モバP「時をかける少女」 (65)
モバP「タイムリープする装置かぁ……」
晶葉「……」
P「……」
晶葉「助手。本当に出来たのか?」
P「いや、さっき晶葉が声高々に『出来たぞ! タイムリープが出来る装置だ!』
って言ったんだぞ」
晶葉「うむ。そうなのだが実際落ち着いて考えると少々オーバーテクノロジー
過ぎる代物が完成したのではないかと不安になってきた」
P「疑うことなくオーバーなテクノロジーだよ。そもそも本当に出来るのか?」
晶葉「おそらく出来る。しかし公園で散歩中にその……閃いただけだからな」
P「まぁいいや。晶葉なら信用出来るしな。この形、クルミだよな。
なんか花の香りも……」
晶葉「某タイムリープ作品のオマージュだ。使い方も一緒だぞ」
P「ふむふむ。で、誰が使うんだ? やっぱりオマージュだし晶葉が使うか?」
晶葉「そうだな……。その辺の人間に渡したら間違いなく悪用されかねない
ものだしな。ああ、そうだ。助手、ちょっと左手を出してくれ」
P「ん? こうか?」
晶葉「えい」グシャ
P「ちょっ」
晶葉「よし、刻印されたな。それがタイムリープできる回数だ」
P「やってくれたなぁ……。ん? これは10なのか? 01なのか?」
晶葉「これは10だ。君のほうから読んだ数字で正しい。
下に棒を付けるのを忘れていたがまぁ本人がわかればいいだろう」
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P「でもさ。ちょっと目立つよね。手の甲は」
晶葉「それもそうだな。手首辺りなら見やすくて目立ちにくかっただろうけど
まぁ場所を選んでられなかったしな。はっはっは」
P「他の人になんて説明しよう……。待てよ、なぁ今タイムリープしてこれが刻印される
前に戻ったら回数ってどうなるんだ?」
晶葉「おそらく本人のタイムリープ能力によって回数は戻らないと思う。
つまり刻印した時点で数字は09になるはずだ」
P「なるほどな。世の中うまく出来てるもんだな。じゃあ早速……」
晶葉「うむ。見せてもらおうか」
P「……」
晶葉「……どうした」
P「どうやってタイムリープすんだ?」
晶葉「強く思うことが大切だな。行動や言葉で表すのも効果的だ」
P「ふむ。思うことか。うーむ……飛翔ッ!!」
―――――――――
晶葉「そうだな……。その辺の人間に渡したら間違いなく悪用されかねない
ものだしな。ああ、そうだ。助手、ちょっと左手を出してくれ」
P「うおおおお!?」
晶葉「うわああああ!? いきなり叫ぶな! なんだ!」
P「あ、刻印なら左手の手首の裏にしよう」
晶葉「え、あ、うん。そうか。じゃあ手を出してくれ」
P「ほい」
晶葉「よし、刻印完了……ん? なんで09なんだ? 10からのはずなんだが」
P「つまりそういうことだ」
晶葉「……まさか使ったのか。タイムリープを」
P「いやぁ、案外簡単に使えたぞ」
晶葉「そうかそうか。なんで使ったんだ? 試運転か?」
P「いや、最初左手の甲に刻印されたんだけどさ。ここだと目立つじゃん。
で、刻印し直すために戻ってきたんだ」
晶葉「確かに左手の甲だと目立つか。タイムリープしてみて体調に異変はないか?」
P「ああ。ただタイムリープした直後はいきなり場面変わるからちょっと眩暈みたいのがあるな」
晶葉「ならばする直前に目を瞑るといいかもしれないな。少しは楽になるかもしれん」
P「なら今度からそうしてみるか」
晶葉「あと回数のチャージだとか新しいタイムリープ装置は作れないからな。
何に使うかは助手に任せるがあまりくだらない事に使うのはよしたほうがいいぞ」
P「最低でもスカウトしようと思ったら警察呼ばれるハメになるぐらいの事態じゃないと使わないさ」
晶葉「呼ばれた事があるのか……」
P「世知辛い世の中だよ……」
P「さてと晶葉をレッスンに送ったし俺はどうするかな」
P「タイムリープか……。そういえばどのくらい前まで戻れるか聞いてないな」
P「もしも小学生時代まで戻れるなら……いや、そんな過去のことを改変しても仕方あるまい」
P「この力はより良い未来を選択するための力なのだろう。多分」
P「そう考えると使うことも早々無いかもしれ」ドゴン
P「……」
コンコン
「兄ちゃん。ちょっと出てきてもらおうか」
P「はい」
「目ぇ見えとるか? ウチの車止まってたと思うんだけど」
P「はい」
「あーあー、こんなにへこんじまったよ。なぁ? おい、何目ぇ瞑ってんじゃ」
P「……跳躍ッ!」
――――――――
P「いやー、手首見てたら前の黒い車にぶつけるなんてな」
P「うん。今のは危なかった。マジで」
P「しかしさっきの絶対アッチの人だろ。怖い」
P「お、前の車曲がった。これで安心だな」
P「これ、いくら目立たないと言ってもそのままはまずいよな」
P「腕時計で隠せないしな。丁度いいし今のうちにもう少し大きいの買うか」
P「この辺に時計屋……あ、ショッピングモールがあるな」
P「確かこっちだったな……」
P「思い切った買い物したな。結構高かったぞ」
P「まぁ今使ってたやつはちょっとぼろっちくなってたからいい機会だったってことだな」
P「そろそろ事務所に戻るかな」
「あれ、Pさん」
P「ん? みくか。今日はオフだったな」
みく「はい。洋服でも見ようと思って。Pさんはどうしたんですか?」
P「俺も買い物だ。しかしオフのお前って本当に別人だな」
みく「そうですか? Pさんはどっちがお好みで?」
P「難しい質問だな。猫耳つけてにゃあにゃあ騒いでるのもいいけど
こうやって落ち着いた色合いのちょっと地味な子もなかなか……」
みく「優柔不断ですね」
P「どちらも可愛いから仕方ないさ」
みく「そうだ。もしよければ買い物に付き合ってくれませんか?」
P「いやいや、これでも一応仕事中なんだぞ」
みく「仕事中に買い物? ふーん」
P「……ちょっとだけな!」
みく「じゃあさっそくあっちのお店から行きましょう」
P「ちなみにどっちの時の服買うんだ?」
みく「あっち寄りの夏服ですよ」
P「まだ春だというのに気が早いな」
みく「昔ならまだしも今はアイドルなので流行を先取りしないと……。
あ、この服可愛い」
P「アイドルとしての意識が高いのはいいことだ」
みく「ちょっと試着しようかな。待っててね」
P「ああ、行って来い」
P(アイドルとして売れてきたし普段は変装しとけよとは言ったけど
一番うまく変装しているのはみくだろうな)
P(アイドルの時はにゃあにゃあ言いながらそこそこ目立つ服
着てひっついてくるのにオフじゃ物腰丁寧なメガネ娘)
P(今でも別人じゃないかとかたまに疑う)
みく「Pさん、どうですか?」
P「お、可愛いじゃないか。でもその口調だとちょっと違和感あるな。
帽子とかメガネあるし」
みく「でもこれを外すわけにはいかないし……」グイッ
P「なんで俺の腕を引っ張るんだ。イテッ、試着室に押し込むな」
みく「カーテンも閉めたし更衣室の中なら帽子とメガネ外してもいいですよね」ボソッ
P「なんてことしてくれたんだ。見つかったらどうする」ボソッ
みく「その割りには出ようとしないじゃないですか。さてと……」ポイッ
みく「Pチャン。似合ってるかにゃ?」ボソッ
P「ああ、似合ってる似合ってる。どのタイミングで出よう」
みく「もう……Pチャン!」
P「バカッ!」
「あのーお客様? 試着室にはお一人ずつ……」
P「はい出ますすぐ出ま……ぬお!」
みく「あ、ちょPチャン引っ張らないでにゃ!」
ドシーン
P「……」
みく「……」
P(足元にあったみくの帽子でこけたのはわかる。
なんでみくの顔が俺の目の前にあるんだ。そしてこの唇と手のひらの柔らかい感触は)
「おい、見ろ。転んでキスしてるぜ」
「あの女の子のほうってどこかで見覚えが……」
「前川みくじゃね?」
ザワザワ
P「あー、とりあえず起きれるか。起きれるなら起きてくれるとうれしい」
みく「……」スゥ
P「さて」
「みく顔真っ赤だぜ」
「試着室に二人で入って何してたんだろう」
「そりゃあナニだろう……」
ザワザワ
みく「あの……Pチャン」ギュッ
P「……躍動ッ!」
