立つかな?
――清澄高校・麻雀部部室……
久「はい、では第二十二回ヘタレ脱却委員会の会合を始めたいと思います」
和「……」
京太郎「……」
久「とりあえず経過報告から、和」
和「はい」
久「咲とは進展したかしら?」
和「はい、この前のデートで恋人繋ぎをしました!」
京太郎「おぉ、やったな和!」
久「和にしてはやるわね……」
和「その時の咲さんの表情はとても可愛らしくて、息が止まりそうなそれでいて天にも登るような気持ちでした……」
京太郎「和はなんだかんだでジワジワ進んでるな……じゃあ次の報告は俺ですね」
久「須賀君の事だからもう二段飛ばしで進んじゃってたりしてね」
京太郎「あはは、さすがに二段飛ばしは無理ですが……今日のお昼にですね、一緒に飯を食べたわけですよ」
和「そういえば誘いに行きましたけどいませんでしたね……咲さんと2人の昼食は緊張しました」
京太郎「そこで、優希と食べさせ合いをしました!」
和「食べさせ合いとはやりましたね、須賀君!」
久「待って和、これはただの食べさせ合いじゃないわ!」
和「えっ……」
京太郎「さすが部長、気付きましたね」
久「優希がお昼に食べるのはタコス……そして食べさせ合いという事はあーんで優希が須賀君にタコスを食べさせた可能性が高い」
和「……まさか!?」
京太郎「――そう、優希は俺に食べさせたタコスをその後自分で食べた! すなわち……」
久「間接、キス……!」
和「な、なんて高度な……」
京太郎「恥ずかしくて逃げたくなったけど頑張ったよ俺!」
和「さすがです須賀君……きっとゆーきも喜んでいたでしょうね」
京太郎「ああ、間接キスって気付いた後の顔真っ赤にした優希は永久保存版として俺の脳裏に焼き付いた……つうか写真撮って待ち受けにしたし」
和「私も今度勇気を出してみましょうか……」
久「……」
京太郎「おっと、そういえば部長の報告がまだでしたね」
和「どうですか、福路さんとは?」
久「ふふっ……」
京太郎「部長?」
久「和、須賀君……幸せそうな2人には悪いけど、私はさらに先に進ませてもらうわ」
和「ど、どういう事ですか?」
久「――私、今度美穂子を家に泊めるわ」
和・京太郎「!?」
久「大変だったわよ、ここまでこぎつけるのにどれだけの勇気を振り絞った事か……もう寿命が三年は縮んだわね」
和「お、お泊まりという事は、1日2人一緒なんですよね……」
久「も、もちろんお風呂や寝る時も2人一緒よ……意識させないでくれるとありがたかったんだけど」
京太郎「あ、ありえねえ……そんなの相当進まないと許されないはずなのに……」
久「悪いわね、もしかしたら私……ここを一番に卒業しちゃうかも」
和「何を言うんですか部長! 謝る必要なんてどこにもありません!」
京太郎「そうですよ! むしろ部長がここを卒業出来るならそれは俺達にとっても嬉しい事です!」
久「和……須賀君……」
和「頑張ってください部長、応援してますから!」
京太郎「ご武運を祈ってますよ!」
久「ええ、私頑張るわ! 報告楽しみに待っててね!」
和・京太郎「はい!」
まこ「……で、あんたらはさっきから練習もせず何を盛り上がっとるんじゃ?」
三人「あ……」
咲「和ちゃん、随分楽しそうだったね……」ゴゴゴゴ
和「さ、咲さん、落ち着いて……」
優希「京太郎、その写真消せって言ったよな……?」ゴゴゴゴ
京太郎「えっ、ちょっ、待っ」
まこ「じゃあ一年で卓を組んでもらおうかの。 咲、優希、やってしまいんさい」
咲・優希「はい!」ゴッ
和・京太郎「ひっ」カタカタ
