やよい「デスノート?」(163)
やよい「……って書いてあるけど、何なんだろう? この黒いノート」
やよい「あ、表紙の裏になんか書いてある」
やよい「……英語か……」
やよい「…………」
やよい「伊織ちゃんに聞いてみよう!」
やよい「……というわけで、何て書いてあるか教えて! 伊織ちゃん!」
伊織「それはいいけど……一体どこに落ちてたのよ、こんな変なノート」
やよい「事務所の前の道路だよ!」
伊織「ふぅん……まあいいわ。英語ならなんとなるでしょう。えーと何々……『The human whose name is written in this note shall die. 』」
やよい「どういう意味なの?」
伊織「『このノートに名前を書かれた人間は死ぬ』」
やよい「ヴぇえっ!?」
やよい「そ、そんな恐ろしいノートだったんですかー!?」
伊織「……どうせこんなの、そこらの子どものイタズラでしょ。……にしてはえらく凝ってるけど」
やよい「つ、続きの分も訳してください!」
伊織「えーっと……『書く人物の顔が頭に入っていないと効果はない。ゆえに同姓同名の人物に一遍に効果は得られない 』」
やよい「な、なんかそれっぽいですー!」
伊織「『名前の後に人間界単位で40秒以内に死因を書くと、その通りになる』」
やよい「人間界単位……?」
伊織「『死因を書かなければ全てが心臓麻痺となる』」
やよい「苦しそうです」
伊織「『死因を書くと更に6分40秒、詳しい死の状況を記載する時間が与えられる』」
やよい「時間設定がリアルですー」
伊織「……とまあ、そんなとこね。子ども…といっても、案外高校生とか大学生あたりのイタズラかもね」
やよい「うっうー……なんかイタズラにしても物騒だね……」
伊織「ま、確かに気味の良いもんじゃないわね。さ、こんなのとっとと捨てちゃいましょう。なんか呪われたりしても嫌だし」
やよい「ヴぇえ!? の、呪いは嫌ですー!」
伊織「あはは。冗談よ、冗談。ま、早いとこゴミ箱に……」
???「おいおい、折角拾ったのにそりゃないだろ」
やよい「……え?」
伊織「……ん?」
???「ん?」
やよい「―――――」
伊織「―――――」
???「ん? どうした? 呆けた顔して」
やよい「…………」
伊織「…………」
???「ああ、俺は死神のリューク。そのノートの落とし主だ」
やよい「……し……に……」
伊織「……が……み……?」
リューク「ああ」
やよい「…………」
伊織「…………」
リューク「?」
やよい・伊織「……きゃあああああああああああああああああ!!!!」
リューク「うおっ!?」
やよい「し、しにがあっ、し、し、しにが」
伊織「ああああばばっばあっば」
リューク「まあ落ち着けよ。別に俺はお前らを取って食おうってわけじゃないんだ」
やよい「……え?」
伊織「あっばばっばあばば」
リューク「俺はちょっとした暇つぶしに、デスノートを人間界に落としただけだ」
やよい「…………」
伊織「あっばんっばっばばばば」
リューク「デスノートを拾った人間がどういう行動を取るのか、興味があったからな」
やよい「…………」
伊織「あっばばっばっばばばば」
やよい「……伊織ちゃん。伊織ちゃん」
伊織「あばっばっばあ……え?」
やよい「なんか死神さんが来ちゃったけど、とりあえず、私達に命の危険は無さそうだよ」
伊織「……そ、そうなの?」
やよい「うん。単に興味本位でデスノートを人間界に落としただけなんだって」
伊織「……で、でもそんなの急に言われても信用できないわよ! だってこいつ本物の死神なんでしょ!?」
やよい「伊織ちゃん。本物の死神さんだからこそ、私達を殺そうと思えばいつでもそうできると思うよ。だからあえてそんな嘘をつく理由は無いんじゃないかなーって」
伊織「……え? あ、まあ……そうね」
リューク「……ククッ。お前、見た目とは違って結構適応力あるな」
