灼「鷺森レーンの戦い」(171)

阿知賀女子学院

廊下

穏乃「はぁ~・・・」

玄「あれ?穏乃ちゃん?」

穏乃「え?あ、玄さん・・」

玄「ため息ついてたけど・・何か嫌な事でもあったの?」

穏乃「ううん、そういう訳じゃないです。ただ・・・」

玄「?」

穏乃「灼さんの照れた顔をもっと見たいなぁ、って思いまして」アハハ

玄「・・・廊下で遠くを見つめてため息つきながらそんな事考えてたの?」

穏乃「はい。もう灼め息ですね・・・」

玄「・・・・・」

穏乃「・・・・うん」

玄「・・・・灼ちゃんの照れた顔・・・かぁ」

穏乃「はい。メチャクチャ可愛いじゃないですか・・・」

玄「・・・灼ちゃんが照れた時あったっけ?」

穏乃「ありましたよ!灼さんが初めて部室に来てくれた日!」

玄「?・・・ああ・・確か打ってる途中で赤土さんが入ってきて・・」

穏乃「そうです!その時の照れた表情がもう可愛いのなんの・・・思い出すだけで・・・はぁあぁあ・・・」ポワー

玄「・・・・そうなんだ」

穏乃「という訳で、今日は部活もないし、早速ボウリング場に行ってきまーす!」ピュー!

玄「あ、いってらっしゃい」

穏乃「はーい!!」ズダダダダ!

玄「・・・・・」

玄(私はどうしようかな・・・?特に用事もないし、部室をお掃除しようかな?)スタスタ

麻雀部部室

玄「・・・・」ガチャ

?「♪ふんふふーん」

玄「?」

憧「♪ふふーんふーん」

玄(憧ちゃん来てたんだ・・・床に座り込んで何してるんだろう?)

憧「♪しずの陰毛でバーコード~」ササッ

玄「・・・・」

憧「よし、キレイに出来た。読み込んでみよう!なんて出るのかな~♪ピッ!」

憧「なになに?『ワタシ ハ アコ ノ コト ヲ アイシテマス アコ ハ ドウナノ』」

憧「ええ!?しずったら、愛してますなんて・・・」カアァ...

憧「あたしの気持ちは決まってるよ・・・じゃあ・・あたしのバーコードを読み込むね。ピッ」

憧「『アタシ ハ シズダケ ヲ アイシテル セイコウイ シマショウ』・・・・想いは一緒」フフッ

玄「・・・・」

憧「記念に、しずとあたしのでミサンガ作ろう!相性いいし、よく絡むと思うけ・・・誰っ!?」バッ!

玄「あ・・」

憧「なんだ玄か・・・ビックリさせないでよ」ホッ

玄「ゴメンね」

憧「あ・・・・慌てて振り向いたからバーコードが歪んじゃった。直さないと」

玄「私も手伝うよ」ササッ

憧「いいって。好きな人以外の陰毛に触るの微妙でしょ?あたしがやるから・・・ん?」クンクン

玄「?」

憧「・・・玄からしずの匂いがする・・・・しかも、廊下で遠くを見つめながらため息ついてるしずの匂いだ。廊下で会ったの?」

玄「うん、さっきちょっとだけお話したよ」

憧「ふーん・・・・」クンクン

玄「・・・・」

憧「なんか・・・嫌な予感の匂い・・・どんな話をしたの?」

玄「・・・灼ちゃんの照れた顔が可愛いって話」

憧「!?」クンクンクンクン!!

玄「・・・・」

憧「ほんとだ・・・しかも、しずから話を持ちかけた匂いがするなんて・・・バカな・・・」ワナワナ

玄「・・・・」

憧「あたしが・・・・冷えた部室で震えながら陰毛を並べていたってのに・・・そんな事が・・・」ウォウ..

玄「・・・憧ちゃん・・・」

憧「・・・・玄!」

玄「は、はい!」ビク

憧「今のあたしはどんな匂いを感じてると思う!?」

玄「え、えっと・・・穏乃ちゃんが灼ちゃんのお家に行った匂い・・?」

憧「そう!だからあたしらも行くよ!」

玄「え?」

憧「しずは灼さんの照れた顔が見たいんでしょ?なら、灼さんに変な顔をさせればしずはがっかりする!」

憧「例えば・・・おでこに乗せたお菓子を顔の筋肉だけで食べようとしてる顔にでもなってもらえば、しずはあたしになびくはず!」

玄「そうかなぁ・・」

憧「そうなの!ほら早く!置いてくよ!」ダダダダッ!

玄「わ、待って」タタタタ..

鷺森レーン

憧「っ!」パリーン!!!

玄「わああ!自動ドアが!!少し待てば開くのに!!」

憧「まどろっこしいのよ」フン

玄「あわわわ・・・怒られちゃうよ」

憧「大丈夫だって。心配性なんだから」スタスタ

玄「心配性とかいう問題じゃないよぉ・・・二枚とも割るなんて・・・せめて片方だけにしておけば・・・」

憧「・・・・?カウンターに誰もいないし、静かすぎる・・・」ピタッ

玄「お休み・・じゃないよね?」

憧「・・・・ちょっと様子が変だ。気を付けて進もう」

玄「う、うん」

憧・玄「・・・・」スタスタ

?「何を言うてるんですか!」

憧・玄「!?」

玄(争ってる声・・・?)ソローリ

女性A「借りたものは返すのが常識でしょう!?」

灼「・・・・・」

灼祖母「・・・・」

憧(灼さんたちが大勢の人に囲まれて・・・・・・あ!)

穏乃「・・・・」

憧(しずも一緒だ・・・これは一体・・・)

?「そない声を荒げたらあかん。まずは話し合いをしようや」ザッ

灼「・・・あなたは?」

?「愛宕 雅枝っちゅうもんや。なぁ、嬢ちゃん。うちらは筋を通したいだけやねん」

灼「・・・・」

雅枝「あんたのおばあちゃんがな、金借りたまま返さんから取り立てに来たんや。金さえ返してもうたらすぐ引き上げるさかい、頼むわ。払てくれるか?」

灼「おばあちゃん・・・?」

灼祖母「・・・・」

灼「どうしてお金を?」

灼祖母「・・・・セクシーキャバクラにハマっちまってね・・・ついつい遊びすぎたんだ」

灼「・・・・」

灼祖母「そんな顔しないでおくれ。お店の決まりを破ったりはしてないよ」

雅枝「そんなんはええわ。ほら、金返しぃや」

灼祖母「・・・嫌です」

雅枝「は?」

灼祖母「あなたに借りたわけではありません」

雅枝「・・・・代理やからって舐めた口聞いたらあかんでぇ?おぅ?」

灼祖母「・・・・」

雅枝「別に怖がらせよう思てる訳やないねん。金返してもうたらすぐ帰るわ。な、頼むから払てくれへん?」

灼祖母「・・・ではあなたが触らせてくれますか?」

雅枝「んぁ?」

灼祖母「私は・・・セクシーキャバクラに行ってビックリしました。最近のキャバ嬢のレベルの高さをね」

憧(そうなんだ・・・いや、あたしはしず一筋・・・)ブンブン!

灼祖母「だから・・・今度行く時の為に、お金を貯めておきたい」

雅枝「いやいやいや・・・まずは払てから・・・」

灼祖母「それがダメならあんたが触らせてよ。あんたなら大歓迎」

女性B「何言ってんですかあなた」ツカツカ..

穏乃「!・・おばあさん、危ないっ!」ダッ

女性B「ん?」

穏乃「人中!!」ズムン!

女性B「んごぁお!」バターン!

雅枝「!!」

女性C「Bちゃん!・・・ちょっとあなた。この子は何もしてな・・」

穏乃「水月!!」ドズッ!

女性C「がほぉ!」バターンム!

雅枝「人体の急所をあんな正確に打ち抜くとは・・・」

穏乃「ほぉぉおあぁ~~~・・・」クイッ..

灼「穏乃・・・・」

穏乃「灼さんたちには指一本触れさせません!」ニコッ

雅枝「・・おい。この子を」

女性D・E・F「はい!」ザザッ!

穏乃「んっ!?な、三人がかりで!?」

女性D「捕まえた!」

穏乃「ううぅ~!!」ジタバタ

雅枝「ふぅ・・・」

女性E「この子はどうします?」

雅枝「どこかの部屋に入れて勉強でもさせておけ」

女性F「はい」

穏乃「へへん!教科書なんて持ってきてないし、勉強なんて出来ないよーだ!」ベー

灼「あ、去年の教科書なら私持ってる・・・」

穏乃「灼さん!?」

雅枝「そうか?なら悪いけど貸したって」

灼「はい。私の部屋にあります。場所はここから・・・―――」

雅枝「・・・うむ。その部屋に連れていけ」

女性D・E・F「はっ!」グイグイ

穏乃「あ、灼さぁ~ん!!」ジタバタ

憧(ああ・・・しずが連れていかれた・・・部屋で一体どんな事されちゃうんだろう・・・?あぁあ・・・)ゾクゾク

灼「くっ・・・・穏乃をよくも!」

雅枝「お前協力的やったやんけ!・・・ってそれはええ、本題に戻るで。金を返してもらう」

灼祖母「・・何度言っても分からないなら・・・」ウデマクリ

雅枝「・・・・」クイッ

女性G「・・・」ダッ!

灼祖母「っ!?灼狙いか!?」

灼「!?」ビクン!

?「そこまでだ外道ども!!」ザッ!

