竜「なにをしに、ココにきた?」村娘「食べられに」(212)

<村>

村娘「あの……なにかお手伝いできることは──」

村人A「ふん、魔女の娘に手伝ってもらうようなことはねぇよ!」

村人B「けがらわしい……」

村娘「は、はい……」

村人A「図々しい女だ!」

村人B「あっち行けよ」シッシッ

村娘「……すみません」スタスタ

婆「アンタたち、またあの女に話しかけられたのかい」

村人A「バアさん」

婆「あの女の母親は魔女だったんだからね」

婆「絶対に気を許しちゃいけないよ」

村人A「もちろんだ!」

村人B「もっとも……例外はいるけどね」

婆「あの青年と、浮浪児かい」

婆「まったく、困ったもんだよ」

<村外れ>

村娘「ふぅ……」

少年「お姉ちゃん、またいじめられたのかい」

少年「もう出てった方がいいんじゃないの、この村から」

少年「ここにいても、ろくなことないじゃん」

村娘「うん……ありがとねボウヤ」

村娘「でも、ここを出ても行くアテはないし……」

青年「やあ、村娘ちゃん」

村娘「あ、青年さん!」

青年「……さっきも村の人たちに、なにかいわれてたみたいだね」

村娘「うん……でも、仕方ないわ」

村娘「お母さん、魔女だったんだし……」

青年「ちがう!」

青年「君のお母さんは魔女なんかじゃないよ!」

青年「たしかに君のお母さんは、魔力を宿していた」

青年「そして、この国では禁じられている“一般人の魔法使用”を犯してしまった……」

青年「だけどそれは世を惑わすためではなく、病気の君を助けるためだ!」

青年「もし君のお母さんが法に触れることを恐れていたら、今頃君はここにはいない」

青年「君のお母さんは……命を賭けて君を助けたんだ」

青年「断じて魔女なんかじゃない!」

村娘「うん、ありがとう……」グスッ

少年「へへへ、なかなかいいこというじゃん」

青年「──でも、さっきのはボウヤにも一理ある」

青年「村人たちの君への態度は、日に日に厳しくなっている」

青年「俺がずっとついていればいいんだが……時々かばいきれなくなって、ごめん」

村娘「ううん、いいの……ありがとう」

少年「お兄ちゃんは優しいなぁ」

青年「……それと、心配事がもう一つ」

青年「君も知っているだろう? 近くの山に住む、竜のことを……」

村娘(竜……!)

青年「あの山で、俺が知ってるだけでもこの辺りの人間が9人も竜に殺されている」

青年「この村からも3人犠牲者が出てる」

青年「しかも、みんな若い女性だ」

青年「それを考えると、君なんかはうってつけの獲物だ」

青年「ヤツが山を下りてきたという記録はないが、もし下りてきたら──」

村娘「…………」ゴクッ

村娘(私が狙われる可能性が、高い……)

