代行ID:R72HvJhyP
―――――――宮守女子高校麻雀部部室
岩手に戻って、1週間。インターハイの熱も冷めやらぬ8月のある日。
私たち宮守女子の麻雀部部員は何をするでもなく、部室に集まっていた。
塞「あー……東京ほどじゃないにしても毎日暑いわねー」
エイスリン「ダルイ………」
胡桃「そこ!シロの真似してだらけない!」
エイスリン「ハーイ」
塞「それにしても胡桃は偉いね。IH終わってすぐに勉強に切り替えられるなんて」
胡桃「当然でしょ!?私たち受験生なんだよ?」
胡桃は部室備え付けの机で勉強をしている。
残る三人は雀卓に着いてはいるものの、雀卓の電源すら入れておらず、うだうだと無為に時間を過ごしていた。
塞「しっかし、こう暑いと喉が渇くね」
エイスリン「ジハンキ、イク?」
塞「そうしよっか」
塞「シロ、何がいい?」
白望「コーラ」
塞「ん」
塞「胡桃は?」
胡桃「んー……要らないや」
塞「はいはーい」
ぴしゃり、と音を立てて部室のドアが閉まる。
私はドアのほうを見もせず、椅子の背もたれに深く身を預けたまま、胡桃に話しかける。
白望「ねえ、胡桃」
胡桃「何ー?」
白望「胡桃はさあ、進学するんだよね」
胡桃「うん」
白望「そっかぁ……」
胡桃「って、シロ、まだ進路決めてないの?」
白望「お母さんは家に居ていいって言うし……」
胡桃「いや、そんなのダメでしょ」
胡桃「決まってないんだったら、わたしと一緒の大学に行こうよ!」
白望「んー……それもいいかもなぁ」
胡桃「でしょでしょ?あ、でもそこ偏差値65あるけどね」
白望「ダルい……やっぱやめた」
胡桃「そこ!諦めるのはやすぎ!」
エイスリン「タダイマー」
塞「はい、シロ」
白望「ありがと……」
塞がプルタブを開け、コーラを手渡してくる。
受け取ったそれを一口だけすすってから、缶をサイドテーブルに置く。
白望「あ、お金」
塞「あー、いいよいいよ。こないだのでチャラってことで」
白望「……何かしたっけ」
塞「ほら、インハイの2回戦でわざわざ応援に来てくれたじゃない」
白望「あー」
塞「……嬉しかったから」
白望「うん、わかった。ありがと」
財布を鞄へ取りに行くのが面倒なので、そういうことにしておいた。
今度塞と一緒に何かの支払いをすることがあれば、その時に渡すことにしよう。
白望「今、胡桃と進路の話をしてたんだけどさ」
塞「ふぅん、珍しい」
白望「塞はどうするの」
塞「大学進学かなぁ」
白望「やっぱり、この辺の大学?」
塞「ううん、この間初めて東京に行ったけど、やっぱり大学生活の間くらい都会のほうでも暮らしてみたいなって」
塞「両親に頼んだら、まあオッケーは貰えたから。あとは試験を頑張るだけね」
白望「そうかぁ……エイスリンは?」
エイスリン「ワタシモ」
白望「帰国はいつだっけ」
エイスリン「ライネンノ、ハル」
白望「じゃあ、あと半年くらいしかいられないのか……」
エイスリン「ウン……」
塞「なんだか湿っぽい話になってきたわね」
白望「そういえば、豊音は?」
白望「こっちに戻ってから、一度も見てないんだけど」
塞「みんな毎日来てるわけじゃないし、そんなこともあるんじゃない」
塞「私だって、インハイ終わってから一昨日初めて部室に来たよ」
胡桃「わたしはだいたい毎日ここで勉強してたけど、1回も来てないよ」
塞「そうなんだ」
エイスリン「ワタシモミテナイ」
白望「それに……電話も出ないんだ」
塞「どういうことなのかな」
胡桃「小さな村に住んでるみたいだし、テレビに出たからお祭りでもしてるんじゃない」
塞「あぁ、うちの近所も結構大騒ぎしてたみたいだわ」
白望「それならいいけど……」
エイスリン「イッシュウカンモ?」
胡桃「……わかんない」
塞「あ、もうこんな時間」
塞の言葉に壁掛けの時計を見てみると、時計の短針は既に6を指していた。
夏休み中で人員が少なく、見回りに労力を割けないということで下校時刻は18時に設定されている。
胡桃「さて、じゃあ帰りますか」
エイスリン「ミンナ、オツカレ!」
胡桃「うん、エイちゃんも帰り道気を付けてね」
塞「シロも、早く準備しなよ」
白望「あ、うん」
白望「……やっぱり、二人は先に帰ってて」
塞「えっ、いいけど」
胡桃「どうかしたの?」
白望「ちょっとね」
塞「そう、わかった。じゃあね」
胡桃「ちゃんと帰らなきゃだめだよ」
白望「わかってる、じゃあまた」
エイスリン「バイバイ!」
みんなと別れ、一人職員室のほうへ向かう。
白望「失礼します」
夏休みという事もあって職員室にいた教員は2人だけで、残念ながら自分の尋ね人の姿はそこにはなかった。
仕方なく帰ろうとした時、ふと、尋ね人―――トシさんの机の上にある一枚の紙が目に留まった。
白望「生徒名簿……?」
その紙はバインダー綴じ用のもので、経歴、通学経路についての情報などが子細にまとめられている。
そういえば、1年の頃に同じものを書いて提出した覚えがあるが……
通常これはクラス担任が保管しているもので、進級の時期に所属クラスごとに綴じなおすはずだ。
この時期にこれ1枚だけが放置されているはずがない。
白望「これ、豊音の……」
そして、その名簿に記されていたのは、姉帯豊音の名前だった。
―――――――小瀬川白望の自室
白望「ついコピーしてきちゃったけど……」
ベッドに寝転んで、ぼんやりと紙を眺める。住所を見るに、ずいぶんと遠くから通っているようである。
白望「電車と、バスと乗り継いで……って言ってたっけ」
白望「そういえば、豊音の家って行ったことないな」
白望「明日、トシさんに詳しく聞いてみよう」
―――――――宮守女子高校職員室
トシ「豊音なら村に戻ったよ」
それは当然だろう。彼女の家は依然山奥の村にあるのだし。
しかし、トシさんの口ぶりからして、ただ帰宅した、という意味でないのは分かる。
白望「それは、どういう」
トシ「正しくは、ここを辞めた……ってところかねぇ」
白望「辞めた……!?」
白望「そんな、どうして」
トシ「前に、言っただろう」
トシ「豊音を連れ出すのに、多大な労力を要したって」
白望「それは、手続きが複雑っていう話で……」
トシ「白望」
トシ「世の中には、どうにもできない事情ってのが、あるんだよ」
白望「…………!」
トシ「この話は終わりだよ」
白望「………失礼しました」
・
白望「……ダルい」
塞「どしたの」
白望「うーん、別に」
胡桃「シロがだるいのはいつものことでしょ」
エイスリン「ソウソウ!」
塞「それはそうだけど」
塞「何かあったの?」
白望「いや……」
塞「変なシロ」
エイスリン「シロ、オカシクナッタ?」
胡桃「めったなこと言わないでよ……」
塞「……そういえば、新しくパーラーが出来たらしいんだけど」
胡桃「へぇ」
塞「みんなで行ってみない?」
胡桃「部活終わったらね」
塞「このままここに居ても、たぶんぐだぐだなまんまだよ」
塞「おやつには良い時間だし、今日はここで切り上げようよ」
エイスリン「サンセイ!」
胡桃「えー」
塞「いいでしょ?」
胡桃「し、しょうがないな!今日だけだからね!」
塞「シロも行くでしょ?」
白望「ダルい……」
塞「決まりね!ほらほら、みんな荷物まとめる!」
エイスリン「オー!」
言いながら、塞は手早く広げられていたノートの類を鞄に仕舞い込んでおり、
10秒もしないうちに私の手には自分の鞄が握らされていた。
既に塞は部室の照明を落とし、戸締りにかかっている。
インターハイの終わった日から、一度も麻雀を打っていない。
つい、と雀卓のふちを指で撫ぜ、
薄く指についた埃を息で吹き飛ばそうとして。
