歴史書はあるかな」
女「あると思いますよ、今探して見ますね」
女「ありました、一冊しかないですけど」
勇者「ありがとう」
パラパラ
勇者「……!」
勇者「これって……『魔物図鑑』だよね」
女「実際に冒険家が旅をしながら魔物をスケッチしたそうです」
勇者「あのさ、ここの冒頭に書いてある事は…本当かな」
女「多分そうですよ、何でですか?」
勇者「・・・」
勇者(東の国が王国に支配されて二年後に、魔物が突然世界中で現れた……?)
勇者(これは偶然? 東の国の怨念が魔物になったとか?)
勇者(・・・)
「おかえり勇者、今日のお昼はサンドイッチだよ」
勇者「包んでくれるかな? ちょっと今日も東の方に行って来る」
「東の……?」
勇者「前に話した朽ちた城だよ」
「………」
ギュッ
勇者「え、あの……」
「行かないで」
「あそこには……もう、行かないで……」ギュゥゥ
勇者「……ぁ」
勇者「………っ」
勇者(この子の名前が言えないぼくって…!)
勇者「・・・分かった、もう行かないよ」
勇者「でも今夜ぼくのお願いを聞いてくれるって約束、してくれるかな」
「……分かった」
キマイラ【バキャァアッ】
勇者「……」ヒュッ!!
ゴシャァッ
キマイラ【】ドサッ
リザードマン【・・・!】
勇者「……」バシュンッッ
スタッ!
リザードマン【!?】
勇者「……」ザシュンッッ
リザードマン【】ゴトンッ
勇者(…今日の討伐依頼は終わり)チャキッ
中央城下町・噴水広場
勇者「………」
勇者(昼間は咄嗟にあんなこと言ってしまったけど)
勇者(何をお願いしたら良いんだろう)
勇者(……それに、あの子のあの嫌がりようも)
勇者(・・・)
『こんなところで何してるの、勇者』
『………』くすくすくす
勇者(思えば、あの子はこの噴水広場で会ったんだよね)
勇者(あの時、彼女は突然話しかけてきて……)
勇者(……ぼくの隣でお疲れ様って、言ってくれた)
勇者(・・・)
勇者(いつも不思議な雰囲気を持ってて、いつもぼくの為に小さな事を頑張ってくれる)
……ズキッッ
勇者「っ……ぁ」ガクッ
勇者(な、何……? なんで胸の辺りがこんな……)
ジワッ
勇者「!? 血が……」
勇者(服を脱いで止血魔法をしないとまずい……)ビリッ
勇者「・・・えっ」
勇者(傷なんてどこにもない……)
勇者(……今のって、一体…)
勇者(………)
勇者(帰ろう、疲れてるのかも)
勇者「……っ」ピタリ
勇者(そう言えば、あの子がぼくの隣で居るようになって感じた事があった)
勇者(あの子の近くにいると……疲れが癒えて行くんだ)
勇者(心も、体も、何かに満たされていくような………)
勇者「…ただいま」
「おかえり!」パタパタ
勇者「うん、何かあった? 嬉しそう」
「ううん、今日も勇者が帰って来てくれたから」
勇者「そっか」
「あのね、今日は商店街で珍しいニューヨクザイっていう……」
ムギュッ
「………!!」ビクッ
勇者「……」ギュゥゥ
「ゆ、ゆうしゃ……?」
勇者「……これが幻でないなら」
勇者「君が本当にぼくの腕に抱かれてるなら」
勇者「今までの君が本物なら・・・」
勇者「どうか応えて欲しい」
「……」
勇者「ぼくに君の名前を呼ばせて欲しい……君の名前を教えて欲しい……」
勇者「もっと君の近くに、一緒に居たいんだ」
「・・・っ」
勇者「………」
「・・・」
ギュッ
「それが勇者の『お願い』なんだね」
勇者「うん」
「私ともっと近くに、一緒に居たいんだね」
勇者「そうだよ」
「……」
「いいよ、今度こそ応えないとだよね」
勇者「・・・」
「私の名前は…………」
王女「……『東の国・王女』、それが私の名前」
勇者「!!」
王女「驚いちゃう……よね」
勇者「東の国って確か、何百年も昔に!」
王女「………」
王女「ねぇ、名前呼んで」
勇者「え、あ……」
勇者「……王女」
王女「はい」ギュゥゥ
王女「勇者のお願い、ちゃんと叶えられたよ」ボソッ
勇者「・・・」ギュゥ
翌朝
勇者「……」モゾモゾ
王女(……えへへ)
王女(可愛いな、勇者の寝てる姿)
王女(・・・)スゥ
チュッ
王女(……)
王女(最後のお仕事しなきゃ)ムクッ
王女「行ってきます、勇者」
バシュンッッ
国王「なんと……それは真か!!」
騎士「間違いありません!!」
国王「おお……きっと勇者が魔物の親玉を討ったに違いない」
尖兵「報告します!!」ザッ!
尖兵「急速に魔物達は次々と消滅! 現在、王国周辺には魔物はいません!!」
勇者B「………」オオオオ
勇者B「やるじゃないですか、まさかこうも容易く『彼女』を惚れさせるとは」
勇者B(さて、こうなると『彼』の功績は私以上か)
勇者B( 神 に多少の減刑を申し立てしてあげましょうかね)
勇者B(……では行きましょう)ザッ!
勇者B「この下らない弱者のおままごとを終わらせる為に、ね」
バシュンッッ
バシュンッッ
王女「……」スタッ!
王女(これで、これで私は終わり)
王女(勇者と幸せな人生をおくって、沢山沢山……勇者と幸せになる)
王女(これで、終わり)
ガチャッ
王女「ただいま、勇者!」
勇者B「おかえりなさい」
王女「………ぇ」
勇者B「どうかした?」
王女「………勇者はどこ?」
勇者B「二階の寝室でまだ寝てました、余程あなたとの夜に満足したようだ」
王女「………」
勇者B「いやいや、中々貴女を見つけられないと思ってたらこんな民家に住んでいたとはね」
王女「……出ていって」
勇者B「まるで不倫相手にでも言いそうな台詞だ、今の状況を理解していますか?」
王女「…………」
王女「っ!!」バシュンッッ
勇者B(やはり『彼』を気にして逃げたか、行き先も予測済みだ)
勇者B(亡国の王女、貴女は私が[ピーーー]のではない)
勇者B(貴女は『勇者』に殺される)
バシュンッッ
朽ちた城
バシュンッッ
王女「っはぁ……はぁ、勇者………」
王女(『勇者』が、あいつが来た……っ)
王女(今度は大丈夫だと思ったのに、また・・・)
勇者B「お疲れですか」バシュンッッ
王女「……!」
勇者B「さて、もう貴女は終わりです」
勇者B「お得意のマジックはあと400年先まで使えない、まだ『駒』すら整ってもいない」
勇者B「……ほら、避けないと死んでしまいますよ?」
ヒュッ!!
王女「っっ!!」
ガギィン!!
土魔王「……」
勇者B「へぇ、まだ残してあったんですか」
ガガガガガガガガガッッッッ!!!!
土魔王「……ッ」バラバラ
勇者B「脆い」ヒュッ!!
バガァンッッ
王女「土魔王……!」
勇者B「四天王にも満たない相手では、ね」
王女「……」ジリッ
勇者B「命乞いの準備は? 貴女が存在した事によってどれだけの人間が犠牲になったと?」
勇者B「罪には罰を、刃向かう者には斧を」
ジャキリッ………ッ
王女(まだ、まだ諦める時じゃない! 私は、私は必ず………)
雷魔王「………」ズオオン
水魔王「………」ズオオン
炎魔王「………」ズオオン
勇者B「召喚…! 一人は私が殺した筈ですが」
王女「……勇者が倒す度に蘇って強くなるようにしたの、勇者なら絶対負けないと思ってたから」
王女(もう必要なくなったと思ってたけど、こいつに使うなんてね)
勇者B「はは、出来損ないの『彼』も一応は勇者を名乗る者ですからね」
勇者B「まぁもっとも……私はその遥か上に位置するんですが」
王女(……行きなさい)
炎魔王「……」ギュオゥッッ
雷魔王「……」バリバリィッ
水魔王「……」バシャァツ
ベシベシッ
勇者「ん……おはよう」
スライム娘『勇者! た、助けて下さい!』
勇者「!」
勇者「一体どうした…の?」
勇者「スライム・・・君、体が透けて…!」
スライム娘『私の事はいいんです! これが私達の幸せなんです!』
スライム娘『それより勇者! 今すぐ魔王城に行って下さい!』
勇者「魔王……」
勇者(何故この子が魔王城という名を? いやそれより)
勇者「・・・何が起きてるんだ? どうしたら良い」
スライム娘『それは……主をたすけバシュンッッ
勇者「!!」
勇者「よくわからないけど、これは……」
勇者(よくない事が起きてる?)
