淡「宮永先輩、付き合ってください」 照「しつこい」(122)

照「いい加減にして」ペラッ

淡「先輩こそいい加減にしてくださいよ。 私が何回告白したと思ってるんですか?」

照「今日で8回目。 慣れてきたから告白って感じがしない」

淡「それは先輩の立場の話で、私は毎回真剣です」

照「それなら私も毎回真剣。 世の中には通ることと通らないことがある」ペラッ

淡「通してくださいよ。 っていうか私が告白してる横で、なんで本読んでるんですか」

照「私が読書してる時に淡がきたんでしょ」

淡「普通は告白された直後に読書なんてできませんよ」

照「もはや日常」ペラッ

淡「悪い返事でもいいので、せめて読書やめて、真剣に答えてくれませんか?」

照「……」スッ

淡「! やっと振り向いて……」

照「ごめんなさい、付き合えません。 これでいい? 読書に戻る」

淡「……」

淡「ちょっと、いくらなんでもひどいと思いますけど」

照「『悪い返事でもいい』って言ったのは淡の方」ペラッ

淡「前から思ってましたけど、宮永先輩って他人に冷たすぎる気がします」

淡「もう少し人を思いやる心とかを……具体的には後輩とか、もっと具体的には私とか」

照「冷たいわけじゃないし、思いやりも持ってる。 ただ淡とは付き合えない。 それだけ」

照「その私を好きになったのは淡なんだから、それくらいで文句を言う方がおかしい」ペラッ

淡「いやでも、交際してる仲であろうと、良い物は良いし、悪いものは悪いんですよ」

照「交際してない」

淡「してくださいよ」

照「しつこい。 読書に集中させて」ペラッ

淡「本当冷たいですね。 宮永先輩の悪いところです」

照「じゃあ、私のことなんか好きじゃなくていいでしょ」

淡「いや、そういうクールなところも含めて好きですけどね」

照「……あっそう」

淡「相変わらず読書は続けるんですね」

淡「そのメンタルがあったからこそ、インターハイチャンプになったんでしょうか?」

照「皮肉? 読書は私の日課」ペラッ

淡「知ってます。 だからこそ、宮永先輩しかいない早い時間を狙って来てるんですよ」

照「無駄な努力だと思う」

淡「無駄じゃあないですよ。 こうやって先輩と夫婦喧嘩してる時間も好きですから」

照「夫婦じゃない」ペラッ

淡「でも早く来るために努力してることは事実ですね。 後輩の努力を踏みにじる気ですか?」

照「自分の都合を押し付ける人は好きじゃない」

淡「押し付けてませんよ。 あくまで告白がokするまで、先輩は私の彼女じゃありませんからね」

照「わかってるならこれっきりにして」ペラッ

淡「ま、okもらうまでは何度でも告白し続ける気ですけどね。 先輩、好きです」

照「知ってる」

淡「付き合ってください」

照「無理」ペラッ

淡「……」

照「……」

淡「先輩」スッ

照「何……いたっ」プニッ

淡「うわっ、こんな古臭い手法に引っかかるなんて」

照「高校生にもなってみっともない」

淡「そうやって型にはまった考えを持っていると、いつか痛い目見ますよ」

照「それとこれとは別」

淡「だから、頑固になってないで早く私と付き合ってください」

照「……」ペラッ

淡「あーあ、とうとう無視を決めましたか。 まあ構いませんけどね。 振り向くのも時間の問題なので」

淡「あー、先輩のほっぺ柔らかかったなぁ」

淡「……本当は振り向いた時にちゅーしちゃっても良かったんですけど」

照「! ……」

淡「あ、今反応しましたね。 宮永先輩のことなら、細かい動作でもわかりますよ」

照「びっくりしただけ」ペラッ

淡「無視はやめてくれましたか」

照「……」

淡「先輩、こっち向いてくださいって」

照「……」

淡「無視がわざとらしいですよ。 照れてるんでしょうか? 照だけに」

照「寒い」ペラッ

淡「全然無視できてませんね」

照「無視してるほうが厄介だと理解したから」

淡「別に先輩を弄ってるわけじゃないですよ。 本当に好きだからこうしてるだけで」

照「それなら好きな人の都合も考えて欲しい」ペラッ

淡「そんなこと言われましても」

淡「その本、私の愛の告白よりもいいものなんですか?」

照「好きな人の新作。 集中させて」ペラッ

淡「え、ちょっと好きな人ってだれなんですか!?」

照「好きな人って、好きな作者のこと」

淡「あ、ああ、そうですか……ってそうですよね」

照「普通間違えない」

淡「仕方ないじゃないですか。 普通好きな人が目の前で『なんとかが好き』なんて言ったら、嫌でも同様します」

照「それは淡が落ち着いてないだけ」ペラッ

淡「皆そうなんですって。 先輩って恋したことありません?」

照「ない」

淡「あー、先輩って無性愛者っぽいですよね。 顔も性格もオーラも」

淡「まぁ、私も宮永先輩が初恋ですから、理解したのは最近ですけどね」

照「……あっそう」

淡「思ったんですけど」

照「何」

淡「弘世先輩に対して話す時と私に対して話す時」

淡「なんというか、少しだけ雰囲気違いません?」

照「淡と違って、菫とは日常会話が多い」

照「それに菫とは長い付き合いだから当然のこと」ペラッ

淡「うわっ、ハッキリ言いますね。 そういうところ好きですよ、もちろん深い意味で」

淡「私も、後2年生まれるのが早かったら、また少し違ったんでしょうか」

照「同じこと。 仮に菫に告白されたとしても、私は受けない」ペラッ

淡「あまり考えたくありませんね」


菫「また2人が一番乗りか?」

淡「あ、先輩こんにちは」

菫「2人の仲が良くなるのは喜ばしいことだ。 照は人間関係によく壁を作るから余計にそう思う」

淡「……そうですか」

菫「お、もうこんな時間か。 そろそろ解散にしよう」

照「そうだ。 菫、これ返す」

菫「そういえば貸してたな。 面白かったか?」

照「うん」

菫「ならよかった。 そうそう、この続編がちょうど今日発売するんだが、本屋に寄ってもいいか?」

照「構わない」

淡(……)