雅枝「!?な、なんだお前らは!?」

ゆみ「力なき者を痛めつけようとするその腐った性根・・・」ザッ

灼「あうぅうう」

女性G「それそれ」ホッペ ムニムニ

智美「ワハハと笑って見過ごせはしない」ザッ

灼「うわあぁぁ」

女性G「えいえい」カミノケ ワシャワシャ

華菜「必ずや成敗し!てくれるし!」ザザーンダシ!

灼「あははっ・・ひぃ・・ひぃ~」ゴロゴロ..

女性G「ふふふ」ワキバラ コチョコチョ

雅枝「くっ・・・好き放題言いよって・・名を名乗れ!!」

ゆみ・智美・華菜「ふふふ・・・」

ゆみ「悪党に名乗る名などない!!」
智美「ワハハ!!」
華菜「華菜ちゃんだし!!」

雅枝「誰が何言うてるか全然分かれへん」

ゆみ「鷺森さん!今助け・・・・はっ!」

灼「はぁ・・・はぁ・・・お腹痛い・・・」ヒィヒィ

ゆみ「名乗っている間に満身創痍に・・・・おのれ卑怯だぞ!!」

雅枝「アホらし・・・・おい、やってまえ」

絹恵「・・・・せっかくの休日になんでこんな事せなあかんのか、甚だ疑問やけど・・・」ザッ

ゆみ「む」

誠子「一度引き受けたからには仕方ない」ザッ

智美「ワハハ・・・なかなか手強そうだぞー」

華菜「でも・・・やるし!かないし!」

ゆみ「よし、蒲原はメガネの子とやってくれ」

智美「ワハハ。了解」

絹恵「・・・・」

ゆみ「池田さんは短髪の子を頼む」

華菜「分かったし!」

誠子「・・・・」

ゆみ「私はそこらで見ている。頼んだぞ」

智美・華菜「おう!」ダッ!

灼「はぁはぁ・・・頑張って」

灼祖母「頑張れー」

<智美>

「・・・・あんたが相手か」

絹恵は智美へと視線を向け、闘志を表に出す。

「そうだぞー」

それを受けた智美は笑顔のまま。絹恵が一歩前に踏み出せば蹴りが届く距離に入っていてもなお、それは変わらない。

舐められているのだろうか、と絹恵は一瞬眉をひそめるが、すぐにそれは違うと思い当たる。

何故なら・・・

「っ!」

先ほどまでとなんら変わらぬ笑顔のまま、闘志や殺気すらも纏わずに、絹恵の腰を目がけて鋭い回し蹴りを披露したからだ。

完全に虚を突かれた形だったはずだが、絹恵はバックステップで躱す。

相手の様子を窺う『見』の状態であったことが幸いした。もしも自分から仕掛けようとしていたら間違いなく手痛いダメージを負っただろう。

攻撃のタイミングが読めない油断のならない相手。絹恵は智美をそう認識し、戦闘態勢に入る。

「ワハハ」

対して智美は、相変わらずの笑顔。しかし内面では複雑な感情と思考を巡らせていた。

(まさかあの一撃を避けられるとはなぁ。油断してたから絶対当たると思ったのに。参ったぞー)

表情には出さないが、彼女はとても悔しがっていた。どうしても最初の一撃で決めたかったから。

彼女の武器は、闘志すら感じさせないほどのポーカーフェイスともう一つ。ジョギングで鍛えた脚力を活かした蹴り。

その威力は、木製バットを折るくらいではないかと言う者がいるとかいないとか、噂になっているらしいという噂である。

では何故、最初の一撃にこだわるのだろうか。攻撃が読まれないならば、相手のリズムを狂わせることも可能であり、

上手く立ち回れば戦局を有利に運べるというのに。

・・・その答えは簡単だ。智美は無類のジョギング好きであるということ。

そして智美が奈良にいるのは、仲間たちと松実館へ泊まりに来たからであり、戦闘が目的ではない。

ならば、風呂前に一汗かこうとするのはなんら不思議ではなく―――

「ワハハ・・・ハァ・・・」

唯一の誤算は、旅行のテンションに身を任せすぎた為、嘔吐するまで走り続けてしまったこと。

長野から運転してきた疲れも残っており、智美に残された体力は決して多くない。

吐き気こそ治まったが、完調には程遠い。本来ならゆっくり休むべきなのだ。旅行なんだし。

「・・・・」

絹恵は、そんな状況だとは露知らず、慎重にすり足で少しずつ間合いを詰める。

体力、気合は十分。しかし、智美と同じく一撃で決めようと意気込む。

何故一撃にこだわるのだろうか。サッカー部で鍛えた脚力は、十分すぎるスピードを備えており、

上手く立ち回り連続で蹴りを繰り出せば、相手の反撃すら封じ込むことが出来るというのに。

・・・その答えは簡単だ。絹恵は尿意を我慢していた。

そして、トイレに行くには智美の脇を通らなければならない。

行く途中であの強烈な蹴りを受けてしまったら漏らさずにいられるだろうか。おそらく無理だ。

ならば、智美の足へローキックを叩き込み、出足を鈍らせる。

その隙にトイレへと駆け込み用を足す、これしかない。

「はぁ・・・はぁ・・」

智美の体調を考えると、どう戦おうとも絹恵に負けはないはずだった。

いや、漏らしても構わないという気概があれば、今すぐにでも勝利は確定する。

しかし絹恵の中にそのような思考は存在しない。今、思考を支配しているのは、勝敗うんぬんではなく後悔。

地元で見かけないジュースだからといって、がぶ飲みさえしなければ―――

「・・・・・・」

二人の動きが止まった。腹を決めたのだ。

智美は、次でおそらく最後になるであろう一撃を、絹恵はトイレに行く時間を稼ぐための一撃を確実に当てる為に機を狙う。

「・・・・・・」

両者ピクリとも動かない。お互いが相手の出方を窺う。

次第に呼吸も重なり、同じリズムを刻み出し、

「っ!」

床を蹴る音が鳴った。音は一つ、動く影は二つ。全く同時。

智美は腰を狙ったミドルキック。絹恵は左足を狙ったローキック。

ならばスピードで勝る絹恵を止める方法はない。一撃でダウンを取れるほどではないにしろ、足止めには十分すぎる威力を備えている。

智美も蹴りでくるのならなおさらだ。軸足を払い、トイレへ直行すればいい。

(私の方が速い!)

絹恵が勝利を確信した次の瞬間―――

「!?」

目の前が真っ暗になった。

渾身のローキックは空を切り、勢い余って体が流れる。

何が起こったのか理解できず、絹恵は呆然と立ちすくむ。

いきなり視界が奪われた。一体どうして、と疑問を浮かべる。

「ワハハ。上手くいったぞ」

左手を腰に当て、胸を張って笑う智美の右手には、絹恵のメガネが握られていた。

自分の蹴りが間に合わないと感じた智美は、思いきって絹恵の懐に飛び込み、メガネを奪ったのだ。

最初から狙ったわけではなく、とっさの判断だ。成功したのは、運と火事場の馬鹿力以外の何物でもないだろう。

その証拠に、勝ち誇るような態度をとりつつも、智美の心臓は激しく脈打っている。

相手の視界を奪えたのは大きいが、体力は限界に近く、絹恵が予備のメガネを持っていればアドバンテージは消えてなくなる。

もう一度同じことができるとも思えない。

(さて、どうするか)

勝利への道筋を思案しようとすると、

「あっ・・あかん」

絹恵のか細い声が響いた。

「?」

智美は思考を止める。

「ああああのっ!私の負けでいいですから・・お願いです。メガネを返してください。どうか・・・どうか・・・」

頭をペコペコと繰り返し下げ、脅えと不安を内包した弱々しい声での敗北宣言。

これが油断させておいて反撃に出る、といった作戦の可能性はゼロではないが、もはや絹恵からは戦意がまったく感じられない。

智美は自分の感覚を信じ、メガネを返してやる。

「ああ・・ありがとうございます」

安堵の表情を浮かべ、お礼を言う絹恵。

「約束は守れよー?」

一応念を押すのは、慎重派であるゆみの影響だろうか。

「もちろんです」

絹恵はそう言い、メガネをかけてホッと一息ついたのもつかの間、トイレ目指して一目散に駆けて行った。

(そういうことか)