―――――――
みく「Pさんどうですか?」
P「ん。いいじゃないか。似合ってると思うぞ」
みく「……なんでちょっと目線逸らすんですか」
P「いや、その個人的にはもうちょっとゆったりした服が好きだからな。
その服だと体のラインがはっきりわかるからちょっとな」
みく「そうだったんですか……。じゃあそういう服にしようかな」
P(直視できるわけないだろ。まだ口と手に感触残ってるんだぞ)
P(それに顔真っ赤にして泣きそうな目で俺の袖を掴むとか)
P(最高に可愛かったな)
P(でもみくは覚えてないんだもんな……。覚えてたら大惨事だけど)
P(その後、買い物をどうにか終わらせた俺はみくと別れ、事務所に戻った)
ちひろ「で、プロデューサーさんは今日何をしていたのですか」
P「散歩ですね」
ちひろ「している暇があるとお思いで?」
P「いやー、うちの事務所には有能なアシスタントがいるから大丈夫ですよ」
ちひろ「あら、そうですか」
P「そうですよ。美人で有能で性格もいいなんて素晴しい人ですね。ハッハッハ」
ちひろ「はっはっは。はい、一週ー二週ー」グールグール
P「ぎょえええぇぇ。椅子回さないで。ゴメンナサイゴメンナサイ」グールグール
晶葉「戻ったぞ。なんだ、助手はまた失敗したのか」
ちひろ「お仕事中に時計のお買い物をしたようですよ」グールグール
P「きぼじわるい……」グールグール
晶葉「その辺にしといたほうがいいんじゃないか。この前やりすぎて吐いただろ」
ちひろ「なんで椅子に座らせて回転させるだけでこんなに酔うんですか、ネッ!」グルグルグル
P「」グルグルグル
晶葉「三半規管がないのだろう。少し借りていってもいいか?」
ちひろ「ええ、こんなのでよければ。今日のお仕事は
美人で有能で性格もいい優秀なアシスタントが済ませたので」
晶葉「相変わらず優秀だな。ほら、行くぞ。椅子に乗せたまま連れて行くか」
P「」グテー
晶葉「よし、誰もいないな。まぁ私の開発室に入る人なんて早々居ないが」
P「そもそもなんで事務所にお前の開発室があるんだろうな」
晶葉「お、復活したか。時間遡行して体に異変がないか聞こうと思ったが
今はダメそうだな」
P「気持ち悪いが時間遡行によるものではないな。他に体の異変はないぞ」
晶葉「身長と体重を一応調べておこう。確か助手の身体測定の結果がこの辺に……」
P「なんであるんだよ」
晶葉「世の中手に入れられない物なんて極わずかさ。
その腕時計が今日買ったやつか?」
P「ああ、手首を隠すためにな。見られるような場所ではないが
念のためにベルトの太いヤツにしておいたんだ」
晶葉「言ってくれればそのぐらい作ってやったのに」
P「晶葉に時計作らせたら麻酔針とか出るようになるだろ」
晶葉「失礼な。せいぜい暗闇で七色に光るぐらいだ。
ちょっと外してみろ。刻印された肌の具合を見たい」
P「はいはい」カチャカチャ
晶葉「……なんで既に07になっているんだ? 一日に二度も災難に見舞われたのか?」
P「車をぶつけたのとみくとちょとっとな」
晶葉「みくと? 詳しく聞かせてもらおうか」
P「それより肌は普通だと思うんだがどうなんだ」
晶葉「問題はなさそうだな。痕も残っていないし大丈夫だろう」
P「これって00になったら消えるのかな」
晶葉「消える、と思う。万が一残るようなら私が責任持って消すさ」
P「それは頼もしい。さてと、身長と体重だな」
晶葉「ああ、こっちに計りがあるぞ」
P「……あのさ、前から気になってたんだが」
晶葉「んー、なんだ? ちょっと待て。椅子を持ってこないと目盛りが見えん。
よっこいしょと……」
P「なんで計りはこんな古いのを使ってるんだ?」
晶葉「特に意味は無いが……。185ぴったしか。変化はないな。次体重」
P「身長計はともかくとして体重計なんか色々すごいのが開発されてるじゃん」
晶葉「ああ、体脂肪計ったりするものもあるな。既に開発されているものを
作るのはつまらないからな。そうだな、私が作るとしたら計り手の身長が
足らなくても目盛りが正確に読める身長計と朝食を抜いた程度じゃ
ごまかされない体重計かな。体重も変化なしと」
P「作らないのか?」
晶葉「どうにも創作意欲が駆り立てられないからな。いっそのこと体重計と
トレッドミルあたりをくっ付けて標準体重まで強制的に運動させる機械のほうが
まだ作る気になる」
P「トレッドミル? 風車かなにかかな?」
晶葉「それはウィンドミルだろ……。屋内でランニングなんかを行う機械だ。
ランニングマシンとかのことだ」
P「地獄の機械が出来上がりそうだな。だが必要はあるまい。
身長も体重も一つの個性だ。みなが痩身であればいいというわけじゃない」
晶葉「ちなみに助手はどんな体型が好みなんだ?」
P「みくみたいなのかな!!」
晶葉「元気良く答えるな。それでみくとは何があったんだ?」
P「えっ、いや、その……。まぁいいじゃないか、うん」
晶葉「……そうか。ま、人には言えぬ秘密の一つや二つあるものだしな……」
P「う、うん。そうなんだけどなんかテンション低くなってない?」
晶葉「……私は助手に隠し事なんてしたことないけど」
P「うぐ」
晶葉「なんて冗談だ。おおかた転んで胸を揉んだとかその程度だろう」
P「エスパーか!」
晶葉「短い期間だが密な付き合いだからな。助手のことならわかるさ。
しかしそのぐらいなら別に問題ないだろうに」
P「それがみくがオフだったから変装しててな。そんなときに人前で押し倒したから……」
晶葉「別に私は君の好みにどうこう言う気はないが友人として人前で
行為に及ぶのはどうかと思うと忠告させてくれ」
P「事故だっつーの! 俺がそんな見境なしに見えるのか!!」
晶葉「……」
P「……」
晶葉「いや、みえn」
P「今の間が全て証明してるよ!」
晶葉「こほん。まぁとりあえず体に異常はないみたいだが何かあったら
すぐに報告してくれ」
P「ああ、わかった」
晶葉「じゃあ戻るか。椅子を忘れるなよ」
P「さーてと、美人のちひろさんが仕事片付けたみたいだし帰るべ」
ちひろ「からかっているのかな?」
P「今夜、飲みどうっすか」
ちひろ「奢り?」
P「No」
ちひろ「……奢り?」
P「No」
ちひろ「仕方ありません。そんなに奢りたいなら奢られてあげますよ」
P「奢りじゃねぇっつってんだろ! 聞けよ!」
ちひろ「あ、晶葉ちゃんもどう? 居酒屋だから未成年にはアレだけど」
晶葉「ふむ。たまにはそういうのも悪くない。奢られよう」
P「クソガァ!!」
ちひろ「はいはい、事務所閉めますよ」
ちひろ「うぃー……っく」
P「出来上がってしまった」
晶葉「ちひろさんはお酒に弱かったのか」
P「そこまで強くないんだけど飲むの好きだから……」
ちひろ「あによー……おいしいから仕方ないれしょー」
P「ほらほら、ちひろさん。未成年の前でだらしないですよ」
晶葉「まぁタクシーは呼んであるし私は私で帰るから
ちひろさんを送ってやってくれ」
P「ああ、すまんな。本当は送ってやりたいのだが……」
晶葉「気にする事は無い。今日はまだ時間が早いしな。それじゃあ気をつけるんだぞ」
P「ああ。晶葉も気をつけてな」
ちひろ「うー?」
P「晶葉が帰ったんですよ。ほら、タクシー来たから乗りますよ」
ちひろ「うー……」
P「よっこいしょと。すみません。○○までお願いします」
ちひろ「なんれ○○?」
P「先にちひろさんを家に送り届けるためですよ」
ちひろ「うー……」
P(毎回思うが本当にお酒に弱いな)
「着きましたよー」
P「あ、どうも。支払いはこれで……。ほら、ちひろさん。着きましたよ!」
ちひろ「……」
P「ちひろさん?」
ちひろ「……ぐぅ」
P「寝てる……!」
「どうすんのさ。兄ちゃん」
P「くっ。私も降ります……」
ブゥーン
P「ちひろさんの部屋ってどこだっけな」
ちひろ「Zzz」
P「こうやって寝ていれば可愛げがあるのに……。
いや、そんなこと言ってる場合じゃない。ポスト見れば何番かわかるかな」
ちひろ「Zzz」
P「ここか。カギ……開いてないよな。うん」
ちひろ「Zzz」
P「ちひろさん! 起きてください! 家の前ですよ!」ユッサユッサ