淡「ちょ、先輩、今日私と帰る約束じゃないですか!」

照「え」

菫「なんだ、そうなのか? 早く言ってくれればいいのに」

照「そんな約束してな……」

淡「ごめんなさい、弘世先輩。 宮永先輩借りていきますね!」


照「……どういうつもり」

淡「正直、少し嫉妬しました。 いや、大分嫉妬しました。 自己中ですよね、すみません」

照「わかってるならそういうことはやめたほうがいい」

淡「わかりました、じゃあもうしません。 けど、せめて今日限り一緒に帰らせてください」

照「淡、何か勘違いしてない?」

淡「はい?」

照「私は淡のことを拒否してるわけじゃない。 一緒に帰りたいなら、事前に言えばいいだけ」

淡「……ほ、ほんとですか!? じゃあ毎日帰りましょ!」

照「それはそれで……」

淡「そうだ! 私気になってた喫茶店があるんですよ! このまま行きましょ!」

照「話聞いて……」


淡「先輩、何頼みますか?」

照「……ねぇ」

淡「先輩、先に言っておきますけど、手引っ張ってもあんまり抵抗してませんでしたよね」

淡「満更でもないんじゃないんですか?」

照「まぁ、喫茶店くらいならいいか」

淡「そうこなくっちゃ!」

照「ただ一つ言いたいことがある」

淡「とうとう私と付き合ってくれるんですか?」

照「全然違う。 なんで私の隣にくっついてるの?」

淡「ダメですか?」

照「注目の的になる」

淡「じゃあ膝の上なら」

照「もっとダメ」

淡「ひとつ、膝の上。 ふたつ、先輩の隣。 さあどっち!」

照「……もういいよ、隣で」

淡「ちなみに、みっつで私と付き合う、ってのもありますよ」

照「いいからメニュー見せて。 身動き取れない」

淡「はいはい」

淡「先輩の頼んだ飲み物、おいしそうですね」

照「飲む?」

淡「本気で言ってます? 関節キスですね」

照「私はそういう意味で言ったわけじゃないし、気にしてない」

淡「そうですか、私はめっちゃ気にしてます」

照「飲むのか飲まないのか、どっち」

淡「飲みます飲みます、次のチャンスがいつかわかりませんしね」ゴクッ

淡「……ふぅ、美味しいですね。 先輩が飲んだ後だからでしょうか」

照「気持ち悪いこと言わないで」

淡「ひどいですね。 あ、私の飲みます?」

照「じゃあ一口」ゴクッ

淡「……そんなに関節キスがしたいですか。 私は直接でもいいですよ」

照「だから、そういう意味じゃない」

淡「残念」

淡「結局、先輩に奢ってもらっちゃいましたね」

照「先輩として当然のこと」

淡「ありがとうございます」

淡「でも、先輩だとか後輩だとかじゃなくて、一個人として私を見てくださいよ」

照「『後輩の努力を』とか言ってた口から出る言葉じゃない」

淡「や、結構本気で」

照「心配しなくても、淡のことは一個人として見ている」

淡「……それって『麻雀部として』とかが前に付きますよね」

淡「なんというか、後輩の延長線上のような」

照「? そんな事言われても、淡をただの後輩と思ってないのは本当のことだし」

淡「はぁ、そうですか。 嬉しいですけど、それは私の望んでる特別とは違う形なんでしょうね」

照「そうなるかもしれない。 何度も言ってるけど、諦めたほうが早いと思う」

淡「それは私が決めることです」

照「私こっちだから」

淡「あ、そうですか。 遠回りして……なんて」

照「今更遅いし、帰宅を遅くする趣味はない」

淡「でも私と一緒に喫茶店行ってくれたじゃないですか」

照「……それとこれとは別問題」

淡「はぁ、先輩のことはよくわかりませんね。 そこも好きですよ」

淡「……私、宮永先輩のこともう少し知りたいです」

照「だから、無理だって」

淡「まだ具体的なこと言ってませんけど」

照「言う前からわかる。 変な意味が含まない形でなら、別に教えて上げてもいいけど」

淡「変じゃありません、私の気持ちは真っ直ぐですよ」

照「わかった、わかった……また明日」

淡「明日も一緒に帰ってくださいね」

照「ああ」


淡「……生殺しにされてる気分ですよ、こっちは」

淡「先輩、帰りましょ!」

照「はいはい」

菫「最近毎日一緒に帰ってないか」

淡「そうなんですよ! 先輩ったら私と一緒に帰りたいらしくて」

照「言ってない」

菫「はは、妬けるな。 休日も体調壊さないようにな」

淡(……妬けるのはこっちの方ですよ)


淡「先輩、手繋いでください」

照「え……」

淡「ダメですか?」

照「……それくらいなら、まぁ」

淡「やった!」ギュッ

照「ちょっと、痛い」

淡「あっ、ごめんなさい。 少し興奮しちゃって」

淡「先輩とこうして一緒に帰れて、あわよくば手まで繋げて、嬉しい限りです」

照「そ」

淡「もちろんマックスは先輩と付き合うことですけどね。 まぁ、今はこれで我慢します」

照「今は、ねぇ……」

淡「はい。 そのうち我慢できなくなるかもしれません」

淡「……先輩は告白の後にいつも『こっちの気持ちを考えて』みたいなこと言いますけど、それは先輩にも言えますよ」

淡「私の気持ち、少しは考えたことあります?」

照「あんなに毎日告白されてれば、それくらい誰でもわかる」

淡「わかってたら、私が『手繋いでください』なんて言っても、繋ごうとしませんよ」

照「? 淡から言ってきたことじゃないのか」

淡「……はぁ、先輩は鈍チンなんでしょうか」

淡(そうやって中途半端に私を救うから、私はいつまでも宮永先輩のことが好きでいてしまうんですよね)