やよい「えへへー。こう見えても私、六人兄弟の一番上ですから! 弟や妹達の為にも、いざというときに取り乱さないよう、いつも心掛けてるんですー!」
リューク「へぇ。そりゃ立派なことだな」
伊織(……なんかすごい普通に会話してる……)
伊織「ま、まあでもリューク? って言ったっけ。あんたの思惑は分かったけど、私ややよいがこのノートを使うことなんて絶対にないわよ」
リューク「ククッ。まあ最初はそう言う奴も多いけどな」
やよい「? ……ってことは、死神さんは前にもデスノートを人間界に落としたことがあるんですかー?」
リューク「ああ。前のノートの拾い主なんか面白かったぞ。自分を正義と信じて、犯罪者を片っ端から殺しまくってた」
伊織「犯罪者を? ……まあ、気持ちは分からなくもないけど……」
やよい「……でも、犯罪者を犯罪者として処罰できるのは、民主主義によって決められた法律を適用するからこそだよね、伊織ちゃん!」
伊織「!? え、そ……そうね、やよい」
やよい「その法の適用を無視して、その人個人の価値観だけで犯罪者裁きをするなんて……それは正義じゃなくて独善でしかないよね、伊織ちゃん!」
伊織「そ……そうね……やよいの言う通りだわ」
リューク「…………」
やよい「だから死神さん、私や伊織ちゃんがこのノートを使うことは絶対にないかなーって!」
リューク「ククッ。まあそう言うなよ。今はそう思ってても、二~三日経てば考えも変わるかもしれないぜ」
やよい「うっうー! そんなことは絶対にないです! ね、伊織ちゃん!」
伊織「そ、そうよ! どんな理由があれ、人殺しなんてするわけないじゃない!」
リューク「ククッ。まあいいさ。本当にお前らがこのノートを使わないと判断できるまで、俺はお前らを見守らせてもらうだけだ」
やよい「? どういうことですかー?」
リューク「デスノートの元の持ち主である死神は、それを最初に拾った人間についてないといけないんだ」
やよい「最初に……ってことは、私ですかー?」
リューク「ああ。そういうことになるな。このノートの所有者はお前だ。高槻やよい」
伊織「ちょ、ちょっとちょっと! これから先、あんたみたいなのが、四六時中やよいの傍にいるっていうの!?」
リューク「仕方ないだろ。そういう掟なんだから」
伊織「だ、ダメよそんなの! ダメに決まってるじゃない!」
リューク「そう言われてもな」
伊織「だ、大体、あんたみたいなのを連れて帰ったら、やよいの弟や妹達がショック死しちゃうじゃないの!」
やよい「! そ、それは困りますー!」
リューク「ああ、それは大丈夫。俺の姿はこのノートを触った人間にしか見えないから」
伊織「え? そうなの?」
リューク「ああ。その代わり、ノートの切れ端に触っただけでも俺の姿を認知できるようになるからな。ノートの保管にはくれぐれも注意した方がいいぞ」
やよい「分かりましたー! 大事にリュックサックの中にしまっときますー!」
リューク「…………」
伊織「……じゃあまあ、とりあえずこのノートはこれ以上他の人間には触れさせないようにして……」
やよい「後は、死神さんが私達に飽きて死神界に帰るのを待つ、っていう感じだね!」
伊織「そうね、それでいきましょう!」
リューク「ククッ。まあどうなるかな」
伊織「……それはそれとして……リューク」
リューク「? 何だ?」
伊織「……あんた、もしやよいに変な事したら……そのときは、迷わずデスノートにあんたの名前を書くからね」
やよい「伊織ちゃん……」
リューク「…………。(デスノートは死神には効かないけど……なんとなく面白そうだから黙っておこう)」
やよい「じゃあね伊織ちゃん、また明日!」
伊織「ええ、またね! そいつに変な事されそうになったら、すぐに電話するのよ!」
やよい「わかったー!」
リューク「…………」
やよい「じゃあ死神さん、おうちへ帰りましょー!」
リューク「お、おう」
やよい「…………」テクテク
リューク「…………」
やよい「…………」テクテク
リューク「……なあ」
やよい「はい?」