ちひろ「んー……」
P「カギ出してください!」
ちひろ「んー……ん」
P「いや、渡されても……。開けろと?」
ちひろ「Zzz」
P「……仕方ない」ガチャ
ちひろ「Zzz」
P「よっこいしょっと」ドサッ
ちひろ「んー……」
P「ほら、自分の部屋ですよ。カギは閉めてポストに入れておきますね」
ちひろ「ん……。水……欲しい……」
P「……わかりました。ちょっと待っててください」
P(ちひろさんの部屋に入るのは初めてだな……)
P「はい、水です」
ちひろ「ゴクゴク」ビシャー
P「零してる! すっごい零してる!」
ちひろ「ふぅ。助かりました」ビシャビシャ
P「だいぶ楽になったみたいですね」
ちひろ「ええ、お見苦しいところをお見せしました」ヌギヌギ
P「なんで脱いでるんですか」
ちひろ「そりゃ濡れちゃいましたからね」
P「ソッカー。乾かさないとだもんナー。じゃあ俺はこれデー」
ちひろ「待ってください。プロデューサーさん」
P「ナンデショウカ」
ちひろ「足に力入らないんでベッドまで運んでもらえませんか」
P「這ってください」
ちひろ「そんなこと出来ませんよ。仕方ありませんね。よっこいしょっと……わとと」グラッ
P「危ない!」ガシッ
ちひろ「やっぱり立てないですね」
P「わかりました! 肩だけ貸すんで頑張ってください」
ちひろ「すみません。ありがとうございます」
P(ちひろさんのほうを見ないように歩こう)
P「これで、よしと」ドサ
ちひろ「いえ、まだですよ」グイッ
P「おわわわ……」ドサ
ちひろ「……プロデューサーさん」
P(顔超近い。明らかにまずい)
ちひろ「……ウェヒヒヒ。そんなに眼を瞑って固くならなくても」
P「……飛躍ッ!!」
――――――
ちひろ「やっぱり立てないですね」
P「……じゃあ肩貸すんで立ってください」
ちひろ「すみません。ありがとうございます」
P(この辺で大丈夫かな)ピタ
ちひろ「あれ、どうしました? なんで肩をそんながっしり掴むんですか」
P「ソイ」ポイ
ちひろ「フギャー!!」ドサ
P「カギは閉めたらポストに入れますね。それじゃあおやすみなさーい」バタン
ちひろ「え、ちょ……まぁいいか。ぐぅ」
P「あぶねー。今度からちひろさんとの飲み考えようかな……」
ちひろ「あのプロデューサーさん」
P「……なんでしょうか」
ちひろ「昨日は大変ご迷惑をおかけしたようで……」
P「今度からちひろさんと飲むのやめます」
ちひろ「そんな!」
P「タクシーの中で寝るわ、目の前で服脱ぎだすわ、水は零すわ」
ちひろ「あ、だからワイシャツ一枚でなんか濡れてたんだ……」
P「その上わざとらしく立てないから運んでーなんて言って」
ちひろ「ははは……全く記憶にないですね」
P「なのでもう飲みません」
ちひろ「……スタドリ十本」
P「え、なんですか? 聞こえません」
ちひろ「スタドリ二十本」
P「もうちょっと大きな数……じゃなかった。声で言ってもらえますか」
ちひろ「スタドリ四十本!」
P「また飲みましょう」ニッコリ
ちひろ「鬼! 悪魔!」
P「ご自分の酒癖の悪さを恨みなさい。じゃ外行ってきますね」
ちひろ「ぐぬぬ、行ってらっしゃい……」
P(普通に諦めればいいのにあそこまで粘るってことはもしかして俺のこと……。
いや、単純に飲み友達がいないのかな。友達いなさそうだし)
P「外に行くと称してサボるいつも通りの日常」
P「しかしいくら弱小プロダクションだからといってちょっとアイドル少なすぎるよな」
P「せめて五人居ればこうユニットも組めるのに未だに二人だし」
P「まぁその二人が優秀だからプロダクションも持っているんだろうけど……」
P「お、ここの公園は桜が咲いてるな。そういえば花見やるっていうのもいいな」
P「ん? あそこに美少女が。しかし遠目で見てもわかる外国人」
P「桜の下のベンチに座って桜を見ているようだが……」
P「あと何回時間遡行できたかな。外して確認を……」
「……」スゥ
P「げ、行っちまう。えーと06か。時計は後でつけよう。すいませーん!」
「……」ピタッ
P「すいません。あー、えーっとニホンゴ ワカリマスカ?」
「あー…。何か御用でございますですか?」
P「よかった。えっと私こういうもので」
「おー、名紙でございますですね」ジィー
P「はい。私、アイドルのプロデューサーをやっているんですよ」
「アイドル……?」
P「それであなたを見てこう……ティン! と来たので声をかけさせていただきました」
「おぉ……なるほど。アイドルのスカウトでございますね」
P「どうですか? トップアイドルを一緒に目指しませんか!」
「あー……ごめんなさいです。お気持ちだけ頂戴しますです。これお返しするです」
P「あ、いや、名紙は持っていってもらってかまいません。もしも気が変わることがあれば……」
「06……?」
P「あ、これはその」
「知ってますです。漫画でございますね。ヒーローですね」
P「ははは、そういうのが好きでね。まぁ、そういうわけで名紙は持っていて構いませんので。
もしやってみようかなと思ったらそちらにご連絡ください。お試しレッスンみたいのもやっているので」
「はいです。お仕事頑張ってくださいです」
P「ありがとうございます。それでは失礼します」
P「……金髪碧眼に妙な喋りかた。アイドルになったら人気出たな」
P「しかしあっちが勘違いしてくれたから助かったけど手首に数字を刻むヒーローが出る
漫画なんてあるのか。詳細がわかればもしも見つかった時の言い訳に使えそうだな」
P「さてと他にスカウト出来そうな人でも探すかな」
P「うーっす。おつかれー」
みく「Pチャンにゃ!」
P「おう、近く通ったから迎えに来たぞ。晶葉は?」
みく「あそこにゃ」
晶葉「」
P「力尽きてるな」
みく「みくと同じメニューをこなしたらああなったにゃ」
P「まぁみくよりも体力ないしな。おーい、晶葉。生き返れー」
晶葉「あ……助手か」
P「おう、迎えに来てやったぞ」
晶葉「レッスンが終わってもうこんなに時間が経っていたのか。
少し待っててくれ。帰り支度をする」
P「まぁそう慌てなさんな。急いだって何もいいことはないさ」
晶葉「時は金なりと言うだろう」
みく「みくも着替えてくるにゃ」
P「おう、そこで待ってるな」
マストレ「おや、P殿。迎えに来たのか?」
P「マストレさん、お疲れ様です。近くを通ったのでついでに拾おうかと。
どうです、うちの二人は」
マストレ「池袋くんはやはりスタミナが足らないな。最初のほうはそれこそ文句の
付けようのないくらい完璧なダンスを見せてくれるが後半はバテて少々
雑になってしまう」
P「まぁ晶葉はもとからインドア派ですからね。これでもずいぶんと鍛えられたほうかと」
マストレ「前川くんのほうは……」
P「何か問題でも?」
マストレ「この際だからはっきり言おう。彼女はもっと大手のプロダクションに移籍
したほうがいい。現状では宝の持ち腐れだ。あれだけの才能を生かす機会
がないなんてもったいないにもほどがある」
P「他の事務所でくすぶっていたみくをもったいないと思い引き抜いたのにまさか
こんなことになるなんてな。俺も所詮あそこと同じってわけかな……」
マストレ「そういう話が来たりしないのか?」
P「まぁ正直言うとあります。たまにね。一応は全部断ってはいますけど彼女のためを思う
ならそういう選択も考えなくてはいけませんね」
マストレ「もしくはP殿がもっと頑張るかだな」
P「これでも割りと頑張ってるんですよ。今日もお仕事取ってきたし。本当デスヨ?」
マストレ「まぁ何にしろそういうことも……おや、来たな」
P「お、来たか。それじゃ帰るとするk」
みく「フン!」ドゴォ
P「グフッ」
みく「みくを勝手に移籍させないでほしいにゃ!」
P「き、聞いていたのか。もちろん移籍するときは相談するしお前がトップアイドルを目指す
なら大手に行ったほうが確実性があr」
みく「フン!!」ドゴォ
P「ゲフッ」
みく「みくをトップアイドルにすると言ったのは誰にゃ! Pチャンにゃ!
自分が出来そうにないから他の人に託すなんて他人任せは許せないにゃ!