勇者「王女! どこにいる!」
勇者(王女もいない? くそ、何を呑気に寝ていたんだぼくは!!)バッ
ガシャッ
チャキッ
バサァッッ!!
勇者(………)
王女『「………東の国・王女、それが私の名前」』
勇者(あの子は、滅亡した国の王女だった)
勇者(そして魔王城に近づくのを彼女は嫌がっていた、何か関係してる)
勇者(・・・違う、嫌がっていたんじゃない)
勇者(王女は、ぼくに何か知られる事に怯えていたんだ)
勇者B「……さて、片付きました」ザッ!
王女(強い…やっぱり力の大半が無くなった私の四天王じゃ勝てない)
勇者B(おっそいですね……このままではただ殺して終わりになってしまう)
勇者B(それではいけない)
勇者B「 『罪には相応の罰を』 それが神の意思なのですから 」
王女「……」ゾク
勇者B「もう駒が無いのなら逃げては如何です? 二秒だけ見逃しますよ」ジャキリッ
王女(ひっ・・・)
バシュンッッ!!
勇者「・・・シィッッ」ヒュッ
勇者B「!」
ギィンッ!!
勇者B(っ、これは……!?)ズザザザザ
勇者「王女!」チャキッ
王女「……勇者」
勇者「良かった、無事みたいだね」
王女「勇者…来てくれた」
勇者B「何を安堵しているんだか」オオオオ
勇者「ッ! 動けるのか」
勇者B「ヒットした瞬間に私に電流を流して麻痺させたつもりですか、やはり出来損ないですね」
勇者「……ぼくにそっくりな君は何者なんだい」
勇者B「そっくりな、ですか」
ヒュッ
勇者B「果たしてそうでしょうかね、そこの王女ならば分かるのではないでしょうか」スタッ!
勇者(ッ!! 背後に……)
ゴバァァンッ!!
勇者「ッッ…!!」
王女「勇者ぁ!」
勇者「…ゥ、ぐ」バシャァッッ
勇者B「詠唱も魔法名も唱えずに水魔法を操れるんですか、凄い凄い」ゴオオオオオ
勇者「・・・ッ」ジュゥゥゥ
勇者(今の炎……ただの炎じゃない)ジュゥゥゥ
勇者B「……さて、本題に入りましょうか」
バシュンッッ
王女「!?」
勇者B「この一見すると可憐な少女、勇者にはどう見えます?」グイ
勇者「その子から離れろ……」
勇者B「………やはり『覚えていない』らしいですね」
勇者B「この子はね、君にとってはとても因縁のある相手なんですよ」
王女「やめて!!」バシュンッッ
勇者B「おっと」バシュンッッ
ガガガガガガガガガッッッッ……!!!!
ドガァッ!!
王女「ぁあッ……」
勇者B「はは、まだ話しは終わっていません」
勇者「王女……!!」
勇者B「勇者……貴方は彼女がどう見えました?」
勇者B「超移動魔法を駆使して、音を越える速度の体術を操る彼女が、どう見えましたか」
勇者B「・・・ただの亡国の姫が成せる技ですかね」
勇者「……」
王女「やめて!! やめてぇ!!」
勇者B「彼には真実を知る権利がある、違いますか」
勇者「ぁあ違う、お前は私が相手だ……!!」
バシュンッッ
ガギィィンッ
勇者B「・・・では相手をしましょうか、『あの時』のようにね」ギュオゥッッ
バシュンッッ
バシュンッッ
ガギィン!!
ドガァッ ヒュッ!! ザッ!
ゴォオゥッッ バシャァッッ!!
スタッ!
勇者「……!!」バシュンッッ
ガガガガガガッッッッ
ドガンッ!! ザシュンッッ
バシュンッッ バシュンバシュンッッ!!!!
バシュンッッ
勇者B「……そろそろですかね」ボソッ
バシュンッッ
……次々と空気中に鳴り響く破裂音。
二人の勇者が瞬間移動魔法を手足の如く操り、凄まじい攻防を繰り広げているのだ。
両者の扱っている魔法は四天王や魔王のみしか扱えない程の魔力消費量を誇り、故に連続使用は避けるべき戦術。
しかし両者は止まらない。
この程度で止まるような魔力しか持ち合わせていないならば、四天王にすら劣るのだ。
勇者「・・・ッ!!」
空間を飛び越えながらの超戦闘の最中、 勇者の眼が虚空を捉えた。
ギィンッ
ガギィン!! ガガガガガガガガガギギギギギィィィンッッッ!!!!!
抜刀した際に爆ぜた火花を吹き散らす。
否、更なる剣撃の嵐が閃光の雨となってその場を支配しているのだ。
勇者B「………フゥ」キィィン
勇者「………ッ!!」ガガガァッ
虚空から突如繰り出される斬撃を予知して防ぎ、虚空から現れる者の動きを予知して剣撃を飛ばす。
バシュンッッ!!
勇者B「……へぇ、粘りますね」
バシュンッッ!!
勇者「ハァ……はぁ………」スタッ!
勇者B「実力が上がったんじゃないですか? 剣撃や速度だけなら私と大差ありません」
勇者「・・・」チャキッ
勇者B「時間がかかってしまいますね、貴方を消すだけで」
勇者B「あー、でも私が手を下すまでもないですね」
勇者「なに…?」
勇者B「だってほら、忘れているようですが『我々の敵』は何でしたか?」
勇者「……魔王だ」
勇者B「ならばほらほら、そこにいますよ?」
勇者「!」
王女「ぁ…」
勇者B「気づいていないはずは無いですよね、先程の彼女の動きで……」
勇者「・・・」
勇者B「さて、瞬間移動魔法を操り大地を割らんばかりの力で殴ってくる彼女が……人間だと思いますかぁ?」
勇者「……ならぼく達だって人間じゃない」
勇者(確かにあの子には秘密はあった、ずっと何
かぼくに言いたそうな『何か』が)
勇者(でも……こんな奴の言うことじゃないはずだ)
勇者B「当たり前ですッ!! 我々は神に造られた究極の生命体なのですから!!」
勇者B「・・・だがしかしそこにいる世界を魔物で包んだ彼女は、化け物だ」
王女「・・・っ」ジリッ
勇者B「彼女も理解してるんですよ、貴方の仲間が死んだのも数多くの村や街で悲劇があったのも……」
勇者B「全部、彼女が原因なんですから」
勇者B「さあ勇者、貴方は彼女をどう考える?」
勇者「………」
王女「ぁ……あ………」
勇者「……」
勇者「王女……本当なんだね? 君が、本物の魔王って」
王女「ち、違うよ!!」
バシュンッッ
勇者B「違わないでしょう? でなければ貴女の…………」ジャキリッ
ガシィッ!!
魔王「………ッ」ギリッ
勇者(魔王…!?)
勇者B「………貴女の影から伸び出て来たこの『魔王』は、何なんですかねぇ」
王女「魔王……どうして!」
魔王「主よ、勇者の目をよく見ろ」
魔王「もはや勇者は主を守ってはくれない、我が出なければ殺されるのだぞ」
勇者「………」
勇者B「…」ニヤリ
勇者B「出来損ないの『勇者』、貴方に最後のチャンスだ」バシュンッッ
勇者「……」
勇者B「『裁きは罰と共に』、魔王すらも生み出した最強最悪の 魔神 を貴方の手で討ち倒すのです!!」
勇者「・・・」
勇者「・・・・・・」
チャキィッ・・・
王女「勇者っ」ビクッ
魔王「……フン、下がっていろ我が主」ズン
勇者「…………」ヒュッ!!
魔王「チィッッ……勇者、貴様には期待外れだ!!」ガギィン
勇者「……何が期待外れだって?」
勇者「もう一人のぼくは何も間違ってないよ、ぼくは魔王を倒す為に旅をしてきたんだ」ドガガッッ
バシュンッッ
魔王「・・・我が最後に言った言葉を覚えているか」
勇者「覚えてないな」
魔王「………そうか」チラッ
王女「……っ………っ」ポロポロ
魔王「……どうやら貴様も、そこの奴と同じ神の人形に堕ちたようだな」
勇者B「…さて、ね」ニヤリ
・・・・・・・・・・・・・・・
ゾンッッ!! ゾンッッ!!
魔王「がぁ……グオオッ!!」ブシャァァァア
ドサッ
王女「ま…魔王……!」
勇者「………」ザッ!
勇者B(幾ら出来損ないとは言うものの、やはり私の次に生まれた『勇者』……無傷で魔王を倒すか)
勇者B(予想以上の働きですかね)
勇者「……王女、君は…」ザッ
王女「ひ……っあ」ガクガク
バシュンッッ!!
勇者「!?」
魔王「その心臓ッ!! 貰ったァァアッ!!」ギュオゥッッ
・・・・・・・・・・・・・・・
ゾンッッ!! ゾンッッ!!