指を口元に運ぶのが面倒になって、スカートの端で掃った。
―――――――パーラー
胡桃「んー、おいしいねぇ」
エイスリン「シロ、ワタシノモタベル?」
白望「あーん……」
塞「シロの抹茶パフェもちょっと頂戴!」
白望「どうぞ……」
塞の案内してくれたお店のオープンテラスで、のんびりと過ごす。
パフェのアイスが火照った体に気持ちいい。
ただ、家からはかなり離れてしまったので帰り道のことを考えると非常に憂鬱だが……
塞「うあぁぁぁ~、頭痛いー!」
胡桃「そんなに急いで食べるからでしょ」
エイスリン「サエ、ダイジョウブ?」
白望「アイスクリーム頭痛……」
塞「名前はアイスクリーム頭痛っていう割に、カキ氷でよくなるイメージがあるわね」
胡桃「そういえば、海に行った時もカキ氷食べて頭痛くなってたよね」
胡桃「それなのに懲りもせずアイスでもやるなんて」
塞「うっ」
エイスリン「サエ、トリアタマ?」
胡桃「どこでそんな言葉覚えたのエイちゃん……」
胡桃「しかしまあ、いいとこ見つけたね」
塞「まあね、さすがでしょ?」
胡桃「そこ、調子に乗らない!」
白望「豊音も来られれば良かったのにね」
塞「え、あ、うん……そだね」
胡桃「ホントにどうしたんだろうねー」
白望「そろそろ心配になってきたかなぁ」
胡桃「ふーん……そんなに気になるなら、家に行ってみれば?」
初春「糞スレが伸びてる理由もわかりませんし」
初春「百番煎じのSSは、書いてる奴も読んでる奴も何考えてるんですかねぇ」
初春「独自性出せないなら創作やるんじゃないっつーの」
初春「臭過ぎて鼻が曲がるわ」
佐天「初春?」
初春「結果として面白くないのは許せます。許せるだけで面白くはないんですが」
初春「パクリ二匹目のドジョウ百番煎じは許せませんね。書いてて恥ずかしくないんですか?」
初春「ドヤ顔してる暇があればとっとと首吊って死ねよ」
初春「そうネットに書いてありました」
佐天「なあんだネットかあ」
初春「一番の害悪はそういったSSを持ち上げてる人たちなんですけどね」
佐天「ふーん」
白望「え?」
胡桃「だから、豊音の家まで行って会ってきたらって事!」
白望「……ダルい」
胡桃「もー、いつまでもうだうだ言ってるほうがダルいよ!」
胡桃「シロは明日、豊音の家に行ってどうなってるか確かめてくること!」
白望「……はい」
塞「シロってば怒られてやんの」
エイスリン「クルミ、キビシイ!」
胡桃「二人も茶化さないで!」
白望「…………」
白望「わかった、じゃあ明日行ってくる」
胡桃「よろしい」
……胡桃に言われるまでもなく、私は豊音の家を訪ねてみるつもりだった。
みんなの反応からして豊音が学校を辞めたという事は知らないようである。
それにしても、突然退校というのは妙な話だ、とも思う。なんとなく、嫌な予感がした。
―――――――翌日、駅
学校そばの駅から5つ先。豊音の家の最寄駅、もとい、終点だ。
最寄といってもここからバスに乗らなければいけないし、携帯で地図を見る限りではまだまだ遠い。改札を抜けて、あたりを見回す。
白望「……バス亭」
駅のすぐそばにあるバス亭へと足を延ばす。
といっても、ベンチがあるだけで庇さえない簡素なものだったが。
白望「……次のバスは……」
時刻表を見て驚いた。そこに記されているのは6:58、11:30、17:54、19:42の4本だけ。
現在時刻は9時を少し回ったところであり、次の便まで2時間近くあることになる。
白望「ダルい……」
既に心が折れそうになってきた。
・
白望「はあ……」
今日幾度目のため息だろうか。
豊音の家の最寄のバス亭。降りた人間は私一人である。そして先ほどの駅よろしくこちらも終点。
しかし、バス亭のすぐそばに村がある訳ではなく……
眼前にそびえる山の中腹付近に、たくさんの家が見て取れる。
おそらくは、あそこが豊音の住む村であろう。
山の中、と聞いていたので一応制服ではなく、ジーンズにシャツという服装で来たのだが。
白望「登るかぁ」
泣きそうだった。
―――――――村
白望「はぁ、はぁ」
山道を登ること2時間。そのうちの1時間以上は休憩時間だが。
私はどうにか村についたようである。
白望「ここが、豊音の、村……」
白望「………何にもないなぁ」
入口から村を見たところ、遊びまわっている子供がいる様子もなく、
見受けられたのは野仕事をしている数人の男性だけだった。
家の数はおよそ30。すべての家を回るわけにもいかないので、
すぐそこにいた男性に豊音のことについて聞いてみることにした。
白望「………あの」
男性はちらりと私のほうを見たが、そのままふいとそっぽを向いて作業を続ける。
白望「姉帯豊音という子を訪ねてきたんですけど」
返事はない。
これ以上食い下がっても無駄だと思い、礼を言って村の中へ入った。
白望「……ダルい」
目についた4、5人に豊音のことを尋ねてみたが、みごとに全員が無視。
村というのは閉鎖的だと聞いたことがあるが、想像以上だ。
こうなったら、やはりすべての家を回るしかないか。
白望「……あれは?」
ふと、目に留まったのはそこらの家よりも一回り大きく、意匠も微妙に異なる建物だった。
白望「村役場とか、そんなのかな」
白望「あそこなら、話も聞いてもらえるんじゃないかな……」
入口に立ったところで、入ってみて想像した建物と違ったら困るなぁ、と気付き、
一旦右側の格子窓から中を覗いてみることにした。
窓のそばに近寄ると、むっとするような熱気が顔にあたる。
建物の中では、白い装束の髪の長い女性が正座の姿勢で座っているようだった。
その女性はどこか力なくうなだれており――――――
白望「って、豊音!?」
白い装束の女性は、豊音だった。
激しく汗をかいており、何かを呟いている様子だ。明らかに普通ではない。
急いで入口に回り、引き戸を開け放つ。
白望「暑っ……」
部屋はすさまじい熱気に満ちていた。
最初に目に飛び込んできたのは、驚いた表情の豊音。
次に目に入ったのは、巨大な釜だ。中には火が焚かれており、熱源はこれであることが伺えた。
豊音「だ、誰!?」
白望「豊音……」
豊音「あっ、シロ?」
白望「辛そうだけど、大丈夫?」
豊音「うん……ちょっと疲れただけだよー」
白望「何やってるの、豊音」
豊音「これは祈祷だよー」
白望「お祈り?」
豊音「そうだよー、村の神様に」
白望「疲れた……って、どれくらいやってるの」
豊音「うーん、こっちに戻ってから毎日かな」
白望「……………………」
白望「豊音、宮守に戻ろう」
豊音「えっ?」
白望「そんな無茶なことしてたら、いつか大変なことになるよ」
白望「みんなも心配してるし……」
白望「この村、なんだかおかしいと思う。こんな暑い日に火を焚いた部屋で毎日祈祷させるなんて」
豊音「でっ、でもでもー」
白望「お願い……豊音」
白望「とりあえず、外に出よう」
豊音はなんとか私の差し出した手を取って、立ち上がってくれた。
とりあえずうちにでも連れて帰って、後のことはそれから……
振り返って、絶句。
そこには先ほど外にいた人たちが……いや、もっと大勢。
全員険しい表情でこちらを睨んでいる。
白望「豊音!」
一声叫んで、走り出す。
逃げ切れるかどうかは分からないが、むざむざ捕まる気はない。
豊音「シロ!危ない!」
白望「え?」
声が耳に届いたのと、衝撃はほぼ同時だった。
逃げなければ、とはやる思いとは裏腹に、私の体は地面に崩れ落ちていた。
豊音「シロ!シロ!しっかりして!」
豊音の声が遠い。
どうやら棒か何かで殴られたようで、頭の中で轟音が鳴り響いている。
ダメだ。意識を保てない――――――――
―――――――???