ちゃんとPチャンの手でトップアイドルにしてほしいにゃ!」
P「みく……」
晶葉「そういうわけだ。私もみくと離れるのはいささか寂しいしな」
マストレ「ずいぶんと慕われているようだな」
みく「マストレさんもあんなことを言わないでほしいにゃ!」
マストレ「悪かったよ。お詫びにこれをあげよう」
みく「……なんか濁ってるにゃ。このドリンク」
マストレ「新開発のスポーツドリンクだ。体にはいいぞ」
みく「Pチャンちょっと口を開けるにゃ」ドボボ
P「マズイッ!!」
みく「……」
マストレ「……良薬口に苦しと言うだろ?」
みく「Pチャン! このお仕事は……」
P「ダメか?」
みく「最高にゃ!! みくにぴったしの仕事にゃ!! 衣装も可愛いにゃ!!」
P「そいつはよかった」
晶葉「遊園地で猫に扮装しての仕事か。本当に良く見つけたな」
P「猫はこっちから選んだんだ。他にも動物の候補はいたぞ」
晶葉「つまり二人揃って猫に扮装する必要はなかったと」
P「いや、晶葉も可愛いぞ。猫耳付けて尻尾ふりふりさせて……」
晶葉「これでもアイドルだからな」
みく「晶葉にゃんも早く行くにゃ!」
晶葉「そうだな。行くとするか」
P「行ってらっしゃい。というかこういう場所って普通キグルミじゃないのかな」
キャーカワイイー コッチムイテー ミクニャンノファンニナリマス
P「人気があるようだし別にいいかな」
「……」
P「なんだろうあの羊のキグルミを着た子。遠巻きにみくたちを見て……」
「……」ジロ
P「こっちに近づいてきた」
「ちゃんちゃらおかしいです」
P「ほ?」
「キグルミがいねーです」
P「確かにこの遊園地にはキグルミはいないね」
「キグルミのいない遊園地なんて身のないスイカでごぜーます」
P「まぁそれは置いといてお父さんかお母さんは?」
「お一人様ですよ?」
P「……ん?」
「お一人様でごぜーます!」
P「いやいや、一人で入れないでしょう」
「ちゃんとお金は払ったですよ!」
P「しっかりしてる子だなぁ。迷子センター行こうか」
「信じてほしーです」
P「信じる信じないにしても一人で居るのはよくないよ」
「一人じゃなければいいですか?」
P「そうだね」
「なら問題ないでごぜーます!」
P「あれさっき一人って」
「ん」ユビサシ
P「ん?」ユビササレ
「これで二人でごぜーます」
P「え?」
「これで安心ですよ!」
P「知らない人に着いて行かないように言われなかったかな」
「だったら迷子センターにも行かないですよ」
P「うぐ……」
「とりあえずはあの猫で我慢するです」
P「あ、いや、ちょっと待って」
みく「はーい、風船配ってるにゃ。……あ?」
「貰うですよ」
P「ははは……」
みく「……Pチャン、こんな小さい子に何してるにゃ」
P「何もしてねぇよ!」
晶葉「どうした。スカウトでもしたのか」
P「いや、一人で居たから話してたんだよ」
「キグルミは着ないでやがりますか?」
みく「キグルミ? これも一応そういう奴みたいなものにゃ」
「全然違うでごぜーます!」
みく「にゃ?」
「もっと猫の気持ちになるですよ!!」
晶葉「猫の気持ち?」
「そうでごぜーます! あともっと猫になる服を着るべきですよ!」
みく「い、衣装はもうどうしようもないにゃ」
「なら気持ちだけでもなりきるでごぜーます! にゃー!」
晶葉「に、にゃー!」
「もっとでごぜーます!」
みく「にゃー!」
「オニーサンもでごぜーます!」
P「オレェ?」
「にゃー!」
P「すみません。今日は妙なことになってしまって」
「いえいえ。子供達も喜んでいたしいいと思いますよ」
P「それでこの子なんですけど……」
「ぐぅぐぅ」
「その子は常連さんですね。いつも一人で外から遊園地を見ているんです。
今日はキグルミがみたいから中に入りたいとお願いしてきたんです。
お金は持ってますし、保護者のかたとも連絡は取れたのでスタッフの
監視の下ではありますが入園しているんです」
P「なるほど」
「保護者のかたには連絡が取れているのでそろそろ迎えに来ると思いますよ」
P「そうですか。一人で歩いててびっくりしましたよ」
「ええ。こちらも大人に近づいたので身構えたのですが
まぁプロデューサーさんならいいかなと」
P「おかげで私まで猫の気持ちになることになりましたよ」
「ああ、そういえば今度イベントやるんでその時の
人員を募集しているんですがどうですか?」
P「それはこちらからお願いしたいぐらいですよ」
「それじゃあ話は通しておきますね。
また詳細が決まり次第連絡させていただきます」
P「ええ、よろしくお願いします」
「すみません。連絡いただいた市原ですが」
「保護者のかたですね。プロデューサーさん」
P「遊び疲れてしまったのか寝ちゃったんですけど……。
車まで運びましょうか?」
「ええ、すみません。後ろにお願いします」
P「よっこいっしょっと」
「ん……ぐぅ」
「今日はすみません。無理を言ってしまって」
「いえ、大丈夫ですよ。私よりも彼のほうが大変そうでしたし」
P「私も大した事はしてませんよ」
「普段はあまりワガママを言わないのですが今日に限ってどうして……。
出来れば私も一緒に来るべきなのでしょうがどうしても仕事が抜け出せなくて。
今日は本当にありがとうございました」
「またのご来園をお待ちしております」
P「それでは私も失礼します」
P「はい、それでは失礼します」
ちひろ「どうでしたか」
P「オッケーだそうです」
ちひろ「じゃあ予定表に書いておきますね。
最近頑張ってますね。だいぶ埋まってきましたよ」
P「まだまだですよ。アイドルも三人しかいないですし。
っと仁奈を迎えに行かないと。いってきます」
ちひろ「いってらっしゃい」
P(遊園地であった少女、市原仁奈がうちの事務所に来たのは一週間後のことだった)
P(どうやら保護者のかたがみくからうちの事務所を捜し当てたそうだ)
P(アイドルになってたくさんのキグルミを着たいという彼女の希望を俺は快く
受け入れ、あの日からうちのアイドルの一人として頑張っている)
P(そして……タイムリープは未だに06を刻んだまま止まっている)
P(このまま使わなければそれでいいだろう。それが平和というものだ)
P「……もうすぐ夏が来るな」
みく「ライブ?」
P「ああ、ミニライブだけどな。三人で出てもらうぞ」
晶葉「いつ頃なんだ?」
P「八月の終わりだ」
仁奈「キグルミの出番でごぜーます!」
P「そうだな。仁奈の衣装はキグルミでいいかもな」
みく「ソロのミニライブはやったことあるけど事務所総出は初めてにゃ」
P「ずっとやりたかったんだけどなかなか出来なくてな。
今回のライブが成功すればもっと機会も増えるだろう」
晶葉「そしていつかはトップアイドルに、か」
仁奈「キグルミもいっぱい着れるようになるです!」
P「曲のほうはまだ調整中みたいだが一応デモ版はあるから
レッスン場で聞くといい」
みく「こんなことしていられないにゃ! レッスンしにいくにゃ!」
P「今日から一段と厳しくなると思うがライブの成功目指して頑張れよ」
晶葉「何を言っているんだ。助手も頑張るんだぞ」
仁奈「四人で一つなのです!」
P「そうだな。じゃあみんなで力合わせて頑張るぞー!」
「「「おー!」」」
ちひろ(私は?)