リューク「お前は、俺の事が怖くないのか?」
やよい「うーん、そりゃ怖くないってことないですけど……」
リューク「……けど?」
やよい「でも、別に私達を積極的にどうこうする気はないみたいだから、あんまり気にしても仕方ないかなーって!」
リューク「……そ、そうか」
やよい「そんなことより、私は今日の夕ご飯の支度の事で頭がいっぱいなんです! 弟達もお腹空かせてるだろうから、早く帰って作ってあげないと!」
リューク「…………。(そんなことって)」
やよい「そういえば、死神さんは好きな食べ物ってあるんですかー?」
リューク「俺? リンゴ」
やよい「…………」
リューク「?」
やよい「もやしで!」
リューク「!?」
やよい「ね?」
リューク「お、おう」
やよい「うっうー! じゃあ今日はもやしパーティーです!」
リューク「…………。(何で聞いたんだ)」
~高槻家~
やよい「それじゃあ手を合わせて……頂きます!」
弟妹達「頂きます!」
やよい「……ぱくっ……おーいしー!」
長介「うおおおっ! もやしたまんねぇ!」
かすみ「はぐっ……もぐっ……」
浩太郎「もやしサイコー!」
浩司「むしゃむしゃ」
やよい「ふふっ……まだまだたーくさんあるから、皆、どんどん食べてね! お父さんとお母さんの分は、ちゃんと分けてあるから!」
弟妹達「はーい!!」
リューク「…………。(なんか居づらい)」
リューク(つかマジでもやしばっか食ってるな……ん?)
やよい「…………」チラッチラッ
リューク(何だ? もやしを皿の縁の方に少しだけ載せて……)
やよい「…………」チラッチラッ
リューク(……ああ、食えってことね)
やよい「…………」ジー
リューク「……分かったよ。じゃあ貰うぞ」
やよい「…………!」パァアアア
リューク「弟達にばれないように……よっと」ヒョイパクッ
やよい「…………」ジー
リューク「もぐもぐ……まあ、いいんじゃね?」
やよい「…………!」パァアアア
リューク「…………。(まあ本当はリンゴの方がいいけど……てか何やってんだろう、俺)」
~翌日・765プロ事務所~
伊織(やよいったら、大丈夫だったのかしら……)
伊織(昨日は不安で不安で、ついメールを30往復くらいやりとりしてしまったけど……)
伊織(まあ今朝のメールでも元気そうだったし、大丈夫だとは思うけど……)
ガチャ
やよい「おはようございまーす!」
伊織「! やよい!」
リューク「おっす」
伊織「…………」
リューク「……いや、そんな親の仇を見るような目で見られても」
伊織「やよい、大丈夫だったの? こいつに変な事されたりしてないわよね?」
やよい「うん、大丈夫だよ伊織ちゃん! 心配してくれてありがとう!」
伊織「そう? それならいいんだけど……」
リューク「お前、俺の事何だと思ってるんだ」
伊織「死神でしょ? いつ何をしでかすか分かったもんじゃないじゃないの」
リューク「まあそう言われると辛いけど」
やよい「大丈夫だよ伊織ちゃん! 死神さん、昨日は私の作ったもやし炒めも食べてくれたもん!」
伊織「! あんた……まさかやよいを脅したりしてないでしょうね……?」
リューク「何で脅してまでもやし食わなきゃいけないんだ」
伊織「まあ、それならいいけど……」
ガチャ
貴音「おはようございます」
やよい「あ、おはようございます! 貴音さん!」
伊織「おはよう、貴音」
リューク「…………」
伊織(……っと、こいつの姿は私とやよいにしか見えてないのよね……。なんとか、自然に振る舞わないと)
貴音「…………」
伊織「? どうかしたの? 貴音」
貴音「はて……何か、面妖な気配を感じるのですが……」
伊織・やよい「!?」
リューク「ウホッ!?」
貴音「……なんて、気のせいですね。ちょっと疲れているのかもしれません」
やよい「そ、そうですよー! 貴音さん、最近忙しいですから!」
伊織「た、たまにはゆっくり休んだ方がいいんじゃない?」