照「せっかく手繋いでやったのに、なんでそんな不機嫌そうなんだ」

淡「……いや、もういいです。 私以外の子と、こういうことしないでくださいね」

照「縛られる筋合いはないし、大体そんなこと言ってくるのも淡くらいだ」

照「じゃ、また月曜日」

淡「先輩と歩いてると、時間があっという間に過ぎますね」

淡「それじゃあ、おやすみなさい」

照「ああ」


淡「はぁ……宮永先輩、どうして私に振り向いてくれないだろう」ゴロゴロ

淡「っていうか、せっかく先輩と一緒に帰ってるんだし、家とか教えてもらえばよかった」ゴロゴロ

淡「……! いいこと思いついた! この頭脳を持った自分が憎い!」

From:宮永先輩
本文:明日飽いてますか? 合いてたらデート活きましょう、向かえに行くのでお家教えてください。

淡「……なんか色々すっ飛ばしてる気がするけど、先輩にはこれくらいスッキリした文のほうがいいかな。 送信」

淡「! きた!」ドキドキ

Re:
本文:予定は別にないが……漢字間違えすぎだぞ。

淡「~~!!」

淡「どうしよう……ダメな後輩だと思われてないかな……」

淡「先輩とデート♪ 先輩とデート♪」ガンッ

淡「いったい!! ああ、なんで小指ってこんなに出っ張ってるの……」

淡「そうだ、せっかく休日に先輩と会うんだから、ちゃんと考えて洋服選ばないと」


prrrr

淡「……うーん……はーい」

照『おい、起きろ』

淡「!! えっ、今何時ですか!?」

照『自分の携帯に聞け』

淡「……あっ! すいません!!」

照『そっちから誘ったんだろう。 まぁいい、駅前の喫茶店にいるからな』ガチャッ

淡「……はぁ、色々考えて寝不足だし結局遅刻しちゃうし……」

淡「先輩怒ってないかなぁ……っ、やばっ、泣くな泣くな!」

淡「大丈夫、先輩の優しさは私が一番わかってる! とにかく早く行かなきゃ」

淡「ご、ごめんなさい!」

照「待ってたぞ」

淡「……あの、怒ってないんですか? 1時間遅刻したんですよ?」

照「? 別にこれくらいで怒る必要もないだろ」

照「待ってる間に朝食は食べたから、淡も何か頼んだらどうだ」

淡「……やっぱり、先輩は優しいですね。 大好きです」

淡「でも、できることなら朝食は待ってて欲しかったですね」

淡「仮にも私は先輩に恋してるんですから、一緒に食べたいと思うのが筋です」

照「なんで後から来てそんなに偉そうなんだ……」

淡「えへへ、でも怒らないんですね」

照「……変なこと言ってないで、早く注文しろ」

淡「やっぱり宮永先輩を好きになってよかったです。 さ、何食べよっかなー♪」

照「……」

照「……」ペラッ

淡「ちょ、ちょっと先輩ってば」

照「何?」

淡「人が食べてて暇とはいえ、読書はやめてくださいよ。 デート中ですよ?」

照「仕方ないだろ、他にすることがないんだから」ペラッ

淡「私の食べてる様子でも見ててくださいよ」

照「そんな趣味はない」

淡「私は先輩の食べてる様子、見たかったですね。 何食べてるかとか」

照「私がさっき頼んだのは、淡が今食べてるそれだぞ」ペラッ

淡「えっ、ほんと?」

照「そんなウソついてどうするんだ」

淡「……えへへ、やった! 最高です♪」

照「そんなに喜ぶことか? 同じものなんて、誰かと食べに行くなら普通に頼んだりするだろ」

淡「先輩はわからなくていいですよ。 どうしても知りたいなら、私と付き合えばわかることです」

照「変なの」ペラッ

淡「ごちそうさまでした」

淡「先輩、食後にジュースでも飲みませんか?」

照「なんで私に聞くんだ。 もう朝食は済んでる」

淡「いや、ここってメニューに恋人限定のジュースがあるんですよ。 ベタなやつ」

照「ここはよく利用するが、そんなのはないぞ」

淡「あ、じゃあ賭けます? 私が頼んで出てきたら、一緒にそれ飲んでください」

照「まあいいよ。 ないものはないから」

淡「……そうですね。 すみません、このジュースください」


照「普通のミックスジュースだろ」

淡「まあまあ、ちょっと待っててください……えい」プス

淡「さあどうぞ」

照「……これ、ストロー2つ刺しただけ」

淡「細かいことは気にしないでくださいよ! さあ私の勝ちです、一緒に飲んでください」

照「……はぁ」

淡「なんだかんだで付き合ってくれるんですね」

照「ところで、どこ行くか決まっているのか?」

淡「……あー」

淡(興奮しててすっかり忘れてた……)