ワハハと笑い、智美は納得する。急すぎるほどの戦意喪失は、視界悪化以上に尿意が原因だったのかと。

結果を見れば、運が多分に含まれた上での勝利だが、それでも勝ちは勝ち。

自分の役目は全うしたと、疲れた体を壁に預け、そのまま床に腰をおろし座り込む。

そして勝負の緊張感からの解放を喜ぶように、大きく息を吐いた。

それは奇しくも、絹恵がトイレで音消しの水を流したのと同じタイミングであった―――

<華菜>

時間は少し遡り、智美と絹恵の戦いが始まろうとしていた頃、

こちらでもまた、熱い勝負が始まろうとしていた。

「・・・・・・」

亦野 誠子は釣り人である。

休日は朝早く起床し、様々な釣り場へと向かう。

実力と熱中度合から、すでに遊びの域を超え始めているようだ。

それは彼女の髪型からも垣間見ることが出来る。釣りの時に髪の毛が口や目に入るのを嫌い、短髪にしたのだ。

それも『出来ることならフィッシングプライヤーで切って欲しい』と美容師に頼むほど、彼女は釣りに入れ込んでいる。

普段から履いている黒のスパッツは、動きやすさを重視するとともに、腰から下げた黒いオモリを目立たなくするため。

どこに行くにもオモリを腰に付け、バッグには釣り道具一式。それは、今この時も変わらない。

ただ一つ違うのは、右手に釣竿が握られていること。リールがセットされており、糸も通してある。

ボウリング場を釣り堀と間違えているのではない。これから戦いが始まるのも分かっているし、戦う意思もある。

ではどうして釣竿を持っているのだろうか。

答えは単純であり、誠子と対峙している池田 華菜が答えに気付き、距離を詰めようとするのも当然。しかし・・・

「フィッシュ!」

竿を右上部から左下部へと袈裟切りに振り下ろした後に、手首のスナップを効かせながら横に薙ぐ。

それは、華菜への直接攻撃を狙ったものではなく、威嚇である。

しなる竿のスピード、長いリーチに、透明で見えにくい糸。

懐に飛び込もうとした華菜は、機先を制され足止めされる。

初撃の威嚇は成功した。釣竿は攻撃範囲が広い分、近付かれると戦いにくいという弱点がある。

距離をとるのが基本戦法。決して寄せ付けず、相手の攻撃が届かない場所から攻め続けるのだ。

「エイ!」

下から突き上げ、薙ぎ、振り下ろす。

超高速で繰り出されるカレイな連続攻撃。しかし華菜には当たらない。いや、当てようとしていない。

スピードをイカすことなく、華菜の周りの空気を裂くにトドまっている。

華菜は戸惑う。攻めさせようと誘っているのか、それとも別の狙いがあるのか。

どちらにせよ、この距離では打つ手はない。誠子の思惑に乗ることになろうとも、懐に飛び込まなくては始まらないのだ。

覚悟を決めたその時、何かが華菜の顔面を掠めた。そして、ほぼ同じタイミングでシャッター音が響く。

「?」

飛んできた物の正体も気になったが、華菜は音の方へと目を向ける。

そこには、白糸台高校の中堅、渋谷 尭深の姿があった。

学校の制服を身に纏い、両手で湯呑を持って立っているだけでカメラなど持っていない。

尭深の周りには誰もおらず、勘違いだったか、と華菜が誠子へ視線を戻したその時。

「よく見ろ!あれはただの湯呑ではない!」

加治木 ゆみの声が響いた。尭深と誠子は小さく舌打ちをする。

ただの湯呑ではないとはどういう意味か。もう一度注意深く観察してみると、

「あ」

湯呑の側面に穴が空いている。華菜が気付けるということは、穴は華菜の方を向いているからに他ならない。

つまり、湯呑の中に小型のカメラを仕込み、撮影している。

この事実にいち早く気付いたゆみの洞察力はさすがといえるだろう。

みんなが戦っている時に、灼と灼の祖母と三人で世間話をしながらくつろいでいた事実を差し引いたとしても。

そんなゆみだからこそ、華菜に襲い掛かった物体の正体も見抜いていた。

「亦野の狙いは攻撃ではない!糸の先に付いているゴムのフックで鼻を吊り上げることだ!」

誠子の顔色が変わる。それもそのはず、威嚇の後も繰り返し竿を振るっていたのは、先端のフックを見られないようにする為であり、

彼女の目的は、ジョーズに相手の動きを読み切り、鼻にフックを引っ掛けることだったから。

「そして、鼻を吊られた無様な表情を撮影するのが、渋谷の狙いだ!」

尭深は表情を変えない。だが、湯呑を持つ手が震えている。それはゆみの言葉が真実であると肯定していた。

女性が鼻を吊られている姿を撮影すること、それは尭深にとって何物にも代えがたい楽しみであった。

その女性が美人であればあるほど、高貴であればあるほど、吊られた時の惨めさが増幅される。

誠子によってもたらされる至福の時を待ち、尭深はカメラを握る。

栄光が無様に塗り替えられ白日の下に晒される頃―――

収穫の時<ハーベストタイム>―――

ゆみの洞察力に息を巻きながらも、尭深は諦めない。

誠子なら必ず鼻を吊ってくれる。信頼感は微塵も揺らいではおらず、淡々とシャッターチャンスを狙う。

目的がわかったところで、対処できなければ同じこと。

並みの人間では誠子のフックを躱すことは出来ないのだから。

「・・・・」

誠子はチラリと尭深の方を見る。尭深に動きはなく、表情も変わらず。自分を信頼してくれている。

それだけで、誠子は力が漲るのを感じた。全ては尭深の為。

尭深が喜んでくれるから私は鼻を吊るのだ。やることは変わらない。

右、左と竿を振り、距離を保ちつつタイミングを計る。

今度こそ外さないと、極限まで高めた集中力を、

「マグロッ!」

爆発させた。

「っ!」

誠子の狙いは完璧。

手首のスナップにより波打つ糸の動きを相手が意識した瞬間、目にも止まらぬ速さで反対方向へ切り返す。

相手の視界からフックを完全に消し去り、死角から無防備な鼻の穴を狙う。

(仕留めた!)

誠子は手ごたえを感じ、口角を上げる。しかし・・・

「しッ!」

華菜は両腕で鼻をガードしつつ、紙一重で上体を前に倒して避けた。

「バカな・・・・」

誠子が驚くのも無理はない。今のタイミングで躱すなど、プロボクサー並みの動体視力と反射神経でなければ不可能なはずだ。

実際、今まで本気で狙って躱されたことはなく、少々運動神経がいいという程度では、決して誠子のフックからは逃げられない。

ただゴサンだったのは、池田 華菜が人一倍図々しかったこと。

文化系の女子高生であり、突出した運動能力を持たない華菜が、

『し!』を一番多く言える職業であるボクサーを目指していたなどと、誰が予想しただろうか。

自分の大好きな『し!』をたくさん言いながら、お金を稼いで暮らす。

それをただの夢物語とせず、独学でトレーニングを続けた。自分なら出来る、必ず叶うと信じて。

その類稀なる精神力は奇跡を起こす。

反応速度や動体視力、判断力が究極まで研ぎ澄まされていき、高校生でありながらプロでさえ舌を巻くレベルにまで到達したのだ。

常人には辿り着けない領域に華菜は立っている。

ゆえに、誠子は現状を理解することができない。

華菜の超反応に対し、誠子の思考が現在ではなく過去に囚われる。何故、どうして、どうやって・・・

結果、なんの対処もせずに呆然と立ち尽くすという、無防備な姿を晒してしまう。

その隙を逃すものかと、華菜は勢いよく誠子の懐へと潜り込み、

「誠子っ!」

尭深の悲痛な叫びを背中で聞きつつ、

「しッ!」

みぞおちに、全力の一撃を叩き込んだ。

「ぐはっ・・」

誠子の体が揺らぐ。足が力を失い、膝が床へと吸い込まれる直前、

「よっと、だし!」

華菜が抱き止めた。

「すま・・ない・・・」

息も絶え絶えで言う誠子。もはや力は残されていない。

気にするな、と笑顔で返し、華菜は尭深を見る。彼女を倒せば完全決着だ。

「よくも私の誠子を・・・・」

ギリ、という音が聞こえてきそうなほど悔しそうな表情を浮かべる尭深。

華菜は、ため息をつき、誠子を床に寝かせて立ち上がる。

既にボクサーとしての自覚が芽生えてきている以上、武器を持たない非戦闘員相手に拳は使いたくないのが本音だろう。

尭深へ向かってゆっくりと歩き、逃げる時間を用意する。

「・・・・」

だが、尭深は動かずに華菜を睨みつける。気は進まないが仕方ない。華菜が覚悟を決めて拳を握り締めたその時、

「洞察力パンチ!」

ゆみの凛々しい必殺パンチが、尭深のみぞおちへめり込んでいた。

ゆみ「・・・・・」

尭深「・・・・・」ウーン

華菜「さすがだし!締!めるところは締!めるし!」

ゆみ「まぁな、ずっと見学というのも味気ない」

華菜「・・・ワハハさんの方はどうなったし?」

ゆみ「勝ったようだ」

華菜「じゃあ、残すは・・・・し」チラリ

雅枝「・・・・」

ゆみ「ああ」

雅枝「・・・思ったよりも出来るようやな」フフ

ゆみ「・・・随分と余裕ですね。兵隊は残り少ないはずですが」

女性たち「・・・・」

華菜「あとは、おばさんを倒し!たら、あたし!たちの勝ちは間違いなし!だし!」ヘヘン!

雅枝「えらいご機嫌やなぁ・・・・けど、調子に乗るのはまだ早いんちゃう?」

ゆみ「何!?」

華菜「し!?」

?「その通り」ザッ!

ゆみ・華菜「!?」シ!

菫「主役は遅れてやってくるものだ」

ゆみ「お、お前は!?」

華菜「し!ろい制服でお馴染み、し!ら糸台高校のシ!ャープシ!ューター、弘世 菫だし!!」

菫「ああ」

ゆみ「何故ここに・・」

菫「・・・簡単なこと。鷺森さんは弘世家からお金を借りたんだ。だから回収しに来たのさ」

灼祖母「ふわぁあ~」アクビ

ゆみ「?」

雅枝「弘世家っちゅうのはな、先祖代々前髪パッツンの名家なんや」

菫「我が一族は前髪パッツンを重んじるからこそ、パッツン孫をもつ鷺森さんにお金を貸したのだ。それを・・・」

灼「へくしゅ」ブシッ

菫「・・・前髪を信じた私が愚かだったのか・・・」ゴゴゴゴ

ゆみ・華菜「!?」

ゆみ(凄まじい殺気だ・・・)

憧「・・・・・」ソローリ

憧(なんかヤバいことになってない?しずはどっか行っちゃったしさ・・・)フーム

玄「ふぇっ・・・」

憧「?ちょ、ちょっと・・・今は我慢し・・・」

玄「ふぇっくしょい!!」ズビー!