貴音「……お気遣いありがとうございます。ただあいにく、そういうわけにもいきませんので……おっと、もう仕事の準備をしなければ。それではまた後ほど」
やよい「あ、はい、頑張ってください!」
伊織「無理しちゃダメよー!」
やよい「…………」
伊織「…………」
リューク「…………」
やよい「……びっくりしました」
伊織「……流石貴音、侮れないわね……」
リューク「今のは俺も焦ったぞ」
~同日夜・事務所からの帰路~
伊織「ふぅ……。なんとか誰にもばれずに一日乗り切ったわね」
やよい「お疲れ様、伊織ちゃん!」
リューク「ククッ。お前ら意外と演技力あるんだな」
伊織「ふんっ、トーゼンよっ。こちとら、テレビドラマで主役張ったことだってあるんだから!」
やよい「あー、あのドラマ、すっごく面白かったですー! さっすが伊織ちゃんかなーって!」
伊織「そ、そう? えへへ……ありがとね、やよい……」
リューク「……まあ俺としては、もうちょっとボロを出してくれた方が面白かったんだが」
伊織「何? それじゃああんたは、自分の存在を他の皆に知られてもいいっていうの?」
リューク「別に所有者以外に認知されたらいけないっていう掟は無いからな。現に、所有者じゃないお前に認知されてるわけだし」
伊織「まあそれもそうか。でもどうせ同じことよ。あんたやデスノートの事がばれたとしても、うちの事務所に、デスノートを使おうなんて馬鹿な考えを持つやつは一人もいないから!」
やよい「そうですよー! だから結局、死神さんの期待には応えられないかなーって!」
リューク「……ククッ。まあまだ一日だ。もう少し様子を見させてもらうぜ」
伊織「……とか言って、あんた結局、やよいの傍にいたいだけなんじゃないでしょうね? ……いくらやよいが可愛いからって、それだけは絶対に許さないわよ」
リューク「……それだけは絶対に無いから安心しろ」
~一週間後・765プロ事務所~
やよい「おはようございまーす!」
P「ああ、おはよう。やよい」
小鳥「おはよう、やよいちゃん。今日は一番乗りね」
やよい「あれ? 伊織ちゃんはまだ来てないんですか?」
P「ん? そういえばまだだな。最近はずっと早く来ていたけど」
やよい「…………?」
リューク「お前が無事かどうかを確認するために、必ず朝一番に来る、って息巻いてたのにな。寝坊でもしたのか」
やよい(寝坊……? 伊織ちゃんに限ってそんなこと……)
リューク「まあお前がノートを拾ってからもう一週間経つし、流石に俺の事も信用するようになってきたのかもな」
やよい(……………)
リューク「……って、人間に信用される死神もどうなんだと思うけど……」
やよい(……………)
リューク「……やよい?」
やよい「え? あ、はい!」
P「え?」
小鳥「な、何? やよいちゃん」
やよい「え、あっ……な、なんでもないです」
リューク「ククッ。どうしたんだやよい。お前らしくもない」
やよい「…………」
リューク「さてはお前、伊織がまだ来てなくて動揺してるのか」
やよい「…………」
リューク「……心配なら、メールでもしたらいいんじゃないか?」
やよい「! (メール……)」
やよい「…………」ポパピプペ
リューク(……てか何普通にアドバイスしてるんだ、俺)
やよい「…………。(送信)」ピッ
リューク「…………」
やよい「…………」
リューク「…………」
やよい「…………」
~三十分経過~
やよい「…………。(返信が無い……。)」
リューク「…………」
P「……ん。臨時ニュース……?」
小鳥「! 立て籠もり事件……?」
やよい「!」
P「しかもここの近くじゃないか……物騒ですね」
小鳥「そうですねぇ……。しかも若い女性を人質に……って」
やよい「……伊織ちゃん……」
P「え?」
小鳥「や、やよいちゃん。滅多な事……」
やよい「……メールしたけど、返信が来ないんです……」
P「……!」
小鳥「……え、いや……まさか……」
リューク「…………」
P「そ、そんなわけないだろう……ほら、今電話するから……」ピポパ