少年「ねえねえ」

青年「ん?」

少年「なんなのさ、竜って」

少年「ボクにも教えてよ」

青年「君もこの村に住むのなら、知っていた方がいいね」

青年「竜ってのは、数ある魔物の中でも鬼や悪魔と並び称される存在だ」

青年「屈強な牙や鱗を持ち、吐く息は岩をも溶かす」

青年「知能は人間と同等、悪知恵が働き、人に化けることすらあるという」

青年「さらに力は強いわ、空は飛ぶわ、寿命は長いわで、非の打ちどころがない」

青年「優れた戦士なら竜も倒せるとはいうけどね」

少年「なんでそんなのが近くにいるのに、村の人は逃げないわけ?」

青年「あの竜がいつからあの山にいるかは知らないけど」

青年「竜が人を襲うようになったのは、ここ数年のことなんだ」

青年「それに……さっきの村娘ちゃんじゃないけど、ここを出ても行く場所がなきゃね」

青年「決して陽気な場所ではないけど、慣れ親しんだところでもあるしさ」

青年「人はなかなか住む場所を変えられないものなのさ」

少年「ふうん」

村娘「……二人とも、ありがとう」

村娘「私は大丈夫」

青年「村娘ちゃん」ガシッ

村娘「えっ」ドキッ

青年「俺はいつだって君をみ──!」

青年「い、いや……なんでもない……」

少年「君を見守っているから、かな? いやいや、魅力に感じている、かも!」クスッ

青年「コ、コラ、茶化すなよ」カァ…

村娘&青年&少年「アッハッハッハッハ……!」

しかし村娘への、村人からの迫害は続いた。

婆「けがらわしいから、近寄るんじゃないよ! あたしにも呪いをかける気かい!?」

村娘「す、すみません……」

村人A「失せろ、ジャマだ!」ドンッ

村娘「ごめんなさい! すぐにどきます!」

村人B「魔女の娘が……!」ボソッ

村娘「向こうに行きます……」

村娘「うぅっ……ぐすっ」

青年「村娘ちゃん、大丈夫だ!」

青年「そうだ、俺と一緒にダンスでも踊ろうよ!」

少年「あっ、ボクとも踊ってよ!」

村娘「ありがとう……二人とも」

青年「君に涙は似合わないよ。さ、踊ろう!」スッ

村娘「うん……!」



婆(ちぃっ、また余計なことを……!)