魔王「がぁ……グオオッ!!」ブシャァァァア
ドサッ
王女「ま…魔王……!」
勇者「………」ザッ!
勇者B(幾ら出来損ないとは言うものの、やはり私の次に生まれた『勇者』……無傷で魔王を倒すか)
勇者B(予想以上の働きですかね)
勇者「……王女、君は…」ザッ
王女「ひ……っあ」ガクガク
バシュンッッ!!
勇者「!?」
魔王「その心臓ッ!! 貰ったァァアッ!!」ギュオゥッッ
ドズッ・・・・ッ!!
勇者「・・・ッ」ヨロッ
魔王「………」
魔王(……ッ)
魔王「ば、馬鹿な……貫けないだと」
バシュンッッ
勇者「【 】」ボソッ
ーーーーーーーーーー キィィィィ・・・ンッ
魔王「!?」
魔王(なんだ、この光は……こんな魔法勇者は使えたのか)
魔王(王女………)
ーーーーーーーーーー カッッッ!
ズ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ッッ!!
王女「魔王……!」
勇者B「・・・」
勇者B(? 今のはなんだ……?)
勇者「………」
バシュンッッ!!
王女「ひっ……」バシュンッッ
勇者B(……無駄ですね、勇者の予知能力は私と同等、瞬間移動魔法を使っても逃げ切れはしない)
勇者B(まったく、嬉しい誤算だ)
勇者B(何千年と繰り返されてきたこの戦争が、まさかあんな出来損ないに終わらされるとはね)
勇者B(しかし先程の魔法は一体何なのか……彼なりのアレンジを加えた光魔法?)
バシュンッッ
王女「はぁ…はぁ……っ、ぅあ」ポロポロ
王女(やだ……こんなの、嫌だよ)
ガクガクッ
ドサッ
王女(……死にたくないよ……こわいよぉ…っ)ポロポロ
バシュンッッ
勇者「……」ザッ!
王女「あ、勇者・・・」
勇者「安心していい」チャキッ
王女「……っ」ビクッ
勇者「傷みは……無いから、君は目を閉じて静かにしていればいい」
王女「や、やめて……やめて」ズリズリ
ザッ・・・ザッ・・・
王女「お願い勇者……やめて」ズリズリ
王女「今度はもっと勇者の為に料理の勉強をするんだよ……? きっと国王から勇者に感謝されるんだよ?」
王女「前より、ずっとずっと勇者は……幸せになれるんだよ」
王女「もう、こんな世界で…苦しまなくて……良いんだよ」ポロポロ
勇者「……」ザッザッ
王女「……あのね、私の部屋の戸棚にね…勇者の仲間になるはずだった女戦士と僧侶に向けた手紙があるんだ」ポロポロ
王女「全部終わって……」
王女「あの『勇者』から逃げ切れたら、二人に手紙を出して……皆でお茶会して」
王女「勇者が私に二人を紹介して、それから……」ポロポロ
ジャキリッ!!
ヒュッ!!
勇者「……」ググッ
王女「・・・っ、それから…ね? あのね」ポロポロ
王女「私がいて、勇者は救われたのかなって…」
王女「っ……グスッ、ひっ……っ」ポロポロ
王女「そ……それだけ、言いたかったの」ニコッ
勇者「……そうか」
勇者「ぼくは間違ってなかったよ」ジャッッッ
王女「頑張ってね、ありがとう……勇者」スッ
ズバンッッ!!
ゴトッ……パシャパシャ
勇者「……そのまま、そのまま静かにしててね」
バシュンッッ
勇者B「どうやら終わったようですね」
勇者「……」
勇者B「貴方の功績は神も高く評価されるでしょう、さあ私の手を取って下さい」
勇者「・・・」チラッ
勇者「その手を取れば、どうなる」ギロッ
勇者B「『天界』です、我々勇者は人間として生を受けましたが魂は天界の神がお作りになったのですよ」
勇者「なるほど……なら『私』の興味は尽きた」スパッ
勇者B「・・・すぱっ?」
ブシャァァァア!! ビチャッ
勇者B「ッッ!!?」
バシュンッッ
勇者B「な、何を血迷いましたか……!」スタッ!
勇者「……血迷ってない、私は確信を得ただけだ」
勇者「何も間違ってはいなかった、とな」チャキッ
勇者B「この・・・グズが、出来損ないが、この私に傷をつけるなんてぇぇ!!」
勇者B「 また 殺してやる……二度と生き返れぬようにね!!」
勇者「……」バシュンッッ
勇者B「ッ……!!」バシュンッッ
勇者B(チッ、破損した腕は数分で元に戻りますが……)
ガギィン!!
ドガガッッ!!!! ヒュッ!! スパッ!! ギギギギギィィィンッッッ!!!!
勇者B「片腕ではやはり貴方は殺せないようだ、さてさて」スタッ!
勇者B「どうしましょうかね」ゴォオゥッッ
勇者(あの炎・・・さっきの)
勇者B「……」ゴオオオオ
勇者「ただの炎じゃないな、私にも使えるのか」
勇者B「無理です、貴方はここで死ぬんですから」
勇者「……だろうな」
勇者B「【ロンギヌス】」ギュギュオゥッッ
勇者「正体は……炎の槍か」
勇者B「あなたは愚かだ、天界に行けば永遠の命も得られたというのに」バシュンッッ
勇者「……要らないさ」バシュンッッ
【三ヶ月前・魔王城地下】
(……!)パチ
(魔王が敗れた? また勝てなかったんだ)
そう、あの時も今までのように魔王が死んだのを感じて目が覚めた。
寒くて、寂しいあの地下祭壇で。
(早く時空間魔法を発動させなきゃ、じきに勇者は私を見つける)
そして私はまた逃げようとした。
400年かけて溜めた魔力を使用して発動する究極の魔法、時空間移動だ。
時空間移動を使えばどこかの平行世界に辿り着く、そして私は『魔王が誕生した日』からやり直す。
勇者を敗り、私の自由を手にするまで何度でも繰り返すつもりだった。
でもその時。
(?)
今まで私を追跡していた神の使徒ではなく、初めて感じた気配が隠し階段に入ってきたのだ。
(……だれ?)
いつでも時空間移動出来る程度に魔力を開放しつつ、私は気になった。
あの勇者でないのなら、もしかすると会話する予知ならあるかもしれない。
そんな考えが私の中にあった。
(……え)
(歩みが遅い、体力が低下してるのかな?)
(魔王と互角ってこと?)
だとすれば尚更、魔王を倒した者はあの『勇者』ではないことになる。
私は待った。
階段の奥から現れる彼を、不思議な気分で待った。
……少しして彼は、ボロボロの姿で現れた。
フラフラと、私の魔力の波動に揺れる城のせいで足取りは悪く。
何よりその目は・・・
勇者「……」フラフラ
死んでいた。
(……人間)
勇者「・・・」フラフラ
勇者「え?」
疲労困憊の彼は足を止めて、私を見た。
その表情の中には、困惑の色が見える。
もしかしたら彼の目的は私ではなかったのかもしれない。
勇者「これが……魔王の言っていた秘宝?」
(秘宝?)
そんなものはない、となると私を指して言っている?
魔王は彼に何を言ったのだろうか、彼は私をどうするのだろうか?