小鳥「…………」
やよい「…………」
P「……出ない。じゃ、じゃあ家の方に……」ピポパ
小鳥「…………」
やよい「…………」
P「……あ、もしもし。水瀬さんのお宅ですか? 私765プロの……え? 今取り込み中……? いや、取り込み中って何g」
小鳥「…………」
やよい「…………」
P「……一方的に切られた」
小鳥「……わ、私、社長に連絡を……」
P「ま、待ってください。まだそうと決まったわけじゃない……というか、そうじゃない可能性の方が高いでしょう、常識的に考えて」
小鳥「で、でも、伊織ちゃんが遅刻してるだけならまだしも、おうちの方までそんな状態ってことは……」
P「いや、でも……」
やよい「…………」
小鳥「! ちょっと!」
P「え?」
小鳥「今、テレビの画面が中継の映像に切り替わったんですけど……あれ、犯人が立て籠もってるビル……ですよね」
P「……じゃ、じゃあ、あの窓際に立ってるのが、犯人……?」
小鳥「結構顔はっきり映ってますね……」
やよい「…………」
P「! 犯人が、誰か引き寄せてきた!」
小鳥「じゃああれが、人質、の……!?」
やよい「…………!」
P「……あれ、は……」
小鳥「……伊織……ちゃん……?」
やよい「―――――」
P「……そんな……」
小鳥「え、で、でも待って? 伊織ちゃんって確か……自宅からうちの事務所まで、車で送迎してもらってるはずでしょ? だから、えっと……そんなわけ……」
P「……確かに、それはそうなんですが……」
小鳥「え?」
P「正確には……自宅から、事務所から少し離れたところまで……です」
小鳥「えっ……」
P「……伊織自身、気恥ずかしさのようなものがあったのか……事務所の真正面に車をつけるのはやめてもらっている、と……言ってました」
小鳥「……じゃあ……」
P「……車を降りてから、うちの事務所に着くまでの僅かな時間……そこを、狙われたとしたら……」
小鳥「……そん、な……」
やよい「…………」
小鳥「え、えっと、じゃあしゃ、社長に……」
やよい「―――――」 ダッ
P「!? やよい!?」
小鳥「やよいちゃん!?」
バタンッ
やよい「…………」
リューク「……わざわざ事務所の外に出たってことは、俺に話があるんだな」
やよい「…………」
リューク「……まあ、なんとなく察しはつくけど……」
やよい「……死神さん」
リューク「……何だ?」
やよい「……デスノートって、元々死神さんの持ち物なんですよね」
リューク「ああ」
やよい「ってことは、死神さんがあのノートに人間の名前を書くんですよね」
リューク「そうだ」
やよい「……でも、人間をデスノートで殺すには、その人間の顔と名前が頭に入っている必要がある……」
リューク「そうだ」
やよい「……顔は見れば済むけど、名前なんて、分からない場合の方が多いんじゃないですか?」
リューク「…………」
やよい「それでもデスノートで殺すためには、対象者の名前が分かってないといけない……だとしたら」
リューク「…………」
やよい「本人に聞いたりしなくても、その人の名前を知る術があるんじゃないですか?」
リューク「…………」
リューク「……ククッ」
やよい「…………」
リューク「最初に会った時から思っていたが……お前は、いざというときにこそ頭が回るタイプなんだな」
やよい「…………」
リューク「……お前の言う通りだ。本人に聞いたりしなくても、殺したい人間の名前を知る術はある」
やよい「!」
リューク「ただし、その能力を得るためには代償を支払ってもらう必要がある」
やよい「代償……」
リューク「そう。俺と契約して『死神の目』を手に入れれば、顔を見ただけでその人間の名前を知ることができるようになる。だが……」
やよい「…………」
リューク「……その代わりに、残りの寿命の半分を頂くことになる。それが代償だ」
やよい「……残りの寿命の、半分……」
リューク「…………」
やよい「……それだけ、ですか」