照「おい、何も考えてないのか」

淡「……まぁ、そうなりますね」

淡「いや、宮永先輩が悪いんですよ? 私の誘いに即答してくれたせいで、色々舞い上がって忘れちゃってました」

淡「先輩が私のハートを掴んだのが、全ての元凶です」

照「……その図々しさはどこから来るんだ」

淡「愛ですよ」

淡「ま、何もしないんじゃあ、味気ないですよね。 映画でも見に行きましょうか」

照「淡に任せる」

淡「いいんですか? ちょっと危ないところとか連れてっちゃうかもしれませんね」

照「映画」

淡「先輩って二つ条件を出されたら、絶対その中から選択しますよね。 正直扱いやすいです」

淡「そういう生真面目なところも好きなんですよね、これが」

淡「先輩、どれ見たいですか?」

照「なんでもいい」

淡「……はぁ、先輩こそ、その冷静さはどこから来るんでしょうね」

淡「デートって、もう少しその、ニコニコしながらするものでしょう」

照「淡にとってはそうでも、私にとっては普通のお出かけ」

淡「確かに、私が勝手に興奮してるだけですけどね。 仕方ない、先輩の笑顔は、彼女になるその時までとっときましょう」


淡「じゃ、これにしましょうか。 すみません、チケット2つ」スッ

照「……いい、私が払う」

淡「あの、また先輩後輩って話ですか? 私が遅れてきたんだから、私が持ちます」

淡「それに言いましたよ、そういう立場抜きがいいです、と」

淡「『宮永先輩』と呼んでますけど、私の中では『先輩』ではなく『宮永照』という個人です」

淡「先輩にも『後輩』じゃなくて『大星淡』として扱って欲しいですね」

照「……まぁ、そこまで言うなら」

淡「真っ暗になってきますね。 映画前のこの時間、なんかいいですよね」

照「わからない」

淡「でしょうね。 ま、私は宮永先輩とこうして同じものを見られるだけで幸せです」

淡「こんなに真っ暗だと、もしかしたら先輩に変ないたずらしちゃうかも」

淡「ちゅーとか」

照「? いくら淡が押しが強いとはいえ、さすがにそんなことはしないだろう」

淡「……そうですか」


淡(はぁ、結局何もできなかった……)

淡「宮永先輩のことを言えないくらい、私も単純だなぁ」

照「なんだそれ」

淡「こっちの話ですよ」

淡「これだけ長く座ってると、身体が固まって仕方ないです」

照「そうだな……んーっ」

淡「!」

淡「うわっ、宮永先輩でも、手足伸ばしたりするんですね……」

照「私だって疲れる時は疲れる」

淡「そうですけど、そんなに隙だらけというか、俗っぽいことをするのは意外です」

照「淡、お前も結構ひどいことを言うな。 私のことを言えない」

淡「ちょっとビックリしただけですよ。 でも嬉しいです」

照「?」

淡「長時間麻雀打った後でも、そんなところ見たことありませんしね」

淡「普段見られないところを見られただけでも、私は嬉しいです」

照「……そ」

淡「さて、次はどこ行きましょう」

照「私に聞くのか?」

淡「私は宮永先輩となら、どこへ行っても楽しむ自信がありますから」

照「……」

淡「先輩がなにもないなら、私はゲーセンに行きたいです」

照「ゲームするのに二人で行くのか?」

淡「あらら、先輩ってば無知ですね。 普通ですよ、普通」

照「……私なら構わないが、普通年上にそんな態度を取るもんじゃないぞ」

淡「安心してください。 私がこうやって自然体で接してるのは、宮永先輩くらいのものです」

照「で、なんでゲーセンなんだ」

淡「ゲーセンというか……先輩とプリクラが撮りたいです」

照「最初からそういえばいいだろう」

淡「回りくどい方法を選ばないと、先輩と長く会話できないじゃないですか」

淡「もしかして、プリクラとか撮ったことありませんか」

照「ないな」

淡「慣れた手つきの意外な先輩ってのも見たかったですね」

淡「私があれこれ教えるのも、新鮮でまた楽しいですけど」


淡「先輩、笑顔笑顔」

照「……」

淡「ちょっと、下手くそですよ。 雑誌とかでは、いつも営業スマイル完璧じゃないですか」

照「営業スマイルってわけじゃあないんだがな」

淡「……もしかして、雑誌の記者といるよりも、私と一緒にいるほうがつまらないんでしょうか?」

淡「……迷惑かけてごめんなさい」

照「い、いや、そういう意味じゃ……」

淡「ふふっ、冗談ですよ。 そのままでいいですよ、普段の表情が一番です」

照「そうか」


淡(少しだけ、ショック受けたのは本当ですけどね)