憧「もぉぉお!!」

玄「ごめんね、灼ちゃんにつられちゃった」エヘヘ

菫「・・・そこの二人。隠れていないで出てこい」

憧・玄「!」

菫「・・・・射抜かれたいのか?」

憧「っ!玄、先行って」グイ

玄「わぁ!」バッ

憧「・・・・」クロ ノ ウシロ

菫「・・・ふん」

玄「あ、憧ちゃん・・どうしよ~」

憧「・・・・とにかく、玄はあたしの盾になってくれればいいから」

玄「やだよぉ!」

菫「まったく騒がしい・・・もう面倒だ、まとめて片付けてやる」サッ

ゆみ「!」

華菜「弓だし!」

憧「弓か・・・・距離を詰めればなんとかなるだろうけど・・・・」チラリ

雅枝「・・・・」

憧「・・・・させてくれそうにないね」フン

ゆみ「・・蒲原は戻ってこない・・・か」

華菜「それでも四対二でこっちが有利だし!」

ゆみ「ああ」

玄「四対二って?」

憧「ケンカだよケンカ。相手をぶちのめすの」

玄「え、えええ!?私やだよぉ!」

憧「そうは言ってもねぇ」

華菜「この場にいる以上、戦うのは当然だし!」

玄「うぅ・・・灼ちゃぁん・・・・」

灼「頑張ってね、玄。応援してる」

玄「灼ちゃんは戦わないの?」

灼「うん」

玄「あ、だったら私も・・・・」

灼祖母「情けないこと言ってるんじゃないよ!!」

玄「!?」

灼祖母「勝負する前から弱音を吐くなんてみっともない。根性出しな!」

玄「うう・・・・」

灼祖母「全力を尽くして戦うからこそ、人は輝いて見えるんだよ。諦めたーらおーわーり♪・・なんだから。頑張れ!」

玄「うぅ・・・私が間違ってた・・・のかなぁ・・・・ごめんなさい」ペコリ

灼祖母「謝らなくていい。誰でも間違えることはある。大事なのは、間違えたあとどう動くかだよ」ニッコリ

玄「どう動くか・・・・」

灼祖母「そう。そこで正しい行いをするのが立派な人間ってやつさ」

玄「・・・・分かりました。頑張ってみます」

灼祖母「うんうん」

菫「・・・・」フゥ

雅枝「そない偉そうなこと言うなら早よ金・・」

灼祖母「やっておしまい!!」

ゆみ・華菜・玄・憧「はい!!」ザザッ

<ゆみ・華菜・玄・憧>

「やれやれ・・・・」

弘世 菫はため息をつきながら弓を構え、先端が丸くなっているゴムの矢を引き絞る。一つも無駄のない流れるようなモーション。

背が高く手足の長い菫の構えは絵になっていて、ゆみは立場を忘れ、思わず見入ってしまった。

ならば菫が狙うのは間違いなく―――

「ボーっとし!てたら仕!留められるし!」

華菜の言葉で我に返るゆみ。サイドステップで射線から外れる。

(私は何をやっているんだ・・・・声を掛けられなければやられていた・・・・)

ゆみは己の不明を恥じ、気を引き締めた。

「ったく、慌て過ぎだって」

対象的に憧の声は明るい。悲観的な状況ではないからだ。

菫のいる位置から憧たちのところまでは約三十メートルほどあり、

それだけの距離を、動き回る的を相手に狙い打ちなど、易々と出来るものではない。

加えて的は四つ。一本の矢で二人を射抜くことは困難だと考えると、

全員を倒すには最低でも四回、矢を放つ必要がある。

その間に誰か一人でも菫の元へ辿り着き弓を奪えばいい。

つまり、四人がとるべき作戦は・・・・

「散開するぞ!」

ゆみの号令と共に、玄以外の三人がばらける。

「え?え?」

玄は意味が分からず一瞬立ちすくみ、キョロキョロと周りを見渡し・・・・

「っ!」

菫と目が合った瞬間、まっすぐ飛んできた小型の何かを飲み込んでいた。

もちろん矢ではない。矢は再度構え直した菫の手の中にある。

菫は矢を放つ直前に、右手で握り込んでいた別の物を矢の代わりに飛ばしたのだ。

(・・・・?)

それが何かを考えるより先に、玄の体に異変が訪れる。

「からぁぁぁあぁい!!!」

今までの人生で味わったことのない強烈な刺激に、松実 玄は天を仰ぎ、叫ぶ。

それも当然。玄が口にしたのは、世界一辛い唐辛子とギネス認定されたブート・ジョロキアを粉末にし、

少量の肉と一緒に餃子の皮で包まれたものなのだから。

「ひぃぃ・・・・」

玄は舌をだらんと垂らしながら、水道の蛇口を求めフラフラと歩き出す。戦闘不能は確定である。

そんな玄を一瞥し、三人は菫へと飛び掛かろうとしたところ、

「よそ見はあかんでぇ」

大阪のおばはんのラリアットを受け、五メートルほど吹き飛ばされた。

「ちっ!し!」

華菜は飛ばされながらも空中で一回転して足から上手く着地。ダメージを最小限に抑えたが、ゆみと憧は受け身すらとれぬまま倒れた。

「あははは、まだまだ甘いなぁ」

雅枝は腰に手を当てて笑う。

攻撃を受けた三人は、決して雅枝の存在を忘れていたわけではない。

ただ、踏み込むスピードが一般のおばはんのレベルを遥かに超えていたのだ。

二人を心配した華菜が目を向けると、

「く・・・・」

「いったいなー・・もう・・・・」

ふらつきながらも立ち上がった。どうやらまだ戦闘は可能なようだ。

「せやからよそ見はあかんて言うてるやろ」

「っ!」

一瞬だけ目を離した隙に、雅枝は再び迫ってきていた。便所サンダルとは思えないスピードだ。

まずい、と華菜が感じた瞬間、無意識的な超反応で上体を前にかがめると、さっきまで頭があった位置を通過する強風。

本気で首を刈ろうとしているかのような威力に総毛立ちながらも、体を捻って雅枝を視界に捉える。

高威力のラリアットは大振り。放った直後は体勢が崩れたままだ。

(ここし!かない!!)

華菜は渾身の左アッパーを、雅枝のアゴへ突き上げた。

「ぐぁっ!」

鈍い音が鳴り、華菜の左拳が手応えを掴む。雅枝の体からガクリと力が抜け地面に膝をつく。

(よし、勝った!)

華菜は勝利を確信し、意識を菫へと向ける。そこへ、

「下がれ!」

と、ゆみが背後から声をかけた。

(何を言ってるし!一対一なら弘世 菫も倒せるのに。何故下がらないといけないし!)

むしろ雅枝が倒されたことに動揺しているであろう今こそがチャンスなのだと、華菜は無視しようとしたが、

「――――」

菫と目が合った瞬間、バックステップを選択していた。

「・・・・一体どういうことだし?」

菫と雅枝から目を切らずに言う。ゆみへの問いだが、同時に自分への問いでもある。

「分からん。ただ、嫌な予感がしてな」

返ってきた答えは気の抜けるものだった。予感でチャンスを潰されたらたまったものではない。

そう思いつつも、華菜は非難する気持ちになれなかった。

自分でも下がった理由がわからなかった。菫が何かしたわけではない。

ただ、味方がやられた直後にも関わらず、菫の目にはなんの感情も浮かんでいなかった。そこに違和感を覚えたのだろうか。

何か恐ろしいものを見たような気分になってしまったのだ。

それは何故かと聞かれたら華菜はなんと答えるのだろう?直感、あるいは本能、だろうか。

いずれにしろ、論理的な答えではない。

しかし、二人の判断は正しかったと知る。

「・・・・思ったよりやるやんけ」

雅枝が立ち上がった。何もなかったかのように。

アゴに強烈な打撃を受けてからまだ十秒も経っていない。回復力どうこうという次元を超えている。

「な・・・・」

一番衝撃を受けたのは華菜。左拳には未だ手応えが残っており、間違いなく完璧なアッパーだったと確信している。

それなのに平然と立ち上がった目の前のおばはんは一体何者なんだ、と心の底から震えが走る。

急速に戦意を失っていく華菜を救ったのは、

「負けないで、華菜」

背後から聞こえてきた福路 美穂子の一言だった。

華菜は、思い出す。

美穂子が、一足先にボウリング場に来ていたこと。

レーンでうつ伏せになりながら、双眼鏡で戦況を見つめてくれていたこと。

本当に危なくなったらアドバイスするわね、と拡声器を持ちながら微笑んでくれたこと―――

(キャプテン・・・・)