リューク「え?」
やよい「『死神の目』の代償は、それだけですか」
リューク「……ああ。それだけだ」
やよい「分かりました。じゃあ契約します」
リューク「! おいいいのか、そんな簡単に決めて」
やよい「いいに決まってます」
リューク「…………」
やよい「……だって……このまま何もしなかったら、伊織ちゃんが殺されちゃうかもしれないんです」
リューク「…………」
やよい「もしそうなったら、たとえ私が、この先何十年生きられたって……そんな人生、何の意味も無いんです」
リューク「…………」
やよい「今伊織ちゃんが助かるなら、私の残りの寿命なんて、いくらでもあげます。人殺しだって、します」
リューク「…………」
やよい「伊織ちゃんのいない私の人生なんて、何の意味も無いんです」
リューク「…………」
やよい「だから私は……契約します」
リューク「…………」
リューク「……お前、犯人がいるビル、どこか分かるか」
やよい「え? あ、はい……ここからすぐのビルでしたけど……」
リューク「じゃあ、今からそこに行け」
やよい「え?」
リューク「言っただろ。俺はノートの所有者についてないといけないって。だからお前が行かないと俺も行けない」
やよい「いや……え? え?」
リューク「いいから早くしろよ。伊織を助けたいんだろ?」
やよい「は……はい」
リューク「じゃあ俺の言うとおりにしろ」
やよい「は、はい!」ダッ
やよい「……でも、なんで……?」ダダダダ
リューク「…………」
~十分後~
やよい「……はぁ……はぁ……こ、ここ、です……」
リューク「おお、警察やら野次馬やらが沢山集まってるな」
やよい「……で、契約は……」
リューク「その前にお前のデスノートを貸せ」
やよい「? は、はい……」
リューク「よし、ちゃんとリュックサックに入れてたな」
やよい「あの、一体……」
リューク「まあ見てろ」ビリッ
やよい「? (ノートを破って……?)」
リューク「ま、これくらいの距離なら離れても大丈夫だろ」バサッ
やよい「!? 羽根が……?」
リューク「いいからお前はそこにいろ」
やよい「…………」
リューク「……何やってんだ、俺」バッサバッサ
~ビルの窓近く~
リューク「……お、いたいた。あいつが犯人だな」バッサバッサ
リューク「よし、じゃあ壁を抜けてっと……」スルッ
リューク「あ、伊織」
伊織「!? リュ……」
リューク「シーッ」
伊織「…………!」パクパク
犯人「あ? 何だ?」クルッ
リューク「…………」
伊織「…………!」
犯人「何だよ。何もねぇじゃねぇか」クルッ
伊織「…………(ほっ)」
犯人「くそっ……でもこっからどうすりゃいいんだ……? もし身代金が手に入ったとしても、この状況じゃ……」
犯人「やっぱもっと人目の無いとこで攫うべきだったか……? でもチャンスとしてはあのタイミングしか……」
リューク「ほっ」ポイッ
カサッ
犯人「!? おいお前、今オレに何かぶつけ―――……」クルッ
リューク「よう」
犯人「」
伊織「?」
犯人「あ、あ……うわああああああああああああ! な、なんっ……なんっ……!?」
リューク「クックックッ……」
犯人「あ、あがっ、あばばばっ……」
リューク「俺は……こいつに憑いている死神」
犯人「あば、ばっ……ばばっ……」
リューク「もしお前が、こいつに危害を加えようというなら……」
犯人「あ、あえ、あ、あ……」
リューク「お前を……殺す」
犯人「あ、あばっ……あっ……ばっ……」ガクッ
リューク「あっ」
伊織「……?」
~ビル前~
やよい「……伊織ちゃん……」
警官「! おいあれ! 誰か出てきたぞ!」
やよい「!」
伊織「! やよい……!」
リューク「おっす」
やよい「! 伊織ちゃん! 死神さん!」
伊織「! やよい!」ダッ
やよい「伊織ちゃん!」ダッ
伊織「やよいーっ!!」
やよい「伊織ちゃーん!!」
伊織「うう……やよい……やよい……」
やよい「伊織ちゃん……よかった……よかった……」