淡「はぁ、最高です」

淡「少しだけ微笑んでるこの笑顔。 ずっと眺めていたいです」

照「そ、そうか……なぁ、この後に写真が出てくるだけで、この値段なのか?」

淡「複数人で利用するからこそ、こういう値段が許されてるんです」

淡「あと、落書きとかできるんですよね」

照「するのか?」

淡「したいですか?」

照「いや、私はいい」

淡「なーんだ、じゃあ勝手に書いちゃいます」

照「好きにしろ」


照「……なんだこれ」

淡「あれ、見えませんか? 『好きです』って、でかでかと書いたはずですが」

照「そういう意味じゃない」

淡「色んなところに貼っちゃっていいですよ。 本当は私が多めに欲しかったんですが、なんならほとんどあげますよ」

淡「こんな細かいものでも、先輩は気を使ってくれるんですね」

照「映画はお前が出したんだろう。 これくらい出さなくてどうする」

淡「はぁ、またそういう……でも、本当は嬉しいんです。 ありがとうございます」

淡「さて、もう1回撮りましょうか」

照「え?」

淡「今のは宮永先輩の奢り。 次は私が個人的に撮りたいだけです。 さ、撮りましょ」

照「……まぁ、構わないが」

淡「♪」


淡「先輩、アイスクリームが食べたいです。 何がいいですか?」

照「抹茶」

淡「渋っ。 じゃ、行ってきますね」

照「いや、私が……」

淡「まあまあまあ、ちょっと待っててくださいよ」グイッ

照「うわっ」

淡「そこにいてくださいねー!」

淡「戻りました」

照「……なぁ、一つしかないんだが」

淡「そりゃそうですよ。 二人で食べるんです」

照「本気で言ってるのか?」

淡「先輩に対してはいつだって本気です。 そろそろ振り向いてくれてもいいんですけどねー」

淡「さあ、食べましょうか。 コーンはさっさと食べないと大変ですよ? さあ!」グイッ

照「……これをやるために、自分から買いに行ったのか」

淡「どうでしょうね」


淡(はぁ、正直抹茶はあんまり好きじゃないんだけどなぁ)

淡(宮永先輩と一緒だから食べられる感じ)

照「おいしい」

淡「そうですか、私もです」

照「……変な気を使わなくていい」

淡「えっ?」

照「少なくとも好きなものを食べる時のそれじゃないな」

淡「いや、別に私は……」

照「いいから待ってろ。 他のを買ってきてやる」

淡「……」

淡(ずるいですよ、そういうの)

淡(なんでこう、いつも空回りするんだろう。 先輩、相変わらず私の言ったことわかってないみたいだし)

淡(あーあー、こういうのしないでもらいたいなぁ。 これだから、何時まで経っても好きでたまらないんですよね)