まこ「だいたいな、部長。 一緒に風呂なら合宿で経験済みじゃろうに、何を恥ずかしがっとるんじゃ」
久「いや、だって……皆で一緒なのと好きな人と2人だけってのはやっぱり違うじゃない……」
まこ「あっ、そうかい……」
咲「カン、カン、もいっこカン!」
優希「点棒を削り尽くすじぇー!」
和・京太郎「」
――後日・喫茶店……
和「部長、今日は私達を呼んでどうしたんですか? 私達は色々忙しいんですが……」
久「ちょっと相談に乗る事になってね、あなた達にも知恵を貸してほしいのよ」
京太郎「知恵、ですか?」
久「そうよ……あっ、いたいた! 待たせたわね、ゆみ」
ゆみ「いや、私もさっき来たところだ……そちらの2人は原村さんと……」
京太郎「あっ、清澄高校一年の須賀京太郎っていいます」
ゆみ「鶴賀学園三年、加治木ゆみだ。 今日はよろしく頼む」
和「でも珍しいですね。 加治木さんが私達に相談なんて」
久「あんまり鶴賀の人達には頼りたくないみたいね。 よっぽどデリケートな問題なのかしら」
ゆみ「ああ……相談というのはモモの事なんだ」
和「東横さんですか?」
京太郎「東横って確か和が県予選で戦った……」
ゆみ「そうだ。 実は私はそのモモと、まあ、付き合っていてな」
久「それは見てればわかるわよ。 それで私があなたから電話を受けた時には、東横さんに嫌われたって言っていたけど何があったの?」
ゆみ「……久もそうだが私は今年受験生だ」
久「ええ、そうね」
ゆみ「受験生ともなると色々やらなければならない事も増える。 当然その分時間は削られ、モモと過ごす時間も少しずつだが減っていった」
京太郎「それで東横さんが我慢できなくなった、と」
ゆみ「無論モモも理解を示してはいたんだが……私はこの通り口数が多い方でもない」
和「もしかして気持ちをほとんど伝えた事がないんですか?」
ゆみ「自分でもそれではいけないと思ってはいたんだがな……恐らくそのせいでモモにも積もり積もった鬱憤があったんだと思う」
久「……」
久(あの東横さんが、ねぇ……それだけでゆみに愛想を尽かすようにはとても見えなかったけど……ん?)
?「……」コソコソ
久(……なるほどね)
京太郎「これはまた難しいですね……」
和「元々一朝一夕で解決するような問題じゃありませんからね。 部長の時は例外のようなものでしたし」
ゆみ「そうか……やはり時間をかけるしかない、か」
久「ごめんなさいね、せっかく相談に乗るって言ったのに大して力になれなくて」
ゆみ「いや、話を聞いてもらっただけでもありがたかった。 それでは私は予定があるから失礼するよ」
京太郎「あっ、はい」
和「いいアイデアが浮かんだら部長を通じてお知らせしますね」
ゆみ「ああ、よろしく頼む」
カランカラン…
久(さて、と)
京太郎「……ああいう人でも言葉に出せなかったりするもんなんだな」
和「確かに合宿の時などを見た限りでは、東横さんの方が加治木さんを慕ってグイグイいっているという印象でした」
京太郎「うーん、相談されたからには何かしたいけど俺達に何ができるんだろう」
久「それは、本当にあった事を聞いてから考えましょうか」
京太郎「えっ?」
和「部長?」
久「さっきから聞き耳を立ててる人がいるみたいだから……ねぇ、蒲原さん?」
智美「……ワハハ、ばれてたか」
――……
智美「いやー、ユミちんが何をしてるのか探ってみればこういう事だったとはなー」
和「蒲原さん……?」
和(四校合宿くらいでしかまともに関わってはいませんけど……この人はこんな、痛々しい笑顔を見せる人だったでしょうか?)