~765プロ事務所~
リポーター『今、人質と思しき女性が、単身でビルから姿を現しました!』
リポーター『そしてこれは……御友人、でしょうか? その場にいた、一人の方と抱き合っています!』
P「え? あ、あれ……やよい!?」
小鳥「そ、そうですよ! やよいちゃんですよ!」
P「な、なんでやよいが……いつの間に?」
小鳥「な、なんでか分かりませんけど……でも、伊織ちゃんが無事でよかった……よかったです!」
P「そ……そうですね! 何か全く分からないけど……よかった!」
~ビル前~
伊織「うぅっ……やよいぃ……」
やよい「うぇえ……伊織ちゃあん……」
リューク「…………」
リューク(……やよいには、説明を省いたが……)
リューク(『死神の目』で人間の顔を見たときに知ることができるのは、その人間の名前だけじゃない)
リューク(その人間の『寿命』も見ることができる)
リューク(そして、俺が見ていた伊織の『寿命』は『今日』じゃなかった)
リューク(つまり俺が何もしなくても、伊織が『今日』死ぬことはなかった)
リューク(まあ、人間界にデスノートがあることで、ある人間の人生が変わり、デスノートに書かれなくとも本来の寿命より前に死んでしまうことはあるらしいが……)
リューク(まあそれでも、『今日』伊織が死ぬ可能性は限りなく低かっただろう)
リューク(だからまあ、放っておいてもよかったんだが……)
伊織「私……もし、やよいが犯人をデスノートで殺したりしたら、どうしようって思って……」
やよい「伊織ちゃん……」
伊織「たとえどんな理由であれ、やよいに人殺しなんて……」
やよい「でも伊織ちゃん……私は、伊織ちゃんの為なら……使うよ、デスノートだって」
伊織「! やよい……」
やよい「だって……生きていてほしいもん! 伊織ちゃんに!」
伊織「やよい……ありがとう……」
リューク(……だがあのまま俺が動かなかったら、やよいに目の契約をさせていただろう)
リューク(…………)
リューク(他人の為に平気で寿命を差し出す覚悟のできる人間が)
リューク(いつか自分自身の為に、同じように寿命を差し出す日が来るのかどうか……)
リューク(…………)
リューク(ククッ……もう少し見守る必要があるな)
やよい「でもありがとうございました! 死神さん!」
リューク「ん?」
やよい「まさか死神さんが伊織ちゃんを助けてくれるなんて、思ってなかったですから!」
リューク「……いや、俺は別に助けたわけじゃ……」
やよい「ほら! 伊織ちゃんも!」
伊織「……わ、わかってるわよ、やよい」
リューク「…………」
伊織「……ま、まあ、その……た、助けてくれて……あ、ありがとう……」
リューク「…………」
伊織「な、何よそのアホみたいな顔は!」
リューク「い、いや、別に……(アホって)」
やよい「あはは、伊織ちゃんってば顔真っ赤になってますー!」
伊織「や、やよい!」
伊織「……で、結局、あんたはこれからどうするつもりなワケ?」
リューク「俺? もう少しこのままやよいにつかせてもらうつもりだけど」
伊織「……やっぱりそうなるのね」
リューク「今日とか普通にデスノート使いそうだったからな」
やよい「でも、結局死神さんが止めてくれました!」
リューク「……それは、まあ……」
伊織「……あんた、私達にノートを使わせたいの? それとも使わせたくないの? 一体どっちなのよ」
リューク「……さあ?」
伊織「さあ? って、あんた……」
やよい「まあまあ伊織ちゃん、今日は死神さんのおかげで助かったんですから!」
伊織「ま、まあ……やよいがそう言うなら、それでいいけど……」
リューク「……………」
リューク(……ま、俺としては別にどっちでもいいんだがな。お前らがノートを使おうが、使うまいが)
リューク(……面白ければ、それで)
リューク「……ククッ」
了
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