後輩「僕と」先輩「私の」(12)

ガチャ

先輩「失礼します」

甘い香りが、撫でるように
私のもとへ運ばれる。
揺れるカーテンにぴったりの、
白いカップと、白い皿に…
ふわふわのシフォンケーキ。

後輩「今できたところですよ」

私を誘うシフォンケーキに、釣られてしまう。

先輩「ありがとう。頂くよ」

口に入れると、ほろりとくずれる。
クリームをつけて、二口目。
さっきと違う食感と味に、
面白いものだ、と私は思った。

後輩「どうですか?」

先輩「いつもと同じ、変わらない味だ」

変わらない優しい味に、少し懐かしさを感じる。
ふっと笑みが溢れると、
目の前には後輩のニヤけ顔。

先輩「何がおかしい」

後輩「いやぁ、先輩も性格が
丸くなってきたなーと思って」

先輩「そう…?」

後輩「だって、僕が入部したての
時とか、ほんと無口で、ツンツン
してましたよ」

そんなつもりは無かったのだけど。
私にはわからない、尖った部分が
知らない間に出ていたのだろうか。

後輩「それで、僕がシフォンケーキを
先輩に作ったときに…」

* * * * * * * * *

後輩『先輩、シフォンケーキ
作ってみました』

先輩『見た目は普通だな』パク

先輩『…!お、美味しい…』

後輩『気に入って頂けたようで
何よりです!』

先輩『…あぁ、今まで私が食べてきた
シフォンケーキの中で、2番目に美味しい』

後輩『2番目?じゃあ1番は…』

先輩『教えられない』

後輩『…そうですか、
じゃあ、僕が1番になります!』

先輩『越えられるといいな』

後輩『はい、頑張ります!』

* * * * * * * * *

後輩「…って。」

後輩はニヤニヤと嫌な笑みを
浮かべながら言う。

後輩「でも初めて僕のケーキ食べた時の顔、
すごい可愛かったですよ」


…こうやって同級生も先輩も
口説こうとするのは、やめてほしい。

先輩「やめろ、気持ち悪い」

後輩「ちぇー」



まぁ、嫌ではないけれど。

~後輩家~

後輩「ただいまーっ」

いつもの家。
時計は4時50分を指していた。

後輩母「あら、おかえり」

後輩「飯はー?」

後母「今出来上がるところだから、
手洗ってきなさい」

後輩「うぃー」

後輩父「また部活だったのか?」

後母「そうみたいですね。
頑張ってほしいわ」

後父「あぁ、今時男は
料理もできるといいらしいしな…」

後輩「ごちそーさま」

ピロン ピロン
メールが来たようだ。
誰だろうと思いながら、スマホを見る

後輩(先輩からだ)

綺麗で、成績もよくて、モテる
数えられないほど告白されるらしい。


【今日も美味しかった。
ありがとう、今度は私が何かつくるよ】

先輩の料理。
ケーキとかの甘いものだろうか。
でも、料理が上手いとかの話は
聞いたことがない。
下手だったとしても、まぁ、
それもそれでいいかもしれない。

後輩(…って、何考えてるんだ。
俺は先輩が好きとかじゃない)

先輩家


先輩「ほわぁぁ…」

私がつくるよ。私がつくるよ。

自分で打ったメールを見返しながら、
ゴロゴロしていた。
恥ずかしい。
勇気を出して送ったけど、
やっぱり恥ずかしい。

先輩「私、こんなキャラじゃないよ…」

特に親しい友達もいない私は、
後輩に格好いいところを
見せようとしてこんなキャラを貫いている。
2年の時に転校してきたので、
皆、私の本当の性格なんて知らない。

先輩「…あ、後輩君、何がいいのかな…」

難しくて手間のかかるものは、
気合い入れてるみたいで格好わるいし…

クッキー?それともパンケーキ?

思い付かないや。

先輩「あ、好きな食べ物聞けばいっか」

ピロン ピロン
後輩「先輩から…?」

【突然でごめんなさい。
君の好きなデザートを教えてくれないかな?】

後輩(おぉ、スイーツにするのか。)



【大体なんでも好きですけど、
しいて言うならばフルーツタルトです】


後輩「これでいいかな…
送信っと!」

ピロン ピロン
先輩「!き、きた」

先輩「フルーツタルト…か。
材料は明日買おう」

ドキドキ、胸の鼓動がなり響く。
後輩君に喜んでもらえますように。
美味しいって、笑ってもらえますように。


先輩「頑張ろう。後輩君の為だ」

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