<村の集会所>

婆「ちょっとアンタ」

青年「なんでしょう……?」

婆「アンタは村一番優秀で、将来はこの村を背負って立つ人材なんだ」

婆「なのに、なんであんな魔女の娘に関わってるんだい」

婆「あんなのと関わったら、アンタまでおかしくなっちまうよ」

村人A「そうだそうだ!」

村人B「悪いことはいわない……関わるのはやめとけ」

青年「…………」

青年「彼女は魔女なんかじゃないっ!」

婆「!」ビクッ

青年「彼女の母親はただの子供想いの母親でっ!」

青年「彼女は普通の人間なんだっ!」

青年「俺はいつだって彼女のことをみ──……」ハッ

村人A「彼女のことを、なんだぁ!?」

青年「…………」

村人A「いってみろよ、オイ!」

青年「…………」

村人A「……ちっ!」

村人B「あ~あ……やれやれ、そういうことか……」フゥ…

青年「ちっ、ちがう! ──俺はそんなんじゃないっ!」

青年「とにかく、俺は彼女を見捨てることはしないよ! 絶対に!」ダッ

婆「ちょっと、お待ち!」

婆「……行っちまったか」

婆「ちっ、バカな奴だよ、まったく」

村人A「やれやれ困ったことになったなぁ、バアさん」

村人B「まさか彼をたぶらかすなんてね、やはり魔女の血を引いているよ」

婆「まったくどうしてくれようか、あの魔女の娘……!」

村娘「──聞いたわ、集会で私のことが議題に上がったって」

村娘「青年さん、もう私に関わらない方が……」

青年「なにをいってるんだ!」

青年「俺のことなら気にしなくていい!」

青年「君は自分が幸せになることだけを考えればいいんだ!」

村娘「うん……ごめんなさい……ありがとう……」グスッ

青年「さて今日は俺も暇だし、ボウヤと三人で何かして遊ぼうか」

少年「賛成!」

村娘「うん……!」

<村の集会所>

婆「今日の議題は、あの魔女の娘についてだよ」

婆「奴の母親のせいで、この村は王からの助成金を打ち切られちまった」

婆「そろそろなんとかしないといけないねえ」

青年「…………」

村人A「こっちから誠意を見せないといけねえな」

村人B「そうだね。この村全体としての総意としてね」

婆「追放するだけじゃなまぬるい」

婆「だから……いっそ始末するってえのはどうかねえ?」

青年「!?」

村人A「そりゃあ名案だ」

村人B「娘の死体を差し出せば、王もきっと許して下さるよ」

青年「ちょっと待ってくれ!」

青年「そんなこと、許せるものか! 彼女をなんだと思ってるんだ!」

青年「いくら村のためとはいえ──!」

婆「どうしてだい?」

婆「あの娘の母親のせいで、この村がさびれたのは事実なんだよ!」

婆「それにアンタの目を覚まさせるいい機会さ」

婆「アンタにゃ、あんな女にたぶらかされず、しっかり勉学に励んでもらって」

婆「村を出て──この村に巨万の富をもたらしてもらわなきゃならんのだからねぇ」

青年「ふ、ふざけるな!」

村人A「ま、お前がいくら反対しようと俺らはやるぜ」

村人B「多数決多数決、これも村のためさ」

青年「…………!」

少年「いいじゃない」

婆「ん、ガキ! どっから入ってきたんだい!?」

村人A「てめぇみたいな子供が来るところじゃねえ、とっとと出てけ!」

少年「どうせならさぁ……」

少年「山に住んでる竜に殺させればいいんじゃない?」

少年「直接手を下すのは後味悪いし、わざわざ手を汚すこともないでしょ?」

青年「君はなんてことをいうんだ!」

婆「ほぉう、悪くないね」ニヤッ

婆「クソガキのくせになかなかいいこというじゃないか」

青年「なにをいってるんだ! アンタら本当に人間か!?」

婆「もちろん人間だよ」

婆「れっきとした、ね」

村人B「自分たちの生活のため、必要な犠牲を出す」

村人B「実に人間らしい行為じゃないか」

青年「そんな……!」

婆「そうさ、それが人間ってもんさ」

婆「そして人間じゃない魔女はどうされても文句はいえないのさ」

婆「決まりだね」

婆「竜のいる山にあの娘を送るのは、一週間後にしよう」

集会後──

青年「見損なったぞ!」

少年「え、どうして?」

青年「君は村娘ちゃんの世話になってるのに、なんであんなこと──!」

少年「世話になってるからこそ、さ」

少年「ボクだって、あれ以上お姉ちゃんの不幸なところを見たくないんだよ……」

少年「ましてや村の人たちに袋叩きにされてるところなんか……」

青年「くっ……!」

<村娘の小屋>

バンッ!

青年「逃げよう!」

村娘「え?」

青年「たった今、集会で君を竜の餌食にすることが決定した!」

青年「このままでは、君は竜に殺されてしまう!」

青年「あいつらのいない、安全なところまで俺が送ろう」

青年「さ、早く!」

村娘「…………」

村娘「いえ、私はここで運命をまっとうします」

青年「!?」

村娘「私のお母さんが魔法を使って私の病気を治したおかげで」

村娘「この村が王様から罰を受け、助成金を得られなくなったのは事実です」

村娘「ですから今度は私が一人で……その罰を受け入れます」

青年「だけど……!」

村娘「もういいんです……ありがとう……」ニコッ

青年(村娘ちゃんは自分の過酷な運命に疲れきってしまっている!)

青年(なんとか説得しないと……!)

婆「ひっひっひ、いい心がけじゃないか」ザッ

青年「!」

婆「あの竜は若い女を食う」

婆「ただし食うといっても、全部食うわけじゃない」

婆「一部だけ食って、あとはほとんど残してる。でかい図体して贅沢なもんさ」

婆「もっとも残った部分は弄んだのか、グッチャグッチャになってるがね」

青年「おバアさん……!」

婆「グッチャグッチャのお前の死体を王に見せれば」

婆「きっとまた村は潤うはずさ」

婆「ひぃっひっひっひっひ!!!」

村娘「分かりました……私の命、この村のために捧げます」

婆「一応逃げられないよう見張りは立てるが、逃げようとしたら承知しないよ」ジロ…

村娘「……もちろんです!」

青年(くっ……ふざけるな!)

青年(あの竜に村娘ちゃんを殺させるなど! 絶対許せない!)

青年(そんなことさせるもんか!)