愛しい人の声に、華菜は戦意を取り戻し、美穂子の前で無様な姿は見せられないと奮起する。

体中にやる気がみなぎってくる。今にも飛び出してしまいたいほど。

だが、華菜は衝動を抑える。美穂子が声をかけてくれたということは、自分たちに伝える言葉があるはずだからだ。

「そのおばはんの後ろ髪を見て」

美穂子の言葉に、三人が従う。

雅枝の後ろ髪は特徴的である。腰の辺りから四股に別れた後ろ髪が、重力に逆らって上方向にピョンと跳ねている。

だが不思議なことに、三束は跳ねているのだが、一束だけ跳ねずに垂れている。

「おばはんは、あと三度復活する」

そう前置きし、美穂子は仲間たちに雅枝の後ろ髪の秘密を教えた。

要約すると、雅枝は後ろ髪の跳ねと引き換えに体力を回復するという。束の数は日々のコンディションによって変化し、

多ければ多いほど元気らしい。なんかもう訳が分からない。

これは三人にとって驚愕の事実であることは間違いないが、

「だったら・・・・四回倒せばいいし!」

「そうだな」

「うんうん、一人一回ってことで」

対戦相手が『得体のしれない化け物のようなおばはん』と『何度か蘇るおばはん』では受ける印象は大違いである。

状況が好転した訳ではないが、相手は不死身などではなく、今まで通り戦えば倒せる、と知った三人がやる気になるのも当然といえよう。

「ほぉ、えらい威勢がええなぁ。勝てる気ぃなん?」

雅枝は、復活の秘密を暴かれたというのに動揺を見せない。それどころか、うっすらと笑顔すら浮かべている。

己の力に絶対の自信を持っているだけでなく、久々のケンカに血が騒いでいるのだ。

地元では『ラリアットの雅枝』として畏怖される存在になってしまったことで、最近めっきりラリアッていない。

それだけに、向かってくる相手がいるというのは雅枝にとってたまらなく嬉しい。

心の底から湧き上がる歓喜の感情を抑えられず、自然と笑みがこぼれる。

「ほな、こっちから行くわ!」

言い終わるか否か、両手を広げながら便所サンダルの限界を超える初速で迫る雅枝。

防御は一切無視で向かってくる分、カウンターを入れることが出来れば効果的だが、

驚異的なスピードと破壊力を前に、どうしても手が縮こまる。

直前までカウンターを狙っていた華菜だったが、諦めて回避を選択した。ゆみと憧は最初から回避一択。

真正面からのラリアットを回避した三人は散開する。雅枝が厄介なのは当然だが、菫の狙撃も危険なのは間違いない。

「やっぱりお前がいっちゃんオモロそうやわ!」

雅枝は華菜へ向かって再び駆ける。

「オラァ!」

大振りの右ラリアット。冷静に躱した華菜は、左ジャブを雅枝の頬にコツンと当てて距離を測り・・・

「しッ!」

右ストレートを振り抜こうとして、

「しゃあ!」

ラリアットの空振りの勢いを利用した、強烈な後ろ回し蹴りを左脇腹に食らってしまった。

「ぐっ・・・し!」

あまりの威力に体が横に流れる。ボクシングに慣れたせいか、蹴りに対する反応が遅れてしまった。

ダウンしないように踏ん張るのがやっとで、急いで体勢を立て直そうと努力しているところに、

雅枝の掌底が襲い掛かる。下からすくい上げるような軌道でアゴを狙う。

華菜のアッパーに対する意趣返しだろうか。力を込めた一撃必殺の匂いが漂うが、軽く上体を反らして掌底の軌道から顔を外し、

カウンターでボディへ右フックを打ち込む。

「ぐっ・・まだまだぁ!」

ダメージは与えたが雅枝は止まらない。左、右、左と、高速のラリアットを連続で繰り出してくる。

リズムよく躱してタイミングを計り、次の右にカウンターを合わせようと右拳を握りしめる華菜。

しかし、次に待っていたのはラリアットでも蹴りでもなく頭突きだった。ただ前に突き出しただけの頭突き。

だが雅枝の石頭は、同窓会でも毎回話題に上るほどであり、

「軽く当たっただけでも大ダメージだ」

とは担任の弁。

ラリアットを予測し、攻撃に意識の何割かを割いていた華菜は頭突きを額に受けてしまい、一瞬ふらつく。

その隙を逃すほど雅枝は甘い相手ではなく、再び華菜のアゴに向けて掌底を放つ。

華菜はそれをスローモーションのような感覚で見ていた。

迫ってくる掌、絶対に避けられない。覚悟を決めて、ゆっくりと目を閉じた―――

<ゆみ・憧>

「・・・・あの人は池田さんに任せよう」

華菜へと向かい駆けていく雅枝を見て、ゆみは憧へと言う。

純粋な戦闘力で華菜より劣る二人の場合、雅枝を相手にするのは難しく、今の状況はゆみたちにとって理想的であった。

菫を侮っているわけではない。だが、菫のような遠距離から攻撃を仕掛けてくるタイプにとって、

前衛の役割は大きく、連射のきかない弓では特に時間を稼ぐ必要がある。

その役目を果たすべき人間がいない隙に、二人がかりで菫を倒して華菜のフォローに回れば三対一になる。

ならば二人に求められるのは、速やかに菫を撃破すること。

もしも華菜が負けてしまったら、こちらの勝ち目は限りなく薄くなってしまう。

現状は理想的な方向へ進んでいるが、ゆみたちが歩いているのは薄氷の上。

少しでも油断して足を踏み外したら、一気に沈んでしまうのだ。

憧も同じように感じているのだろう、表情を硬くし、覚悟を決めたようだ。

「私が弘世に張り付いて射撃を封じる」

ゆみが言う。それは自分ならば可能だという自信から出た言葉ではなく、

年下の子に危険な役目を負わせない、というゆみのプライドだった。

その言葉に憧は少し考え込んで、

「わかった。じゃあちょっとだけ弘世 菫の相手しといてくれる?少ししたら助けるから」

と言い、踵を返し走り出した。

それが合図となり、菫が目にも止まらぬスピードで矢を番え、ゆみへ放った。

あまりの早業に、反応すらできない。

矢が足元へ落ちる音を聞いてから左肩に当たったのだと気付き、痛みが遅れてやってくる。

この矢はゴムで出来ており、先端は丸く作られているので殺傷能力はない。

しかし威力は十分で、もう一度同じ箇所に受けようものなら、しばらく左肩が上がらなくなるだろう。

とにかく動いて的を絞らせないようにしなくては、と小刻みに体を揺らす。

菫はすぐさま第二射を構え、矢を引き絞る。

このままでは避けられないと判断したゆみは、とっさに両腕で上半身をガードした。

(これを耐えたら・・・・距離を詰めて一点読みキックをお見舞いしてやる)

そう意気込み、両腕に力を入れる。これならば直線的な攻撃は防げるだろう。

ならば、と菫は構えを解き、ポケットから拳半分ほどの大きさで、口がきつく縛ってあるビニール袋を取り出した。

中身は超激辛トウガラシの粉末。その袋をゆみ目がけて投げる。放物線を描くように。

そして矢を番えて、ゆみのちょうど真上を通過しようとする袋を狙い、放つ。

見事命中し、袋が破れると中身はゆみへと降り注ぎ、超激辛トウガラシを鼻孔から迎え入れたゆみは、

「かじゅっ!ぐへぇおぁっふぁう!!」

奇声を上げ、家に帰りたい度が五十パーセント増えた。

「ごめん!もうしないからっ、あふぅあ!」

誰に言うでもなく独り言をつぶやき続けるゆみ。辛さが体の熱を呼び起こし、汗が噴き出て止まらず、

涙に鼻水、そしてヨダレも溢れている。なんて日だ。

もはや勝負ありだろうが、菫は少しも慢心しない。もうやめてあげればいいのに新たな矢を取り出して構えようとする。

「アスタラビスタ」

と格好つけて呟き、止めを刺そうと矢を引いたその時、右手に激痛が走った。

「っ!」

菫は思わず矢を落としてしまう。次いで、背後から何かが床にぶつかる音がする。

右前方から飛んできた物体が右手を弾いたと推測し、そちらに目をやると、十五メートルほど離れた場所に新子 憧が立っていた。

山のように大量のオモリを抱えている。

(なるほど。オモリを投擲したのだな)

一旦離脱したのは、倒れている亦野からオモリを奪うためか、と考え納得したところで、ふと疑問がよぎる。

(待て。両手が塞がっている状態で、どう投げるというのだ・・・・)

じっと憧を観察するが、オモリ以外は何も持っていない。

(・・・・このまま考えていても埒が明かないか・・・)

菫は憧の動向に注意を向けたまま、矢を拾う。

「・・・・」

憧は動かない。

(どうした、早くやってみろ)

ゆっくりと、誘うように弓を構えるが、やはり反応はない。

「・・・・・・」

「あぁぁああ!辛いぃぃう!」

静寂と奇声が場を支配する。

(あくまで私の出方を見る気か・・・・ならば)

菫は一呼吸置き、

「・・・・こちらから始末する」

狙いを憧から外して、ゆみへと向ける。

「!」

その瞬間、憧の顔色が変わり、

(そうだ!見せてみろ!)

菫の誘いに乗ってしまった―――

<華菜>

「・・・・・・あれ?し・・」

池田 華菜が間抜けな声を出す。雅枝の掌底を前に、衝撃を耐えようと覚悟を決めて目を閉じたのに痛みがやってこない。

何故だろうと不思議に思い、ゆっくりと目を開ける。すると

「・・・・」

雅枝の手首を掴んでいる風越女子高校麻雀部のコーチ、久保 貴子と目が合った。

「池田ァッ!」

怒っているような口調とは裏腹に、華菜を見つめる目は優しい。

「私以外に殴られるなんて許さな池田ァッ!どいてろ!」

そう言うと、自らの体を雅枝と華菜の間に入れた。

「コーチし・・・・どうし!て・・・・し」

貴子は今回の『風越&鶴賀のワクドキ仲良し旅行』には参加していない。長野にいるはずだった。

「妹たちの世話はどうし!たんですかし!コーチにお願いし!たのにし!」

「う、それは・・・・他の部員に頼んであるから心配するな」

そう言って少しバツの悪そうな顔をしつつ、空気を変えようと小さく咳払いし、

「お前は休んでな。こいつは私が倒すから!」

力強く勝利宣言をした。

「でも・・・・」

貴子の言葉に華菜は頼もしさを覚えたが、果たして雅枝を相手に戦って無事でいられるだろうか、と心配になる。

しかし貴子は、思考を読んだかのように言った。

「心配すんな。池田ァッ!は福路と一緒に弁当でも食ってろ」

レーンの方を見てみると、レジャーシートの上で美穂子は美味しそうな弁当を食べていた。絹恵と智美もいる。

目が合うと、美穂子は拡声器を持ち、華菜に話しかける。

「・・・くっちゃくちゃ・・・・・・ごくん・・・・失礼。華菜もお弁当食べない?」

拡声器を通していても天使のような美声に、女神のような微笑み。華菜は頬をだらしなく緩める。

「キャプテンし・・・・」

こんな素晴らしい誘いを断る理由などどこにもない。華菜は大急ぎで美穂子の元へと向かい、大好きな卵焼きを頬張った。

「・・・・」

美穂子たちから少し離れた場所では、貴子と雅枝の睨み合いが行われていた。

ほぼ白目になっている雅枝のメンチに対して、貴子は一歩も引かない。雅枝以上に白目の面積を増やして睨み返す。

それだけで、二人の間に開戦のルールが統一される。

(どちらかが瞬きした時が)