久「蒲原さん、聞かせてくれるわよね? 本当の事」
智美「……」
京太郎「あ、あの部長? 俺にはまだ何がなんだか……」
久「そうね、単刀直入に言わせてもらうなら――」
智美「――ユミちんが相談した内容はデタラメなんだ」
久「……らしいわよ?」
京太郎「デタラメってそれどういう……」
智美「モモはユミちんを嫌ってなんかいない。 むしろそれを不安がってるのはモモの方なんだなー」
和「東横さんが加治木さんに嫌われてないか不安に感じている……?」
智美「いつからだったか……少なくとも私が何が起きてるか理解した時には既にそれは始まってた」
久「……」
智美「ユミちんがな、モモとの予定をことごとくキャンセルしだしたんだよ」
京太郎「……」
智美「最初は受験生だから忙しいんだろうって、モモも寂しいけど我慢してたみたいなんだ。 だけどある日、ユミちんが予定なんてないのにあるって嘘をついていた事が偶然わかったんだよ」
久「ゆみったら……全然話が違うじゃない」
智美「当然モモはどうしてそんな嘘をついたのかユミちんに聞いたらしい。 だけどユミちんは何も答えず、翌日からモモを避けるようになったんだ」
和「どうしてそんな……」
智美「そこまではまだわからない。 何かあったのかって思って私も色々探りを入れたけど何もなかったしなー」
京太郎「何も、なかった?」
智美「そう、例えば新しく好きな人が出来たーとかわかりやすい理由があるわけじゃないんだ。 本当唐突にユミちんはモモと連絡も取らないで過ごしてるんだよ」
久「らしくない、わね。 ゆみってそういう回りくどい事はしない印象があるんだけど」
智美「ワハハ、そう見えて実はそうでもないんだな、ひっさー。 どんなに強がったってユミちんもまだ十七歳の女の子なんだぞ」
久(ひ、ひっさー……)
和「それは蒲原さんも同じでは?」
智美「いや、私ダブってるし」
京太郎「ああ……」
智美「こらこらガースー、冗談を真に受けない。 のどペンも一瞬納得しかけただろー?」
京太郎(ガースー……なんか年末によく聞く響きだな)
和(えっ、のどペンって私ですか?)
久「まあ、それはともかく……蒲原さんとしてはゆみが表面的には見えない部分で何かを抱えてると考えてるのね?」
智美「ワハハ、ユミちんは冷静沈着に見えるけど負けず嫌いだし、一回こうと決めたら周りが見えなくなるし、すぐ私に勉強させようとするし、泳げないしなー」
京太郎「それ後半全く関係ないですよね!?」
智美「ワハハ、ガースーもなかなかいいツッコミをするじゃないかー」
和「鶴賀学園麻雀部の皆さんの苦労が少しわかった気がします……」
智美「ワハハ、のどペンもキツいなー。 とにかくそんなユミちんの事だからどうせ1人で勝手に決めて突っ走ってるんだと思うぞ」
久「1人で突っ走ってる、か……これはゆみにもう一度話を聞く必要があるわね」
智美「ワハハ、連絡してくれれば私が鶴賀まで車を出すぞー」
京太郎「あっ、それはありがたいですね。 なんだかんだで鶴賀学園まで距離ありますし」
和「その時には是非お言葉に甘えさせていただきましょうか」
久「そうね」
智美「ワハハ、大船に乗ったつもりでまかせてくれー」
――後日・鶴賀学園……
智美「ワハハ、着いたぞー」
京太郎「うっぷ……や、やっと解放された……」
和「頭が、クラクラします……」
久「……」
京太郎「さすが部長は動じてないな……」
和「どうすればあそこまで動じずにいられるんでしょうか……あ」
久「」
和「部長、気絶してます……」
智美「おーい、いくらなんでも酷くないかー?」
久「……はっ!」
京太郎「部長、おはようございます」
和「大丈夫ですか?」
久「え、えぇ……」
智美「……ワハハ、これくらいでは泣かないぞ」
久「と、とりあえず鶴賀学園に着いたわけだけど……ゆみはまだ残ってるのかしら?」
智美「今日は職員室に寄ってるはずだからまだいるはずだー」
京太郎「じゃあ少し待ってればすぐに会えますね」
和「でも校門の前にいたら邪魔になりませんか?」
久「そうねぇ……あ」
智美「どうやらその必要はないみたいだなー」
――……
ゆみ「……」
桃子「先輩!」
ゆみ「モモ、か」
桃子「あの、先輩も今帰りっすよね? も、もしよかったら一緒に……」
ゆみ「……すまない、帰りに寄る所があるんだ」
桃子「あっ……そうっすか」
ゆみ「悪いな、この埋め合わせは今度……」
桃子「……今度っていつっすか」
ゆみ「……」
桃子「加治木先輩、最近私を避けてるっすよね!? どうしてっすか、私が何かしちゃったんなら謝るっす! だから、だからこんな事はやめてほしいっす!」
ゆみ「……」
桃子「加治木先輩……!」
ゆみ「――私は避けてなどいない。 それはモモの勘違いだ」
桃子「……」ギュッ
ゆみ「……じゃあ、また」
桃子「うっ、っ……」ポロポロ
ゆみ「……すまない、モモ」スタスタ
――……
久「これは、予想以上ね」
和「あんなの、いくらなんでも東横さんがかわいそうです……!」
京太郎「あれで避けてないってのは無理があるよな……なんであんな事加治木さんはするんだよ!」