青年(かといって俺じゃ、竜にはとてもかなわない……)

青年(村娘ちゃんと一緒に殺されるのがオチだ)

青年(優れた戦士でなきゃ、竜は倒せない……!)

青年「そういえば、“竜殺し”の剣士が今この国にいるというウワサを聞いたな」

青年「もし連絡が取れれば──……」

一週間後──

婆「じゃあアンタたち、頼んだよ」

村人A「竜の巣の近くに、こいつを置いてくりゃいいんだよな?」

村人B「夕方になったら死体を取りに来よう」

村人A「もしその時生きてたら、俺たちがぶっ殺してやるからな!」

村人A「手をわずらわせるんじゃねえぞ!」

村娘「は、はい……」

少年「行ってらっしゃい……お姉ちゃん」

青年「…………」

<山>

村人A「これでようやく村の疫病神を始末できるな」

村人B「ホントだよ、もっと早くこうしとけばよかったんだ」

村人A「しっかし俺たちまで山に入って大丈夫か?」

村人B「竜が若い男を殺した、という事例はない。大丈夫さ」

村娘「…………」

村人A「オラ、ちゃっちゃと歩け!」ドンッ

村娘「は、はいっ!」ヨロッ

村人B「この辺でいいだろう」

村人A「よし、じゃあこっからはお前一人で行け」

村人A「せいぜいむごたらしく殺されることを期待しとくぜ」

村人A「あばよ」ザッ

村人B「もう会うこともないだろうさ」ザッ

ハッハッハッハッハ……!

村娘「…………」

村娘「……さてと、あとは竜に会うだけね」

グルルルル……

村娘「!?」ビクッ

村娘(これが竜の声……? なんて大きい唸り声なの……!?)

村娘(怖い……)

村娘(でも……もっと近づかなくちゃ!)

村娘(あれ以上村にいたら、青年さんに迷惑をかけてしまうし)

村娘(村を出て、生きていくアテもない……)

村娘(やっと……楽になれるんだわ)

村娘(お母さん……助けてくれたのに、本当にごめんなさい……)

グルルルル……

村娘「どんどん声が大きくなってきた」

村娘「こっちの方にいるのね」

村娘「!」

グルルルル……

村娘「これが……竜!」

竜「ホウ、こんなトコロにニンゲンがくるとはな」

村娘(鋭い牙、硬そうなウロコ……青年さんのいったとおりだわ!)

竜「なにをしに、ココにきた?」

村娘「食べられに」

竜「たべられに、だと……?」

竜「ハッハッハッハッハ……!」

竜「かわったニンゲンがいたもんだ。イノチがいらないのか?」

村娘「私にはもう……こうするしかないんです」

村娘「もうこの国に、私が生きられる場所なんてない」

村娘「できれば……一瞬で楽にして下さい」

村娘「私にはもう、こうするしかないんです!」ポロポロ…

竜「たべないよ」

村娘「え?」

竜「だって、アレだけ優しくしてもらったんだしナ」

村娘「優しく……?」

竜「まだわからないかい。ってわかるワケがないか、ハハ」

竜「ボクだよ、ボク」

村娘「…………」ハッ

村娘「まさか、あなた──」

<村>

青年「お待ちしておりました」

剣士「うむ」

青年(なんて巨大な剣だ……!)

青年(人間なんか一振りで胴体ごとちぎれ飛んでしまいそうだ)

青年(もっともこのくらいの剣でなきゃ、竜には通じないんだろう)

青年「その剣で、数々の戦乱を生き延び、“竜殺し”の異名を勝ち取られたのですね?」

剣士「うむ、これは私にしか扱えまい」

青年「その腕を見込んで、ぜひドラゴン退治をお願いします!」

剣士「任せておけ」

青年(村娘ちゃん、必ず助けるからね……!)