勇者はしばらく私を見つめている。
彼は少しの間を置いて、再び近づいて来た。
既に私との距離は手を伸ばせば触れ合える、通常なら危険なはずだった。
でも・・・
勇者「……」フラフラ
(・・・)
傷ついた体よりも、私は彼の目が最も悲惨だと感じて……
ゆっくり、ゆっくり、と。
その近づいて来た青年の手を、私は握っていた。
彼はその握られた手から徐々に私の顔へと視線を移す。
疲れきっているのか、それとも私が彼の手を握ったからか、深く息を吐いて……。
静かに、乞い願うように、囁いた。
勇者「お願いです……私の願いを叶えて下さい……」
勇者「・・・・・・」
勇者「もうがんばりたくない」
「……どうして?」
気づいた時には、声が勝手に出ていた。
「もうがんばりたくない」と言った彼が……余りにも悲しかったから。
勇者「………戦う理由も、意味も、生きる必要も無いからだよ」
勇者「ぼくは一度も誰かを救えた事はなかった」
勇者「本当の意味でぼくは誰も助けられなかったんだ」
虚ろな瞳は痛々しく。
私の手を握るのにも力は無く。
ポツリポツリと、小さな悲鳴のように語っていく。
私はいつしか、魔王城をも震わせる魔力の波動を止めていた。
勇者「大切な人達も、結局助けられなかったよ」
勇者「何も出来ない勇者が……生き続ける意味ってなんだろう?」
勇者「もう、ぼくは限界なんだ・・・君がたとえぼくの願いを叶えられなくてもね」
勇者「ここで死にたいんだ」
「……ねぇ、あなたは勇者なの?」
勇者「うん……勇者だったよ」
私が握っていた手が、弱々しく握り締められた。
勇者は私を見続けている、まるで何かを待つように。
魔王は私を『秘宝』だと言ったらしい、そして私が彼の願いを叶えるとも言ったのだ。
・・・どうしようか、と思った。
この全てに絶望した、決して報われる事のない勇者に……『魔神』の私が何かを出来るのか。
その答えは、出来ない筈だ。
彼は勇者であり、私の敵である。
私は彼の仲間の仇であり、魔王を生み出した最悪の魔神である。
「……ごめんなさい、私には貴方の願いを叶える事は出来ないよ」
勇者「・・・そうか」
目を閉じて、弱々しく言葉を彼は紡いだ。
その様子に私は何を思ったか彼を・・・
勇者B「よくやりました、勇者さん」バシュンッッ
ガッッ
「きゃぁ!?」
・・・抱きしめようとした瞬間、最悪の勇者が現れた。
勇者B「離れていて下さい、後は私がやります」ミシッ…ミシッ…
「ぅ……ぅぐ、ああ…………っ」
この時の私は、四天王も魔王もいない上に魔力の開放を中断していた。
つまり私に出来たのはわずかばかりの怪力を以てして抵抗するしかなかった。
しかし。
「ぅぅう……っ!! あぁっ!?」ミシッ
勇者B「ふふ、油断しましたね? そっちの『私』は囮です……」
勇者B「さて、このまま息の根を止めてあげましょうか」ゴォオゥッッ
「っっ!?」ビクッ
私の胸にあてがう、その【神の槍】は非力な私にとって恐怖以外の何物でもなかった。
上手く覚えてはいないけれど、私はこの時いっぱい叫んだし、手足を限界まで動かした。
いっぱい、いっぱい、泣きながら悲鳴のように叫んだ。
こんな所で私は死にたくない、私が死んだら誰が父と母の無念を晴らすのか。
手に入れたこの魔神の力で王国にも勇者にも神にも復讐するのではなかったか。
そんな事を考えながら……不意に目を動かした。
勇者「・・・ッ!!」ヒュッ
視線の端で、振られた一本の剣。
刃の向かう先には私 ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー ではなく、見慣れた方の勇者だった。
勇者B「!!」バシュンッッ
刃先が首元に到達するよりも速く、『勇者』は虚空へ消える。
そして剣を振った方の勇者自身もそれを想定していた。
「……っ」フラッ
勇者「っ、君! しっかりするんだ!!」
いつの間に駆け寄ったのか、ボロボロの勇者が私の体を支える。
彼の身体中に染み付いた彼自身の血の臭いがした。
間違いなく瀕死だと思った。
(・・・あ、れ?)
違う、そうじゃない。
混乱しかけた頭を振って、私はボロボロの勇者を見上げた。
彼は、勇者の筈だ。
ならば私を討つのが彼の使命ではないのか?
だとすれば、これは全て罠なのでは・・・
勇者「逃げるんだ……」
「!」
勇者「この男はぼくが止める、君は全力で逃げるんだ」
勇者「……早く!!」バシュンッッ
・・・・・・え?
彼は私に逃げろと言い残して、もう一人の勇者に挑んで行った。
自分だって瀕死なのに。
もうがんばりたくない、そう私に言っていたのに。
がんばりたくないのなら何故に私なんかの為に戦ってるんだろう。
そんな不思議な気分で私は呆然と考えていた。
『あの時は』。
【三ヶ月後・現在】
あの時の私は、勇者が不思議な存在だった。
私を助けてくれた事もそうだけど、それ以上に私には分からないものがあった。
そしてそれを知りたくて、彼を救ってあげたいと思って………
私は 『死んだ彼を連れて』 時空間移動を行った。
王女(……勇者………っ!!)
ぺたりと地面に座ったまま、私は目の前で再び対決している勇者を見ていた。
『あの時』と同じように、今度も彼は私を守ってくれたから。
今度も彼は私の味方でいてくれた。
勇者「がぁあああああああ!!」ガギィンッッ
勇者B「……左腕、貰いますよ」ギュギュオゥッッ
ザンッッ!!
勇者「ーーーーーッッ!!」ブシャァァァッ
勇者B「私の【ロンギヌス】に攻撃魔法は効かない、そして貴方の剣術も私の前では無力!」
勇者B「出来損ないが、『勇者』の真似事をするからこうなるんですよ」ゴォオゥッッ
王女(……違う)
だって、私は死んでない。
こうして私は生きて勇者を見守ってる。
『 勇者「傷みは……無いから、君は目を閉じて静かにしていればいい」 』
『 ズバンッッ!! 』
『 王女(……あれ?) 』
『 ゴトッ……パシャパシャ 』
『 王女(水が形を…? これは私の……死体?) 』
『 王女(確かこの魔法は、四天王の水帝が使ってた・・・)』
『 勇者「 ……そのまま、そのまま静かにしててね 」 』
『 王女(っ!!)』
『 バシュンッッ 』
『 勇者B「どうやら終わったようですね」 』
『 王女(こっちは見えて……ない? いつの間に視覚魔法を私に……) 』
『 勇者「……」ニコッ 』
『 王女(!) 』
・・・最初から、勇者は私の味方でいてくれていたのだ。
彼は私をどうにか救う方法をずっと模索していたのだ。
なのに私は、こんなになるまでどこか彼に怯えていたのか。
どうして勇者を信じてあげられなかったのか。
勇者「………ッ!!」
今なら、今なら彼を理解出来る。
ガッッ!!
ギギギギギィィィンッッッ!!!!
彼を追い詰めたのは、彼が愚かだからではない。
勇者は……優しすぎたのだ。
ジュゥウウウウッッ!!
勇者「ぐぁぁ……ッ」ドサッ
もしも割りに合わない依頼をされたのならば、断れば良い。
もしも心優しいスライムに懐かれて迫害を受けるなら、スライムを斬れば良い。
もしも仲間に必要な物を人々が分けてくれないのなら、無理にでも奪えば良い。
もしも助けた相手に裏切られたなら仲間に手を出す前に、魔法で吹き飛ばせば良い。
勇者「ハァ…ハァ……」ヨロッ
勇者B「………」ニヤリ
・・・それだけなのに、彼には出来なかった。
たとえ依頼してきた内容が勝手でも、その中では確かに困っている人がいるから。
たとえ周りの人間に拒絶される事になっても、そのスライムに帰る場所も家族もいないから。
仲間を助ける余裕が街の人々にないのは分かってたから。
初めて自分にお礼を言ってくれたエルフだから。
勇者「………」フラフラ
だから、戦い、手を指しのべ、目をつぶり、裏切られるまで信じた。
その結果が悲劇の連鎖になっても、勇者にはそれしか出来なかった。
勇者「ッ!」ブンッ
勇者B「……」スカッ
ドガガッッ!!
勇者「ーーーーーーーーーー」ドサァッ
報われる事を信じて、戦い続けた先には確かな何かを得られると信じて。
そして勇者は……絶望しても私を救おうとした。
『魔王を倒す為の勇者』だからではなく、『誰かの為に戦える勇者』だから。
ガラガラァッ・・・
勇者「・・・」ブランッ
勇者B「神には貴方が死んだと再び報告しておきます、全く……残念です」ゴォオゥッッ
勇者「……ッ」
勇者B「さようなら、勇者」ビュンッッ
勇者「!!」
ドズンッッ・・・!!
ジュゥウウウウッッ!!!!
王女(勇者……!!)
あの時と同じく。
勇者は勝てなかった。
あの時と同じく、再生すらさせない【神の槍】に勇者は心臓を貫かれた。
勇者「……ッ、ッッ!!」ガクガクッ
フラッ
ドサッ
勇者B「・・・さて、と」ジュゥッ
勇者B「……」チラッ
王女(っ!)ビクッ
勇者B「………」バシュンッッ
バシュンッッ
勇者B「ふむ、心臓まで肩から両断ですか……殺した事は殺したらしい」ゲシッ
王女(………!)ガタガタ
勇者B「……ふぅ」
バシュンッッ!!