淡「……」パクパク

淡「……まぁまぁおいしい、かな」

照「ほら、買ってきたぞ」

淡「あ、ありがとうございます」

照「……おい、抹茶は?」

淡「全部食べちゃいました」

照「お前なぁ」

淡「先輩が私を待たせた罰ですよ」

照「そんなに遅かったか? 一応急いできたんだが」

淡「はぁ、そういうところが……」

照「……?」

淡「まぁ、いいでしょう」パクパク

淡「はい、どうぞ」

照「これもか……」

淡「当たり前です」

淡「……ねえ、先輩」

照「なんだ」

淡「肩を貸して欲しいです」

照「……?」

淡「もう、ストレートに言いますね。 先輩に寄っかかりたいです」

照「……」

淡「了承と受け取りますね。 では遠慮なく」

淡「はぁ、最高ですね。 あ、読書とかしてていいですよ? 多分寝ちゃいますから」

照「人を誘っておいて寝るのか?」

淡「先輩にはわかりませんよ、私の気持ちは」

照「……嫌でもわかってはいるよ」

淡「表面上は、ですね。 中途半端な行動は良くないですよ。 さすがにそれはわかりますよね」

照「……お前が頼んでるんじゃないのか」

淡「そうですね、すみません。 ……少し眠ります、おやすみなさい」

照「ああ」

淡「……ぁ、おはようございます」

照「起きたか」

淡「どれくらい経ちましたか?」

照「2時間くらいだな。 寝不足だったのか?」

淡「まぁ、そうなりますね。 主に先輩のせいで」

照「私は何もしてない」

淡「何もしてないのが、なんかしてるんですよ……って、本は?」

照「別に読書とかはしてない。 ずっと壁に寄っかかってただけだ」

淡(……なんでだろう、なんでこんなに嬉しいんでしょうか)

淡(って、別に先輩が私に気があるわけじゃない……)

淡(それを前提に置いておかないと)