(開始の合図だ)

この理屈だと、意識的にわざと瞬きをしてしまえば確実に先手を取れるのだが、そのような無粋な真似はしない。

二人は限界ギリギリまで白目をキープしながら瞬きを我慢し続ける。

そしてほぼ同時に瞬きをして―――

「しゃあ!!」

「池っ!」

相手の頬に右拳の一撃をめり込ませた。

「ぐっ」

「田ァッ!」

スピード、パワー共に互角。両者ともふらつきながら数歩後退する。

場数の差か、それとも幼少の頃から食しているメリケン粉の恩恵だろうか、雅枝が先に立ち直り、凄まじい初速からのラリアットを狙う。

そこでやっと貴子が体勢を立て直し前を向いた。

直後、目の前に迫る剛腕に対し打つ手はなく、

「ぃけ・・・・」

貴子の体は宙を舞い―――

大好物の卵焼き、から揚げを食べ、そして次はプチトマトにしようと決めていた華菜の前に、

受け身もとれずに地面へと叩きつけられた。

「コーチし!!」

「コーチ・・・・」

いつも部室で堂々としている貴子が痛めつけられた姿を見た美穂子は悲しくなり、少し食欲がなくなった。

(どうして、こんなことに・・・・私がコーチを呼んだから?)

美穂子は思い出す。

先日、旅行の話をしていた時に、学生だけで行くと聞いた貴子は難色を示し引率を志願したが、華菜が嫌がり長野に縛ろうと妹の世話を頼んだ。

しかし貴子は華菜を心配するあまり、世話を部の一年生に任せ、美穂子たちに内緒で奈良まで追いかけてきたのだ。

美穂子は気付いていながらも、こちらに干渉せず影から見守ってくれることに感謝して誰にも話さなかったし、よほど困った時以外は貴子を頼るつもりはなかった。

だが、雅枝に押されている華菜の姿を見ていた美穂子は、助けを求め貴子へ電話をかけてしまう。

都合のいい時だけ頼るなんて最低だ、そう思いながら美穂子は和風ハンバーグを頬張る。しっかりと噛み、味わい、飲み込む。

(自分に出来るのは見守り、応援することだけ)

美穂子は無力さを感じながらも、

(立ち上がって!負けないで!)

と強く念じる。彼女はまだ貴子の負けを認めていない。

その証拠に、漬け物を一つ残してある。貴子は雅枝に勝利し、漬け物を食べるんだと信じているから。

「・・・っ」

願いが叶ったのか、貴子の指がかすかに動く。そして体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。

それを見た雅枝は、苦い顔をして貴子の元へと歩いて行く。

「確実に終わったと思ったんやけどな。案外しぶとい、っちゅうか鬱陶しいわ」

勝負はついている。もはや貴子に勝利はない。立っているのがやっとで、まともな反撃は無理だろう。

だったらせめて寝ていればいいものを。それならばいい気分で華菜との勝負を再開出来たのに。

雅枝の思考に傲慢さが見え隠れする。本人の意識していない部分で、強敵だった貴子を倒したという安堵があったのだ。

満身創痍の貴子と華菜、弁当を食べている美穂子と絹恵。雅枝の視界にいる敵は絹恵を除く三人で、そのうち一人は非戦闘員。

「ほな、ちゃっちゃと行くで」

もはや勝ちは揺るぎない。勝利を確信した雅枝の声に答えたのは、

「ワハハ」

視界の外から聞こえてきた智美の笑い声であった。

「!?」

雅枝が慌てて振り返る。そのタイミングに合わせて、智美は雅枝のメガネを奪った。

「んなアホな・・・・」

雅枝は驚く。つい先ほどまでレジャーシートの上にいたはずなのにと。

しかし、智美は特別なことはしていない。貴子と雅枝が戦闘を開始してからすぐ、

気付かれないように雅枝の後ろへと回り込んだだけ。なんのトリックでもない。

だがその成果は絶大だった。真正面からでは不可能であろうメガネ奪取を成功させたのだから。

(ワハハ。よし、離脱するぞー)

智美はメガネを持ったまま華菜たちの元へと行こうと足を踏み出した直後、雅枝に腕を掴まれてしまった。

見えている訳ではない。捕まえられればどこを掴んでもいいと手を伸ばしただけ。それが運よく腕だったのだ。

(まずい・・・・)

焦った智美は、とにかく逃げようとする。しかし、雅枝の握力が逃走を許さない。

この場合の最善は、メガネを誰かに渡す、あるいは雅枝の手の届かない場所に置くといったところなのだが、

智美は逃げる方法に思考を割いているので気付けず、

「メガネ、返してな?」

手探りで智美の体を触っていた雅枝に奪い返されてしまった。

メガネをかけ直すと智美の手を離し、もう興味が失せたと言わんばかりに貴子へと向き直った。

この態度にカチンときた智美は、最後の力を振り絞ってミドルキックを繰り出す。

絹恵へ放ったものよりも数段鋭い。当たる箇所によっては十分に必殺となりえる威力。

だが、そのキックを雅枝は左手一本で軽々と掴み、止めた。

「!?」

智美の顔が凍りつく。まずい、どうしよう、やられる、万事休す。半ば諦めかけた時に、異変は起こった。

「な、なんや!?」

雅枝がうろたえる。辺りを落ち着きなく見回し、両手を振りながら叫ぶ。

「何もんや!出てこいや!」

智美は現状が理解出来ず、雅枝の手から足を解放された今も立ち尽くしている。

そこに、馴染みのある、嗅ぎ慣れた香りが漂った。

「!」

屋内に風上も風下もない。それなのにこの匂いがするのは何故か、それは持ち主がそばにいるということ。

そもそも、旅行に参加している風越と鶴賀のメンバーで今この場に姿を表していない者は六人。

睦月はプロ麻雀せんべいを買い占めに行っていて、佳織、未春、星夏、純代の四人は荷物持ちで同行。

残りは一人。彼女も外に出かけているのだろうか?

それはありえない。東横 桃子がゆみの傍を離れて行動しようと思うはずがない。ならば答えは簡単。

姿を表していないだけで、間違いなくこの場に存在しているということ。

「う~ら~め~し~や~っす~」

「お、おおお、お化けか!?やめぇ!そんなん嫌やぁ!!」

そして、羽交い絞めにして雅枝の動きを封じている。幽霊が苦手なのだろうか、雅枝は暴れるも全然力が入っておらず、桃子を振りほどけない。

これぞ千載一遇のチャンス。智美は華菜たちに向かって叫んだ。

「ワハハ!一気に攻めるぞー!!これが最後だー!!」

言い終わると同時に、狼狽えている雅枝へ向かって華菜と貴子が駆ける。

「お、お化けは嫌・・・やぁ・・・・」

雅枝はすっかり動転しており、華菜たちに気付いていない。

(これで・・・・決めるし!)

華菜は全ての力を拳に込める。

(池田ァッ!)

貴子も同様に全力を注ぎ、いざ最後の攻撃―――というところで、

「ふぁぁう・・・」

間の抜けた声を出して雅枝の体は崩れ落ち、

「わわっ」

羽交い絞めにしていた桃子も、引っ張られるように地面へと倒れた。

「・・・・・」

お化けの仕業と信じきった雅枝は恐怖のあまり失神してしまったようだが、華菜はまだ警戒を解かない。

「髪の毛、どうなってるし?」

そう、雅枝は後ろ髪の跳ねている束の数だけ、体力を回復する。跳ねを確認するまで安心出来ないのだ。

この失神が、一束分の跳ねで回復されたとしたら残りは二束、つまりさらに二回復活するということ。

こちらの戦力は、力を使い果たした智美と満身創痍の貴子、そして華菜。どう考えても勝ち目はない。

これで終わってくれと華菜は心底願う。結果―――

「ワハハ。一つも跳ねてないぞー」

笑顔の智美によって勝利を告げられたのだった。

<ゆみ・憧>

(やばっ!)