「…………だよ…………たら……する……」
「……ません………さのこと……ので………………」
「……あえず………に………んで……」
「…………した………」
失った意識が戻ってくる。どうやらここはどこかの小屋の中で、
私は椅子に座らせられているようだ。そして頭には水に浸した布が乗せられているらしかった。
殴られた患部を冷やすためのものだろうが、豊音が乗せてくれたのだろうか。
豊音「あ、シロ。気付いた?」
白望「とよね……」
豊音「そのままでいいよー」
豊音「今から、村長さんが話をするから、おとなしく聞いててねー」
豊音が言うのに合わせ、一人の男が小屋の中に入ってきて、机を挟んだ対面に座った。
私は頭に乗せられた布を机に置いて、男が口を開くのを待った。
「お前は、うちの村の巫女を連れ去ろうとした」
白望「…………………」
「これは村の掟破りだ。それも重大な」
「村を危険な目にあわせたうえ、こんな鼠まで呼び寄せることになるとはな」
「思えば去年、あの女の話に乗ったのがそもそもの間違いだったかもしれんな」
あの女、とはトシさんのことだろうか。
「大切な巫女にも、よくない影響が出ているようだし」
白望「その大切な巫女に、あんなことを強いることのほうが良くないと思うけど」
白望「脱水で死んだりしたらどうするの」
男がこちらをじっと見つめる。
「余所者には関係のないことだ」
「この村は巫女のためにあり、巫女は村のためにある」
白望「私はただ友達に会いに来ただけなんだけど」
「…………………」
「友達、か。豊音、お前たちは確か麻雀打ちだったな」
豊音「はい」
「ならば、それで決めるとしようか」
白望(……………?)
「お前が麻雀を打って、この豊音に勝つことができたなら、お前を開放しよう」
「そして、豊音を連れて行くことも許可する」
白望「えっ」
思っても見ない提案だった。なにしろ豊音を連れ出そうとした私を有無を言わさず昏倒させるような輩である。
私刑にするぐらいのことは平然と行いそうだと思っていたので、ほっと胸をなでおろす。
しかし、麻雀で勝ったら、とは。
豊音も恐らく宮守に戻ることを望んでいるだろうし、これは賭けとして成立しないのではないか。
「ただし、1日に行うのは1半荘だけだ」
それも、どうやら1発勝負というわけではないらしい。どういうつもりだろうか。
白望「わかりました」
「……よい。では準備を。九戸、普代」
「はっ」
男の合図に従い、傍らに控えていた別の男たちが用意を始める。
マットと、牌が机の上に置かれた。
白望「手積みなんだ」
豊音「心配しなくても、二人ともイカサマなんてできるほど上手くないよー」
白望「…………」
豊音の口ぶりからして、今準備をしている二人が同卓者らしい。
九戸「始めましょう」
普代「宜しく」
豊音「頑張るよー」
白望「………ダル」
豊音「ちなみにこの二人は、食い仕掛け・出あがりなしだからねー」
豊音「もちろん、私たちは二人から出あがりしてもいいけど……」
豊音「あくまで二人の勝負だってことを忘れないでほしいかなー」
白望「わかった」
・
東家:九戸
南家:白望
西家:普代
北家:豊音
東一局 親:九戸 ドラ4索
1178一二三六七⑨東北白 北
白望(まあ、普通の手牌……ドラが使えなそうなのが痛いけど)
打:⑨
白望(豊音がどういうつもりなのかが気になるなぁ……)
豊音「…………」
7順後
1178一二三六七八九北北 1
白望(テンパイ)
白望(ここは豊音の思惑を知るためにも……)
白望「リーチ」
打:六
普代「……………」
打:白
豊音「追っかけるけどー」
豊音「とおらば……リーチ」
打:5
白望(追いかけてくるのかぁ)
白望(何を考えてるんだろう、豊音……)
ツモ切り:2
豊音「ロン。リーチ一発一盃口。ドラ……なし。6400」
裏ドラ:中
13九九九②②③③④④發發 2
白望「はい………」
・
東二局 親:白望 ドラ7萬
白望(豊音は……宮守に戻りたくないんだろうか?)
167①①⑤六七七八八中白 西
打:1
白望(少なくとも、わざと私を勝たせようとか、そういうことを考えている風ではない)
67①①⑤六七七八八中白西 2
ツモ切り:2
白望(出来れば直接、豊音の考えを聞きたいところだけど)
67①①⑤六七七八八中白西 中
打:西
普代「………………」
打:二
豊音「チー」
□□□□□□□□□□ 一二三
白望(この圧倒的アウェーの中でそれは難しいだろうなぁ……)
67①①⑤六七七八八中中白 六
打:白
豊音「ポン」
□□□□□□□ 白白白 一二三
白望(友引………?)
67①①⑤六六七七八八中中 一
ツモ切り:一
白望(相変わらず、対応が難しい相手だよなぁ……)
数順後
67①①⑤六六七七八八中中 中
白望(……テンパイ)
白望(追いかけられることはないし、豊音の手牌はもう短いし、何より親だし)
白望「リーチ」
打:⑤
豊音「……カン」
白望「なっ」
白望(これで友引じゃない。赤口か)
□□□□ ⑤(⑤)⑤⑤ 白白白 一二三
打:9
新ドラ:1萬
白望(弱ったなぁ……)
ツモ切り:6
豊音「ロン」
5788 6 ⑤(⑤)⑤⑤ 白白白 一二三
豊音「白、ドラ2……」
豊音「5200」
白望(しかも一発で掴まされたかぁ)
白望「はァ……ダル」
・
―――――――半年前、宮守女子高校麻雀部部室
胡桃「ぬぐぐ、またリーチ一発振り込み……」
豊音「わーい」
塞「一体どうなってるのー?」
胡桃「ま、まさかイカサマ……」
豊音「ちっ、ちがうよー」
豊音「これはね、せん」
トシ「ちょっと、あんたたち」
白望「?」
塞「何ですか?」
トシ「全国では初見の相手に即座に対応しなくちゃいけないんだ」
トシ「相手が不可思議な打ち筋を見せたからって、その秘密を相手に聞いてどうするんだい」
胡桃「うっ」
トシ「アンタも軽々しく答えちゃだめだよ」
豊音「ごめんなさい……」
トシ「じゃ、エイスリン。続けようかね」
エイスリン「ハーイ」
トシ「ほらほら、ほかの子たちは今の豊音のがどういう性質のものか見極めつつ打ってご覧」
塞「うーん……」
胡桃「どういうものか、かー」
白望(さっきから、豊音があがるときには既に他にリーチ者がいた……)
白望(卓にリー棒が出るとあがりやすくなる?)
塞「あ、わかった。さっきは3本場、その前も2本場だったし、積み棒やリーチ棒が増えるとあがりやすくなるのかな?」
胡桃「そういえば、2回とも地獄待ちの一発だったしねー」
塞「卓上の棒が増えると悪待ちリーチでもあがれる!これでどうだ!」
豊音「ちょっと違うかなー」
塞「ぬぎゃー」
白望(あとは……2回ともツモ切りリーチ)
白望(それに、どっちも追っかけリーチだったはず)
胡桃「うーん」
白望「ねえ、もしか」
塞「あっ!そうだわかった!どっちも追っかけリーチだった!」
塞「追っかけリーチすると振り込ませる!これだわ」
胡桃「どう?」
豊音「……………」チラッ
トシ「……………」
豊音「そ、それはどうかなー?」
塞「めっちゃ目が泳いでる」
胡桃「当たりなんだね」
豊音「うぅ……」
白望(ダル……)
豊音「で、でもでもー、まだ6つのうち1つがばれただけだからー」
胡桃「えっ」
塞「あと5個もあるの!?」
白望(すごいな)
豊音「って、もうこんな時間だよー……わたしは帰るね」
塞「あんなのがあと5つもあるなんて楽しみ!」
胡桃「うん!」
白望「じゃあ気を付けて……」
豊音「また明日ねー」
・
白望(確かに、県大会やインハイでその訓練は役に立ったけど)
白望(今に限っては、あの時のトシさんが恨めしいなぁ)
白望(全容を知ってるのは『友引』と『先負』だけ……)
東三局 3順目 親:普代 ドラ2筒
六六六七八八八①②③北北白 北
白望(絶好のテンパイ……)
白望(さすがにまだ豊音も張ってないはず)
白望(豊音が3向聴だとしても3順以内にツモるか、出あがりも十分可能)
白望「リーチ」
普代「………」
打:九
白望「ロン」
六六六七八八八①②③北北北 九
白望「リーチ一発自風ドラ……1。8000」
白望(豊音を削りたいとこだけど、まずはあがることが大事だよなぁ)
豊音「………」
・
白望(原点に復帰……)
南一局 親:九戸 ドラ西
九戸18600 白望25800 普代17000 豊音38600
九戸「…………」
打:南
白望(いきなり連風の目が無くなったか……)
1289二三四五⑤⑥南東中 南
打:南
白望(しょっぱな頭固定はちょっとなあ)
普代「…………」
打:3
豊音「チー」
□□□□□□□□□□ 34(5)
白望(1順目にして赤口が発動……)
8順後
豊音「……………」
打:⑧
九戸「…………」
打:⑧
白望(なんだこれ……)
二二二三四五五(五)八八八⑤⑥
白望(筋牌刻……っぽくなってる)
白望(赤口は火災、刃物に注意。だからドラ爆による大炎上もしくは狙い撃ちのための能力だと思ったけど)
白望(東二局の様子から前者は違うと感じて、ツモ切りは極力避けてみたらこれ)
白望(先負と同じ当たり牌を掴ませる能力?……そうなると食いタンの二五八待ち、3面張?)