P「レッスンお疲れー。迎えに来たぞ」
晶葉「」
みく「」
仁奈「」
P「へんじがない。ただのしかばねのようだ」
マストレ「これでも手加減しているんだがな」
みく「にゃん……だと」
仁奈「風化する死体の気持ちになるですよ」
晶葉「仁奈。だめだ、戻ってくるんだ」
P「そらそら、着替えないと帰るの遅くなるぞー」
「「「はーい」」」ゾロゾロ
P「もうライブまで一ヶ月切ったのか。早いもんだ」
マストレ「とりあえず形にはなっている。まだそれだけだ。
ここからはどこまで磨けるかの勝負だな」
P「社運がかかってるますから頼みますよ」
マストレ「全力は尽くす。P殿には他の部分を頑張ってもらおう」
P「そっちは準備万端ですよ。ちひろさんもいますし」
晶葉「待たせたな」
P「来たか。じゃあマストレさん。お疲れ様でした。またよろしくお願いします。
時間は今日と同じで晶葉だけ仕事があるので遅れます」
マストレ「うむ。お前達もよく体を休めるんだぞ」
みく「わかってるにゃ」
仁奈「また明日ですよ!」
みく「PチャンPチャン。ライブの物販とかもう決まってるにゃ?」
P「ん? まぁな。そんな大したもん出さないけどな」
みく「みくの猫耳ヘッドバンドとか」
仁奈「仁奈のおすすめキグルミとか」
晶葉「私のオリジナル工具セットとか」
P「ねぇよ。どんなの期待してんだ、お前ら。
サイリウムとかCD程度だよ」
晶葉「つまり新しいタイプのサイリウムを作ればいいんだな」
P「いらないから。そんなことしてる余裕ないだろ」
みく「確かに毎日くったくたにゃ」
仁奈「キグルミ着てたら暑くて燃えちまいます」
P「これからさらに厳しくなるから覚悟しとけよ」
晶葉「私の中の限界が越えれそうだよ……。助手ッ!!」
P「えっ」
P(……信号無視した車。激しい衝撃と音。車は大きく逸れ、路肩の木に突っ込んだ)
P「うっ……みんな。大丈夫か……」
仁奈「うぅ……」
みく「痛いよ……」
晶葉「助手……跳べ……」
P「……ああ。わかってる」
P「……疾駆ッ!!」
―――――
みく「Pチャン、いつもと道違うにゃ」
P「……ああ、さっき通った時警官が立っててね」
仁奈「悪い事したですか?」
P「してはいない。が、もしかしたら検閲か何かやるかもしれないし。
やましい物を持っているわけではないがそういうのは面倒だしな」
晶葉「ソウダナ」
P「おい、晶葉。なんでカタコトなんだ」
晶葉「いや、そんなことはないぞ?」
P「みく! 仁奈! 後ろにある晶葉の鞄を漁れ!」
仁奈「任せやがれです!」
みく「これにゃ!」
晶葉「人の鞄を勝手に漁るな!」
仁奈「これは粉薬でごぜーますか!?」
みく「白い粉が入った袋? ……あっ」
P「お前……」
晶葉「違う! 粉末状のスポーツドリンクだ!」
仁奈「入れ物には何も書いてないですよ?」
晶葉「私が開発したからな。マストレさんに刺激されて作ってみたんだ」
みく「本当かにゃ? 丁度ここにペットボトルに入った水があるから入れてみるにゃ」
晶葉「こんなもの見つかれば面倒だからな。検閲はぜひとも回避したい」
みく「Pチャン。飲んでみろにゃ」
P「なんで命令形なんだよ。仕方ないな」ゴクゴク
みく「どうにゃ?」
P「どっかで飲んだことあるような……晶葉。これは量産してはいけない」
晶葉「なぜだ。かなりうまく出来たと思うのだが」
P「これを量産したあかつきには事務所ごと消されるぞ」
みく「……まさか」
仁奈「Pがいつもちひろから買って飲んでる……」
P「そう、あれと同じ味がする」
晶葉「わかった。これは全部廃棄しよう。……芸能界の闇は深いな」
みく「検閲通らなくてよかったにゃ」
P「というわけで着いたぞー。仁奈はちょっと待ってろ。
多分もう迎えに来てると思うから連絡してみる」
みく「Pチャン、仁奈チャン。またにゃー」
晶葉「お疲れ様。また明日」
仁奈「またにゃーです」
P「おつかれー。あ、もしもし、Pですけど。今、駅です」
P「ふー、今日もつっかれったなー」
P「……残り05か。もしもこれがなかったらライブどころじゃなかったな」
P「一応使った事を晶葉に報告したほうがいいよな」
ブーブーブー
P「ん? これはタイミングいいな」
晶葉『もしもし助手か?』
P「あー、いやー、違うっすネ」
晶葉『今日跳んだな』
P「……わかるのか?」
晶葉『今手元にパソコンあるか? テレビでもやってるかもしれないが
ニュースになってるぞ』
P「何がだ?」
晶葉『暴走車による交通事故』
P「!!」
晶葉『発生場所、時間から推測できる。
おそらく最初に被害者となったのは我々だな?』
P「……ああ、そうだ」
晶葉『この事故による負傷者は五人。被害者側に四人乗っていたそうだ』
P「……」
晶葉『助手。跳べ』
P「跳んでどうするんだ」
晶葉『変えるんだ。過去を。助手にはそれが出来る力がある』
P「その被害者たちに未来を伝えるのか? それじゃあ新しい……」
晶葉『いや、根本から変える。暴走車をなくす』
P「何か案でもあるのか?」
晶葉『ああ。あの暴走車な、銀行強盗した後だったそうだ』
P「銀行強盗?」
晶葉『あの通りの近くに銀行あるだろ。そこで強盗が発生して
あの車は逃走中だったんだ』
P「この記事か。犯人は単独犯で強盗後、パトカーに発見されて逃走と」
晶葉『そして交差点で衝突したわけだ。
回数はまだあるが無駄遣いするんじゃないぞ』
P「わかってる。行ってくるよ。
……飛動ッ!!」
――――
P「……あそこの銀行だな。時間まではまだ少しある」
P「駐車場に例の車は既にある。犯人は中にいるというわけか」
P「もう電話しておくか。いや、待てよ。携帯からだと後々面倒になるかもしれないな」
P「電話ボックス……どこにあるんだ」キョロキョロ
P「割りと近くにあってよかった。最近はもうほとんど見かけないからな」
P「110番して……あ、もしもし――」
P「これでよしと。あ、迎えに行く時間だ。結果を見ておきたいが仕方ない」
P「今日もつっかれったなー」
P「……うん。銀行強盗も交通事故もないな」
P「晶葉に報告しておくか」
P「もしもし? 晶葉か?」
晶葉『助手か。どうしたんだ?』
P「タイムリープしたから報告しようと思ってな」
晶葉『久しぶりだな。今度は何をやったんだ』
P「なんで俺がやらかした前提になっているんだ。
実はかくがくしかじかということがあったんだ」
晶葉『ふむ。交通事故の回避か。その一回目の時、我々の怪我
は明らかに死ぬようなものだったか?』
P「嫌な事聞くな。みんな意識はあったし多分死にはしなかっただろう。
それでも結構な怪我はしてたと思うぞ」
晶葉『そうか。銀行強盗も防げたし一応ハッピーエンドか』
P「一応、なのか?」
晶葉『潜在的に犯罪を起こす可能性が高い人間がいるということだからな。
この一回で諦めてくれればいいがもしかした違うところでやるかもしれない』
P「それは……」
晶葉『とりあえずは今回は救うことが出来たんだ。今はそれでよしとしようじゃあないか』
P「そうだな。ああ、明日のイベントは俺も着いていくからな。事務所に居ろよ」
晶葉『ああ、わかった。それじゃあおやすみ』
P「おやすみ。これでよしか。……全てを救うことなんで出来ないもんな」
「ということでこのステージで順番にライブやショーをやってもらいます。
順番はこちらの表にあるのでご確認ください。質問がなければ準備のほうをお願いします」
P「デパート屋上のステージか。人は思ったよりいるな」
晶葉「私の順番は真ん中ぐらいだな。しかしアイドルだけじゃなくて色々いるな」
P「まぁイベントショーだからな。お客さんも色々見れていいんじゃないか?」
晶葉「助手は最後までいるとか言っていたな」
P「ああ、お前をレッスン場まで運ばないといけないしな。後ろの方で見てるよ」
晶葉「そうか。ふふふ、レッスンの成果を見るがいい」
P「このへんの席でいいか。……そういえばみくと会ったのもこういうところだったな。
あの時のはもっと小規模だったけど」
「……あの少々よろしいかしら」
P「え、あ、どうしました?」
P(何この子、外人? スカウトしようかな)
「アイドルショーというのはいつやりますの?」
P「アイドルショー? えーっと順番的にはこの次辺りからかな」
「そうですの。ありがとうございます」
P「アイドルに興味がおありで?」
「少しだけありますわ。彼女たちの視界には何が映っているのか……」
P「アイドルの視界か。光り輝く道とかかな!」
「なんですの、それ。あら、始まりますわ」
P「まずは一人目か……」
P「これでアイドルは全部かな」
「なかなか面白かったですわ」
P「どのアイドルが一番よかった?」
「そうですわね。……あなたのアイドルが一番よかったですわ。
池袋晶葉さんでしたわね」
P「え? なんで俺が晶葉のプロデューサーだって知ってるんだ?」
「無意識でしたの? 彼女の時だけ雰囲気も視線も全然違いましたわ。
それにスーツ姿でショーを見に来るくらいですもの。相当なファンで
あることくらいはわかりますわ」
P「でもプロデューサーとは特定出来ないはず……」
「私はあなたのアイドルとしか言ってませんわ。もしもファンであれば
あなたのお気に入りのアイドルとして受け取るか言葉足らずで理解出
来ないですわ」
P「なるほど。つまり自意識過剰だったと」
「簡単に言えばそういうことですわね」
P「……バレちまったら仕方ない。どうだい、アイドルやらない?」
「やってみたいという気持ちはありますわ。ですが父が許してくれませんわ」
P「でもキミは一人でここに来るくらいは興味があるんだろ?
