【バオー×MM3】ドラムカン「そいつに触れることは死を意味する……か」 (21)

 かつて【伝説の大破壊】と呼ばれる、人類至上最大級の戦争があったッ!

 それは、人を救うために生み出された電子頭脳【ノア】の反乱により起こった!
 十年! 人々は必死の抵抗を続けたが、やがて文明の崩壊と共にそれも潰えた!!
 地は灼け! 海は煮えたぎり! 雨は酸となり肌を焼き!
 人以外のあまねく動植物、従順たる下僕であるはずの機械、その悉くが人々を襲い死に至らしめる!

 地獄ッ!
 まさにこの世は地獄へと様変わりした!

 しかし! それでも人は滅びはしなかった!
 畏れ、怯え、地を這いながらも! 逞しく、強かに、二本の足で大地を踏みしめていた!

 これは【目覚め】の物語!
 そして、自らの魂の救済の為、【償い】を求める男の物語である!

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ジャガンナート




――第一章――


――目覚めた来訪者と蘇った異邦人――




 ――ここはジャジメントバレー――

 かつて人類反抗の希望と共に輝いた場所であり――

 ――今や裏切りと絶望に彩られた無法の地である。

――――――――――


 宵闇広がる無法の荒野を、砲撃の爆炎が彩っていく。
 放たれた榴弾を必死に避ける影が一つ。
 右へ、左へ、見事なハンドル捌きでバイクを操り、暗闇の中をライトも点けずひたすらに逃げ続けていた。

「ッ!!」

「ひぃっ!?」

 しかし、それは長くは続かなかった。
 突如として目の前に現れた一台のトラックが、バイクの行く手を遮ったのだ。
 トラックの横合いへ、全速力で衝突するバイク。
 凄まじい衝撃が双方を襲い、トラックは横転、バイクも宙を舞い地面へと叩きつけられた。
 バイクに乗っていた影……赤毛の男は、地面に背中から打ち据えられると、飽きた子供に投げつけられた玩具のように転がり続け、地面にうつ伏せに倒れ込んでしまう。
 声にならない激痛が男の顔を歪めた。それでも、男は生きていた。

 流れる水の音が、労るかのように男の耳に届く。
 そこは湖の畔。彼が何とかして辿り着こうともがいた【逃走経路】であった。
 しかし、もはや立ち上がることはおろか、指一本動かす力も彼には残されていない。
 近付いてくる無数の駆動音が、無情にも彼の耳から水の音をかき消していった。

「おーおー……派手に事故りやがって。よえぇ奴には運もねえんだな!」

「「「ハハハハハハ!!」」」

 男の耳元に、耳障りな声が響いてきた。
 何台もの【クルマ】が横転したトラックの側に止まり、倒れている男の側まで歩み寄ってきたのが音で分かった。
 男には、為す術など残されてはいない。

「おるぁッ!!」

 男の横腹目掛け、鋭い蹴りが打ち込まれた。
 男の身体は無理やりに仰向けにされ、突き刺さる衝撃に男の顔は再び歪む。
 鼓膜をくすぐらない悲鳴に恍惚を浮かべる……人ならざる姿をした、怪物。
 モヒカン頭の荒くれ者達を従えた怪物が、男を満足そうに見下した。

怪物「おい、トラックの運転手はどうなってる?」

荒くれ「気絶してますが、生きてますぜ。ったくだらしねえ奴らだ」

怪物「構わねー、寝かしとけ。どーせトラックのエンジンかCユニットが壊れて止まってたんだろ。」

怪物「荷物は? 開けて見ろ」

荒くれ「……ちょっと待ってくだせえ。バイクがぶつかったせいで戸が歪んじまって、開かねーみたいです」

怪物「チッ。とにかく……コイツの始末をつけてから、ゆっくり考えればいいことだ」

 見下している怪物は、人の形こそしているものの、その異様はむしろ他の生物の特徴をありありと示していた。
 皮膚には鱗がびっしりと生え、クルマのライトに照らされ気色の悪いてかりを表面に浮かべている。
 ゆらゆらと揺れる尻尾は、時折ぴしんと勢い良くしなって見せて、地面に跡を残していく。
 首から上などは人の形を逸脱しており、イグアナのような緑の鱗に覆われた爬虫類の首がドンと鎮座しており、真っ赤な舌をちらつかせながら、牙の生えた口を開き笑い始めた。
 それを見る周りの荒くれも、追い詰めた男よりその怪物の方を明らかに畏れていた。

怪物「てめーもよぉー、馬鹿な野郎だよなぁホントよぉ……組織の中でも指折りの地位にいたってのに てめーで何もかも台無しにしてんだもんなぁ?」

「…………」

怪物「へっ、だんまりか喋れねーくらいビビっちまったか……どちらにしても、てめーはもうおしまいだ」

怪物「あばよNo.3。これからは俺様がてめーの代わりにのし上がってやるぜ」

 怪物は、腰に据えた巨大な拳銃を抜くと、ゆっくりと勿体ぶるように、男の心臓に突きつけた。
 拳銃といいながらもライフル銃のような大きさのそれを、退けるだけの力は彼には残されていない。

 しかし、だからこそ男は足掻こうとした。
 この期に及んでもなお、彼は生きることを諦めてはいなかった。

 死ぬわけには、いかない!

 生き残らねばならない!

 奴を、自身の全てを奪ったあの男を殺すまでは!

 自分は生きなくてはならないッ!!

怪物「!」

 拳銃を男の手が掴む。先ほどまで虫の息だったとは思えぬほどの力で、その矛先を変えんともがく。
 男の眼差しに光が戻る。たとえそれが復讐心から来る【漆黒の意志】であったとしても。
 それは、男の生きようとする意地に他ならなかった!