二二二三四五五(五)八八八⑤⑥ 九
豊音の河:⑨南西發北北97⑧
白望(……通る)
ツモ切り:九
豊音「……ロン」
白望(……見誤った……?)
一二三四五六七八⑧⑧ 九 34(5)
豊音「一気通貫、ドラ1。2000」
白望(二五八待ちタンヤオを直前で三六九待ち片あがり一通に張り替え)
白望(普通なら絶対にしない……やられた)
・
終局
九戸16600 白望29700 普代15000 豊音38700
「終わりだな」
結果は遠く及ばず。
明日以降もチャンスはあるようだが、さしあたっての処遇はどうなるのだろうか。
「こいつを牢に連れていけ」
今まで鋭い目付きで対局を見ていた村長が言い放つ。
やはりそうなるか…………
「その前に―――――夜のうちに逃げられても困るのでな」
村長が手を挙げ合図する。それを受けて、同卓した男とは別の男が手にした短刀を引き抜く。
白望「えっ………」
短刀が、振り下ろされた。
白望「っつ、あっ………」
振り抜かれた短刀は、右足に朱の線を走らせていた。
すさまじい痛みに、その場にへたりこむ。
白望「く、ぅう………」
うめくことしかできないでいる私を、両脇から男が抱えあげ、運んでいく。
豊音が小さく「ごめんね」と、言った気がした。
・
―――――――牢屋
白望「はぁ………………はぁ……………」
牢屋の窓から差し込んでいた夕日が沈みきってから、体感で3時間が経っただろうか。
出血はおよそ止まったようだが、痛みは引く様子がない。
牢屋に入れられてから止血もせずにただ倒れていたことを考えれば、見た目よりは軽傷ですんでいるのかも知れないが。
白望「こんなことしなくても、逃げられないと思うけど……」
牢屋は薄い壁を隔てて便器が備え付けられている他には、一畳に満たない大きさの筵が一枚敷かれているだけであった。
格子の間隔は狭いわけではなく、手や足は出せるが、とてもすり抜けられるような代物ではない。
不意に、誰かの足音がした。
豊音「シロ」
白望「豊音か………」
豊音「ごめんね、痛かったよね」
白望「いいよ……別に豊音のせいじゃないし」
豊音「で、でもでもー」
白望「それより、どうしてここへ?」
豊音「……あっ、そうだった。そんなことより手当てをしなきゃ」
豊音「シロ、足をこっちに出して?」
白望「つつ……」
手桶に汲んだ水で、豊音が傷を洗い流していく。
白望「豊音」
豊音「何かなー?」
白望「宮守に戻るつもりは……ないの?」
豊音「そんなことないよー」
豊音「わたしだって、シロと一緒に居たいし……」
白望「祈祷のことだって、豊音がこの村でどんな立場なのかはわからないけど……」
白望「大切な存在なら、なおさらあんな無茶なことをさせるなんておかしいと思う」
豊音「仕方ないんだよ」
豊音はそこで言葉を打ち切り、傷口を洗うのをやめて包帯に手をのばす。
豊音「仕方ないんだよ……あれは」
豊音「ねえ、シロ」
豊音「明日、日が昇ってここを出て集会場へ向かうときに……」
豊音「えっと、ここからだったら……そう。右手の方かなー」
白望(……?)
豊音「山の、右手の方を見てみて。土砂崩れがあったの」
豊音「二人、亡くなったんだー、それで」
豊音「わたしが東京に出かけた、次の日に」
豊音「手当て、できたよー」
白望「ありがと……」
豊音「じゃ、あまり見られるわけにはいかないから……またあした、だよー」
白望「うん」
豊音「おやすみ」
手桶とはさみ、包帯をまとめて豊音が出ていく。
出口のところで振り返った豊音の目は、私の血で汚れた両の手よりも、なお赤く光っていた。
・
―――――――翌朝
「出ろ」
痛みでほとんど眠れないで迎えた翌日。昨日私と同卓した男たちが牢の扉を開けて告げる。
格子に掴まってどうにか立ち上がるが、右足に力が入らず、歩けそうになかった。
もとよりそれを想定していたのだろう、ここに連れてこられた時と同じように、二人が私の両脇を抱えた。
男に連れられて牢を出た。日差しが目に痛い。おそらく10時頃だろうか……
白望「あ……」
昨日豊音が言っていた、山の右手側を見る。
土砂崩れがあったと思わしき部分だけ、およそ2、30メートルにわたって土がむき出しになっているのがわかった。
その二人とやらは、今もあの崩れた土に埋まっているのだろうか……
崩れている部分が、なんとなく獣の爪痕か何かのように見えて、目をそらした。
―――――――集会場
既に豊音は卓についていた。男たちも私を椅子にかけさせると、同じように卓についた。
村長が、ちらりと私の右足を見た。包帯は取っておくべきだっただろうか、と思ったが、特に咎められることはなかった。
豊音「じゃあ、場決めから始めるよー」
豊音「でもでも、シロが動けないのでシロを基点にするよー。いいかなー?」
ふたりが頷く。
結局豊音の心中はまだわからないが、無事に宮守に戻るためには勝つしかない。
――――全力で行く。
東家:普代
南家:九戸
西家:白望
北家:豊音
東一局 親:普代 ドラ5索
五七①④④(⑤)2367東南北 ②
白望(豊音が下家……)
白望(昨日の赤口の精度を考えるに、発動後はほぼ毎順当たり牌を任意の人間に送り込んでいる)
白望(豊音はずっとツモ切りって訳じゃなかったから、テンパイしているしていないに関わらず効果がある)
打:南
白望(先負については、危険牌を打つときは「通らばリーチ」って言ってるし……)
白望(実際、逆に豊音が一発で振り込むこともたまにあった)
(五)七①②④④⑤2367東北 北
打:東
白望(『友引』『先負』『赤口』をまとめて対策するなら……)
白望(超良形かつ、5順目まで、あるいは豊音の一発振り込みが期待できるときだけにしか先制リーチをしない)
白望(鳴けそうな牌を捨てない、特に赤が見えてない色の3~7の数牌)
(五)七①②④④⑤2367北北 ③
打:①
白望(…………普通に考えて不可能じゃないかなぁ)
7順後
(五)六七②③④④⑤⑥3367 8
白望「……ツモ。タンピンツモドラ1。1300-2600」
白望(この局は鳴かせることもなく、どうにかうまくいったけど)
白望(足が痛い……)
東二局 親:九戸 ドラ1索
白望(痛みのおかげで意識は鮮明、眠気はばっちり……)
白望(な、はずなんだけど。やっぱり痛みによるストレスの方が大きいかなあ)
一(五)九③③④⑤22666白 白
打:一
豊音「ポン」
□□□□□□□□□□ 一一一
白望(1順目から鳴き……)
数順後
三(五)③④⑤22666白白白 六
白望(上家が赤⑤、対面が赤5を切っていて、赤五は私の手中)
白望(既に豊音は副露しているから、先負はない)
白望(友引確定の状況での豊音の出あがりは見たことがないからリーチかけてもいいけど……)
打:三
豊音「ポン」
□□□□ 三三三 西西西 一一一
白望(それにしても、同卓の二人……)
白望(勝つ必要がないからとはいえ、明らかに豊音のアシストに努めている……)
白望(敵だから当たり前なんだけど、実質3対1か……ダル)
(五)六③④⑤22666白白白 八
豊音の河:⑦北135中白②⑦③6
白望(ツモ切りは普通なら暴牌にもほどがある)
白望(鳴かせるとホンイツ、トイトイのどちらかがまあ確定)
白望(でもまわしてる余裕はないし、ほかの二人がアシストに努めていることを考えれば4つ目もどうせ鳴かれるかぁ)
白望(直撃は無いとわかっているからこそ、ツモ切り……)
ツモ切り:八
白望(違ったか)
豊音「…………」
ツモ切り:1
普代「………………」
打:五
九戸「………………」
打:四
豊音「ポン」
白望「ろ、ロン!」
(五)六③④⑤22666白白白 四
白望「白、ドラ1……3200」
豊音「………………」
・
東三局 親:白望 ドラ北
11順目
一一九九224477白白東 ⑤
白望(ウーピンか……)
白望(豊音の手は……筒子染めっぽい感じだなぁ)
豊音の手:□□□□□□□ ①①① ②③④
豊音の河:98西二東7九中發⑨
白望(この順目で1枚切れの連風切ってくれるとは思えないし)
白望(この二人の役割を考えるなら……そろそろ赤牌を鳴かせにかかるはず)
打:東
豊音「………」
打:9
普代「…………………」
打:(⑤)
白望(そらきた)
白望「ロン、チートイドラ1。4800」
一一九九⑤224477白白 (⑤)
豊音「………………」
白望(行ける……ような気がする)
白望(……………?)