<山>

竜「今まで、ダマっててごめんね」

村娘「あなた……あのボウヤなの!?」

村娘「でも、どうして……!?」

竜「村のヒトたちはオネエちゃんをコロそうとしてた」

竜「だから竜にくわせてやれってアドバイスしたのはボクなんだよ」

竜「ボク、どうしてもオネエちゃんを助けたかったから」

村娘「そうだったの……」

竜「あのオニイちゃんがいってただろう?」

竜「竜はヒトに化けることもできるんだって」

村娘「でも、どうしてあんな子供に……?」

竜「いや好き好んでコドモに化けたワケじゃない」

竜「好きな姿に化けられるワケじゃなく、ボク自身の年齢や性別がハンエイされるから」

竜「ボクはこれでも100年は生きてるケド」

竜「竜としてはまだまだコドモだってことさ」

村娘「……くすっ」

竜「な、なにがおかしいんだよ!」

村娘「だって、こんな大きい竜が、人間になるとあんなに可愛い子供だなんて……」

竜「ウウウ……」

竜「ホントウにたべちゃうぞ!」

村娘「いいわよ、元々そのつもりだったし」

竜「……たべるワケないだろ」

竜「もしたべるつもりなら、ニンゲンの姿でユダンさせてとっくにたべてるよ」

村娘「ふふっ、ありがとね」

村娘「……でも」

村娘「いったいどうして、アナタは人間に化けていたの?」

村娘「それに……どうして女の人を何人も殺したりしたの?」

村娘「私をこうして助けてくれたのに、どうして……!」

竜「…………」

竜「それは──」

ザッ ザッ ザッ……

青年「どことなく足取りが慣れた感じですが……」

青年「もしかして……この山は初めてではないんですか?」

剣士「まぁな」

剣士「だからこの山の竜のことも知らぬわけではない」

青年「なるほど……」

青年「とにかく急ぎましょう。村娘ちゃんが食べられてしまいます!」

剣士「……うむ」

村娘「──えっ、あなたじゃないの!?」

竜「そうさ、竜ってのはコレでもあまりたべなくてイイからね」

竜「草や木、土を食べるだけでジュウブン生きていけるんだよ」

竜「ヒトをコロすどころか、この山でケガした子を助けたこともあるくらいさ」

竜「へへへ、ボクやさしいだろ?」

村娘「そうだったの……ごめんなさい!」

竜「でもここ数年、村の女のヒトが次々山でコロされて」

竜「しかもそれが全部ボクのせいになってるっていうじゃないか」

竜「だから……真犯人を見つけるために、ヒトに化けたんだよ」

村娘「……犯人は分かったの?」

竜「ううん、結局ワカらなかった」

ザッ!