智美「……ユミちん、オイタが過ぎたなー」
久「!?」
久(なに、今蒲原さんの雰囲気が……)
智美「ガースー、のどペン、2人に頼みがあるんだけどいいかー?」
和「それが、東横さんのためになるのならやります!」
京太郎「ここまで来て何もしないとかありえませんよ!」
智美「ありがとなー、じゃあこの紙をモモに渡してやってくれー」
和「わかりました、行きましょう須賀君」
京太郎「ああ!」
久「……私は行かなくていいの?」
智美「ひっさーにはヘタレさんのお説教につきあってもらうぞー」
久「……そういう事ね、わかったわ」
――……
ゆみ「……」
久「ひどい人ね、後輩を泣かせたまま放置だなんて」
ゆみ「久!? なぜここに……」
智美「私が連れてきたんだよユミちん」
ゆみ「蒲原……余計な事を」
久「それであれは何? あなたがした話と全く違うように見えるんだけど?」
ゆみ「……」
智美「よくもまあ、あんな嘘をつけたなユミちん。 モモがユミちんを嫌うなんてありえないのは誰が見たってわかるぞ」
ゆみ「くっ、あの場にいたのか蒲原……」
久「聞かせてくれるわよね? なんであんな嘘をついたのか」
ゆみ「……モモは、私に依存しすぎている」
智美「……」
ゆみ「私はもうすぐ卒業だ。 だがモモにはまだこの鶴賀学園で二年の学園生活がある」
久「……」
ゆみ「来年はまだいい、津山や妹尾がいてくれるからな。 だが再来年モモが三年になった時に、今のままではまたモモは孤独な世界に戻ってしまう」
久「だから突き放してるってわけ?」
ゆみ「そうだ、私だっていつでもモモを助けられるわけじゃない。 だから今は心を鬼にして……」
智美「――ユミちん、それで言い訳は終わりか?」
ゆみ「蒲原……?」
智美「さすがに呆れたよユミちん。 この期に及んでモモを言い訳に使うなんてなー」
ゆみ「何を、言っている?」
智美「ユミちんはさー、怖いんだろう?」
ゆみ「何が、だ」
智美「モモに必要なのは本当に自分なのか自信が持てない事が、だよ」
ゆみ「!?」
久「どういう事?」
智美「モモは一時期ステルス能力だけが自分の価値なんじゃないか、もし県予選で負けたらユミちんと一緒にいる意味がなくなるんじゃないかって悩んでたんだ」
久「そんな事が……」
智美「まあ、それは色々あって解決したんだけどなー。 ユミちん、モモと仲良くなる度に今度はユミちんが不安になったんだろー?」
智美「――この先モモをはっきり見つけられる人間が現れたら、自分の価値はなくなるんじゃないかってな」
ゆみ「……」
智美「ユミちんはモモを完璧に見つけられるわけじゃない。 下手をしたら匂いでわかる私よりも見つけにくいはずだ」
ゆみ「ああ……」
智美「普段ならモモとの時間で消えちゃうような些細な不安。 だけど受験で忙しいせいでモモとの時間が減ってたから、ユミちんの不安は解消されるどころかどんどん膨らんだんだろうなー」
久「こうしている間にも東横さんをはっきり見つけられる人物が現れるかもしれない。 もしそうなったら東横さんは見つけにくい自分よりその人を選ぶんじゃないか……つまりはそういう事かしら?」
ゆみ「……」
久「だけどそれなら東横さんにきちんと不安を吐き出せば……」
ゆみ「そんな事、出来るものか!」
智美「モモがかっこいい加治木ゆみを好きだと思ってるからかー?」
ゆみ「そうだ、ただでさえ私は先輩なんだぞ……そしてモモが好きでいてくれてるのは自分を律し、冷静で、強い加治木ゆみなんだ……!」
智美「万が一にも弱い自分を見せてモモの気持ちが冷めたら……それを考えただけでユミちんは動けなくなったんだな」
ゆみ「私だって完璧じゃないんだ、不安な事だってある……このままモモを縛っていていいのか、モモにはもっと相応しい人がいるんじゃないか、たくさん悩んだ、時には情けなくて涙すら流した!」
久「ゆみ……」
ゆみ「だけど、私はモモには、モモにだけはそんな弱い加治木ゆみを見せるわけにはいかなかったんだ!!」
久(私と似てる……だけど決定的に違うのは美穂子に甘えたかった私と違って、ゆみは東横さんに絶対に弱みを見せたくなかったという点、か)
ゆみ「モモの前でだけは、私は強い先輩でいなければならない……県予選の時は最後の夏という事もあって許されても、日常で弱みを見せていいか、確信がどうしても持てないんだ……!」
智美「……」
ゆみ「これでわかっただろう、なんで私がモモを避けていたか、久に嘘の相談をしたのか……」
久「……あなた、まさか自分と東横さんの関係を自然消滅させようとしたの!?」
ゆみ「ふふっ、情けない話だろう……弱みを見せたくないあまりにモモを避けて、わざわざ嘘の相談までしてモモとの関係を修復するため何かをしたんだと自分を安心させたかったんだ……」
久「私達はそのために利用されたってわけ、か」
ゆみ「もういいだろう。 私の本音は全て話した……放っておいてくれ。 元々こんな情けない考えを持つような私はモモに相応しくな……」
智美「……ユミちん、私は謝らないぞー」
ゆみ「なに……」
パァン!