憧は後悔する。無防備なゆみを狙われると早とちりして、先手を打ってしまった。

結果、眉間を狙った憧の攻撃は弾かれる。菫が何かをしたわけではなく、前髪のパッツンに弾かれたのだ。

(どういうことよ・・・・)

舌打ちし、再度オモリを口に含む。

それを見た菫がクスリと笑う。

「まさか口から吐き出していたとは思わなかったぞ。それであの威力とは、素晴らしい」

素直に感嘆の声を上げる。

それもそのはず。憧は口に含んだオモリを吐き出し、十五メートル先にいる菫の右手、そして眉間へ当てたのだ。

これがどれだけ凄いことか、想像に難くない。

だが憧は、菫の称賛を無感情で受け止める。戦闘用に身に付けた技ではないからだ。

穏乃と付き合えた時の為に、キスだけでイカせる舌使いを会得しようと、日々の努力を重ねた結果手に入れたもの。

オモリを口から吐き出して敵に命中させたり、分厚いこんにゃくの中心を吸引力だけで貫通させたりなんてものは所詮オマケであり、

重要なのは穏乃を満足させることに尽きる。憧はそう思っていた。

「不満そうだな。心から褒めているのだが」

矢を憧へ放つ。

(不満よ。だからとっとと戦いを終わらせてしずを助ける)

サイドステップで素早く躱し、右手を狙ってオモリを吐き出す。

さらりと避けながら新しい矢をセットし、放つ。

胸の辺りへ飛んできた矢をギリギリで避けるとオモリがいくつか落ちた。

(ちっ、ウザいことするなぁ)

オモリを失えば憧に攻撃手段はなくなる。弾切れが狙いだろう。

(・・・・その前に倒せばいいんでしょうが)

憧はフンと鼻を鳴らし、オモリを十個ほど口に入れ、一気に吐き出す。

(避けられるもんなら、避けてみろってーの!)

口が爆ぜたと勘違いしてしまうほどのスピードで吐き出されたオモリは、さながら散弾。

逃げ場所を塞ぎ、包み込むように菫へと迫る。

一つ一つの威力も決して侮れるものではない。まともに食らえば大ダメージ必至だ。

「・・・・」

その弾幕を前に、菫は冷静に軌道を読む。

そして自分に当たる弾を見極め、弓を左右に捻りながら叩き落した。

(無傷とか・・・・)

多少のダメージは見込めると思っていた憧はさすがにショックを受け、同時に理解する。

今の一連の動きから推測するに、菫は遠距離専門とも言いきれない。

優れた目は、狙撃のみでなく防御にも生かされており、高速で飛来する弾の嵐を完璧に遮断するその弓捌きは見事の一言。

弓で直接殴るのは戦法として下の下だろうが、矢が尽きた際の最終手段として使えないわけではなく、

手ぶらでは何も出来ない憧よりも、アドバンテージがあることは確か。

憧が勝利する為には、菫の矢を躱しつつ弾切れ前に仕留めるという難題をクリアしなければならない。

残りのオモリは約五十。これを多いと考えるか、それとも・・・・

菫が矢を取り出す。憧はオモリを五個、口に入れる。

(この距離ではまた弾かれる。もっと近くに行かないと)

腰を落とし、前傾姿勢をとる。菫が矢を放った瞬間に飛び込もうと決意した。

「っ!」

矢が放たれ、憧の足が地を蹴る。体を少し斜めにズラし、射線を外して右前方から菫へ迫る。

(よし、タイミングはバッチリ!)

そう確信した憧だったが、矢は思いがけない軌道を描き飛んできた。

菫が狙ったのは憧の体ではなく、憧と菫のちょうど間くらいの地面だった。

射る直前に角度を変えて放たれた矢は、地面に接触した後、憧の足を払おうと滑空する。

相手の考えを読み切った先読み攻撃。憧は矢に引っかかり転倒し、抱えていたオモリが地面へ散らばる。

この時点で菫は既に次の矢を取り出していた。

(やば・・・・)

牽制の為に、仕方なく含んでいたオモリを飛ばすが、少し焦っていたせいだろうか、威力は弱く牽制として不十分。

菫は構えたままオモリを前髪で弾き、憧を目がけて矢を放った。

倒れたままの憧に避ける手段はなく、両腕で顔をかばうのが精一杯。

結果、憧は菫から目を切ることになり、その間は菫の動きを把握できない。

その隙に必殺の超激辛トウガラシの粉末入り袋を取り出した菫は、憧の真上を狙って山なりに投げ、

袋を狙い打つべく矢へ伸ばした手を―――

何者かに掴まれた。

「!?」

一瞬思考が停止する。一体誰が?いや、想像はついているのだ。ただ信じられないだけ。

(あの超激辛の粉末を吸ったのに、この短時間で復活できるなんて・・・・)

菫が顔を上げると、目の前には顔中が汁まみれになったゆみが立っていた。

辛党でもない彼女が激辛攻撃を耐えられた理由はたった一つ。プライドである。

吸い込んだ瞬間は我を忘れて奇声を上げてしまったが、ゆみはすぐに意識を切り替えた。

モモや後輩たちに無様な姿を見せる訳にはいかない。先輩として凛々しくなければ、という強い自意識。

襲い掛かる刺激を精神力によって抑え込み、耐え続け、復活を遂げたのだ。

涙、汗、鼻水、ヨダレでテカテカに光るゆみからは、何故か神々しさすら感じられ、

菫は戦闘中であるにも関わらず見惚れてしまった。なんと美しく、そしてキレイなのだろうと。

手を掴まれた状態で放心するのは命取りだと菫も理解している。

それでも動くことが出来なかった。

いつまでも見つめていたいという衝動に抗えず立ちすくむ菫。

ゆみは動かない菫を訝しみながらも、

体液でベチョベチョの手を伸ばし、

整えられた菫の前髪をかきあげ、

白く美しい額を露にさせた。

「!」

それはなんてことのない行為。攻撃どころか、じゃれ合いの延長線上である。

しかし、前髪パッツンを誇りとする弘世家に生まれた菫にとっては過去最大の衝撃。

両手から力が抜け、弓が乾いた音を立てて転がる。

総大将、弘世 菫を相手取った勝負は、

矢、弓、オモリ、トウガラシの粉末、ヨダレ、汗、涙、鼻水。色々な物を散らかし、ここに決着―――

菫「あ・・・・」フラッ

ゆみ「おっと」ガシッ

菫「う・・・あ、ありがとうございます」

ゆみ「気にするな」テッカー

菫「・・・・・」

憧「・・・・なんか分かんないけど、勝った訳?」

菫「・・・ああ、君たちの勝ちだ」

憧「ふーん、おでこ見られだけで?」

菫「弘世家にとって額は特別なんだ」

ゆみ「特別?」

菫「え、ええ。前髪パッツンは我らの誇りであり心のカーテン。それを開けられるというのは全てを見られるということ」

憧「・・・・」

菫「ですから・・・・あの・・・お名前は?」

ゆみ「ん?加治木 ゆみだ」

菫「加治木・・・ゆみ・・・」

憧「?」

菫「ゆみ様・・・・私、弘世 菫は、一生あなたを愛することを誓います」

ゆみ・憧「!?」

菫「////」

ゆみ「そ、それは・・・・私が君の額を見たから・・・か?」

菫「はい。それが弘世家の教えなんです。額を見られた人間を愛しなさいと。ですので・・・・ゆみ様・・//」ポッ

憧「なんでそうなるのよ」

菫「うるさい。口をはさむな」

憧「露骨に態度違うんですけど!?」

ゆみ「しかし・・・」

菫「ゆみ様・・・・私ではご不満ですか・・・?」ウルウル

ゆみ「いや、君はキレイだし不満などないが・・・ただ私には気になっている人がいてだな・・・//」

憧「揺れてるし」

?「満更でもない感じっすね」

憧「だよねー・・・・あ」

桃子「・・・・・」ゴゴゴゴ

憧「・・・」ゴクリ

菫「それでも・・・・私はゆみ様を想い続けます。好きでいることだけはお許しください」

ゆみ「そ、そうだな。私も個人の感情までをどうこう言うつもりはない」

菫「ありがとうございます」ニッコリ

ゆみ「ああ・・・」ドキドキ

桃子「モテ期到来、おめでとうございますっす」

ゆみ「ありがとう。私の人生も捨てたものではないなぁああああ!!?モモ!!?」

桃子「はいっす」

ゆみ「今のはその・・・・違うんだ、別に私は・・」チラ

菫「・・・・」ジー

ゆみ「あ、いや、ええと・・・・違うというのは悪い意味ではなく・・・・」

智美「ワハハ」スタスタ

華菜「何を騒いでるし?」

智美「ワハハ」

美穂子「うふふ、微笑ましくていいですね」ポリポリ

憧「リラックスしすぎ・・・漬け物食べてるし」

美穂子「我慢出来なくなってしまったの」ニコリ

憧「?」

貴子「戦いが終わったばかりなんだ。ゆっくり休め」スタスタ

智美「ワハハ」

絹恵「あの・・・大丈夫なん?」

智美「ワハハ」

玄「うん・・・・・牛乳飲んだら少し良くなった」

智美「ワハハ」

ゆみ「分かったから!ちょっと静かにしてろ!・・・みんな・・・・よかった。勝ったんだな」

華菜「あたし!が負けるわけないし!」

貴子「はっ、たりめえじゃねぇかよ」

玄「あれ?・・・こっちも終わってる。ということは私たちの勝ち、ってことでいいのかな?」

灼祖母「ああ、その通りだよ」ゴクゴク...ッカァー

灼「お疲れ様」ゴクゴ...ッカァー

玄(人を戦わせておいて炭酸飲んでる・・・・)

灼祖母「あなたたちのおかげで助かったよ」

灼「これで借金も帳消しかな?」

菫「・・いや、そもそも・・・」

?「あとは私が説明するよ」ザッ

憧「ん?・・・・あれ・・・この人・・・」

?「こんにちは。熊倉 トシです」ペコリ

灼祖母「・・・・」

トシ「久しぶりだね」

灼祖母「ええ」

灼「確か・・・ハルちゃんがいたチームの監督・・・どういう関係なの?」

灼祖母「古い知り合いだよ」

トシ「ええ。・・・・それで、借金の件だけどね」

灼「・・・・はい、弘世さんから借りたって・・・」

トシ「実は・・・・嘘なんだよ」

灼「え?」

トシ「借金なんてないのさ」

玄「え、でも取り立てがどうとか・・・・」

トシ「・・・妙に思わなかったかい?」

玄「?」

トシ「愛宕さんたちが間に入るのもそうだし、名家である弘世家のお嬢さん自ら借金の取り立てに来るなんてあり得ない話だろう?」

憧「・・・・確かに」

菫「///」スリスリ

ゆみ「あ、あんまりくっつかないでくれ・・///」

桃子「・・・・」ムムム

玄(最初からずっとおかしいとは思ってたけど・・・)