青年「そこまでだ! 殺人ドラゴンめ!」

剣士「……よし、お前さんはあの娘を連れて逃げろ」

剣士「あとは俺が引き受ける」

青年「分かりました!」ダッ

青年「村娘ちゃん、こっちへ!」グイッ

村娘「あっ、でも!」

竜「アンタは、ダレだ!?」

剣士「ふん……この剣のサビになる輩に、名乗る意味はないな」チャキッ

タッタッタ……

村娘「ねぇ、待って!」

青年「大丈夫、もう大丈夫だよ!」

村娘「あの竜は──」

青年「大丈夫、あの剣士がすぐに退治してくれるさ」

青年「彼は“竜殺し”と恐れられる剣の使い手なんだ」

青年「彼がいうには、唸り声からしてここの竜はまだ子供だっていってたし」

青年「絶対倒せるよ!」

村娘「そ、そんな……ダメよ!」

青年「……どうしてだい?」

村娘「あの竜の正体は──ボウヤなのよ!」

青年「なんだって!?」

村娘「だけど、ボウヤは人を殺してなんかいないの!」

村娘「真犯人を見つけるために、人に化けてたの!」

青年「なっ……」

青年「そんなのウソに決まってるだろう!」

青年「品定めのために、人に化けていたに決まってる!」

村娘「違う! だってもしそうなら、私はとっくに殺されていたわ!」

村娘「だから一緒に戻って、あの剣士さんを止めて!」

青年「…………」

青年「分かったよ」ザッ

村娘「ありがとう……」

青年「君を説得できないってことが、よく分かった」

村娘「え?」

青年「もうちょっと君とは親しくなりたかったけど、仕方ない」

青年「今が一番のチャンスかもしれないし」

村娘「チャンス……?」

青年「俺はずっと君を──み」

青年「み……み……み」

青年「み、み……み、み、み……み……み、み……」

村娘「!?」

青年「み……ミ、み、ミミ、ミ……ミミミミ……」

青年「ミンチにしたかったんだァァァァァッ!!!」

村娘「ま、まさか……」ガタガタ

村娘「今までこの辺りの若い女性が殺された事件は……みんなあなたが……」ガタガタ

青年「そうさ」ニコッ

青年「ある時、俺はちょっとしたイザコザで、ある女性を殺してしまった」

青年「いくら俺が村の期待を背負う秀才といっても、さすがに殺しはヤバイ」

青年「だから女の死体をグッチャグッチャにして、村人に発見させた」

青年「俺が“きっと竜の仕業だ”とつぶやいたら、奴らは簡単に信じたよ」

青年「そして事件を間接的にしか知らない君のような人間の間でも」

青年「竜が若い女を殺した、というのは周知の事実になった」

青年「──と同時に、俺も新しい快感に目覚めてしまった」ニィ…

青年「ちょうど君くらいの年齢の女を、グチャグチャのミンチにするという快感にね」

青年「よその村の女をターゲットにした時も同じ手を使ったら」

青年「奴ら簡単に誘導に引っかかって、竜の仕業だと疑わなかった」

青年「ま、同じ人間があんな殺し方をするなんて思いたくもなかったんだろうね」

青年「そして親しくすればしていただけ、それだけミンチにした時の快感が増す」

青年「だから……魔女の娘といわれる君とも仲良くやっていたんだよ」

青年「仲間外れになってる奴ほど、優しくすれば簡単に心を開くからね」

青年「だけど村の連中が、君を殺すなんていい始めた時は焦ったよ」

青年「しかも竜に襲わせるなんて……もったいないにも程がある」

青年「もっともあの竜は、君を助けたかったようだけどね」

青年「でもまあ、竜は剣士に退治されるだろうし、君もこれから俺の餌食になる」

青年「めでたしめでたし、ってわけさ」ズイッ

村娘「ひっ……!」

村娘「いやぁぁぁっ!」ドンッ

タッタッタ……

青年「無駄だよ、君はこの山に入ったことなんてほとんどないだろう?」

青年「だけど俺にとっちゃ、この山は庭みたいなもんさ」

青年「なんたって今までの殺しは、全てこの山で実行してきたんだからね」

青年「逃げられやしないよ」

村娘(なんとかしてあのボウヤのところに戻らなきゃ……)

村娘(私も……あのボウヤも……! 助かってみせる!)

村娘(でも、だいぶ離れてしまったから場所が……!)

ザシュゥッ!

竜「ウ……グ……ッ!」ドズゥン…

剣士「あっけない……いかに竜といえど、子供では相手にならんな」

剣士「終わりだ」

竜(強い……! とてもボクじゃ太刀打ちできない……!)

剣士「眠れ」チャキッ

竜(もう……戦えナイ……)

竜(せめて……)

竜(せめて、ヒトに化けたボクに優しかったオネエちゃんたちに最期のアイサツを……!)

竜(サヨウナラ……)







グオオォォォォォォン……!