ゆみ「……蒲、原?」ヒリヒリ
智美「あんまりさー、モモを馬鹿にするのもいい加減にしなよユミちん」
ゆみ「私が、モモを馬鹿にしているだと!?」
智美「だってユミちんの不安ってさ、全部モモを信頼してるならありえない不安だろー?」
ゆみ「……!」
智美「もっと言うならさ、ユミちんがこんな馬鹿な事してる間モモは何してた?」
ゆみ「それ、は……」
智美「ある日はずっとユミちんを校門の前で待ってた。 ある日はユミちんが勉強で疲れてるだろうってリラックス出来るお茶を入れる練習をしてた。 佳織やむっきーも見ててモモの気持ちが手に取るようにわかるって言ってたよ」
ゆみ「……」
智美「で、今日……モモはとうとう泣いちゃった。 今まで涙だけは見せなかったモモが、自分が悪いなら謝るってユミちんに縋ってた」
ゆみ「あ、ああ……」
智美「愛想尽かされてもおかしくないのに、ここまでされてその気持ちが揺れるんじゃないかって疑うのはさー……モモをこれ以上ないほど馬鹿にしてる事にならないかな?」
ゆみ「だが、私は……」
ピンポンパンポーン……
久「あら、校内放送……?」
『……先輩』
ゆみ「この声……モモ!?」
桃子『加治木先輩、大好きっすーーーー!!』
智美「ワハハ、どうやら2人は任務を完了したみたいだなー」
ゆみ「蒲原、これはお前の差し金か!?」
智美「私はただモモにメモを渡しただけだぞー?」
久「メモ?」
智美「……ユミちんが消えようとしてるってなー」
ゆみ「!!」
――……
桃子『いいっすよ』
桃子『消えてもいいっすよ』
桃子『今度は私が大きな声で先輩を捜しまわってみせますから!』
――……
桃子『私は先輩が大好きっす! 麻雀をしてる時のかっこいい先輩も、泳げなくてビート板が手放せないかわいい先輩も、元部長さんと話してる時のお茶目な先輩も……それに、弱音を吐いて落ち込むちょっぴり情けない先輩も……全部全部大好きっす!』
ゆみ「モモ……私は……」
智美「ユミちん何してるんだ?」
ゆみ「なに……?」
智美「モモが消えそうなユミちんを大声で捜したら、ユミちんはどうするんだっけ?」
ゆみ「……そうだ、行ってこなければいけない、な。 こんな私を慕ってくれる、大切な人のところへ」
智美「行ってきなよユミちん、お姫様が待ってるぞー」
ゆみ「ああ、行ってくる!!」タタタッ
智美「……全く世話の焼けるカップルだなー」
久「ふふっ、かっこよかったわよ蒲原さん」
智美「ワハハ、照れるなー」
京太郎「部長、蒲原さん!」
久「あっ、須賀君、和」
和「蒲原さんのおっしゃった通りにメモを東横さんに渡しましたが……これでよかったんですか?」
智美「おぉ、完璧だぞー」
ゆみ『モモ!』
桃子『先輩……』
智美「ワハハ、いよいよクライマックスだなー」
ゆみ『……すまなかった! 私の身勝手で、モモを振り回して挙げ句泣かせてしまった……!』
桃子『いいっすよ、先輩……そういうヘタレさんな先輩も私は大好きっすから!』
ゆみ『そう、か……』
桃子『ところで先輩?』
ゆみ『なんだモモ?』
桃子『私が大声をあげたらその……』
ゆみ『……ああ、そうだったな』
桃子『あっ、先輩……』
ゆみ『――その口を閉じさせないといけなかったな』
チュッ
桃子『先輩、大好き、大好きっす……』
チュッ
ゆみ『ああ……私も好きだぞモモ……』
チュッ
智美「ワハハ、すっかり全校生徒に聞かれてるって忘れてるな、あの2人」
久「……」
和「……///」
京太郎「……」ポカーン
智美「ワハハ、なあひっさー、これをユミちんの一年A組乱入事件に対抗して、バカップル校内放送ジャック事件と名付けようと思うんだけどどうだー?」
久「もう好きにしてちょうだい……」
――……
智美「いやー、今日は色々苦労かけたなー」キィィィ……ガタンッ!