白望(今、何か豊音から感じたような)
東三局一本場 親:白望 ドラ中
二四五七⑤⑤⑥1489南中 白
打:1
豊音「シロ、言ったよね?」
白望「……なに?」
豊音「まあ、麻雀のルール上仕方のないことだけどー」
豊音「これは二人の戦いだ、って――――――――」
白望(そんなことを言われても)
豊音「シロがその気なら……」
打:五
普代「……………………リーチ」
打:白
九戸「…………」
打:白
白望(普代さんがダブルリーチ)
白望(そして豊音の1順目五萬切り……)
打:白
5順後
豊音「リーチ」
打:四
白望(豊音の追っかけか)
普代「……………」
ツモ切り:2
豊音「ロン」
2444555777789 2
豊音「リーチ一発、清一三暗刻。裏……なし。16300」
白望(………!)
白望(豊音から感じたあの気配、やっぱり気のせいじゃなかった)
白望(何かがあの時、変わったんだ)
白望(一気に戦局を変えた倍満和了)
白望(そして…………その後、南三局まで全員ノーテンで流局した)
南四局 流れ4本場 オーラス 親:豊音 ドラ5萬
普代1300 九戸20500 白望38200 豊音40000
一四七147①④⑦南白中發 西
白望(在り得ない……)
白望(豊音の倍満以降、ずっとこんな配牌)
白望(そして、全員がノーテン流局)
白望(これも豊音の力なのかなぁ……)
豊音「白望、もう気付いてると思うけど……」
豊音「これが、『仏滅』だよ」
豊音「病めば長引き、万事成らざる日なり」
豊音「誰もあがれないし、テンパイすらできない。もちろん私も」
白望(それって……勝負にならないんじゃ)
豊音「極端な話、最初に食い断をあがって、あとはこれだけでも勝負はおしまい」
豊音「もっとも、この場所、この時じゃなければ、全員ノーテンなんて1、2局くらいが限度だけど」
白望(メンドくさいことになったなぁ……)
豊音「それに、白望………足が痛むでしょう?」
豊音「自分では気付いていないみたいだけど、その痛みのせいで、あれこれと考える余裕がなくなっているのよ」
豊音「今のあなたに、迷い家は見つけられない以上、逆転の目は無い」
豊音「大人しく諦めて……」
18順目
白望の手牌:四五六1247①①白白北北 八
白望の河:
西南中發⑦東
東一七9二⑨
26④九②
ツモ切り:八
豊音「ノーテン」
普代「ノーテン」
九戸「ノーテン」
白望「………ノーテン」
・
終局
普代1300 九戸20500 白望38200 豊音40000
ほぅ、と豊音が小さく息を吐く。
同時に、ふ、と。
豊音から感じていた妙なプレッシャーが消え去る。
豊音「お疲れだよー」
白望(……………二人の勝負、か)
白望(よく言ったものだなぁ)
元の豊音に戻った筈なのに、その気配は今までの豊音とはどこか違うように思えた。
「連れていけ」
村長が呟くと、二人の男が立ちあがって私を抱え上げた。
最後の局の、豊音……いったい、何だったんだろうか。
―――――――牢屋
白望「…………………………………………………」
動く気にすらならない。外は夏真っ盛りのカンカン照りで、空調の類が何一つない牢内は地獄の暑さだった。
まだ風があるだけマシといったところか。
最後に食事をとったのは昨日の昼だから、もう丸一日何も口にしていないことになる。
相変わらずじくじくと足の傷は痛むし、汗ばんだ洋服も変えていない。既に精神的には限界に近い。
格子窓から味噌汁の匂いが漂ってきた。今はお昼どきなのか……
派手な音を立ててお腹が鳴るが、どうせその味噌汁に自分の手が届くことはないのだ。
匂いだけ嗅がされると、余計腹立たしい気分になってくる。
豊音「シロっ」
白望「と、よ………ね……………」
豊音「だ、だいぶ弱ってるみたいだねー」
豊音「でもでも、ご飯持ってきたから大丈夫!」
言って、豊音はラップにくるまれたおにぎりを3つ差し出した。
白望「あ、ありがと…………豊音」
既に空腹は限界だ。焦るあまり、受け取ったひとつめはほとんど噛みもせず飲み込んでしまった。
白望「っく、けほ、けほ」
豊音「お、お水もあるから、急がないでいいよ」
残る二つは、じっくりと噛み締めながら食べる。
シンプルな梅干しのおにぎりだったが、空腹のせいか、これまでに食べた何よりもおいしく感じられた。
白望「ふう、…………ごちそうさま」
豊音「お粗末様だよー」
白望「助かったよ、豊音…………」
豊音「ううん、いいんだよ」
豊音「じゃあじゃあ、また夜に包帯替えに来るから」
白望「いいの?」
豊音「えっ」
白望「こんな風に、私の手助けをして」
白望「豊音に迷惑かかるんじゃ………」
豊音「…………どちらにしても」
豊音「あと、3日だからねー………」
白望「3日?3日って何が」
豊音「また来るよー」
白望「と、豊音!」
豊音は振り返ってはくれなかった。
・
豊音「シロ、お待たせだよー」
白望「…………ん」
豊音「じゃあ、包帯替えるから、足出して」
豊音「その間に、食事を済ませちゃってねー」
白望「………うん」
格子から足をつき出し、そのままおにぎりを受け取る。
豊音は昨日と同じように、傷口を洗い、包帯を巻いていく。
3つ目を食べ始める頃には、すっかり手当てが終わっていた。
白望「…………そういえばさ、昼間の、あと3日って、どういうこと」
豊音「……………シロは」
豊音「………シロは、この村の田んぼ、見た?」
そういえば、村の端に水田があった気がする。
………しかし、何も植えられていなかったように思えたが。
白望「見た、けど。休田なの?」
豊音はふるふると首を横に振る。
豊音「本当は、この時期だと………まだ青い稲に、お米ができる頃だよね」
豊音「それが秋に稲穂になって、それを収穫する…………」
豊音「でも、それが全部枯れちゃったんだよー」
豊音「わたしが、東京に行っている間に」
白望「それって、すごく大変な事なんじゃ」
豊音「備蓄もあるから、今年は大丈夫。でも、大変な事なのは確かだよー」
豊音「………明日、崖のそばを見てみてほしいなー。積んである干し草、あれは全部稲だから」
豊音の声が震えている。