淡「はは、マネキンみたいですね」

照「段々辛口がひどくなっていってないか?」

淡「あのですね。 先輩にしたら押しの強い女に見えるかもしれませんが、私だって照れ隠しのオンパレードですよ?」

照「……」

淡「昼食とも夕食とも言えない、半端な時間になってしまいましたね」

淡「どこか食べに行きましょうか」

照「ああ」

淡「今の内に決めておきましょう。 何がいいですか?」

照「淡に任せる」

淡「本当に先輩は鈍いですね。 麻雀中の冴えてる先輩はどこにいるんでしょう」

照「おい」

淡「ふふっ、答えを教えてあげますね」

淡「私は先輩の好きなものはなんでも知りたい。 だから聞いているんです」

照「……わかったよ」

淡「で、なにが食べたいですか?」

照「じゃあ、うどんだな」

淡「あらら」

照「不満か?」

淡「いえ。 冗談でも言って欲しかったですね」

淡「なんでうどんなんですか? 居酒屋の〆じゃあないんですから」

照「うどんくらい、普通に食べるだろう。 それに、好きなものを言え、と言ったのは淡の方だ」

淡「そうですね。 教えてくれて嬉しいですよ」


照「何食べるんだ」

淡「先輩と違うものを食べます」

照「お前は私のことを好きなのか嫌いなのか、どっちなんだ」

淡「好きじゃないです、大好きです。 先輩に対しての最低値は『嫌い』ではなく『好き』、というレベルで大好きです」

淡「まあ、頼みましょうよ。 ほら、はやくはやく」


淡「先輩、それ一口ください」

照「……そんなことだろうとは思ったよ」

淡「やっと私のことをわかってきましたか。 アタックを続けてきた甲斐があります」

照「で、食べるのか、食べないのか、どっちだ」

淡「もちろんいただきますよ。 あーんしてください」

照「……はぁ、全く」

淡「ごちそうさまでした」

照「……で、この後どうするんだ」

淡「そうですね、こう半端な時間じゃあ、逆に身動き取れません」

淡「……ねえ、先輩の家に連れて行ってくれませんか?」

照「自分で言うのもなんだが、私の家は殺風景でつまらないと思うぞ」

淡「お人形だらけのほうがビックリしますよ」

淡「それにですね、私にとっては先輩の家に行くのが本命だったんですよ? つまらないとかなんとか言わないでください」

照「……そうか」

淡「まぁ、物事には順序がありますからね。 朝っぱらからいきなり押しかけては、いくらなんでも迷惑でしょう」

照「淡、お前妙なところで律儀なんだな」

淡「何言ってるんですか。 先輩だって、好きなものは大切にするでしょう。 私もそうです」

照「……とてもそうには見えないけどな」

淡「いつものあれは愛情表現です」

淡「お邪魔します」

照「今飲み物でも出すから、寛いでてくれ」


淡「ねぇ、先輩。 烏龍茶の蓋開けっぱなしですよ」

照「? 締まってるじゃないか」

淡「私が締めてあげたんです」

照「そうか、悪かったな」

淡「いえ。 しっかり整理されてる先輩らしいお部屋ですが、ちょっとだけ抜けてるところがありましたね」

淡「そういうダメな一面もあるんですね」

照「たかが蓋一つじゃないか。 失望したのか?」

淡「まさか」

淡「はぁ、おいしい。 これどこに売ってるんですか?」

照「有名だろ」

淡「そうですか、じゃあ私が見逃してるだけかもしれませんね」

淡「それか、先輩の家だからかもしれません。 料理も皿や店内の雰囲気が大事って、よく言いますもん」

照「……それはそうと、お前が今飲んでるの、私が飲んだやつだろ」

淡「いいじゃないですか、どうせ同じ中身ですし」

照「同じ中身だったら、尚更私のを飲む必要はない」

淡「厳しいですね」

照「普通だ」