王女(……)ガタガタガタ
王女(い、いなくなった……)ガタガタ
王女(・・・)すっ
勇者「…」
王女「ゆ、勇者……?」
王女「……っ」ブルブル
王女(足……力が入らない)ブルブル
王女「勇者、勇者っ!」
勇者「…」
王女(………)
ズリ・・ズリ・・・ッ
王女「勇者、お疲れ様……」ギュッ
勇者「…」
王女「……」ギュッ
・・・・・・・・・・・・
勇者「…」
王女「……」ギュ
勇者「……」ズズッ
【 四天王「ぐあ・・・勇者、何故それほどまでの力を有していながら人間 の味方をする」 】
【 女魔王(う、嘘……なぜ私に物理攻撃が……) 】
【 水魔王「ひぐ……痛いよぉ……なんで急に再生出来なくなったの……」 】
【 勇者「今の君は半分凍りついてるからだよ、 だから液体化出来ないん だ」 】
【水魔王「凍りついてる……?」】
【 炎魔王(噂通りの強さか、物理攻撃の効かない俺を一撃で仕留めて来ると はな) 】
【 勇者B「詠唱も魔法名も唱えずに水魔法を操れるんですか、凄い凄い」 】
【 勇者B「実力が上がったんじゃないですか? 剣撃や速度だけなら私と大 差ありません」 】
【 勇者B「当たり前ですッ!! 我々は神に造られた究極の生命体なのです から!!」 】
【 魔王「ば、馬鹿な……貫けないだと」 】
ズズッ……ズズズズズズズズズズズズズズズ
勇者「……」
勇者「………」パチッ
勇者「・・・」ボー
勇者「…!」
王女「………Zzz」ギュッ
勇者「・・・」
ぎゅっ
バシュンッッ
『とある平行世界・天界』
勇者B「……な、何ですって?」
神「お前は魔神も勇者も、どちらも倒せてはおらぬ」
神「私はそう言ったのだ」
勇者B「そんな!! あり得ません! 確かに勇者の心臓をロンギヌスで貫いたのです!!」
神「……愚か者め」
勇者B「それより、王女までも何故に!?」
神「黙れ」
勇者B「ッ・・・」
神「チャンスは一度だけだ、貴様に天界の兵団を任せる」
神「……良いか、必ず勇者を先に消せ」
神「さもなくばお前も含めて私が直々に消してやる」
勇者B「ッッ……御意」ザッ
バシュンッッ!!
勇者B「………」ザッザッ
勇者B(死体が無い……ほんの数時間前なのに!)
勇者B(生きていたのか!? どうやって!?)
勇者B「勇者……」ギリッ
勇者B(・・・ふぅ、とりあえず落ち着きましょうか)
勇者B(どうせ相手は瀕死のはず、神に任された天界兵達を使えば敵ではないでしょう)
勇者B(仮に回復していたとしても、私に勇者は勝てない)
勇者B「・・・」
寝室
王女「……」パチッ
王女「……」
王女「………」
王女「っ!?」ガバッ
勇者「おはよう王女」
王女「ぇ……勇者…?」
勇者「うん、ぼくだよ」
王女「……」ペタペタ
勇者「く、くすぐったいな…どうしたの」
王女「……でも、確かに勇者は」
勇者「王女、ぼくと君が初めて会った時の事を教えて欲しいんだ」
王女「……」
勇者「何となく、気づいたんだ」
勇者「君がぼくをこの世界に連れてきたんだよね」
王女「……うん、私が勇者を連れてきた魔神だよ」
勇者「魔神かどうかは知らないよ、君は王女でしょ?」ギュッ
勇者「もう隠し事は無しだからね」
王女「・・・っ」ギュッ
勇者「教えて、ぼくは魔王城の地下で何が起きたの」
・・・・・・・・・
勇者「・・・」
王女「多分、心臓を貫かれた勇者が回復して記憶喪失になってたのは時空間移動に巻き込んだからだと思うの」
王女「私も自分以外の人を時空間移動させたのは初めてだったし……」
勇者「ぼくは一度死んでたんだね」
王女「そう、だね…私を逃がす為に」
勇者「そっか」
ギュゥッ
王女「?」
勇者「……君のおかげでぼくは二度も助けられたんだね」
王女「助けたなんて…私は勇者に守られてただけで、そんな」モジモジ
勇者「はは、でも時空間移動魔法なんてあったんだねぇ」
王女「うん」
勇者「なら、ここはどこなの? 未来? 過去?」
王女「行き先はいつも一緒だよ、私が魔神になった日」
勇者「! それって……」
王女「私の国がメチャクチャにされて二年後、だったかな」にこっ
勇者「……じゃあ過去なんだねここは」
王女「うん、勇者が任命された『モンスターハンター』は私の時代の勇者だよ」
勇者「でも王様もぼくのお母さんも騎士も、ぼくの知ってる人だったよ」
王女「え・・・と」
王女「言ったでしょ? 時空間移動魔法は、使用者の望む世界に移動するの」
王女「平行世界とも言うらしいけど……詳しくは魔王に聞いてみないと」
勇者「……」
王女「……」
勇者「うーん……隠し事は無しだけど、今する話題ではないね」
勇者「時間も無いしさ」スッ
王女「時間?」
勇者「ぼくと王女が死んでないのを神達が気づくと思う、そろそろね」
王女「!」
勇者「大丈夫……でも一応王女に頼みたいんだ」
モコモコモコモコモコ………
水帝「……四天王が一人水帝ここに」ザッ
王女「ハァ…ハァ……っ、これで良い?」フラッ
勇者「ありがとう休んでて王女」ギュッ
水帝「・・・」
水帝「フム、もはや事情は語らぬとも察した」
勇者「助かるよ」
水帝「主の涙から生まれた私だ、主が勇者に対する感情くらい分かる」
勇者「え、スライムだったの?」
水帝「スライム達の始祖体が私だな、私の出自を多少なりとも知ってるのは何故でしょうかね?」
王女「あぅ……」
勇者(・・・)
勇者(不思議な光景だなぁ)
水帝「フム、これで良いのか」モコモコモコ
水分身「……」
勇者「うん、これでいいよ」
勇者(・・・)ピトッ
水分身「?」
ビシィッッ
水分身「 」
水帝「!? 貴様、仮にも私の分身を凍らせるなど……ッ」
勇者「ごめん、念の為に試したくて」
・・・・・・
水帝「主、勇者を殴る許可を……ッ!!」
王女「だめ!」
勇者「ごめん水帝、でもどうしても」
水帝「私の分身で試すな…!」
王女「落ち着いて……」
勇者「…でもこれである程度確認出来たから、あとは王女を頼んだよ」
水帝「頼んだ?」
勇者「君が彼女を守護して欲しいんだ」
水帝「貴様が主を守らないのか」
勇者「うん、もう行かなきゃ」
水帝「……ッ」ピクン
王女「水帝?」
水帝(何かが来る……それも軍団クラスの)
勇者「来たかな」
水帝「勇者、私一人では主を守れない! 主を連れて貴様は逃げろ!」
勇者「大丈夫だよ」ナデナデ
王女「?」
勇者「君に助けられた分、ちゃんと返すからね」
勇者「待っててくれるかな」
王女「・・・」
水帝(……フム、この二人キスはまだしたことないのだろうか)
王女「はい、待ってます」
王女「行ってらっしゃい、勇者」
ザザザザザザザザザァァァア・・・・
天界兵「天界兵団の移動、完了致しました」
勇者B「御苦労様」
天界兵「現在兵士達は上空にて待機、勇者様の命令一つで王国に向けて1000の兵が突撃します」
勇者B「はは、中々の絶景じゃないですか」
勇者B(素晴らしい……神が作りし天使達、リザードマンを遥かに越える魔力の持ち主だ)
勇者B「……」
ギュオォォォンッッ
天界兵「!?」
勇者B「……次は四肢を焼き斬って頭と体を切断する」ゴォオゥッッ
勇者B「私を何度も侮辱した償いは必ず受けさせる……」
天界兵B「報告申し上げます」バサァッ
勇者B「なんだ、王国の人間が気づいたか」
天界兵B「いえ違います」
天界兵「……」
ピッッ
天界兵「?」
ポロッ
天界兵「あれ、体がなんでそこに……」ブシャァァァァ
勇者B「な……!?」
天界兵B「勇者が後方から支援を受けながら、真っ直ぐこちらへ向かって来ています!!」
勇者B「向こうから攻めて来た…?」
勇者B「!!」バシュンッッ
ピッッ
ピッッ
天界兵B「ぇごぁぁ…?」スパスパンッ
王国城下町・環視塔
衛兵「Zzz」
水帝「フム、上手い事を思いついたものだ」モコモコモコモコモコ
シュピッッ!!
シュピッッ!!
水帝「私ですら思いつかなかったな、体内で機関的に圧力を生み出して水を撃ち出す……とは」ピッッ
王女「でもこれで勇者のお手伝いになるのかな」
水帝「ならないでしょう」ピッッ
水帝「私ですら1、2体を狙撃するのが限界ですし、乱射しても気休めが良い所」ピッッ
王女「……」
水帝「思い詰めるな主、私達四天王や魔王様に勝ったのですよ勇者は」ピッッ
水帝「信じてやりましょう、彼は神や国王の使命より貴女を選んで戦っているのですから」
王女「・・・」
天界兵「くっ!? 勇者はどこだ!」バサァッ
天界兵「水鉄砲をかわしててそれ処じゃない!!」バサァッ
勇者「……ッ」ビュンッッ
天界兵「!?」チャキィッ
シャッッ!!