 そして、そのあまりにも強い生命の【におい】は!

 目覚めてはならない【来訪者】を、この新たなる世界で覚醒させるに至ったのだッ!

怪物「ッ!?」

荒くれ「な、なんだ!!」


 大きな音がした!
 金属が引き裂かれるような、凄まじい衝撃音!
 横転したトラックのコンテナから響いたその音に、荒くれ達は一斉に振り向いた!

怪物「なんだぁ!? 今の音は!!」

荒くれ「トラックの中からだ! すげぇ音がしたぞッ!」

荒くれ「実験動物か!?」

怪物「確認しろ! ドアをぶち抜いても構わねえッ! さっさとしねえかッ!」

 手にした重火器を構え、荒くれ達はトラックを囲む!
 恐る恐る、二人の荒くれが扉に近づいていく!
 二人は気付いた! 曲がって開かなくなった扉の隙間から、冷たい水が滴り落ちていることに!
 そして気付かなかった! 知らなかった! それが、彼等に向けられた【警告】のサインだと言うことにッ!

荒くれ「何がいるんだッ? かっぱらってきたクルマがハッキングでもされたか?」

荒くれ「獣かもしれねーぞッ! とにかく開けて見ねーことには……」

……ル……ォォォム……

荒くれ「待て! 何か……聞こえるぞ」

荒くれ「うなり声か? それとも、駆動音か?」

……バルバル……バル……ウォォォ……

荒くれ「これは……人だッ」

荒くれ「人間の声がするッ! 中にいるのは、人間だッ!!」

『バルバルバルバルバル!!!』

荒くれ「ひぃぃっ!!?」

『ウォォォォォォォォォォム!!!』

 曲がった鉄の扉をぶち抜いて、人の腕が突き出した!
 耳をそばだてていた荒くれ二人の頭を掴み、扉に押し付ける!
 周りの荒くれは、そして怪物は見た!
 見る見るうちに荒くれの頭が崩れ、水にさらされた泥人形の如く溶けていく、その様を!

荒くれ「ひぃぃーっ!!」

怪物「撃てッ! 撃ち殺せッ! 構わねえッ!ぶっ放せーッ!!」

 一斉に男達の重火器が火を噴いた!
 溶かされた哀れな犠牲者ごと、横転したトラックごと! 得体の知れない怪物を殺そうと鉛弾を浴びせていく!
 しかしッ! その怪物は弾丸の雨を物ともせずに跳躍! コンテナを身体でぶち抜き、宙を舞った!

荒くれ「あぁっ!?」

 辺りは漆黒! 暗闇を照らす光は止めていたクルマのライトのみ!
 躍り出た影を必死に照らそうと荒くれは懐中電灯に手を伸ばす!
 しかし! もはや彼等にその存在を捉えることは不可能であった!!

『バルッ!』

荒くれ「はがっ!?」

『バルバルバル!』

荒くれ「へごっ?!」

『ウォォォォォォム!!』

荒くれ「ぐぴっ……!?」

 闇から闇へ! 影から影へ!
 それが躍り出る度に、一人、また一人と消えていく!
 その存在には、視覚も聴覚も嗅覚も関係ない! 触覚で感じる【におい】で全てを判断する!
 この闇夜の中で、視覚に頼る生物がコイツに太刀打ちすることなど、不可能であった!

怪物「なっ……何なんだ……何が起きている……?」

 この荒くれ達と怪物は、彼の大嫌いな【におい】を放っていた! 我慢ならないほどの【におい】を!

怪物「あっ、あのトラックッ……あれは一体何なんだ……ッ」

怪物「何を運んでいやがったんだァーッ!!!」

 だから、彼は思った!

 こいつらの【におい】を消してやるッ!
 こいつらの【全て】を、消してやるッ!!



 ――彼が目覚めてから五分と経たず、その場にいた全ての生き物の生命は刈り取られた。

 彼の足下には、先ほどまで勝ち誇った笑みを浮かべていた、怪物の成れの果てが転がっている。
 頭から胸部にかけてを溶かし尽くされたその残骸には一瞥もくれず、彼は自分を目覚めさせた【におい】の下に近づいた。

「――――」

 【におい】の元の男は、地面に力無く倒れ込んだまま、事切れていた。
 死因は分からない。だが、全身に無数についた傷跡が、男の生命を奪ったのだということが彼にも分かった。

『……ウォォォム!』

 彼は男の死体を担ぎ上げた。
 埋葬しようとしたのか、はたまた別の意図があるのか。
 少なくとも、彼はこの男をこのまま捨て置くつもりはなかった。

 しかし……それを許さない存在がいた!
 そして、それは彼の触覚をギリギリまでごまかし、彼の裏をかいた!

『バルバルッ!!』

 倒れていたトラックを、赤熱した砲弾が貫いた!
 遥か遠方、そびえ立つ鉄の柱からそれは放たれたもの!
 砲弾の爆発、そして誘爆したクルマが生み出す猛烈な爆風に、二人はあっさりと吹き飛ばされた!
 身体が宙に浮き、落ちていく感覚に彼は身を任せ、力を抜き、委ねていく!
 死ぬことはない! この程度では死ねない!
 二人の姿が、青き流れに消えていって……
 そして、誰もいなくなった!

 雨霰と降り注ぐ砲弾の雨を、物語の始まりを告げる鐘の音代わりとして――!!

プロローグにもならないプロローグでちと〆
昼食を済ませたらまたぼちぼち書き出します

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