紬「角砂糖6個分」 (21)
意外と寒い。
もう一枚重ねてくれたよかったかしら。
ぎゅっと抱きしめられる。
「唯の真似」
「寒いね」
澪ちゃんはうんうんと深く頷く。
「でも歩きにくいから、こうしよ」
腕を組んで歩く。
ここは駅前で、周りの人から注目される。
私は気にしないし、澪ちゃんも気にするようすはない。
2人の息は白い。
「必要なものを買ったら、いつもの店に寄りましょうか」
もっと一緒にいたいからした提案。
でも、あっさり却下される。
「私はムギのお茶がいい」
上目遣いでお願いされてしまう。
「じゃあ、澪ちゃんに家に寄らせてもらうね」
「うん」
遅くなり、斎藤に迎えを頼むのは少しためらわれるけど、澪ちゃんの誘いは断れない。
「夜ご飯もたべてく」
「ええ、ご一緒させてもらうね」
「ママも喜ぶよ」
目的の場所につく。
今日はクリスマスパーティーの買い出し。
重いものも買うので、私が担当することになった。
りっちゃんが気を利かせて、澪ちゃんをつけてくれた。
ジュース、肉、野菜、魚、調味料、お菓子。
憂ちゃんが書いてくれたメモを頼りに、店をまわる。
スーパーマーケットの中はあたたかかったけど、腕は組んだままだった。
私は放したくなかったし、澪ちゃんも同じだといいなと思った。
憂ちゃんのメモはとても親切で、料理に明るくない私達でも問題なく買い物を進められた。
牛肉なら肩ロースで薄切りのもの、豚肉ならスペアリブで小ぶりのもの、と細かく指定してくれたから。
ジュースを買って、最後にお菓子を見る。
実はお菓子は私達に任せるとみんな言ってくれたけど、私が断った。
自由に選んだらきっと、澪ちゃんの好きなものばかりになってしまうから。
レジを済ませて、荷物を保冷バックに詰め込む。
りっちゃんが貸してくれたものだ。
外に出ると一層寒くなっていた。
今度は両手が塞がっている。
流石に手を繋ぐことも腕を組むこともできない。
だからかわりに、かばんの片方の持ち手を私が、もう片方を澪ちゃんが持った。
澪ちゃんの家に着くと、私はお茶の用意をはじめる。
お茶を蒸らし、水と牛乳を鍋に入れて火にかける。
十分あたたまったら、蒸らしておいた茶葉を鍋に入れ、しばらく蒸らす。
蒸らし終わったらカップに注ぎ、最後に角砂糖。
澪ちゃんは毛布を用意して、壁に寄りかかりながら座っていた。
私が近づくと、毛布をめくりあげて招待してくれた。
ティーセットを床に置いて、そこにおさまる。
澪ちゃんがあたためてくれたおかげで、ほんのり毛布はあたたかい。
カップをとって、澪ちゃんに渡す。
「気をつけないと駄目だよ」
「あちっ」
「言ったのに」
「寒かったから、つい」
それを合図に、肩を寄せ合う。
セーター越しでも、しっかりと澪ちゃんの体温が感じられる。
2人は見つめ合い、口元をゆるめ、唯ちゃんみたいに笑った。
今度は火傷しないようにふーふーしてから澪ちゃんは飲んだ。
少し甘すぎるぐらいのロイヤルミルクティーが2人の流行りだ。
私も一口すすると、心地良いあたたかさが広がっていく。
「私、冬が好きだ」
澪ちゃんは呟いた。
角砂糖6個分。冬の日のこと。
おしまいっ!
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