ザン!!
天界兵「取った!」バサァッ
勇者「……誰が取られたって?」バリバリィッ
天界兵「えっ?」
バヂバヂィィッ!!
天界兵「ぐぁぁぁぁ!?」
天界兵「勇者は雷の魔法を使っているぞ!」バサァッ
天界兵「防護結界を展開せよ!!」バサァッ
バシュンッッ!!
勇者「【】」ボソッ
ーーーーーーーーーー キィィィィ・・・ンッ
ーーーーーーーーーー カッッッ!
ズ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ッッ!!
ゴオオオオオオ!!
勇者B「っ!? なんだ今のは」
天界兵「い、今の魔法で半数が落とされました……!」バサァッ
勇者B「何をしてるんだお前達は!!」
天界兵「し、しかし……」
勇者B「埒があかない……私が勇者を仕留める、お前達は魔神を討ちなさい!!」
バシュンッッ
天界兵「……っ」チラッ
ドドドド……………
天界兵「あんな魔法……初めて見た」ゾクッ
ザザザザザザザザザァァァア・・・・・・ッ!!
勇者(!)
勇者(天使達がぼくを避けて……?)
勇者(直接王女を討つ気なら、ここは心配ない)
勇者(それよりもまずは……)
勇者B「こんばんは、愚かな罪人さん」ゴォオゥッッ
勇者「……君をどうにかしないと、だね」
勇者B「剣を抜いてはどうです? 無駄ですが」ギュオォォォンッッ
勇者「あぁ、無駄だろうさ」スッ
勇者「私も、そのつもりで今ここに来たのだからな」バリバリィッ
勇者B(? 雷……)
勇者B「行きますよ……」ググッ
勇者「・・・」
バシュンッッ!!
勇者「……」バリバリィッ
バシュンッッ
勇者B(! 動かない!?)シャッッ
バヂィンッッ!!
勇者B「・・・は?」
勇者「……やっぱりな、お前は私に攻撃を当てる事も叶わないよ」バリバリィッ
勇者B「ッ・・・なんだ、今のは!!」
勇者「『雷になって移動した』だけだ、四天王の雷帝と戦った事はあるだろう?」
勇者B(……雷帝? 確か奴は確かに雷の体ではありましたが)ゴォオゥッッ
勇者B(…………)
勇者B「何故……あなたが雷の体を!?」
勇者「それは君が一番よく知っていると私は思うがな」バリバリィッ
勇者「『前兆』から予測される読み合いでの戦いは無い、下手な戦術は自分が不利になるだけだぞ?」バヂィッッ
勇者B「・・・!!」ギリッ
ヒュッッ!!
勇者B「なら正面から、真っ向から勇者を焼き斬るまでッ!!」ギュオォォォンッッ!!
勇者「……」
勇者(もう私はお前に負けないよ)
ヒュッ
ゴバッガァァンッッ!!
勇者B「ガハッ…………っ?」ビチャァ
勇者B「・・・・・・・・・え?」ゴフッ
勇者B(な、な・・・何が、今………?)ガラガラァッ
勇者「・・・」ザッ!
ロンギヌスを持った勇者には、何が起きたか分からなかった。
何故に自身の体が大地に叩きつけられたのか。
何故に【神の槍】は勇者を貫けなかったのか。
実際には彼でも避けられた一撃が、完全に彼の身体と誇りを粉砕していた。
正面から灼熱の焔である槍を一閃して勇者を貫こうと、もう一人の勇者は突いた。
その速度も纏う魔翌力も、魔王ですら一撃で致命傷を負うのは必至。
そして勇者も本来ならば間違いなく胴体を吹き飛ばされてもおかしくはなかったのだ。
だが、勇者は神撃の槍を掴み取り。
交錯させるように左拳がもう一人の勇者を殴り飛ばした。
勇者B(た、ただ殴っただけとは思えない……)
勇者B(現に勇者は私のロンギヌスを掴み取った! おまけにたった一撃で私が…っ)ガラガラァッ
思案、思索、思考。
突如襲った『未知の事態』にひたすら抗う、目の前の事実を覆し自身のプライドを再び生き返らせる。
そうすれば今まで同様にもう一人の勇者は負けない筈だった。
・・・筈だった。
バヂィンッッ!!
勇者「………」ヒュッ
勇者B「【ロンギヌス】ッッ!!」ゴォオゥッッ
ガシィィッ
勇者B「ッ……!!?」
勇者「……」グググ…
まるで掴まれる度に思考回路を焼き切られているかのように、もう一人の勇者の呼吸が止まる。
勇者B(……!!)バシュンッッ
バヂィンッッ
勇者B「はぁああああああッッ!!」ギュオォォォンッッ!!
勇者「・・・ッ」シャッッ!!
ガガガッ・・・バヂィンッッ
ドゴォォォォォッ!!!
勇者B「ぅぶァガ……ッぐ!?」ズシャァア
勇者B(ま、また……まただ)
勇者B(私よりも、また早くなって……)
・・・・・・・・・
水帝「主、ご無事ですか」モコモコモコモコモコ
王女「うん……ちょっと擦りむいただけかな」
水帝「軽傷ですね」
天界兵「覚悟ぉぉ!!」バサァッ
王女「っ」バシュンッッ
水帝「っと」バシュンッッ
スカッ
天界兵「!?」
バシュンッッ!!
水帝「ご無事ですか主」シュピッッ
ドサッ
バシュンッッ
王女「うん、えっと……一々確認しなくていいよ」
水帝「主の心象に私は影響されるのでな、仕方ありません」
水帝「心配なんでしょう、あの男が」
王女「心配…だよ、相手は私達が何千年も逃げ続けて来た勇者だよ」
水帝「でも今は、その勇者が貴女の味方だ」
水帝「奴は『三度』負ける事は絶対に無い、それは私達四天王が保証する」
王女「・・・え?」
勇者B(・・・何故)
ガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッ!!!!!!
勇者B(な、ぜ・・・ッ!!)
力の衝突。
そこに技量は存在しない、技量や技術は僅か前に相手によって消滅した。
そう、技術や技量では最早勝てないのだ。
勇者B(何だ!? 何でだぁ!!)
大地を煙の如く砕き上げ、土を炭に、空気を焼き尽くし生まれた真空波が辺りを蹂躙する。
【神の槍】という名は伊達ではなく、その一振り一振りがまさに天下無双。
対抗し得る武器は存在せず、矛先に貫かれた者は如何なる法を用いても治癒は不可。
自らの武器に加えて自身が授かった『勇者』の力が合わされば敵など皆無の筈だった。
勇者「ッ……!!」ガガガガッッ
しかし、ならば素手で拮抗してくるこの男は・・・何だと言うのか。
勇者B(ああああああああああああああああ!!!!)
技量は四天王のそれを操り、技術は半日前の戦闘が嘘だったように増していく。
一撃。
二撃。
三撃。
勇者B「ぉぉオオオァァァアああああああああああああッ!!!!」
衰えない、萎えない、止まらない。
神速の領域で打ち合う両者は最高頂から疲労で減速する。
それこそが力のみの戦い、己の持つ限界を繰り出す事が今の戦い。
つまり勇者達は互角でなければならない。
神は勇者達に『魔王を討つ』力を与えた。
故に。
どちらかと言えば、神に早々に処分せよと命が下った出来損ないの勇者よりも『勇者』の方が力の総量は上なのだ。
ズドンッッ
勇者B「ゴァ!!」ズザッ
勇者「……!!」ヒュッ!!
ガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッッ!!!!!!
・・・止まらない。
勇者の力が。
勇者の速度が。
まるで雛鳥が凄まじい速度で一羽の鷹へと成長するかの如く、未だ上昇し続けているのだ。
勇者B(ハァ…ハァ……ハァ………ハァッッ・・・)
知らず知らず、『勇者』は遠い昔を思い出していた。
王国と名乗るようになった母国で彼は執事を勤めている。
王国は戦争が終わったばかりで、毎日敵国の民が奴隷として市場で売られていた。
『東の国』の王族すら、ある者は慰み者となり、ある者はいたぶられ、そして『魔族』と呼ばれた。
余りにも惨いと彼は思った。
もしも彼等が救われる事があったなら、きっと神の救済しかあり得ないだろうと。
手を指し延べる訳でもなく、これが現実なのだと納得していた。
その二年後、神に『勇者』の力を与えられて魔神となった王女の追跡者となってからも、
彼はその考えが変わることは無かった。
勇者B「【ファイアヴォール】!!」ドゴォッッ
勇者「……ただの火炎で、私を仕留められるとでも?」
ゴンッッッッッ!!!!!!!!!!