淡「そうですね、いつも通りです。 やっぱりこういう先輩が一番好きです」

照「わかったから、自分のを飲め」

淡「嫌です」

淡「しかし、本当に何もありませんね。 普通の家にあるものだけです。 本は大量にありますけど」

照「悪かったな」

淡「いえ、つまらなくないですよ。 楽しいです」

淡「むしろ、何か遊べるものがあるほうが困ります」

照「なぜだ?」

淡「先輩とこうして寄り添うだけの時間のほうが、私は好きですから」

照「……」

淡「とはいえさすがに疲れました。 先輩、膝借りますね」

照「……まぁ、構わないが」

淡「おお、珍しく察しが良い。 痺れたら言ってください」

照「多分大丈夫だ」

淡「それはよかった。 多分、痺れても退きませんからね」

淡「……先輩、一ついいですか? 今更難しい注文かもしれませんが」

照「なんだ?」

淡「今までのこと、全部忘れてください」

照「……はぁ?」

淡「今までももちろん本気でしたが、最初の告白以降は、どこか諦めや弄りが入っていたかもしれませんね」

淡「半端者です。 それじゃあ思考停止と変わらないことに、ようやく気付きました」

照「……」

淡「ですから、今から、今度こそ、今度こそ心の底から言います」

淡「今までの人生で、一番本気を出します」

照「……そんな状態でか?」

淡「あはは、まぁ、少し締まらないかもしれませんが、退けそうにないですし、包まれてる内に言いたい気持ちもあります」

淡「本気です。 だから先輩も、全部忘れて、最初の時と同じように聞いてくださいね?」

照「……」


淡「好きです」

淡「宮永先輩、付き合ってください」

淡「……はぁ、スッキリしました」

淡「これで、もう先輩に構うことも、後輩らしくもない弄りをすることもないでしょう」

淡「ありがとうございました……っ」

照「……おい、何泣いてるんだ」

淡「ああ、泣いてますか……? 気が付きませんでした、そうかもしれませんね」

照「……拭け。 泣いた跡がつくぞ」

淡「別にいいですよ、というかむしろ付けたいくらいですね」

照「……」

淡「……すみません、帰ります」

照「……ちょっと待て」

淡「なんですか?」

照「散々『返事はまだか』なんて言っておいて、私の返事は聞かないで帰る気か」

淡「何言ってるんですか、聞くまでもないです。 それとも、先輩には加虐趣味でもありますか?」

照「まあいい。 どうせその状態じゃ、主導権は私にあるんだ」

淡「はぁ、確かにそうですね」

照「……」

淡「なにしてるんですか、指なんか舐めてみっともない」

淡「プーさんの真似ですか? 似合いませんね……んっ」ピトッ

淡「……えっ、指……って、これって……」

照「……今はそれで我慢しろ」

照「今は、な」

淡「……あの、いつまで待たせるつもりですか?」

照「気持ちの整理くらい付けさせろ。 淡、お前も人のことを言えないくらい鈍い」

淡「そうですか、そうですよね……」

照「……今日はもういい、寝ろ。 どうせ明日も休日だ」

淡「わかりました。 色々と言いたいことはありますが、おやすみなさい。 嬉しいですよ、これだけでも」

照「そうか」

淡「はいっ」


淡「宮永先輩、(指で)キスしてくださいよ」

照「しつこい」

淡「ねえ、もう月曜日ですよ? 2日経ってますけど……早く早くはやくー!」

照「……はぁ、仕方ない。 今日うちこい」

淡「やった! あ、でも今(指で)キスしてくださいよ!」

照「……ほら」

菫(照と淡が部室でキスしてるのを聞いてしまった……)

おわれ

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