村娘「!」

青年「!?」

村娘「あっちね!」

青年「ちぃっ! あのガキ、余計なマネしやがって!」

村娘「──お願い、無事でいて!」ダッ

青年「逃がすかよぉっ!」ガシッ

村娘「ああっ!」

青年「細い首だねぇ~、実にキュートだ」ギュウッ

青年「絞め殺してから、ゆっくりミンチにしてやるからね……!」ギュゥゥ…

村娘「あ……あ、あ……!」

村娘(お、お母さん……)

母『あたしはまもなく捕まって、処刑されるだろう』

母『最後に、一番簡単な呪文だけ教えといてあげる』

母『だけど、この国では国が認めた人以外が魔法を使うのは厳禁だから』

母『どうしてもという時以外、使っちゃいけないよ』

母『本当はこんなことより、教えたいことが山ほどあったんだけどね……』



村娘「う、ぐぐ、ぐ……!」ジタバタ

青年「ハハハ……暴れたって無駄だよ。もう大声は出せない。終わりだ!」

村娘(呪文は……必ずしも大声を出す必要はない!)

村娘「…………」ボソッ

青年「ん?」

ドンッ!

ドザァッ!

青年「ぐ、は……!」

青年(なんだ今のは……衝撃波!? なにかボソッとささやいたのは、呪文か!)

村娘(お母さん、ありがとう……!)ダッ

青年「げほっ、げほっ……くっ!」

青年「ふん、やっぱり魔女の娘は魔女だったってわけだ」

青年「…………」ブチッ

青年「逃がすかっ!」

青年「二度と呪文なんか唱えられないよう、今度はそのノドを潰してやるっ!」ダッ

タッタッタ……

村娘(──いた! まだ、ボウヤも生きてる!)ハァハァ

村娘(あとはなんとか話し合──)

青年「おっとぉっ!」ガシッ

ドザァッ!

村娘(口を、塞がれた……!)

竜「オネエ、ちゃん……?」

剣士「む!?」

剣士「お前さんたちは逃げたはずだが、どうして戻って来たのだ?」

青年「二人で山を下りていたら、彼女が突然錯乱してしまったのです」

青年「私は食べられるために竜のところに戻る、と──」

青年「竜は賢い生き物です」

青年「おそらく村娘ちゃんは、竜に暗示でもかけられているのでしょう」

青年「さあ早く、竜にトドメを!」

竜(ボクはそんなことしていナイ……)

竜(だったらオニイちゃんは、なんでこんなウソをつくんだ……?)ハッ

竜(──そうか、今まで女のヒトをコロしてきたのはこのヒトか!)

竜「チガウ! ボクはやってない!」

竜「今までに女のヒトをコロしたのも、みんなオマエだな!」

青年「人を濡れ衣を着せようとは、やはり悪知恵が回るもんだな」

青年「さあ早くトドメを!」

村娘「うぅっ、むうっ! うぐっ!」ジタバタ

青年「この人食い竜め!」

竜「ボクじゃない!」

剣士「…………」

剣士「竜は鬼や悪魔と並ぶ、最上位の魔物……狩れば俺の名も上がる」

青年「そのとおり!」

剣士「さてと最上位の魔物を一匹……狩らせてもらおうか」ザッ

竜「ウゥッ……!」

ドゴッ!

青年「ゲボォッ! ──え、なんで……!?」グラッ…

ドサァッ……

剣士「土壇場になると、目というのは口以上に真実を語る」

剣士「目を見れば、ウソかどうかすぐに分かるということだ」

剣士「……この殺人鬼が」

村娘「うぅ……」

剣士「もう大丈夫だ、ゆっくり呼吸しろ」

少年「お姉ちゃん!」

村娘「あ、ありがとうございました……」

村娘「でもお願いがあります……ボウヤを、竜を殺さないで……!」

剣士「安心しろ。ハナから殺すつもりはない」

少年「え!?」

剣士「もちろん、本当に殺人竜だったら狩らなきゃならんところだが──」

剣士「俺にはこの竜が人を殺すとはどうしても思えなかった」

剣士「だから元々気絶くらいにとどめ、お茶を濁すつもりでいた」

少年「もしかして……ボクのことを知ってるの?」

剣士「ああ、お前さんは覚えてないだろうが──」

剣士「ガキの頃、山に迷い込んで……足をくじいた俺を助けてくれただろ」

少年「…………」

少年「あっ、あの時の!?」

少年(どことなく面影がある……!)