勇者B「・・・!!」グシャッ
今更、なぜ思い出してしまったのか。
何故にあの頃を思い出してしまったのか。
『勇者』は分からなかった、己の中で爆発していた恐怖を拭う事が出来ずにいたから。
確実に迫る死。
勇者B「……グゥゥウウウッッ!!」ギュオォォォンッッ
勇者「・・・」クイッ
コポコポコポ……!!
バシャァァァッ!!
勇者B「!? ゴボァ……!?」ズシャァア
対処出来るものも出来なくなり、焦る。
ただ、焦る。
死への恐怖は数千年の時を経て彼の中で芽吹いていた。
その芽は勇者の力に怯える度に、大きく。
勇者「……」ザッザッ
バリバリィッ!!
大きく。
勇者B「ぁは…っ」
脳裏に浮かぶ、『魔神』が生まれた頃に見た奴隷達の末路。
痛ぶられる恐怖と死の恐怖に顔を歪ませ、震えていた・・・あの男女達。
そして王女。
勇者B「……わ、私は……死ぬのか」
勇者「まだ殺さない」
勇者「『神』はどこにいる、どうすれば行ける?」
勇者B「・・・・・・」
『………』
勇者B(思い、出せない……)
勇者B(神は私になんと言って下さった?)
勇者B(私は……何にそんな忠誠を誓っていたのだろう)
勇者「教えてくれ、どうすれば行けるんだ」
勇者B「……はは」
勇者B「ははは、はははははは……」
勇者B「何となく、理由が分かった気がしたんだ」
勇者「……?」
勇者B「僕は、勇者にはなれないってこと……だよ」
勇者B「君もだよ、『勇者』」にこっ
勇者「・・・」
勇者B「神は君が何らかの理由があって邪魔になったんだ…」
勇者B「だから君も僕も、おかしくなっていく……勇者になってしまった」
勇者「…何を言ってるんだ」
勇者B「君は、人間の敵であり、人間の象徴なんだ」
・・・・・・・・・
バシュンッッ
勇者「ただいま」スタッ!
水帝「早かったな」
勇者「そうかな」
水帝「主の話しを聞いた限り、半日前に殺されたばかりだそうだな」
勇者「まぁね」
王女「おかえり、勇者……」
ギュッ
勇者「……」
王女「勝ったの?」
勇者「勝ったよ」
勇者「……最後、彼を救えなかったけどね」
王女「救う?」
勇者「・・・」ギュッ
勇者「今から、私は神のいる所へ行こうと思う」
王女「……かみ?」
水帝「どうするつもりだ」
勇者「王女を見逃して貰えないか、私が直接交渉しに行く」
水帝「数千年かけて私達を追跡させてたのだぞ、向こうは主を殺さなければ満足しないだろう」
勇者「満足はもう出来ないさ」
水帝「?」
王女「……勇者」
勇者「王女、君に伝えなきゃいけないことがある」
王女「なに?」
勇者「許して欲しい」
王女「許すって、なにを?」
勇者「……」
勇者「私が明日明後日に戻る事は、無い」
勇者「帰れるのは恐らく……気の遠くなるような年月がかかるだろう」
王女「っ!?」
勇者「先代の勇者が、最期の瞬間話してくれた」
勇者「天界では、神に認められていない者は現世よりも時間の流れが大きく違う」
勇者「数分で数年、数十年って経ってしまうんだ」
水帝「何故だ! 貴様は主を再び独りにするつもりか!!」ガシッ
勇者「独りじゃない、魔力さえ回復すれば魔王達をまた召喚出来るんだろう?」
王女「・・・」
勇者「・・・」
王女「……帰ってくる?」
勇者「必ず」
王女「戻ってきたら抱き締めてくれる?」
勇者「絶対に」
王女「・・・えっと」ポロポロ
勇者「…泣かないでくれ」
勇者「愛してる、そんな言葉を言える私達でもないしな」
王女「でも私は勇者が好きだよ」ポロポロ
勇者「私もだ」
勇者「……だが私は……『私』なんだ」
水帝「!」
水帝「まさか、貴様はあの頃の……!」
王女「水帝やめて」
水帝「主はこれで良いのですか!! 貴女はこんな結末・・・」
王女「いいの」
勇者「………」
王女「……私は…『二人』を救えたのかな」
勇者「…………………」
勇者「そうだな……『私』も、『彼』も、君に救われたんだ」
王女「えへへ、あなたも好きだよ……『私』って言うの少しかっこいいし」
勇者「・・・」
勇者「行ってきます、王女」
王女「行ってらっしゃい、勇者」
――― 天界・神殿 ―――
神「……」
神「入り口にいた『四天使』はどうした」
「勇者よ」
勇者「……」ザッ
神「戦闘らしい音が聞こえなかった、どうしたのだ」
勇者「先代の勇者に比べれば大した相手ではなかった」
神「文字通りの瞬殺か」
神「……やはりお前は生まれるべきではなかった」
勇者「『失敗作』だからか」
神「如何にも」キィンッ
ズ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ッッ!!
・・・ブォォンッ!!
勇者「……」ザッ
神「やはりな、既に耐…
勇者「【シャイニング・レイ】」ボソッ
神「!?」
ーーーーーーーーーー キィィィィ・・・ンッ
ーーーーーーーーーー カッッッ!!
ズ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ォオッッ!!!
神「ぐぉおお……!!」ガクッ
勇者「……」
神「ま、まさか……神の魔法すら会得するとは」
勇者「…なるほど、どうりで凄まじい威力だ」
神「フンッ」バシュッッ
ゴガァッ!!
勇者「……素手の破壊力だけなら【ロンギヌス】並みか」ガシィッ
神「!?」
神「おのれェ…!!」キィンッ
勇者「やめておけ」
神「ッ・・・」ピタリ
勇者「今ので分かった、貴様は私に勝てない」
神「……ぐ」
神「……」
勇者「…」
神「ふ、予想外にも程がある」
神「この神を以てしても、お前の欠陥に気づいた時は戦慄したものだ」
勇者「……欠陥」
神「然り」
神「勇者、お前は正真正銘本物の……『不老不死』になったのだ」
神「感じておるだろう? 自身の中で渦巻く魔力は無尽蔵に、力は無限に成長していくのが」
勇者「ああ、感じるよ」
神「だろう? 貴様に与えた力は『耐性強化』だったからな」
神「たしか貴様が生まれたのは『前回』だったか」
勇者「…!」
神「ん、なんだその反応は」
勇者「・・・神ならよく知ってるんじゃないか? 私の記憶を事ある毎に操作していたろう」
神「ふん、てっきり貴様の記憶が蘇ったのかと思っていた…そこまで気づいているならな」
勇者「……」
勇者「話せ、真実の全てを」
神「……そうだな、3ヶ月前を『今回』として」
神「『前回』とは勇者、お前を私が改めて生み出した時代の戦いだ」
勇者「……」
神「私はこれまでの勇者が中々魔神を討たない事に苛立っていてな、もしやこの男では魔神を討つに及ばないのではないか?」
神「そんなことを考えていた」
神「そして再び魔神を数ある平行世界の中で見つけた時、私は決断した」
神「二人目の……『勇者』を造ろう、と」
勇者「……それが私か」
神「然り」
神「だが貴様は最初から私の期待を裏切る男だった」
勇者「?」
神「……四天王まで辿り着いたのは良かった、だが貴様はその時点から突然精神的不安定に陥ったのだ」
勇者「仲間が死ねば当たり前だ」
神「それまでの貴様は先代の勇者と同じように従順だったのにか」
勇者「…そうなのか?…」
神「少し思い出してみろ、お前の口調はいつ変わっていた?」
勇者「??」
神「ふん、まあいい」
神「貴様は四天王の一人目である『地帝』にいきなり敗北した」
勇者「なっ…!?」
神「私も心底驚いたものだ、半殺しで追い出された等と情けない報告を聞いた時はな」
神「先代の勇者に貴様の手当てをさせ、再び四天王に挑ませたが……『地帝』を倒した次は『炎帝』に敗北した」
神「次は『雷帝』、その次は『水帝』……流石の私も気づいた、貴様は一度戦った相手には決して敗北しないとな」
神「・・・戦術、魔術、腕力、脚力、魔力」
神「お前は敗北した相手に合わせて急激な成長を遂げたのだ」
勇者「…」
神「その後、お前は四天王の戦術と魔術で魔王と互角の戦いを繰り広げた」
勇者「結果は?」
神「貴様が殺される瞬間に先代勇者が魔王を倒した」
神「もっとも、直後に魔神は平行世界の彼方に逃亡してしまったがな」
神「……貴様が先代勇者と共に戻った時」
神「お前の目は先代の勇者とは違っていた、『異質』な物になっていた」
神「その刹那に私は痛感したのだ、生み出した新たな勇者の末恐ろしい気配に」
勇者「……それで、私は…」
神「仲間が殺された記憶がお前を変異させたと考えた私は、貴様の記憶のみをリセットさせて平行世界に送り込んだ」
神「・・・だがそれこそが最大の過ちであったなぁ」
神「覚えはあろう、お前は旅の中で時折記憶が戻りかけては突然パワーが増していた」