白望「どうして、そんなことが起こるの?」
豊音「この村の人は、みんなこの村の神様に仕えてるんだけど……」
豊音「その中でも重要な役割を持ってるのがわたしなんだー」
白望「………………そう」
豊音「でも、わたしがインターハイに出るためにこの村を留守にして、祈祷を怠ったから……」
豊音「だから、これはその祟りなの」
白望「そんな」
豊音「信じられなくても……でも、そういうことなんだー」
豊音「じゃあ、また明日だよー」
白望「うん……………おやすみ」
今は、これ以上何が「あと3日」なのかについては聞けそうもない。
明日になったら、話してくれるだろうか…………
・
―――――――翌朝
「出ろ」
昨日と同じ声で迎えた翌日。すっかり顔馴染みになってしまった男たちが牢の扉を開けて告げる。
格子に掴まってどうにか立ち上がるが、右足に力が入らず、やはり歩けそうになかった。
あれほどの怪我がそう簡単に治らないことは分かっていたのだろう、いつもと同じように、二人が私の両脇を抱えた。
男に連れられて牢を出た。曇ってはいるが蒸し暑い。雨が降るのだろうか……
白望「あ……」
昨日豊音が言っていた、崖のそばを見る。
山と積まれた干し草が置いてある。ここからではよくわからないが、おそらく稲なのだろう。
そういえばはじめにこの村を訪れたとき、作業していた男性の多くは鎌を手にしていた気がする。
大切に育てていた稲がすべて台無しになってしまうというのはどのような気分だろうか……
なんとなく気分が落ち込んで、目をそらした。
―――――――集会場
豊音がひらひらと手を振っている。
既に豊音は卓についていた。男たちも私を椅子にかけさせると、同じように卓についた。
豊音「それじゃあ始めますけど、いいですか?村長さん」
村長が頷く。
昨日豊音から感じた、異質な気配。
昨日豊音が見せた、理解を超えた力。
そして、今の自分は本調子ではないこと。
不安要素は山積みで、どれだけ対抗できるかはわからないが、とにかくやるしかない。
東家:豊音
南家:九戸
西家:普代
北家:白望
東一局 親:豊音 ドラ9筒
白望(豊音が起家、そして下家……)
二四四八①②⑤(⑤)⑦⑧3南發 2
打:南
白望(他の二人に好き放題鳴かせられるよりは、マシかな)
白望(でも、その分神経使うし……ダルい)
二四四八①②⑤(⑤)⑦⑧23發 三
打:八
15順後
二三四①②③④(⑤)⑥⑦⑧23 4
白望(イーピンを切れば3面単騎か……)
打:①
豊音「チー」
□□□□ ①②③ ⑨⑨⑨ ⑤⑤⑤
白望(あれ?)
二三四②③④(⑤)⑥⑦⑧234
白望(何考えてるんだ私……フリテンになってる)
白望(集中力が削がれてるな)
白望(えーと、⑤がカラだから、のこる高目は⑧か)
豊音「……………」
打:⑧
九戸「………………」
打:⑧
普代「………………」
打:②
白望(完全に失敗したなぁ……)
二三四②③④(⑤)⑥⑦⑧234 2
白望(よかった……フリテン解消)
打:⑧
豊音「ノーテン」
九戸「テンパイ」
普代「ノーテン」
白望「えっ、あ、テンパイ」
白望(今の、海底牌だったのか)
白望(睡眠不足、ストレス……そんなもののせいにしても、仕方ないけど)
白望(まるで集中できてない……これでは、豊音には勝てない)
東二局 親:九戸 ドラ4筒
三七八九①③⑨4569南中 8
打:南
豊音「…………」
打:發
白望(豊音があがるときは、4副露、誰かのリーチ、赤ドラ晒しがあるとき)
白望(ダマは見たことないし、そういう意味では押し引きのタイミングはわかりやすい)
三七八九①③⑨45689中 白
ツモ切り:白
豊音「…………」
ツモ切り:8
白望(でもその3つとも、条件を満たしてしまえばほぼあがりの阻止は出来ない)
三七八九①③⑨45689中 一
打:⑨
豊音「…………」
ツモ切り:2
白望(またツモ切り……そんなに早い手なのか)
一三七八九①③45689中 四
打:一
白望(今わかってる豊音の能力は、『先負』『赤口』『友引』『仏滅』……)
白望(友引がツモあがりで、赤口が特殊条件下での狙い撃ち)
白望(先負が追っかけリーチで、仏滅が配牌とツモの悪化)
三四七八九①③45689中 ②
打:中
白望(『赤口』『友引』の関係から考えると……)
白望(残るは、先制リーチと、配牌およびツモの強化?)
白望(でも、豊音の先制リーチなんて見たことないし、決めつけるのはよそう)
豊音「リーチ」
打:北
白望(……………ダル)
三四七八九①②③45689 中
豊音の河:發82北
打:8
豊音「カン」
□□□□□□□□□□ 西西西西
新ドラ①
嶺上ツモ切り:中
白望(明らかにやばい雰囲気)
三四七八九①②③4569中 二
打:中
豊音「ツモ」
□□□□□□□□□□ 西西西西
二三四⑤⑤⑤⑧⑧56 7 西西西西
裏ドラ:西
カン裏:4筒
豊音「リーチツモ、裏4。3000-6000」
白望「…………………」
・
東三局 親:普代 ドラ7索
3順目
白望(………あれ)
白望(眼が、霞んでるのかな)
白望「んー………良く見えない」
一三四五六七八八九38白發 ④
打:④
白望(手牌の話じゃない)
白望(豊音、明らかに普通じゃない)
白望(なんか蜃気楼みたいにぼやけて見える……)
豊音「チー」
□□□□□□□□□□ ③④(⑤)
白望(これでうかつにツモ切りは出来なくなった……)
九戸「……………」
打:白
普代「……………」
打:二
白望(直撃狙いなら……まさか鳴けば防げる、か?)
白望「チー」
四五六七八八九38白發 一二三
打:白
豊音「……………」
ツモ切り:發
白望(全く、どうなってるのかなぁ)
数順後
四五六七八九3477 一二三 4
打:3
豊音「………………」
打:5
白望(ずっとツモ切りだった豊音が手出し……)
白望(4、7索待ちのままでは次の私のツモで私があがってしまうから?)
四五六七八九4477 一二三 6
白望(それで、6索待ちに張り替えたのかなぁ)
白望(あがりの目を高くするには7索切りなんだろうけど……)
打:4
豊音「ロン」
白望(…………!)