華菜「何が本当で何が嘘だし?」

灼祖母「セクシーキャバクラが素晴らしいというのは本当さ」

トシ「・・・・・そう、彼女がセクシーキャバクラで遊んでいたのと、お金を千円借りたのは本当さ」

玄(千円・・・・)

トシ「ただお金を貸したのは弘世家ではなくて私。そしてお金を返してないというのが嘘」

灼祖母「・・・・」

トシ「翌日にはすぐに返してもらった」

玄「・・・どうしてそんな嘘をついたんですか?」

トシ「・・・・腹立たしくてね」

玄「え」

トシ「私が何度告白しても断るくせに、若い子相手にキャッキャしているこの人がどうしても許せなかった」

灼祖母「・・・・」

玄「???」

トシ「だから弘世さんたちに軽く暴れてもらうようお願いしたのさ」

玄(メチャクチャな発想だよぉ・・・・)

トシ「悪いのは私。彼女たちに罪はない。恨まないであげとくれ」

玄「・・・・はい」

トシ「それにしても・・・・あんたは変わらないね」

灼祖母「・・・・」

トシ「借金がどうとか言っても全然動じないんだもの。身に覚えがないんだから突っぱねればいいのに」

玄「そ、そういえば・・・・否定も何もしなかった・・・」

灼祖母「あんたの仕業だと気付いたからねえ」

トシ「え?・・・・じゃあ何故・・・」

灼祖母「・・私もそろそろ人恋しくてね」

トシ「え」

灼祖母「新しい彼女を作るのもいい、なんて思ったのさ」

トシ「そ、それじゃ・・・・」

灼祖母「・・・・根負けしたよ。ここまで私にこだわる女はあんたが初めてだ」ゴクゴク...ッカァー

トシ「・・わ、私の気持ちを受け入れてくれるのかい?」

灼祖母「ああ」

トシ「ぎっちゃん!!」ダッ!

灼祖母「トッシー・・・」ダキッ

チュ...レロ..ジュルジュル..ッカァー

玄「・・・・」

灼「・・・おばあちゃん。おめでとう」ウル..

灼祖母「ちゅぱ・・・灼・・ありがとう」

トシ「はぷ・・・みんなのおかげで、ぎっちゃんと付き合えるようになったよ。本当にありがとう」

穏乃「おーい!勉強終わりました~!賢くなったよぉ~!」

トシ「それはめでたい!よぉし、私のおごりだ!カラオケに行くよ~!」

全員「おー!」

カラオケボックス

華菜「♪し!俺たちはいつまでも~」

貴子「サビだな池田ァッ!」テビョーシ

美穂子「曲名?歌手名?・・・・この機械どう動かすのかしら?」

華菜「ここをペンで触るし!!」

貴子「歌ってる途中で喋るなァッ!!」

美穂子「うーん、難しいわね。前の画面へはどうやって戻ればいいの?」

華菜「ならあたし!がやるし!デュエットし!ましょうし!」

貴子「私が先約だァッ!!」グイ

華菜「引っ張らないでほし!ーし!」

貴子「福路とばかり喋ってんじゃねェ!!私とも喋れ池田ァッ!!」

穏乃「いやぁ~、灼さんの部屋に初めて入れてもらったけど、いい部屋ですね!」

灼「そんなことないよ」

穏乃「なんてゆーか、灼さんらしい感じ?優しい部屋でした!」

灼「ありがとう」

穏乃「あと灼さんの教科書、色々書き込みがあってすっごく勉強になりました!」

灼「それならよかった」

穏乃「・・・それでですね、今度・・・・べ、勉強を見てもらうなんてのは・・・ダメですか?」

灼「別にいいけど」

穏乃「や、やった!ありがとうございます!!」

穏乃(二人っきりで遊べるチャンス!)オォー

憧「しょうがないなぁ、あたしがじっくり教えてあげるよ」ズイ

穏乃「あ、憧?」

憧(二人になんてさせない!)ゴォォ..

灼「憧も一緒なの?それなら私が勉強教えなくても十分・・・」

穏乃「いえ!灼さんに教わりたいです!」

灼「そう?」

憧「どうせならさ、ハルエも呼んで四人で勉強しようか?」

憧(しずはあたしに任せて、灼さんはハルエとイチャイチャしてな)ククッ

灼「ハルちゃん?」

憧「そ。灼さんの部屋でさ」

灼「え・・・ハルちゃんが私の部屋に来る・・・?」ゴクリ

灼(私がいつも・・・・してる空間にハルちゃんが・・・)ドキドキ

穏乃「赤土さんは呼ばなくていいよ!」

憧「大丈夫!灼さんに押し付けるから!」

穏乃「それじゃ意味ない・・・・あ、じゃあこうしよう。グループをあいうえお順で二つに分けよう。赤土さんと憧ペアで」

憧「却下!」

灼(私のベッドに腰を下したりして・・・)ハァハァ

穏乃「だったら背の順で二つに分けよう」

憧「それもさっきと同じ・・・・はぁ・・・じゃあそれでいいよ」

穏乃「お、決まりだ。私と灼さんペア、憧と赤土さんペアね」イヒヒ

憧(ふん、今のうちに喜んでなさい。最終的にペアを交換してエッチする展開にまで持ってってやる・・・・)クホ

灼(うちの便座にハルちゃんヒップが乗るんだ・・・・)ドキドキドキ

誠子「はぁ・・・」

尭深「そんなに落ち込まないで」ズズ..

誠子「でもさ、私に吊れない鼻があったなんて・・・」

尭深「うん・・・私も驚いた」

誠子「・・・はぁ」

尭深「・・・・そんなに悔しいことなの?」

誠子「え?」

尭深「吊れなかったのが」

誠子「・・・・・うん」

尭深「どうして?」

誠子「・・・尭深を喜ばせてあげられなかったから」

尭深「!」チャプ

誠子「私の唯一の特技なのに・・・それで失敗するなんて・・・はぁ・・・」

尭深「・・・・大丈夫」

誠子「え?」

尭深「今ので・・・十分」

誠子「・・・・?」

尭深「誠子の言葉、私は凄く嬉しかったから」ニッコリ

誠子「あ・・・///」

尭深「これが・・・私の気持ち」スッ

誠子「?・・・お茶・・・・あ」

尭深「///」

誠子「茶柱が・・・勃起してる・・・」ゴクリ

ゆみ「・・・・」

菫「・・・・・」スリスリ

桃子「・・・・」ヌヌヌ

ゆみ「えと、弘世さん」

菫「菫とお呼びください・・・ゆみ様//」ポ

ゆみ「い、いや、その・・・」

桃子「・・・・」ヌヌム

ゆみ「・・・・」

菫「・・・・・」ジー

ゆみ「す、菫・・・」

菫「っ、はい!」ニコッ

桃子「・・・・」ヌワァヌムム

ゆみ「・・・私はモモが一番好きだよ」ヒソヒソ

桃子「・・・じゃあ弘世さんが二番目っすか?どれくらいの差っすか?順位変動あるっすか?」

ゆみ「え、それはその・・・・」

桃子「弘世さんに聞こえないように喋るってことは、同じように言うつもりっすね?」ギロロ

ゆみ「ば、ばかな・・・私がそんな策略を使うものか・・・」

菫「ゆみ様・・・」ベッタリ

桃子「ちょ、くっつきすぎっす!先輩はこっちにくるっすよ!」ギュムッ..フニッ

ゆみ(うっ・・・二人の胸の感触が・・・・腕に・・・・)

ゆみ「うぇへ・・・へへへ・・・」

絹恵「なんか・・・・周りが凄いことになってるなぁ」

雅枝「今時の子にはついていけんわ」

玄「ですね・・・・」

絹恵「松実さんは気になる人とかいてます?」

玄「え?気になる人かぁー・・・」チラ

絹恵「?」ボイーン

雅枝「?」ボビーン

玄「・・・・います」

絹恵「へぇー、どんな人?」

玄「その・・・」チラッ

絹恵「え?わ、私?」

玄「・・・えへへ」ニッコリ

絹恵「う・・・///」ドキッ

絹恵(ほ、ほんまに私なん?あかん、めっちゃドキドキしてきた)カァァ..

雅枝「完全に胸見て言うてるぞー」オーイ

トシ「なんか・・・いいものだね」

灼祖母「そうだねぇ。青春を謳歌してる」

トシ「・・・・私たちも負けちゃいられないねぇ?」

灼祖母「トッシー?」

トシ「デートなんてとんとご無沙汰だから、勘を取り戻すのは苦労しそうだ」

灼祖母「ふふ・・・慌てる必要はないよ。急いでもいいことはない」

トシ「・・・ぎっちゃん・・」

灼祖母「ゆっくり、のんびり、私たちのペースで歩いて行こう」

トシ「・・・うん」フフッ

灼祖母・トシ「・・・・・・」

チュ..レロ..ハム..

智美「ワハハ。私も自分なりのペースで頑張るぞー」

【完】

以上です。

地の文を書くのが初めてということと、語彙が貧弱なせいで変な箇所も多いと思いますが、

読んでくれた人、支援してくれた人、どうもありがとうございました。

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