勇者「・・・ッ」ビクッ
『 7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[]2012/11/23(金) 18:17:12.39 ID:s6vh qwG0 』
『 エルフ「・・・」 』
『 勇者「……あの」 』
『 エルフ「疲れてる、休め、寝る? 食事?」 』
『 勇者「え、えっと、あの」 』
『 僧侶「この娘、エルフみたいです、私達を村か何かに案内してくれるの かも」 』
『 女戦士「そりゃーいい、休みたいな」 』
『 勇者「・・・」 』
『 勇者(何だろう、何度か見た事ある気がする) 』
勇者「・・・ッ」
勇者「もっと、もっと早く鮮明に思い出していれば僧侶はッ」ギリッ
神「……貴様は消した筈の記憶に沿うように、再び運命を辿り出した」
神「まるで記憶が無くとも、何かを信じるように」
神「何より、『前回』以上にお前はどこか幼く、反面絶望した『勇者としての面』が見え隠れするようにもなったが」
神「貴様も流石に覚えていよう、四天王が余りにも 弱い と感じた筈だ」
勇者「・・・」
神「後は、大体貴様も分かっているのではないか?」
勇者「そうだな……」
神「魔王を打ち破り、地下で魔神と対面した時に私は先代勇者に魔神を殺せと命じた」
神「だがそこで貴様は魔神の味方をしたが故に先代勇者と戦いになった」
神「そしてお前が殺された瞬間に私はお前の記憶を消そうとしたのだ」
勇者「……? 何故中途半端に消すような真似をした、消えたのは地下での事だけだ」
神「中途半端だったわけではない、勇者が『記憶改竄』に対する耐性を早くも身に付けていたのだ」
神「故に記憶を消し損ねた上に、貴様は魔神と共に平行世界へ消えた」
勇者「それが真実?」
神「然り」
勇者「………」
勇者「私……私が…くそ、なんて言えば良い」
勇者「……『前回』の記憶を消される前、私は自分を『私』と呼んでいたか? …」
勇者「・・・それとも」
神「……」
神「よく思い出してみるといい、貴様は今や神である私を越える存在なのだ」
神「一度消した記憶位なら、もう貴様の意思で取り戻せるだろう」
勇者「………」
『 水帝「初恋のエルフに騙されても尚、人間の味方を何故する!!」 』
勇者「………」
『「エルフ……私は……それでも…………」』
『「……勇者様?」』
勇者「……」
勇者(なるほど…『ぼく』じゃなかったんだね)
勇者(という事はやっぱり……『前回』と『今回』の人格が……)
神「私が知っている事はこれで全てだ」
神「……それで、貴様はどうする? 私を殺すか」
勇者「生かして置いたら、どうする?」
神「どうもできぬ」
神「お前はもう『勇者』等という枠に納まらん……この私ですら殺せないのだから」
勇者「!」
神「『死への耐性』、『時間概念への耐性』、『魔法への耐性』、お前をどうやって殺せるのか」
勇者「……」
勇者「もう……王女に関わらないんだな?」
神「魔神か、出来ることなら消したい存在だ」
勇者「あの子はもう魔神じゃない」
神「魔神じゃない? なら問おうか」
神「・・・戦争はどうして起き、王女達は迫害を受けたと思う?・・・」
勇者「!?」
神「王女が居たのは『東の国』というのは知っているな?」
勇者「………」
神「あの国は当時…戦争が始まる前から不穏な噂があったのだ」
神「そして、人間達の間で『魔法』が出回るきっかけとなったのもあの国だった」
神「……『魔神』はいたのだ、ずっとあの国の中で」
勇者「王女……が、そうだと?」
神「否」
勇者「!」
神「私が思うに『魔神』とは、平行世界とは違って全く異なる世界から来た力だと思っている」
神「人と人との間で受け継がれ、決して絶える事の無いまるで生物のような存在」
勇者「……王女は、どうしてそんなものに」
神「大体想像はつくであろうよ?」
神「不穏な噂が人間の間で大きくなり、邪悪さを増し、魔法という知恵を生み出した国を魔だと言った」
神「……そして『正義』を翳して戦争が起きた」
神「珍しい展開ではない、数多の平行世界でも人間は争いを生み、悲劇を生み、歴史を作り上げた」
神「執拗に『正義』を喚きながら女を犯して、男を切り捨て、王族は斬首される」
神「あの王女もまた、人間であった頃は餓死という結末を迎えていた」
神「その結果、本来ならば悲劇の歴史に埋もれる筈だった少女は新たな悲劇を生む種を宿してしまった」
勇者「・・・」
神「さて、絶望と憎悪の中で芽吹いた種は何を咲かせるか」
神「人間の敵になる事と引き換えに生を選んだ少女は、お前は、どんな結末を辿るのだ?」
勇者「……王女とぼくなら、きっと正しい道を行ける」ボソッ
神「ふん、なら勝手にするといい」
神「どうせお前達二人を別つ者など居はしない」
勇者「ああ、いざというときは『私』がいるしな」
神「……」
神「肝に命じておけ、『勇者』」
勇者「……何だ」
神「貴様もその状態がいつまでも続くとは思わない事だ」
神「『失った記憶の勇者』と『今の記憶の勇者』、二つの人格がお前の中にあるが」
神「いつか必ずどちらかが消える、その前にどうにかしないとな」
勇者「…そうだね」
神「そしてこれは『神として』の助言だ」
勇者「?」
神「人間の敵は、『正義』であって『悪』ではない」
神「………覚えておけ」
勇者「…ああ、覚えておく」
勇者「去らばだ、神」キィンッ
バシュンッッ!!
神「………」
神「……ふん」
神(果たしてお前達は報われる日が来るだろうか?)
神「答えは 否 」
・・・【1500年後】、王国・・・
バシュンッッ!!
勇者(………)スタッ!
勇者「!」
王女「……おかえり、勇者」
勇者「ただいま」
魔王「……久しいな」
炎帝「遅過ぎだ、何をしていたのだ」
雷帝「主が泣いた回数なんて800越えてんだからねっ!!」
水帝「久しぶりだな、勇者」
スライム娘「世界はずっと私達が管理していたので問題は有りませんよ!」
勇者「・・・ぼくと別れてどのくらい経ってるのかな」
王女「1500年ちょっとかな」
勇者「…変わらないね、王女」
王女「……ほんと?」
勇者「うん、後ろの皆も含めてね」
勇者「……」
王女「?」
勇者「王国、何だか……寂れてない?」
王女「170年位前から魔力を体外放出させる疫病が流行ってるみたいなの」
王女「私も、ちょっといつまでもつか分かんないや」
勇者「!!・・・」チラッ
魔王「我々ですら治療法を見出だせない」
魔王「……主に残された時間はそれでも60年少しある」
魔王「勇者と共に人間らしい一生は過ごせる筈だ」
勇者「・・・」
勇者「王女」
王女「ごめんね、時空間移動するだけの魔力はもうないの」
勇者「要らないよ、君は必ずぼくが救うんだ」
王女「私は勇者さえいればそれで幸せだよ」
勇者「…………」
ぐっ
王女「ひゃっ?」
……チュッ
王女「!?」ビクッ
勇者「……ぼくは、もう死ねないんだ」
勇者「君がいないともうだめなんだよ」
王女「ゆ、勇者……」
勇者「君を救う…だから君はぼくを救って欲しいんだ」
勇者「お願いです、ぼくの願いを聞いて下さい」
王女「・・・」
勇者「一緒に、君の力が来た『異世界』に行くんだ」
勇者「きっとそこなら、『魔神』が生まれた世界なら、疫病の治療法も見つかる」
魔王(神に聞いたのか……なるほど、それならば確かに)
王女「……私、がんばれるかな」
勇者「大丈夫、きっと……ぼくと君なら」
勇者「ぼくとがんばろう、最期の時まで、ずっと一緒に」ギュッ
王女「……うん、がんばる」ギュッ
――――― その後、勇者と魔神の力を宿した少女は忽然と姿を消した。
それまで世界を管理していた魔王達も同じく消え、完全に行方不明となる。
彼等の姿を見た者はいない。
しかし、それは決して死んだ訳ではない。
大切な人のために、自身の未来のために、失ってはならないものを守る為に。
彼等は『異なる世界』へと旅立ったのだ。
・・・もう『彼』は、諦めない。
勇者「もうがんばりたくない」
Fin
御愛読有り難う御座いました。
これにてここでの物語は完結となります
台本形式、戦闘は地の文という初めての試みでしたが、やはり読みにくかったようで申し訳ありません。
少々難点はありますが、楽しんで頂けたのならば幸いです。
勇者と王女がどうなったのかは、どこかの物語で明かす予定です。
それでは皆様、良い通勤を
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