だったら父親に聞いてみてもいいんじゃあないか?」
「一人というのは少々語弊がありますわ。おそらくそろそろ……」
タッタッタッ
「お嬢様! やっと見つけました!」
「ごめんあそばせ。どうしても見たいものがありましたの」
P「え、お嬢様?」
「……あなたはなんですか」
「わたくしの話相手になってくれた人ですわ。それでは行きますわよ。
また機会がありましたらお会いいたしましょう」
「失礼します。お嬢様、待ってください!」
P「……行ってしまった。お嬢様って言われてる人初めて見た。
さっきの人は護衛の人なのかな」
晶葉「何ボサっとしているんだ」
P「おおう、もう終わったのか」
晶葉「この後予定があると話を通したのは助手だろう。
先に帰らせてもらえたんだ」
P「ああ、そんなこと言ったな。じゃあ行くか」
晶葉「そうだな」
P「このビルとビルをつなぐ通路ってなんて言うんだろうな」
晶葉「渡り廊下だろう」
P「なんか橋っぽいから渡り通路とか違う名前あったりしないのか」
晶葉「さぁどうだろうな」
P「昔こういう廊下を隔てる窓ガラスをぶち破るゲームが……あ、あの子だ」
晶葉「ん? 何がだ?」
P「ほら、あそこの金髪の子。どっかのお嬢様らしいぞ。後ろに護衛いるし」
晶葉「あの子か。いかにもお嬢様っぽいじゃないか」
キキー バタン シュー キャー オジョウサマー ブーン
P「あ?」
晶葉「おい、そのお嬢様が攫われたぞ」
P「え、ちょ、誘拐?」
晶葉「しかもあの様子だと計画的犯行だな」
P「晶葉」
晶葉「ああ、行ってくるがいい」
P「……躍進ッ!」
―――
「……あなたはなんですか」
「わたくしの話相手になってくれた人ですわ。それでは行きますわよ。
また機会がありましたらお会いいたしましょう」
P「ストオオォォップ!!」
「「!?」」
P「あー、少し時間いいかな。話したい事がある」
「さきほどの話でしたら答えましたわ」
「お嬢様へのお話でしたら私を通してください」
P「あなたは彼女の護衛ですよね。おそらく……就いて間もない」
「……だとしたら?」
P「彼女を狙っているヤツらがいる」
「何を根拠に言っているのですか」
P「……なぁ、えーっと」
「わたくしは櫻井桃華ですわ」
P「櫻井!? あの櫻井家の?」
P(櫻井家か。そういえばあのアイドルも財閥出身だったな)
桃華「……そうですわ。それでわたくしが何か?」
P「あ、ああ。櫻井さんはいつも買い物はここに?」
桃華「大体はここですわ。ここも櫻井一族が関係しているデパートですし
特別な物でもない限りは十分ですの」
P「なるほど」
晶葉「助手。終わったぞ……ん? お客さんか?」
P「ああ、すまんな。ちょっと待っててくれ」
「結局何が言いたいんですか」
P「早い話が尾行されてたってことだ。いつ頃からかわからないが
かなり用意周到に計画が練られている。多分護衛があなた一人である今日が狙い目だったんだろう」
桃華「なるほど。わたくしが誘拐されるというわけですわね」
P「そういうことだ」
晶葉「ふむ。つまり彼女を助けたいと」
P「未然に防げるわけだからな」
「ちょっと待ってください。なんであなたが狙われていることを知っているんですか」
P「言えない」
「は?」
P「言えないんだ。その辺は自分で適当に想像してもらうしかないな」
「馬鹿馬鹿しい。時間の無駄です。行きますよ、お嬢様」
桃華「待ちなさい」
「ですが」
桃華「まだ時間はありますの。もう少しお話を聞かせてもらいますわ」
P「ありがとう。櫻井さんを狙っている連中は車で待機しています。
おそらく出てきたところを一気に掻っ攫うという予定なのでしょう」
桃華「この人ごみの中でそのようなことを?」
P「櫻井さんは目立ちますしね」
桃華「否定はしませんわ」
晶葉「それだけじゃないな。ヤツらが待機しているのは彼女たちがいつも
通る道だろう。もしも普段と違う行動をした時に対応がしにくいんじゃないか」
P「とは言っても何時まで待機して来なければ諦めるとかでもいいんじゃないか?」
晶葉「もちろんそれでもいい。だがそこまで用意周到にやって今日が好機であると
わかっているならどうしても狙いたいはずだ。つまりだ、もしもの時の可能性
のために……今監視している人間がいてもおかしくない」
「まさか……」キョロキョロ
桃華「丁度いいですわ。その辺調べてきなさい」
「しかし、私が離れるわけには」
桃華「彼らがいますしここで手を出しても下までは遠いから襲われる可能性は
ありませんわ。それに彼らがわたくしを狙う連中の仲間という可能性も
ないと言いきれますの」
「なぜですか。こんな怪しい連中ですよ?」
桃華「そのようなことする人間があんな一生懸命アイドルショーなんて見ませんし
ステージであんなに輝きませんわ」
「……そうですか。ではちょっと辺りを調べてきます」
P「仲間、いると思うか?」
晶葉「いるだろうが、見つかりはしないな。あっちもかなり慎重なんじゃないか?」
P「こんな人ごみで襲うのに?」
晶葉「そういう考えが先に来るから護衛が薄くなるのだろう。
ところで彼女を攫う連中というのは例の強盗ではないな?」
P「ああ、違う車だ」
桃華「あら、車までわかってますの。まるで未来でも見てきたみたいですわね」
P「ははは、そんなはずないじゃないですか」
桃華「そうですわね。わたくしを櫻井一族だと知らずに呼び止めて根拠は言えない
けど誘拐されると断言し、なおかつその車までわかっていてもまさかそんな
SFみたいな話ありませんわね」
晶葉「彼はあまり頭がよくないんだ。あまり攻めないでやってくれ」
P「晶葉と比較したらほとんどの人類がバカになるんだよなぁ……」
桃華「ま、いいですわ。車がわかっているのであれば問題ありませんわね」
P「他の道で帰ることも出来るけど次どこで狙われるか……」
桃華「逃げませんわ。そういった連中にはちゃんと思いしって貰いますわ。
櫻井一族に手を出すと言うのはどれほど愚かなことなのか」
ピーポーピーポー
P「……これでよかったのだろうか」
晶葉「まぁ解決はしたな」
P(ヤツらの犯行は人ごみの中にいる彼女を一瞬で誘拐すること)
P(一度目は歩道に横付けして車から出てスプレーのようなものを吹きつけて
護衛を足止めしてそのうちに攫って逃げる。かなりスムーズな動きだった)
P(今回も同じようにデパートを出た彼女たちは歩行者のいる歩道を歩いていく)
P(そこに横付けした車。この瞬間を待っていたと言わんばかりのタイミング)
P(ここでネタばらし。桃華の周りの歩行者全員櫻井家の護衛)
P(さきほど見張り探しに行かせた護衛さんに連絡して呼び出してもらったようだ)
P(結果、スプレーを吹きかけたはいいものの周りからリンチを食らい
それを見た運転手が慌てて出発しようとしたが車に飛び乗ってきた護衛に
止められるというここが本当に日本かどうか怪しい光景が繰り広げられた)
P(ちなみに今回の手柄は全てあの護衛さんのものになった)
P(色々不審な点のある我々の情報提供だと言うと後々お互い面倒だろう
ということでこうなった。彼女は助かっているのだからその辺りはどうでもいい)
P「俺達も行くか」
晶葉「そうだな。しかしこの後レッスンか。体力が持つだろうか……」
P(ライブまであと一週間)
P(レッスンの厳しさは徐々に増しているがアイドルたちの顔には余裕
が見えてきた)
P(士気も高くライブはきっとうまくいくだろう)
P(ということでライブの成功を祝って飯を奢ってやることにした)
P(のだが……)
P「お前らよく食うな!」
仁奈「そんなことねーですよ? あ、餃子のおかわりおねげーします」
みく「このチキンも追加にゃ!」
マストレ「じゃあ二皿ずつ頼もう」
ちひろ「そうですね」
P「待てや」
ちひろ「どうしました?」
P「なんで大人二人も割りと本気で食べてるんだ」
ちひろ「……給料なら前貸し出来ますよ?」
P「そうじゃないだろ!」
オマタセシマシター
晶葉「お、パスタが来たぞ」
P「ファミレスじゃなければ即死だった」
仁奈「仁奈はスシでもいいですよ?」
みく「にゃ! スシなんてダメダメにゃ!」
P「そういうわけだしそもそもスシならちひろさんたちには
絶対に奢らない」
ちひろ「ならここのほうがよかったですね」
P「お金を出すという発想には至らないんですか」
マストレ「このピザも頼もう」
P「」
晶葉「助手が静かに微笑みを浮かべて固まった」
ちひろ「女性の胃袋を舐めた結果ですよ」
みく「チキンうまうまにゃ」
仁奈「仁奈にもよこしやがってください!」
みく「だめにゃ。次のを待つにゃ!」
晶葉「暴れるんじゃない。危ないだろう」
オマタセシマシター ギョエ
みく「ぎにゃああああああああああああ」
ちひろ「チキンが熱々のお皿ごとみくちゃんに!」
P「……飛越ッ!!」
――
みく「チキンうまうまにゃ」
仁奈「仁奈にもよこしやがってください!」
P「みく! 仁奈!」
みく、仁奈「はいっ!」
P「……野菜も食べなさい」
オマタセシマシター
マストレ「お、チキンだぞ」
仁奈「野菜なんて食ってねーで肉を食うです」
みく「肉うまうまにゃ」
P「」
晶葉「助手が再び固まった……」
P「」ボケー
晶葉「おい、助手。大丈夫か」
P「ん、あ、どうした?」
晶葉「それはこっちのセリフだ。体調でも悪いのか?」
P「いや、大丈夫だ。問題ない」
晶葉「……サイフは?」
P「俺、ファミレスであんなに長いレシート初めて見たよ」
晶葉「すまないな」
P「晶葉が謝ることじゃない。奢ると言ったのは俺なんだから。
た、多少予想外のことがあっあっただけだから」
晶葉「言葉が震えているぞ」
P「ま、とりあえず今日のお仕事はこれでおしまいだから
レッスン場へ行くか」
晶葉「そうだな。しかし最近私の仕事も増えてきたな」
P「徐々にだけど認知されてきたってことだろ。
あ、あそこの銀行寄っていい?」
晶葉「ああ、まだ時間はあるしな」
P「サイフが空っぽなのはさすがに心もとないからな」
晶葉「クレジットカードでもあれば現金などそう必要ないだろ」
P「あれは悪魔のアイテムだ。使ってはいけない」
晶葉「つまり自制心が足りないんだな」
パァン
「動くなぁ!!」
P「……」
晶葉「……」
「さぁ、金をこれに詰めろ! 他のヤツは動くんじゃねーぞ!