豊音「タンヤオドラ3……7700」
2344566778 4 ③④(⑤)
白望(6索をツモったのは単純に4、7索が残ってなかっただけか)
白望(ダルい……)
東四局 親:白望 ドラ中
8順目
白望「うーん……」
白望(空気が重い。比喩じゃなく現実に)
②③⑦⑨⑨12357778 二
打:二
豊音「チー」
□□□□ 一二三 中中中 白白白
打:⑨
九戸「………………」
打:東
豊音「ポン」
□ 東東東 一二三 中中中 白白白
九戸「………………」
打:南
普代「………………」
打:西
白望(…………)
白望(そりゃ豊音の現物切るけどさぁ)
②③⑦⑨⑨12357778 發
打:⑨
豊音「ツモっ!」
發 發 東東東 一二三 中中中 白白白
豊音「小三元ホンイツチャンタ、場風ドラ3……6000-12000」
白望(これは、厳しいなぁ……)
・
終局
豊音78900 九戸10600 普代10600 白望-100
豊音「ちょー楽しかったよー」
その言葉と共に、陽炎のように揺らめいていた豊音の姿がぴたりと定まる。
あれだけ感じていた強大な威圧感も、今は完全に霧散している。
元の豊音に戻った筈なのに、その気配は今までのものとはどこか違うように思えた。
ゆっくりと、しかし確実に、豊音の纏う雰囲気は異質なものへと変貌していた。
―――――――牢屋
四肢を投げ出して、ぼんやりと思案に耽る。
今日の豊音の強さは異常だった。恐らく、10半荘戦ったとしても、1度たりとも勝てないような気がした。
もっとも、今の私に10半荘をやり抜く体力があるとは思えないが。
今日でこの監禁生活も3日目だ。
両親には「友達の家に行ってくる」といってあり、また寛容な性格のため、
3日帰らないことを不審に思っている可能性はそこまで高くない。たぶん。
塞たちは毎日集まっているわけではないし、私も毎日部室に顔を出していたわけではないから、
3日くらいでは特に気に留めないだろう。
現実、1週間会っていない豊音のことについて特別問題視していなかったのだから。
外部からの救助は望めそうもなかった。
白望「はァ…………………」
白望「ダルい……………」
何日かぶりに「ダルい」と口にした気がした。
陽が沈みかけても、豊音は現れなかった。
・
豊音「おまたせ、シロっ」
待ちわびていた人物の訪れに、心が踊る。
今日の豊音は、大荷物だった。
白望「どしたの……それ」
豊音「シロ、もう3日くらいお風呂入ってないでしょ?それって気持ち悪いんじゃないかな、とかとかー」
白望「助かる……」
豊音「喜んで貰えたようでよかったよー」
豊音「えっと、トイレ側の方に排水口あるよね」
豊音「そっちに移動してもらっていいかなー?」
白望「わかった」
豊音「じゃ、手桶で金ダライからお水汲んで、体を洗うといいよー」
白望「うん」
着ていた服を、全部まとめて筵の上に投げる。
タライから手桶に水を汲み、さらにそれを手ですくって肩からかける。
白望「冷た……」
しばらくの間ぱしゃぱしゃと手で水をかけていたが、そろそろ水の冷たさにも慣れてきたので頭から被ることにする。
ふと、豊音がじっとこちらを見つめているのに気がついた。
白望「どうしたの、豊音」
豊音「なんでもないよー」
豊音はにこにこと笑っている。
白望「じっと見られてると……やりにくいんだけど」
豊音「あっ、ごめんね」
豊音「終わったら声掛けてねー」
白望「うん」
豊音はどこかしゅんとした様子で戸口の方へ歩いていった。……まあいいか。
水浴びを再開する。
思いきり頭から水をかぶった。普段は入浴など面倒なだけだと思っていたが、
今はただの水浴びでもできることがとても嬉しい。
体を洗っていて気付いたが、腰のところにあせもが出来てしまっている。
足の傷は熱を持ち始めている。
豊音には感謝しているが、食事も十分にとれていない今の監禁状態が続けば、
他にも健康に害を及ぼしそうだ。
急いで決着を付けなくては……
・
豊音「はいシロ、タオルと服の替えだよー」
白望「ん………」
手渡された服に着替えていく。かなりサイズが大きい……。豊音のものだろうか。
豊音「ちょっと大きいかなー?でもでも、ちょー似合ってるよー」
白望「やっぱり豊音のなんだ」
豊音「嫌かな?」
白望「ううん」
豊音「それはよかったよー」
豊音「じゃあ、包帯を巻くから、足を出して」
豊音「………」
白望「………」
豊音「………」
白望「………」
白望「ねえ」
白望「豊音……昨日の話の続き」
豊音「………………………」
白望「何が残り3日、なのか教えてほしい」
黙ったまま、豊音はただ包帯を巻き続ける。
豊音「………………………………………………………」
豊音「…………………………………」
豊音「シロ、そこの窓から月は見える?」
白望「月?………ああ」
格子窓から見える月は、ほとんど糸のように細い。
白望「見えるけど……それがどうしたの?」
豊音「その月が完全に欠けたとき。新月の夜には、この村でお祭りがあるんだよー」
白望「急にお祭りの話なんて、何」
豊音「昨日、そのお祭りでシロを生贄に捧げることが決まったんだ」
白望「……………!」
豊音「今、この村は大変なことになってるんだよ。普段はただのお祭りだけど、今回は別」
豊音「村の神様を鎮めなきゃいけないんだー」
豊音「宮守のみんなのことは好きだけど、やっぱりこの村を見捨てることはできないから……」
豊音「今、村がこんなことになってるのはぜんぶ私のせい」
豊音「だから、辛い祈祷だって………頑張らなくちゃいけないんだー」
窓から視線を外して、豊音の方を見てぎょっとした。
喋りながら、私の血で汚れた指を舐めている。
豊音はこちらを見ながら話しているが、その目は私を見ているようには見えなかった。
どこか遠くを見ているような……
今話をしている豊音は、本当に豊音なのだろうか。
白望「……………」
豊音「でも、シロが犠牲にならなくてすむ方法も、もちろんあるよ」
白望「それは、どんな?」
豊音「神様っていうのはどんな神様でも、信仰を集めることで力を増したり、人に益をもたらしてくれるの」
豊音「信徒を増やすとか、生贄とか……そういうのもぜんぶ神様の存在を信じるって事、信仰を集めるってことだから」
豊音「だから、シロもこの村で暮らして、この村の神様に仕える巫女になることをみんなの前で誓えば……」
豊音「生贄にされずに済むと思うんだー」
豊音「でもでも、私と同じくこの土地に縛られることになっちゃうけど」
白望「…………」
豊音「私……みんなにお願いしてみるよー」
豊音「じゃあ、また明日だね。シロ」
豊音「おやすみー」
―――――――翌朝
「出ろ」
死刑宣告を受けた翌日。昨日と変わらず男たちが牢の扉を開けて告げる。
格子に掴まってどうにか立ち上がるが、右足に力が入らず、やはり歩けそうになかった。
豊音の懸命の治療むなしく、若干化膿が始まっているようだ。いつもと同じように、二人が私の両脇を抱えた。
男に連れられて牢を出た。清々しいまでに雲一つない青空。この空も明日には見納めなのか……
いいや、絶対に今日、勝って見せる。
―――――――集会場
既に豊音は卓についていた。男たちも私を椅子にかけさせると、同じように卓についた。
村長が、ちらりと私のほうを見た。服が変わっていることに気付かないはずはないだろうが、特に咎められることはなかった。
豊音「じゃあ、今日も麻雀はじめるよー」
全員が頷く。
文字通り、賽は投げられた―――――
東家:白望
南家:九戸
西家:普代
北家:豊音
東一局 親:白望 ドラ東
白望(ふぅ………起親か)
白望(恐らく、体力的に今日の対局で限界………)
白望(頑張ろう)
一七八三
一七八三東八八東
白望(……?)
一七八三東八八東白二四五
一七八三東八八東白二四五東六
白望(!!?)
一二三四五六七八八八東東東白
白望(なんだこれ……)
白望「………ちょっとタンマ」
白望(いくらなんでもおかしい)
白望(そもそもこれ何面待ちなんだ)
白望(……………)
白望(一三四六七九、6面張)
豊音「………」
白望(豊音からはあの気配は感じない)
白望(これは偶然………?それとも、残る最後の能力?)
白望(どちらにしても、この配牌で降りなんてない、いつまでも考えてる余裕もない)
白望「リーチ!」
打:白
白望(!?)ゾワッ
白望(今の感覚………)
豊音「ふふふふふ、引っ掛かった」
豊音「ポン」
□□□□□□□□□□ 白白白
打:五
豊音「ねえ、白望…………昨日の話の続きだけど、やっぱりこの村で私に仕えて暮らす、なんてのは無しよ」
白望(やっぱり、リーチ打ったのは失敗だったかなぁ……)
一二三四五六七八八八東東東 中
ツモ切り:中
豊音「ポン」
□□□□□□□ 中中中 白白白
打:八
豊音「だって、貴方の血、とっても美味しかったんだもの………」
白望(失敗だった)
一二三四五六七八八八東東東 發
ツモ切り:發
豊音「ポン」
□□□□ 發發發 中中中 白白白
打:二
豊音「ああ、早く貴方が欲しいわ………」
白望(……………そもそも、勝てない勝負だった気がしてきた)
一二三四五六七八八八東東東 ②
ツモ切り:②
豊音「ポン」
□ ②②② 發發發 中中中 白白白
打:⑧
豊音「これで終わりね。早くいらっしゃい、白望」
白望(やだこれもー)
一二三四五六七八八八東東東 ⑤
ツモ切り:⑤
「ツモ」
白望(………男声?)
二二四五六④⑥566778 ⑤
「タンヤオ、ツモ。700-1300」
白望「…………へ?あ、はい」
白望(助かった?)