久「い、いいのよ、相談されたからには最後まで見届けたかった、し……!」
智美「ワハハ、ありがとうなー」キィィィ、ガクンッ!
和「ひゃあ!?」
京太郎「か、蒲原さん、お礼はいいですから安全運転を……どわあっ!?」
智美「ワハハ、この程度でビビるとはガースーも情けないなー」プップー!
久「ああ、ところで蒲原、さん!」
智美「なんだひっさー」
久「どうして、あなたはここまでしたの?」
久「もしかして蒲原さん、あなたゆみの事……」
智美「……」キキィ!
久「きゃあ!?」
智美「ワハハ、何の話か私にはわからないなー……あっ、だけど一つ忠告はしておくぞー」
京太郎「は、はい?」
智美「――気持ちは、伝えられる時には伝えておけー」
和「えっ……」
智美「過ごした時間とかに胡座をかいてると、あっという間に取られちゃうからなー、ワハハ」
久「蒲原さん……」
智美「まっ、今回私が動いたのは焦れったいバカップルを見てられなくなったって事にしておいてくれー……よし、改めて出発だー!」ガタガタガタンッ!
久「きゃああああ!?」
和「ひゃう、あうっ!?」
京太郎「だあああああ!?」
智美「ワハハー!」
――竹井家……
美穂子「だ、大丈夫ですか久さん」
久「大丈夫大丈夫……ちょっと頭がクラクラして美穂子が3人に見えるだけだから……」
美穂子「大丈夫じゃないですよそれ!?」
久「あはは……ねぇ、美穂子」
美穂子「なんでしょう?」
久「私ね、あなたの事、えっと……その……」
美穂子「ふふふ、いいですよ。 深呼吸して、ゆっくり、落ち着いて言ってくれれば」
久「……ありがとう」
美穂子「いえ、そんな久さんが私は好きですから」ナデナデ
久「……私も、美穂子の事が好きよ」
美穂子「はい」
久「……ズルいわよ、そんな余裕そうな返事しちゃって」
美穂子「私の心臓、今すごくドキドキしてますよ?」
久「……わかってるわよ」
――後日・清澄高校麻雀部部室……
京太郎「はあ……」
優希「どうした京太郎?」
京太郎「いや、なんつうか俺って幸せなんだなって思ってさ」ナデナデ
優希「ひゃっ……そ、そんなの当たり前だじぇ! 私という彼女がいて幸せじゃないわけがない!」
京太郎「そうだな」
優希「だからそこで否定するな……えっ?」
京太郎「お前と一緒で幸せだぜ、俺」
優希「そ、そうか……///」
京太郎「おっと電話か……悪いな、ちょっと席外すわ」
優希「う、うん」
和「今日の須賀君、大胆ですね」
久「この前の件で彼なりに思うところがあったんでしょうね……」
和「ですね、私も頑張らないと……ところで部長」
久「何かしら?」
和「お泊まりどうでした?」
久「……和、好きな人と一緒のベッドで寝るってね、死んじゃいそうなのに心地いい不思議な気分になるわよ」
和「な、なるほど、興味深いです」
咲「こんにちはー」
和「咲さん、好きです!」
咲「い、いきなりなに!?」
まこ「もう勝手にやってんさい……」
カン!
京太郎「あっ、ハギヨシさん珍しいですね、どうしました? えっ、龍門渕さんがお見合い……?」
カン……?
終わりでー
加治木さんもやっぱり十代の女の子ですよねって話
相変わらず最後に深い意味はないです、はい
それでは
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