剣士「そうだ」

剣士「だから、今回の件もなにかの間違いじゃないかって思ってた」

剣士「そして、さっきのやり取りで全てを確信したってわけだ」

うまい事乗せられた感あるわ

村娘「でも……あの人を捕まえても、証拠がないと──」

剣士「大丈夫だ」

剣士「ああいう奴は、絶対に殺しのたびに“コレクション”をしてるもんだ」

剣士「奴の家をちょいと調べれば、証拠の一つや二つあっさり出てくるだろう」

村娘「なるほど……」

剣士「ところでお前さん、魔法を使ったな?」

村娘「!」ギクッ

剣士「弱々しいが魔力の波動を感じる」

剣士「この国では一般人は魔力を持ってるだけで、差別の対象になる」

剣士「まして、魔法の研究や使用は厳禁のはずだ」

村娘「そ、それは──」

剣士「──なるほどな。母親に教わっていたのか」

剣士「だが王宮の魔術師は、国内のどんな小さな魔力の波動でも嗅ぎつけると聞く」

剣士「もうこの村……いやこの国を出た方がいい」

剣士「その竜ともどもな」

剣士「一匹だけで暮らしてる子供の竜なんぞ」

剣士「名を上げたい戦士にとっては絶好の標的だからな」

剣士「次俺のような奴がやって来たら、まず命はないだろう」

村娘「でも……他に行くところなんて……」

少年「そうだよ、どうしようもないよ」

剣士「安心しろ」

剣士「俺は世界中を旅して──」

剣士「魔法を使う人間に偏見がなく、人と竜が共存してる国を知ってる」

剣士「連れていってやろう」

剣士「こう見えて金はあるし、お前たちが自立するまで世話してやることもできる」

少年「本当に!?」

村娘「そんな国があるなんて……!」

少年&村娘「やった、やったぁ!」

剣士「…………」

剣士「ところでお前の母は、父親について何かいっていたか?」

村娘「父、ですか?」

村娘「父といっても正式に結婚はしてなかったそうですが」

村娘「母がお腹に私を宿していると知る前──」

村娘「魔力を持つ母でも平和に暮らせる新天地を探しに行ったそうです」

村娘「ですが、旅先で大きな戦いに巻き込まれ、戦死したと聞いています……」

村娘「武骨だけど、とても優しい人だったと……」

村娘「これが……なにか?」

剣士「……いや、単なる好奇心だ。無粋な質問をしてすまなかったな」

剣士「──さてと、準備はできたか?」

村娘「はい」

少年「ボクは荷物なんかいらないしね」

剣士「あの青年の家から、若い娘たちの“一部(コレクション)”が見つかり……」

剣士「青年は兵隊に連行された」

剣士「村の希望が殺人鬼と判明し、村人もだいぶ混乱しているようだ」

剣士「最後に、恨みごとの一つでもいってやるか?」

村娘「……いえ、このまま黙って去らせてもらいます」

剣士「そうか」

剣士「この村がお前を迫害したのは、仕方ないといえば仕方ないことだ」

剣士「ずっと昔から、こうやってきたわけなんだからな」

剣士「だが、お前さんたちはここから抜け出すチャンスができた」

剣士「だったら、思いきり幸せになってやれ! 俺も出来る限り協力してやる!」

村娘「はいっ!」

少年「うんっ!」

剣士「ふっ……いい返事だ、二人とも」





<おわり>

村娘『巣は大きく、財宝はたくさん。私を満足させるような巣を作りなさい!』

村娘『期間は半年……いや、一年。死ぬ気でやるのよ』

村娘『ああ、人間相手だったら許してあげるから、夜の生活の練習も忘れないように。私に恥をかかせないようにね』

剣士が何歳くらいか是非知りたいな

村娘(20くらい)

剣士(45)


ソルとディズィー状態あるでコレ・・・

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