・
東二局 親:九戸 ドラ2萬
豊音「白望……この対局はもはや無意味よ」
白望(もう絶対、リーチはかけない)
豊音「もとより、この余興も新月までの間あなたをこの場に留めておくための口実」
豊音「あなたは私に勝てはしないし、どちらにせよ開放する気なんてはじめから無かったのよ」
白望(………………)
六七八八③④⑧23478西 白
打:西
豊音「カン」
□□□□□□□□□□ 西西西西
豊音「ツモ」
345東東東南南北北 南 西西西西
豊音「四喜和、32000」
白望「…………………………」
白望「……あなたは、本当に豊音?」
豊音「もちろんそのとおりよ、白望」
終局
白望-9300 九戸27700 普代24300 豊音56300
・
―――――――牢屋
初日を様子見に充てたのは失策だった。
豊音が言った『お祭り』が近づくにつれ、豊音の能力は神懸ってきている。
衰弱していく一方の私に対して、加速度的に力を増していく豊音。
初日に豊音に負けた時点で、そこから先の私に勝ち目は無かったのだ……
無理を承知で、最初の対局中に逃走を試みるべきだったかもしれない。
思えば、ここに来てからたまに見せる豊音の奇妙な言動……
永水女子の人たちのように、豊音もまたこの土地の土地神かなにかを憑依させているのだろう。
豊音が仏滅を使ったとき、「この時、この場所でしか」これだけの力は使えないと言っていた。
この山を離れれば元の豊音に戻ってくれるだろうか。
おそらく、明日の戦いも、同じような結果になるだろう。
対局が終わって、日が沈めば祭りが始まる。
私は、そこで………
昨夜豊音が言った通り、この村で暮らすことを選ぶべきだろうか。
対局の前に頼んでみようか。
しかし、昼間の豊音の様子……あれがこの村の神なのだとしたら、
あいつは私が新しい村の住人となるより生贄として捧げられることを望んでいるようだった。
提案が受け入れられるとは思えない。
私はここで死ぬのか。
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ。
死にたくない。
豊音。
『豊音』に、会いたい……
・
???「シロ、起きて、シロ」
白望「んう……」
白望「豊音……」
豊音「おはよう。といっても、まだ夜中の3時だけどー」
白望「豊音……会いたかった」
豊音「シロ……最後のチャンスだよ。わたしと一緒にこの村を出るか、明日の半荘に賭けるか……選んで」
白望「この村を……出る?」
豊音「うん。このままシロを逃がしても、絶対に山を下りる事なんてできないでしょー?」
豊音「朝が来て、捕まっちゃうよー」
豊音「それに、シロ一人で逃げ切れても、途中で死んでしまっても……神様の怒りを買うことになる」
豊音「神様はもうシロを手に入れた気でいるみたいだし、そうなったら鎮めるのは無理かなー」
白望「そうなったら、どうなるの」
豊音「多分、今よりもっとひどい……村ごと土砂崩れにあう、なんてことになるかもしれないよー」
豊音「でもでも、わたしがシロをおんぶすれば確実に逃げられる」
豊音「村のみんなは村から離れることはできないけど、県内じゃあ追手がかかると思う」
白望「……追手?」
豊音「祟りにあうってこと」
豊音「宮守には、戻れないよー」
白望「でも、豊音がこの村を離れるってことは」
豊音「そうだよ……この村はおしまい」
豊音「だから、シロが選ぶの」
豊音「このまま死ぬか……村一つを終わらせるか」
白望「……………………」
白望「………ちょっと、タンマ」
どちらを選んでも、あまりに失うものが大きすぎる。
片方は自分の命。もう片方はこの村。
宮守には戻れない。今まで通りの生活を送ることはどちらにせよ不可能……
でも、豊音が居れば。豊音が居てくれるなら……
思えば、豊音が私のために動いてくれていなければ、私は既に飢えて死んでいただろうし、
あるいは足の怪我だってもっとひどいことになっていただろう。
どちらを選ぶべきかは明白だ。決断を下せないのは、良心の呵責があるからだ。
でも、私はまだまだ豊音と一緒に居たい。豊音と一緒に生きていたい……
白望「………決めた」
白望「………村を出よう、豊音」
豊音「うんっ!」
・
豊音「荷物、持った?」
白望「うん、大丈夫」
最初に豊音を連れて逃げ出そうとした時に取り上げられていたリュックを背負う。
目の前で、豊音が屈んでいる。
白望「……でも、いいの?」
豊音「何が?」
白望「村を出る事」
白望「生まれ育った場所、なんでしょ……?」
豊音「もちろん、本当なら見捨てたくないよー」
豊音「でも、わたしもシロと同じ気持ちだから」
白望「それって……」
豊音「ほら、みんなに気付かれる前に、急いで」
白望「う、うん」
白望「じゃあ、失礼します」
豊音「まかせてよー」
豊音「よいしょ」
白望「………重くない?」
豊音「平気だよー」
言葉通り、私を背負ったまま普段歩くかのような調子で進む豊音。
牢屋を出て、ふと気付く。干し草の束が道のように並べられていた。
それも一本ではない。村中に網のように張り巡らされている。
白望「豊音……あの干し草は何?」
豊音「すぐわかるよー」
村の入り口に程近い小屋までやってくると、豊音は私を地面に降ろした。
豊音「ちょっと待っててねー」
薄暗くてよく見えないが、どうやら薪をためておく小屋らしかった。
豊音は傍にあったポリタンクの中身を薪にかけ、マッチを点火して投げ入れた。
白望「と、豊音。そんなことしたら」
豊音「うん、今日は風があるし……大変な火事になっちゃうねー」
はた、と気が付いた。干し草の束はこの小屋のそばから、すべての家の近くに道のように置かれている。
白望「こ、これ……導火線ってこと」
豊音「うん、そうだよー」
白望「そんなことをする必要……」
豊音「そうだよ。必要ない」
豊音「飢饉か、天災か……どういう原因でかはわからないけど、結果は同じ」
豊音「みんなは、山を下りてまで生きようとはしないよ」
豊音「その結果どうなるかが分かっていてもね」
豊音「近い将来、少なくとも2、3年のうちに、この村はなくなる」
豊音「だったら、少しでも苦しみは少ないほうがいいんじゃないかなー?」
今更ながら、自分の選択の罪深さを思い知る。
豊音「さ、急ごうよ。シロ」
白望「わかった……」
後戻りはできない。
・
矢のような速度で、豊音は山を駆け下りていく。
豊音にこんな体力があったとは驚きだ。
恐らく、20分もかからずにふもとまで到達するだろう。
さようなら、お父さん、お母さん、宮守のみんな………
豊音「シロ」
白望「………ん」
豊音「ずっと、いっしょだよー」
………手に込める力を強くして、豊音の言葉に応えた。
カン
prrrrrr……………
「あ、もしもし?村長さんですか?」
「うん、豊音です」
「消火のほうは大丈夫でしたー?」
「被害は予定通り薪小屋だけ?それはなによりだよー」
「干し草の準備とか、山を削ったりとか、ちょーありがとうだよー」
「うん、シロの足の怪我もすっかり良くなったし、元気だよ」
「じゃあじゃあ、来月のお祭りにはちゃんと一旦帰るよー」
「はーい、わかりましたー」
ピッ
ツーツーツー
豊音「これでシロはわたしだけのもの……」
豊音「シロの中にはわたしだけ……シロに必要なのはわたしだけ……」
豊音「ふふ………ちょーしあわせだよー」
もういっこ、カン
ヤンデレ豊音書きたかっただけのSS。事の真相は、豊音の奇妙な言動含めてシロを手に入れるため全てが豊音の打った芝居。じゃあの
_
\ヽ, ,、
_ `''|/ノ
\`ヽ、|
\, V
`L,,_
|ヽ、) ,、
/ ヽYノ
/ r''ヽ、|
| `ー-ヽ|ヮ
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(⌒ヽ .:' ..:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:/  ̄ ̄)
ゝ / .:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.: f⌒ヽ /
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/ イ人{.:.|.:.:.: | \:.:.:.\.:.:.:.:.:.:|.:.:.:|`¨´ У.:.::.:.:.
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〃 { .:.:.:.:.:.|.:| ハ 弋rソ 弋_rソ :|:|ん} .:.: | |.:.:.:.:.:.:.!
{{ ヽ.:.:.:.:.|人 } .:.:. ' .:.:.:. }:}, イ.:.:.:.:| | .:.:.:. /
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ノ .:/ 厂二ニ=┘} }.........{ { }‐く二二「}\ 、
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