さっき聞いた通りこれは本物だ!」
P「どう思う?」ヒソヒソ
晶葉「贋物だな」ヒソヒソ
P「とりあえず跳ぶか」ヒソヒソ
「おい、そこのテメェ。何喋ってんだ!」
P「……高翔ッ!!」
―
晶葉「ああ、まだ時間はあるしな」
P「ウソピョーン!!」
晶葉「は?」
P「あ、いや、すまん。近くに公衆電話ないか」
晶葉「銀行強盗か?」
P「例のアレなのかはわからないがな。お、あるじゃん。110番してと」
晶葉「なんか猛スピードで車が銀行の駐車場に来たぞ」
P「例の車だ……。もしもし! 銀行強盗です! 場所は――」
晶葉「間に合うのか……?」
P「わからん。ここで隠れて見守ろう」
晶葉「さっき破裂音のような音がしたが銃でも持っているのか?」
P「ああ。晶葉が贋物だと言っていたが……」
晶葉「……わかりはするがややこしいな」
ピーポーピーポー
P「来た! 早い!」
晶葉「あいつも出て来たぞ!」
バタン ブーン
晶葉「行ってしまった。番号は覚えたが……」
P「……これで事故がなければこのままでいいんだが」
晶葉「どうするんだ? 残って証言でもするか?」
P「いや、帰ろう。あれだけスピード出していれば目立つだろうし
証言も他で取れるだろう。正直ボロが出ても困るからあまり深く
関わりたくないしな」
晶葉「既に深く関わっていると思うが……。
助手がそう言うなら従おう。しかしどうするんだ?」
P「なにがだ?」
晶葉「サイフ。空っぽなのだろう」
P「いざとなればコンビニでも引き出せるしな」
晶葉「それもそうか」
P「さ、行こうか」
晶葉「うむ」
P「でもこれで残り01になっちゃったな」
晶葉「01? 確か櫻井さんを助けた時に03になったと言ってなかったか?」
P「ああ、言ってなかったな。昨日ファミレスで一回使ってんだ。
みくに熱々のチキンと皿が降ってきて」
晶葉「ああ、あの皿が降ってきたのか。火傷は免れないな」
P「しかしこれがあって本当によかったよ。これがなければ今頃俺達どうなっていた
かわからないからな。お前には感謝しないとな」
晶葉「……なぁ、助手。実は話したい事が」
ザワザワ ザワザワ
P「なんだ、横断歩道の辺りに人だかり出来てるけど」
晶葉「一応渡れはするみたいだが」
ダイジョウブカー キュキュウシャハマダカー
P「……まさか」
晶葉「すまない、一体何があったんだ?」
「交通事故だよ。信号無視した車が男の子撥ねたんだ」
晶葉「なるほど、ありがとう」
P「……神様というのは意地悪だな」
晶葉「数奇な運命というやつだ」
P「そんな運命、俺が変えてやる」
P「……時分ッ!!」
晶葉「間に合うのか……?」
P「いや、間に合わない」
晶葉「へっ? 助手、今なんて」
P「また逃げられて事故が起こる」
晶葉「じゃあもっと前の時間に……おい、どこへ行く!」
P(前の時間に戻れば再び未然に防ぐことは出来る)
P(しかしそれではだめなのだ。こいつはここで捕まらなければならない)
P(あいつの持っている武器は贋物だ。ならば)
ピーポーピーポー
P(来た。俺はあいつに見つからない位置で身を潜めておく)
バタン
「クソ、なんでいつもこんなに早く警察が」
P(出てきた! この瞬間飛び出して!)
P「フン!!」ドゴ
「ゲフォア!?」バタン
P「ついでに蹴りも食らえ!!」ドゴォ
「ヒデブッ!!」グッタリ
P「はぁはぁ、よし逃げよう」
晶葉「おい、助手。なんてことを」
P「いいから逃げるぞ!」
晶葉「あ、ああ」
P「ここまで逃げればいいだろう」
晶葉「もう少しスマートな方法はなかったのか。相手は武器を持っているかも
しれないんだぞ。車の陰から不意打ちして殴るなんて」
P「仕方ないだろ。警察自体はあと少しで来るみたいだったからとりあえずの足止め
出来ればよかっただけだし。銃は贋物だって晶葉が言ったから信用したんだ。
タイヤをパンクさせたりするのも難しいからな」
晶葉「結果よければ……なのか? うーむ」
P「しかしこれでタイムリープは終わりか」
晶葉「終わり? まだ01じゃないのか?」
P「昨日ファミレスで使ったんだ」
晶葉「まぁ何があったか知らんが使ってしまったのなら仕方ない」
P「……」
晶葉「何身構えているんだ」
P「俺が最後に使った理由はここで交通事故があったからなんだ」
晶葉「なるほど。でも原因は取り除いたんだろ? なら問題あるまい」
シンゴウアカ
P「今のところ事故が起こっている様子もないしどうにかなったみたいだな。
全部使いきっちゃったけど悔いはない。むしろこれがあって本当によかった。
晶葉。ありがとな」
晶葉「いや、礼は必要ない。むしろ私は助手に……あれは」
P「どうした?」
晶葉「今向かい側に探している人間がいたような……」
P「まだ赤信号だから行くなよ」
晶葉「わかってる……いたっ!」
シンゴウアオ ペーペーポーペーペポポー
晶葉「行ってしまう」ダッ
P「そんなに走るなy」ドゴン
P「……え」
晶葉「」
P「晶葉……?」
P「晶葉ああああぁぁぁぁ!!」
P「おい、晶葉!! しっかりしろ!」ユサユサ
晶葉「あまり……動かすな」
P「晶葉!」
晶葉「やはり……人には過ぎた技術だった……のか」
P「大丈夫だ。今すぐ跳んで……」
晶葉「あるいは……全て……」
P「なんで……なんで00なんだよおおおぉぉ!」
晶葉「助手……泣くな……」
P「だってお前……!」
晶葉「これもまた……運命だ……」
晶葉「」
P「晶葉?」
P「なぁ返事しろよ」
P「なんでこんなことに……」
P「……あの車。知らない車だ」
P「そうか。強盗の車じゃなかったんだ」
P「強盗の成功失敗に関係なくあの車はここを通った」
P「晶葉が轢かれたのはさっきと違って俺が走らせたから」
P「だから運命が入れ代わった」
P「『時間は捻れ、運命は入れ替わる。』か」
P「そっか。それじゃあ俺が」
P「晶葉を」
ちひろ「はぁ……はぁ……」
ちひろ「プロデューサーさん」
P「……ああ、ちひろさんですか」
ちひろ「晶葉ちゃんは」
P「……あっちで眠ってます。もう起きません」
ちひろ「そんな……」
P「どうしてこうなっちゃったんでしょうね」
ちひろ「どうしてって車が……」
P「なんで俺の手首には00としか刻印されてないんでしょう」
ちひろ「00? プロデューサーさん、その手首のは?」
P「こういうのって01になったりするもんじゃないんですか」
ちひろ「何の話をしているんですか」
P「さすがにそこまでは都合よくならないわけですね」
ちひろ「プロデューサーさん。もう休んでください」
P「……そうですね。休みましょう」
ちひろ「どこに行くんですか」
P「そういえばみくと仁奈はどうしました?」
ちひろ「えっと普通にレッスンを終えて自分達で帰っていると思います。
マストレさんには晶葉ちゃんとプロデューサーさんに急な仕事
が入ったって言ってあるので大丈夫かと」
P「それはよかった。本当にちひろさんは優秀で頼りになります」
ちひろ「それでどこに行こうとしてるんですか」
P「飲み物を買いに行くんですよ。ちひろさんは何か欲しいですか」
ちひろ「……ではコーヒーをお願いします」
P「わかりました」
ちひろ「プロデューサーさん。私、信じてます。
絶対にコーヒーを買って来てくれるって信じてます」
P「……」
P(すみません。ちひろさん)
P(もしも晶葉だったら『やめたまえ』と言うに違いない)
P(そんなことはわかっている)
P(でもこれからずっと俺はそれを背負って行く事になるんだ)
P(俺が、俺の不注意が晶葉を殺したという事実を)
P(普通の人間なら嘆き、苦しんだ後に何かしらの気持ちの整理を
つけて立ち直るのかもしれない。死者の代わりに生を謳歌したり、
あるいは罪を背負い、頭を垂れながら生きていくのだろう)
P(しかし俺はそれに耐えられそうに無い)
P(池袋晶葉という親愛なる友人を失って生まれたこの感情)
P(悲愴。憤怒。哀感。あるいは虚無)
P(まぁいいか。どうせもう)
キキー ドコン ヒトガヒカレタゾー
P(思ったよりも痛くない。晶葉も痛くなかったのだろうか)
キュウキュウシャヨベ ビョウインスグソコダ
P(それなのに温度だけは敏感に感じ取れる)
ハヤク― イシャ―
P(声が遠くなっていく。ゆっくりと世界に幕が下りる)
P(夏だからか地面が妙に温かい。流れる血も温かい)
P(これは……俺の体が冷たくなっていくからか……)
P(みんな……)
「タイムリープ」
晶葉「今向かい側に探している人間がいたような……」
P「え、え?」
晶葉「あの辺に……いたっ!」
シンゴウアオ ペーペーポーペーペポポー
晶葉「行ってしm」
P「ストオオオオオアアアアアアアプ!!」
晶葉「」ビク
「」ビク
ブォン キキー ドゴォ
「信号無視した車が前の車に突っ込んだぞ!」
「警察呼べー!」
「あやうく轢かれるところだったぞ」
晶葉「助手? まさか。でも00のはずじゃうわっ」ガバッ
P「良かった……! 夢じゃないよな……!」ギュウ
晶葉「いや、人前で抱きつかれるのは色々困るのだが」
P「すまん……。でも嬉しくて……」ギュウ
晶葉「大方私がここで死んで時間遡行も出来ず嘆いていたら
唐突にこの時間に戻されたとかだろう?」
P「なんで知ってるんだ?」
晶葉「彼女がそこにいるからだ。おそらく全て運命通りというわけだろう」
「……」コクン
P「君は……桜の木の下で会った子じゃないか」
「お久しぶりでございます」
「やはりアイスはおいしいです」
晶葉「命の恩人だろうからな。好きなだけ食べればいい」
「好きなだけ……お腹壊しますです」
晶葉「その辺は自重してくれ」
P「マストレさんに連絡したぞ。これで時間は出来た」
晶葉「じゃあ説明してもらおうか」
「そうですね。あー……わたくしライラと申しますです」
ライラ「今から二十……すごい未来から来ましたです」
P「二十年以上先からか。随分とまた遠くから……」
ライラ「わたくしは研究所で働いてて、今回のお仕事をいただきましたです」
晶葉「時間に関する研究所か。面白い研究をする人がいるもんだな。会ってみたいものだ」
ライラ「あなたです」
晶葉「え?」
ライラ「池袋先生。あなたの研究所で働いていたのです」
P「つまり未来の晶葉がこの時代に送りこんだのか」
ライラ「はい。この時代の池袋先生にコレを渡すために」ゴソゴソ
晶葉「!! これは!」
P「黒い……球?」
ライラ「池袋先生が開発した物質です。これがないとタイムリープ装置は
完成しないです」
晶葉「そうだ。あの時、私は公園を散歩してて君に会ったんだ。そして
タイムリープ装置のヒントとこれを貰った」
ライラ「そうです」シマイシマイ
P「なんでそんなことをする必要があったんだ」
ライラ「歴史通りにするためです」
晶葉「君が行っているのはタイムリープとわけが違う。
時間旅行……矛盾が発生するものだ。これも全て歴史の通りと言うのか」
ライラ「そうです。わたくしがこの時代に飛ばされたのもあなたたちのタイムリープ
の体験も全部歴史通りの筋書きでございます」
晶葉「……例えば今私が死んだとしたらどうなるんだ?」
ライラ「それはないです。あなたはわたくしの時代まで生きますです」
晶葉「君や私が何をしようが君の知る歴史通りにしか世界は動かない、と」
ライラ「そうです」
晶葉「なるほどな。ははっ、タイムパラドックスやパラレルワールドは杞憂だったってことか」
P「これからも君は歴史通りにするために動くのか?」
ライラ「もう終わりましたです。わたくしのお仕事はあなたが轢かれたときにタイムリープ
をしてこの話をするまでです」
P「じゃあこれからどうするんだ。元の時間に戻れるのか?」
ライラ「タイムリープ技術もタイムトラベル技術も未来へ跳ぶことはまだ出来ないです。
わたくしはこれからこの時代で生きていくです」
晶葉「未来人が身一つで生きていくなんで出来ないだろう」
ライラ「取っておきがあるです」ゴソゴソ
晶葉「これは……じゅ、純金だ!」
P「晶葉の手のひらサイズあるぞ!」
ライラ「あと宝石とか色々……」ゴソゴソ
晶葉「一財産築けるぞ……」
ライラ「人工の金と宝石ですが、この時代では見分けが付かないです。
これを売って当分日本で過ごしますです」
P「そうか。とりあえず……安心なのか?」
晶葉「むしろ助手より豪勢な生活出来るな」
P「ウグッ」
ライラ「それと……これ、どうぞ」
P「メモ翌用紙? 書いてあるのは……日付か?」
晶葉「またずいぶんと先の日付じゃないか。これはなんだ?」
ライラ「未来に必要なものです。大事にしてほしいです」
P「大事にしてほしいなら広告の裏に書くなよ……」
ライラ「あ、最後に池袋博士から池袋博士に伝言でございます」
晶葉「未来の私からか。ややこしいな。なんと言ってたんだ」
ライラ「『ライブ、頑張れ』です」
晶葉「……ふふっ、言われなくても成功させるさっ!」
その後のことを少しだけ話そう。
夏のライブは成功して三人娘はちょっとだけ世間に認知された。
ヒットチャートを騒がすような大きなものではなかったが彼女たちは楽しそうだった。
そしてみくが大学受験のためにアイドルを引退すると同時にグループは解散。
そのまま事務所もなくなってしまった。
が、しかし晶葉の発案により研究所が建てられることになった。
池袋マテリアル研究所と名づけられたそれはなんと櫻井家出資のもと作られた。
俺が知らないうちに晶葉と櫻井桃華は懇意の仲になっていたようだ。
そして俺はそこに研究員として雇われることになった。なぜかちひろさんも一緒に。
晶葉は高校、大学と通い、卒業後は研究所の主として日夜研究に励んでいる。
みくは大学を卒業した後、研究所に就職。俺と結婚した。
仁奈は優秀な成績で大学に進学後、留学して技術を学んできてやはり研究所に就職した。
ライラは高校を卒業した後、母国のドバイに戻ったそうだ。あちらで結婚して落ち着いたようだ。
そしてあの夏から二十数年が経った。
P「ちょっと散歩してくる」
みく「夕飯までには帰って来てねー」
晶葉「仁奈。例の件だが机の上にメモがあるからその通りに頼む」
仁奈「はいよ。しっかし二人で散歩行くの?」
晶葉「まぁな」
仁奈「みくさーん、これ浮気じゃなーい?」
みく「大丈夫大丈夫。旦那はうちにゾッコンだから」
仁奈(未婚)「くっ」
ちひろ(未婚)「なんで私までダメージを食らわなければ……!」
晶葉(未婚)「アンドロイドでも作るか? 今度」
ちひろ「晶葉さんのアンドロイド、火吹くじゃないですか……」
P「ま、そういうわけで行って来ます」
晶葉「留守番しとくだな」
「「「いってらっしゃーい」」」
P「……もう二十年以上経ったのか」
晶葉「早いものだ。技術は思ったより進歩していないと言うのに」
P「夢見た二千年も大した事無かったように二十年ちょっと進んだ程度じゃ
あまり変わらないってことだな」
晶葉「技術の水平線か。SFの超高度機械文明はいつになるやら」
P「そういえばライラ……いや、今名前違ったな。あの人から連絡あった?」
晶葉「ああ、来てたぞ。というか連絡よこすくらいならメモいらなかったんじゃないか」
P「あの時代のライラは知るはずないからな。自分の母親が同じ体験したなんて」
晶葉「助手は昔から嘘が下手だからな。ボロを出すなよ」
P「わかってる。……あの子か」
晶葉「本当にそっくりだな。まぁ当然と言えば当然か……。
そこの君。どうかしたのかい?」
「え……あー……――、―――?」
晶葉「英語か。――――。――――」
「――――あー……少し」
晶葉「日本語ならうちに来て仁奈に学べばいい。あいつは語学に強いからな。
私は池袋晶葉。君の名前は?」
「わたし……えっと……ライラ、です」
以上。
途中で気付いた奴もいたようだがな
残念だったな! スレタイ詐欺だ!
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